説明

マッサージ機

【課題】力ベクトルの大きさと三次元的な向きを任意に設定することができ、且つ力ベクトルの向きと垂直な面に対して任意にマッサージ軌跡を設定することができるものとする。
【解決手段】少なくとも3つ以上の回転または並進の関節を介して人体に接する施療部が設けられたもみ機構を備えたものにおいて、各関節を独立に駆動するアクチュエータと、各関節の変位を検出する変位検出手段と、上記アクチュエータを制御する制御部とを具備し、更に前記変位手段で得られた変位情報から施療部の発揮する力ベクトルの向きを三次元的に任意の向きに設定可能な力制御手段と、前記変位情報を用いて施療部の軌跡を制御する位置制御手段とを具備する。被施療者に対し、所望の押し込み力方向と所望の面内軌跡を常に得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マッサージ機、殊に椅子の背もたれ内にもみ機構を配しているマッサージ機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から椅子の背もたれ内にもみ機構を配しているマッサージ機が多種提供されているが、これらは固定されたフレームにもみ機構が組み込まれているとともに、フレーム面に対して鉛直方向に力制御、面方向に対して位置制御を行うものであった。
【0003】
一方、被施療者にマッサージを行う場合、体形ラインに沿って位置制御を行い、体形ライン奥行き方向に力を制御することが最も理にかなった制御となるが、従来のものではフレーム面が体形ラインに沿っていないことから、力制御に関して問題がある。
【特許文献1】特許第2733159号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記の従来の問題点に鑑みて発明したものであって、施療部が発揮する力ベクトルにおける大きさと三次元的な向きを任意に設定することができるとともに、力ベクトルの向きと垂直な面に対して任意にマッサージ軌跡を設定することができるマッサージ機を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために本発明に係るマッサージ機は、少なくとも3つ以上の回転または並進の関節を介して人体に接する施療部が設けられたもみ機構を備えたものにおいて、各関節を独立に駆動するアクチュエータと、各関節の変位を検出する変位検出手段と、上記アクチュエータを制御する制御部とを具備するとともに、前記変位手段で得られた変位情報から施療部の発揮する力ベクトルの向きを三次元的に任意の向きに設定可能な力制御手段と、前記変位情報を用いて施療部の軌跡を制御する位置制御手段とを具備していることに特徴を有している。被施療者に対し、所望の押し込み力方向と所望の面内軌跡を常に得ることができる。
【0006】
前記位置制御手段が、施療部または各関節の目標位置と、変位センサによって検出された施療部または各関節の現在位置との偏差に基づいて各アクチュエータを制御するものであれば、変位のフィードバック制御が可能となるために所望の面内軌跡を高精度に実現することができる。
【0007】
また、力を制御したい方向と軌跡を制御したい面とが直交関係にあり、軌跡を制御したい面に平行な面と関節変位のヤコビアンから作業座標系における施療部に位置制御を行う位置制御手段と、前記力方向に対して力制御を行う力制御手段を具備し、前記位置制御手段と力制御手段とを用いて位置と力の制御を同時に行うとともに位置制御において軌跡を制御したい面方向には目標を与えないものであると、面内の位置制御と前記面の法線方向における力制御を同時に行う時にに位置制御の変位誤差が力誤差に影響を与えてしまうことがないものとなる。
【0008】
そして力制御手段及び位置制御手段で構成される制御部は各関節のアクチュエータをトルク指令値を与えて駆動するものであると、力の向きだけでなく大きさも制御することができる。
【0009】
施療部が被施療者に発揮する力を検知する力センサを備えており、力制御手段は予め設定しておいた力の向きと、発揮すべき力の目標値と上記力センサで検出された力の現在値との偏差に基づいて各アクチュエータを制御するものであれば、力のフィードバック制御が可能となるために所望の押し込み力を高精度に実現することができる。
【0010】
また、変位と力の目標値を記憶する記憶装置を備えており、力制御手段及び位置制御手段で構成される制御部は上記記憶装置に記憶した変位と力の目標値と現在値との偏差に基づいて位置と力を制御するものであれば、あらかじめ設定しておいたマッサージ動作を実現することができる。
【0011】
更に力制御手段及び位置制御手段で構成される制御部は、施療部が発揮する力の向きを体形ラインの法線方向に、位置制御手段の目標軌跡を体形ラインの接点方向になるように逐次変更するものであると、人体の凹凸形状に依存することなく、常に所望の軌跡と所望の力でマッサージができる。
【0012】
また、力の大きさと向きを設定するための操作部を備えていると、ユーザが設定した力の向きと大きさを実現することができる。
【0013】
前記制御部は、各関節のアクチュエータを速度指令値を与えて駆動するものであってもよい。この場合、トルク指令値を与える制御よりも低コストで力の向きと大きさを制御することができる。
【0014】
また、前記制御部が、力の追従性を調整するための操作部からの入力に基づいて制御ゲインを調整するものであると、力の追従性を使用者の好みに応じたものとすることができる。
【0015】
更に施療部が人体から離れる方向の追従性を人体に近づく方向の追従性よりも高くする制御ゲインで制御するものであると、マッサージ力が所望の力より小さい場合に施療部が人体を追いかけすぎないものとなり、またマッサージ力が所望の力より大きい場合には施療部が人体からすばやく離れて過度な力が人体にかかることがなくなるために快適なmsサージを得ることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、変位手段で得られた変位情報から施療部の発揮する力ベクトルの向きを三次元的に任意の向きに設定可能な力制御手段と、前記変位情報を用いて施療部の軌跡を制御する位置制御手段とを具備しているために、もみ機構を支持しているフレームの面方向と関係なく、被施療者の体形に合わせた方向に力制御と位置制御を行うことができるものであり、このために被施療者に対してより適切なマッサージを行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を添付図面に示す実施形態に基いて説明すると、本発明においては少なくとも3つ以上の関節から構成されるもみ機構の先端に施療部を設けているとともに、yz面を構成するフレームに上記もみ機構を取り付けたものを用いる。このようなもみ機構を備えたマッサージ機としては、たとえば特開2006−34635号公報などに示された構成のものを好適に用いることができるが、これに限定されるものではない。
【0018】
上記各関節には図1に示すようにアクチュエータとしてモータ、変位検出用の変位センサとしてロータリーエンコーダを取り付けて、ロータリーエンコーダからカウンタを介して取り込んだ値に基づいて制御回路がモータ指令値を決定してDAコンバータ及びモータドライバを介してモータを駆動するものとする。この時、モータへの指令値はトルク指令値であることが望ましい。
【0019】
図2は被施療者に対して与える力を検出するための力センサを上記施療部に設置しているマッサージ機を示している。ADコンバータを介して検出値が制御回路に入力される上記力センサは、後述する力フィードバックにおいて重要であるが、必ずしも力センサが必要なわけではない。
【0020】
施療部の位置情報から施療部が発揮する力を行列を用いて各モータ出力に変換して力制御を行う力制御手段と、位置の目標値と変位センサで検出した変位の現在値との偏差に基づいて位置制御を行う位置制御手段とを組み合わせた場合、式1(数1)のようにモータ指令値uを決定することになる。式中の上付文字Tは転置を表す。
【0021】
【数1】

【0022】
図3はこの場合のブロック線図を示しており、図3中のxは施療部の位置ベクトル、添字dは目標値を表す。また図中の「逆運動学」とは施療部に位置ベクトルxから関節ベクトルqへ変換する計算のことを示している。
【0023】
一方、力センサが取り付けられている場合、力を制御したい方向と軌跡を制御したい面とが直交関係にあれば、力制御手段は力の目標値と力センサで検出した力の現在値との偏差に基づき、位置制御手段は位置の目標値と変位センサで検出した変位の現在値との偏差に基づいて式2(数2)のようにモータ指令値を決定する。図4はこの場合のブロック線図を示している。
【0024】
【数2】

【0025】
ここでは前述のyz平面に平行な面に位置制御、yz平面に直交するx方向に力制御を行う場合を想定した制御則を示しているが、力制御と位置制御の方向が直交関係にあれば、その方向は任意に決めることができる。
【0026】
ここにおいて、力の方向を任意の方向へ設定するということは、任意の座標系に変換することを意味する。この点を説明すると、まず位置制御をする面を先に決定し、その面に直交する方向に力制御を行うことを考えた場合、図5に示すように位置制御をしたい面の方程式をz=ax+by+cで与えると、施療部の幾何拘束条件φ(x)は式3(数3)で与えられる。
【0027】
【数3】

【0028】
ただし、xは施療部先端の三次元位置ベクトルであり、x=(x,y,z)である。この時、前記面に対して新たな座標系o−x'y'z'を定義する。ここではy'z'平面に位置制御、x'方向に力制御を行うものとする。
【0029】
上記式3(数3)から前記面の法線ベクトルφxは
【0030】
【数4】

【0031】
と表される。
【0032】
ここで施療部先端位置x=(x,y,z)と関節座標系q=(q1,q2,q3)との間のヤコビアンを
【0033】
【数5】

【0034】
と定義する。更に、式4(数4),式5(数5)を用いて前記面の法線方向へ力を発揮するための各関節力(モータ指令値)への変換ベクトルJφを式6(数6)で定義する。
【0035】
【数6】

【0036】
上記式6(数6)は、前記式3(数3)の面に対して法線方向へ力を発揮するための各関節力への変換ベクトルであり、式3(数3)のパラメータa,b,cを変更することで、任意の方向へ力を発揮する各関節力を求めることができる。
【0037】
次に位置制御に必要なヤコビアンJyz(q)の求め方を示す。基準座標系o−xyzから前記座標系o−x'y'z'への回転行列をRとする。これにより、前記施療部位置ベクトルを前記座標系o−x'y'z'で表現できる。これをx'=(x',y',z')と表すと、x=(xT,y,z)との関係は式7(数7)で与えられる。
【0038】
【数7】

【0039】
同様にΔxyzにおいても、前記座標系o−x'y'z'で表現するものとする。これより式2(数2)のyz平面と関節座標系とのヤコビアンJyz(q)は式8(数8)で与えられる。
【0040】
【数8】

【0041】
つまり、力制御と位置制御と方向が直交関係にあれば、上述のように、その方向は任意に決めることができる。また施療部が発揮する力の向きを体形ラインの法線方向に、位置制御手段の目標軌跡を体形ラインの接線方向に逐次変更することで、被施療者の背面に沿って施療部を移動させつつ背面各部に施療を行う場合も、各部位に対して適切に施療を行うことができる。
【0042】
なお、式2からもわかるように、ヤコビアンJyz(q)を用いた位置制御においては軌跡を制御したい面方向には目標を与えていない。これは位置制御の変位誤差が力誤差に影響を与えることを防ぐためである。
【0043】
図6は図2のマッサージ機に変位と力の目標値を記憶する記憶装置を付加したものを示している。あらかじめ設定しておいた変位と力の目標値を記憶装置に記録しておき、これを記憶装置から読み出せば、被施療者に適合したマッサージ動作を容易に再現することができる。
【0044】
力の方向や大きさは、図7に示すようにマッサージ機に取り付けた操作部10をユーザが指9で操作することで入力できるようにしておいてもよい。ここでは操作部10に設置した3軸力センサ11が操作の力の方向と大きさを検出して、これを力の方向及び大きさの目標値として制御を行っている。
【0045】
上記実施例ではトルク指令値を各アクチュエータに与えて駆動する場合を示したが、速度指令値を与えて力と軌跡を制御してもよい。図8はこの場合の一例を示している。力を制御する場合、所望の力より現在のマッサージ力が大きければ施療部が人体から離れる方向に、小さければ人体に近づく方向に速度指令値を設定して力の制御入力を生成(図8中のA)する。また、軌跡を制御する場合、所望の軌跡となる速度指令値を算出して制御入力を生成する。この時、位置と速度の誤差をフィードバックして速度指令値を生成し、これを所望の軌跡となる速度指令値に重ね合わせることで、軌跡の制御入力を生成(図8中のB)する。この力と軌跡の制御入力を重ね合わせた速度指令値は、施療部の速度指令であることから、式9(数9)により各アクチュエータ(モータ)の速度指令値に変換した上で各アクチュエータに入力する。
【0046】
【数9】

【0047】
ここで、前述のようにx方向に力制御、yz方向に位置制御を行う場合
【0048】
【数10】

【0049】
と設定することができることから、この場合、図8中のAは式11(数11)に相当し、図8中のBは式12(数12)に相当することになる。
【0050】
【数11】

【0051】
【数12】

【0052】
施療部が人体に与える力を所望の力に追従させる際に、力の誤差に対するフィードバック項により力の追従性は変化し、力に関する制御ゲインを大きく設定すれば追従性が高くなり、制御ゲインを小さく設定すれば追従性が低くなる。この追従性はユーザが選択することができるようにしてもよい。図9は直動のボリュームとして構成した操作部10の操作で追従性を変化させることができるようにしたの場合の一例を示しているが、操作インターフェースは上記形式のものに限るものではなく、追従性の調整ができればどのような手段を用いてもよい。
【0053】
また、追従性の制御に関しては、施療部1が人体に近づく方向(図10中のイ)の追従性を低く、施療部1が人体から離れる方向(図10中のロ)の追従性を高くすることが好ましい。つまり、所望の力fdと現在の力fの差が正の値で現在のマッサージ力が弱いために、施療部が人体へ近づく方向へ移動する時の制御ゲインは小さくし、所望の力fdと現在の力fの差が負の値で現在のマッサージ力が強すぎるために、施療部が人体から離れる方向へ移動する時の制御ゲインは大きくすることで、被施療者が痛いと感じるような時にはすばやく力を弱めることができ、被施療者が物足りないと感じるような時にはじわじわと力が強くなるようにすることで痛みを感じることがないようにすることができて、快適なマッサージを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】マッサージ機のブロック図である。
【図2】力センサを備えたマッサージ機のブロック図である。
【図3】同上のブロック線図である。
【図4】同上の他のブロック線図である。
【図5】座標に関する説明図である。
【図6】他例のブロック図である。
【図7】別の例における操作部についての説明図である。
【図8】更に他例のブロック図である。
【図9】別の例における操作部についての説明図である。
【図10】他の例の追従性に関する説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも3つ以上の回転または並進の関節を介して人体に接する施療部が設けられたもみ機構を備えるマッサージ機において、各関節を独立に駆動するアクチュエータと、各関節の変位を検出する変位検出手段と、上記アクチュエータを制御する制御部とを具備するとともに、前記変位手段で得られた変位情報から施療部の発揮する力ベクトルの向きを三次元的に任意の向きに設定可能な力制御手段と、前記変位情報を用いて施療部の軌跡を制御する位置制御手段とを具備していることを特徴とするマッサージ機。
【請求項2】
前記位置制御手段は、施療部または各関節の目標位置と、変位センサによって検出された施療部または各関節の現在位置との偏差に基づいて各アクチュエータを制御するものであることを特徴とする請求項1記載のマッサージ機。
【請求項3】
力を制御したい方向と軌跡を制御したい面とが直交関係にあり、軌跡を制御したい面に平行な面と関節変位のヤコビアンから作業座標系における施療部に位置制御を行う位置制御手段と、前記力方向に対して力制御を行う力制御手段を具備し、前記位置制御手段と力制御手段とを用いて位置と力の制御を同時に行うとともに位置制御において軌跡を制御したい面方向には目標を与えないものであることを特徴とする請求項1または2記載のマッサージ機。
【請求項4】
前記制御部は各関節のアクチュエータをトルク指令値を与えて駆動するものであることを特徴とする請求項1記載のマッサージ機。
【請求項5】
施療部が被施療者に発揮する力を検知する力センサを備えており、力制御手段は予め設定しておいた力の向きと、発揮すべき力の目標値と上記力センサで検出された力の現在値との偏差に基づいて各アクチュエータを制御するものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のマッサージ機。
【請求項6】
変位と力の目標値を記憶する記憶装置を備えており、前記制御部は上記記憶装置に記憶した変位と力の目標値と現在値との偏差に基づいて位置と力を制御するものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のマッサージ機。
【請求項7】
力制御手段及び位置制御手段で構成される制御部は、施療部が発揮する力の向きを体形ラインの法線方向に、位置制御手段の目標軌跡を体形ラインの接点方向になるように逐次変更するものであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のマッサージ機。
【請求項8】
力の大きさと向きを設定するための操作部を備えていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のマッサージ機。
【請求項9】
前記制御部は、各関節のアクチュエータを速度指令値を与えて駆動するものであることを特徴とする請求項1項記載のマッサージ機。
【請求項10】
前記制御部は、力の追従性を調整するための操作部からの入力に基づいて制御ゲインを調整するものであることを特徴とする請求項5〜7または9のいずれか1項に記載のマッサージ機。
【請求項11】
前記制御部は、施療部が人体から離れる方向の追従性を人体に近づく方向の追従性よりも高くする制御ゲインで制御するものであることを特徴とする請求項請求項5〜7または9のいずれか1項に記載のマッサージ機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−289678(P2007−289678A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−85265(P2007−85265)
【出願日】平成19年3月28日(2007.3.28)
【出願人】(000005832)松下電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】