マトリックスメタロプロテアーゼアンタゴニストを用いたHER2のシェディングの阻害
本出願は、HER2のシェディングを阻害するためにマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)のアンタゴニスト、特にMMP−15のアンタゴニストを使用することを記載する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2005年2月9日に出願された仮出願60/651,348の米国特許法第119条に基づく優先権を主張する非仮出願であり、その出願の全開示は本明細書によって参照により組み入れられる。
【0002】
発明の分野
本発明は、HER2のシェディングを阻害するためのマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)、特にMMP−15のアンタゴニストの使用に関するものである。
【0003】
背景技術
HERファミリーのレセプターチロシンキナーゼは、細胞の成長、分化、および生存の重要な仲介物質である。このレセプターファミリーには、上皮成長因子レセプター(EGFR、ErbB1、またはHER1)、HER2(ErbB2またはp185neu)、HER3(ErbB3)、およびHER4(ErbB4またはtyro2)を含めた四つの異なるメンバーがある。
【0004】
erbB1遺伝子によってコードされるEGFRは、ヒトの悪性疾患の原因となると関係づけられている。特に、EGFRの発現増加が乳ガン、膀胱ガン、肺ガン、頭部ガン、頚部ガン、および胃ガン、ならびに神経膠芽腫で観察されている。レセプターEGFRの発現増加は、同じ腫瘍細胞によるEGFRリガンドであるトランスフォーミング成長因子アルファ(TGF−α)の産生増加としばしば関連し、その結果として自己分泌刺激経路によるレセプター活性化が生じる。Baselga and Mendelsohn, Pharmac. Ther. 64: 127-154 (1994)。EGFRまたはそのリガンドであるTGF−αおよびEGFに対するモノクローナル抗体は、当該悪性疾患の処置における治療薬として評価されている。例えば、Baselga and Mendelsohn、上記;Masui et al. Cancer Research 44: 1002-1007 (1984);およびWu et al. J. Clin. Invest. 95: 1897-1905 (1995)を参照されたい。
【0005】
HERファミリーの第2のメンバーであるp185neuは、化学処置されたラットの神経芽細胞腫由来のトランスフォーミング遺伝子産物としてもともと同定された。neuプロトオンコジーンの活性化型は、コードされているタンパク質の膜貫通領域における(バリンからグルタミン酸への)点突然変異に起因する。neuのヒトホモログの増幅は、乳ガンおよび卵巣ガンで観察され、予後不良と相関する(Slamon et al., Science, 235: 177-182 (1987); Slamon et al., Science, 244: 707-712 (1989);および米国特許第4,968,603号)。これまで、neuプロトオンコジーン中の点突然変異に類似した点突然変異は、ヒト腫瘍については報告されていない。HER2の過剰発現(遺伝子増幅が原因で頻繁であるが一様ではない)は、胃、子宮内膜、唾液腺、肺、腎臓、結腸、甲状腺、膵臓、および膀胱のガン腫を含めたその他のガン腫でも観察されている。数ある中で、King et al., Science, 229: 974 (1985);Yokota et al., Lancet 1: 765-767 (1986);Fukushige et al., Mol Cell Biol., 6: 955-958 (1986);Guerin et al., Oncogene Res., 3: 21-31 (1988);Cohen et al., Oncogene, 4: 81-88 (1989);Yonemura et al., Cancer Res., 51: 1034 (1991);Borst et al., Gynecol. Oncol., 38: 364 (1990);Weiner et al., Cancer Res., 50: 421-425 (1990);Kern et al., Cancer Res., 50: 5184 (1990);Park et al., Cancer Res., 49: 6605 (1989);Zhau et al., Mol. Carcinog., 3: 254-257 (1990);Aasland et al. Br. J. Cancer 57: 358-363 (1988);Williams et al. Pathobiology 59: 46-52 (1991);およびMcCann et al., Cancer, 65: 88-92 (1990)を参照されたい。HER2は前立腺ガンで過剰発現していることがある(Gu et al. Cancer Lett. 99: 185-9 (1996); Ross et al., Hum. Pathol. 28: 827-33 (1997); Ross et al. Cancer 79: 2162-70 (1997);およびSadasivan et al. J. Urol. 150: 126-31 (1993))。
【0006】
ラットp185neuおよびヒトHER2タンパク質産物に対する抗体が記載されている。
【0007】
Drebinおよび共同研究者らは、ラットneu遺伝子産物であるp185neuに対する抗体を産生させた。例えば、Drebin et al., Cell 41: 695-706 (1985); Myers et al., Meth. Enzym. 198: 277-290 (1991);およびWO94/22478を参照されたい。Drebin et al. Oncogene 2: 273-277 (1988)は、p185neuの二つの異なる領域と反応する抗体の混合物が、neuでトランスフォーメーションされヌードマウスに移植されたNIH−3T3細胞に相乗的な抗腫瘍効果を招くと報告している。1998年10月20日に発行された米国特許第5,824,311号も参照されたい。
【0008】
Hudziak et al., Mol. Cell. Biol. 9(3): 1165-1172 (1989)は、ヒト乳房腫瘍細胞系SK−BR−3を用いて特徴付けられたHER2抗体の一団の発生を記載している。抗体に曝露した後に、72時間後に単層をクリスタルバイオレットで染色することによって、SK−BR−3細胞の相対的な細胞増殖が決定された。このアッセイを用いて、細胞増殖を56%阻害した4D5と呼ばれる抗体で最大阻害が得られた。この一団のその他の抗体は、このアッセイではより少ない程度に細胞増殖を低減させた。この抗体4D5は、HER2を過剰発現している乳房腫瘍細胞系を、TNF−αの細胞毒性作用に対して感作することがさらに見出された。1997年10月14日に発行された米国特許第5,677,171号も参照されたい。Hudziakらに論じられたHER2抗体は、Fendly et al. Cancer Research 50: 1550-1558 (1990);Kotts et al. In Vitro 26(3): 59A (1990);Sarup et al. Growth Regulation 1: 72-82 (1991);Shepard et al. J. Clin. Immunol. 11(3): 117-127 (1991);Kumar et al. Mol. Cell. Biol. 11(2): 979-986 (1991);Lewis et al. Cancer Immunol. Immunother. 37: 255-263 (1993);Pietras et al. Oncogene 9: 1829-1838 (1994);Vitetta et al. Cancer Research 54: 5301-5309 (1994);Sliwkowski et al. J. Biol. Chem. 269(20): 14661-14665 (1994);Scott et al. J. Biol. Chem. 266: 14300-5 (1991);D'souza et al. Proc. Natl. Acad. Sci. 91: 7202-7206 (1994);Lewis et al. Cancer Research 56: 1457-1465 (1996);およびSchaefer et al. Oncogene 15: 1385-1394 (1997)にさらに特徴付けられている。
【0009】
リコンビナントヒト化バージョンのマウスHER2抗体4D5(huMAb4D5−8、rhuMAb HER2、トラスツズマブ、またはHERCEPTIN(登録商標);米国特許第5,821,337号)は、以前に大規模な抗ガン治療を受けた、HER2過剰発現転移性乳ガンを有する患者に臨床的に活性である(Baselga et al., J. Clin. Oncol. 14: 737-744 (1996))。トラスツズマブは、腫瘍がHER2タンパク質を過剰発現している転移性乳ガン患者の処置に、1998年9月25日に食品医薬品局から販売許可を受けた。
【0010】
種々の特性を有するその他のHER2抗体は、Tagliabue et al. Int. J. Cancer 47: 933-937 (1991);McKenzie et al. Oncogene 4: 543-548 (1989);Maier et al. Cancer Res.51: 5361-5369 (1991);Bacus et al. Molecular Carcinogenesis 3: 350-362 (1990);Stancovski et al. PNAS (USA) 88: 8691-8695 (1991);Bacus et al. Cancer Research 52:2580-2589 (1992);Xu et al. Int. J. Cancer 53: 401-408 (1993);WO94/00136;Kasprzyk et al. Cancer Research 52: 2771-2776 (1992);Hancock et al. Cancer Res.51: 4575-4580 (1991);Shawver et al. Cancer Res. 54: 1367-1373 (1994);Arteaga et al. Cancer Res. 54: 3758-3765 (1994);Harwerth et al. J. Biol. Chem. 267: 15160-15167 (1992);米国特許第5,783,186号;およびKlapper et al. Oncogene 14: 2099-2109 (1997)に記載されている。
【0011】
ホモロジースクリーニングの結果として、レセプターHERファミリーの二つの他のメンバー、すなわちHER3(米国特許第5,183,884号および第5,480,968号、ならびにKraus et al. PNAS (USA) 86:9193-9197 (1989))およびHER4(EP特許出願第599,274号;Plowman et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90: 1746-1750 (1993);およびPlowman et al., Nature, 366:473-475 (1993))の同定が生じた。これらのレセプターの両方は、少なくとも一部の乳ガン細胞系上で増加した発現を示す。
【0012】
これらのレセプターHERは、一般に、細胞に様々な組合せで見出され、ヘテロ二量体化は、多様なHERリガンドに対する細胞応答の多様性を増加させると考えられる(Earp et al. Breast Cancer Research and Treatment 35: 115-132 (1995))。EGFRは、六つの異なるリガンド、すなわち上皮成長因子(EGF)、トランスフォーミング成長因子アルファ(TGF−α)、アンフィレグリン、ヘパリン結合性上皮成長因子(HB−EGF)、ベータセルリン、およびエピレグリンによって結合される(Groenen et al. Growth Factors 11: 235-257 (1994))。単一の遺伝子の選択的スプライシングに起因するヘレグリンタンパク質ファミリーは、HER3およびHER4に対するリガンドである。このヘレグリンファミリーには、アルファヘレグリン、ベータヘレグリン、およびガンマヘレグリン(Holmes et al., Science, 256: 1205-1210 (1992);米国特許第5,641,869号;およびSchaefer et al., Oncogene 15: 1385-1394 (1997));neu分化因子(NDF)、グリア成長因子(GGF);アセチルコリンレセプター誘導活性(ARIA);ならびに感覚および運動神経細胞由来因子(SMDF)がある。総説については、Groenen et al. Growth Factors 11: 235-257 (1994); Lemke, G. Molec. & Cell. Neurosci. 7: 247-262 (1996)、およびLee et al. Pharm. Rev. 47: 51-85 (1995)を参照されたい。最近、三つの追加のHERリガンドが同定された。それらは、HER3またはHER4のいずれかと結合することが報告されているニューレグリン−2(NRG−2)(Chang et al. Nature 387 509-512 (1997);およびCarraway et al. Nature 387: 512-516 (1997));HER4と結合するニューレグリン−3(Zhang et al. PNAS (USA) 94(18): 9562-7 (1997));およびHER4と結合するニューレグリン−4(Harari et al. Oncogene 18: 2681-89 (1999))である。HB−EGF、ベータセルリン、およびエピレグリンもまたHER4に結合する。
【0013】
EGFおよびTGFαはHER2と結合しないが、EGFは、EGFRおよびHER2を刺激してヘテロ二量体を形成させ、このヘテロ二量体はEGFRを活性化して、その結果としてこのヘテロ二量体中のHER2のリン酸基転移が生じる。二量体化および/またはリン酸基転移は、チロシンキナーゼHER2を活性化するようである。Earpら、上記を参照されたい。同様に、HER3がHER2と同時発現すると、活性なシグナル伝達複合体が形成し、HER2に対する抗体はこの複合体を破壊することができる(Sliwkowski et al., J. Biol. Chem., 269(20): 14661-14665 (1994))。追加的に、HER2と同時発現すると、ヘレグリン(HRG)に対するHER3の親和性はより高い親和性状態に増大する。HER2−HER3タンパク質複合体に関しては、Levi et al., Journal of Neuroscience 15: 1329-1340 (1995); Morrissey et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92: 1431-1435 (1995);およびLewis et al., Cancer Res., 56: 1457-1465 (1996)もまた参照されたい。HER3と同様に、HER4はHER2と共に活性なシグナル伝達複合体を形成する(Carraway and Cantley, Cell 78: 5-8 (1994))。
【0014】
HERのシグナル伝達ネットワークを図4に示す。
【0015】
HER抗体に関する特許公報には、以下が挙げられる:
【0016】
【表1】
【0017】
HER2細胞外ドメイン(ECD)は、培養乳ガン細胞からタンパク質分解的にシェディングされ(Petch et al., Mol. Cell. Biol. 10:2973-2982 (1990);Scott et al., Mol. Cell. Biol. 13:2247-2257 (1993);およびLee and Maihle, Oncogene 16:3243-3252 (1998))、一部のガン患者の血清中に見出される(Leitzel et al., J. Clin. Oncol. 10:1436-1443 (1992))。HER2 ECDは、転移性乳ガンの血清マーカーでありうるし(Leitzel et al., J. Clin. Oncol. 10:1436-1443 (1992))、HER2を過剰発現している腫瘍に免疫的防除を免れさせることができる(Baselga et al., J. Clin. Oncol. 14:737-744 (1997)、Brodowicz et al., Int. J. Cancer 73:875-879 (1997))。シェディングされたHER2 ECDの血清レベルは、HER2を過剰発現している転移性乳ガンを有する患者における臨床的転帰不良の独立したマーカーとなる(Ali et al., Clin. Chem. 48:1314-1320 (2002); Molina et al., Clin. Cancer Res. 8:347-353 (2002))。
【0018】
切り詰められたHER2の細胞外ドメインは、イントロン内にポリアデニル化シグナルを使用することにより発生した2.3kbの選択的転写物の産物でもある(Scott et al., Mol. Cell. Biol. 13:2247-2257 (1993))。この選択的転写物は、胃ガン細胞系MKN7(Yamamoto et al., Nature 319:230-234 (1986);およびScott et al., Mol. Cell. Biol. 13:2247-2257 (1993))で最初に同定され、切り詰められたレセプターは、これらの腫瘍細胞から分泌されるよりもむしろ核周囲の細胞質に局在した(Scott et al., Mol. Cell. Biol. 13:2247-2257 (1993))。
【0019】
HER2が選択的スプライシングされた、「ハースタチン(herstatin)」と呼ばれる別の産物もまた同定されている(Doherty et al., Proc. Natl. Acad. Sci. 96:10869-10874 (1999);Azios et al., Oncogene 20:5199-5209 (2001);Justman and Clinton, J. Biol Chem. 277:20618-20624 (2002))。このタンパク質は、細胞外ドメイン由来のサブドメインIおよびIIに、イントロン8によってコードされている独特のC末端配列が続いたものからなる。
【0020】
HER2を過剰発現している腫瘍における臨床的転帰不良を説明することができる別のメカニズムは、HER2を過剰発現している一部の腫瘍細胞ではこのレセプターが未知のメタロプロテアーゼ(またはメタロプロテイナーゼ)によりプロセシングされて、切り詰められた膜関連レセプター(ときに「stub」と呼ばれ、p95としても公知である)および可溶性細胞外ドメイン(ECD、ECD105、またはp105としても公知である)を生じるという観察によって示唆されている。
【0021】
他のレセプターHERと同様に、細胞外リガンド結合ドメインの欠如は、HER2の 細胞内膜関連ドメインを構成的に活性なチロシンキナーゼにする。したがって、HER2 ECDのプロセシングによって、ガン細胞に成長シグナルおよび生存シグナルを直接送達することができる構成的に活性なレセプターが生み出されると仮定されている。米国特許第6,541,214号(Clinton)および米国特許出願第2004/0247602A1号(Friedman et al.)を参照されたい。
【0022】
Saezら、Clin Cancer Res. 12(2): 424-431(2006年1月)は、腫瘍が高レベルのp95を発現している患者が、そうではない患者に比べて有意に不良の転帰を有することを報告している。目下、p95レベルはウエスタンブロットによってのみ決定することができる。
【0023】
発明の概要
第1の局面では、本発明はHER2のシェディングを阻害するための方法に関し、その方法は、HER2のシェディングを阻害するのに有効量のマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)アンタゴニストでHER2発現細胞を処置することを含む。
【0024】
加えて、本発明は哺乳動物におけるHER2細胞外ドメイン(ECD)の血清レベルを低減するための方法を提供し、その方法は、その哺乳動物におけるHER2 ECDの血清レベルを低減するのに有効量のマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)アンタゴニストをその哺乳動物に投与することを含む。
【0025】
なお別の局面では、哺乳動物におけるガンを処置するための方法が提供され、その方法は、そのガンを処置するのに有効量のマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)アンタゴニストをその哺乳動物に投与することを含む。
【0026】
また本発明は、哺乳動物におけるHER阻害剤耐性ガンを処置するための方法に関し、その方法は、そのガンを処置するのに有効量のマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)アンタゴニストをその哺乳動物に投与することを含む。
【0027】
なおさらなる局面では、本発明は、細胞中のp95 HER2レベルを低減するための方法に関し、その方法は、そのp95 HER2レベルを低減するのに有効量のマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)アンタゴニストでその細胞を曝露することを含む。
【0028】
本発明は、診断(または予後判定の)方法にも関し、その方法は、ガン患者由来の試料中のMMP-15(MT2−MMP)を評価することを含み、ここで、MMP−15のレベルまたは活性の上昇は、その患者がp95 HER2および/もしくはシェディングされたHER2血清レベルの上昇を有し、かつ/または将来的に臨床的転帰不良を有することを指し示す。好ましくは、この方法ではMMP−15(タンパク質または核酸)レベルが評価され、予後不良を有するか、または将来的に臨床的転帰不良を有する患者を同定するために使用される。場合により患者のガンは、HERの発現、増幅、または活性化を、最も好ましくはHER2の過剰発現または増幅をさらに示す。
【0029】
好ましい態様の詳細な説明
I.定義
本明細書における用語「マトリックスメタロプロテアーゼ」または「MMP」は、活性に関してZnまたはCaに依存するマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)スーパーファミリーのメンバーであるタンパク質を指す。本明細書におけるMMPには、プレプロタンパク質、成熟タンパク質、およびその変異体形態が挙げられる。種々のドメインを有するMMPの例については本明細書の図20も参照されたい。MMPは、Wagenaar-Millerら、Cancer and Metastasis Reviews 23: 119-135 (2004)に総説されている。
【0030】
本明細書における「膜に繋ぎ止められたMMP」または「MT−MMP」は、上に定義されたMMPであり、そのMMPは、膜貫通(TM)ドメインまたはグリコホスファチジルイノシトール(GPI)アンカーのいずれかを介して細胞膜に付着することができる。本明細書において膜貫通ドメインによりアンカーされたMT−MMPには、MT1− MMP(MMP−14)、MT2−MMP(MMP−15)、MT3−MMP(MMP−16)、MT5−MMP(MMP−24)が挙げられる。GPIアンカーによりアンカーされたMT−MMPの例には、MT4−MMP(MMP−17)およびMT6−MMP(MMP−25)が挙げられる。MMP−15は本明細書において好ましいMT−MMPである。
【0031】
「MT2−MMP」および「MMP−15」は本明細書において同義語であり、NCBIデータベースのプレプロタンパク質NP_002415、そのアミノ酸132〜699を含む成熟タンパク質、およびその変異体形態を表す。MMP−15についての公知の基質には、コラーゲン、フィブロネクチン、CD44、および補体が挙げられる。MMP−15は一部のガンではアップレギュレーションされ、このプロテアーゼの過剰発現は、腫瘍の浸潤および腫瘍細胞の成長を高める。
【0032】
「MMPアンタゴニスト」は、少なくとも一つのMMPに結合し、かつ/またはそのタンパク質分解活性をある程度妨害する薬剤である。好ましくは、MMPアンタゴニストはMMPに選択的に結合するか、またはそれを選択的に阻害するが、ADAM(a disintegrin and metalloprotease)ファミリーのプロテアーゼなどの他のプロテアーゼに有意には結合せず、それを阻害もしない。本明細書におけるMMPアンタゴニストの例には、MMP、小分子阻害剤、MMPの基質を模倣する偽ペプチド(pseudopeptide)、MMPの触媒性亜鉛と結合する非ペプチド分子、単離された天然組織MMP阻害剤(TIMP)、RNAなどの核酸阻害剤、またはアンチセンス阻害剤などが挙げられる。
【0033】
「MT−MMPアンタゴニスト」は、少なくとも一つのMT−MMPに結合し、かつ/またはそのタンパク質分解活性をある程度妨害する薬剤である。好ましくは、MT−MMPアンタゴニストは、MT−MMPに選択的に結合するか、またはそれを選択的に阻害するが、(膜に繋ぎ止められていない他のMMPを含む)他のプロテアーゼに有意には結合せず、それを阻害もしない。MT−MMPアンタゴニストの例には、MT−MMPに結合する抗体、小分子阻害剤、MT−MMPの基質を模倣する偽ペプチド、MT−MMPの触媒性亜鉛と結合する非ペプチド分子、単離された天然組織MT−MMP阻害剤、RNAなどのMT−MMPの核酸阻害剤、またはアンチセンス阻害剤などが挙げられる。
【0034】
「MMP−15アンタゴニスト」は、MMP−15に結合し、かつ/またはそのタンパク質分解活性をある程度妨害する薬剤である。好ましくは、MMP−15アンタゴニストは、MMP−15に選択的に結合するか、またはそれを選択的に阻害するが、(MMP−15以外のMMPを含む)他のプロテアーゼに有意には結合せず、それを阻害もしない。MMP−15アンタゴニストの例には、MMP−15に結合する抗体、小分子阻害剤、MMP−15の基質を模倣する偽ペプチド、MMP−15の触媒性亜鉛と結合する非ペプチド分子、単離された天然組織MMP−15阻害剤、RNAなどのMMP−15の核酸阻害剤、またはアンチセンス阻害剤などが挙げられる。
【0035】
「MMPレベルの上昇」によって、MMPの正常量を超える、例えば同じ組織型の正常試料または非腫瘍性試料中の量を超える、腫瘍試料などの生体試料中のMMPの量を意味する。このようなMMP(例えばMMP−15)の「正常量」には、無含量または検出不能量のMMP−15が含まれる。MMPタンパク質またはMMP核酸を測定する方法を含めて、MMPレベルの上昇を多様な方法で決定することができる。
【0036】
「レセプターHER」は、レセプターHERファミリーに属するレセプタータンパク質チロシンキナーゼであり、レセプターEGFR、HER2、HER3、およびHER4を含む。レセプターHERには、ネイティブな配列のレセプターHERおよびその変異体が含まれる。好ましくは、レセプターHERはネイティブな配列のヒトレセプターHERである。
【0037】
「完全長」レセプターHERは、HERリガンドと結合でき、かつ/または別のレセプターHER分子と二量体化できる細胞外ドメイン;親油性膜貫通ドメイン;細胞内チロシンキナーゼドメイン;およびリン酸化されうるいくつかのチロシン残基を有するカルボキシル末端シグナル伝達ドメインを含む。
【0038】
用語「ErbB1」、「HER1」、「上皮成長因子レセプター」、および「EGFR」は本明細書において相互交換可能に使用され、例えばCarpenterら、Ann. Rev. Biochem. 56:881-914 (1987)に開示されたEGFRを、その変異体形態(例えば、Humphrey et al. PNAS (USA) 87:4207-4211 (1990)にあるような欠失突然変異EGFR)を含めて指す。
【0039】
表現「ErbB2」および「HER2」は本明細書において相互交換可能に使用され、例えばSembaら、PNAS (USA) 82:6497-6501 (1985)およびYamamotoら、Nature 319:230-234 (1986)に記載されたヒトHER2タンパク質(Genebankアクセッション番号X03363)、ならびに選択的スプライシングされた形態などのその変異体形態(Siegel et al. EMBO J. 18(8):2149-2164 (1999))を指す。
【0040】
本明細書において、「HER2細胞外ドメイン」または「HER2 ECD」は、細胞膜にアンカーされているか、または循環しているかのいずれかであるHER2の細胞外側のドメインを、そのフラグメントを含めて指す。一態様では、HER2の細胞外ドメインは、四つのドメイン、すなわち「ドメインI」(アミノ酸残基約1〜195;配列番号1)、「ドメインII](アミノ酸残基約196〜319;配列番号2)、「ドメインIII」(アミノ酸残基約320〜488;配列番号3)、および「ドメインIV」(アミノ酸残基約489〜630;配列番号4)(シグナルペプチドを除いて残基に付番)を含みうる。Garrettら、Mol. Cell. 11:495-505 (2003)、Choら、Nature 42l:756-760 (2003)、Franklinら、Cancer Cell 5:317-328 (2004)、およびPlowmanら、Proc. Natl. Acad. Sci. 90:1746-1750 (1993)、ならびに本明細書の図1を参照されたい。
【0041】
本明細書において、「HER2のシェディング」は、HER2を発現している細胞の細胞表面からHER2の可溶性細胞外ドメイン(ECD)フラグメントが放出されることを指す。当該シェディングは、細胞表面からのECDフラグメントの放出を生じる、細胞表面HER2のタンパク質分解性切断によって引き起こされることもあるし、また可溶性ECDもしくはそのフラグメントが選択的な転写物によりコードされていることもある。
【0042】
「シェディングされたHER2の血清レベル」により、哺乳動物の血清または循環中に存在するHER2 ECDの量を意味する。Aliら、Clin. Chem. 48:1314-1320 (2002);Molinaら、Clin. Cancer Res. 8:347-353 (2002);1990年6月12日に発行された米国特許4,933,294号;1991年4月18日に公開されたWO91/05264;1995年3月28日に発行された米国特許第5,401,638号;またはSiasら、J. Immunol. Methods 132:73-80 (1990)に記載された技法を含む様々な技法により、そのようなレベルを評価することができる。
【0043】
本明細書において、「シェディングされたHER2の血清レベル上昇」は、正常な哺乳動物(例えばヒト)の血清中に存在する量を超えた、哺乳動物(例えばヒト)の血清中のシェディングされたHER2またはHER2 ECDの量を指す。HER2 ECDの血清レベル上昇は、進行乳ガンを有する患者における予後不良ならびに内分泌療法および化学療法に対する応答減少と相関しうる。
【0044】
本明細書における表現「p95 HER2」は、NH2末端が切り詰められたHER2タンパク質を指す。一般に、p95はプロテアーゼまたはシェダーゼによる完全長HER2の切断から生じうる膜結合型のstubフラグメントである(Yuan et al. Protein Expression and Purification 29: 217-222 (2003))。p95は約95000のMrを有することがあり、リン酸化されていることがある(Molina et al. Cancer Research 4744-4749 (2001))。p95は一部の乳ガン試料で見出された(Christianson et al. Cancer Res. 15:5123-5129 (1998))。
【0045】
「p95レベルの上昇」により、正常レベル、例えばガン細胞と同じ組織型の正常細胞または非ガン細胞におけるレベルを超える、ガン細胞におけるp95レベルを意味する。当該p95レベルの上昇の結果として、構成性シグナル伝達およびリンパ節転移が生じうる(Molina et al. Clin. Cancer Research 8:347-353 (2002);Christianson et al. Cancer Res. 15:5123-5129 (1998))。
【0046】
MMP−15などのマーカーを「評価する」ことにより、そのマーカーの存在もしくは不在の分析、その量の測定、および/またはその活性(例えば活性増加)の分析を含めたその診断分析および/または予後分析を意味する。
【0047】
「臨床的転帰不良」を有するガン患者は、化学療法またはトラスツズマブなどのHER2抗体を用いた療法などのガン療法にあまり応答しそうにない、予後不良を有する患者である。臨床的転帰は、無病生存率などを含めた生存率などの標準的な手段により測定することができる。
【0048】
「ErbB3」および「HER3」は、例えば米国特許第5,183,884号および第5,480,968号、ならびにKrausら、PNAS (USA) 86:9193-9197 (1989)に開示されたレセプターポリペプチドを、その変異体形態を含めて指す。
【0049】
本明細書における用語「ErbB4」および「HER4」は、例えば欧州特許出願第599,274号;Plowmanら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90:1746-1750 (1993);およびPlowmanら、Nature, 366:473-475 (1993)に開示されたレセプターポリペプチドを、1999年4月22日に公開されたWO99/19488に開示されたアイソフォームなどのその変異体形態を含めて指す。
【0050】
「HERリガンド」により、レセプターHERに結合し、かつ/またはそれを活性化するポリペプチドを意味する。本明細書において特に関心対象であるHERリガンドは、上皮成長因子(EGF)(Savage et al., J. Biol. Chem. 247: 7612-7621 (1972));トランスフォーミング成長因子アルファ(TGF−α)(Marquardt et al., Science 223:1079-1082 (1984));神経鞘腫またはケラチン細胞の自己分泌成長因子としても公知であるアンフィレグリン(Shoyab et al. Science 243: 1074-1076 (1989);Kimura et al. Nature 348:257-260 (1990);およびCook et al. Mol. Cell. Biol. 11: 2547-2557 (1991));ベータセルリン(Shing et al., Science 259: 1604-1607 (1993);およびSasada et al. Biochem. Biophys. Res. Commun. 190: 1173 (1993));ヘパリン結合性上皮成長因子(HB−EGF)(Higashiyama et al., Science 251: 936-939 (1991));エピレグリン(Toyoda et al., J. Biol. Chem. 270: 7495-7500 (1995);およびKomurasaki et al. Oncogene 15: 2841-2848 (1997));ヘレグリン(下記参照);ニューレグリン−2(NRG−2)(Carraway et al., Nature 387: 512-516 (1997));ニューレグリン−3(NRG−3)(Zhang et al., Proc. Natl. Acad. Sci. 94: 9562-9567 (1997));ニューレグリン−4(NRG−4)(Harari et al. Oncogene 18: 2681-89 (1999));およびクリプト(cripto)(CR−1)(Kannan et al. J. Biol. Chem. 272(6):3330-3335 (1997))などのネイティブな配列のヒトHERリガンドである。EGFRと結合するHERリガンドには、EGF、TGF−α、アンフィレグリン、ベータセルリン、HB−EGF、およびエピレグリンがある。HER3と結合するHERリガンドには、ヘレグリンがある。HER4と結合することができるHERリガンドには、ベータセルリン、エピレグリン、HB−EGF、NRG−2、NRG−3、NRG−4、およびヘレグリンがある。
【0051】
本明細書に使用される場合、「ヘレグリン」(HRG)は、米国特許第5,641,869号またはMarchionni et al., Nature, 362: 312-318 (1993)に開示されたようなヘレグリン遺伝子産物にコードされているポリペプチドを指す。ヘレグリンの例には、ヘレグリン−α、ヘレグリン−β1、ヘレグリン−β2、およびヘレグリン−β3(Holmes et al., Science, 256: 1205-1210 (1992);および米国特許第5,641,869号);neu分化因子(NDF)(Peles et al. Cell 69: 205-216 (1992));アセチルコリンレセプター誘導活性(ARIA)(Falls et al. Cell 72: 801-815 (1993));グリア細胞成長因子(GGF)(Marchionni et al., Nature, 362: 312-318 (1993));感覚および運動神経駆動因子(SMDF)(Ho et al. J. Biol. Chem. 270: 14523-14532 (1995));γ−ヘレグリン(Schaefer et al. Oncogene 15:1385-1394 (1997))がある。
【0052】
本明細書における「HER二量体」は、少なくとも二つのレセプターHERを含む非共有的に会合した二量体である。このような複合体は、二つ以上のレセプターHERを発現している細胞がHERリガンドに曝露されたときに形成することがあり、この複合体を免疫沈降により単離して、例えばSliwkowski et al., J. Biol. Chem., 269(20): 14661-14665 (1994)に記載されているようなSDS−PAGEにより分析することができる。当該HER二量体の例には、EGFR−HER2、HER2−HER3、およびHER3−HER4ヘテロ二量体がある。さらに、HER二量体は、HER3、HER4、またはEGFRなどの異なるレセプターHERと組合せられた二つ以上のレセプターHER2を含みうる。サイトカインレセプターサブユニット(例えばgp130)などのその他のタンパク質がその二量体と会合していることがある。
【0053】
「HERの発現、増幅、または活性化を示す」細胞、ガン、または生体試料は、診断検査において(過剰発現を含めて)HERを発現し、増幅されたHER遺伝子を含み、かつ/またはその他の方法でレセプターHERの活性化もしくはリン酸化を示すものである。そのような活性化を、(例えばHERのリン酸化を測定することによって)直接または(遺伝子発現プロファイリングもしくはHERのヘテロ二量体化を検出することによって)間接的に決定することができる。
【0054】
「レセプターHER2の過剰発現または増幅を有する」ガンまたは腫瘍細胞は、同じ組織型の非ガン細胞に比べて有意に高いレベルのHER2タンパク質または遺伝子を有するものである。そのような過剰発現は、遺伝子増幅により、または転写もしくは翻訳の増加により引き起こされうる。HER2の過剰発現または増幅は、診断アッセイまたは予後アッセイで(例えば免疫組織化学アッセイ(IHC)により)細胞表面に存在するHER2タンパク質のレベル増加を評価することにより決定することができる。または、もしくは追加的に、例えば蛍光in situハイブリダイゼーション法(FISH;1998年10月に公開されたWO98/45479を参照されたい)、サザンブロット法、または定量リアルタイムPCR(qRT−PCR)などのポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法により細胞中のHER2核酸レベルを測定することができる。血清などの生体液中のシェディングされたHER2を測定することにより、HER2の過剰発現または増幅を研究することもできる(例えば1990年6月12日に発行された米国特許第No.4,933,294号;1991年4月18日に公開されたWO91/05264;1995年3月28日に発行された米国特許第5,401,638号;およびSias et al. J. Immunol. Methods 132:73-80 (1990)を参照されたい)。上記アッセイ以外に、様々なin vivoアッセイが当業者に利用できる。例えば、検出可能なラベル、例えば放射性同位体で場合によりラベルされた抗体に、患者の体内の細胞を曝露することができ、例えば放射能を外部スキャンすることにより、またはその抗体に予め曝露された患者から採取した生検を分析することにより、その患者における細胞に対する抗体の結合を評価することができる。
【0055】
逆に言えば、「レセプターHERを過剰発現も増幅もしない」ガン細胞または腫瘍細胞は、同じ組織型の非ガン細胞に比べて、正常よりも高いレベルのレセプターHERのタンパク質も遺伝子も有さないものである。パーツズマブなどのHER二量体化を阻害する抗体を使用して、レセプターHER2を過剰発現も増幅もしないガンを処置することができる。
【0056】
「HER阻害剤」は、HERの活性化または機能を妨害する薬剤である。HER阻害剤の例には、HER抗体(例えばEGFR抗体、HER2抗体、HER3抗体、またはHER4抗体);HER二量体化阻害剤;EGFRターゲット薬;小分子性HERアンタゴニスト;HERチロシンキナーゼ阻害剤;ラパチニブ/GW572016などのHER2およびEGFRの二重チロシンキナーゼ阻害剤;アンチセンス分子(例えば、WO2004/87207参照);ならびに/またはMAPKもしくはAktなどの下流のシグナル伝達分子に結合するか、もしくはその機能を妨害する薬剤が挙げられる。好ましくは、HER阻害剤はレセプターHERに結合する抗体または小分子である。HER阻害剤の特定の例には、トラスツズマブ、パーツズマブ、セツキシマブ、ABX−EGF、EMD7200、ゲフィチニブ、エルロチニブ、CP724714、CI1033、GW572016、IMC−11F8、およびTAK165が挙げられる。
【0057】
「HER二量体化阻害剤」は、HER二量体の形成を阻害する薬剤である。好ましくは、HER二量体化阻害剤は抗体、例えばHER2のヘテロ二量体結合部位でHER2に結合する抗体である。本明細書における最も好ましい二量体化阻害剤は、パーツズマブまたはモノクローナル抗体2C4(MAb 2C4)である。HER二量体化阻害剤の他の例には、EGFRに結合して、EGFRと一つまたは複数の他のレセプターHERとの二量体化を阻害する抗体(例えば、活性化EGFRまたは「繋ぎ止められていない」EGFRに結合するEGFRモノクローナル抗体806(MAb806);Johns et al., J. Biol. Chem. 279(29):30375-30384 (2004)参照);HER3に結合して、HER3と一つまたは複数の他のレセプターHERとの二量体化を阻害する抗体;HER4に結合して、HER4と一つまたは複数の他のレセプターHERとの二量体化を阻害する抗体;ペプチド二量体化阻害剤(米国特許第6,417,168号);アンチセンス二量体化阻害剤などが挙げられる。
【0058】
「HER抗体」は、レセプターHERに結合する抗体である。場合により、HER抗体はHERの活性化または機能をさらに妨害する。好ましくは、HER抗体はレセプターHER2に結合する。本明細書において特に関心対象であるHER2抗体は、トラスツズマブおよびパーツズマブである。EGFR抗体の例にはセツキシマブ、ABX0303、EMD7200、およびIMC−11F5が挙げられる。
【0059】
「HER活性化」は、任意の一つまたは複数のレセプターHERの活性化またはリン酸化を指す。一般に、HER活性化の結果として(例えばレセプターHERまたは基質ポリペプチドにおけるチロシン残基をリン酸化する、レセプターHERの細胞内キナーゼドメインにより引き起こされる)シグナル伝達を生じる。HERの活性化は、対象となるレセプターHERを含むHER二量体へのHERリガンドの結合により仲介されうる。HER二量体にHERリガンドが結合することにより、その二量体中の一つまたは複数のレセプターHERのキナーゼドメインを活性化することができ、その結果として、一つまたは複数のレセプターHER中のチロシン残基のリン酸化および/またはAktもしくはMAPK細胞内キナーゼなどの追加の基質ポリペプチドのチロシン残基のリン酸化が生じる。
【0060】
「リン酸化」は、レセプターHERまたはその基質などのタンパク質に対する一つまたは複数のリン酸基の付加を指す。
【0061】
「HERの二量体化」を阻害する抗体は、HER二量体の形成を阻害するか、または妨害する抗体である。好ましくは、そのような抗体はHER2のヘテロ二量体結合部位でHER2に結合する。本明細書における最も好ましい二量体化阻害抗体はパーツズマブまたはMAb 2C4である。HERの二量体化を阻害する抗体の他の例には、EGFRに結合して、EGFRと一つまたは複数の他のレセプターHERとの二量体化を阻害する抗体(例えば活性化EGFRまたは「繋ぎ止められていない」EGFRに結合するEGFRモノクローナル抗体806(MAb 806);Johns et al., J. Biol. Chem. 279(29):30375-30384 (2004)参照);HER3に結合して、HER3と一つまたは複数の他のレセプターHERとの二量体化を阻害する抗体;およびHER4に結合して、HER4と一つまたは複数の他のレセプターHERとの二量体化を阻害する抗体が挙げられる。
【0062】
HER2上の「ヘテロ二量体結合部位」は、EGFR、HER3、またはHER4と二量体を形成するときにその細胞外ドメイン中の領域と接触するか、またはその領域を妨害する、HER2の細胞外ドメイン中の領域を指す。この領域はHER2のドメインIIに見出される。Franklinら、Cancer Cell 5:317-328 (2004)。
【0063】
HER2抗体は、トラスツズマブのように「HER2のエクトドメインの切断を阻害する」抗体(Molina et al. Cancer Res. 61:4744-4749(2001))のことがあるし、またパーツズマブのようにHER2のエクトドメインの切断を有意には阻害しない抗体のことがある。
【0064】
HER2の「ヘテロ二量体結合部位に結合する」HER2抗体は、ドメインIIの残基に結合し、(場合によりドメインIおよびIIIなどのHER2細胞外ドメインの他のドメインの残基にも結合し、)HER2−EGFR、HER2−HER3、またはHER2−HER4ヘテロ二量体の形成に少なくともある程度立体障害を与えることができる。Franklinら、Cancer Cell 5:317-328 (2004)は、HER2のヘテロ二量体結合部位に結合する例示的な抗体を例証している、RCSB Protein Data Bank(IDコードIS78)に寄託されたHER2−パーツズマブの結晶構造を特徴付けている。
【0065】
HER2の「ドメインIIに結合する」抗体は、HER2のドメインIIの残基と、場合によりドメインIおよびIIIなどの他のドメイン残基とに結合する。好ましくは、ドメインIIに結合する抗体は、HER2のドメインI、II、およびIIIの間の接合部に結合する。
【0066】
「ネイティブな配列の」ポリペプチドは、天然由来のポリペプチド(例えばレセプターHERまたはHERリガンド)と同じアミノ酸配列を有するポリペプチドである。当該ネイティブな配列のポリペプチドを天然から単離でき、また、リコンビナント手段もしくは合成手段により産生させることができる。このように、ネイティブな配列のポリペプチドは、天然ヒトポリペプチド、マウスポリペプチド、または任意のその他の哺乳動物種由来のポリペプチドのアミノ酸配列を有しうる。
【0067】
本明細書における用語「抗体」は、最も広い意味で使用され、具体的には、所望の生物学的活性を示す限りはインタクトなモノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、少なくとも二つのインタクトな抗体から形成された多重特異性抗体(例えば二重特異性抗体)、および抗体フラグメントにわたる。
【0068】
本明細書に使用される用語「モノクローナル抗体」は、実質的に均一な抗体の集団から得られた抗体を指し、すなわち、モノクローナル抗体の産生時に生じる可能性のある変異体を除いて、その集団を構成する個別の抗体は同一であり、かつ/または同じエピトープと結合する。当該変異体は一般的に少量存在する。当該モノクローナル抗体には、典型的にはターゲットと結合するポリペプチド配列を含む抗体が含まれ、ここで、そのターゲットと結合するポリペプチドの配列は、複数のポリペプチド配列からの単一のターゲットと結合するポリペプチド配列を選択することを含む工程により得られたものである。例えば、その選択工程は、ハイブリドーマクローン、ファージクローン、またはリコンビナントDNAクローンのプールなどの複数のクローンから独特なクローンを選択することでありうる。選択されたターゲット結合配列をさらに変更して、例えばターゲットに対する親和性を改善し、ターゲット結合配列をヒト化し、細胞培養でのその産生を改善し、それのin vivo免疫原性を低減し、多特異性抗体を生み出すことなどができること、およびその変更されたターゲット結合配列を含む抗体は本発明のモノクローナル抗体でもあることを了解すべきである。異なる決定基(エピトープ)に対する異なる抗体を典型的には含むポリクローナル抗体調製物とは対照的に、モノクローナル抗体調製物の各モノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定基に対するものである。その特異性に加えて、モノクローナル抗体調製物は、典型的には他の免疫グロブリンが混入していない点で有利である。修飾語「モノクローナル」は、実質的に均一な抗体集団から得られるというその抗体の性質を表すものであり、任意の特定の方法による抗体の産生を必要とすると解釈してはならない。例えば、本発明により使用されるモノクローナル抗体は、例えばハイブリドーマ法(例えばKohler et al., Nature, 256:495 (1975);Harlow et al., Antibodies: A Laboratory Manual, (Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2nd ed. 1988);Hammerling et al., in: Monoclonal Antibodies and T-CeIl Hybridomas 563-681, (Elsevier, N. Y., 1981))、リコンビナントDNA法(例えば米国特許第4,816,567号参照)、ファージディスプレイ技法(例えばClackson et al., Nature, 352:624-628 (1991); Marks et al., J. Mol. Biol, 222:581-597 (1991);Sidhu et al., J. Mol. Biol. 338(2):299-310 (2004); Lee et al., J. Mol. Biol.340(5):1073-1093 (2004);Fellouse, Proc. Nat. Acad. Sci. USA 101(34):12467-12472 (2004);およびLee et al. J. Immunol. Methods 284(1-2):119-132 (2004)参照)、およびヒト免疫グロブリンローカスまたはヒト免疫グロブリン配列をコードしている遺伝子の部分または全部を有する動物においてヒト抗体またはヒト様抗体を産生させるための技法(例えばWO1998/24893;WO1996/34096;WO1996/33735;WO1991/10741;Jakobovits et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90:2551 (1993);Jakobovits et al, Nature, 362:255-258 (1993);Bruggemann et al., Year in Immuno., 7:33 (1993);米国特許第5,545,806号;第5,569,825号;第5,591,669号(全てGenPharmの特許);米国特許第5,545,807号;WO1997/17852;米国特許第5,545,807号;第5,545,806号;第5,569,825号;第5,625,126号;第5,633,425号;および第5,661,016号;Marks et al., Bio/Technology, 10:779-783 (1992);Lonberg et al, Nature, 368:856-859 (1994);Morrison, Nature, 368:812-813 (1994);Fishwild et al., Nature Biotechnology, 14:845-851 (1996);Neuberger, Nature Biotechnology, 14:826 (1996);およびLonberg and Huszar, Intern. Rev. Immunol., 13:65-93 (1995))を含めた多様な技法により作成することができる。
【0069】
本明細書におけるモノクローナル抗体には、その抗体が所望の生物学的活性を示す限り、重鎖および/または軽鎖の部分が、特定の種由来の抗体または特定の抗体クラスもしくはサブクラスに属する抗体の対応する配列と同一または相同であるが、その鎖の残りが、別の種由来の抗体または別の抗体クラスもしくはサブクラスに属する抗体の対応する配列と同一または相同である「キメラ」抗体、ならびに当該抗体のフラグメントが具体的に含まれる(米国特許第4,816,567号;およびMorrison et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 81: 6851-6855 (1984))。本明細書において関心対象のキメラ抗体には、非ヒト霊長類(例えば旧世界ザル、類人猿など)由来の可変ドメイン抗原結合配列およびヒト定常部配列を含む「霊長類化(primatized)」抗体がある。
【0070】
「抗体フラグメント」は、インタクトな抗体の部分を含み、その部分は好ましくはその抗原結合部を含む。抗体フラグメントの例には、Fab、Fab’、F(ab’)2、およびFvフラグメント;二特異性抗体(diabody);線状抗体(linear antibody);一本鎖抗体分子;ならびに抗体フラグメントから形成される多重特異性抗体がある。
【0071】
本明細書における「インタクトな抗体」は、二つの抗原結合領域とFc部とを含む抗体である。好ましくは、インタクトな抗体は一つまたは複数のエフェクター機能を有する。
【0072】
インタクトな抗体の重鎖定常ドメインのアミノ酸配列に応じて、それらの抗体を異なる「クラス」に割り当てることができる。インタクトな抗体には五つの主クラス、すなわちIgA、IgD、IgE、IgG、およびIgMがあり、これらのいくつかをさらに「サブクラス」(アイソタイプ)、例えばIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA、およびIgA2に分けることができる。異なるクラスの抗体に対応する重鎖定常ドメインは、それぞれα、δ、ε、γ、およびμと呼ばれる。異なるクラスの免疫グロブリンのサブユニット構造および三次元立体配置は周知である。
【0073】
抗体の「エフェクター機能」は、抗体のFc部(ネイティブな配列のFc部またはアミノ酸配列変異体のFc部)に起因しうる生物学的活性を指す。抗体のエフェクター機能の例には、C1qとの結合;補体依存性細胞傷害作用;Fcレセプターとの結合;抗体依存性細胞性細胞傷害作用(ADCC);食作用;細胞表面レセプターのダウンレギュレーション(例えばB細胞レセプター;BCR)などがある。
【0074】
「抗体依存性細胞性細胞傷害作用」および「ADCC」は、Fcレセプター(FcR)を発現する非特異的細胞傷害性細胞(例えばナチュラルキラー(NK)細胞、好中球、およびマクロファージ)がターゲット細胞上に結合した抗体を認識して、その後にターゲット細胞の溶解を起こす細胞介在性反応を指す。ADCCを仲介するための一次細胞であるNK細胞はFcγRIIIのみを発現するが、単球はFcγRI、FcγRII、およびFcγRIIIを発現する。造血細胞上のFcRの発現を要約したものは、Ravetch and Kinet, Annu. Rev. Immunol 9: 457-92 (1991)の464頁の表3である。関心対象の分子のADCC活性を評定するために、米国特許第5,500,362号または第5,821,337号に記載されているようなin vitro ADCCアッセイを行うことができる。当該アッセイに有用なエフェクター細胞には、末梢血単核細胞(PBMC)およびナチュラルキラー(NK)細胞がある。または、もしくは追加的に、関心対象の分子のADCC活性を、例えばClynes et al. PNAS (USA) 95:652-656 (1998)に開示されたような動物モデルでin vivo評定することができる。
【0075】
「ヒトエフェクター細胞」は、一つまたは複数のFcRを発現してエフェクター機能を果たす白血球である。好ましくは、これらの細胞は少なくともFcγRIIIを発現してADCCエフェクター機能を果たす。ADCCを仲介するヒト白血球の例には、末梢血単核細胞(PBMC)、ナチュラルキラー(NK)細胞、単球、細胞傷害性T細胞、および好中球があり、PBMCおよびNK細胞が好ましい。エフェクター細胞は、そのネイティブな起源から、例えば本明細書に記載されたように血液またはPBMCから単離することができる。
【0076】
用語「Fcレセプター」または「FcR」は、抗体のFc部に結合するレセプターを記述するために使用される。好ましいFcRはネイティブな配列のヒトFcRである。さらに、好ましいFcRは、IgG抗体と結合するもの(ガンマレセプター)であり、好ましいFcRには、FcγRI、FcγRII、およびFcγRIIIサブクラスのレセプターが、これらのレセプターのアレル変異体および選択的スプライシングされた形態を含めて挙げられる。FcγRIIレセプターには、FcγRIIA(「活性化レセプター」)およびFcγRIIB(「阻害レセプター」)があり、それらは、細胞質ドメインが主に異なる類似したアミノ酸配列を有する。活性化レセプターFcγRIIAは、その細胞質ドメインにITAM(immunoreceptor tyrosine-based activation motif)を有する。阻害レセプターFcγRIIBは、その細胞質ドメインにITIM(immunoreceptor tyrosine-based inhibition motif)を有する(Daeron, Annu. Rev. Immunol. 15: 203-234 (1997)の総説Mを参照されたい)。FcRは、Ravetch and Kinet, Annu. Rev. Immunol 9: 457-92 (1991);Capel et al., Immunomethods 4: 25-34 (1994);およびde Haas et al., J. Lab. Clin. Med. 126:330-41 (1995)に総説されている。将来同定されるものを含めたその他のFcRは、本明細書において用語「FcR」によって包含される。この用語は、胎児への母体IgGの輸送を担う新生児レセプターFcRnも含む(Guyer et al., J. Immunol. 117: 587 (1976)およびKim et al., J. Immunol. 24: 249 (1994))。
【0077】
「補体依存性細胞傷害作用」または「CDC」は、分子が補体の存在下でターゲットを溶解する能力を指す。補体活性化経路は、コグネイト抗原と複合体を形成した分子(例えば抗体)への補体系の第1成分(C1q)の結合により開始する。補体活性化を評定するために、例えば、Gazzano-Santoro et al., J. Immunol. Methods 202: 163 (1996)に記載されているようなCDCアッセイを行うことができる。
【0078】
「ネイティブな抗体」は、通常は2本の同一の軽(L)鎖および2本の同一の重(H)鎖から構成される約150000ダルトンのヘテロ四量体糖タンパク質である。各軽鎖は、一つの共有ジスルフィド結合により重鎖に結合する一方で、ジスルフィド結合の数は異なる免疫グロブリンアイソタイプの重鎖の間で多様である。各重鎖および軽鎖は、規則的に間隔のあいた鎖内ジスルフィド架橋も有する。各重鎖は、一方の末端に可変ドメイン(VH)を有し、続いていくつかの定常ドメインを有する。各軽鎖は、一方の末端に可変ドメイン(VL)と、そのもう一方の末端に定常ドメインとを有する。軽鎖の定常ドメインは、重鎖の第一定常ドメインと整列し、軽鎖可変ドメインは、重鎖可変ドメインと整列している。特定のアミノ酸残基は、軽鎖可変ドメインと重鎖可変ドメインとの間の界面を形成すると考えられる。
【0079】
用語「可変」は、可変ドメインのある部分が、抗体間で広範囲に配列が異なり、それぞれ特定の抗体の、その特定の抗原に対する結合および特異性に使用されるという事実を指す。しかし、可変性は、抗体の可変ドメイン全体にわたり均等に分布しているわけではない。可変性は、軽鎖および重鎖両方の可変ドメインにおける超可変部と呼ばれる三つのセグメントに集中している。可変ドメインのより高度に保存された部分は、フレームワーク部(FR)と呼ばれる。ネイティブな重鎖および軽鎖の可変ドメインそれぞれは、四つのFRを含み、それらのFRは大部分がβシート立体配置を採り、三つの超可変部により連結され、これらの超可変部は、βシート構造を連結するループを形成して、場合によりこのβシート構造の一部を形成する。各鎖中の超可変部は、FRによって一緒に近接して保持されて、もう一方の鎖由来の超可変部と共に、抗体の抗原結合部位の形成に寄与する(Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD. (1991)を参照されたい)。定常ドメインは、抗原に抗体を結合させることに直接には関与していないが、抗体依存性細胞性細胞傷害作用(ADCC)への抗体の関与などの様々なエフェクター機能を示す。
【0080】
本明細書に使用される場合、用語「超可変部」は、抗原との結合を担う抗体のアミノ酸残基を指す。超可変部は、一般的に「相補性決定部」すなわち「CDR」由来のアミノ酸残基(例えば、軽鎖可変ドメイン中の残基24〜34(L1)、残基50〜56(L2)、および残基89〜97(L3)、ならびに重鎖可変ドメイン中の残基31〜35(H1)、残基50〜65(H2)、および残基95〜102(H3);Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD. (1991))ならびに/または「超可変ループ」由来の残基(例えば、軽鎖可変ドメイン中の残基26〜32(L1)、50〜52(L2)、および残基91〜96(L3)、ならびに重鎖可変ドメイン中の残基26〜32(H1)、残基53〜55(H2)および残基96〜101(H3);Chothia and Lesk J. Mol. Biol. 196: 901-917 (1987))を含む。「フレームワーク部」または「FR」残基は、本明細書において定義されるような超可変部残基以外の可変ドメインの残基である。
【0081】
抗体のパパイン消化は、「Fab」フラグメントと呼ばれる、それぞれ単一の抗原結合部位を有する2本の同一の抗原結合フラグメントと、名前が容易に結晶化できる能力を反映している残りの1「Fc」フラグメントとを産生する。ペプシン処理は、二つの抗原結合部位を有するF(ab’)2フラグメントを生じ、このフラグメントは、依然として抗原と架橋できる。
【0082】
「Fv」は、完全な抗原認識抗原結合部位を有する、最小限の抗体フラグメントである。この領域は、密接に非共有的に会合した、一つの重鎖可変ドメインと一つの軽鎖可変ドメインとの二量体からなる。各可変ドメインの三つの超可変部が相互作用してVH−VL二量体の表面上に抗原結合部位を規定するのは、この立体配置である。まとめると、六つの超可変部は、抗体に抗原結合特異性を付与する。しかし、単一の可変ドメイン(すなわち抗原に対して特異的な三つの超可変部のみを含む、Fvの半分)でさえも、結合部位全体よりも低い親和性ではあるが、抗原を認識してその抗原と結合する能力を有する。
【0083】
Fabフラグメントもまた、軽鎖の定常ドメインと、重鎖の第1定常ドメイン(CH1)とを有する。Fab’フラグメントは、重鎖CH1ドメインのカルボキシ末端に、抗体のヒンジ部由来の一つまたは複数のシステインを含む数残基が付加していることが、Fabフラグメントと異なる。Fab’−SHは、本明細書において定常ドメインのシステイン残基が少なくとも一つの遊離チオール基を有するFab’についての呼称である。F(ab’)2抗体フラグメントは、間にヒンジシステインを有するFab’フラグメント対として本来産生された。抗体フラグメントのその他の化学的カップリングも公知である。
【0084】
任意の脊椎動物種由来抗体の「軽鎖」は、それらの定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、カッパ(κ)およびラムダ(λ)と呼ばれる二つの明らかに別個の型のうちの一つに割り当てることができる。
【0085】
「一本鎖Fv」抗体フラグメントまたは「scFv」抗体フラグメントは、抗体のVHドメインおよびVLドメインを含み、ここで、これらのドメインは、単一のポリペプチド鎖中に存在する。好ましくは、このFvポリペプチドは、このscFvが抗原結合のための所望の構造を形成することを可能にする、VHドメインとVLドメインとの間のポリペプチドリンカーをさらに含む。scFvの総説については、Pluckthun in The Pharmacology of Monoclonal Antibodies, vol.113, Rosenburg and Moore eds., Springer-Verlag, New York, pp.269-315 (1994)を参照されたい。HER2抗体のscFvフラグメントは、WO93/16185;米国特許第5,571,894号;および米国特許第5,587,458号に記載されている。
【0086】
用語「二特異性抗体」は、二つの抗原結合部位を有する小さな抗体フラグメントを指し、このフラグメントは、同じポリペプチド鎖(VH−VL)中で可変軽鎖ドメイン(VL)に連結した可変重鎖ドメイン(VH)を含む。同じ鎖上のこれら二つのドメイン間で対形成させるには短すぎるリンカーを用いることによって、これらのドメインに別の鎖の相補的ドメインと対形成することを強いて、二つの抗原結合部位を生み出す。二特異性抗体は、例えば、EP404,097;WO93/11161;およびHollinger et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90: 6444-6448 (1993)に、さらに完全に記載されている。
【0087】
「ヒト化」形態の非ヒト(例えば、げっ歯類)抗体は、非ヒト免疫グロブリン由来の最小限の配列を有するキメラ抗体である。ヒト化抗体は、通例レシピエントの超可変部由来の残基が、所望の特異性、親和性、および能力を有するマウス、ラット、ウサギ、または非ヒト霊長類などの非ヒト種(ドナー抗体)の超可変部由来の残基に置換されているヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)である。時には、ヒト免疫グロブリンのフレームワーク部(FR)の残基が、対応する非ヒト残基に置換されている。さらに、ヒト化抗体は、レシピエント抗体中にもドナー抗体中にも見出されない残基を含むことがある。これらの改変は、抗体の性能をさらに精密化するためになされる。一般に、ヒト化抗体は、超可変ループのうちの全てまたは実質的に全てが非ヒト免疫グロブリンの超可変ループに対応し、FRの全てまたは実質的に全てがヒト免疫グロブリン配列のFRである、少なくとも一つ、典型的には二つの可変ドメインの実質的に全てを含むものである。ヒト化抗体は、典型的にはヒト免疫グロブリンの定常部である免疫グロブリン定常部(Fc)の少なくとも一部も場合により含むものである。さらなる詳細については、Jones et al., Nature 321: 522-525 (1986);Riechmann et al., Nature 332: 323-329 (1988);およびPresta, Curr. Op. Struct. Biol. 2: 593-596 (1992)を参照されたい。
【0088】
ヒト化HER2抗体には、参照により本明細書に特に組み入れられる米国特許第5,821,337号の表3に記載されるhuMAb4D5−1、huMAb4D5−2、huMAb4D5−3、huMAb4D5−4、huMAb4D5−5、huMAb4D5−6、huMAb4D5−7、およびhuMAb4D5−8またはトラスツズマブ(HERCEPTIN(登録商標));ヒト化520C9(WO93/21319);ならびに本明細書に記載されるパーツズマブのようなヒト化2C4抗体がある。
【0089】
本明細書の目的で、「トラスツズマブ」、「HERCEPTIN(登録商標)」、および「huMAb4D5−8」は、それぞれ配列番号5および6の軽鎖および重鎖アミノ酸配列を含む抗体を指す。
【0090】
本明細書において、「パーツズマブ」および「OMNITARG(商標)」は、それぞれ配列番号7および8の軽鎖および重鎖アミノ酸配列を含む抗体を指す。
【0091】
「ネイキッドな抗体」は、細胞毒性部分または放射性ラベルなどの異種分子とコンジュゲーションしていない抗体である。
【0092】
「単離された」抗体は、その天然環境の構成要素から同定されて、分離および/または回収された抗体である。その天然環境の混入構成要素は、その抗体についての診断的用途または治療的用途を妨害するであろう物質であり、それらには、酵素、ホルモン、およびその他のタンパク質様または非タンパク質様の溶質が含まれうる。好ましい態様では、抗体は、(1)ローリー法によって決定したときに、抗体の95重量%を超えるまで、最も好ましくは99重量%を超えるまで精製されるか、(2)スピニングカップ(spinning cup)シークエネーターの使用により、少なくとも15残基のN末端アミノ酸配列もしくは内部アミノ酸配列を得るのに十分な程度に精製されるか、または(3)クマシーブルー染色もしくは好ましくは銀染色を用いた、還元条件もしくは非還元条件でのSDS−PAGEによって均一になるまで精製されるであろう。単離された抗体には、リコンビナント細胞内のin situ抗体が含まれる。それは、その抗体の天然環境の少なくとも一つの構成要素が存在しないものであるからである。しかし、通常、単離された抗体は、少なくとも1回の精製段階によって調製されるものである。
【0093】
「親和性成熟した」抗体は、変更を有さない親抗体に比べて、抗原に対する抗体の親和性に改善を生じる一つまたは複数の変更を、その一つまたは複数の超可変部に有する抗体である。好ましい親和性成熟した抗体は、ターゲット抗原に対してナノモル濃度またはピコモル濃度の親和性さえ有するであろう。親和性成熟した抗体は、当技術分野で公知の手順によって産生される。Marksら、Bio/Technology 10: 779-783 (1992)は、VHおよびVLドメインシャッフリングによる親和性成熟を記載している。CDRおよび/またはフレームワーク残基のランダム突然変異誘発は、Barbas et al. Proc Nat. Acad. Sci, USA 91: 3809-3813 (1994);Schier et al. Gene 169: 147-155 (1995);Yelton et al. J. Immunol. 155: 1994-2004 (1995); Jackson et al., J. Immunol. 154(7): 3310-9 (1995);およびHawkins et al, J. Mol. Biol. 226: 889-896 (1992)に記載されている。
【0094】
本明細書における用語「主要種抗体」は、組成物中の量的に優占的な抗体分子である、その組成物中の抗体構造を指す。
【0095】
本明細書における「アミノ酸配列変異体」抗体は、主要種抗体と異なるアミノ酸配列を有する抗体である。通常、アミノ酸配列変異体は、主要種抗体と少なくとも約70%の相同性を有するものであり、好ましくは、主要種抗体と少なくとも約80%、さらに好ましくは少なくとも約90%相同なものである。このアミノ酸配列変異体は、主要種抗体のアミノ酸配列内の、またはそれに隣接したある位置に置換、欠失、および/または付加を有する。
【0096】
本明細書における「グリコシル化変異体」抗体は、それに付着した一つまたは複数の糖質部分を有する抗体であり、その部分は、主要種抗体に付着した一つまたは複数の糖質部分とは異なる。
【0097】
「脱アミド化」抗体は、その抗体の一つまたは複数のアスパラギン残基が、例えばアスパラギン酸、スクシンイミド、またはイソアスパラギン酸に誘導体化された抗体である。
【0098】
用語「ガン」および「ガン性」は、無秩序な細胞成長によって典型的には特徴付けられる、哺乳類における生理的状態を指すか、または記載する。ガンの例には、ガン腫、リンパ腫、芽細胞腫(髄芽腫および網膜芽腫を含む)、肉腫(脂肪肉腫および滑膜細胞肉腫を含む)、神経内分泌腫瘍(カルチノイド腫瘍、ガストリノーマ、および膵島細胞ガンを含む)、中皮腫、神経鞘腫(聴神経腫を含む)、髄膜腫、腺ガン、黒色腫、および白血病またはリンパ系悪性疾患が挙げられるが、それに限定されるわけではない。当該ガンのさらに特別な例には、扁平上皮ガン(例えば上皮扁平上皮ガン);小細胞肺ガン(SCLC)、非小細胞肺ガン(NSCLC)、肺腺ガンおよび肺扁平上皮ガンを含む肺ガン;腹膜ガン;肝細胞ガン;消化管ガンを含む胃ガン;膵臓ガン;神経膠芽腫;子宮頚がん;卵巣ガン;肝ガン;膀胱ガン;ヘパトーマ;乳ガン(転移性乳ガンを含む);結腸ガン;直腸ガン;直腸結腸ガン;子宮内膜ガンまたは子宮ガン;唾液腺ガン;腎ガン;前立腺がん;外陰部ガン;甲状腺ガン;肝ガン;肛門ガン;陰茎ガン;精巣ガン;食道ガン;胆道腫瘍;ならびに頭頚部ガンが挙げられる。
【0099】
「HER阻害剤耐性ガン」を有する哺乳動物は、HER阻害剤性療法を受けている間に進行した哺乳動物(すなわちその患者は「HER阻害剤抗療性」)であるか、またはその哺乳動物は、HER阻害剤性治療方式を完了後12か月以内(例えば6か月以内)に進行している。HER阻害剤性療法には、ネイキッドなHER阻害剤またはコンジュゲーションしたHER阻害剤を用いた治療法が含まれ、ここで、そのHER阻害剤は単剤として、または他の抗腫瘍薬と共に投与される。そのHER阻害剤は、トラスツズマブ、パーツズマブ、セツキシマブ、ABX−EGF、EMD7200、ゲフィチニブ、エルロチニブ、CP724714、CI1033、GW572016、IMC−11F8、またはTAK165でありうるが、好ましくはトラスツズマブである。
【0100】
処置の目的のための「哺乳動物」は、ヒト、家畜、および農用動物と、イヌ、ウマ、ネコ、ウシなどの展示動物、スポーツ用の動物、または愛玩動物とを含めた哺乳動物として分類される任意の動物を指す。好ましくは、哺乳動物はヒトである。
【0101】
本明細書における「腫瘍試料」は、患者の腫瘍由来の試料であるか、またはその腫瘍由来の腫瘍細胞を含む試料である。本明細書における腫瘍試料の例には、腫瘍生検、循環している腫瘍細胞、循環している血漿タンパク質、腹水、腫瘍由来の、または腫瘍様性質を示す初代細胞培養物または細胞系、およびホルマリン固定パラフィン包埋腫瘍試料または凍結腫瘍試料などの保存処理された腫瘍試料があるが、それらに限定されるわけではない。
【0102】
「固定」腫瘍試料は、固定剤を用いて組織学的に保存処理された試料である。
【0103】
「ホルマリン固定」腫瘍試料は、固定剤としてホルムアルデヒドを用いて保存処理された試料である。
【0104】
「包埋」腫瘍試料は、パラフィン、ろう、セロイジン、または樹脂などの堅固で一般的に硬い媒質により囲まれた試料である。包埋は、顕微鏡検査用または組織マイクロアレイ(TMA)作成用の薄切片を切り出すことを可能にする。
【0105】
「パラフィン包埋」腫瘍試料は、石油由来固体炭化水素の精製混合物に囲まれた試料である。
【0106】
本明細書において、「凍結」腫瘍試料は、凍結しているか、または凍結された腫瘍試料を指す。
【0107】
本明細書に使用される場合の「成長阻害剤」は、細胞、特にHER発現ガン細胞の成長をin vitroまたはin vivoのいずれかで阻害する化合物または組成物を指す。このように、成長阻害剤は、S期のHER発現細胞の率を有意に低減する薬剤でありうる。成長阻害剤の例には、G1停止およびM期停止を誘導する薬剤などの、細胞周期の進行を(S期以外の位置で)遮断する薬剤がある。古典的M期遮断薬には、ビンカ(ビンクリスチンおよびビンブラスチン)、タキサン、ならびにドキソルビシン、エピルビシン、ダウノルビシン、エトポシド、およびブレオマイシンなどのトポII阻害剤がある。G1で停止させる薬剤、例えば、タモキシフェン、プレドニゾン、ダカルバジン、メクロレタミン、シスプラチン、メトトレキサート、5−フルオロウラシル、およびara−CなどのDNAアルキル化剤は、S期停止にも波及する。さらなる情報は、The Molecular Basis of Cancer, Mendelsohn and Israel, eds.の、Murakamiらによる「Cell cycle regulation, oncogenes, and antineoplastic drugs」(WB Saunders: Philadelphia, 1995)という標題の第1章、特に13頁に見出すことができる。
【0108】
「成長阻害」抗体の例は、HER2に結合し、HER2を過剰発現しているガン細胞の成長を阻害する抗体である。好ましい成長阻害HER2抗体は、約0.5から30μg/mlの抗体濃度で、細胞培養でのSK−BR−3乳房腫瘍細胞の成長を20%よりも大きく、好ましくは50%よりも大きく(例えば、約50%から約100%)阻害する。ここで、抗体にSK−BR−3細胞を曝露した6日間後に、この成長阻害は決定される(1997年10月14日に発行された米国特許第5,677,171号を参照されたい)。このSK−BR−3細胞成長阻害アッセイは、その特許および本明細書の下記にさらに詳細に記載されている。好ましい成長阻害抗体は、マウスモノクローナル抗体4D5のヒト化変異体、例えばトラスツズマブである。
【0109】
「アポトーシスを誘導する」抗体は、アネキシンVの結合、DNAのフラグメント化、細胞収縮、小胞体の拡大、細胞のフラグメント化、および/または膜小胞(アポトーシス小体と呼ばれる)の形成によって決定されるようなプログラム細胞死を誘導する抗体である。この細胞は、通常、レセプターHER2を過剰発現する細胞である。好ましくは、この細胞は、腫瘍細胞、例えば、乳房細胞、卵巣細胞、胃細胞、子宮内膜細胞、唾液腺細胞、肺細胞、腎臓細胞、結腸細胞、甲状腺細胞、膵臓細胞、または膀胱細胞である。in vitroでは、この細胞は、SK−BR−3細胞、BT474細胞、Calu3細胞、MDA−MB−453細胞、MDA−MB−361細胞、またはSKOV3細胞でありうる。アポトーシスに関連する細胞事象を評価するために様々な方法が利用できる。例えば、アネキシンの結合によってホスファチジルセリン(PS)の移行を測定でき;DNAラダー生成によってDNAのフラグメント化を評価することができ;低二倍体細胞の任意の増加によってDNAのフラグメント化と同時に核/クロマチンの凝縮を評価することができる。好ましくは、アポトーシスを誘導する抗体は、BT474細胞を用いたアネキシン結合アッセイにおいて、未処理細胞と比較して約2から50倍、好ましくは約5から50倍、最も好ましくは約10から50倍のアネキシン結合の誘導を招く抗体である(以下参照)。アポトーシスを誘導するHER2抗体の例は、7C2および7F3である。
【0110】
「エピトープ2C4」は、抗体2C4が結合する、HER2の細胞外ドメイン中の領域である。2C4エピトープに結合する抗体についてスクリーニングするために、Antibodies, A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, Ed Harlow and David Lane (1988)に記載されているような日常的な交差遮断アッセイを行うことができる。好ましくは、この抗体は、HER2に対する2C4の結合を約50%以上遮断する。または、 エピトープマッピングを行って、その抗体がHER2の2C4エピトープに結合するかどうかを評定することができる。エピトープ2C4は、HER2の細胞外ドメイン中のドメインII由来残基を含む。2C4およびパーツズマブは、ドメインI、II、およびIIIの結合部でHER2の細胞外ドメインに結合する。Franklin et al. Cancer Cell 5: 317-328 (2004)。
【0111】
「エピトープ4D5」は、HER2の細胞外ドメイン中の、抗体4D5(ATCC CRL10463)およびトラスツズマブが結合する領域である。このエピトープはHER2の膜貫通ドメインに近接しており、HER2のドメインIV内に存在する。4D5エピトープに結合する抗体についてスクリーニングするために、Antibodies, A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, Ed Harlow and David Lane(1988)に記載されているような日常的な交差遮断アッセイを行うことができる。または、エピトープマッピングを行って、その抗体がHER2の4D5エピトープ(例えば、HER2 ECDの約529番残基から約625番残基まで、両端の残基を含めた領域における任意の一つまたは複数の残基、残基の付番にシグナルペプチドを含める)に結合するかどうかを評定することができる。
【0112】
「エピトープ7C2/7F3」は、7C2抗体および/または7F3抗体(それぞれATCCに寄託、以下参照)が結合する、HER2の細胞外ドメインのドメインI内のN末端の領域である。7C2/7F3エピトープに結合する抗体についてスクリーニングするために、Antibodies, A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, Ed Harlow and David Lane(1988)に記載されているような日常的な交差遮断アッセイを行うことができる。または、その抗体がHER2上の7C2/7F3エピトープ(例えば、HER2 ECDの約22番残基から約53番残基までの領域中の任意の一つまたは複数の残基、残基の付番にシグナルペプチドを含める)に結合するかどうかを確認するために、エピトープマッピングを行うことができる。
【0113】
「処置」は、治療的処置および予防措置または阻止措置の両方を指す。処置を必要とする者には、すでにその疾患を有する者およびその疾患が予防されるべき者が含まれる。従って、本明細書において処置される患者は、その疾患を有すると診断されたこともあるし、また、その疾患の素因があるか、もしくはその疾患に感受性なこともある。
【0114】
用語「有効量」は、患者におけるガンを処置するのに有効な薬物の量を指す。その薬物の有効量は、ガン細胞数を減少させ;腫瘍の大きさを低減し;末梢器官へのガン細胞の浸潤を阻害し(すなわちある程度減速させて、好ましくは停止させ);腫瘍の転移を阻害し(すなわちある程度減速させて、好ましくは停止させ);腫瘍の成長をある程度阻害し;かつ/またはガンに関連した一つもしくは複数の症状をある程度軽減することができる。その薬物が成長を阻止して、かつ/または現存しているガン細胞を殺滅できる程度に、有効量は細胞増殖抑制性および/または細胞傷害性でありうる。有効量は、無増悪生存期間を延長し、(部分奏効(PR)または完全奏効(CR)を含めた)奏効を招き、全生存期間を延ばし、かつ/またはガンの一つもしくは複数の症状を改善することができる。
【0115】
「完全奏効」または「完全寛解」によって、処置に応答してガンの全ての徴候が消失したことを意味する。これは、ガンが治癒したことを必ずしも意味しない。
【0116】
「部分奏効」は、処置に応答した、一つもしくは複数の腫瘍もしくは病変の大きさの減少、または体内のガンの程度の減少を指す。
【0117】
本明細書で使用される用語「細胞毒性薬」は、細胞の機能を阻害もしくは阻止し、かつ/または細胞の破壊を起こす物質を指す。この用語は、放射性同位体(例えば、At211、I131、I125、Y90、Re186、Re188、Sm153、Bi212、P32およびLuの放射性同位体)、化学療法剤、および細菌、真菌、植物、または動物起源の小分子毒素または酵素的に活性な毒素などの毒素を、そのフラグメントおよび/または変異体を含めて含むことを意図する。
【0118】
「化学療法剤」は、ガンの処置に有用な化学化合物である。化学療法剤の例には、チオテパおよびシクロホスファミド(CYTOXAN(登録商標))などのアルキル化剤;ブスルファン、インプロスルファン、およびピポスルファンなどのアルキルスルホネート;ベンゾドーパ(benzodopa)、カルボコン、メツレドーパ(meturedopa)、およびウレドーパ(uredopa)などのアジリジン;アルトレタミン、トリエチレンメラミン、トリエチレンホスホルアミド、トリエチレンチオホスホルアミド、およびトリメチロールメラミン(trimethylolomelamine)を含めたエチレンイミンおよびメチルメラミン(methylamelamine);TLK286(TELCYTA(商標));アセトゲニン(特に、ブラタシンおよびブラタシノン(bullatacinone));デルタ−9−テトラヒドロカンナビノール(ドロナビノール、MARINOL(登録商標));ベータ−ラパコン;ラパコール;コルヒチン;ベツリン酸;カンプトテシン(合成アナログであるトポテカン(HYCAMTIN(登録商標))、CPT−11(イリノテカン、CAMPTOSAR(登録商標))、アセチルカンプトテシン、スコポレクチン(scopolectin)、および9−アミノカンプトテシンを含む);ブリオスタチン;カリスタチン;CC−1065(そのアドゼレシン、カルゼレシン、およびビゼレシン合成アナログを含む);ポドフィロトキシン;ポドフィリン酸(podophyllinic acid);テニポシド;クリプトフィシン(特に、クリプトフィシン1およびクリプトフィシン8);ドラスタチン;ズオカルマイシン(合成アナログKW−2189およびCB1−TM1を含む);エロイテロビン;パンクラチスタチン;サルコジクチイン;スポンギスタチン;クロラムブシル、クロルナファジン、コロホスファミド(cholophosphamide)、エストラムスチン、イホスファミド、メクロレタミン、塩酸メクロレタミンオキシド、メルファラン、ノベンビキン(novembichin)、フェネステリン(phenesterine)、プレドニムスチン、トロホスファミド、ウラシルマスタードなどのナイトロジェンマスタード;カルムスチン、クロロゾトシン、フォテムスチン、ロムスチン、ニムスチン、およびラニムスチン(ranimnustine)などのニトロソ尿素;クロドロネートなどのビスホスホン酸塩;エンジイン抗生物質など(例えば、カリケアマイシン、特に、カリケアマイシンガンマ1IおよびカリケアマイシンオメガI1(例えば、Agnew, Chem Intl. Ed. Engl., 33: 183-186 (1994)参照))およびアンナマイシンなどのアントラサイクリン、AD32、アルカルビシン(alcarubicin)、ダウノルビシン、デキストラゾキサン(dexrazoxane)、DX−52−1、エピルビシン、GPX−100、イダルビシン、KRN5500、メノガリル、ジネマイシン(ジネマイシンAを含む)、エスペラマイシン、ネオカルジノスタチン発色団および関係する色素タンパク質エンジイン抗生物質発色団、アクラシノマイシン、アクチノマイシン、アントラマイシン、アザセリン、ブレオマイシン、カクチノマイシン、カラビシン(carabicin)、カルミノマイシン、カルジノフィリン、クロモマイシン、ダクチノマイシン、デトルビシン、6−ジアゾ−5−オキソ−L−ノルロイシン、(モルホリノ−ドキソルビシン、シアノモルホリノ−ドキソルビシン、2−ピロリノ−ドキソルビシン、リポソームドキソルビシン、およびデオキシドキソルビシンを含めた)ADRIAMYCIN(登録商標)(ドキソルビシン)、エソルビシン、マルセロマイシン、マイトマイシンCなどのマイトマイシン、ミコフェノール酸、ノガラマイシン、オリボマイシン、ペプロマイシン、ポルフィロマイシン、ピューロマイシン、クエラマイシン(quelamycin)、ロドルビシン(rodorubicin)、ストレプトニグリン、ストレプトゾシン、ツベルシジン、ウベニメクス、ジノスタチン、およびゾルビシンなどの抗生物質;デノプテリン、プテロプテリン、およびトリメトレキサートなどの葉酸アナログ;フルダラビン、6−メルカプトプリン、チアミプリン、およびチオグアニンなどのプリンアナログ;アンシタビン、アザシチジン、6−アザウリジン、カルモフール、シタラビン、ジデオキシウリジン、ドキシフルリジン、エノシタビン、およびフロクスウリジンなどのピリミジンアナログ;カルステロン、プロピオン酸ドロモスタノロン、エピチオスタノール、メピチオスタン、テストラクトンなどのアンドロゲン;アミノグルテチミド、ミトタン、およびトリロスタンなどの抗副腎剤(anti-adrenal);ホリニン酸(ロイコボリン)などの葉酸補給剤;アセグラトン;ALIMTA(登録商標)(LY231514、ペメトレキセド)、メトトレキサートなどのジヒドロ葉酸レダクターゼ阻害剤、5−フルオロウラシル(5−FU)などの代謝拮抗物質およびUFTなどのそのプロドラッグ、S1およびカペシタビン、ならびにラルチトレキセド(TOMUDEX(商標)、TDX)などのチミジル酸シンターゼ阻害剤およびグリシンアミドリボヌクレオチドホルミルトランスフェラーゼ阻害剤などの抗葉酸抗腫瘍剤;エニルウラシルなどのジヒドロピリミジンデヒドロゲナーゼ阻害剤;アルドホスファミドグリコシド;アミノレブリン酸;アムサクリン;ベストラブシル;ビサントレン;エダトラキサート(edatraxate);デホファミン(defofamine);デメコルシン;ジアジクオン;エルホルニチン(elfornithine);酢酸エリプチニウム;エポチロン;エトグルシド;硝酸ガリウム;ヒドロキシ尿素;レンチナン;ロニダイニン;メイタンシンおよびアンサミトシンなどのメイタンシノイド;ミトグアゾン;ミトキサントロン;モピダモール(mopidanmol);ニトラエリン(nitraerine);ペントスタチン;フェナメット(phenamet);ピラルビシン;ロソキサントロン;2−エチルヒドラジド;プロカルバジン;PSK(登録商標)多糖複合体(JHS Natural Products, Eugene, OR);ラゾキサン;リゾキシン;シゾフィラン;スピロゲルマニウム;テヌアゾン酸;トリアジクオン;2,2’,2”−トリクロロトリエチルアミン;トリコテセン(特にT−2毒素、ベラクリン(verracurin)A、ロリジンA、およびアングイジン(anguidine));ウレタン;ビンデシン(ELDISINE(登録商標)、FILDESIN(登録商標)):ダカルバジン;マンノムスチン;ミトブロニトール;ミトラクトール;ピポブロマン;ガシトシン(gacytosine);アラビノシド(「Ara−C」);シクロホスファミド;チオテパ;パクリタキセル(TAXOL(登録商標))(Bristol-Myers Squibb Oncology, Princeton, N.J.)、パクリタキセルの無Cremophorアルブミン加工ナノ粒子製剤であるABRAXANE(商標)(American Pharmaceutical Partners, Schaumberg, Illinois)、およびドセタキセル(TAXOTERE(登録商標))(Rhone-Poulenc Rorer, Antony, France)などのタキソイドおよびタキサン;クロランブシル;ゲムシタビン(GEMZAR(登録商標))、5−フルオロウラシル(5-FU)、カペシタビン(XELODA(商標))、6−メルカプトプリン、メトトレキサート、6−チオグアニン、ペメトレキセド、ラルチトレキセド、アラビノシルシトシンARA-Cシタラビン(CYTOSAR-U(登録商標))、デカルバジン(DTIC-DOME(登録商標))、アゾシトシン、デオキシシトシン、ピリドミデン、フルダラビン(FLUDARA(登録商標))、クラドラビン、および2−デオキシ−D−グルコースなどの抗代謝拮抗化学療法剤;6−チオグアニン;メルカプトプリン;カルボプラチン、シスプラチン、あるいはオキサリプラチナなどのプラチナ系化学療法剤;ビンブラスチン(VELBAN(登録商標));エトポシド(VP−16);イホスファミド;ミトキサントロン;ビンクリスチン(ONCOVIN(登録商標));ビンカアルカロイド;ビノレルビン(NAVELBINE(登録商標));ノバントロン;エダトレキサート;ダウノマイシン;アミノプテリン;ゼローダ;イバンドロネート;トポイソメラーゼ阻害剤RFS2000;ジフルオロメチルオルニチン(DMFO);レチノイン酸などのレチノイド;前記いずれかの薬学的に許容される塩、酸、または誘導体;ならびにCHOP(シクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチン、およびプレドニゾロンの併用療法についての略語)およびFOLFOX(オキサリプラチン(ELOXATIN(商標))を5−FUおよびロイコボリンと組合せて用いた処置方式についての略語)などの、前記のうち二つ以上の組合せがある。
【0119】
腫瘍に及ぼすホルモンの作用を調節または阻害するように作用する抗ホルモン剤も本定義に含まれる。それらには、例えば、タモキシフェン(タモキシフェン(NOLVADEX(登録商標))を含む)、ラロキシフェン、ドロロキシフェン、4−ヒドロキシタモキシフェン、トリオキシフェン、ケオキシフェン、LY117018、オナプリストン、およびトレミフェン(FARESTON(登録商標))を含めた抗エストロゲンおよび選択的エストロゲンレセプターモデュレーター(SERM);例えば4(5)−イミダゾール、アミノグルテチミド、酢酸メゲストロール(MEGASE(登録商標))、エキセメスタン(AROMASIN(登録商標))、ホルメスタン、ファドロゾール、ボロゾール(RIVISOR(登録商標))、レトロゾール(FEMARA(登録商標))、およびアナストロゾール(ARIMIDEX(登録商標))などの、副腎におけるエストロゲン産生を調節する酵素アロマターゼを阻害するアロマターゼ阻害剤;フルタミド、ニルタミド、ビカルタミド、ロイプロリド、およびゴセレリンなどの抗アンドロゲン;ならびにトロキサシタビン(troxacitabine)(1,3−ジオキソランヌクレオシドシトシンアナログ);アンチセンスオリゴヌクレオチド、特に例えばPKC−アルファ、Raf、H−Ras、および上皮成長因子レセプター(EGF−R)などの、接着性細胞増殖に関係づけられているシグナル伝達経路における遺伝子の発現を阻害するアンチセンスオリゴヌクレオチド;遺伝子治療ワクチン、例えばALLOVECTIN(登録商標)ワクチン、LEUVECTIN(登録商標)ワクチン、およびVAXID(登録商標)ワクチンなどのワクチン;PROLEUKIN(登録商標)rIL−2;LURTOTECAN(登録商標)トポイソメラーゼ1阻害剤;ABARELIX(登録商標)rmRH;ならびに前記いずれかの薬学的に許容されうる塩、酸、または誘導体がある。
【0120】
「抗血管形成剤」は、血管の発生をある程度遮断または妨害する化合物を指す。抗血管形成因子は、例えば、血管形成の促進に関与する成長因子または成長因子レセプターに結合する小分子または抗体でありうる。本明細書における好ましい抗血管形成因子は、ベバシズマブ(AVASTIN(登録商標))などの、血管内皮成長因子(VEGF)に結合する抗体である。
【0121】
用語「サイトカイン」は、ある細胞集団によって放出され、細胞間仲介物質として別の細胞に作用するタンパク質についての総称である。当該サイトカインの例は、リンホカイン、モノカイン、および従来のポリペプチドホルモンである。これらのサイトカインの中に含まれるのは、ヒト成長ホルモン、N−メチオニルヒト成長ホルモン、およびウシ成長ホルモンなどの成長ホルモン;副甲状腺ホルモン;チロキシン;インスリン;プロインスリン;レラキシン;プロレラキシン;卵胞刺激ホルモン(FSH)、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、および黄体形成ホルモン(LH)などの糖タンパク質ホルモン;肝成長因子;線維芽細胞成長因子;プロラクチン;胎盤ラクトゲン;腫瘍壊死因子αおよび腫瘍壊死因子β;ミュラー管抑制物質;マウス性腺刺激ホルモン関連ペプチド;インヒビン;アクチビン;血管内皮成長因子;インテグリン;トロンボポエチン(TPO);NGF−βなどの神経成長因子;血小板成長因子;TGF−αおよびTGF−βなどのトランスフォーミング成長因子(TGF);インスリン様成長因子−Iおよびインスリン様増殖因子−II;エリスロポエチン(EPO);骨誘導因子;インターフェロン−α、インターフェロン−β、およびインターフェロン−γなどのインターフェロン;コロニー刺激因子(CSF)(マクロファージCSF(M−CSF)、顆粒球マクロファージCSF(GM−CSF)、および顆粒球CSF(G−CSF)など);IL−1、IL−1α、IL−2、IL−3、IL−4、IL−5、IL−6、IL−7、IL−8、IL−9、IL−10、IL−11、IL−12などのインターロイキン(IL);TNF−αまたはTNF−βなどの腫瘍壊死因子;ならびにLIFおよびkitリガンド(KL)を含めたその他のポリペプチド因子である。本明細書に使用される用語サイトカインには、天然起源由来またはリコンビナント細胞培養物由来のタンパク質、およびネイティブな配列のサイトカインの生物学的活性等価物が含まれる。
【0122】
本明細書において使用される用語「EGFRターゲット薬」は、EGFRに結合して、場合によりEGFRの活性化を阻害する治療剤を指す。当該薬剤の例には、EGFRに結合する抗体および小分子が挙げられる。EGFRに結合する抗体の例には、MAb579(ATCC CRL HB8506)、MAb455(ATCC CRL HB8507)、MAb225(ATCC CRL8508)、MAb528(ATCC CRL8509)(米国特許第4,943,533号、Mendelsohn et al.参照)、ならびにキメラ化225(C225またはセツキシマブ;ERBUTIX(登録商標))および再形状化ヒト225(H225)(WO96/40210、Imclone Systems Inc.参照)などのその変異体;IMC−11F8、完全ヒトEGFRターゲット抗体(Imclone)、II型突然変異EGFRと結合する抗体(米国特許第5,212,290号);米国特許第5,891,996号に記載された、EGFRと結合するヒト化抗体およびキメラ抗体;ABX−EGFなどの、EGFRと結合するヒト抗体(WO98/50433、Abgenix参照);EMD55900(Stragliotto et al. Eur. J. Cancer 32A:636-640 (1996));EGFRとの結合についてEGFおよびTGF−αの両方と競合する、EGFRに対するヒト化EGFR抗体であるEMD7200(マツズマブ);ならびにmAb806またはヒト化mAb806(Johns et al., J. Biol. Chem. 279(29):30375-30384 (2004))が挙げられる。抗EGFR抗体を細胞毒性薬とコンジュゲーションすることにより、免疫コンジュゲートを発生させることができる(例えば、EP659,439A2、Merck Patent GmbH参照)。EGFRに結合する小分子の例には、ZD1839すなわちゲフィチニブ(IRESSA(商標);AstraZeneca)、CP−358774すなわちエルロチニブ(TARCEVA(商標);Genentech/OSI)、およびAG1478、AG1571(SU5271;Sugen)、EMD−7200が挙げられる。
【0123】
「チロシンキナーゼ阻害剤」は、レセプターHERなどのチロシンキナーゼのチロシンキナーゼ活性を阻害する分子である。当該阻害剤の例には、前項で言及したEGFRターゲット薬;武田から入手可能なTAK165などの小分子HER2チロシンキナーゼ阻害剤;ErbB2レセプターチロシンキナーゼの経口選択的阻害剤であるCP−724,714(PfizerおよびOSI);選好的にEGFRと結合するが、HER2を過剰発現している細胞およびEGFRを過剰発現している細胞の両方を阻害するEKB−569(Wyethから入手できる)などの二重HER阻害剤;経口HER2およびEGFRチロシンキナーゼ阻害剤であるGW572016(Glaxoから入手できる);PKI−166(Novartisから入手できる);カネルチニブ(CI−1033;Pharmacia)などの汎HER阻害剤;Raf−1シグナル伝達を阻害する、ISIS Pharmaceuticalsから入手できるアンチセンス剤ISIS−5132などのRaf−1阻害剤;Glaxoから入手できるメシル酸イマチニブ(Gleevac(商標))などの非HERターゲットTK阻害剤;MAPK細胞外調節キナーゼI阻害剤CI−1040(Pharmaciaから入手できる);PD153035、4−(3−クロロアニリノ)キナゾリンなどのキナゾリン;ピリドピリミジン;ピリミドピリミジン;CGP59326、CGP60261、およびCGP62706などのピロロピリミジン;ピラゾロピリミジン、4−(フェニルアミノ)−7H−ピロロ[2,3−d]ピリミジン;クルクミン(ジフェルロイルメタン、4,5−ビス(4−フルオロアニリノ)フタルイミド);ニトロチオフェン部分含有チルホスチン;PD−0183805(Warner-Lamber);アンチセンス分子(例えば、HERをコードしている核酸に結合するもの);キノキサリン(米国特許第5,804,396号);トリホスチン(tryphostin)(米国特許第5,804,396号);ZD6474(Astra Zeneca);PTK−787(Novartis/Schering AG);CI−1033(Pfizer)などの汎HER阻害剤;アフィニタック(ISIS3521;Isis/Lilly);メシル酸イマチニブ(Gleevac; Novartis);PKI166(Novartis);GW2016(Glaxo SmithKline);CI−1033(Pfizer);EKB−569(Wyeth);セマキシニブ(Sugen);ZD6474(AstraZeneca);PTK−787(Novartis/Schering AG);INC−1C11(Imclone);または以下の特許公報のいずれかに記載されるもの:米国特許第5,804,396号;WO99/09016(American Cyanimid);WO98/43960(American Cyanamid);WO97/38983(Warner Lambert);WO99/06378(Warner Lambert);WO99/06396(Warner Lambert);WO96/30347(Pfizer, Inc);WO96/33978(Zeneca);WO96/3397(Zeneca);およびWO96/33980(Zeneca)が挙げられる。
【0124】
II. HER2のシェディングの阻害
本出願は、HER2のシェディングを阻害するための方法に関し、その方法は、HER2発現細胞を、HER2のシェディングを阻害するのに有効量のマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)アンタゴニストで処置すること、またはそれに曝露することを含む。好ましくは、MMPアンタゴニストは膜に繋ぎ止められたMT1−MMP(MMP−14)、MT2−MMP(MMP−15)、MT3−MMP(MMP−16)、MT5−MMP(MMP−24)、MT4−MMP(MMP−17)、またはMT6−MMP(MMP−25)などのMMP(MT−MMP)のアンタゴニストである。最も好ましくは、MT−MMPはMMP−15であり、望ましくは、そのアンタゴニストは他のプロテアーゼにもMMP−15以外のMMPにも有意に結合せずにMMP−15に選択的もしくは選好的に結合し、かつ/またはそのアンタゴニストは他のプロテアーゼの機能もMMP−15以外のMMPの機能も有意に妨害せずにMMP−15のタンパク質分解機能を妨害する。
【0125】
好ましい態様では、処置される細胞はHERおよび/またはMMPの発現、増幅、または活性化を示す。例えば、その細胞はHER2および/またはMMP−15の過剰発現または増幅を示しうる。
【0126】
MMPアンタゴニストの活性は、そのアンタゴニストを別の抗腫瘍薬、HER阻害剤、またはHER2抗体(トラスツズマブまたはパーツズマブなど)と組合せることにより高まりうる。MMPアンタゴニストと組合せることのできるHER阻害剤の例には、トラスツズマブ、パーツズマブ、セツキシマブ、ABX−EGF、EMD7200、ゲフィチニブ、エルロチニブ、CP724714、CI1033、GW572016、IMC−11F8、およびTAK165が挙げられる。
【0127】
本発明は、哺乳動物におけるHER2細胞外ドメイン(ECD)の血清レベルを低減するための方法にも関し、その方法は、その哺乳動物におけるHER2 ECD血清レベルを低減するのに有効量のマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)アンタゴニストをその哺乳動物に投与することを含む。その哺乳動物は、場合によりMMPレベルの上昇を有する。
【0128】
本発明は、哺乳動物におけるガンを処置するための方法も提供し、その方法は、ガンを処置するのに有効量のマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)アンタゴニストをその哺乳動物に投与することを含む。そのガンは、HERおよび/またはMMPの発現、増幅、または活性化を示しうる。例えば、そのガンは、HER2またはMMP−15の過剰発現または増幅を示しうる。一態様では、処置される哺乳動物はシェディングされたHER2の血清レベルの上昇またはp95 HER2レベルの上昇を有する。
【0129】
本発明は、哺乳動物におけるHER阻害剤耐性ガンを処置するための方法にも関し、その方法は、そのガンを処置するのに有効量のマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)アンタゴニストをその哺乳動物に投与することを含む。例えば、その哺乳動物はトラスツズマブなどのHER2抗体に耐性でありうる。
【0130】
細胞におけるp95 HER2レベルを低減するための方法も提供され、その方法は、p95 HER2レベルを低減するのに有効量のマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)アンタゴニストにその細胞を曝露することを含む。
【0131】
様々なMMPアンタゴニストを使用することができるが、好ましくはMMPアンタゴニストは小分子阻害剤または抗体である。抗体を作成するための方法は本明細書に後述する。
【0132】
III. 抗体の産生
本発明により使用される抗体の産生についての例示的な技法に関して、以下に説明する。抗体の産生に使用される抗原は、例えば、所望のエピトープを含む可溶性形態の抗原またはその一部分でありうる。または、細胞表面に抗原を発現している細胞(例えば、HER2を過剰発現するように形質転換されたNIH−3T3細胞;またはSK−BR−3細胞などのガン細胞系、Stancovski et al. PNAS (USA) 88:8691-8695 (1991)参照)を使用して抗体を発生させることができる。抗体の発生に有用な他の形態の抗原は、当業者に明らかであろう。
【0133】
(i)ポリクローナル抗体
ポリクローナル抗体は、好ましくは、関連抗原およびアジュバントの複数回の皮下(sc)注射または腹腔内(ip)注射によって動物に産生される。二官能剤または誘導化剤、例えば、マレイミドベンゾイルスルホスクシンイミドエステル(システイン残基を介したコンジュゲーション)、N−ヒドロキシスクシンイミド(リシン残基を介する)、グルタルアルデヒド、コハク酸無水物、SOCl2、またはR1N=C=NR(式中、RおよびR1は異なるアルキル基である)を使用して、キーホールリンペットヘモシアニン、血清アルブミン、ウシチログロブリン、またはダイズトリプシン阻害剤などの、免疫処置される種に免疫原性であるタンパク質と関連抗原をコンジュゲーションすることが有用なことがある。
【0134】
例えば、(それぞれウサギまたはマウスに対して)100μgまたは5μgのタンパク質またはコンジュゲートを3倍量のフロイント完全アジュバントと混合し、複数の部位にその溶液を皮内注射することによって、抗原、免疫原性コンジュゲート、または誘導体に対して動物を免疫処置する。1か月後、フロイント完全アジュバントに入れた初回量の1/5から1/10のペプチドまたはコンジュゲートを用いて複数の部位で皮下注射することにより、その動物に追加免疫する。7日から14日後、その動物から採血し、そしてその血清の抗体力価をアッセイする。力価がプラトーになるまで動物に追加免疫する。好ましくは、同抗原のコンジュゲートであるが、異なるタンパク質と、および/または異なる架橋試薬を介してコンジュゲーションしたものを用いて、その動物を追加免疫する。タンパク質融合体としてリコンビナント細胞培養でコンジュゲートを作成することもできる。また、ミョウバンなどの凝集剤を適切に使用して、免疫応答を増強させる。
【0135】
(ii)モノクローナル抗体
モノクローナル抗体を作成するための様々な方法を当技術分野で利用することができる。例えば、Kohlerら、Nature, 256: 495 (1975)に最初に記載されたハイブリドーマ法を使用して、リコンビナントDNA法(米国特許第4,816,567号)によりモノクローナル抗体を作成することができる。
【0136】
ハイブリドーマ法では、マウス、またはハムスターなどのその他の適切な宿主動物を、本明細書の前述のように免疫処置して、免疫処置のために使用されたタンパク質に特異的に結合するであろう抗体を産生するか、または産生できるリンパ球を誘発させる。または、リンパ球をin vitroで免疫処置することができる。次に、ポリエチレングリコールなどの適切な融合剤を用いて、リンパ球を骨髄腫細胞と融合させて、ハイブリドーマ細胞を形成させる(Goding, Monoclonal Antibodies: Principles and Practice, pp.59-103 (Academic Press, 1986))。
【0137】
このようにして調製されたハイブリドーマ細胞を、未融合の親骨髄腫細胞の成長または生存を阻害する一つまたは複数の物質を好ましくは含有する適切な培地に接種し、成長させる。例えば、親骨髄腫細胞が酵素であるヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HGPRTまたはHPRT)を欠如しているならば、ハイブリドーマ用の培地は、典型的には、ヒポキサンチン、アミノプテリン、およびチミジンを含むものであり(HAT培地)、これらの物質はHGPRT欠損細胞の成長を阻止する。
【0138】
好ましい骨髄腫細胞は、効率的に融合し、選択された抗体産生細胞による抗体の安定な高レベルの産生を支持し、かつHAT培地などの培地に感受性の細胞である。これらのうち好ましい骨髄腫細胞系は、Salk Institute Cell Distribution Center, San Diego, California USAから入手できるMOPC−21およびMPC−11マウス腫瘍由来の細胞系、ならびにAmerican Type Culture Collection, Rockville, Maryland USAから入手できるSP−2細胞またはX63−Ag8−653細胞などのマウス骨髄腫系である。ヒト骨髄腫細胞系およびマウス−ヒトヘテロ骨髄腫細胞系も、ヒトモノクローナル抗体の産生のために記載されている(Kozbor, J. Immunol., 133: 3001 (1984);およびBrodeur et al., Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications, pp.51-63 (Marcel Dekker, Inc., New York, 1987))。
【0139】
その抗原に対するモノクローナル抗体の産生について、ハイブリドーマ細胞が中で成長している培地をアッセイする。好ましくは、ハイブリドーマ細胞により産生されるモノクローナル抗体の結合特異性を、免疫沈降により、またはラジオイムノアッセイ(RIA)もしくは酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)などのin vitro結合アッセイにより決定する。
【0140】
モノクローナル抗体の結合親和性は、例えば、Munson et al., Anal. Biochem., 107: 220 (1980)のスキャッチャード解析によって決定することができる。
【0141】
所望の特異性、親和性、および/または活性の抗体を産生するハイブリドーマ細胞が同定された後で、限界希釈手順によりそのクローンをサブクローニングして、標準的な方法により成長させることができる(Goding, Monoclonal Antibodies: Principles and Practice, pp.59-103 (Academic Press, 1986))。この目的に適切な培地には、例えば、D−MEMまたはRPMI−1640培地がある。さらに、このハイブリドーマ細胞を、動物における腹水腫瘍としてin vivoで成長させることができる。
【0142】
サブクローンにより分泌されたモノクローナル抗体を、例えば、プロテインA−セファロース、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、またはアフィニティークロマトグラフィーなどの従来の抗体精製手順によって培地、腹水、または血清から適切に分離する。
【0143】
モノクローナル抗体をコードしているDNAは、従来の手順を使用して(例えば、マウス抗体の重鎖および軽鎖をコードしている遺伝子に特異的に結合することができるオリゴヌクレオチドプローブを使用することによって)容易に単離されて、配列解析される。ハイブリドーマ細胞は、当該DNAの好ましい供給源として役立つ。一旦単離されると、そのDNAを発現ベクターの中に配置することができ、次にE.coli細胞、サルCOS細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、または他の状況では抗体タンパク質を産生しない骨髄腫細胞などの宿主細胞にその発現ベクターをトランスフェクションして、リコンビナント宿主細胞中でモノクローナル抗体の合成を得ることができる。抗体をコードしているDNAを細菌にリコンビナント発現させることに関する総説論文には、Skerra et al., Curr. Opinion in Immunol., 5: 256-262 (1993)およびPluckthun, Immunol. Revs., 130: 151-188 (1992)がある。
【0144】
さらなる態様では、モノクローナル抗体または抗体フラグメントを、McCafferty et al., Nature, 348: 552-554 (1990)に記載されている技法を使用して作成された抗体ファージライブラリーから単離することができる。Clackson et al., Nature, 352: 624-628 (1991)およびMarks et al., J. Mol. Biol., 222: 581-597 (1991)は、ファージライブラリーを使用した、それぞれマウス抗体およびヒト抗体の単離を記載している。その後の刊行物は、鎖シャッフリング(chain chuffling)(Marks et al., Bio/Technology, 10: 779-783 (1992))による高親和性(nM範囲)ヒト抗体の産生ならびに非常に大きなファージライブラリーを構築するための戦略としてのコンビナトリアル感染およびin vivoリコンビネーション(Waterhouse et al., Nuc. Acids. Res., 21: 2265-2266 (1993))について記載している。このように、これらの技法は、モノクローナル抗体を単離するための従来のモノクローナル抗体ハイブリドーマ技法に対する実行可能な代替法である。
【0145】
例えば、相同マウス配列に代わり、ヒト重鎖および軽鎖の定常ドメインについてのコード配列に置換することによって(米国特許第4,816,567号;およびMorrison, et al., Proc. Natl Acad. Sci. USA, 81: 6851 (1984))、または免疫グロブリンのコード配列に、非免疫グロブリンポリペプチドについてのコード配列の全てもしくは一部を共有結合的に繋ぐことによっても、DNAを改変することができる。
【0146】
典型的には、抗体の定常ドメインの代わりに当該非免疫グロブリンポリペプチドに置換するか、または、抗体の一つの抗原結合部位の可変ドメインの代わりにそれらに置換して、抗原に対する特異性を有する一つの抗原結合部位と、異なる抗原に対する特異性を有する別の抗原結合部位とを含むキメラ二価抗体を生み出す。
【0147】
(iii)ヒト化抗体
非ヒト抗体をヒト化するための方法は当技術分野で記載されている。好ましくは、ヒト化抗体は、非ヒトである起源からその抗体に導入された一つまたは複数のアミノ酸残基を有する。これらの非ヒトアミノ酸残基は、しばしば、「輸入(import)」残基と称される。この残基は、典型的には「輸入」可変ドメインから取り入れられる。ヒト化は、ヒト抗体の対応配列の代わりに超可変部配列に置換することによって、Winterおよび共同研究者らの方法(Jones et al., Nature, 321: 522-525 (1986); Riechmann et al., Nature, 332: 323-327 (1988); Verhoeyen et al., Science, 239: 1534-1536 (1988))に従って本質的に行うことができる。したがって、当該「ヒト化」抗体は、インタクトなヒト可変ドメインよりも実質的に小さな配列が非ヒト種由来の対応する配列に置換されたキメラ抗体(米国特許第4,816,567号)である。実際にはヒト化抗体は、典型的には一部の超可変部残基と、可能性があることには一部のFR残基とが、げっ歯動物抗体の類似部位由来の残基に置換されているヒト抗体である。
【0148】
ヒト化抗体を作成する際に使用される、軽鎖および重鎖両方のヒト可変ドメインの選択は、抗原性を低減するために非常に重要である。いわゆる「ベストフィット」法により、げっ歯動物抗体の可変ドメインの配列を、公知のヒト可変ドメイン配列のライブラリー全体に対してスクリーニングする。次に、そのげっ歯動物の配列に最も近いヒト配列を、ヒト化抗体についてのヒトフレームワーク部(FR)として受け入れる(Sims et al., J. Immunol., 151: 2296 (1993); Chothia et al., J. Mol. Biol, 196: 901 (1987))。別の方法は、特定亜群の軽鎖または重鎖の全ヒト抗体のコンセンサス配列に由来する特定のフレームワーク部を使用する。同フレームワークを、いくつかの異なるヒト化抗体に使用することができる(Carter et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89: 4285 (1992); Presta et al., J. Immunol., 151: 2623 (1993))。
【0149】
抗体が抗原に対する高い親和性およびその他の好都合な生物学的性質を保持してヒト化されることは、さらに重要である。この目標を実現するために、好ましい方法により、親配列およびヒト化配列の三次元モデルを使用した親配列および様々な概念上のヒト化産物の分析プロセスによりヒト化抗体を調製する。三次元免疫グロブリンモデルが、一般に利用可能であり、当業者によく知られている。選択された候補免疫グロブリン配列の有望な三次元コンフォメーション構造を図解して表示するコンピュータプログラムを利用することができる。これらの表示の調査により、候補免疫グロブリン配列の機能発揮にこれらの残基が果たしそうな役割を分析すること、すなわち、候補免疫グロブリンがその抗原と結合する能力に影響する残基を分析することが可能になる。このように、FR残基を、レシピエント配列および輸入配列より選択して組合せることができ、それにより、ターゲット抗原に対する親和性増大などの所望の抗体特性が実現される。一般に、超可変部残基は、抗原結合に影響することに直接的かつ最も実質的に関与している。
【0150】
(iv)ヒト抗体
ヒト化の代替として、ヒト抗体を作成することができる。例えば、免疫処置した際に、内因性免疫グロブリン産生の不在下でヒト抗体の全レパートリーを産生することができるトランスジェニック動物(例えば、マウス)を生み出すことが今や可能である。例えば、キメラおよび生殖細胞系突然変異マウスにおける抗体重鎖J部(JH)遺伝子の同型接合型欠失は、内因性抗体産生の完全な阻害を招くことが記載されている。当該生殖細胞系突然変異マウスにヒト生殖細胞系免疫グロブリン遺伝子アレイを導入する結果として、抗原による攻撃に応答したヒト抗体の産生が生じるであろう。例えば、Jakobovits et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90: 2551 (1993);Jakobovits et al., Nature, 362: 255-258 (1993);Bruggermann et al., Year in Immuno., 7:33 (1993);ならびに米国特許第5,591,669号、第5,589,369号,および第5,545,807号を参照されたい。
【0151】
または、ファージディスプレイ技法(McCafferty et al., Nature 348: 552-553 (1990))を使用して、免疫処置されていないドナー由来の免疫グロブリン可変(V)ドメイン遺伝子レパートリーからヒト抗体およびヒト抗体フラグメントをin vitro産生することができる。この技法によると、抗体Vドメイン遺伝子を、M13またはfdなどの糸状バクテリオファージの主または副コートタンパク質遺伝子のいずれかのフレーム内にクローニングして、ファージ粒子の表面上に機能的な抗体フラグメントとして提示させる。糸状粒子がファージゲノムの一本鎖DNAコピーを有することから、その抗体の機能的性質に基づく選択は、それらの性質を示す抗体をコードしている遺伝子の選択も招く。このように、そのファージは、B細胞の性質の一部を模倣している。ファージディスプレイを様々な形式で行うことができる;それらの総説については、例えばJohnson, Kevin S. and Chiswell, David J., Current Opinion in Structural Biology 3: 564-571 (1993)を参照されたい。いくつかの起源のV遺伝子セグメントをファージディスプレイのために使用することができる。Clacksonら、Nature, 352: 624-628 (1991)は、免疫処置されたマウスの脾臓に由来するV遺伝子の小さなランダムコンビナトリアルライブラリーから抗オキサゾロン抗体の多様なアレイを単離した。免疫処置されていないヒトドナーからのV遺伝子のレパートリーを構築することができ、(自己抗原を含む)多様なアレイの抗原に対する抗体を、Marks et al., J. Mol. Biol. 222: 581-597 (1991)、またはGriffith et al., EMBO J. 12: 725-734 (1993)によって記載されている技法に本質的に従って単離することができる。米国特許第5,565,332号および第5,573,905号も参照されたい。
【0152】
上記のように、ヒト抗体を、in vitro活性化したB細胞により作成することもできる(米国特許第5,567,610号および第5,229,275号参照)。
【0153】
ヒトHER2抗体は、1998年6月30日に発行された米国特許第5,772,997号および1997年1月3日に公開されたWO97/00271に記載されている。
【0154】
(v)抗体フラグメント
種々の技法が、一つまたは複数の抗原結合領域を含む抗体フラグメントの産生のために開発されている。伝統的には、これらのフラグメントは、インタクトな抗体のタンパク質分解消化を介して誘導された(例えば、Morimoto et al., Journal of Biochemical and Biophysical Methods 24: 107-117 (1992);およびBrennan et al., Science, 229:81 (1985)を参照されたい)。しかし、これらのフラグメントを、今やリコンビナント宿主細胞によって直接産生することができる。例えば、その抗体フラグメントを、上記の抗体ファージライブラリーから単離することができる。または、Fab’−SHフラグメントを、E.coliから直接回収して、化学的に結合させてF(ab’)2フラグメントを形成させることができる(Carter et al., Bio/Technology 10: 163-167 (1992))。別のアプローチにより、F(ab’)2フラグメントを、リコンビナント宿主細胞培養物から直接単離することができる。抗体フラグメントの産生のためのその他の技法は、当業者に明白であろう。他の態様では、選択された抗体は一本鎖Fvフラグメント(scFv)である。WO93/16185;米国特許第5,571,894号;および第5,587,458号を参照されたい。この抗体フラグメントは、例えば、米国特許第5,641,870号に例えば記載された「線状抗体」でもありうる。当該線状抗体フラグメントは、単一特異性または二重特異性でありうる。
【0155】
(vi)二重特異性抗体
二重特異性抗体は、少なくとも二つの異なるエピトープに対して結合特異性を有する抗体である。例示的な二重特異性抗体は、HER2タンパク質の二つの異なるエピトープに結合することができる。その他の当該抗体は、HER2結合部位と、EGFR、HER3、および/またはHER4に対する結合部位とを組合せることができる。または、細胞防御メカニズムをHER2発現細胞に集中させるために、T細胞レセプター分子(例えば、CD2もしくはCD3)のような、またはFcγRI(CD64)、FcγRII(CD32)、およびFcγRIII(CD16)などの、IgGに対するFcレセプター(FcγR)のような、白血球上のトリガー分子に結合するアームとHER2アームを組合せることができる。HER2を発現する細胞に細胞毒性薬を局在化させるために、二重特異性抗体を使用することもできる。これらの抗体は、HER2結合アームと、細胞毒性薬(例えば、サポリン、抗インターフェロン−α、ビンカアルカロイド、リシン(ricin)A鎖、メトトレキサート、または放射性同位体ハプテン)と結合するアームとを有する。二重特異性抗体を、全長抗体または抗体フラグメント(例えば、F(ab’)2二重特異性抗体)として調製することができる。
【0156】
WO96/16673は、二重特異性HER2/FcγRIII抗体を記載し、米国特許第5,837,234号は、二重特異性HER2/FcγRI抗体IDM1(Osidem)を開示している。二重特異性HER2/Fcα抗体は、WO98/02463に示されている。米国特許第5,821,337号は、二重特異性HER2/CD3抗体を教示している。MDX−210は、二重特異性HER2−FcγRIII Abである。
【0157】
二重特異性抗体を作成するための方法は、当技術分野において公知である。全長二重特異性抗体の従来の産生は、二つの免疫グロブリン重鎖−軽鎖対の同時発現に基づく。ここで、その二つの鎖は異なる特異性を有する(Millstein et al., Nature, 305: 537-539 (1983))。免疫グロブリン重鎖および軽鎖のランダムな取り合わせが原因で、これらのハイブリドーマ(クアドローマ)は、10個の異なる抗体分子の潜在的な混合物を産生し、そのうち、一つだけが正しい二重特異性構造を有する。正しい分子の精製は、普通はアフィニティークロマトグラフィー工程によってなされるが、かなり煩雑であり、その産物の収率は低い。類似の手順がWO93/08829およびTraunecker et al., EMBO J., 10: 3655-3659 (1991)に開示されている。
【0158】
異なるアプローチにより、所望の結合特異性(抗体−抗原の結合部位)を有する抗体可変ドメインを、免疫グロブリン定常ドメイン配列と融合させる。この融合体は、好ましくは、ヒンジ部の少なくとも一部、CH2部、およびCH3部を含む免疫グロブリン重鎖定常ドメインを有する。軽鎖の結合に必要な部位を有する第一重鎖定常部(CH1)を、これら融合体の少なくとも一つに存在させることが好ましい。免疫グロブリン重鎖融合体をコードしているDNAと、所望ならば免疫グロブリン軽鎖をコードしているDNAとを、別々の発現ベクターに挿入して、適切な宿主生物に同時トランスフェクションする。これは、構築に使用される等しくない比率の3本のポリペプチド鎖が最適な収率を提供する態様において、それら3本のポリペプチドフラグメントの相互比率の調整に大きな柔軟性を提供する。しかし、少なくとも2本のポリペプチド鎖が等しい比で発現することが高収率を招く場合、またはその比が特に重要ではない場合に、2本または3本全てのポリペプチド鎖についてのコード配列を一つの発現ベクターに挿入することが可能である。
【0159】
このアプローチの好ましい態様では、二重特異性抗体は、一方のアームでの第1結合特異性を有するハイブリッド免疫グロブリン重鎖と、他方のアームでのハイブリッド免疫グロブリン重鎖−軽鎖対(第2結合特異性を提供する)とから構成される。この非対称構造は、望まれていない免疫グロブリン鎖の組合せから所望の二重特異性化合物の分離を容易にすることが見出された。それは、二重特異性分子の半分のみに免疫グロブリン軽鎖が存在することが、分離の容易な方法に備えるからである。このアプローチは、WO94/04690に開示されている。二重特異性抗体を作成するさらなる詳細については、例えば、Suresh et al., Methods in Enzymology, 121: 210 (1986)を参照されたい。
【0160】
米国特許第5,731,168号に記載されている別のアプローチによると、抗体分子対の間の界面を加工して、リコンビナント細胞培養物から回収されるヘテロ二量体の率を最大にすることができる。好ましい界面は、抗体定常ドメインのCH3ドメインの少なくとも一部分を含む。この方法では、第1抗体分子の界面由来の一つまたは複数の小型アミノ酸側鎖を、より大型の側鎖(例えば、チロシンまたはトリプトファン)に交換する。その大型側鎖に同一または類似の大きさの代償的な「空洞」は、大型アミノ酸側鎖をより小型のアミノ酸側鎖(例えば、アラニンまたはトレオニン)に交換することによって、第2抗体分子の界面に生み出される。これは、ホモ二量体などのその他の望まれない最終産物に比べてヘテロ二量体の収率を増加させるためのメカニズムを提供する。
【0161】
二重特異性抗体には、架橋抗体または「ヘテロコンジュゲート」抗体が含まれる。例えば、ヘテロコンジュゲートにおける抗体のうちの一方をアビジンと、他方をビオチンと結合させることができる。当該抗体は、例えば、望まれていない細胞に免疫系細胞をターゲティングするために(米国特許第4,676,980号)、およびHIV感染の処置のために(WO91/00360、WO92/200373、およびEP03089)提案されている。ヘテロコンジュゲート抗体を、任意の好都合な架橋方法を用いて作成することができる。適切な架橋剤は当技術分野において周知であり、米国特許第4,676,980号に、いくつかの架橋技法と共に開示されている。
【0162】
抗体フラグメントから二重特異性抗体を作成するための技法は、文献にも記載されている。例えば、化学的結合を用いて二重特異性抗体を調製することができる。Brennan et al., Science, 229: 81 (1985)は、インタクトな抗体がタンパク質分解的に開裂されてF(ab’)2フラグメントを発生する手順を記載している。これらのフラグメントを、ジチオール錯化剤である亜砒酸ナトリウムの存在下で還元して、隣接するジチオールを安定化して、分子間ジスルフィド形成を阻止する。次に、発生したFab’フラグメントをチオニトロ安息香酸(TNB)誘導体に変換する。次に、メルカプトエチルアミンを用いた還元により、Fab’−TNB誘導体の一つをFab’−チオールに再変換し、等モル量のその他のFab’−TNB誘導体と混合して、二重特異性抗体を形成させる。産生した二重特異性抗体を、酵素の選択的固定化のための薬剤として使用することができる。
【0163】
最近の進歩により、E.coli由来のFab’−SHフラグメントを直接回収することが容易になった。このFab’−SHフラグメントを、化学的に結合させて、二重特異性抗体を形成させることができる。Shalaby et al., J. Exp. Med., 175: 217-225 (1992)は、完全にヒト化された二重特異性抗体F(ab’)2分子の産生を記載している。各々のFab’フラグメントが、E.coliから別々に分泌され、in vitro定方向化学的結合に供されて、二重特異性抗体を形成した。このように形成した二重特異性抗体は、レセプターHER2を過剰発現している細胞および正常なヒトT細胞に結合することができ、かつヒト乳房腫瘍ターゲットに対するヒト細胞傷害性リンパ球の溶解活性をトリガーすることができた。
【0164】
リコンビナント細胞培養物から二重特異性抗体フラグメントを直接作成して単離するための様々な技法も記載されている。例えば、二重特異性抗体は、ロイシンジッパーを用いて産生された。Kostelny et al., J. Immunol., 148(5): 1547-1553 (1992)。Fosタンパク質およびJunタンパク質由来のロイシンジッパーペプチドが、遺伝子融合によって二つの異なる抗体のFab’部分に連結された。その抗体ホモ二量体は、ヒンジ部で還元されて単量体を形成し、次に、再び酸化されて抗体へテロ二量体を形成した。この方法を、抗体ホモ二量体産生のためにも利用することができる。Hollinger et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90: 6444-6448 (1993)によって記載された「二特異性抗体」技法は、二重特異性抗体フラグメントを作成するための代替メカニズムを提供した。このフラグメントは、同じ鎖上の二つのドメイン間で対形成させるには短すぎるリンカーによって軽鎖可変ドメイン(VL)に連結した重鎖可変ドメイン(VH)を含む。したがって、一つのフラグメントのVHドメインおよびVLドメインは、別のフラグメントの相補的なVLドメインおよびVHドメインと対形成することを強いられ、それによって、二つの抗原結合部位を形成する。二重特異性抗体フラグメントを単鎖Fv(sFv)二量体の使用によって作成するための別の戦略も報告されている。Gruber et al., J. Immunol., 152: 5368 (1994)を参照されたい。
【0165】
二つを超える結合価を有する抗体が考えられている。例えば、三重特異性抗体を調製することができる。Tutt et al. J. Immunol. 147: 60 (1991)。
【0166】
(vii)その他のアミノ酸配列の改変
本明細書に記載された抗体のアミノ酸配列の改変が考えられている。例えば、抗体の結合親和性および/または他の生物学的性質を改善することが望ましいことがある。適切なヌクレオチド変化を抗体の核酸に導入することにより、またはペプチド合成により、抗体のアミノ酸配列変異体を調製する。当該改変には、例えば、抗体のアミノ酸配列内の残基からの欠失および/またはそれへの挿入および/またはその置換がある。欠失、挿入、および置換の任意の組合せは、最終構築物に達するように作成されるが、但し、その最終構築物は所望の性質を有する。そのアミノ酸変化は、グリコシル化部位の数または位置を変化させることなどの、抗体の翻訳後プロセスを変更することもできる。
【0167】
突然変異誘発についての好ましい位置である、抗体のある残基または領域を同定するための有用な方法は、Cunningham and Wells, Science, 244: 1081-1085 (1989)に記載された「アラニンスキャニング突然変異誘発」と呼ばれる。この方法では、複数のターゲット残基の中から一つの残基または基(例えば、arg、asp、his、lys、およびgluなどの荷電した残基)が同定され、中性または陰性に荷電したアミノ酸(最も好ましくはアラニンまたはポリアラニン)に交換されて、アミノ酸と抗原との相互作用に影響を与える。次に、置換に対する機能的感受性を実証しているアミノ酸位置を、置換部位に、または置換部位の代わりにさらなる変異体またはその他の変異体を導入することによって精密化する。このように、アミノ酸配列変異を導入するための部位が予め決定されているが、その突然変異自体の性質は予め決定されている必要はない。例えば、所与の部位での突然変異の性能を分析するために、alaスキャニングまたはランダム突然変異誘発が、ターゲットコドンまたはターゲット領域に施され、発現した抗体変異体が所望の活性についてスクリーニングされる。
【0168】
アミノ酸配列挿入には、長さが1個の残基から100個以上の残基を有するポリペプチドまでの範囲のアミノ末端および/またはカルボキシル末端融合体、ならびに単一または複数のアミノ酸残基の配列内挿入体がある。末端挿入体の例には、N末端メチオニル残基を有する抗体、または細胞毒性ポリペプチドに融合した抗体がある。抗体分子のその他の挿入変異体には、抗体のN末端またはC末端と酵素(例えば、ADEPT用)との、または抗体の血清半減期を増大させるポリペプチドとの融合体がある。
【0169】
別の型の変異体は、アミノ酸置換変異体である。これらの変異体は、抗体分子中の少なくとも一つのアミノ酸残基が異なる残基に交換されている。置換突然変異誘発について最も関心対象の部位には超可変部があるが、FRの変更も考えられている。
【0170】
抗体の適切なコンフォメーションの維持に関与しない任意のシステイン残基を、一般にセリンに置換して、その分子の酸化に対する安定性を改善して、異常な架橋を阻止することもできる。逆に、システイン結合をその抗体に付加して、(特に、その抗体がFvフラグメントなどの抗体フラグメントである場合)その安定性を改善することができる。
【0171】
特に好ましい型の置換変異体は、親抗体(例えば、ヒト化抗体またはヒト抗体)の一つまたは複数の超可変部残基を置換することを伴う。一般的に、さらなる開発のために選択された、結果として生じた変異体は、それらの変異体が作成された元の親抗体に比べて、改善された生物学的性質を有するであろう。当該置換変異体を作成するための簡便法は、ファージディスプレイを使用した親和性成熟を伴う。簡潔には、いくつかの超可変部部位(例えば、6から7個の部位)を突然変異させて全ての可能なアミノ置換を各部位に作成する。このように作成された抗体変異体は、糸状ファージ粒子から一価の様式で、各粒子内にパッケージングされたM13の遺伝子III産物との融合体として提示される。次に、ファージディスプレイされた変異体を、本明細書に開示されたように、それらの生物学的活性(例えば結合親和性)についてスクリーニングする。改変のための候補となる超可変部部位を同定するために、アラニンスキャニング変異誘発を行って、抗原結合に重大に寄与する超可変部残基を同定することができる。または、もしくは追加的に、抗原−抗体複合体の結晶構造を分析して、抗体とヒトHER2との間の接触点を同定することが有益でありうる。そのような接触残基および隣接する残基は、本明細書に詳細に述べられた技法による置換のための候補である。当該変異体がいったん発生すると、一団の変異体を本明細書に記載されたスクリーニングに供し、一つまたは複数の関連するアッセイで優れた性質を有する抗体を、さらなる開発のために選択することができる。
【0172】
この抗体の別の型のアミノ酸変異体は、この抗体の本来のグリコシル化パターンを変更したものである。変更によって、抗体に見出される一つもしくは複数の糖質部分を欠失させること、および/またはその抗体には存在しない一つもしくは複数のグリコシル化部位を付加することを意味する。
【0173】
抗体のグリコシル化は、典型的にはN−結合またはO−結合のいずれかである。N−結合は、アスパラギン残基の側鎖に糖質部分が付着していることを指す。トリペプチド配列であるアスパラギン−X−セリンおよびアスパラギン−X−トレオニン(Xは、プロリンを除く任意のアミノ酸である)は、アスパラギン側鎖に糖質部分を酵素的に付着させるための認識配列である。このように、これらのトリペプチド配列のいずれかがポリペプチド中に存在することで、潜在的なグリコシル化部位が生み出される。O−結合型グリコシル化は、糖であるN−アセチルガラクトサミン、ガラクトース、またはキシロースの一つがヒドロキシアミノ酸に付着していることを指し、5−ヒドロキシプロリンまたは5−ヒドロキシリシンも使用されうるが、そのヒドロキシアミノ酸は最も一般的にはセリンまたはトレオニンである。
【0174】
抗体へのグリコシル化部位の付加は、好都合には、アミノ酸配列を変更することにより、そのアミノ酸配列が(N−結合型グリコシル化部位のための)上記の一つまたは複数のトリペプチド配列を有するようにすることによって実現される。本来の抗体の配列に(O−結合型グリコシル化部位のための)一つまたは複数のセリンまたはトレオニン残基を付加するか、またはこれらに置換することによっても変更を行うことができる。
【0175】
抗体がFc部を含む場合、それに付着している糖質を変更することができる。例えば、抗体のFc部に付着したフコースを欠如した成熟糖質構造を有する抗体が米国特許出願US2003/0157108A1、Presta, L.に記載されている。US2004/0093621A1(Kyowa Hakko Kogyo Co., Ltd)も参照されたい。糖質中の二分岐型N−アセチルグルコサミン(GlcNAc)が抗体のFc部に付着した抗体がWO03/011878、Jean-Mairetらおよび米国特許第6,602,684号、Umanaらに参照されている。オリゴ糖中の少なくとも一つのガラクトース残基が抗体のFc部に付着した抗体がWO97/30087、Patelらに報告されている。変更された糖質がFc部に付着した抗体に関するWO98/58964(Raju, S.)およびWO99/22764(Raju, S.)も参照されたい。
【0176】
例えば、抗体の抗原依存性細胞性細胞傷害作用(ADCC)および/または補体依存性細胞傷害作用(CDC)を増強するためのエフェクター機能に関して、本発明の抗体を改変することが望ましいことがある。これは、抗体のFc部に一つまたは複数のアミノ酸置換を導入することによって実現することができる。または、もしくは追加的に、システイン残基をFc部に導入することによって、この領域に鎖間ジスルフィド結合を形成させることができる。このように作成されたホモ二量体抗体は、改善したインターナリゼーション能ならびに/または増大した補体介在性細胞殺滅および抗体依存性細胞性細胞傷害作用(ADCC)を有することがある。Caron et al., J. Exp Med. 176: 1191-1195 (1992)およびShopes, B. J. Immunol. 148: 2918-2922 (1992)を参照されたい。増強した抗腫瘍活性を有するホモ二量体抗体を、Wolff et al. Cancer Research 53: 2560-2565 (1993)に記載されているようなヘテロ二官能性架橋剤を使用して調製することもできる。または、二つのFc部を有する抗体を加工することができ、それによって、その抗体は増強した補体溶解およびADCC能を有しうる。Stevenson et al. Anti-Cancer Drug Design 3: 219-230 (1989)を参照されたい。
【0177】
WO00/42072(Presta, L.)は、ヒトエフェクター細胞の存在下で改善したADCC機能を有する抗体を記載している。ここで、その抗体は、そのFc部にアミノ酸置換を含む。好ましくは、改善されたADCCを有する抗体はFc部の位置298、333、および/または334に置換を含む。好ましくは、変更されたFc部は、これらの位置の一つ、二つ、または三つに置換を含むか、またはその置換からなるヒトIgG1のFc部である。
【0178】
C1qとの結合性および/または補体依存性細胞傷害作用(CDC)の変更を有する抗体が、WO99/51642、米国特許第6,194,551B1号、米国特許第6,242,195B1号、米国特許第6,528,624B1号、および米国特許第6,538,124号(Idusogie et al.)に記載されている。この抗体は、そのFc部のアミノ酸位置270、322、326、327、329、313、333、および/または334のうち一つまたは複数にアミノ酸置換を含む(KabatのようなFc部残基のEu番号付けを用いる)。
【0179】
抗体の血清半減期を増大させるために、例えば、米国特許第5,739,277号に記載されているように、サルベージレセプター結合エピトープを抗体(特に抗体フラグメント)に組み込むことができる。本明細書中で使用される用語「サルベージレセプター結合エピトープ」は、IgG分子のin vivo血清半減期の増大を担う、IgG分子(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4)のFc部のエピトープを指す。
【0180】
新生児Fcレセプター(FcRn)との結合性が改善し、半減期が増大した抗体は、WO00/42072(Presta, L.)およびUS2005/0014934A1(Hinton et al.)に記載されている。これらの抗体は、その中にFc部とFcRnとの結合性を改善する一つまたは複数の置換を有するFc部を含む。例えば、Fc部はその位置238、250、256、265、272、286、303、305、307、311、312、314、317、340、356、360、362、376、378、380、382、413、424、428または434のうち一つまたは複数に置換を有しうる(KabatのようなFc部残基のEu番号付けを用いる)。FcRnとの改善した結合性を有する好ましいFc部含有抗体変異体は、そのFc部の位置307、380、および434のうち一つ、二つ、または三つにアミノ酸置換を含む。
【0181】
三つ以上(好ましくは四つ)の機能的抗原結合部位を有する加工された抗体も考えられている(米国出願番号US2002/0004587A1、Miller et al.)。
【0182】
抗体のアミノ酸配列変異体をコードしている核酸分子は、当技術分野で公知の様々な方法により調製される。これらの方法には、天然起源からの単離(天然アミノ酸配列変異体の場合)または初期調製変異体もしくは非変異体バージョンの抗体のオリゴヌクレオチド介在性(もしくは部位特異的)突然変異誘発、PCR突然変異誘発、およびカセット突然変異誘発による調製があるが、それに限定されるわけではない。
【0183】
(viii)免疫コンジュゲート
本発明は、化学療法剤、毒素(例えば、細菌、真菌、植物または動物起源の小分子毒素または酵素活性毒素であって、そのフラグメントおよび/または変異体を含む)、または放射性同位体(すなわち放射性コンジュゲート)などの細胞毒性薬にコンジュゲーションした抗体を含む免疫コンジュゲートにも関するものである。
【0184】
当該免疫コンジュゲートの発生に有用な化学療法剤は上に記載されている。抗体と、カリケアミシン、メイタンシン(米国特許第5,208,020号)、トリコテン(trichothene)、およびCC1065などの一つまたは複数の小分子毒素とのコンジュゲートも本明細書において考えられている。
【0185】
本発明の好ましい一態様では、抗体は、一つまたは複数のメイタンシン分子(例えば、抗体1分子あたり約1から約10個のメイタンシン分子)とコンジュゲーションしている。メイタンシンを、例えばMay−SS−Meに変換でき、それをMay−SH3に還元して改変抗体と反応させ(Chari et al., Cancer Research 52: 127-131 (1992))、メイタンシノイド−抗体免疫コンジュゲートを発生させることができる。
【0186】
関心対象の別の免疫コンジュゲートは、一つまたは複数のカリケアミシン分子とコンジュゲーションしている抗体を含む。カリケアミシンファミリーの抗生物質は、サブピコモル濃度で、2本鎖DNA切断を産生することができる。使用されうるカリケアミシンの構造アナログには、γ1I、α2I、α3I、N−アセチル−γ1I、PSAG、およびθI1(Hinman et al. Cancer Research 53:3336-3342 (1993)およびLode et al. Cancer Research 58:2925-2928 (1998))が挙げられるが、それに限定されるわけではない。参照により本明細書に特に組み入れられる米国特許第5,714,586号;第5,712,374号;第5,264,586号;および第5,773,001号も参照されたい。
【0187】
使用することができる酵素活性毒素およびそのフラグメントには、ジフテリアA鎖、ジフテリア毒素の非結合性活性フラグメント、外毒素A鎖(Pseudomonas aeruginosa由来)、リシンA鎖、アブリンA鎖、モデシン(modeccin)A鎖、アルファ−サルシン(sarcin)、Aleurites fordiiタンパク質、ジアンチン(dianthin)タンパク質、Phytolaca americanaタンパク質(PAPI、PAPII、およびPAP-S)、momordica charantia阻害剤、クルシン、クロチン、sapaonaria officinalis阻害剤、ゲロニン、マイトゲリン(mitogellin)、レストリクトシン(restrictocin)、フェノマイシン(phenomycin)、エノマイシン(enomycin)、およびトリコテセンが挙げられる。例えば、1993年10月28日に公開されたWO93/21232を参照されたい。
【0188】
本発明は、抗体と核分解活性を有する化合物(例えば、デオキシリボヌクレアーゼ(DNase)などのリボヌクレアーゼまたはDNAエンドヌクレアーゼ)との間に形成される免疫コンジュゲートをさらに考えている。
【0189】
放射性コンジュゲーションしたHER2抗体の産生に種々の放射性同位体を利用することができる。例には、At211、I131、I125、Y90、Re186、Re188、Sm153、Bi212、P32、およびLuの放射性同位体が挙げられる。
【0190】
抗体と細胞毒性薬とのコンジュゲートを、N−スクシンイミジル−3−(2−ピリジルジチオール)プロピオネート(SPDP)、スクシインミジル−4−(N−マレイミドメチル)シクロヘキサン−1−カルボキシレート、イミノチオラン(IT)、イミドエステルの二官能性誘導体(ジメチルアジポイミデートHCLなど)、活性エステル(スベリン酸ジスクシンイミジルなど)、アルデヒド(グルタルアルデヒドなど)、ビス−アジド化合物(ビス(p−アジドベンゾイル)ヘキサンジアミンなど)、ビス−ジアゾニウム誘導体(ビス−(p−ジアゾニウムベンゾイル)−エチレンジアミンなど)、ジイソシアネート(トリエン(tolyene)−2,6−ジイソシアネートなど)、および二活性フッ素化合物(1,5−ジフルオロ−2,4−ジニトロベンゼンなど)のような多様な二官能性タンパク質カップリング剤を使用して作成することができる。例えば、Vitetta et al. Science 238:1098 (1987)に記載されているように、リシン免疫毒素を調製することができる。炭素14ラベル1−イソチオシアナトベンジル−3−メチルジエチレントリアミン五酢酸(MX-DTPA)は、抗体に放射性ヌクレオチドをコンジュゲーションするための例示的なキレート剤である。WO94/11026を参照されたい。リンカーは、細胞内で細胞毒性薬物の放出を容易にする「切断可能なリンカー」でありうる。例えば、酸に不安定なリンカー、ペプチダーゼ感受性リンカー、ジメチルリンカー、またはジスルフィド含有リンカー(Chari et al. Cancer Research 52:127-131 (1992))を使用することができる。
【0191】
または、抗体および細胞毒性薬を含む融合タンパク質を、例えばリコンビナント技法またはペプチド合成によって作成することができる。
【0192】
その他の免疫コンジュゲートが本明細書において考えられている。例えば、多様な非タンパク質性ポリマー、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシアルキレン、またはポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールとのコポリマーのうちの一つに抗体を連結することができる。例えばコアセルベーション技法もしくは界面重合によって調製されたマイクロカプセル(例えば、それぞれヒドロキシメチルセルロースマイクロカプセルもしくはゼラチンマイクロカプセル、およびポリメタクリル酸メチルマイクロカプセル)に、コロイド状薬物送達系(例えば、リポソーム、アルブミンミクロスフェア、ミクロエマルション、ナノ粒子、およびナノカプセル)に、またはマクロエマルションに、抗体を捕捉することもできる。このような技法は、Remington's Pharmaceutical Sciences, 16th edition, Oslo, A., Ed., (1980)に開示されている。
【0193】
本明細書において開示された抗体を、免疫リポソームとして処方することもできる。抗体を含有するリポソームは、Epstein et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82:3688 (1985);Hwang et al., Proc. Natl Acad. Sci. USA 77:4030 (1980);米国特許第4,485,045号および第4,544,545号;ならびに1997年10月23日に公開されたWO97/38731に記載されているように、当技術分野において公知の方法により調製される。循環時間が高まったリポソームは、米国特許第5,013,556号に開示されている。
【0194】
特に有用なリポソームは、ホスファチジルコリン、コレステロール、およびPEG−誘導体化ホスファチジルエタノールアミン(PEG−PE)を含む脂質組成物を用いた逆相蒸発法によって発生させることができる。所定の孔径のフィルターを通してリポソームを押出して、所望の直径を有するリポソームが得られる。本発明の抗体のFab’フラグメントを、ジスルフィド交換反応を介して、Martin et al. J. Biol. Chem. 257:286-288 (1982)に記載されているようにリポソームにコンジュゲーションすることができる。場合により、化学療法剤がリポソーム内に包含される。Gabizon et al. J. National Cancer Inst. 81(19)1484 (1989)を参照されたい。
【0195】
IV. 薬学的製剤
本発明により使用されるMMPアンタゴニストの治療用製剤は、所望の純度を有するMMPアンタゴニストを、随意の薬学的に許容されうる担体、賦形剤、または安定化剤(Remington's Pharmaceutical Sciences 16th edition, Osol, A. Ed. (1980))と共に、凍結乾燥製剤または水溶液の形態で混合することによって、保存用に調製される。許容されうる担体、賦形剤、または安定化剤は、採用される投薬量および濃度でレシピエントに対して無毒性であり、これらには、リン酸塩、クエン酸塩、およびその他の有機酸などの緩衝剤;アスコルビン酸およびメチオニンを含めた抗酸化剤;保存料(オクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロリド;ヘキサメトニウムクロリド;塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム;フェノール、ブチルアルコール、もしくはベンジルアルコール;メチルパラベンもしくはプロピルパラベンなどのアルキルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3−ペンタノール;およびm−クレゾールなど);(約10残基未満の)低分子量ポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチン、もしくは免疫グロブリンなどのタンパク質;ポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン、もしくはリシンなどのアミノ酸;グルコース、マンノース、もしくはデキストリンを含めた単糖類、二糖類、およびその他の糖質;EDTAなどのキレート剤;スクロース、マンニトール、トレハロース、もしくはソルビトールなどの糖;ナトリウムなどの塩形成対イオン;金属複合体(例えば、Zn−タンパク質複合体);ならびに/またはTWEEN(商標)、PLURONICS(商標)、もしくはポリエチレングリコール(PEG)などの非イオン界面活性剤が挙げられる。凍結乾燥抗体製剤は、参照により本明細書に特に組み入れられるWO97/04801に記載されている。
【0196】
本明細書における製剤は、処置される特定の適応に必要な一つを超える活性化合物、好ましくは相互に有害な影響を及ぼさない相補的活性を有する化合物も含有することがある。MMPアンタゴニストと組合せることのできる様々な薬物は下記の処置方法の項に記載されている。そのような分子は、適切には、意図された目的に有効な量で組合されて存在する。
【0197】
例えばコアセルベーション技法または界面重合によって調製されたマイクロカプセル、例えばそれぞれヒドロキシメチルセルロースマイクロカプセルもしくはゼラチン−マイクロカプセルおよびポリメタクリル酸メチルマイクロカプセルに、コロイド状薬物送達系(例えば、リポソーム、アルブミンミクロスフェア、ミクロエマルション、ナノ粒子、およびナノカプセル)に、またはマクロエマルションに、活性成分を捕捉することもできる。このような技法はRemington's Pharmaceutical Sciences, 16th edition, Oslo, A., Ed.,(1980)に開示されている。
【0198】
持続性放出製剤を調製することができる。持続性放出製剤の適切な例には、抗体を含有する固体疎水性重合体の半透過性マトリックスがあり、このマトリックスは、造形品、例えばフィルムまたはマイクロカプセルの形態である。持続性放出マトリックスの例には、ポリエステル、ヒドロゲル(例えば、ポリ(メタクリル酸2−ヒドロキシエチル)、またはポリビニルアルコール、ポリラクチド(米国特許第3,773,919号)、L−グルタミン酸とγ−エチル−L−グルタミン酸とのコポリマー、非分解性エチレン−酢酸ビニル、LUPRON DEPOT(商標)(乳酸−グリコール酸コポリマーおよび酢酸ロイプロリドから構成される注射可能なミクロスフェア)などの分解性の乳酸−グリコール酸コポリマー、およびポリ−D−(−)−3−ヒドロキシ酪酸が挙げられる。
【0199】
in vivo投与のために使用される製剤は無菌でなければならない。これは、無菌濾過膜を通して濾過することにより容易に実現される。
【0200】
V. 処置
MMPアンタゴニストで処置することができる多様なガンの例を上記定義の項に挙げる。MMPアンタゴニストの投与の結果として、ガンの兆候および症状に改善が生じるものである。
【0201】
MMPアンタゴニストは、例えばボーラスとしての、もしくはある時間にわたる連続注入による静脈内投与、筋肉内、腹腔内、脳脊髄内、皮下、関節内、滑膜内、鞘内、経口、局所、または吸入経路などの公知の方法により、ヒト患者に投与される。
【0202】
疾患の予防または処置のためのMMPアンタゴニストの用量は、上に定義されたような処置されるガンの型、ガンの重症度および経過、その抗体が予防目的のために、それとも治療目的のために投与されるか、以前の治療法、患者の臨床歴およびその抗体に対する応答、ならびに担当の医師の判断に依存するものである。
【0203】
MMPアンタゴニストは投与される唯一の抗腫瘍薬でありうるが、場合によっては患者はMMPアンタゴニストと、一つまたは複数の他の抗腫瘍剤との組合せで処置される。組合せ投与には、別々の製剤または単一の薬学的製剤を用いた同時投与または併行投与、およびいずれかの順序の連続投与があり、ここで、好ましくは両方の(または全ての)活性薬剤がそれらの生物学的活性を同時に発揮する期間が存在する。このように、MMPアンタゴニストの投与前または投与後に他の抗腫瘍剤を投与することができる。本態様では、MMPアンタゴニストの少なくとも1回の投与と、その他の抗腫瘍剤の少なくとも1回の投与との間のタイミングは、好ましくは約1か月以下であり、最も好ましくは約2週間以下である。または、MMPアンタゴニストおよび他の抗腫瘍剤は、単一の製剤または別々の製剤の形で患者に同時投与される。MMPアンタゴニストとその他の抗腫瘍剤との組合せを用いた処置により、患者に対して相乗的な、または相加的よりも大きな治療上の利益が生じうる。
【0204】
MMPアンタゴニストと組合せることができる第2の抗腫瘍剤の例には、一つまたは複数の化学療法剤;HER阻害剤(例えばトラスツズマブ、パーツズマブ、セツキシマブ、ABX−EGF、EMD7200、ゲフィチニブ、エルロチニブ、CP724714、CI1033、GW572016、IMC−11F8、TAK165など);Raf阻害剤および/またはras阻害剤(例えばWO2003/86467参照);トラスツズマブなどの成長阻害性HER2抗体;パーツズマブなどのHER二量体化阻害剤;HER2過剰発現細胞のアポトーシスを誘導する、7C2、7F3、またはそのヒト化変異体などのHER2抗体;EGFR、HER3、HER4などの腫瘍関連抗原に対する抗体;抗ホルモン化合物、例えばタモキシフェンまたはアロマターゼ阻害剤などの抗エストロゲン化合物;(治療に関連する任意の心筋機能障害を予防または低減するための)心保護剤;サイトカイン;EGFRターゲット薬(TARCEVA(登録商標)、IRESSA(登録商標)、またはセツキシマブなど);抗血管形成剤(特にAVASTIN(商標)の商標でGenentechによって販売されているベバシズマブ);チロシンキナーゼ阻害剤;COX阻害剤(例えばCOX−1阻害剤またはCOX−2阻害剤);非ステロイド系抗炎症薬であるセレコキシブ(CELEBREX(登録商標));ファルネシルトランスフェラーゼ阻害剤(例えば、Johnson and Johnsonから入手できるチピファルニブ(Tipifarnib)/ZARNESTRA(登録商標)R115777、またはSchering-Ploughから入手できるロナファルニブ(Lonafarnib)SCH66336);オレゴボマブ(Oregovomab)(MoAb B43.13)などの、ガン胎児タンパク質CA125と結合する抗体;HER2ワクチン(PharmexiaからのHER2 AutoVacワクチン、またはDendreonからのAPC8024タンパク質ワクチン、またはGSK/CorixaからのHER2ペプチドワクチン);ドキソルビシンHClリポソーム注射液(DOXIL(登録商標));トポテカンなどのトポイソメラーゼI阻害剤;タキサン;ラパチニブ/GW572016などのHER2およびEGFRの二重チロシンキナーゼ阻害剤;TLK286(TELCYTA(登録商標));EMD−7200;アセトアミノフェン、ジフェンヒドラミン、またはメペリジンなどの解熱薬;造血成長因子などが挙げられる。
【0205】
上記で同時投与された薬剤のうち任意のものについての適切な投薬量は、現在使用されている投薬量であり、その薬剤およびMMPアンタゴニストの組合せ作用(相乗作用)が原因で減量されうる。
【0206】
上記の治療方式以外に、ガン細胞の外科的除去および/または放射線療法に患者を供することができる。
【0207】
タンパク質MMPアンタゴニストを患者に投与することの他に、本出願は遺伝子療法によるMMPアンタゴニストの投与を考えている。例えば、1996年3月14日に公開された、細胞内抗体を発生させるための遺伝子療法の使用に関するWO96/07321を参照されたい。
【0208】
(場合によりベクターに含まれる)核酸を患者の細胞内にin vivoおよびex vivoで到達させるための、二つの主な取組みがある。in vivo送達については、患者に直接、通常はその抗体が、必要とされる部位に核酸を注射する。ex vivo処置については、患者の細胞が取出され、核酸をこれらの単離された細胞に導入して、改変された細胞をその患者に直接投与するか、または例えば多孔性膜内に封入して、その多孔性膜をその患者に植込む(例えば米国特許第4,892,538号および第5,283,187号参照)かのいずれかとする。生存可能な細胞に核酸を導入するために利用できる様々な技法がある。これらの技法は、核酸が培養細胞にin vitroで導入されるか、または意図された宿主の細胞にin vivoで導入されるかに応じて変動する。哺乳動物細胞にin vitroで核酸を移行させるのに適した技法には、リポソームの使用、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、細胞融合、DEAE−デキストラン、リン酸カルシウム沈殿法などが挙げられる。遺伝子のex vivo送達用に通例使用されているベクターはレトロウイルスである。
【0209】
一般に好まれるin vivo核酸移行技法には、(アデノウイルス、Herpes simplex Iウイルス、またはアデノ随伴ウイルスなどの)ウイルスベクターおよび脂質に基づく系を用いたトランスフェクションが挙げられる(遺伝子の脂質介在性移行に有用な脂質は、例えばDOTMA、DOPE、およびDC−Cholである)。いくつかの状況では、細胞表面膜タンパク質またはターゲット細胞に特異的な抗体、ターゲット細胞上のレセプターに対するリガンドなどの、ターゲット細胞をターゲティングする薬剤を核酸の供給源に提供することが望ましい。リポソームが採用された場合、エンドサイトーシスに関連する細胞表面膜タンパク質に結合するタンパク質、例えば、特定の細胞型に親和性のキャプシドタンパク質またはそのフラグメント、サイクリングにおいてインターナリゼーションを受けるタンパク質に対する抗体、および細胞内局在をターゲティングして細胞内半減期を延ばすタンパク質を、ターゲティングに、かつ/または取込みを促進するために使用することができる。レセプター介在性エンドサイトーシスの技法は、例えば、Wu et al., J. Biol. Chem. 262:4429-4432 (1987);およびWagner et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:3410-3414 (1990)に記載されている。現在公知の遺伝子マーカー作成および遺伝子治療プロトコールの総説については、Anderson et al., Science 256:808-813 (1992)を参照されたい。WO93/25673および本明細書に引用された参考文献も参照されたい。
【0210】
VI.材料の寄託
以下のハイブリドーマ細胞系は、American Type Culture Collection, 10801 University Boulevard, Manassas, VA 20110-2209, USA(ATCC)に寄託された:
抗体の名称 ATCC番号 寄託日
7C2 ATCC HB−12215 1996年10月17日
7F3 ATCC HB−12216 1996年10月17日
4D5 ATCC CRL10463 1990年 5月24日
2C4 ATCC HB−12697 1999年 4月 8日
【0211】
本発明のさらなる詳細は、以下の非限定的な実施例によって例示される。本明細書における全ての引用の開示は、参照により本明細書に特に組み入れられる。
【0212】
実施例1
以下の実施例は、HER2のシェディングに果たすマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)の役割を検討したものである。
【0213】
材料および方法
細胞培養およびトランスフェクション
本研究で使用した全ての細胞系は、American Type Tissue Culture Collection(ATCC, Manassas, VA)から得られたものである。10%熱不活性化FBSおよび2mM L−グルタミンを補充した高グルコースDMEM:HamのF12(50:50)中でBT474、MCF−7、およびSKBR−3細胞を維持した。10%熱不活性化FBSおよび2mM L−グルタミンを補充した高グルコースDMEM中でCos−7細胞を維持した。5%CO2を供給した加湿インキュベータ中で、細胞系を37℃で維持した。製造業者の説明書通りにキットV(AMAXA(商標))を使用して、BT474細胞およびSKBR−3細胞に、記載された構築物をエレクトロポレーションにより一過性トランスフェクションした。製造業者の推奨通りにLIPOFECTAMINE(商標)2000(Invitrogen)を使用して、記載されたようにCos−7細胞にトランスフェクションを行った。
【0214】
Fo5およびf2:1282マウス異種移植腫瘍系
Fo5系およびF2:1282系は以前に記載されている(Finkle et al., Clin. Cancer Res. 10:2499-2511 (2004))。MMTV HER2トランスジェニックマウス由来の初代腫瘍からこれらの系を得て、これらの系をFVBマウスの乳腺脂肪体中で継代した。
【0215】
GM6001の注射
Fo5腫瘍をFVBマウスに移植し、平均サイズ400〜600mm3に成長させてから研究を開始した。GM6001( 3−[N−ヒドロキシカルボミル]−[2R]−イソブチルプロピオニル−L−トリプトファンメチルアミド)をCalbiochemから入手し、4%カルボキシメチルセルロース/0.9%PBSのスラリー中で再構成し、100mg/kg体重で3日間腹腔内注射することにより毎日投与した。3日目の注射の24時間後に動物を屠殺し、心穿刺により血清を収集した。0日目および4日目に腫瘍のサイズを測定した。腫瘍を除去し、さらに分析するために急速冷凍した。
【0216】
RNAの調製およびAFFYMETRIX(商標)アレイ
RNAEASY(商標)キット(Qiagen, Chatsworth, CA)を用いて、急速冷凍された腫瘍試料から総RNAを単離した。残留したゲノムDNAをDNAse I処理(Roche Molecular Biochemicals)により除去した。マイクロアレイ実験を行い、以前に記載されたように解析した(Jin, H et al., Circulation 103:736-742 (2001))。試料をAFFYMETRIX(商標)マウスゲノム単一アレイ(MOE430P)および公知の遺伝子アレイ(MOE430A)(AFFYMETRIX(商標), Inc., Santa Clara, CA)にハイブリダイゼーションした。Fo5腫瘍試料3個およびF2:1282腫瘍試料3個について実験を3回の繰り返しで行った。対応のあるMann−Whitneyの比較を行い、80%を超える一致率で、発現の2倍の増大を有する遺伝子を有意とみなした。細胞系および組織のAFFYMETRIX(商標)マイクロアレイ解析からの遺伝子発現データのコレクションであるGeneLogic Bioexpress Database(GeneLogic, Gaithersburg, MD)を使用して、SKBR−3細胞系およびBT474細胞系での発現についてFo5−f2:1282腫瘍分別スクリーニングから同定されたプロテアーゼの発現を検討した。
【0217】
HER2 ECDのELISA
Fo5またはf2:1282異種移植腫瘍を有するマウス由来の血清を心穿刺により収集し、以前に記載されたHER2 ELISAを使用してHER2 ECDレベルを検出した(Finkle et al. Clin. Cancer Res. 10:2499-2511 (2004))。アッセイ緩衝液(PBS、0.5%BSA、0.05%TWEEN(登録商標)20、10ppm PROCLIN(登録商標)300、0.2% BBG、0.25% CHAPS、0.15M NaCl、5mM EDTA(pH7.4))を使用して血清を1:50に希釈し、続いて追加的に1:2の段階希釈を行った。NUNC(登録商標)Maxisorpプレート上でヤギ抗HER2ポリクローナル抗体(Genentech)を用いて、シェディングされたHER2を捕捉し、ビオチンとコンジュゲーションしたウサギ抗HER2ポリクローナル抗体(Genentech)に続いてAMDEX(商標)−ストレプトアビジン−ホースラディッシュペルオキシダーゼ抗体(Amersham Pharmacia Biotech)を使用して、以前に記載された手順通りにそれを検出した(Sias et al., J. Immunol. Meth. 109:219-27 (1990))。細胞培養実験については、示されたように細胞を処理して、順化培地を収集し、アッセイ緩衝液で1:2の段階希釈を行った。標準物質として精製リコンビナントHER2 ECDタンパク質(Genentech)を使用して、標準曲線の4変数フィッティングにより、血清中または順化培地中のシェディングされたHER2の濃度を決定した。
【0218】
DNA構築物およびタンパク質の精製
テンプレートとして本来のクローンを使用したPCRにより、ヒトMMP−15をpRK5にクローニングした。以下のプライマーを使用したPCRにより、C末端にV5Hisタグを付けた完全長版を発生させ、それをpcDNA3.1V5Hisにクローニングした。
【0219】
【表2】
【0220】
以下のプライマーを使用したPCRにより、膜貫通ドメインを欠如した可溶性版のMMP−15を発生させた。
【0221】
【表3】
【0222】
部位特異的突然変異誘発により成熟タンパク質のアミノ酸260のグルタミンをアラニン残基に置換することによって、MMP−15の触媒機能喪失(catalytically dead)突然変異体を発生させた。
【0223】
以下のプライマーを使用したPCRにより、pRK5.gDHER2−Fc(pRK5.gDHER2−IgG)を発生させ、XhoI−Mluで消化したpRK5.gDHER2−Fcにそれをクローニングした(Fitzpatrick et. al., FEBBS Lett. 431(1):102-6 (1998))。
【0224】
【表4】
【0225】
これにより、HER2の推定上の切断部位が導入された。その切断部位は、SKBR−3順化培地から単離された精製HER2 ECDから同定されたものである(Yuan et al, Protein Expression and Purification 29:217-222 (2003))。
【0226】
以下のPCRプライマーを使用して、HER2のドメインIVだけを含む切り詰め版のgDHER2−Fcも発生させた。
【0227】
【表5】
【0228】
pRK5.HER3-FcおよびpRK5.HER4-Fcは以前に記載されている(Fitzpatrick et al., FEBBS Lett. 431(1):102-6 (1998))。FLAGエピトープ(Asp−Tyr−Lys−Asp−Asp−Asp−Asp−Lys(配列番号17))をpRK5のN末端に導入した。HER−Fc融合タンパク質を293細胞にトランスフェクションし、以前に記載された通りに無血清順化培地からその融合タンパク質を精製した(Fitzpatrick et. al., FEBBS Lett, 431(1):102-6 (1998))。可溶性MMP−15V5HisおよびsMMP−15V5His(E260A)タンパク質を、一過性トランスフェクションした293細胞の順化培地から発生させ、製造業者(Qiagen)の推奨通りにNi−NTAアガロースを使用してそれを精製した。
【0229】
shRNAによるMMP−15のノックダウン
細胞に導入した場合にMMP−15タンパク質レベルを低減する能力について、いくつかの異なるshRNAを評価した。ヒトMMP−15に対する最も有効なshRNAは、nt1396〜1414(GENBANK(商標)アクセッション番号NM_002428)に対応するbpである
【0230】
【表6】
【0231】
を認識することが見出された。MMP−15に対するRNAiを、shRNAを形成するための内部ヘアピンを含むオリゴである
【0232】
【表7】
【0233】
として、pSIRENベクター(BD Biosciences)のBamHI−EcoRI部位に導入した。MMP−25に対するshRNAをOPENBIOSYSTEMS(商標)から購入した。製造業者の推奨通りにAMAXA(商標)キットVを使用して、SKBR−3細胞およびBT474細胞にpSIREN shRNA構築物またはベクター単独を一過性トランスフェクションした。48時間後に順化培地を収集し、HER2 ELISAにより、シェディングされたHER2についてアッセイし、2×試料緩衝液を使用してプレート上で直接細胞を溶解させた。ウサギ抗MMP−15ポリクローナル抗体(Labvisionカタログ番号RB−1546−P)またはマウス抗HER2モノクローナル抗体Ab−15(Labvision、カタログ番号MS−599−P0)を使用したウエスタンブロットにより、MMP−15、完全長HER2、およびp95 HER2タンパク質を検出した。
【0234】
HER2のin vitro切断アッセイ
基質として精製gDHER2−Fc融合タンパク質を使用して、候補となるプロテアーゼがHER2 ECDを切断する能力をin vitroで決定した。MT1−MMP(MMP−14)、MT2−MMP(MMP−15)、MT3−MMP(MMP−16)、MT4−MMP(MMP−19)、およびMT5−MMP(MMP−25)の精製された触媒ドメインをR&D systemsから購入した。記載されたようにアッセイ緩衝液(100mMトリス(pH=7.4)、100mM NaCl、2.5μM ZnCl2、10mM CaCl2、0.001%Brij35)中で精製MMPタンパク質をgDHER2−Fcまたは他のHER−Fcタンパク質と酵素:基質が1:100の比になるように混合し、37℃で20分間インキュベーションした。等量の2×試料緩衝液(Invitrogen)を使用して反応を停止させ、5分間煮沸してから4〜20%のトリス−グリシン勾配ゲル(Invitrogen)にロードした。製造業者の推奨通りにGEL CODE BLUE(商標)染色試薬(Pierceカタログ番号24592)で染色することによりタンパク質を可視化した。自動タンパク質シーケンサを使用した自動エドマン分解によるタンパク質N末端配列決定によりMMPの切断部位を決定した(Kishiyama, A., Anal. Chem. 72(21):5431-6 (2000))。
【0235】
免疫沈降アッセイおよびウエスタンブロット
LIPOFECTAMINE(商標)2000を使用して、pRK5.Flag−HER2構築物およびpcDNA3.MMP−15構築物、またはpcDNA3.1ベクター単独をCos−7細胞に同時トランスフェクションした。細胞を48時間回復させた。トランスフェクションされた細胞をPBSで洗い、溶解緩衝液(1%TRITON X−100(商標)、50mMトリス(pH=7.4)、150mM NaCl、1mM PMSF、10μg/mlロイペプチン、10U/mlアプロチニン、および2mM Na2VO4)中で細胞を破裂させた。遠心分離により溶解液から不溶性物質を除き、BCAタンパク質アッセイキット(Pierceカタログ番号23229)を使用して総タンパク質レベルを決定した。細胞総タンパク質200μgを溶解緩衝液に加えて終容積1mlとして、抗Flag M2−アガロース(Sigma)を使用して、またはプロテインA/Gアガロースと複合体を形成した抗MMP−15ポリクローナル抗体を用いて、Flag−HER2を免疫沈降させた。免疫複合体を溶解緩衝液で2回洗い、SDS試料緩衝液中に再懸濁して煮沸した。試料を4〜12%トリス−グリシン勾配ゲル(Invitrogen)で分離させ、ニトロセルロース膜に移行させた。ブロットを5%BSA/TBST中でブロッキングし、MMP−15またはHER2いずれかに対する抗体に続いて、記載されたようにペルオキシダーゼとコンジュゲーションした抗マウスまたは抗ウサギ二次抗体を用いて探査した。強化化学ルミネセンスによりブロットを発色させた(ECL、Amersham Pharmacia Biotech)。
【0236】
プロテアーゼ阻害剤と共にFo5腫瘍およびf2:1282腫瘍を溶解緩衝液中に再懸濁し、氷上でPOLYTRON TISSUEMIZER(商標)(PT2100)を使用して均質化した。遠心分離により、腫瘍溶解液から不溶性物質を除き、BCAタンパク質アッセイキットを使用して総タンパク質レベルを決定した。プロテインA/Gセファロースと複合体を形成したマウスモノクローナル抗体Ab−15(Labvision, カタログ番号MS−599−P0)を使用して、少なくとも三つの独立した腫瘍溶解液由来の総タンパク質1mgから4℃で一晩HER2を免疫沈降させた。遠心分離により複合体をペレットにして、溶解緩衝液で2回洗浄し、SDS試料緩衝液中に再懸濁して煮沸した。4〜12%トリス−グリシンゲルで試料を分離し、ニトロセルロース膜に移行させた。リン酸化HER2を検出するためのマウスモノクローナル抗体Ab−18(Labvisionカタログ番号MS−1072−P)、またはAb−15(Labvsion カタログ番号MS−599−P0)でブロットを探査した。MMP−14を検出するためのウサギポリクローナルAb−1(Labvisionカタログ番号RB−1544−P)、MMP−15を検出するためのウサギポリクローナルAb−1(Labvision カタログ番号RB−1546−P)、またはMMP−25を検出するためのウサギポリクローナルAb−1(Oncogene Research Productsカタログ番号PC499)を使用して、腫瘍溶解液50ugから、またはBT474もしくはMCF−7もしくはSKBR−3細胞溶解液からの50ugから、ウエスタンブロットによりMMP−14、MMP−15、およびMMP−25の発現を評価した。
【0237】
細胞溶解液50μgのウエスタンブロットにより、活性化MAPK(Cell Signaling Technology カタログ番号9101)、ホスホAkt Ser473(Cell Signaling Technologyカタログ番号9271)、総Akt(Cell Signaling Technologyカタログ番号9272)、総Erk(Cell Signaling Technologyカタログ番号9102)、ホスホHER3(Cell Signaling Technologyカタログ番号4791)を決定した。
【0238】
増殖アッセイ
4回の繰り返しで、ウェル1個あたり104細胞の密度で96ウェルの皿(Nunc)に細胞を蒔き、一晩接着させた。示されたように細胞を処理するか、または示されたようにトランスフェクションを行った。3日間のインキュベーション後に、Alamar Blue試薬(Trek Diagnostic Systems、カタログ番号00−100)25μlを各ウェルに加え、追加的に3時間インキュベーションした。励起波長530nmおよび発光波長590nmで製造業者の推奨通りに蛍光計でプレートを読み取った。以前に記載されたように、トランスフェクションされた未刺激細胞または対照細胞に比べた増殖を決定した(Lewis et al., Cancer Res. 56(6):1457-65 (1996))。
【0239】
結果
HER2のECDは培養した乳ガン細胞からタンパク質分解的にシェディングされ、転移性乳ガンを有する患者の血清中に検出された。この場合、HER2のECDは臨床的予後不良と関連している(Molina et al. Cancer Res. 61:4744-4749 (2001))。しかし、HER2のシェディングの生物学的役割ははっきりしない。本明細書における実験は、HER2シェダーゼを同定するために実施された。
【0240】
トラスツズマブが以前に乳ガン細胞系におけるシェディングを阻害することが実証されたことから、HER2シェダーゼの同定も重要でありうる(Molina et al. Cancer Res. 61:4744-4749 (2001))。以前に報告された結果と一致して、トラスツズマブは、乳ガン細胞系BT474およびSKBR−3細胞におけるシェディングを、濃度10μg/mlで60%を超えて低減し(図5、左欄)、これらの細胞系における細胞増殖を50%低減した(図5、右欄)。
【0241】
乳腺腫瘍がMMTVHER2トランスジェニックマウスに由来する動物モデル系(Finkle et al. Clin. Cancer Res. 10:2499-2511 (2004))を使用して、HER2シェダーゼを同定した。この動物モデル系は、血清中に異なるレベルのHER2を繰り返しシェディングし、トラスツズマブに対して感受性の差を示す(図6、右欄)。血清HER2レベルにおけるこの差は、3つの独立したFo5腫瘍細胞溶解液から免疫沈降したタンパク質フラグメントの存在ともよく相関し、そのフラグメントはp95 HER2のサイズと一致するみかけの分子量95kDを有する(図6、左下欄)。このフラグメントはFo5腫瘍細胞溶解液中で構成的にリン酸化され、このフラグメントはこれらの腫瘍において生物学的活性を有しうることを示している。増大したレベルのHERシェダーゼは、この細胞系のトラスツズマブ耐性に貢献するおそれがある。それは、トラスツズマブのエピトープがタンパク質分解性切断により失われると思われるからである(Cho et al. Nature 421:756-760 (2003))。
【0242】
Fo5腫瘍系がさらに高レベルのHER2をシェディングし、高レベルのp95 HER2フラグメントを有することから、f2:1282腫瘍に比べてFo5腫瘍でアップレギュレーションされる転写物を同定するための取組みとして、発現差の分析を使用した。平均腫瘍サイズ300〜600mm3のFo5腫瘍またはf2:1282腫瘍のいずれか由来の三つの個別の腫瘍試料からRNAを調製した。独立した腫瘍試料それぞれに由来するRNAを3回の繰り返しでAFFYMETRIX(商標)マウスゲノム単一アレイチップ(MOE430P)および公知の遺伝子アレイ(MOE430A)にハイブリダイゼーションさせた。対応のあるMann−Whitney比較を行い、Fo5腫瘍試料でアップレギュレーションされた638個の転写物を同定した。BT474細胞系およびSKBR−3細胞系もまた順化培地中にHER2 ECDをシェディングすることから(図5、左欄)、Genelogic Bioexpressデータベースを使用して、このリストを両細胞系で発現している転写物と比較した。HER2シェダーゼを同定するために採用された取組みを図7に示す。
【0243】
候補遺伝子数を絞り込むために、一般的なメタロプロテアーゼ阻害剤GM6001を使用して、MMP活性がHER2のシェディング調節に役割を果たすかどうかを評価した。HER2 ECDのELISAにより決定したとき、SKBR−3細胞においてGM6001の立体異性体ではなくGM6001は、用量依存的にHER2のシェディングを阻害した(図8左欄)。この結果は、乳ガン細胞系において一般メタロプロテアーゼ阻害剤BB−94がHER ECDのシェディングを阻害したという、以前に公表された報告と一致するものである(Codony-Servat et al. Cancer Res. 59:1196-1201 (1999))。Timp−1、Timp−2、およびTimp−3はメタロプロテアーゼ活性を調節する天然ペプチドである(Overall and Lopez-Otin Nature Reviews Cancer 2:657-672 (2002))。精製Timp−1、Timp−2、またはTimp−3を濃度1μg/mlでSKBR−3細胞の順化培地に加えると、HER2 ECDレベルが低減した(図8、右欄)。しかし、Timp−2は最も効率的にHER2 ECDのシェディングを低減した(図8、右欄)。Timp−2はMT−MMPサブファミリーのメタロプロテアーゼを効率的に阻害することが知られている(Overall and Lopez-Otin Nature Reviews Cancer 2:657-672 (2002))。これらのデータは、SKBR−3細胞およびBT474細胞においてHER2のシェディングを担うプロテアーゼがメタロプロテアーゼであることを示唆し、生物情報学によるスクリーニングから同定された候補の数を有意に減らした。
【0244】
GENELOGIC(商標)データベースに基づくと、SKBR−3細胞およびBT474細胞にMT−MMPファミリーのメンバーがいくつか発現している。AFFYMETRIX(商標)マイクロアレイのデータから、MT1−MMPおよびMT2−MMPの両方がFo5腫瘍にも発現している。これらの転写物が発現しているかどうかを決定するために、ヒトタンパク質およびマウスタンパク質の両方を認識する、これらのMT−MMPに対するポリクローナル抗体を用いて、Fo5およびf2:1282腫瘍ならびに乳ガン細胞系の溶解液の免疫ブロットを行った(図9)。これらの細胞系は全て、異なるレベルでMMP−14、MMP−15、およびMMP−25を発現している。f2:1282およびFo5腫瘍細胞溶解液の両方にMMP−14は発現しているが、MMP−15はFo5腫瘍溶解液に豊富に発現している。この結果は、Fo5腫瘍の方が2倍高いMMP−15のmRNA発現レベルを示したMann−Whitney比較と一致した。MMP−15が周囲のストローマ細胞ではなく腫瘍の上皮細胞に発現していたことを立証するために、Fo5腫瘍およびf2:1282腫瘍の切片を作り、抗HER2抗体(Dako)または抗MMP−15抗体(Ab−1)のいずれかで染色した。f2:1282腫瘍およびFo5腫瘍の両方がヒトHER2を発現しているが、MMP−15はf2:1282腫瘍よりもFo5腫瘍で豊富に発現している。
【0245】
MT−MMPのメンバーについての基質は従来、細胞外マトリックスタンパク質であると考えられてきた。完全長HER2をin vitroで切断するマイクロアレイデータから同定された候補を試験するために生化学アッセイを組立てた。このアッセイは、候補プロテアーゼについての基質として精製されたリコンビナント融合タンパク質を使用し、ヒトIgGのFc重鎖と同じフレーム内の、N末端にgDエピトープのタグを付けたHER2 ECDからなる。これらの研究でいくつかの異なるタンパク質を使用した。gDHER2(+)−IgGはHER2 ECDのアミノ酸2〜656を含み(GenBankアクセッション番号AAA75493)gDHER2(−)−IgGはHER2 ECDのアミノ酸2〜626を含む。gDHER2(+)−IgGリコンビナントタンパク質は、推定上のHER2シェダーゼ部位を含むことが以前に示された膜近傍配列(PA/EQR/ASP;配列番号23)を含み、gDHER2(−)−IgGタンパク質はこの配列を欠如している(Yuan et al. Protein Expression and Purification 29:217-222 (2003))。切り詰め版のgDHER2(+)−IgGであるgDHER2(DIV)−IgGもこのアッセイに使用したが、これはヒトFcと同じフレーム内にHER2のドメインIV(DIV)のみを有する。MMP−14、MMP−15、MMP−16、MMP−19、およびMMP−25の精製触媒ドメインをgDHER2(DIV)−IgGと共に37℃で20分間インキュベーションした。MMP−14以外の全てのMT−MMPはgDHER2(DIV)−IgG基質を効率的に切断した(図13、左欄)。切断されたタンパク質産物を切り出し、N末端の配列決定を行って切断部位を同定した。四つのMT−MMP全ては公表された配列部位近くでHER2を切断した(Yuan et al. Protein Expression and Purification 29:217-222 (2003))(図13、右欄)。
【0246】
配列PINCTHSCVDLDDKGCPAEQRASPASPLTSIV(配列番号21)を有するHER2−Fc融合タンパク質は、in vitroでこれらの四つのMMPについての基質である(図14)。このデータは、HER2がMMP−15についての基質であることを示唆している。
【0247】
MT−MMPの基質認識はヘモペキシンドメインにより影響されうる(Overall and Lopez-Otin Nature Reviews Cancer 2:657-672 (2002))。C末端にV5 Hisエピトープを有する可溶性形態のMMP−15を293細胞に一過性発現させ、アフィニティークロマトグラフィーにより293の順化培地から精製した。図15に示すように、この可溶性形態のMMP−15はin vitroシェダーゼアッセイでgDHER2(+)−IgGも切断することができる。
【0248】
MMP−15およびHER2が膜に関連することができるかどうかを決定するために、一過性トランスフェクションされたCos−7細胞を使用して免疫共沈アッセイを行った。pRK5.FlagHER2にpcDNA3.MMP−15V5His、pcDNA3.sMMP−15V5His、またはpcDNA3.MMP−15(E260A)のいずれかのベクターを同時トランスフェクションした。抗FLAG樹脂を用いてFlagHER2を免疫沈降させた。図10に、可溶性MMP−15および触媒機能喪失(E260A)突然変異体の両方がFlag−HER2と関連することができることを示す。野生型版のプロテアーゼであるpcDNA3.MMP−15V5HisがFlagHER2 ECDを除去すると思われ、HER2−MMP−15複合体は免疫共沈しないと思われることから、これは、MMP−15が膜中のHER2を切断することができるという見解と一致する。
【0249】
MMTVHER2トランスジェニック動物由来の乳腺腫瘍において体細胞点突然変異および欠失変異体およびスプライス変異体が同定されている(Siegel et al. EMBO J. 18:2149-2164 (1999));およびFinkle et al. Clin. Cancer Res. 10:2499-2511 (2004))。これらの突然変異は、膜貫通ドメイン近くのHER2細胞外ドメインで起こることが最も多い。Fo5腫瘍系は、HER2切断部位に隣接したアミノ酸5個DLDDK(配列番号22)の欠失を有し、一方でf2:1282腫瘍系はRからCへのただ一つの点突然変異(図12)を有する。これらの突然変異は、MMP−15の関連に影響しない(図11)。しかし、HER2 MMP切断部位にDLDDK(配列番号22)の欠失が近接していることは、このプロテアーゼの酵素活性に影響しうる可能性がある。
【0250】
RNA阻害(RNAi)は、ターゲットの転写レベルおよびタンパク質レベルをダウンレギュレーションすることができる方法である。SKBR−3細胞およびBT474細胞におけるMMP−15の生物学的役割を検討するために、抗MMP−15 RNAi構築物を使用した。SKBR−3細胞またはBT474細胞に導入したとき、このshRNAiの発現プラスミドは、両細胞系でのMMP−15の内因性タンパク質レベルを低減した(図17、左上欄)。このshRNAのトランスフェクションにより、両細胞系におけるp95 HERの量も低減した(図17、左下欄)。これらの細胞からMMP−15タンパク質が欠失すると、両細胞系でHER2 ECDのシェディングが有意に低減した(図17、右欄)。しかし、MMP−25に対するshRNAiをどちらの細胞系に導入したときも、HER2 ECDのシェディングに有意な低減は観察されなかった(図17、右欄)。これらの実験は、MMP−15の欠失がHER2 ECDのシェディングに劇的に作用することを強く示唆している。
【0251】
RNAiによりMMP−15タンパク質レベルを低減することは、SKBR−3細胞およびBT474細胞の成長速度にも作用を有する(図18、左欄)。この作用は、MMP−25に対するshRNAiによっても再現される。これは、BT474細胞およびSKBR−3細胞においてHER2 ECDのシェディングの低減がp95 HER2の量をダウンレギュレーションすることによって、細胞成長速度を低減することも示唆している。gDのタグを付けたp95HER2構築物をこれらの細胞系に導入すると、両方の細胞型において、トランスフェクションされた対照細胞に比べて細胞成長速度の増加が検出された(図18、左欄)。リガンド非依存的にCos−7細胞にこの構築物を導入すると、この構築物は構成的にリン酸化され、MAPKを活性化する(図16)。しかし、この構築物は、以前に公表された研究と一致してAktシグナル伝達経路を活性化するためにはなおHER3またはEGFRとヘテロ二量体化しなければならない(Xia et al. Oncogene 23:646-653 (2004))。SKBR−3細胞でのgDp95HER2の過剰発現は、これらの細胞においてトラスツズマブ介在性成長阻害を有意には阻害しなかった(図18、右欄)。
【0252】
MMP活性がFo5腫瘍におけるHER2のシェディングおよびp95 HER2レベルの調節に役割を果たすかどうかを決定するために薬理学的取組みを使用した。平均サイズ400〜600mm3のFo5腫瘍を有するFVBマウスの腹腔内にGM6001または対照ビヒクルを3日のクールにわたり毎日注射した。4日目に血清を収集し、ELISAによりHER2 ECDについてアッセイし、腫瘍を収集し重量を測定した。HER2を腫瘍細胞溶解液から免疫沈降させ、ウエスタンブロットによりp95 HER2レベルについてアッセイした。GM6001で処置した動物は、対照動物に比べてp95 HER2の量に有意な低減を示した(図19、右欄)。血清HER2 ECDレベルは、ビヒクル処置動物およびGM6001処置動物の両方で低減した(図19、左欄)が、GM6001処置動物ではより大きい低減が観察された。
【0253】
概要
上記実験は、マトリックスメタロプロテアーゼMMP−15が、シェディングされたECDをSKBR3細胞から精製したものと一致する部位でin vitroでHER2を切断し、かつ完全長HER2と相互作用することを実証している。このMMPレベルの低減は、レセプターHER2のシェディングの低減とよく相関し、SKBR3細胞系およびBT474細胞系において増殖の基礎レベルを減少させる。トラスツズマブは、間接的にMMP−15活性を調節することによりレセプターHER2のシェディングを阻害するようであるが、基質の結合および切断についてMMP−15と競合しない。MMP−15アンタゴニストなどのMMPアンタゴニストを用いてHER2のシェディングを低減することは、トラスツズマブ耐性ガンを含むガンを処置するための治療的取組みとなる。
【図面の簡単な説明】
【0254】
【図1】完全長HER2タンパク質の構造の概略図およびその細胞外ドメインのドメインI〜IVについてのアミノ酸配列(それぞれ配列番号1〜4)を示す図である。
【図2A】トラスツズマブの軽鎖(配列番号5)のアミノ酸配列を示す図である。
【図2B】トラスツズマブの重鎖(配列番号6)のアミノ酸配列を示す図である。
【図3A】パーツズマブの軽鎖(配列番号7)のアミノ酸配列を示す図である。CDRを太字で示す。軽鎖の分子量の計算値は23526.22Daである(システインは還元型)。糖質部分は重鎖のAsn299に付着している。
【図3B】パーツズマブの重鎖(配列番号8)のアミノ酸配列を示す図である。CDRを太字で示す。重鎖の分子量の計算値は49216.56Daである(システインは還元型)。糖質部分は重鎖のAsn299に付着している。
【図4】HERシグナル伝達ネットワークを示す図である。
【図5】HER2を過剰発現していない乳ガン細胞系(MCF−7)と比べた、トラスツズマブによる、過剰発現している乳ガン細胞系(SKBR3、MT474)からのHER2 ECDのシェディング阻害を示す図である。
【図6】MMTVHER2トランスジェニック腫瘍(トラスツズマブ感受性f2:1282腫瘍およびトラスツズマブ耐性Fo5腫瘍)におけるp95 HER2レベルおよびシェディングされたHER2 ECDレベルの差を示す図である。
【図7】HER2シェダーゼを同定するために使用された戦略を示す図である。
【図8】シェダーゼがメタロプロテアーゼの性質を有することを実証した実験を示す図である。
【図9】MMTV−HER2腫瘍および細胞系におけるMMPの発現を示す図である。MMP−15はトラスツズマブ感受性であるf2:1282腫瘍と、トラスツズマブ耐性であるFo5腫瘍との間の差を説明するための候補である。
【図10】flag−HER2およびMMP−15の間の相互作用を表す図である。
【図11】flagHER2−f2:1282とMMP−15、およびflagHER2−Fo5とMMP−15の相互作用を示す図である。f2:1282とFo5との間の差は、MMP−15への突然変異体の結合の差により説明することはできない。
【図12】MMTVHER2トランスジェニックマウスにおいて見出された体細胞突然変異を示す図である。その配列は、シェダーゼ部位(配列番号23)、野生型(WT)(配列番号24)、スプライス(配列番号25)、Fo5(配列番号26)、およびf2:3078.10(配列番号27)である。
【図13】in vitroシェダーゼアッセイの結果を示す図である。gDHER29(DIV)−IgGはMMP−15、MMP−16、MMP−19、およびMMP−25の触媒ドメインについての基質である。MMP−15(配列番号28)、MMP−16(配列番号29)、MMP−19(配列番号30)、MMP−25(配列番号31)、および他の全て(配列番号32)のプロテアーゼ消化物の配列;ならびにHER2 ECDのC末端部位についての配列(配列番号33)である。
【図14】MMP−15が他のレセプターHERを短縮しないことを実証している実験結果を示す図である。HER2(配列番号34)、EGFR(配列番号35)、HER3(配列番号36)、HER4(Jma)(配列番号37)、およびHER4(Jmb)(配列番号38)の配列は、膜貫通ドメイン近くに配列変動を示している。
【図15】MMP−15「完全長」がHER2(+)−IgGを短縮することを示す図である。
【図16】p95 HER2が構成的にリン酸化されるが、Aktを活性化するにはHER3とヘテロ二量体化しなければならないことを示した実験を示す図である。
【図17】MMP−15 RNA阻害剤(RNAi)がSKBR3細胞およびBT474細胞におけるHER2 ECDのシェディングおよびp95 HER2レベルを低減することを示す図である。
【図18】SKBR3細胞におけるトラスツズマブ介在性成長阻害がHER2のシェディング阻害にどの程度依存しないかを示す図である。
【図19】Fo5異種移植腫瘍におけるメタロプロテアーゼ活性の阻害がHER2のシェディングを低減し、p95 HER2レベルを阻害することを示す図である。
【図20】マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)ファミリーのメンバーを示す図である。MMPファミリーのメンバーをドメイン構造により群分けする。本図で使用した略号は以下の通りである:PRE;プレドメイン、PRO;プロドメイン、CAT;触媒ドメイン、H;ヒンジ、HEM;ヘモペキシンドメイン、F;フューリン切断コンセンサスドメイン、FN;フィブロネクチン様ドメイン、GPI;グリコホスファチジルイノシトールアンカー、TM;膜貫通ドメイン、Ig;免疫グロブリン様ドメイン、CA;システインアレイ、CL;コラーゲン様ドメイン。
【技術分野】
【0001】
本出願は、2005年2月9日に出願された仮出願60/651,348の米国特許法第119条に基づく優先権を主張する非仮出願であり、その出願の全開示は本明細書によって参照により組み入れられる。
【0002】
発明の分野
本発明は、HER2のシェディングを阻害するためのマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)、特にMMP−15のアンタゴニストの使用に関するものである。
【0003】
背景技術
HERファミリーのレセプターチロシンキナーゼは、細胞の成長、分化、および生存の重要な仲介物質である。このレセプターファミリーには、上皮成長因子レセプター(EGFR、ErbB1、またはHER1)、HER2(ErbB2またはp185neu)、HER3(ErbB3)、およびHER4(ErbB4またはtyro2)を含めた四つの異なるメンバーがある。
【0004】
erbB1遺伝子によってコードされるEGFRは、ヒトの悪性疾患の原因となると関係づけられている。特に、EGFRの発現増加が乳ガン、膀胱ガン、肺ガン、頭部ガン、頚部ガン、および胃ガン、ならびに神経膠芽腫で観察されている。レセプターEGFRの発現増加は、同じ腫瘍細胞によるEGFRリガンドであるトランスフォーミング成長因子アルファ(TGF−α)の産生増加としばしば関連し、その結果として自己分泌刺激経路によるレセプター活性化が生じる。Baselga and Mendelsohn, Pharmac. Ther. 64: 127-154 (1994)。EGFRまたはそのリガンドであるTGF−αおよびEGFに対するモノクローナル抗体は、当該悪性疾患の処置における治療薬として評価されている。例えば、Baselga and Mendelsohn、上記;Masui et al. Cancer Research 44: 1002-1007 (1984);およびWu et al. J. Clin. Invest. 95: 1897-1905 (1995)を参照されたい。
【0005】
HERファミリーの第2のメンバーであるp185neuは、化学処置されたラットの神経芽細胞腫由来のトランスフォーミング遺伝子産物としてもともと同定された。neuプロトオンコジーンの活性化型は、コードされているタンパク質の膜貫通領域における(バリンからグルタミン酸への)点突然変異に起因する。neuのヒトホモログの増幅は、乳ガンおよび卵巣ガンで観察され、予後不良と相関する(Slamon et al., Science, 235: 177-182 (1987); Slamon et al., Science, 244: 707-712 (1989);および米国特許第4,968,603号)。これまで、neuプロトオンコジーン中の点突然変異に類似した点突然変異は、ヒト腫瘍については報告されていない。HER2の過剰発現(遺伝子増幅が原因で頻繁であるが一様ではない)は、胃、子宮内膜、唾液腺、肺、腎臓、結腸、甲状腺、膵臓、および膀胱のガン腫を含めたその他のガン腫でも観察されている。数ある中で、King et al., Science, 229: 974 (1985);Yokota et al., Lancet 1: 765-767 (1986);Fukushige et al., Mol Cell Biol., 6: 955-958 (1986);Guerin et al., Oncogene Res., 3: 21-31 (1988);Cohen et al., Oncogene, 4: 81-88 (1989);Yonemura et al., Cancer Res., 51: 1034 (1991);Borst et al., Gynecol. Oncol., 38: 364 (1990);Weiner et al., Cancer Res., 50: 421-425 (1990);Kern et al., Cancer Res., 50: 5184 (1990);Park et al., Cancer Res., 49: 6605 (1989);Zhau et al., Mol. Carcinog., 3: 254-257 (1990);Aasland et al. Br. J. Cancer 57: 358-363 (1988);Williams et al. Pathobiology 59: 46-52 (1991);およびMcCann et al., Cancer, 65: 88-92 (1990)を参照されたい。HER2は前立腺ガンで過剰発現していることがある(Gu et al. Cancer Lett. 99: 185-9 (1996); Ross et al., Hum. Pathol. 28: 827-33 (1997); Ross et al. Cancer 79: 2162-70 (1997);およびSadasivan et al. J. Urol. 150: 126-31 (1993))。
【0006】
ラットp185neuおよびヒトHER2タンパク質産物に対する抗体が記載されている。
【0007】
Drebinおよび共同研究者らは、ラットneu遺伝子産物であるp185neuに対する抗体を産生させた。例えば、Drebin et al., Cell 41: 695-706 (1985); Myers et al., Meth. Enzym. 198: 277-290 (1991);およびWO94/22478を参照されたい。Drebin et al. Oncogene 2: 273-277 (1988)は、p185neuの二つの異なる領域と反応する抗体の混合物が、neuでトランスフォーメーションされヌードマウスに移植されたNIH−3T3細胞に相乗的な抗腫瘍効果を招くと報告している。1998年10月20日に発行された米国特許第5,824,311号も参照されたい。
【0008】
Hudziak et al., Mol. Cell. Biol. 9(3): 1165-1172 (1989)は、ヒト乳房腫瘍細胞系SK−BR−3を用いて特徴付けられたHER2抗体の一団の発生を記載している。抗体に曝露した後に、72時間後に単層をクリスタルバイオレットで染色することによって、SK−BR−3細胞の相対的な細胞増殖が決定された。このアッセイを用いて、細胞増殖を56%阻害した4D5と呼ばれる抗体で最大阻害が得られた。この一団のその他の抗体は、このアッセイではより少ない程度に細胞増殖を低減させた。この抗体4D5は、HER2を過剰発現している乳房腫瘍細胞系を、TNF−αの細胞毒性作用に対して感作することがさらに見出された。1997年10月14日に発行された米国特許第5,677,171号も参照されたい。Hudziakらに論じられたHER2抗体は、Fendly et al. Cancer Research 50: 1550-1558 (1990);Kotts et al. In Vitro 26(3): 59A (1990);Sarup et al. Growth Regulation 1: 72-82 (1991);Shepard et al. J. Clin. Immunol. 11(3): 117-127 (1991);Kumar et al. Mol. Cell. Biol. 11(2): 979-986 (1991);Lewis et al. Cancer Immunol. Immunother. 37: 255-263 (1993);Pietras et al. Oncogene 9: 1829-1838 (1994);Vitetta et al. Cancer Research 54: 5301-5309 (1994);Sliwkowski et al. J. Biol. Chem. 269(20): 14661-14665 (1994);Scott et al. J. Biol. Chem. 266: 14300-5 (1991);D'souza et al. Proc. Natl. Acad. Sci. 91: 7202-7206 (1994);Lewis et al. Cancer Research 56: 1457-1465 (1996);およびSchaefer et al. Oncogene 15: 1385-1394 (1997)にさらに特徴付けられている。
【0009】
リコンビナントヒト化バージョンのマウスHER2抗体4D5(huMAb4D5−8、rhuMAb HER2、トラスツズマブ、またはHERCEPTIN(登録商標);米国特許第5,821,337号)は、以前に大規模な抗ガン治療を受けた、HER2過剰発現転移性乳ガンを有する患者に臨床的に活性である(Baselga et al., J. Clin. Oncol. 14: 737-744 (1996))。トラスツズマブは、腫瘍がHER2タンパク質を過剰発現している転移性乳ガン患者の処置に、1998年9月25日に食品医薬品局から販売許可を受けた。
【0010】
種々の特性を有するその他のHER2抗体は、Tagliabue et al. Int. J. Cancer 47: 933-937 (1991);McKenzie et al. Oncogene 4: 543-548 (1989);Maier et al. Cancer Res.51: 5361-5369 (1991);Bacus et al. Molecular Carcinogenesis 3: 350-362 (1990);Stancovski et al. PNAS (USA) 88: 8691-8695 (1991);Bacus et al. Cancer Research 52:2580-2589 (1992);Xu et al. Int. J. Cancer 53: 401-408 (1993);WO94/00136;Kasprzyk et al. Cancer Research 52: 2771-2776 (1992);Hancock et al. Cancer Res.51: 4575-4580 (1991);Shawver et al. Cancer Res. 54: 1367-1373 (1994);Arteaga et al. Cancer Res. 54: 3758-3765 (1994);Harwerth et al. J. Biol. Chem. 267: 15160-15167 (1992);米国特許第5,783,186号;およびKlapper et al. Oncogene 14: 2099-2109 (1997)に記載されている。
【0011】
ホモロジースクリーニングの結果として、レセプターHERファミリーの二つの他のメンバー、すなわちHER3(米国特許第5,183,884号および第5,480,968号、ならびにKraus et al. PNAS (USA) 86:9193-9197 (1989))およびHER4(EP特許出願第599,274号;Plowman et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90: 1746-1750 (1993);およびPlowman et al., Nature, 366:473-475 (1993))の同定が生じた。これらのレセプターの両方は、少なくとも一部の乳ガン細胞系上で増加した発現を示す。
【0012】
これらのレセプターHERは、一般に、細胞に様々な組合せで見出され、ヘテロ二量体化は、多様なHERリガンドに対する細胞応答の多様性を増加させると考えられる(Earp et al. Breast Cancer Research and Treatment 35: 115-132 (1995))。EGFRは、六つの異なるリガンド、すなわち上皮成長因子(EGF)、トランスフォーミング成長因子アルファ(TGF−α)、アンフィレグリン、ヘパリン結合性上皮成長因子(HB−EGF)、ベータセルリン、およびエピレグリンによって結合される(Groenen et al. Growth Factors 11: 235-257 (1994))。単一の遺伝子の選択的スプライシングに起因するヘレグリンタンパク質ファミリーは、HER3およびHER4に対するリガンドである。このヘレグリンファミリーには、アルファヘレグリン、ベータヘレグリン、およびガンマヘレグリン(Holmes et al., Science, 256: 1205-1210 (1992);米国特許第5,641,869号;およびSchaefer et al., Oncogene 15: 1385-1394 (1997));neu分化因子(NDF)、グリア成長因子(GGF);アセチルコリンレセプター誘導活性(ARIA);ならびに感覚および運動神経細胞由来因子(SMDF)がある。総説については、Groenen et al. Growth Factors 11: 235-257 (1994); Lemke, G. Molec. & Cell. Neurosci. 7: 247-262 (1996)、およびLee et al. Pharm. Rev. 47: 51-85 (1995)を参照されたい。最近、三つの追加のHERリガンドが同定された。それらは、HER3またはHER4のいずれかと結合することが報告されているニューレグリン−2(NRG−2)(Chang et al. Nature 387 509-512 (1997);およびCarraway et al. Nature 387: 512-516 (1997));HER4と結合するニューレグリン−3(Zhang et al. PNAS (USA) 94(18): 9562-7 (1997));およびHER4と結合するニューレグリン−4(Harari et al. Oncogene 18: 2681-89 (1999))である。HB−EGF、ベータセルリン、およびエピレグリンもまたHER4に結合する。
【0013】
EGFおよびTGFαはHER2と結合しないが、EGFは、EGFRおよびHER2を刺激してヘテロ二量体を形成させ、このヘテロ二量体はEGFRを活性化して、その結果としてこのヘテロ二量体中のHER2のリン酸基転移が生じる。二量体化および/またはリン酸基転移は、チロシンキナーゼHER2を活性化するようである。Earpら、上記を参照されたい。同様に、HER3がHER2と同時発現すると、活性なシグナル伝達複合体が形成し、HER2に対する抗体はこの複合体を破壊することができる(Sliwkowski et al., J. Biol. Chem., 269(20): 14661-14665 (1994))。追加的に、HER2と同時発現すると、ヘレグリン(HRG)に対するHER3の親和性はより高い親和性状態に増大する。HER2−HER3タンパク質複合体に関しては、Levi et al., Journal of Neuroscience 15: 1329-1340 (1995); Morrissey et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92: 1431-1435 (1995);およびLewis et al., Cancer Res., 56: 1457-1465 (1996)もまた参照されたい。HER3と同様に、HER4はHER2と共に活性なシグナル伝達複合体を形成する(Carraway and Cantley, Cell 78: 5-8 (1994))。
【0014】
HERのシグナル伝達ネットワークを図4に示す。
【0015】
HER抗体に関する特許公報には、以下が挙げられる:
【0016】
【表1】
【0017】
HER2細胞外ドメイン(ECD)は、培養乳ガン細胞からタンパク質分解的にシェディングされ(Petch et al., Mol. Cell. Biol. 10:2973-2982 (1990);Scott et al., Mol. Cell. Biol. 13:2247-2257 (1993);およびLee and Maihle, Oncogene 16:3243-3252 (1998))、一部のガン患者の血清中に見出される(Leitzel et al., J. Clin. Oncol. 10:1436-1443 (1992))。HER2 ECDは、転移性乳ガンの血清マーカーでありうるし(Leitzel et al., J. Clin. Oncol. 10:1436-1443 (1992))、HER2を過剰発現している腫瘍に免疫的防除を免れさせることができる(Baselga et al., J. Clin. Oncol. 14:737-744 (1997)、Brodowicz et al., Int. J. Cancer 73:875-879 (1997))。シェディングされたHER2 ECDの血清レベルは、HER2を過剰発現している転移性乳ガンを有する患者における臨床的転帰不良の独立したマーカーとなる(Ali et al., Clin. Chem. 48:1314-1320 (2002); Molina et al., Clin. Cancer Res. 8:347-353 (2002))。
【0018】
切り詰められたHER2の細胞外ドメインは、イントロン内にポリアデニル化シグナルを使用することにより発生した2.3kbの選択的転写物の産物でもある(Scott et al., Mol. Cell. Biol. 13:2247-2257 (1993))。この選択的転写物は、胃ガン細胞系MKN7(Yamamoto et al., Nature 319:230-234 (1986);およびScott et al., Mol. Cell. Biol. 13:2247-2257 (1993))で最初に同定され、切り詰められたレセプターは、これらの腫瘍細胞から分泌されるよりもむしろ核周囲の細胞質に局在した(Scott et al., Mol. Cell. Biol. 13:2247-2257 (1993))。
【0019】
HER2が選択的スプライシングされた、「ハースタチン(herstatin)」と呼ばれる別の産物もまた同定されている(Doherty et al., Proc. Natl. Acad. Sci. 96:10869-10874 (1999);Azios et al., Oncogene 20:5199-5209 (2001);Justman and Clinton, J. Biol Chem. 277:20618-20624 (2002))。このタンパク質は、細胞外ドメイン由来のサブドメインIおよびIIに、イントロン8によってコードされている独特のC末端配列が続いたものからなる。
【0020】
HER2を過剰発現している腫瘍における臨床的転帰不良を説明することができる別のメカニズムは、HER2を過剰発現している一部の腫瘍細胞ではこのレセプターが未知のメタロプロテアーゼ(またはメタロプロテイナーゼ)によりプロセシングされて、切り詰められた膜関連レセプター(ときに「stub」と呼ばれ、p95としても公知である)および可溶性細胞外ドメイン(ECD、ECD105、またはp105としても公知である)を生じるという観察によって示唆されている。
【0021】
他のレセプターHERと同様に、細胞外リガンド結合ドメインの欠如は、HER2の 細胞内膜関連ドメインを構成的に活性なチロシンキナーゼにする。したがって、HER2 ECDのプロセシングによって、ガン細胞に成長シグナルおよび生存シグナルを直接送達することができる構成的に活性なレセプターが生み出されると仮定されている。米国特許第6,541,214号(Clinton)および米国特許出願第2004/0247602A1号(Friedman et al.)を参照されたい。
【0022】
Saezら、Clin Cancer Res. 12(2): 424-431(2006年1月)は、腫瘍が高レベルのp95を発現している患者が、そうではない患者に比べて有意に不良の転帰を有することを報告している。目下、p95レベルはウエスタンブロットによってのみ決定することができる。
【0023】
発明の概要
第1の局面では、本発明はHER2のシェディングを阻害するための方法に関し、その方法は、HER2のシェディングを阻害するのに有効量のマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)アンタゴニストでHER2発現細胞を処置することを含む。
【0024】
加えて、本発明は哺乳動物におけるHER2細胞外ドメイン(ECD)の血清レベルを低減するための方法を提供し、その方法は、その哺乳動物におけるHER2 ECDの血清レベルを低減するのに有効量のマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)アンタゴニストをその哺乳動物に投与することを含む。
【0025】
なお別の局面では、哺乳動物におけるガンを処置するための方法が提供され、その方法は、そのガンを処置するのに有効量のマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)アンタゴニストをその哺乳動物に投与することを含む。
【0026】
また本発明は、哺乳動物におけるHER阻害剤耐性ガンを処置するための方法に関し、その方法は、そのガンを処置するのに有効量のマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)アンタゴニストをその哺乳動物に投与することを含む。
【0027】
なおさらなる局面では、本発明は、細胞中のp95 HER2レベルを低減するための方法に関し、その方法は、そのp95 HER2レベルを低減するのに有効量のマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)アンタゴニストでその細胞を曝露することを含む。
【0028】
本発明は、診断(または予後判定の)方法にも関し、その方法は、ガン患者由来の試料中のMMP-15(MT2−MMP)を評価することを含み、ここで、MMP−15のレベルまたは活性の上昇は、その患者がp95 HER2および/もしくはシェディングされたHER2血清レベルの上昇を有し、かつ/または将来的に臨床的転帰不良を有することを指し示す。好ましくは、この方法ではMMP−15(タンパク質または核酸)レベルが評価され、予後不良を有するか、または将来的に臨床的転帰不良を有する患者を同定するために使用される。場合により患者のガンは、HERの発現、増幅、または活性化を、最も好ましくはHER2の過剰発現または増幅をさらに示す。
【0029】
好ましい態様の詳細な説明
I.定義
本明細書における用語「マトリックスメタロプロテアーゼ」または「MMP」は、活性に関してZnまたはCaに依存するマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)スーパーファミリーのメンバーであるタンパク質を指す。本明細書におけるMMPには、プレプロタンパク質、成熟タンパク質、およびその変異体形態が挙げられる。種々のドメインを有するMMPの例については本明細書の図20も参照されたい。MMPは、Wagenaar-Millerら、Cancer and Metastasis Reviews 23: 119-135 (2004)に総説されている。
【0030】
本明細書における「膜に繋ぎ止められたMMP」または「MT−MMP」は、上に定義されたMMPであり、そのMMPは、膜貫通(TM)ドメインまたはグリコホスファチジルイノシトール(GPI)アンカーのいずれかを介して細胞膜に付着することができる。本明細書において膜貫通ドメインによりアンカーされたMT−MMPには、MT1− MMP(MMP−14)、MT2−MMP(MMP−15)、MT3−MMP(MMP−16)、MT5−MMP(MMP−24)が挙げられる。GPIアンカーによりアンカーされたMT−MMPの例には、MT4−MMP(MMP−17)およびMT6−MMP(MMP−25)が挙げられる。MMP−15は本明細書において好ましいMT−MMPである。
【0031】
「MT2−MMP」および「MMP−15」は本明細書において同義語であり、NCBIデータベースのプレプロタンパク質NP_002415、そのアミノ酸132〜699を含む成熟タンパク質、およびその変異体形態を表す。MMP−15についての公知の基質には、コラーゲン、フィブロネクチン、CD44、および補体が挙げられる。MMP−15は一部のガンではアップレギュレーションされ、このプロテアーゼの過剰発現は、腫瘍の浸潤および腫瘍細胞の成長を高める。
【0032】
「MMPアンタゴニスト」は、少なくとも一つのMMPに結合し、かつ/またはそのタンパク質分解活性をある程度妨害する薬剤である。好ましくは、MMPアンタゴニストはMMPに選択的に結合するか、またはそれを選択的に阻害するが、ADAM(a disintegrin and metalloprotease)ファミリーのプロテアーゼなどの他のプロテアーゼに有意には結合せず、それを阻害もしない。本明細書におけるMMPアンタゴニストの例には、MMP、小分子阻害剤、MMPの基質を模倣する偽ペプチド(pseudopeptide)、MMPの触媒性亜鉛と結合する非ペプチド分子、単離された天然組織MMP阻害剤(TIMP)、RNAなどの核酸阻害剤、またはアンチセンス阻害剤などが挙げられる。
【0033】
「MT−MMPアンタゴニスト」は、少なくとも一つのMT−MMPに結合し、かつ/またはそのタンパク質分解活性をある程度妨害する薬剤である。好ましくは、MT−MMPアンタゴニストは、MT−MMPに選択的に結合するか、またはそれを選択的に阻害するが、(膜に繋ぎ止められていない他のMMPを含む)他のプロテアーゼに有意には結合せず、それを阻害もしない。MT−MMPアンタゴニストの例には、MT−MMPに結合する抗体、小分子阻害剤、MT−MMPの基質を模倣する偽ペプチド、MT−MMPの触媒性亜鉛と結合する非ペプチド分子、単離された天然組織MT−MMP阻害剤、RNAなどのMT−MMPの核酸阻害剤、またはアンチセンス阻害剤などが挙げられる。
【0034】
「MMP−15アンタゴニスト」は、MMP−15に結合し、かつ/またはそのタンパク質分解活性をある程度妨害する薬剤である。好ましくは、MMP−15アンタゴニストは、MMP−15に選択的に結合するか、またはそれを選択的に阻害するが、(MMP−15以外のMMPを含む)他のプロテアーゼに有意には結合せず、それを阻害もしない。MMP−15アンタゴニストの例には、MMP−15に結合する抗体、小分子阻害剤、MMP−15の基質を模倣する偽ペプチド、MMP−15の触媒性亜鉛と結合する非ペプチド分子、単離された天然組織MMP−15阻害剤、RNAなどのMMP−15の核酸阻害剤、またはアンチセンス阻害剤などが挙げられる。
【0035】
「MMPレベルの上昇」によって、MMPの正常量を超える、例えば同じ組織型の正常試料または非腫瘍性試料中の量を超える、腫瘍試料などの生体試料中のMMPの量を意味する。このようなMMP(例えばMMP−15)の「正常量」には、無含量または検出不能量のMMP−15が含まれる。MMPタンパク質またはMMP核酸を測定する方法を含めて、MMPレベルの上昇を多様な方法で決定することができる。
【0036】
「レセプターHER」は、レセプターHERファミリーに属するレセプタータンパク質チロシンキナーゼであり、レセプターEGFR、HER2、HER3、およびHER4を含む。レセプターHERには、ネイティブな配列のレセプターHERおよびその変異体が含まれる。好ましくは、レセプターHERはネイティブな配列のヒトレセプターHERである。
【0037】
「完全長」レセプターHERは、HERリガンドと結合でき、かつ/または別のレセプターHER分子と二量体化できる細胞外ドメイン;親油性膜貫通ドメイン;細胞内チロシンキナーゼドメイン;およびリン酸化されうるいくつかのチロシン残基を有するカルボキシル末端シグナル伝達ドメインを含む。
【0038】
用語「ErbB1」、「HER1」、「上皮成長因子レセプター」、および「EGFR」は本明細書において相互交換可能に使用され、例えばCarpenterら、Ann. Rev. Biochem. 56:881-914 (1987)に開示されたEGFRを、その変異体形態(例えば、Humphrey et al. PNAS (USA) 87:4207-4211 (1990)にあるような欠失突然変異EGFR)を含めて指す。
【0039】
表現「ErbB2」および「HER2」は本明細書において相互交換可能に使用され、例えばSembaら、PNAS (USA) 82:6497-6501 (1985)およびYamamotoら、Nature 319:230-234 (1986)に記載されたヒトHER2タンパク質(Genebankアクセッション番号X03363)、ならびに選択的スプライシングされた形態などのその変異体形態(Siegel et al. EMBO J. 18(8):2149-2164 (1999))を指す。
【0040】
本明細書において、「HER2細胞外ドメイン」または「HER2 ECD」は、細胞膜にアンカーされているか、または循環しているかのいずれかであるHER2の細胞外側のドメインを、そのフラグメントを含めて指す。一態様では、HER2の細胞外ドメインは、四つのドメイン、すなわち「ドメインI」(アミノ酸残基約1〜195;配列番号1)、「ドメインII](アミノ酸残基約196〜319;配列番号2)、「ドメインIII」(アミノ酸残基約320〜488;配列番号3)、および「ドメインIV」(アミノ酸残基約489〜630;配列番号4)(シグナルペプチドを除いて残基に付番)を含みうる。Garrettら、Mol. Cell. 11:495-505 (2003)、Choら、Nature 42l:756-760 (2003)、Franklinら、Cancer Cell 5:317-328 (2004)、およびPlowmanら、Proc. Natl. Acad. Sci. 90:1746-1750 (1993)、ならびに本明細書の図1を参照されたい。
【0041】
本明細書において、「HER2のシェディング」は、HER2を発現している細胞の細胞表面からHER2の可溶性細胞外ドメイン(ECD)フラグメントが放出されることを指す。当該シェディングは、細胞表面からのECDフラグメントの放出を生じる、細胞表面HER2のタンパク質分解性切断によって引き起こされることもあるし、また可溶性ECDもしくはそのフラグメントが選択的な転写物によりコードされていることもある。
【0042】
「シェディングされたHER2の血清レベル」により、哺乳動物の血清または循環中に存在するHER2 ECDの量を意味する。Aliら、Clin. Chem. 48:1314-1320 (2002);Molinaら、Clin. Cancer Res. 8:347-353 (2002);1990年6月12日に発行された米国特許4,933,294号;1991年4月18日に公開されたWO91/05264;1995年3月28日に発行された米国特許第5,401,638号;またはSiasら、J. Immunol. Methods 132:73-80 (1990)に記載された技法を含む様々な技法により、そのようなレベルを評価することができる。
【0043】
本明細書において、「シェディングされたHER2の血清レベル上昇」は、正常な哺乳動物(例えばヒト)の血清中に存在する量を超えた、哺乳動物(例えばヒト)の血清中のシェディングされたHER2またはHER2 ECDの量を指す。HER2 ECDの血清レベル上昇は、進行乳ガンを有する患者における予後不良ならびに内分泌療法および化学療法に対する応答減少と相関しうる。
【0044】
本明細書における表現「p95 HER2」は、NH2末端が切り詰められたHER2タンパク質を指す。一般に、p95はプロテアーゼまたはシェダーゼによる完全長HER2の切断から生じうる膜結合型のstubフラグメントである(Yuan et al. Protein Expression and Purification 29: 217-222 (2003))。p95は約95000のMrを有することがあり、リン酸化されていることがある(Molina et al. Cancer Research 4744-4749 (2001))。p95は一部の乳ガン試料で見出された(Christianson et al. Cancer Res. 15:5123-5129 (1998))。
【0045】
「p95レベルの上昇」により、正常レベル、例えばガン細胞と同じ組織型の正常細胞または非ガン細胞におけるレベルを超える、ガン細胞におけるp95レベルを意味する。当該p95レベルの上昇の結果として、構成性シグナル伝達およびリンパ節転移が生じうる(Molina et al. Clin. Cancer Research 8:347-353 (2002);Christianson et al. Cancer Res. 15:5123-5129 (1998))。
【0046】
MMP−15などのマーカーを「評価する」ことにより、そのマーカーの存在もしくは不在の分析、その量の測定、および/またはその活性(例えば活性増加)の分析を含めたその診断分析および/または予後分析を意味する。
【0047】
「臨床的転帰不良」を有するガン患者は、化学療法またはトラスツズマブなどのHER2抗体を用いた療法などのガン療法にあまり応答しそうにない、予後不良を有する患者である。臨床的転帰は、無病生存率などを含めた生存率などの標準的な手段により測定することができる。
【0048】
「ErbB3」および「HER3」は、例えば米国特許第5,183,884号および第5,480,968号、ならびにKrausら、PNAS (USA) 86:9193-9197 (1989)に開示されたレセプターポリペプチドを、その変異体形態を含めて指す。
【0049】
本明細書における用語「ErbB4」および「HER4」は、例えば欧州特許出願第599,274号;Plowmanら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90:1746-1750 (1993);およびPlowmanら、Nature, 366:473-475 (1993)に開示されたレセプターポリペプチドを、1999年4月22日に公開されたWO99/19488に開示されたアイソフォームなどのその変異体形態を含めて指す。
【0050】
「HERリガンド」により、レセプターHERに結合し、かつ/またはそれを活性化するポリペプチドを意味する。本明細書において特に関心対象であるHERリガンドは、上皮成長因子(EGF)(Savage et al., J. Biol. Chem. 247: 7612-7621 (1972));トランスフォーミング成長因子アルファ(TGF−α)(Marquardt et al., Science 223:1079-1082 (1984));神経鞘腫またはケラチン細胞の自己分泌成長因子としても公知であるアンフィレグリン(Shoyab et al. Science 243: 1074-1076 (1989);Kimura et al. Nature 348:257-260 (1990);およびCook et al. Mol. Cell. Biol. 11: 2547-2557 (1991));ベータセルリン(Shing et al., Science 259: 1604-1607 (1993);およびSasada et al. Biochem. Biophys. Res. Commun. 190: 1173 (1993));ヘパリン結合性上皮成長因子(HB−EGF)(Higashiyama et al., Science 251: 936-939 (1991));エピレグリン(Toyoda et al., J. Biol. Chem. 270: 7495-7500 (1995);およびKomurasaki et al. Oncogene 15: 2841-2848 (1997));ヘレグリン(下記参照);ニューレグリン−2(NRG−2)(Carraway et al., Nature 387: 512-516 (1997));ニューレグリン−3(NRG−3)(Zhang et al., Proc. Natl. Acad. Sci. 94: 9562-9567 (1997));ニューレグリン−4(NRG−4)(Harari et al. Oncogene 18: 2681-89 (1999));およびクリプト(cripto)(CR−1)(Kannan et al. J. Biol. Chem. 272(6):3330-3335 (1997))などのネイティブな配列のヒトHERリガンドである。EGFRと結合するHERリガンドには、EGF、TGF−α、アンフィレグリン、ベータセルリン、HB−EGF、およびエピレグリンがある。HER3と結合するHERリガンドには、ヘレグリンがある。HER4と結合することができるHERリガンドには、ベータセルリン、エピレグリン、HB−EGF、NRG−2、NRG−3、NRG−4、およびヘレグリンがある。
【0051】
本明細書に使用される場合、「ヘレグリン」(HRG)は、米国特許第5,641,869号またはMarchionni et al., Nature, 362: 312-318 (1993)に開示されたようなヘレグリン遺伝子産物にコードされているポリペプチドを指す。ヘレグリンの例には、ヘレグリン−α、ヘレグリン−β1、ヘレグリン−β2、およびヘレグリン−β3(Holmes et al., Science, 256: 1205-1210 (1992);および米国特許第5,641,869号);neu分化因子(NDF)(Peles et al. Cell 69: 205-216 (1992));アセチルコリンレセプター誘導活性(ARIA)(Falls et al. Cell 72: 801-815 (1993));グリア細胞成長因子(GGF)(Marchionni et al., Nature, 362: 312-318 (1993));感覚および運動神経駆動因子(SMDF)(Ho et al. J. Biol. Chem. 270: 14523-14532 (1995));γ−ヘレグリン(Schaefer et al. Oncogene 15:1385-1394 (1997))がある。
【0052】
本明細書における「HER二量体」は、少なくとも二つのレセプターHERを含む非共有的に会合した二量体である。このような複合体は、二つ以上のレセプターHERを発現している細胞がHERリガンドに曝露されたときに形成することがあり、この複合体を免疫沈降により単離して、例えばSliwkowski et al., J. Biol. Chem., 269(20): 14661-14665 (1994)に記載されているようなSDS−PAGEにより分析することができる。当該HER二量体の例には、EGFR−HER2、HER2−HER3、およびHER3−HER4ヘテロ二量体がある。さらに、HER二量体は、HER3、HER4、またはEGFRなどの異なるレセプターHERと組合せられた二つ以上のレセプターHER2を含みうる。サイトカインレセプターサブユニット(例えばgp130)などのその他のタンパク質がその二量体と会合していることがある。
【0053】
「HERの発現、増幅、または活性化を示す」細胞、ガン、または生体試料は、診断検査において(過剰発現を含めて)HERを発現し、増幅されたHER遺伝子を含み、かつ/またはその他の方法でレセプターHERの活性化もしくはリン酸化を示すものである。そのような活性化を、(例えばHERのリン酸化を測定することによって)直接または(遺伝子発現プロファイリングもしくはHERのヘテロ二量体化を検出することによって)間接的に決定することができる。
【0054】
「レセプターHER2の過剰発現または増幅を有する」ガンまたは腫瘍細胞は、同じ組織型の非ガン細胞に比べて有意に高いレベルのHER2タンパク質または遺伝子を有するものである。そのような過剰発現は、遺伝子増幅により、または転写もしくは翻訳の増加により引き起こされうる。HER2の過剰発現または増幅は、診断アッセイまたは予後アッセイで(例えば免疫組織化学アッセイ(IHC)により)細胞表面に存在するHER2タンパク質のレベル増加を評価することにより決定することができる。または、もしくは追加的に、例えば蛍光in situハイブリダイゼーション法(FISH;1998年10月に公開されたWO98/45479を参照されたい)、サザンブロット法、または定量リアルタイムPCR(qRT−PCR)などのポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法により細胞中のHER2核酸レベルを測定することができる。血清などの生体液中のシェディングされたHER2を測定することにより、HER2の過剰発現または増幅を研究することもできる(例えば1990年6月12日に発行された米国特許第No.4,933,294号;1991年4月18日に公開されたWO91/05264;1995年3月28日に発行された米国特許第5,401,638号;およびSias et al. J. Immunol. Methods 132:73-80 (1990)を参照されたい)。上記アッセイ以外に、様々なin vivoアッセイが当業者に利用できる。例えば、検出可能なラベル、例えば放射性同位体で場合によりラベルされた抗体に、患者の体内の細胞を曝露することができ、例えば放射能を外部スキャンすることにより、またはその抗体に予め曝露された患者から採取した生検を分析することにより、その患者における細胞に対する抗体の結合を評価することができる。
【0055】
逆に言えば、「レセプターHERを過剰発現も増幅もしない」ガン細胞または腫瘍細胞は、同じ組織型の非ガン細胞に比べて、正常よりも高いレベルのレセプターHERのタンパク質も遺伝子も有さないものである。パーツズマブなどのHER二量体化を阻害する抗体を使用して、レセプターHER2を過剰発現も増幅もしないガンを処置することができる。
【0056】
「HER阻害剤」は、HERの活性化または機能を妨害する薬剤である。HER阻害剤の例には、HER抗体(例えばEGFR抗体、HER2抗体、HER3抗体、またはHER4抗体);HER二量体化阻害剤;EGFRターゲット薬;小分子性HERアンタゴニスト;HERチロシンキナーゼ阻害剤;ラパチニブ/GW572016などのHER2およびEGFRの二重チロシンキナーゼ阻害剤;アンチセンス分子(例えば、WO2004/87207参照);ならびに/またはMAPKもしくはAktなどの下流のシグナル伝達分子に結合するか、もしくはその機能を妨害する薬剤が挙げられる。好ましくは、HER阻害剤はレセプターHERに結合する抗体または小分子である。HER阻害剤の特定の例には、トラスツズマブ、パーツズマブ、セツキシマブ、ABX−EGF、EMD7200、ゲフィチニブ、エルロチニブ、CP724714、CI1033、GW572016、IMC−11F8、およびTAK165が挙げられる。
【0057】
「HER二量体化阻害剤」は、HER二量体の形成を阻害する薬剤である。好ましくは、HER二量体化阻害剤は抗体、例えばHER2のヘテロ二量体結合部位でHER2に結合する抗体である。本明細書における最も好ましい二量体化阻害剤は、パーツズマブまたはモノクローナル抗体2C4(MAb 2C4)である。HER二量体化阻害剤の他の例には、EGFRに結合して、EGFRと一つまたは複数の他のレセプターHERとの二量体化を阻害する抗体(例えば、活性化EGFRまたは「繋ぎ止められていない」EGFRに結合するEGFRモノクローナル抗体806(MAb806);Johns et al., J. Biol. Chem. 279(29):30375-30384 (2004)参照);HER3に結合して、HER3と一つまたは複数の他のレセプターHERとの二量体化を阻害する抗体;HER4に結合して、HER4と一つまたは複数の他のレセプターHERとの二量体化を阻害する抗体;ペプチド二量体化阻害剤(米国特許第6,417,168号);アンチセンス二量体化阻害剤などが挙げられる。
【0058】
「HER抗体」は、レセプターHERに結合する抗体である。場合により、HER抗体はHERの活性化または機能をさらに妨害する。好ましくは、HER抗体はレセプターHER2に結合する。本明細書において特に関心対象であるHER2抗体は、トラスツズマブおよびパーツズマブである。EGFR抗体の例にはセツキシマブ、ABX0303、EMD7200、およびIMC−11F5が挙げられる。
【0059】
「HER活性化」は、任意の一つまたは複数のレセプターHERの活性化またはリン酸化を指す。一般に、HER活性化の結果として(例えばレセプターHERまたは基質ポリペプチドにおけるチロシン残基をリン酸化する、レセプターHERの細胞内キナーゼドメインにより引き起こされる)シグナル伝達を生じる。HERの活性化は、対象となるレセプターHERを含むHER二量体へのHERリガンドの結合により仲介されうる。HER二量体にHERリガンドが結合することにより、その二量体中の一つまたは複数のレセプターHERのキナーゼドメインを活性化することができ、その結果として、一つまたは複数のレセプターHER中のチロシン残基のリン酸化および/またはAktもしくはMAPK細胞内キナーゼなどの追加の基質ポリペプチドのチロシン残基のリン酸化が生じる。
【0060】
「リン酸化」は、レセプターHERまたはその基質などのタンパク質に対する一つまたは複数のリン酸基の付加を指す。
【0061】
「HERの二量体化」を阻害する抗体は、HER二量体の形成を阻害するか、または妨害する抗体である。好ましくは、そのような抗体はHER2のヘテロ二量体結合部位でHER2に結合する。本明細書における最も好ましい二量体化阻害抗体はパーツズマブまたはMAb 2C4である。HERの二量体化を阻害する抗体の他の例には、EGFRに結合して、EGFRと一つまたは複数の他のレセプターHERとの二量体化を阻害する抗体(例えば活性化EGFRまたは「繋ぎ止められていない」EGFRに結合するEGFRモノクローナル抗体806(MAb 806);Johns et al., J. Biol. Chem. 279(29):30375-30384 (2004)参照);HER3に結合して、HER3と一つまたは複数の他のレセプターHERとの二量体化を阻害する抗体;およびHER4に結合して、HER4と一つまたは複数の他のレセプターHERとの二量体化を阻害する抗体が挙げられる。
【0062】
HER2上の「ヘテロ二量体結合部位」は、EGFR、HER3、またはHER4と二量体を形成するときにその細胞外ドメイン中の領域と接触するか、またはその領域を妨害する、HER2の細胞外ドメイン中の領域を指す。この領域はHER2のドメインIIに見出される。Franklinら、Cancer Cell 5:317-328 (2004)。
【0063】
HER2抗体は、トラスツズマブのように「HER2のエクトドメインの切断を阻害する」抗体(Molina et al. Cancer Res. 61:4744-4749(2001))のことがあるし、またパーツズマブのようにHER2のエクトドメインの切断を有意には阻害しない抗体のことがある。
【0064】
HER2の「ヘテロ二量体結合部位に結合する」HER2抗体は、ドメインIIの残基に結合し、(場合によりドメインIおよびIIIなどのHER2細胞外ドメインの他のドメインの残基にも結合し、)HER2−EGFR、HER2−HER3、またはHER2−HER4ヘテロ二量体の形成に少なくともある程度立体障害を与えることができる。Franklinら、Cancer Cell 5:317-328 (2004)は、HER2のヘテロ二量体結合部位に結合する例示的な抗体を例証している、RCSB Protein Data Bank(IDコードIS78)に寄託されたHER2−パーツズマブの結晶構造を特徴付けている。
【0065】
HER2の「ドメインIIに結合する」抗体は、HER2のドメインIIの残基と、場合によりドメインIおよびIIIなどの他のドメイン残基とに結合する。好ましくは、ドメインIIに結合する抗体は、HER2のドメインI、II、およびIIIの間の接合部に結合する。
【0066】
「ネイティブな配列の」ポリペプチドは、天然由来のポリペプチド(例えばレセプターHERまたはHERリガンド)と同じアミノ酸配列を有するポリペプチドである。当該ネイティブな配列のポリペプチドを天然から単離でき、また、リコンビナント手段もしくは合成手段により産生させることができる。このように、ネイティブな配列のポリペプチドは、天然ヒトポリペプチド、マウスポリペプチド、または任意のその他の哺乳動物種由来のポリペプチドのアミノ酸配列を有しうる。
【0067】
本明細書における用語「抗体」は、最も広い意味で使用され、具体的には、所望の生物学的活性を示す限りはインタクトなモノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、少なくとも二つのインタクトな抗体から形成された多重特異性抗体(例えば二重特異性抗体)、および抗体フラグメントにわたる。
【0068】
本明細書に使用される用語「モノクローナル抗体」は、実質的に均一な抗体の集団から得られた抗体を指し、すなわち、モノクローナル抗体の産生時に生じる可能性のある変異体を除いて、その集団を構成する個別の抗体は同一であり、かつ/または同じエピトープと結合する。当該変異体は一般的に少量存在する。当該モノクローナル抗体には、典型的にはターゲットと結合するポリペプチド配列を含む抗体が含まれ、ここで、そのターゲットと結合するポリペプチドの配列は、複数のポリペプチド配列からの単一のターゲットと結合するポリペプチド配列を選択することを含む工程により得られたものである。例えば、その選択工程は、ハイブリドーマクローン、ファージクローン、またはリコンビナントDNAクローンのプールなどの複数のクローンから独特なクローンを選択することでありうる。選択されたターゲット結合配列をさらに変更して、例えばターゲットに対する親和性を改善し、ターゲット結合配列をヒト化し、細胞培養でのその産生を改善し、それのin vivo免疫原性を低減し、多特異性抗体を生み出すことなどができること、およびその変更されたターゲット結合配列を含む抗体は本発明のモノクローナル抗体でもあることを了解すべきである。異なる決定基(エピトープ)に対する異なる抗体を典型的には含むポリクローナル抗体調製物とは対照的に、モノクローナル抗体調製物の各モノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定基に対するものである。その特異性に加えて、モノクローナル抗体調製物は、典型的には他の免疫グロブリンが混入していない点で有利である。修飾語「モノクローナル」は、実質的に均一な抗体集団から得られるというその抗体の性質を表すものであり、任意の特定の方法による抗体の産生を必要とすると解釈してはならない。例えば、本発明により使用されるモノクローナル抗体は、例えばハイブリドーマ法(例えばKohler et al., Nature, 256:495 (1975);Harlow et al., Antibodies: A Laboratory Manual, (Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2nd ed. 1988);Hammerling et al., in: Monoclonal Antibodies and T-CeIl Hybridomas 563-681, (Elsevier, N. Y., 1981))、リコンビナントDNA法(例えば米国特許第4,816,567号参照)、ファージディスプレイ技法(例えばClackson et al., Nature, 352:624-628 (1991); Marks et al., J. Mol. Biol, 222:581-597 (1991);Sidhu et al., J. Mol. Biol. 338(2):299-310 (2004); Lee et al., J. Mol. Biol.340(5):1073-1093 (2004);Fellouse, Proc. Nat. Acad. Sci. USA 101(34):12467-12472 (2004);およびLee et al. J. Immunol. Methods 284(1-2):119-132 (2004)参照)、およびヒト免疫グロブリンローカスまたはヒト免疫グロブリン配列をコードしている遺伝子の部分または全部を有する動物においてヒト抗体またはヒト様抗体を産生させるための技法(例えばWO1998/24893;WO1996/34096;WO1996/33735;WO1991/10741;Jakobovits et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90:2551 (1993);Jakobovits et al, Nature, 362:255-258 (1993);Bruggemann et al., Year in Immuno., 7:33 (1993);米国特許第5,545,806号;第5,569,825号;第5,591,669号(全てGenPharmの特許);米国特許第5,545,807号;WO1997/17852;米国特許第5,545,807号;第5,545,806号;第5,569,825号;第5,625,126号;第5,633,425号;および第5,661,016号;Marks et al., Bio/Technology, 10:779-783 (1992);Lonberg et al, Nature, 368:856-859 (1994);Morrison, Nature, 368:812-813 (1994);Fishwild et al., Nature Biotechnology, 14:845-851 (1996);Neuberger, Nature Biotechnology, 14:826 (1996);およびLonberg and Huszar, Intern. Rev. Immunol., 13:65-93 (1995))を含めた多様な技法により作成することができる。
【0069】
本明細書におけるモノクローナル抗体には、その抗体が所望の生物学的活性を示す限り、重鎖および/または軽鎖の部分が、特定の種由来の抗体または特定の抗体クラスもしくはサブクラスに属する抗体の対応する配列と同一または相同であるが、その鎖の残りが、別の種由来の抗体または別の抗体クラスもしくはサブクラスに属する抗体の対応する配列と同一または相同である「キメラ」抗体、ならびに当該抗体のフラグメントが具体的に含まれる(米国特許第4,816,567号;およびMorrison et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 81: 6851-6855 (1984))。本明細書において関心対象のキメラ抗体には、非ヒト霊長類(例えば旧世界ザル、類人猿など)由来の可変ドメイン抗原結合配列およびヒト定常部配列を含む「霊長類化(primatized)」抗体がある。
【0070】
「抗体フラグメント」は、インタクトな抗体の部分を含み、その部分は好ましくはその抗原結合部を含む。抗体フラグメントの例には、Fab、Fab’、F(ab’)2、およびFvフラグメント;二特異性抗体(diabody);線状抗体(linear antibody);一本鎖抗体分子;ならびに抗体フラグメントから形成される多重特異性抗体がある。
【0071】
本明細書における「インタクトな抗体」は、二つの抗原結合領域とFc部とを含む抗体である。好ましくは、インタクトな抗体は一つまたは複数のエフェクター機能を有する。
【0072】
インタクトな抗体の重鎖定常ドメインのアミノ酸配列に応じて、それらの抗体を異なる「クラス」に割り当てることができる。インタクトな抗体には五つの主クラス、すなわちIgA、IgD、IgE、IgG、およびIgMがあり、これらのいくつかをさらに「サブクラス」(アイソタイプ)、例えばIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA、およびIgA2に分けることができる。異なるクラスの抗体に対応する重鎖定常ドメインは、それぞれα、δ、ε、γ、およびμと呼ばれる。異なるクラスの免疫グロブリンのサブユニット構造および三次元立体配置は周知である。
【0073】
抗体の「エフェクター機能」は、抗体のFc部(ネイティブな配列のFc部またはアミノ酸配列変異体のFc部)に起因しうる生物学的活性を指す。抗体のエフェクター機能の例には、C1qとの結合;補体依存性細胞傷害作用;Fcレセプターとの結合;抗体依存性細胞性細胞傷害作用(ADCC);食作用;細胞表面レセプターのダウンレギュレーション(例えばB細胞レセプター;BCR)などがある。
【0074】
「抗体依存性細胞性細胞傷害作用」および「ADCC」は、Fcレセプター(FcR)を発現する非特異的細胞傷害性細胞(例えばナチュラルキラー(NK)細胞、好中球、およびマクロファージ)がターゲット細胞上に結合した抗体を認識して、その後にターゲット細胞の溶解を起こす細胞介在性反応を指す。ADCCを仲介するための一次細胞であるNK細胞はFcγRIIIのみを発現するが、単球はFcγRI、FcγRII、およびFcγRIIIを発現する。造血細胞上のFcRの発現を要約したものは、Ravetch and Kinet, Annu. Rev. Immunol 9: 457-92 (1991)の464頁の表3である。関心対象の分子のADCC活性を評定するために、米国特許第5,500,362号または第5,821,337号に記載されているようなin vitro ADCCアッセイを行うことができる。当該アッセイに有用なエフェクター細胞には、末梢血単核細胞(PBMC)およびナチュラルキラー(NK)細胞がある。または、もしくは追加的に、関心対象の分子のADCC活性を、例えばClynes et al. PNAS (USA) 95:652-656 (1998)に開示されたような動物モデルでin vivo評定することができる。
【0075】
「ヒトエフェクター細胞」は、一つまたは複数のFcRを発現してエフェクター機能を果たす白血球である。好ましくは、これらの細胞は少なくともFcγRIIIを発現してADCCエフェクター機能を果たす。ADCCを仲介するヒト白血球の例には、末梢血単核細胞(PBMC)、ナチュラルキラー(NK)細胞、単球、細胞傷害性T細胞、および好中球があり、PBMCおよびNK細胞が好ましい。エフェクター細胞は、そのネイティブな起源から、例えば本明細書に記載されたように血液またはPBMCから単離することができる。
【0076】
用語「Fcレセプター」または「FcR」は、抗体のFc部に結合するレセプターを記述するために使用される。好ましいFcRはネイティブな配列のヒトFcRである。さらに、好ましいFcRは、IgG抗体と結合するもの(ガンマレセプター)であり、好ましいFcRには、FcγRI、FcγRII、およびFcγRIIIサブクラスのレセプターが、これらのレセプターのアレル変異体および選択的スプライシングされた形態を含めて挙げられる。FcγRIIレセプターには、FcγRIIA(「活性化レセプター」)およびFcγRIIB(「阻害レセプター」)があり、それらは、細胞質ドメインが主に異なる類似したアミノ酸配列を有する。活性化レセプターFcγRIIAは、その細胞質ドメインにITAM(immunoreceptor tyrosine-based activation motif)を有する。阻害レセプターFcγRIIBは、その細胞質ドメインにITIM(immunoreceptor tyrosine-based inhibition motif)を有する(Daeron, Annu. Rev. Immunol. 15: 203-234 (1997)の総説Mを参照されたい)。FcRは、Ravetch and Kinet, Annu. Rev. Immunol 9: 457-92 (1991);Capel et al., Immunomethods 4: 25-34 (1994);およびde Haas et al., J. Lab. Clin. Med. 126:330-41 (1995)に総説されている。将来同定されるものを含めたその他のFcRは、本明細書において用語「FcR」によって包含される。この用語は、胎児への母体IgGの輸送を担う新生児レセプターFcRnも含む(Guyer et al., J. Immunol. 117: 587 (1976)およびKim et al., J. Immunol. 24: 249 (1994))。
【0077】
「補体依存性細胞傷害作用」または「CDC」は、分子が補体の存在下でターゲットを溶解する能力を指す。補体活性化経路は、コグネイト抗原と複合体を形成した分子(例えば抗体)への補体系の第1成分(C1q)の結合により開始する。補体活性化を評定するために、例えば、Gazzano-Santoro et al., J. Immunol. Methods 202: 163 (1996)に記載されているようなCDCアッセイを行うことができる。
【0078】
「ネイティブな抗体」は、通常は2本の同一の軽(L)鎖および2本の同一の重(H)鎖から構成される約150000ダルトンのヘテロ四量体糖タンパク質である。各軽鎖は、一つの共有ジスルフィド結合により重鎖に結合する一方で、ジスルフィド結合の数は異なる免疫グロブリンアイソタイプの重鎖の間で多様である。各重鎖および軽鎖は、規則的に間隔のあいた鎖内ジスルフィド架橋も有する。各重鎖は、一方の末端に可変ドメイン(VH)を有し、続いていくつかの定常ドメインを有する。各軽鎖は、一方の末端に可変ドメイン(VL)と、そのもう一方の末端に定常ドメインとを有する。軽鎖の定常ドメインは、重鎖の第一定常ドメインと整列し、軽鎖可変ドメインは、重鎖可変ドメインと整列している。特定のアミノ酸残基は、軽鎖可変ドメインと重鎖可変ドメインとの間の界面を形成すると考えられる。
【0079】
用語「可変」は、可変ドメインのある部分が、抗体間で広範囲に配列が異なり、それぞれ特定の抗体の、その特定の抗原に対する結合および特異性に使用されるという事実を指す。しかし、可変性は、抗体の可変ドメイン全体にわたり均等に分布しているわけではない。可変性は、軽鎖および重鎖両方の可変ドメインにおける超可変部と呼ばれる三つのセグメントに集中している。可変ドメインのより高度に保存された部分は、フレームワーク部(FR)と呼ばれる。ネイティブな重鎖および軽鎖の可変ドメインそれぞれは、四つのFRを含み、それらのFRは大部分がβシート立体配置を採り、三つの超可変部により連結され、これらの超可変部は、βシート構造を連結するループを形成して、場合によりこのβシート構造の一部を形成する。各鎖中の超可変部は、FRによって一緒に近接して保持されて、もう一方の鎖由来の超可変部と共に、抗体の抗原結合部位の形成に寄与する(Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD. (1991)を参照されたい)。定常ドメインは、抗原に抗体を結合させることに直接には関与していないが、抗体依存性細胞性細胞傷害作用(ADCC)への抗体の関与などの様々なエフェクター機能を示す。
【0080】
本明細書に使用される場合、用語「超可変部」は、抗原との結合を担う抗体のアミノ酸残基を指す。超可変部は、一般的に「相補性決定部」すなわち「CDR」由来のアミノ酸残基(例えば、軽鎖可変ドメイン中の残基24〜34(L1)、残基50〜56(L2)、および残基89〜97(L3)、ならびに重鎖可変ドメイン中の残基31〜35(H1)、残基50〜65(H2)、および残基95〜102(H3);Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD. (1991))ならびに/または「超可変ループ」由来の残基(例えば、軽鎖可変ドメイン中の残基26〜32(L1)、50〜52(L2)、および残基91〜96(L3)、ならびに重鎖可変ドメイン中の残基26〜32(H1)、残基53〜55(H2)および残基96〜101(H3);Chothia and Lesk J. Mol. Biol. 196: 901-917 (1987))を含む。「フレームワーク部」または「FR」残基は、本明細書において定義されるような超可変部残基以外の可変ドメインの残基である。
【0081】
抗体のパパイン消化は、「Fab」フラグメントと呼ばれる、それぞれ単一の抗原結合部位を有する2本の同一の抗原結合フラグメントと、名前が容易に結晶化できる能力を反映している残りの1「Fc」フラグメントとを産生する。ペプシン処理は、二つの抗原結合部位を有するF(ab’)2フラグメントを生じ、このフラグメントは、依然として抗原と架橋できる。
【0082】
「Fv」は、完全な抗原認識抗原結合部位を有する、最小限の抗体フラグメントである。この領域は、密接に非共有的に会合した、一つの重鎖可変ドメインと一つの軽鎖可変ドメインとの二量体からなる。各可変ドメインの三つの超可変部が相互作用してVH−VL二量体の表面上に抗原結合部位を規定するのは、この立体配置である。まとめると、六つの超可変部は、抗体に抗原結合特異性を付与する。しかし、単一の可変ドメイン(すなわち抗原に対して特異的な三つの超可変部のみを含む、Fvの半分)でさえも、結合部位全体よりも低い親和性ではあるが、抗原を認識してその抗原と結合する能力を有する。
【0083】
Fabフラグメントもまた、軽鎖の定常ドメインと、重鎖の第1定常ドメイン(CH1)とを有する。Fab’フラグメントは、重鎖CH1ドメインのカルボキシ末端に、抗体のヒンジ部由来の一つまたは複数のシステインを含む数残基が付加していることが、Fabフラグメントと異なる。Fab’−SHは、本明細書において定常ドメインのシステイン残基が少なくとも一つの遊離チオール基を有するFab’についての呼称である。F(ab’)2抗体フラグメントは、間にヒンジシステインを有するFab’フラグメント対として本来産生された。抗体フラグメントのその他の化学的カップリングも公知である。
【0084】
任意の脊椎動物種由来抗体の「軽鎖」は、それらの定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、カッパ(κ)およびラムダ(λ)と呼ばれる二つの明らかに別個の型のうちの一つに割り当てることができる。
【0085】
「一本鎖Fv」抗体フラグメントまたは「scFv」抗体フラグメントは、抗体のVHドメインおよびVLドメインを含み、ここで、これらのドメインは、単一のポリペプチド鎖中に存在する。好ましくは、このFvポリペプチドは、このscFvが抗原結合のための所望の構造を形成することを可能にする、VHドメインとVLドメインとの間のポリペプチドリンカーをさらに含む。scFvの総説については、Pluckthun in The Pharmacology of Monoclonal Antibodies, vol.113, Rosenburg and Moore eds., Springer-Verlag, New York, pp.269-315 (1994)を参照されたい。HER2抗体のscFvフラグメントは、WO93/16185;米国特許第5,571,894号;および米国特許第5,587,458号に記載されている。
【0086】
用語「二特異性抗体」は、二つの抗原結合部位を有する小さな抗体フラグメントを指し、このフラグメントは、同じポリペプチド鎖(VH−VL)中で可変軽鎖ドメイン(VL)に連結した可変重鎖ドメイン(VH)を含む。同じ鎖上のこれら二つのドメイン間で対形成させるには短すぎるリンカーを用いることによって、これらのドメインに別の鎖の相補的ドメインと対形成することを強いて、二つの抗原結合部位を生み出す。二特異性抗体は、例えば、EP404,097;WO93/11161;およびHollinger et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90: 6444-6448 (1993)に、さらに完全に記載されている。
【0087】
「ヒト化」形態の非ヒト(例えば、げっ歯類)抗体は、非ヒト免疫グロブリン由来の最小限の配列を有するキメラ抗体である。ヒト化抗体は、通例レシピエントの超可変部由来の残基が、所望の特異性、親和性、および能力を有するマウス、ラット、ウサギ、または非ヒト霊長類などの非ヒト種(ドナー抗体)の超可変部由来の残基に置換されているヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)である。時には、ヒト免疫グロブリンのフレームワーク部(FR)の残基が、対応する非ヒト残基に置換されている。さらに、ヒト化抗体は、レシピエント抗体中にもドナー抗体中にも見出されない残基を含むことがある。これらの改変は、抗体の性能をさらに精密化するためになされる。一般に、ヒト化抗体は、超可変ループのうちの全てまたは実質的に全てが非ヒト免疫グロブリンの超可変ループに対応し、FRの全てまたは実質的に全てがヒト免疫グロブリン配列のFRである、少なくとも一つ、典型的には二つの可変ドメインの実質的に全てを含むものである。ヒト化抗体は、典型的にはヒト免疫グロブリンの定常部である免疫グロブリン定常部(Fc)の少なくとも一部も場合により含むものである。さらなる詳細については、Jones et al., Nature 321: 522-525 (1986);Riechmann et al., Nature 332: 323-329 (1988);およびPresta, Curr. Op. Struct. Biol. 2: 593-596 (1992)を参照されたい。
【0088】
ヒト化HER2抗体には、参照により本明細書に特に組み入れられる米国特許第5,821,337号の表3に記載されるhuMAb4D5−1、huMAb4D5−2、huMAb4D5−3、huMAb4D5−4、huMAb4D5−5、huMAb4D5−6、huMAb4D5−7、およびhuMAb4D5−8またはトラスツズマブ(HERCEPTIN(登録商標));ヒト化520C9(WO93/21319);ならびに本明細書に記載されるパーツズマブのようなヒト化2C4抗体がある。
【0089】
本明細書の目的で、「トラスツズマブ」、「HERCEPTIN(登録商標)」、および「huMAb4D5−8」は、それぞれ配列番号5および6の軽鎖および重鎖アミノ酸配列を含む抗体を指す。
【0090】
本明細書において、「パーツズマブ」および「OMNITARG(商標)」は、それぞれ配列番号7および8の軽鎖および重鎖アミノ酸配列を含む抗体を指す。
【0091】
「ネイキッドな抗体」は、細胞毒性部分または放射性ラベルなどの異種分子とコンジュゲーションしていない抗体である。
【0092】
「単離された」抗体は、その天然環境の構成要素から同定されて、分離および/または回収された抗体である。その天然環境の混入構成要素は、その抗体についての診断的用途または治療的用途を妨害するであろう物質であり、それらには、酵素、ホルモン、およびその他のタンパク質様または非タンパク質様の溶質が含まれうる。好ましい態様では、抗体は、(1)ローリー法によって決定したときに、抗体の95重量%を超えるまで、最も好ましくは99重量%を超えるまで精製されるか、(2)スピニングカップ(spinning cup)シークエネーターの使用により、少なくとも15残基のN末端アミノ酸配列もしくは内部アミノ酸配列を得るのに十分な程度に精製されるか、または(3)クマシーブルー染色もしくは好ましくは銀染色を用いた、還元条件もしくは非還元条件でのSDS−PAGEによって均一になるまで精製されるであろう。単離された抗体には、リコンビナント細胞内のin situ抗体が含まれる。それは、その抗体の天然環境の少なくとも一つの構成要素が存在しないものであるからである。しかし、通常、単離された抗体は、少なくとも1回の精製段階によって調製されるものである。
【0093】
「親和性成熟した」抗体は、変更を有さない親抗体に比べて、抗原に対する抗体の親和性に改善を生じる一つまたは複数の変更を、その一つまたは複数の超可変部に有する抗体である。好ましい親和性成熟した抗体は、ターゲット抗原に対してナノモル濃度またはピコモル濃度の親和性さえ有するであろう。親和性成熟した抗体は、当技術分野で公知の手順によって産生される。Marksら、Bio/Technology 10: 779-783 (1992)は、VHおよびVLドメインシャッフリングによる親和性成熟を記載している。CDRおよび/またはフレームワーク残基のランダム突然変異誘発は、Barbas et al. Proc Nat. Acad. Sci, USA 91: 3809-3813 (1994);Schier et al. Gene 169: 147-155 (1995);Yelton et al. J. Immunol. 155: 1994-2004 (1995); Jackson et al., J. Immunol. 154(7): 3310-9 (1995);およびHawkins et al, J. Mol. Biol. 226: 889-896 (1992)に記載されている。
【0094】
本明細書における用語「主要種抗体」は、組成物中の量的に優占的な抗体分子である、その組成物中の抗体構造を指す。
【0095】
本明細書における「アミノ酸配列変異体」抗体は、主要種抗体と異なるアミノ酸配列を有する抗体である。通常、アミノ酸配列変異体は、主要種抗体と少なくとも約70%の相同性を有するものであり、好ましくは、主要種抗体と少なくとも約80%、さらに好ましくは少なくとも約90%相同なものである。このアミノ酸配列変異体は、主要種抗体のアミノ酸配列内の、またはそれに隣接したある位置に置換、欠失、および/または付加を有する。
【0096】
本明細書における「グリコシル化変異体」抗体は、それに付着した一つまたは複数の糖質部分を有する抗体であり、その部分は、主要種抗体に付着した一つまたは複数の糖質部分とは異なる。
【0097】
「脱アミド化」抗体は、その抗体の一つまたは複数のアスパラギン残基が、例えばアスパラギン酸、スクシンイミド、またはイソアスパラギン酸に誘導体化された抗体である。
【0098】
用語「ガン」および「ガン性」は、無秩序な細胞成長によって典型的には特徴付けられる、哺乳類における生理的状態を指すか、または記載する。ガンの例には、ガン腫、リンパ腫、芽細胞腫(髄芽腫および網膜芽腫を含む)、肉腫(脂肪肉腫および滑膜細胞肉腫を含む)、神経内分泌腫瘍(カルチノイド腫瘍、ガストリノーマ、および膵島細胞ガンを含む)、中皮腫、神経鞘腫(聴神経腫を含む)、髄膜腫、腺ガン、黒色腫、および白血病またはリンパ系悪性疾患が挙げられるが、それに限定されるわけではない。当該ガンのさらに特別な例には、扁平上皮ガン(例えば上皮扁平上皮ガン);小細胞肺ガン(SCLC)、非小細胞肺ガン(NSCLC)、肺腺ガンおよび肺扁平上皮ガンを含む肺ガン;腹膜ガン;肝細胞ガン;消化管ガンを含む胃ガン;膵臓ガン;神経膠芽腫;子宮頚がん;卵巣ガン;肝ガン;膀胱ガン;ヘパトーマ;乳ガン(転移性乳ガンを含む);結腸ガン;直腸ガン;直腸結腸ガン;子宮内膜ガンまたは子宮ガン;唾液腺ガン;腎ガン;前立腺がん;外陰部ガン;甲状腺ガン;肝ガン;肛門ガン;陰茎ガン;精巣ガン;食道ガン;胆道腫瘍;ならびに頭頚部ガンが挙げられる。
【0099】
「HER阻害剤耐性ガン」を有する哺乳動物は、HER阻害剤性療法を受けている間に進行した哺乳動物(すなわちその患者は「HER阻害剤抗療性」)であるか、またはその哺乳動物は、HER阻害剤性治療方式を完了後12か月以内(例えば6か月以内)に進行している。HER阻害剤性療法には、ネイキッドなHER阻害剤またはコンジュゲーションしたHER阻害剤を用いた治療法が含まれ、ここで、そのHER阻害剤は単剤として、または他の抗腫瘍薬と共に投与される。そのHER阻害剤は、トラスツズマブ、パーツズマブ、セツキシマブ、ABX−EGF、EMD7200、ゲフィチニブ、エルロチニブ、CP724714、CI1033、GW572016、IMC−11F8、またはTAK165でありうるが、好ましくはトラスツズマブである。
【0100】
処置の目的のための「哺乳動物」は、ヒト、家畜、および農用動物と、イヌ、ウマ、ネコ、ウシなどの展示動物、スポーツ用の動物、または愛玩動物とを含めた哺乳動物として分類される任意の動物を指す。好ましくは、哺乳動物はヒトである。
【0101】
本明細書における「腫瘍試料」は、患者の腫瘍由来の試料であるか、またはその腫瘍由来の腫瘍細胞を含む試料である。本明細書における腫瘍試料の例には、腫瘍生検、循環している腫瘍細胞、循環している血漿タンパク質、腹水、腫瘍由来の、または腫瘍様性質を示す初代細胞培養物または細胞系、およびホルマリン固定パラフィン包埋腫瘍試料または凍結腫瘍試料などの保存処理された腫瘍試料があるが、それらに限定されるわけではない。
【0102】
「固定」腫瘍試料は、固定剤を用いて組織学的に保存処理された試料である。
【0103】
「ホルマリン固定」腫瘍試料は、固定剤としてホルムアルデヒドを用いて保存処理された試料である。
【0104】
「包埋」腫瘍試料は、パラフィン、ろう、セロイジン、または樹脂などの堅固で一般的に硬い媒質により囲まれた試料である。包埋は、顕微鏡検査用または組織マイクロアレイ(TMA)作成用の薄切片を切り出すことを可能にする。
【0105】
「パラフィン包埋」腫瘍試料は、石油由来固体炭化水素の精製混合物に囲まれた試料である。
【0106】
本明細書において、「凍結」腫瘍試料は、凍結しているか、または凍結された腫瘍試料を指す。
【0107】
本明細書に使用される場合の「成長阻害剤」は、細胞、特にHER発現ガン細胞の成長をin vitroまたはin vivoのいずれかで阻害する化合物または組成物を指す。このように、成長阻害剤は、S期のHER発現細胞の率を有意に低減する薬剤でありうる。成長阻害剤の例には、G1停止およびM期停止を誘導する薬剤などの、細胞周期の進行を(S期以外の位置で)遮断する薬剤がある。古典的M期遮断薬には、ビンカ(ビンクリスチンおよびビンブラスチン)、タキサン、ならびにドキソルビシン、エピルビシン、ダウノルビシン、エトポシド、およびブレオマイシンなどのトポII阻害剤がある。G1で停止させる薬剤、例えば、タモキシフェン、プレドニゾン、ダカルバジン、メクロレタミン、シスプラチン、メトトレキサート、5−フルオロウラシル、およびara−CなどのDNAアルキル化剤は、S期停止にも波及する。さらなる情報は、The Molecular Basis of Cancer, Mendelsohn and Israel, eds.の、Murakamiらによる「Cell cycle regulation, oncogenes, and antineoplastic drugs」(WB Saunders: Philadelphia, 1995)という標題の第1章、特に13頁に見出すことができる。
【0108】
「成長阻害」抗体の例は、HER2に結合し、HER2を過剰発現しているガン細胞の成長を阻害する抗体である。好ましい成長阻害HER2抗体は、約0.5から30μg/mlの抗体濃度で、細胞培養でのSK−BR−3乳房腫瘍細胞の成長を20%よりも大きく、好ましくは50%よりも大きく(例えば、約50%から約100%)阻害する。ここで、抗体にSK−BR−3細胞を曝露した6日間後に、この成長阻害は決定される(1997年10月14日に発行された米国特許第5,677,171号を参照されたい)。このSK−BR−3細胞成長阻害アッセイは、その特許および本明細書の下記にさらに詳細に記載されている。好ましい成長阻害抗体は、マウスモノクローナル抗体4D5のヒト化変異体、例えばトラスツズマブである。
【0109】
「アポトーシスを誘導する」抗体は、アネキシンVの結合、DNAのフラグメント化、細胞収縮、小胞体の拡大、細胞のフラグメント化、および/または膜小胞(アポトーシス小体と呼ばれる)の形成によって決定されるようなプログラム細胞死を誘導する抗体である。この細胞は、通常、レセプターHER2を過剰発現する細胞である。好ましくは、この細胞は、腫瘍細胞、例えば、乳房細胞、卵巣細胞、胃細胞、子宮内膜細胞、唾液腺細胞、肺細胞、腎臓細胞、結腸細胞、甲状腺細胞、膵臓細胞、または膀胱細胞である。in vitroでは、この細胞は、SK−BR−3細胞、BT474細胞、Calu3細胞、MDA−MB−453細胞、MDA−MB−361細胞、またはSKOV3細胞でありうる。アポトーシスに関連する細胞事象を評価するために様々な方法が利用できる。例えば、アネキシンの結合によってホスファチジルセリン(PS)の移行を測定でき;DNAラダー生成によってDNAのフラグメント化を評価することができ;低二倍体細胞の任意の増加によってDNAのフラグメント化と同時に核/クロマチンの凝縮を評価することができる。好ましくは、アポトーシスを誘導する抗体は、BT474細胞を用いたアネキシン結合アッセイにおいて、未処理細胞と比較して約2から50倍、好ましくは約5から50倍、最も好ましくは約10から50倍のアネキシン結合の誘導を招く抗体である(以下参照)。アポトーシスを誘導するHER2抗体の例は、7C2および7F3である。
【0110】
「エピトープ2C4」は、抗体2C4が結合する、HER2の細胞外ドメイン中の領域である。2C4エピトープに結合する抗体についてスクリーニングするために、Antibodies, A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, Ed Harlow and David Lane (1988)に記載されているような日常的な交差遮断アッセイを行うことができる。好ましくは、この抗体は、HER2に対する2C4の結合を約50%以上遮断する。または、 エピトープマッピングを行って、その抗体がHER2の2C4エピトープに結合するかどうかを評定することができる。エピトープ2C4は、HER2の細胞外ドメイン中のドメインII由来残基を含む。2C4およびパーツズマブは、ドメインI、II、およびIIIの結合部でHER2の細胞外ドメインに結合する。Franklin et al. Cancer Cell 5: 317-328 (2004)。
【0111】
「エピトープ4D5」は、HER2の細胞外ドメイン中の、抗体4D5(ATCC CRL10463)およびトラスツズマブが結合する領域である。このエピトープはHER2の膜貫通ドメインに近接しており、HER2のドメインIV内に存在する。4D5エピトープに結合する抗体についてスクリーニングするために、Antibodies, A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, Ed Harlow and David Lane(1988)に記載されているような日常的な交差遮断アッセイを行うことができる。または、エピトープマッピングを行って、その抗体がHER2の4D5エピトープ(例えば、HER2 ECDの約529番残基から約625番残基まで、両端の残基を含めた領域における任意の一つまたは複数の残基、残基の付番にシグナルペプチドを含める)に結合するかどうかを評定することができる。
【0112】
「エピトープ7C2/7F3」は、7C2抗体および/または7F3抗体(それぞれATCCに寄託、以下参照)が結合する、HER2の細胞外ドメインのドメインI内のN末端の領域である。7C2/7F3エピトープに結合する抗体についてスクリーニングするために、Antibodies, A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, Ed Harlow and David Lane(1988)に記載されているような日常的な交差遮断アッセイを行うことができる。または、その抗体がHER2上の7C2/7F3エピトープ(例えば、HER2 ECDの約22番残基から約53番残基までの領域中の任意の一つまたは複数の残基、残基の付番にシグナルペプチドを含める)に結合するかどうかを確認するために、エピトープマッピングを行うことができる。
【0113】
「処置」は、治療的処置および予防措置または阻止措置の両方を指す。処置を必要とする者には、すでにその疾患を有する者およびその疾患が予防されるべき者が含まれる。従って、本明細書において処置される患者は、その疾患を有すると診断されたこともあるし、また、その疾患の素因があるか、もしくはその疾患に感受性なこともある。
【0114】
用語「有効量」は、患者におけるガンを処置するのに有効な薬物の量を指す。その薬物の有効量は、ガン細胞数を減少させ;腫瘍の大きさを低減し;末梢器官へのガン細胞の浸潤を阻害し(すなわちある程度減速させて、好ましくは停止させ);腫瘍の転移を阻害し(すなわちある程度減速させて、好ましくは停止させ);腫瘍の成長をある程度阻害し;かつ/またはガンに関連した一つもしくは複数の症状をある程度軽減することができる。その薬物が成長を阻止して、かつ/または現存しているガン細胞を殺滅できる程度に、有効量は細胞増殖抑制性および/または細胞傷害性でありうる。有効量は、無増悪生存期間を延長し、(部分奏効(PR)または完全奏効(CR)を含めた)奏効を招き、全生存期間を延ばし、かつ/またはガンの一つもしくは複数の症状を改善することができる。
【0115】
「完全奏効」または「完全寛解」によって、処置に応答してガンの全ての徴候が消失したことを意味する。これは、ガンが治癒したことを必ずしも意味しない。
【0116】
「部分奏効」は、処置に応答した、一つもしくは複数の腫瘍もしくは病変の大きさの減少、または体内のガンの程度の減少を指す。
【0117】
本明細書で使用される用語「細胞毒性薬」は、細胞の機能を阻害もしくは阻止し、かつ/または細胞の破壊を起こす物質を指す。この用語は、放射性同位体(例えば、At211、I131、I125、Y90、Re186、Re188、Sm153、Bi212、P32およびLuの放射性同位体)、化学療法剤、および細菌、真菌、植物、または動物起源の小分子毒素または酵素的に活性な毒素などの毒素を、そのフラグメントおよび/または変異体を含めて含むことを意図する。
【0118】
「化学療法剤」は、ガンの処置に有用な化学化合物である。化学療法剤の例には、チオテパおよびシクロホスファミド(CYTOXAN(登録商標))などのアルキル化剤;ブスルファン、インプロスルファン、およびピポスルファンなどのアルキルスルホネート;ベンゾドーパ(benzodopa)、カルボコン、メツレドーパ(meturedopa)、およびウレドーパ(uredopa)などのアジリジン;アルトレタミン、トリエチレンメラミン、トリエチレンホスホルアミド、トリエチレンチオホスホルアミド、およびトリメチロールメラミン(trimethylolomelamine)を含めたエチレンイミンおよびメチルメラミン(methylamelamine);TLK286(TELCYTA(商標));アセトゲニン(特に、ブラタシンおよびブラタシノン(bullatacinone));デルタ−9−テトラヒドロカンナビノール(ドロナビノール、MARINOL(登録商標));ベータ−ラパコン;ラパコール;コルヒチン;ベツリン酸;カンプトテシン(合成アナログであるトポテカン(HYCAMTIN(登録商標))、CPT−11(イリノテカン、CAMPTOSAR(登録商標))、アセチルカンプトテシン、スコポレクチン(scopolectin)、および9−アミノカンプトテシンを含む);ブリオスタチン;カリスタチン;CC−1065(そのアドゼレシン、カルゼレシン、およびビゼレシン合成アナログを含む);ポドフィロトキシン;ポドフィリン酸(podophyllinic acid);テニポシド;クリプトフィシン(特に、クリプトフィシン1およびクリプトフィシン8);ドラスタチン;ズオカルマイシン(合成アナログKW−2189およびCB1−TM1を含む);エロイテロビン;パンクラチスタチン;サルコジクチイン;スポンギスタチン;クロラムブシル、クロルナファジン、コロホスファミド(cholophosphamide)、エストラムスチン、イホスファミド、メクロレタミン、塩酸メクロレタミンオキシド、メルファラン、ノベンビキン(novembichin)、フェネステリン(phenesterine)、プレドニムスチン、トロホスファミド、ウラシルマスタードなどのナイトロジェンマスタード;カルムスチン、クロロゾトシン、フォテムスチン、ロムスチン、ニムスチン、およびラニムスチン(ranimnustine)などのニトロソ尿素;クロドロネートなどのビスホスホン酸塩;エンジイン抗生物質など(例えば、カリケアマイシン、特に、カリケアマイシンガンマ1IおよびカリケアマイシンオメガI1(例えば、Agnew, Chem Intl. Ed. Engl., 33: 183-186 (1994)参照))およびアンナマイシンなどのアントラサイクリン、AD32、アルカルビシン(alcarubicin)、ダウノルビシン、デキストラゾキサン(dexrazoxane)、DX−52−1、エピルビシン、GPX−100、イダルビシン、KRN5500、メノガリル、ジネマイシン(ジネマイシンAを含む)、エスペラマイシン、ネオカルジノスタチン発色団および関係する色素タンパク質エンジイン抗生物質発色団、アクラシノマイシン、アクチノマイシン、アントラマイシン、アザセリン、ブレオマイシン、カクチノマイシン、カラビシン(carabicin)、カルミノマイシン、カルジノフィリン、クロモマイシン、ダクチノマイシン、デトルビシン、6−ジアゾ−5−オキソ−L−ノルロイシン、(モルホリノ−ドキソルビシン、シアノモルホリノ−ドキソルビシン、2−ピロリノ−ドキソルビシン、リポソームドキソルビシン、およびデオキシドキソルビシンを含めた)ADRIAMYCIN(登録商標)(ドキソルビシン)、エソルビシン、マルセロマイシン、マイトマイシンCなどのマイトマイシン、ミコフェノール酸、ノガラマイシン、オリボマイシン、ペプロマイシン、ポルフィロマイシン、ピューロマイシン、クエラマイシン(quelamycin)、ロドルビシン(rodorubicin)、ストレプトニグリン、ストレプトゾシン、ツベルシジン、ウベニメクス、ジノスタチン、およびゾルビシンなどの抗生物質;デノプテリン、プテロプテリン、およびトリメトレキサートなどの葉酸アナログ;フルダラビン、6−メルカプトプリン、チアミプリン、およびチオグアニンなどのプリンアナログ;アンシタビン、アザシチジン、6−アザウリジン、カルモフール、シタラビン、ジデオキシウリジン、ドキシフルリジン、エノシタビン、およびフロクスウリジンなどのピリミジンアナログ;カルステロン、プロピオン酸ドロモスタノロン、エピチオスタノール、メピチオスタン、テストラクトンなどのアンドロゲン;アミノグルテチミド、ミトタン、およびトリロスタンなどの抗副腎剤(anti-adrenal);ホリニン酸(ロイコボリン)などの葉酸補給剤;アセグラトン;ALIMTA(登録商標)(LY231514、ペメトレキセド)、メトトレキサートなどのジヒドロ葉酸レダクターゼ阻害剤、5−フルオロウラシル(5−FU)などの代謝拮抗物質およびUFTなどのそのプロドラッグ、S1およびカペシタビン、ならびにラルチトレキセド(TOMUDEX(商標)、TDX)などのチミジル酸シンターゼ阻害剤およびグリシンアミドリボヌクレオチドホルミルトランスフェラーゼ阻害剤などの抗葉酸抗腫瘍剤;エニルウラシルなどのジヒドロピリミジンデヒドロゲナーゼ阻害剤;アルドホスファミドグリコシド;アミノレブリン酸;アムサクリン;ベストラブシル;ビサントレン;エダトラキサート(edatraxate);デホファミン(defofamine);デメコルシン;ジアジクオン;エルホルニチン(elfornithine);酢酸エリプチニウム;エポチロン;エトグルシド;硝酸ガリウム;ヒドロキシ尿素;レンチナン;ロニダイニン;メイタンシンおよびアンサミトシンなどのメイタンシノイド;ミトグアゾン;ミトキサントロン;モピダモール(mopidanmol);ニトラエリン(nitraerine);ペントスタチン;フェナメット(phenamet);ピラルビシン;ロソキサントロン;2−エチルヒドラジド;プロカルバジン;PSK(登録商標)多糖複合体(JHS Natural Products, Eugene, OR);ラゾキサン;リゾキシン;シゾフィラン;スピロゲルマニウム;テヌアゾン酸;トリアジクオン;2,2’,2”−トリクロロトリエチルアミン;トリコテセン(特にT−2毒素、ベラクリン(verracurin)A、ロリジンA、およびアングイジン(anguidine));ウレタン;ビンデシン(ELDISINE(登録商標)、FILDESIN(登録商標)):ダカルバジン;マンノムスチン;ミトブロニトール;ミトラクトール;ピポブロマン;ガシトシン(gacytosine);アラビノシド(「Ara−C」);シクロホスファミド;チオテパ;パクリタキセル(TAXOL(登録商標))(Bristol-Myers Squibb Oncology, Princeton, N.J.)、パクリタキセルの無Cremophorアルブミン加工ナノ粒子製剤であるABRAXANE(商標)(American Pharmaceutical Partners, Schaumberg, Illinois)、およびドセタキセル(TAXOTERE(登録商標))(Rhone-Poulenc Rorer, Antony, France)などのタキソイドおよびタキサン;クロランブシル;ゲムシタビン(GEMZAR(登録商標))、5−フルオロウラシル(5-FU)、カペシタビン(XELODA(商標))、6−メルカプトプリン、メトトレキサート、6−チオグアニン、ペメトレキセド、ラルチトレキセド、アラビノシルシトシンARA-Cシタラビン(CYTOSAR-U(登録商標))、デカルバジン(DTIC-DOME(登録商標))、アゾシトシン、デオキシシトシン、ピリドミデン、フルダラビン(FLUDARA(登録商標))、クラドラビン、および2−デオキシ−D−グルコースなどの抗代謝拮抗化学療法剤;6−チオグアニン;メルカプトプリン;カルボプラチン、シスプラチン、あるいはオキサリプラチナなどのプラチナ系化学療法剤;ビンブラスチン(VELBAN(登録商標));エトポシド(VP−16);イホスファミド;ミトキサントロン;ビンクリスチン(ONCOVIN(登録商標));ビンカアルカロイド;ビノレルビン(NAVELBINE(登録商標));ノバントロン;エダトレキサート;ダウノマイシン;アミノプテリン;ゼローダ;イバンドロネート;トポイソメラーゼ阻害剤RFS2000;ジフルオロメチルオルニチン(DMFO);レチノイン酸などのレチノイド;前記いずれかの薬学的に許容される塩、酸、または誘導体;ならびにCHOP(シクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチン、およびプレドニゾロンの併用療法についての略語)およびFOLFOX(オキサリプラチン(ELOXATIN(商標))を5−FUおよびロイコボリンと組合せて用いた処置方式についての略語)などの、前記のうち二つ以上の組合せがある。
【0119】
腫瘍に及ぼすホルモンの作用を調節または阻害するように作用する抗ホルモン剤も本定義に含まれる。それらには、例えば、タモキシフェン(タモキシフェン(NOLVADEX(登録商標))を含む)、ラロキシフェン、ドロロキシフェン、4−ヒドロキシタモキシフェン、トリオキシフェン、ケオキシフェン、LY117018、オナプリストン、およびトレミフェン(FARESTON(登録商標))を含めた抗エストロゲンおよび選択的エストロゲンレセプターモデュレーター(SERM);例えば4(5)−イミダゾール、アミノグルテチミド、酢酸メゲストロール(MEGASE(登録商標))、エキセメスタン(AROMASIN(登録商標))、ホルメスタン、ファドロゾール、ボロゾール(RIVISOR(登録商標))、レトロゾール(FEMARA(登録商標))、およびアナストロゾール(ARIMIDEX(登録商標))などの、副腎におけるエストロゲン産生を調節する酵素アロマターゼを阻害するアロマターゼ阻害剤;フルタミド、ニルタミド、ビカルタミド、ロイプロリド、およびゴセレリンなどの抗アンドロゲン;ならびにトロキサシタビン(troxacitabine)(1,3−ジオキソランヌクレオシドシトシンアナログ);アンチセンスオリゴヌクレオチド、特に例えばPKC−アルファ、Raf、H−Ras、および上皮成長因子レセプター(EGF−R)などの、接着性細胞増殖に関係づけられているシグナル伝達経路における遺伝子の発現を阻害するアンチセンスオリゴヌクレオチド;遺伝子治療ワクチン、例えばALLOVECTIN(登録商標)ワクチン、LEUVECTIN(登録商標)ワクチン、およびVAXID(登録商標)ワクチンなどのワクチン;PROLEUKIN(登録商標)rIL−2;LURTOTECAN(登録商標)トポイソメラーゼ1阻害剤;ABARELIX(登録商標)rmRH;ならびに前記いずれかの薬学的に許容されうる塩、酸、または誘導体がある。
【0120】
「抗血管形成剤」は、血管の発生をある程度遮断または妨害する化合物を指す。抗血管形成因子は、例えば、血管形成の促進に関与する成長因子または成長因子レセプターに結合する小分子または抗体でありうる。本明細書における好ましい抗血管形成因子は、ベバシズマブ(AVASTIN(登録商標))などの、血管内皮成長因子(VEGF)に結合する抗体である。
【0121】
用語「サイトカイン」は、ある細胞集団によって放出され、細胞間仲介物質として別の細胞に作用するタンパク質についての総称である。当該サイトカインの例は、リンホカイン、モノカイン、および従来のポリペプチドホルモンである。これらのサイトカインの中に含まれるのは、ヒト成長ホルモン、N−メチオニルヒト成長ホルモン、およびウシ成長ホルモンなどの成長ホルモン;副甲状腺ホルモン;チロキシン;インスリン;プロインスリン;レラキシン;プロレラキシン;卵胞刺激ホルモン(FSH)、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、および黄体形成ホルモン(LH)などの糖タンパク質ホルモン;肝成長因子;線維芽細胞成長因子;プロラクチン;胎盤ラクトゲン;腫瘍壊死因子αおよび腫瘍壊死因子β;ミュラー管抑制物質;マウス性腺刺激ホルモン関連ペプチド;インヒビン;アクチビン;血管内皮成長因子;インテグリン;トロンボポエチン(TPO);NGF−βなどの神経成長因子;血小板成長因子;TGF−αおよびTGF−βなどのトランスフォーミング成長因子(TGF);インスリン様成長因子−Iおよびインスリン様増殖因子−II;エリスロポエチン(EPO);骨誘導因子;インターフェロン−α、インターフェロン−β、およびインターフェロン−γなどのインターフェロン;コロニー刺激因子(CSF)(マクロファージCSF(M−CSF)、顆粒球マクロファージCSF(GM−CSF)、および顆粒球CSF(G−CSF)など);IL−1、IL−1α、IL−2、IL−3、IL−4、IL−5、IL−6、IL−7、IL−8、IL−9、IL−10、IL−11、IL−12などのインターロイキン(IL);TNF−αまたはTNF−βなどの腫瘍壊死因子;ならびにLIFおよびkitリガンド(KL)を含めたその他のポリペプチド因子である。本明細書に使用される用語サイトカインには、天然起源由来またはリコンビナント細胞培養物由来のタンパク質、およびネイティブな配列のサイトカインの生物学的活性等価物が含まれる。
【0122】
本明細書において使用される用語「EGFRターゲット薬」は、EGFRに結合して、場合によりEGFRの活性化を阻害する治療剤を指す。当該薬剤の例には、EGFRに結合する抗体および小分子が挙げられる。EGFRに結合する抗体の例には、MAb579(ATCC CRL HB8506)、MAb455(ATCC CRL HB8507)、MAb225(ATCC CRL8508)、MAb528(ATCC CRL8509)(米国特許第4,943,533号、Mendelsohn et al.参照)、ならびにキメラ化225(C225またはセツキシマブ;ERBUTIX(登録商標))および再形状化ヒト225(H225)(WO96/40210、Imclone Systems Inc.参照)などのその変異体;IMC−11F8、完全ヒトEGFRターゲット抗体(Imclone)、II型突然変異EGFRと結合する抗体(米国特許第5,212,290号);米国特許第5,891,996号に記載された、EGFRと結合するヒト化抗体およびキメラ抗体;ABX−EGFなどの、EGFRと結合するヒト抗体(WO98/50433、Abgenix参照);EMD55900(Stragliotto et al. Eur. J. Cancer 32A:636-640 (1996));EGFRとの結合についてEGFおよびTGF−αの両方と競合する、EGFRに対するヒト化EGFR抗体であるEMD7200(マツズマブ);ならびにmAb806またはヒト化mAb806(Johns et al., J. Biol. Chem. 279(29):30375-30384 (2004))が挙げられる。抗EGFR抗体を細胞毒性薬とコンジュゲーションすることにより、免疫コンジュゲートを発生させることができる(例えば、EP659,439A2、Merck Patent GmbH参照)。EGFRに結合する小分子の例には、ZD1839すなわちゲフィチニブ(IRESSA(商標);AstraZeneca)、CP−358774すなわちエルロチニブ(TARCEVA(商標);Genentech/OSI)、およびAG1478、AG1571(SU5271;Sugen)、EMD−7200が挙げられる。
【0123】
「チロシンキナーゼ阻害剤」は、レセプターHERなどのチロシンキナーゼのチロシンキナーゼ活性を阻害する分子である。当該阻害剤の例には、前項で言及したEGFRターゲット薬;武田から入手可能なTAK165などの小分子HER2チロシンキナーゼ阻害剤;ErbB2レセプターチロシンキナーゼの経口選択的阻害剤であるCP−724,714(PfizerおよびOSI);選好的にEGFRと結合するが、HER2を過剰発現している細胞およびEGFRを過剰発現している細胞の両方を阻害するEKB−569(Wyethから入手できる)などの二重HER阻害剤;経口HER2およびEGFRチロシンキナーゼ阻害剤であるGW572016(Glaxoから入手できる);PKI−166(Novartisから入手できる);カネルチニブ(CI−1033;Pharmacia)などの汎HER阻害剤;Raf−1シグナル伝達を阻害する、ISIS Pharmaceuticalsから入手できるアンチセンス剤ISIS−5132などのRaf−1阻害剤;Glaxoから入手できるメシル酸イマチニブ(Gleevac(商標))などの非HERターゲットTK阻害剤;MAPK細胞外調節キナーゼI阻害剤CI−1040(Pharmaciaから入手できる);PD153035、4−(3−クロロアニリノ)キナゾリンなどのキナゾリン;ピリドピリミジン;ピリミドピリミジン;CGP59326、CGP60261、およびCGP62706などのピロロピリミジン;ピラゾロピリミジン、4−(フェニルアミノ)−7H−ピロロ[2,3−d]ピリミジン;クルクミン(ジフェルロイルメタン、4,5−ビス(4−フルオロアニリノ)フタルイミド);ニトロチオフェン部分含有チルホスチン;PD−0183805(Warner-Lamber);アンチセンス分子(例えば、HERをコードしている核酸に結合するもの);キノキサリン(米国特許第5,804,396号);トリホスチン(tryphostin)(米国特許第5,804,396号);ZD6474(Astra Zeneca);PTK−787(Novartis/Schering AG);CI−1033(Pfizer)などの汎HER阻害剤;アフィニタック(ISIS3521;Isis/Lilly);メシル酸イマチニブ(Gleevac; Novartis);PKI166(Novartis);GW2016(Glaxo SmithKline);CI−1033(Pfizer);EKB−569(Wyeth);セマキシニブ(Sugen);ZD6474(AstraZeneca);PTK−787(Novartis/Schering AG);INC−1C11(Imclone);または以下の特許公報のいずれかに記載されるもの:米国特許第5,804,396号;WO99/09016(American Cyanimid);WO98/43960(American Cyanamid);WO97/38983(Warner Lambert);WO99/06378(Warner Lambert);WO99/06396(Warner Lambert);WO96/30347(Pfizer, Inc);WO96/33978(Zeneca);WO96/3397(Zeneca);およびWO96/33980(Zeneca)が挙げられる。
【0124】
II. HER2のシェディングの阻害
本出願は、HER2のシェディングを阻害するための方法に関し、その方法は、HER2発現細胞を、HER2のシェディングを阻害するのに有効量のマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)アンタゴニストで処置すること、またはそれに曝露することを含む。好ましくは、MMPアンタゴニストは膜に繋ぎ止められたMT1−MMP(MMP−14)、MT2−MMP(MMP−15)、MT3−MMP(MMP−16)、MT5−MMP(MMP−24)、MT4−MMP(MMP−17)、またはMT6−MMP(MMP−25)などのMMP(MT−MMP)のアンタゴニストである。最も好ましくは、MT−MMPはMMP−15であり、望ましくは、そのアンタゴニストは他のプロテアーゼにもMMP−15以外のMMPにも有意に結合せずにMMP−15に選択的もしくは選好的に結合し、かつ/またはそのアンタゴニストは他のプロテアーゼの機能もMMP−15以外のMMPの機能も有意に妨害せずにMMP−15のタンパク質分解機能を妨害する。
【0125】
好ましい態様では、処置される細胞はHERおよび/またはMMPの発現、増幅、または活性化を示す。例えば、その細胞はHER2および/またはMMP−15の過剰発現または増幅を示しうる。
【0126】
MMPアンタゴニストの活性は、そのアンタゴニストを別の抗腫瘍薬、HER阻害剤、またはHER2抗体(トラスツズマブまたはパーツズマブなど)と組合せることにより高まりうる。MMPアンタゴニストと組合せることのできるHER阻害剤の例には、トラスツズマブ、パーツズマブ、セツキシマブ、ABX−EGF、EMD7200、ゲフィチニブ、エルロチニブ、CP724714、CI1033、GW572016、IMC−11F8、およびTAK165が挙げられる。
【0127】
本発明は、哺乳動物におけるHER2細胞外ドメイン(ECD)の血清レベルを低減するための方法にも関し、その方法は、その哺乳動物におけるHER2 ECD血清レベルを低減するのに有効量のマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)アンタゴニストをその哺乳動物に投与することを含む。その哺乳動物は、場合によりMMPレベルの上昇を有する。
【0128】
本発明は、哺乳動物におけるガンを処置するための方法も提供し、その方法は、ガンを処置するのに有効量のマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)アンタゴニストをその哺乳動物に投与することを含む。そのガンは、HERおよび/またはMMPの発現、増幅、または活性化を示しうる。例えば、そのガンは、HER2またはMMP−15の過剰発現または増幅を示しうる。一態様では、処置される哺乳動物はシェディングされたHER2の血清レベルの上昇またはp95 HER2レベルの上昇を有する。
【0129】
本発明は、哺乳動物におけるHER阻害剤耐性ガンを処置するための方法にも関し、その方法は、そのガンを処置するのに有効量のマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)アンタゴニストをその哺乳動物に投与することを含む。例えば、その哺乳動物はトラスツズマブなどのHER2抗体に耐性でありうる。
【0130】
細胞におけるp95 HER2レベルを低減するための方法も提供され、その方法は、p95 HER2レベルを低減するのに有効量のマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)アンタゴニストにその細胞を曝露することを含む。
【0131】
様々なMMPアンタゴニストを使用することができるが、好ましくはMMPアンタゴニストは小分子阻害剤または抗体である。抗体を作成するための方法は本明細書に後述する。
【0132】
III. 抗体の産生
本発明により使用される抗体の産生についての例示的な技法に関して、以下に説明する。抗体の産生に使用される抗原は、例えば、所望のエピトープを含む可溶性形態の抗原またはその一部分でありうる。または、細胞表面に抗原を発現している細胞(例えば、HER2を過剰発現するように形質転換されたNIH−3T3細胞;またはSK−BR−3細胞などのガン細胞系、Stancovski et al. PNAS (USA) 88:8691-8695 (1991)参照)を使用して抗体を発生させることができる。抗体の発生に有用な他の形態の抗原は、当業者に明らかであろう。
【0133】
(i)ポリクローナル抗体
ポリクローナル抗体は、好ましくは、関連抗原およびアジュバントの複数回の皮下(sc)注射または腹腔内(ip)注射によって動物に産生される。二官能剤または誘導化剤、例えば、マレイミドベンゾイルスルホスクシンイミドエステル(システイン残基を介したコンジュゲーション)、N−ヒドロキシスクシンイミド(リシン残基を介する)、グルタルアルデヒド、コハク酸無水物、SOCl2、またはR1N=C=NR(式中、RおよびR1は異なるアルキル基である)を使用して、キーホールリンペットヘモシアニン、血清アルブミン、ウシチログロブリン、またはダイズトリプシン阻害剤などの、免疫処置される種に免疫原性であるタンパク質と関連抗原をコンジュゲーションすることが有用なことがある。
【0134】
例えば、(それぞれウサギまたはマウスに対して)100μgまたは5μgのタンパク質またはコンジュゲートを3倍量のフロイント完全アジュバントと混合し、複数の部位にその溶液を皮内注射することによって、抗原、免疫原性コンジュゲート、または誘導体に対して動物を免疫処置する。1か月後、フロイント完全アジュバントに入れた初回量の1/5から1/10のペプチドまたはコンジュゲートを用いて複数の部位で皮下注射することにより、その動物に追加免疫する。7日から14日後、その動物から採血し、そしてその血清の抗体力価をアッセイする。力価がプラトーになるまで動物に追加免疫する。好ましくは、同抗原のコンジュゲートであるが、異なるタンパク質と、および/または異なる架橋試薬を介してコンジュゲーションしたものを用いて、その動物を追加免疫する。タンパク質融合体としてリコンビナント細胞培養でコンジュゲートを作成することもできる。また、ミョウバンなどの凝集剤を適切に使用して、免疫応答を増強させる。
【0135】
(ii)モノクローナル抗体
モノクローナル抗体を作成するための様々な方法を当技術分野で利用することができる。例えば、Kohlerら、Nature, 256: 495 (1975)に最初に記載されたハイブリドーマ法を使用して、リコンビナントDNA法(米国特許第4,816,567号)によりモノクローナル抗体を作成することができる。
【0136】
ハイブリドーマ法では、マウス、またはハムスターなどのその他の適切な宿主動物を、本明細書の前述のように免疫処置して、免疫処置のために使用されたタンパク質に特異的に結合するであろう抗体を産生するか、または産生できるリンパ球を誘発させる。または、リンパ球をin vitroで免疫処置することができる。次に、ポリエチレングリコールなどの適切な融合剤を用いて、リンパ球を骨髄腫細胞と融合させて、ハイブリドーマ細胞を形成させる(Goding, Monoclonal Antibodies: Principles and Practice, pp.59-103 (Academic Press, 1986))。
【0137】
このようにして調製されたハイブリドーマ細胞を、未融合の親骨髄腫細胞の成長または生存を阻害する一つまたは複数の物質を好ましくは含有する適切な培地に接種し、成長させる。例えば、親骨髄腫細胞が酵素であるヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HGPRTまたはHPRT)を欠如しているならば、ハイブリドーマ用の培地は、典型的には、ヒポキサンチン、アミノプテリン、およびチミジンを含むものであり(HAT培地)、これらの物質はHGPRT欠損細胞の成長を阻止する。
【0138】
好ましい骨髄腫細胞は、効率的に融合し、選択された抗体産生細胞による抗体の安定な高レベルの産生を支持し、かつHAT培地などの培地に感受性の細胞である。これらのうち好ましい骨髄腫細胞系は、Salk Institute Cell Distribution Center, San Diego, California USAから入手できるMOPC−21およびMPC−11マウス腫瘍由来の細胞系、ならびにAmerican Type Culture Collection, Rockville, Maryland USAから入手できるSP−2細胞またはX63−Ag8−653細胞などのマウス骨髄腫系である。ヒト骨髄腫細胞系およびマウス−ヒトヘテロ骨髄腫細胞系も、ヒトモノクローナル抗体の産生のために記載されている(Kozbor, J. Immunol., 133: 3001 (1984);およびBrodeur et al., Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications, pp.51-63 (Marcel Dekker, Inc., New York, 1987))。
【0139】
その抗原に対するモノクローナル抗体の産生について、ハイブリドーマ細胞が中で成長している培地をアッセイする。好ましくは、ハイブリドーマ細胞により産生されるモノクローナル抗体の結合特異性を、免疫沈降により、またはラジオイムノアッセイ(RIA)もしくは酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)などのin vitro結合アッセイにより決定する。
【0140】
モノクローナル抗体の結合親和性は、例えば、Munson et al., Anal. Biochem., 107: 220 (1980)のスキャッチャード解析によって決定することができる。
【0141】
所望の特異性、親和性、および/または活性の抗体を産生するハイブリドーマ細胞が同定された後で、限界希釈手順によりそのクローンをサブクローニングして、標準的な方法により成長させることができる(Goding, Monoclonal Antibodies: Principles and Practice, pp.59-103 (Academic Press, 1986))。この目的に適切な培地には、例えば、D−MEMまたはRPMI−1640培地がある。さらに、このハイブリドーマ細胞を、動物における腹水腫瘍としてin vivoで成長させることができる。
【0142】
サブクローンにより分泌されたモノクローナル抗体を、例えば、プロテインA−セファロース、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、またはアフィニティークロマトグラフィーなどの従来の抗体精製手順によって培地、腹水、または血清から適切に分離する。
【0143】
モノクローナル抗体をコードしているDNAは、従来の手順を使用して(例えば、マウス抗体の重鎖および軽鎖をコードしている遺伝子に特異的に結合することができるオリゴヌクレオチドプローブを使用することによって)容易に単離されて、配列解析される。ハイブリドーマ細胞は、当該DNAの好ましい供給源として役立つ。一旦単離されると、そのDNAを発現ベクターの中に配置することができ、次にE.coli細胞、サルCOS細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、または他の状況では抗体タンパク質を産生しない骨髄腫細胞などの宿主細胞にその発現ベクターをトランスフェクションして、リコンビナント宿主細胞中でモノクローナル抗体の合成を得ることができる。抗体をコードしているDNAを細菌にリコンビナント発現させることに関する総説論文には、Skerra et al., Curr. Opinion in Immunol., 5: 256-262 (1993)およびPluckthun, Immunol. Revs., 130: 151-188 (1992)がある。
【0144】
さらなる態様では、モノクローナル抗体または抗体フラグメントを、McCafferty et al., Nature, 348: 552-554 (1990)に記載されている技法を使用して作成された抗体ファージライブラリーから単離することができる。Clackson et al., Nature, 352: 624-628 (1991)およびMarks et al., J. Mol. Biol., 222: 581-597 (1991)は、ファージライブラリーを使用した、それぞれマウス抗体およびヒト抗体の単離を記載している。その後の刊行物は、鎖シャッフリング(chain chuffling)(Marks et al., Bio/Technology, 10: 779-783 (1992))による高親和性(nM範囲)ヒト抗体の産生ならびに非常に大きなファージライブラリーを構築するための戦略としてのコンビナトリアル感染およびin vivoリコンビネーション(Waterhouse et al., Nuc. Acids. Res., 21: 2265-2266 (1993))について記載している。このように、これらの技法は、モノクローナル抗体を単離するための従来のモノクローナル抗体ハイブリドーマ技法に対する実行可能な代替法である。
【0145】
例えば、相同マウス配列に代わり、ヒト重鎖および軽鎖の定常ドメインについてのコード配列に置換することによって(米国特許第4,816,567号;およびMorrison, et al., Proc. Natl Acad. Sci. USA, 81: 6851 (1984))、または免疫グロブリンのコード配列に、非免疫グロブリンポリペプチドについてのコード配列の全てもしくは一部を共有結合的に繋ぐことによっても、DNAを改変することができる。
【0146】
典型的には、抗体の定常ドメインの代わりに当該非免疫グロブリンポリペプチドに置換するか、または、抗体の一つの抗原結合部位の可変ドメインの代わりにそれらに置換して、抗原に対する特異性を有する一つの抗原結合部位と、異なる抗原に対する特異性を有する別の抗原結合部位とを含むキメラ二価抗体を生み出す。
【0147】
(iii)ヒト化抗体
非ヒト抗体をヒト化するための方法は当技術分野で記載されている。好ましくは、ヒト化抗体は、非ヒトである起源からその抗体に導入された一つまたは複数のアミノ酸残基を有する。これらの非ヒトアミノ酸残基は、しばしば、「輸入(import)」残基と称される。この残基は、典型的には「輸入」可変ドメインから取り入れられる。ヒト化は、ヒト抗体の対応配列の代わりに超可変部配列に置換することによって、Winterおよび共同研究者らの方法(Jones et al., Nature, 321: 522-525 (1986); Riechmann et al., Nature, 332: 323-327 (1988); Verhoeyen et al., Science, 239: 1534-1536 (1988))に従って本質的に行うことができる。したがって、当該「ヒト化」抗体は、インタクトなヒト可変ドメインよりも実質的に小さな配列が非ヒト種由来の対応する配列に置換されたキメラ抗体(米国特許第4,816,567号)である。実際にはヒト化抗体は、典型的には一部の超可変部残基と、可能性があることには一部のFR残基とが、げっ歯動物抗体の類似部位由来の残基に置換されているヒト抗体である。
【0148】
ヒト化抗体を作成する際に使用される、軽鎖および重鎖両方のヒト可変ドメインの選択は、抗原性を低減するために非常に重要である。いわゆる「ベストフィット」法により、げっ歯動物抗体の可変ドメインの配列を、公知のヒト可変ドメイン配列のライブラリー全体に対してスクリーニングする。次に、そのげっ歯動物の配列に最も近いヒト配列を、ヒト化抗体についてのヒトフレームワーク部(FR)として受け入れる(Sims et al., J. Immunol., 151: 2296 (1993); Chothia et al., J. Mol. Biol, 196: 901 (1987))。別の方法は、特定亜群の軽鎖または重鎖の全ヒト抗体のコンセンサス配列に由来する特定のフレームワーク部を使用する。同フレームワークを、いくつかの異なるヒト化抗体に使用することができる(Carter et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89: 4285 (1992); Presta et al., J. Immunol., 151: 2623 (1993))。
【0149】
抗体が抗原に対する高い親和性およびその他の好都合な生物学的性質を保持してヒト化されることは、さらに重要である。この目標を実現するために、好ましい方法により、親配列およびヒト化配列の三次元モデルを使用した親配列および様々な概念上のヒト化産物の分析プロセスによりヒト化抗体を調製する。三次元免疫グロブリンモデルが、一般に利用可能であり、当業者によく知られている。選択された候補免疫グロブリン配列の有望な三次元コンフォメーション構造を図解して表示するコンピュータプログラムを利用することができる。これらの表示の調査により、候補免疫グロブリン配列の機能発揮にこれらの残基が果たしそうな役割を分析すること、すなわち、候補免疫グロブリンがその抗原と結合する能力に影響する残基を分析することが可能になる。このように、FR残基を、レシピエント配列および輸入配列より選択して組合せることができ、それにより、ターゲット抗原に対する親和性増大などの所望の抗体特性が実現される。一般に、超可変部残基は、抗原結合に影響することに直接的かつ最も実質的に関与している。
【0150】
(iv)ヒト抗体
ヒト化の代替として、ヒト抗体を作成することができる。例えば、免疫処置した際に、内因性免疫グロブリン産生の不在下でヒト抗体の全レパートリーを産生することができるトランスジェニック動物(例えば、マウス)を生み出すことが今や可能である。例えば、キメラおよび生殖細胞系突然変異マウスにおける抗体重鎖J部(JH)遺伝子の同型接合型欠失は、内因性抗体産生の完全な阻害を招くことが記載されている。当該生殖細胞系突然変異マウスにヒト生殖細胞系免疫グロブリン遺伝子アレイを導入する結果として、抗原による攻撃に応答したヒト抗体の産生が生じるであろう。例えば、Jakobovits et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90: 2551 (1993);Jakobovits et al., Nature, 362: 255-258 (1993);Bruggermann et al., Year in Immuno., 7:33 (1993);ならびに米国特許第5,591,669号、第5,589,369号,および第5,545,807号を参照されたい。
【0151】
または、ファージディスプレイ技法(McCafferty et al., Nature 348: 552-553 (1990))を使用して、免疫処置されていないドナー由来の免疫グロブリン可変(V)ドメイン遺伝子レパートリーからヒト抗体およびヒト抗体フラグメントをin vitro産生することができる。この技法によると、抗体Vドメイン遺伝子を、M13またはfdなどの糸状バクテリオファージの主または副コートタンパク質遺伝子のいずれかのフレーム内にクローニングして、ファージ粒子の表面上に機能的な抗体フラグメントとして提示させる。糸状粒子がファージゲノムの一本鎖DNAコピーを有することから、その抗体の機能的性質に基づく選択は、それらの性質を示す抗体をコードしている遺伝子の選択も招く。このように、そのファージは、B細胞の性質の一部を模倣している。ファージディスプレイを様々な形式で行うことができる;それらの総説については、例えばJohnson, Kevin S. and Chiswell, David J., Current Opinion in Structural Biology 3: 564-571 (1993)を参照されたい。いくつかの起源のV遺伝子セグメントをファージディスプレイのために使用することができる。Clacksonら、Nature, 352: 624-628 (1991)は、免疫処置されたマウスの脾臓に由来するV遺伝子の小さなランダムコンビナトリアルライブラリーから抗オキサゾロン抗体の多様なアレイを単離した。免疫処置されていないヒトドナーからのV遺伝子のレパートリーを構築することができ、(自己抗原を含む)多様なアレイの抗原に対する抗体を、Marks et al., J. Mol. Biol. 222: 581-597 (1991)、またはGriffith et al., EMBO J. 12: 725-734 (1993)によって記載されている技法に本質的に従って単離することができる。米国特許第5,565,332号および第5,573,905号も参照されたい。
【0152】
上記のように、ヒト抗体を、in vitro活性化したB細胞により作成することもできる(米国特許第5,567,610号および第5,229,275号参照)。
【0153】
ヒトHER2抗体は、1998年6月30日に発行された米国特許第5,772,997号および1997年1月3日に公開されたWO97/00271に記載されている。
【0154】
(v)抗体フラグメント
種々の技法が、一つまたは複数の抗原結合領域を含む抗体フラグメントの産生のために開発されている。伝統的には、これらのフラグメントは、インタクトな抗体のタンパク質分解消化を介して誘導された(例えば、Morimoto et al., Journal of Biochemical and Biophysical Methods 24: 107-117 (1992);およびBrennan et al., Science, 229:81 (1985)を参照されたい)。しかし、これらのフラグメントを、今やリコンビナント宿主細胞によって直接産生することができる。例えば、その抗体フラグメントを、上記の抗体ファージライブラリーから単離することができる。または、Fab’−SHフラグメントを、E.coliから直接回収して、化学的に結合させてF(ab’)2フラグメントを形成させることができる(Carter et al., Bio/Technology 10: 163-167 (1992))。別のアプローチにより、F(ab’)2フラグメントを、リコンビナント宿主細胞培養物から直接単離することができる。抗体フラグメントの産生のためのその他の技法は、当業者に明白であろう。他の態様では、選択された抗体は一本鎖Fvフラグメント(scFv)である。WO93/16185;米国特許第5,571,894号;および第5,587,458号を参照されたい。この抗体フラグメントは、例えば、米国特許第5,641,870号に例えば記載された「線状抗体」でもありうる。当該線状抗体フラグメントは、単一特異性または二重特異性でありうる。
【0155】
(vi)二重特異性抗体
二重特異性抗体は、少なくとも二つの異なるエピトープに対して結合特異性を有する抗体である。例示的な二重特異性抗体は、HER2タンパク質の二つの異なるエピトープに結合することができる。その他の当該抗体は、HER2結合部位と、EGFR、HER3、および/またはHER4に対する結合部位とを組合せることができる。または、細胞防御メカニズムをHER2発現細胞に集中させるために、T細胞レセプター分子(例えば、CD2もしくはCD3)のような、またはFcγRI(CD64)、FcγRII(CD32)、およびFcγRIII(CD16)などの、IgGに対するFcレセプター(FcγR)のような、白血球上のトリガー分子に結合するアームとHER2アームを組合せることができる。HER2を発現する細胞に細胞毒性薬を局在化させるために、二重特異性抗体を使用することもできる。これらの抗体は、HER2結合アームと、細胞毒性薬(例えば、サポリン、抗インターフェロン−α、ビンカアルカロイド、リシン(ricin)A鎖、メトトレキサート、または放射性同位体ハプテン)と結合するアームとを有する。二重特異性抗体を、全長抗体または抗体フラグメント(例えば、F(ab’)2二重特異性抗体)として調製することができる。
【0156】
WO96/16673は、二重特異性HER2/FcγRIII抗体を記載し、米国特許第5,837,234号は、二重特異性HER2/FcγRI抗体IDM1(Osidem)を開示している。二重特異性HER2/Fcα抗体は、WO98/02463に示されている。米国特許第5,821,337号は、二重特異性HER2/CD3抗体を教示している。MDX−210は、二重特異性HER2−FcγRIII Abである。
【0157】
二重特異性抗体を作成するための方法は、当技術分野において公知である。全長二重特異性抗体の従来の産生は、二つの免疫グロブリン重鎖−軽鎖対の同時発現に基づく。ここで、その二つの鎖は異なる特異性を有する(Millstein et al., Nature, 305: 537-539 (1983))。免疫グロブリン重鎖および軽鎖のランダムな取り合わせが原因で、これらのハイブリドーマ(クアドローマ)は、10個の異なる抗体分子の潜在的な混合物を産生し、そのうち、一つだけが正しい二重特異性構造を有する。正しい分子の精製は、普通はアフィニティークロマトグラフィー工程によってなされるが、かなり煩雑であり、その産物の収率は低い。類似の手順がWO93/08829およびTraunecker et al., EMBO J., 10: 3655-3659 (1991)に開示されている。
【0158】
異なるアプローチにより、所望の結合特異性(抗体−抗原の結合部位)を有する抗体可変ドメインを、免疫グロブリン定常ドメイン配列と融合させる。この融合体は、好ましくは、ヒンジ部の少なくとも一部、CH2部、およびCH3部を含む免疫グロブリン重鎖定常ドメインを有する。軽鎖の結合に必要な部位を有する第一重鎖定常部(CH1)を、これら融合体の少なくとも一つに存在させることが好ましい。免疫グロブリン重鎖融合体をコードしているDNAと、所望ならば免疫グロブリン軽鎖をコードしているDNAとを、別々の発現ベクターに挿入して、適切な宿主生物に同時トランスフェクションする。これは、構築に使用される等しくない比率の3本のポリペプチド鎖が最適な収率を提供する態様において、それら3本のポリペプチドフラグメントの相互比率の調整に大きな柔軟性を提供する。しかし、少なくとも2本のポリペプチド鎖が等しい比で発現することが高収率を招く場合、またはその比が特に重要ではない場合に、2本または3本全てのポリペプチド鎖についてのコード配列を一つの発現ベクターに挿入することが可能である。
【0159】
このアプローチの好ましい態様では、二重特異性抗体は、一方のアームでの第1結合特異性を有するハイブリッド免疫グロブリン重鎖と、他方のアームでのハイブリッド免疫グロブリン重鎖−軽鎖対(第2結合特異性を提供する)とから構成される。この非対称構造は、望まれていない免疫グロブリン鎖の組合せから所望の二重特異性化合物の分離を容易にすることが見出された。それは、二重特異性分子の半分のみに免疫グロブリン軽鎖が存在することが、分離の容易な方法に備えるからである。このアプローチは、WO94/04690に開示されている。二重特異性抗体を作成するさらなる詳細については、例えば、Suresh et al., Methods in Enzymology, 121: 210 (1986)を参照されたい。
【0160】
米国特許第5,731,168号に記載されている別のアプローチによると、抗体分子対の間の界面を加工して、リコンビナント細胞培養物から回収されるヘテロ二量体の率を最大にすることができる。好ましい界面は、抗体定常ドメインのCH3ドメインの少なくとも一部分を含む。この方法では、第1抗体分子の界面由来の一つまたは複数の小型アミノ酸側鎖を、より大型の側鎖(例えば、チロシンまたはトリプトファン)に交換する。その大型側鎖に同一または類似の大きさの代償的な「空洞」は、大型アミノ酸側鎖をより小型のアミノ酸側鎖(例えば、アラニンまたはトレオニン)に交換することによって、第2抗体分子の界面に生み出される。これは、ホモ二量体などのその他の望まれない最終産物に比べてヘテロ二量体の収率を増加させるためのメカニズムを提供する。
【0161】
二重特異性抗体には、架橋抗体または「ヘテロコンジュゲート」抗体が含まれる。例えば、ヘテロコンジュゲートにおける抗体のうちの一方をアビジンと、他方をビオチンと結合させることができる。当該抗体は、例えば、望まれていない細胞に免疫系細胞をターゲティングするために(米国特許第4,676,980号)、およびHIV感染の処置のために(WO91/00360、WO92/200373、およびEP03089)提案されている。ヘテロコンジュゲート抗体を、任意の好都合な架橋方法を用いて作成することができる。適切な架橋剤は当技術分野において周知であり、米国特許第4,676,980号に、いくつかの架橋技法と共に開示されている。
【0162】
抗体フラグメントから二重特異性抗体を作成するための技法は、文献にも記載されている。例えば、化学的結合を用いて二重特異性抗体を調製することができる。Brennan et al., Science, 229: 81 (1985)は、インタクトな抗体がタンパク質分解的に開裂されてF(ab’)2フラグメントを発生する手順を記載している。これらのフラグメントを、ジチオール錯化剤である亜砒酸ナトリウムの存在下で還元して、隣接するジチオールを安定化して、分子間ジスルフィド形成を阻止する。次に、発生したFab’フラグメントをチオニトロ安息香酸(TNB)誘導体に変換する。次に、メルカプトエチルアミンを用いた還元により、Fab’−TNB誘導体の一つをFab’−チオールに再変換し、等モル量のその他のFab’−TNB誘導体と混合して、二重特異性抗体を形成させる。産生した二重特異性抗体を、酵素の選択的固定化のための薬剤として使用することができる。
【0163】
最近の進歩により、E.coli由来のFab’−SHフラグメントを直接回収することが容易になった。このFab’−SHフラグメントを、化学的に結合させて、二重特異性抗体を形成させることができる。Shalaby et al., J. Exp. Med., 175: 217-225 (1992)は、完全にヒト化された二重特異性抗体F(ab’)2分子の産生を記載している。各々のFab’フラグメントが、E.coliから別々に分泌され、in vitro定方向化学的結合に供されて、二重特異性抗体を形成した。このように形成した二重特異性抗体は、レセプターHER2を過剰発現している細胞および正常なヒトT細胞に結合することができ、かつヒト乳房腫瘍ターゲットに対するヒト細胞傷害性リンパ球の溶解活性をトリガーすることができた。
【0164】
リコンビナント細胞培養物から二重特異性抗体フラグメントを直接作成して単離するための様々な技法も記載されている。例えば、二重特異性抗体は、ロイシンジッパーを用いて産生された。Kostelny et al., J. Immunol., 148(5): 1547-1553 (1992)。Fosタンパク質およびJunタンパク質由来のロイシンジッパーペプチドが、遺伝子融合によって二つの異なる抗体のFab’部分に連結された。その抗体ホモ二量体は、ヒンジ部で還元されて単量体を形成し、次に、再び酸化されて抗体へテロ二量体を形成した。この方法を、抗体ホモ二量体産生のためにも利用することができる。Hollinger et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90: 6444-6448 (1993)によって記載された「二特異性抗体」技法は、二重特異性抗体フラグメントを作成するための代替メカニズムを提供した。このフラグメントは、同じ鎖上の二つのドメイン間で対形成させるには短すぎるリンカーによって軽鎖可変ドメイン(VL)に連結した重鎖可変ドメイン(VH)を含む。したがって、一つのフラグメントのVHドメインおよびVLドメインは、別のフラグメントの相補的なVLドメインおよびVHドメインと対形成することを強いられ、それによって、二つの抗原結合部位を形成する。二重特異性抗体フラグメントを単鎖Fv(sFv)二量体の使用によって作成するための別の戦略も報告されている。Gruber et al., J. Immunol., 152: 5368 (1994)を参照されたい。
【0165】
二つを超える結合価を有する抗体が考えられている。例えば、三重特異性抗体を調製することができる。Tutt et al. J. Immunol. 147: 60 (1991)。
【0166】
(vii)その他のアミノ酸配列の改変
本明細書に記載された抗体のアミノ酸配列の改変が考えられている。例えば、抗体の結合親和性および/または他の生物学的性質を改善することが望ましいことがある。適切なヌクレオチド変化を抗体の核酸に導入することにより、またはペプチド合成により、抗体のアミノ酸配列変異体を調製する。当該改変には、例えば、抗体のアミノ酸配列内の残基からの欠失および/またはそれへの挿入および/またはその置換がある。欠失、挿入、および置換の任意の組合せは、最終構築物に達するように作成されるが、但し、その最終構築物は所望の性質を有する。そのアミノ酸変化は、グリコシル化部位の数または位置を変化させることなどの、抗体の翻訳後プロセスを変更することもできる。
【0167】
突然変異誘発についての好ましい位置である、抗体のある残基または領域を同定するための有用な方法は、Cunningham and Wells, Science, 244: 1081-1085 (1989)に記載された「アラニンスキャニング突然変異誘発」と呼ばれる。この方法では、複数のターゲット残基の中から一つの残基または基(例えば、arg、asp、his、lys、およびgluなどの荷電した残基)が同定され、中性または陰性に荷電したアミノ酸(最も好ましくはアラニンまたはポリアラニン)に交換されて、アミノ酸と抗原との相互作用に影響を与える。次に、置換に対する機能的感受性を実証しているアミノ酸位置を、置換部位に、または置換部位の代わりにさらなる変異体またはその他の変異体を導入することによって精密化する。このように、アミノ酸配列変異を導入するための部位が予め決定されているが、その突然変異自体の性質は予め決定されている必要はない。例えば、所与の部位での突然変異の性能を分析するために、alaスキャニングまたはランダム突然変異誘発が、ターゲットコドンまたはターゲット領域に施され、発現した抗体変異体が所望の活性についてスクリーニングされる。
【0168】
アミノ酸配列挿入には、長さが1個の残基から100個以上の残基を有するポリペプチドまでの範囲のアミノ末端および/またはカルボキシル末端融合体、ならびに単一または複数のアミノ酸残基の配列内挿入体がある。末端挿入体の例には、N末端メチオニル残基を有する抗体、または細胞毒性ポリペプチドに融合した抗体がある。抗体分子のその他の挿入変異体には、抗体のN末端またはC末端と酵素(例えば、ADEPT用)との、または抗体の血清半減期を増大させるポリペプチドとの融合体がある。
【0169】
別の型の変異体は、アミノ酸置換変異体である。これらの変異体は、抗体分子中の少なくとも一つのアミノ酸残基が異なる残基に交換されている。置換突然変異誘発について最も関心対象の部位には超可変部があるが、FRの変更も考えられている。
【0170】
抗体の適切なコンフォメーションの維持に関与しない任意のシステイン残基を、一般にセリンに置換して、その分子の酸化に対する安定性を改善して、異常な架橋を阻止することもできる。逆に、システイン結合をその抗体に付加して、(特に、その抗体がFvフラグメントなどの抗体フラグメントである場合)その安定性を改善することができる。
【0171】
特に好ましい型の置換変異体は、親抗体(例えば、ヒト化抗体またはヒト抗体)の一つまたは複数の超可変部残基を置換することを伴う。一般的に、さらなる開発のために選択された、結果として生じた変異体は、それらの変異体が作成された元の親抗体に比べて、改善された生物学的性質を有するであろう。当該置換変異体を作成するための簡便法は、ファージディスプレイを使用した親和性成熟を伴う。簡潔には、いくつかの超可変部部位(例えば、6から7個の部位)を突然変異させて全ての可能なアミノ置換を各部位に作成する。このように作成された抗体変異体は、糸状ファージ粒子から一価の様式で、各粒子内にパッケージングされたM13の遺伝子III産物との融合体として提示される。次に、ファージディスプレイされた変異体を、本明細書に開示されたように、それらの生物学的活性(例えば結合親和性)についてスクリーニングする。改変のための候補となる超可変部部位を同定するために、アラニンスキャニング変異誘発を行って、抗原結合に重大に寄与する超可変部残基を同定することができる。または、もしくは追加的に、抗原−抗体複合体の結晶構造を分析して、抗体とヒトHER2との間の接触点を同定することが有益でありうる。そのような接触残基および隣接する残基は、本明細書に詳細に述べられた技法による置換のための候補である。当該変異体がいったん発生すると、一団の変異体を本明細書に記載されたスクリーニングに供し、一つまたは複数の関連するアッセイで優れた性質を有する抗体を、さらなる開発のために選択することができる。
【0172】
この抗体の別の型のアミノ酸変異体は、この抗体の本来のグリコシル化パターンを変更したものである。変更によって、抗体に見出される一つもしくは複数の糖質部分を欠失させること、および/またはその抗体には存在しない一つもしくは複数のグリコシル化部位を付加することを意味する。
【0173】
抗体のグリコシル化は、典型的にはN−結合またはO−結合のいずれかである。N−結合は、アスパラギン残基の側鎖に糖質部分が付着していることを指す。トリペプチド配列であるアスパラギン−X−セリンおよびアスパラギン−X−トレオニン(Xは、プロリンを除く任意のアミノ酸である)は、アスパラギン側鎖に糖質部分を酵素的に付着させるための認識配列である。このように、これらのトリペプチド配列のいずれかがポリペプチド中に存在することで、潜在的なグリコシル化部位が生み出される。O−結合型グリコシル化は、糖であるN−アセチルガラクトサミン、ガラクトース、またはキシロースの一つがヒドロキシアミノ酸に付着していることを指し、5−ヒドロキシプロリンまたは5−ヒドロキシリシンも使用されうるが、そのヒドロキシアミノ酸は最も一般的にはセリンまたはトレオニンである。
【0174】
抗体へのグリコシル化部位の付加は、好都合には、アミノ酸配列を変更することにより、そのアミノ酸配列が(N−結合型グリコシル化部位のための)上記の一つまたは複数のトリペプチド配列を有するようにすることによって実現される。本来の抗体の配列に(O−結合型グリコシル化部位のための)一つまたは複数のセリンまたはトレオニン残基を付加するか、またはこれらに置換することによっても変更を行うことができる。
【0175】
抗体がFc部を含む場合、それに付着している糖質を変更することができる。例えば、抗体のFc部に付着したフコースを欠如した成熟糖質構造を有する抗体が米国特許出願US2003/0157108A1、Presta, L.に記載されている。US2004/0093621A1(Kyowa Hakko Kogyo Co., Ltd)も参照されたい。糖質中の二分岐型N−アセチルグルコサミン(GlcNAc)が抗体のFc部に付着した抗体がWO03/011878、Jean-Mairetらおよび米国特許第6,602,684号、Umanaらに参照されている。オリゴ糖中の少なくとも一つのガラクトース残基が抗体のFc部に付着した抗体がWO97/30087、Patelらに報告されている。変更された糖質がFc部に付着した抗体に関するWO98/58964(Raju, S.)およびWO99/22764(Raju, S.)も参照されたい。
【0176】
例えば、抗体の抗原依存性細胞性細胞傷害作用(ADCC)および/または補体依存性細胞傷害作用(CDC)を増強するためのエフェクター機能に関して、本発明の抗体を改変することが望ましいことがある。これは、抗体のFc部に一つまたは複数のアミノ酸置換を導入することによって実現することができる。または、もしくは追加的に、システイン残基をFc部に導入することによって、この領域に鎖間ジスルフィド結合を形成させることができる。このように作成されたホモ二量体抗体は、改善したインターナリゼーション能ならびに/または増大した補体介在性細胞殺滅および抗体依存性細胞性細胞傷害作用(ADCC)を有することがある。Caron et al., J. Exp Med. 176: 1191-1195 (1992)およびShopes, B. J. Immunol. 148: 2918-2922 (1992)を参照されたい。増強した抗腫瘍活性を有するホモ二量体抗体を、Wolff et al. Cancer Research 53: 2560-2565 (1993)に記載されているようなヘテロ二官能性架橋剤を使用して調製することもできる。または、二つのFc部を有する抗体を加工することができ、それによって、その抗体は増強した補体溶解およびADCC能を有しうる。Stevenson et al. Anti-Cancer Drug Design 3: 219-230 (1989)を参照されたい。
【0177】
WO00/42072(Presta, L.)は、ヒトエフェクター細胞の存在下で改善したADCC機能を有する抗体を記載している。ここで、その抗体は、そのFc部にアミノ酸置換を含む。好ましくは、改善されたADCCを有する抗体はFc部の位置298、333、および/または334に置換を含む。好ましくは、変更されたFc部は、これらの位置の一つ、二つ、または三つに置換を含むか、またはその置換からなるヒトIgG1のFc部である。
【0178】
C1qとの結合性および/または補体依存性細胞傷害作用(CDC)の変更を有する抗体が、WO99/51642、米国特許第6,194,551B1号、米国特許第6,242,195B1号、米国特許第6,528,624B1号、および米国特許第6,538,124号(Idusogie et al.)に記載されている。この抗体は、そのFc部のアミノ酸位置270、322、326、327、329、313、333、および/または334のうち一つまたは複数にアミノ酸置換を含む(KabatのようなFc部残基のEu番号付けを用いる)。
【0179】
抗体の血清半減期を増大させるために、例えば、米国特許第5,739,277号に記載されているように、サルベージレセプター結合エピトープを抗体(特に抗体フラグメント)に組み込むことができる。本明細書中で使用される用語「サルベージレセプター結合エピトープ」は、IgG分子のin vivo血清半減期の増大を担う、IgG分子(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4)のFc部のエピトープを指す。
【0180】
新生児Fcレセプター(FcRn)との結合性が改善し、半減期が増大した抗体は、WO00/42072(Presta, L.)およびUS2005/0014934A1(Hinton et al.)に記載されている。これらの抗体は、その中にFc部とFcRnとの結合性を改善する一つまたは複数の置換を有するFc部を含む。例えば、Fc部はその位置238、250、256、265、272、286、303、305、307、311、312、314、317、340、356、360、362、376、378、380、382、413、424、428または434のうち一つまたは複数に置換を有しうる(KabatのようなFc部残基のEu番号付けを用いる)。FcRnとの改善した結合性を有する好ましいFc部含有抗体変異体は、そのFc部の位置307、380、および434のうち一つ、二つ、または三つにアミノ酸置換を含む。
【0181】
三つ以上(好ましくは四つ)の機能的抗原結合部位を有する加工された抗体も考えられている(米国出願番号US2002/0004587A1、Miller et al.)。
【0182】
抗体のアミノ酸配列変異体をコードしている核酸分子は、当技術分野で公知の様々な方法により調製される。これらの方法には、天然起源からの単離(天然アミノ酸配列変異体の場合)または初期調製変異体もしくは非変異体バージョンの抗体のオリゴヌクレオチド介在性(もしくは部位特異的)突然変異誘発、PCR突然変異誘発、およびカセット突然変異誘発による調製があるが、それに限定されるわけではない。
【0183】
(viii)免疫コンジュゲート
本発明は、化学療法剤、毒素(例えば、細菌、真菌、植物または動物起源の小分子毒素または酵素活性毒素であって、そのフラグメントおよび/または変異体を含む)、または放射性同位体(すなわち放射性コンジュゲート)などの細胞毒性薬にコンジュゲーションした抗体を含む免疫コンジュゲートにも関するものである。
【0184】
当該免疫コンジュゲートの発生に有用な化学療法剤は上に記載されている。抗体と、カリケアミシン、メイタンシン(米国特許第5,208,020号)、トリコテン(trichothene)、およびCC1065などの一つまたは複数の小分子毒素とのコンジュゲートも本明細書において考えられている。
【0185】
本発明の好ましい一態様では、抗体は、一つまたは複数のメイタンシン分子(例えば、抗体1分子あたり約1から約10個のメイタンシン分子)とコンジュゲーションしている。メイタンシンを、例えばMay−SS−Meに変換でき、それをMay−SH3に還元して改変抗体と反応させ(Chari et al., Cancer Research 52: 127-131 (1992))、メイタンシノイド−抗体免疫コンジュゲートを発生させることができる。
【0186】
関心対象の別の免疫コンジュゲートは、一つまたは複数のカリケアミシン分子とコンジュゲーションしている抗体を含む。カリケアミシンファミリーの抗生物質は、サブピコモル濃度で、2本鎖DNA切断を産生することができる。使用されうるカリケアミシンの構造アナログには、γ1I、α2I、α3I、N−アセチル−γ1I、PSAG、およびθI1(Hinman et al. Cancer Research 53:3336-3342 (1993)およびLode et al. Cancer Research 58:2925-2928 (1998))が挙げられるが、それに限定されるわけではない。参照により本明細書に特に組み入れられる米国特許第5,714,586号;第5,712,374号;第5,264,586号;および第5,773,001号も参照されたい。
【0187】
使用することができる酵素活性毒素およびそのフラグメントには、ジフテリアA鎖、ジフテリア毒素の非結合性活性フラグメント、外毒素A鎖(Pseudomonas aeruginosa由来)、リシンA鎖、アブリンA鎖、モデシン(modeccin)A鎖、アルファ−サルシン(sarcin)、Aleurites fordiiタンパク質、ジアンチン(dianthin)タンパク質、Phytolaca americanaタンパク質(PAPI、PAPII、およびPAP-S)、momordica charantia阻害剤、クルシン、クロチン、sapaonaria officinalis阻害剤、ゲロニン、マイトゲリン(mitogellin)、レストリクトシン(restrictocin)、フェノマイシン(phenomycin)、エノマイシン(enomycin)、およびトリコテセンが挙げられる。例えば、1993年10月28日に公開されたWO93/21232を参照されたい。
【0188】
本発明は、抗体と核分解活性を有する化合物(例えば、デオキシリボヌクレアーゼ(DNase)などのリボヌクレアーゼまたはDNAエンドヌクレアーゼ)との間に形成される免疫コンジュゲートをさらに考えている。
【0189】
放射性コンジュゲーションしたHER2抗体の産生に種々の放射性同位体を利用することができる。例には、At211、I131、I125、Y90、Re186、Re188、Sm153、Bi212、P32、およびLuの放射性同位体が挙げられる。
【0190】
抗体と細胞毒性薬とのコンジュゲートを、N−スクシンイミジル−3−(2−ピリジルジチオール)プロピオネート(SPDP)、スクシインミジル−4−(N−マレイミドメチル)シクロヘキサン−1−カルボキシレート、イミノチオラン(IT)、イミドエステルの二官能性誘導体(ジメチルアジポイミデートHCLなど)、活性エステル(スベリン酸ジスクシンイミジルなど)、アルデヒド(グルタルアルデヒドなど)、ビス−アジド化合物(ビス(p−アジドベンゾイル)ヘキサンジアミンなど)、ビス−ジアゾニウム誘導体(ビス−(p−ジアゾニウムベンゾイル)−エチレンジアミンなど)、ジイソシアネート(トリエン(tolyene)−2,6−ジイソシアネートなど)、および二活性フッ素化合物(1,5−ジフルオロ−2,4−ジニトロベンゼンなど)のような多様な二官能性タンパク質カップリング剤を使用して作成することができる。例えば、Vitetta et al. Science 238:1098 (1987)に記載されているように、リシン免疫毒素を調製することができる。炭素14ラベル1−イソチオシアナトベンジル−3−メチルジエチレントリアミン五酢酸(MX-DTPA)は、抗体に放射性ヌクレオチドをコンジュゲーションするための例示的なキレート剤である。WO94/11026を参照されたい。リンカーは、細胞内で細胞毒性薬物の放出を容易にする「切断可能なリンカー」でありうる。例えば、酸に不安定なリンカー、ペプチダーゼ感受性リンカー、ジメチルリンカー、またはジスルフィド含有リンカー(Chari et al. Cancer Research 52:127-131 (1992))を使用することができる。
【0191】
または、抗体および細胞毒性薬を含む融合タンパク質を、例えばリコンビナント技法またはペプチド合成によって作成することができる。
【0192】
その他の免疫コンジュゲートが本明細書において考えられている。例えば、多様な非タンパク質性ポリマー、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシアルキレン、またはポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールとのコポリマーのうちの一つに抗体を連結することができる。例えばコアセルベーション技法もしくは界面重合によって調製されたマイクロカプセル(例えば、それぞれヒドロキシメチルセルロースマイクロカプセルもしくはゼラチンマイクロカプセル、およびポリメタクリル酸メチルマイクロカプセル)に、コロイド状薬物送達系(例えば、リポソーム、アルブミンミクロスフェア、ミクロエマルション、ナノ粒子、およびナノカプセル)に、またはマクロエマルションに、抗体を捕捉することもできる。このような技法は、Remington's Pharmaceutical Sciences, 16th edition, Oslo, A., Ed., (1980)に開示されている。
【0193】
本明細書において開示された抗体を、免疫リポソームとして処方することもできる。抗体を含有するリポソームは、Epstein et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82:3688 (1985);Hwang et al., Proc. Natl Acad. Sci. USA 77:4030 (1980);米国特許第4,485,045号および第4,544,545号;ならびに1997年10月23日に公開されたWO97/38731に記載されているように、当技術分野において公知の方法により調製される。循環時間が高まったリポソームは、米国特許第5,013,556号に開示されている。
【0194】
特に有用なリポソームは、ホスファチジルコリン、コレステロール、およびPEG−誘導体化ホスファチジルエタノールアミン(PEG−PE)を含む脂質組成物を用いた逆相蒸発法によって発生させることができる。所定の孔径のフィルターを通してリポソームを押出して、所望の直径を有するリポソームが得られる。本発明の抗体のFab’フラグメントを、ジスルフィド交換反応を介して、Martin et al. J. Biol. Chem. 257:286-288 (1982)に記載されているようにリポソームにコンジュゲーションすることができる。場合により、化学療法剤がリポソーム内に包含される。Gabizon et al. J. National Cancer Inst. 81(19)1484 (1989)を参照されたい。
【0195】
IV. 薬学的製剤
本発明により使用されるMMPアンタゴニストの治療用製剤は、所望の純度を有するMMPアンタゴニストを、随意の薬学的に許容されうる担体、賦形剤、または安定化剤(Remington's Pharmaceutical Sciences 16th edition, Osol, A. Ed. (1980))と共に、凍結乾燥製剤または水溶液の形態で混合することによって、保存用に調製される。許容されうる担体、賦形剤、または安定化剤は、採用される投薬量および濃度でレシピエントに対して無毒性であり、これらには、リン酸塩、クエン酸塩、およびその他の有機酸などの緩衝剤;アスコルビン酸およびメチオニンを含めた抗酸化剤;保存料(オクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロリド;ヘキサメトニウムクロリド;塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム;フェノール、ブチルアルコール、もしくはベンジルアルコール;メチルパラベンもしくはプロピルパラベンなどのアルキルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3−ペンタノール;およびm−クレゾールなど);(約10残基未満の)低分子量ポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチン、もしくは免疫グロブリンなどのタンパク質;ポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン、もしくはリシンなどのアミノ酸;グルコース、マンノース、もしくはデキストリンを含めた単糖類、二糖類、およびその他の糖質;EDTAなどのキレート剤;スクロース、マンニトール、トレハロース、もしくはソルビトールなどの糖;ナトリウムなどの塩形成対イオン;金属複合体(例えば、Zn−タンパク質複合体);ならびに/またはTWEEN(商標)、PLURONICS(商標)、もしくはポリエチレングリコール(PEG)などの非イオン界面活性剤が挙げられる。凍結乾燥抗体製剤は、参照により本明細書に特に組み入れられるWO97/04801に記載されている。
【0196】
本明細書における製剤は、処置される特定の適応に必要な一つを超える活性化合物、好ましくは相互に有害な影響を及ぼさない相補的活性を有する化合物も含有することがある。MMPアンタゴニストと組合せることのできる様々な薬物は下記の処置方法の項に記載されている。そのような分子は、適切には、意図された目的に有効な量で組合されて存在する。
【0197】
例えばコアセルベーション技法または界面重合によって調製されたマイクロカプセル、例えばそれぞれヒドロキシメチルセルロースマイクロカプセルもしくはゼラチン−マイクロカプセルおよびポリメタクリル酸メチルマイクロカプセルに、コロイド状薬物送達系(例えば、リポソーム、アルブミンミクロスフェア、ミクロエマルション、ナノ粒子、およびナノカプセル)に、またはマクロエマルションに、活性成分を捕捉することもできる。このような技法はRemington's Pharmaceutical Sciences, 16th edition, Oslo, A., Ed.,(1980)に開示されている。
【0198】
持続性放出製剤を調製することができる。持続性放出製剤の適切な例には、抗体を含有する固体疎水性重合体の半透過性マトリックスがあり、このマトリックスは、造形品、例えばフィルムまたはマイクロカプセルの形態である。持続性放出マトリックスの例には、ポリエステル、ヒドロゲル(例えば、ポリ(メタクリル酸2−ヒドロキシエチル)、またはポリビニルアルコール、ポリラクチド(米国特許第3,773,919号)、L−グルタミン酸とγ−エチル−L−グルタミン酸とのコポリマー、非分解性エチレン−酢酸ビニル、LUPRON DEPOT(商標)(乳酸−グリコール酸コポリマーおよび酢酸ロイプロリドから構成される注射可能なミクロスフェア)などの分解性の乳酸−グリコール酸コポリマー、およびポリ−D−(−)−3−ヒドロキシ酪酸が挙げられる。
【0199】
in vivo投与のために使用される製剤は無菌でなければならない。これは、無菌濾過膜を通して濾過することにより容易に実現される。
【0200】
V. 処置
MMPアンタゴニストで処置することができる多様なガンの例を上記定義の項に挙げる。MMPアンタゴニストの投与の結果として、ガンの兆候および症状に改善が生じるものである。
【0201】
MMPアンタゴニストは、例えばボーラスとしての、もしくはある時間にわたる連続注入による静脈内投与、筋肉内、腹腔内、脳脊髄内、皮下、関節内、滑膜内、鞘内、経口、局所、または吸入経路などの公知の方法により、ヒト患者に投与される。
【0202】
疾患の予防または処置のためのMMPアンタゴニストの用量は、上に定義されたような処置されるガンの型、ガンの重症度および経過、その抗体が予防目的のために、それとも治療目的のために投与されるか、以前の治療法、患者の臨床歴およびその抗体に対する応答、ならびに担当の医師の判断に依存するものである。
【0203】
MMPアンタゴニストは投与される唯一の抗腫瘍薬でありうるが、場合によっては患者はMMPアンタゴニストと、一つまたは複数の他の抗腫瘍剤との組合せで処置される。組合せ投与には、別々の製剤または単一の薬学的製剤を用いた同時投与または併行投与、およびいずれかの順序の連続投与があり、ここで、好ましくは両方の(または全ての)活性薬剤がそれらの生物学的活性を同時に発揮する期間が存在する。このように、MMPアンタゴニストの投与前または投与後に他の抗腫瘍剤を投与することができる。本態様では、MMPアンタゴニストの少なくとも1回の投与と、その他の抗腫瘍剤の少なくとも1回の投与との間のタイミングは、好ましくは約1か月以下であり、最も好ましくは約2週間以下である。または、MMPアンタゴニストおよび他の抗腫瘍剤は、単一の製剤または別々の製剤の形で患者に同時投与される。MMPアンタゴニストとその他の抗腫瘍剤との組合せを用いた処置により、患者に対して相乗的な、または相加的よりも大きな治療上の利益が生じうる。
【0204】
MMPアンタゴニストと組合せることができる第2の抗腫瘍剤の例には、一つまたは複数の化学療法剤;HER阻害剤(例えばトラスツズマブ、パーツズマブ、セツキシマブ、ABX−EGF、EMD7200、ゲフィチニブ、エルロチニブ、CP724714、CI1033、GW572016、IMC−11F8、TAK165など);Raf阻害剤および/またはras阻害剤(例えばWO2003/86467参照);トラスツズマブなどの成長阻害性HER2抗体;パーツズマブなどのHER二量体化阻害剤;HER2過剰発現細胞のアポトーシスを誘導する、7C2、7F3、またはそのヒト化変異体などのHER2抗体;EGFR、HER3、HER4などの腫瘍関連抗原に対する抗体;抗ホルモン化合物、例えばタモキシフェンまたはアロマターゼ阻害剤などの抗エストロゲン化合物;(治療に関連する任意の心筋機能障害を予防または低減するための)心保護剤;サイトカイン;EGFRターゲット薬(TARCEVA(登録商標)、IRESSA(登録商標)、またはセツキシマブなど);抗血管形成剤(特にAVASTIN(商標)の商標でGenentechによって販売されているベバシズマブ);チロシンキナーゼ阻害剤;COX阻害剤(例えばCOX−1阻害剤またはCOX−2阻害剤);非ステロイド系抗炎症薬であるセレコキシブ(CELEBREX(登録商標));ファルネシルトランスフェラーゼ阻害剤(例えば、Johnson and Johnsonから入手できるチピファルニブ(Tipifarnib)/ZARNESTRA(登録商標)R115777、またはSchering-Ploughから入手できるロナファルニブ(Lonafarnib)SCH66336);オレゴボマブ(Oregovomab)(MoAb B43.13)などの、ガン胎児タンパク質CA125と結合する抗体;HER2ワクチン(PharmexiaからのHER2 AutoVacワクチン、またはDendreonからのAPC8024タンパク質ワクチン、またはGSK/CorixaからのHER2ペプチドワクチン);ドキソルビシンHClリポソーム注射液(DOXIL(登録商標));トポテカンなどのトポイソメラーゼI阻害剤;タキサン;ラパチニブ/GW572016などのHER2およびEGFRの二重チロシンキナーゼ阻害剤;TLK286(TELCYTA(登録商標));EMD−7200;アセトアミノフェン、ジフェンヒドラミン、またはメペリジンなどの解熱薬;造血成長因子などが挙げられる。
【0205】
上記で同時投与された薬剤のうち任意のものについての適切な投薬量は、現在使用されている投薬量であり、その薬剤およびMMPアンタゴニストの組合せ作用(相乗作用)が原因で減量されうる。
【0206】
上記の治療方式以外に、ガン細胞の外科的除去および/または放射線療法に患者を供することができる。
【0207】
タンパク質MMPアンタゴニストを患者に投与することの他に、本出願は遺伝子療法によるMMPアンタゴニストの投与を考えている。例えば、1996年3月14日に公開された、細胞内抗体を発生させるための遺伝子療法の使用に関するWO96/07321を参照されたい。
【0208】
(場合によりベクターに含まれる)核酸を患者の細胞内にin vivoおよびex vivoで到達させるための、二つの主な取組みがある。in vivo送達については、患者に直接、通常はその抗体が、必要とされる部位に核酸を注射する。ex vivo処置については、患者の細胞が取出され、核酸をこれらの単離された細胞に導入して、改変された細胞をその患者に直接投与するか、または例えば多孔性膜内に封入して、その多孔性膜をその患者に植込む(例えば米国特許第4,892,538号および第5,283,187号参照)かのいずれかとする。生存可能な細胞に核酸を導入するために利用できる様々な技法がある。これらの技法は、核酸が培養細胞にin vitroで導入されるか、または意図された宿主の細胞にin vivoで導入されるかに応じて変動する。哺乳動物細胞にin vitroで核酸を移行させるのに適した技法には、リポソームの使用、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、細胞融合、DEAE−デキストラン、リン酸カルシウム沈殿法などが挙げられる。遺伝子のex vivo送達用に通例使用されているベクターはレトロウイルスである。
【0209】
一般に好まれるin vivo核酸移行技法には、(アデノウイルス、Herpes simplex Iウイルス、またはアデノ随伴ウイルスなどの)ウイルスベクターおよび脂質に基づく系を用いたトランスフェクションが挙げられる(遺伝子の脂質介在性移行に有用な脂質は、例えばDOTMA、DOPE、およびDC−Cholである)。いくつかの状況では、細胞表面膜タンパク質またはターゲット細胞に特異的な抗体、ターゲット細胞上のレセプターに対するリガンドなどの、ターゲット細胞をターゲティングする薬剤を核酸の供給源に提供することが望ましい。リポソームが採用された場合、エンドサイトーシスに関連する細胞表面膜タンパク質に結合するタンパク質、例えば、特定の細胞型に親和性のキャプシドタンパク質またはそのフラグメント、サイクリングにおいてインターナリゼーションを受けるタンパク質に対する抗体、および細胞内局在をターゲティングして細胞内半減期を延ばすタンパク質を、ターゲティングに、かつ/または取込みを促進するために使用することができる。レセプター介在性エンドサイトーシスの技法は、例えば、Wu et al., J. Biol. Chem. 262:4429-4432 (1987);およびWagner et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:3410-3414 (1990)に記載されている。現在公知の遺伝子マーカー作成および遺伝子治療プロトコールの総説については、Anderson et al., Science 256:808-813 (1992)を参照されたい。WO93/25673および本明細書に引用された参考文献も参照されたい。
【0210】
VI.材料の寄託
以下のハイブリドーマ細胞系は、American Type Culture Collection, 10801 University Boulevard, Manassas, VA 20110-2209, USA(ATCC)に寄託された:
抗体の名称 ATCC番号 寄託日
7C2 ATCC HB−12215 1996年10月17日
7F3 ATCC HB−12216 1996年10月17日
4D5 ATCC CRL10463 1990年 5月24日
2C4 ATCC HB−12697 1999年 4月 8日
【0211】
本発明のさらなる詳細は、以下の非限定的な実施例によって例示される。本明細書における全ての引用の開示は、参照により本明細書に特に組み入れられる。
【0212】
実施例1
以下の実施例は、HER2のシェディングに果たすマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)の役割を検討したものである。
【0213】
材料および方法
細胞培養およびトランスフェクション
本研究で使用した全ての細胞系は、American Type Tissue Culture Collection(ATCC, Manassas, VA)から得られたものである。10%熱不活性化FBSおよび2mM L−グルタミンを補充した高グルコースDMEM:HamのF12(50:50)中でBT474、MCF−7、およびSKBR−3細胞を維持した。10%熱不活性化FBSおよび2mM L−グルタミンを補充した高グルコースDMEM中でCos−7細胞を維持した。5%CO2を供給した加湿インキュベータ中で、細胞系を37℃で維持した。製造業者の説明書通りにキットV(AMAXA(商標))を使用して、BT474細胞およびSKBR−3細胞に、記載された構築物をエレクトロポレーションにより一過性トランスフェクションした。製造業者の推奨通りにLIPOFECTAMINE(商標)2000(Invitrogen)を使用して、記載されたようにCos−7細胞にトランスフェクションを行った。
【0214】
Fo5およびf2:1282マウス異種移植腫瘍系
Fo5系およびF2:1282系は以前に記載されている(Finkle et al., Clin. Cancer Res. 10:2499-2511 (2004))。MMTV HER2トランスジェニックマウス由来の初代腫瘍からこれらの系を得て、これらの系をFVBマウスの乳腺脂肪体中で継代した。
【0215】
GM6001の注射
Fo5腫瘍をFVBマウスに移植し、平均サイズ400〜600mm3に成長させてから研究を開始した。GM6001( 3−[N−ヒドロキシカルボミル]−[2R]−イソブチルプロピオニル−L−トリプトファンメチルアミド)をCalbiochemから入手し、4%カルボキシメチルセルロース/0.9%PBSのスラリー中で再構成し、100mg/kg体重で3日間腹腔内注射することにより毎日投与した。3日目の注射の24時間後に動物を屠殺し、心穿刺により血清を収集した。0日目および4日目に腫瘍のサイズを測定した。腫瘍を除去し、さらに分析するために急速冷凍した。
【0216】
RNAの調製およびAFFYMETRIX(商標)アレイ
RNAEASY(商標)キット(Qiagen, Chatsworth, CA)を用いて、急速冷凍された腫瘍試料から総RNAを単離した。残留したゲノムDNAをDNAse I処理(Roche Molecular Biochemicals)により除去した。マイクロアレイ実験を行い、以前に記載されたように解析した(Jin, H et al., Circulation 103:736-742 (2001))。試料をAFFYMETRIX(商標)マウスゲノム単一アレイ(MOE430P)および公知の遺伝子アレイ(MOE430A)(AFFYMETRIX(商標), Inc., Santa Clara, CA)にハイブリダイゼーションした。Fo5腫瘍試料3個およびF2:1282腫瘍試料3個について実験を3回の繰り返しで行った。対応のあるMann−Whitneyの比較を行い、80%を超える一致率で、発現の2倍の増大を有する遺伝子を有意とみなした。細胞系および組織のAFFYMETRIX(商標)マイクロアレイ解析からの遺伝子発現データのコレクションであるGeneLogic Bioexpress Database(GeneLogic, Gaithersburg, MD)を使用して、SKBR−3細胞系およびBT474細胞系での発現についてFo5−f2:1282腫瘍分別スクリーニングから同定されたプロテアーゼの発現を検討した。
【0217】
HER2 ECDのELISA
Fo5またはf2:1282異種移植腫瘍を有するマウス由来の血清を心穿刺により収集し、以前に記載されたHER2 ELISAを使用してHER2 ECDレベルを検出した(Finkle et al. Clin. Cancer Res. 10:2499-2511 (2004))。アッセイ緩衝液(PBS、0.5%BSA、0.05%TWEEN(登録商標)20、10ppm PROCLIN(登録商標)300、0.2% BBG、0.25% CHAPS、0.15M NaCl、5mM EDTA(pH7.4))を使用して血清を1:50に希釈し、続いて追加的に1:2の段階希釈を行った。NUNC(登録商標)Maxisorpプレート上でヤギ抗HER2ポリクローナル抗体(Genentech)を用いて、シェディングされたHER2を捕捉し、ビオチンとコンジュゲーションしたウサギ抗HER2ポリクローナル抗体(Genentech)に続いてAMDEX(商標)−ストレプトアビジン−ホースラディッシュペルオキシダーゼ抗体(Amersham Pharmacia Biotech)を使用して、以前に記載された手順通りにそれを検出した(Sias et al., J. Immunol. Meth. 109:219-27 (1990))。細胞培養実験については、示されたように細胞を処理して、順化培地を収集し、アッセイ緩衝液で1:2の段階希釈を行った。標準物質として精製リコンビナントHER2 ECDタンパク質(Genentech)を使用して、標準曲線の4変数フィッティングにより、血清中または順化培地中のシェディングされたHER2の濃度を決定した。
【0218】
DNA構築物およびタンパク質の精製
テンプレートとして本来のクローンを使用したPCRにより、ヒトMMP−15をpRK5にクローニングした。以下のプライマーを使用したPCRにより、C末端にV5Hisタグを付けた完全長版を発生させ、それをpcDNA3.1V5Hisにクローニングした。
【0219】
【表2】
【0220】
以下のプライマーを使用したPCRにより、膜貫通ドメインを欠如した可溶性版のMMP−15を発生させた。
【0221】
【表3】
【0222】
部位特異的突然変異誘発により成熟タンパク質のアミノ酸260のグルタミンをアラニン残基に置換することによって、MMP−15の触媒機能喪失(catalytically dead)突然変異体を発生させた。
【0223】
以下のプライマーを使用したPCRにより、pRK5.gDHER2−Fc(pRK5.gDHER2−IgG)を発生させ、XhoI−Mluで消化したpRK5.gDHER2−Fcにそれをクローニングした(Fitzpatrick et. al., FEBBS Lett. 431(1):102-6 (1998))。
【0224】
【表4】
【0225】
これにより、HER2の推定上の切断部位が導入された。その切断部位は、SKBR−3順化培地から単離された精製HER2 ECDから同定されたものである(Yuan et al, Protein Expression and Purification 29:217-222 (2003))。
【0226】
以下のPCRプライマーを使用して、HER2のドメインIVだけを含む切り詰め版のgDHER2−Fcも発生させた。
【0227】
【表5】
【0228】
pRK5.HER3-FcおよびpRK5.HER4-Fcは以前に記載されている(Fitzpatrick et al., FEBBS Lett. 431(1):102-6 (1998))。FLAGエピトープ(Asp−Tyr−Lys−Asp−Asp−Asp−Asp−Lys(配列番号17))をpRK5のN末端に導入した。HER−Fc融合タンパク質を293細胞にトランスフェクションし、以前に記載された通りに無血清順化培地からその融合タンパク質を精製した(Fitzpatrick et. al., FEBBS Lett, 431(1):102-6 (1998))。可溶性MMP−15V5HisおよびsMMP−15V5His(E260A)タンパク質を、一過性トランスフェクションした293細胞の順化培地から発生させ、製造業者(Qiagen)の推奨通りにNi−NTAアガロースを使用してそれを精製した。
【0229】
shRNAによるMMP−15のノックダウン
細胞に導入した場合にMMP−15タンパク質レベルを低減する能力について、いくつかの異なるshRNAを評価した。ヒトMMP−15に対する最も有効なshRNAは、nt1396〜1414(GENBANK(商標)アクセッション番号NM_002428)に対応するbpである
【0230】
【表6】
【0231】
を認識することが見出された。MMP−15に対するRNAiを、shRNAを形成するための内部ヘアピンを含むオリゴである
【0232】
【表7】
【0233】
として、pSIRENベクター(BD Biosciences)のBamHI−EcoRI部位に導入した。MMP−25に対するshRNAをOPENBIOSYSTEMS(商標)から購入した。製造業者の推奨通りにAMAXA(商標)キットVを使用して、SKBR−3細胞およびBT474細胞にpSIREN shRNA構築物またはベクター単独を一過性トランスフェクションした。48時間後に順化培地を収集し、HER2 ELISAにより、シェディングされたHER2についてアッセイし、2×試料緩衝液を使用してプレート上で直接細胞を溶解させた。ウサギ抗MMP−15ポリクローナル抗体(Labvisionカタログ番号RB−1546−P)またはマウス抗HER2モノクローナル抗体Ab−15(Labvision、カタログ番号MS−599−P0)を使用したウエスタンブロットにより、MMP−15、完全長HER2、およびp95 HER2タンパク質を検出した。
【0234】
HER2のin vitro切断アッセイ
基質として精製gDHER2−Fc融合タンパク質を使用して、候補となるプロテアーゼがHER2 ECDを切断する能力をin vitroで決定した。MT1−MMP(MMP−14)、MT2−MMP(MMP−15)、MT3−MMP(MMP−16)、MT4−MMP(MMP−19)、およびMT5−MMP(MMP−25)の精製された触媒ドメインをR&D systemsから購入した。記載されたようにアッセイ緩衝液(100mMトリス(pH=7.4)、100mM NaCl、2.5μM ZnCl2、10mM CaCl2、0.001%Brij35)中で精製MMPタンパク質をgDHER2−Fcまたは他のHER−Fcタンパク質と酵素:基質が1:100の比になるように混合し、37℃で20分間インキュベーションした。等量の2×試料緩衝液(Invitrogen)を使用して反応を停止させ、5分間煮沸してから4〜20%のトリス−グリシン勾配ゲル(Invitrogen)にロードした。製造業者の推奨通りにGEL CODE BLUE(商標)染色試薬(Pierceカタログ番号24592)で染色することによりタンパク質を可視化した。自動タンパク質シーケンサを使用した自動エドマン分解によるタンパク質N末端配列決定によりMMPの切断部位を決定した(Kishiyama, A., Anal. Chem. 72(21):5431-6 (2000))。
【0235】
免疫沈降アッセイおよびウエスタンブロット
LIPOFECTAMINE(商標)2000を使用して、pRK5.Flag−HER2構築物およびpcDNA3.MMP−15構築物、またはpcDNA3.1ベクター単独をCos−7細胞に同時トランスフェクションした。細胞を48時間回復させた。トランスフェクションされた細胞をPBSで洗い、溶解緩衝液(1%TRITON X−100(商標)、50mMトリス(pH=7.4)、150mM NaCl、1mM PMSF、10μg/mlロイペプチン、10U/mlアプロチニン、および2mM Na2VO4)中で細胞を破裂させた。遠心分離により溶解液から不溶性物質を除き、BCAタンパク質アッセイキット(Pierceカタログ番号23229)を使用して総タンパク質レベルを決定した。細胞総タンパク質200μgを溶解緩衝液に加えて終容積1mlとして、抗Flag M2−アガロース(Sigma)を使用して、またはプロテインA/Gアガロースと複合体を形成した抗MMP−15ポリクローナル抗体を用いて、Flag−HER2を免疫沈降させた。免疫複合体を溶解緩衝液で2回洗い、SDS試料緩衝液中に再懸濁して煮沸した。試料を4〜12%トリス−グリシン勾配ゲル(Invitrogen)で分離させ、ニトロセルロース膜に移行させた。ブロットを5%BSA/TBST中でブロッキングし、MMP−15またはHER2いずれかに対する抗体に続いて、記載されたようにペルオキシダーゼとコンジュゲーションした抗マウスまたは抗ウサギ二次抗体を用いて探査した。強化化学ルミネセンスによりブロットを発色させた(ECL、Amersham Pharmacia Biotech)。
【0236】
プロテアーゼ阻害剤と共にFo5腫瘍およびf2:1282腫瘍を溶解緩衝液中に再懸濁し、氷上でPOLYTRON TISSUEMIZER(商標)(PT2100)を使用して均質化した。遠心分離により、腫瘍溶解液から不溶性物質を除き、BCAタンパク質アッセイキットを使用して総タンパク質レベルを決定した。プロテインA/Gセファロースと複合体を形成したマウスモノクローナル抗体Ab−15(Labvision, カタログ番号MS−599−P0)を使用して、少なくとも三つの独立した腫瘍溶解液由来の総タンパク質1mgから4℃で一晩HER2を免疫沈降させた。遠心分離により複合体をペレットにして、溶解緩衝液で2回洗浄し、SDS試料緩衝液中に再懸濁して煮沸した。4〜12%トリス−グリシンゲルで試料を分離し、ニトロセルロース膜に移行させた。リン酸化HER2を検出するためのマウスモノクローナル抗体Ab−18(Labvisionカタログ番号MS−1072−P)、またはAb−15(Labvsion カタログ番号MS−599−P0)でブロットを探査した。MMP−14を検出するためのウサギポリクローナルAb−1(Labvisionカタログ番号RB−1544−P)、MMP−15を検出するためのウサギポリクローナルAb−1(Labvision カタログ番号RB−1546−P)、またはMMP−25を検出するためのウサギポリクローナルAb−1(Oncogene Research Productsカタログ番号PC499)を使用して、腫瘍溶解液50ugから、またはBT474もしくはMCF−7もしくはSKBR−3細胞溶解液からの50ugから、ウエスタンブロットによりMMP−14、MMP−15、およびMMP−25の発現を評価した。
【0237】
細胞溶解液50μgのウエスタンブロットにより、活性化MAPK(Cell Signaling Technology カタログ番号9101)、ホスホAkt Ser473(Cell Signaling Technologyカタログ番号9271)、総Akt(Cell Signaling Technologyカタログ番号9272)、総Erk(Cell Signaling Technologyカタログ番号9102)、ホスホHER3(Cell Signaling Technologyカタログ番号4791)を決定した。
【0238】
増殖アッセイ
4回の繰り返しで、ウェル1個あたり104細胞の密度で96ウェルの皿(Nunc)に細胞を蒔き、一晩接着させた。示されたように細胞を処理するか、または示されたようにトランスフェクションを行った。3日間のインキュベーション後に、Alamar Blue試薬(Trek Diagnostic Systems、カタログ番号00−100)25μlを各ウェルに加え、追加的に3時間インキュベーションした。励起波長530nmおよび発光波長590nmで製造業者の推奨通りに蛍光計でプレートを読み取った。以前に記載されたように、トランスフェクションされた未刺激細胞または対照細胞に比べた増殖を決定した(Lewis et al., Cancer Res. 56(6):1457-65 (1996))。
【0239】
結果
HER2のECDは培養した乳ガン細胞からタンパク質分解的にシェディングされ、転移性乳ガンを有する患者の血清中に検出された。この場合、HER2のECDは臨床的予後不良と関連している(Molina et al. Cancer Res. 61:4744-4749 (2001))。しかし、HER2のシェディングの生物学的役割ははっきりしない。本明細書における実験は、HER2シェダーゼを同定するために実施された。
【0240】
トラスツズマブが以前に乳ガン細胞系におけるシェディングを阻害することが実証されたことから、HER2シェダーゼの同定も重要でありうる(Molina et al. Cancer Res. 61:4744-4749 (2001))。以前に報告された結果と一致して、トラスツズマブは、乳ガン細胞系BT474およびSKBR−3細胞におけるシェディングを、濃度10μg/mlで60%を超えて低減し(図5、左欄)、これらの細胞系における細胞増殖を50%低減した(図5、右欄)。
【0241】
乳腺腫瘍がMMTVHER2トランスジェニックマウスに由来する動物モデル系(Finkle et al. Clin. Cancer Res. 10:2499-2511 (2004))を使用して、HER2シェダーゼを同定した。この動物モデル系は、血清中に異なるレベルのHER2を繰り返しシェディングし、トラスツズマブに対して感受性の差を示す(図6、右欄)。血清HER2レベルにおけるこの差は、3つの独立したFo5腫瘍細胞溶解液から免疫沈降したタンパク質フラグメントの存在ともよく相関し、そのフラグメントはp95 HER2のサイズと一致するみかけの分子量95kDを有する(図6、左下欄)。このフラグメントはFo5腫瘍細胞溶解液中で構成的にリン酸化され、このフラグメントはこれらの腫瘍において生物学的活性を有しうることを示している。増大したレベルのHERシェダーゼは、この細胞系のトラスツズマブ耐性に貢献するおそれがある。それは、トラスツズマブのエピトープがタンパク質分解性切断により失われると思われるからである(Cho et al. Nature 421:756-760 (2003))。
【0242】
Fo5腫瘍系がさらに高レベルのHER2をシェディングし、高レベルのp95 HER2フラグメントを有することから、f2:1282腫瘍に比べてFo5腫瘍でアップレギュレーションされる転写物を同定するための取組みとして、発現差の分析を使用した。平均腫瘍サイズ300〜600mm3のFo5腫瘍またはf2:1282腫瘍のいずれか由来の三つの個別の腫瘍試料からRNAを調製した。独立した腫瘍試料それぞれに由来するRNAを3回の繰り返しでAFFYMETRIX(商標)マウスゲノム単一アレイチップ(MOE430P)および公知の遺伝子アレイ(MOE430A)にハイブリダイゼーションさせた。対応のあるMann−Whitney比較を行い、Fo5腫瘍試料でアップレギュレーションされた638個の転写物を同定した。BT474細胞系およびSKBR−3細胞系もまた順化培地中にHER2 ECDをシェディングすることから(図5、左欄)、Genelogic Bioexpressデータベースを使用して、このリストを両細胞系で発現している転写物と比較した。HER2シェダーゼを同定するために採用された取組みを図7に示す。
【0243】
候補遺伝子数を絞り込むために、一般的なメタロプロテアーゼ阻害剤GM6001を使用して、MMP活性がHER2のシェディング調節に役割を果たすかどうかを評価した。HER2 ECDのELISAにより決定したとき、SKBR−3細胞においてGM6001の立体異性体ではなくGM6001は、用量依存的にHER2のシェディングを阻害した(図8左欄)。この結果は、乳ガン細胞系において一般メタロプロテアーゼ阻害剤BB−94がHER ECDのシェディングを阻害したという、以前に公表された報告と一致するものである(Codony-Servat et al. Cancer Res. 59:1196-1201 (1999))。Timp−1、Timp−2、およびTimp−3はメタロプロテアーゼ活性を調節する天然ペプチドである(Overall and Lopez-Otin Nature Reviews Cancer 2:657-672 (2002))。精製Timp−1、Timp−2、またはTimp−3を濃度1μg/mlでSKBR−3細胞の順化培地に加えると、HER2 ECDレベルが低減した(図8、右欄)。しかし、Timp−2は最も効率的にHER2 ECDのシェディングを低減した(図8、右欄)。Timp−2はMT−MMPサブファミリーのメタロプロテアーゼを効率的に阻害することが知られている(Overall and Lopez-Otin Nature Reviews Cancer 2:657-672 (2002))。これらのデータは、SKBR−3細胞およびBT474細胞においてHER2のシェディングを担うプロテアーゼがメタロプロテアーゼであることを示唆し、生物情報学によるスクリーニングから同定された候補の数を有意に減らした。
【0244】
GENELOGIC(商標)データベースに基づくと、SKBR−3細胞およびBT474細胞にMT−MMPファミリーのメンバーがいくつか発現している。AFFYMETRIX(商標)マイクロアレイのデータから、MT1−MMPおよびMT2−MMPの両方がFo5腫瘍にも発現している。これらの転写物が発現しているかどうかを決定するために、ヒトタンパク質およびマウスタンパク質の両方を認識する、これらのMT−MMPに対するポリクローナル抗体を用いて、Fo5およびf2:1282腫瘍ならびに乳ガン細胞系の溶解液の免疫ブロットを行った(図9)。これらの細胞系は全て、異なるレベルでMMP−14、MMP−15、およびMMP−25を発現している。f2:1282およびFo5腫瘍細胞溶解液の両方にMMP−14は発現しているが、MMP−15はFo5腫瘍溶解液に豊富に発現している。この結果は、Fo5腫瘍の方が2倍高いMMP−15のmRNA発現レベルを示したMann−Whitney比較と一致した。MMP−15が周囲のストローマ細胞ではなく腫瘍の上皮細胞に発現していたことを立証するために、Fo5腫瘍およびf2:1282腫瘍の切片を作り、抗HER2抗体(Dako)または抗MMP−15抗体(Ab−1)のいずれかで染色した。f2:1282腫瘍およびFo5腫瘍の両方がヒトHER2を発現しているが、MMP−15はf2:1282腫瘍よりもFo5腫瘍で豊富に発現している。
【0245】
MT−MMPのメンバーについての基質は従来、細胞外マトリックスタンパク質であると考えられてきた。完全長HER2をin vitroで切断するマイクロアレイデータから同定された候補を試験するために生化学アッセイを組立てた。このアッセイは、候補プロテアーゼについての基質として精製されたリコンビナント融合タンパク質を使用し、ヒトIgGのFc重鎖と同じフレーム内の、N末端にgDエピトープのタグを付けたHER2 ECDからなる。これらの研究でいくつかの異なるタンパク質を使用した。gDHER2(+)−IgGはHER2 ECDのアミノ酸2〜656を含み(GenBankアクセッション番号AAA75493)gDHER2(−)−IgGはHER2 ECDのアミノ酸2〜626を含む。gDHER2(+)−IgGリコンビナントタンパク質は、推定上のHER2シェダーゼ部位を含むことが以前に示された膜近傍配列(PA/EQR/ASP;配列番号23)を含み、gDHER2(−)−IgGタンパク質はこの配列を欠如している(Yuan et al. Protein Expression and Purification 29:217-222 (2003))。切り詰め版のgDHER2(+)−IgGであるgDHER2(DIV)−IgGもこのアッセイに使用したが、これはヒトFcと同じフレーム内にHER2のドメインIV(DIV)のみを有する。MMP−14、MMP−15、MMP−16、MMP−19、およびMMP−25の精製触媒ドメインをgDHER2(DIV)−IgGと共に37℃で20分間インキュベーションした。MMP−14以外の全てのMT−MMPはgDHER2(DIV)−IgG基質を効率的に切断した(図13、左欄)。切断されたタンパク質産物を切り出し、N末端の配列決定を行って切断部位を同定した。四つのMT−MMP全ては公表された配列部位近くでHER2を切断した(Yuan et al. Protein Expression and Purification 29:217-222 (2003))(図13、右欄)。
【0246】
配列PINCTHSCVDLDDKGCPAEQRASPASPLTSIV(配列番号21)を有するHER2−Fc融合タンパク質は、in vitroでこれらの四つのMMPについての基質である(図14)。このデータは、HER2がMMP−15についての基質であることを示唆している。
【0247】
MT−MMPの基質認識はヘモペキシンドメインにより影響されうる(Overall and Lopez-Otin Nature Reviews Cancer 2:657-672 (2002))。C末端にV5 Hisエピトープを有する可溶性形態のMMP−15を293細胞に一過性発現させ、アフィニティークロマトグラフィーにより293の順化培地から精製した。図15に示すように、この可溶性形態のMMP−15はin vitroシェダーゼアッセイでgDHER2(+)−IgGも切断することができる。
【0248】
MMP−15およびHER2が膜に関連することができるかどうかを決定するために、一過性トランスフェクションされたCos−7細胞を使用して免疫共沈アッセイを行った。pRK5.FlagHER2にpcDNA3.MMP−15V5His、pcDNA3.sMMP−15V5His、またはpcDNA3.MMP−15(E260A)のいずれかのベクターを同時トランスフェクションした。抗FLAG樹脂を用いてFlagHER2を免疫沈降させた。図10に、可溶性MMP−15および触媒機能喪失(E260A)突然変異体の両方がFlag−HER2と関連することができることを示す。野生型版のプロテアーゼであるpcDNA3.MMP−15V5HisがFlagHER2 ECDを除去すると思われ、HER2−MMP−15複合体は免疫共沈しないと思われることから、これは、MMP−15が膜中のHER2を切断することができるという見解と一致する。
【0249】
MMTVHER2トランスジェニック動物由来の乳腺腫瘍において体細胞点突然変異および欠失変異体およびスプライス変異体が同定されている(Siegel et al. EMBO J. 18:2149-2164 (1999));およびFinkle et al. Clin. Cancer Res. 10:2499-2511 (2004))。これらの突然変異は、膜貫通ドメイン近くのHER2細胞外ドメインで起こることが最も多い。Fo5腫瘍系は、HER2切断部位に隣接したアミノ酸5個DLDDK(配列番号22)の欠失を有し、一方でf2:1282腫瘍系はRからCへのただ一つの点突然変異(図12)を有する。これらの突然変異は、MMP−15の関連に影響しない(図11)。しかし、HER2 MMP切断部位にDLDDK(配列番号22)の欠失が近接していることは、このプロテアーゼの酵素活性に影響しうる可能性がある。
【0250】
RNA阻害(RNAi)は、ターゲットの転写レベルおよびタンパク質レベルをダウンレギュレーションすることができる方法である。SKBR−3細胞およびBT474細胞におけるMMP−15の生物学的役割を検討するために、抗MMP−15 RNAi構築物を使用した。SKBR−3細胞またはBT474細胞に導入したとき、このshRNAiの発現プラスミドは、両細胞系でのMMP−15の内因性タンパク質レベルを低減した(図17、左上欄)。このshRNAのトランスフェクションにより、両細胞系におけるp95 HERの量も低減した(図17、左下欄)。これらの細胞からMMP−15タンパク質が欠失すると、両細胞系でHER2 ECDのシェディングが有意に低減した(図17、右欄)。しかし、MMP−25に対するshRNAiをどちらの細胞系に導入したときも、HER2 ECDのシェディングに有意な低減は観察されなかった(図17、右欄)。これらの実験は、MMP−15の欠失がHER2 ECDのシェディングに劇的に作用することを強く示唆している。
【0251】
RNAiによりMMP−15タンパク質レベルを低減することは、SKBR−3細胞およびBT474細胞の成長速度にも作用を有する(図18、左欄)。この作用は、MMP−25に対するshRNAiによっても再現される。これは、BT474細胞およびSKBR−3細胞においてHER2 ECDのシェディングの低減がp95 HER2の量をダウンレギュレーションすることによって、細胞成長速度を低減することも示唆している。gDのタグを付けたp95HER2構築物をこれらの細胞系に導入すると、両方の細胞型において、トランスフェクションされた対照細胞に比べて細胞成長速度の増加が検出された(図18、左欄)。リガンド非依存的にCos−7細胞にこの構築物を導入すると、この構築物は構成的にリン酸化され、MAPKを活性化する(図16)。しかし、この構築物は、以前に公表された研究と一致してAktシグナル伝達経路を活性化するためにはなおHER3またはEGFRとヘテロ二量体化しなければならない(Xia et al. Oncogene 23:646-653 (2004))。SKBR−3細胞でのgDp95HER2の過剰発現は、これらの細胞においてトラスツズマブ介在性成長阻害を有意には阻害しなかった(図18、右欄)。
【0252】
MMP活性がFo5腫瘍におけるHER2のシェディングおよびp95 HER2レベルの調節に役割を果たすかどうかを決定するために薬理学的取組みを使用した。平均サイズ400〜600mm3のFo5腫瘍を有するFVBマウスの腹腔内にGM6001または対照ビヒクルを3日のクールにわたり毎日注射した。4日目に血清を収集し、ELISAによりHER2 ECDについてアッセイし、腫瘍を収集し重量を測定した。HER2を腫瘍細胞溶解液から免疫沈降させ、ウエスタンブロットによりp95 HER2レベルについてアッセイした。GM6001で処置した動物は、対照動物に比べてp95 HER2の量に有意な低減を示した(図19、右欄)。血清HER2 ECDレベルは、ビヒクル処置動物およびGM6001処置動物の両方で低減した(図19、左欄)が、GM6001処置動物ではより大きい低減が観察された。
【0253】
概要
上記実験は、マトリックスメタロプロテアーゼMMP−15が、シェディングされたECDをSKBR3細胞から精製したものと一致する部位でin vitroでHER2を切断し、かつ完全長HER2と相互作用することを実証している。このMMPレベルの低減は、レセプターHER2のシェディングの低減とよく相関し、SKBR3細胞系およびBT474細胞系において増殖の基礎レベルを減少させる。トラスツズマブは、間接的にMMP−15活性を調節することによりレセプターHER2のシェディングを阻害するようであるが、基質の結合および切断についてMMP−15と競合しない。MMP−15アンタゴニストなどのMMPアンタゴニストを用いてHER2のシェディングを低減することは、トラスツズマブ耐性ガンを含むガンを処置するための治療的取組みとなる。
【図面の簡単な説明】
【0254】
【図1】完全長HER2タンパク質の構造の概略図およびその細胞外ドメインのドメインI〜IVについてのアミノ酸配列(それぞれ配列番号1〜4)を示す図である。
【図2A】トラスツズマブの軽鎖(配列番号5)のアミノ酸配列を示す図である。
【図2B】トラスツズマブの重鎖(配列番号6)のアミノ酸配列を示す図である。
【図3A】パーツズマブの軽鎖(配列番号7)のアミノ酸配列を示す図である。CDRを太字で示す。軽鎖の分子量の計算値は23526.22Daである(システインは還元型)。糖質部分は重鎖のAsn299に付着している。
【図3B】パーツズマブの重鎖(配列番号8)のアミノ酸配列を示す図である。CDRを太字で示す。重鎖の分子量の計算値は49216.56Daである(システインは還元型)。糖質部分は重鎖のAsn299に付着している。
【図4】HERシグナル伝達ネットワークを示す図である。
【図5】HER2を過剰発現していない乳ガン細胞系(MCF−7)と比べた、トラスツズマブによる、過剰発現している乳ガン細胞系(SKBR3、MT474)からのHER2 ECDのシェディング阻害を示す図である。
【図6】MMTVHER2トランスジェニック腫瘍(トラスツズマブ感受性f2:1282腫瘍およびトラスツズマブ耐性Fo5腫瘍)におけるp95 HER2レベルおよびシェディングされたHER2 ECDレベルの差を示す図である。
【図7】HER2シェダーゼを同定するために使用された戦略を示す図である。
【図8】シェダーゼがメタロプロテアーゼの性質を有することを実証した実験を示す図である。
【図9】MMTV−HER2腫瘍および細胞系におけるMMPの発現を示す図である。MMP−15はトラスツズマブ感受性であるf2:1282腫瘍と、トラスツズマブ耐性であるFo5腫瘍との間の差を説明するための候補である。
【図10】flag−HER2およびMMP−15の間の相互作用を表す図である。
【図11】flagHER2−f2:1282とMMP−15、およびflagHER2−Fo5とMMP−15の相互作用を示す図である。f2:1282とFo5との間の差は、MMP−15への突然変異体の結合の差により説明することはできない。
【図12】MMTVHER2トランスジェニックマウスにおいて見出された体細胞突然変異を示す図である。その配列は、シェダーゼ部位(配列番号23)、野生型(WT)(配列番号24)、スプライス(配列番号25)、Fo5(配列番号26)、およびf2:3078.10(配列番号27)である。
【図13】in vitroシェダーゼアッセイの結果を示す図である。gDHER29(DIV)−IgGはMMP−15、MMP−16、MMP−19、およびMMP−25の触媒ドメインについての基質である。MMP−15(配列番号28)、MMP−16(配列番号29)、MMP−19(配列番号30)、MMP−25(配列番号31)、および他の全て(配列番号32)のプロテアーゼ消化物の配列;ならびにHER2 ECDのC末端部位についての配列(配列番号33)である。
【図14】MMP−15が他のレセプターHERを短縮しないことを実証している実験結果を示す図である。HER2(配列番号34)、EGFR(配列番号35)、HER3(配列番号36)、HER4(Jma)(配列番号37)、およびHER4(Jmb)(配列番号38)の配列は、膜貫通ドメイン近くに配列変動を示している。
【図15】MMP−15「完全長」がHER2(+)−IgGを短縮することを示す図である。
【図16】p95 HER2が構成的にリン酸化されるが、Aktを活性化するにはHER3とヘテロ二量体化しなければならないことを示した実験を示す図である。
【図17】MMP−15 RNA阻害剤(RNAi)がSKBR3細胞およびBT474細胞におけるHER2 ECDのシェディングおよびp95 HER2レベルを低減することを示す図である。
【図18】SKBR3細胞におけるトラスツズマブ介在性成長阻害がHER2のシェディング阻害にどの程度依存しないかを示す図である。
【図19】Fo5異種移植腫瘍におけるメタロプロテアーゼ活性の阻害がHER2のシェディングを低減し、p95 HER2レベルを阻害することを示す図である。
【図20】マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)ファミリーのメンバーを示す図である。MMPファミリーのメンバーをドメイン構造により群分けする。本図で使用した略号は以下の通りである:PRE;プレドメイン、PRO;プロドメイン、CAT;触媒ドメイン、H;ヒンジ、HEM;ヘモペキシンドメイン、F;フューリン切断コンセンサスドメイン、FN;フィブロネクチン様ドメイン、GPI;グリコホスファチジルイノシトールアンカー、TM;膜貫通ドメイン、Ig;免疫グロブリン様ドメイン、CA;システインアレイ、CL;コラーゲン様ドメイン。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
HER2のシェディングを阻害するのに有効量のマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)アンタゴニストでHER2発現細胞を処置するステップを含む、HER2のシェディングを阻害するための方法。
【請求項2】
MMPアンタゴニストが、膜に繋ぎ止められたMMP(MT−MMP)のアンタゴニストである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
MT−MMPが、MMP−15(MT2−MMP)、MMP−16(MT3−MMP)、MMP−24(MT5−MMP)、MMP−17(MT4−MMP)、およびMMP−25(MT6−MMP)からなる群より選択される、請求項2記載の方法。
【請求項4】
MT−MMPがMMP−15である、請求項3記載の方法。
【請求項5】
細胞がHER2の過剰発現、増幅、または活性化を示す、請求項1記載の方法。
【請求項6】
細胞がHER2の過剰発現または増幅を示す、請求項5記載の方法。
【請求項7】
細胞をHER阻害剤で処置するステップをさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項8】
HER阻害剤がHER2抗体である、請求項7記載の方法。
【請求項9】
HER2抗体がトラスツズマブまたはパーツズマブである、請求項8記載の方法。
【請求項10】
HER阻害剤が、トラスツズマブ、パーツズマブ、セツキシマブ、ABX−EGF、EMD7200、ゲフィチニブ、エルロチニブ、CP724714、CI1033、GW572016、IMC−11F8、およびTAK165からなる群より選択される、請求項7記載の方法。
【請求項11】
哺乳動物におけるHER2細胞外ドメイン(ECD)の血清レベルを低減するのに有効量のマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)アンタゴニストを該哺乳動物に投与するステップを含む、該哺乳動物における該HER2 ECDの血清レベルを低減するための方法。
【請求項12】
哺乳動物がMMPレベルの上昇を有する、請求項11記載の方法。
【請求項13】
ガンを処置するのに有効量のマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)アンタゴニストを哺乳動物に投与するステップを含む、該哺乳動物における該ガンを処置するための方法。
【請求項14】
ガンがHERの発現、増幅、または活性化を示す、請求項13記載の方法。
【請求項15】
ガンがHER2の過剰発現または増幅を示す、請求項14記載の方法。
【請求項16】
哺乳動物が、シェディングされたHER2の血清レベルの上昇またはp95 HER2レベルの上昇を有する、請求項13記載の方法。
【請求項17】
HER阻害剤耐性ガンを処置するのに有効量のマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)アンタゴニストを哺乳動物に投与するステップを含む、該哺乳動物における該ガンを処置するための方法。
【請求項18】
HER阻害剤がトラスツズマブである、請求項17記載の方法。
【請求項19】
p95 HER2レベルを低減するのに有効量のマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)アンタゴニストに細胞を曝露するステップを含む、該細胞における該p95 HER2レベルを低減するための方法。
【請求項20】
ガン患者由来の試料中のMMP−15(MT2−MMP)を評価するステップを含む診断法であって、MMP−15レベルまたは活性の上昇が、該患者がp95 HER2またはシェディングされたHER2の血清レベルの上昇を有するか、または将来的に臨床的転帰不良を有することを指し示す方法。
【請求項21】
MMP−15レベルの上昇が、患者が将来的に臨床的転帰不良を有することを指し示す、請求項20記載の方法。
【請求項1】
HER2のシェディングを阻害するのに有効量のマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)アンタゴニストでHER2発現細胞を処置するステップを含む、HER2のシェディングを阻害するための方法。
【請求項2】
MMPアンタゴニストが、膜に繋ぎ止められたMMP(MT−MMP)のアンタゴニストである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
MT−MMPが、MMP−15(MT2−MMP)、MMP−16(MT3−MMP)、MMP−24(MT5−MMP)、MMP−17(MT4−MMP)、およびMMP−25(MT6−MMP)からなる群より選択される、請求項2記載の方法。
【請求項4】
MT−MMPがMMP−15である、請求項3記載の方法。
【請求項5】
細胞がHER2の過剰発現、増幅、または活性化を示す、請求項1記載の方法。
【請求項6】
細胞がHER2の過剰発現または増幅を示す、請求項5記載の方法。
【請求項7】
細胞をHER阻害剤で処置するステップをさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項8】
HER阻害剤がHER2抗体である、請求項7記載の方法。
【請求項9】
HER2抗体がトラスツズマブまたはパーツズマブである、請求項8記載の方法。
【請求項10】
HER阻害剤が、トラスツズマブ、パーツズマブ、セツキシマブ、ABX−EGF、EMD7200、ゲフィチニブ、エルロチニブ、CP724714、CI1033、GW572016、IMC−11F8、およびTAK165からなる群より選択される、請求項7記載の方法。
【請求項11】
哺乳動物におけるHER2細胞外ドメイン(ECD)の血清レベルを低減するのに有効量のマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)アンタゴニストを該哺乳動物に投与するステップを含む、該哺乳動物における該HER2 ECDの血清レベルを低減するための方法。
【請求項12】
哺乳動物がMMPレベルの上昇を有する、請求項11記載の方法。
【請求項13】
ガンを処置するのに有効量のマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)アンタゴニストを哺乳動物に投与するステップを含む、該哺乳動物における該ガンを処置するための方法。
【請求項14】
ガンがHERの発現、増幅、または活性化を示す、請求項13記載の方法。
【請求項15】
ガンがHER2の過剰発現または増幅を示す、請求項14記載の方法。
【請求項16】
哺乳動物が、シェディングされたHER2の血清レベルの上昇またはp95 HER2レベルの上昇を有する、請求項13記載の方法。
【請求項17】
HER阻害剤耐性ガンを処置するのに有効量のマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)アンタゴニストを哺乳動物に投与するステップを含む、該哺乳動物における該ガンを処置するための方法。
【請求項18】
HER阻害剤がトラスツズマブである、請求項17記載の方法。
【請求項19】
p95 HER2レベルを低減するのに有効量のマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)アンタゴニストに細胞を曝露するステップを含む、該細胞における該p95 HER2レベルを低減するための方法。
【請求項20】
ガン患者由来の試料中のMMP−15(MT2−MMP)を評価するステップを含む診断法であって、MMP−15レベルまたは活性の上昇が、該患者がp95 HER2またはシェディングされたHER2の血清レベルの上昇を有するか、または将来的に臨床的転帰不良を有することを指し示す方法。
【請求項21】
MMP−15レベルの上昇が、患者が将来的に臨床的転帰不良を有することを指し示す、請求項20記載の方法。
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2A】
【図2B】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公表番号】特表2008−530123(P2008−530123A)
【公表日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−555293(P2007−555293)
【出願日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際出願番号】PCT/US2006/004926
【国際公開番号】WO2006/086730
【国際公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【出願人】(596168317)ジェネンテック・インコーポレーテッド (372)
【氏名又は名称原語表記】GENENTECH,INC.
【Fターム(参考)】
【公表日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際出願番号】PCT/US2006/004926
【国際公開番号】WO2006/086730
【国際公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【出願人】(596168317)ジェネンテック・インコーポレーテッド (372)
【氏名又は名称原語表記】GENENTECH,INC.
【Fターム(参考)】
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