説明

マルチビームリフレクトアレイ

【課題】リフレクタを用いてエリアを改善する場合において、所要品質を満たすエリアを従来よりも拡大できるようにすること。
【解決手段】マルチビームリフレクトアレイは、少なくとも第1及び第2の配列群を含み、第1の配列群は第1の素子配列を複数個含み、第2の配列群は第2の素子配列を複数個含み、第1及び第2の素子配列の各々は、所定の方向に整列した複数の素子を含み、複数の素子の内の2つの素子各々が反射する電波の位相差は、2つの素子の間隔と素子による反射角に対する三角関数の値との積に比例し、第1の配列群による反射角は第2の配列群による反射角と異なる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マルチビームリフレクトアレイに関連する。
【背景技術】
【0002】
無線通信におけるスループットを向上させる技術として、MIMO(Multiple Input Multiple Output)方式又はマルチアンテナ方式がある。MIMO方式は、複数のアンテナから同時に同じ周波数で信号を送信することで、スループット又は信頼性を向上させることができる。
【0003】
図1はMIMO方式の概要を示す。n個のストリーム1-nは、送信装置のn個のアンテナから別々に送信され、様々な無線伝搬路を経て受信装置のn個のアンテナで受信される。受信装置は、空間における信号伝搬経路の相違を活用することで、受信したn個の信号をn個のストリーム1-nに分離し、送信された情報1-nを復元することができる。
【0004】
このように、MIMO方式は、複数の送信アンテナ及び複数の受信アンテナ間の無線伝搬経路の複雑さを活用する技術である。したがって、例えば伝搬経路途中の障害物に起因して様々な伝搬経路が存在する環境の場合(マルチパス環境の場合)、MIMO方式における受信装置の信号分離は容易になる。ただし、障害物による電波の散乱に起因して、受信電力は低くなってしまう傾向がある(図2)。これに対して、例えば見通し環境のような場合、無線伝搬経路同士の相違は小さくなるので、受信装置における信号分離は困難になってしまう。ただし、見通し環境の場合、受信電力はそれほど低くならない(図3)。
【0005】
したがって、見通し環境の場合、MIMO方式によりスループットを向上させることは困難になる場合がある。この問題に対処するため、送信装置と受信装置の間に中継装置を設けることが考えられる。受信装置は、送信装置から直接届く直接波と、送信装置から中継装置を経て届く中継波とを受信し、それらの合成波を信号分離する。中継装置を用いて、無線伝搬経路を意図的に複雑にすることで、見通し環境であっても受信装置における信号分離を容易にできる。MIMO方式を用いた従来の中継方法については、例えば特許文献1に記載されている。
【0006】
このような中継装置を簡易に実現する方法の1つは、電波を反射する反射板又はリフレクタを中継装置として使用することである。このような反射板は、MIMO方式の受信装置のためだけでなく、より一般的に、移動通信システムにおけるエリアの改善を行う際に使用できる。しかしながら、従来の反射板の場合、反射波の受信レベルが強くなるように、反射板のサイズ又は面積を大きくすると、反射波の強度が増加する反面、反射波のビーム幅が狭くなり、エリアを改善できる領域が狭くなってしまう。反射板のサイズが小さかった場合、反射波のビーム幅は比較的広くなるが、反射波の受信レベルが弱くなってしまう。このため、反射板を用いてエリアを改善する場合において、所要品質を満たすエリアを十分に拡大できないという問題が懸念される。こうした問題は、電波の周波数が高くなるほど深刻になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006-148482号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、リフレクタを用いてエリアを改善する場合において、所要品質を満たすエリアを従来よりも拡大できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一実施例によるマルチビームリフレクトアレイは、
少なくとも第1及び第2の配列群を含むマルチビームリフレクトアレイであって、
前記第1の配列群は第1の素子配列を複数個含み、前記第2の配列群は第2の素子配列を複数個含み、
前記第1及び第2の素子配列の各々は、所定の方向に整列した複数の素子を含み、該複数の素子の内の2つの素子各々が反射する電波の位相差は、該2つの素子の間隔と該素子による反射角に対する三角関数の値との積に比例し、
前記第1の配列群による反射角は前記第2の配列群による反射角と異なる、マルチビームリフレクトアレイである。
【発明の効果】
【0010】
一実施例によれば、リフレクタを用いてエリアを改善する場合において、所要品質を満たすエリアを従来よりも拡大できるようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】MIMO方式による信号伝送の概念図。
【図2】見通し環境でない無線伝搬環境を示す図。
【図3】見通し環境を示す図。
【図4】発明原理を説明するための図。
【図5】通信システムを示す図。
【図6】マルチビームリフレクトアレイを説明するための図。
【図7】所望の方向に反射波が形成される様子を示す図。
【図8】リフレクトアレイを構成する素子として使用可能なマッシュルーム構造を示す図。
【図9】リフレクトアレイの拡大平面図。
【図10】マッシュルーム構造の等価回路図。
【図11】パッチサイズと反射位相との関係を示す図。
【図12】反射位相と座標の関係を示す図。
【図13】360度の範囲内に換算された反射位相と素子の位置との関係を示す図。
【図14】シミュレーションにおいて想定されている装置の位置関係を示す図
【図15】従来のリフレクタによる反射波と実施例のリフレクタによる反射波とを利得及び方位角の観点から比較するための図。
【図16】チャネル容量の空間分布図による比較例を示す図。
【図17】アウテージ容量と容量の累積分布CDFの観点による比較例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図4は、発明原理を説明するための図を示す。リフレクタR1は、入射した電波を或る反射角α0で反射する。入射角と反射角は同程度の大きさを有する。反射波のビームパターンB1は、幅広いビーム幅を有するが、利得は大きくなく、「有効利得」未満である。有効利得とは、反射波を受信した通信装置が所要品質以上の品質で通信するのに必要なビームの利得である。従来方法の場合、ビームの利得を増やすために、リフレクタR1をリフレクタR2のようにサイズを拡大する。一例としてリフレクタR2はリフレクタR1の4倍の面積を有する。リフレクタR2も入射した電波を反射角α0で反射するが、ビームの強度が強くなる。ただし、ビーム幅は狭くなってしまう。このため、反射波を受信した通信装置が所要品質以上の品質で通信できる範囲は狭い。
【0013】
これに対して、本願により提案するリフレクタR34は、リフレクタR2の代わりに、リフレクタR3及びリフレクタR4を併用する。リフレクタR3は、入射した電波を或る反射角α1で反射する。一例としてリフレクタR3はリフレクタR1の2倍の面積を有する。リフレクタR3による反射波の利得A3は、リフレクタR1による反射波の利得A1より弱いが、有効利得を上回る値である。リフレクタR4は、入射した電波を或る反射角α2で反射する。一例としてリフレクタR4はリフレクタR1の2倍の面積を有する。リフレクタR4による反射波の利得A4は、リフレクタR1による反射波の利得A1より弱いが、有効利得を上回る値である。反射角α2は反射角α1と異なる。従って、リフレクタR3による反射波B3及びリフレクタR4による反射波B4がカバーするエリアにおいて、所要品質以上の品質で通信できることが期待できる。このように反射角が異なる複数のリフレクタを併用して1つのリフレクタを構成することで、所要品質を満たすエリアを従来よりも拡大することができる。
【0014】
以下、添付図面を参照しながら実施例を説明する。図中、同様な要素には同じ参照番号又は参照符号が付されている。実施例は次の観点から説明される。
【0015】
1.通信システム
2.マルチビームリフレクトアレイ
3.素子の反射位相
4.シミュレーション
【実施例1】
【0016】
<1.通信システム>
図5は実施例で使用可能な通信システムを示す。通信システムは、送信装置、中継装置及び受信装置を有する。図示の例において、送信装置は、送受信が可能な通信装置の送信に関する機能に着目していることを示す。同様に、受信装置は、送受信が可能な通信装置の受信に関する機能に着目していることを示す。受信装置は、送信装置から直接届く直接波と、中継装置を経て届く中継波とを受信し、合成する。一例として、送信装置及び受信装置は、MIMO(Multiple-Input Multiple-Output)方式で通信することを想定しているが、実施例はMIMO方式に限らず、任意の無線通信方式に使用することが可能である。実施例において、中継装置は、入射した電波を反射する反射板又はリフレクタにより形成される。後述するように、実施例で使用されるリフレクタは、多数の素子の配列を含みかつ複数の方向に電波を反射するので、マルチビームリフレクトアレイと言及されてもよいし、或いは単にリフレクトアレイと言及されてもよい。
【0017】
<2.マルチビームリフレクトアレイ>
図6はマルチビームリフレクトアレイの概略平面図を示す。図7はマルチビームリフレクトアレイの概略側面図を示す。マルチビームリフレクトアレイは、少なくとも第1の配列群G1及び第2の配列群G2を含む。第1の配列群G1は第1の素子配列MG1を複数個含む。第2の配列群G2は第2の素子配列MG2を複数個含む。第1の配列群G1は、z軸∞方向から到来する電波を反射角α1で反射させる。第2の配列群G2は、z軸∞方向から到来する電波を反射角α2で反射させる。反射角α2は反射角α1と異なる。図示の例では、G1及びG2の2つの配列群しか示されていないが、マルチビームリフレクトアレイにおいて、3つ以上の配列群G1,G2,...,GJが存在してもよい。更に、個々の配列群は、x軸方向及び/又はy軸方向に反復的に又は周期的に設けられてもよい。
【0018】
第1及び第2の配列群MG1、MG2の各々は、y軸方向に並んだ複数の素子M1ないしMNiを有し、これらNi個の素子と同様な構造が、反復的に設けられている。iは配列群又は素子配列を指定するパラメータであり、目下の例の場合、i=1又は2である。素子の各々は電波を反射する何らかの素子であり、図示の例ではマッシュルーム構造である。電波は、z軸∞方向から到来する。第1の配列群MG1の場合、電波はz軸方向に対して角度α1をなして反射する。第2の配列群MG2の場合、電波はz軸方向に対して角度α2をなして反射する。隣接する素子同士の間隔がΔyiであったとすると、これらの素子による反射波の位相差Δφi及び反射角αiは次式を満たす。
【0019】
Δφi=k×Δyi×sin(αi)
αi=sin-1[(λΔφi)/(2πΔyi)]
ただし、kは波数であり、2π/λに等しい。λは電波の波長である。波長に比べて十分大きなリフレクトアレイを構成する場合、y軸方向に整列するNi個の素子M1ないしMNiの全体による反射位相差Ni×Δφiが、360度(2πラジアン)になるように、個々の素子の反射位相を設定することが望ましい。例えば、Ni=4の場合、Δφi=360/4=90度である。したがって、少なくとも理論上は、隣接する素子間の反射位相差が90度であるように素子を設計し、それらを4個並べたものを2次元的に反復的に並べることで、角度αiの方向に電波を反射するリフレクトアレイを実現することができる。
【0020】
図8は、図6及び図7に示すリフレクトアレイにおける素子として使用可能なマッシュルーム構造を示す。マッシュルーム構造は、接地プレート51と、ビア52と、パッチ53とを有する。
【0021】
接地プレート51は、多数のマッシュルーム構造に対して共通の電位を供給する導体である。Δxi及びΔyiは、隣接するマッシュルーム構造におけるビア間のx軸方向の間隔及びy軸方向の間隔をそれぞれ示す。Δxi及びΔyiは、マッシュルーム構造1つ分に対応する接地プレート51のサイズを表す。一般に、接地プレート51は多数のマッシュルーム構造が並んだアレイと同程度に大きい。第1及び第2の素子配列MG1、MG2において、Δx1及びΔx2は同一でもよいし、異なっていてもよい。また、第1及び第2の素子配列MG1、MG2において、Δy1及びΔy2も同一でもよいし、異なっていてもよい。
【0022】
ビア52は、接地プレート51とパッチ53とを電気的に短絡するために設けられる。
【0023】
パッチ53は、x軸方向にWxiの長さを有し、y軸方向にWyiの長さを有する。パッチ53は、接地プレート51に対して平行に距離tiを隔てて設けられ、ビア52を介して接地プレート51に短絡される。第1及び第2の素子配列MG1、MG2において、t1及びt2は同一でもよいし、異なっていてもよい。
【0024】
図示の簡明化のため、図8では2つのマッシュルーム構造しか示されていないが、第1及び第2の配列群には、このようなマッシュルーム構造がx軸及びy軸方向に多数設けられている。
【0025】
図9は、図6に示されているような第1又は第2の配列群G1、G2の拡大平面図を示す。線pに沿って一列に並んだ4つのパッチ53と、その列に隣接して線qに沿って並んだ4つのパッチ43とが示されている。パッチの数は任意である。
【0026】
図10は、図8及び図9に示すマッシュルーム構造の等価回路を示す。図9に示されるように、線pに沿って並ぶマッシュルーム構造のパッチ53と、線qに沿って並ぶマッシュルーム構造のパッチ53との間のギャップに起因して、キャパシタンスCが生じる。更に、線pに沿って並ぶマッシュルーム構造のビア52、及び線qに沿って並ぶマッシュルーム構造のビア52に起因して、インダクタンスLが生じる。したがって、隣接するマッシュルーム構造の等価回路は、図10右側に示されるような回路になる。すなわち、等価回路において、インダクタンスLとキャパシタンスCとが並列に接続されている。キャパシタンスC、インダクタンスL、表面インピーダンスZs及び反射係数Γは、次のように表すことができる。
【0027】
【数1】

数式(1)において、ε0は真空の誘電率を表し、εrはパッチ同士の間に介在する材料の比誘電率を表す。素子間隔は上記の例の場合、x軸方向のビア間Δxiである。ギャップは隣接するパッチ同士の隙間であり、上記の例の場合、(Δxi-Wxi)である。iは素子配列を指定するパラメータである。Wxiはx軸方向のパッチの長さを表す。すなわち、arccosh関数の引数は、素子間隔とギャップとの比率を表す。数式(2)において、μはビア同士の間に介在する材料の透磁率を表し、tiはパッチ53の高さ(接地プレート51からパッチ53までの距離)を表す。数式(3)において、ωは角周波数を表し、jは虚数単位を表す。数式(4)において、ηは自由空間インピーダンスを表し、φiは位相差を表す。
【0028】
図11は、図8に示すようなマッシュルーム構造のパッチのサイズWxiと反射位相との関係の一例を示す。iは素子配列(図6の例では、MG1又はMG2)を指定するパラメータである。概して、マッシュルーム構造(素子)の反射位相は、共振周波数において0になり、共振周波数は上記のキャパシタンスC及びインダクタンスLにより決定される。従って、リフレクトアレイの設計においては、個々の素子が適切な反射位相を実現するように、キャパシタンスC及びインダクタンスLを適切に設定する必要がある。図中、実線は理論値を示し、丸印でプロットされているものは有限要素法解析によるシミュレーション値を示す。図11は、4種類のビアの高さ又は基板の厚みtiの各々について、パッチのサイズWxiと反射位相との関係を示す。t02は距離tiが0.2mmである場合のグラフを表す。t08は距離tiが0.8mmである場合のグラフを表す。t16は距離tiが1.6mmである場合のグラフを表す。t24は距離tiが2.4mmである場合のグラフを表す。ビア間隔Δxi及びΔyiは、一例として2.4mmである。
【0029】
図8、図9に示すようなマッシュルーム構造で素子を形成する場合、y軸方向のパッチサイズWyiは全ての素子で同一であり、x軸方向のパッチサイズWxiが素子の場所によって異なる。なお、パッチサイズWyが全ての素子で共通することは必須ではなく、素子毎に異なるように設計することも可能である。ただし、パッチサイズWyが全ての素子で同一であるマッシュルーム構造を用いてリフレクトアレイを設計する場合、設計が簡易になり、x軸方向のパッチサイズWxiを、素子の場所に応じて決定すればよい。具体的には、様々なビアの高さ又は基板の厚みtの内、設計に使用するもの(例えば、t24)を選択し、整列する複数のパッチ各々のサイズが、そのパッチの位置で必要な反射位相に応じて決定される。例えば、t24が選択されていた場合において、あるパッチの位置で必要な反射位相が72度であった場合、パッチのサイズWxiは約2mmである。同様にして、他のパッチについてもサイズが決定される。理想的には、リフレクトアレイの中で整列している1つの素子群全体による反射位相の変化が360度であるように、パッチサイズが設計されていることが好ましい。
【0030】
<3.素子の反射位相>
図11を参照しながら説明したように、リフレクトアレイを設計する場合、設計に使用する厚みの基板に対するグラフ(例えば、t24)を選択し、整列する複数のパッチ各々のサイズが、そのパッチの位置で必要な反射位相に応じて決定される。理想的には、リフレクトアレイの中で整列している1つの素子群全体による反射位相の変化が360度であるように、パッチのサイズ等が設計されていることが好ましい。しかしながら、図11に示す例から分かるように、理論上及び製造上の理由から、実現不可能な反射位相が存在する。例えば、(本実施例では)t16の場合、144度より大きな反射位相や、60度より小さな反射位相を実現できるパッチサイズWxiは存在しない。t24の場合でも、117度より大きな反射位相や、-72度より小さな反射位相を実現することは困難である。更に、素子同士の間隔Δxi及びΔyiが2.4mmであることに起因して、パッチサイズWxiが2.4mmに近づくと、ギャップ(Δxi−Wxi)が極めて狭くなり、製造することが困難になる。このように、実際に製造可能なパッチサイズ及び実現可能な反射位相の制約の下で、リフレクトアレイを設計する必要がある。
【0031】
説明の便宜上、リフレクトアレイに第1及び第2の配列群G1及びG2が含まれているものとする。更に、第1の配列群G1に含まれている第1の素子配列MG1及び第2の配列群G2に含まれている第2の素子配列MG2それぞれにおいて、y軸方向に整列する60個の素子が、設計の1周期分の構造を形成しているものとする。N1=N2=60。隣接する素子同士の間隔は、Δy1=Δx1=Δy2=Δx2=2.4mmであるとする。従って、1周期分の構造は、2.4×60=144mmの長さを有する。ただし、素子数や素子同士の間隔等の具体的な数値は、第1及び第2の配列群において異なっていてもよい。
【0032】
これら60個の素子各々が実現すべき反射位相は、次のようにして決定される。先ず、特定の反射角を実現するのに必要な反射位相の内、実現可能なものが何であるかが判定される。反射位相差Δφiと反射角αiとの間には、
Δφi=k×Δyi×sin(αi)
の関係があるので、反射位相と座標(y軸方向に並ぶ素子の位置)との間には、線形な関係が成立する。
【0033】
図12は、反射角α1=70度及び反射角α2=45度の各々について、そのような線形な関係が成立することを示す。横軸は座標(y軸)であり、単位はmmである。素子は2.4mm毎にy軸に沿って整列している。縦軸は反射位相を示す。単位は度であるが、ラジアンでもよい。反射位相は、実際には360度の範囲内の角度で表現されるが、線形な関係を強調するため、敢えて360度より大きな角度についても直線がそのまま延長されている。図中、□印は、その点に対応する座標の位置において、第1の反射角α1=70度を実現するように反射位相を実際に設定可能であることを示す。○印は、その点に対応する座標の位置において、第2の反射角α2=45度を実現するように反射位相を実際に設定可能であることを示す。更に、製造上又は理論上の制約により、約100度ないし290度の範囲内の反射位相を実現する素子を作成することはできない。これは、直線上において、□印又は丸印が示されていない領域(実現不可能な反射位相)として図示されている。実現不可能な反射位相は、製造上及び理論上の制約から決定されるので、反射角によらない。このため、実現不可能な反射位相の範囲は、第1及び第2の反射角双方に共通している。
【0034】
図13は、図12のグラフにおいて、縦軸が360度の範囲内に収まるように、反射位相を換算したグラフを示す(縦軸=(反射位相)mod(360))。また、横軸はy軸方向に整列するM1ないしM60の60個の素子各々の場所を示す。第1の素子配列MG1に属する素子については、第1の反射角α1=70度に関する反射位相が設定される。具体的には、個々の素子の位置において、図13の四角印に対応する反射位相が設定される。対応する反射位相が存在しない素子は、第1の素子配列MG1において省略されてもよい。このように素子の反射位相が設定された第1の素子配列MG1を複数個含む第1の配列群G1は、z軸方向から到来する入射波を第1の反射角α1=70度の方向に反射できるようになる。第2の素子配列MG2に属する素子については、第2の反射角α2=45度に関する反射位相が設定される。具体的には、個々の素子の位置において、図13の丸印に対応する反射位相が設定される。対応する反射位相が存在しない素子は、第2の素子配列MG2において省略されてもよい。このように素子の反射位相が設定された第2の素子配列MG2を複数個含む第2の配列群G2は、z軸方向から到来する入射波を第2の反射角α2=45度の方向に反射できるようになる。
【0035】
<4.シミュレーション>
図14は、シミュレーションにおいて想定されている装置の位置関係を示す。原点に送信装置Txがあり、ある方向に沿って原点から10メートル離れた場所に中継装置RNがあるとする。中継装置RNは図6に示すようなリフレクトアレイにより形成されている。中継装置RNは、改善すべきエリアに向けて入射波を反射する。送信装置及び受信装置はそれぞれ4つのアンテナを備え、4×4のMIMO方式で通信を行うものとする。
【0036】
図15は、従来のリフレクタR2による反射波と図6に示すようなリフレクタR34による反射波とを利得及び方位角の観点から比較した図を示す。従来のリフレクタR2は、1メートル四方の正方形で形成され、1つの反射角90度程度で入射波を反射させている。実施例によるリフレクタR34も同じ1メートル四方の大きさを有するが、その内の半分R3がα1=75度の反射角で電波を反射し、半分R4がα2=90度の反射角で電波を反射するように、第1及び第2の素子配列MG1及びMG2内の素子各々の反射位相が設定されている。このため、実施例に関する反射角α1及びα2の2つのパターンは、従来例によるパターンよりも利得は低いが、利得が有効利得(図示の例では10dB)を超えている方位角の範囲が2倍以上広く拡大されている。
【0037】
図16は、チャネル容量の空間分布図の観点による比較例を示す。想定している位置関係は図14に示すとおりである。「従来例」及び「実施例」の場合に得られる個々のビーム(反射波)に関し、アウテージ容量が示されている。「従来例」の場合、強い1つの反射波が鋭く放射されているにすぎないので、アウテージ容量の低い領域が大半を占めている。これに対して、「実施例」の場合、ある程度強い2つの反射波が異なる方向に反射されており、アウテージ容量を改善できた地域が広がっている。
【0038】
図17はアウテージ容量と容量の累積分布CDFとの観点による比較例を示す。「反射板なし」とあるのは、中継装置を用いずに送信装置Txからの直接波のみを受信する場合に対応する。「従来例」とあるのは、従来のリフレクタR2による反射板を用いてエリアを改善しようとした場合に対応する。「実施例」とあるのは、実施例によるリフレクタR34による反射板を用いてエリアを改善しようとした場合に対応する。図示されているように、実施例の場合、エリアを効果的に改善できていることが分かる。
【0039】
以上本発明は特定の実施例を参照しながら説明されてきたが、それらは単なる例示に過ぎず、当業者は様々な変形例、修正例、代替例、置換例等を理解するであろう。説明の便宜上、上記の実施例はマッシュルーム構造の素子を有するリフレクトアレイの観点から説明されてきたが、本発明はそのような実施例に限定されず、他の状況で使用されてもよい。例えば、左手系伝送線路理論、メタマテリアル、EBG(電気的バンドギャップ)構造を用いたリフレクトアレイの設計、リフレクトアレイを応用する伝搬環境改善技術、リフレクトアレイを応用する反射波の方向制御技術等のような様々な場面で本発明を使用することも可能である。更に、上記の説明においてマルチビームリフレクトアレイは、到来波を複数の方向に反射させていたが、逆に、複数の方向から到来する電波を1つの方向に反射させてもよい。発明の理解を促すため具体的な数値例を用いて説明がなされたが、特に断りのない限り、それらの数値は単なる一例に過ぎず適切な如何なる値が使用されてもよい。発明の理解を促すため具体的な数式を用いて説明がなされたが、特に断りのない限り、それらの数式は単なる一例に過ぎず適切な如何なる数式が使用されてもよい。実施例又は項目の区分けは本発明に本質的ではなく、2以上の実施例又は項目に記載された事項が必要に応じて組み合わせて使用されてよいし、ある項目に記載された事項が、別の項目に記載された事項に(矛盾しない限り)適用されてよい。本発明は上記実施例に限定されず、本発明の精神から逸脱することなく、様々な変形例、修正例、代替例、置換例等が本発明に包含される。
【符号の説明】
【0040】
M1-MN 素子
51 接地プレート
52 ビア
53 パッチ
α1 第1の反射角
α2 第2の反射角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも第1及び第2の配列群を含むマルチビームリフレクトアレイであって、
前記第1の配列群は第1の素子配列を複数個含み、前記第2の配列群は第2の素子配列を複数個含み、
前記第1及び第2の素子配列の各々は、所定の方向に整列した複数の素子を含み、該複数の素子の内の2つの素子各々が反射する電波の位相差は、該2つの素子の間隔と該素子による反射角に対する三角関数の値との積に比例し、
前記第1の配列群による反射角は前記第2の配列群による反射角と異なる、マルチビームリフレクトアレイ。
【請求項2】
前記第1の配列群と前記第2の配列群とが前記所定の方向に関して並列的に配置されている、請求項1記載のマルチビームリフレクトアレイ。
【請求項3】
前記所定の方向に整列した前記複数の素子が、複数のパッチと接地プレートとを少なくとも有するマッシュルーム構造により形成されている、請求項1又は2に記載のマルチビームリフレクトアレイ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図17】
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【図16】
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【公開番号】特開2013−48343(P2013−48343A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−185847(P2011−185847)
【出願日】平成23年8月29日(2011.8.29)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成23年度 総務省「超高速移動通信システムの実現に向けた要素技術の研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(392026693)株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ (5,876)
【Fターム(参考)】