説明

マッサージ機

【課題】肩甲骨付近に対するマッサージに際して使用者に痛みを感じさせることがないものとする。
【解決手段】人体背面に対してマッサージを行う施療子の人体に対するマッサージ力を変化させる駆動部と、該駆動部を制御してマッサージ力を調整する制御部とを備えるとともに、上記制御部は人体背面における肩甲骨付近に対するマッサージ力を他の部位に対するマッサージ力よりも小さくした設定値を保持して、該設定値に基づいてマッサージ力を調整するものである。肩甲骨付近に対するマッサージは、制御部が保持している小さい設定値に従って常に弱いマッサージとなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マッサージ機、殊に人体背面に対してマッサージを行うマッサージ機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
椅子の背もたれなどに内蔵されて人体背面に対してマッサージを行うマッサージ機において、その施療子を上下動させることでマッサージ位置を可変とするとともに、施療子の人体側への突出量を変化させることでマッサージの強弱を調節することができるものが提供されており、特許文献1には各部位毎にマッサージの強弱度合いを使用者が望んだ設定に従って調節するものが示されている。
【0003】
ところで人体においては、肩甲骨付近が痛さを感じやすい部位であるために、マッサージは弱くすることが好ましいのであるが、上記のものでは使用者が肩甲骨付近に対する強弱度を弱く設定しないことには弱いマッサージとならない。このために、使用者が他の部位と誤って強に設定してしまった場合、肩甲骨付近に対して強いマッサージを行ってしまうことになり、使用者は痛みを感ずることになる。
【特許文献1】特開昭64−11549号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記の従来の問題点に鑑みて発明したものであって、肩甲骨付近に対するマッサージに際して使用者に痛みを感じさせることがないマッサージ機を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために本発明に係るマッサージ機は、人体背面に対してマッサージを行う施療子の人体に対するマッサージ力を変化させる駆動部と、該駆動部を制御してマッサージ力を調整する制御部とを備えるとともに、上記制御部は人体背面における肩甲骨付近に対するマッサージ力を他の部位に対するマッサージ力よりも小さくした設定値を保持して、該設定値に基づいてマッサージ力を調整するものであることに特徴を有している。肩甲骨付近に対するマッサージは、制御部が保持している小さい設定値に従って常に弱いマッサージとするものである。
【0006】
この時、肩甲骨付近に対するマッサージ力と他の部位に対するマッサージ力とを1:1.1〜1.5の比率としたり、肩甲骨付近に対するマッサージ力を12±5kg、他の部位に対するマッサージ力を16±5kgとするのが好ましい。痛さとマッサージの効力との関係で好ましい結果を得ることができる。
【0007】
施療子が人体に与えるマッサージとからを検出する力検出手段を備え、制御部は力検出手段で検出された力と設定されている目標マッサージ力との偏差に基づいて前記駆動部を制御するものであったり、施療子の突出方向の位置を検出する位置検出手段を備えて制御部は力検出手段で検出された位置から推定されるマッサージ力と設定されている目標マッサージ力との偏差に基づいて前記駆動部を制御するものであってもよい。被施療者の体格や座り方などの影響を受けることなく適切な力でのマッサージを行うことができる。また、後者の位置検出手段を用いる場合、高価な力センサを必要としないために低コストで提供することができる。
【0008】
施療子の慣性・粘性・弾性特性を仮想的に設定可能な柔軟性制御手段を駆動部として備えたものとするのも好ましい。硬いマッサージから柔らかいマッサージまで部位毎に設定することができる。
【0009】
トルク指令値に応じて変位するアクチュエータをマッサージ用駆動源として備えたものである場合、制御部は上記トルク指令値を増減させることでマッサージ力を変化させるものをコストの点で好適に用いることができる。
【0010】
また、制御部は被施療者に関する情報が与えられた時にこの情報に基づいて最適なマッサージ力を推定して、推定したマッサージ力に調整するものとであると、被施療者により適したマッサージ力のマッサージを行うことができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明においては、肩甲骨付近に対するマッサージは制御部が保持している小さい設定値に従って常に弱いマッサージとなるために、強すぎるマッサージとなることがなく、痛みを感ずることがないものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を添付図面に示す実施形態に基いて説明すると、図1は本発明に係るマッサージ機の概略を示すもので、椅子の背もたれ内に上下動自在に配された該マッサージ機は、人体9の背面に接触する施療子1を駆動することで人体9の背面に対してマッサージを行うもので、例えばリンク10を回動させることによって施療子1の人体側への突出量を変化させて施療子1が人体9に対して与えるマッサージ力fを調整することができるものとなっている。なお、施療子1のマッサージための駆動用の構成及びマッサージ力調整のための構成はどのようなものであってもよいために、ここでは詳細について省略する。
【0013】
そして、上記施療子1の動作制御を司る制御部は、施療子1の上下位置から人体9のどの部位をマッサージしているのかを検出すると同時に、その部位に応じて、予め与えられた設定値以下のマッサージ力fしか得られないように上記マッサージ力調整駆動部を制御するものであり、特に施療子1が人体9の肩甲骨付近をマッサージするにあたっては、他の部位よりもマッサージ力fの上限値を低くしているために、他の部位に比して弱いマッサージ力でのマッサージしか肩甲骨付近に与えることができないようにしてある。つまり、他の部位をマッサージしている状態から肩甲骨付近に施療子1を移動させた時、マッサージ力fはそれまでの部位に対するマッサージ力fよりも自動的に弱くなるようにしてある。
【0014】
この肩甲骨付近に対するマッサージ力fは、他の部位に対するマッサージ力との比率が1:1.1〜1.5となるようにしておくことが、さまざまな人にとって平均的な最適力でマッサージすることができるものとなって好ましい。
【0015】
具体的にはモニタ評価によれば、肩甲骨付近に対するマッサージ力fは12±5kg、他の部位に対するマッサージ力fは16±5kgとしておくことが好ましい。図2に上記モニタ評価の一例を示す。これは横軸にマッサージ力、左縦軸に気持ち良さの点数、右縦軸に痛さの点数をとり、肩甲骨付近に対するマッサージの際の主観評価を行った場合のもので、マッサージ力を大きくすると痛さが上昇し、気持ち良さは最適なマッサージ力のところを頂点として強すぎても弱すぎても点数が低くなる。ちなみに、このマッサージ機は、各部位に対するこのような評価を基に各部位に対するマッサージ力の最適力を決定している。
【0016】
マッサージ力fの調整にあたっては、施療子1が人体に与えるマッサージ力fを検出することができる力検出手段を例えば施療子1に設けておき、該力検出手段で検出された力と設定されている目標マッサージ力との偏差に基づいて前記マッサージ力調整駆動部をフィードバック制御することで、常に目標マッサージ力でのマッサージを行うことができるものとなる。
【0017】
なお、力検出手段はコスト的に高くなることから、施療子1の突出方向の位置を検出する位置検出手段を設けるとともに、この位置検出手段で検出された位置からマッサージ力を推定し、マッサージ力推定値と設定されている目標マッサージ力との偏差に基づいてマッサージ力調整駆動部を制御するものであってもよい。低コストでフィードバック制御することができる。なお、位置からマッサージ力を推定することについては、予め図3に示すように位置とマッサージ力とのデータを収集しておき、この収集データに基づいて位置からマッサージ力を推定するのが簡便でよい。
【0018】
このほか、施療子1の柔軟性を仮想的に設定して制御する柔軟性制御を適用してもよい。この場合、柔軟性を実現する慣性と粘性と弾性の各特性を施療子1に対して仮想的に設定し、柔軟性制御によってソフト的に施療子1の柔軟性を実現してマッサージ力を調整する。たとえば、マッサージ力fを小さくしたい場合は、施療子1が柔らかくなるように慣性・粘性・弾性のパラメータを定め、大きくしたい場合は施療子1が硬くなるように上記パラメータを調整する。
【0019】
慣性・粘性・弾性特性を仮想的に施療子1に実現する柔軟性制御は、例えば次式
【0020】
【数1】

【0021】
f:力ベクトル、Md:所望の慣性特性行列、Dd:所望の粘性特性行列、Kd:所望の弾性特性行列、x:施療部の並進・回転変位ベクトル、xd:施療部の目標(弾性要素の自然長)並進・回転変位ベクトル
のような柔軟性特性を実現するように力を計測して運動を制御する方法、または変位を計測して力を制御する方法などがあるが、柔軟性をソフト的に実現できる制御であれば、どのような方法をとってもよい。なお、上記式中のMd,Dd,Kdの各パラメータはゼロを含めて任意に設定可能である。Mdを大きくすれば施療子1は加速しにくくなり、Ddを大きくすれば施療子1は速度を出しにくくなり、Kdを大きくすれば施療子1は変位をしにくくなる。また上記式は単純な線形モデルであるが、非線形モデルなどの他のモデルを適用してもよいのはもちろんである。
【0022】
施療子1にマッサージ動作を行わせるマッサージ用駆動源として、トルク指令値に応じて変位するアクチュエータを用いているものでは、トルク指令値を増減させることでマッサージ力fを変化させるものとしてもよい。この場合、力検出手段などを必要とすることなく、マッサージ力fを調整することができる。
【0023】
図5は被施療者の「こり属性」、「性別」、「BMI(体重(kg)/身長(m))」の3つの情報から、最適なマッサージ力を分析した結果の一例であるが、この分析結果を基に次式ようにして被施療者に対する最適なマッサージ力fを推定して、このマッサージ力fでマッサージがなされるようにしてもよい。次式の16は仮に導入した定数項である。
最適マッサージ力=こり属性+性別+BMI+16(kg)
被施療者に関する情報に基づいて最適マッサージ力を推定しているために、より適切なマッサージ力fでのマッサージを行うことができる。なお、ここでは情報として、上述のように「こり属性」、「性別」、「BMI」の3つの情報を用いているが、これらのうちの任意の2つ、または一つ、あるいは他の情報なども用いて最適マッサージ力を推定するようにしてもよいのはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の概略図である。
【図2】マッサージ力と気持ちよさと痛さとの関係を示す説明図である。
【図3】同上の位置とマッサージ力との関係の説明図である。
【図4】同上の柔軟性制御に関する説明図である。
【図5】同上の被施療者に関する情報についての説明図である。
【符号の説明】
【0025】
1 施療子
f マッサージ力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人体背面に対してマッサージを行う施療子の人体に対するマッサージ力を変化させる駆動部と、該駆動部を制御してマッサージ力を調整する制御部とを備えるとともに、上記制御部は人体背面における肩甲骨付近に対するマッサージ力を他の部位に対するマッサージ力よりも小さくした設定値を保持して、該設定値に基づいてマッサージ力を調整するものであることを特徴とするマッサージ機。
【請求項2】
制御部は肩甲骨付近に対するマッサージ力と他の部位に対するマッサージ力とを1:1.1〜1.5の比率で保持していることを特徴とする請求項1記載のマッサージ機。
【請求項3】
制御部は肩甲骨付近に対するマッサージ力を12±5kg、他の部位に対するマッサージ力を16±5kgで保持していることを特徴とする請求項1または2記載のマッサージ機。
【請求項4】
施療子が人体に与えるマッサージとからを検出する力検出手段を備えており、制御部は力検出手段で検出された力と設定されている目標マッサージ力との偏差に基づいて前記駆動部を制御するものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のマッサージ機。
【請求項5】
施療子の突出方向の位置を検出する位置検出手段を備えており、制御部は力検出手段で検出された位置から推定されるマッサージ力と設定されている目標マッサージ力との偏差に基づいて前記駆動部を制御するものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のマッサージ機。
【請求項6】
施療子の慣性・粘性・弾性特性を仮想的に設定可能な柔軟性制御手段を駆動部として備えていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のマッサージ機。
【請求項7】
トルク指令値に応じて変位するアクチュエータをマッサージ用駆動源として備え、制御部は上記トルク指令値を増減させることでマッサージ力を変化させるものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のマッサージ機。
【請求項8】
制御部は被施療者に関する情報が与えられた時にこの情報に基づいて最適なマッサージ力を推定して、推定したマッサージ力に調整するものとであることを特徴とする請求項1記載のマッサージ機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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