説明

マルチチャンネル信号再生装置

【課題】 サラウンドチャンネルの再生音がフロントチャンネル用スピーカードライバーからの再生音と干渉すると、壁などの反射と同様、明確な定位感を得ることが出来ない。
【解決手段】 フロントLチャンネル、フロントセンターチャンネル、フロントRチャンネルを再生するためのスピーカードライバーが取り付けられ、テレビ画面下側に設置される第1のスピーカーボックスと、サラウンドLチャンネル及びサラウンドRチャンネル用スピーカードライバーが取り付けられ、テレビ画面の上部に設置される第2のスピーカーボックスと、ラウンドLチャンネル及びサラウンドRチャンネル用スピーカードライバーに入力される再生信号を信号処理し、ラウンドLチャンネル及びサラウンドRチャンネル用スピーカードライバーが設置されている場所とは異なる場所に音源を定位させるバーチャライザーとを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DVDや地上波デジタル放送を再生する際に使用されるマルチチャンネル信号再生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
5.1チャンネル又は6.1チャンネルといったマルチチャンネルサラウンド信号を再生する、所謂ホームシアターシステムが一般家庭に普及している。このシステムは基本的には各チャンネル毎に独立したスピーカーによって各チャンネル信号を再生する。従って、5.1チャンネル信号の再生の場合、前方にフロントLチャンネル、フロントセンターチャンネル、フロントRチャンネル用のスピーカーを3個、後方にサラウンドLチャンネル、サラウンドRチャンネル用のスピーカーを2個配置する必要がある。更に、低音再生用にサブウーファーもほとんどの場合に必要となる。
【0003】
一方、本出願人は特許文献1にてサラウンドLチャンネル信号とサラウンドRチャンネル信号を頭部伝達関数(以下、HRTFという)を用いたバーチャライザーで信号処理し、リスナーのフロントに設置された2個のスピーカーから再生することで、スピーカーが存在しない位置に音像を定位させることが可能なホームシアターシステムを提案している。かかるシステムによれば、リスナーの前方に5個のスピーカードライバーを備えた1個のスピーカーとサブウーファーを部屋に設置するだけで、ホームシアターシステムを構築することが可能となる。従って、部屋の中に多数のスピーカーを設置する必要がなく、また部屋の中で多くの配線を引き回すことのないシンプルなシステムを手に入れることが可能となる。
【特許文献1】特開2005−102063号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のバーチャライザーを用いたシステムは、予め定められた位置にリスナーの耳が位置するという前提のもと、頭部伝達関数のフィルター定数を定めている。従って、例えば部屋の壁や天井による反射音がリスナーの耳に到達すると、頭部伝達関数によって計算された音以外のものがリスナーの耳に入ることにより、サラウンドチャンネルの定位感が損なわれてしまう。
【0005】
また、かかるサラウンドLチャンネル信号とサラウンドRチャンネル信号がスピーカードライバーから空間に放出され、空気を伝播してリスナーの耳に到達するが、特許文献1に開示されるように、サラウンドLチャンネル信号とサラウンドRチャンネル信号用のスピーカードライバーとフロントチャンネル用のスピーカードライバーが一つのスピーカーボックスに収納されている場合、サラウンドLチャンネル信号及びサラウンドRチャンネル信号用のスピーカードライバーとフロントチャンネル用のスピーカードライバーが隣接しているため、サラウンドLチャンネル信号及びサラウンドRチャンネル信号用のスピーカードライバーから放出された再生音は、すぐにフロントチャンネル用スピーカードライバーからの再生音と干渉する。その結果、壁などの反射がある場合と同様、明確な定位感を得ることが出来ない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上述の課題を解決するために、フロントLチャンネル、フロントセンターチャンネル、フロントRチャンネル信号をそれぞれ再生するための3個のスピーカードライバーと、フロントLチャンネル、フロントセンターチャンネル及びフロントRチャンネル用スピーカードライバーが取り付けられ、テレビ画面下側に設置される第1のスピーカーボックス1と、サラウンドLチャンネル及びサラウンドRチャンネルを再生するためのスピーカードライバーと、サラウンドLチャンネル及びサラウンドRチャンネル用スピーカードライバーが取り付けられ、テレビ画面の上部に設置される第2のスピーカーボックスと、ラウンドLチャンネル及びサラウンドRチャンネル用スピーカードライバーに入力される再生信号を信号処理し、ラウンドLチャンネル及びサラウンドRチャンネル用スピーカードライバーが設置されている場所とは異なる場所に音源を定位させるバーチャライザーとを備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、微細な信号処理を施されたサラウンドチャンネルの再生音は、フロントチャンネルの再生音と干渉することなくリスナーに届くため、定位感が明確なサラウンドチャンネルの再生音を得ることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明による最良の実施形態を、添付図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0009】
以下、本発明の実施例を説明する。本発明装置において、5.1チャンネル信号のうち、フロントL、センター、フロントRチャンネルを再生するためのスピーカードライバー3〜5はベーススピーカーボックス1に収納されている。図1〜図3はベーススピーカーボックス1の上面図、正面図及び斜視図であり、合計3個の密閉されたキャビティ構成するため、ベーススピーカーボックス1内部には隔壁6、7が設けられている。なお、3個のスピーカードライバー3〜5のための合計6芯のスピーカーケーブルは1本のスピーカーケーブル8として図示されている。なお、各スピーカードライバー3〜5の前面には通気性の良い布地のサランネット9が設けられ、外部から直接スピーカードライバー3〜5が見えないようにされている。
【0010】
ベーススピーカーボックス1がリスナーの耳の高さよりも低い位置になることを考慮して、各スピーカードライバー3〜5の振動軸が約30度上側を向くよう配置されている。また、センターチャンネル用スピーカードライバー4に対してLチャンネル用スピーカードライバー3とRチャンネル用スピーカードライバー5は互いに外側を向くよう配置されている。この外側を向けた配置によって、スピーカードライバー3、5からの再生音は互いに反対方向に空間上に放射されるため、スピーカードライバー3、5が大きく間隔を空けて配置された状態と同じ効果を有し、ステレオイメージの拡大に寄与する。
【0011】
サラウンドL及びサラウンドRチャンネルを再生するためのスピーカードライバー11、12はトップスピーカーボックス10に収納されている。図4〜図6はトップスピーカーボックス1の上面図、正面図及び斜視図であり、合計2個の密閉されたキャビティ構成するため、トップスピーカーボックス10内部には隔壁13が設けられている。なお、2個のスピーカードライバー11〜12のための合計4芯のスピーカーケーブルは1本のスピーカーケーブル14として図示されている。なお、各スピーカードライバー11、12の前面には前述と同様、布地のサランネット15が設けられている。
【0012】
図7は上述のスピーカードライバー3〜5、11、12を駆動するアンプを含むホームシアターシステム20の回路ブロック図である。光学ピックアップ、ターンテーブル等の機構部及び各種サーボ回路やデータ復調回路を備え、マイコン25によって制御されるDVDドライブ2からのデジタルデータは5.1チャンネルデコーダ22に入力され、フロントL、フロントセンター、フロントR、サラウンドL、サラウンドRチャンネル及びサブウーファーチャンネル信号にそれぞれデコード処理される。フロントL、フロントRおよびフロントセンターチャンネルのそれぞれのデジタル信号は、デジタルアンプ23に入力される。
【0013】
一方、サラウンドL及びサラウンドRチャンネル信号は、バーチャライザー24に入力される。バーチャライザー24は例えばサラウンドLチャンネル信号をリスナーのフロント側に設置したスピーカーによって再生しても、リスナーの後方左側から再生音が聞こえてくるようなインパルス応答となるフィルター特性を持つフィルターを備え、トップスピーカーボックス10とリスナーの間の距離が約2mとされたことを前提に各種フィルター特性が調整されている。一般にこのフィルター係数は頭部伝達関数(HRTF)と呼ばれ、畳み込み演算処理が行われることにより、入力された信号は位置情報を持つことになる。このバーチャライザー24自体の構成は当業界においては周知であり、本出願に直接関与するものではないため、その詳述は省略する。
【0014】
バーチャライザー24の出力はデジタルアンプ23に入力されている。なお、サラウンドL及びサラウンドRチャンネル信号は各々2個のスピーカードライバー11、12によって再生されるものであり、各チャンネル毎に1個のスピーカードライバーで再生されるものではない。
【0015】
なお、CDなど2チャンネルソースを再生中においては、5.1チャンネルデコーダ22はフロントLチャンネル信号を出力していた端子にLチャンネル信号を、フロントRチャンネル信号を出力していた端子にRチャンネル信号を、また両チャンネルに含まれる低域信号をサブウーファーチャンネル信号に出力する。
【0016】
デジタルアンプ23によってPWM信号とされた各チャンネルの信号はローパスフィルタ(以下、LPFという)26を通過してアナログ信号とされた後、各スピーカードライバー3〜5、11、12及びサブウーファー27に出力される。
【0017】
図8はベーススピーカーボックス1とトップスピーカーボックス10が室内に設置された状態を示す図である。テレビ31はリスナー33と正対するよう、テレビ台32上に設置されている。このテレビ台32上のテレビの幅方向の中央にベーススピーカーボックス1が設置されている。また、テレビ31の上部におけるテレビの幅方向における中心にトップスピーカーボックス10が設置されている。近年、テレビは液晶テレビやプラズマテレビなど薄型化されており、トップスピーカーボックス10をテレビ上部に設置するためには図9に示すマウントアダプター40を使用する。なお、図示の実施例においてはサブウーファー27がテレビ台32の上に設置されているが、人間は低周波数の音がどこから聞こえてくるかが判別することが困難であるため、視聴位置の間前に設置する必要はない。
【0018】
ベーススピーカーボックス1をテレビ31の幅方向における中心に設置することにより、センターチャンネル用スピーカードライバー4によって再生されるニュース番組におけるアナウンサーの声や映画のセリフが画面の幅方向における中心に定位させることができる。
【0019】
バーチャライザー24の各種フィルターはテレビ31の上に設置されたトップスピーカーボックス10とリスナー33の耳との距離が2mとして設計されている。従って、
【0020】
図9はマウントアダプター40がテレビ31の上部に取り付けられた状態の側面図である。マウントアダプター40はテレビ31の上部に載せられるベースプレート41と、ペースプレート41に回動可能に設けられた2本のアーム部42とからなる。アーム部42はネジ43によって基部41に角度調整可能に固定可能であり、テレビ31の厚さなどに応じて取り付け角度を調整することによって、ベースプレート41がテレビ31の上部に水平となるようにする。このベースプレート41にトップスピーカーボックス10を載せ、図示しないネジでベースプレート41にトップスピーカーボックス10を固定する。なお、ベースプレート41のテレビ31の上面と当接する面に面ファスナー(図示せず)などを貼付し、テレビ31の上面にベースプレート40を固定してもよい。
【0021】
サラウンドチャンネルを再生するトップスピーカーボックス10がフロントチャンネルを再生するベーススピーカーボックス1と独立して別個の位置に配置されているため、スピーカードライバー11、12によって再生されるサランドチャンネルの再生音はフロントチャンネルの再生音に干渉されることなくリスナーの耳に到達することが可能となる。その結果、頭部伝達関数を使用した各種フィルターを通して生成されたサランドチャンネルの再生音像は、リスナーの前方に配置されたトップスピーカーボックス10から再生しているにもかかわらず、リスナーの横から後方に明確に定位することが可能となる。
【0022】
また、サラウンドチャンネルを再生するトップスピーカーボックス10がテレビ31の上に設置されているということは、必然的にトップスピーカーボックス10が床からある程度の距離をもって設置されることになる。これにより、壁からトップスピーカーボッスク10を約1.5m以上離しておけば、壁のみならず床からの不要な反射音の影響を少なくすることが可能となり、床からの不要な反射音によってサラウンドチャンネルの位置情報に影響を及ぼされることがない。
【0023】
また、上述の実施例においてはセンターチャンネル用に独立したスピーカードライバー4を設けていたが、本発明はこれに限定されることなく、ベーススピーカーボックス1にフロントLチャンネル、フロントRチャンネル用の2個のスピーカードライバーを設け、センターチャンネル信号をこの2個のスピーカードライバーによって再生することも可能である。
【実施例2】
【0024】
図10は第2の実施例におけるホームシアターシステム50の回路ブロックであり、図7に示す実施例1と共通の部材については同一番号を付す。5.1チャンネルデコーダ22からのフロントLチャンネル信号は第1の加算器28の一方の入力端子に接続される。また、5.1チャンネルデコーダ22からのフロントRチャンネル信号は第2の加算器29の一方の入力端子に接続される。センターチャンネル信号は第1及び第2の加算器28、29の他方の入力端子にそれぞれ接続されている。
【0025】
この回路構成により、センターチャンネル信号はフロントLチャンネル信号及びフロントRチャンネル信号と共にスピーカードライバー3、5によって再生することが可能となり、ベーススピーカーボックス1を小型化することが可能となる。
【0026】
なお、テレビが薄型のものではなくブラウン管型のテレビの場合、テレビ上部にある程度の平面があるため、マウントアダプター40を使用することなく、トップスピーカーボックス10をブラウン管型のテレビの上に置くことも可能である。
【0027】
また、上述の実施例においてはトップスピーカーボックス10とリスナー33との距離が2mとしてバーチャライザー24の各種フィルターを設計したが、本発明はこれに限定されることなく、任意の距離でフィルターを設計可能であるなど、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の態様を取り得る。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】ベーススピーカーボックス1の上面図。
【図2】ベーススピーカーボックス1の正面図。
【図3】ベーススピーカーボックス1の斜視図。
【図4】トップスピーカーボックス10の上面図。
【図5】トップスピーカーボックス10の正面図。
【図6】トップスピーカーボックス10の斜視図。
【図7】ホームシアターシステム20の回路ブロック図。
【図8】ベーススピーカーボックス1とトップスピーカーボックス10が室内に設置された状態を示す図。
【図9】マウントアダプター40がテレビ31の上部に取り付けられた状態の側面図。
【図10】実施例2におけるホームシアターシステム20の回路ブロック図。
【符号の説明】
【0029】
1 ベーススピーカーボックス
3 フロントLチャンネル用スピーカードライバー
4 センターチャンネル用スピーカードライバー
5 フロントLチャンネル用スピーカードライバー
10 トップスピーカーボックス
11、12 サラウンドチャンネル用スピーカードライバー
20 ホームシアターシステム
24 バーチャライザー
27 サブウーファー
31 テレビ
40 マウントアダプター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロントLチャンネル、フロントセンターチャンネル、フロントRチャンネル信号をそれぞれ再生するための3個のスピーカードライバー3〜5と、
該フロントLチャンネル、フロントセンターチャンネル及びフロントRチャンネル用スピーカードライバー3〜5が取り付けられ、テレビ画面下側に設置される第1のスピーカーボックス1と、
サラウンドLチャンネル及びサラウンドRチャンネルを再生するためのスピーカードライバー11及び12と、
該サラウンドLチャンネル及びサラウンドRチャンネル用スピーカードライバー11、12が取り付けられ、テレビ画面の上部に設置される第2のスピーカーボックス10と、
前記ラウンドLチャンネル及びサラウンドRチャンネル用スピーカードライバー11、12に入力される再生信号を信号処理し、前記ラウンドLチャンネル及びサラウンドRチャンネル用スピーカードライバー11、12が設置されている場所とは異なる場所に音源を定位させるバーチャライザー24とを備えたことを特徴とするマルチチャンネル信号再生装置。
【請求項2】
フロントLチャンネル、フロントセンターチャンネル、フロントRチャンネルを再生するための少なくとも2個のスピーカードライバーと、
該スピーカードライバーが取り付けられ、テレビ画面下側に設置される第1のスピーカーボックス1と、
サラウンドLチャンネル及びサラウンドRチャンネル用スピーカードライバー11、12が取り付けられ、テレビ画面の上部に設置される第2のスピーカーボックス10と、
前記ラウンドLチャンネル及びサラウンドRチャンネル用スピーカードライバー11、12に入力される再生信号を信号処理し、前記ラウンドLチャンネル及びサラウンドRチャンネル用スピーカードライバー11、12が設置されている場所とは異なる場所に音源を定位させるバーチャライザー24とを備えたことを特徴とするマルチチャンネル信号再生装置。
【請求項3】
前記第1及び第2のスピーカーボックス1、10はテレビ画面の幅方向における略中央に配置されることを特徴とする請求項1又は2に記載のマルチチャンネル信号再生装置。
【請求項4】
前記フロントLチャンネル、フロントセンターチャンネル、フロントRチャンネルを再生するためのスピーカードライバーの振動軸が上方に向くよう前記第1のスピーカーボックス1に取り付けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載のマルチチャンネル信号再生装置。
【請求項5】
前記フロントLチャンネル及びフロントRチャンネルを再生するための各スピーカードライバーの振動軸が互いに外側を向くよう前記第1のスピーカーボックス1に取り付けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載のマルチチャンネル信号再生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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