説明

マグネットドリル

【課題】マグネットドリルのセンタ決め作業の容易化を図ることで作業効率の向上を達成する。
【解決手段】回転軸にビット(12)が取り付けられる電動ドリル(14)と、該電動ドリルを前記ビットの軸心方向に昇降自在に保持するとともに、磁力により磁性体である穿孔対象物(16)に磁着するための永久磁石(18)を備えたドリルスタンド(22)と、を有するマグネットドリル(10)であって、前記ビットは電動ドリルにその回転軸と軸合わせをして螺号して取り付けられており、前記ドリルスタンドは前記ビットの軸心方向を法線方向とする磁性体からなるドリルスタンド底面(22a)を有し、また、ドリルスタンド底面と直行するドリル
スタンドの周縁の一部または全部が前記ビットの軸心を中心とする円弧状に形成されており、前記ドリルスタンドは前記永久磁石を動かすことにより該ドリルスタンド底面に作用する磁力の強度を変化させることが可能となっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、穿孔対象物に穿孔などを行うためのドリルに関し、より詳細には、穿孔対象物である磁性体に永久磁石を用いてドリルを固定して穿孔を行うマグネットドリルに関する。
【背景技術】
【0002】
図11に従来から用いられているマグネットドリル(磁気ボール盤)の概略を側面図で示した。このマグネットドリル100は主として、磁石102を備えたドリルスタンド104と、このドリルスタンドに取り付けられた電動ドリル106から構成されている。なお電磁石102は、磁性体である穿孔対象物16に磁着することで、穿孔対象物にマグネットドリルを固定するためのものである。
【0003】
ドリルスタンド104には取り付けた電動ドリル106を昇降用ハンドル108の操作によってビット12の軸心方向に昇降させる昇降機能が備えられている。またドリルスタンド104に備えられた磁石102は通電することで磁力を発生する電磁石であり、その底面を磁性体とするケーシング112内に収容されている。ケーシング112の底面はビットの軸心方向を法線方向とする平面となっており、ドリルスタンド104の昇降機能は、ケーシング底面の延長面の上側と下側間を電動ドリルに取り付けたビット12の先端が往復移動できるように電動ドリル106を昇降させる。
【0004】
なおマグネットドリルに関する発明としては、例えば特許文献1の「磁気ボール盤のセンタ決め機構」などが発案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−454227号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような従来のマグネットドリルは据え置きタイプのものであり、穿孔対象物に穿孔する際にはまず穿孔対象物を作業台の上に置き、実際の穿孔前にドリルスタンドの昇降用ハンドルを回して電動ドリルを押し下げ、ビットの先端を穿孔対象物の穿孔個所に付けたマーキング等に近接させることで、穿孔しようとする穴とビットの軸心を一致させるセンタ決め作業を行った後に穿孔対象物にマグネットドリルを磁着固定し、それからビットを回転させながら再び昇降用ハンドルを回して電動ドリルを押し下げることで実際の穿孔を行っていた。
【0007】
ところで穿孔対象物が配管などを収めるために壁面や天井などに取り付けられた矩形断面を有する長尺物である場合などに、その長手方向一列に複数の穴を所定間隔で穿孔することがある。このような場合には、従来のマグネットドリルは据え置き型であり大きいため使用できない。そのためこのような場所の穿孔には一般的なハンディードリルが用いられるが、ハンディードリルでは正確な位置に傾きなく穿孔することは困難であり熟練した技術が必要であった。
【0008】
また仮に従来のマグネットドリルを小型化しその移動を容易化したとしても、このように穿孔対象物が壁面や天井にある場合には、上述したセンタ決め作業をマグネットドリルを支えながら行った後に穿孔を行う必要があるためその作業効率は悪いといえる。なお長
尺物の長手方向に複数の穴を穿孔する場合には、その複数の穴が一直線に並んでいることが重要である一方、隣接する穴の間隔はさほど厳密ではないことも多い。
【0009】
またドリルスタンドの磁石は穿孔対象物に電動ドリルを固定する手段としては非常に有用なものであるが、上述したセンタ決め(位置合わせ)において、穿孔個所に付けたマーキングの位置とビットの軸心との位置合わせをビットの先端を穿孔個所に近接させて行っていたためその作業が面倒であるといった問題があった。そのため位置合わせをレーザーサイトを用いて簡易に行うことができるようにしたドリルスタンドもあるが、その価格が高くなる傾向にあった。
【0010】
また従来のドリルスタンドでは、穿孔対象物への位置決めがずれていた場合に、磁着した状態ではマグネットドリルを正しい位置にセンタ決めし直すことが極めて困難であるといった問題があった。
このことは例えば、穿孔対象物が天井面などに配置されており下側から穿孔しなければならない場合に作業の負担増を招いていた。すなわち、マグネットドリルを穿孔対象物に磁着できれば作業者は下側からマグネットドリルを軽く支える程度で楽に作業することができるものの、マーキングの位置とビットの軸心がずれていた場合には、永久磁石への通電を一旦中止し、下側からしっかりとマグネットドリルを支えながらビットを正しい位置にセンタ決めし直してやる必要があり、かかる作業はマグネットドリルの重さを支えながら上を向いて行う必要があるため困難を伴うといった問題があった。また永久磁石への通電を中止すると、マグネットドリルの自重がこれを支える作業者の手に急激に加わることとなるため、これを落下させてしまうなどの虞もあった。
【0011】
なおマグネットドリルのセンタ決めの際にはその力加減が微妙であり、ドリルスタンド底面と穿孔面との磁着の強さや摩擦等によってマグネットドリルが作業者の意に反して大きく移動してしまうことも多く、微細なセンタ決めが困難となることも多かった。
【0012】
本発明はかかる問題点を解決するために創案されたものである。すなわち本発明の第一の目的は、マグネットドリルの取り扱いを簡易に行えるようにし、また、作業者の負担を軽減することで、センタ決め作業の容易化を図ることで作業効率の向上を達成し、また、作業の安全向上を図ることにある。
また本発明の他の目的は、マグネットドリルのセンタ決めがずれていた場合等に、正しい位置にセンタ決めし直すことが容易なマグネットドリルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため本発明は、回転軸にビット(12)が取り付けられる電動ドリル(14)と、該電動ドリルを前記ビットの軸心方向に昇降自在に保持するとともに、磁力により磁性体である穿孔対象物(16)に磁着するための永久磁石(18)を備えたドリルスタンド(22)と、を有するマグネットドリル(10)であって、前記ビットは電動ドリルにその回転軸と軸合わせをして螺号して取り付けられており、前記ドリルスタンドは前記ビットの軸心方向を法線方向とする磁性体からなるドリルスタンド底面(22a)を有し、また、ドリルスタンド底面と直行するドリルスタンドの周縁の一部または全部が前記ビットの軸心を中心とする円弧状に形成されており、前記ドリルスタンドは前記永久磁石を動かすことにより該ドリルスタンド底面に作用する磁力の強度を変化させることが可能となっている、ことを特徴とする。
【0014】
ここで、前記ドリルスタンド底面(22a)は少なくとも前記ビット(12)の下方側には存在せず、かつ、前記ビット側のドリルスタンド底面が、穿孔対象物(16)の所望の位置に穿孔するためのL字型に形成した薄板状のマグネットシートからなる位置合せ治具(70)の内縁に隙間なくあてがうことができる形状となっている、ことが好ましい。
【0015】
さらに、前記ドリルスタンド(22)にはドリルスタンド底面(22a)とつながり穿孔対象物(16)に効率的に磁束を貫かせるための強磁性体である一対の伝達部(34)が設けられており、前記永久磁石(18)は一対の前記伝達部間に微小空間が空いた状態で回動可能に支持されており、前記永久磁石を回動させ永久磁石の端面と前記伝達部とが対面する範囲を変化させることで、前記伝達部を通り穿孔対象物を貫く前記磁束の密度を調整可能とした、構造となっていることが好ましい。
【0016】
また、前記ビット(12)は一端側がドリル溝が形成されたドリル部(12a)、他端側がネジ山が形成されたネジ部(12b)となっており、該ネジ部の根元には電動ドリル(14)への取り付け時には電動ドリルと圧接することとなる圧接面を有し、かつ、電動ドリルに螺着したビットを取り外すためのボルト部(12c)が一体的に形成されている、ことが好ましい。
【0017】
また、前記ドリルスタンド底面(22a)には複数の凹穴(24)が形成され、各凹穴には凹穴の底部に設けた弾性体(26)によって支えられ、かつ、その一部分がドリルスタンド底面から突起する磁性体からなるコロ(28)が取り付けられており、前記永久磁石(18)の磁力は、前記コロのみを穿孔対象物(16)に磁着させる強さと、弾性体を変形させることでコロを前記凹穴内に押し込んでドリルスタンド底面全体を穿孔対象物に磁着させる強さに段階的に切替え可能となっている。
【0018】
ここで、前記永久磁石(18)の磁力は、ドリルスタンド底面(22a)にマグネットドリル(10)の自重による圧縮力が作用している場合およびドリルスタンド底面にマグネットドリルの自重による引張力が作用している場合にも、前記コロ(28)のみが穿孔対象物(16)に磁着する状態とドリルスタンド底面全体が穿孔対象物に磁着する状態とを切替え可能となっている、ことが好ましい。
【0019】
なお、前記コロ(28)は球体である、ことが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明のマグネットドリルでは、永久磁石が取り付けられたドリルスタンドの底面がビットの軸心方向を法線方向としており、また、ドリルスタンド周縁の一部または全部がビットの軸心を中心とする円弧状に形成されているため、このドリルスタンド周縁を、例えば穿孔対象物の穿孔面上に仮止め(磁着するのも好ましい。)した直線状の棒角材の側面にあてがうことで、この棒角材側面から等距離(円弧の半径)だけオフセットした位置に、棒角材に沿って複数の穴を容易に穿孔することができる。なお、上述したように長尺物の長手方向に複数の穴を穿孔する場合には、その複数の穴が一直線に並んでいることが重要である一方、隣接する穴の間隔はさほど厳密ではないことも多いため、本発明のマグネットドリルを用いてやれば、マグネットドリルのセンタ決めを非常に容易に行うことができ、作業効率も格段に向上することとなる。
さらにビットが電気ドリルに螺合して取り付けられているため、従来の三方チャックによりビット後端側の六角軸を挟んで固定するタイプのマグネットドリルと比して電気ドリルを小型化・軽量化することができ、また、作業個所を目視しやすくしてやることができるといったメリットもある。
また穿孔対象物への磁着を永久磁石を用いて行うことで、万が一マグネットドリルへの給電が途絶えた場合であっても、例えば壁面に磁着したマグネットドリルが落下してしまう事故を防ぐことができる。なおこの永久磁石による磁力の作用を可変とすることで、マグネットドリルの使用状態(床、壁、天井での使用など)に合わせて最適な磁力を選択することができる。
【0021】
ここで、穿孔対象物に磁着させる薄板状のL字型の位置合せ治具を用い、この内縁(内角)にあてがうことができるようにドリルスタンドの底面を形成することで、上記のように円弧状のドリルスタンドの周縁を利用してマグネットドリルのセンタ決めをする他にも、マグネットドリルのセンタ決めを行うことができるようになる。なお上記円弧状のドリルスタンドの周縁を利用したセンタ決めは一直線に複数の穴を穿孔する場合に適した方法であるのに対し、この治具を用いたマグネットドリルのセンタ決めは所望の個所に個別に穿孔する場合に適した方法であるといえる。
【0022】
さらに、ドリルスタンドの穿孔対象物への磁着固定を永久磁石を用い、穿孔対象物を貫く磁束密度を永久磁石を回動(または回転)させることによって変化させる構造とすることで、簡易かつ安価に磁着の強さを調整することができるようになる。なお磁着の強度を調整することができるようにしたのは、床面側、壁面側、天井面側など穿孔対象物の位置状態によって最も作業を行い易い環境を提供してやるためである。
【0023】
また、ビットの形状を工夫することで、電動ドリルへの取り付けの簡易化、電気ドリルの小型化、ビットの軸の安定化、電動ドリルからのビットの取り外しの容易化を達成することができる。
【0024】
また、ドリルスタンド底面に形成した複数の凹穴に、凹穴の底に配置した弾性体によって支えられ、かつ、その一部分がドリルスタンド底面から突起するようにコロを設けてやり、永久磁石の磁力を、コロのみが穿孔対象物に磁着する強さと、弾性体を変形させることでドリルスタンド底面が穿孔対象物に磁着する強さに段階的に切替え可能とすることで、センタ決め作業において磁着したマグネットドリルの位置が穿孔位置とがずれていた場合にも、コロのみが磁着した状態とすることでこれを容易に正しい位置にセンタ決めし直すことが可能となり、作業効率や作業の安全性を高めることができる。
【0025】
ここでマグネットドリルが、穿孔対象物上に載せ置かれた状態で作業される場合(マグネットドリルの自重による圧縮力がドリルスタンド底面に作用している場合)と穿孔対象物にぶら下がった状態で作業される場合(ドリルスタンド底面にマグネットドリルの自重による引張力が作用している場合)を考慮し、それぞれの場合に永久磁石の磁力をコロのみが穿孔対象物に磁着する状態とドリルスタンド底面全体が穿孔対象物に磁着する状態とを切替え可能とすることで、センタ決め作業の際にはコロのみを穿孔対象物に磁着させ、センタ決めが確認された後にはドリルスタンド底面を穿孔対象物に磁着させて穿孔作業を行うことができる。これにより、センタ決め作業時の安定性や作業性を高めることができ、特に、下側(および横側)から穿孔対象物に穿孔を行う際の作業者の負担を軽減するとともに安全性をも向上させることができる。
【0026】
なお、コロを球体としてやれば、センタ決め作業において穿孔面内の全ての方向にマグネットドリルを容易に移動させることができるため便宜である。また、コロを複数平行に並んだ円柱としてやれば、直線状に複数の穿孔を簡易的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】実施例1のマグネットドリルの構成を説明するための側面図である。
【図2】図1のA−A断面矢視図である。
【図3】実施例1のマグネットドリルの底面図である。
【図4】マグネットの構造を説明するための図3のB−B断面矢視図である。
【図5】ビットの斜視図である。
【図6】位置合わせ治具の斜視図である。
【図7】位置合わせ治具を用いたマグネットドリルの使用状態を表した図である。
【図8】実施例2のマグネットドリルの構成を説明するための側面図である。
【図9】実施例2のマグネットドリルの底面図である。
【図10】図9のB−B断面図(マグネットドリル下部のみ)である。
【図11】従来のマグネットドリル(磁気ボール盤)の概略を表した側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明は、例えば壁面や天井面、床面などに取り付けられ、配管などを内部に収めた矩形断面を有する長尺物である配管カバーなどにその長手方向一列に複数の穴を所定間隔で穿孔する場合や、平面を有する穿孔対象物の所望の位置に穴を穿孔する場合に、その作業効率を向上させるのに有用なマグネットドリルであり、特に穿孔位置のセンタ決め作業の容易化を図るための特別の工夫したものである。以下、本発明のマグネットドリルの構造を図面を用いて説明した後に、その使用方法についても簡単に説明する。
【実施例1】
【0029】
図1乃至図4は実施例1のマグネットドリルの構成を説明するための図であり、図1は筐体カバーを透過して表した側面図、図2は図1のA−A断面矢視図、図3は底面図、図4はマグネットの構造を説明するための図3のB−B断面矢視図である。
【0030】
このマグネットドリル10は全体の重さが3.5kg程度のハンディタイプの装置であり、各図に示したように先端にビット12(ドリル刃)が取り付けられた電動ドリル14と、電動ドリル14をビット12の軸心方向に昇降自在に保持するとともに、磁力により穿孔対象物16に磁着する永久磁石18を備えたドリルスタンド22とを有して構成されている。このマグネットドリル10は、破線で示した樹脂製の筐体カバー33によって電動ドリル先端部分を除きその全体が覆われている。
【0031】
ドリルスタンド22は縦×横×高さが15cm×10cm×12cm程度の大きさをしており、マグネットドリル10の上面を構成する天板35とマグネットドリルの底面を構成する底板37とが複数の支柱39によって連結された構造をしている。
この天板35は長方形の金属板の2隅を弧状に切り取った形状をしており、その一端側は、筐体カバー33の周縁が、天板の下側に取り付けられることとなる電動ドリル14のビット12の軸心を中心とする円弧(図面上では半径Wの円弧)をなすように形成されている。
一方底板37は電動ドリル14の下方を開放するような矩形(長方形)をなし、ドリルスタンド長辺側の対向するスリット状の部位が鉄などの強磁性体である伝達部34となっており、その間の部位がアルミなどの非磁性体により形成されている。
【0032】
この底板37の伝達部34は、図3の底面図、図4の断面矢視図に示したように、ドリルスタンド22の内部まで伸張しており、ドリルスタンドの内部に設けた棒磁石であるネオジム磁石などの永久磁石18の発生する磁力を、穿孔対象物16に効率的に伝達させまたその強度を調整して作用させることができるようになっている。
すなわち棒磁石である永久磁石18は、図4に示したようにその長手方向中心を軸として回動(又は回転)することができ、かつ、一対の伝達部34との間に微小空間が空けた状態で支持されており、永久磁石を回動させ永久磁石の端面と伝達部とが対面する範囲を変化させることで、一方の伝達部を通り穿孔対象物を貫き他方の伝達部に到達する磁束の密度を変化させ、その磁力の強弱を調整することができるようになっている。なお永久磁石18の回動は、電動または手動により切り替えることができる磁力切替スイッチ43の操作をすることで行われ、磁力の強・中・弱・切を切替えることができるようになっている。
【0033】
ここで磁力の強弱は、マグネットドリル10がしっかりと穿孔対象物16に磁着して穿孔作業の最中にもドリルがずれてしまうことがない強さ(強)と、穿孔対象物の穿孔面が
天井面や壁面である場合に、磁着したマグネットドリル10が落下することがない程度の強さ(中)と、穿孔対象物の穿孔面が床面である場合にマグネットドリル10を仮止めできる程度の強さ(弱)とする。なお磁力の強さの調整が電動による場合には、例えば磁力切替スイッチ43の押操作の時間に対応して無段階(または多段階)に行えるようにしてやることも好ましい。
【0034】
ドリルスタンド22には後述する電動ドリル14を、電動ドリルに取り付けたビット12の軸心方向に昇降させるための昇降機構が備えられている。この昇降機構はドリルスタンド22に設けられた昇降スイッチ45の操作をすることで、電源に接続された制御装置20による制御によって、電動ドリル14の昇降を行う送りモータ47を有している。なお送りモータ47のかわりに、従来のマグネットドリルのように昇降用ハンドルを設けてやることも勿論可能である。
【0035】
電動ドリル14は、主軸モータ49の動力が、歯車を組み合わせて構成された減速機50を経て、ビット12が取り付けられるドリル回転軸51を回転させる構造となっている。主軸モータ49は、ドリルスタンド22に設けられた回転スイッチ53の操作をすることで、電源に接続された制御装置20による制御によって、正転・反転・停止の切り替えができるようになっている(図1〜図3参照)。
【0036】
なお磁力切替スイッチ43、昇降スイッチ45、回転スイッチ53は、その操作性を高めるために、作業者がマグネットドリル10を掴んで作業する際に指先が位置することとなるマグネットドリル筐体カバー33側面に配置されている。
【0037】
図5に電動ドリル14の回転軸先端に取り付けられるビットの斜視図を示した。
このビット12は全長が4cm程度で、その一端側が直径3mmの穴を穿孔するためのドリル溝が1.5cm程度の範囲で形成されたドリル部12aとなっており、他端側がφ5mmでネジ山が1cm程度の範囲で形成されたネジ部12bとなっている。そしてこのネジ部12bの根元には、電動ドリル14への取り付け時に電動ドリルと圧接することとなる圧接面を有し、かつ、電動ドリルに螺着したビットを取り外すための六角形をなすボルト部12cが一体的に形成されている。なおネジ部12bのネジ溝は、穿孔対象物に穿孔を行う方向にビットが回転した場合に電動ドリル14の先端にねじ込まれる方向に刻まれている。
このようにビット12の取り付けをネジ式で行うようにすることで、電動ドリル14への取り付けが簡易となるばかりでなく、電気ドリルの先端を小型化・スリム化することや、ビットの軸の安定化、電動ドリルからのビットの取り外しの容易化も同時に達成することができる。
【0038】
図6にこのマグネットドリルと同時に使用されることがある位置合わせ治具を斜視図で示した。
この位置合わせ治具70は、厚さ3mm程度(必要に応じて5mm程度以上)のマグネットシートを、直行する2辺がそれぞれ8cm程度の長さとなるようにL字型に形成したものであり、各辺には穿孔対象物の穿孔個所に位置合わせされることとなる直径4mm程度の位置合わせ穴71が設けられている。すなわちこの位置合わせ穴71は、使用状態を表した図7に示したようにドリルスタンド底面のビット側の一角を位置合せ治具70の内縁に隙間なくあてがった際に、ビットの真下の穿孔位置となる個所に開口して形成されている。そのためこの位置合わせ治具を用いてやることで、簡易かつ迅速に穿孔対象物にマグネットドリルを所望の位置に位置合わせして磁着してやることができるようになる。
【0039】
以上に説明した実施例1のマグネットドリル10は次のように使用される。
まず筐体カバーの円弧状の周縁を利用して穿孔する場合について説明する。
例えば矩形断面を有する長尺物の長手方向一列に複数の穴を穿孔する場合には、まず、長尺物(穿孔対象物16)の穿孔面上に、複数の穿孔予定個所と平行するように真っ直ぐな棒角材を仮止めする。その際、穿孔予定個所を結んだ直線と棒角材との距離がマグネットドリル先端の円弧の半径(W)と同じになるようにしてやる。
【0040】
穿孔対象物16に穴を穿孔する際には、マグネットドリル10の先端の円弧状の部分を棒角材の側面に当てがいながら、ビット12が目測により穿孔位置の真上に来るようにスライドさせてセンタ決めし、その状態で磁力切替えスイッチを操作して弱い磁力でマグネットドリル10を穿孔対象物16に磁着させる。そして昇降スイッチ45を操作して電動ドリル14に取り付けたビット12の先端を穿孔位置の近傍まで押し下げることで、センタ決めが正しく行われているかを確認する。センタ決めが正しく行われていない場合には、一度電動ドリル14を引き上げ、マグネットドリル10をその先端を棒角材の側面に当てがいながらずらし、再び昇降スイッチ45を操作してセンタ決めが正しく行われているかを確認する。
センタ決めが正しいことを確認した後には、磁力切替えスイッチを操作して強い磁力でマグネットドリル10を穿孔対象物16にしっかりと磁着させ、それから回転スイッチ53を操作してビット12を正回転させ、その後に昇降スイッチ45を操作して電動ドリル14を押し下げることで穿孔対象物16に穿孔を行う。複数の穿孔は、上記手順を繰り返すことで行われる。
【0041】
以上に説明した本実施例のマグネットドリル10によれば、マグネットドリル10の先端周縁が円弧状に形成されているため、仮止めした直線状の棒角材の側面にあてがうだけで、マグネットドリルの傾きにかかわらず棒角材からの距離を一定(半径の長さ)に保ちつつ棒角材に沿って複数の穴を穿孔することができる。なお隣接する穴の間隔がさほど厳密ではない場合にあっては、実質的に目視によるセンタ決め作業が不要となるため、作業効率が格段に向上することとなる。
【0042】
次に位置合わせ治具を利用して穿孔する場合について説明する。
上述のような長尺物の長手方向一列に複数の穴を穿孔するのではなく、穿孔対象物の所望の位置に独立して穿孔したい場合には、まず、上述した位置合わせ治具70を、その位置合わせ穴71が穿孔したい所望の位置に予め印したマーキングに一致するように穿孔対象物16に磁着させる。
そしてL字型の位置合わせ治具70の内縁に、ドリルスタンド底面のビット側の一角を隙間なくあてがってやり、その状態で磁力切替えスイッチ43を操作して強い磁力でマグネットドリル10を穿孔対象物16にしっかりと磁着させる。そして必要に応じて位置合わせ治具70を取り去ってから回転スイッチ53を操作してビット12を正回転させ、その後に昇降スイッチ45を操作して電動ドリル14を押し下げることで穿孔対象物16に穿孔を行う。複数の穿孔は、上記手順を繰り返すことで行われる。
【0043】
このように位置合わせ治具70とマグネットドリル10を用いることで、位置合わせ治具の内角にとマグネットドリルの底面の2辺をあてがうだけでマグネットドリルの位置合わせが完了し、穿孔対象物16の所望の位置に迅速かつ確実に穿孔することができる。なお位置合わせ治具70を用いることで縦横2方向の位置決めが同時に完了できるため、ビット12の先端を穿孔位置の近傍まで押し下げてセンタ決めが正しく行われているかを確認する必要はなくなる。
【実施例2】
【0044】
図8乃至図10は実施例2のマグネットドリルの構成を説明するための図であり、図8は筐体カバーを透過して表した側面図、図9は底面図、図10は図9のB−B断面図(マグネットドリル下部のみ)である。
このマグネットドリル10の基本構成は実施例1のマグネットドリル10と同様であるが、ドリルスタンド底面22aにその先端が若干突起する磁性体のコロ28が取り付けられている点が異なっている。そのため以下の説明では、実施例1のマグネットドリルと同様の構成については同一の符号を付すことで、重複した説明を省略する。
【0045】
このコロ28は磁性体からなる球体であり、ドリルスタンド底面22aに形成された複数の凹穴24内に、凹穴24から抜け落ちてしまうことがないようにして収容されている。ここでコロ28は凹穴24の底部に設けた弾性体26(バネやゴムなど)による付勢力によって押し出された状態となって凹穴24内に保持されている。なお弾性体26とコロ28との間の転がり抵抗を低減するために、弾性体26とコロ28との間に金属片などを挟み込んでやってもよい。そしてこのコロ28には永久磁石18の磁力が作用し、複数のコロの先端が穿孔対象物と点接触して磁着するようになっている。
【0046】
永久磁石18の磁力は、突起したコロ28の先端部分のみが穿孔対象物16に磁着する強さと、弾性体26を押しつぶすことでコロ28を凹穴24内に押し込んでドリルスタンド底面22aの対向する2辺の伝達部34が穿孔対象物16に磁着する強さに切替え(強・中・弱・切)可能となっている。
より詳しくは永久磁石18の磁力は、穿孔対象物16に上側から穿孔する場合(マグネットドリルは穿孔対象物上に載置される)および、横側から穿孔する場合又は下側から穿孔する場合(マグネットドリルは穿孔対象物の側面又は下面にぶら下がる)を考慮して、その使用状態に応じた磁力の切り替えが行えるようになっている。
この磁力の切り替えは、実施例1でも言及したように、磁力切替えスイッチの押操作の時間に対応して調節可能としてやってもよいし、例えば振り子式センサなどによってマグネットドリル10の使用状態を検出し、磁力の強弱の強さを、上側から穿孔する場合・横側から穿孔する場合・下側から穿孔する場合に最適な強さに自動的に調整してやることで、作業者にマグネットドリルの使用状態を意識させることなく磁力切替スイッチ43の切替え(強・中・弱・切)操作のみによって行えるようにしてやることも好ましい。なお弱の磁力の強さは、穿孔対象物16に横側から穿孔する場合や下側から穿孔する場合にも、磁着したマグネットドリル10がずれ落ちない強さにしてやるものとする。
【0047】
本実施例のマグネットドリルによれば、実施例1のマグネットドリルの効果に加え、センタ決め作業を容易に行うことが可能となる。特にセンタ決め作業において、弱く磁着したマグネットドリルの位置が穿孔位置とずれていた場合などにも、磁着した状態でこれを容易に正しい位置にセンタ決めし直すことが可能となり、作業効率や作業の安全性を高めることができる。
【0048】
以上に説明したように本発明のマグネットドリルでは、長尺物などに一列に複数の穴の穿孔を行う際などにおけるセンタ決め作業が容易化され、また、位置合わせ治具を用いてやれば列をなさない穴を穿孔するためのマグネットドリルのセンタ決めも容易に行うことができる。さらにマグネットドリルの磁着強度を調整可能としまたコロを利用することで、最初のセンタ決めがずれていた際にも、マグネットドリルを正しい位置に容易にセンタ決めし直すことができる。
【0049】
なお、本発明の構成は上述したものに限られるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することができるのは勿論である。例えばマグネットドリルの形状(天板及び底板の形状)を前方後円墳型や円型などとすることも可能である。
【符号の説明】
【0050】
10 マグネットドリル
12 ビット
14 電動ドリル
16 穿孔対象物
18 永久磁石
20 制御装置
22 ドリルスタンド
22a ドリルスタンド底面
24 凹穴
26 弾性体
28 コロ
32 光源
33 筐体カバー
34 伝達部
35 天板
37 底板
39 支柱
43 磁力切替スイッチ
45 昇降スイッチ
47 送りモータ
49 主軸モータ
50 減速機
51 ドリル回転軸
53 回転スイッチ
70 位置合わせ治具
71 位置合わせ穴
100 マグネットドリル
102 永久磁石
104 ドリルスタンド
106 電動ドリル
108 昇降用ハンドル
112 ケーシング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸にビット(12)が取り付けられる電動ドリル(14)と、該電動ドリルを前記ビットの軸心方向に昇降自在に保持するとともに、磁力により磁性体である穿孔対象物(16)に磁着するための永久磁石(18)を備えたドリルスタンド(22)と、を有するマグネットドリル(10)であって、
前記ビットは電動ドリルにその回転軸と軸合わせをして螺号して取り付けられており、
前記ドリルスタンドは前記ビットの軸心方向を法線方向とする磁性体からなるドリルスタンド底面(22a)を有し、また、ドリルスタンド底面と直行するドリルスタンドの周縁の一部または全部が前記ビットの軸心を中心とする円弧状に形成されており、
前記ドリルスタンドは前記永久磁石を動かすことにより該ドリルスタンド底面に作用する磁力の強度を変化させることが可能となっている、ことを特徴とするマグネットドリル。
【請求項2】
前記ドリルスタンド底面(22a)は少なくとも前記ビット(12)の下方側には存在せず、かつ、前記ビット側のドリルスタンド底面が、穿孔対象物(16)の所望の位置に穿孔するためのL字型に形成した薄板状のマグネットシートからなる位置合せ治具(70)の内縁に隙間なくあてがうことができる形状となっている、ことを特徴とする請求項1に記載のマグネットドリル。
【請求項3】
前記ドリルスタンド(22)にはドリルスタンド底面(22a)とつながり穿孔対象物(16)に効率的に磁束を貫かせるための強磁性体である一対の伝達部(34)が設けられており、
前記永久磁石(18)は一対の前記伝達部間に微小空間が空いた状態で回動可能に支持されており、
前記永久磁石を回動させ永久磁石の端面と前記伝達部とが対面する範囲を変化させることで、前記伝達部を通り穿孔対象物を貫く前記磁束の密度を調整可能とした、ことを特徴とする請求項1又は2に記載のマグネットドリル。
【請求項4】
前記ビット(12)は一端側がドリル溝が形成されたドリル部(12a)、他端側がネジ山が形成されたネジ部(12b)となっており、
該ネジ部の根元には電動ドリル(14)への取り付け時には電動ドリルと圧接することとなる圧接面を有し、かつ、電動ドリルに螺着したビットを取り外すためのボルト部(12c)が一体的に形成されている、ことを特徴とする請求項1、2又は3に記載のマグネットドリル。
【請求項5】
前記ドリルスタンド底面(22a)には複数の凹穴(24)が形成され、
各凹穴には凹穴の底部に設けた弾性体(26)によって支えられ、かつ、その一部分がドリルスタンド底面から突起する磁性体からなるコロ(28)が取り付けられており、
前記永久磁石(18)の磁力は、前記コロのみを穿孔対象物(16)に磁着させる強さと、弾性体を変形させることでコロを前記凹穴内に押し込んでドリルスタンド底面全体を穿孔対象物に磁着させる強さに段階的に切替え可能となっている、ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載のマグネットドリル。
【請求項6】
前記永久磁石(18)の磁力は、ドリルスタンド底面(22a)にマグネットドリル(10)の自重による圧縮力が作用している場合およびドリルスタンド底面にマグネットドリルの自重による引張力が作用している場合にも、前記コロ(28)のみが穿孔対象物(16)に磁着する状態とドリルスタンド底面全体が穿孔対象物に磁着する状態とを切替え可能となっている、ことを特徴とする請求項5に記載のマグネットドリル。
【請求項7】
前記コロ(28)は球体である、ことを特徴とする請求項5又は6に記載のマグネットドリル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−251370(P2011−251370A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−126797(P2010−126797)
【出願日】平成22年6月2日(2010.6.2)
【出願人】(301053682)有限会社機装工業 (2)
【Fターム(参考)】