説明

マグロ属魚類を飼育するための飼餌料、マグロ属魚類の飼育方法、及び当該飼餌料の製造方法

【課題】摂餌行動を高く誘引するマグロ属魚類を飼育するための飼餌料と、それを利用するマグロ属魚類の飼育方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る飼餌料は、マグロ属魚類を飼育するための飼餌料であって、外部から視認可能な表面に、490〜640nmを主波長とする光を反射するまたは発する領域を含んでいるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグロ属魚類を飼育するための飼餌料、マグロ属魚類の飼育方法、及び当該飼餌料の製造方法に関するものであって、特に、特定の色を持つ飼餌料と、当該飼餌料を給餌するマグロ属魚類の飼育方法、及び当該飼餌料の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
2002年、近畿大学水産研究所により、世界で初めて太平洋クロマグロの完全養殖の達成が報告された。マグロ属魚類の完全養殖が他の魚類の完全養殖と比較して格段に難しいことは、当業者らによって十分に知られているところであるが、近畿大学水産研究所は、完全養殖を含むマグロ属魚類の飼育を人為的に行なうことができる、世界に類を見ない、優れた技術を持っている。
【0003】
これまで、近畿大学水産研究所は、その優れた飼育技術を駆使して、マグロ属魚類の摂餌誘引物質と人工配合飼料(特許文献2)、人工配合飼料(特許文献3)、人工配合飼料と飼育方法(特許文献4)、魚類に含まれる水銀量の評価方法及び養殖魚の生産方法(特許文献5)、及び水銀含量の少ない魚の飼育方法(特許文献6)を発明してきた。
【0004】
ところで、魚類用の飼料の色として、例えば、特許文献1には、摂餌を誘引する色を有する養魚用飼料が開示されている。従来、クロマグロ、ブリ、またはカンパチ等の魚食性の強い魚類は、人工配合飼料よりも生餌を好んで摂食することが知られているが、特許文献1には、当該魚類に対して、藍色から青色系、または白色系の表面色を有する当該魚類用飼料を与えると、生餌と同等以上の摂餌性を示したことが開示されている。
【特許文献1】特開平17−52030号公報(平成17(2005)年3月3日公開)
【特許文献2】特開平18−223164号公報(平成18(2006)年8月31日公開)
【特許文献3】特願平18−341897(平成18(2006)年12月19日出願)
【特許文献4】特願平19−58393(平成19(2007)年3月8日出願)
【特許文献5】特開平19−225582号公報(平成19(2007)年9月6日公開)
【特許文献6】特開平19−222150号公報(平成19(2007)年9月6日公開)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のように、マグロ属魚類は、人工配合飼料に対する嗜好性が低いことから、一般的には生餌を与えて飼育するのであるが、生餌の種類を変えると容易には転換しない(餌付かない)。そのため、より活発に、マグロ属魚類の摂餌行動を誘引する飼餌料の開発が求められていた。
【0006】
また、魚類の中でもマグロ属魚類が、どのような色の飼餌料を好んで摂餌するのかという点については、明らかにされていなかった。例えば、飼餌料をマグロ属魚類に与える際に、水中におけるマグロ属魚類の実際の摂餌行動について検討された例はない。また、当該摂餌行動を指標にして、マグロ属魚類が好む色について検討した例もない。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、摂餌行動を高く誘引するマグロ属魚類用の飼餌料と、それを利用するマグロ属魚類の飼育方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討した。具体的には、近畿大学水産研究所が所有する、マグロ属魚類飼育技術を用いて、水中におけるマグロ属魚類の行動を、魚類行動学的に観察した。その結果、どのような色が、マグロ属魚類の摂餌行動を高く誘引するかを見出した。これにより、当該色を有する飼餌料がマグロ属魚類の摂餌率を高め、マグロ属魚類の飼育技術をさらに向上させることが可能になった。本発明はこの全く新たな知見に基づいてなされたものであり、以下の発明を包含している。
【0009】
即ち、上記課題を解決するために、本発明に係る飼餌料は、マグロ属魚類を飼育するための飼餌料であって、外部から視認可能な表面に、490〜640nmを主波長とする光を反射するまたは発する領域を含むことを特徴としている。
【0010】
また、本発明に係る飼餌料は、上記領域の色が、朱色、鉛丹色、金赤、黄丹、赤橙、柿色、黄赤、橙色、こうじ色、蜜柑色、卵色、山吹色、ひまわり色、うこん色、黄色、たんぽぽ色、中黄、刈安色、きはだ色、ひわ色、黄緑、苔色、若草色、萌黄、草色、若葉色、松葉色、白緑、緑、常磐色、緑青色、千歳緑、深緑、もえぎ色、若竹色、チャイニーズレッド、キャロットオレンジ、オレンジ、マンダリンオレンジ、エクルベイジュ、ゴールデンイエロー、マリーゴールド、クロムイエロー、イエロー、ジョンブリアン、カナリヤ、レモンイエロー、シャトルーズグリーン、リーフグリーン、シーグリーン、アイビーグリーン、アップルグリーン、ミントグリーン、グリーン、コバルトグリーン、エメラルドグリーン、マラカイトグリーン、ボトルグリーン、フォレストグリーン、及びビリジアンから選ばれる少なくとも一つであることを特徴としている。
【0011】
また、本発明に係る飼餌料は、上記マグロ属魚類は、クロマグロであることが好ましい。
【0012】
また、本発明に係るマグロ属魚類の飼育方法は、本発明に係る飼餌料をマグロ属魚類に給餌することを特徴としている。
【0013】
また、本発明に係るマグロ属魚類を飼育するための飼餌料の製造方法は、マグロ属魚類を飼育するための飼餌料を、490〜640nmを主波長とする光を反射する物質または当該光を発する物質により着色することを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る飼餌料は、以上のように、マグロ属魚類を飼育するための飼餌料であって、外部から視認可能な表面に、490〜640nmを主波長とする光を反射するまたは発する領域を含んでいるので、マグロ属魚類の摂餌行動を高く誘引することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明にかかる一実施形態について説明すると以下の通りであるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0016】
<I.飼餌料>
本発明に係る飼餌料は、マグロ属魚類を飼育するための飼餌料であって、外部から視認可能な表面に、490〜640nmを主波長とする光を反射するまたは発する領域を含むものである。
【0017】
本明細書において「マグロ属魚類」とは、分類学的に、サバ科のマグロ属(Thunnus)に含まれる魚類を意味する。上記マグロ属魚類としては、マグロ属の魚類である限り限定されるものではないが、例えば、太平洋クロマグロ(Thunnus orientalis)、大西洋クロマグロ(Thunnus thynnus)、キハダマグロ(Thunnus albacares)、メバチマグロ(Thunnus obesus)、ビンナガマグロ(Thunnus alalunga)、ミナミマグロ(Thunnus maccoyii)、コシナガマグロ(Thunnus tonggol)、及びタイセイヨウマグロ(Thunnus atlanticus)が例示できる。なお、本明細書において「クロマグロ」とは、「太平洋クロマグロ」及び「大西洋クロマグロ」を総称して扱う。本発明の飼餌料は、特にクロマグロに対して好適に使用できる。
【0018】
飼餌料とは、人工配合飼料及び生餌(死に餌及び活餌)を意味し、その具体的な態様としては、特に限定されるものでない。
【0019】
本明細書において「外部から視認可能な表面」とは、飼餌料を外側から目視できる飼餌料の表面を意味する。以下、説明の便宜のため、単に「表面」ということもある。
【0020】
本発明に係る飼餌料の表面は、490〜640nmを主波長とする光を反射するまたは発する領域を有している。なお、当該光の主波長は、この範囲内であれば特に限定されない。このような範囲における波長の光としては、例えば、日本工業規格(JIS)で規定しているJIS慣用色名で表わすと、以下の通りである。すなわち、朱色(6R 5.5/14(マンセル値))、紅緋(6R 5.5/14)、鉛丹色(7.5R 5/12)、金赤(9R 5.5/14)、黄丹(10R 6/12)、赤橙(10R 5.5/14)、柿色(10R 5.5/12)、黄赤(2.5YR 5.5/13)、橙色(5YR 6.5/13)、こうじ色(5.5YR 7.5/9)、蜜柑色(6YR 6.5/13)、卵色(10YR 8/7.5)、山吹色(10YR 7.5/13)、ひまわり色(2Y 8/14)、うこん色(2Y 7.5/12)、黄色(5Y 8/14)、たんぽぽ色(5Y 8/14)、中黄(5Y 8.5/11)、刈安色(7Y 8.5/7)、きはだ色(9Y 8/8)、ひわ色(1GY 7.5/8)、黄緑(2.5GY 7.5/11)、苔色(2.5GY 5/5)、若草色(3GY 7/10)、萌黄(4GY 6.5/9)、草色(5GY 5/5)、若葉色(7GY 7.5/4.5)、松葉色(7.5GY 5/4)、白緑(2.5G 8.5/2.5)、緑(2.5G 6.5/10)、常磐色(3G 4.5/7)、緑青色(4G 5/4)、千歳緑(4G 4/3.5)、深緑(5G 3/7)、もえぎ色(5.5G 3/5)、若竹色(6G 6/7.5)、チャイニーズレッド(10R 6/15)、キャロットオレンジ(10R 5/11)、オレンジ(5YR 6.5/13)、マンダリンオレンジ(7YR 7/11.5)、エクルベイジュ(7.5YR 8.5/4)、ゴールデンイエロー(7.5YR 7/10)、マリーゴールド(8YR 7.5/13)、クロムイエロー(3Y 8/12)、イエロー(5Y 8.5/14)、ジョンブリアン(5Y 8.5/14)、カナリヤ(7Y 8.5/10)、レモンイエロー(8Y 8/12)、シャトルーズグリーン(4GY 8/10)、リーフグリーン(5GY 6/7)、シーグリーン(6GY 7/8)、アイビーグリーン(7.5GY 4/5)、アップルグリーン(10GY 8/5)、ミントグリーン(2.5G 7.5/8)、グリーン(2.5G 5.5/10)、コバルトグリーン(4G 7/9)、エメラルドグリーン(4G 6/8)、マラカイトグリーン(4G 4.5/9)、ボトルグリーン(5G 2.5/3)、フォレストグリーン(7.5G 4.5/5)、及びビリジアン(8G 4/6)が例示できる。
【0021】
また、上記のうち、さらに好ましい色としては、黄緑、苔色、若草色、萌黄、草色、若葉色、松葉色、白緑、常磐色、緑青色、千歳緑、深緑、もえぎ色、若竹色、チャイニーズレッド、キャロットオレンジ、オレンジ、マンダリンオレンジ、エクルベイジュ、ゴールデンイエロー、マリーゴールド、クロムイエロー、イエロー、ジョンブリアン、カナリヤ、レモンイエロー、シャトルーズグリーン、リーフグリーン、シーグリーン、アイビーグリーン、アップルグリーン、ミントグリーン、グリーン、コバルトグリーン、エメラルドグリーン、マラカイトグリーン、ボトルグリーン、フォレストグリーン、ビリジアンが挙げられる。
【0022】
このように、飼餌料の表面が490〜640nmを主波長とする光を反射するまたは発する領域を含むことにより、後述する実施例に示すように、本発明に係る飼餌料は、マグロ属魚類を飼育するために用いられている従来公知の飼餌料に比べて、マグロ属魚類の摂餌行動をより高く誘引する。
【0023】
また、490〜640nmの範囲を主波長とする色の物質としては、魚類及び人間に害を与えない限り限定されるものではないが、例えば、アナトー、カロテノイド、及びカロテノイド色素等により構成される、ベニノキ科ベニノキ由来のアトナー色素、クルクミン及びターメリック等により構成される、ショウガ科ウコン由来のウコン色素、アルファルファ、コーン、サツマイモ、ディナリエラ藻、ニンジン、及びトマト等の緑黄植物または野菜由来のカロテンにより構成されるカロテン色素、クロシンやケルセチンにより構成される、アカネ科クシナシ由来のクチナシ黄色素、昆虫カイガラムシ由来のコチニール色素及びラック色素、食用黄色4号、食用黄色5号、または食用緑色3号等の食用タール系色素、植物由来葉緑素または銅クロロフィル等のクロロフィル色素、モナスコルブリン及びアンカワラビンにより構成される、ベニコウジ菌の培養物由来のベニコウジ色素、サフロミン(カーサマスイエロー)というフラボノイド系により構成される、キク科ベニバナ由来のベニバナ色素、キサントフィルにより構成される、キク科マリーゴールド由来のマリーゴールド色素、ヤシ科アブラヤシ由来のパーム油カロテン、及びカロテノイド系のカプサンチン類により構成される、ナス科トウガラシ由来のトウガラシ色素等が例示できる。
【0024】
また、クチナシ果実抽出物由来の青色色素とベニコウジ由来の黄色色素とを調合して得られる色素、クチナシ果実抽出物由来の青色色素とベニバナ由来の黄色色素とを調合して得られる色素、及びクチナシ果実より抽出した黄色色素と食用酵素を作用させた青色色素とを調合して得られる色素であってもよい。さらに、上記色素を混合して得られる色素、pH調整をして得られる色素、水溶性アナトーまたはβ−カロテン等の合成色素、及び鉱物由来の色素等も挙げられる。
【0025】
また、490〜640nmを主波長とする光を反射するまたは発する領域は、飼餌料の表面の一部であってもよく、全部であってもよいが、全表面の30%以上100%以下であることが好ましく、全部(100%)であることがより好ましい。
【0026】
本発明に係る飼餌料の一実施形態において、例えば、従来公知の飼餌料が、上述の490〜640nmを主波長とする光を反射する物質でコーティングされたものであってもよい。例えば、従来公知の飼餌料が当該波長の光を反射する色素によりコーティングされたもの、または塗布されたものであってもよい。
【0027】
また、本発明に係る飼餌料の一実施形態は、490〜640nmを主波長とする光を反射する物質と従来公知の飼餌料とを混合した混合物であって、その表面に490〜640nmを主波長とする光を反射するまたは発する領域が形成されたものであってもよい。例えば、表面が当該波長の光を反射するように従来公知の人工配合飼料及び生餌を組み合わせものであってもよく、当該波長の光を反射するように従来公知の人工配合飼料及び生餌に着色料を加えて調整したものであってもよい。また、予め、当該表面色を有するマグロ以外の魚類に対する従来公知の飼餌料も、マグロ属魚類の飼餌料として用いることができ、かかる飼餌料も本発明に係る飼餌料の一実施形態である。
【0028】
また、490〜640nmを主波長とする光を発する領域では、490〜640nmを主波長とする光が発せられていればよく、例えば、光を反射する物質が490〜640nmを主波長とする光を透過する物質で包み込まれた飼餌料、490〜640nmを主波長とする光を反射する物質が、透明な物質で包み込まれた飼餌料等が挙げられる。このとき、包み込む物質の表面に、490〜640nmを主波長とする光を発する領域が形成される。
【0029】
例えば、後述する生餌として例示したネクトン、プランクトン及びベントス型の生活史を有する水棲生物には、体色が透明または半透明のため、体内(消化器官等)が透けて見えるものもいる。そのため、例えば、当該生物の中に490〜640nmを主波長とする光を反射する物質を入れたものは、本発明に係る飼餌料の一実施形態である。例えば、本発明に係る飼餌料は、当該生物の表面が490〜640nmを主波長とする色になるように、人工配合飼料、生餌、栄養強化剤及び色素等の物質をそれら生物に与えて取り込ませて得られたものであってもよい。こうすることで、これらの物質の周囲の物質が490〜640nmを主波長とする光を透過する。即ち、飼餌料の表面には、490〜640nmを主波長とする光を発する領域が形成される。よって、マグロ属魚類は、飼餌料の表面から発せられる当該波長の光の透過光を認識することによって、摂餌行動が誘引される。
【0030】
ここでは、490〜640nmを主波長とする光を発する領域を、当該波長の光を反射する領域を透明の物質等で包み込むことにより実現する形態について説明したが、これに限定されない。例えば、本発明に係る飼餌料は、発光物質が透明の物質で包み込まれて、当該物質の表面から490〜640nmを主波長とする光を発するものであってもよい。このような発光物質としては、従来公知の発光タンパク質が挙げられる。また、自ら発光はしないが、自然光等の励起波長によって、蛍光を発するものとして、ビタミンB類(リボフラビン類)が挙げられる。このビタミンB類は、波長445nm付近の光によって励起され、530nm付近の蛍光を発する。なお、ビタミンB類等のように、自らは発光しないが、自然光の励起等により蛍光を発する物質を包含させた飼餌料を用いて、マグロ属魚類を飼育する場合、常に励起波長を主波長に持つ光の下で飼育してもよく、また給餌時に当該光源を点灯してもよい。
【0031】
なお、上記の色の波長を測定する方法としては、例えば、分光測色計(CM−3700d、コニカミノルタ社製)等を用いて測定できる。また、上記色を測定する方法としては、波長を測定する以外に、例えば色彩色差計及び、該色彩色差計の原理を利用したコンピューター処理等が挙げられる。なお、本発明に係る飼餌料の表面の色として好ましい色のL***値(後述する実施例に記載のコンピューター処理ソフトを用いて測定)を例示すると、橙色;L*84.063 a*6.995 b*54.551、黄色;L*96.479 a*-25.772 b*93.746、緑色;L*92.856 a*-26.121 b*83.472である。
【0032】
本発明に係る飼餌料は、表面に490〜640nmを主波長とする光を反射するまたは発する領域が存在する範囲で、従来公知の人工配合飼料原料、生餌等が混合されていてもよい。
【0033】
人工配合飼料原料としては、マグロ属魚類を飼育するための飼餌料の原料である限り限定されるものではないが、例えば、マイワシ(Sardinops melanostictus)、カタクチイワシ(Engraulis japonicus)、アンチョビー(ニシン目カタクチイワシ科(Engraulidae)に属する)等のイワシ類、マサバ(Scomber japonicus)、ゴマサバ(Scomber australasicus)等のサバ類、マアジ(Trachurus japonicus)、マルアジ(Decapterus maruadsi)のアジ類、大西洋ニシン(Clupea harengus)等ニシン類の魚粉、または市販の酵素処理魚粉BIO−CP(商品名:BIO−CP/ナガセ生化学品販売(株))を用いることができる。また、イカミール、エビミール、大豆粕、カゼイン、及びコーングルテン等の動物性・植物性蛋白源を併用し、動物性・植物性中性脂質、動物性・植物性リン脂質、スターチ、セルロース、ビタミン混合物、及びミネラル混合物等と配合しても良い。また、これらの魚粉及び動物性・植物性蛋白源は、1種を単独で用いてもよいし、複数種の魚粉と動物性・植物性蛋白源とを組み合わせて、動物性・植物性中性脂質、動物性・植物性極性脂質、スターチ、セルロース、ビタミン混合物、及びミネラル混合物等と共に用いてもよい。動物性・植物性の中性脂質及び極性脂質としては、サケ類、アジ類、ニシン類、イカ類、カツオ類、マグロ類、タラ類、大豆、菜種、アマニ、コーン、綿実、及びヒマワリ等由来のものが例示できる。
【0034】
また、上記生餌としては、マグロ属魚類が摂餌できる限り限定されるものではないが、例えば、動物性プランクトン、魚類、甲殻類、カイアシ類等のネクトン、プランクトン、及びベントス型の生活史を有する水棲生物が例示できる。また、例えば、動物性プランクトンとしては、例えば、ワムシ(Brachionus plicatilis sp.complex)、及びアルテミア(Artemia sp.)が例示でき、魚類としては、魚類仔魚、イカナゴ類、小魚混合物(乾燥前のちりめんじゃこ等)、アジ類、サバ類、及びイカ類等が例示できる。なお、人工配合飼料及び生餌へ添加する、配合物及び添加物の種類は、特に限定されるものではないが、以下に説明する波長の色の発色を妨げないものが望ましい。
【0035】
なお、上述した従来公知の人工配合飼料の表面色は、茶色系、ワムシの体色は無色(透明)、またアルテミアの体色は茶色系、赤色系、及び桃色系の色を有している。また、魚介類はいずれも無色、白系、青色系、または茶色系であり、上記生餌をミンチ及び乾燥物とした場合は、白色系、灰色系、または茶色系の色を有している。そのため、これらの人工配合飼料及び/または生餌を本発明に係る飼餌料に混合するときは、上述した490〜640nmを主波長とする色の物質で表面の一部または全部を覆うことが好ましい。このように、表面に特定の波長の色の領域を含む飼餌料を用いれば、従来公知の他の飼餌料に比べて、マグロ属魚類の摂餌行動をより高く誘引するということは、これまで全く報告の無かった新たな知見である。
【0036】
本発明に係る飼餌料の形態は、マグロ属魚類に摂餌できる形態であれば、特に限定されるものではないが、人工配合飼料では、例えば、ミンチ、モイストペレット(オレゴンモイストペレットを含む)、ドライペレット(エクストルーデッドペレットを含む)、カマボコ状配合飼料、及びソーセージ状配合飼料(例えば、SFF、sausage formula feed)等にしてもよく、当該表面色を有する本発明に係る生餌をミンチ等にしてもよい。さらに、粉末状、ペースト状、タブレット状、顆粒状、及びカプセル状等のマグロ属魚類が経口的に摂取可能な形状物が包含され得る。どのような形態であっても、その外観が上述の特定の波長を反射する、または発する領域を表面に含むことによって、マグロ属魚類の摂餌行動を誘引することができる。
【0037】
また、後述する実施例に示すように、本発明に係る飼餌料は、その表面が鏡面光沢を有していることによって、従来公知の飼餌料と比較して、マグロ属魚類の摂餌行動をさらに高く誘引することができる。例えば、上記範囲を主波長とする光を有する色に、鏡面光沢をさらに加えることによって、マグロ属魚類の摂餌行動をより高く誘引することができる。
【0038】
また、マグロ属魚類用の飼餌料として生餌を用いた場合、魚介類の眼球がマグロ属魚類の摂餌を誘引することが分かっている。魚介類の眼球は、中心部は黒色であり、その周囲は白色を有している。したがって、本発明に係る飼餌料は、その表面に上記範囲を主波長とする光を有し、黒色及び白色のうち少なくとも一方の領域をさらに含むことによって、また、好ましくは、黒色の領域を白色が囲った領域をさらに含むことによって、マグロ属魚類の摂餌行動をさらに高く誘引することができる。なお、JIS慣用色名によると、例えば、上記黒色は、黒茶(2.5YR 2/1.5)、墨(N2)、黒(N1.5)、鉄黒(N1.5)、ランプブラック(N1)、及びブラック(N1)として表わすことが可能である。また、上記白色は、白(N9.5)、ホワイト(N9.5)、スノーホワイト(N9.5)として表わすこともできる。なお、L*a*b*表色系でいえば、上記黒色としてはL*が0に近ければ近いほど好ましく、上記白色としてはL*が100に近ければ近いほど好ましい。なお、上記黒色を作製する方法としては食用赤色、食用黄色、及び食用青色を適宜混合することで作ることができる。また、植物炭末色素、イカ類及びタコ類等の頭足類の墨、魚介類のメラニン色素、または墨等を使用してもよい。上記白色を作製する方法としては、酸化チタンや飼餌料原料としてのスターチ、セルロース等を単独で用いてもよく、または適宜混合してもよい。
【0039】
ここで、上記「摂餌行動」とは、魚類の定位行動、及び捕食行動を合わせた一連の行動を意味する。具体的には、マグロ属魚類は餌を捕食する際に、まず当該餌に対して定位し、その後捕食するという一連の行動を示すため、これらを合わせて摂餌行動とする。すなわち、定位しなければ捕食することはできないため、捕食するためには定位する必要がある。
【0040】
以上のように、本発明に係る飼餌料は、マグロ属魚類の摂餌行動を高く誘引するように、外部から視認可能な表面に、490〜640nmを主波長とする光を反射する、または発する領域を含んでいる。このため、摂餌率を向上させ、さらには高い成長率と生存率を有するマグロ属魚類を飼育することができる。また、クロマグロをはじめとするマグロ属魚類の育種分野、マグロ属魚類を用いる食品分野、または医薬品分野等に広く応用することができる。なお、「摂餌率」とは、以下の数式(1)または(2)
摂餌率(%)=100×(与えた飼餌料量−食べ残された飼餌料量)/与えた飼餌料量・・・(1)
摂餌率(%)=100×摂取された飼餌料量/与えた飼餌料量・・・(2)
のいずれで求めてもよい。
【0041】
<II.本発明に係るマグロ属魚類を飼育するための飼餌料の製造方法>
本発明に係るマグロ属魚類を飼育するための飼餌料の製造方法は、マグロ属魚類を飼育するための飼餌料を、490〜640nmを主波長とする光を反射する物質または当該光を発する物質により着色すればよい。
【0042】
光を反射する物質または当該光を発する物質で着色する方法としては、特に限定されない。例えば、従来公知の飼餌料の表面に、上記波長の光を反射または発する色素をコーティング、または塗布することによって着色してもよい。
【0043】
また、従来公知の人工配合飼料及び生餌を組み合わせたり、従来公知の着色料を加えたりして、表面に当該波長の色の領域が形成されるように調製してもよい。
【0044】
また、体色が透明または半透明のため、体内(消化器官等)が透けて見えるような水棲生物に、表面が490〜640nmを主波長とする光を反射するように調製された人工配合飼料、生餌、栄養強化剤及び色素等の物質、または上述の発光物質を与えて取り込ませることで、飼餌料を着色してもよい。このような場合、これらの物質の周囲の物質が490〜640nmを主波長とする光を透過することにより、飼餌料の表面から発せられる当該波長の光の透過光を認識することによって、マグロ属魚類の摂餌行動が誘引される。また、従来公知の色の波長の測定方法を用いて、表面の色の波長を測定しながら調整すれば、当業者はこのような透明または半透明の水棲生物を用いて本発明に係る飼餌料を調製できる。
【0045】
<III.マグロ属魚類の飼育方法>
本発明に係るマグロ属魚類の飼育方法は、上記本発明に係る飼餌料をマグロ属魚類に給餌すればよい。本発明に係るマグロ属魚類の飼育方法は、上記本発明に係る飼餌料をマグロ属魚類に給餌するので、マグロ属魚類の摂餌行動を高く誘引することができる。
【0046】
本発明に係るマグロ属魚類の飼育方法としては、上記本発明に係る飼餌料をマグロ属魚類に給餌する工程を含んでいる限り、特に限定されるものではないが、例えば、飼育装置、上記飼餌料の種類及び給餌量、給餌間隔、飼育温度、及び溶存酸素濃度等の飼育条件は、従来公知の飼育条件を用いることができる。
【実施例】
【0047】
<クロマグロの色選択性>
(1)供試魚の飼育方法、及び色選択性の確認方法
本実施例では、近畿大学水産研究所において、15,000L容コンクリート水槽に収容されている、人工種苗生産された太平洋クロマグロの稚魚を供試魚とした。
【0048】
試験試料としては、無色(透明)、紺色、青色、緑色、黄色、橙色、桃色、及び赤色の計8色の樹脂性ビーズを用いて、1個ずつ水中へ投入した。飼育環境は特許文献4に準じ、試験期間中の水温は26〜27℃、溶存酸素飽和度は100〜110%に設定した。
【0049】
なお、本実施例において使用したビーズの色の指標として、デジタルカメラ(Panasonic社製,DMC−FX07)でデジタル画像として取り込み、コンピューター処理ソフト(フリーウェアhttp://www.pleasuresky.co.jp/tradcol.php3、[online][2008年2月20日検索]色彩サポート Colors ver1.0)を用いて、L*、a*、b*の値を求めた。その結果、当該ビーズのL*、a*、b*値は、赤色;L*53.772 a*63.569 b*21.793、桃色;L*86.373 a*16.911 b*-6.905、橙色;L*84.063 a*6.995 b*54.551、黄色;L*96.479 a*-25.772 b*93.746、緑色;L*92.856 a*-26.121 b*83.472、青色;L*94.236 a*-19.050 b*-8.313、紺色;L*83.318 a*-6.201 b*-25.545、無色;L*99.555 a*-0.656 b*0.006であった。
【0050】
また、本実施例では、各ビーズに対する稚魚の定位及び捕食行動を観察するために、水面上にビデオカメラを設置した。そして、水面上から水中の稚魚の映像を10分間記録して、各ビーズに対して定位及び捕食行動を示した稚魚の尾数を計数した。このとき、映像の記録は四回繰り返して行なった。
【0051】
(2)色の選択性
ここで、上記の方法により導き出された各ビーズに対する稚魚の定位率及び捕食率を表1に示す。なお、本実施例において、定位率とは、四回の実験ケース毎の稚魚の総定位個体数のうち、各ビーズに対して定位した稚魚の個体数を示したものであり、捕食率とは、実験ケース毎の稚魚の総捕食個体数のうち、各ビーズを捕食した稚魚の個体数を示したものである。これらの定位率(%)及び捕食率(%)は、各ビーズに対して定位及び捕食行動を示した稚魚の個体数を、総個体数を除すことによって求められた。
【0052】
【表1】

【0053】
表1に示すように、定位率及び捕食率は、最も高い緑色が31.4%及び36.6%であり、次いで黄色が28.5%及び25.7%であった。また、緑色及び黄色よりも低いが、橙色では定位率が13.3%であり、捕食率が12.5%であった。その他の赤色、桃色、青色、紺色、及び無色については、定位率及び捕食率のいずれもが橙色よりも低い10%以下という値を示した。
【0054】
上述したように、摂餌行動は、定位行動及び捕食行動を合わせた行動であるということが、表1に示す値からも確認できる。したがって、定位率及び捕食率のいずれもが高い値を示す、緑色、黄色、及び橙色の表面色を有する飼餌料を用いて、太平洋クロマグロの稚魚を飼育することは、従来公知の飼餌料よりも高い摂餌率が得られることは明らかである。
【0055】
このことから、マグロ属魚類用の人工配合飼料及び生餌に適す色は、緑色、黄色、橙色であることが分かった。また、図1のスペクトル、及び、大島範子、青い魚はなぜ青い―魚の体色変化の謎を探る―、[online]、東邦大学バーチャルラボラトリ [2008年2月7日検索]、インターネット<URL:http://www.mnc.toho−u.ac.jp/v−lab/fish/index.html>を参考にすれば、これらの色は490〜640nmの波長を主とする反射光あるいは透過光である。
【0056】
したがって、上記飼餌料が当該表面領域において490〜640nmの波長を主とする光を反射することによって、従来公知の飼餌料よりも高い摂餌率が得られる。
【0057】
また、無色のビーズに対しても、低い値ではあるが、定位及び捕食行動を示す魚を確認できた(表1:定位率5.5%、捕食率5.2%)。水中における無色のビーズは、反射光によってキラキラと光る程度が、他色のビーズよりも顕著であった。したがって、マグロ属魚類用の飼餌料に適す色として同定した緑色、黄色、及び橙色に光沢をさらに加えることによって、より一層活発な摂餌行動を示すことは容易に考えられる。
【0058】
また、上述したように、近畿大学水産研究所において、魚介類の眼球がクロマグロの摂餌を誘引することが分かっている。したがって、本発明にかかる色と、生餌の眼球の色に相当する黒色及び/または白色を組み合わせることによって、さらに活発な摂餌行動を誘引できるマグロ属魚類用の飼餌料を開発できることは容易に考えられる。
【0059】
さらに、これらを援用することによって、カンパチ、ブリ、またはヒラマサ等の魚食性を示す魚介類においても、当該魚介類の飼育用の飼餌料を新たに開発できるという可能性も容易に考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明に係る飼餌料によれば、クロマグロをはじめとするマグロ属魚類の摂餌行動を高く誘引することができるので、種苗生産及び養殖に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】一般的なスペクトルを示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグロ属魚類を飼育するための飼餌料であって、
外部から視認可能な表面に、490〜640nmを主波長とする光を反射するまたは発する領域を含むことを特徴とする飼餌料。
【請求項2】
上記領域の色が、朱色、鉛丹色、金赤、黄丹、赤橙、柿色、黄赤、橙色、こうじ色、蜜柑色、卵色、山吹色、ひまわり色、うこん色、黄色、たんぽぽ色、中黄、刈安色、きはだ色、ひわ色、黄緑、苔色、若草色、萌黄、草色、若葉色、松葉色、白緑、緑、常磐色、緑青色、千歳緑、深緑、もえぎ色、若竹色、チャイニーズレッド、キャロットオレンジ、オレンジ、マンダリンオレンジ、エクルベイジュ、ゴールデンイエロー、マリーゴールド、クロムイエロー、イエロー、ジョンブリアン、カナリヤ、レモンイエロー、シャトルーズグリーン、リーフグリーン、シーグリーン、アイビーグリーン、アップルグリーン、ミントグリーン、グリーン、コバルトグリーン、エメラルドグリーン、マラカイトグリーン、ボトルグリーン、フォレストグリーン、及びビリジアンから選ばれる少なくとも一つであることを特徴とする請求項1に記載の飼餌料。
【請求項3】
上記マグロ属魚類は、クロマグロであることを特徴とする請求項1または2に記載の飼餌料。
【請求項4】
請求項1から3の何れか1項に記載の飼餌料をマグロ属魚類に給餌することを特徴とするマグロ属魚類の飼育方法。
【請求項5】
マグロ属魚類を飼育するための飼餌料を、490〜640nmを主波長とする光を反射する物質または当該光を発する物質により着色することを特徴とするマグロ属魚類を飼育するための飼餌料の製造方法。

【図1】
image rotate