説明

マルチフィラメント糸を処理する装置

本発明は、溶融紡糸プロセスにおいてマルチフィラメント糸を処理する装置であって、ハウジングプレートとバッフルプレートとの間に処理通路が形成されており、ハウジングプレートがノズル孔を有しており、このノズル孔が、処理通路に開口していて、圧力空気接続部と接続されおり、バッフルプレートが、ハウジングプレートと共に、処理通路の両端部において入口開口と出口開口とを形成している形式のものに関する。処理通路の内部において交絡によって生ぜしめられるねじり効果をコントロールするために、本発明の構成では、バッフルプレートが、ノズル孔と入口開口との間における処理通路の部分に、糸ガイドエレメントを有しており、該糸ガイドエレメントが糸を変位させるために処理通路内に進入するように形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の上位概念部に記載された形式の装置、すなわち、溶融紡糸プロセスにおいてマルチフィラメント糸を処理する装置であって、開放した長辺側に処理通路を有するハウジングプレートと、処理通路に開口していて圧力空気接続部への接続のためにハウジングプレートを貫通しているノズル孔と、ハウジングプレートの長辺側において処理通路を画成しているバッフルプレートとが設けられており、該バッフルプレートが、ハウジングプレートと共に処理通路の両端部において入口開口と出口開口とを形成している形式のものに関する。
【0002】
合成糸を製造する場合、溶融紡糸プロセスにおいて溶融ポリマから、多数の極細のフィラメントストランドが押し出され、冷却後に1つのマルチフィラメント糸にまとめられる。糸を次々と別の処理ステップにおいて、例えば牽伸のための処理ステップにおいて、ゴデットを介して案内できるようにするために、糸を湿らせることが必要である。そのために仕上げ液が糸に塗布される。糸の内部においてすべてのフィラメントストランドが均一に湿らされることを保証するために、糸は湿らされた後で、別の処理ステップにおいて圧力空気流によって絡み合わされる。このような交絡によって、糸のフィラメントストランドにおける仕上げ液の塗布状態が均一化される。同時にフィラメントストランドは交絡によって互いに混合され、これによって糸におけるフィラメントストランドのまとまりが改善される。
【0003】
糸の湿らせと交絡とを実施するために、例えばEP1165868B1又はDE102004017210A1に開示された従来技術において公知の装置では、糸を湿らせる処理ステップと糸を絡み合わせる処理ステップとは、糸走行方向において短い間隔をおいて相前後して行われる。そのために糸をプレパレーションする装置と、糸を絡み合わせる装置とは1つの共通のハウジング内に配置されている。糸は、プレパレーション液もしくは仕上げ液によって湿らされた直ぐ後で、さらになる糸ガイドなしに、共通の処理通路内において後続の交絡へと導かれる。この場合、複数のステップにおいてマルチフィラメント糸を処理する特にコンパクトな装置を実現することができる。
【0004】
このような公知の装置では、フィラメントストランドの交絡によって糸の内部において動的効果(dynamische Effekte)の生じることが観察され、このような動的効果は、湿しステップまでの糸走行とは逆向きにかつさらに増大する。特に交絡現象によって糸において顕著になるこのような効果は、糸において先行して行われる処理ステップに対して、不都合な影響を及ぼすことがある。
【0005】
ゆえに本発明の課題は、冒頭に述べた形式のマルチフィラメント糸を処理する装置を改良して、交絡によって生ぜしめられる動的効果を、マルチフィラメント糸における先行する処理のためにコントロールできるようにすることである。
【0006】
この課題を解決するために本発明の構成では、バッフルプレートが、ノズル孔と入口開口との間における処理通路の部分に、糸ガイドエレメントを有しており、該糸ガイドエレメントが糸を変位させるために処理通路内に進入するように形成されているようにした。
【0007】
本発明の別の有利な構成は、従属請求項に記載されている。
【0008】
本発明には特に次のような利点がある。すなわち本発明による装置では、圧力空気流によって糸において生ぜしめられた動的効果、特にねじり効果が、糸において糸走行方向とは逆向きに妨げられることなく成長することを、防止することができる。いわゆるねじりストップとして、バッフルプレートはノズル孔と入口開口との間における処理通路の部分に、糸ガイドエレメントを有しており、この糸ガイドエレメントは、糸を変位させるために処理通路内に進入するように形成されている。これによって糸は強制変向させられ、この強制変向によって、糸複合体の内部におけるフィラメントストランドは沈静させられる。このようにして、戻る方向で進行するねじり効果を有利に回避することができる。
【0009】
本発明は、WO03/033791A2に基づいて公知の、マルチフィラメント糸を処理する装置とも、その構成の点で大きく異なっている。この公知の装置は、ハウジングプレートの内部において糸を絡み合わせるために、処理通路を有しており、この処理通路は入口側と出口側とにおいてそれぞれ溝底部に突出部を有している。この場合糸入口と糸出口とには、処理通路の外においてそれぞれ糸ガイドが配属もしくは対応配置されており、この糸ガイドによって、処理通路の内部において望まれている糸の強制案内が生ぜしめられる。
【0010】
従ってこの公知の装置は、短い間隔をおいて糸に複数の処理ステップを相前後して実施できるようにするためには、まったく適していない。さらに、ハウジングプレートの溝底部に配置された突出部は、場合によっては生じるねじり効果の後方への進行を阻止するのに、まったく適していない。例えば、ノズル孔から処理通路内に流入する圧力空気流によって、糸はバッフルプレートに向かって変位させられる。これによって糸は、ハウジングプレートの溝底部に設けられた突出部から持ち上げられ、その結果、処理通路の内部において糸の強制案内は実施されなくなる。圧力空気流によって生ぜしめられた渦流は、これによって公知の装置では妨げられることなく、ハウジングプレートの外に配置された糸ガイドにまで達することになる。
【0011】
本発明には次のような特別な利点、すなわち、圧力空気流によって惹起された糸の変位とは無関係に、処理通路内部における強制案内が糸ガイドエレメントによって維持される、という特別な利点がある。そのために糸ガイドエレメントは、反対側に位置するバッフルプレートに配置されている。これによって圧力空気流によって生ぜしめられた糸の変位は、糸ガイドエレメントによって望まれている、処理通路の溝底部に向かっての糸の変位を、さらに高めることになる。
【0012】
特に、フィラメントストランドの番手が大きい場合に、糸において大きな変位を生ぜしめることができるようにするために、本発明の特に有利な構成では、ハウジングプレートが糸ガイドエレメントの領域に、処理通路を拡大するための凹部を有しており、該凹部によって糸ガイドエレメントが、処理通路の溝底部を越えて進入可能であるようになっている。このように構成されていると、糸を、処理通路の溝深さを越えて大きく変位させることが可能になる。さらに溝底部における凹部によって、処理通路に沿って案内される糸の支持箇所をさらに増やすことができ、その結果、特に強いねじり効果をも停止させることが可能になる。
【0013】
本発明の別の有利な構成では、糸ガイドエレメントが、成形された突出部によってバッフルプレートに形成されており、該突出部が、摩耗を防止する接触面を糸に対して有している。このようになっていると、糸ガイドエレメント及びバッフルプレートを1つの材料から製造することができ、有利である。
【0014】
異なった大きさの変位を実現するためには、バッフルプレートがハウジングプレートに交換可能に取り付けられており、高さの異なった突出部を備えた複数のバッフルプレートが選択的に、ハウジングプレートと組合せ可能であると、有利である。これによって糸型式及び溶融紡糸プロセスに応じて、所望のねじり停止効果を実現することができる。本発明の実施形態は、糸の交絡における高いフレキシビリティを可能にする。
【0015】
しかしながら基本的には同様にまた、糸ガイドエレメントを、バッフルプレートに交換可能に保持された糸ガイドによって形成することも可能である。この場合、糸ガイドは変向ピン又は変向ローラによって形成することができ、この変向ピン又は変向ローラの、糸に対する接触表面が、摩耗防止層を有していると、有利である。このようになっていると、糸ガイドエレメントとバッフルプレートとを異なった材料によって製造することができ、有利である。
【0016】
本発明の別の有利な構成では、糸ガイドエレメントと入口開口との間における処理通路の部分に、ハウジングプレートが、湿し装置との接続のために働く取付け開口を有しており、このように構成されていると、極めてコンパクトな構造形式を得ることができ、処理通路の内部において、糸の湿らせと糸の交絡とを実施することができる。そのためにハウジングプレートの取付け開口の内部には、糸を仕上げるための湿しエレメントが保持され、この湿しエレメントは処理通路内に突入している。
【0017】
種々異なった方法及び糸型式においても装置を使用するためのフレキシビリティを保証するために、本発明の別の有利な構成では、湿しエレメントがハウジングプレートと交換可能に結合されている。このように構成されていると、糸の番手に合わせられた湿しエレメントを簡単にハウジングプレートに組み込むことが可能になる。
【0018】
湿しエレメントとしては有利には、プレパレーションピンが使用され、このプレパレーションピンは、糸のための案内領域にセラミック製の接触表面を有している。この場合仕上げ液は有利には、接触表面に通じる毛管孔を介して案内され、その結果、糸を連続的に湿らせることができる。
【0019】
糸を湿らせた直ぐ後で交絡させることによって、仕上げ液の一部は糸から吹き飛ばされ、そして処理通路の内部において集まることが、分かっている。仕上げ液の損失を回避するために、本発明の別の有利な構成では、ノズル孔と出口開口との間における処理通路の部分に、ハウジングプレートが、処理通路に開口していて吸出し管路に接続されている捕集開口を有しており、吸出し管路が湿し媒体を戻すために捕集容器と接続されている。装置の外で汚れの原因となり得る、糸による余剰の仕上げ液に連行は、これによって有利に回避することができる。
【0020】
一方では、マルチフィラメント糸を交絡させるための処理通路内における有利な空気案内を得るため、かつ他方では処理通路内に集まる残留液を排出するための自然の勾配を形成するために、本発明の別の有利な構成では、ハウジングプレートにおける処理通路の溝底部が、捕集開口に向けられた傾斜を有している。このように構成されていると、処理通路の出口開口は入口開口に比べて大きな横断面を有することになる。
【0021】
糸走行方向において作用する有利な空気流を処理通路内において得るため、及び糸ガイドエレメントにおいて糸の変位によって滴下する仕上げ液を集めて排出するために、本発明の別の有利な構成では、ハウジングプレートに、糸ガイドエレメントに向かい合って位置している捕集開口が形成されており、この捕集開口が吸出し管路を介して、液体を収容及び分離するための外部の捕集容器と接続されている。このようになっていると、糸において、湿し装置に向かって作用する吸込み力を生ぜしめることができ、この吸込み力によって、糸と湿しエレメントとの間における強力な接触により、湿し作業はさらに改善される。
【0022】
ハウジングプレート及びバッフルプレートにおいて糸に対して有効な接触面の摩耗を防止するために、このような接触面を、セラミック製の保護層によって形成することができる。本発明の有利な実施形態では、そのために、ハウジングプレート及びバッフルプレートがセラミック材料から形成されており、この場合ハウジングプレート及びバッフルプレートは接触面のみならず、平面平行なシール面をも有しており、この接触面もしくはシール面は、処理通路をシールするためにシール作用をもって互いに接触保持されている。これによって、付加的なシール部材を設けることなしに、処理通路は特に糸を交絡させるために、シール作用をもって構成されることができる。
【0023】
ハウジングプレート及びバッフルプレートを受容するために、本発明の有利な構成では、保持体ハウジングが使用されており、この保持体ハウジング内に、ハウジングプレート及びバッフルプレートが埋め込まれて保持されている。保持体ハウジングはそのために入口開口及び出口開口に対応して、それぞれ糸入口及び糸出口を有している。
【0024】
処理通路内への糸の挿入を簡単に実施できるようにするために、本発明の有利な構成では、保持体ハウジングが2部分から形成されており、両ハウジング部分のうちの1つが、旋回可能なハウジングカバーとして形成されていて、該ハウジングカバーがその下側面にバッフルプレートを保持している。このように構成されていると、複数の動作を実施することなしに、ハウジングカバーの旋回によって処理通路を簡単に開閉することができる。
【0025】
溶融紡糸プロセスにおいては通常複数の糸が狭い糸間隔で互いに並んで平行に案内されるので、本発明の構成は、特に複数の糸を処理する場合に適している。この場合保持体ハウジング内には複数のハウジングプレートと複数のバッフルプレートとが並んで位置するように保持されている。
【0026】
糸の間における可能な限り狭い糸間隔を実現するために、択一的にハウジングプレートとバッフルプレートとに複数の処理通路を形成することが可能であり、この場合各処理通路には、吸出し開口に接続される捕集開口及び湿しエレメントの受容部毎に、各1つの取付け開口が設けられている。
【0027】
次に図面を参照しながら本発明の複数の実施例について詳説する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明による装置の第1実施例を示す縦断面図である。
【図2】図1に示された実施例の横断面図である。
【図3】本発明による装置の別の実施例を示す縦断面図である。
【図4】図3に示された実施例の横断面図である。
【図5】図3に示された実施例の側面図である。
【図6】本発明による装置のさらに別の実施例を示す側面図である。
【0029】
図1及び図2には、本発明によるマルチフィラメント糸を処理する装置の第1実施例が示されている。図1には、第1実施例が縦断面図で示され、図2には横断面図で示されている。特に図面を指定しない限り、以下の記載は両方の図に対するものである。
【0030】
図1に示された実施例では、保持体ハウジング13の内部に、ハウジングプレート1とバッフルプレート2とが配置されている。ハウジングプレート1は、開放した長辺側に処理通路3を有しており、この処理通路3は、ハウジングプレート1の長辺側に溝形に形成されている。処理通路3は、ハウジングプレート1の長辺側に載置されたバッフルプレート2によって覆われており、これによってハウジングプレート1とバッフルプレート2とは、処理通路3への延長部においてそれぞれ1つの入口開口4と出口開口5とを形成している。処理通路3の溝底部11にはノズル孔6が開口しており、このノズル孔6は、ハウジングプレート1を貫通していて、かつ保持体ハウジング13に形成された圧力空気接続部16と接続されている。この圧力空気接続部16は、圧力空気管路17を介して圧力源(図示せず)と連結されている。
【0031】
処理通路3の、入口開口4とノズル孔6との間の部分には、バッフルプレート2に糸ガイドエレメント7が形成されており、この糸ガイドエレメント7は、処理通路3内において案内される糸10を変位させるために処理通路3内に進入している。図示の実施例では糸ガイドエレメント7は、バッフルプレート2の下側面に直に成形された突出部9によって形成されている。この突出部9は、処理通路3に合わせられた形状を有しており、その結果、処理通路3において案内される糸10は確実に案内される。糸ガイドエレメント7の領域において、処理通路3は凹部8によってその横断面を拡大されている。この凹部8は、溝幅の拡大と処理通路3の溝深さとが得られるように、構成されている。
【0032】
図1及び図2に示された実施例では、バッフルプレート2における突出部9は、処理通路3の溝底部11に対して短い間隔を有するように突出している。これによって、処理通路3の内部において突出部9のところで糸10の単純な変向が達成される。突出部9の接触表面はそのために有利には、摩耗保護層によって形成されている。
【0033】
図1に示されているように、保持体ハウジング13は、入口開口4に対応して糸入口14を有し、かつ処理通路3の出口開口5に対応して糸出口15を有している。保持体ハウジング13はそのために有利には、周囲に対してシール作用をもってまとめられている2つの部分28,29によって形成されている。両ハウジング部分28,29は、糸ガイド22.1,22.2を固定するために、糸入口14の領域及び糸出口15の領域に各1つの切欠きを有している。糸入口14及び糸出口15の領域だけにおいて、糸ガイド22.1,22.2は保持体ハウジング13のハウジング壁に保持されている。両糸ガイド22.1,22.2はこの場合例えばセラミックエレメントによって形成されていることができる。
【0034】
糸入口14と入口開口4との間において保持体ハウジング13の内部の領域には、処理通路3の延長部に、湿し装置18を収容するための入口室27が形成されている。湿し装置18はプレパレーションピン19を有しており、このプレパレーションピン19は、保持体ハウジング13に保持されていて、液体通路20を有している。液体通路20は、プレパレーションピン19の接触表面において開口している。液体通路20は反対側の端部において、液体接続部21と接続されている。液体接続部21は保持体ハウジング13に形成されていて、液体管路26を介して、例えばオイル・水エマルジョンのような仕上げ液を準備するための液体源(図示せず)と接続されている。
【0035】
ハウジングプレート1の反対側において保持体ハウジング13の内部には、処理通路3の延長部に、出口室23が形成されている。この出口室23は、保持体ハウジング13の壁に設けられた捕集開口31を介して、吸込み接続部24と接続されている。この吸込み接続部24には吸出し管路25が接続されていて、この吸出し管路25は、負圧源(図示せず)を介して捕集容器と連結されている。
【0036】
図1及び図2に示された本発明による装置の実施例では、複数のストランド状の個々のフィラメントによって形成されたマルチフィラメント糸が、処理のために糸入口14を介して供給される。保持体ハウジング13の内部において、糸10のフィラメントが初めに、湿しエレメントとして形成されたプレパレーションピン19のところで湿される。そのために糸10のフィラメントは、プレパレーションピン19の湿された表面と接触しながら案内され、仕上げ液によって均一に湿される。
【0037】
次いで、湿された糸10は入口開口4を介して処理通路3に供給される。ノズル孔6を介して処理通路3に流入する圧力空気流によって、糸10のフィラメントは交絡させられる(verwirbeln)。圧力空気流はこの場合有利には、結節形成(Knotenbildung)なしに、フィラメントが混合(Vermischung)されるように、そして特に糸における仕上げ液の塗布(Praeparationsauftrag)が均一化されるように、調節されている。圧力空気流によって糸において生ぜしめられる動的効果、特にねじり効果(Dralleffekt)は、処理通路3内に突入するバッフルプレート2の突出部9による糸10の変位によって、糸走行方向とは逆向きの戻り走行を阻止する。そして糸10のフィラメントの絡み合わせ、つまり交絡(Verwirbelung)によって生じる動的効果は、有利に処理通路内に残り、制御されずに戻ってしまうことは不可能である。
【0038】
処理通路3内においてバッフルプレート2によって溝底部11に向かって糸10が変位されることによって、糸の案内と糸の交絡とが付加的に改善される。処理通路3内における糸10の変位は、供給される圧力空気の流れ方向とは逆向きのバッフルプレート2の突出部9によって行われる。バッフルプレート2は交換可能にハウジングプレート1と結合されているので、処理通路3内における糸の変位の大きさは、バッフルプレート2の交換によって変えることができる。例えば、異なった突出部9を備えた複数のバッフルプレート2が準備されると有利であり、このようにすると、保持体ハウジング13内においてバッフルプレート2を選択的にハウジングプレート1と組み合わせることができる。ハウジングプレート1もまた同様に有利には保持体ハウジング13内に交換可能に保持され、このようにすると、例えば大きなノズル孔6又は小さなノズル孔6を備えたハウジングプレート1を使用することができる。これによって、交絡をその都度の糸型式に調節することが可能である。ノズル孔6はこの場合有利には、糸走行方向に向けられた傾斜をもって開口しており、その結果、出口開口5に向けられた圧力空気流が処理通路3内において生ぜしめられる。さらに、残った余剰の仕上げ液を、処理通路3を介して出口室23に導くことができる。出口室23の内部において、仕上げ液の余剰残留量は捕集開口31を介して排出される。そのために出口室23には僅かな負圧が生ぜしめられる。
【0039】
糸10の湿し及び交絡の後で、糸10は糸出口15を介して保持体ハウジング13から外に導かれる。
【0040】
図1及び図2に示された実施例は、個々の装置部分の選択及び配置形式に関する例である。基本的には例えば湿し装置18を、例えばノズル又はローラのような別の湿しエレメントによって形成することが可能である。同様に、成形された突出部9として形成された、バッフルプレート2における糸ガイドエレメント7も一例である。
【0041】
図3、図4及び図5には、複数の合成糸を製造するための溶融紡糸プロセスにおいて有利に使用することができる、本発明による装置の別の実施例が示されている。図3にはこの実施例が縦断面図で示され、図4には横断面図で示され、図5には側面図で示されている。これら3つの図面のうちの1つに限定して言及していない場合には、以下の記載はすべての図面に対するものである。
【0042】
同一機能を有する実施例の装置部分は、同一符号で示されている。
【0043】
図3、図4及び図5に示された実施例では、ハウジングプレート1とバッフルプレート2とが保持体ハウジング13に埋め込まれている。保持体ハウジング13は、ハウジング底部28とハウジングカバー29との2つの部分から構成されている。ハウジングカバー29は旋回軸30を介して、ハウジング底部28の上側に旋回可能に保持されている。バッフルプレート2はハウジングカバー29に、かつハウジングプレート1はハウジング底部28に交換可能に取り付けられている。これによってハウジングカバー29の開閉によって、バッフルプレート2とハウジングプレート1とは互いに切り離される。例えば糸を、ハウジングカバー29の開放状態において、ハウジングプレート1の長辺側に形成された処理通路3に挿入することができる。この状態は図5に破線で示されている。
【0044】
処理通路3内への糸の挿入後に、バッフルプレート2を備えたハウジングカバー29は閉鎖され、その結果ハウジングプレート1とバッフルプレート2とはそのシール面でシール作用をもって互いに接触保持される。ハウジングプレート1及びバッフルプレート2のシール面は、処理通路3に沿って延在しているので、処理通路3は周囲に対してシールされている。ハウジング部分28,29の間におけるシールはこの場合不要である。
【0045】
特に図3から分かるように、バッフルプレート2とハウジングプレート1とは処理通路3を形成しており、この場合両端面側にそれぞれ入口開口4と出口開口5とが形成されている。入口開口4及び出口開口5に対応して、ハウジングカバー29とハウジング底部28との間には糸入口14と糸出口15とが形成されている。
【0046】
ハウジングプレート1及びバッフルプレート2は、既に述べた実施例ではほぼ同じに形成されているので、以下においては相違点だけについて述べる。
【0047】
図1に示された実施例とは異なり、図3に示された実施例では湿し装置18はハウジングプレート1に接続されている。そのためにハウジングプレート1は、凹部8と入口開口4との間における処理通路3の一部に、取付け開口37を有しており、この取付け開口37には湿し装置18の湿しエレメント19が保持されている。湿しエレメントはプレパレーションピン19によって形成されており、このプレパレーションピン19は交換可能にハウジングプレート1と結合されている。プレパレーションピン19は取付け開口37から上に向かって処理通路3内に進入していて、処理通路3の内部において、糸10と接触する湿された接触表面を形成している。プレパレーションピン19は液体通路20を介して、ハウジング底部28における液体接続部21と接続されている。液体通路20は、処理通路3の内部におけるプレパレーションピン19の接触表面において開口している。
【0048】
糸走行方向においてプレパレーションピン19には、糸ガイドエレメント7が後置されており、この糸ガイドエレメント7はバッフルプレート2に固定されていて、処理通路3もしくは凹部8に進入している。
【0049】
図3及び図4から分かるように、糸ガイドエレメント7はこの実施例では、変向ローラ12として形成された交換可能な糸ガイドによって、形成されている。この変向ローラ12はバッフルプレート2の下側面に有利には交換可能に保持されている。変向ローラ12は、処理通路3の溝底部11を越えて凹部8内に進入しており、その結果糸10は処理通路3の内部において、処理通路3の溝深さを越えて変位させられる。これによって、有利には、凹部8と処理通路3との間における移行領域において、糸10を支持するために別の支持箇所を実現することができ、これらの支持箇所によって、絡み合わされる糸は強力に沈静させられる。
【0050】
ハウジングプレート1の中央領域においてはノズル孔6が処理通路3に開口しており、このノズル孔6はハウジングプレート1を貫通していて、ハウジング底部28において圧力空気接続部16と接続されている。
【0051】
処理通路3のさらなる経過において、ノズル孔6と出口開口5との間の部分には捕集開口31.1がハウジングプレート1に形成されており、この捕集開口31.1はハウジングプレート1を貫通していて、ハウジング底部28に形成された吸込み接続部24.1と連結されている。捕集開口31.1は、幅と深さにおいて処理通路3を拡大している。ハウジングプレート1における処理通路3の溝底部11は、捕集開口31に向けられた傾斜を有しており、その結果捕集開口31に向かっての自然な勾配が生ぜしめられている。従って出口開口5は、反対側に位置する入口開口4よりも大きな横断面を有している。処理通路3のこのような構成によって、残った余剰の液体の排出及び糸の交絡が達成される。
【0052】
特に、糸10の変向によって滴下する残留仕上げ液を処理通路3から排出できるようにするために、ハウジングプレート1を貫通する第2の捕集開口31.2が、凹部8の底部に形成されている。この捕集開口31.2はハウジング底部28における吸出し管路25.2と接続されている。
【0053】
処理通路3の内部において発生した残留仕上げ液を排出するために、吸出し管路25.1,25.2は負圧源32を介して捕集容器33と接続されており、その結果残留液体は連続的に捕集容器33に戻される。この場合有利には、例えば仕上げ液の調製ステップ(Aufbereitungsstufe)のような別のステップが介在していてもよい。
【0054】
図3〜図5に湿された実施例の機能は、図1及び図2に示された実施例と同じである。従ってここでは記載の繰り返しは省く。補足的に図3には、本発明による装置の圧力吸気供給のための接続可能性と仕上げ液の供給排出のための接続可能性とが示されている。仕上げ液は例えば調量ポンプ35によって液体管路26を介してプレパレーションピン19に供給される。調量ポンプ35はそのために捕集容器33と接続されており、この捕集容器33は、合成糸を湿らせるために例えばオイル・水エマルジョンである仕上げ液を蓄えている。
【0055】
ノズル孔6への圧力空気の供給のために、圧力源34が設けられており、この圧力源34は制御弁36及び圧力空気管路17を介してノズル孔6と接続されている。制御弁36を介してこの場合、処理通路3に流入する圧力空気流を生ぜしめるための所望の圧力調節を選択することができる。
【0056】
図1〜図5に示された実施例は、個々の糸をそれぞれ連続的に湿らせかつ絡み合わせるために、有利に適している。溶融紡糸プロセスにおいては通常しかしながら、複数の糸が互いに平行に並んで生ぜしめられるので、糸を平行に湿らせかつ絡み合わせるためには、複数の装置を互いに並べて配置する必要がある。糸の間における間隔を可能な限り小さくできるようにするために、図6には本発明による装置の別の実施例が示されている。図6にはこの実施例が側面図で示されている。
【0057】
図6に示された実施例では、保持体ハウジング13の内部に複数のハウジングプレート1と複数のバッフルプレート2とが互いに近接して並んで保持されている。この実施例では全部で3つのハウジングプレート1と3つのバッフルプレート2とが示されており、これらのハウジングプレート1及びバッフルプレート2はそれぞれ互いに接触し合って一列に配置されている。ハウジングプレート1及びバッフルプレート2の構成は、図3及び図4に示された実施例における同じであるので、これらについての説明の繰り返しは省く。互いに隣接し合うハウジングプレート1及び互いに隣接し合うバッフルプレート2は、図6に示されているように、互いに平行に配置されていても、又は互いの間に角度を成して配置されていてもよい。
【0058】
保持体ハウジング13はこの実施例では同様に、ハウジング底部28とハウジングカバー29とによって形成されており、このハウジング底部28とハウジングカバー29とは旋回軸30を介して互いに結合されている。ハウジングカバー29はその下側面に全部で3つのバッフルプレート2を保持しており、その結果ハウジングカバー29の開放された位置においては、3つの糸が同時にハウジングプレート1の処理通路3内に挿入可能である。従って図6に示された装置は、糸群を互いに平行に湿らせかつ絡み合わせるために、特に適している。
【0059】
択一的に、図3に示された処理通路3はまたそれぞれ1つのハウジングプレート1と1つのバッフルプレート2とによって形成されていてもよい。そのためにはハウジングプレート1は互いに並んで位置している複数の処理通路3を有しており、これらの処理通路3は1つのバッフルプレートによって閉鎖されることができ、そしてバッフルプレートにはそれぞれ3つの、処理通路に配属もしくは対応配置された糸ガイドエレメントが設けられている。
【符号の説明】
【0060】
1 ハウジングプレート、 2 バッフルプレート、 3 処理通路、 4 入口開口、 5 出口開口、 6 ノズル孔、 7 糸ガイドエレメント、 8 凹部、 9 突出部、 10 糸、 11 溝底部、 12 変向ローラ、 13 保持体ハウジング、 14 糸入口、 15 糸出口、 16 圧力空気接続部、 17 圧力空気管路、 18 湿し装置、 19 プレパレーションピン、20 液体通路、 21 液体接続部、 22.1,22.2 糸ガイド、 23 出口室、 24,24.1,24.2 吸込み接続部、 25,25.1,25.2 吸出し管路、 26 液体管路、 27 入口室、 28 ハウジング底部、 29 ハウジングカバー、 30 旋回軸、 31,31.1,31.2 捕集開口、 32 負圧源、 33 捕集容器、 34 圧力源、 35 調量ポンプ、 36 制御弁、 37 取付け開口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融紡糸プロセスにおいてマルチフィラメント糸(10)を処理する装置であって、開放した長辺側に処理通路(3)を有するハウジングプレート(1)と、処理通路(3)に開口していて圧力空気接続部(16)への接続のためにハウジングプレート(1)を貫通しているノズル孔(6)と、ハウジングプレート(1)の長辺側において処理通路(3)を画成しているバッフルプレート(2)とが設けられており、該バッフルプレート(2)が、ハウジングプレート(1)と共に処理通路(3)の両端部において入口開口(4)と出口開口(5)とを形成している形式のものにおいて、
バッフルプレート(2)が、ノズル孔(6)と入口開口(4)との間における処理通路(3)の部分に、糸ガイドエレメント(7)を有しており、該糸ガイドエレメント(7)が糸(10)を変位させるために処理通路(3)内に進入するように形成されていることを特徴とする、マルチフィラメント糸を処理する装置。
【請求項2】
ハウジングプレート(1)が糸ガイドエレメント(7)の領域に、処理通路(3)を拡大するための凹部(8)を有しており、該凹部(8)によって糸ガイドエレメント(7)が、処理通路(3)の溝底部(11)を越えて進入可能である、請求項1記載の装置。
【請求項3】
糸ガイドエレメント(7)が、成形された突出部(9)によってバッフルプレート(2)に形成されており、該突出部(9)が、摩耗を防止する接触面を糸(10)に対して有している、請求項1又は2記載の装置。
【請求項4】
バッフルプレート(2)がハウジングプレート(1)に交換可能に取り付けられており、高さの異なった突出部(9)を備えた複数のバッフルプレート(2)が選択的に、ハウジングプレート(1)と組合せ可能である、請求項3記載の装置。
【請求項5】
糸ガイドエレメント(7)が、バッフルプレート(2)に交換可能に保持された糸ガイド(12)によって形成されている、請求項1又は2記載の装置。
【請求項6】
糸ガイド(12)が変向ピン又は変向ローラ(12)によって形成されており、該変向ピン又は変向ローラ(12)が糸(10)を案内するために、摩耗を防止された接触表面を有している、請求項5記載の装置。
【請求項7】
糸ガイドエレメント(7)と入口開口(4)との間における処理通路(3)の部分に、ハウジングプレート(1)が、湿し装置(18)との接続のために働く取付け開口(37)を有しており、糸(10)を湿らせるための湿しエレメント(19)が、処理通路(3)内に突入するように保持されている、請求項1から6までのいずれか1項記載の装置。
【請求項8】
湿しエレメント(19)がハウジングプレート(1)と交換可能に結合されている、請求項7記載の装置。
【請求項9】
湿しエレメントがプレパレーションピン(19)によって形成されており、該プレパレーションピン(19)が、糸(10)のための案内領域にセラミック製の接触表面を有している、請求項7又は8記載の装置。
【請求項10】
ノズル孔(6)と出口開口(5)との間における処理通路(3)の部分に、ハウジングプレート(1)が、処理通路(3)に開口していて吸出し管路(25)と接続されている捕集開口(31)を有しており、吸出し管路(25)が湿し媒体を戻すために捕集容器(33)と接続されている、請求項7から9までのいずれか1項記載の装置。
【請求項11】
ハウジングプレート(1)における処理通路(3)の溝底部(11)が、捕集開口(31)に向けられた傾斜を有している、請求項10記載の装置。
【請求項12】
ハウジングプレート(1)に、糸ガイドエレメント(7)に向かい合って位置している第2の捕集開口(31.2)が形成されており、該第2の捕集開口(31.2)が吸出し管路(25.2)を介して捕集容器(33)と接続されている、請求項7から11までのいずれか1項記載の装置。
【請求項13】
ハウジングプレート(1)及びバッフルプレート(2)がセラミック材料から形成されていて、該ハウジングプレート(1)及びバッフルプレート(2)の接触面で、処理通路(3)をシールするためにシール作用をもって互いに接触保持されている、請求項1から12までのいずれか1項記載の装置。
【請求項14】
ハウジングプレート(1)及びバッフルプレート(2)が保持体ハウジング(13)内に配置されており、保持体ハウジング(13)が入口開口(4)及び出口開口(5)に対応して、糸入口(14)及び糸出口(15)を有している、請求項1から13までのいずれか1項記載の装置。
【請求項15】
保持体ハウジング(13)が2部分から形成されており、両ハウジング部分(28,29)のうちの1つが、旋回可能なハウジングカバー(29)として形成されていて、該ハウジングカバー(29)がその下側面にバッフルプレート(2)を保持している、請求項13記載の装置。
【請求項16】
保持体ハウジング(13)が、複数のハウジングプレート(1)及び複数のバッフルプレート(2)を受容するために形成されている、請求項14又は15記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2010−534284(P2010−534284A)
【公表日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−517344(P2010−517344)
【出願日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際出願番号】PCT/EP2008/058630
【国際公開番号】WO2009/013107
【国際公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【出願人】(510022967)エーリコン テクスタイル コンポーネンツ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (7)
【氏名又は名称原語表記】Oerlikon Textile Components GmbH
【住所又は居所原語表記】Maria−Merian−Strasse 8, D−70736 Fellbach, Germany
【Fターム(参考)】