説明

マグネシウム合金板の製造方法

【課題】 マグネシウム合金のインゴット、ビレット又は展伸材からマグネシウム合金板を低コストで製造する。
【解決手段】 マグネシウム合金板を圧延で製造する一連の工程において、マグネシウム合金のインゴット、ビレット又は展伸材を0℃より高く100℃より低い温度に制御した水中を通過させる工程を有し、そのインゴット、ビレット又は展伸材が水中を通過する際に、超音波をインゴット、ビレット又は展伸材へ印加し、続いてインゴット、ビレット又は展伸材を水中からロールに搬送する間に絶対温度で表したマグネシウム合金の融点に0.35乃至0.8を乗じた温度に加熱し、ロールで圧延する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主としてプレス成形等に使用するマグネシウム合金板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、軽量かつ高強度で、高い振動吸収性を有し、リサイクル性にも優れたマグネシウム合金がノート型パーソナルコンピュータ、携帯電話あるいはミニディスクプレーヤー等の電子機器の筐体に使用され始めている。
これらの電子機器の筐体は、チクソモールディングあるいはダイキャストで製造される場合がほとんどであり、プレス成形での製造例は僅かである。プレス成形は、一般的に最も大量生産に適しており、成形コストも安価であると考えられているが、マグネシウム合金の場合には、常温付近で塑性変形を起こし難く、プレス成形性が極めて悪い。
【0003】
常温付近で塑性変形を起こし難いのは、すべり系が少ないことに起因している。すなわち、マグネシウム合金は最密六方晶金属で(0001)面、(10−10)面、(10−11)面、及び(11−22)面の4つのすべり面を有するが、底面すべり系に属する(0001)面の常温付近における臨界せん断応力は、非底面すべり系に属する(10−10)面、(10−11)面、及び(11−22)面と比較して極めて小さいため、塑性変形は底面すべり系の活動が支配的になる。
そして、一般的に多結晶の金属材料は5つ以上のすべり方向ですべり系が活動しないと均一な塑性変形は難しいとされているが、マグネシウム合金では底面すべり系の3方向のみしか活動しないため、変形応力を与えると均一な変形が起こらず、クラック発生に至る。
【0004】
ただし、マグネシウム合金を加熱し、約300℃以上にすれば、非底面すべり系の臨界せん断応力が低下するため、すべり系の数が増大し、プレス成形性はある程度改善される。また、近年活発に検討されている組織制御技術の進展によってプレス成形が実用化レベルに達しつつある。
しかし、プレス成形に使用されるマグネシウム合金板は非常に高価であるため、現状のプレス製品の価格はチクソモールディング製品やダイキャスト製品と比較して安価になっていない。
【0005】
マグネシウム合金板が高価である理由は、プレス成形時の問題と同様に塑性加工が難しいことが原因で、圧延工程における1パス当たりの圧下率が小さく、圧延を繰り返し行う工程で非常に多くの労力と時間を費やすことが考えられる。
例えば「マグネシウム技術便覧」には、ASTM規格AZ31(Mg−3wt%Al−1wt%Zn合金)の圧延条件として、粗圧延(板厚約10mmまで)が、圧延開始温度425℃〜450℃で1加熱当たりの圧下率90〜95%、1パス当たりの圧下率10〜20%、熱間圧延(板厚約2.5mmまで)が、圧延開始温度350℃〜440℃で1加熱当たりの圧下率25〜50%、1パス当たりの圧下率5〜20%、仕上げ圧延が、室温〜250℃で1加熱当たりの圧下率15〜25%、1パス当たりの圧下率5%と示されている(非特許文献1参照)。
【0006】
このような圧延加工の欠点を軽減する方法として、マグネシウム合金のビレットを圧延用板材に加工する熱間押出し工程と、この圧延用板材を所定の厚さのマグネシウム合金板に加工する冷間圧延工程とを有するマグネシウム合金板の製造方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0007】
この方法では、加工率の非常に大きな熱間押出しによって、効率的に任意の厚さの圧延用板材を製造できる利点があり、熱間押出し後に冷間圧延することによって、微細結晶粒のマグネシウム合金板を得ることができる。特許文献1の実施例に記載される熱間押出しでは、Mg−2.7wt%Al−0.7wt%Zn−0.23wt%Mn合金の直径155mmのビレットから、ビレットの加熱温度350℃、押出し速度5〜10mm/minで幅100mm、厚さ1.0mmと0.7mmの圧延用板材が製造されている。
【0008】
また別な方法として、溶融又は半溶融させたマグネシウム合金を金型内に射出成形して板材を成形した後、不用部分であるバリやランナー等を取り除いた板材を圧延機で破断しない程度の歪みを与えて圧縮変形させ、この板材を熱処理し、微細結晶粒からなる再結晶組織を有するマグネシウム合金板を製造する方法も提案されている(特許文献2参照)。
この方法の利点は、溶融又は半溶融させたマグネシウム合金を金型内に射出成形する板材の成形工程で比較的薄い板材を得ることができるため、続いて行う圧延工程を短縮できることである。
【非特許文献1】マグネシウム協会編「マグネシウム技術便覧」、カロス出版2000年5月、p.242
【特許文献1】特開2002−266057号公報
【特許文献2】特開2001−294966号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
マグネシウム合金板の価格を低減するためには、マグネシウム合金板の生産効率を向上し、製造コストを低減しなければならない。
特許文献1記載の熱間押出しは、小ロットで板幅の小さいマグネシウム合金板を製造する場合、熱間圧延よりも生産効率が向上するが、大きな板幅に対しては対応が難しく、製造コストの大きな低減は見込めない。
【0010】
また、特許文献2記載の板材の成形工程は、圧延工程を短縮できるが、射出成形は大きな板を製造するのが難しく、さらに金型内で発生するランナーなど不用部分が多く発生するので歩留りが悪く、製造コストの大きな低減は見込めない。
本発明は、上記のような従来の技術の問題点を解決するものであって、マグネシウム合金のインゴット、ビレット又は展伸材からマグネシウム合金板を低コストで製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のマグネシウム合金板の製造方法では、マグネシウム合金のインゴット、ビレット又は展伸材を0℃より高く100℃より低い温度に制御した水中を通過させる工程を有し、そのインゴット、ビレット又は展伸材が水中を通過する際に、超音波をインゴット、ビレット又は展伸材へ印加し、続いてインゴット、ビレット又は展伸材を水中からロールに搬送する間に絶対温度で表したマグネシウム合金の融点に0.35乃至0.8を乗じた温度に加熱し、ロールで圧延することで上記課題を解決している。
【0012】
ここでの展伸材とは、ビレットを鍛造、押出し加工あるいは圧延加工したものを指し、厚板や薄板を含む。
本発明で、マグネシウム合金のインゴット、ビレットまたは展伸材を0℃より高く100℃より低い温度に制御した水中を通過させ、その工程でインゴット、ビレット又は展伸材に超音波を印加するが、水は超音波振動を効率的にインゴット、ビレット又は展伸材に伝達するための伝達媒体としての役目を果たす。
【0013】
水を介さずに、例えば超音波ホーンとインゴット、ビレット又は展伸材を直接接触させ、超音波を印加しようとすると超音波ホーンとインゴット、ビレット又は展伸材との接触面で摩擦熱が発生し、超音波振動はインゴット、ビレット又は展伸材内部に伝達しない。
水の温度が0℃以下では、水による音波の吸収が25℃に対して2倍以上に大きくなるため、効率的な超音波振動の伝達ができなくなる。一方、100℃では水による音波の吸収が25℃に対して1/2以下になり超音波振動の伝達が高効率になるが水の蒸発が著しく、マグネシウム合金の表面酸化も進み易いため操業条件として適当ではない。
【0014】
金属材料は、多くの場合、振動が与えられるとやがて減衰し、最後に振動は停止する。振動が減衰する機構は二つあり、一つは外部摩擦(external friction)と呼ばれ、振動している金属材料から外部へ空気等を介して振動エネルギーが放出される機構である。他の一つは内部摩擦(internal friction) で、金属材料内部で振動エネルギーが熱あるいは歪み等に変換される機構である。内部摩擦は減衰能(damping capacity)とも呼ばれる。
【0015】
減衰能は、振動エネルギーの変換機構の違いによって次の四つに分類される。
(1)母相と第2相との間の界面で粘性流動または塑性流動をおこすことによるもの。
(2)磁区壁の非可逆移動によるもの。
(3)転位が不純物原子による固着点から離脱することによるもの。
(4)母相とマルテンサイト相との境界などにおける変態双晶境界の移動によるもの。
【0016】
減衰能は、通常、固有減衰能(specific damping capacity:S.D.C と略記)で数値化され、その固有減衰能は、次式の通り、振動する物体の1サイクルあたりの振動エネルギー損失率で表される。
S.D.C(%) = (ΔW/W)×100
ここでWは振動エネルギー、ΔWは1サイクルに失われるエネルギーである。
【0017】
マグネシウムは固有減衰能が金属の中で最大の60%以上を示し、強度及び耐蝕性を改善したマグネシウム合金もマグネシウムほどではないが大きな固有減衰能を示す。
マグネシウム合金としては、Mg−Al合金、Mg−Al−Zn合金、Mg−Zr合金、Mg−Zn−Zr合金、Mg−Mg2 Ni合金、Mg−RE−Zn合金(REはミッシュメタル)、Mg−Ag−RE合金(REはミッシュメタル)、Mg−Y−RE合金(REはミッシュメタル)、Mg−Al−Ca合金、Mg−Al−Ca−RE合金(REはミッシュメタル)などが実用合金として知られている。
【0018】
しかし、Mg−Al合金、Mg−Al−Zn合金、Mg−Al−Ca合金又はMg−Al−Ca−RE合金(REはミッシュメタル)の中でもAl添加量が多いマグネシウム合金は固有減衰能が小さい。例えばMg−10%Al合金(AM100)、Mg−9%Al−1%Zn合金(AZ91)、Mg−6%Al−3%Zn合金(AZ63)などは固有減衰能が10%未満である。
【0019】
マグネシウム合金に超音波を印加すると、外部摩擦と減衰能が組み合わさり、超音波振動は減衰されるが、超音波振動エネルギーの多くが前記振動エネルギーの変換機構(3)に記述したように、転位が不純物原子による固着点から離脱することによって消費されるか、又は(4)に記述したように変形双晶の生成に消費され、その効果は機械的にせん断を加えた時に大量の格子欠陥が導入されるのと同じである。
【0020】
インゴット、ビレット又は展伸材を水中からロールに搬送する間に絶対温度で表したマグネシウム合金の融点に0.35乃至0.8を乗じた温度に加熱する工程では、その格子欠陥が再配列又は相互に合体消滅することによるエネルギー開放過程で等軸状の微細結晶粒からなる再結晶組織に変化する。
絶対温度で表した融点に0.8を乗じた温度より高温では、再結晶粒の成長を抑制するための温度と時間の制御が難しく、また表面酸化が著しく進行する。一方、絶対温度で表した融点に0.35を乗じた温度より低温では、格子欠陥が一部消失する現象である回復が行われるだけで再結晶は起こらない。
【0021】
加熱後、インゴット、ビレット又は展伸材をロールで圧延する工程では、微細結晶粒からなる再結晶組織に変化したインゴット、ビレット又は展伸材が、超塑性の発現によって大きな延性を示し、大きな圧下率で圧延を行うことができるため生産効率が向上し、マグネシウム合金板の製造コストを低減することができる。
インゴット、ビレット又は展伸材を加熱する手段には、電気抵抗加熱、高周波加熱又は赤外線集光加熱などがあるが、本発明の方法では赤外線集光加熱を利用するのが最適である。
【0022】
赤外線集光加熱は、インゴット、ビレット又は展伸材に放射面反射鏡で一方向に集光された赤外線を照射することで加熱を行うが、特に急速加熱が可能なため短時間で再結晶を完了することが可能である。
電気抵抗加熱ではインゴット、ビレット又は展伸材を短時間で目的の温度に昇温させるのが難しく、特に雰囲気が変動しやすい環境では、伝熱効率が悪い。一方の高周波加熱は、短時間で目的の温度に昇温することが可能であるが、温度制御が難しく、圧延装置等の周辺設備に高周波の影響を受けないような対策が必要である。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、マグネシウム合金のインゴット、ビレット又は展伸材からマグネシウム合金板を低コストで製造でき、プレス条件の最適化によって安価なプレス製品の提供が実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
マグネシウム合金のインゴット、ビレット又は展伸材は、形状は問わないが、板材を製造するには立方体または直方体が適している。
本発明の実施の形態では、インゴット、ビレット又は展伸材が水中に浸漬できる程度の深さを有する水槽を設け、水槽内にはインゴット、ビレット又は展伸材を水中から加熱炉、そして圧延機まで搬送できる搬送装置を設置する。搬送装置としては吊下式コンベア、ベルトコンベア、ローラーコンベア又はチェーンコンベアなどが適しているが、耐蝕性、耐振性を有する搬送装置であれば、これらに限定しない。
【0025】
超音波印加手段としては、超音波振動子に接続されたホーンをインゴット、ビレット又は展伸材に近接し超音波を印加する方法、水槽の外壁面にホーンを密着させ、水槽の壁面を介して水中に伝達される超音波振動をインゴット、ビレット又は展伸材に印加させる方法があるが、前者の方がより効果的である。
超音波振動を効率良くインゴット、ビレット又は展伸材へ伝達するために、ホーンとインゴット、ビレット又は展伸材との間の距離はホーンから発生するキャビテーションによってマグネシウム合金表面に腐蝕が及ばない範囲まで短くする。ホーンとインゴット、ビレット又は展伸材との間の距離は、一般的に5mmから15mmの範囲が適当である。
【0026】
ホーンは、インゴット、ビレット又は展伸材の全表面を網羅するように走査しても良いが、ホーンを走査する代わりに、複数個のホーンをインゴット、ビレット又は展伸材に近接する位置に固定し、インゴット、ビレット又は展伸材が水中を通過する間にその表面に超音波印加する方法を採用すれば、短時間で大きな振動エネルギーを伝達できる。
例えば搬送装置としてローラーコンベアを使用した場合、ローラーの間隙に複数個のホーンを設置し、インゴット、ビレット又は展伸材がローラー上を通過する際に下から超音波を印加する。振動エネルギーが不足と考えられる場合には、インゴット、ビレット又は展伸材の上部あるいは側面部にも超音波を印加するようにローラーコンベアの上部を取り囲むようにホーンを設置し、超音波印加することも可能である。
【0027】
超音波の振動数及び出力は、マグネシウム合金の固有減衰能、インゴット、ビレット又は展伸材の大きさなどを十分考慮に入れ最適値を決定しなければならないが、出力は通常高い方が良い。超音波出力が高くなると、伝達媒体である水の温度が上昇し、100℃付近になるとマグネシウム合金の表面酸化が進行するだけでなく、水の蒸発も著しく多くなるので、水温は25℃乃至60℃の範囲で制御することが好ましい。
【0028】
一例として、AZ31鋳造材から切り出した長さ50mm×幅50mm×厚さ30mmのビレットを圧延する場合は、ローラーコンベアの各ローラーの間隙にφ22mmのチタン合金製のホーン2個づつを設置し、ビレットの長さ50mm×幅50mmの下表面に対し各ホーンから周波数19KHz、出力300Wの超音波を印加する。ローラーコンベア上をビレットが搬送される際、ビレット直下のホーンのみが発振するように制御すれば電力消費量も抑制できる。
【0029】
超音波を印加した後のインゴット、ビレット又は展伸材は、搬送装置で放物面反射鏡を有する平面放射型赤外線集光加熱炉に搬送され、絶対温度で表されたマグネシウム合金の融点に0.35乃至0.8を乗じた温度で加熱する。
通常、絶対温度で表されたマグネシウム合金の融点に0.35乃至0.6を乗じた温度内には再結晶温度が存在する。再結晶温度とは、1hの加熱処理で再結晶が完了する温度であり、再結晶温度で加熱処理すると工程管理を行い易いが、生産効率を上げるためには短時間で再結晶を完了する必要があり、そのため加熱温度は再結晶温度より高温に設定する。
【0030】
再結晶が開始する温度は、合成組成、格子欠陥導入量の違いで変化するので、事前に実験等で確認しておかなければならない。
加熱によってインゴット、ビレット又は展伸材は、初期形状を維持したまま、その結晶粒径は、1/20〜1/200となる。例えばAZ31鋳造材から切り出した長さ50mm×幅50mm×厚さ30mmのビレットを523Kで加熱した場合、ビレットは初期形状を維持したままで、20〜400μmであった結晶粒が等軸状の2〜20μmの結晶粒組織に変化する。
【0031】
加熱したインゴット、ビレット又は展伸材はロールで圧延するが、加熱処理温度323K〜740Kすなわち加熱温度/融点=0.35〜0.8の場合、1パス当たりの圧下率は25%〜55%が可能である。
マグネシウム合金板を製造する一連の圧延工程の中では、インゴット、ビレット又は展伸材を水中からロールに搬送する間に絶対温度で表したマグネシウム合金の融点に0.35乃至0.8を乗じた温度に加熱する工程を短時間で完了しなければ生産効率が著しく低下する。
【0032】
再結晶の進行速度は、マグネシウム合金組成、インゴット、ビレット又は展伸材への格子欠陥導入量によって異なり、短時間で再結晶が完了できない場合がある。その場合、補助的な手法として絶対温度で表したマグネシウム合金の融点に0.35乃至0.6を乗じた温度範囲に制御した加熱ロールで圧延することで圧下率の低下を抑制することが可能である。
但し、絶対温度で表したマグネシウム合金の融点に0.6を乗じた温度付近まで温度を上昇すると、ロールにマグネシウム合金がピックアップし易くなり、潤滑油も多量に必要になるので、可能な限り低い温度に制御する。
【0033】
なお、圧延後に結晶粒成長を抑制する目的で、インゴット、ビレット又は展伸材を圧延直後に、室温以下の気体を吹き付ける方法などの方法で急速に冷却することも可能である。冷却方法は、他に冷却速度の速い方法があればこの方法に限定されない。
この一連の圧延工程は、繰り返し行うことでインゴット、ビレット又は展伸材を短時間で目的の厚さのマグネシウム合金板にすることが可能である。
以上のように、このマグネシウム合金板の製造方法では、大きな圧下率が可能となる圧延で時間短縮と労力が低減でき、低コストでマグネシウム合金板の製造が可能となる。
【実施例1】
【0034】
AZ31鋳造材(結晶粒径200μm)から長さ50mm×幅50mm×厚さ30mmのビレットを外周刃カッターで切り出し、エタノールで速やかに表面を洗浄した。
ステンレス製水槽には純水を入れ、搬送装置としてローラーコンベアを使用した。ローラーコンベアの各ローラーの間隙にφ22mmのチタン合金製のホーンを2個づつ設置し、ビレットの長さ50mm×幅50mmの下表面に対し各ホーンから周波数19KHz、出力300Wの超音波を印加した。なお、ローラーコンベア上をビレットが搬送される際、ビレット直下のホーンのみが発振するように制御した。
【0035】
また、ホーンは、ビレット下表面との距離を5mmとなるように設置し、ビレットがローラーコンベア上を搬送される時間を2.5minとした。すなわち、超音波印加時間は2.5minである。
超音波を印加したビレットは、ローラーコンベアで電気抵抗加熱炉(最大電力4kW)に搬送し、523Kすなわち加熱温度/融点=0.57で加熱した。加熱時間は5minである。
【0036】
以上の条件で超音波印加及び加熱を行ったビレットの結晶粒径は光学顕微鏡観察で約15μmであることを確認した。
加熱したビレットはコールドロール法で厚さ1.0mmまで圧延を試み、クラックの発生がなく、ロールへのピックアップが起こらない圧延条件を調べたところ、1パス当たりの圧下率50%を実現した。
【実施例2】
【0037】
放射面反射鏡を有する平面放射型赤外線加熱炉(最大電力3kW)を使用した以外は実施例1と同様である。
超音波印加及び加熱を行ったビレットの結晶粒径は光学顕微鏡観察で約10μmであることを確認した。
加熱したビレットはコールドロール法で厚さ1.0mmまで圧延を試み、クラックの発生がなく、ロールへのピックアップが起こらない圧延条件を調べたところ、1パス当たりの圧下率55%を実現した。
【実施例3】
【0038】
超音波を印加したビレットを523Kすなわち加熱温度/融点=0.35で加熱した以外は実施例2と同様である。
超音波印加及び加熱を行ったビレットの結晶粒径は光学顕微鏡観察で約200μmと約20μmの結晶粒が混在していることを確認した。
加熱したビレットはコールドロール法で厚さ1.0mmまで圧延を試み、クラックの発生がなく、ロールへのピックアップが起こらない圧延条件を調べたところ、1パス当たりの圧下率25%を実現した。
【実施例4】
【0039】
超音波を印加したビレットを740Kすなわち加熱温度/融点=0.8で加熱した以外は実施例2と同様である。
超音波印加及び加熱を行ったビレットの結晶粒径は光学顕微鏡観察で約100μmになっていることを確認した。
加熱したビレットはコールドロール法で厚さ1.0mmまで圧延を試み、クラックの発生がなく、ロールへのピックアップが起こらない圧延条件を調べたところ、1パス当たりの圧下率35%を実現した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシウム合金板を圧延で製造する一連の工程において、マグネシウム合金のインゴット、ビレット又は展伸材を0℃より高く100℃より低い温度に制御した水中を通過させる工程を有し、そのインゴット、ビレット又は展伸材が水中を通過する際に、超音波をインゴット、ビレット又は展伸材へ印加し、続いてインゴット、ビレット又は展伸材を水中からロールに搬送する間に絶対温度で表したマグネシウム合金の融点に0.35乃至0.8を乗じた温度に加熱し、ロールで圧延することを特徴とするマグネシウム合金板の製造方法。
【請求項2】
インゴット、ビレット又は展伸材を加熱する手段として赤外線集光加熱を利用することを特徴とする請求項1記載のマグネシウム合金板の製造方法。