説明

マルチカラー印刷

基板上にイメージを形成する方法であって、ジアセチレンと光酸または光塩基との化合物を前記基板に塗布し、放射線により前記ジアセチレンを重合する方法を提供する。この方法はマルチカラー印刷において活用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マルチカラー印刷の方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マーキングを行うためにレーザーが幅広く用いられている。マーキングは一般的にアブレーションによって行われるが、レーザーエネルギーを吸収できる物質を炭化させたり、変色させたりすることによって行われる場合もある。経口薬に使用可能なこの種の手法がWO02/068205に開示されている。また、WO02/074548に開示されるように、特に有用なマーキング物質はアンモニウムオクタモリブデン酸である。
【0003】
ポリジアセチレンも発色可能である。さらに、例えば、周知であるが、ポリ(10, 12−ペンタコサジイン酸)は、温度、pH、機械的ストレス等の様々な刺激に反応して青から赤に色変化する。この特性は、化学センサまたはバイオセンサの作製に活用されている。これらの化学センサまたはバイオセンサでは、ペンダント基としてポリジアセチレン骨格に共有結合したレセプタに対して、特定のアナライトが結合することにより、摂動が起こる。一般的に、リポソーム類またはラングミュアー−シェーファー膜のようなポリジアセチレン構造が好ましい。
【0004】
ジアセチレン類は、UV光の照射により重合することができる。UVレーザーを用いてジアセチレンでマーキングを行う例は、例えば、米国特許第5149617号に開示されている。同特許では、ポリジアセチレン類によるサーモクロミズム、つまり、マゼンタから赤への変色がどのように行われるかについて開示されている。したがって、UV照射ステップの後に別の加熱ステップが導入されている。
【0005】
米国特許第4705742号には、共役ポリアセチレン化合物を異なるレベルで暴露させて、基板上の層に様々な色を形成する方法が開示されている。なお、照射は200nm以下の光線で行われる。
【発明の開示】
【0006】
本発明は、部分的に、米国特許第4705742号に記載される効果の制御方法の応用に基づいており、効率的なマルチカラー印刷を実現するために活用される。本発明では、一般的にポリジアセチレン類が重合度に依存する色(本明細書では、目的上、色の陰影も含む)を示すという特徴が活用されている。したがって、ジアセチレンの重合度を制御することにより、青から赤までの様々な色の他、おそらく黄色でさえも生成することが可能になる。すなわち、特に1種以上のUVレーザーを使用することにより、簡易的かつ特徴的にマルチカラー印刷を実現することができる。
【0007】
特に、青から赤への変色は、ポリ(ペンタコサジイン酸)フィルムを単純なアミンに暴露することにより引き起こされることが分かっている。変色は、明らかに、カルボン酸/アミンの四級化により生じた捻れによって促進され、荷電化学種の立体効果あるいは反発効果を生じさせることになる。四級化の効果は周知のサーモクロミック反応とは異なる。四級化はポリマーの化学修飾を伴うが、サーモクロミック反応は単に加熱によるポリマー鎖の再配列を伴うものである。したがって、単純なレーザーイメージングシステムは、カルボン酸−官能化ポリジアセチレンまたはアミン−官能化ポリジアセチレンがそれぞれ光塩基または光酸と組み合わさることにより構成される。フィルムをレーザー(UV、Vis、NIR、CO2)に暴露することにより、アミンまたは酸の生成が引き起こされる。アミンまたは酸は、それぞれのポリマーに結合した官能基と反応し、青から赤に変色する。変色度合いはレーザーの強度により変調することができ、これにより、合成色を生成することができる。この効果はUV領域外で得られるという点で特に有益である。
【0008】
本発明の利点の一つは、無色な市販の前駆体(ジアセチレン)が使用されることである。望ましい効果は固相重合によって達成することができ、共役長に依存する色が得られる。これは、重合度の制御、およびポリマー骨格に対するトルクの作用により制御することができる。一般的にポリジアセチレン類は無毒性であるため、錠剤やその他の摂取可能な製剤にマーキングする物質として用いることができる。
【0009】
ジアセチレンはモノマー状態では無色または透明であるが、単一の前駆体から幅広い色を得ることができる。変色を引き起こすために必要なフルエンスレベルは低いため、高速でマーキングを行うことができる。また、「コールドマーキング」や優れたイメージ定着を達成するこができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
ポリジアセチレン類の色、およびその色が重合度に応じて変化することは、明らかにこれらのポリマー一般に関する特性である。したがって、本発明では幅広い種類のジアセチレン類を用いることができる。多くは入手可能であるか、既に開示されている。例えば、米国特許第3501303号および米国特許第4705742号を参照されたい。それらの内容は参考として本明細書中に援用される。
【0011】
ジアセチレン類は、油性または水性インク及び塗料中で簡単に製造することができ、任意の適切な基板に塗布することができる。適切な有機溶剤は、当業者には既知のものであり、例えば、メチルエチルケトン等のケトン類、酢酸エチル等のエステル類、アルコール類、アルキッド類、トルエンまたはキシレン等の炭酸水素類、ジメチルスルホキシドまたはN,N−ジメチルホルムアミド等の極性非プロトン溶媒、ジクロルメタン、クロロホルムまたはジクロルエタン等の塩素化溶剤等である。適切なバインダーは、当業者には既知のものであり、例えば、アクリル系、メタクリル系、スチレン系、アルキッド系、ポリエステル系、セルロース系、ポリエーテル系、およびポリウレタン系等のバインダーである。適切な基板は、当業者には既知のものであり、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、およびアルミニウムまたはスチール等の金属等からなる。
【0012】
重合を誘導するために必要な光の波長は、ジアセチレン類の分光感度により決定される。この物質は、プロセスを適切に効率的にするため、ひいては実用的で商業的に実用可能にするため、一定の波長において著しい吸光度を示すものでなければならない。一例として、10, 12−ペンタコサジイン酸は310nm未満の長さの波長においてのみかなりの吸光度を示すこと、および重合を誘導するにはこの長さの波長またはこれより短い波長の光が必要であることが、拡散反射スペクトルにより示される。
【0013】
光酸発生剤の添加により、ジアセチレン類の重合は、ジアセチレンの固有の吸収度を超えて光酸発生剤の吸収度に対応した長さの波長まで活性化されることが分かっている。ジアセチレンの重合性を考慮するとこれは全く予想外な結果である。光酸発生剤は照射により超強酸を生成するが、これは、ジアセチレン重合に影響しないと考えられている。本発明により、例えば、365nm、405nm等、固有の吸収度を超えた波長において10, 12−ペンタコサジイン酸の重合を誘導することが可能となる。
【0014】
適切な光酸および光塩基は当業者には既知のものである。例えば、ジフェニルヨードニウム塩(例えば、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロリン酸、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロアンチモン酸塩、ジフェニルヨードニウムトリフラート、ジフェニルヨードニウムパーフルオロ−1−ブタンスルフォン、ジフェニルヨードニウムp−トルエンスルホネート、およびその誘導体)、トリアリルスルフォニウム塩(トリフェニルスルフォニウムヘキサフルオロリン酸、トリフェニルスルフォニウムヘキサフルオロアンチモン酸塩、トリフェニルスルフォニウムトリフラート、2−ナチフルジフェニルスルフォニウムトリフラート、(4−メトキシフェニル)ジフェニルスルフォニウムトリフラート、(4−フェニルチオフェニル)ジフェニルスルフォニウムトリフラートおよびその誘導体)、チオビス(トリアリルスルフォニウム)塩(例えば、チオビス(トリフェニルスルフォニウムヘキサフルオロリン酸)、チオビス(トリフェニルスルフォニウムヘキサフルオロアンチモン酸塩)、チオビス(トリフェニルスルフォニウムトリフラート)およびその誘導体)ならびにその混合物である。
【0015】
なお、本発明において、既知の物質が使用され得ること、また、UVレーザーが好ましいものの既知の照射源を用いて本発明が実行され得ることは明らかである。単一のチューナブルレーザーを用いて、取り扱う物質の選択部位において重合度の違いを生じさせることも可能である。もしくは、状況に応じて、多数の異なるレーザーを用いることも可能である。例えば、コンピュータ制御によって、基板の所定範囲において所定の色を得られるように、本システムを緻密に制御することが可能であることは、当業者であれば容易に理解できるであろう。
【0016】
スペクトルの赤側の色を得るのが困難であることが知られているが、本発明により得られる色(陰影を含む)の範囲は広範囲である。必要に応じてポリジアセチレン類のサーモクロミックな性質を利用することにより、赤色を得ることができる。反対に、サーモクロミック効果の可能性を回避することが頻繁に望まれる場合もあり得る。そのような場合は、温度による効果を最小限にして、重合度により色を制御するために、何らかのステップを取ることもできる。
【0017】
例えば、アミンモリブデン(WO04/043704を参照)を添加することにより、優れたUV安定性を有するジアセチレン組成物が提供される。従来のジアセチレン/バインダー配合物に用いられた条件と同様の条件においては、このような組成物を製造することは考えられないことであった。発色を得るためには、かなり長い暴露期間が必要であった。この場合、イメージは明確に現れるものの、光学密度の変化は非常に乏しく、そのためコントラストは従来のジアセチレン組成物で見られるよりも著しく低くなる。
【0018】
ポリジアセチレン類における青から赤への変色は、ポリマー骨格のねじれにより共役長が短くなることに起因するようである。この変化は、一次的な重合プロセスよりも二次的な架橋プロセスによって促進されると考えられる。二次的プロセスは、ジアセチレン重合の誘導に用いるものと同じUV光源(レーザーまたはランプ)、または近赤外線等の波長の異なるレーザーによって促進することができる。これにより、変色度合いを直接的に制御することが可能になる。また、熱刺激または化学刺激に起因する摂動を防止することにより、色の定着度合いを高めることが可能になる。つまり、二次的な架橋により適切な位置で鎖が固定される。これは、例えば、アクリル類、メタクリラート類、エポキシド類等の架橋基をジアセチレン類に導入して官能化することにより達成することができる。
【0019】
以下の例に基づいて本発明を説明する。
【0020】
例1
無色の出発物質(10, 12−ペンタコサジイン酸)をバインダー(Elvacite 2028、NC、PVB等)に混ぜ、基板(紙、ポリプロピレン、PET、アルミホイル)に塗布し、UV光(100Wランプ、大部分は254nm)に所定時間だけ暴露させた。生成される色は暴露時間/強度に依存した。
【0021】
物質は次第に濃い青を発色し、暴露時間が長くなるにつれて最終的には黒に変色した。暴露時間を延長することにより、徐々に黒から紫を経て赤に変化した。さらに暴露時間を延長すると、赤から黄色/オレンジに変色した。暴露の延長により、サンプルの劣化および漂白が生じた。
【0022】
上述の青または黒のポリマーを低出力(<0.5W)のCO2レーザーで照射することにより、暴露部位に赤のイメージが形成された。これはポリマーのサーモクロミック反応によって引き起こされるものであり、周知の現象である。
【0023】
近赤外線ダイオード(100mW)レーザーを用いれば、上述の変化と同一の変化(青/黒―赤)を引き起こすことができる。しかし、この場合、レーザーエネルギーを熱に変換するために適切な赤外線吸収剤が含まれることが必要となる。ヒドロキシリン酸銅(CHP)はその一例である。青の背景に赤のマーキングは非常に明確であり、比較的高速に書くことができる。人間の目で識別可能なマークの移動速度は、最大一秒あたり50cmである。
【0024】
例2
10, 12−ペンタコサジイン酸1g、Cyracure 6974(光酸発生剤)1g、およびメチルエチルケトン8gの溶液を調合した。基板片を溶液に浸して、この混合液塗料を紙に吸収させた。その後、塗料を、約365nmを中心とする発光帯域を有するUVランプで0.2秒間照射した。これにより、暴露部位に赤の発色が生じ、重合が行われたことが示された。
【0025】
10, 12−ペンタコサジイン酸1gおよびメチルエチルケトン8gの溶液を調合した。基板片を溶液に浸して、この混合液塗料を紙に吸収させた。その後、塗料を、約365nmを中心とする発光帯域を有するUVランプで0.2秒間照射した。識別できる変化は認められず、重合が行われなかったことが示された。
【0026】
例3
10, 12−ペンタコサジイン酸1g、Cyracure 6974 (光酸発生剤)1g、およびメチルエチルケトン8gの溶液を調合した。基板片を溶液に浸して、この混合液塗料を紙に吸収させた。その後、塗料を、400nm〜500nm範囲の発光帯域を有するUVランプで0.2秒間照射した。これにより、暴露部位に青の発色が生じ、重合が行われたことが示された。暴露時間を0.5秒延長すると赤の発色が生じた。
【0027】
10, 12−ペンタコサジイン酸1gおよびメチルエチルケトン8gの溶液を調合した。基板片を溶液に浸して、この混合液塗料を紙に吸収させた。その後、塗料を、400nm〜500nm範囲の発光帯域を有するUVランプで0.5秒間照射した。識別できる変化は認められず、重合が誘行われなかったことが示された。
【0028】
例4−塗料組成
10, 12−ペンタコサジイン酸1g、Cyracure 6974(光酸発生剤)1g、Elvacite 2028(アクリル系バインダー)0.5g、およびメチルエチルケトン8gの溶液を調合した。ワイヤーバーコーティングを用いて、この均一な混合液塗料を紙に吸収させた。その後、塗料を、400nm〜500nm範囲の発光帯域を有するUVランプで0.5秒間照射した。これにより、暴露部位に青の発色が生じ、重合が行われたことが示された。暴露時間を1秒延長すると赤の発色が生じた。
【0029】
したがって、ジアセチレンでイメージングを行うためには、より長い波長レーザーやその他の光源の使用を促進するような単純な変更が本発明に伴うことが明らかであろう。現在、ジアセチレン重合に必要な短波長の光源の装置に比べると、長波長レーザーやその他の光源の装置は可用性が高く、また費用効率も良い。
【0030】
例5−UVレーザーイメージング
メチルエチルケトン溶剤に10, 12−ペンタコサジイン酸(PDA)6.7重量パーセントおよびElvacite 2028アクリル系バインダー23重量パーセントを含ませたインクを、コロナ処理がなされた透明ポリプロピレン上にメイヤーバーを用いて50ミクロンの厚さに塗布した。これにより、約5g/平方メートルの塗膜が形成された。ガルバノメータのマーキングヘッドには可干渉性のAVIA3000の長さ266nmでダイオード励起のされた固体レーザーが結合されており、塗膜を乾燥させた後、この固体レーザーを用いて、塗膜にイメージング処理が行われた。レーザーの出力、パルス周波数、およびガルバノメータのマーキング速度は、PC/ウィンドウズベースのソフトウェアを用いて精密に制御された。結果として生成されるイメージの色および光学密度は放射線フルエンスに依存することが分かった。結果を以下に示す。

0.115J/cm2−ペールブルー
0.276J/cm2−ロイヤルブルー
0.305J/cm2−ネイビーブルー
0.331J/cm2−バイオレット
0.625J/cm2−赤
0.717J/cm2−オレンジ/赤
1.953J/cm2−黄色

イメージの各部位/画素に与えられたフルエンスを精密に制御することにより、マルチカラーイメージを作成することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上にイメージを形成する方法であって、
ジアセチレンと光酸または光塩基とを組み合わせた組成物を前記基板に塗布し、
放射線により前記ジアセチレンを重合する方法。
【請求項2】
前記放射線はUV放射線である、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ジアセチレンは、部位別に異なる程度で重合される、
請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
チューナブルレーザー照射により重合化が行われる、
請求項3に記載の方法。
【請求項5】
選択的な制御の下、複数のレーザー照射により重合化が行われる、
請求項3に記載の方法。

【公表番号】特表2008−511015(P2008−511015A)
【公表日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−526567(P2007−526567)
【出願日】平成17年8月17日(2005.8.17)
【国際出願番号】PCT/GB2005/003222
【国際公開番号】WO2006/018640
【国際公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.ウィンドウズ
【出願人】(507055925)データレース リミテッド (24)
【氏名又は名称原語表記】DATALASE LTD.
【Fターム(参考)】