マスキング治具
【課題】装着部を金属製とし、非塗装部位に対する迅速な着脱ができ、かつ正確なマスキングを実現するマスキング治具を提供する。
【解決手段】塗装するモータカバー5の非塗装部位51に倣った当接面21を有するベース部2から、前記非塗装部51位にあるネジ孔52に差し込む装着部3を突出させたマスキング治具1において、装着部3は、ベース部2に着脱自在な装着部本体31と、前記装着部本体31から突出させた金属製のバネ体32とからなり、バネ体32は、針金を折り曲げて形成した側面視楕円状のバネ要素321を組み付けて構成するマスキング治具1である。
【解決手段】塗装するモータカバー5の非塗装部位51に倣った当接面21を有するベース部2から、前記非塗装部51位にあるネジ孔52に差し込む装着部3を突出させたマスキング治具1において、装着部3は、ベース部2に着脱自在な装着部本体31と、前記装着部本体31から突出させた金属製のバネ体32とからなり、バネ体32は、針金を折り曲げて形成した側面視楕円状のバネ要素321を組み付けて構成するマスキング治具1である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装対象物の塗装をしない部位(非塗装部位)に装着するマスキング治具に関する。
【背景技術】
【0002】
塗装対象物の塗装する部位(塗装部位)と塗装しない部位(非塗装部位)との境界を明確に画する目的で、前記非塗装部位にマスキングが施される。簡易なマスキングは、マスキングテープを貼着することが多いが、非塗装部位が広い範囲で複雑な形状をしていたり、逆にネジ孔等を囲む一部分であったりした場合、非塗装部位の大きさ又は形状に合わせたマスキング治具が用いられる。
【0003】
特許文献1は、非塗装部位が広い範囲である場合に対応したマスキング治具を開示している。前記マスキング治具は、非塗装部位に倣った当接面を有する板状のベース部(型板4)から、前記非塗装部位にある凸設部(18,19)に嵌め込む装着部(シールド片8)を突出させた構成である。装着部は、凸設部(18,19)に嵌合可能のシールド筒(1)を形成し、前記シールド筒の上部に鍔付き上板(2)を設け、更に前記上板のほぼ中央に内洞底面(2a)に貫通する通気孔(2b)を設けた樹脂製としている。
【0004】
また、特許文献2は、非塗装部位がネジ孔である場合に対応したマスキング治具を開示している。前記マスキング治具は、頂部(1)から側板(2)を放射状に突出させた薄鋼板の前記側板を折り曲げて形成される。この特許文献2のマスキング治具は、ネジ孔に対して摩擦が少なく出し入れ自在でありながら、ネジ孔の半径方向に側板を押し拡げてネジ孔の内面に圧接させ、ネジ孔に装着した状態を容易に保持できるようにしている。
【0005】
【特許文献1】特開2003-062497号公報
【特許文献2】実公昭40-012145号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
現在多くのマスキング治具は、非塗装部位に存在する凸部(特許文献1の凸設部)や凹部(特許文献2のネジ孔)に樹脂製又はゴム製の装着部を嵌合又は挿入する構成である。樹脂製又はゴム製の装着部を有するマスキング治具は、非塗装部位に対して適宜着脱できる。しかし、樹脂製又はゴム製の装着部は、非塗装部位の凸部又は凹部との摩擦が大きく、前記凸部又は凹部に嵌合又は挿入又は取り外しにくく、非塗装部位に対する着脱に手間がかかる問題があった。近年、塗装対象物の塗装に要する時間を短縮することが求められているため、着脱に手間がかかるマスキング治具は、好ましくない。
【0007】
ここで、特許文献2のマスキング治具は金属製であり、特許文献1やその他従来のマスキング治具に比べ、非塗装部位の凹部に挿入しやすい利点がある。これから、例えば特許文献1の装着部として特許文献2のマスキング治具を用いることが考えられる。しかし、特許文献2のマスキング治具は、大きさ及び形状が固定された頂部に片持ち支持された多数の側板それぞれを板バネにした構成で、挿入した特定のネジ孔の内面に前記側板を半径方向内側から押し当てることから、次のような問題が懸念される。
【0008】
まず、特許文献2のマスキング治具は、挿入されるネジ孔の大きさが頂部の大きさより大きくなくてはならず、前記ネジ孔が頂部よりあまり大きすぎると、側板を半径方向内側から押し当てることができなくなる。すなわち、特許文献2のマスキング治具は、ネジ孔に合わせて決定された頂部の大きさにより、事実上、適用されるネジ孔が特定され、汎用性に乏しい問題がある。これは、頂部に片持ち支持された側板を板バネとしてネジ孔の内面に前記側板を半径方向内側から押し当てるようにした構成に基づく問題である。
【0009】
また、上述のような板バネの構成にしたことから、特許文献1の装着部として特許文献2のマスキング治具をベース部に取り付けると、側板の上縁がベース部に拘束されることになり、側板が板バネとして働かなくなる問題がある。これから、側板の上縁に自由度を持たせてベース部に取り付けることも考えられるが、ベース部に装着部(特許文献2のマスキング治具)を位置固定しにくくなり、ベース部に複数の装着部を設ける場合、非塗装部位の凹部に各装着部を迅速に着脱できなくなる虞が生ずる。
【0010】
このほか、特許文献2のマスキング治具は、側板を片持ち支持の板バネとするため、前記側板の上縁を自由状態にしていることから、隣り合う側板の間に隙間が形成されており、ネジ孔を完全に塞ぐことができず、正確なマスキングが求められる近年のマスキング治具としては好ましくないと考えられる。そこで、特許文献1のマスキング治具の装着部を金属製としつつ、特許文献2のマスキング治具を前記装着部にとして用いることにより想定される問題を解決し、非塗装部位に対する迅速な着脱を確保しつつ、かつ正確なマスキングを可能にするマスキング治具を開発するため、検討した。
【課題を解決するための手段】
【0011】
検討の結果、塗装対象物の非塗装部位に倣った当接面を有するベース部と、前記非塗装部位にある凹部に差し込む装着部とからなるマスキング治具において、装着部は、ベース部に取り付ける装着部本体と、前記装着部本体から突出させた金属製のバネ体とからなり、バネ体は、長尺金属材を折り曲げて半径方向外向きに凸な円弧部分を形成したバネ要素からなるマスキング治具を開発した。装着部は、ベース部に装着部本体を固定し、取り外し不能にしてもよいが、後述するように、単独のマスキング治具として用いることができるように、ベース部に装着本体を着脱自在にするとよい。
【0012】
本発明のマスキング治具は、ベース部に取り付けた装着部から突出させた金属製のバネ体を非塗装部位の凹部、例えばネジ孔に差し込み、バネ体の有する半径方向外向きに凸な円弧部分を前記ネジ孔の内面に押し当てる。これから、バネ体は、半径方向内側から凹部の内面に押し当てる円弧部分を1つ有すればよいため、1つのバネ要素だけで構成してもよいが、より多くの円弧部分を有する方が凹部に対する位置決め及び装着安定性が向上することから、複数のバネ要素により構成することが望ましい。バネ要素を形成する長尺金属材は、一方向に延在する金属材を意味し、例えば針金等の線状金属材や金属板等の板状金属材である。
【0013】
ベース部は、従来公知の各種マスキング治具同様に構成する。すなわち、例えば特許文献1のベース部同様、非塗装部位に対応した形状の当接面を有する樹脂製又は金属製の板材又はブロックとして構成される。ここで、マスキング治具を非塗装部位に対して容易に着脱をするため、ベース部に把手を設けたり、自動化を助けるロボットアーム等にベース部を連結するとよい。装着部は、非塗装部位の凹部に応じて、前記ベース部の当接面からバネ体を突出させる状態で、装着部本体によりベース部に取り付ける。ベース部に取り付ける装着部の位置は、前記非塗装部位の凹部の位置に一致させ、前記装着部の数は前記凹部の数以下の範囲で、マスキング治具の装着状態を保持する程度に適宜決定する。
【0014】
装着部は、長尺金属材を折り曲げて側面視楕円状に形成した複数のバネ要素を、各バネ要素のループ面が水平面内で交差するように組み付けてバネ体にする。各バネ要素は、長軸を装着部からバネ体が突出する方向に揃え、前記長軸に平行な一対の円弧部分を利用する。ここで、「各バネ要素のループ面が水平面内で交差する」とは、側面視楕円状に折り曲げて形成したバネ要素における一対の円弧部分を含む平面をループ面とし、各バネ要素のループ面を水平面内で交差させることを意味し、バネ体は前記交差させたバネ要素を組み付けて構成する。例えば2個のバネ要素を組み付けたバネ体の水平断面でループ面が十字状となる。
【0015】
側面視楕円状のバネ要素は、完全に閉じた楕円ではなく、長尺金属材を折り曲げて形成することから端部が存在する。前記端部は、折り曲げて鉤部とし、装着部本体の取付穴内に設けた段差又は差込孔に前記鉤部を掛止又は挿通して、各バネ要素を装着本体に取り付ける部位として利用するとよい。この場合、端部は装着部本体に隠れるため、各バネ要素は外観上完全な楕円状に見える。バネ体は、各バネ要素における一対の円弧部分を半径方向内向きに押し潰すことにより弾性変形させ、前記弾性変形に伴う復元力により、各バネ要素における一対の円弧部分を半径方向内側から凹部の内面に押し当てる。
【0016】
また、装着部は、長尺金属材を折り曲げて側面視円弧状に形成した複数のバネ要素を、各バネ要素の円弧部分が半径方向外向きに凸となるように組み付けてバネ体にしてもよい。側面視円弧状のバネ要素は、上述した側面視楕円状のバネ要素を長軸で半割した構造である。複数のバネ要素を組み合せる場合、各バネ要素の下端部をそのまま突き合わせると、各下端部の突き合わせ具合によりバネ要素がこじれる虞があるため、各バネ要素の下端部を上向きに折り返し、突き合わせ端部を形成するとよい。また、各バネ要素の上端部は、例えば装着本体に設けた取付穴に差し込んで、かしめることにより装着本体に取り付ける部位として利用するとよい。バネ体は、各バネ要素の円弧部分を半径方向内向きに押し潰すことにより弾性変形させ、前記弾性変形に伴う復元力により、各バネ要素における円弧部分を半径方向内向きから凹部の内面に押し当てる。
【0017】
本発明のマスキング治具は、装着部をベース部に着脱自在にすることにより、ベース部から取り外した装着部を単体のマスキング治具として使用できる。ベース部に着脱自在な装着部は、装着部本体から突出させるバネ体の反対側からネジ部を突出させた構成とし、ベース部は当接面の側から挿入した前記装着部本体を係合させる段差を有し、当接面の反対側に前記ネジ部を貫通させる嵌合孔を設けて、嵌合孔に装着部本体を嵌合させ、当接面の反対側から突出させたネジ部にナットを締め付けて装着部をベース部に固定する。単体のマスキング治具として用いる装着部は、装着部本体がベース部に相当する部分となり、ネジ部を持って容易に非塗装部位の凹部、例えばネジ孔に差し込むことができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明のマスキング治具は、金属製のバネ体を非塗装部位の凹部に差し込むことにより、前記非塗装部位に対する簡易な着脱を実現する。ここで、本発明におけるバネ体は、特許文献2に見られるような片持ち支持の板バネ構造ではなく、長尺金属材を折り曲げて形成したバネ要素、具体的には針金等の線状金属材を折り曲げて形成した側面視楕円状のバネ要素や、金属板等の板状金属材を折り曲げて形成した側面視円弧状のバネ要素を組み付けて構成しており、各バネ要素の円弧部分を弾性変形させて非塗装部位の凹部の内面に押し当てるので、前記円弧部分が弾性変形する範囲で異なる大きさの凹部に対応することができ、汎用性が高い利点を有する。
【0019】
また、バネ体は、バネ要素の円弧部分を弾性変形させることから、装着部本体に上端部を固定して取り付けることができ、特許文献2に見られるマスキング治具を装着部とする場合に起こるバネ要素(板バネ)の拘束がない。そして、装着部本体をベース部に着脱自在にしたため、必要により、ベース部から装着部のみを取り外し、前記装着部を単体のマスキング治具として使用できる利便性を実現する。このように、本発明のマスキング治具は、特許文献1のマスキング治具と特許文献2のマスキング治具とを組み合せるだけでは得られない汎用性や利便性を実現する効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について図を参照しながら説明する。図1は本発明を適用したマスキング治具1の一例を上方から見た斜視図、図2は本例のマスキング治具1を下方から見た斜視図、図3は本例のマスキング治具1を上方から見た分解斜視図、図4は本例の装着部3を表す拡大斜視図、図5は本例の装着部3を表す部分破断拡大側面図、図6は別例の装着部4を表す部分破断拡大側面図、図7は本例のマスキング治具1の非塗装部位51に対する装着前を表した斜視図、図8は本例のマスキング治具1の非塗装部位51に対する装着前を表した部分拡大断面図、図9は本例のマスキング治具1の非塗装部位51に対する装着後を表した図7相当斜視図、図10は本例のマスキング治具1の非塗装部位51に対する装着後を表した図8相当部分拡大断面図、図11は別例の装着部4を用いたマスキング治具1の非塗装部位51に対する装着後を表した図8相当部分拡大断面図であり、図12は装着部位3を単体で用いる場合を表した図7相当斜視図である。
【0021】
本例のマスキング治具1は、図1〜図3に見られるように、平面視正方形の樹脂製板材からなるベース部2の四隅に装着部3を取り付け、前記ベース部2の当接面21(図1及び図3中下面、図2中上面)からバネ体32を突出させた構成である。本例は、非塗装部位51に対するマスキング治具1の着脱を助けるため、ベース部2に把手22を設けている。本例のベース部2は、後述するように(後掲図7参照)、塗装対象物となるモータカバー5の平面視正方形の上面を非塗装部位51とするため、前記非塗装部位51より一回り大きく、かつ相似な平面視形状の樹脂製板材としている。しかし、非塗装部位が複雑な構造であれば、前記非塗装部位に倣う当接面が必要とされるベース部の形状も複雑となり、前記ベース部に取り付ける装着部の位置又は数も適宜変更される。
【0022】
ベース部2は、途中に環状の段差231を有する嵌合孔23を四隅に設け、各嵌合孔23にそれぞれ装着部3を取り付ける。装着部3は、嵌合孔23の当接面21側からネジ部313、装着部本体31の順に差し込み、ネジ部313が当接面21の反対側から突出した段階で前記段差231に装着部本体31を掛止させ、前記突出したネジ部313にナット31を締め付けて、ベース部2に固定する。マスキング治具1として、ベース部2の当接面21は非塗装部位51に密着させる必要から、装着部本体31が嵌合孔23から突出しないように、段差23までの嵌合孔23の形状と装着部本体31の形状とは、等しい円柱状としている。これにより、装着部本体31は嵌合孔23に完全に嵌まり込み、当接面21から突出する部位はバネ体32のみとなる。
【0023】
バネ体32は、図4及び図5に見られるように、針金を折り曲げて形成した側面視楕円状のバネ要素321を、各バネ要素321の円弧部分322を含むループ面が水平面内で直交する関係で組み付けて構成される。各バネ要素321は、上端部を折り曲げて一対の鉤部323を設けており、装着部本体31の下面に設けた取付穴311から両鉤部323を突っ込み、前記取付穴311の内側面から装着部本体31の外側面に向けて貫通させた差込孔312に各鉤部323を差し込んで、装着部本体31に取り付けられる。本例は各バネ要素321を直交させている関係から、一方のバネ要素321に対応した差込孔312に対して残る他方のバネ要素321に対応した差込孔312を針金の外径分だけ高い位置に設けている(図5参照)。
【0024】
バネ体32は、バネ要素321の各円弧部分322を弾性変形させて、非塗装部位51のネジ孔52の内面に半径方向内側から前記円弧部分322を押し当てる(後掲図10参照)。このとき、鉤部323は差込孔312から引き抜かれる方向に動くが、前記円弧部分322の弾性変形による移動量は僅かであるため、鉤部323及び差込孔312の長さが十分あれば、鉤部323が差込孔312から抜け出すことはない。しかし、各バネ要素321を完全な自由状態にしておくと、円弧部分322が交差するほどに弾性変形した場合、両鉤部323がそれぞれの差込孔312から抜け出す虞もないとは限らない。これから、少なくとも鉤部323の一方を差込孔312に固定することが好ましい。前記固定手段は、従来公知の溶接、接着、かしめ等を利用できる。
【0025】
本例に代えて、図6に見られるように、金属板を折り曲げて形成した側面視円弧状のバネ要素421を、各バネ要素421の円弧部分422が半径方向外向きに凸となるように組み付けてバネ体42にした別例の装着部4を、マスキング治具1に用いることもできる。別例の装着部4は、中実な装着部本体41の下面に取付穴411を設け、各取付穴411に各バネ要素421の上端部423を差し込み、かしめることにより取り付けて、バネ体42を構成する。各バネ要素421は、円弧部分422の下端部を上向きに折り返して形成される突き合わせ端部424を突き合わせている。これにより、各バネ要素421は、装着部本体41に保持された上端部423と突き合わせ端部424との間で、円弧部分422を弾性変形させて、バネ体42を差し込んだ凹部の内面に半径方向内側から前記円弧部分422を押し当てる。この別例の装着部4は、上記例示(図1〜図6参照)同様、装着部本体41からネジ部413を突出させており、ベース部2に設けた嵌合孔23に装着部本体1を嵌合させ、突出したネジ部413にナット414を締め付けることにより、ベース部2に取り付けられる(後掲図11参照)。
【0026】
本例のマスキング治具1は、図7及び図8に見られるように、ベース部2の当接面21から突出する装着部2のバネ体32を、モータカバー5(塗装対象物)の非塗装部位51に設けられたネジ孔52(凹部)に位置合わせし、上方からベース部2を前記非塗装部位51に降ろして装着する。本発明のマスキング治具1は、ネジ孔52に差し込む装着部3のバネ体32が金属製であり、しかも前記ネジ孔52に当接する部位が前記バネ体32を構成する各バネ要素321の円弧部分322の一部でしかない。このため、ネジ孔52に対するバネ体32の摩擦は極力抑えられており、非塗装部位51に対するマスキング治具1の着脱は非常に容易になっている。このため、例えばベース部2にロボットアームを接続し、非塗装部位51に対するマスキング治具1の着脱を自動化することも容易である。
【0027】
ここで、バネ体32の各バネ要素321における円弧部分322の間隔Swは、差し込む対象となるネジ孔52の内径Hdより大きくしておく。既述したように、各バネ要素321は円弧部分322を弾性変形させることによりネジ孔52に差し込むことができるため、前記円弧部分322の間隔Swより小さな内径Hdのネジ孔52にバネ体32を差し込むことができる。バネ要素321の円弧部分322の変形量は、長尺金属材の素材や円弧部分322の長さ及び半径等により異なる。例えば目安としてバネ鋼製針金(径0.8mm)を折り曲げ、半径8mm〜10mmの円弧部分322の間隔Swが5mm程度のバネ要素321を形成した場合、前記バネ要素321を組み付けて構成されるバネ体32は、内径4mm〜5mmのネジ孔52に対して好適に差し込むことができる。
【0028】
本例のマスキング治具1は、装着部本体31がベース部2に嵌合し、当接面21からバネ体32しか突出していないため、図9及び図10に見られるように、非塗装部位51に当接面21を密着させた状態でモータカバー5に対する装着が完了する。このとき、バネ体32の各バネ要素321はネジ孔52の内面に押されて弾性変形し、円弧部分322の間隔Swはネジ孔52の内径Hdにまで小さくなる。これにより、円弧部分322に復元力が発生し、前記円弧部分322をネジ孔52の内面に押し当てることができる(図10中白抜き矢印参照)。本例の装着部3は、バネ要素321が直交しているので、円弧部分322は90度間隔で四方に存在する。すなわち、バネ体32はネジ孔52の内面に四方からそれぞれ円弧部分322を押し当てることになり、ネジ孔52に対する装着部3の装着安定性が確保されている。そして、前記装着部3をベース部2の四隅に取り付けたマスキング治具1は、安定して非塗装部位51に装着しておくことができる。
【0029】
別例の装着部4を用いた場合も同様で、図11に見られるように、弾性変形する円弧部分422に復元力が発生し、前記復元力により前記円弧部分422がネジ孔52の内面に半径方向内側から押し当てられる(図11中白抜き矢印参照)。ここで、別例の装着部4は、上記例示の装着部3と異なり、バネ要素421の円弧部分422が半径方向に一対の関係にあるだけであり、各バネ要素421の円弧部分422が点対象の2点でのみネジ孔52の内面に押し当てられるに過ぎないように見える。しかし、金属板からなるバネ要素421は、一定の幅を有するため、実際には各バネ要素421の側縁部、すなわち実質4点がそれぞれ個別にネジ孔52の内面に押し当てられることになり、上記例示の装着部3に比べて装着安定性が劣る虞はない。
【0030】
本例の装着部3は、装着部本体31がネジ孔52の内径Hdより大きな外径を有しており(例えば図10参照)、図12に見られるように、ベース部2から取り外した各装着部3を単独で用い、各ネジ孔52のみを塞ぐこともできる。これから、マスキング治具1におけるベース部2は、非塗装部位51を全面的に覆うマスキング部材そのものであることはもちろんであるが、複数の装着部3を特定の位置関係で拘束し、一度にすべての装着部3を対応するネジ孔52に差し込めるようにする補助部材であると見ることもできる。単独で用いる装着部3は、それぞれ個別に対応するネジ孔52に抜き差しする。このほか、ネジ孔52を中心として装着部本体31より広い範囲でマスキングしたい場合、例えばバネ体32にワッシャ(図示略)を嵌め、非塗装部位51と装着部本体31との間に前記ワッシャを挟み込むようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明を適用したマスキング治具の一例を上方から見た斜視図である。
【図2】本例のマスキング治具を下方から見た斜視図である。
【図3】本例のマスキング治具を上方から見た分解斜視図である。
【図4】本例の装着部を表す拡大斜視図である。
【図5】本例の装着部を表す部分破断拡大側面図である。
【図6】別例の装着部を表す部分破断拡大側面図である。
【図7】本例のマスキング治具の非塗装部位に対する装着前を表した斜視図である。
【図8】本例のマスキング治具の非塗装部位に対する装着前を表した部分拡大断面図である。
【図9】本例のマスキング治具の非塗装部位に対する装着後を表した図7相当斜視図である。
【図10】本例のマスキング治具の非塗装部位に対する装着後を表した図8相当部分拡大断面図である。
【図11】別例の装着部を用いたマスキング治具の非塗装部位に対する装着後を表した図8相当部分拡大断面図である。
【図12】装着部位を単体で用いる場合を表した図7相当斜視図である。
【符号の説明】
【0032】
1 マスキング治具
2 ベース部
21 当接面
23 嵌合孔
3 装着部
31 装着部本体
313 ネジ部
32 バネ体
321 バネ要素
322 円弧部分
4 装着部
41 装着部本体
413 ネジ部
42 バネ体
421 バネ要素
422 円弧部分
5 モータカバー
51 非塗装部位
52 ネジ孔
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装対象物の塗装をしない部位(非塗装部位)に装着するマスキング治具に関する。
【背景技術】
【0002】
塗装対象物の塗装する部位(塗装部位)と塗装しない部位(非塗装部位)との境界を明確に画する目的で、前記非塗装部位にマスキングが施される。簡易なマスキングは、マスキングテープを貼着することが多いが、非塗装部位が広い範囲で複雑な形状をしていたり、逆にネジ孔等を囲む一部分であったりした場合、非塗装部位の大きさ又は形状に合わせたマスキング治具が用いられる。
【0003】
特許文献1は、非塗装部位が広い範囲である場合に対応したマスキング治具を開示している。前記マスキング治具は、非塗装部位に倣った当接面を有する板状のベース部(型板4)から、前記非塗装部位にある凸設部(18,19)に嵌め込む装着部(シールド片8)を突出させた構成である。装着部は、凸設部(18,19)に嵌合可能のシールド筒(1)を形成し、前記シールド筒の上部に鍔付き上板(2)を設け、更に前記上板のほぼ中央に内洞底面(2a)に貫通する通気孔(2b)を設けた樹脂製としている。
【0004】
また、特許文献2は、非塗装部位がネジ孔である場合に対応したマスキング治具を開示している。前記マスキング治具は、頂部(1)から側板(2)を放射状に突出させた薄鋼板の前記側板を折り曲げて形成される。この特許文献2のマスキング治具は、ネジ孔に対して摩擦が少なく出し入れ自在でありながら、ネジ孔の半径方向に側板を押し拡げてネジ孔の内面に圧接させ、ネジ孔に装着した状態を容易に保持できるようにしている。
【0005】
【特許文献1】特開2003-062497号公報
【特許文献2】実公昭40-012145号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
現在多くのマスキング治具は、非塗装部位に存在する凸部(特許文献1の凸設部)や凹部(特許文献2のネジ孔)に樹脂製又はゴム製の装着部を嵌合又は挿入する構成である。樹脂製又はゴム製の装着部を有するマスキング治具は、非塗装部位に対して適宜着脱できる。しかし、樹脂製又はゴム製の装着部は、非塗装部位の凸部又は凹部との摩擦が大きく、前記凸部又は凹部に嵌合又は挿入又は取り外しにくく、非塗装部位に対する着脱に手間がかかる問題があった。近年、塗装対象物の塗装に要する時間を短縮することが求められているため、着脱に手間がかかるマスキング治具は、好ましくない。
【0007】
ここで、特許文献2のマスキング治具は金属製であり、特許文献1やその他従来のマスキング治具に比べ、非塗装部位の凹部に挿入しやすい利点がある。これから、例えば特許文献1の装着部として特許文献2のマスキング治具を用いることが考えられる。しかし、特許文献2のマスキング治具は、大きさ及び形状が固定された頂部に片持ち支持された多数の側板それぞれを板バネにした構成で、挿入した特定のネジ孔の内面に前記側板を半径方向内側から押し当てることから、次のような問題が懸念される。
【0008】
まず、特許文献2のマスキング治具は、挿入されるネジ孔の大きさが頂部の大きさより大きくなくてはならず、前記ネジ孔が頂部よりあまり大きすぎると、側板を半径方向内側から押し当てることができなくなる。すなわち、特許文献2のマスキング治具は、ネジ孔に合わせて決定された頂部の大きさにより、事実上、適用されるネジ孔が特定され、汎用性に乏しい問題がある。これは、頂部に片持ち支持された側板を板バネとしてネジ孔の内面に前記側板を半径方向内側から押し当てるようにした構成に基づく問題である。
【0009】
また、上述のような板バネの構成にしたことから、特許文献1の装着部として特許文献2のマスキング治具をベース部に取り付けると、側板の上縁がベース部に拘束されることになり、側板が板バネとして働かなくなる問題がある。これから、側板の上縁に自由度を持たせてベース部に取り付けることも考えられるが、ベース部に装着部(特許文献2のマスキング治具)を位置固定しにくくなり、ベース部に複数の装着部を設ける場合、非塗装部位の凹部に各装着部を迅速に着脱できなくなる虞が生ずる。
【0010】
このほか、特許文献2のマスキング治具は、側板を片持ち支持の板バネとするため、前記側板の上縁を自由状態にしていることから、隣り合う側板の間に隙間が形成されており、ネジ孔を完全に塞ぐことができず、正確なマスキングが求められる近年のマスキング治具としては好ましくないと考えられる。そこで、特許文献1のマスキング治具の装着部を金属製としつつ、特許文献2のマスキング治具を前記装着部にとして用いることにより想定される問題を解決し、非塗装部位に対する迅速な着脱を確保しつつ、かつ正確なマスキングを可能にするマスキング治具を開発するため、検討した。
【課題を解決するための手段】
【0011】
検討の結果、塗装対象物の非塗装部位に倣った当接面を有するベース部と、前記非塗装部位にある凹部に差し込む装着部とからなるマスキング治具において、装着部は、ベース部に取り付ける装着部本体と、前記装着部本体から突出させた金属製のバネ体とからなり、バネ体は、長尺金属材を折り曲げて半径方向外向きに凸な円弧部分を形成したバネ要素からなるマスキング治具を開発した。装着部は、ベース部に装着部本体を固定し、取り外し不能にしてもよいが、後述するように、単独のマスキング治具として用いることができるように、ベース部に装着本体を着脱自在にするとよい。
【0012】
本発明のマスキング治具は、ベース部に取り付けた装着部から突出させた金属製のバネ体を非塗装部位の凹部、例えばネジ孔に差し込み、バネ体の有する半径方向外向きに凸な円弧部分を前記ネジ孔の内面に押し当てる。これから、バネ体は、半径方向内側から凹部の内面に押し当てる円弧部分を1つ有すればよいため、1つのバネ要素だけで構成してもよいが、より多くの円弧部分を有する方が凹部に対する位置決め及び装着安定性が向上することから、複数のバネ要素により構成することが望ましい。バネ要素を形成する長尺金属材は、一方向に延在する金属材を意味し、例えば針金等の線状金属材や金属板等の板状金属材である。
【0013】
ベース部は、従来公知の各種マスキング治具同様に構成する。すなわち、例えば特許文献1のベース部同様、非塗装部位に対応した形状の当接面を有する樹脂製又は金属製の板材又はブロックとして構成される。ここで、マスキング治具を非塗装部位に対して容易に着脱をするため、ベース部に把手を設けたり、自動化を助けるロボットアーム等にベース部を連結するとよい。装着部は、非塗装部位の凹部に応じて、前記ベース部の当接面からバネ体を突出させる状態で、装着部本体によりベース部に取り付ける。ベース部に取り付ける装着部の位置は、前記非塗装部位の凹部の位置に一致させ、前記装着部の数は前記凹部の数以下の範囲で、マスキング治具の装着状態を保持する程度に適宜決定する。
【0014】
装着部は、長尺金属材を折り曲げて側面視楕円状に形成した複数のバネ要素を、各バネ要素のループ面が水平面内で交差するように組み付けてバネ体にする。各バネ要素は、長軸を装着部からバネ体が突出する方向に揃え、前記長軸に平行な一対の円弧部分を利用する。ここで、「各バネ要素のループ面が水平面内で交差する」とは、側面視楕円状に折り曲げて形成したバネ要素における一対の円弧部分を含む平面をループ面とし、各バネ要素のループ面を水平面内で交差させることを意味し、バネ体は前記交差させたバネ要素を組み付けて構成する。例えば2個のバネ要素を組み付けたバネ体の水平断面でループ面が十字状となる。
【0015】
側面視楕円状のバネ要素は、完全に閉じた楕円ではなく、長尺金属材を折り曲げて形成することから端部が存在する。前記端部は、折り曲げて鉤部とし、装着部本体の取付穴内に設けた段差又は差込孔に前記鉤部を掛止又は挿通して、各バネ要素を装着本体に取り付ける部位として利用するとよい。この場合、端部は装着部本体に隠れるため、各バネ要素は外観上完全な楕円状に見える。バネ体は、各バネ要素における一対の円弧部分を半径方向内向きに押し潰すことにより弾性変形させ、前記弾性変形に伴う復元力により、各バネ要素における一対の円弧部分を半径方向内側から凹部の内面に押し当てる。
【0016】
また、装着部は、長尺金属材を折り曲げて側面視円弧状に形成した複数のバネ要素を、各バネ要素の円弧部分が半径方向外向きに凸となるように組み付けてバネ体にしてもよい。側面視円弧状のバネ要素は、上述した側面視楕円状のバネ要素を長軸で半割した構造である。複数のバネ要素を組み合せる場合、各バネ要素の下端部をそのまま突き合わせると、各下端部の突き合わせ具合によりバネ要素がこじれる虞があるため、各バネ要素の下端部を上向きに折り返し、突き合わせ端部を形成するとよい。また、各バネ要素の上端部は、例えば装着本体に設けた取付穴に差し込んで、かしめることにより装着本体に取り付ける部位として利用するとよい。バネ体は、各バネ要素の円弧部分を半径方向内向きに押し潰すことにより弾性変形させ、前記弾性変形に伴う復元力により、各バネ要素における円弧部分を半径方向内向きから凹部の内面に押し当てる。
【0017】
本発明のマスキング治具は、装着部をベース部に着脱自在にすることにより、ベース部から取り外した装着部を単体のマスキング治具として使用できる。ベース部に着脱自在な装着部は、装着部本体から突出させるバネ体の反対側からネジ部を突出させた構成とし、ベース部は当接面の側から挿入した前記装着部本体を係合させる段差を有し、当接面の反対側に前記ネジ部を貫通させる嵌合孔を設けて、嵌合孔に装着部本体を嵌合させ、当接面の反対側から突出させたネジ部にナットを締め付けて装着部をベース部に固定する。単体のマスキング治具として用いる装着部は、装着部本体がベース部に相当する部分となり、ネジ部を持って容易に非塗装部位の凹部、例えばネジ孔に差し込むことができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明のマスキング治具は、金属製のバネ体を非塗装部位の凹部に差し込むことにより、前記非塗装部位に対する簡易な着脱を実現する。ここで、本発明におけるバネ体は、特許文献2に見られるような片持ち支持の板バネ構造ではなく、長尺金属材を折り曲げて形成したバネ要素、具体的には針金等の線状金属材を折り曲げて形成した側面視楕円状のバネ要素や、金属板等の板状金属材を折り曲げて形成した側面視円弧状のバネ要素を組み付けて構成しており、各バネ要素の円弧部分を弾性変形させて非塗装部位の凹部の内面に押し当てるので、前記円弧部分が弾性変形する範囲で異なる大きさの凹部に対応することができ、汎用性が高い利点を有する。
【0019】
また、バネ体は、バネ要素の円弧部分を弾性変形させることから、装着部本体に上端部を固定して取り付けることができ、特許文献2に見られるマスキング治具を装着部とする場合に起こるバネ要素(板バネ)の拘束がない。そして、装着部本体をベース部に着脱自在にしたため、必要により、ベース部から装着部のみを取り外し、前記装着部を単体のマスキング治具として使用できる利便性を実現する。このように、本発明のマスキング治具は、特許文献1のマスキング治具と特許文献2のマスキング治具とを組み合せるだけでは得られない汎用性や利便性を実現する効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について図を参照しながら説明する。図1は本発明を適用したマスキング治具1の一例を上方から見た斜視図、図2は本例のマスキング治具1を下方から見た斜視図、図3は本例のマスキング治具1を上方から見た分解斜視図、図4は本例の装着部3を表す拡大斜視図、図5は本例の装着部3を表す部分破断拡大側面図、図6は別例の装着部4を表す部分破断拡大側面図、図7は本例のマスキング治具1の非塗装部位51に対する装着前を表した斜視図、図8は本例のマスキング治具1の非塗装部位51に対する装着前を表した部分拡大断面図、図9は本例のマスキング治具1の非塗装部位51に対する装着後を表した図7相当斜視図、図10は本例のマスキング治具1の非塗装部位51に対する装着後を表した図8相当部分拡大断面図、図11は別例の装着部4を用いたマスキング治具1の非塗装部位51に対する装着後を表した図8相当部分拡大断面図であり、図12は装着部位3を単体で用いる場合を表した図7相当斜視図である。
【0021】
本例のマスキング治具1は、図1〜図3に見られるように、平面視正方形の樹脂製板材からなるベース部2の四隅に装着部3を取り付け、前記ベース部2の当接面21(図1及び図3中下面、図2中上面)からバネ体32を突出させた構成である。本例は、非塗装部位51に対するマスキング治具1の着脱を助けるため、ベース部2に把手22を設けている。本例のベース部2は、後述するように(後掲図7参照)、塗装対象物となるモータカバー5の平面視正方形の上面を非塗装部位51とするため、前記非塗装部位51より一回り大きく、かつ相似な平面視形状の樹脂製板材としている。しかし、非塗装部位が複雑な構造であれば、前記非塗装部位に倣う当接面が必要とされるベース部の形状も複雑となり、前記ベース部に取り付ける装着部の位置又は数も適宜変更される。
【0022】
ベース部2は、途中に環状の段差231を有する嵌合孔23を四隅に設け、各嵌合孔23にそれぞれ装着部3を取り付ける。装着部3は、嵌合孔23の当接面21側からネジ部313、装着部本体31の順に差し込み、ネジ部313が当接面21の反対側から突出した段階で前記段差231に装着部本体31を掛止させ、前記突出したネジ部313にナット31を締め付けて、ベース部2に固定する。マスキング治具1として、ベース部2の当接面21は非塗装部位51に密着させる必要から、装着部本体31が嵌合孔23から突出しないように、段差23までの嵌合孔23の形状と装着部本体31の形状とは、等しい円柱状としている。これにより、装着部本体31は嵌合孔23に完全に嵌まり込み、当接面21から突出する部位はバネ体32のみとなる。
【0023】
バネ体32は、図4及び図5に見られるように、針金を折り曲げて形成した側面視楕円状のバネ要素321を、各バネ要素321の円弧部分322を含むループ面が水平面内で直交する関係で組み付けて構成される。各バネ要素321は、上端部を折り曲げて一対の鉤部323を設けており、装着部本体31の下面に設けた取付穴311から両鉤部323を突っ込み、前記取付穴311の内側面から装着部本体31の外側面に向けて貫通させた差込孔312に各鉤部323を差し込んで、装着部本体31に取り付けられる。本例は各バネ要素321を直交させている関係から、一方のバネ要素321に対応した差込孔312に対して残る他方のバネ要素321に対応した差込孔312を針金の外径分だけ高い位置に設けている(図5参照)。
【0024】
バネ体32は、バネ要素321の各円弧部分322を弾性変形させて、非塗装部位51のネジ孔52の内面に半径方向内側から前記円弧部分322を押し当てる(後掲図10参照)。このとき、鉤部323は差込孔312から引き抜かれる方向に動くが、前記円弧部分322の弾性変形による移動量は僅かであるため、鉤部323及び差込孔312の長さが十分あれば、鉤部323が差込孔312から抜け出すことはない。しかし、各バネ要素321を完全な自由状態にしておくと、円弧部分322が交差するほどに弾性変形した場合、両鉤部323がそれぞれの差込孔312から抜け出す虞もないとは限らない。これから、少なくとも鉤部323の一方を差込孔312に固定することが好ましい。前記固定手段は、従来公知の溶接、接着、かしめ等を利用できる。
【0025】
本例に代えて、図6に見られるように、金属板を折り曲げて形成した側面視円弧状のバネ要素421を、各バネ要素421の円弧部分422が半径方向外向きに凸となるように組み付けてバネ体42にした別例の装着部4を、マスキング治具1に用いることもできる。別例の装着部4は、中実な装着部本体41の下面に取付穴411を設け、各取付穴411に各バネ要素421の上端部423を差し込み、かしめることにより取り付けて、バネ体42を構成する。各バネ要素421は、円弧部分422の下端部を上向きに折り返して形成される突き合わせ端部424を突き合わせている。これにより、各バネ要素421は、装着部本体41に保持された上端部423と突き合わせ端部424との間で、円弧部分422を弾性変形させて、バネ体42を差し込んだ凹部の内面に半径方向内側から前記円弧部分422を押し当てる。この別例の装着部4は、上記例示(図1〜図6参照)同様、装着部本体41からネジ部413を突出させており、ベース部2に設けた嵌合孔23に装着部本体1を嵌合させ、突出したネジ部413にナット414を締め付けることにより、ベース部2に取り付けられる(後掲図11参照)。
【0026】
本例のマスキング治具1は、図7及び図8に見られるように、ベース部2の当接面21から突出する装着部2のバネ体32を、モータカバー5(塗装対象物)の非塗装部位51に設けられたネジ孔52(凹部)に位置合わせし、上方からベース部2を前記非塗装部位51に降ろして装着する。本発明のマスキング治具1は、ネジ孔52に差し込む装着部3のバネ体32が金属製であり、しかも前記ネジ孔52に当接する部位が前記バネ体32を構成する各バネ要素321の円弧部分322の一部でしかない。このため、ネジ孔52に対するバネ体32の摩擦は極力抑えられており、非塗装部位51に対するマスキング治具1の着脱は非常に容易になっている。このため、例えばベース部2にロボットアームを接続し、非塗装部位51に対するマスキング治具1の着脱を自動化することも容易である。
【0027】
ここで、バネ体32の各バネ要素321における円弧部分322の間隔Swは、差し込む対象となるネジ孔52の内径Hdより大きくしておく。既述したように、各バネ要素321は円弧部分322を弾性変形させることによりネジ孔52に差し込むことができるため、前記円弧部分322の間隔Swより小さな内径Hdのネジ孔52にバネ体32を差し込むことができる。バネ要素321の円弧部分322の変形量は、長尺金属材の素材や円弧部分322の長さ及び半径等により異なる。例えば目安としてバネ鋼製針金(径0.8mm)を折り曲げ、半径8mm〜10mmの円弧部分322の間隔Swが5mm程度のバネ要素321を形成した場合、前記バネ要素321を組み付けて構成されるバネ体32は、内径4mm〜5mmのネジ孔52に対して好適に差し込むことができる。
【0028】
本例のマスキング治具1は、装着部本体31がベース部2に嵌合し、当接面21からバネ体32しか突出していないため、図9及び図10に見られるように、非塗装部位51に当接面21を密着させた状態でモータカバー5に対する装着が完了する。このとき、バネ体32の各バネ要素321はネジ孔52の内面に押されて弾性変形し、円弧部分322の間隔Swはネジ孔52の内径Hdにまで小さくなる。これにより、円弧部分322に復元力が発生し、前記円弧部分322をネジ孔52の内面に押し当てることができる(図10中白抜き矢印参照)。本例の装着部3は、バネ要素321が直交しているので、円弧部分322は90度間隔で四方に存在する。すなわち、バネ体32はネジ孔52の内面に四方からそれぞれ円弧部分322を押し当てることになり、ネジ孔52に対する装着部3の装着安定性が確保されている。そして、前記装着部3をベース部2の四隅に取り付けたマスキング治具1は、安定して非塗装部位51に装着しておくことができる。
【0029】
別例の装着部4を用いた場合も同様で、図11に見られるように、弾性変形する円弧部分422に復元力が発生し、前記復元力により前記円弧部分422がネジ孔52の内面に半径方向内側から押し当てられる(図11中白抜き矢印参照)。ここで、別例の装着部4は、上記例示の装着部3と異なり、バネ要素421の円弧部分422が半径方向に一対の関係にあるだけであり、各バネ要素421の円弧部分422が点対象の2点でのみネジ孔52の内面に押し当てられるに過ぎないように見える。しかし、金属板からなるバネ要素421は、一定の幅を有するため、実際には各バネ要素421の側縁部、すなわち実質4点がそれぞれ個別にネジ孔52の内面に押し当てられることになり、上記例示の装着部3に比べて装着安定性が劣る虞はない。
【0030】
本例の装着部3は、装着部本体31がネジ孔52の内径Hdより大きな外径を有しており(例えば図10参照)、図12に見られるように、ベース部2から取り外した各装着部3を単独で用い、各ネジ孔52のみを塞ぐこともできる。これから、マスキング治具1におけるベース部2は、非塗装部位51を全面的に覆うマスキング部材そのものであることはもちろんであるが、複数の装着部3を特定の位置関係で拘束し、一度にすべての装着部3を対応するネジ孔52に差し込めるようにする補助部材であると見ることもできる。単独で用いる装着部3は、それぞれ個別に対応するネジ孔52に抜き差しする。このほか、ネジ孔52を中心として装着部本体31より広い範囲でマスキングしたい場合、例えばバネ体32にワッシャ(図示略)を嵌め、非塗装部位51と装着部本体31との間に前記ワッシャを挟み込むようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明を適用したマスキング治具の一例を上方から見た斜視図である。
【図2】本例のマスキング治具を下方から見た斜視図である。
【図3】本例のマスキング治具を上方から見た分解斜視図である。
【図4】本例の装着部を表す拡大斜視図である。
【図5】本例の装着部を表す部分破断拡大側面図である。
【図6】別例の装着部を表す部分破断拡大側面図である。
【図7】本例のマスキング治具の非塗装部位に対する装着前を表した斜視図である。
【図8】本例のマスキング治具の非塗装部位に対する装着前を表した部分拡大断面図である。
【図9】本例のマスキング治具の非塗装部位に対する装着後を表した図7相当斜視図である。
【図10】本例のマスキング治具の非塗装部位に対する装着後を表した図8相当部分拡大断面図である。
【図11】別例の装着部を用いたマスキング治具の非塗装部位に対する装着後を表した図8相当部分拡大断面図である。
【図12】装着部位を単体で用いる場合を表した図7相当斜視図である。
【符号の説明】
【0032】
1 マスキング治具
2 ベース部
21 当接面
23 嵌合孔
3 装着部
31 装着部本体
313 ネジ部
32 バネ体
321 バネ要素
322 円弧部分
4 装着部
41 装着部本体
413 ネジ部
42 バネ体
421 バネ要素
422 円弧部分
5 モータカバー
51 非塗装部位
52 ネジ孔
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗装対象物の非塗装部位に倣った当接面を有するベース部と、前記非塗装部位にある凹部に差し込む装着部とからなるマスキング治具において、装着部は、ベース部に取り付ける装着部本体と、前記装着部本体から突出させた金属製のバネ体とからなり、バネ体は、長尺金属材を折り曲げて半径方向外向きに凸な円弧部分を形成したバネ要素からなることを特徴とするマスキング治具。
【請求項2】
装着部は、ベース部に装着部本体を着脱自在にした請求項1記載のマスキング治具。
【請求項3】
装着部は、長尺金属材を折り曲げて側面視楕円状に形成した複数のバネ要素を、各バネ要素のループ面が水平面内で交差するように組み付けてバネ体にした請求項1又は2いずれか記載のマスキング治具。
【請求項4】
装着部は、長尺金属材を折り曲げて側面視円弧状に形成した複数のバネ要素を、各バネ要素の円弧部分が半径方向外向きに凸となるように組み付けてバネ体にした請求項1又は2いずれか記載のマスキング治具。
【請求項5】
装着部は、装着部本体から突出させるバネ体の反対側からネジ部を突出させ、ベース部は、当接面の側から挿入した前記装着部本体を係合させる段差を有し、当接面の反対側に前記ネジ部を貫通させる嵌合孔を設けてなり、嵌合孔に装着部本体を嵌合させ、当接面の反対側から突出させたネジ部にナットを締め付けて装着部をベース部に固定する請求項1〜4いずれか記載のマスキング治具。
【請求項1】
塗装対象物の非塗装部位に倣った当接面を有するベース部と、前記非塗装部位にある凹部に差し込む装着部とからなるマスキング治具において、装着部は、ベース部に取り付ける装着部本体と、前記装着部本体から突出させた金属製のバネ体とからなり、バネ体は、長尺金属材を折り曲げて半径方向外向きに凸な円弧部分を形成したバネ要素からなることを特徴とするマスキング治具。
【請求項2】
装着部は、ベース部に装着部本体を着脱自在にした請求項1記載のマスキング治具。
【請求項3】
装着部は、長尺金属材を折り曲げて側面視楕円状に形成した複数のバネ要素を、各バネ要素のループ面が水平面内で交差するように組み付けてバネ体にした請求項1又は2いずれか記載のマスキング治具。
【請求項4】
装着部は、長尺金属材を折り曲げて側面視円弧状に形成した複数のバネ要素を、各バネ要素の円弧部分が半径方向外向きに凸となるように組み付けてバネ体にした請求項1又は2いずれか記載のマスキング治具。
【請求項5】
装着部は、装着部本体から突出させるバネ体の反対側からネジ部を突出させ、ベース部は、当接面の側から挿入した前記装着部本体を係合させる段差を有し、当接面の反対側に前記ネジ部を貫通させる嵌合孔を設けてなり、嵌合孔に装着部本体を嵌合させ、当接面の反対側から突出させたネジ部にナットを締め付けて装着部をベース部に固定する請求項1〜4いずれか記載のマスキング治具。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2008−259969(P2008−259969A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−105073(P2007−105073)
【出願日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【出願人】(307013732)株式会社ピーベス (1)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【出願人】(307013732)株式会社ピーベス (1)
【Fターム(参考)】
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