説明

マツタケ菌糸体の製造方法

小スケール培養において、液体培地中に通気を行なわない条件下又は0.05vvm未満の低通気条件下で、マツタケ菌糸体を撹拌培養する工程を含む、マツタケ菌糸体の製造方法を開示する。前記製造方法によれば、生理活性を損なうことなく、マツタケ菌糸体を大量に製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、マツタケ菌糸体の製造方法に関する。特には、マツタケ菌糸体の大量製造の母菌として利用可能なマツタケ菌糸体を製造し、これを利用して、マツタケ菌糸体を大量に製造する方法に関するものである。
【背景技術】
国際公開第WO02/30440号パンフレット(特許文献1)の27ページには、マツタケ菌糸体の乾燥粉末をストレス負荷回復促進に利用する提案がなされている。
マツタケ菌糸体の製造方法に関して、特公昭第61−53032号公報(特許文献2)の実施例1には、マツタケ菌の斜面寒天培養物を、デンプン類を含む液体培地中で、30日間振盪培養し、更に、デンプン類を含む液体培地20Lに接種して、30日間通気撹拌培養して、マツタケ菌糸体を製造する方法が記載されている。
更に、特開平第11−318433号公報(特許文献3)の実施例1には、市販のマツタケ子実体から分離した菌糸体を4日間平板培養し、野菜抽出物を含有する液体培地で4日間馴化培養し、更に、野菜抽出物を含有する液体培地2Lを加えた5Lの深層通気撹拌培養槽を用いて、6日間培養することにより、マツタケ菌糸体を製造できることが記載されている。
しかしながら、マツタケ菌糸体の大量製造に関して、生理活性を損なうことなく、大量製造を可能にする新たな提案が待望されている。
(特許文献1)国際公開第2002−30440号公報
(特許文献2)特公昭第61−53032号公報
(特許文献3)特開平第11−318433号公報
【発明の開示】
本発明は、マツタケ菌糸体の大量製造の母菌として利用可能なマツタケ菌糸体を製造し、これを利用して、生理活性を損なうことなく、マツタケ菌糸体を大量に製造する方法を提供することを目的とするものである。
本発明者は、鋭意研究を行なった結果、マツタケ菌糸体を、小スケール培養において、液体培地中に通気を行なわない条件下又は低通気条件下で撹拌培養する(好ましくは、前記撹拌培養に用いるマツタケ菌糸体を、予め、固形培地又は液体培地で、培養又は保存したマツタケ菌を種株として、所定の期間、静置液体培養し、次いで振盪培養する)ことにより、マツタケ菌糸体の量産に適したマツタケ菌の母菌が得られること、及び前記母菌を深部培養(例えば、深部撹拌培養)することにより、効率的にマツタケ菌糸体を量産できるという知見を得るに到った。
従って、本発明は、
[1]小スケール培養において、液体培地中に通気を行なわない条件下又は0.05vvm未満の低通気条件下で、マツタケ菌糸体を撹拌培養する工程(以下、非通気撹拌培養と称する)を含む、マツタケ菌糸体の製造方法;
[2]前記撹拌培養の前培養工程として、
(1)マツタケ菌糸体を静置液体培養する工程、
(2)マツタケ菌糸体を振盪培養する工程、あるいは、
(3)マツタケ菌糸体を静置液体培養し、続いて、前記静置液体培養で得られたマツタケ菌糸体を用いて振盪培養する工程
のいずれか1つの工程を更に含む、[1]の製造方法;
[3]前記撹拌培養工程における培養液単位体積あたりの撹拌所要動力が0.01〜2kW/mである、[1]又は[2]の製造方法;
[4]マツタケ菌糸体を静置液体培養し、続いて、前記静置液体培養で得られたマツタケ菌糸体を用いて振盪培養する工程を含む、マツタケ菌糸体(特にはマツタケ菌糸体の製造用母菌)の製造方法;
[5][1]〜[4]の製造方法で得られたマツタケ菌糸体を製造用母菌に用いて、深部培養する工程を含む、マツタケ菌糸体の製造方法;
[6]静置液体培養の期間が30〜400日間である、[2]〜[5]の製造方法;
[7]振盪培養の期間が5〜50日間である、[2]〜[6]の製造方法;
[8]接種時拡大倍率2〜50倍の拡大培養である、[1]〜[7]の製造方法;
[9]培養液の浸透圧を0.01〜0.8MPaに調製した培地を用いる、[1]〜[8]の製造方法;
[10]初発菌糸体に含有されるファイバー状菌糸体の初発菌糸体濃度が0.05g/L以上である、[1]〜[9]の製造方法
に関する。
前記[5]の製造方法における前記深部培養工程の好ましい態様によれば、[1]〜[3]の製造方法で得られたマツタケ菌糸体を製造用母菌に用いて、大スケール培養にて深部培養する。
更に、本発明は、固形培地又は液体培地で、培養又は保存したマツタケ菌を、静置液体培養し、次いで、振盪培養することを特徴とする、マツタケ菌糸体の製造方法に関する。
更に、本発明は、固形培地又は液体培地で、培養又は保存したマツタケ菌を、静置液体培養、次いで、振盪培養、更に、100L未満の小型培養装置を用い、液体培地中に通気を行なわない撹拌培養を行なうことを特徴とする、マツタケ菌糸体の製造方法に関する。
更に、本発明は、固形培地又は液体培地で、培養又は保存したマツタケ菌を、静置液体培養、次いで、振盪培養、更に、100L未満の小型培養装置を用い、液体培地中に通気を行なわない撹拌培養を行い製造したマツタケ菌糸体を製造用母菌に用いて、100L以上の中型又は大型培養装置で、深部培養によりマツタケ菌糸体を製造する方法に関する。
本明細書において、用語「小スケール培養」及び「大スケール培養」とは、微生物の大量培養で一般的に行われている段階的培養方法、すなわち、培養液量の少ない小スケールの培養から、順次、培養液量の多いスケールの培養へ移行する周知培養方法における用語「小スケール培養」及び「大スケール培養」を意味する。従って、「小スケール」及び「大スケール」の各範囲は、必ずしも具体的な培養液量で絶対的に規定されるものではなく、例えば、スケールアップの手順(特には培養装置の容積)に応じて適宜決定することのできる、相対的な概念である。
また、本明細書で用いる用語「小型培養装置」及び「大型培養装置」も、同様に、具体的な容積で絶対的に規定されるものではなく、例えば、スケールアップの手順(特には培養スケール)に応じて適宜決定することのできる、相対的な概念である。
なお、これらの好適範囲については、後述する各培養工程において詳述する。
また、本明細書中では、発明の理解を容易にするため、必要に応じて次のように記載する。
マツタケ菌の種株又はマツタケ菌の菌株をマツタケ菌Iと記載する。
マツタケ菌Iを固形培地又は液体培地で、培養又は保存したマツタケ菌を、マツタケ菌IIと記載する。
マツタケ菌IIを静置液体培養して得られるマツタケ菌を、マツタケ菌IIIと記載する。
マツタケ菌IIIを振盪培養して得られるマツタケ菌を、マツタケ菌IVと記載する。
マツタケ菌IVを、小スケール培養において、あるいは、小型培養装置(例えば、容積100L未満の小型培養装置)を用いて、培養液中に通気を行なわない条件下又は低通気条件下で撹拌培養を行い得られるマツタケ菌を、マツタケ菌Vと記載する。
マツタケ菌Vを、大スケール培養において、あるいは、大型培養装置(例えば、容積100L以上の大型培養装置)を用いて、深部培養して得られるマツタケ菌を、マツタケ菌VIと記載する。
マツタケ菌VI、大スケール培養において、あるいは、大型培養装置(例えば、容積100L以上の大型培養装置)を用いて、深部培養して得られるマツタケ菌を、マツタケ菌VIIと記載する。
更に、マツタケ菌VII、大スケール培養において、あるいは、大型培養装置(例えば、容積100L以上の大型培養装置)を用いて、深部培養して得られるマツタケ菌を、マツタケ菌VIIIと記載する。
【図面の簡単な説明】
図1は、デンプン、グルコース、及びリン酸二水素カリウム等を含む培地を使用し、培養スケールが200L培養槽であり、培養温度が23±1℃である条件下で培養を実施した、撹拌所要動力と生育の関係を示すグラフである。グラフ中の各記号「黒丸」、「黒四角」、及び「黒三角」は、それぞれ、撹拌所要動力が0.12kw/m、1.1kw/m、及び2.6kw/mの場合の結果である。
図2は、デンプン、グルコース、及びリン酸二水素カリウム等を含む培地を使用し、培養スケールが200L培養槽であり、培養温度が23±1℃であり、撹拌所要動力が0.12kw/mである条件下で培養を実施した、浸透圧と生育の関係を示すグラフである。グラフ中の各記号「黒丸」、「黒四角」、及び「黒三角」は、それぞれ、浸透圧が0.98MPa、0.5MPa、及び0.05MPaの場合の結果である。
図3は、デンプン、グルコース、及びリン酸二水素カリウム等を含む培地を使用し、培養スケールが500mLフラスコ振盪培養であり、培養温度が23±1℃であり、撹拌所要動力が0.14kw/mである条件下で培養を実施した、初発菌糸体濃度と生育の関係を示すグラフである。グラフ中の各記号「黒丸」、「黒四角」、「黒三角」、及び「×」は、それぞれ、初発菌糸体濃度が0.06g/L、0.2g/L、0.6g/L、及び1g/Lの場合の結果である。
図4は、ファイバー状菌糸体の菌糸体形状を示す図面である。
図5は、ペレット状菌糸体の菌糸体形状を示す図面である。
図6は、デンプン、グルコース、及びリン酸二水素カリウム等を含む培地を使用し、培養スケールが200L培養槽(培養液量=140L)であり、培養温度が23±1℃であり、撹拌所要動力が0.12kw/mである条件下で培養を実施した、母菌形状と生育の関係を示すグラフである。グラフ中の各記号「黒丸」及び「黒四角」は、それぞれ、母菌形状がファイバー状及びペレット状の場合の結果である。
図7は、母菌培養系の概要を示す説明図である。
図8は、本発明方法を実施するのに用いることができる培養システムを示す説明図である。
図9は、デンプン、グルコース、及びリン酸二水素カリウム等を含む培地を使用し、培養スケールが65m培養槽(培養液量=40m)であり、培養温度が23±1℃であり、撹拌所要動力が0.01〜0.12kw/mである条件下で培養を実施した、培養日数と菌糸体濃度の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明の製造方法では、非通気撹拌培養工程を少なくとも実施することにより、マツタケ菌糸体を製造することができる。本明細書において、非通気撹拌培養とは、液相(すなわち、培養液)への通気を行わないか、あるいは、液相への通気量が0.05vvm以下であって培養液中に実質的に通気を行わない撹拌培養を意味する。なお、培養装置の内圧を保持する目的で、気相に通気を行うことは、非通気撹拌培養の範疇に入るものとする。非通気撹拌培養工程で得られるマツタケ菌糸体それ自体を、最終製品とすることもできるし、あるいは、大量製造の母菌として用いることもできるが、大量製造の母菌として用いることが特に好ましい。
本発明の製造方法における非通気撹拌培養工程に用いるマツタケ菌糸体としては、例えば、増殖及び馴化等を目的とする適当な前培養を実施することにより得られるマツタケ菌糸体を用いることができ、前記前培養としては、例えば、静置液体培養若しくは振盪培養、又はそれらの組み合わせ(特には、静置液体培養及び振盪培養の連続実施)を挙げることができる。
以下、静置液体培養、振盪培養、非通気撹拌培養、及び深部培養の順に、本発明の製造方法を説明する。
本明細書におけるマツタケ菌とは、トリコローマ(Tricholoma)属、及びその近縁種に属する種の菌類を言う。例を挙げると、トリコローマ属としては、例えば、マツタケ(Tricholoma matsutake)があり、その近縁種には、例えば、ニセマツタケ(Tricholoma fulvocastaneum Hongo sp.nov.)、バカマツタケ(T.bakamatsutake Hongo sp.nov.)、又はマツタケモドキなどがある。
本発明の製造方法で使用するマツタケ菌、例えば、マツタケ菌の種株又はマツタケ菌の菌株であるマツタケ菌Iは、天然又は市販のマツタケ子実体から純粋分離した菌糸体を用いることができる。
更に、市販、あるいは、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターなどに寄託されているマツタケ菌株も本発明において使用することができる。本発明で用いることのできる菌株の例を挙げると、ATCC(American Type Culture Collection)のATCC34979株、ATCC34981株、若しくはATCC34988株、発酵研のIFO6915株、IFO6925株、IFO6930株、IFO6935株、IFO30604株、IFO30605株、若しくはIFO30606株、農生資源研のMAFF460038株、又は独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに寄託されているトリコローマ属のFERM BP−7304株などがある。
マツタケ菌IIの培養又は保存に用いる培地は、一般的にマツタケ菌を培養する栄養源基質を有する培地であれば、特に制限無く使用することができる。例えば、太田培地[Ohta,A(1990)Trans.Mycol.Soc.Japan 31:323−334]、MMN培地[Marx,D.H.(1969)Phytopathology 59:153−163]、又は浜田培地[浜田(1964)マツタケ、97−100]などを挙げることができる。
固形培地用の固形化剤の例を挙げると、カラギーナン、マンナン、ペクチン、寒天、カードラン、デンプン、又はアルギン酸などがあり、これらのうち寒天が好ましい。
使用可能な培地の栄養源基質には、例えば、炭素源、窒素源、及び無機元素源などがある。
炭素源の例を挙げると、デンプン類(例えば、米デンプン、小麦粉デンプン、バレイショデンプン、又はサツマイモデンプンなど)、多糖類(例えば、デキストリン、又はアミロペクチンなど)、少糖類(例えば、マルトース、又はシュクロースなど)、又は単糖類(例えば、フラクトース、又はグルコースなど)がある。更に、麦芽エキスを挙げることができる。マツタケ菌の生長速度から、グルコースなどの単糖類が好ましい時期と、デンプン類の好ましい時期とがあるので、時期に応じた炭素源を選択し、必要に応じて組み合わせて使用する。
窒素源の例を挙げると、天然由来物質である酵母エキス、乾燥酵母、コーンスティープリカー、大豆粉、又は大豆ペプトンなどがあり、その他の窒素源としては、硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、又は尿素などもある。これらを単独で、又は組み合わせて使用することができる。一般に、生長速度を考慮すると天然由来物質、特に酵母エキスが好ましい。
無機元素源は、リン酸及び微量元素を供給するために使用する。例を挙げると、リン酸塩、金属イオン(例えば、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、マンガン、銅、又は鉄等)の硫酸塩、塩酸塩、硝酸塩、又はリン酸塩などの無機塩があり、必要量を培地中に溶解する。
更に、培地にビタミン類(例えば、ビタミンB1など)又はアミノ酸類を添加することもできる。
更に、使用するマツタケ菌の性質に応じて、植物抽出物、有機酸、又は核酸関連物質などを加えることができる。例を挙げると、果菜類、根菜類、又は葉菜類などの抽出物、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、フマル酸、又は乳酸などの有機酸、及び市販の核酸、核酸抽出物、酵母、又は酵母エキスなどの核酸関連物質がある。
固体培地を調製する場合、炭素源の使用量は、好ましくは10〜100g/L、より好ましくは10〜50g/L、特に好ましくは20〜30g/Lである。
窒素源の使用量は、窒素元素相当量で、好ましくは0.005〜0.1mol/L、より好ましくは、0.007〜0.07mol/L、特に好ましくは、0.01〜0.05mol/Lである。
リン酸塩の使用量は、リン元素相当量で、好ましくは0.001〜0.05mol/L、より好ましくは、0.005〜0.03mol/L、特に好ましくは、0.01〜0.02mol/Lになるように使用する。更に、他の無機塩、ビタミン類、植物抽出物、有機酸、及び/又は核酸関連物質などマツタケ菌の性質に応じて適宜添加することができる。また、調製した栄養源基質溶液のpHを好ましくは4〜7、より好ましくは4.5〜6.0、特に好ましくは5.0〜5.5とする。
(静置液体培養)
次に、マツタケ菌II(固形培地又は液体培地で、培養又は保存したマツタケ菌)を静置液体培養してマツタケ菌IIIを製造する方法について記載する。
通常、静置液体培養可能な培養容器(例えば、30mL〜10L容、好ましくは100mL〜2L容の三角フラスコ)を用いて行う。
この静置液体培養は、液体培地にマツタケ菌IIを接種することにより開始する。
接種したマツタケ菌IIを含有する培養液と液体培地とを合わせた体積の、接種したマツタケ菌IIを含有する培養液の体積に対する比(以下において、「接種時拡大倍率」と記載)が好ましくは2〜50倍、より好ましくは3〜30倍となる量の液体培地を使用する。
接種したマツタケ菌IIを含有する培養液中のマツタケ菌IIの乾燥菌糸体重量と、接種したマツタケ菌IIを含有する培養液と液体培地とを合わせた混合物の体積の比(以下において、「初発菌糸体濃度」と記載)を、好ましくは0.05〜3g/L、より好ましくは0.1〜2g/Lとなるように、液体培地にマツタケ菌IIを含有する培養液を接種する。
本発明の静置液体培養では、培養温度を、好ましくは15〜30℃、より好ましくは20〜25℃とし、好ましくは30〜400日間、より好ましくは120〜240日間培養する。培養期間が、30日未満であっても、400日間より長期間であっても、大量培養に適した生育能を有するマツタケ菌IIIを得ることが困難になる。
静置液体培養に使用する液体培地は、その浸透圧を好ましくは0.01〜0.8MPa、より好ましくは0.02〜0.7MPa、特に好ましくは0.03〜0.5MPaとなるように、栄養源基質を使用する。
静置液体培養に用いる栄養源基質として、マツタケ菌Iを培養する固形培地と同じ炭素源、窒素源、無機元素源、ビタミン類(例えば、ビタミンB1など)、又はアミノ酸類を使用することができる。
炭素源の使用量は、好ましくは10〜100g/L、より好ましくは20〜60g/L、特に好ましくは25〜45g/Lである。通常、グルコース等の単糖類を使用する。
窒素源の使用量は、窒素元素相当量で、好ましくは0.005〜0.1mol/L、より好ましくは、0.007〜0.07mol/L、特に好ましくは、0.01〜0.05mol/Lである。
リン酸塩を使用する場合は、リン元素相当量で好ましくは0.001〜0.05mol/L、より好ましくは、0.005〜0.03mol/L、特に好ましくは、0.01〜0.02mol/Lになるようにする。
更に、他の無機塩、ビタミン類、植物抽出物、有機酸、及び核酸関連物質などマツタケ菌の性質に応じて適宜添加することができる。
調製した栄養源基質溶液のpHを好ましくは4〜7、より好ましくは4.5〜6.5、特に好ましくは5.0〜6.0とする。
マツタケ菌IIIを含有している静置液体培養による培養液の一部又は全部を、マツタケ菌IIを含有している培養液(若しくは、培養物)と同様に静置液体培養の接種源として、再度、静置液体培養工程で使用することもできる。
(振盪培養)
次に、マツタケ菌IIIを振盪培養して、マツタケ菌IVを製造する方法について記載する。
通常、振盪培養可能な培養容器(例えば、30mL〜10L容、好ましくは300mL〜5L容の三角フラスコ又は坂口フラスコ)を用いて行う。
この振盪培養は、液体培地にマツタケ菌III(すなわち、静置液体培養により得られるマツタケ菌)を接種することにより開始することもできるし、あるいは、マツタケ菌II(すなわち、固形培地又は液体培地で培養又は保存したマツタケ菌)を接種することにより開始することもできる。前記接種は、前段階で得られたマツタケ菌糸体をホモジェネート処理してから用いることが好ましい。
接種したマツタケ菌IIIを含有する培養液と液体培地とを合わせた体積の、接種したマツタケ菌IIIを含有する培養液の体積に対する比(以下において、「接種時拡大倍率」と記載)が好ましくは2〜50倍、より好ましくは3〜30倍、特に好ましくは5〜10倍となる量の液体培地を使用する。
なお、接種時拡大倍率に見合う培養液の量を確保するために、静置液体培養を複数の培養容器を用いて製造することもできる。
接種したマツタケ菌IIIを含有する培養液中のマツタケ菌IIIの乾燥菌糸体重量と、接種したマツタケ菌IIIを含有する培養液と液体培地とを合わせた混合物の体積の比(以下において、「初発菌糸体濃度」と記載)を、好ましくは0.05〜3g/L、より好ましくは0.1〜2g/Lとなるように、液体培地にマツタケ菌IIIを含有する培養液を接種する。
振盪培養では、培養温度を、好ましくは15〜30℃、より好ましくは20〜25℃とし、好ましくは5〜50日間、より好ましくは7〜50日間、より好ましくは14〜28日間実施し、撹拌培養に用いるマツタケ菌IVを製造する。
振盪培養に要する動力として、通常、三角フラスコ内の培養液単位体積あたりの撹拌所要動力0.01〜2kW/m、好ましくは0.05〜0.4kW/mを用いる。
振盪培養に使用する液体培地は、その浸透圧を好ましくは0.01〜0.8MPa、より好ましくは0.02〜0.7MPa、特に好ましくは、0.03〜0.5MPaとなるように、栄養源基質を使用する。
振盪培養に用いられる栄養源基質として、マツタケ菌IIを培養する液体培地と同じ炭素源、窒素源、無機元素源、ビタミン類(例えば、ビタミンB1など)、又はアミノ酸類を使用することができる。
炭素源の使用量は、好ましくは10〜100g/L、より好ましくは20〜60g/L、特に好ましくは25〜45g/Lである。通常、グルコース等の単糖類を使用する。
窒素源の使用量は、窒素元素相当量で、好ましくは0.005〜0.1mol/L、より好ましくは、0.007〜0.07mol/L、特に好ましくは、0.01〜0.05mol/Lである。
リン酸塩の使用量は、リン元素相当量で好ましくは0.001〜0.05mol/L、より好ましくは、0.005〜0.03mol/L、特に好ましくは、0.01〜0.02mol/Lになるようにする。
更に、他の無機塩、ビタミン類、アミノ酸類、植物抽出物、有機酸、及び/又は核酸関連物質などマツタケ菌の性質に応じて適宜添加することができる。
調製した栄養源基質溶液のpHを好ましくは4〜7、より好ましくは4.5〜6.5、特に好ましくは5.0〜6.0とする。
(非通気撹拌培養)
次に、非通気撹拌培養により、マツタケ菌Vを製造する方法について記載する。
この撹拌培養は、液体培地にマツタケ菌IV(すなわち、振盪培養工程により得られるマツタケ菌)又はマツタケ菌III(すなわち、静置液体培養により得られるマツタケ菌)を接種することにより開始する。前記接種は、前段階で得られたマツタケ菌糸体をホモジェネート処理してから用いることができる。
以下、マツタケ菌IVを接種する場合を例に取り、非通気撹拌培養工程を説明するが、マツタケ菌IIIを用いても同様にして実施することができる。また、撹拌培養で得られるマツタケ菌を、再度、撹拌培養に用いることもできる。
非通気撹拌培養で用いる液体培地は、次のようにして調製することができる。
栄養源基質は、振盪培養で使用する、炭素源、窒素源、無機元素源、ビタミン類(例えば、ビタミンB1など)、又はアミノ酸類と同じものを使用することができる。
炭素源の使用量は、好ましくは10〜100g/L、より好ましくは20〜60g/Lであり、特に好ましくは25〜45g/Lである。デンプン類を好ましく使用できる。
非通気撹拌を行なう培養液中の浸透圧に影響するグルコースなどの単糖類を併用する場合、その使用量は、好ましくは0.1〜60g/L、より好ましくは0.5〜40g/L、特に好ましくは0.7〜20g/Lである。
窒素源の使用量は、窒素元素相当量で、好ましくは0.005〜0.1mol/L、より好ましくは0.007〜0.07mol/L、特に好ましくは0.01〜0.05mol/Lである。
リン酸塩の使用量は、リン元素相当量で好ましくは0.001〜0.05mol/L、より好ましくは0.005〜0.03mol/L、特に好ましくは0.01〜0.02mol/Lになるようにする。
更に、他の無機塩、ビタミン類、アミノ酸類、植物抽出物、有機酸、及び/又は核酸関連物質などマツタケ菌の性質に応じて、適宜、添加することができる。
調製した栄養源基質溶液のpHを好ましくは4〜7、より好ましくは4.5〜6.5、特に好ましくは5.0〜6.0とする。
非通気撹拌培養に使用する液体培地は、その浸透圧を好ましくは0.01〜0.8MPa、より好ましくは0.02〜0.7MPa、特に好ましくは0.03〜0.5MPaとなるように、栄養源基質を使用する。
非通気撹拌培養の培養温度は、好ましくは15〜30℃、より好ましくは20〜25℃である。
接種したマツタケ菌(IV)を含有する培養液と液体培地とを合わせた体積の、接種したマツタケ菌(IV)を含有する培養液の体積に対する比(以下において、「接種時拡大倍率」と記載)が好ましくは2〜50倍、より好ましくは3〜30倍、特に好ましくは5〜10倍となる量の液体培地を使用する。
接種したマツタケ菌(IV)を含有する培養液中のマツタケ菌(IV)の乾燥菌糸体重量と、接種したマツタケ菌(IV)を含有する培養液と液体培地とを合わせた混合物の体積の比(以下において、「初発菌糸体濃度」と記載)を、好ましくは0.01〜5g/L、より好ましくは0.05〜3g/L、特に好ましくは0.1〜2g/Lとなるように、液体培地にマツタケ菌(IV)を含有する培養液を接種する。なお、初発菌糸体の内、0.005〜5g/L、好ましくは0.025〜3g/L、特に好ましくは0.05〜2g/Lがファイバー状菌糸体であることが望ましい。
非通気撹拌培養で得られるマツタケ菌(V)を、次の深部培養の母菌として用いる場合の培養日数は、好ましくは3〜20日間、より好ましくは5〜14日間実施する。
これらの培養日数後に、マツタケ菌(V)の乾燥菌糸体含有量が、好ましくは0.5〜10g/L、より好ましくは1〜8g/L、特に好ましくは1〜6g/Lになっている培養液は、深部培養に適した生育能を有するマツタケ菌(V)を含有している。
非通気撹拌培養で得られるマツタケ菌(V)を、マツタケ菌糸体として分離する場合の培養日数は、好ましくは5〜30日間、より好ましくは7〜20日間、特に好ましくは10〜15日間実施する。
これらの培養日数から、炭素源の資化速度が著しく低下した時を培養終了とするのが好ましいが、適宜、製造サイクル又は製造コスト等の製造形態に合わせて決定することができる。
振盪培養及びそれ以降の工程では、マツタケ菌糸体は、大別して、ペレット状とファイバー状の形状をとる。本発明の製造方法では、各工程で得られた菌糸体を次の工程の母菌として使用する場合には、その菌糸体の50%以上(より好ましくは80%以上)がファイバー状であることが好ましい。ファイバー状の菌糸体は、次の液体培地に接種した場合、ペレット状菌糸体と比べ、速やかな増殖を得ることができる。なお、菌糸体全体の量が充分確保することができる場合には、ファイバー状菌糸体が前記割合よりも低くても、ファイバー状菌糸体の絶対量を充分に確保することができるため、前記割合に限定されるものではない。なお、ファイバー状菌糸体とペレット状菌糸体の比率は、例えば、目開き1mm程度のメッシュ等で水篩することにより測定することができる。
一方、その工程が最後の工程となり、最終製品としてのマツタケ菌糸体を分離する場合には、マツタケ菌糸体の量を充分に確保することが重要であるので、ペレット状又はファイバー状のいずれの形状であるかは重要でなく、ペレット状とファイバー状との割合も特に限定されるものではない。
非通気撹拌培養は、小スケール培養、すなわち、小スケールの培養液を用いて実施する。非通気撹拌培養で用いることのできる培養液量は、通常の微生物の大量培養における一般的な段階的培養において実施される小スケール培養の範囲を超えない限り、特に限定されるものではない。非通気撹拌培養で用いることのできる培養液量は、通常、1000L未満であり、好ましくは500L未満、より好ましくは100L未満である。また、培養液量の下限は、通常、0.8L以上であり、好ましくは4L以上である。
非通気撹拌培養に使用する培養装置としては、例えば、無菌性を確保することができ、小スケール培養が可能な培養装置を用いることができる。このような培養装置としては、小型培養装置、例えば、容積が1000L以下(好ましくは500L以下、より好ましくは100L以下、特に好ましくは100L未満)の小型培養装置(例えば、ジャーファーメンター又は小型培養槽)を使用することができる。なお、前記培養装置の容量の下限は、通常、1L以上であり、好ましくは5L以上である。
マツタケ菌IVの培養を行いマツタケ菌Vを製造する場合、液体培地中に通気せずに、撹拌培養を行なう。小スケール培養(例えば、100L未満のジャーファーメンター又は小型培養槽)で通気を行なって培養すると、菌糸が凝集し、成長点が欠失して母菌としての生育能が損なわれる場合があるからである。
非通気撹拌培養における撹拌は、培養初期では培養液単位体積あたりの撹拌所要動力で制御する。通常、0.01〜2kW/m、好ましくは0.05〜1kW/mの範囲で撹拌を行なうことにより、マツタケ菌糸体が良好に生育する。培養初期を過ぎれば菌が生育をはじめ、酸素供給量が不足し、更に、生育した菌糸体の分散が不充分になるので、適宜、撹拌の強度を大きくすることが必要になる。
非通気撹拌培養から得られたマツタケ菌糸体の分離及び回収は、常法によって行なうことができる。例えば、フィルタープレスなどによるろ過、又は遠心分離などである。得られたマツタケ菌糸体は、その使用目的に応じて、乾燥し、又は乾燥しないで、破砕、抽出又は成形して製品化する。
(深部培養)
深部培養では、マツタケ菌V、すなわち、非通気撹拌培養で得られるマツタケ菌を、液体培地に接種することにより開始することができる。また、深部培養で得られるマツタケ菌(例えば、マツタケ菌V〜VII)を、再度、深部培養に用いることもできる。更には、マツタケ菌IV、すなわち、振盪培養工程により得られるマツタケ菌(特には、静置液体培養し、続いて、振盪培養することにより得られるマツタケ菌)を、深部培養に用いることもできる。前記接種は、前段階で得られたマツタケ菌糸体をホモジェネート処理してから用いることができる。
また、深部培養とは、空気を培養槽外から培養液中に強制的に供給し、撹拌装置による機械的撹拌、あるいは、ドラフトチューブ又は分散板等によって通気される気泡を微粒化し、気液界面を大きくさせ、しかも、培養液中の気泡の滞留時間を大きくさせることにより、微生物への酸素供給を効率よく行う方法である。例えば、通気撹拌培養槽による培養、気泡塔型培養槽(エアリフト型培養槽)による培養、又は流動層型培養槽による培養などを挙げることができる。
深部培養で用いる液体培地は、非通気撹拌培養で用いる液体培地と同じものを使用することができる。また、非通気撹拌培養と同じ基質を用いることができ、目標収量に合わせて基質濃度を調整することができる。但し、基質由来の浸透圧を0.01〜0.8MPaに調整することが望ましい。
また、培養温度、接種時拡大倍率、初発菌糸体濃度、培養日数、及び撹拌所要動力についても、非通気撹拌培養と同様にして実施することができる。
深部培養は、大スケール培養、すなわち、大スケールの培養液を用いて実施することが好ましい。深部培養で用いることのできる培養液量は、通常の微生物の大量培養における一般的な段階的培養において実施される大スケール培養の範囲を超えない限り、特に限定されるものではない。深部培養で用いることのできる培養液量は、通常、100L以上であり、好ましくは1000L以上、より好ましくは3000L以上である。
深部培養に使用する培養装置としては、必要に応じて通気することができ、深部撹拌ができ、無菌性を確保することができ、大スケール培養が可能な培養装置を用いることができる。このような培養装置としては、大型培養装置、例えば、容積が100L以上、好ましくは1000L以上、より好ましくは3000L以上の大型培養装置を用いることができる。なお、前記大型培養装置には、中型培養装置と称されることのある培養装置も含まれる。
大スケール培養(例えば、100L以上の大型培養槽などの培養装置)により工業スケールで深部培養を行なう場合、必要に応じて通気を行なう。この場合の通気量は、0.05〜1.0vvm、特に、0.2〜0.5vvmとするのが好ましい。
深部培養における撹拌は、培養初期では培養液単位体積あたりの撹拌所要動力で制御する。通常、0.01〜2kW/m、好ましくは0.05〜1kW/mの範囲で撹拌を行なうことにより、マツタケ菌糸体が良好に生育する。培養初期を過ぎれば菌が生育をはじめ、酸素供給量が不足し、更に、生育した菌糸体の分散が不充分になるので、適宜、撹拌の強度を大きくすることが必要になる。深部培養では、培養初期には低通気及び低撹拌速度で培養し、培養後期には高通気及び高撹拌速度で培養するのが好ましい。
深部培養から得られたマツタケ菌糸体の分離及び回収は、常法によって行なうことができる。例えば、フィルタープレスなどによるろ過、又は遠心分離などである。得られたマツタケ菌糸体は、その使用目的に応じて、乾燥し、又は乾燥しないで、破砕、抽出又は成形して製品化する。
以下、マツタケ菌糸体としてマツタケFERM BP−7304株を用いた場合を例に取り、本発明方法について、更に説明する。なお、以下の説明は、FERM BP−7304株以外のマツタケ株についても、通常、当てはまる。
1.生育特性
FERM BP−7304株は環境要因に敏感である。物理的な環境要因は、撹拌由来の機械的衝撃及び浸透圧などが考えられる。また、生育に時間を要するため、短期間で培養を終了するためには、各継代時に多量の母菌を必要とし、大量接種が可能な培養システムの構築が必要である。
2.基本培養条件
(1)機械的衝撃への耐性
通気撹拌培養での撹拌の主な目的は、酸素及び栄養源の拡散である。FERM BP−7304株の増殖速度は遅く、酸素要求量は小さく、過剰な酸素供給は不要と考える。図1は撹拌所要動力と生育の関係を示したグラフである。撹拌所要動力が大きい場合、菌糸体の生育が阻害される。また、溶存酸素の低下が見られないことから、撹拌の影響は機械的衝撃が支配的と考えられる。
更に、撹拌所要動力の大きな系では、菌糸体形状がペレット化する傾向があり、生育が停滞する。この原因は、撹拌による凝集効果に起因すると考えられる。本菌株の生育において、菌糸体への機械的ダメージ及びペレット化が重要な要因となっている。
(2)生育と浸透圧
通常、担子菌の炭素源資化経路は、糖類をグルコースに分解し、グルコース−6−リン酸に変換した後に細胞内に取り込むと考えられる。つまり、一般には多糖類に比してグルコースなどの単糖類の資化効率が高いといえる。FERM BP−7304株においても同様にグルコースを経て多糖類を資化することが推測されるが、グルコース濃度の高い高浸透圧の培養液中では、生育が阻害される傾向がある。図2は培地中の炭素源にデンプン及びグルコースを混合し、浸透圧を調整し、培養を行った実験結果である。グルコース濃度の高い系では、生育が得られにくい傾向があり、浸透圧に対する耐性が小さいことが示唆される。そこで、デンプンを主炭素源とした培地にグルコースを微量添加することで、2つの炭素源の特性を活用する培地処方を採用することができる。
(3)必要母菌量
マツタケ菌は生育が遅いことが知られているが、FERM BP−7304株も同様、生育速度は遅い傾向をもつが、工業的な生産培養を実施する上では、一定期間内に有効な生育を得ることが望ましい。図3はFERM BP−7304株の母菌接種量と生育速度の関係を検討した結果を示す。初発菌糸体濃度0.1〜2.0g/L程度(その内、ファイバー状菌糸体が0.05〜2.0g/L)の条件の生育が早く、工業的な培養においては多量の接種量が必要であることが示唆される。特に低接種量の場合、誘導期間が著しく長く工業的な培養が困難となる傾向がある。
(4)菌糸体形状の制御
糸状菌の培養において、菌糸体の形状は生育に大きな影響を与えることが知られている。FERM BP−7304株は大別して、ファイバー状(図4)とペレット状(図5)の形状をとるが、ファイバー状の菌糸体が生育が有利である。図6はペレット状の母菌とファイバー状の母菌を接種し、生育を確認した生育曲線であるが、ペレット状の母菌を接種した系では有効な生育が得られない傾向がある。そのため、菌糸体形状の制御は工業生産において重要な要件となる。FERM BP−7304株の菌糸体形状に寄与する要因として、例えば、培養液の流動、母菌接種量、培地処方等が挙げられる。特に、小型のジャーファーメンターにおいては通気による培養液の流動により菌糸体が相互に絡み合い、融着してペレットを形成する傾向があり、良好な前培養母菌を得るためには、通気方法を最適化することが好ましい。ペレット状菌糸体は母菌として効率的生育を示さないため、工業的な培養を行う上では、母菌中に含まれるファイバー状菌糸体の母菌全体の比率で50%以上、特に80%とすることが好ましい。但し、次世代での初発菌糸体(乾燥重量換算)の内、ファイバー状菌糸体濃度が0.05〜2g/L程度確保することができれば、これに代えることができる場合がある。
3.培養システム
(1)母菌培養系
前述のように、FERM BP−7304株は大量の母菌を必要とする傾向があるため、大量の母菌を培養するシステムを用いることが好ましい。そこで、図7に示すように、固形培地で継代保存した母菌を多段階に静置培養した後、振盪培養を行う母菌培養法を確立した。この培養方法は液体培地への馴化を目的としている。
(2)タンク培養系
FERM BP−7304株の生育を速やかに得るためには、大量の母菌を必要とする傾向があることは前述のとおりである。従って、タンク培養においても同様であり、初発菌糸体濃度0.1〜2.0g/L程度であることが好ましい。また、培養開始時の培養液中の菌糸体は、初発菌糸体濃度として0.05〜2.0g/L程度のファイバー状菌糸体が含まれていることが好ましい。図8は、本発明方法を実施するのに用いることができる培養システムである。タンク培養系は本培養を含め、4段階としており、いずれも0.1〜2.0g/L程度の初発菌糸体濃度を確保するため、拡大倍率を5〜15倍程度に設定している。図8に示す培養システムと培養法により、本培養12〜14日間で、12〜14g/L程度の菌糸体収量確保が可能となった。図9に生産培養の生育曲線の一例を示す。
【実施例】
以下に本発明に係わる、マツタケ菌糸体の大量製造の母菌として利用可能なマツタケ菌糸体を製造し、これを利用して、マツタケ菌糸体を大量に製造する方法を実施例で説明する。
実施例において、使用したマツタケ菌は、マツタケFERM BP−7304株である。マツタケFERM BP−7304株は、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター[(旧)工業技術院生命工学工業技術研究所(あて名:〒305−8566日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)]に平成12年9月14日より寄託しているものである。FERM BP−7304の菌学的性質については、国際公開第WO02/30440号パンフレット(特許文献1)に記載されている。例えば、10mLのエビオス寒天斜面培地を入れた試験管中で維持されている。
先述のマツタケ菌II〜マツタケ菌VIIIに対応する、マツタケFERM BP−7304を使用して得られたマツタケ菌を、マツタケ菌(II−1)〜マツタケ菌(VIII−1)と記載した。
撹拌培養に以下の装置を使用した。
実施例3、比較例2−1、又は比較例3−1(非通気の場合)において、6枚ディスクタービン翼2段を備えた撹拌機と通気用スパージャーを装備した30L容のジャーファーメンターから通気用スパージャーを取り外して使用した。実施例又は比較例、各々において、30L容ジャーファーメンターと記載した。
比較例3−1において、6枚ディスクタービン翼2段を備えた撹拌機と通気用スパージャーを装備した30L容のジャーファーメンターを使用した。比較例3−1において、スパージャー装備30L容ジャーファーメンターと記載した。
実施例4、実施例7−1〜7−4、実施例8−2、8−3、実施例9−1〜9−3、又は実施例11−1において、4枚ディスクタービン翼2段を備えた撹拌機と通気用スパージャーを装備した200L容培養槽を使用した。実施例、各々において、200L容培養槽と記載した。
実施例5において、6枚ディスクタービン翼2段を備えた撹拌機と通気用スパージャーを装備した7m容培養槽を使用した。実施例5において、7m容培養槽と記載した。
実施例6において、6枚ディスクタービン翼3段を備えた撹拌機と通気用スパージャーを装備した65m容培養槽を使用した。実施例6において、65m容培養槽と記載した。
実施例2〜6、実施例7−1、実施例9−1、実施例10−1〜10−3、又は実施例11−1に「培養液単位体積当たりの撹拌所要動力」と記載されている中の培養液は、各々で使用されている、2L容三角フラスコ、30L容ジャーファーメンター、スパージャー装備30L容ジャーファーメンター、200L容培養槽、7m容培養槽、又は65m容培養槽の中の全内容物(接種母菌の培養液も含む)を意味しており、調合した液体培地のみを意味しているのではない。
栄養源基質として、実施例4、実施例7−1、実施例9−1、又は実施例11−1において、200L容培養槽を用いて、培地を調製する際に、次の3通りの組み合わせのいずれかを記載する必要のある場合には、A型基質、B型基質、又はC型基質と記載した。
A型基質:(1)バレイショデンプン4.9kg、(2)グルコース140g、(3)乾燥酵母エキス280g、(4)リン酸二水素カリウム280g、(5)硫酸マグネシウム・7水和物42g、(6)塩化カルシウム・2水和物0.84g、(7)硫酸亜鉛・7水和物0.56g、(8)塩化マンガン・4水和物0.70g、(9)硫酸銅・5水和物0.14g、(10)塩化鉄・6水和物1.12g、及び(11)チアミン塩酸塩0.14g。
B型基質:A型基質と、(3)乾燥酵母エキス320gのみ異なっている。他[(1)、(2)、及び(4)〜(11)]は内容及び使用量ともにA型基質と同じ。
C型基質:A型基質及びB型基質と、(4)〜(11)の内容と使用量が同じで、乾燥酵母エキス640gと、バレイショデンプンとグルコースの使用量が異なっている。バレイショデンプンとグルコースの使用量は実施例11−1〜11−3に記載の量を使用した。
以下の実施例1〜実施例6で、500mL容三角フラスコから65m容培養槽まで製造規模を拡大して行く過程を示した。
実施例1:500mL容三角フラスコを用いた、静置液体培養によるマツタケ菌(III−1)の製造方法
グルコース30g/L及び乾燥酵母エキス3g/Lとなるように水道水に溶解し培地を調製した。接種後の培地の浸透圧は、0.4MPaであった。この培地を500mL容の三角フラスコに120mL分注し、滅菌した。上記培地組成に静置液体培養で継代保存していたマツタケ菌(II−1)を含有する培養液10mLを接種し、23±2℃の条件下で180日間静置液体培養し、マツタケ菌(III−1)乾燥菌糸体含有量5g/Lの培養液を製造した。
接種時拡大倍率13倍、初発菌糸体濃度0.38g/L。
実施例2:振盪培養によるマツタケ菌(IV−1)の製造方法
グルコース30g/L、乾燥酵母エキス1g/L、大豆ペプトン2g/L、麦芽エキス1g/L、リン酸二水素カリウム1g/L、リン酸水素二カリウム1g/L、及び硫酸マグネシウム・7水和物0.3g/Lとなるように水道水に溶解し、培地を調製した。この培地を2L容の三角フラスコに870mL分注し、滅菌した。この870mLの培地に、実施例1のようにして製造した、マツタケ菌(III−1)乾燥菌糸体含有量5g/Lの培養液130mLをホモジェネート処理後に接種し、ロータリーシェイカーで培養液単位体積当たりの撹拌所要動力0.14kw/m、23±2℃の条件下で20日間振盪培養し、マツタケ菌(IV−1)乾燥菌糸体含有量5g/L(その内、ファイバー状菌糸体4.8g/L)を含有する培養液を製造した。接種後の浸透圧は、0.4MPaであった。
接種時拡大倍率7.7倍、初発菌糸体濃度0.65g/L。
実施例3:30L容ジャーファーメンターによるマツタケ菌(V−1)の製造方法
バレイショデンプン600g、グルコース60g、乾燥酵母エキス40g、リン酸二水素カリウム40g、硫酸マグネシウム・7水和物6g、塩化カルシウム・2水和物0.12g、硫酸亜鉛・7水和物0.08g、塩化マンガン・4水和物0.1g、硫酸銅・5水和物0.02g、塩化鉄・6水和物0.18g、及びチアミン塩酸塩0.02gを30L容ジャーファーメンター内で水道水に溶解し、滅菌し、18Lの培地を調製した。接種後の培地の浸透圧は、0.05MPaであった。
この培地に、実施例2のようにして製造した、マツタケ菌(IV−1)乾燥菌糸体含有量5g/Lを含有する培養液2Lを接種し、培養液単位体積当たりの撹拌所要動力0.08kw/m、23±2℃の条件下で、培養液中に通気用スパージャーから通気することなしに、7日間培養し、マツタケ菌(V−1)乾燥菌糸体含有量1g/L(その内、ファイバー状菌糸体0.95g/L)の培養液を製造した。接種時拡大倍率10倍、初発菌糸体濃度0.5g/L(その内、ファイバー状菌糸体0.45g/L)。
実施例4:200L容培養槽によるマツタケ菌(VI−1)の製造方法
A型基質を200L容培養槽内で水道水に溶解し、滅菌して120Lの培地を調製した。培地の浸透圧は、0.05MPaであった。この培地に、実施例3のようにして製造した、マツタケ菌(V−1)乾燥菌糸体1g/Lを含有する培養液20Lを接種し、培養液単位体積当たりの撹拌所要動力0.12kw/m、通気量42L/min、23±2℃の条件下で7日間深部培養し、マツタケ菌(VI−1)乾燥菌糸体含有量3g/L(その内、ファイバー状菌糸体2.7g/L)の培養液を製造した。
接種時拡大倍率7倍、初発菌糸体濃度0.14g/L(その内、ファイバー状菌糸体0.13g/L)。
実施例5:7m容培養槽によるマツタケ菌(VII−1)の製造方法
溶性デンプン140kg、グルコース4kg、乾燥酵母エキス8kg、リン酸二水素カリウム8kg、硫酸マグネシウム・7水和物1.2kg、塩化カルシウム・2水和物24g、硫酸亜鉛・7水和物16g、塩化マンガン・4水和物20g、硫酸銅・5水和物4g、塩化鉄・6水和物32g、及びチアミン塩酸塩4gを7m容培養槽内で水道水に溶解し、滅菌し、培地3.72mを調製した。培地の浸透圧は、0.05MPaであった。この培地に、実施例4のようにして製造した、マツタケ菌(VI−1)乾燥菌糸体含有量3g/Lの培養液、2槽相当分である280Lを接種し、培養液単位体積当たりの撹拌所要動力0.05kw/m、通気量1.2m/min、温度23±2℃で、7日間深部培養し、マツタケ菌(VII−1)乾燥菌糸体含有量3g/L(その内、ファイバー状菌糸体2.6g/L)の培養液を製造した。
接種時拡大倍率14.3倍、初発菌糸体濃度0.21g/L(その内、ファイバー状菌糸体0.19g/L)。
実施例6:65m容培養槽によるマツタケ菌(VIII−1)の製造方法
溶性デンプン1575kg、グルコース45kg、乾燥酵母エキス135kg、リン酸二水素カリウム90kg、硫酸マグネシウム・7水和物13.5kg、塩化カルシウム・2水和物270g、硫酸亜鉛・7水和物180g、塩化マンガン・4水和物225g、硫酸銅・5水和物45g、塩化鉄・6水和物360g、及びチアミン塩酸塩45gを65m容培養槽内で水道水に溶解し、滅菌し、36mの培地を調製した。接種後の浸透圧は、0.05MPaであった。
この培地に、実施例5のようにして製造した、マツタケ菌(VII−1)乾燥菌糸体含有量3g/Lの培養液、1槽相当分である4mを接種し、通気量12m/min、温度23±2℃で、培養液単位体積当たりの撹拌所要動力0.013kw/mで培養を開始し、その後、菌糸の伸張をみて、適宜、培養液単位体積当たりの撹拌所要動力を大きくしていき、12日目に0.12kw/mとし、13日間深部培養して、マツタケ菌(VIII−1)乾燥菌糸体含有量13.5g/Lの培養液を製造した。
接種時拡大倍率10倍、初発菌糸体濃度0.3g/L(その内、ファイバー状菌糸体0.26g/L)。
比較例1
静置液体培養によるマツタケ菌(III−1)を含有している培養液が振盪培養に及ぼした効果:静置液体培養の工程を経ない培養物と比較。
マツタケ菌(II−1)を含有しているエビオス寒天斜面培地培養物10mLを用いる他は、実施例2と同様に、20日間振盪培養した。
20日後の培養液から乾燥菌糸体含有量を求めることができなかった。
【実施例7】
静置液体培養によるマツタケ菌(III−1)を含有している培養液の製造期間が200L容培養槽による深部培養に及ぼした効果:実施例1の180日間静置液体培養と、30日間静置液体培養、50日間静置液体培養及び、400日間静置液体培養で製造した培養液を用いて比較。
実施例7−1:180日間静置液体培養
実施例1、実施例2、次いで、実施例3と同様にして、マツタケ菌(V−1)を含有している培養液を製造した。
他方、B型基質を200L容培養槽内で水道水に溶解し、滅菌して120Lの培地を調製した。この培地に、マツタケ菌(V−1)を含有している培養液20Lを接種し、培養液単位体積当たりの撹拌所要動力0.12kW/m、通気量42L/min、23±2℃の条件下で、12日間深部培養した。
乾燥菌糸体含有量12g/Lの培養液が得られた。
接種時拡大倍率7倍、初発菌糸体濃度0.14g/L(その内、ファイバー状菌糸体0.13g/L)。
実施例7−2:30日間静置液体培養
静置液体培養の期間のみ30日間とする他は、実施例1と同様に培養した培養液を用いて、実施例2、次いで、実施例3と同様の培養操作を行い、培養液を製造した。この培養液20L用いる他は、200L容培養槽で実施例7−1に準じた培養操作を行った。
乾燥菌糸体含有量2g/Lの培養液が得られた。
実施例7−3:50日間静置液体培養
静置液体培養の期間のみ50日間とする他は、実施例1と同様に培養した培養液を用いて、実施例2、次いで、実施例3と同様の培養操作を行い、培養液を製造した。この培養液を20L用いる他は、200L容培養槽で実施例7−1に準じた培養操作を行った。
乾燥菌糸体含有量8g/Lの培養液が得られた。
実施例7−4:400日間静置液体培養
静置液体培養の期間のみ400日間とする他は、実施例1と同様に培養した培養液を用いて、実施例2、次いで、実施例3と同様の培養操作を行い、培養液を製造した。この培養液20Lを用いる他は、200L容培養槽で実施例7−1に準じた培養操作を行った。
乾燥菌糸体含有量6g/Lの培養液が得られた。
比較例2
振盪培養によるマツタケ菌(IV−1)を含有している培養液が200L容培養槽による深部培養に及ぼした効果:振盪培養の工程を経ない培養液と比較
比較例2−1:振盪培養抜き
実施例1で製造した、マツタケ菌(III−1)乾燥菌糸体含有量5g/Lの培養液2Lを用いて、菌糸体をホモジェネート処理後、実施例3と同様の培養操作で、30L容ジャーファーメンターで培養を行ったが、7日間培養後の培養液から乾燥菌糸体含有量を求めることができなかった。
なお、20日間振盪培養を実施した結果は、実施例7−1に示すとおりである。
接種時及び、培養後のデータは次の通り。
乾燥菌糸体含有量12g/Lの培養液が得られた。
接種時拡大倍率7倍、初発菌糸体濃度0.14g/L(その内、ファイバー状菌糸体0.13g/L)。
【実施例8】
振盪培養によるマツタケ菌(IV−1)を含有している培養液が200L容培養槽による深部培養に及ぼした効果:実施例2の20日間振盪培養と、5日間振盪培養、3日間振盪培養とで得られた培養液を用いて比較。
実施例8−1:20日間振盪培養
実施例7−1に示すとおりである。
接種時及び、培養後のデータは次の通り。
乾燥菌糸体含有量12g/Lの培養液が得られた。
接種時拡大倍率7倍、初発菌糸体濃度0.14g/L(その内、ファイバー状菌糸体0.13g/L)。
実施例8−2:5日間振盪培養
実施例1で製造した培養液を用いて、振盪培養期間を5日間とする他は、実施例2と同様にして培養液を製造し、次いで、実施例3と同様の培養操作を行い、培養液を製造した。この培養液を用いて、更に、200L容培養槽で、実施例7−1に準じた培養操作を行った。乾燥菌糸体含有量7g/Lの培養液が得られた。
実施例8−3:3日間振盪培養
実施例1で製造した培養液を用いて、振盪培養期間を3日間とする他は、実施例2と同様にして培養液を製造し、次いで、実施例3と同様の培養操作を行い、培養液を製造した。この培養液を用いて、更に、200L容培養槽で、実施例7−1に準じた培養操作を行った。乾燥菌糸体含有量0.5g/Lの培養液が得られた。
比較例3
30L容ジャーファーメンターを用いた、通気しない撹拌培養によるマツタケ菌(V−1)を含有する培養液が200L容培養槽による深部培養に及ぼした効果:スパージャー装備30L容ジャーファーメンターを用いて培養中に通気して得られた培養液との比較。
比較例3−1:マツタケ菌(IV−1)培養時に培養液に通気した場合
実施例1、次いで、実施例2で製造した培養液を用いて、スパージャー装備30L容ジャーファーメンターを使用して、2L/minの通気をする他は、実施例3と同様の操作を行い、培養液を製造した。この培養液中の菌糸は凝集していた。培養終了時の乾燥菌糸体含有量は0.6g/Lで、その内、ファイバー状菌糸体0.03g/Lであった。この培養液を用いて、更に、200L容培養槽で、実施例7−1に準じた培養操作を行った。乾燥菌糸体含有量5g/Lの培養液が得られた。
なお、マツタケ菌(IV−1)培養時に培養液に通気しない場合は、実施例7−1に示すとおりである。実施例3と同様に、30L容ジャーファーメンターを用いて、培養液に通気しないで培養した培養液中の菌糸の多くはファイバー状であり、培養終了時の乾燥菌糸体含有量は1g/Lで、その内、ファイバー状菌糸体0.95g/Lであった。
接種時及び、培養後のデータは次の通り。
乾燥菌糸体含有量12g/Lの培養液が得られた。
接種時拡大倍率7倍、初発菌糸体濃度0.14g/L(その内、ファイバー状菌糸体0.13g/L)。
【実施例9】
通気した深部培養によるマツタケ菌(VI−1)を含有している培養液の使用量が200L容培養槽による深部培養に及ぼした効果:実施例4で得られた培養液の使用量を変えて比較:
実施例9−1:マツタケ菌(VI−1)を含有している培養液を10L接種
実施例1、実施例2、実施例3、次いで、実施例4で、マツタケ菌(VI−1)を含有している培養液を製造した。
他方、B型基質を200L容培養槽内で水道水に溶解・滅菌して130Lの培地を調製した。この130Lの培地に、マツタケ菌(VI−1)を含有している培養液10Lを接種し、培養液単位体積当たりの撹拌所要動力0.12kW/m、通気量42L/min、23±2℃の条件下で、12日間深部培養した。
乾燥菌糸体含有量12g/Lの培養液が得られた。
接種時拡大倍率14倍、初発菌糸体濃度0.21g/L(その内、ファイバー状菌糸体0.19g/L)。
実施例9−2:マツタケ菌(VI−1)を含有している培養液を5L接種
実施例1、実施例2、実施例3、次いで、実施例4で製造した、マツタケ菌(VI−1)を含有している培養液を5L使用し、更に、無菌水を5L使用する他は、200L容培養槽で実施例9−1に準じた培養操作を行った。乾燥菌糸体含有量10g/Lの培養液が得られた。
接種時拡大倍率28倍、初発菌糸体濃度0.107g/L(その内、ファイバー状菌糸体0.097g/L)。
実施例9−3:マツタケ菌(VI−1)を含有している培養液を2L接種
実施例1、実施例2、実施例3、次いで、実施例4で製造した、マツタケ菌(VI−1)を含有している培養液を2L使用し、更に、無菌水を8L使用する他は、200L容培養槽で、実施例9−1に準じた培養操作を行った。乾燥菌糸体含有量2g/Lの培養液が得られた。
接種時拡大倍率70倍、初発菌糸体濃度0.043g/L(その内、ファイバー状菌糸体0.04g/L)。
【実施例10】
通気した深部培養によるマツタケ菌(VI−1)を含有している培養液を母菌に使用して200L容培養槽による深部培養する際の撹拌条件が菌糸体生成に及ぼした効果:
実施例10−1:培養液単位体積当たりの撹拌所要動力0.12kW/m
実施例9−1に示すとおりである。
接種時及び、培養後のデータは次の通り。
乾燥菌糸体含有量12g/Lの培養液が得られた。
接種時拡大倍率14倍、初発菌糸体濃度0.21g/L(その内、ファイバー状菌糸体0.19g/L)。
実施例10−2:培養液単位体積当たりの撹拌所要動力1.09kW/m
培養液単位体積当たりの撹拌所要動力を1.09kW/mにする他は、実施例10−1と同様に、12日間深部培養した。
乾燥菌糸体含有量7g/Lの培養液が得られた。
接種時拡大倍率14倍、初発菌糸体濃度0.21g/L(その内、ファイバー状菌糸体0.19g/L)。
実施例10−3:培養液単位体積当たりの撹拌所要動力2.63kW/m
培養液単位体積当たりの撹拌所要動力を2.63kW/mにする他は、実施例10−1と同様に、12日間深部培養したが、12日後の培養液から乾燥菌糸体含有量を求めることができなかった。
【実施例11】
通気した深部培養によるマツタケ菌(VI−1)を含有している培地を母菌に使用して200L容培養槽による深部培養する際の炭素源の違いが菌糸体生成に及ぼした効果:バレイショデンプンとグルコースとの使用量(指標としての浸透圧)による比較。
実施例11−1:浸透圧0.05MPa
実施例1、実施例2、実施例3、次いで、実施例4で、マツタケ菌(VI−1)を含有している培養液を製造した。
他方、C型基質、バレイショデンプン9.8kg及び、グルコース140gを200L容培養槽内で水道水に溶解し、滅菌して、浸透圧0.05MPaの培地130Lを調製した。この130Lの培地に、マツタケ菌(VI−1)を含有している培養液10Lを接種し、培養液単位体積当たりの撹拌所要動力0.12kW/m、通気量42L/min、23±2℃の条件下で本培養として12日間深部培養した。
乾燥菌糸体含有量14g/Lの培養液が得られた。
接種時拡大倍率14倍、初発菌糸体濃度0.21g/L(その内、ファイバー状菌糸体0.19g/L)。
実施例11−2:浸透圧0.50MPa
バレイショデンプン4.97kg、グルコース4.97kgを使用して、浸透圧0.50MPaの培地130Lを作製する他は、実施例11−1と同様に操作し、12日間深部培養した。
乾燥菌糸体含有量9.5g/Lの培養液が得られた。
接種時拡大倍率14倍、初発菌糸体濃度0.21g/L(その内、ファイバー状菌糸体0.19g/L)。
実施例11−3:浸透圧0.98MPa
バレイショデンプン140g、グルコース9.8kgを使用して、浸透圧0.98MPaの培地130Lを作製する他は、実施例11−1と同様に操作し、12日間深部培養した。
乾燥菌糸体含有量2g/Lの培養液が得られた。
接種時拡大倍率14倍、初発菌糸体濃度0.21g/L(その内、ファイバー状菌糸体0.19g/L)。
【実施例12】
振盪培養の撹拌所要動力がマツタケ菌(V)の形状と生育活性に及ぼした効果。
実施例12−1:撹拌所要動力1.6kw/m
実施例1で製造した培養液を用いて、振盪培養の培養液単位体積あたりの撹拌所要動力を1.6kw/mとすること以外は、実施例2と同様にしてマツタケ菌(IV−1)乾燥菌糸体3.2g/L(その内、ファイバー状菌糸体2.2g/L)を含有する培養液を製造した。次いでマツタケ菌(IV−1)の接種量を3L(実施例3と初発菌糸体濃度を同等とするため)とする以外は実施例3と同様の培養操作を行ったところ、30L容ジャーファーメンターによるマツタケ菌(V−1)から得られた乾燥菌糸体濃度は0.75g/L(その内、ファイバー状菌糸体0.6g/L)であった。
接種時拡大倍率6.7倍、初発菌糸体濃度0.48g/L(その内、ファイバー状菌糸体0.38g/L)。
次いで、このマツタケ菌(V)を用いて、更に、200L容培養槽で上記マツタケ菌(V)を20L接種すること以外は実施例7−1に準じた培養を行った。培養終了時の乾燥菌糸体濃度は9.7g/Lであった。
実施例12−2:撹拌所要動力2.2kw/m
実施例1で製造した培養液を用いて、振盪培養の培養液単位体積あたりの撹拌所要動力を2.2kw/mの高速回転とすること以外は、実施例2と同様にしてマツタケ菌(IV−1)乾燥菌糸体2.4g/L(その内、ファイバー状菌糸体0.013g/L)を含有する培養液を製造した。次いでマツタケ菌(IV−1)の接種量を4L(実施例3と初発菌糸体濃度を同等とするため)とする以外は実施例3と同様の培養操作を行ったところ、30L容ジャーファーメンターによるマツタケ菌(V−1)から得られた乾燥菌糸体濃度は0.5g/L(その内、ファイバー状菌糸体0.01g/L)であった。
接種時拡大倍率5倍、初発菌糸体濃度0.48g/L(その内、ファイバー状菌糸体0.0026g/L)。
次いで、このマツタケ菌(V)を用いて、更に、200L容培養槽でマツタケ菌(V)の接種量を20Lとする以外は実施例7−1に準じた培養を行った。培養終了時の乾燥菌糸体濃度は4.7g/Lであった。
【実施例13】
200L容培養槽によるマツタケ菌(VI)の撹拌所要動力がマツタケ菌(VI)の形状と生育活性に及ぼした効果。
実施例13−1:撹拌所要動力1.7kw/m
実施例1、実施例2、及び実施例3でマツタケ菌(V−1)を含有している培養液を製造した。次いで、培養液単位体積あたりの撹拌所要動力を1.7kw/mにすること以外は実施例4に準じた培養を行ったところ、200L容培養槽から乾燥菌糸体含有量1.6g/L(その内、ファイバー状菌糸体1.1g/L)のマツタケ菌(VI−1)が得られた。次いで、ここで得られたマツタケ菌(VI−1)を用いて実施例9−1に準じた培養を行ったところ、乾燥菌糸体含有量は9.7g/Lのマツタケ菌糸体培養液が得られた。
接種時拡大倍率14倍、初発菌糸体濃度0.11g/L(その内、ファイバー状菌糸体濃度0.78g/L)。
実施例13−2:撹拌所要動力2.2kw/m
実施例1、実施例2、実施例3でマツタケ菌(V−1)を含有している培養液を製造した。次いで、培養液単位体積あたりの撹拌所要動力を2.2kw/mにすること以外は実施例4に準じた培養を行ったところ、200L容培養槽から乾燥菌糸体含有量0.68g/L(その内、ファイバー状菌糸体0.02g/L)のマツタケ菌(VI−1)が得られた。次いで、ここで得られたマツタケ菌(VI−1)を用いてマツタケ菌(VI−1)を25L接種する点と、培地調製量を115Lとする点以外を実施例9−1に準じた培養を行ったところ、培養終了時の乾燥菌糸体含有量は2.5g/Lであった。
接種時拡大倍率5.6倍、初発菌糸体濃度0.12g/L(その内、ファイバー状菌糸体濃度0.0036g/L)。
実施例14:大量培養に得られたマツタケ菌糸体におけるナチュラルキラー(NK)細胞活性の評価
(1)大量培養に得られたマツタケ菌糸体の凍結乾燥品の調製
実施例6で得られたマツタケ菌糸体を遠心濾過機にて遠心分離し、そのケーキ部分を回収した後に、5mm角程度に解砕した。解砕したマツタケ菌糸体のブロック(含水率79.4%W.B.)6kgを専用トレー(510mm×790mm)に充填し、−35℃で24時間予備凍結した。なお、「W.B.」は湿潤重量(wet base)を意味する。予備凍結したマツタケ菌糸体を真空度13Paの減圧条件下で凍結乾燥し、凍結乾燥品1.2kgを得た。凍結乾燥時の最高温度は50℃であり、凍結乾燥を完了するまで24時間を要した。凍結乾燥品の含水率は2.7%W.B.であった。
得られた凍結乾燥品1.2kgを、粉砕機(ピンミル方式,5000r/min)で粉砕し、粉砕品を得た。凍結乾燥品の供給速度は12kg/hとし、粉砕時の温度は50℃以下に制御した。前記粉砕品の粒度は、125μmの篩で90%が通過する粒度であった。
(2)NK細胞活性の評価
本実施例では、マツタケ菌糸体の有する生理活性として、ストレス負荷に対する促進活性の指標の1つであるNK細胞活性の評価を行った。具体的には、NK細胞活性は、国際公開第WO02/30440号パンフレットの評価例1に記載の方法(マウスを用いた評価系)により、「30%傷害単位(Lytic Units 30%;LU30)」、すなわち、エフェクター細胞10個当たり30%の腫瘍細胞を傷害する細胞数を算出した後、t−検定により比較した。なお、マツタケ菌糸体粉砕品の投与量は、マウスに対して150mg/kg/日(ヒト相当量に換算した場合、0.6g/日)であった。
前記実施例14(1)で調製したマツタケ菌糸体の凍結乾燥品には、NK細胞活性が認められ、蒸留水投与系のコントロール群に対する有意差(有意差検定P<0.05)も認められた。
【産業上の利用可能性】
本発明の製造方法によれば、生理活性を損なうことなく、マツタケ菌糸体を大量に製造することができる。例えば、本発明により、固形培地又は液体培地で、培養又は保存したマツタケ菌を、静置液体培養し、次いで、振盪培養、更に、小スケール培養において(例えば、100L未満の小型培養装置を用い)、液体培地中に通気を行なわない条件下又は0.05vvm未満の低通気条件下で撹拌培養を行い製造したマツタケ菌糸体を製造用母菌に用いて、大スケール培養(例えば、100L以上の中型又は大型培養装置)で、深部培養によりマツタケ菌糸体を製造することが可能になった。
以上、本発明を特定の態様に沿って説明したが、当業者に自明の変形や改良は本発明の範囲に含まれる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
小スケール培養において、液体培地中に通気を行なわない条件下又は0.05vvm未満の低通気条件下で、マツタケ菌糸体を撹拌培養する工程を含む、マツタケ菌糸体の製造方法。
【請求項2】
前記撹拌培養の前培養工程として、
(1)マツタケ菌糸体を静置液体培養する工程、
(2)マツタケ菌糸体を振盪培養する工程、あるいは、
(3)マツタケ菌糸体を静置液体培養し、続いて、前記静置液体培養で得られたマツタケ菌糸体を用いて振盪培養する工程
のいずれか1つの工程を更に含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記撹拌培養工程における培養液単位体積あたりの撹拌所要動力が0.01〜2kW/mである、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
マツタケ菌糸体を静置液体培養し、続いて、前記静置液体培養で得られたマツタケ菌糸体を用いて振盪培養する工程を含む、マツタケ菌糸体の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の製造方法で得られたマツタケ菌糸体を製造用母菌に用いて、深部培養する工程を含む、マツタケ菌糸体の製造方法。
【請求項6】
静置液体培養の期間が、30〜400日間である、請求項2〜5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
振盪培養の期間が5〜50日間である、請求項2〜6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
接種時拡大倍率2〜50倍の拡大培養である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項9】
培養液の浸透圧を0.01〜0.8MPaに調製した培地を用いる、請求項1〜8のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項10】
初発菌糸体に含有されるファイバー状菌糸体の初発菌糸体濃度が0.05g/L以上である、請求項1〜9のいずれか一項に記載の製造方法。

【国際公開番号】WO2004/038009
【国際公開日】平成16年5月6日(2004.5.6)
【発行日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−546478(P2004−546478)
【国際出願番号】PCT/JP2003/013657
【国際出願日】平成15年10月24日(2003.10.24)
【出願人】(000001100)株式会社クレハ (477)
【Fターム(参考)】