説明

マクロライド系抗生物質を精製する方法

本発明は、マクロライド系抗生物質の精製方法に関する。より詳細には、マクロライド系抗生物質を精製して、白色粉末を生成する方法に関する。同粉末は一定期間保存した後であっても白色のままである。本発明の方法は、例えば市販の塩酸バンコマイシンのようはマクロライド系抗生物質を水に溶解し、得られた溶液を30,000Da未満、好ましくは10,000Da未満の公称保持を有する膜を用いて限外ろ過することにより実施される。精製された溶液は好ましくは逆浸透にて濃縮され、かつ最適な圧力及び温度条件下にて凍結乾燥され、白色粉末が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マクロライド系抗生物質を精製する方法に関する。より詳細には、マクロライド系抗生物質を精製して、白色粉末を生成する方法に関する。同粉末は、一定期間保存した後であっても白色のままである。
【背景技術】
【0002】
マクロライド系抗生物質は大環状ラクトンからなる化学構造を有し、同構造は、糖が結合した12乃至22個の炭素原子のラクトン環である。それらは静菌性であり、かつ細菌のリボソームと結合して蛋白質の産生を阻止する。
【0003】
マクロライド系抗生物質は、バンコマイシン、テイコプラニン、エリスロマイシン、アジスロマイシン、クラリスロマイシン、ロキシスロマイシン、ジョサマイシン、リストセチン、アクチノイジン、アボパルシン、アクタプラニン、テイコマイシン及びテリスロマイシンを含む。
【0004】
本発明は、一般的にはマクロライド系抗生物質を精製する方法に関し、より詳細には、バンコマイシンを精製する方法に関する。
特許文献1は、バンコマイシンを精製する方法を開示しており、その精製工程においてシリカゲルカラムでの分取クロマトグラフィーを使用することを開示している。
【0005】
特許文献2は、アフィニティークロマトグラフィーを使用してバンコマイシンクラスの抗生物質を精製する方法を開示しており、同抗生物質は、吸着複合体を形成することによってマトリックスに結合されることを開示している。
【特許文献1】米国特許第5853720号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第132117号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
クロマトグラフィーに基づくこれらの方法は純度の高い抗生物質を生成するが、満足のゆく白色である粉末を生成することはできない。バンコマイシンの場合、クロマトグラフィーによる精製後、最初は淡桃色であるが、一定の期間の後に茶色を帯びるようになる。これは、欧州薬局方の要件に合致していない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
マクロライド系抗生物質を限外ろ過することにより、450nmに高い吸収を生ずる不純物を除去することが可能であることを見出した。
限外ろ過は異なる大きさの分子を分離するための方法である。実際に、分子の分子量は限外ろ過において最も重要な影響を及ぼすものではあるが、分子の形状及び電荷のようなその他の二次的な要因も影響を与える。種々の限外ろ過膜が市販品として入手可能であり、それらは膜に保持される分子の分子量により定義される。本発明にて有用な膜は、30,000Da未満の保持値を有する。
【0008】
本発明の方法は、例えば市販の塩酸バンコマイシンのようなバンコマイシン抗生物質を水に溶解し、同溶液を30,000Da未満、好ましくは15,000Da以下、最も好ましくは10,000Da以下の公称保持(nominal retention)を備えた膜を用いて限外ろ過することにより実施される。好ましくは、限外ろ過膜は6,000Daを超える公称保持を有する。精製された溶液は好ましくは逆浸透により濃縮され、その後最適な圧力及び温度の状態にて凍結乾燥され、白色粉末が得られる。滅菌した粉末を得ることを意図する場合、逆浸透での濃縮後に、溶液を0.22μmのフィルタに通し、ろ液を滅菌容器(欧州GMPに従うクラスA)に回収する。
【0009】
膜の種類は抗生物質に依存する。バンコマイシンの場合、30,000Daの保持値を有する膜を使用することにより、バンコマイシンは膜を通過するが、不純物は保持されたままである。一方、テイコプラニンの精製は10,000Daの膜を使用した場合に効果的であることが明らかとなっている。この場合、不純物は透過物(permeate)内にあり、テイコプラニンは保持物(retentate)内にある。従って、各抗生物質に対して、不純物とマクロライド系抗生物質との間の最適な分離を達成するために、膜の種類を最適化することが可能である。
【0010】
抗生物質がバンコマイシンである場合、450nmでの吸収が、0.100未満、好ましくは0.080未満であることに特徴付けられる。
マクロライド系抗生物質は水に溶解され、出発溶液中の抗生物質の濃度は、0.1乃至30質量%、好ましくは1乃至20質量%、最も好ましくは3乃至18質量%にて含まれる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本実施例にて使用された塩酸バンコマイシンは、アルファーマ(Alpharma)社から入手可能なca市販品である。
450nmにおける吸収の測定は、欧州薬局方のバンコマイシン承認基準(monography)に従って実施した。
【実施例】
【0012】
実施例1:塩酸バンコマイシンの精製
アルファーマ社から入手した市販の塩酸バンコマイシンの65gを500mlの蒸留水に溶解した。粉末を完全に溶解した後、膜間圧の低下が250000Pa(2.5バール)である一方、透過物と保持物との間の圧力低下を100000Pa(1バール)に維持した状態にて10,000Daの膜を用いて溶液の限外ろ過を実施した。透過物を逆浸透にて濃縮し、0.22μmのフィルタに通し、欧州GMPに従うクラスAの容器に回収した。
【0013】
実施例2:塩酸バンコマイシンの精製
アルファーマ社から入手した市販の塩酸バンコマイシンの30gを500mlの蒸留水に溶解した。完全に溶解した後に、膜間圧の低下が250000Pa(2.5バール)である一方、透過物と保持物との間の圧力低下を100000Pa(1バール)に維持した状態にて10,000Daの膜を用いて溶液の限外ろ過を実施した。透過物を逆浸透にて濃縮し、0.22μmのフィルタに通し、欧州GMPに従うクラスAの容器に回収した。
【0014】
【表1】

【0015】
実施例3:テイコプラニンの精製
10gのテイコプラニンを100mlの蒸留水に溶解した。完全に溶解した後に、膜間圧の低下が250000Pa(2.5バール)である一方、透過物と保持物との間の圧力低下を100000Pa(1バール)に維持した状態にて10,000Daの膜を用いて溶液の限外ろ過を実施した。この場合、テイコプラニンは保持物として残り、幾らかの不純物が透過物中に透過した。次に、温度及び真空の状態を最適化して保持物を凍結乾燥し、0.22μmのフィルタに通し、欧州GMPに従うクラスAの容器に回収した。
【0016】
HPLCにより測定されたテイコプラニンのタイトル(title)は、精製の前後で、それぞれ89.7%及び93.8%であった。最も主たる不純物は精製の前後でそれぞれ10.8%及び6.1%である一方、精製前に2.9%存在していた第二の不純物は精製後には完全に消失していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マクロライド系抗生物質を精製する方法であって、
マクロライド系抗生物質を水に溶解し、30000Da未満の公称保持を有する膜を用いて溶液を限外ろ過することにより実施される方法。
【請求項2】
前記マクロライド系抗生物質は、バンコマイシン、テイコプラニン、エリスロマイシン、アジスロマイシン、クラリスロマイシン、ロキシスロマイシン、ジョサマイシン、リストセチン、アクチノイジン、アボパルシン、アクタプラニン、テイコマイシン及びテリスロマイシンからなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記膜は10000Da以下の公称保持を有する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の方法において、
限外ろ過後、精製した溶液を選択的に逆浸透にて濃縮し、次に圧力及び温度の最適な条件にて凍結乾燥し、白色粉末を得る、方法。
【請求項5】
前記マクロライド系抗生物質はバンコマイシンである、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
最終的な粉末は、450nmにて、0.100未満の吸収を有する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
最終的な粉末は、450nmにて、0.080未満の吸収を有する、請求項5に記載の方法。

【公表番号】特表2009−519294(P2009−519294A)
【公表日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−544968(P2008−544968)
【出願日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際出願番号】PCT/EP2006/069414
【国際公開番号】WO2007/068644
【国際公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【出願人】(505371232)アクセリア ファーマシューティカルズ エーピーエス (13)
【氏名又は名称原語表記】AXELLIA PHARMACEUTICALS ApS
【住所又は居所原語表記】11 Dalslandsgade,DK−2300 Copenhagen S,DENMARK
【Fターム(参考)】