説明

マスク用フィルタ材及びマスク

【課題】着脱が容易でありながら、口や鼻孔の周囲を隙間なく覆うことができ、呼・吸気からウイルスや花粉、塵埃などの微細な異物を効率的に除去できるようにする。
【解決手段】マスク本体(2)と、マスク本体(2)を装着者の顔面前方の所定位置に保持する保持部材(3)と、マスク本体(2)と装着者の顔面との間に配置されるフィルタ材(4)とを備える。フィルタ材(4)は、少なくとも周縁部分(7)が、復元可能に厚さ方向へ圧縮変形できるクッション性と、装着者の呼・吸気が通過できる通気性とを有する。マスク本体(2)の装着時は、フィルタ材(4)の周縁部分(7)が装着者の口と鼻孔を取り囲む状態に配置され、マスク本体(2)の装着力で装着者の顔面側へ押圧されて圧縮変形する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスク用フィルタ材とこれを用いたマスクに関し、着脱が容易でありながら、口や鼻孔の周囲を隙間なく覆うことができ、呼・吸気からウイルスや花粉、塵埃などの微細な異物を効率的に除去できる、マスク用フィルタ材とこれを用いたマスクに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、花粉症の患者が増大しており、社会的にも大きな問題となってきている。また、新型インフルエンザウイルスのように、抗体保持者が少なく、爆発的に感染が広がる場合もある。これらのウイルスや花粉から身を守る方法の1つとして、衛生マスクの使用が考えられる。
【0003】
従来、上記の衛生マスクとしては、ガーゼや木綿布などよりなるマスク本体と、その両側に付設した耳掛け部などの保持部材とを備えており、マスク本体の内面にガーゼを折り畳んだ当て材を配置したものがある。しかし、この当て材のみではウイルスなどの侵入、放散や、花粉、塵埃などの微細な異物の侵入を阻止することが容易でない。そこでこれを解消するため、殺菌性を有する湿式フィルタ材シートを上記の当て材の中間に介装したものが提案されている(例えば、特許文献1参照、以下、従来技術1という。)。
【0004】
上記の従来技術1のマスクは、装着時に上記の保持部材で後方へ引張ることにより、マスク本体の内側表面を装着者の顔面へ押圧してある。しかし、このマスク本体は薄いシート状の布帛で形成されているので、保持部材の引張り力だけでは、内側表面の周縁部分を装着者の顔面に隙間なく密着させることが容易でない。そしてこの周縁部分で顔面との間に隙間が形成されると、装着者の呼気や吸気がこの隙間を流通する問題がある。特に、装着者が咳やくしゃみをすると、その勢いでマスク本体が顔面から浮き上がり、上記の隙間が一層拡大することとなる。このため、装着者の呼気や吸気は、上記のマスク本体や当て材以外に、マスク本体と顔面との間に形成された隙間をも通じて流通し、上記の湿式フィルタ材シート等に抗菌作用を持たせたとしても、インフルエンザウイルスや花粉、塵埃などを効率よく捕捉することができない問題があつた。
【0005】
上記の問題点を解消するため、例えば上記の保持部材を、装着者の頭部の後方へ回して強い力でマスク本体を引張ることにより、マスク本体の周縁を装着者の顔面に確りと密着させるマスクが提案されている(例えば、特許文献2参照、以下、従来技術2という。)。また、マスク本体の周縁を装着者の顔面に粘着剤等で接着させることにより、気密状に固定するマスクが提案されている(例えば、特許文献3参照、以下、従来技術3という。)。さらに、マスクの内側表面の上端に立体形状のパットを固定して、装着者の鼻梁の両側にできる隙間を遮断するマスクが提案されている(例えば、特許文献4参照、以下、従来技術4という。)。
【0006】
しかし上記の従来技術2のマスクにあっては、マスク本体の周縁部分を装着者の顔面へ確りと密着させるため、上記の保持部材は強い引張り力を有することから、これを頭部の後方へ回す装着操作やこれを取り外す操作が容易でない問題がある。さらに、強い力でマスク本体の周縁部分を顔面に押圧するため、その顔面にくっきりとした装着跡が付く問題もある。
【0007】
一方、上記の従来技術3のマスクにあっては、装着したのち取り外すとその接着力が低下しているので、再装着の際に密着させることが容易でなく、装着者の顔面との間に隙間を生じて、呼・吸気がその隙間を流通する問題がある。また、マスクは飲食や会話の際にしばしば着脱されることがあるが、その都度、接着力の優れた新しいマスクに交換することは、装着者に大きなコスト負担となる問題もある。
【0008】
また上記の従来技術4のマスクにあっては、装着者の鼻梁の両側にできる隙間を遮断できるものの、人の顔は千差万別であり、部分的に立体形状のパットを付設しただけでは、マスクでの周縁部分を全周に亘って隙間なく密着させることが容易でない。このため、前記の従来技術1と同様、装着者の頬とマスク本体の内側表面との間に隙間が形成され、この隙間を介して装着者の呼・吸気が流通する問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−113293号公報
【特許文献2】特開2007−229222号公報
【特許文献3】特開2009−213752号公報
【特許文献4】登録実用新案第3115718号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の技術的課題は上記の問題点を解消し、着脱が容易でありながら、口や鼻孔の周囲を隙間なく覆うことができ、呼・吸気からウイルスや花粉、塵埃などの微細な異物を効率的に除去できる、マスク用フィルタ材とこれを用いたマスクを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は上記の課題を解決するために、例えば本発明の実施の形態を示す図1から図3に基づいて説明すると、次のように構成したものである。
即ち本発明1はマスク用フィルタ材に関し、装着者の顔面とマスク本体(2)との間に配置されるフィルタ材(4)であって、少なくとも周縁部分(7)が、復元可能に厚さ方向へ圧縮変形できるクッション性と、装着者の呼・吸気が通過できる通気性とを有し、上記のマスク本体(2)の装着時は、周縁部分(7)が装着者の口と鼻孔を取り囲む状態に配置され、そのマスク本体(2)の装着力で装着者の顔面側へ押圧されて、復元可能に厚さ方向へ圧縮変形することを特徴とする。
【0012】
また、本発明2はマスクに関し、装着者の口と鼻孔を覆うマスクであって、マスク本体(2)と、このマスク本体(2)を装着者の顔面前方の所定位置に保持する保持部材(3)と、このマスク本体(2)と装着者の顔面との間に配置される上記の本発明1のマスク用フィルタ材(4)とを備えることを特徴とする。
【0013】
また本発明3はマスクに関し、装着者の口と鼻孔を覆うマスクであって、装着者の顔面と対面する側の少なくとも周縁部分にフィルタ材(4)を備え、このフィルタ材(4)は、復元可能に厚さ方向へ圧縮変形できるクッション性と、装着者の呼・吸気が通過できる通気性とを有することを特徴とする。
【0014】
上記のマスク用フィルタ材を備えたマスクを装着すると、マスク用フィルタ材はマスク本体の装着力で装着者の顔面側へ押圧されるが、このフィルタ材はクッション性があるので、装着者の顔面に沿って圧縮変形し、これによりそのフィルタ材の内側表面が装着者の顔面に隙間なく密着する。装着者の咳やくしゃみでマスク本体が顔面から離隔しようとすると、上記のフィルタ材は厚さ方向に復元し、装着者の顔面との間の隙間の形成が防止される。ここで、上記のクッション性とは、装着者の顔面の凹凸を吸収できる程度以上の、復元可能な圧縮性を備えていることをいう。
【0015】
装着者の吸気は、マスク本体とマスク用フィルタ材内とを順に経て、口や鼻孔から吸い込まれるほか、マスク本体の周縁部分と顔面との間の隙間を通過した外気が、フィルタ材の周縁部分からフィルタ材の内部を経て口や鼻孔から吸い込まれる。一方、装着者の呼気は、マスク用フィルタ材内とマスク本体を順に経て外部へ放出されるほか、フィルタ材内を通過したのちそのフィルタ材の周縁部分から、マスク本体の周縁部分と顔面との間の隙間を通過して外部へ放出される。
【0016】
上記のフィルタ材は、装着時に周縁部分が口と鼻孔を取り囲む状態に配置されておればよく、外側表面がマスク本体の内側表面に密着している場合は、中間部分に開口部が形成されていてもよい。この場合、装着者の呼・吸気は、口や鼻孔の前面のマスク本体を通過するほか、フィルタ材の内部を経たのち、マスク本体の周縁部分と顔面との間の隙間を通過する。このため、マスク本体も優れた濾過性能を備えると好ましく、抗菌加工が施されているとさらに好ましい。これに対し、上記のフィルタ材が中間部分に開口部を備えていない場合は、装着者の呼・吸気は必ずこのフィルタ材の内部を通過するので、マスク本体は、例えばネットからなるシート材などのように、濾過性能が低くてもよく、さらに抗菌加工等が施されていなくてもよい。
【0017】
上記のフィルタ材は、装着者の顔面に良好に沿うので、装着前は特定の形状に限定されず、例えば平面状であってもよい。しかし、人の顔は、特に鼻梁の両側で段差が大きいので、このような段差等に対応した立体形状であると、一層良好に顔面に沿って隙間なく密着でき、好ましい。
また、中央部分が装着者の顔面から離隔する方向に湾曲した立体形状に形成してあり、この中央部分と装着者の顔面との間に空間が形成してあると、装着者の唇とフィルタ材の内側表面とが離隔するので、口紅などがフィルタ材に付く虞を低減できるうえ、その空間を介してマスクの全面を介して通気できるので、装着者は楽に呼吸ができて好ましい。
【0018】
上記のフィルタ材は、所望のクッション性と通気性を備えておればよく、特定の材質に限定されず、例えば連続気泡の発泡体などであってもよいが、不織布であると、優れたクッション性と通気性を容易に備えることができて好ましい。
上記の不織布は、特定の寸法や密度のものに限定されないが、例えば、装着前の少なくとも周縁部分での空隙率が90〜99%程度であると異物を効率的に捕捉できるうえ、良好に通気できるので好ましく、さらに95%程度であると一層良好に通気できて装着者が息苦しさを感じることがなく、より好ましい。
【0019】
また上記の不織布を構成する繊維の直径は、特定の寸法のものに限定されないが、過剰に細いものを使用すると通気性を阻害する虞があるので、通常、10μm以上のものが用いられ、より好ましくは20μm以上のものが用いられる。さらに上記の不織布は、装着前の周縁部分での厚みが5〜20mmであると、クッション性に優れ、装着者の顔面との間に隙間を形成することなく密着できるので好ましい。
【0020】
なお上記の不織布の空隙率は、次式で算出される。
空隙率(%)={1−目付(g/m2)÷厚さ(mm)÷1000÷比重(g/cm)}×100(%) ……(式1)
ここで、上記の比重は、不織布を構成する各繊維の比重の、混紡比率に応じた加重平均値が用いられる。
【0021】
上記の不織布を構成する繊維としては、綿などの天然繊維、レーヨンなどの化学繊維、ポリエステルなどの合成繊維のいずれであってもよく、これらを任意に組み合わせたものであってもよい。例えば高捲縮性の合成繊維を用いると、クッション性と通気性を良好にできて好ましく、特にコンジュゲートタイプのポリエステルなどの合成繊維を用いると、クッション性と通気性を一層良好にできてさらに好ましい。
また上記の不織布は、例えばポリエステル共重合体などの、低融点熱可塑性合成繊維を含有すると、その低融点熱可塑性合成繊維を溶融することで、これを介して他の繊維を互いに接着することができるので、不織布全体の強度を向上できるうえ、クッション性と通気性を保持しながら、毛羽立ち防止(いわゆる、リントフリー)の効果をも有し、しかも、その不織布を所望の立体形状に容易に成形することができて好ましい。
【0022】
上記のフィルタ材は、ウイルスや花粉、塵埃などの異物を捕捉できるものであればよいが、少なくとも呼・吸気が通過する部位に抗菌剤や殺菌剤を坦持させてあると、呼気や吸気に含まれるウイルス、細菌などを良好に無害化でき、或いは補足したウイルス等の増殖を防止できて好ましい。
【0023】
上記の抗菌剤は、無機抗菌剤と有機抗菌剤とのいずれであってもよく、特定の抗菌剤に限定されない。
無機抗菌剤としては、例えば、銀ブロムまたはヨード錯塩、あるいは銀、銅、亜鉛、白金、ニッケル、コバルト、クロム、チタン等の金属イオン、またはそれら金属の酸化物、水酸化物などの金属化合物等が挙げられる。この中で銀の金属イオンが好ましい。これらの無機抗菌剤は1種類を単独で用いてもよいし、複数種類を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
上記の有機抗菌剤としては、例えば、第4級アンモニウム、チアペンタゾール、バイアジンあるいはキチン、キトサンの如きポリカチオン等が挙げられる。この中で第4級アンモニウム、キトサンが好ましい。これらの有機抗菌剤は1種類を単独で用いてもよいし、複数種類を組み合わせて用いてもよい。さらには無機抗菌剤と有機抗菌剤とを組み合わせて用いることも可能である。
【0025】
上記の抗菌剤や殺菌剤は、任意の方法で上記のフィルタ材に坦持させることができる。しかし、上記のフィルタ材がペクチンを含むセルロース系繊維を含有している場合には、例えば特開2004−277901号公報に記載のように処理することで、このセルロース系繊維に上記の抗菌剤等を強固に坦持することができ、安定的に且つ持続的に抗菌剤等をセルロース繊維に結合させることができるので、好ましい。なお上記の抗菌剤等を坦持させる処理とは、具体的には、例えば、ペクトセルロース繊維またはペクトセルロース繊維布帛を、ペクトセルロース繊維中に存在するペクチン含有量が処理前のペクチン含有量に対して1〜80質量%になるように、酸、塩基、それらの塩類、キレート剤およびペクチン分解酵素から成る群から選ばれる少なくとも一つの化学物質で処理してペクチン含有量を減少させ、処理したペクトセルロース繊維またはペクトセルロース繊維布帛にイオン性の無機化合物抗菌剤や有機化合物抗菌剤等を担持させる方法である。
【0026】
なお、フィルタ材に占める上記のセルロース系繊維は、含有率が好ましくは10〜70重量%であり、他は通常のポリエステルなどの合成繊維であってもよい。
【0027】
上記のフィルタ材は、少なくとも片側の表面に、伸縮性と通気性とを備えた保護層を備えると、例えば抗菌加工などの際のハンドリングを良好にできて好ましい。特にこの保護層を装着者の顔面と対面する表面に形成してあると、フィルタ材の毛羽立ちを抑え、装着者の顔面に対して肌触りを良好にできる利点がある。これらの保護層は、ニット材や高密度不織布などの任意の材料で形成され、ライニング、ラミネート、表面加工など、任意の加工によりフィルタ材と一体化される。
【0028】
上記のフィルタ材は、マスク本体とは別体に形成されていてもよく、この場合は既存のマスクをマスク本体として採用でき、安価に実施することができる。しかし上記のフィルタ材はマスク本体に固定してあってもよく、この場合はマスクの装着を一層簡略にできて好ましい。このフィルタ材とマスク本体との固定は、例えば面ファスナ等で着脱可能に固定してもよく、或いは接着剤や縫製などで離脱不能に固定してもよい。
【0029】
上記のマスク本体は、不織布や織布などからなる汎用のマスクが一般に使用されるが、このマスク本体は、上記のフィルタ材を装着者の顔面側へ押圧できる押圧部材であればよく、特定の材質や形状のものに限定されない。またフィルタ材で異物を捕捉できるので、マスク本体の濾過性能や抗菌性能は必須でない。例えば、ネットなどの伸縮性を備えた平面状の布帛であってもよく、中央が装着者の顔面から離れる方向に湾曲した曲面状の不織布などであってもよい。
【0030】
また、上記のマスク本体を装着者の顔面前方の所定位置に保持する保持部材は、特定の形状や材質のものに限定されず、例えば、ゴム弾性を備えた紐や、マスク本体の両端に延設した保持部などで形成され、装着者の耳に掛けるように構成してもよく、或いは、装着者の頭部の後方を通過させるように装着するものであってもよい。
【発明の効果】
【0031】
本発明のマスク用フィルタ材とマスクは、上記のように構成され作用することから、次の効果を奏する。
【0032】
(1)上記のフィルタ材はクッション性があるので、装着者の顔面に沿って圧縮変形することにより、内側表面が装着者の顔面に容易に隙間なく密着し、装着者の顔面との間の隙間の形成を確実に防止できる。しかも、復元性があるうえ、通気性が高いので、咳やくしゃみをした場合も、装着者の顔面に良好に密着させておくことができる。これにより、装着者の口や鼻孔の周囲をフィルタ材で隙間なく覆うことができる。
【0033】
(2)呼気や吸気はフィルタ材内を必ず通過するので、その呼・吸気に含まれるウイルスや花粉、塵埃などの異物を効率的に捕捉して除去することができ、装着者が吸い込むことや外部へ放出することを抑制できる。
【0034】
(3)上記のフィルタ材はクッション性を備えるので、軽い押圧力で装着者の顔面に沿うことができ、従って保持部材を強力に引張る必要がないので、装着者は簡単に装着でき、取り外しも容易である。また、装着者の口や鼻孔の周囲を隙間なく覆えるものでありながら、前記の従来技術2と異なって、装着者の顔面に装着跡が付く虞がない。
【0035】
(4)フィルタ材は、マスク本体の押圧力で装着者の顔面に沿うので、前記の従来技術3とは異なって接着剤などを用いる必要がなく、取り外したのちも確実に且つ容易に再装着することができる。
【0036】
(5)フィルタ材はマスク本体がある前方だけでなく、フィルタ材の周縁部分の全周に亘って、マスク本体と顔面との間に形成される隙間からも、外気を吸入でき、或いは外部へ呼気を排出できる。このため、マスク全体の通気面積が大きいので、装着者は楽に呼吸をすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の第1実施形態を示す、マスクの一部破断斜視図である。
【図2】第1実施形態の、マスクの要部の拡大断面図である。
【図3】本発明の第2実施形態を示す、マスクの一部破断斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。
図1に示すように、このマスク(1)は、装着者の口と鼻孔を覆うことができ、シート状布帛からなるマスク本体(2)と、ゴム弾性を備えた紐状の保持部材(3)と、このマスク本体(2)と装着者の顔面との間に配置されるフィルタ材(4)とを備える。
【0039】
上記のマスク本体(2)は、例えば平面状の不織布に襞が形成してあり、中央部を装着者の顔面から離隔する方向へ、即ち外側へ湾曲させることができ、装着者の顔面に沿った立体形状にすることができる。このマスク本体(2)の両側部には、それぞれ上記の保持部材(3)の両端が熱融着等で固定してある。この保持部材(3)はゴム弾性を備えており、これを装着者の両耳に掛けることで、上記のマスク本体(2)が引っ張られて装着者の顔面前方の所定位置に保持される。
【0040】
上記のフィルタ材(4)は、上記のマスク本体(2)とは別体に形成してあり、そのマスク本体(2)に固定されていない。しかし、装着時には上記の保持部材(3)によるマスク本体(2)の装着力により、装着者の顔面側へ押圧されて保持される。即ち、上記のマスク本体(2)は、このフィルタ材(4)を装着者の顔面側へ押圧する押圧部材(5)となっている。
【0041】
図1と図2に示すように、上記のフィルタ材(4)は、装着者の顔面形状に沿った立体形状に形成してあり、中央部分(6)を外側(装着者の顔面から離隔する方向)へ湾曲させるとともに、周縁部分(7)の厚みを厚く形成してある。装着時は、その周縁部分(7)が装着者の口と鼻孔を取り囲む状態に配置され、上記の中央部分(6)と装着者の顔面との間に空間が形成される。そして上記の周縁部分(7)は、上記のマスク本体(2)の装着力で装着者の顔面側へ押圧されて、復元可能に厚さ方向へ圧縮変形する。
【0042】
上記のフィルタ材(4)は、例えば、30重量%の綿と、55重量%のレギュラータイプのポリエステル繊維(例えば、太さ4.4dtex、長さ51mm)と、15重量%の低融点ポリエステル共重合体繊維(例えば、太さ1.7dtex、長さ51mm)とを混紡した不織布が用いてある。なお、上記の低融点ポリエステル共重合体繊維は、例えば融点が110℃である。この不織布は、例えば目付が200g/mであり、厚さは中央部分(6)が約5mmであり、周縁部分(7)が8mmである。この不織布は、上記の混紡比率で加重平均した比重が1.1g/cmであるので、前記の式1により算出した空隙率は、周縁部分で約97.7%となっており、中央部分(6)で約96.4%となっている。
【0043】
上記の不織布の両面には、伸縮性と通気性とを備えた保護層(8)が一体的に積層してある。この保護層(8)は、例えばポリエステル繊維などの合成繊維を、丸編みの天竺編で形成され、使用された編糸の太さは、例えば83dtexなどの細い糸が用いてある。このためこの保護層(8)は極めて薄く形成してあるが、後述の抗菌加工処理や成形加工処理などのハンドリングに必要な引張強度等が、この保護層(8)で確保されている。
【0044】
上記の不織布を構成する、セルロース系繊維である綿には、全体に銀の金属イオンを含有する抗菌剤が坦持させてある。この抗菌剤は、例えば次の抗菌処理加工により坦持させることができる。
最初に、上記の不織布を、濃度が3000ユニット/mlのペクチン分解酵素と0.1重量%の界面活性剤とを含む水溶液に、室温で2時間浸漬したのち、水洗して乾燥させる。次いで、10mM濃度の銀イオン水溶液に1時間浸漬し、これを取り出して水溶液を絞りとったのち、洗浄して乾燥して、抗菌処理加工を終了する。なお、上記の銀イオン水溶液は、例えば三菱重工産業機器株式会社製の銀イオン水生成装置により製造することができる。
【0045】
上記の抗菌加工処理を終えたフィルタ材(4)は、所定形状にカットされたのち、金型内にセットして、130℃に加熱することで、上記の所定の形状に成形される。このとき、フィルタ材(4)の中央部分(6)は外側へ湾曲されるとともに圧縮されて、厚さが5mmとなり、これに対し周縁部分(7)は、厚さが8mmに維持される。
【0046】
上記の第1実施形態では、フィルタ材(4)をマスク本体(2)とは別体に形成した。しかし本発明では、このフィルタ材をマスク本体に固定してもよい。
即ち図3に示す第2実施形態では、フィルタ材(4)の外側表面の周縁部分に沿って接着剤(9)が付設してあり、この接着剤(9)を介してフィルタ材(4)がマスク本体(2)に固定してある。
【0047】
この第2実施形態では、マスク本体(2)が所定形状に形成した2片の一端部を互いに接合した構造となっており、この2片を左右に開くことで、このマスク本体(2)が立体形状となる。各片の接合端部とは反対側の端部に、保持部材(3)が延設してある。
【0048】
また上記のフィルタ材(4)は、上記の第1実施形態と同様、周縁部分(7)が厚く形成してあるが、第1実施形態と異なり、装着者の鼻梁の両側部に対応する部位(7a)は、他の周縁部分(7)よりも特に厚く形成してある。これにより、装着時に装着者の鼻梁の両側部と確実に隙間なく密着できるようにしてある。その他の構成は上記の第1実施形態と同様であり、同様に作用するので説明を省略する。
【0049】
上記の実施形態で説明したマスク用フィルタ材とこれを用いたマスクは、本発明の技術的思想を具体化するために例示したものであり、各部の形状や寸法、材質、構造、加工処理方法などをこの実施形態のものに限定するものではなく、本発明の特許請求の範囲内において種々の変更を加え得るものである。
【0050】
例えば、上記のフィルタ材等に用いた繊維の種類や、太さ、繊維長などは、単なる例示であり、本発明では他の種類や寸法の繊維を用いてもよいことは言うまでもない。
また上記の実施形態では、マスク本体に不織布を用いたが、本発明のマスク本体や押圧部材は、フィルタ材を装着者の顔面側へ押圧できるものであればよく、例えば織布であってもよく、目の粗い網状体であってもよい。従って、上記の保護層をこのマスク本体や押圧部材として用いることも可能である。
【0051】
また上記の各実施形態では、フィルタ材(4)の両面にポリエステル繊維製の保護層(8)を形成したが、本発明ではフィルタ材の片面にのみこの保護層を形成したものであってもよく、或いはこれを省略したものであってもよい。この保護層は伸縮性と通気性があればよく、ポリエステル繊維以外の繊維を用いてもよく、他の編み方等であってもよい。
【0052】
上記の各実施形態では、フィルタ材の周縁部分を厚く形成し、中央部分をこれよりも薄く形成したが、本発明のフィルタ材は全体が均一な厚さであってもよい。
また上記の第1実施形態では、このフィルタ材に抗菌剤を坦持させた場合について説明した。しかし本発明では、この抗菌剤に代えて殺菌剤を坦持させてもよく、或いはこれらを坦持させないものであってもよい。また上記の第1実施形態では抗菌剤等をフィルタ材の全体に坦持させたので、抗菌処理加工を簡略にできたが、本発明では呼・吸気が通過する部位に坦持させてあればよく、例えば周縁部分のみに抗菌剤等を坦持させてもよい。
【0053】
上記の第1実施形態では、成形加工処理前の不織布に抗菌加工処理を施した。しかし本発明では、成形加工処理後に抗菌加工処理等を施してもよく、或いは、不織布にする前の繊維の状態で抗菌加工処理等を施してもよい。
【0054】
また上記の各実施形態では上記の保持部材を、いずれも装着者の耳に掛けることでマスク本体を装着するように構成した。しかし本発明ではこの保持部材を、装着者の頭部の後方へ回すことで、マスク本体を装着するものであってもよい。
また上記の各実施形態ではフィルタ材に不織布を用いたが、本発明では連続気泡の発泡体を用いてもよい。さらに上記の第1実施形態では、上記の不織布に綿を混紡したが、レーヨンや他の合成繊維等の不織布を用いてもよいことは、いうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明のマスク用フィルタ材とこれを用いたマスクは、着脱が容易でありながら、口や鼻孔の周囲を隙間なく覆うことができ、呼・吸気からウイルスや花粉、塵埃などの微細な異物を効率的に除去できるので、ウイルスや細菌などから身を守る衛生マスクとして特に好適であるが、粉塵処理など、塵埃の多い場所で作業する際に装着する防塵マスクとしても好適である。
【符号の説明】
【0056】
1…マスク
2…マスク本体
3…保持部材
4…フィルタ材
5…押圧部材
6…フィルタ材(4)の中央部分
7…フィルタ材(4)の周縁部分
7a…装着者の鼻梁の両側部に対応する部位
8…保護層
9…接着剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
装着者の顔面とマスク本体(2)との間に配置されるフィルタ材(4)であって、
少なくとも周縁部分(7)が、復元可能に厚さ方向へ圧縮変形できるクッション性と、装着者の呼・吸気が通過できる通気性とを有し、
上記のマスク本体(2)の装着時は、周縁部分(7)が装着者の口と鼻孔を取り囲む状態に配置され、そのマスク本体(2)の装着力で装着者の顔面側へ押圧されて、復元可能に厚さ方向へ圧縮変形することを特徴とする、マスク用フィルタ材。
【請求項2】
中央部分(6)が装着者の顔面から離隔する方向に湾曲した立体形状に形成してあり、この中央部分(6)と装着者の顔面との間に空間が形成してある、請求項1に記載のマスク用フィルタ材。
【請求項3】
不織布からなる、請求項1または請求項2に記載のマスク用フィルタ材。
【請求項4】
上記の不織布は、装着前の少なくとも周縁部分(7)での空隙率が90%以上である、請求項3に記載のマスク用フィルタ材。
【請求項5】
上記の不織布は、装着前の少なくとも周縁部分(7)での厚みが5〜20mmである、請求項3または請求項4に記載のマスク用フィルタ材。
【請求項6】
上記の不織布は、低融点熱可塑性合成繊維を含有する、請求項3から5のいずれか1項に記載のマスク用フィルタ材。
【請求項7】
少なくとも呼・吸気が通過する部位に、抗菌剤若しくは殺菌剤を坦持させた、請求項1から6のいずれか1項に記載のマスク用フィルタ材。
【請求項8】
上記の抗菌剤は、銀の金属イオンを含有する、請求項7に記載のマスク用フィルタ材。
【請求項9】
セルロース系繊維を含有し、上記の抗菌剤はこのセルロース系繊維に坦持させてある、請求項7または請求項8に記載のマスク用フィルタ材。
【請求項10】
少なくとも片側の表面に、伸縮性と通気性とを備えた保護層(8)を備える、請求項1から9のいずれか1項に記載のマスク用フィルタ材。
【請求項11】
装着者の口と鼻孔を覆うマスクであって、マスク本体(2)と、このマスク本体(2)を装着者の顔面前方の所定位置に保持する保持部材(3)と、このマスク本体(2)と装着者の顔面との間に配置される上記の請求項1から10のいずれか1項に記載のマスク用フィルタ材(4)とを備えることを特徴とする、マスク。
【請求項12】
上記のマスク用フィルタ材(4)は、上記のマスク本体(2)に固定してある、請求項11に記載のマスク。
【請求項13】
装着者の口と鼻孔を覆うマスクであって、装着者の顔面と対面する側の少なくとも周縁部分にフィルタ材(4)を備え、このフィルタ材(4)は、復元可能に厚さ方向へ圧縮変形できるクッション性と、装着者の呼・吸気が通過できる通気性とを有することを特徴とする、マスク。
【請求項14】
さらに押圧部材(5)を備え、この押圧部材(5)は上記のフィルタ材(4)を装着者の顔面側へ押圧する、請求項13に記載のマスク。
【請求項15】
上記のフィルタ材(4)は、装着前の少なくとも周縁部分での空隙率が90%以上である、請求項13または請求項14に記載のマスク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−224094(P2011−224094A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−95401(P2010−95401)
【出願日】平成22年4月16日(2010.4.16)
【出願人】(510160937)
【出願人】(510160834)
【Fターム(参考)】