説明

マツザイセンチュウ病の防除方法

【課題】薬液の量が極めて少なく、且つ、注入作業が極めて簡便で短時間に実施できるマツザイセンチュウ病の効率的な防除方法を提供すること。
【解決手段】特定の式により特定される数の薬液注入孔の各々に、殺線虫活性化合物を含有する薬液を注入する工程を有するマツザイセンチュウ病の防除方法であり、当該薬液注入孔が、(a)薬液注入孔の地上高が0〜2mの範囲、及び、(b)樹幹軸方向における最高位の薬液注入孔と最低位の薬液注入孔との間隔が50cm以内の範囲、を満たすようなマツ樹幹部での位置に、樹幹軸と直行する樹幹断面に投影された隣接する2つの薬液注入孔の当該樹幹断面における外周上での間隔が20cm未満となるように、水平方向に対して10〜60度の範囲の斜め下方向に設けられてなる薬液注入孔であることを特徴とする方法等。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マツザイセンチュウ病の防除方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マツの枯損をもたらすマツザイセンチュウ病は、マツノマダラカミキリが媒介となり、マツノザイセンチュウという病原線虫がマツに感染して発病に至る。当該病原線虫を防除する方法としては、「樹幹注入法」と呼ばれる、殺線虫活性化合物を含有する薬液をマツ樹幹部に設けられた孔に注入する方法が知られている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。
樹幹注入法は、マツ樹幹に設けられた比較的少ない数量で且つ孔径の大きな薬剤注入孔に、マツ樹体の大きさに応じた多量の殺線虫活性化合物を含有する薬液を、マツノザイセンチュウが感染する時期の数ヶ月前までに注入し、マツノザイセンチュウが感染する時期にマツノザイセンチュウが感染する部位である枝に有効量の殺線虫活性化合物を移行させることにより、マツノザイセンチュウが感染することを阻止することで、マツザイセンチュウ病に対する防除効果をもたらすものである。
【0003】
【特許文献1】特開昭62-198338号公報
【特許文献2】特開平10-152407号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の樹幹注入法では、マツに対して多量の薬液を注入する必要があるために、防除費用が高くなる。また、1つの薬液注入孔あたりの薬液の量が、例えば、20〜500mlと多く、さらにまたマツ樹体から流出したマツ脂が薬液注入孔を塞いでしまい、注入作業が困難であるため、薬液の施用時期がマツ脂の流出量の少ない時期(即ち、冬季)に限定される、又は、注入作業に長時間が必要となる等の障害があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、かかる状況の下鋭意研究を行った結果、本発明に至った。
即ち、本発明は、
1.下記の式により特定される数の薬液注入孔の各々に、殺線虫活性化合物を含有する薬液を注入する工程を有するマツザイセンチュウ病の防除方法であり、
当該薬液注入孔が、
(a)薬液注入孔の地上高が0〜2mの範囲、及び、
(b)樹幹軸方向における最高位の薬液注入孔と最低位の薬液注入孔との間隔が50cm以内の範囲、
を満たすようなマツ樹幹部での位置に、樹幹軸と直行する樹幹断面に投影された隣接する2つの薬液注入孔の当該樹幹断面における外周上での間隔が20cm未満となるように、水平方向に対して10〜60度の範囲の斜め下方向に設けられてなる薬液注入孔であることを特徴とする方法(以下、本発明防除方法と記すこともある。)
<式>
薬液注入孔の数(但し、端数は切り上げ)=薬液注入孔が設けられる位置でのマツ樹幹部の平均直径(cm)×3.14÷n(式中、nは、20未満の任意の正整数を示す。);
2.薬液注入孔の断面が略円であり、式中のnが5〜15の任意の整数であり、且つ、樹幹軸と直行する樹幹断面に投影された隣接する2つの薬液注入孔の当該樹幹断面における外周上での間隔が5〜15cmの範囲であることを特徴とする前項1記載のマツザイセンチュウ病の防除方法;
3.薬液の量が、薬液注入孔の容量以下で且つ0.1〜2mlの範囲であることを特徴とする前項1〜2記載のマツザイセンチュウ病の防除方法;
4.殺線虫活性化合物が、メスルフェンホス、塩酸レバミゾール、酒石酸モランテル、ミルベメクチン、ネマデクチン、エマメクチン安息香酸塩及びホスチアゼートの中から選択される1種又は2種以上であることを特徴とする前項1〜3記載のマツザイセンチュウ病の防除方法;
5.(1)下記の式により特定される数の薬液注入孔を、
(a)当該薬液注入孔の地上高が0〜2mの範囲、及び、
(b)樹幹軸方向における最高位の薬液注入孔と最低位の薬液注入孔との間隔が50cm以内の範囲、
を満たすようなマツ樹幹部での位置に、樹幹軸と直行する樹幹断面に投影された隣接する2つの薬液注入孔の当該樹幹断面における外周上での間隔が20cm未満となるように、水平方向に対して10〜60度の範囲の斜め下方向に設ける工程、並びに、
(2)前工程で設けられた薬液注入孔の各々に、殺線虫活性化合物を含有する薬液を注入する工程
を有することを特徴とするマツザイセンチュウ病の防除方法
<式>
薬液注入孔の数(但し、端数は切り上げ)=薬液注入孔が設けられる位置でのマツ樹幹部の平均直径(cm)×3.14÷n(式中、nは、20未満の任意の正整数を示す。);
6.薬液の量が、薬液注入孔の容量以下で且つ0.1〜2mlの範囲であることを特徴とする前項5記載のマツザイセンチュウ病の防除方法;
等を提供するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、薬液の量が極めて少なく、且つ、注入作業が極めて簡便で短時間に実施できるマツザイセンチュウ病の効率的な防除方法が提供可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0008】
本発明防除方法は、
下記の式により特定される数の薬液注入孔の各々に、殺線虫活性化合物を含有する薬液を注入する工程を有するマツザイセンチュウ病の防除方法であり、
当該薬液注入孔が、
(a)薬液注入孔の地上高が0〜2mの範囲、及び、
(b)樹幹軸方向における最高位の薬液注入孔と最低位の薬液注入孔との間隔が50cm以内の範囲、
を満たすようなマツ樹幹部での位置に、樹幹軸と直行する樹幹断面に投影された隣接する2つの薬液注入孔の当該樹幹断面における外周上での間隔が20cm未満となるように、水平方向に対して10〜60度の範囲の斜め下方向に設けられてなる薬液注入孔であることを特徴とする。
【0009】
本発明防除方法で用いられる薬液に含有される「殺線虫活性化合物」としては、現在市販されている害虫防除剤の有効成分である、マツノザイセンチュウに対する殺虫活性を有する化合物等を挙げることができる。具体的には例えば、表1に記載されるようなもの(表中の「有効成分 一般名」)、即ち、メスルフェンホス、塩酒石酸モランテル、酸レバミゾール、ネマデクチン、エマメクチン安息香酸塩、ミルベメクチン及びホスチアゼートの中から選択される1種又は2種以上等が挙げられる。
【0010】
【表1】

【0011】
尚、現在市販されているマツノザイセンチュウ防除剤としては、例えば、下記のようなものが挙げられる。
センチュリー注入剤(商品名):塩酸レバミゾール 4%
センチュリーエース注入剤(商品名):塩酸レバミゾール 8%
ショットワン・ツー液剤(商品名):エマメクチン安息香酸塩 2%
ショットワン液剤(商品名):エマメクチン安息香酸塩 4%
メガトップ液剤(商品名):ネマデクチン 3.6%
マツガード(商品名):ミルベメクチン 4%
グリーンガード・エイト(商品名):酒石酸モランテル 8%
グリーンガード(商品名):酒石酸モランテル 12.5%
ネマノーン注入剤(商品名):メスルフェンホス 50%
アオバ液剤(商品名):ホスチアゼート 30%
【0012】
本発明防除方法で用いられる「殺線虫活性化合物を含有する薬液」としては、通常、前記の殺線虫活性化合物を溶剤及び/又は界面活性剤等に溶解、乳化若しくは懸濁させてなる液状製剤等を挙げることができる。
ここで用いられる溶剤としては、水又は水と混和しうるものが好ましく、具体的には例えば、水、メタノール、エタノール等の低級アルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、N−メチルピロリドン、N−エチルピロリドン等のピロリドン類、N,N−ジメチルホルムアミド等のアミド類、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール及びこれらのエステル及びエーテル類等のグリコール類等が挙げられる。
尚、前記の製剤は、通常の農薬製剤の製造方法により製造することができる。具体的には、殺線虫活性化合物を含有する薬液は、適宜変更できるが、例えば、殺線虫活性化合物を0.1〜80重量%程度、好ましくは1〜60重量%程度、界面活性剤を0〜10重量%程度、好ましくは0〜5重量%程度、溶剤を20〜95重量%程度、好ましくは40〜90重量%程度、それぞれ含有してなる組成物を、前記の各成分が均一になうように適当な大きさのタンク中で混合機を用いて全量を混合溶解することにより製造すればよい。必要に応じて、さらに調製された組成物を、殺線虫活性化合物が所定の濃度になるように、水等で希釈した希釈液として製造してもよい。
【0013】
殺線虫活性化合物が水に殆ど溶けない場合には、前記の殺線虫活性化合物を有機溶剤に溶かしただけでは、樹幹流に溶解せずに樹体内での分散性が悪く、安定した効果が得られないことがある。そのため前記の殺線虫活性化合物を樹幹流に溶解させるために、有機溶剤だけでなく界面活性剤を用いることが有効な手段である。界面活性剤は大きくノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤に類別されるが、アニオン系界面活性剤とカチオン系界面活性剤とは樹幹流内でイオン解離し、樹木の生理活性バランスを妨げたりするなどして、樹木に薬害を生じさせる原因となる。特に葉の変色、落葉といった薬害が顕著に生じる場合にはノニオン系界面活性剤を単独で用いるのが好適である。
【0014】
ノニオン系界面活性剤としては、ポリオキシエチレンヒマシ油類、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルホルムアルデヒド縮合物類、ポリオキシエチレンアリルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンアリルフェニルエーテルホルムアルデヒド縮合物類、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル類、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル類、ソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル類、ポリグリセリン脂肪酸エステル類、ショ糖脂肪酸エステル類及びプロピレングリコールモノ脂肪酸エステル類等が挙げられる。
【0015】
殺線虫活性化合物を含有する薬液の粘性が高いと樹体内に注入できなくなることもあり、通常は粘性の低い溶剤が好ましい。また、これらの有機溶剤も界面活性剤と同様に種類と配合量によっては薬害をおこさせる場合があるため、それらを適宜調整することが必要である。特に好適な溶剤としては、水、メタノール、エタノール、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、N−メチルピロリドン、ジエチレングリコール及びこれらのエステル類及びエーテル類等のグリコール類が挙げられる。
【0016】
殺線虫活性化合物を含有する薬液には、その他の成分として、肥料成分や植物に活性化作用を有する微量要素等を配合することも可能である。これらを組成物に配合して樹体内に注入することはマツザイセンチュウ病によって衰弱した樹木を活性化させるのに有効な方法である。このような成分には窒素、リン酸、カリ等の肥料の3大要素の他に、カルシウム、硫黄、亜鉛、銅、モリブテン、ホウ素、鉄、マンガン、マグネシウム、種々のビタミン類といった微量要素も含まれる。
【0017】
本発明防除方法では、下記の式により特定される数の薬液注入孔の各々に殺線虫活性化合物を含有する薬液を注入する。
<式>
薬液注入孔の数(但し、端数は切り上げ)=薬液注入孔が設けられる位置でのマツ樹幹部の平均直径(cm)×3.14÷n(式中、nは、20未満の任意の正整数、好ましくは5〜15の任意の整数、より好ましくは5〜10の任意の整数を示す。)
【0018】
ここで「薬液注入孔が設けられる位置でのマツ樹幹部の平均直径」としては、後述のように、薬液注入孔が設けられる位置が(a)薬液注入孔の地上高が0〜2mの範囲、及び、(b)樹幹軸方向における最高位の薬液注入孔と最低位の薬液注入孔との間隔が50cm以内の範囲、を満たすようなマツ樹幹部での位置であるために、例えば、前記の最高位でのマツ樹幹部の直径と前記の最低位でのマツ樹幹部の直径とから算出される平均値を挙げることができる。勿論、前記の最高位と前記の最低位との間の任意な複数位置での代表的なマツ樹幹部の直径から算出される平均値であってもよい。
本発明防除方法の対象となるマツ樹幹部の通常の「薬液注入孔が設けられる位置でのマツ樹幹部の平均直径」であれば、薬液注入孔の数は従来の樹幹注入法での薬液注入孔の数よりも多くなる。このため、薬液注入孔の直径としては、従来の樹幹注入法での薬液注入孔の直径より小さくすることが可能となり、マツ樹体の損傷を少なくすることができる。具体的には例えば、薬液注入孔の直径として約6mm以下を挙げることができる。因みに、樹木は傷に対する癒合能力があり、1年で5〜6mm程度の穴は自然に癒合する。つまり、活力の高い樹木の場合では直径約6mm以下、通常でも直径約5mm以下の薬液注入孔であれば、癒合により当該薬液注入孔の損傷は自然に治癒され問題となることはない。従って、本発明防除方法はこの点においても優れたものである。
【0019】
マツ樹幹部に穿孔する方法としては、例えば、ドリル、ボーリング等により穿孔する方法等を挙げることができる。因みに、ドリルを用いてマツ樹幹部を穿孔すれば、薬液注入孔の断面は略円になる。
穿孔された薬液注入孔の各々に、殺線虫活性化合物を含有する薬液を注入する方法としては、適当な容器に入れた殺線虫活性化合物を含有する薬液を自然注入若しくは加圧注入すればよい。
注入に用いられる容器(以下、注入容器と記すこともある。)の材質は合成樹脂、ガラス又は金属等からなる適当なものを用いればよいが、重さ、割れ易さ、空容器の処理のし易さ、加圧耐性等から考えて合成樹脂製のものが好ましい。また注入時に殺線虫活性化合物を含有する薬液が漏れないように、薬液注入孔の径に合わせて同一の外径を有し、薬液注入孔の容量に合わせた長さの注入口を有するものが好ましい。
注入される薬液の量としては、例えば、穿孔された薬液注入孔の容量以下を挙げることができるが、具体的には、穿孔された薬液注入孔の容量以下で且つ10ml以下、好ましくは、穿孔された薬液注入孔の容量以下で且つ0.1〜5mlの範囲、より好ましくは、穿孔された薬液注入孔の容量以下で且つ0.1〜2mlの範囲等が挙げられる。
このような極少量(因みに、薬液注入孔が設けられる位置でのマツ樹幹部の平均直径の長さによっても異なるが、例えば具体的には、従来の樹幹注入法での薬液の量の1/10〜1/500といった極少量に相当している。)の薬液であれば、一つの薬液注入孔に係る注入作業が瞬時に完了し、例え薬液注入孔の数が従来の樹幹注入法での薬液注入孔の数よりも増えたとしてもトータル注入作業の効率は著しく向上する。それどころか、極少量の薬液の量で済む為に、従来の樹幹注入法のように注入容器(及び注入器具)を設置したまま薬液の注入が完了するまで長時間放置しておく必要が無く、しかもマツ脂による薬液注入の停止・妨害有無の確認作業や薬液注入後の注入容器の回収作業等が不要になり、さらに薬液の運搬に要する労力も軽減され、労力の大幅改善が可能である。また極少量の薬液の量で済む為に、冬季以外のマツ脂が多く流出する時期での注入作業も可能となる。その結果として、従来の樹幹注入法では、マツノザイセンチュウが感染する時期の数ヶ月乃至半年以上前に薬液を施用しておく必要があったが、本発明防除方法では、マツノザイセンチュウが感染する時期の2週間以前に薬液を施用すればよく、地域によって異なるが、3月乃至6月といった時期に薬液を施用することが可能となる。
【0020】
薬液注入孔は、(a)薬液注入孔の地上高が0(即ち、地際部)〜2mの範囲(図1参照)、及び、(b)樹幹軸方向における最高位の薬液注入孔と最低位の薬液注入孔との間隔が50cm以内の範囲、好ましくは30cm以内の範囲(図1参照)、より好ましくは10cmの範囲を満たすようなマツ樹幹部での位置に、樹幹軸と直行する樹幹断面に投影された隣接する2つの薬液注入孔の当該樹幹断面における外周上での間隔が20cm未満、好ましくは5〜15cmの範囲(図1参照)、より好ましくは5〜10cmの範囲となるように、水平方向に対して10〜60度の範囲の斜め下方向に設けられてなるものである。
隣接する2つの薬液注入孔の間隔は、樹幹軸と直行する樹幹断面に投影された隣接する2つの薬液注入孔の当該樹幹断面における外周上での間隔として規定される(図1参照)。
【0021】
薬液注入孔が設けられるマツ樹幹部での位置は、傷や節のない健全部であることがよく、略同じ地上高となるマツ樹幹部の外周上が好ましい。また樹幹軸と直行する樹幹断面に投影された隣接する2つの薬液注入孔の当該樹幹断面における外周上での間隔は、均等な間隔であることが好ましい。このことは、特定の樹幹横断面の位置により集中的に殺線虫活性化合物を含有する薬液を施用することになり、当該樹幹横断面にスクリーン若しくはフィルター的に殺線虫活性化合物を存在させることになろう。因みに、従来の樹幹注入法では、樹幹部内での水分及び物質の樹幹軸方向への移動を利用してマツ樹体全体に殺線虫活性化合物を移行させるために、多くの薬液の量が必要であった。
【0022】
薬液注入孔の穿孔方向は、水平方向に対して10〜60度の範囲の斜め下方向である。好ましくは20〜50度の範囲の斜め下方向である。因みに、垂直方向に伸びながら成長しているマツの場合には、30〜50度の斜め下方向であれば、殺線虫活性化合物を含有する薬液を施用し易いが、風の影響で斜め方向に伸びながら成長しているマツの場合には、殺線虫活性化合物を含有する薬液を施用し易いように適正な方向を選択することがよい。
【0023】
本発明防除方法は、同じ樹木に毎年処理することにより一層安定したマツザイセンチュウ病の防除効果を得ることができるが、薬液の種類及び量によっても異なるものの、2年から3年毎に薬液を施用することでもマツザイセンチュウ病の防除効果が期待できる。
【実施例】
【0024】
以下に製剤例及び試験例等の実施例を挙げ、本発明を更に具体的に説明するが、本発明は当該実施例によって限定されるものではない。尚、試験例等の実施例で使用された供試薬液に含有される殺線虫活性化合物の含有量を下記の製剤例の中に記載する。
【0025】
製剤例1(市販品) 商品名:センチュリーエース注入剤(塩酸レバミゾール8%)
製剤例2(調製品) 塩酸レバミゾール50.0重量%を水を加えて溶解し、50%溶液を得た。
製剤例3(市販品) 商品名:ショットワン・ツー液剤(エマメクチン安息香酸塩2%)
製剤例4(市販品) 商品名:メガトップ(ネマデクチン3.6%)
製剤例5(市販品) 商品名:マツガード液剤(ミルベメクチン4%)
製剤例6(市販品) 商品名:グリンガード・エイト(酒石酸モランテル8%)
製剤例7(市販品) 商品名:グリンガード(酒石酸モランテル12.5%)
製剤例8(市販品) 商品名:ネマノーン注入剤(メスルフェンホス50%)
製剤例9(市販品) 商品名:アオバ液剤(ホスチアゼート30%)
【0026】
試験例1
5月下旬に供試薬液を、茨城県内のクロマツ(地上高1mの平均胸高直径25cm、平均樹高約12M、供試樹木数5本)に下記の方法に従い樹幹注入した。
A)供試薬液が製剤例1記載の薬液である場合;
(1)薬液注入孔の地上高を1mとし、樹幹軸方向における最高位の薬液注入孔と最低位の薬液注入孔との間隔を略0cmとし、樹幹軸と直行する樹幹断面に投影された隣接する2つの薬液注入孔の当該樹幹断面における外周上での間隔を等間隔とし、従来の樹幹注入法により2つの薬液注入孔に供試薬液を注入した対照区1と、
(2)(1)と同様の方法で、かつ注入量を1/5に減少させた対照区2と、を設定した。
B)供試薬液が製剤例2記載の薬液である場合;
(3)薬液注入孔の地上高を1mとし、樹幹軸方向における最高位の薬液注入孔と最低位の薬液注入孔との間隔を略0cmとし、樹幹軸と直行する樹幹断面に投影された隣接する2つの薬液注入孔の当該樹幹断面における外周上での間隔を5cm又は10cm間隔とし、本発明防除方法により5つの薬液注入孔に供試薬液を注射筒を用いて注入し、1樹あたりの処理有効成分量を上記(2)と同量とした本発明区とを設定した。尚、本発明区では、薬液注入孔(直径6mm、深さ5cm)を水平方向に対して30度の斜め下方向に設けた。
薬液注入後、7月下旬に、マツノザイセンチュウを地上高6mの位置である樹幹部に樹木1本あたり3万頭接種した。同年12月に当該樹木におけるマツノザイセンチュウ病の発病程度を健全木数と枯死木数とを区別しながらカウントすることで調査した。その結果を表2に示す。
【0027】
【表2】

【0028】
試験例2
5月下旬に供試薬液(2ml/孔)を、茨城県内のクロマツ(地上高1mの平均胸高直径16cm、平均樹高約8m、供試樹木数5本)に下記の方法に従い樹幹注入した。
薬液注入孔の地上高を1mとし、樹幹軸方向における最高位の薬液注入孔と最低位の薬液注入孔との間隔を略0cmとし、樹幹軸と直行する樹幹断面に投影された隣接する2つの薬液注入孔の当該樹幹断面における外周上での間隔を5cm間隔とし、本発明防除方法により10個の薬液注入孔に供試薬液を注射筒を用いて注入した本発明区を設定した。尚、本発明区では、薬液注入孔(直径6mm、深さ8cm)を水平方向に対して30度の斜め下方向に設けた。
薬液注入後、7月下旬に、マツノザイセンチュウを地上高6mの位置である樹幹部に樹木1本あたり3万頭接種した。同年12月に当該樹木におけるマツノザイセンチュウ病の発病程度を健全木数と枯死木数とを区別しながらカウントすることで調査した。その結果を表3に示す。
【0029】
【表3】

【0030】
試験例3
茨城県内のクロマツ(地上高1mの平均胸高直径19cm、平均樹高約8m、供試樹木数5本)に供試薬液(1ml/孔)を製剤例2記載の薬剤及び製剤例5記載の薬剤とし、樹幹軸と直行する樹幹断面に投影された隣接する2つの薬液注入孔の当該樹幹断面における外周上での間隔を5cm、10cm、15cm、20cm間隔としたこと以外は試験例2と同様の方法に従い試験を実施した。その結果を表4に示す。
【0031】
【表4】

【0032】
試験例4
供試薬液を製剤例2記載の薬液及び製剤例5記載の薬液とし、供試薬液の注入時期を2月下旬、4月下旬、6月下旬、7月上旬としたこと以外は試験例2と同様の方法に従い試験を実施した。その結果を表5に示す。
【0033】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明により、薬液の量が極めて少なく、且つ、注入作業が極めて簡便で短時間に実施できるマツザイセンチュウ病の効率的な防除方法が提供可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】図1は、本発明防除方法において殺線虫活性化合物を含有する薬液が注入される薬液注入孔のマツ樹幹部での代表的な位置を一例として模式的に示した図である。図中の黒丸は薬液注入孔を表している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の式により特定される数の薬液注入孔の各々に、殺線虫活性化合物を含有する薬液を注入する工程を有するマツザイセンチュウ病の防除方法であり、
当該薬液注入孔が、
(a)薬液注入孔の地上高が0〜2mの範囲、及び、
(b)樹幹軸方向における最高位の薬液注入孔と最低位の薬液注入孔との間隔が50cm以内の範囲、
を満たすようなマツ樹幹部での位置に、樹幹軸と直行する樹幹断面に投影された隣接する2つの薬液注入孔の当該樹幹断面における外周上での間隔が20cm未満となるように、水平方向に対して10〜60度の範囲の斜め下方向に設けられてなる薬液注入孔であることを特徴とする方法。
<式>
薬液注入孔の数(但し、端数は切り上げ)=薬液注入孔が設けられる位置でのマツ樹幹部の平均直径(cm)×3.14÷n(式中、nは、20未満の任意の正整数を示す。)
【請求項2】
薬液注入孔の断面が略円であり、式中のnが5〜15の任意の整数であり、且つ、樹幹軸と直行する樹幹断面に投影された隣接する2つの薬液注入孔の当該樹幹断面における外周上での間隔が5〜15cmの範囲であることを特徴とする請求項1記載のマツザイセンチュウ病の防除方法。
【請求項3】
薬液の量が、薬液注入孔の容量以下で且つ0.1〜2mlの範囲であることを特徴とする請求項1〜2記載のマツザイセンチュウ病の防除方法。
【請求項4】
殺線虫活性化合物が、メスルフェンホス、塩酸レバミゾール、酒石酸モランテル、ミルベメクチン、ネマデクチン、エマメクチン安息香酸塩及びホスチアゼートの中から選択される1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1〜3記載のマツザイセンチュウ病の防除方法。
【請求項5】
(1)下記の式により特定される数の薬液注入孔を、
(a)当該薬液注入孔の地上高が0〜2mの範囲、及び、
(b)樹幹軸方向における最高位の薬液注入孔と最低位の薬液注入孔との間隔が50cm以内の範囲、
を満たすようなマツ樹幹部での位置に、樹幹軸と直行する樹幹断面に投影された隣接する2つの薬液注入孔の当該樹幹断面における外周上での間隔が20cm未満となるように、水平方向に対して10〜60度の範囲の斜め下方向に設ける工程、並びに、
(2)前工程で設けられた薬液注入孔の各々に、殺線虫活性化合物を含有する薬液を注入する工程
を有することを特徴とするマツザイセンチュウ病の防除方法。
<式>
薬液注入孔の数(但し、端数は切り上げ)=薬液注入孔が設けられる位置でのマツ樹幹部の平均直径(cm)×3.14÷n(式中、nは、20未満の任意の正整数を示す。)
【請求項6】
薬液の量が、薬液注入孔の容量以下で且つ0.1〜2mlの範囲であることを特徴とする請求項5記載のマツザイセンチュウ病の防除方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−179589(P2008−179589A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−16088(P2007−16088)
【出願日】平成19年1月26日(2007.1.26)
【出願人】(393000928)株式会社日本グリーンアンドガーデン (11)
【Fターム(参考)】