説明

マグネットワイヤ及びこれを用いたコイル

【課題】表面の潤滑性を損なうことなく、含浸処理用ワニスとの接着力に優れたマグネットワイヤ及びこれを用いたコイルを提供する。
【解決手段】導体を被覆する絶縁被膜の最外層が、塗膜構成樹脂100質量部、融点50〜150℃の有機系潤滑剤1〜5質量部、および下記一般式(1)で示されるシランカップリング剤1〜30質量部含有するワニスの硬化物で構成されている。(1)式中、R及びRは、それぞれ独立して炭素数1〜3のアルキル基、Oは酸素原子、Xは結合基又は炭素数1〜3のアルキル基又はフェニレン基、Yは炭素数2〜5のエチレン性不飽和結合含有基を示し、nは0、1または2である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータや変圧器のコイルに用いられるマグネットワイヤに関し、特に、ファンモータや密閉式モータのように、コイルがワニス含浸処理に供されるマグネットワイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
モータの高速回転、小型化が進むことに伴い、モータに用いられているコイルの捲き線作業の高速化、コイルにおけるマグネットワイヤの占積率の増大に対する要求は、年々厳しくなっている。
このようなコイルに用いられるマグネットワイヤについては、絶縁性等の電気的特性;可とう性、耐摩耗性といった機械的特性;耐熱性等の熱的特性だけでなく、表面が潤滑性を有することも要求される。このような要求に応えるため、一般に、マグネットワイヤの絶縁被膜の最外層を、潤滑性を有するワニスを塗布、焼きつけてなる硬化物で構成している。
【0003】
例えば、特許文献1では、潤滑性を有するワニスとして、主成分となる塗膜構成樹脂(ポリエステル樹脂又はポリイミド樹脂)に、ポリエチレンワックスなどの潤滑剤を配合したワニスが用いられている。
【0004】
更に、エアコンや冷蔵庫のコンプレッサモータや密閉式モータなどでは、モータの高速回転による振動などでマグネットワイヤ同士がこすれ合ったりすることを防止するために、あるいはコイルを水分、ダストなどから保護するために、コイル全体を被覆するワニス含浸処理を行うことによって、マグネットワイヤ同士の固着力を高めたり、コイル全体を外的環境から保護している。
【0005】
従って、ワニス含浸処理に供されるマグネットワイヤについては、含浸処理用ワニスとの接着力に優れていることも要求される。
しかしながら、マグネットワイヤの潤滑性を高めるために、マグネットワイヤ最外層に添加した潤滑剤の含有量を増大させるのに伴い、一般に、含浸処理用ワニスとの接着力が低下する傾向にある。
【0006】
絶縁電線の潤滑性、含浸処理用ワニスとの接着性を考慮した電線としては、特許文献2に、ポリアミドイミド樹脂100部に対して、潤滑剤1〜5質量部、安定化イソシアネート1〜200質量部、シランカップリング剤1〜30質量部配合したワニスを塗布、焼きつけてなる最外層を有する自己潤滑性エナメル線が提案されている。
【0007】
【特許文献1】特開平9−45142号公報
【特許文献2】特開2002−75066号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、特許文献2では、ワニスとの接着力を、NEMA法に準拠して、ヘリカルコイルの座屈強度により測定評価している。
しかしながら、上記評価方法のみにより含浸処理用ワニスとの接着力を判断することは十分とは言い難い。また、モータの高速回転化などに伴い、含浸処理用ワニスとの接着力について、更なる向上が求められている。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、表面の潤滑性を損なうことなく、含浸処理用ワニスとの接着力に優れたマグネットワイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のマグネットワイヤは、導体を被覆する絶縁被膜の最外層が、塗膜構成樹脂100質量部、融点50〜150℃の有機系潤滑剤1〜5質量部、および下記一般式(1)で示されるシランカップリング剤1〜30質量部含有するワニスの硬化物で構成されている。
【化1】

【0011】
上記(1)式中、R及びRは、それぞれ独立して炭素数1〜3のアルキル基、Oは酸素原子、Xは結合基又は炭素数1〜3のアルキル基又はフェニレン基、Yは炭素数2〜5のエチレン性不飽和結合含有基を示し、nは0、1または2である。
【0012】
前記シランカップリング剤は、上記(1)式におけるn=0、Xが炭素数1〜3のアルキル基、Yがメタクリロキシ基又はアクリロキシ基であることが好ましい。
【0013】
前記塗膜構成樹脂は、ポリアミドイミド樹脂であることが好ましく、前記有機系潤滑剤は、ポリエチレンワックスであることが好ましい。
【0014】
本発明のコイルは、上記本発明のマグネットワイヤを捲き線してなり、エチレン性不飽和結合を有する樹脂ワニスで含浸処理されたものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明のマグネットワイヤは、絶縁被膜の最外層が、特定のシランカップリング剤を含有したワニスの硬化物で形成されているので、表面の潤滑性を損なうことなく、含浸処理用ワニスとの接着力に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に本発明の実施の形態を説明するが、今回、開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0017】
本発明のマグネットワイヤは、絶縁被膜の最外層が、塗膜構成樹脂、潤滑剤、及び特定構造を有するシランカップリング剤を含有するワニスの硬化物で構成されていることを特徴とする。
【0018】
〔最外層用ワニス〕
はじめに、本発明のマグネットワイヤの最外層に用いられるワニスについて説明する。
最外層用ワニスは、塗膜構成樹脂、潤滑剤、および特定構造のシランカップリング剤を含有する樹脂組成物を有機溶剤で溶解したものである。
【0019】
塗膜構成樹脂としては、絶縁ワニスに一般に用いられる樹脂、具体的には、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエステルイミド樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂などを用いることができ、これらのうち、特にポリアミドイミド樹脂が好ましく用いられる。
【0020】
ポリアミドイミド樹脂は、機械的強度、耐熱性に優れており、過酷な捲き線加工が採用されるコイル用マグネットワイヤの絶縁被膜として優れている。
また、ポリアミドイミド樹脂は、後述のシランカップリング剤の加水分解から生じるシラノール基と水素結合を形成することが可能であることから、シランカップリング剤との相溶性、親和性が良好で、ひいては含浸処理用ワニスとの接着力向上に寄与することが期待できる。
【0021】
潤滑剤としては、融点50〜150℃の有機系潤滑剤が用いられる。具体的には、ポリエチレンワックス;固形パラフィン、流動パラフィン等のパラフィンろう;カルナバロウ、密蝋、モンタンワックス、ラノリン等の脂肪酸と高級アルコールとのエステル;フッ素樹脂などを用いることができる。
このような潤滑剤は、樹脂100質量部あたり1〜5質量部配合されていることが好ましい。
【0022】
本発明で用いられるシランカップリング剤は、下記一般式(1)で示される化合物である。
【化1】

【0023】
式中、R及びRは、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピルといった炭素数1〜3のアルキル基であり、RとRは、互いに同一であっても異なっていてもよい。nは0、1、又は2であり、好ましくは0である。
【0024】
Xは結合基又は炭素数1〜3のアルキル基又はフェニレン基であり、好ましくはメチル、エチル、プロピルである。Yはビニル基、アリル基、アクリロキシ基、メタクリロキシ基等の炭素数2〜5のエチレン性不飽和結合含有基であり、好ましくはビニル基、アクリロキシ基又はメタクリロキシ基であり、より好ましくはメタクリロキシ基又はアクリロキシ基である。
【0025】
以上のような構成を有するシランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリイソプロポキシシラン、アリルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシランなどが挙げられ、これらのうち、特に3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシランが、含浸処理用ワニスとの接着力が高く、好ましい。
【0026】
このようなシランカップリング剤は、塗膜構成樹脂100質量部あたり1〜20質量部、好ましくは4〜15質量部含有される。
【0027】
本発明に係る最外層用ワニスは、以上のような塗膜構成樹脂、有機系潤滑剤、シランカップリング剤の他、さらに必要に応じて、顔料、染料、無機又は有機系フィラー等の各種添加剤を含有させた樹脂組成物を、有機溶剤に溶解することにより調製される。
【0028】
以上のような構成を有するワニスの硬化物は、潤滑剤の配合に基づいて、一般に絶縁皮膜に用いられている絶縁ワニスの硬化物と比べて動摩擦係数が低減されているだけでなく、ワニス含浸処理に用いられるワニスに対しても優れた接着力を有している。
【0029】
〔マグネットワイヤ〕
本発明のマグネットワイヤは、導体を被覆する絶縁層、さらにその絶縁層上に、上記最外層用ワニスの硬化物からなる最外層を有するものである。
【0030】
導体としては、銅線、アルミニウム線などの金属導体が用いられる。
【0031】
絶縁層は、1層又は2層以上で構成されており、導体と絶縁被膜の密着性を高めるためのプライマー層を含む2層以上の多層絶縁層が好ましく用いられる。
【0032】
絶縁層としては、一般に絶縁電線の絶縁被膜に用いられる絶縁ワニス、例えば、ポリエステル樹脂ワニス、ポリアミド樹脂ワニス、ポリイミド樹脂ワニス、ポリアミドイミド樹脂ワニス、ポリエステルイミド樹脂ワニス、ポリウレタン樹脂ワニス、エポキシ樹脂ワニスなど、従来公知の種々の絶縁ワニスの硬化物で構成され、マグネットワイヤの用途により適宜選択される。
【0033】
絶縁層は、絶縁ワニスを塗布、乾燥、焼付等により形成される。絶縁層の厚みは、導体を保護する観点から、5〜100μmが好ましく、より好ましくは10〜50μmである。絶縁被膜が分厚くなりすぎると、マグネットワイヤの外径が大きくなり、ひいてはマグネットワイヤを捲き線したコイルの占積率が低下する傾向にあるからである。
【0034】
次いで、絶縁層上に、上記最外層用ワニスを塗布、焼付ることにより、最外層が形成される。
最外層の厚みは、通常0.1〜5μm、好ましくは1〜3μmである。絶縁被膜の表層を形成できればよいので、この程度の厚みで十分だからである。
【0035】
本発明のマグネットワイヤは、本発明の目的を阻害しない範囲であれば、最外層表面に、さらに潤滑性を高めるために、流動パラフィン、スピンドル油、ベロサイト、冷凍機油、マシン油等の常温で液体の潤滑油をを塗布してもよい。
【0036】
以上のような構成を有するマグネットワイヤは、最外層を形成するワニスに含有されている潤滑剤に基づいて、動摩擦係数を低減させ、潤滑性を確保しつつ、さらに、理由は明らかではないが、特定構造を有するシランカップリング剤を含有することにより、含浸処理用ワニスとの接着性に優れている。従って、本発明のマグネットワイヤは、過酷な捲き線加工後にワニス含浸処理を行う、近年の小型高速化のモータのコイルに、好適に用いられる。
【0037】
含浸処理用ワニスとしては、溶剤型ワニス、無溶剤型ワニスのいずれを用いてもよく、また、ワニスの含浸処理方法としても、ドリップ法、ディップ法、回転ディップ法など、種々の含浸方法を適用できる。
含浸処理用ワニスとしては、一般に用いられる含浸処理用ワニスを適用することができ、特に限定されない。具体的には、不飽和ポリエステルイミド樹脂とスチレンモノマーの組み合わせ、フェノール樹脂、エポキシアクリレートなどを主成分とするワニスが用いられる。これらのうち、特にエチレン性不飽和結合を有している含浸処理用ワニスとの相性に優れている。マグネットワイヤの最外層に含まれるシランカップリング剤中のビニル基と含浸処理用ワニスに含まれるビニル基とが、加熱硬化時に反応して結合を形成することが可能であり、これにより絶縁被膜と含浸処理用ワニスとの接着力が高められることを期待できるからである。
【実施例】
【0038】
本発明を実施するための最良の形態を実施例により説明する。実施例は、本発明の範囲を限定するものではない。
【0039】
〔測定評価方法〕
はじめに、本実施例で行なった評価方法について説明する。
(1)含浸処理用ワニスとの接着力(含浸ワニス固着力)(N)
(1−1)40本束ね3点曲げ試験
マグネットワイヤを40本束ねたワイヤ束を含浸処理用ワニス(日東シンコー株式会社のニトロンV−830(不飽和ポリエステルイミド樹脂とスチレンモノマーの組み合わせ))に浸漬した後、160℃で30分間加熱することにより、硬化させた。
硬化させたワイヤ束を、45mm離間させた2点で支持し、その中央部分を5mm/minで、5mm押し込んだときの最大荷重(N)を記録した。荷重が大きいほど、マグネットワイヤ同士が、含浸処理用ワニスにより強固に固着されていること、すなわち、含浸処理用ワニスとの接着力が強いことを示す。
【0040】
(1−2)ストラッカコイル引き抜き試験
マグネットワイヤ7本を束ねて撚り、50mmの長さに切断した。
ワイヤ束の中央に位置するワイヤを引き抜き、代わりに、引き抜き試験用のワイヤを両側から挿通させ、中央で接合するようにし、図1に示すように、中央のワイヤ1が引き抜き試験用の掴み代1aとなっているワイヤ束2を作成した。
このワイヤ束2を、含浸処理用ワニス(日東シンコー株式会社のニトロンV−830(不飽和ポリエステルイミド樹脂とスチレンモノマーの組み合わせ))に浸漬し、160℃で30分間加熱することにより硬化させた。硬化後、両側の掴み代1a、1aをつかんで引っ張り試験を行い、中央ワイヤ1が引き抜かれたときの荷重(N)を記録した。引き抜き荷重が大きいほど、マグネットワイヤの固着力が強いこと、すなわち含浸処理用ワニスとの接着力が大きいことを示す。
【0041】
(2)動摩擦係数
マグネットワイヤ4本をそれぞれ1%伸長させ、各マグネットワイヤ同士を井桁状に直角に交差させ、その中央部分に質量1200gの錘を載せて、引っ張り試験機のオートグラフで引張力を3回測定してその平均値を求め、これを動摩擦係数とした。動摩擦係数が小さいほど、潤滑性に優れている。
【0042】
〔絶縁ワニスの調製〕
(1)汎用ポリアミドイミドワニス
温度計、冷却管、塩化カルシウム充填管、攪拌器および窒素吹き込み管が取り付けられた1L容のフラスコ内に、窒素吹き込み管から毎分150mLの窒素ガスを流しながら、無水トリメリット酸176.9g、トリメリット酸1.95gおよびメチレンジイソシネート(三井武田ケミカル(株)製、商品名:コスモネートPH)233.2gを投入した。 次に、このフラスコ内に、溶媒として、N−メチル−2−ピロリドン536gを添加し、攪拌器で攪拌しながら80℃で3時間加熱した後、約4時間かけて系内の温度を120℃まで消音し、同温度で3時間加熱した。その後、加熱を止め、フラスコ内にキシレン134gを添加して内容液を希釈した後、放冷し、不揮発分含量が35質量%である汎用ポリアミドイミドワニスを得た。
【0043】
(2)潤滑性ポリアミドイミドワニス
(1)で調製した汎用ポリアミドイミドワニスの固形分100質量部に対して、ポリエチレンワックス1.5質量部の割合で混合することにより、潤滑性ポリアミドイミド樹脂ワニスを調製した。
【0044】
(3)最外層用ワニス
(2)で調製した潤滑性ポリアミドイミドワニスに、表1に示すシランカップリング剤を、表1に示す量(ワニス固形分に対する量(phr))だけ配合して、No.1〜12の最外層用ワニスを調製した。
本実施例で用いたシランカップリング剤は、いずれも信越化学製である。
【0045】
〔マグネットワイヤの作製〕
No.1〜12:
径0.82mmに、汎用ポリアミドイミドワニスを数回繰り返し塗布し、焼きつけることにより、厚み32μmの絶縁層を形成し、その絶縁層上に、最外層用ワニスNo.1〜12を塗布、焼付することにより、各最外層用ワニスの硬化物からなる厚み2μmの最外層を形成して、No.1〜12のマグネットワイヤを作製した。
参考として、絶縁層上に、さらに、高潤滑ポリアミドイミドワニスを塗布、焼付することにより、厚み2μmの最外層を形成した、参考用のマグネットワイヤを作製した。
【0046】
作製した各マグネットワイヤについて、含浸処理用ワニスとの接着力、動摩擦係数を、上記評価方法に従って測定評価した。結果を表1に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
シランカップリング剤を含有する最外層を有するマグネットワイヤNo.1〜12は、いずれもシランカップリング剤を含有しない最外層を有するマグネットワイヤ(参考例)と比べて、コイル引き抜き試験による含浸ワニス固着力が高かった。
【0049】
しかしながら、ビニル基含有基を有するシランカップリング剤AまたはBを用いた最外層を有するマグネットワイヤNo.1〜6とビニル基含有基を有しないシランカップリング剤CまたはDを用いた最外層を有するマグネットワイヤNo.7〜12とを比べると、No.1〜6の方が含浸ワニス固着力が大きく、特に、3点曲げ試験による接着力では2倍以上の接着力を示した。一方、動的摩擦係数については、No.1〜12で大きな差異は認められず、潤滑特性に影響を与えることなく、含浸ワニス接着力を高めることができたことがわかる。
【0050】
さらにメタクリロキシ基を有するシランカップリング剤Aを4phr以上含有させた最外層を有するマグネットワイヤ(No.1〜3)を、シランカップリング剤を含有しない最外層を有するマグネットワイヤ(参考例)の含浸ワニス固着力と比べると、3点曲げ試験、コイル引き抜き試験の双方について、約3倍以上も高くなっており、他のシランカップリング剤を含有した最外層を有するマグネットワイヤ(No.4〜12)と比べても、3点曲げ試験では3倍近く高められていた。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明のマグネットワイヤは、表面が潤滑性に優れ、しかも含浸処理用ワニスとの接着力に優れているので、ワニス含浸処理が施されるモータのコイルに用いられるマグネットワイヤとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】実施例で行った測定評価方法を説明するための図である。
【符号の説明】
【0053】
1 中央ワイヤ
1a 掴み代
2 ワイヤ束

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体を被覆する絶縁被膜の最外層が、塗膜構成樹脂100質量部、融点50〜150℃の有機系潤滑剤1〜5質量部、および下記一般式(1)で示されるシランカップリング剤1〜30質量部含有するワニスの硬化物で構成されているマグネットワイヤ。
【化1】


(式中、R及びRは、それぞれ独立して炭素数1〜3のアルキル基、Oは酸素原子、Xは結合基又は炭素数1〜3のアルキル基又はフェニレン基、Yは炭素数2〜5のエチレン性不飽和結合含有基を示し、nは0、1または2である。)
【請求項2】
前記シランカップリング剤は、上記(1)式におけるn=0、Xが炭素数1〜3のアルキル基、Yがメタクリロキシ基又はアクリロキシ基である請求項1に記載のマグネットワイヤ。
【請求項3】
前記塗膜構成樹脂は、ポリアミドイミド樹脂である請求項1又は2に記載のマグネットワイヤ。
【請求項4】
前記有機系潤滑剤は、ポリエチレンワックスである請求項1〜3のいずれか1項に記載のマグネットワイヤ。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のマグネットワイヤを捲き線してなり、エチレン性不飽和結合を有する樹脂ワニスで含浸処理されたコイル。

【図1】
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