説明

マグネトロン駆動用電源

【課題】マグネトロンの管内放電によって生じる異常動作からインバータ回路を保護すること。
【解決手段】半導体スイッチ素子8と高圧トランス7を有する共振回路と高圧整流回路9を有し、半導体スイッチ素子8のオンオフにより、マグネトロン10に電力供給するインバータ回路1と、半導体スイッチ素子8のオンオフを制御する制御部11を備え、制御部11は半導体スイッチ素子8を駆動する駆動回路部13とオンオフのタイミングを制御するスイッチング制御部12とマグネトロン10の電流を検出する電流検出部14を有し、電流検出部14はマグネトロン10の電流が所定の値を超えるとスイッチング制御部12に動作停止指令を送信する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子レンジなどのマグネトロンを負荷とするマグネトロン駆動用電源に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のマグネトロン駆動用電源について図面を用いて説明する。図5は主に日本国内で販売されている所謂インバータ式電子レンジに搭載されている従来のマグネトロン駆動用電源の回路図である。
【0003】
従来のマグネトロン駆動用電源は交流である商用電源1を一旦ダイオードブリッジ2で直流電圧に変換し9の直流電圧を半導体スイッチ素子5のオンオフによってインバータ回路は高圧トランス6の1次巻線に高周波電圧を発生し、高圧トランス6は2次巻線に高周波高電圧を励起する。
【0004】
この高周波高電圧は高圧整流回路8によって直流高電圧に整流され、マグネトロン9に印加される。マグネトロン9はこの直流高電圧で駆動され、2.45GHzの電波を発生する。
【0005】
半導体スイッチ素子5には一般的にIGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)が使用され、この素子を数10kHzの高周波でスイッチング動作させることで高圧トランス6に高周波電圧を発生している。
【0006】
マグネトロン9を駆動するためには高圧整流回路8は4kV以上の高電圧を出力しなければならないが、このような高電圧を印加して動作するマグネトロン9ではまれにマグネトロン9内部で管内放電と呼ばれる短絡現象が発生する。この管内放電は非常に短い期間で発生する特徴があり、特に管内放電現象が解消する際に高圧整流回路8に正常な動作状態の電圧に対して、過大な電圧を発生することがある。
【0007】
従来のこの種のマグネトロン駆動用電源では半導体スイッチング素子を保護するために、半導体スイッチング素子の過電圧を検出する過電圧検出手段を設け、そのフィードバック信号によって半導体スイッチング素子のオンパルスを制御することで半導体スイッチング素子の耐圧保護を行っている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平7−135076号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、前記従来の構成では、下記説明のように、インバータ回路の共振動作が乱れ、フィードバック制御によって停止する場合もあったが、単発での異常発生を検出しにくい、また、管内放電の解消時に高圧整流回路8への高電圧印加を未然に防ぎきれないという課題を有していた。
【0010】
たとえば、半導体スイッチング素子のオン時またはオフ時いずれの状態で管内放電が発生することを事前に予測することは不可能である。
【0011】
インバータ回路の共振動作は、1次側に構成される共振回路と高圧トランスによって磁気的に結合された高圧整流回路、マグネトロンの負荷インピーダンスによって決定されるが、半導体スイッチ素子がオン/オフいずれの状態で管内放電などの異常動作が発生するかによって共振動作の乱れ方、すなわちインピーダンスの変化がことなり、共振電圧の変化度合いも異なる。
【0012】
このため、管内放電が発生するタイミング、時間によっては共振電圧の変化度合いも小さく異常動作を確実に検出することは非常に困難である。
【0013】
しかしながら、管内放電が起こると高圧整流回路では短絡電流が流れ、正常時に対して過大な電流が高圧整流回路内を流れることになる。このため、フィードバック制御によって異常動作を検出できずに管内放電が解消してしまうと過大な電流によって、高圧コンデンサが充電されるため、正常時に対して過大な電圧を充電してしまうため特に高圧ダイオードに重大な損傷を与えてしまう可能性がある。
【0014】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、マグネトロンの管内放電に起因する短絡電流を直接検知し、フィードバック制御することで、マグネトロンの管内放電を確実に検出し、インバータ回路を保護停止できるので、管内放電からの保護動作信頼性の向上を実現できるマグネトロン駆動用電源を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記従来の課題を解決するために、本発明のマグネトロン駆動用電源は、半導体スイッチ素子と高圧トランスを有する共振回路と高圧整流回路を有し、前記半導体スイッチ素子のオンオフにより、マグネトロンに電力供給するインバータ回路と、半導体スイッチ素子のオンオフを制御する制御部を備え、前記制御部は前記半導体スイッチ素子を駆動する駆動回路部とオンオフのタイミングを制御するスイッチング制御部と前記マグネトロンの電流を検出する電流検出部を有し、前記電流検出部は前記マグネトロンの電流が所定の値を超えると前記スイッチング制御部に動作停止指令を送信する構成としたものである。
【0016】
これによって、マグネトロンで発生する管内放電を電流検出部によって確実に検出する子ができるので、管内放電の発生によってインバータ回路、特に1次側の半導体スイッチング素子と2次側の高圧回路の損傷を確実に回避させることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明のマグネトロン駆動用電源によれば、マグネトロンの管内放電による異常電流を確実に検出し、半導体スイッチング素子や高圧回路などインバータ回路の損傷を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施の形態1におけるマグネトロン駆動用電源の構成図
【図2】本発明の実施の形態1における定常時のマグネトロンの動作波形図
【図3】本発明の実施の形態1における異常時のマグネトロンの動作波形図
【図4】異常時のマグネトロンの動作波形図の時刻T1における拡大図
【図5】従来のマグネトロン駆動用電源の構成図
【発明を実施するための形態】
【0019】
第1の発明は、半導体スイッチ素子と高圧トランスを有する共振回路と高圧整流回路を有し、前記半導体スイッチ素子のオンオフにより、マグネトロンに電力供給するインバータ回路と、半導体スイッチ素子のオンオフを制御する制御部を備え、前記制御部は前記半導体スイッチ素子を駆動する駆動回路部とオンオフのタイミングを制御するスイッチング
制御部と前記マグネトロンの電流を検出する電流検出部を有し、前記電流検出部は前記マグネトロンの電流が所定の値を超えると前記スイッチング制御部に動作停止指令を送信する構成としたものである。
【0020】
電流検出部によって所定値以上の電流を検出するとスイッチング制御部の動作を停止させるため、マグネトロンの管内放電による共振動作の異常が継続することがない。このため半導体スイッチ素子を過電圧による損傷から保護することができ、また、高圧回路の過負荷状態も最小限にとどめることが可能である。
【0021】
第2の発明は、電流検出部は抵抗体とこれに並列に接続されたツェナダイオードとホトカップラの直列接続体によって構成し、前記ホトカップラの出力によってスイッチング制御部に停止信号を送信する構成としたものである。
【0022】
高圧トランスによって電気的に異なる電位を持った1次側と2次側をホトカプラによって結合し、信号を伝送できるので、インバータの制御部に備えられたスイッチング制御部に直接停止信号を伝達することができ高速な応答を実現することができる。
【0023】
第3の発明は、電流検出部は抵抗体とこれに並列に接続されたバリスタとホトカップラの直列接続体によって構成し、前記ホトカップラの出力によってスイッチング制御部に停止信号を送信する構成としたものである。
【0024】
高圧トランスによって電気的に異なる電位を持った1次側と2次側をホトカプラによって結合し、信号を伝送できるので、インバータの制御部に備えられたスイッチング制御部に直接停止信号を伝達することができ高速な応答を実現することができる。
【0025】
第4の発明は、制御部に計時手段を設け、停止信号によってスイッチング動作を停止させてから前記計時手段によって所定時間を計測し、所定の時間経過後に再度インバータ回路の動作を再スタートさせる構成としたものである。
【0026】
計時手段によって所定時間後に再起動するため、ノイズなどによって電流検出回路が万が一反応してしまった場合でも速やかに再起動して正常な発振を再開できるので、加熱不良などの不具合を回避することができる。
【0027】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0028】
図1は、本発明の実施の形態におけるマグネトロン駆動用電源の構成図である。
【0029】
図1において、インバータ回路1は商用電源2から得られる交流電圧をダイオードブリッジ3によっていったん単方向電圧に整流し、チョークコイル4、平滑コンデンサ5で構成される平滑回路で平滑している。
【0030】
この平滑回路は商用電源の周波数である60Hzあるいは50Hzに対しては電圧を維持し平滑する能力は持たず、インバータ回路1のスイッチング周波数に対して直流電圧を保持できる程度の平滑能力として回路の小型化を果たしている。
【0031】
また、共振コンデンサ6と高圧トランス7で構成される共振回路を半導体スイッチ素子8のオンオフによって励振することで高圧トランス7の2次側に高周波高電圧を誘起する。
【0032】
高圧整流回路9はこの高周波高電圧を整流しマグネトロン10に直流高電圧を供給し、マグネトロン10はこの直流高電圧によって2450MHzのマイクロ波を発生するように構成されている。
【0033】
また、制御部11は半導体スイッチ素子8のオンオフのタイミングを制御するスイッチング制御部12と半導体スイッチ素子8を駆動する駆動回路部13を有しており、駆動回路部13はスイッチング制御部12の出力するパルス列に基づいて半導体スイッチ素子8をオンオフする。
【0034】
電流検出部14はマグネトロン10の電流を検出するように高圧整流回路9とアース接続部の間に装着されている。電流検出部14は抵抗体14aとこれに並列に接続されたツェナダイオード14bとホトカップラ14cの発光側の直列体によって構成され、過電流が生じた際にホトカップラ14cを通して信号を伝達するように構成されている。
【0035】
以上のように構成されたマグネトロン駆動用電源について、以下その詳細な動作、作用を説明する。
【0036】
図2はインバータ回路1が正常な状態におけるマグネトロン10の印加電圧Vakおよび通過電流Iaを示した図である。交流周期に対する動作電圧の変化を示すため交流電圧波形Vacを加えて図面に示している。前述のようにインバータ回路の入力に備えられた平滑回路は商用電源2の電圧を平滑する能力を持たせていない。
【0037】
このためインバータ回路1の入力電圧は商用電源2の電圧に同期して変動する。半導体スイッチ素子8によって励振される共振回路はこの変動する電圧によって変動し、結果として高圧トランス7の出力電圧もおのずと変動し、マグネトロン10の印加電圧も商用電源2の電圧が低い期間では昇圧が不足し、マグネトロン10の発振が停止している。
【0038】
図3はインバータ回路1の動作中にマグネトロン10で管内放電を生じた際のマグネトロン10の印加電圧Vakと通過電流Iaを示した図である。時刻T1においてマグネトロン10において管内放電を起こしたことを想定している。
【0039】
マグネトロン10が管内放電を起こすとマグネトロン10の両端が単純に短絡した状態と同じ回路状態となるため、高圧整流回路9に蓄えられた負の高電圧が一気に短絡電流として流れてしまう。
【0040】
このため、管内放電が発生した直後は短絡電流として過大な電流が高圧整流回路9から電流検出部14を通過していく。図4は図3の時刻T1における波形を拡大した波形図である。管内放電は瞬間的に状態が遷移するためマグネトロン10の印加電圧はほぼ瞬間的に0に変化し、電流は過渡的に数十Aにもおよぶ非常に大きな電流となる。
【0041】
この短絡電流が電流検出部14の抵抗体14aを流れると電圧降下を起こし、抵抗体14aの両端に電圧を生じる。
【0042】
この電圧が並列に接続されたツェナダイオード14bの動作電圧を超えるとツェナダイオード14bとホトカップラ14cの発光ダイオードの直列回路に電流が流れて、ホトカプラ14cの受光側に信号が伝達される。この信号は制御部11のスイッチング制御部12に伝達され半導体スイッチ素子8のスイッチング動作を即座に停止させる。
【0043】
このように動作することで管内放電が発生した瞬間にこれを検出し、インバータ回路1の動作を停止するので管内放電による異常動作が継続することなく、また、管内放電の発
生した瞬間を直接捉えることができるのでフィードバック制御の遅れ時間を最小限にとどめ管内放電現象が解消する前にインバータ回路の動作を停止し、高圧整流回路への過大電圧印加を未然に防ぐことが可能になる。
【0044】
また、計時手段15は電流検出部14によって異常電流を検出し、インバータ回路1のスイッチング動作を停止させてからの経過時間を計測している。この計測時間が所定の時間を超過すると、いったん異常停止の状態を解除し、インバータ回路1を再び起動させ、スイッチング動作を再開させる。マグネトロン10の異常状態が解消されていれば正常な発振状態を継続し、加熱動作を継続することができる。
【0045】
このように構成しておくことで不測の事態によるノイズの混入によって電流検出部が作動し、保護動作をしてしまっても再度インバータ回路1を起動させることができるので加熱不良などの問題を起こすことがない。
【産業上の利用可能性】
【0046】
以上のように、本発明にかかるマグネトロン駆動用電源はマグネトロンの管内放電による異常電流を検出し、インバータ回路およびマグネトロンの損傷を防止するマグネトロン駆動電源を提供できるので、電子レンジで代表されるような誘電加熱を利用した加熱装置や生ゴミ処理機、あるいは半導体製造装置であるプラズマ電源のマイクロ波電源などの用途にも適用できる。
【符号の説明】
【0047】
1 インバータ回路
7 高圧トランス
8 半導体スイッチ素子
9 高圧整流回路
10 マグネトロン
11 制御部
12 スイッチング制御部
13 駆動回路部
14 電流検出部
14a 抵抗体
14b ツェナダイオード
14c ホトカプラ(発光側)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体スイッチ素子と高圧トランスを有する共振回路と高圧整流回路を有し、前記半導体スイッチ素子のオンオフにより、マグネトロンに電力供給するインバータ回路と、半導体スイッチ素子のオンオフを制御する制御部を備え、前記制御部は前記半導体スイッチ素子を駆動する駆動回路部とオンオフのタイミングを制御するスイッチング制御部と前記マグネトロンの電流を検出する電流検出部を有し、前記電流検出部は前記マグネトロンの電流が所定の値を超えると前記スイッチング制御部に動作停止指令を送信する構成としたマグネトロン駆動用電源。
【請求項2】
電流検出部は抵抗体とこれに並列に接続されたツェナダイオードとホトカップラの直列接続体によって構成し、前記ホトカップラの出力によってスイッチング制御部に停止信号を送信する構成とした請求項1に記載のマグネトロン駆動用電源。
【請求項3】
電流検出部は抵抗体とこれに並列に接続されたバリスタとホトカップラの直列接続体によって構成し、前記ホトカップラの出力によってスイッチング制御部に停止信号を送信する構成とした請求項1に記載のマグネトロン駆動用電源。
【請求項4】
制御部に計時手段を設け、停止信号によってスイッチング動作を停止させてから前記計時手段によって所定時間を計測し、所定の時間経過後に再度インバータ回路の動作を再スタートさせる構成とした請求項2または3に記載のマグネトロン駆動用電源。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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