説明

マッサージ支援装置及び方法

【課題】マッサージにおいて、施術者や周囲環境などによる品質ばらつきが発生せず、誰がいつどこで行っても一定品質のマッサージが提供できるマッサージ支援装置及び方法を提供する。
【解決手段】マッサージ品質の良し悪しを決めるマッサージ構成要素「基本技法」「時間」「スピード」「強弱」を、音楽の構成要素である「旋律」「音色」「テンポ」「リズム」「アクセント」で表現した楽曲を用いて、この楽曲に合わせてマッサージを行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マッサージのトレーニングや施術時において、専用楽曲を用いることで、高品質で且つ(何処でも、どの施術者からでも)均一性のとれたマッサージを提供する装置及び方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、マッサージにはエステティックサロンのように美を追求するマッサージをはじめ、カイロプラクティック系マッサージ、スポーツ系マッサージ、あんま系マッサージなど多種多様のマッサージが提供されている。
【0003】
このようなマッサージにおいて、施術者を養成するトレーニング方法には、1)マッサージ手順に関する教本やマニュアルを読解して習得する方法、2)模範となるマッサージビデオを視聴し習得する方法、3)講師の行う模範マッサージを見て習得する方法、4)講師に(受講生の)マッサージを見てもらい指導を受ける方法 などが主流であった。
【0004】
しかしながらこれらの方法では、トレーニングを何度も繰り返す必要があり、習得までに多くの時間を費やしてしまう問題があった。またマッサージが我流に陥ってしまい、良質なマッサージを提供できなくなる危険性もあった。
【0005】
一方、トレーニングを修了した一般施術者においても、月日が経過するに従いマッサージのテンポやスピードにばらつきが発生し始め、徐々にマッサージ品質が低下していく問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者はこれらの実状に鑑みて、以下の課題を解決し得るマッサージ支援装置及び方法の開発を試みた。
【0007】
すなわち、マッサージスピードや指圧ポイントなどにばらつきがなく、常時一定品質のマッサージを提供できること。また、マッサージ施術者間によるばらつき(人によるばらつき)が生じないこと。そして、マッサージ技法習得の時間短縮が図れることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を達成するため、本発明のマッサージ支援装置及び方法は、マッサージの構成要素である「基本技法」「時間」「スピード」「強弱」を、音楽の構成要素である「旋律」「音色」「テンポ」「リズム」「アクセント」で表現した楽曲を用いて、前記楽曲に同期しながらマッサージを行うことを特徴とする。
【0009】
また、被施術者の頭体を載せるヘッドレストに、前記楽曲を出力する音響出力装置が組み込まれていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明のマッサージ支援装置及び方法は次のような効果を奏した。
【0011】
第1に、施術者は専用楽曲の「リズム」と「テンポ」に乗って、“ゆっくりと”“軽快に”といったスピードコントロールを行うため、スピード(速さ)によるばらつきがなくなり、所定時間どおりのマッサージを提供できるようになった。
【0012】
第2に、施術者は専用楽曲の「アクセント」に従って、“指圧”のタイミングと強さをコントロールするため、指圧のばらつきがなくなった。
【0013】
第3に、施術者は専用楽曲の「旋律」に従って、“撫でる”“引っ張る”といった基本技法を使い分け、「音色」に従って、“掌”“中指”といった使用する手の部位を選択するため、マッサージのミスがなくなった。
【0014】
第4に、この専用楽曲には、マッサージに必要な「基本技法」「時間」「スピード」「強弱」の要素が盛り込まれているため、初心者であっても短時間でマッサージ技法を習得できるようになった。
【0015】
第5に、施術者養成トレーニングにおいて、マッサージ支援装置を併用することにより、講師の負担が軽減され、短期間に多数の施術者を養成することが可能となった。また、受講者は専用楽曲を持ち帰ることで、いつでも手軽にトレーニングができるようになり、講師自身も自分のマッサージをいつでもセルフチェックできるようになった。
【0016】
第6に、マッサージ施術中には被施術者にも専用楽曲が聞こえるため、マッサージと専用楽曲の相乗効果により、被施術者のリラックス度が更に向上し、満足度もアップした。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施態様の一例である基本構成図を図1に示す。マッサージ支援装置1は、音源、アンプ及びスピーカー3が内蔵されたヘッドレスト2から構成されている。
【0018】
音源にはマサージ施術時に音声出力する専用楽曲が収録されており、被施術者がヘッドレスト2に頭部を載せ、スイッチをオンすると、音声がアンプを経由してヘッドレスト内蔵スピーカーから出力される。
【0019】
マッサージ施術者は流れてくる専用楽曲に合わせ(同期しながら)、所定のマッサージを施す。この専用楽曲には、マッサージ手順やノウハウなどの情報が盛り込まれているため、専用楽曲に従ってマッサージを行えば、いつでもミスなく、高品質なマッサージを提供することができる。
【0020】
ここで、マッサージの手順やノウハウを専用楽曲に盛り込む手順を説明する。マッサージにはエステティック系マッサージをはじめ、カイロプラクティック系マッサージ、スポーツ系マッサージなど多種多様のものが存在するが、本発明者はまずマッサージに共通する構成要素を模索した。
【0021】
その結果、5つの要素を押さえれば、一定品質の良質マッサージを提供できることが分かった。すなわち、1)マッサージを行う部位、ツボ 2)さする、よじる、叩く、押すなどの基本技法 3)マッサージ時間 4)手の動きの速さ(スピード) 5)指圧するタイミングと力(強弱) の5要素である。
【0022】
次にこれら5要素「部位」「基本技法」「時間」「スピード」「強弱」を楽曲に盛り込む手段について検討した。一般的に音楽は、「旋律(メロディー)」「和音(ハーモニー)」「拍子(リズム)」の3要素から成り立つと言われており、この理論を基にマッサージ用楽曲に必要な構成要素を模索した。
【0023】
その結果、マッサージを音楽で表現するには、次の5つの要素が必要であることを導き出した。すなわち、1)“さする”“よじる”“叩く”などの基本技法を表現する「旋律
(メロディー)」 2)施術者が使用する“掌”“指の本数”などを表現する「音色(楽器)」 3)“ゆっくり”“滑らかに”“軽快に”といった手の動きのスピードを表現する「テンポ(曲の速度)」 4)“ゆったり感”“軽快感”などを表現する「リズム(拍子)」 5)マッサージの“開始”“終了”“指圧タイミング”などを表現する「アクセント」 の5つの要素である。
【0024】
ここでマッサージの構成要素と音楽の構成要素を関連付けると、次のようになる。マッサージの「基本技法」は、音楽の「旋律」と「音色」で表現。
マッサージの「時間」「スピード」は、音楽の「テンポ」と「リズム」で表現。
マッサージの「強弱」は、音楽の「アクセント」で表現。
【0025】
尚、マッサージ要素のひとつである「部位」に対応する音楽構成要素は除外した。その理由は、マッサージにおける「部位」は施術者にとって基本となる重要要素であるが、施術者がこの要素でミスを犯す危険性は低く、楽曲に盛り込まなくてもマッサージ品質に影響はないと判断したためである。
【実施例】
【0026】
以下、本発明の具体的なプロセスフローを図2及び図3、図4を用いて詳細に説明する。図2は本発明における専用楽曲製作フローチャートの一例であり、図3はマッサージ構成要素と専用楽曲構成要素の関係の一例を示す関連図であり、図4はマッサージ専用楽曲の製作(作曲)仕様書の一例である。
【0027】
まず、図2のS110に示すように、まず専用楽曲を製作しようとするマッサージの手順・要領・コツを、マッサージプログラムとして図3のS210のような形式で明文化する。
【0028】
ここでのマッサージプログラムは、“「あご→耳下腺」「口尻→耳下腺」「小鼻→こめかみ」「額中央→こめかみ」の順番で、掌全体が肌にあたるようにして、ゆっくりと軟らかく撫で下ろしながら、各動作を2秒づつで行い(2秒×4動作)、各終点でキュッと指圧する。”と表現した。
【0029】
次に図2のS120に示すように、先ほど明文化したマッサージプログラム(S210)をマッサージの構成要素である「部位」「基本技法」「時間」「スピード」「強弱」に分解し、図3のS220のような形式に落とし込む。
【0030】
ここでは「部位」を“「あご→耳下腺」「口尻→耳下腺」「小鼻→こめかみ」「額中央→こめかみ」”と表現し、「基本技法」を“掌全体を使って、各部位から外側へ向かって、柔らかく撫で下ろす”とし、「時間」を“各動作2秒×4動作”とし、「スピード」を“ゆっくり”とし、「強弱」を“終点でキュッと指圧する”とした。
【0031】
マッサージプログラムを各構成要素に分解できたら、図2のS130に移る。ここではマッサージの5構成要素である「部位」「基本技法」「時間」「スピード」「強弱」のうち、「部位」を除く4要素を、音楽の5構成要素である「旋律」「音色」「テンポ」「リズム」「アクセント」に置き換え、展開する。
【0032】
図3のS230に示すように、まずマッサージ要素の「基本技法」を音楽要素の「旋律」と「音色」に展開する。ここでは「基本技法」が“掌全体を使って、各部位から外側へ向かって、柔らかく撫で下ろす”とあるので、「旋律」を“ゆったり感と滑らか感”とし、「音色」をソフトな音色が特徴の“フルート”として展開した。
【0033】
次にマッサージ要素の「時間」と「スピード」を音楽要素の「テンポ」と「リズム」に展開する。「時間」が“各動作2秒×4動作”で、「スピード」が“ゆっくり”とあるので、「テンポ」は“ゆっくり”、「リズム」は“4/4拍子”として展開した。
【0034】
最後にマッサージ要素の「強弱」を音楽要素の「アクセント」に展開する。「強弱」が“各終点でキュッと指圧する”とあるので、「アクセント」は“4拍子の中の1拍子目と3拍子目にアクセント”として展開した。
【0035】
マッサージプログラムがいくつかの行程を繋げて構成されている場合は、図4に示すように、各行程毎にこれら(図2のS120とS130)の方法で音楽構成要素に展開していき、楽曲仕様書を完成させる。
【0036】
そして楽曲の仕様書完成後、作曲家に依頼するなどして、仕様書に基づいた作曲作業に入る。尚、楽曲仕様書に加え、マッサージを録画したビデオなどを併用すると、楽曲をイメージし易くなり、作曲効率が向上し、望ましい。
【0037】
専用楽曲が完成後、図1に示すマッサージ支援装置の音源に専用楽曲を収録し、マッサージ施術時やトレーニング時に専用楽曲を鳴らし、それに合わせてマッサージを行う。
【0038】
次に、図4の仕様書に基づいて製作した専用楽曲を用いて、マッサージを施行した評価結果を示す。
【0039】
表1はマッサージ所要時間の測定結果である。まず、専用楽曲を使用しない従来方式で、施術者4名のマッサージ所要時間を測定した。のべ7回測定し、最短が3分21秒、最長が4分40秒で、最大79秒ものばらつきがあった。また標準時間(目標時間)の4分00秒に対しては、軒並み早く終了していた。この結果より専用楽曲を使用しない従来方式では、マッサージ品質がばらついていたことが伺える。
【0040】
一方、専用楽曲を用いてマッサージを行った場合は、全員が楽曲の所要時間4分00秒で終えており、本発明により時間的なばらつきが解消されたことが立証できた。
【0041】
【表1】

【0042】
表2は専用楽曲を使用した場合の施術者の感想である。15名の施術者について感想を求めたところ、93%にあたる14名が“良かった”と回答した。理由としては、“リラックスしながらマッサージできた”“楽曲が頭に残り、マッサージに集中できた”といっ
た意見が多かった。その半面、“楽曲に気をとられて集中できなかった”という意見も1名あった。
【0043】
【表2】

【0044】
表3は専用楽曲を使用して、マッサージのトレーニングを実施した結果である。15名の指導者(トレーナー)に感想を求めたところ、87%にあたる13名が“トレーニングに効果あり”と回答した。理由としては、“受講生の習得が早くなった”“指導がやり易くなった(教え易い)”といった意見が多かった。その半面、“初心者に楽曲を使うのは難しい”という意見も2名あった。このことから本発明はトレーニングにおいても効果があることが確認できた。
【0045】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0046】
上述の発明は、マッサージのトレーニングや施術時において、専用楽曲を用いて高品質なマッサージを提供する装置及び方法として利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の一実施形態であるマッサージ支援装置の基本構成図。
【図2】専用楽曲製作の一例を示すフローチャート。
【図3】マッサージ構成要素と専用楽曲構成要素の関係の一例を示す関連図。
【図4】マッサージ専用楽曲の作曲仕様書の一例。
【符号の説明】
【0048】
1 マッサージ支援装置
2 ヘッドレスト
3 スピーカー(出力手段)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
マッサージにおいて、マッサージの構成要素である「基本技法」「時間」「スピード」「強弱」を、音楽の構成要素である「旋律」「音色」「テンポ」「リズム」「アクセント」で表現した楽曲を用いて、前記楽曲に同期しながらマッサージを行うことを特徴とするマッサージ支援方法。
【請求項2】
被施術者の頭体を載せるヘッドレストに、前記楽曲を出力する音響出力装置が組み込まれていることを特徴とする請求項1記載のマッサージ支援装置。




























【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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