説明

マスターバッチ組成物、複合材料組成物、複合材料成型体、およびそれらの製造方法

【課題】本発明は、熱可塑性樹脂中の層状化合物の分散性をさらに高めて、機械的強度を高めることができるマスターバッチ組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、成分(A)層状化合物、および、成分(B)酸無水物がグラフトした、ビニル芳香族単量体単位および共役ジエン単量体単位を主体とする水添共重合体、を含有するマスターバッチ組成物であって、前記成分(A)の含有量が10wt%〜70wt%、成分(B)の含有量が30wt%〜90wt%であり、成分(B)の数平均分子量(Mn)が30万以下、成分(B)の酸無水物のグラフト量(酸価)が1mgCH3ONa/g以上であり、水添前の共重合体における共役ジエン由来の1、2ビニル含有率が15%以上である、マスターバッチ組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂改質用マスターバッチ組成物等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、熱可塑性樹脂の諸特性、特に剛性を改良するために、タルクなどの無機フィラーを混合して、その補強効果により諸特性を向上させることが実施されている。例えば、タルクは結晶性熱可塑性樹脂の剛性を向上させることが知られている。しかしながら、十分な剛性を得るためには多量のタルクを添加せねばならず、成形体の軽量化の要求には十分こたえられるものではなかった。そのため、少量の添加で大きな効果を示す無機フィラーが望まれていた。
【0003】
このため、近年、層状化合物の一種である粘土鉱物を無機フィラーとして用い、熱可塑性樹脂と無機層状化合物を含む組成物を、二軸押出機等を用いて溶融混合し、熱可塑性樹脂中に、層状粘土鉱物を層剥離させて、ナノオーダーで分散させることが試みられている。
【0004】
このような複合材料組成物においては、層状化合物を微分散させることが困難なため、予め、層状化合物と熱可塑性樹脂を含む組成物を混合し、マスターバッチ組成物を調製後、他の成分を混合して、複合材料組成物を製造する方法が提案されている。
【0005】
特許文献1には、マスターバッチ組成物として、層状珪酸塩と変性ポリオレフィンを必須成分とし、必要に応じて、非変性のポリオレフィンを含む組成物が提案されている。
【0006】
特許文献2の請求項13には、マスターバッチ組成物として、層状構造を有するクレー、変性ポリオレフィンおよび非変性のポリオレフィンを含む組成物が提案されている。
【0007】
特許文献3の段落0035には、マスターバッチ組成物として、層状珪酸塩および非変性のポリプロピレンを含む組成物が提案されている。
【特許文献1】特開2001−281847号公報
【特許文献2】特開2005−307201号公報
【特許文献3】特開2004−51827号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、熱可塑性樹脂中の層状化合物の分散性をさらに高めて、機械的強度を高めることができるマスターバッチ組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、下記の新規なマスターバッチ組成物を用いることで熱可塑性樹脂中の層状化合物の分散性を高めて、機械的強度を高めることができることを見出し、本発明をなすに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、
〔1〕成分(A)層状化合物、および、成分(B)酸無水物がグラフトした、ビニル芳香族単量体単位および共役ジエン単量体単位を主体とする水添共重合体、を含有するマスターバッチ組成物であって、前記成分(B)は、数平均分子量(Mn)が30万以下、酸無水物のグラフト量(酸価)が1mgCH3ONa/g以上、水添前の共重合体における共役ジエン由来の1,2−結合単位含有率が15%以上であり、前記成分(A)の含有量が10wt%〜70wt%、前記成分(B)の含有量が30wt%〜90wt%である、マスターバッチ組成物;
〔2〕前記成分(B)の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)が、1.1以上である、上記〔1〕に記載のマスターバッチ組成物;
〔3〕前記成分(B)の酸価が4mgCH3ONa/g以上である、上記〔1〕または〔2〕に記載のマスターバッチ組成物;
〔4〕前記成分(B)の数平均分子量(Mn)が8万以下である、上記〔1〕〜〔3〕のいずれか1項に記載のマスターバッチ組成物;
〔5〕X線回折分析において、回折角の2倍値(2θ)が1.5°から3.5°の範囲であり、層状化合物由来のピーク値が2.6°以下に存在するか、あるいはピークが存在しない、上記〔1〕〜〔4〕のいずれかに1項記載のマスターバッチ組成物;
〔6〕前記成分(B)中に含まれるグラフトしていない未反応物量が0.1mgCH3ONa/g以上、5mgCH3ONa/g以下である、上記〔1〕〜〔5〕のいずれか1項に記載のマスターバッチ組成物;
〔7〕上記〔1〕〜〔6〕のいずれか1項に記載のマスターバッチ組成物と、ポリオレフィン系樹脂とを含む複合材料組成物;
〔8〕上記〔1〕〜〔6〕のいずれかに1項記載のマスターバッチ組成物と、ポリオレフィン系樹脂とを含む複合材料成型体;
〔9〕少なくとも、成分(A)層状化合物、および、成分(B)酸無水物がグラフトした、ビニル芳香族単量体単位および共役ジエン単量体単位を主体とする水添共重合体、を含有する組成物を、スクリュー押出し機を用いて混合する工程を含むマスターバッチ組成物の製造方法、に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明のマスターバッチ組成物を用いれば、熱可塑性樹脂における層状化合物の分散性を高めて、当該樹脂の機械的強度を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の成分(A)である層状化合物とは、グラファイト、金属カルコゲン化合物、金属酸化物、金属リン酸塩、粘土鉱物等の層状構造を有する化合物を指す。このなかでも、高い層剥離性の点で、層状粘土鉱物が好ましい。
【0013】
層状粘土鉱物としては、モンモリナイト、サポタイト、ハイデライト、ノントライト、ヘクトライト、ステイブンサイト等のスメクタイト系や、バーミキュサイト、ハロイサイト、膨潤性マイカ等が挙げられる。天然又は合成の当該層状粘土鉱物のいずれも使用することができる。さらに、タルクにフッ素処理を行って膨潤性マイカに合成した化合物、あるいは水熱合成によって上記のような構造を得たものが例示される。また、層間に担持されているカチオンを、ナトリウム、カリウム、リチウム等のイオンで置換した種々の化合物が適用できる。
【0014】
層状粘度鉱物のなかでも、層剥離性および微分散性の点で、有機化処理された層状粘土鉱物が特に好ましい。層状粘度鉱物の有機化は、一般に湿式法が用いて行うことができる。層状珪酸塩を水やアルコール等で十分溶媒和させた後、有機カチオンを加え、撹拌し、層状珪酸塩の層間の金属イオンを有機カチオンに置換させる。その後、未置換の有機カチオンを十分に洗浄し、ろ過、乾燥する。その他、有機溶剤中で層状珪酸塩と有機カチオンを直接反応させたり、樹脂などの存在下で層状珪酸塩と有機カチオンを押出機中で加熱混練し反応させることも可能である。
【0015】
層状粘土鉱物の陽イオン交換容量は、有機化処理時の有機カチオンのイオン交換性が高い点で、50ミリ当量/100g以上が好ましく、層間剥性を高くする点で、200ミリ当量/100g以下が好ましい。
【0016】
層状粘土鉱物の有機化に用いる有機カチオンの例としては、ステアリルアンモニウムイオン、ヘキシルアンモニウムイオン、オクチルアンモニウムイオン、2−エチルヘキシルアンモニウムイオン、ドデシルアンモニウムイオン、オクタデシルアンモニウムイオン、ジオクチルジメチルアンモニウムイオン、トリオクチルアンモニウムイオン、ジステアリルアンモニウムイオン、1−ヘキセニルアンモニウムイオン、1−ドデセニルアンモニウムイオン、9−オクタデセルアンモニウムイオン、9,12−オクタデセルアンモニウムイオン、12−アミノドデカン酸と塩酸からなるアンモニウム塩、アルキルプロピレンジアミンと塩酸からなるアンモニウム塩等のアンモニウムイオン、テトラエチルホスフォニウムイオン、トリエチルベンジルフォスホニウムイオン、テトラ−n−ブチルホスフォニウムイオン、トリ−n−ブチルヘキサデシルホスフォニウムイオン等のホスフォニウムイオンが挙げられる。本発明においては、層状粘土鉱物の1種あるいは2種以上を使用してもよい。
【0017】
マスターバッチ組成物中の成分(A)の含有量は、経済性の点の10wt%以上が好ましく、15wt%以上がより好ましい。また、マスターバッチ組成物の溶融混合性の点では、70wt%以下が好ましく、より好ましくは60wt%以下、さらに好ましくは50wt%以下である。
【0018】
本発明の成分(B)は、ビニル芳香族単量体単位および共役ジエン単量体単位を主体とする重合体に水素添加し、酸無水物をグラフトさせたものである。
【0019】
ビニル芳香族単量体としては、例えばスチレン、P−メチルスチレン、第三級ブチルスチレン、α−メチルスチレン、1,1−ジフェニルエチレンなどの単量体が挙げられ、中でもスチレンが好ましい。
【0020】
共役ジエン単量体単位としては、ブタジエンやイソプレン等が上げられ、樹脂組成物の相溶性の点で、ブタジエンが好ましい。
【0021】
水素添加および酸無水物のグラフト前の共重合体は、マスターバッチの製造時の加工性や層状化合物の分散性、あるいは、ポリオレフィン系樹脂の機械的強度の点で、以下のようなブロック構造を有するものが好ましい。
【0022】
例えば下記の一般式
(A−B)n、A−(B−A)n、A−(B−A)n−B、B−(A−B)n
で表される直鎖状ブロック共重合体、或いは下記の一般式
[(A−B)km−X 、[(A−B)k−A]m−X
[(B−A)km−X 、[(B−A)k−B]m−X
で表される直鎖状ブロック共重合体あるいはラジアルブロック共重合体(上式において、Aはビニル芳香族炭化水素単位を主体とする重合体ブロックを示す。Bは、ジエン単位やビニル芳香族単位から選ばれる一つ以上の単位を主体とする重合体ブロックを示す。このなかでもB中のビニル芳香族単位量は、ポリオレフィン系樹脂の機械的強度の点で、50wt%以下が好ましい。30wt%以下がより好ましく、10wt%以下がさらに好ましい。n、kおよびmは、1以上の整数、一般的には1〜6である)である。
【0023】
Xは例えば四塩化ケイ素、四塩化スズ、エポキシ化大豆油、ポリハロゲン化炭化水素化合物、カルボン酸エステル化合物、ポリビニル化合物、ビスフェノール型エポキシ化合物、アルコキシシラン化合物、ハロゲン化シラン化合物、エステル系化合物等のカップリング剤の残基又は多官能有機リチウム化合物等の開始剤の残基を示す。熱可塑性共重合体およびその組成物の高い透明性の点で、非ハロゲン系のカップリング剤が好ましく、アルコキシシランがより好ましい。
【0024】
また、上記一般式で示される構造体が任意に組み合わされてもよい。カップリング剤化合物は単独で使用してもよいし、2種以上の混合物で使用してもよい。例えばビニル芳香族炭化水素とブタジエンの共重合体である場合、重合体ブロック中のビニル芳香族炭化水素単位は均一に分布してもまた不均一(例えばテーパー状)に分布してもよい。均一に分布した部分及び/又は不均一に分布した部分は各ブロックに複数個共存してもよい。
【0025】
水素添加および酸無水物のグラフト前の共重合体は、層状化合物の層剥離性や複合材料組成物の破壊強度を高める点で、ビニル芳香族単量体単位を主体とする重合体ブロックを2つ以上含有することが好ましい。ビニル芳香族単量体単位を主体とする重合体ブロックの含有率は、5wt%〜40wt%の範囲がより好ましく、10wt%〜30wt%の範囲がさらに好ましい。
【0026】
本発明では、「A単位を主体とする重合体ブロック」とはブロック中にA(モノマー)単位が60wt%以上含まれていることを指す。
【0027】
ブロック共重合体の製造方法としては、例えば特公昭36−19286号公報、特公昭43−17979号公報、特公昭46−32415号公報、特公昭49−36957号公報、特公昭48−2423号公報、特公昭48−4106号公報、特公昭56−28925号公報、特公昭51−49567号公報、特開昭59−166518号公報、特開昭60−186577号公報等に記載された方法が挙げられる。
【0028】
水添前の共重合体における共役ジエン由来のビニル含有量は、複合材料組成物の高い破壊強度の点で、15mol%以上が好ましく、25mol%以上がさらに好ましい。30mol%以上がより好ましく、35mol%以上がさらに好ましい。
【0029】
ビニル芳香族単量体単位および共役ジエン単量体単位を主体とする重合体の水添方法は、特に限定されるものではなく、公知の技術を用いて行われる。
【0030】
水添率は、マスターバッチ組成物の製造における耐熱性の点で、共役ジエン中の2重結合中の50mol%以上が好ましい。70mol%以上がより好ましく、85mol%以上がさらに好ましい。
【0031】
共重合体にグラフトさせる酸無水物とは、無水マレイン酸、無水ハイミック酸、4−メチルシクロヘキセ−4−エン−1,2−ジカルボン酸無水物、ビシクロ[2.2.2]オクト−5−エン−2,3−ジカルボン酸無水物、1,2,3,4,5,8,9,10−オクタヒドロナフタレン−2,3−ジカルボン酸無水物、2−オクタ−1,3−ジケトスピロ[4.4]ノン−7−エン、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2,3−ジカルボン酸無水物、テトラヒドロフタル酸無水物、x−メチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2,3−ジカルボン酸無水物、x−メチル−ノルボルネン−5−エン−2,3−ジカルボン酸無水物、ノルボルン−5−エン−2,3−ジカルボン酸無水物などの不飽和ジカルボン酸無水物を挙げることができる。酸無水物の中では、入手性やグラフト反応性の点で、無水マレイン酸または無水ハイミック酸が好ましい。
【0032】
上記不飽和カルボン酸無水物を2種以上組み合せて使用することもできるし、不飽和ジカルボン酸無水物と不飽和ジカルボン酸無水物の開環物を組み合わせて使用することもできる。必要に応じてこれらの不飽和ジカルボン酸無水物の開環物も使用することができる。
【0033】
成分(B)の酸無水物のグラフト量(酸価)は、層状化合物(A)の分散性の点で、1mgCH3ONa/g以上が必須である。4mgCH3ONa/g以上がより好ましく、6mgCH3ONa/g以上以上がさらに好ましく、7mgCH3ONa/g以上が最も好ましい。
【0034】
また、マスターバッチ組成物の酸無水物のグラフト量(酸価)は、成分(B)の比率とグラフト量(酸価)の積より求めることができ、層状化合物の分散性の点で、1.5mgCH3ONa/g以上が好ましい。2.5mgCH3ONa/g以上がより好ましく、5.5mgCH3ONa/g以上がさらに好ましい。
【0035】
酸価は、ナトリウムメチラートの滴定量より求めることができる。成分(B)中の酸無水物のグラフト量(酸価)は、例えば、アセトン洗浄後の共重合体を滴定することより求めることができる。
【0036】
一方、成分(B)中に含まれるグラフトしていない未反応物量(酸無水物の未反応物およびその開環物の未反応物の含有量)は、アセトン抽出物を滴定することより求めることができる。成分(B)中に含まれるグラフトしていない未反応物量(酸無水物の未反応物およびその開環物の未反応物の含有量)が、層状化合物(A)の分散性の点で0.1mgCH3ONa/g以上が好ましく、0.5mgCH3ONa/g以上がさらに好ましい。また、マスターバッチの保存安定性の点では5mgCH3ONa/g以下が好ましく、より好ましくは4mgCH3ONa/gであり、さらに好ましくは3mgCH3ONa/gである。上記の未反応物量を満たすには、減圧量を抑えることが好ましい。
【0037】
グラフトした酸無水物の開環率は、マスターバッチ製造時の安定した剥離性の点で90%以下が好ましい。50%以下がより好ましく、10%以下がさらに好ましい。
【0038】
ビニル芳香族単量体単位および共役ジエン単量体単位を主体とする重合体の水素添加物に酸無水物をグラフトさせるには、従来公知の種々の方法を採用することができる。例えば、ビニル芳香族化合物−共役ジエン化合物の共重合体水素添加物をトルエン、キシレン等の溶媒に溶解し、そこに不飽和ジカルボン酸無水物を添加してグラフト反応させる方法、あるいは、押出機を使用して、ビニル芳香族化合物−共役ジエン化合物の共重合体水素添加物を溶融し、そこに不飽和ジカルボン酸無水物を添加してグラフト反応させる方法等が挙げられる。いずれの場合にも前記不飽和カルボン酸無水物を効率よくグラフト共重合させるためには、ラジカル開始剤の存在下にグラフト反応を実施することが好ましい。グラフト反応は、通常60〜350℃の条件で行われる。ラジカル開始剤の使用割合は変性前のポリオレフィン樹脂100重量部に対して、通常0.001〜5重量部の範囲である。
【0039】
ラジカル開始剤としては、有機ペルオキシドが好ましく、例えばベンゾイルペルオキシド、ジクロルベンゾイルペルオキシド、ジクミルペルオキシド、ジ−tert−ブチルペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ペルオキシドベンゾエート)ヘキシン−3、1,4−ビス(tert−ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、ラウロイルペルオキシド、tert−ブチルペルアセテート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルペルオキシ)ヘキシン−3、2,5−ジメチル−2.5−ジ(tert−ブチルペルオキシ)ヘキサン、tert−ブチルペルベンゾエート、tert−ブチルペルフェニルアセテート、tert−ブチルペルイソブチレート、tert−ブチルペル−sec−オクトエート、tert−ブチルペルピバレート、クミルペルピバレートおよびtert−ブチルペルジエチルアセテートなどがあげられる。その他アゾ化合物、例えばアゾビスイソブチロニトリル、ジメチルアゾイソブチレートなどを用いることもできる。
【0040】
成分(B)の数平均分子量(Mn)は、層状化合物の剥離性の点で、4万以上が好ましく、押出加工性の点で、30万以下が好ましい。4万〜16万の範囲がより好ましく、5万〜8万の範囲がさらに好ましい。
【0041】
また、成分(B)の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)は、加工性の点で、1.1以上が好ましい。1.2以上がより好ましく、1.3以上がさらに好ましい。
【0042】
数平均分子量および重量平均分子量は、例えば、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー測定(装置:LC−10(島津製作所製、商品名)、カラム:TSKgelGMHXL(4.6mmID×30cm)2本、溶媒:テトラヒドロフラン)によるポリスチレン換算分子量より求めることができる。
【0043】
本発明のマスターバッチ組成物は、必要に応じて、成分(A)及び成分(B)に加え、非変性のビニル芳香族単量体単位および共役ジエン単量体単位を主体とする重合体の水添物を含有していても良い。このような重合体の水添物のマスターバッチ組成物中の含有量は、層状化合物の分散性の点で、40wt%以下が好ましく、25w%以下がより好ましく、10%以下がさらに好ましい。
【0044】
また、本発明のマスターバッチ組成物は、必要に応じて、成分(A)及び成分(B)に加え、変性や非変性の熱可塑性樹脂を含有しても良い。かかる熱可塑性樹脂の含有量は、層状化合物の分散性の点で、30wt%以下が好ましく、20wt%以下がより好ましく、10wt%以下がさらに好ましい。
【0045】
ここで、変性熱可塑性樹脂とは、水酸基、カルボキシル基、酸無水物基、エポキシ基、アミノ基、イミノ基、シラノール基、アルコキシシラン基から選ばれる官能基を少なくとも1個有する熱可塑性樹脂を指す。この中でも、該官能基を少なくとも1個有する変性ポリオレフィンが好ましい。
【0046】
変性ポリオレフィンに用いられるポリオレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン等のα−オレフィンの単独重合体あるいは2種類以上からなるランダムまたはブロック共重合体である。具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン−1、ポリイソブテン、ポリ3−メチルペンテン−1、ポリ4−メチルペンテン−1、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン−1共重合体、プロピレン−4−メチルペンテン−1共重合体、プロピレン−ブテン−1共重合体、エチレン−プロピレン−ブテン−1共重合体、デセン−1−4−メチルペンテン−1共重合体等が挙げられる。
【0047】
変性ポリオレフィンの製造例として、ポリオレフィンに不飽和単量体をグラフト共重合またはブロック共重合する方法が挙げられる。ここでいう不飽和単量体には、アクリル酸、メタクリル酸や、マレイン酸、イタコン酸などのモノまたはジカルボン酸およびその無水物である不飽和カルボン酸誘導体;(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸アミノエチルなどの(メタ)アクリル酸エステル類;ビニルトリメトキシシランやγ−アクリル酸プロピルトリメトキシシランなどのビニル基をもったアルコキシシランなどが含まれる。これらの中でも、層状珪酸塩の分散性に優れることから、特に無水マレイン酸やメタクリル酸グリシジルが好ましい。
【0048】
本発明で用いられる変性ポリオレフィンの重量平均分子量は、本発明の目的を損なわなければ、特に限定しないが、重量平均分子量は10,000以上が好ましく、30,000以上がより好ましい。
【0049】
また、本発明のマスターバッチ組成物には、必要に応じて、層状化合物の分散性の点で、ステアリン酸、オレイン酸あるいはリノール酸等の有機酸を少量添加しても構わない。
【0050】
本発明のマスターバッチ組成物の製造方法は、特に制限されるものではなく、公知の方法が利用できる。例えば、バンバリーミキサー、単軸スクリュー押出機、二軸スクリュー押出機、コニーダ、多軸スクリュー押出機等の一般的な混和機を用いた溶融混練方法、各成分を溶解又は分散混合後、溶剤を加熱除去する方法等が用いられ、特に押出機による溶融混練法が生産性、良混練性の点から好ましい。
【0051】
層状化合物の分散性の点で、二軸押出機による溶融混合法がより良い。層状化合物の分散性の点で、スクリュー回転数や溶融温度は高い方が良い。層状化合物や樹脂の熱劣化を抑える点で、300℃以下が好ましく、260℃以下がより好ましい。
【0052】
マスターバッチのすべての原料を混合してから二軸押出機に投入したり、成分(B)や熱可塑性樹脂等を二軸押出機に投入後、投入口より吐出側から、他の成分を、1回あるいは複数回に分けて投入しても良い。
【0053】
本発明のマスターバッチ組成物は、層状化合物の分散性の点で、X線回折分析において、回折角の2倍値(2θ)が1.5°から3.5°の範囲であることが好ましく、また、層状化合物由来のピーク値が2.7°未満に存在するか、あるいはピークが存在しないことが好ましい。ピーク値が存在する場合は、2.6°以下がより好ましく、2.4°以下がさらに好ましいが、ピークが存在しないのが最も好ましい。
【0054】
ピーク値は、マスターバッチ組成物を230℃で厚み1mmにプレスしたサンプルを、X線回折装置RINT2000(リガク製、商品名、ターゲット:Cu、40kV300mA)を用いて測定することができる。ピークが2つある場合は、ピーク値の平均値を指す。
【0055】
本発明のマスターバッチ組成物は、ポリオレフィンを主体とする複合材料組成物、特に、ポリプロピレンを主体とする複合材料組成物に好適である。
【0056】
複合材料組成物は、例えば、ポリプロピレンを主体とする樹脂等と、本発明のマスターバッチ組成物を、バンバリーミキサー、単軸スクリュー押出機、2軸スクリュー押出機、コニーダ、多軸スクリュー押出機等の一般的な混和機を用いた溶融混練により製造することができる。
【0057】
複合材料組成物中においては、成分(A)層状化合物の含有量が、複合材料組成物の高い剛性や破壊強度の点で、0.1wt%以上が好ましく、複合材料組成物の高い加工性や破壊強度の点で、10wt%以下が好ましい。0.3wt%〜7w%がより好ましく、0.5wt%〜5wt%の範囲がさらに好ましい。
【0058】
本発明はまた、本発明に係るマスターバッチ組成物とポリオレフィン系樹脂を混合して得られる複合材料成型体も提供する。かかる複合材料成型体は、本発明に係る複合材料組成物を所望の形状に成型することによって得られ、剛性や破壊強度に優れた高品質なものである。
【実施例】
【0059】
以下、参考例、実施例、及び比較例により本発明についてより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0060】
(1)マスターバッチ組成物の調製
(1−1)成分(A)の層状化合物
成分(A)層状化合物として、ジメチルジアルキルアンモニウム・合成マイカ(有機修飾フッ素化マイカ、ソマシフMAE、コープケミカル(株)製、商品名、有機物量:37wt%)を用いた。
【0061】
(1−2)水添共重合体の調製
(1−2−1)水添触媒の調製
ビニル芳香族単量体単位および共役ジエン単量体単位を主体とする共重合体の水素添加反応に用いた水素添加触媒は下記の方法で調製した。
窒素置換した反応容器に乾燥、精製したシクロヘキサン1リットルを仕込み、ビスシクロペンタジエニルチタニウムジクロリド100ミリモルを添加し、十分に攪拌しながらトリメチルアルミニウム200ミリモルを含むn−ヘキサン溶液を添加して、室温にて約3日間反応させた。
【0062】
(1−2−2)水添共重合体A−M0(酸無水物のグラフト無し)の調製
内容積が10Lの攪拌装置及びジャケット付き槽型反応器を使用してバッチ重合を行った。はじめに、シクロヘキサン6.4L、スチレン160gを加え、予めTMEDAをn-ブチルリチウムのLiモル数の0.50倍モルになるように添加し、所定量のn−ブチルリチウム開始剤を添加し、初期温度65℃で重合し、重合終了後、ブタジエン680gを含有するシクロヘキサン溶液(モノマー濃度22wt%)を60分間かけて一定速度で、連続的に反応器に供給し、重合終了後、スチレン160gを含有するシクロヘキサン溶液(モノマー濃度22wt%)を10分間かけて、一定速度で連続的に反応器に供給し、重合終了後、共重合体を得た。
スチレン含有量は、32wt%、ブタジエン中の1,2−結合単位は、33%であった。
得られた共重合体に、上記水素添加触媒をポリマー100重量部当たりチタンとして100ppm添加し、水素圧0.7MPa、温度75℃で水素添加反応を行った。得られたポリマー溶液に、安定剤としてオクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートを水添共重合体100質量部に対して0.3質量部添加した。
得られた水添共重合体の数平均分子量(Mn)は、6.8万で、水添共重合体中に含まれるブタジエンの二重結合中の水素添加率は、99%であった。
【0063】
(1−2−3)水添共重合体B−M0(酸無水物のグラフト無し)の調製
(1−2−2)と同様の手順で、n−ブチルリチウム開始剤を変更し、スチレン含有量は、32wt%、ブタジエン中の1,2−結合単位は、33%の水素添加前共重合体を得た。その後、同様に水素添加し、数平均分子量(Mn)は、13.2万で、水添共重合体中に含まれるブタジエンの二重結合中の水素添加率は、99%であった。
【0064】
(1−2−4)水添共重合体A−M5およびA−M10(酸無水物のグラフト有り)の調製
(1−2−2)で得られたA−M0を、2軸押出機中、ラジカル発生剤としてパーヘキサ25B(日本油脂(株)製、商品名)を用い、無水マレインを共重合体に反応させて、グラフト量(酸価)が5mgCH3ONa/gの共重合体(A−M5)および10mgCH3ONa/gの共重合体(A−M10)を得た。
【0065】
(1−2−5)水添共重合体B−M10(酸無水物のグラフト有り)の調製
(1−2−2)で得られたB−M0を、2軸押出機中、ラジカル発生剤としてパーヘキサ25B(日本油脂(株)製、商品名)を用い、無水マレインを共重合体に反応させて、グラフト量(酸価)が10mgCH3ONa/gの共重合体を得た。
【0066】
(1−2−6)水添共重合体C−M5(酸無水物のグラフト有り)の調製
(1−2−2)と同様の手順で、n−ブチルリチウム開始剤を変更し、スチレン含有量は32wt%、ブタジエン中の1,2−結合単位は45%の水素添加前共重合体を得た。その後、同様に水素添加し、数平均分子量(Mn)は、9.0万で、水添共重合体中に含まれるブタジエンの二重結合中の水素添加率は、99%であった。
得られたポリマーを2軸押出機中、ラジカル発生剤としてパーヘキサ25B(日本油脂(株)製、商品名)を用い、無水マレインを共重合体に反応させた。その後、アセトン洗浄した。
得られた共重合体に含まれるグラフト量(酸価)が5mgCH3ONa/gで、グラフトしていない未反応量(酸価)は、0.2mgCH3ONa/gであった。
各水添共重合体の分子量、グラフト量(酸価)およびグラフトしていない未反応量(付加分子鎖に付加できなかった酸無水物およびその開環物含有量)を表1に示す。
【0067】
【表1】

【0068】
(1−3)マスターバッチ組成物の調製
表2に示す組成を、二軸押出機を用いて、250℃250rpmで、マスターバッチ組成物を調整した。
【0069】
(2)複合材料組成物組成物の調製
本発明の複合材料組成物として、ポリプロピレン組成物を調整した。(1−3)で得られたマスターバッチ組成物を用い、ソマシフMAE量が、4wt%になるように、ポリプロピレンBC03MSW(日本ポリプロ株式会社製、商品名)を加えて、二軸押出機で混合した。
【0070】
(3)評価方法
(3−1)スチレン含有量、1,4−結合/1,2−結合単位、エチレン単位あるいはブチレン単位量
ビニル芳香族単量体単位、ブタジエンの1,4−結合単位および1,2−結合単位、エチレン単位あるいはブチレン単位量は、核磁気共鳴スペクトル解析(NMR)により測定した。測定機器に、JNM−LA400(JEOL製、商品名)、溶媒に、重水素化クロロホルムを用い、サンプル濃度50mg/ml、観測周波数は400MHz、化学シフト基準に、TMS(テトラメチルシラン)、パルスディレイ2.904秒、スキャン回数64回、パルス幅45°、および測定温度26℃で行った。
【0071】
(3−2)重量平均分子量及び分子量分布
装置に、LC−10(島津製作所製、商品名)、カラムに、TSKgelGMHXL(4.6mmID×30cm)2本を使用し、オーブン温度40℃、溶媒にはテトラヒドロフラン(1.0ml/min)で測定を行った。ポリスチレン換算分子量として重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)および分子量分布(Mw/Mn)を算出した。
【0072】
(3−3)マスターバッチ中のフィラーの分散性
表2のマスターバッチ組成物を、230℃で厚み1mmにプレスしたサンプルを、X線回折装置RINT2000(リガク製、商品名、ターゲット:Cu、40kV300mA)を用いて測定し、回折角の2倍値(2θ)が1.5°から3.5°の範囲を解析する。
2.2°以下あるいはピークが存在しないのが最も細かく分散し、◎とし、2.2°より大きく2.4°以下が次に良く、○とし、2.4°より大きく2.6°以下が次に良く、○‘とし、2.7°以上を×とした。
【0073】
(3−4)ポリプロピレン組成物の弾性率
(2)で得られたポリプロピレン組成物を、230℃で、厚み3mm、幅10mm、長さ80mmに射出成型した短冊型のサンプルを、23℃、50%RHで、3点曲げ、支点間距離50mm、試験速度2mm/分で測定した。大きな値ほど好ましい。
【0074】
[実施例1〜5、比較例1]
実施例1〜5、比較例1の評価試験結果を表2に記載する。
酸無水物のグラフト量(酸価)が1mgCH3ONa/g以上で、はじめて、マスターバッチ中の層状化合物の分散性が高く、そのマスターバッチを用いて調製したプロピレン組成物は、高い弾性率を示すことが分かる。
そのなかでも、酸無水物のグラフト量が6mgCH3ONa/g以上で、数平均分子量(Mn)が8万以下で、グラフトしていない未反応物量(酸無水物の未反応物およびその開環物の未反応物の含有量)が0.5mgCH3ONa/g以上では、非常に良好な層状化合物の分散性および高い弾性率のプロピレン組成物を得ることができることが分かる。
【0075】
【表2】

【0076】
[実施例1、6および7、比較例2]
実施例1、6、7及び比較例2の評価試験結果を表3に記載する。
成分(A)の含有量が10wt%〜70wt%、成分(B)の含有量が30wt%〜90wt%で、はじめて、マスターバッチ中の層状化合物の分散性が高まる。
【0077】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明のマスターバッチ組成物は、ポリプロピレン樹脂系等の複合材料組成物等の分野で好適に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分(A)層状化合物、および、
成分(B)酸無水物がグラフトした、ビニル芳香族単量体単位および共役ジエン単量体単位を主体とする水添共重合体、を含有するマスターバッチ組成物であって、
前記成分(B)は、数平均分子量(Mn)が30万以下、酸無水物のグラフト量(酸価)が1mgCH3ONa/g以上、水添前の共重合体における共役ジエン由来の1,2−結合単位含有率が15%以上であり、
前記成分(A)の含有量が10wt%〜70wt%、前記成分(B)の含有量が30wt%〜90wt%である、マスターバッチ組成物。
【請求項2】
前記成分(B)の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)が、1.1以上である、請求項1に記載のマスターバッチ組成物。
【請求項3】
前記成分(B)の酸価が4mgCH3ONa/g以上である、請求項1または2に記載のマスターバッチ組成物。
【請求項4】
前記成分(B)の数平均分子量(Mn)が8万以下である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のマスターバッチ組成物。
【請求項5】
X線回折分析において、
回折角の2倍値(2θ)が1.5°から3.5°の範囲であり、
層状化合物由来のピーク値が2.6°以下に存在するか、あるいはピークが存在しない、請求項1〜4のいずれかに1項記載のマスターバッチ組成物。
【請求項6】
前記成分(B)中に含まれるグラフトしていない未反応物量が0.1mgCH3ONa/g以上、5mgCH3ONa/g以下である、請求項1〜5のいずれか1項に記載のマスターバッチ組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のマスターバッチ組成物と、ポリオレフィン系樹脂とを含む複合材料組成物。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかに1項記載のマスターバッチ組成物と、ポリオレフィン系樹脂とを含む複合材料成型体。
【請求項9】
少なくとも、
成分(A)層状化合物、および、
成分(B)酸無水物がグラフトした、ビニル芳香族単量体単位および共役ジエン単量体単位を主体とする水添共重合体、を含有する組成物を、スクリュー押出し機を用いて混合する工程を含むマスターバッチ組成物の製造方法。

【公開番号】特開2008−163191(P2008−163191A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−354395(P2006−354395)
【出願日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】