説明

マスク用有害物質除去材、マスク及びスギ花粉由来アレルゲンを捕捉する方法

【課題】特異的にアレルゲンを捕捉する抗体を用いた、アレルゲン溶出を抑制でき、皮膚感作がおきにくく安全性の高いマスク用有害物質除去材、それを用いたマスク及び該マスクを用いて、スギ花粉由来アレルゲンを捕捉する方法の提供。
【解決手段】抗体を担持した担体からなるマスク用有害物質除去材であって、前記抗体がスギ花粉由来アレルゲンに対する抗体であり、前記抗体の担持量が0.1mg/m以上3.0mg/m以下であることを特徴とする、マスク用有害物質除去材、それを用いたマスク及び該マスクを用いて、スギ花粉由来アレルゲンを捕捉する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗体を担持した担体からなるマスク用有害物質除去材、それを用いたマスク、及び該マスクを用いて、スギ花粉由来アレルゲンを捕捉する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、花粉症、アトピー性皮膚炎、アトピー性鼻炎、気管支喘息など多くのアレルギー疾患が問題となっている。特に春季に猛威をふるうスギ花粉症は、年々罹患者が増加している。
スギ花粉症は、スギ花粉を鼻内吸入、眼結膜付着し、鼻粘膜でアレルゲンが溶出することによって起こることが明らかにされている。スギ花粉症の予防にはスギ花粉を吸入しないことが重要であり、マスクが重要な予防手段となっている。
特許文献1には、アレルゲンを不活化する方法として、アレルゲン低減化成分として芳香族ヒドロキシ化合物を固定化した不織布が開示されている。但し、このようなアレルゲン低減化成分は非特異的なものであって、アレルゲン以外のものも吸着し、アレルゲン不活化効果がすぐに失われる問題があった。
また、アレルゲンを捕捉し、アレルゲン溶出を抑制する方法として、特許文献2にはアレルゲンを特異的に捕捉する鶏卵抗体を固定化したマスクが記載されている。しかしながら、特許文献2には抗体の担持量についての具体的な記載がなく、抗体の担持量をどの程度にすれば、アレルゲンを抑制する効果と、安全性の高さを両立できるが明確ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−313778号公報
【特許文献2】特開2005−169105号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
スギ花粉はマスクで物理的に捕捉することができるが、スギ花粉に含有されるアレルゲン(Cryj1、Cryj2)の活性は維持される。このため、呼吸に含まれる湿気、くしゃみ、結露等によってマスクが濡れた場合に、アレルゲンがマスクから溶出し、体内に吸い込まれてしまうことがある。
そこで、マスクにスギ花粉由来アレルゲンに対する抗体を固定化することで、スギ花粉由来アレルゲンがマスクから溶出することを抑制できることを見出した。また、抗体は選択的に抗原と結合するため、抗原以外の物質と結合して抗原を吸着する能力が低下することが少ない。
しかしながら、抗体を固定化したマスクを用いた場合に、抗体自体が使用者の皮膚に感作を引き起こすことがあることが判った。
【0005】
本発明の目的は、特異的にスギ花粉由来アレルゲンを捕捉する抗体を用いた、スギ花粉由来アレルゲンの溶出を抑制でき、かつ、皮膚感作がおきにくく、安全性の高いマスク用有害物質除去材、それを用いたマスク及び該マスクを用いて、スギ花粉由来アレルゲンを捕捉する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、下記構成により上記課題が達成できることを見出した。
【0007】
〔1〕
抗体を担持した担体からなるマスク用有害物質除去材であって、前記抗体がスギ花粉由来アレルゲンに対する抗体であり、前記抗体の担持量が0.1mg/m以上3.0mg/m以下であることを特徴とする、マスク用有害物質除去材。
〔2〕
前記担体の、水に対する接触角が90°以上170°以下であることを特徴とする、上記〔1〕に記載のマスク用有害物質除去材。
〔3〕
前記担体の、ぬれ張力が50mN/mである液体に対する接触角が0°以上90°以下であることを特徴とする、上記〔1〕又は〔2〕に記載のマスク用有害物質除去材。
〔4〕
前記マスク用有害物質除去材の、水に対する接触角が90°以上170°以下であることを特徴とする、上記〔1〕〜〔3〕のいずれか一項に記載のマスク用有害物質除去材。
〔5〕
前記担体の水に対する接触角が100°以上130°以下であり、かつ、前記抗体の担持量が0.5mg/m以上2.0mg/m以下であることを特徴とする、上記〔2〕〜〔4〕のいずれか一項に記載のマスク用有害物質除去材。
〔6〕
前記抗体が、スギ花粉由来アレルゲンとヒノキ花粉由来アレルゲンに対する抗体であることを特徴とする、上記〔1〕〜〔5〕のいずれか一項に記載のマスク用有害物質除去材。
〔7〕
前記抗体が、鳥類卵由来の抗体であることを特徴とする、上記〔1〕〜〔6〕のいずれか一項に記載のマスク用有害物質除去材。
〔8〕
前記担体が不織布であることを特徴とする、上記〔1〕〜〔7〕のいずれか一項に記載のマスク用有害物質除去材。
〔9〕
前記担体が、親水的な繊維と疎水的な繊維との混紡繊維である、上記〔1〕〜〔8〕のいずれか一項に記載のマスク用有害物質除去材。
〔10〕
上記〔1〕〜〔9〕のいずれか一項に記載のマスク用有害物質除去材を用いたマスク。
〔11〕
上記〔10〕に記載のマスクを用いて、スギ花粉由来アレルゲンを捕捉する方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、スギ花粉由来アレルゲンを特異的に捕捉することにより、マスクに捕集されたスギ花粉由来のアレルゲンの溶出を抑制でき、かつ、皮膚に感作を引き起こしにくく、安全性の高い、マスク用有害物質除去材、それを用いたマスク及び該マスクを用いて、スギ花粉由来アレルゲンを捕捉する方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について更に詳細に説明する。
【0010】
本発明のマスク用有害物質除去材は、抗体を担持した担体からなるマスク用有害物質除去材であって、前記抗体がスギ花粉由来アレルゲンに対する抗体であり、前記抗体の担持量が0.1mg/m以上3.0mg/m以下である。
【0011】
担体(後述する抗体を固定化する前の担体)は、水に対する接触角が90°以上であることが好ましく、100°以上がより好ましい。担体の水に対する接触角に上限は特に無いが、抗体を固定化しやすくするため、一般的に180°以下、好ましくは170°以下、より好ましくは130°以下である。
また、後述する抗体を固定化した後のマスク用有害物質除去材としても、水に対する接触角が90°以上であることが好ましく、95°以上がより好ましい。マスク用有害物質除去材の水に対する接触角に上限は特に無いが、一般的に180°以下、好ましくは170°以下、より好ましくは130°以下である。
担体(後述する抗体を固定化する前の担体)や、抗体を固定化した後のマスク用有害物質除去材の水に対する接触角が90°以上であることで、呼吸に含まれる湿気、くしゃみ、結露等による水が担体に浸透しにくくなり、マスクに捕捉した花粉に水が到達しにくくなり、アレルゲンが溶出しにくくなる。
水に対する接触角は、例えば、JIS R 3257:1999の2項に記載の静滴法により測定することができる。具体的には、水平に置かれた担体の上に、水滴1〜4μlを滴下し、担体から水滴頂点までの距離h、水滴と担体の接触長さ2rを測定し、接触角θを、θ=2tan−1h/rから求めることができる。また、担体の面と、水滴と担体の接触面の片端と水滴頂点を結んだ線と、の角θ/2を直読し、これを2倍して接触角θを求めても良い。前記距離、角度の読み取りには、適当な光学顕微鏡を用いればよい。また、全自動接触角計(DM−701,協和界面科学製)を用いることも出来る。
【0012】
また、担体は、ぬれ張力が50mN/m(50dyn/cm)である液体に対する接触角が90°以下であることが好ましく、50°以下であることがより好ましく、20°以下であることが最も好ましい。担体の、ぬれ張力が50mN/m(50dyn/cm)である液体に対する接触角は、一般的に0°以上である。但し、接触角が小さい場合、すぐに浸透してしまい、接触角が測定できない場合がある。本発明において、このような場合の接触角を1°未満として扱う。ぬれ張力が50mN/m(50dyn/cm)である液体に対する接触角が前述の範囲であることにより、担体への抗体を含む液の浸透が良好となり、抗体の担持が容易となる。ぬれ張力が50mN/mである液体は、特に限定されないが、ぬれ張力試験用混合液No.50.0(和光純薬製)を用いることが好ましい。
ぬれ張力が50mN/m(50dyn/cm)である液体に対する接触角は、水に代えてぬれ張力が50mN/m(50dyn/cm)である液体を使用する以外は、水に対する接触角と同様の方法により測定することができる。
【0013】
抗体を担持させる担体としては、特に限定されないが、繊維が好ましい。
繊維としては、合成繊維、天然繊維(綿、絹など)、再生繊維の何れでもよい。
合成繊維としては例えば、ポリビニルアルコール繊維(例えばビニロン)、ポリエステル繊維(たとえばポリエチレンテレフタラート繊維)、ポリアミド繊維(たとえばナイロン6、ナイロン66などのナイロン、ポリアクリルアミド繊維等)、ポリオレフィン繊維(たとえばポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維等)、アクリル繊維、ポリウレタン繊維、セルロース繊維、セルロースエステル繊維などが挙げられる。
繊維としては、セルロースエステル、ビニロン、アクリル、ポリウレタン、ポリアミド、ポリオレフィン、ポリエステルのうち少なくとも1種類を主成分とする繊維が好ましく、ポリアミド、ポリオレフィン、ポリエステルのうち少なくとも1種類を主成分とする繊維がより好ましい。本発明でいう主成分とは、全繊維中の質量分率にして25%以上を構成する成分であることを指す。
【0014】
本明細書においてポリアミドとは、化学構造単位が主としてアミド結合で結合されている線状高分子からなる繊維を指す。
【0015】
ポリアミドの中でも、エチレンジアミン、1−メチルエチレンジアミン、1,3−プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどの脂肪族ジアミンと、マロン酸、コハク酸、アジピン酸などの脂肪族ジカルボン酸との結合体である直鎖型脂肪族ポリアミドが好ましい。特に、ナイロン66が好ましい。
【0016】
前記のジアミン及びジカルボン酸以外にも、ε−カプロラクタムやラウロラクタム等のラクタム類、アミノカプロン酸、アミノウンデカン酸等のアミノカルボン酸類、パラ−アミノメチル安息香酸等を単独又は共重合成分として用いた脂肪族ポリアミドを用いることもできる。特に、ε−カプロラクタムの単独使用で製造されるナイロン6が好ましい。
【0017】
これらの他に、原料の脂肪族ジアミンとして一部又は全部をシクロヘキサンジアミン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1、4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンなどの脂環族ジアミンを用いた脂肪族ポリアミド、及び/又は、ジカルボン酸として一部又は全部を1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸などの脂環式ジカルボン酸を用いた脂肪族ポリアミドであってもよい。
【0018】
更に、脂肪族パラキシリレンジアミン(PXDA)やメタキシリレンジアミン(MXDA)などの芳香族ジアミン、テレフタル酸などの芳香族ジカルボン酸を部分的な原料として用いて、吸水性の低減や弾性率向上を実現したポリアミドも含まれる。また、ポリアクリル酸アミド、ポリ(N−メチルアクリル酸アミド)、ポリ(N,N−ジメチルアクリル酸アミド)などのような側鎖にアミド結合を有するポリマーであってもよい。
【0019】
ポリアミドの中で最も望ましいのは、ナイロン66又はナイロン6である。アミド結合に由来する適度な吸湿性、適度な長さの長鎖脂肪酸からなる分子鎖を繊維軸配向させやすく比較的延伸性が高いこと、融解熱が高く熱容量が大きいことから動力学的にも速度論的にも溶融しにくい(耐溶融性)、長鎖脂肪鎖からなる分子鎖の可とう性や、アミド結合間の水素結合形成のためにフィブリル化やキンクバンドが生じにくい性質、すなわち繰返し屈伸性など、担体として好ましい性能を活用することができるためである。
【0020】
本明細書においてポリオレフィンとは、オレフィン類をモノマーとして合成される高分子からなる繊維を指す。
ポリオレフィンとしては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン等が挙げられ、ポリエチレン、ポリプロピレンが好ましい。ポリエチレンは、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレンを用いることが出来る。
【0021】
本明細書においてポリエステルとは、化学構造単位が主としてエステル結合で結合されている線状高分子からなる繊維を指す。
ポリエステルとしては、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート等が挙げられ、ポリエチレンテレフタレートが好ましい。
【0022】
その他、ポリウレタン、セルロースエステル、ビニロン、アクリル等の繊維としては、特開2009−113030の担体として記載されているものを用いることができる。
【0023】
上記繊維は単独でも十分に実用的な有害物質除去材用の担体を形成することが可能であるが、強度や寸度安定性を更に向上させる等の目的で、他の繊維との混紡繊維により担体を形成してもよい。混紡繊維として用いる場合には、主とする繊維(好ましくはポリアミド、ポリオレフィン又はポリエステル)の質量分率が50%以上であることが望ましく、70%以上であることが更に望ましい。
【0024】
また混紡繊維としては、親水的な繊維と疎水的な繊維との混紡繊維であることも好ましい。抗体を担体に担持すると、抗体が担持された担体の表面は一般的に親水的になるが、親水的な繊維と疎水的な繊維との混紡繊維を担体として用いることにより、抗体を担持しやすい傾向にある親水的な繊維が抗体を担持しつつ、抗体を担持しにくい傾向にある疎水的な繊維が、疎水的な表面を維持することで、混紡繊維全体として、抗体の担持後も疎水性がある程度維持される。本発明においては、上述のように抗体を固定化した後のマスク用有害物質除去材の水に対する接触角が90°以上であるように、疎水的であることが好ましいので、親水的な繊維と疎水的な繊維との混紡繊維が好ましく使用される。
そのような混紡繊維として具体的には、ポリアミドとポリオレフィンとの混紡繊維、ポリアミドとポリエステルの混紡繊維が挙げられ、混紡繊維における質量比がポリアミド/ポリオレフィン又はポリエステル=30/70〜70/30であることが好ましく、40/60〜60/40であることがより好ましい。
また、芯部と鞘部の材質が異なる芯/鞘構造の繊維でも良い。
【0025】
また強度や寸度安定性を向上させる目的で、担体を金属・高分子材料・セラミックス等の他の適切な構造材料により補強してもよい。これらの補強材は、有害物質除去材料を供給する側面の実質的な最表面以外の部分(例えば、該側面の反対面や芯材に用いる等)に用いることが望ましい。
【0026】
担体として用いられる繊維の平均繊維径は、50μm以下であることが好ましく、45μm以下であることがより好ましく、35μm以下であることが最も好ましい。担体として用いられる繊維の平均繊維径は、一般的に0.5μm以上である。なお、本明細書において平均繊維径とは走査型電子顕微鏡(SEM)の観察画像から任意の300箇所における繊維中の直径を測定し、それを算術平均することによって求めた数値である。
担体として用いられる繊維の厚さは、0.05〜0.5mmであることが好ましく、0.1〜0.3mmであることがより好ましい。
担体として用いられる繊維の坪量は、5〜50g/mであることが好ましく、10〜30g/mであることがより好ましい。
【0027】
<担体の製造方法>
本発明において担体として用いられる繊維の作製法としては、溶融紡糸、湿式紡糸、乾式紡糸、湿乾式紡糸など一般的な製造法や、物理的処理(例えば超高圧ホモジナイザーによる強力な機械的せん断処理)によって繊維を微細化する方法などが挙げられるが、安定な品質を確保するためには、乾式紡糸若しくは湿乾式紡糸法を用いることが好ましい。平均繊維径が100nm以下で均一な繊維を作製するためには、更に加工技術、2005年、40巻、No.2、101頁、及び167頁;Polymer International誌、1995年、36巻、195〜201頁;Polymer Preprints誌、2000年、41(2)号、1193頁;Journal of Macromolecular Science : Physics誌、1997年、B36、169頁などに開示されている電界紡糸法を採用することが好ましい。
【0028】
紡糸に用いる溶媒としては、塩化メチレン、クロロホルム、ジクロロエタンなどの塩素系溶媒、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンなどのアミド系溶媒、アセトン、エチルメチルケトン、メチルイソプロピルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶媒、THF、ジエチルエーテルなどのエーテル系溶媒、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール系溶媒、水など、合成樹脂繊維に用いられる樹脂を溶解するものであれば何でも用いることができる。これらの溶媒は単独で用いてもよいし、複数種混合して用いてもよい。
【0029】
電界紡糸法を採用する場合には樹脂溶液に、更に塩化リチウム、臭化リチウム、塩化カリウム、塩化ナトリウムなどの塩を添加してもよい。
【0030】
<担体の構造>
本発明の有害物質除去材の担体を構成する繊維同士は部分的に接着することにより三次元ネットワークを形成している構造をもつことが望ましい。かような構造をとることにより、加工並びに実用上の機械的耐性の向上、ひいては有害物質除去材の信頼性をあげることができる。また抗体の保持特性を上げることができる。繊維同士の接着はSEM等の方法で観察することができる。繊維同士の接着点の密度は、該有害物質除去材の投影表面積に対して1mm角辺り10箇所以上存在することが好ましく、100箇所以上であることがより好ましい。
【0031】
接着点を形成する方法としては、乾式紡糸法で形成される癒着や溶融紡糸法で形成される融着点で形成してもよいし、紡糸後に加熱や、接着剤・可塑化溶剤等の添加による接着点形成処理を行ってもよい。製造コストの観点では適切な溶液処方により乾式紡糸法で癒着点を形成させることが好ましい。
【0032】
本発明に担体として用いられる繊維は、不織布を形成していることが好ましい。不織布の製造方法については特に制限はなく、目的・用途に応じて、乾式法、湿式抄造法、メルトブローン法、スパンボンド法、フラッシュ紡糸法、エアレイド法などで得られたウェブを水流交絡法、ニードルパンチ法、ステッチボンド法などの物理的方法、サーマルボンド法などの熱による接着方法、レジンボンドなどの接着剤による接着方法で強度を発現させる方法を適宜組み合わせて製造することができる。
【0033】
また繊維をプラズマ、酸、アルカリ、酵素等で処理してもよい。このような処理を行うことで表面の親疎水性を調節できる。
【0034】
<抗体>
本発明においては、抗体としてスギ花粉由来アレルゲンに対する抗体を前記担体に担持させる。
抗体は、特定の有害物質(抗原)に対して特異的に反応(抗原抗体反応)するタンパク質である。
ここで「スギ花粉由来アレルゲンに対する抗体」とは、スギ花粉由来アレルゲンに結合する抗体であれば特に限定されない。本発明においては、「スギ花粉由来アレルゲンに対する抗体」が、ヒノキ花粉由来アレルゲンに交差する抗体(即ちスギ花粉由来アレルゲンとヒノキ花粉由来アレルゲンに対する抗体)であることも好ましい。
【0035】
前記抗体の製造方法としては、例えば、ヤギ、ウマ、ヒツジ、ウサギ等の動物に抗原を投与し、その血液からポリクローナル抗体を精製する方法、抗原を投与した動物の脾臓細胞と培養癌細胞とを細胞融合し、その培養液又は融合細胞を植え込んだ動物の体液(腹水等)からモノクローナル抗体を精製する方法、抗体産生遺伝子を導入した遺伝子組み換え細菌、植物細胞、動物細胞の培養液から抗体を精製する方法、鳥類、特にニワトリ又はダチョウに抗原を投与して免疫卵を産ませ、卵黄液を殺菌及び噴霧乾燥して得た卵黄粉末から鳥類卵抗体(例えば、ニワトリ卵抗体又はダチョウ卵抗体)を精製する方法、卵黄液を脱脂、硫安分画、透析により精製して鳥類卵抗体液(例えば、鶏卵抗体液又はダチョウ卵抗体液)を精製する方法を挙げることができる。
【0036】
これらのうちでも、鳥類卵(例えば、鶏卵又はダチョウ卵)から抗体を得る方法は、容易にかつ大量に抗体が得られ、有害物質除去材の低コスト化を図ることができる。
【0037】
本発明の有害物質除去材に用いられる抗体は鳥類卵由来の抗体であることが好ましく、鶏卵抗体又はダチョウ卵抗体であることがより好ましく、ダチョウ卵抗体であることが特に好ましい。
具体的には、ダチョウに抗原を投与して免疫卵を産ませ、卵黄液を殺菌及び噴霧乾燥して得た卵黄粉末からダチョウ卵抗体を精製する方法、卵黄液を脱脂、硫安分画、透析により精製してダチョウ卵抗体液を精製する方法が好ましく挙げられる。より具体的には、国際出願公開第2007/026689公報の[0009]から[0019]に記載の方法と同様に行うことが出来る。
【0038】
動物又は鳥類に免役する抗原は、スギ花粉由来アレルゲンを含有するもの、又はスギ花由来アレルゲンと共通抗原性をもつアレルゲンを含有するもの(例えばヒノキ花粉由来アレルゲン)であれば、特に限定されないが、例としては、花粉粒子、花粉の粗抽出物、花粉アレルゲン精製物、合成ペプチド、組み替えタンパク質などが挙げられ、花粉粒子、花粉の粗抽出物がより好ましい。
花粉としては特に限定されないが、例としては、スギ、ヒノキ、ブタクサ、イネ、マツ、イチョウ、ヤナギ、カバノキ、ブナ、ニレ、ヨモギ、タデ、イラクサ、クワ、キク、カモガヤ、シラカバの花粉などが挙げられ、ヒノキ科植物の花粉が好ましく、スギの花粉がより好ましい。
ここでスギは、ヒノキ科(Cupressaceae)、スギ亜科(Taxodioideae)、又はスギ科(Taxodiaceae)に分類される木を含むが、好ましくはスギ属(Cryptomeria)、より好ましくはCryptomeria japonicaである。
【0039】
免役する抗原としての花粉由来アレルゲンとしては特に限定されないが、上述の花粉由来のアレルゲンが挙げられる。具体的には、スギ花粉由来のCry j 1、Cry j 2、ヒノキ花粉由来のCha o 1、Cha o 2、が挙げられ、スギ花粉由来のCry j 1、Cry j 2がスギ花粉アレルゲンに対する結合力の観点から好ましい。
【0040】
本発明のマスク用有害物質除去材は、抗体の担持量が、0.1mg/m以上3.0mg/m以下である。抗体の担持量は、0.3mg/m以上2.5mg/m以下であることが更に好ましく、0.5mg/m以上2.0mg/m以下であることが特に好ましい。この範囲とすることで、抗体の作用を充分に発揮しつつ、使用者が感作することを充分避けられる。更に、抗体の担持量を極端に多くしても、アレルゲン溶出効果は飽和するので、コストを鑑みると好ましくない。
本発明の一態様としては、アレルゲンの溶出抑制に対するの観点から、前記担体の水に対する接触角が100°以上130°以下であり、かつ、前記抗体の担持量が0.5mg/m以上2.0mg/m以下であることが好ましい。
【0041】
前記担体に抗体を担持する(固定化する)方法としては、前記担体に抗体を物理的に吸着させる方法のほか、担体をγ−アミノプロピルトリエトキシシランなどを用いてシラン化した後、グルタールアルデヒドなどで担体表面にアルデヒド基を導入し、アルデヒド基と抗体とを共有結合させる方法、未処理の担体を抗体の水溶液中に浸漬してイオン結合により抗体を担体に固定化する方法、特定の官能基を有する担体にアルデヒド基を導入し、アルデヒド基と抗体とを共有結合させる方法、特定の官能基を有する担体に抗体をイオン結合させる方法、特定の官能基を有するポリマーで担体をコーティングした後にアルデヒド基を導入し、アルデヒド基と抗体とを共有結合させる方法をあげることができる。
【0042】
ここで、前記の特定の官能基としては、NHR基(RはH以外のメチル、エチル、プロピル、ブチルのうちいずれかのアルキル基)、NH基、CNH基、CHO基、COOH基、OH基を挙げることができる。
【0043】
また、前記担体表面の官能基を、BMPA(N−β−Maleimidopropionic acid)などを用いて他の官能基に変換した後、その官能基と抗体とを共有結合させる方法もある(BMPAではSH基がCOOH基に変換される)。
【0044】
更に、前記抗体のFcの部分に選択的に結合する分子(Fcレセプター、プロテインA/Gなど)を担体表面に導入し、それに抗体のFcを結合させる方法もある。この場合、有害物質を捕捉するFabが担体に対して外向きになり、Fabへの有害物質の接触確率が高くなるので、効率よく有害物質を捕捉することができる。
【0045】
前記抗体は、リンカーを介して担体に担持されていてもよい。この場合、担体上での抗体の自由度が高くなり、有害物質への接近が容易となるので、高い除去性能を得ることができる。リンカーとしては、二価以上のクロスリンク試薬を挙げることができ、具体的にはマレイミド、NHS(N−Hydroxysuccinimidyl)エステル、イミドエステル、EDC(1−Ethyl−3−[3−dimethylaminopropyl]carbodiimido)、PMPI(N−[p−Maleimidophenyl]isocyanate)があり、標的官能基(SH基、NH基、COOH基、OH基)に選択的なものと非選択的なものとがある。また、クロスリンク間の距離(スペースアーム)もクロスリンク試薬ごとに異なっており、目的の抗体に応じて0.1nm〜3.5nm程度の範囲で選択することができる。有害物質を効率的に捕捉するという観点からは、リンカーとして抗体のFcに結合するものが好ましい。
【0046】
リンカーを導入する方法としては、抗体にリンカーを結合させておき、それを更に抗体に結合する方法、担体にリンカーを結合させておき、担体上のリンカーに抗体を結合させる方法のいずれも可能である。
【0047】
本発明の有害物質除去材の製造方法としては、特に限定されないが、例えば、抗体を含む溶液(担持液)に担体を浸漬して抗体を担体に結合させることにより製造する方法が挙げられる。例えば、後述の抗体安定化剤を、上記担持液に溶解又は分散させてもよく、別に抗体安定化剤を溶解又は分散した溶液を用意し、抗体の担持前又は後に担体を浸漬させてもよい。このうち、抗体並びに抗体安定化剤を含む担持液を用いることが好ましい。抗体と抗体安定化剤とを同時に担体に担持させることが可能であるためである。
該溶液は、抗菌剤、抗カビ剤などの添加剤を含んでいてもよい。
【0048】
なお、担持液における抗体と抗体安定化剤との含有量比は、通常本発明の有害物質除去材において担体に担持される抗体と抗体安定化剤との含有量比に反映されるものと考えることができる。
【0049】
不織布に抗体を担持する場合、抗体液を希釈した担持液に、不織布を浸せきする方法が、好ましく用いられる。担持液を素早く不織布に浸透させるにために、担持液に有機溶剤を加え、静的表面張力を下げる方法が、好ましく用いられる。
有機溶剤としては水と混和する有機溶剤であれば特に限定されないが、アルコール型溶媒が好ましく、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノールがより好ましい。
担持液における有機溶剤の濃度は、好ましくは0〜15質量%であり、より好ましくは5〜10質量%である。このような濃度範囲とすることで、担持液の静的表面張力を下げることができ、かつ、有機溶剤を混和しすぎることにより抗体が失活することが抑制されるので好ましい。
【0050】
本発明の有害物質除去材は、抗体安定化剤として糖、アミノ酸、SH基保護剤、界面活性剤から選択される少なくとも1種類を含んでもよい。これらの抗体安定化剤を含むことによって、担体に担持されている抗体の変性が防止でき、使用環境に左右されずに、抗体の活性が長期間保持される。このような抗体安定化剤としては、特開2009−113030に記載されているものを用いることができる。
【0051】
<マスク>
本発明は、本発明のマスク用有害物質除去材を用いたマスクにも関する。本発明のマスク用有害物質除去材を有するマスクとしては、上述のマスク用有害物質除去材を用いていれば特に限定されず、公知の構成をとることができる。マスクは一般的に、織布や不織布などの通気性材料、非通気性シートに孔を設けて通気性を持たせたものなどによる通気性布部と、該布部を口を覆うように固定する紐などの保持部とから成る。具体的には、特開2005−169105に記載の構造などを用いることができる。
本発明の有害物質除去材は、この通気性布部を構成する材料に含まれることが好ましい。
通気性布部が多層構成の場合、有害物質除去材が多層のうちの少なくとも一層を構成していることが好ましい。この際、抗原の溶出を避けるため、有害物質除去材が中心より口に近い層に設けられていることが好ましく、口側表面又は表面から2番目の層が有害物質除去材による層であることが好ましい。
有害物質除去材は、マスクに固定されている必要はなく、例えば既成のマスクに差し込んで使用してもよい。
また、マスクは口を覆うものに限らず、鼻孔内に設置するものや、フルフェイス型のヘルメットの通気部に貼り付けるものであってもよい。
【0052】
また本発明は、上記本発明のマスクを用いて、スギ花粉由来アレルゲンを捕捉する方法にも関する。本発明のスギ花粉由来アレルゲンを捕捉する方法によれば、マスクに物理的に捕捉されたスギ花粉に含有されるアレルゲン(例えば、Cryj1、Cryj2)が、本発明のマスクに備えられた有害物質除去材に担持されているスギ花粉由来アレルゲンに対する抗体により特異的に捕捉されることで、呼吸に含まれる湿気、くしゃみ、結露等により濡れた場合にでも、アレルゲンが溶出することを抑制できる。
【実施例】
【0053】
以下に、本発明を実施例によって更に詳細に説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0054】
[作成例1]
担体として、厚さ0.15mm、坪量20g/m、平均繊維径20μmのナイロン製スパンボンド不織布(商品名:エルタスN01020、ユニチカ社製)を用いた。
上記担体に水2μlを滴下し、側面よりデジタルマイクロスコープ(VHX−1000、キーエンス製)で撮影し、担体から水滴頂点までの距離h、水滴と担体の接触長さ2rを測定し、接触角θを、θ=2tan−1h/rから求めた。上記担体の水に対する接触角は120°であった。
ぬれ張力試験用混合液No.50.0(和光純薬製、ぬれ張力が50mN/mの液体)を用いて、担体の水に対する接触角と同様の方法により、上記担体の、ぬれ張力が50mN/mの液体に対する接触角を測定した。ぬれ張力が50mN/mの液体は瞬時に担体に浸透したため、接触角の測定は不可能であった。なお表1においては、ぬれ張力が50mN/mの液体に対する接触角を、「<1」と表記した。
抗体としては、スギ花粉粗抽出物を投与したダチョウが産んだ免疫卵の卵黄液を、脱脂、硫安分画、透析により精製して得たダチョウ卵抗体液を用いた。ダチョウ卵抗体液を希釈した担持液にイソプロパノールを7質量%となるように添加し、担持液のぬれ張力を47mN/mに調整した。また、担持液における抗体濃度は、抗体の担持後の担体における抗体の担持量が1.2mg/mとなるよう希釈して調製した。担体としての前記不織布を、上記のように調整した担持液に浸せきしたところ、瞬時に担持液が浸透した。浸せきした不織布を乾燥させて、フィルター試料F−1を得た。なお抗体の担持量は、担持液への浸せき前の不織布と、浸せき後の不織布(フィルター試料F−1)との重量の変化から計算により求めた。
得られたフィルター試料F−1について、担体の水に対する接触角と同様の方法により、水に対する接触角を測定した。水は瞬時にフィルター試料F−1に浸透したため、接触角の測定は不可能であった。なお表1においては、フィルター試料F−1の水に対する接触角を、「<1」と表記した。
【0055】
[作成例2]
担体として、厚さ0.19mm、坪量20g/m、平均繊維径20μmのポリプロピレン製スパンボンド不織布(商品名:エルタスP03020、ユニチカ社製)を用いた。
作成例1と同様にして測定した、担体の水に対する接触角は135°であり、ぬれ張力が50mN/mの液体に対する接触角は110°であった。
抗体の担持液は、作成例1と同様のものを用いた。担体としての前記不織布を、前記担持液に浸せきしたところ浸透せず、不織布を叩いて担持液を浸透させた。浸せきした不織布を乾燥させて、フィルター試料F−2を得た。なお、抗体の担持後の担体における抗体の担持量が1.2mg/mとなるように、担持液の浸透を調整した。
得られたフィルター試料F−2について、作成例1と同様にして、水に対する接触角を測定した。フィルター試料F−2の水に対する接触角は110°であった。
【0056】
[作成例3]
作成例2で用いた不織布にプラズマ処理を15秒施し(プラズマプロセス装置BH−10、ニッシン社製)、水及びぬれ張力が50mN/mの液体が瞬時に浸透する不織布を得た。水及びぬれ張力が50mN/mの液体に対する接触角の測定は不可能であったため、表1においては、これらに対する接触角を、「<1」と表記した。
該不織布を担体に用いた以外は作成例1と同じ方法にて、フィルター試料F−3を得た。なお、担体を担持液に浸せきしたところ、瞬時に担持液が浸透した。
得られたフィルター試料F−3について、作成例1と同様にして、水に対する接触角を測定した。水は瞬時にフィルター試料F−3に浸透したため、接触角の測定は不可能であった。なお表1においては、フィルター試料F−3の水に対する接触角を、「<1」と表記した。
【0057】
[作成例4]
担体として、厚さ0.2mm、坪量20g/m、平均繊維径20μmのナイロン/ポリプロピレン混紡スパンボンド不織布(質量比でナイロン:ポリプロピレン=1:1)を用いた以外は作成例1と同じ方法にて、フィルター試料F−4を得た。不織布は、スパンボンド法によって作製した。ナイロンとポリプロピレンの樹脂チップを別の容器で加熱・溶融し、それぞれノズルからベルトコンベアに向けて押しだし、直接紡糸した。ナイロンとポリプロピレンの質量比が1:1になるように、押しだし速度を調整した。
作成例1と同様にして測定した、担体の水に対する接触角は125°であり、ぬれ張力が50mN/mの液体は、瞬時に担体に浸透したため、接触角の測定は不可能であった。なお表1においては、ぬれ張力が50mN/mの液体に対する接触角を、「<1」と表記した。なお、担体を担持液に浸せきしたところ、瞬時に担持液が浸透した。
得られたフィルター試料F−4について、作成例1と同様にして、水に対する接触角を測定した。フィルター試料F−4の水に対する接触角は100°であった。
【0058】
[比較作成例1]
担持液における抗体濃度を、抗体の担持後の担体における抗体の担持量が3.5mg/mとなるよう希釈して調製した以外は、作成例4と同じ方法でフィルター試料F−5を得た。
作成例1と同様にして測定した、担体の水に対する接触角は125°であり、ぬれ張力が50mN/mの液体は、瞬時に担体に浸透したため、接触角の測定は不可能であった。なお表1においては、ぬれ張力が50mN/mの液体に対する接触角を、「<1」と表記した。なお、担体を担持液に浸せきしたところ、瞬時に担持液が浸透した。
得られたフィルター試料F−5について、作成例1と同様にして、水に対する接触角を測定した。フィルター試料F−5の水に対する接触角は92°であった。
【0059】
[比較作成例2]
担持液における抗体濃度を、抗体の担持後の担体における抗体の担持量が0.05mg/mとなるよう希釈して調製した以外は、作成例4と同じ方法でフィルター試料F−6を得た。
作成例1と同様にして測定した、担体の水に対する接触角は125°であり、ぬれ張力が50mN/mの液体は、瞬時に担体に浸透したため、接触角の測定は不可能であった。なお表1においては、ぬれ張力が50mN/mの液体に対する接触角を、「<1」と表記した。なお、担体を担持液に浸せきしたところ、瞬時に担持液が浸透した。
得られたフィルター試料F−6について、作成例1と同様にして、水に対する接触角を測定した。フィルター試料F−6の水に対する接触角は120°であった。
【0060】
[作成例5]
担体として、厚さ0.2mm、坪量20g/m、平均繊維径20μmのナイロン/ポリプロピレン混紡スパンボンド不織布(質量比でナイロン:ポリプロピレン=3:7)を用いた以外は作成例1と同じ方法にて、フィルター試料F−7を得た。不織布は作成例4と、質量比を変えた以外は同様の方法で作成した。
作成例1と同様にして測定した、担体の水に対する接触角は130°であり、ぬれ張力が50mN/mの液体は、徐々に担体に浸透したため、接触角の測定は不可能であった。浸透時間は10秒であった。なお表1においては、ぬれ張力が50mN/mの液体に対する接触角を、「<1」と表記した。
得られたフィルター試料F−7について、作成例1と同様にして、水に対する接触角を測定した。フィルター試料F−7の水に対する接触角は105°であった。
【0061】
[作成例6]
担持液における抗体濃度を、抗体の担持後の担体における抗体の担持量が0.5mg/mとなるよう希釈して調製した以外は、作成例4と同じ方法でフィルター試料F−8を得た。
作成例1と同様にして測定した、担体の水に対する接触角は125°であり、ぬれ張力が50mN/mの液体は、瞬時に浸透したため、接触角の測定は不可能であった。なお表1においては、ぬれ張力が50mN/mの液体に対する接触角を、「<1」と表記した。なお、担体を担持液に浸せきしたところ、瞬時に担持液が浸透した。
得られたフィルター試料F−8について、作成例1と同様にして、水に対する接触角を測定した。フィルター試料F−8の水に対する接触角は110°であった。
【0062】
[作成例7]
担持液における抗体濃度を、抗体の担持後の担体における抗体の担持量が2.0mg/mとなるよう希釈して調製した以外は、作成例4と同じ方法でフィルター試料F−9を得た。
作成例1と同様にして測定した、担体の水に対する接触角は125°であり、ぬれ張力が50mN/mの液体は、瞬時に浸透したため、接触角の測定は不可能であった。なお表1においては、ぬれ張力が50mN/mの液体に対する接触角を、「<1」と表記した。なお、担体を担持液に浸せきしたところ、瞬時に担持液が浸透した。
得られたフィルター試料F−9について、作成例1と同様にして、水に対する接触角を測定した。フィルター試料F−9の水に対する接触角は95°であった。
【0063】
[作成例8]
担体として、厚さ0.2mm、坪量20g/m、平均繊維径20μmのナイロン/ポリプロピレン混紡スパンボンド不織布(質量比でナイロン:ポリプロピレン=7:3)を用いた以外は作成例1と同じ方法にて、フィルター試料F−10を得た。不織布は作成例4と、質量比を変えた以外は同様の方法で作成した。
作成例1と同様にして測定した、担体の水に対する接触角は122°であり、ぬれ張力が50mN/mの液体は、瞬時に浸透したため、接触角の測定は不可能であった。なお表1においては、ぬれ張力が50mN/mの液体に対する接触角を、「<1」と表記した。なお、担体を担持液に浸せきしたところ、瞬時に担持液が浸透した。
得られたフィルター試料F−10について、作成例1と同様にして、水に対する接触角を測定した。水は瞬時にフィルター試料F−10に浸透したため、接触角の測定は不可能であった。なお表1においては、フィルター試料F−10の水に対する接触角を、「<1」と表記した。
【0064】
[比較作成例3]
担持液における抗体濃度を、抗体の担持後の担体における抗体の担持量が5mg/mとなるよう希釈して調製した以外は、作成例4と同じ方法でフィルター試料F−11を得た。
作成例1と同様にして測定した、担体の水に対する接触角は125°であり、ぬれ張力が50mN/mの液体は、瞬時に担体に浸透したため、接触角の測定は不可能であった。なお表1においては、ぬれ張力が50mN/mの液体に対する接触角を、「<1」と表記した。なお、担体を担持液に浸せきしたところ、瞬時に担持液が浸透した。
得られたフィルター試料F−11について、作成例1と同様にして、水に対する接触角を測定した。フィルター試料F−11の水に対する接触角は90°であった。
【0065】
[比較作成例4]
抗体として、インフルエンザウイルスのヘマグルチニン分子を投与したダチョウが産んだ免疫卵の卵黄液を、脱脂、硫安分画、透析により精製して得たダチョウ卵抗体液を用いた以外は、作成例1と同じ方法でフィルター試料F−12を得た。
作成例1と同様にして測定した、担体の水に対する接触角は120°であり、ぬれ張力が50mN/mの液体は、瞬時に担体に浸透したため、接触角の測定は不可能であった。なお表1においては、ぬれ張力が50mN/mの液体に対する接触角を、「<1」と表記した。なお、担体を担持液に浸せきしたところ、瞬時に担持液が浸透した。
得られたフィルター試料F−12について、作成例1と同様にして、水に対する接触角を測定した。フィルター試料F−12の水に対する接触角は100°であった。
【0066】
[作成例9]
作成例3のプラズマ処理を5秒に変更した以外は、作成例3と同じ方法でフィルター資料F−13を得た。
作成例1と同様にして測定した、担体の水に対する接触角は70°であり、ぬれ張力が50mN/mの液体は、瞬時に担体に浸透したため、接触角の測定は不可能であった。なお表1においては、ぬれ張力が50mN/mの液体に対する接触角を、「<1」と表記した。なお、担体を担持液に浸せきしたところ、瞬時に担持液が浸透した。
得られたフィルター試料F−13について、作成例1と同様にして、水に対する接触角を測定した。水は瞬時にフィルター試料F−13に浸透したため、接触角の測定は不可能であった。なお表1においては、フィルター試料F−13の水に対する接触角を、「<1」と表記した。
【0067】
<アレルゲン溶出量の測定>
フィルター試料F−1〜F−13について、花粉を付着させ、水に濡れた際に溶出されるアレルゲンであるCry j 1の溶出量を測定した。
[花粉の付着試験1]
浮遊花粉をフィルター試料に通過させることで、フィルターに花粉を付着させた。供試花粉はスギ花粉を使用した。前記各フィルター試料を5cm角に切り、花粉飛散試験装置の空気回収口に取り付けた。花粉飛散試験装置の底面中央にアルミカップを設置し、0.01g花粉を入れた。アルミカップ上側から空気を噴射し、花粉を飛散させた。空気回収口にて線速0.1m/s分の吸引速度で5分間試験装置内空気を吸引し、花粉を各フィルター試料に付着させた。
【0068】
[アレルゲン溶出試験1]
花粉を付着させたフィルター試料をステンレスシャーレにのせ、溶出液1mlを滴下した。溶出液にはリン酸緩衝生理食塩水を使用した。滴下後、ピペッティングによってフィルター全体に溶出液を浸透させた。滴下30分後、フィルターをマイクロチューブに回収し、遠心分離によってアレルゲン溶出液を回収した。回収後ELISA法によって、アレルゲン溶出液中のCry j 1量を求めた。結果はフィルター試料F−1を基準とした相対比で表した。
【0069】
<皮膚感作性試験>
フィルター試料F−1〜F−13について、皮膚感作性試験を行った。方法はAdjuvant and Patch Test法を用いた。1試料につき、10頭のモルモットを用いて試験を行い、皮膚反応能有無を観察し、評点化したものを平均した。評点は次の基準で行った。0:反応無し、1:ごく軽度の紅斑、2:明らかな紅斑、3:中程度から強い紅斑、4:強い紅斑に軽い痂皮。
【0070】
結果を以下の表1に示す。
【0071】
【表1】

【0072】
表1から明らかなように、本発明のフィルターはCry j 1溶出量が少なく、Cry j 1溶出抑制効果が高く、かつ、皮膚感作性が低く、安全性が高いことがわかった。
また、担体の水に対する接触角が90°以上の場合、よりCry j 1溶出抑制効果が高いことがわかった。また、担体のぬれ張力50mN/mの液体に対する表面張力が90°以下の場合、担体へ担持液が瞬時に浸透するため、抗体の担持が容易であることがわかった。また、試料の水に対する接触角が90°以上の場合、よりCry j 1溶出抑制効果が高いことがわかった。
【0073】
[花粉の付着試験2]
浮遊花粉をフィルター試料に通過させることで、フィルターに花粉を付着させた。供試花粉はヒノキ花粉を使用した。前記各フィルター試料を5cm角に切り、花粉飛散試験装置の空気回収口に取り付けた。花粉飛散試験装置の底面中央にアルミカップを設置し、0.01g花粉を入れた。アルミカップ上側から空気を噴射し、花粉を飛散させた。空気回収口にて線速0.1m/s分の吸引速度で5分間試験装置内空気を吸引し、花粉を各フィルター試料に付着させた。
【0074】
[アレルゲン溶出試験2]
花粉を付着させたフィルター試料をステンレスシャーレにのせ、溶出液1mlを滴下した。溶出液にはリン酸緩衝生理食塩水を使用した。滴下後、ピペッティングによってフィルター全体に溶出液を浸透させた。滴下30分後、フィルターをマイクロチューブに回収し、遠心分離によってアレルゲン溶出液を回収した。回収後ELISA法によって、アレルゲン溶出液中のCha o 1量を求めた。結果はフィルター試料F−1を基準とした相対比で表した。
【0075】
【表2】

【0076】
本発明のフィルターはCha o 1の溶出抑制効果もあることが明らかとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗体を担持した担体からなるマスク用有害物質除去材であって、前記抗体がスギ花粉由来アレルゲンに対する抗体であり、前記抗体の担持量が0.1mg/m以上3.0mg/m以下であることを特徴とする、マスク用有害物質除去材。
【請求項2】
前記担体の、水に対する接触角が90°以上170°以下であることを特徴とする、請求項1に記載のマスク用有害物質除去材。
【請求項3】
前記担体の、ぬれ張力が50mN/mである液体に対する接触角が0°以上90°以下であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のマスク用有害物質除去材。
【請求項4】
前記マスク用有害物質除去材の、水に対する接触角が90°以上170°以下であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載のマスク用有害物質除去材。
【請求項5】
前記担体の水に対する接触角が100°以上130°以下であり、かつ、前記抗体の担持量が0.5mg/m以上2.0mg/m以下であることを特徴とする、請求項2〜4のいずれか一項に記載のマスク用有害物質除去材。
【請求項6】
前記抗体が、スギ花粉由来アレルゲンとヒノキ花粉由来アレルゲンに対する抗体であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載のマスク用有害物質除去材。
【請求項7】
前記抗体が、鳥類卵由来の抗体であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載のマスク用有害物質除去材。
【請求項8】
前記担体が不織布であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載のマスク用有害物質除去材。
【請求項9】
前記担体が、親水的な繊維と疎水的な繊維との混紡繊維である、請求項1〜8のいずれか一項に記載のマスク用有害物質除去材。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載のマスク用有害物質除去材を用いたマスク。
【請求項11】
請求項10に記載のマスクを用いて、スギ花粉由来アレルゲンを捕捉する方法。

【公開番号】特開2012−187145(P2012−187145A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−50653(P2011−50653)
【出願日】平成23年3月8日(2011.3.8)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】