説明

マグネシウム除去方法

【課題】環境に対して無害であって、スクラップに混入したMgを簡単に除去できるマグネシウム除去方法を提供する。
【解決手段】るつぼ炉を用いて、スクラップを大気中で溶解する。そして、Al箔で包んだシラスをスクラップに対して添加して攪拌する。これにより浮上した反応生成物(浮上ドロス)を除去して金型に鋳込む。溶湯を鋳込んだ後、るつぼの底にも反応生成物(沈殿ドロス)が沈殿するので、この沈殿ドロスも回収する。以上のようなスクラップの溶解から金型鋳造までの工程を1回目のシラス添加とし、2回目以降のシラス添加では、スクラップ原料には前回のシラス添加で得られたインゴット(浮上ドロス及び沈殿ドロスが除去されたもの)を用い、シラス添加を数回繰り返す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウムのスクラップからインゴットを作成するためのマグネシウム除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム(以下、Al)はリサイクル性が非常に良く、スクラップからインゴットを製造するために必要なエネルギーは、鉱石から新地金を製造するために必要なエネルギーの約3%で済むと言われている。ところが、スクラップには、種々なアルミニウム合金や異種合金が混在している。スクラップの選別が不十分な現状では、元素のよっては不純物元素として残留し、リサイクル製品の品質が劣化する。そのため、品位を落としたいわゆるカスケードサイクルになることも多い。
【0003】
将来を見据えると、完全循環型(水平)リサイクルが望ましく、カスケードリサイクルの原因となる主な元素としては、Si、Fe及びMgなどが挙げられる。その中でMg除去に関する精錬プロセスにおいては、Clガス法や、フラックス法、化合物による浮上分離法が行われている。
【0004】
ところが、Mg除去に用いるClガス法では炉内の水蒸気と反応して塩化水素ガスが発生し、ダイオキシン等の極めて人体に有害な物質発生の原因物質となり、環境を著しく破壊する。そのため、米国ではMACT(Maximum Achievable Control Technology)基準が制定され、この塩化水素ガスの使用規制が強化された。また、日本国内でもClガス使用量の低減が業界目標に取り上げられてきた。これに替わる方法としてフラックス法もあるが、塩化物やフッ化物等の劇物を使用すること、発生する有毒ガスで環境を破壊すること、コストが高いこと等、幾つかの問題が指摘されている。
【0005】
これに対し、このように環境を破壊することなくMgを除去する方法として、例えば特許文献1には、少なくとも炭酸ナトリウムまたは炭酸カリウムの何れか一方と珪砂とを混合してアルカリ珪酸を焼成し、この焼成したアルカリ珪酸を溶融したスクラップに添加することによりMgを除去する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭64−42532号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
現在、前述したClガス法やフラックス法に代わって新しいMg除去法の開発が急務となっている。Mgは強度特性、成型加工性及び耐食性を向上させるためにアルミニウム合金中に多量に添加されている。また、自動車産業では、ボディを軽量化するために部品のマグネシウム合金化も進みつつある。したがって、今後、スクラップ中へMgが混入することがさらに深刻になるものと予想される。
【0008】
一方、特許文献1に記載の方法では、溶融したスクラップに添加するために、低融点のアルカリ珪酸を作製する必要があり、依然として手間及びコストが多くかかるという問題点がある。
【0009】
本発明は前述の問題点に鑑み、環境に対して無害であってスクラップに混入したMgを簡単に除去できるマグネシウム除去方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のマグネシウム除去方法は、マグネシウムを含むアルミニウム合金を溶融させる工程と、前記溶融したアルミニウム合金の溶湯にシラスを添加する工程と、前記シラスが添加された溶湯を冷却してマグネシウム化合物を含む反応生成物を除去する工程とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、膨大な天然資源として存在するシラスをスクラップに添加するので、環境に対して無害、かつ簡単にMgを除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施例1及び2で用いたシラスの表面状態を示すSEM写真である。
【図2】本発明の実施例1において、シラス添加回数によるインゴット中のMg及びSi含有量の変化を示す図である。
【図3】本発明の実施例1において、Mg除去率及びインゴット中のMg/Siモル比とシラス添加回数との関係を示す図である。
【図4】比較例として、スクラップを1023Kで溶解し、シラスを添加せずにそのまま金型鋳造して得られたインゴットのEDXによる面分析結果を示す写真である。
【図5】本発明の実施例1における段階添加でシラスを5回添加し、浮上ドロスを除去したのち金型鋳造して得られたインゴットのEDX分析結果を示す写真である。
【図6】本発明の実施例1における段階添加でシラスを5回添加し、浮上ドロスを除去したのち急冷凝固して得られたインゴットのEDX分析結果を示す写真である。
【図7】本発明の実施例1における段階添加でシラスを5回添加し、浮上ドロスを除去したのち急冷凝固して得られたインゴットのX線回折の結果を示す図である。
【図8】本発明の実施例1における段階添加により除去した沈殿ドロスのX線回折の結果を示す図である。
【図9】本発明の実施例1における連続添加でシラスを5回添加し、浮上ドロスを除去したのち急冷凝固して得られたインゴットのEDX分析結果を示す写真である。
【図10】1073KにおけるMg-Al-O系平衡状態を示す図である。
【図11】本発明の実施例2において、3種類の添加温度における攪拌時間とインゴット中のMg含有量との関係を示す図である。
【図12】本発明の実施例2において、3種類の添加温度における攪拌時間とインゴット中のSi含有量との関係をに示す図である。
【図13】比較例として、スクラップを1023Kで溶解し、シラスを添加せずに攪拌だけを40分間行った後、金型に鋳造して得られたインゴットのEDX分析結果を示す写真である。
【図14】本発明の実施例2において、1023Kの溶湯にシラスを7mass%添加し、攪拌を40分間行った後、金型に鋳造して得られたインゴットのEDX分析結果を示す写真である。
【図15】本発明の実施例2において、1023Kの溶湯にシラスを添加して攪拌を40分間行い、鋳込んで回収した沈殿ドロスのEDX分析結果を示す写真である。
【図16】本発明の実施例2において、1023Kの溶湯にシラスを添加して攪拌を40分間行い、鋳込んだ後回収した沈殿ドロスのX線回折パターンを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者は、鋭意検討した結果、環境面とコスト面との双方を考慮して、Al及びMgとSiO2との反応によってスピネル型のMgAl2O4やMgOが形成されることに着目し、SiO2を多量に含み、日本の南九州地方に膨大な天然資源(約680億m3)として存在する無害かつ安価なシラスを用いてMgを除去する方法を見いだした。具体的には、スクラップを溶解させてシラスを添加し、形成された反応生成物を分離除去することによって、Mg含有量を低減させることができる。
【0014】
本発明のマグネシウム除去方法は、マグネシウムを含むアルミニウム合金を溶融させる工程と、前記溶融したアルミニウム合金の溶湯にシラスを添加する工程と、前記シラスが添加された溶湯を冷却してマグネシウム化合物を含む反応生成物を除去する工程とを有するものである。
【0015】
本発明において用いるシラスは、日本の南九州地方に多く分布している白色の火山噴出物が堆積したものであり、珪酸(SiO2)及びアルミナ(Al2O3)を主成分とし、少量のアルカリ酸化物が含まれている。SiO2は、Al2O3とともに高温で溶融したMgと反応してMgAl2O4やMgOを生成する。その結果、反応生成物としてMg化合物が除去される。
【0016】
Mgを除去する手順としては、まず、るつぼ炉を用いて、スクラップを大気中で溶解する。そして、Al箔で包んだシラスをスクラップに対して添加して攪拌する。これにより浮上した反応生成物(浮上ドロス)を除去して金型に鋳込む。以後、この工程を金型鋳造と呼ぶ。また、溶湯を鋳込んだ後、るつぼの底にも反応生成物(沈殿ドロス)が沈殿しているので、この沈殿ドロスも回収する。
【0017】
また、スクラップの溶解から金型鋳造までの工程を1回目のシラス添加とし、2回目以降のシラス添加では、スクラップ原料には前回のシラス添加で得られたインゴット(浮上ドロス及び沈殿ドロスが除去されたもの)を用い、シラス添加を数回繰り返してもよい。これにより、さらにMgの含有量を少なくすることができる。以後、この方法を段階添加法(step addition)と呼ぶ。
【0018】
一方、一度に大量のシラスを添加しても反応しないシラスの量が多くなるため、効果が小さくなる。したがって、スクラップの溶解から金型鋳造までの工程において、溶湯温度を一定に保持しながらシラスを添加して攪拌し、浮上ドロスを除去する工程を連続的に数回繰り返してもよい。以後、この方法を連続添加法(continuous addition)と呼ぶ。
【0019】
以上のような手順で生成される沈殿ドロスにはMgAl2O4及びMgOが形成される。これらのMgAl2O4及びMgOは以下のような反応式によって形成される。
2Mg(l)+Al2O3(s)+SiO2(s)=MgO(s)+MgAl2O4(s)+Si(s)・・(1)
2Mg(l)+SiO2(s)=2MgO(s)+Si(s)・・・・・・・・・・・・・・(2)
MgO(s)+2Al(l)+3/2O2(g)=MgAl2O4(s)・・・・・・・・・・・・(3)
【0020】
例えば1023Kにおけるこれらの反応の標準生成自由エネルギーΔGI0(反応(1))、ΔGII0(反応(2))及びΔGIII0(反応(3))の値をHSC Chemistry version 5.0を用いて計算すると、ΔGI0=-215kJ/mol、ΔGII0=-202kJ/mol、ΔGIII0=-1.383MJ/molとなる。このようにいずれも負の値となり、これらの反応が起こる可能性がある。反応(1)のΔGI0は、反応(2)のΔGII0に比べ低い値を示していることから、シラス添加の初期ではまず反応(1)が反応(2)よりも優先的に起こる。そして、シラスにはAl2O3がそれほど多く含まれていないため、Al2O3が無くなると反応(2)へと移行し、溶湯の攪拌によって大気中のO2が取り込まれ、溶解したO2によって反応(3)が起こる。
【0021】
シラスの密度ρは0.6〜1.0g/cm3であり、Alの密度(ρ:2.7g/cm3)よりも小さく、溶湯上に浮上しやすい。また、前述したように攪拌を行うが、シラス全体が直ぐに反応するわけではなく、局部的に反応が起こる。そのため、未反応のシラス成分が多いものは前述した浮上ドロスとなり、Alより密度の大きなMgAl2O4(ρ:3.6g/cm3)やMgO(ρ:3.58g/cm3)が多いものは沈殿ドロスになる。
【0022】
図10は、Weirauch, Jr.によって計算された1073KにおけるMg-Al-O系平衡状態を示す図である。シラスの添加回数が1回の場合、溶湯中にはMgが豊富に存在する。そのため、図10に示すように、Al-Mg液体に対してMgAl2O4及びMgOが共存できる状態にある。溶湯中に溶解しているMgは新たに添加されたシラスと前述の反応を起こし、沈殿ドロスとして除去される。このようにしてシラスの添加回数が多くなるとMg含有量が減少する。それに伴いAl-Mg液体と平衡する化合物は、図10に示すようにMgAl2O4のみとなる。
【0023】
沈殿ドロスとして除去されなかったMgは、凝固過程でSiO2の解離で生じたSiと反応し、Mg2Siとして晶出する。段階添加ではこのインゴットを原料として用い、再溶解して新たにシラスを添加する。ところが、小さなMg2Siは溶湯中に再溶解するが、大きなMg2Siは溶解されずにそのまま溶湯中に存在する。また、Mg含有量は飽和する現象が見られる。これはシラス添加回数が多くなると溶湯中の未溶解Mg2Siが増え、溶湯中に溶解しているMgがほとんどなくなり、結果的にシラスとの反応が起こらなくなるからである。
【0024】
一方、連続添加ではシラス添加の途中で鋳造を行わないので、溶湯中にMg2Siは存在せず、Mgはほとんど溶湯中に溶解している。このため、シラスの添加量はかなり多くなるものの、シラス添加回数が増えるほどシラスとMgとの反応が進行し、結果的にMg除去率も増大する。なお、シラス粒子全体が反応するわけではなく、シラスの表面付近でのみ反応が起こる。したがって、シラスの粒径が600μmを超えると比表面積が小さくなり、未反応部分が増えてその分浮上ドロスが増えてしまうため、600μm以下であることが好ましい。
【0025】
また、シラス粒子全体で反応が起こるようにするためには、攪拌時間を長くしてもよい。ここで、添加するシラスのすべてが前述した反応(1)及び反応(2)によってMgと反応したと仮定し、Mg残留量を計算すると、攪拌時間が長ければ長いほどこの値に近づく。
【0026】
これは、溶湯とシラスとの間の濡れ性が悪いこと、及びシラスの密度(0.6〜1.0g/cm3)がAlの密度(2.7g/cm3)より小さいという理由から、シラスとMgとの反応は局部的に起こり、未反応な部分の多いシラスは溶湯上に浮上ドロスとして浮上するが、攪拌時間が長くなると反応が進み、大半のシラスが反応生成物(MgAl2O4及びMgO)となるからである。このようにシラスとMgとの反応は拡散に律速されるのではなく界面反応に律速されているため、結果的に攪拌時間とともにMg含有量が直線的に減少する。前述した段階添加や連続添加を行うと、その分多くの時間及び手間がかかるため、段階添加や連続添加を行わない場合は6分以上攪拌することが好ましい。もちろん、攪拌時間を長くして段階添加や連続添加を行ってもよい。
【実施例】
【0027】
以下、本発明の実施例について説明する。
(実施例1)
まず、供試材料にはMgを含む5083アルミニウム合金(Mg:4.63mass%、Si:0.11mass%、Fe:0.25mass%:、Cu:0.05mass%、Mn:0.57mass%、Ti:0.02mass%、Cr:0.12mass%、Zn:0.02mass%、Al:Bal.)を用い、これを短冊状(50mm×10mm×4mm)に切断してスクラップを作製した。
【0028】
次に、シラスとして精製シラス(清新産業(株):AS-100、平均粒径:100μm、SiO2:74.9mass%、Al2O3:13.3mass%、Fe2O3:2.34mass%、CaO:1.31mass%、Na2O:3.29mass%、MgO:0.214mass%、K2O:4.07mass%)を、篩い(目開き:63μm)を用いて粒径を63μm以上に調整し、十分乾燥させて水分を取り除いた。図1は、シラスの表面状態及び面分析の結果を示す写真であり、図1(a)に示すように、シラスは薄片状になっていることがわかる。図1(b)は、シラスの断面の面分析の結果を示す写真である。面分析の結果によると、SiO2及びAl2O3の分布はほぼ均一であった。また、X線回折の結果、シラス中のSiO2やAl2O3は非晶質であった。
【0029】
次に、黒鉛るつぼをセットしたるつぼ炉を用いて、作製したスクラップを大気中に1023Kで溶解した。そして、Al箔で包んだシラスをスクラップに対して7mass%添加し、6分間攪拌したのち、浮上した反応生成物(浮上ドロス)を除去して金型に鋳込んだ。また、るつぼの底にも反応生成物(沈殿ドロス)が沈殿していたのでそれも回収した。
【0030】
また、スクラップの溶解から金型鋳造までの工程を1回目のシラス添加とし、2回目以降のシラス添加では、スクラップ原料には前回のシラス添加で得られたインゴットを用いた。このようにしてシラス添加を5回繰り返してインゴット(試料I−1)を作製し、1回目〜5回目のシラスの添加で生成された沈殿ドロス(試料D−1〜D−5)も回収した。
【0031】
一方、1回目〜5回目のシラス添加において、溶湯温度を一定に保持しながら、7mass%のシラスを添加して6分間攪拌し、浮上ドロスを除去する工程を連続的に5回繰り返したインゴット(試料I−2)も作製した。また、浮上ドロスを除去した後の溶湯の状態を調べるため、5回段階添加を行って氷水で冷却した金型中に溶湯を鋳造したインゴット(試料I−3)、及び5回連続添加を行って氷水で冷却した金型中に溶湯を鋳造したインゴット(試料I−4)も作製した。以後、この工程を急冷凝固と呼ぶ。
【0032】
比較のため、スクラップを大気中に1023Kで溶解し、シラスを添加せず、6分間攪拌を行っただけのインゴット(比較例1)についても作製した。実施例1で作製した試料の一覧を表1に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
また、金型鋳造で得られたインゴットの化学組成を蛍光X線分析装置(理学電機製:ZSX100e)で分析し、試料を作製する途中で添加回数ごとにMg及びSi含有量の変化を調べた。さらに、金型鋳造及び急冷凝固で得られたインゴットの組織をEDX(Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)付走査型電子顕微鏡(日本FEI製:XL30CP)で調べた。一方、金型鋳造で得られたインゴット及びドロスのX線回折(PANalytical製:X'pert pro MPD)も行い、反応生成物の同定を行った。
【0035】
図2は、試料I−1及び試料I−2において、シラス添加回数によるインゴット中のMg及びSi含有量の変化を示す図である。
図2に示すように、段階添加法の場合、Mg含有量は添加回数が3回目まではほぼ直線的に減少するが、その後次第に飽和する傾向を示し、飽和したときのMg含有量は約2mass%であった。また、Si含有量はMg含有量の変化とは逆に、添加回数が3回目までは直線的に増加し、それ以降は増加が緩やかになる傾向が見られた。一方、シラスを連続添加した場合、シラス添加回数の増加とともに、Mg含有量は減少し、逆にSi含有量は増加する傾向を示した。この方法によってMg含有量は約1mass%まで低減した。
【0036】
図3は、試料I−1及び試料I−2において、Mg除去率及びインゴット中のMg/Siモル比とシラス添加回数との関係を示す図である。
図3に示すように、段階添加の場合、Mg除去率は次第に飽和し、シラスを5回添加した段階で約56%となった。一方、Mg/Siモル比はシラス添加1回目で著しく減少するが、その後減少は緩やかになり、5回添加でほぼ一定になった。このときのモル比はほぼ2であった。また、連続添加の場合、Mg除去率はシラス添加回数の増加とともにほぼ直線的に増大し、5回目のシラス添加で約76%になった。
【0037】
次に、シラスを段階添加した場合にMg除去率が飽和する現象を明らかにするため、シラス添加前後のインゴット組織の変化をEDX付走査型電子顕微鏡で調べた。図4は、比較例1としてスクラップを1023Kで溶解し、シラスを添加せずに6分間攪拌し、そのまま金型鋳造して得られたインゴットのEDXによる面分析結果を示す写真である。
【0038】
図4に示すように、Mg及びSiの濃化が一致している部分がいくつか存在するが、これはMg-Si化合物によるものである。しかし、大部分のMgはSiの分布と無関係に分布していることから、Mgの多くはAl中に固溶している。また、Fe、Mn、Siの面分析の結果から、BSE像中の白い化合物は、Fe-Mn-Si-Al化合物である。このように、シラスを添加せず単に攪拌しただけではMgは除去できないことがわかる。
【0039】
図5は、段階添加でシラスを5回添加し、浮上ドロスを除去したのち金型鋳造して得られた試料I−1のインゴットのEDX分析結果を示す写真である。
図5に示すように、図4に比べてMg及びSiの濃化が一致している部分(Mg-Si化合物)が増加していることがわかる。このような現象は、特にセル界面で顕著であった。また、BSE像の部分51を点分析した結果、Alのピークと僅かなMgのピークが検出された。一方、部分(セル界面)52を点分析した結果、Al、Mg及びSiのピークが検出され、定量分析の結果、Mg/Siモル比は1.90となり、Mg2Siのモル比とほぼ一致した。図3において、Mg除去率が飽和したときのMg/Siモル比がほぼ2となっているのは、この未溶解のMg2Siが増加しているからである。
【0040】
次に、溶湯の状態を調べるため、段階添加でシラスを5回添加し、浮上ドロスを除去したのち急冷凝固して得られたインゴットのEDX分析及びX線回折を行った。図6は、段階添加でシラスを5回添加し、浮上ドロスを除去したのち急冷凝固して得られた試料I−3のインゴットのEDX分析結果を示す写真である。
図6に示すように、図5と同様にMg及びSiの濃化が一致している部分(Mg-Si化合物)が確認された。また、BSE像の部分61を点分析した結果、Alのピークと僅かなMgのピークが検出された。一方、部分62を点分析した結果、Al、Mg及びSiのピークが検出され、定量分析の結果、Mg/Siモル比は1.89となり、Mg2Siのモル比とほぼ一致した。
【0041】
図7は、段階添加でシラスを5回添加し、浮上ドロスを除去したのち急冷凝固して得られた試料I−3のインゴットのX線回折の結果を示す図である。
図7に示すように、Alのピークの他にMg2Siのピークが検出された。このことより、図6で観察されたMg-Si化合物はMg2Siであることがわかる。なお、僅かではあるがSiも検出された。このことは、シラスを5回添加し、浮上ドロスを除去した後では溶湯中にMgは僅かしか溶解しておらず、Mgは主にMg-Si化合物(Mg2Si)として存在していることを示唆している。
【0042】
図8は、段階添加により除去した試料D−1〜試料D−5の沈殿ドロスのX線回折の結果を示す図である。なお、図8の右端の1〜5の数字はシラスの添加回数を示す。
図8の回折パターンに示すように、沈殿ドロスにはMgAl2O4及びMgOが形成されており、特にMgAl2O4は、添加回数によらず全ての沈殿ドロスおいて形成されていることが確認できた。ところが、添加回数が多くなるとAl-Mg液体と平衡する化合物は、図10に示されるようにMgAl2O4のみとなる。そのため、MgOのピークは1回目の添加では大きいが、5回目の添加ではMgOのピークを確認できなかった。
【0043】
図9は、連続添加でシラスを5回添加し、浮上ドロスを除去したのち急冷凝固して得られた試料I−4のインゴットのEDX分析結果を示す写真である。
図9に示すように、Mg及びSiは均一に分布しており、Mg及びSiの濃化が一致している部分(Mg-Si化合物)は確認できなかった。このことは、段階添加の場合と異なり、溶湯中にはMg2Siは存在せず、Mgの大半は溶湯中に溶解していることがわかる。
【0044】
以上のように本実施例によれば、シラスを溶湯中に添加すると、シラス中のSiO2及びAl2O3がMg及びAlと反応してMgAl2O4及びMgOが形成され、これらを浮上ドロスや沈殿ドロスとして分離除去することによって、Mg含有量を低減することができるといえる。
【0045】
また、段階添加では、シラスを添加し、浮上ドロスを除去したのち金型に鋳造する際の凝固過程で、シラス中のSiO2の解離によって生じたSiと除去されなかった残留Mgとが反応してMg2Siが晶出するが、シラスの添加回数が増えるに伴って、溶湯中のMg2Si量が多くなり、溶解しているMgが減少するため、Mg除去量は次第に飽和する。これに対して連続添加では、シラス添加途中で鋳造を行わないので、Mg2Siは形成されず、Mgの大半は溶湯中に溶解しているため、シラス添加回数が増えるほどシラスとMgとの反応が進行し、Mg除去量をさらに増大させることができるといえる。
【0046】
(実施例2)
黒鉛るつぼをセットしたるつぼ炉を用いて、実施例1と同様のスクラップを大気中に973Kで溶解した。そして、Al箔で包んだ実施例1と同様のシラスを7mass%添加し、3分攪拌したのち、浮上した反応生成物(浮上ドロス)を除去し、10min間鎮静後、金型に鋳込んだ。また、6分、13分、20分、30分、40分攪拌したものも同様に作製した。また、るつぼの底にも反応生成物(沈殿ドロス)が沈殿していたので一部それも回収した。また、シラス添加温度の影響を調べるため、さらに1023K及び1073Kで同様の実験を行った。
【0047】
比較のため、実施例1と同様のスクラップを大気中に1023Kで溶解し、シラスを添加せず、単に攪拌を行っただけのものについても実験を行った。実施例2で作製した試料の一覧を表2に示す。
【0048】
【表2】

【0049】
次に、金型鋳造で得られたインゴットの化学組成を蛍光X線分析装置(理学電機製:ZSX100e)で分析し、Mg及びSi含有量の変化を調べた。また、インゴットの組織をEDX付走査型電子顕微鏡(日本FEI製:XL30CP)で調べた。一方、ドロスのX線回折(PANalytical製:X'pert pro MPD)を行い、反応生成物の同定を行った。
【0050】
図11は、3種類の添加温度における攪拌時間と試料I−5〜試料I−22のインゴット中のMg含有量との関係を示す図である。
図11に示すように、比較例では溶湯中のMgはほとんど減少しなかった。これは、スクラップを大気中で溶解させた場合に、大気中の酸素とMgとの反応によってMgはほとんど減少しないことがいえる。一方、シラスを7mass%添加すると、いずれの添加温度においても、Mg含有量は、攪拌時間に比例してほぼ直線的に減少した。また、添加温度が高いほどMg含有量は減少したが、ΔG0の温度依存性が小さいため、添加温度の影響は、攪拌時間の影響に比べて小さいといえる。
【0051】
また、Mg含有量は攪拌時間とともに直線的に減少した。上記の反応が拡散律速過程で進行する場合、放物線則にしたがって変化すると予想されるが、図11に示すように、攪拌時間に比例して直線的に変化したということは、これらの反応が拡散律速過程ではなく、界面律速過程で支配されていることを示唆している。
【0052】
図12は、3種類の添加温度における攪拌時間と試料I−5〜試料I−22のインゴット中のSi含有量との関係をに示す図である。
図12に示すように、インゴット中のSi含有量は、Mg含有量の変化と異なり、攪拌時間が20分までは増加するが、その後飽和する傾向を示した。シラスの表面近傍の反応で生じたSiは溶湯中に溶解しやすいが、シラス内部での反応で生じたSiは反応生成物の中に残留しやすく、結果的にドロスと一緒に除去されるためである。なお、添加温度の影響は攪拌時間の影響に比べてかなり小さいといえる。
【0053】
図13は、比較例2として、スクラップを1023Kで溶解し、シラスを添加せずに攪拌だけを40分間行った後、金型に鋳造して得られたインゴットのEDX分析結果を示す写真である。
図13に示すように、実施例1と同様、Mg及びSiの濃化が一致している部分がいくつか存在するが、これはMg-Si化合物によるものである。しかし、大部分のMgはSiの分布と無関係に分布していることから、Mgの多くはAl中に固溶している。また、Fe、Mn、Siの面分析の結果から、BSE像中の白い化合物は、Fe-Mn-Si-Al化合物である。このように、シラスを添加せず単に攪拌しただけではMgは除去できないことがわかる。
【0054】
図14は、1023Kの溶湯にシラスを7mass%添加し、攪拌を40分間行った後、金型に鋳造して得られた試料I−16のインゴットのEDX分析結果を示す写真である。
図13の場合に比べてMgは大幅に減少していることがわかる。一方、僅かではあるが、セル界面にMg2Siとして晶出しているものも見られ、セル界面において顕著なSiの濃化が見られた。面分析結果より、これはAl-Si-Fe-Mn化合物によると考えられる。このことは、シラスを添加するとSiO2と溶湯との反応によってSiO2の解離が起こり、生じたSiが溶湯中に溶解したことを示唆している。
【0055】
図15は、1023Kの溶湯にシラスを添加して攪拌を40分間行い、鋳込んだ後回収した沈殿ドロスD−6のEDX分析結果を示す写真である。
図15のBSE像に示すように、図1に示したシラスの断面形状をそのまま有した反応生成物が見られた。面分析の結果によると、反応生成物の一部は、Al、Mg及びOの分布がほぼ一致した。この部分はAl-Mg酸化物であると考えられる。また、一部にはMg及びOは存在するが、Alは検出されない部分もあった。この部分はMgOであると考えられる。また、Siは反応生成物の表面近傍や内部に局所的に検出された。このことは、SiO2の解離によって生じたSiは、すべてが溶湯中に溶解するわけではなく、一部は反応生成物の表面近傍や内部に留まっていることを示唆している。図12において、インゴット中のSi含有量が飽和したのはこのことに起因していると考えられる。
【0056】
図16は、1023Kの溶湯にシラスを添加して攪拌を40分間行い、鋳込んで回収した試料D−6の沈殿ドロスのX線回折パターンを示す図である。
図16に示すように、MgAl2O4とMgOの回折ピークが見られた。このことは、沈殿ドロスがMgAl2O4とMgOで形成されていることを示唆している。また、金属Siの回折ピークも見られたことから、図15に示した反応生成物の表面近傍や内部に存在しているSiは、化合物ではなく金属単体で存在していることを示唆している。
【0057】
以上のように本実施例によれば、Mg除去量は攪拌時間とともに直線的に増加する。これにより、さらに効率よくMgを除去することができる。
【符号の説明】
【0058】
51、52 BSE像のある部分
61、62 BSE像のある部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシウムを含むアルミニウム合金を溶融させる工程と、
前記溶融したアルミニウム合金の溶湯にシラスを添加する工程と、
前記シラスが添加された溶湯からマグネシウム化合物を含む反応生成物を除去する工程とを有することを特徴とするマグネシウム除去方法。
【請求項2】
前記溶融させる工程においては、前記マグネシウム化合物を含む反応生成物を除去した後冷却したアルミニウム合金を溶融させることを特徴とする請求項1に記載のマグネシウム除去方法。
【請求項3】
前記シラスを添加する工程においては、前記シラスを添加した後に前記溶湯に浮上する生成物を除去し、前記生成物を除去した溶湯に前記シラスを再度添加することを特徴とする請求項1又は2に記載のマグネシウム除去方法。
【請求項4】
前記シラスの粒径は、600μm以下であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載のマグネシウム除去方法。
【請求項5】
前記シラスを添加する工程においては、前記シラスを添加した後に、6分以上大気中で攪拌することを特徴とする請求項1に記載のマグネシウム除去方法。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか1項に記載のマグネシウム除去方法を複数回繰り返すことを特徴とするマグネシウム除去方法。

【図2】
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【図3】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図16】
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【図1】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図9】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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