マルチフェロイック物質およびその製造方法
本発明は、常温で強誘電性分極と誘電率の変化を誘導する磁場の大きさを自由に制御できるマルチフェロイック物質およびその製造方法に関する。マルチフェロイック物質は磁気性鉄イオンが非磁気性イオンで部分的に置換されたヘキサフェライト(hexaferrite)を含み、非磁気性イオンはヘキサフェライトの磁気異方性を変化させるように適用される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はマルチフェロイック物質およびその製造方法に関する。より詳しくは、本発明は、常温で強誘電性分極と誘電率の変化を誘導する磁場の大きさを自由に制御できるマルチフェロイック物質およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マルチフェロイックは強誘電性および強磁性の特性を共に有する素材を意味する。磁場で電気的性質を制御したり、電場で磁気的性質を制御したりすることができるマルチフェロイック物質とこのようなマルチフェロイック物質を用いた応用素子に対する研究が活発に進行している。しかし、従来のマルチフェロイックの誘電分極は、非常に低い温度で低い磁場によって、または常温で非常に高い磁場によって誘導される時にのみその特性が発生する。したがって、従来のマルチフェロイック物質を常温でマルチフェロイック素子に適用するには限界があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
強誘電性分極と誘電率の変化を誘導する磁場の大きさを自由に制御できるマルチフェロイック物質を提供しようとする。また、低い磁場においても常温で熱処理を通じて磁性的に誘導された強誘電性分極と誘電率の変化を現れるマルチフェロイック物質の製造方法を提供しようとする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の一実施形態によるマルチフェロイック物質の製造方法は、i)炭酸バリウム粉末、炭酸ストロンチウム粉末、酸化亜鉛粉末、酸化鉄粉末、酸化アルミニウム粉末および酸化ナトリウム粉末を選択的に含む粉末を提供するステップ、ii)粉末を1回以上熱処理するステップ、およびiii)粉末を徐冷して結晶化したヘキサフェライト(hexaferrite)を提供するステップを含む。
【0005】
炭酸バリウム粉末、炭酸ストロンチウム粉末、酸化亜鉛粉末、酸化鉄粉末、酸化アルミニウム粉末、および酸化ナトリウム粉末のモル比率は、各々、A1(1−y’)、A1y’、A2、A3(1−x)、A3xおよびA4であり、A1、A2、A3およびA4は、各々、17≦A1≦22、17≦A2≦22、48≦A3≦59および6≦A4≦8の範囲においてA1、A2、A3およびA4の和が100になるように選択され、y’およびxは、各々、0≦y’≦1.0および0<x≦0.8の範囲から選択される。
【0006】
熱処理するステップは、i)粉末を第1温度までに加熱するステップ、ii)粉末を第1温度に維持するステップ、およびiii)第1温度から第1温度より小さい第2温度までに粉末を冷却するステップを含むことができる。第1温度は1100℃〜1500℃の範囲から選択し、第2温度は1000℃〜1200℃の範囲から選択することができる。加熱するステップにおいて、温度増加率は900℃/h〜1500℃/hであってもよい。粉末を冷却するステップにおいて、温度減少率は900℃/h〜1500℃/hであってもよい。熱処理するステップは2回以上行い、第1温度は、熱処理するステップが行われる時ごとに順次減少させるか、以前遂行時と同一に維持し、第2温度は、熱処理するステップが行われる時ごとに順次増加させるか、以前遂行時と同一に維持することができる。
【0007】
熱処理するステップを2回以上行い、最初熱処理時の維持するステップは10時間〜30時間の間に行われ、以後熱処理時の維持するステップは0時間より大きく5時間以下の間に行われる。結晶化したヘキサフェライトを提供するステップにおいて、温度減少率は0.1℃/h〜100℃/hであってもよい。結晶化したヘキサフェライトを提供するステップは、i)0.1℃/h〜10℃/hに進行される1次徐冷ステップ、およびii)50℃/h〜100℃/hに進行される2次徐冷ステップを含むことができる。
【0008】
本発明の一実施形態によるマルチフェロイック物質の製造方法は、i)ヘキサフェライトを第1速度で熱処理温度までに加熱するステップ、ii)ヘキサフェライトを熱処理温度に維持させるステップ、およびiii)熱処理温度に維持されたヘキサフェライトを第2速度で冷却させるステップをさらに含むことができる。ヘキサフェライトを加熱するステップにおいて、第1速度は10℃/h〜1500℃/hであってもよい。第1速度は実質的に220℃/hであってもよい。ヘキサフェライトを加熱するステップにおいて、熱処理温度は800℃〜950℃であってもよい。熱処理温度は実質的に900℃であってもよい。
【0009】
ヘキサフェライトを冷却させるステップにおいて、第2速度は10℃/h〜100℃/hであってもよい。第2速度は実質的に50℃/hであってもよい。加熱するステップ、維持させるステップ、および冷却させるステップは各々酸素雰囲気で行うことができる。酸素雰囲気における酸素圧は0.5atm〜500atmであってもよい。酸素圧は実質的に1atmであってもよい。
【0010】
ヘキサフェライトを加熱するステップにおいて、ヘキサフェライトはY型であり、ヘキサフェライトはA2B2(Fe1−xAlx)12O22(0≦x≦0.8)の化学式またはA2B2Fe12O22の化学式を有し、A元素はバリウム(Ba)およびストロンチウム(Sr)のうちの1つ以上であり、B元素は亜鉛(Zn)、コバルト(Co)およびマグネシウム(Mg)のうちの1つであってもよい。ヘキサフェライトは(Ba1−ySry)2Zn2(Fe1−xAlx)12O22(0≦y≦1.0、0≦x≦0.8)の化学式を有してもよい。
【0011】
結晶化したヘキサフェライトを提供するステップ後に得られたヘキサフェライトの比抵抗に対するヘキサフェライトを冷却させるステップ後に得られたヘキサフェライトの比抵抗の比は10〜106であってもよい。ヘキサフェライトを冷却させるステップ後に得られたヘキサフェライトの比抵抗は104Ω・cm〜107Ω・cmであってもよい。
【0012】
ヘキサフェライトを冷却させるステップ後に得られた、印加された磁場によるヘキサフェライトの誘電率の変化は、260K〜400K範囲の温度、および0より大きく0.1T以下の範囲の磁場において、0%より大きく20%以下で発生し得る。ヘキサフェライトを冷却させるステップ後に得られたヘキサフェライトの誘電分極は、260K〜400K範囲の温度,および0より大きく0.1T以下の範囲の磁場において発生し得る。
【0013】
本発明の一実施形態によるマルチフェロイック物質は、磁気性鉄イオンが非磁気性イオンで部分的に置換されたヘキサフェライトを含む。非磁気性イオンは、ヘキサフェライトの磁気異方性を変化させるように適用される。
【0014】
非磁気性イオンはアルミニウムイオンであってもよい。鉄イオンに対する非磁気性イオンの置換率は0より大きく80%以下であってもよい。
【0015】
ヘキサフェライトの誘電分極は0より大きく10mT以下の範囲の磁場において発生し得る。非磁気性イオンの置換量を増加させることにより、ヘキサフェライトの誘電分極を発生させる磁場の大きさが順次0に近づくことができる。ヘキサフェライトの誘電率の変化は、0より大きく10mT以下の範囲の印加された磁場において、0%より大きく20%範囲内で発生し得る。非磁気性イオンの置換量を増加させることにより、ヘキサフェライトの誘電率変化を発生させる磁場の大きさが順次0に近づくことができる。
【0016】
ヘキサフェライトはY型であり、ヘキサフェライトはA2B2(Fe1−xAlx)12O22(0<x≦0.8)の化学式を有し、A元素はバリウム(Ba)およびストロンチウム(Sr)のうちの1つ以上であり、B元素は亜鉛(Zn)、コバルト(Co)およびマグネシウム(Mg)のうちの1つであってもよい。ヘキサフェライトは、(Ba1−ySry)2Zn2(Fe1−xAlx)12O22(0≦y≦1.0、0<x≦0.8)の化学式を有してもよい。ヘキサフェライトの比抵抗は104Ω・cm〜107Ω・cmであってもよい。
【発明の効果】
【0017】
鉄イオンをアルミニウムイオンなどの非磁気性イオンで適正量置換することにより、誘電分極を誘導する磁場の大きさを順次0付近の低い磁場に減らし、誘電分極の大きさも調節することができる。したがって、磁場に応じた誘電分極履歴曲線を用いたメモリ素子にマルチフェロイック物質を容易に用いることができる。
【0018】
また、鉄イオンをアルミニウムイオンのような非磁気性イオンで適正量置換することにより、磁場を加えた時、最小には数%から最大には20%の誘電率の変化を誘導することができる。また、誘電率変化に必要な磁場の大きさもアルミニウムイオンドーピングに比例して体系的に0付近の低い磁場に減らすことができる。さらには、非磁気性イオンの置換量を調節して誘電率の変化が最大となる磁場範囲も制御することができるため、マルチフェロイック物質を磁場センサ に有用に用いることができる。また、誘電率の変化を誘導する磁場大きさを制御して、ヘキサフェライトを用いたマイクロウェーブ波電子素子のうちのマイクロウェーブサーキュレータ(circulator)、フェイズシフター(phase shifter)、フィルタ(filter)などに応用される電子素材を代替することができる。
【0019】
熱処理を通じてヘキサフェライトの抵抗を増加させ、常温においても低い磁場によってもマルチフェロイック特性が実現されるマルチフェロイック物質を製造することができる。マルチフェロイック物質は、0付近の低い磁場によっても、常温でi)誘電率の変化が発生し、ii)誘電分極が形成され、強誘電性(ferroelectricity)を有することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1実施例によるY型ヘキサフェライトの結晶構造および磁性スピン整列を示す概略的な図である。
【図2】アルミニウム置換量に応じた磁気モーメント、誘電率の相対的変化および誘電分極実験結果を示すグラフである。
【図3】アルミニウム置換量に応じた強誘電と常誘電状態の間の相転移の相境界実験の結果を示す相転移図である。
【図4】アルミニウム置換量に応じた磁場誘導誘電率変化実験の結果を示すグラフである。
【図5】本発明の第1実施例によるマルチフェロイック物質の製造方法を概略的に示すフローチャートである。
【図6】図5の熱処理ステップを繰り返し実施する場合を概略的に示すグラフである。
【図7】マルチフェロイック物質の製造実験から得られたヘキサフェライトの撮影写真である。
【図8】本発明の第2実施例によるマルチフェロイック物質の熱処理維持実験の結果を示すグラフである。
【図9】サンプルの冷却速度実験の結果を示すグラフである。
【図10】サンプルの誘電率変化実験の結果を示すグラフである。
【図11】本発明の第2実施例によるマルチフェロイック物質の強誘電領域実験の結果を示すグラフである。
【図12】本発明の第2実施例によるマルチフェロイック物質の製造方法を概略的に示すフローチャートである。
【図13】γ値を説明するための概略的な図である。
【図14】本発明の第2実施例によるヘキサフェライトの製造方法を概略的に示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
添付図面を参照し、本発明が属する技術分野で通常の知識を有した者が容易に実施できるように本発明の実施例を説明する。本発明が属する技術分野で通常の知識を有した者が容易に理解できるという所のように、後述する実施例は本発明を単に例示するためのものであって、本発明の概念と範囲から逸脱しない限度内で様々な形態に変形することができる。可能な限り、同一であったり類似する部分は図面で同一の引用符号で示す。
【0022】
以下に用いられる技術用語および科学用語を含む全ての用語は、本発明が属する技術分野で通常の知識を有した者が一般的に理解する意味と同一の意味を有する。予め定義された用語は関連技術文献と現在開示された内容に符合する意味を有するものとして追加解釈され、定義しない限り、理想的に、あるいは非常に公式的な意味として解釈しない。
【0023】
第1、第2および第3などの用語は、様々な部分、成分、領域、層および/またはセクションを説明するために用いられるが、これらに限定されない。これらの用語は、ある部分、成分、領域、層またはセクションを他の部分、成分、領域、層またはセクションと区別するためにのみ用いられる。したがって、以下で記述する第1部分、成分、領域、層またはセクションは、本発明の範囲から逸脱しない範囲内で第2部分、成分、領域、層またはセクションとして言及することができる。
【0024】
ここに用いられる専門用語は単に特定実施例を言及するためのものであって、本発明を限定することを意図しない。ここに用いられる単数形態は、文句がこれと明確に逆の意味を示さない限り複数形態も含む。明細書に用いられる「含む」の意味は特定特性、領域、整数、ステップ、動作、要素および/または成分を具体化し、他の特性、領域、整数、ステップ、動作、要素および/または成分の存在や附加を除外させるものではない。
【0025】
本発明の第1実施例によるマルチフェロイック物質
本発明の第1実施例によるマルチフェロイック物質は、磁気性(magnetic)鉄イオン(Fe3+)が非磁気性(non−magnetic)イオンで部分的に置換されたY型の単結晶ヘキサフェライトを含む。非磁気性イオンは、i)鉄イオンと置換可能であり、ii)ヘキサフェライトの磁気異方性を変化させられると予測される条件を満足させるべきであり、このような非磁気性イオンの一例としてアルミニウムイオン(Al3+)を用いることができる。
非磁気性イオンは鉄イオンと置換され、ヘキサフェライトの磁気異方性を変化させる。したがって、ヘキサフェライトにおいて、非磁気性イオンの置換量が増加するほど、より低い磁場によってもヘキサフェライトにi)誘電分極が誘導され、ii)最小には数%から最大には約20%の誘電率の変化を発生させることができる。例えば、約0.1%〜約20%の誘電率の変化が発生し得る。
【0026】
鉄イオンが非磁気性イオンで置換されないために置換率が約0%である場合には、前述した低い磁場においては、誘電分極発生および数%の誘電率変化が起こらない。その反面、鉄イオンに対する非磁気性イオンの置換率が約80%を超過する場合には、誘電分極の大きさが小さくなるか、磁場に対する誘電率の変化が不均一になる。したがって、鉄イオンに対する非磁気性イオンの置換率は、約0より大きく、約80%以下である。好ましくは、約0より大きく、約12%以下である。また、鉄イオンに対する非磁気性イオンの置換率を変化させ、i)誘電分極の大きさを増加させることができ、ii)誘電率の変化が最大である磁場範囲を制御することができる。
【0027】
より具体的には、誘電分極と関連して置換率を増加させる場合には、置換率が約80%になるまでには誘電分極の大きさが増加して不均一になるか減少する傾向がある。また、誘電率変化と関連して置換率を約0より大きく約80%の範囲で増加させる場合には、誘電率の変化が最大になる磁場の範囲が約1Tから0近くに順次移動する。
【0028】
ヘキサフェライトは下記の化学式1を有する。ここで、A元素はバリウム(Ba)およびストロンチウム(Sr)のうちの1つ以上であり、B元素は亜鉛(Zn)、コバルト(Co)およびマグネシウム(Mg)のうちの1つであったもよい。
[化学式1]
A2B2(Fe1−xAlx)12O22(0<x≦0.8)
【0029】
前述したように、鉄イオンに対する非磁気性イオンであるアルミニウムイオンの置換率は約0より大きく約80%であり、これは、前述した化学式1において、0<x≦0.8で示す。前記A元素とB元素は鉄、アルミニウムおよび酸素と共に菱面体晶構造を形成する。例えば、より具体的には、ヘキサフェライトは下記の化学式2で示すことができる。
[化学式2]
(Ba1−ySry)2Zn2(Fe1−xAlx)12O22(0≦y≦1.0、0<x≦0.8)
ここで、バリウムおよびストロンチウムの含量関係を示すyの範囲は0≦y≦1.0であり、鉄およびアルミニウムの含量関係を示すxの範囲は0<x≦0.8である。前述した範囲内で、他の元素と菱面体晶構造を構成し、印加される磁場によって誘電分極および誘電率の変化を発生させるバリウムおよびストロンチウムを互いに置換させることができる。
【0030】
アルミニウムイオンによる磁気的性質の変化
図1は、本発明の一実施形態によるY型ヘキサフェライトの結晶構造および磁性スピン整列を示す概略的な図である。ここで、Y型ヘキサフェライトは下記の化学式3を有する。
[化学式3]
(Ba0.25Sr0.75)2Zn2(Fe1−xAlx)12O22(0<x≦0.8)
【0031】
図1の「a」部分を参照すれば、Y型ヘキサフェライトは層状構造をなし、磁性的にS−blockとL−blockに区分することができる。図1のb部分は、ヘキサフェライト単結晶の結晶学的c軸に垂直方向に磁場を印加する時に可能な磁性スピン整列の形態を示す。また、図1のc部分は結晶学的方向110から1/2単位格子を示す。FeおよびAlに対応する球とZn、FeおよびAlに対応する球は各々八面体の中心および四面体の中心にあるイオンを示す。Y型ヘキサフェライトの磁気的性質と電気的性質は、八面体と四面体の中心にある鉄イオン(Fe3+)間の相互作用によって決定される。
【0032】
アルミニウムイオン(Al3+)は、大部分、八面体の中心にある鉄イオン(Fe3+)を置換する。この場合、磁気性のないアルミニウムイオン(Al3+)が磁気性を有する鉄イオン(Fe3+)を代替することにより、磁気的および電気的性質を決定する鉄イオン(Fe3+)間の相互作用に変化が発生する。図1のc部分にある矢印は、BA2Zn2Fe12O22の化学式を有した単結晶の場合、鉄イオン(Fe3+)間の相互作用によって決定された磁気スピン方向を示す。
【0033】
各々の磁気スピン整列は、隣接したFe−O−Feの相互作用(super exchange interaction)によって決定される。一般的にS−blockとL−blockの内部にある磁気スピンは、隣接した他のスピンとは反対方向に整列する。しかし、S−blockとL−blockの境界にあるFe(4)とFe(5)は同じ方向に整列する。これは、Fe(4)−O(2)−Fe(5)の相互作用がFe(4)−O(6)−Fe(8)とFe(5)−O(7)−Fe(8)に比べて相対的に弱いためである。ここで、括弧内の番号は原子がなす層状構造の順序を示す。S−blockとL−blockの境界周辺のFe−O−Fe相互作用の大きさは下記の表1の通りである。
【表1】
【0034】
一方、バリウムイオン(BA2+)をストロンチウムイオン(Sr2+)で置換した下記の化学式4を有する化合物の場合、磁気スピンの整列がy=0である場合とは異なる。この物質の場合、S−blockおよびL−block内部のスピンは依然として方向に沿って並んで整列する。しかし、S−block内の全体スピンを合した有効磁気モーメント(effective magnetic moment)とL−blockの有効磁気モーメント、そしてこのような2個のblockの境界にあるFe(5)の磁気スピンはc軸を基準に回転する形態を有する。
【0035】
[化学式4]
(Ba1−ySry)2Zn2Fe12O22(0≦y≦1.0)
アルミニウムイオン(Al3+)で鉄イオン(Fe3+)を置換した下記の化学式5を有する化合物は前述した化学式4と類似する形態の磁気整列を有する。しかし、アルミニウムイオン(Al3+)が四面体の中心にある鉄イオン(Fe3+)よりは八面体の中心にある鉄イオン(Fe3+)を選択的に置換することによって磁気異方性を減少させる。
【0036】
[化学式5]
(Ba1−ySry)2Zn2(Fe1−xAlx)12O22(0≦y≦1.0、0<x≦0.8)
アルミニウムイオン(Al3+)の置換によって磁気異方性が減少するため、低い磁場によっても磁気スピンの整列形態を制御することができる。その結果、図1のb部分に示すように磁気スピン整列が容易になされる。
【0037】
アルミニウムドーピングに応じた磁場誘導電気性(magnetoelectric property)の制御
誘電分極(electric polarization)が印加された磁場によって誘導される物質の磁場誘導電気性はスピン電流モデル(spin current model)で説明される。ここで、磁気スピン整列によって誘導される誘電分極は
の関係式を満足する。ここで、
は磁気整列スピンが繰り返される方向および周期を意味するベクトル、
はS−blockの有効磁気モーメント、
はL−blockの有効磁気モーメントを意味する。
【0038】
前述した化学式6を有する化合物に磁場をc軸に対して垂直にかける場合、図1のb部分のように磁気整列が起こるので誘電分極が誘導される。特に、アルミニウムの量が増えることにより、次第に低い磁場においても前述した磁気整列が可能となる。これは、誘電分極が、アルミニウム置換を通じ、次第に低い磁場に誘導されることを意味する。また、アルミニウムドーピングにより、磁気スピンがc軸を中心により大きい角を有して回転することができるため、誘電分極値も大きくなる。すなわち、スピン電流モデルにおいて、
が大きくなる。また、誘電分極が誘導される時に伴う誘電率の変化も次第に低い磁場に移動する。
【0039】
アルミニウム置換量に応じた磁気モーメント、誘電率の相対的変化および誘電分極関連実験
Ba0.5Sr1.5Zn2(Fe1−xAlx)12O22の化学式を有したヘキサフェライトを用い、磁気モーメント(M)、誘電率の相対的変化
および約30Kの温度で印加された磁場に応じた誘電分極(P)の変化を測定した。ここで、アルミニウムの置換量(x)は、各々、0.02、0.04、0.06および0.08にした。
【0040】
図2は、アルミニウム置換量に応じた磁気モーメント、誘電率の相対的変化および誘電分極関連実験の結果を示すグラフである。
【0041】
具体的には、図2のa、b、cおよびd部分は、アルミニウム置換量(x)を各々0.02、0.04、0.06および0.08にした時の印加された磁場に応じた磁気モーメント(M)を示し、e、f、gおよびh部分は、アルミニウム置換量(x)を各々0.02、0.04、0.06および0.08にした時の印加された磁場に応じた誘電率の相対的変化
を示し、i、j、kおよびl部分は、アルミニウム置換量(x)を各々0.02、0.04、0.06および0.08にした時の印加された磁場によって誘導された誘電分極(P)を示す。
【0042】
図2に示すように、アルミニウムの置換量(x)が増加することに伴い、誘電率の相対的変化および誘電分極が0付近の磁場によって誘導されることが分かる。また、アルミニウム置換量(x)が0.06および0.08である場合に誘電分極の大きさも増加することが分かる。
【0043】
より具体的には、約10mT以下の相対的に低い磁場において誘電分極が発生し、アルミニウムの置換量が増加する場合、誘電分極を誘導する磁場の大きさが順次0に近づくことが分かる。また、10mT以下の磁場において、最小には数%から最大には約20%範囲の誘電率の変化が発生し、アルミニウムの置換量を増加させることによって誘電率の変化を発生させる磁場の大きさが順次0に近づいた。
【0044】
アルミニウム置換量に応じたマルチフェロイック物質の強誘電相転移の境界変化関連実験
Ba0.5Sr1.5Zn2(Fe1−xAlx)12O22の化学式を有するヘキサフェライトにおいて、アルミニウム置換量(x)を各々0.00、0.01、0.02、0.03、0.04、0.06および0.08に変化させながら、強誘電相転移(ferroelectric phase transition)を観察した。
【0045】
図3は、アルミニウム置換量に応じた強誘電と常誘電状態の間の相転移の相境界実験の結果を示す相転移図である。
【0046】
図3に示すように、アルミニウム置換量が増加することに伴い、強誘電から 常誘電状態への相転移の相境界線が次第に低い磁場側に下降することが分かる。また、強誘電体相が存在できる螺旋磁気秩序温度はアルミニウム置換量が増えるほど減少することが分かる。
【0047】
アルミニウム置換量に応じた磁場誘導誘電率変化関連実験
Ba0.5Sr1.5Zn2(Fe1−xAlx)12O22の化学式を有するヘキサフェライトにおいて、アルミニウム置換量(x)を各々0.00、0.01、0.02、0.03、0.04、0.06および0.08に変化させる時、所定の温度条件において磁場による誘電率の最大変化値を測定した。
【0048】
図4は、アルミニウム置換量に応じた磁場誘導誘電率変化関連実験の結果を示すグラフである。図4のa部分には、50K、70K、90Kの温度条件において、アルミニウム置換量(x)が各々0.00、0.01、0.02、0.03、0.04、0.06および0.08に増加する時の磁場誘導誘電率の変化を示し、図4のb部分には、アルミニウム置換量(x)が0.08である時の温度および0付近の磁場に応じた磁場誘導誘電率を3次元で示す。
【0049】
図4に示すように、適正量のアルミニウムを置換することにより、0付近の低い磁場においても誘電率を最小には数%から最大には20%まで変化させることができる。より具体的には、約10mT以下の磁場において、最小には数%から最大には約20%範囲の誘電率の変化が発生する。
【0050】
本発明の第1実施例によるマルチフェロイック物質の製造方法
図5は、本発明の第1実施例によるマルチフェロイック物質の製造方法を概略的に示すフローチャートである。
【0051】
図5に示すように、本発明の第1実施例によるマルチフェロイック物質の製造方法は、i)炭酸バリウム粉末、炭酸ストロンチウム粉末、酸化亜鉛粉末、酸化鉄粉末、酸化アルミニウム粉末および酸化ナトリウム粉末を選択的に含む粉末を提供するステップ(S100)、ii)粉末を1回以上熱処理するステップ(S110)、およびiii)粉末を徐冷して結晶化したヘキサフェライトを提供するステップ(S120)を含む。この他に、マルチフェロイック物質の製造方法は他のステップをさらに含むことができる。
【0052】
図5に示すように、ステップ(S100)においては、炭酸バリウム(BaCO3)粉末、炭酸ストロンチウム(SrCO3)粉末、酸化亜鉛(ZnO)粉末、酸化鉄(Fe2O3)粉末、酸化アルミニウム(Al2O3)粉末および酸化ナトリウム(Na2O)粉末を選択的に含む粉末を提供する。ここで、前述した粉末は選択的に提供することができるため、前述した粉末のうちの一部粉末は除外することができる。例えば、炭酸バリウム(BaCO3)粉末および炭酸ストロンチウム(SrCO3)粉末のうちのいずれか1つの粉末を提供しなかったり、酸化アルミニウム(Al2O3)粉末を提供しなかったりすることができる。一方、酸化ナトリウム(Na2O)粉末はヘキサフェライト物質の製造温度を下げるために提供される。下記の表2は、ステップ(S100)に要求される粉末のモル比を示す。
【表2】
【0053】
表2に記載した通り、炭酸バリウム、炭酸ストロンチウム、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化アルミニウムおよび酸化ナトリウムのモル比は、各々、A1(1−y’)、A1y’、A2、A3(1−x)、A3xおよびA4である。ここで、A1、A2、A3およびA4は、各々、17≦A1≦22、17≦A2≦22、48≦A3≦59および6≦A4≦8の範囲に含まれ、その和が100を満足させるように選択される。また、y’およびxは、各々、0≦y’≦1.0および0<x≦0.8の範囲から選択される。
【0054】
前述したモル比は、ZnFe2O4のように不純物として除去される成分を考慮し、最終的に前述した化学式2を有する単結晶のY型ヘキサフェライトを収得するために必要である。ここで、粉末の温度は約260K〜約400Kである常温状態であってもよいが、これに限定されず、固相の粉末状態を維持できる温度状態であればよい。例えば、粉末の温度は約298K、すなわち25℃であってもよい。
【0055】
ステップ(S110)においては粉末を1回以上熱処理する。より具体的には、粉末を白金るつぼ(platinum crucible)に入れ、白金るつぼを電気炉(furnace)に投入して熱処理を行う。この場合、熱処理ステップは細分化され、i)第1温度までに加熱するステップ、ii)第1温度に維持するステップ、およびiii)第1温度より小さい第2温度に冷却するステップを含むことができる。
【0056】
ここで、第1温度が約1100℃未満である場合には粉末の溶融状態を形成し難い。その反面、第1温度が約1500℃を超過する場合には、第1温度が高すぎるために制御し難く、周辺の不純物が溶けて粉末に含まれる恐れがある。したがって、第1温度は約1100℃〜約1500℃が好ましい。
【0057】
また、第2温度が約1000℃未満である場合には、再び第1温度に粉末を加熱するのに過度なエネルギが必要であるために収率が低下する。その反面、第2温度が約1200℃を超過する場合には、ZnFe2O4のような不純物を除去し難い。したがって、第2温度は約1000℃〜約1200℃の範囲で第1温度より小さく設定される。
【0058】
第1温度までに加熱するステップにおいて、その温度増加率が約900℃/h未満である場合には、最終第1温度までに達する時間が長くなるため、ヘキサフェライトの生産収率が低下する。その反面、温度増加率が約1500℃/hを超過する場合には、加熱時間が相対的に短いために温度制御が容易ではない。したがって、第1温度までに加熱するステップにおいて、その温度増加率は約900℃/h〜1500℃/hである。
【0059】
第1温度より小さい第2温度に冷却するステップにおいて、その温度減少率が約900℃/h未満である場合には、第2温度までに達する時間が長くなるために生産収率が低下する。その反面、温度減少率が約1500℃/hを超過する場合には、冷却時間が相対的に短いために温度制御が容易ではない。したがって、第1温度より小さい第2温度に冷却するステップにおいて、温度減少率は約900℃/h〜約1500℃/hである。
【0060】
前述したように、i)第1温度までに加熱するステップ、ii)第1温度に維持するステップ、およびiii)第1温度より小さい第2温度に冷却するステップを含む熱処理するステップは、ZnFe2O4などの不純物を効果的に除去するために繰り返し行うことができる。
【0061】
図6は、図5の熱処理ステップを繰り返し行う場合を概略的に示すグラフである。
【0062】
図6に示すように、第1温度を熱処理ステップが行われる時ごとに順次減少させるか、以前遂行時と同一に維持することにより、不純物の除去効率を上げ、ヘキサフェライトの収率を向上させる。また、第2温度は、熱処理ステップが行われる時ごとに順次増加させるか、以前遂行時と同一に維持することができる。
【0063】
最初熱処理時の第1温度における維持時間が約10時間未満である場合には、固相の粉末が十分に液相に変わらないので液相として残留し得る。その反面、最初熱処理時の第1温度に維持する時間が約30時間を超過する場合には、粉末の液相への変化が既に完了したにもかかわらず加熱によって不要なエネルギを消費する。したがって、最初熱処理時の第1温度に維持する時間は約10時間〜約30時間である。以後熱処理時の第1温度に維持する時間は最初の時より小さい約5時間以下、好ましくは約0.05時間〜約5時間である。これは、最初に固相を液相に変化させる時より小さいエネルギだけが必要であるためである。
【0064】
再び図5に戻れば、ステップ(S120)においては、粉末を徐冷して結晶化したヘキサフェライトを提供する。徐冷時の温度減少率が約0.1℃/h未満である場合には、減少率が相対的に低いために生産収率が低下し得る。その反面、温度減少率が約100℃/hを超過する場合には、ヘキサフェライトが単結晶にならない。したがって、徐冷時の温度減少率は約0.1℃〜約100℃/hである。
【0065】
また、徐冷過程は、約0.1℃/h〜約10℃/hに進行される1次徐冷過程、および約10℃/h〜約100℃/hに進行される2次徐冷過程を含むことができる。これは、安定的に単結晶を形成できる約0.1℃/h〜約10℃/hの温度減少率で1次徐冷を進行した後、1次徐冷より相対的に大きい温度減少率である約10℃/h〜約100℃/hに2次徐冷を遂行して製造時間を短縮することができるためである。
【0066】
ここで、最終的に冷却されるマルチフェロイック物質の温度は約260K〜約400Kの常温状態であってもよいが、これに制限されず、マルチフェロイック物質が固相を維持できる温度であればよい。例えば、マルチフェロイック物質の温度は約298K、すなわち25℃までに徐冷することができる。
【0067】
本発明の第1実施例によるマルチフェロイック物質の製造実験
モル比がA1(1−y’)、A1y’、A2、A3(1−x)、A3xおよびA4である炭酸バリウム、炭酸ストロンチウム、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化アルミニウムおよび酸化ナトリウムの粉末を準備するステップにおいて、A1、A2、A3およびA4を17≦A1≦22、17≦A2≦22、48≦A3≦59および6≦A4≦8の範囲において各々19.69、19.69、53.61および7.01で選択し、その和が100になるようにした。より具体的には、下記の表3に記載したモル比を有する粉末を準備した。
【表3】
【0068】
また、xは0<x≦0.8の範囲において0.12で選択し、y’は0≦y’≦1.0の範囲において11個を選択して、下記の表4に記載したように11個に区分した。
【表4】
【0069】
次に、粉末を白金るつぼに入れ、白金るつぼを電気炉に投入した後、10回の熱処理を行った。そして、粉末を約1℃/hで1次徐冷した後、約50℃/hで2次徐冷した。熱処理条件および徐冷条件を下記の表5に記載する。
【表5】
【0070】
下記の表6には前述した工程によって最終的に得られた11個の最終ヘキサフェライトサンプルの化学式を記載する。
【表6】
【0071】
表6に記載した通り、前述した実験によって最終的に得られた11個のヘキサフェライトの全てが前述した化学式5を有することが分かる。
【0072】
図7は、前述したマルチフェロイック物質の製造実験から得られたヘキサフェライトの撮影写真である。すなわち、本発明の第1実施例によるヘキサフェライトを撮影した写真である。
【0073】
図7に示すように、ヘキサフェライトは菱面体晶構造を有した。また、単結晶構造を有したヘキサフェライトが得られた。
【0074】
本発明の第2実施例によるマルチフェロイック物質
本発明の第2実施例によるマルチフェロイック物質は熱処理され、その電気的抵抗が増加する。したがって、マルチフェロイックから発生するi)磁場印加時の誘電分極の発生に起因した強誘電性、およびii)誘電率の変化が新しく現れる。
【0075】
より具体的には、常温で約0.1T以下の低い磁場を印加する場合、マルチフェロイック物質の誘電率の変化は約0%より大きく約20%以下である。例えば、マルチフェロイック物質において、約0.1%〜約20%の誘電率の変化が発生し得る。また、常温で約0.1T以下の低い磁場の印加によってもマルチフェロイック物質の誘電分極が誘導される。前述した特性は電磁気素材分野に様々に応用される。
【0076】
ここで、ヘキサフェライトは単結晶のY型であって、A2B2Fe12O22の化学式を有する。A元素はバリウムおよびストロンチウムのうちのいずれか1つ以上であり、B元素は亜鉛、コバルトおよびマグネシウムのうちのいずれか1つであってもよい。例えば、ヘキサフェライトは下記の化学式6を有する。
[化学式6]
(Ba1−xSrx)2Zn2Fe12O22(0≦x≦1.0)
【0077】
熱処理維持時間関連実験
Ba0.5Sr1.5Zn2Fe12O22の化学式を有する単結晶Y型ヘキサフェライトを製造した。次に、ヘキサフェライトを約25℃で約220℃/hの速度で約900℃までに加熱した。そして、約900℃に維持される時間を約2日、約8日および約14日に区分してサンプルを製造した。次に、相対的に低い約50℃/hの速度で約25℃までにサンプルを冷却した後、温度変化に応じた比抵抗を測定した。これと対照するために、熱処理を行わずに常温で約2日、約8日および約14日間保管したサンプルを製造した後、温度変化に応じた比抵抗を測定した。
【0078】
図8は、本発明の第2実施例によるマルチフェロイック物質の熱処理維持実験の結果を示すグラフである。
【0079】
図8に示すように、熱処理有無に関係なく、熱処理過程で温度が減少した後、常温に近づくほどサンプルの比抵抗が大きくなることが分かる。また、約2日〜約14日間熱処理したサンプルの比抵抗が、熱処理を行わなかったサンプルの比抵抗より大きいことが分かる。特に8日間熱処理を維持したサンプルの比抵抗が非常に高かった。
【0080】
冷却速度実験
Ba0.5Sr1.5Zn2Fe12O22の化学式を有する単結晶Y型ヘキサフェライトを製造した。次に、ヘキサフェライトを約25℃で約220℃/hの速度で約900℃までに加熱した。そしてヘキサフェライトを約8日間900℃に維持した。次に、約50℃/h(slow)、約95℃/h(intermediate)および約300℃/h(quenching)に区分し、約25℃までに冷却したサンプルを製造した後、温度変化に応じたサンプルの比抵抗を測定した。
【0081】
図9は、サンプルの冷却速度実験の結果を示すグラフである。
図9に示すように、サンプルの冷却速度が速い場合にはサンプルの比抵抗が相対的に小さく、冷却速度が約95℃/hおよび約50℃/hの順にサンプルの比抵抗が大きくなる。
【0082】
誘電率変化実験
Ba0.5Sr1.5Zn2Fe12O22の化学式を有する単結晶Y型ヘキサフェライトを製造した。次に、ヘキサフェライトを約25℃で約220℃/hの速度で約900℃までに加熱した。そしてヘキサフェライトを約900℃で8日間維持した。次に、約50℃/hで約25℃までに冷却したサンプルを製造した。そして、サンプルの温度を約10K、約90K、約160K、約220K、約260K、約270K、約280K、約290K、約300K、約310Kおよび約315Kに変化させながら、サンプルの誘電率変化を測定した。
【0083】
図10は、印加された磁場によるサンプルの誘電率変化実験の結果を示すグラフである。具体的には、約10K、約90K、約160Kおよび約220Kまでは図10のa部分に示し、約260K、約270K、約280K、約290K、約300K、約310Kおよび約315Kまでは図10のb部分に示す。
【0084】
図10に示すように、約260K以上の温度においては、温度が増加するほど誘電率変化ピークが現れる磁場は0付近に近づく。常温近くにおいては、0付近の低い磁場によってもサンプルの誘電率が変化する。より具体的には、常温を含む約260K〜約400K範囲の温度において、約0.1T以下の低い磁場によってもサンプルの誘電率が約0.1%〜約20%変化した。また、誘電率の変化は誘電分極の変化を伴うため、常温近くにおいて0付近の低い磁場によってサンプルの誘電分極も現れて強誘電体特性を示す。
【0085】
強誘電領域実験
Ba0.5Sr1.5Zn2Fe12O22の化学式を有する単結晶Y型ヘキサフェライトを製造した。次に、ヘキサフェライトを約25℃で約220℃/hの速度で約900℃までに加熱した。そしてヘキサフェライトを約900℃で約8日間維持した。次にサンプルを約50℃/hの速度で約25℃までに冷却した。これとは対照的に、Ba0.5Sr1.5Zn2Fe12O22の化学式を有する単結晶Y型ヘキサフェライトとして、熱処理をしていないサンプルを準備した。その次に、選択された温度で2つのサンプルの強誘電相境界を印加された磁場での誘電率変化ピークから決定した。
【0086】
図11は、本発明の第2実施例によるマルチフェロイック物質の強誘電領域実験の結果を示すグラフである。
【0087】
図11に示すように、熱処理していないサンプルは、常温で強誘電領域が観察されなかった。しかし、熱処理したサンプルは、常温においても強誘電性を有した領域が観察された。より具体的には、常温である約260K〜約400K範囲の温度、および約0.1T以下の低い磁場において熱処理したサンプルに強誘電領域を形成する誘電分極が発生する。
【0088】
本発明の第2実施例によるマルチフェロイック物質の製造方法
図12は、本発明の第2実施例によるマルチフェロイック物質の製造方法を概略的に示すフローチャートである。
【0089】
図12に示すように、本発明の第2実施例によるマルチフェロイック物質の製造方法は、i)ヘキサフェライトを第1速度で熱処理温度までに加熱するステップ(S200)と、ii)ヘキサフェライトを熱処理温度に維持するステップ(S210)、およびiii)熱処理温度に維持されたヘキサフェライトを第2速度に冷却するステップ(S220)を含む。この他に、マルチフェロイック物質の製造方法は他のステップをさらに含むことができる。
【0090】
図12のステップ(S200)において加熱されるヘキサフェライトは単結晶のY型であって、A2B2Fe12O22の化学式を有する。A元素はバリウム(Ba)およびストロンチウム(Sr)のうちのいずれか1つ以上であり、B元素は亜鉛(Zn)、コバルト(Co)およびマグネシウム(Mg)のうちのいずれか1つであってもよい。ここで、前記A元素とB元素は鉄、アルミニウムおよび酸素と共に菱面体晶構造を形成する。例えば、ヘキサフェライトは下記の化学式7を有する。
【0091】
[化学式7]
(Ba1−xSrx)2Zn2Fe12O22(0≦x≦1.0)
ここで、バリウムおよびストロンチウムの含量関係を示すxの範囲は0≦x≦1.0である。これは、他の元素と菱面体晶構造を構成し、印加される磁場によって誘電分極および誘電率変化を発生させるバリウムおよびストロンチウムが互いに置換可能であるためである。ヘキサフェライトは、前述した本発明の第1実施例によるマルチフェロイック物質の製造方法により製造することができる。
【0092】
図12に示すように、ステップ(S200)においては、ヘキサフェライトを第1速度で熱処理温度までに加熱する。ヘキサフェライトの抵抗を減少させる要因である、i)ナトリウム不純物による攻撃(attack)、ii)酸素欠乏(deficiency)、およびiii)低いγ値と関連した要素を熱処理によって除去することにより、相対的に高い抵抗を有したマルチフェロイック物質を製造する。以下では、図13によってγ値についてより詳細に説明する。
【0093】
図13は、γ値を説明するための概略的な図である。図13は、Ba0.5Sr1.5Zn2Fe12O22の化学式を有したマルチフェロイック物質の[110]方向の結晶構造を示す。
【0094】
図13に示すように、γ値はBa0.5Sr1.5Zn2Fe12O22の化学式を有したY型ヘキサフェライト構造の12個層に区分される。γ値は11番目層の鉄の位置に亜鉛が混ぜられる確率に該当する。11番目層においてγの確率が定められれば、4番目層は(1−γ)の確率でZnイオンがFeの位置を置換する。理想的なγ値は約0.5であるが、実際には、物質の製造方法によってその値が変化する。したがって、これを調節するのが物理的な性質を決定するのに非常に重要である。鉄と亜鉛は四面体位置(tetrahedral site)に不規則に分散し、LおよびSは2種類の四面体位置を有したスピンブロックである。
【0095】
より具体的には、ナトリウムがヘキサフェライトを攻撃する場合、i)ナトリウムによって提供された正孔、ii)結晶構造の変化、およびiii)酸化ナトリウムに起因した鉄と反応する酸素の減少などの要因により、ヘキサフェライトの抵抗が減少する。また、酸素欠乏が発生する場合、結晶構造の不安定化などの要因により、ヘキサフェライトの抵抗も減少する。また、γ値が低い場合、約300Kにおいて、
で示す活性化エネルギ(△)が低くなるのでヘキサフェライトの抵抗が減少する。
【0096】
したがって、抵抗を減少させる要因を除去するために、酸素雰囲気でマルチフェロイック物質を熱処理する。酸素雰囲気でマルチフェロイック物質を熱処理することにより、酸素欠乏(deficiency)を除去する。熱エネルギによって亜鉛は円滑に分散し、γ値が高くなってマルチフェロイック物質の抵抗が増加する。しかし、マルチフェロイック物質を熱処理する場合、抵抗を減少させるナトリウムによる攻撃の増加が避けられないため、熱処理条件を繊細に制御する必要がある。
【0097】
熱処理条件を繊細に制御してヘキサフェライトの抵抗を増加させる場合、マルチフェロイック物質の不導体(insulator)的な性質がより優れるようになる。その結果、磁場がマルチフェロイック物質に印加される時、強誘電性分極と誘電分極発生に起因した誘電率変化が現れる。このような特性は電磁気素材分野に様々に応用される。以下では、図14により、図12の各ステップ(S200、S210、S220)についてより詳細に説明する。
図14は、本発明の第2実施例によるヘキサフェライトの製造方法を概略的に示すグラフである。
【0098】
図14に示すように、酸素欠乏を除去するために、酸素雰囲気でヘキサフェライトを熱処理することができる。ここで、酸素圧が約0.5atm未満である場合には、酸素欠乏の除去率が顕著に低下する。その反面、酸素圧が約500atmを超過する場合には、酸素欠乏の除去を制御し難い。したがって、酸素圧は約0.5atm〜約500atmである。例えば、酸素圧は約1atmであってもよい。前述した酸素雰囲気でヘキサフェライトを第1速度で熱処理温度までに加熱する。
【0099】
加熱前にヘキサフェライトは約260K〜約400Kである常温状態であってもよい。しかし、これに制限されず、ヘキサフェライトを固相として維持できる温度であればよい。例えば、加熱前のヘキサフェライトの温度は約298K、すなわち25℃であったもよい。
【0100】
第1速度が約10℃/h未満である場合には、加熱に必要とされる時間が相対的に長くなって生産収率が低下する。また、ヘキサフェライトへの酸素浸透率が小さくなって酸素欠乏の除去率が低くなる。その反面、第1速度が約1500℃/hを超過する場合には、熱処理に用いられる電気炉の熱線に無理がかかる。したがって、第1速度は約10℃/h〜約1500℃/hである。例えば、第1速度は実質的に220℃/hであってもよい。
【0101】
熱処理温度が約800℃未満である場合には、温度が相対的に低いので亜鉛が円滑に分散しない。したがって、γ値が増加せず、酸素欠乏も除去されない。その反面、熱処理温度が約950℃を超過する場合には、ヘキサフェライトの結晶構造が部分的に溶融する。したがって、熱処理温度は約800℃〜約950℃である。例えば、熱処理温度は実質的に900℃であってもよい。
【0102】
再び図12に戻れば、ステップ(S210)においては、ヘキサフェライトを熱処理温度に維持する。ヘキサフェライトを維持する期間が約2日未満である場合には、酸素欠乏が十分に除去されない。また、亜鉛が充分に分散しないため、マルチフェロイック物質の抵抗増加の効果が減少する。その反面、維持期間が約14日を超過する場合には、酸素欠乏が除去され、亜鉛は分散するが、ナトリウム攻撃が増加して抵抗増加の効果が減少する。したがって、維持期間は約2日〜約14日である。例えば、維持期間は実質的に約8日であってもよい。
【0103】
図12および図14を参照すれば、ステップ(S220)においては、熱処理温度に維持されたヘキサフェライトを第2速度で冷却してマルチフェロイック物質を製造する。第2速度が約10℃/h未満である場合には、冷却に必要とされる時間が相対的に長くなって生産収率が低下する。また、最終的に得られたヘキサフェライトの常温での抵抗が100倍程度減少する。その反面、第2速度が約100℃/hを超過する場合には、冷却時間が相対的に短いために結晶構造の再整列が円滑に行われない。したがって、最終的に得られたマルチフェロイック物質は常温で相対的に小さい抵抗を有する。したがって、第2速度は約10℃/h〜約100℃/hである。例えば、第2速度は実質的に50℃/hであってもよい。
【0104】
前述したように、第1速度および第2速度は各々約10℃/h〜約1500℃/hおよび約10℃/h〜約100℃/hの範囲から選択することができる。ここで、第1速度が第2速度より大きいことが好ましい。これは、第1速度をできるだけ速めにして生産収率を増加させ、第2速度をできるだけ遅めにして結晶構造を安定的に再整列することができるためである。例えば、第1速度および第2速度は実質的に各々約220℃/hおよび約50℃/hであってもよい。
【0105】
冷却によって最終的に得られたマルチフェロイック物質の温度は約260K〜約400Kの常温であってもよい。しかし、これに限定されず、マルチフェロイック物質が固相を維持できる温度であればよい。例えば、冷却によって最終的に得られるマルチフェロイック物質の温度は約298K、すなわち25℃であってもよい。
【0106】
ステップ(S220)後に得られたヘキサフェライトの比抵抗は104Ω・cm〜107Ω・cmであってもよい。一方、ステップ(S200)前に得られたヘキサフェライト、すなわち図5のステップ(S120)後に得られた結晶化したヘキサフェライトの比抵抗は10Ω・cm〜103Ω・cmである。したがって、ステップ(S120)後に得られたヘキサフェライトの比抵抗に対するステップ(S220)後に得られたヘキサフェライトの比抵抗の比は10〜106であってもよい。前述したように、熱処理によってヘキサフェライトの抵抗が大きく増加する。熱処理によってヘキサフェライトの抵抗を増加させることができるため、低い磁場においてもヘキサフェライトの誘電率を変化させることができる。一方、ステップ(S220)後に得られたヘキサフェライトの比抵抗が非常に小さい場合には、誘電分極が電子によってスクリーンされるので強誘電性を利用し難い。すなわち、比抵抗が大きいほど強誘電性を利用し易い。その逆に、ステップ(S220)後に得られたヘキサフェライトの比抵抗は技術的な限界があるので大きすぎることはできない。
【0107】
本発明を前述のように説明したが、次に記載する特許請求の範囲の概念と範囲を逸脱しない限り、様々な修正および変形が可能であるということは、本発明が属する技術分野の者であれば容易に理解するはずである。
【技術分野】
【0001】
本発明はマルチフェロイック物質およびその製造方法に関する。より詳しくは、本発明は、常温で強誘電性分極と誘電率の変化を誘導する磁場の大きさを自由に制御できるマルチフェロイック物質およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マルチフェロイックは強誘電性および強磁性の特性を共に有する素材を意味する。磁場で電気的性質を制御したり、電場で磁気的性質を制御したりすることができるマルチフェロイック物質とこのようなマルチフェロイック物質を用いた応用素子に対する研究が活発に進行している。しかし、従来のマルチフェロイックの誘電分極は、非常に低い温度で低い磁場によって、または常温で非常に高い磁場によって誘導される時にのみその特性が発生する。したがって、従来のマルチフェロイック物質を常温でマルチフェロイック素子に適用するには限界があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
強誘電性分極と誘電率の変化を誘導する磁場の大きさを自由に制御できるマルチフェロイック物質を提供しようとする。また、低い磁場においても常温で熱処理を通じて磁性的に誘導された強誘電性分極と誘電率の変化を現れるマルチフェロイック物質の製造方法を提供しようとする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の一実施形態によるマルチフェロイック物質の製造方法は、i)炭酸バリウム粉末、炭酸ストロンチウム粉末、酸化亜鉛粉末、酸化鉄粉末、酸化アルミニウム粉末および酸化ナトリウム粉末を選択的に含む粉末を提供するステップ、ii)粉末を1回以上熱処理するステップ、およびiii)粉末を徐冷して結晶化したヘキサフェライト(hexaferrite)を提供するステップを含む。
【0005】
炭酸バリウム粉末、炭酸ストロンチウム粉末、酸化亜鉛粉末、酸化鉄粉末、酸化アルミニウム粉末、および酸化ナトリウム粉末のモル比率は、各々、A1(1−y’)、A1y’、A2、A3(1−x)、A3xおよびA4であり、A1、A2、A3およびA4は、各々、17≦A1≦22、17≦A2≦22、48≦A3≦59および6≦A4≦8の範囲においてA1、A2、A3およびA4の和が100になるように選択され、y’およびxは、各々、0≦y’≦1.0および0<x≦0.8の範囲から選択される。
【0006】
熱処理するステップは、i)粉末を第1温度までに加熱するステップ、ii)粉末を第1温度に維持するステップ、およびiii)第1温度から第1温度より小さい第2温度までに粉末を冷却するステップを含むことができる。第1温度は1100℃〜1500℃の範囲から選択し、第2温度は1000℃〜1200℃の範囲から選択することができる。加熱するステップにおいて、温度増加率は900℃/h〜1500℃/hであってもよい。粉末を冷却するステップにおいて、温度減少率は900℃/h〜1500℃/hであってもよい。熱処理するステップは2回以上行い、第1温度は、熱処理するステップが行われる時ごとに順次減少させるか、以前遂行時と同一に維持し、第2温度は、熱処理するステップが行われる時ごとに順次増加させるか、以前遂行時と同一に維持することができる。
【0007】
熱処理するステップを2回以上行い、最初熱処理時の維持するステップは10時間〜30時間の間に行われ、以後熱処理時の維持するステップは0時間より大きく5時間以下の間に行われる。結晶化したヘキサフェライトを提供するステップにおいて、温度減少率は0.1℃/h〜100℃/hであってもよい。結晶化したヘキサフェライトを提供するステップは、i)0.1℃/h〜10℃/hに進行される1次徐冷ステップ、およびii)50℃/h〜100℃/hに進行される2次徐冷ステップを含むことができる。
【0008】
本発明の一実施形態によるマルチフェロイック物質の製造方法は、i)ヘキサフェライトを第1速度で熱処理温度までに加熱するステップ、ii)ヘキサフェライトを熱処理温度に維持させるステップ、およびiii)熱処理温度に維持されたヘキサフェライトを第2速度で冷却させるステップをさらに含むことができる。ヘキサフェライトを加熱するステップにおいて、第1速度は10℃/h〜1500℃/hであってもよい。第1速度は実質的に220℃/hであってもよい。ヘキサフェライトを加熱するステップにおいて、熱処理温度は800℃〜950℃であってもよい。熱処理温度は実質的に900℃であってもよい。
【0009】
ヘキサフェライトを冷却させるステップにおいて、第2速度は10℃/h〜100℃/hであってもよい。第2速度は実質的に50℃/hであってもよい。加熱するステップ、維持させるステップ、および冷却させるステップは各々酸素雰囲気で行うことができる。酸素雰囲気における酸素圧は0.5atm〜500atmであってもよい。酸素圧は実質的に1atmであってもよい。
【0010】
ヘキサフェライトを加熱するステップにおいて、ヘキサフェライトはY型であり、ヘキサフェライトはA2B2(Fe1−xAlx)12O22(0≦x≦0.8)の化学式またはA2B2Fe12O22の化学式を有し、A元素はバリウム(Ba)およびストロンチウム(Sr)のうちの1つ以上であり、B元素は亜鉛(Zn)、コバルト(Co)およびマグネシウム(Mg)のうちの1つであってもよい。ヘキサフェライトは(Ba1−ySry)2Zn2(Fe1−xAlx)12O22(0≦y≦1.0、0≦x≦0.8)の化学式を有してもよい。
【0011】
結晶化したヘキサフェライトを提供するステップ後に得られたヘキサフェライトの比抵抗に対するヘキサフェライトを冷却させるステップ後に得られたヘキサフェライトの比抵抗の比は10〜106であってもよい。ヘキサフェライトを冷却させるステップ後に得られたヘキサフェライトの比抵抗は104Ω・cm〜107Ω・cmであってもよい。
【0012】
ヘキサフェライトを冷却させるステップ後に得られた、印加された磁場によるヘキサフェライトの誘電率の変化は、260K〜400K範囲の温度、および0より大きく0.1T以下の範囲の磁場において、0%より大きく20%以下で発生し得る。ヘキサフェライトを冷却させるステップ後に得られたヘキサフェライトの誘電分極は、260K〜400K範囲の温度,および0より大きく0.1T以下の範囲の磁場において発生し得る。
【0013】
本発明の一実施形態によるマルチフェロイック物質は、磁気性鉄イオンが非磁気性イオンで部分的に置換されたヘキサフェライトを含む。非磁気性イオンは、ヘキサフェライトの磁気異方性を変化させるように適用される。
【0014】
非磁気性イオンはアルミニウムイオンであってもよい。鉄イオンに対する非磁気性イオンの置換率は0より大きく80%以下であってもよい。
【0015】
ヘキサフェライトの誘電分極は0より大きく10mT以下の範囲の磁場において発生し得る。非磁気性イオンの置換量を増加させることにより、ヘキサフェライトの誘電分極を発生させる磁場の大きさが順次0に近づくことができる。ヘキサフェライトの誘電率の変化は、0より大きく10mT以下の範囲の印加された磁場において、0%より大きく20%範囲内で発生し得る。非磁気性イオンの置換量を増加させることにより、ヘキサフェライトの誘電率変化を発生させる磁場の大きさが順次0に近づくことができる。
【0016】
ヘキサフェライトはY型であり、ヘキサフェライトはA2B2(Fe1−xAlx)12O22(0<x≦0.8)の化学式を有し、A元素はバリウム(Ba)およびストロンチウム(Sr)のうちの1つ以上であり、B元素は亜鉛(Zn)、コバルト(Co)およびマグネシウム(Mg)のうちの1つであってもよい。ヘキサフェライトは、(Ba1−ySry)2Zn2(Fe1−xAlx)12O22(0≦y≦1.0、0<x≦0.8)の化学式を有してもよい。ヘキサフェライトの比抵抗は104Ω・cm〜107Ω・cmであってもよい。
【発明の効果】
【0017】
鉄イオンをアルミニウムイオンなどの非磁気性イオンで適正量置換することにより、誘電分極を誘導する磁場の大きさを順次0付近の低い磁場に減らし、誘電分極の大きさも調節することができる。したがって、磁場に応じた誘電分極履歴曲線を用いたメモリ素子にマルチフェロイック物質を容易に用いることができる。
【0018】
また、鉄イオンをアルミニウムイオンのような非磁気性イオンで適正量置換することにより、磁場を加えた時、最小には数%から最大には20%の誘電率の変化を誘導することができる。また、誘電率変化に必要な磁場の大きさもアルミニウムイオンドーピングに比例して体系的に0付近の低い磁場に減らすことができる。さらには、非磁気性イオンの置換量を調節して誘電率の変化が最大となる磁場範囲も制御することができるため、マルチフェロイック物質を磁場センサ に有用に用いることができる。また、誘電率の変化を誘導する磁場大きさを制御して、ヘキサフェライトを用いたマイクロウェーブ波電子素子のうちのマイクロウェーブサーキュレータ(circulator)、フェイズシフター(phase shifter)、フィルタ(filter)などに応用される電子素材を代替することができる。
【0019】
熱処理を通じてヘキサフェライトの抵抗を増加させ、常温においても低い磁場によってもマルチフェロイック特性が実現されるマルチフェロイック物質を製造することができる。マルチフェロイック物質は、0付近の低い磁場によっても、常温でi)誘電率の変化が発生し、ii)誘電分極が形成され、強誘電性(ferroelectricity)を有することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1実施例によるY型ヘキサフェライトの結晶構造および磁性スピン整列を示す概略的な図である。
【図2】アルミニウム置換量に応じた磁気モーメント、誘電率の相対的変化および誘電分極実験結果を示すグラフである。
【図3】アルミニウム置換量に応じた強誘電と常誘電状態の間の相転移の相境界実験の結果を示す相転移図である。
【図4】アルミニウム置換量に応じた磁場誘導誘電率変化実験の結果を示すグラフである。
【図5】本発明の第1実施例によるマルチフェロイック物質の製造方法を概略的に示すフローチャートである。
【図6】図5の熱処理ステップを繰り返し実施する場合を概略的に示すグラフである。
【図7】マルチフェロイック物質の製造実験から得られたヘキサフェライトの撮影写真である。
【図8】本発明の第2実施例によるマルチフェロイック物質の熱処理維持実験の結果を示すグラフである。
【図9】サンプルの冷却速度実験の結果を示すグラフである。
【図10】サンプルの誘電率変化実験の結果を示すグラフである。
【図11】本発明の第2実施例によるマルチフェロイック物質の強誘電領域実験の結果を示すグラフである。
【図12】本発明の第2実施例によるマルチフェロイック物質の製造方法を概略的に示すフローチャートである。
【図13】γ値を説明するための概略的な図である。
【図14】本発明の第2実施例によるヘキサフェライトの製造方法を概略的に示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
添付図面を参照し、本発明が属する技術分野で通常の知識を有した者が容易に実施できるように本発明の実施例を説明する。本発明が属する技術分野で通常の知識を有した者が容易に理解できるという所のように、後述する実施例は本発明を単に例示するためのものであって、本発明の概念と範囲から逸脱しない限度内で様々な形態に変形することができる。可能な限り、同一であったり類似する部分は図面で同一の引用符号で示す。
【0022】
以下に用いられる技術用語および科学用語を含む全ての用語は、本発明が属する技術分野で通常の知識を有した者が一般的に理解する意味と同一の意味を有する。予め定義された用語は関連技術文献と現在開示された内容に符合する意味を有するものとして追加解釈され、定義しない限り、理想的に、あるいは非常に公式的な意味として解釈しない。
【0023】
第1、第2および第3などの用語は、様々な部分、成分、領域、層および/またはセクションを説明するために用いられるが、これらに限定されない。これらの用語は、ある部分、成分、領域、層またはセクションを他の部分、成分、領域、層またはセクションと区別するためにのみ用いられる。したがって、以下で記述する第1部分、成分、領域、層またはセクションは、本発明の範囲から逸脱しない範囲内で第2部分、成分、領域、層またはセクションとして言及することができる。
【0024】
ここに用いられる専門用語は単に特定実施例を言及するためのものであって、本発明を限定することを意図しない。ここに用いられる単数形態は、文句がこれと明確に逆の意味を示さない限り複数形態も含む。明細書に用いられる「含む」の意味は特定特性、領域、整数、ステップ、動作、要素および/または成分を具体化し、他の特性、領域、整数、ステップ、動作、要素および/または成分の存在や附加を除外させるものではない。
【0025】
本発明の第1実施例によるマルチフェロイック物質
本発明の第1実施例によるマルチフェロイック物質は、磁気性(magnetic)鉄イオン(Fe3+)が非磁気性(non−magnetic)イオンで部分的に置換されたY型の単結晶ヘキサフェライトを含む。非磁気性イオンは、i)鉄イオンと置換可能であり、ii)ヘキサフェライトの磁気異方性を変化させられると予測される条件を満足させるべきであり、このような非磁気性イオンの一例としてアルミニウムイオン(Al3+)を用いることができる。
非磁気性イオンは鉄イオンと置換され、ヘキサフェライトの磁気異方性を変化させる。したがって、ヘキサフェライトにおいて、非磁気性イオンの置換量が増加するほど、より低い磁場によってもヘキサフェライトにi)誘電分極が誘導され、ii)最小には数%から最大には約20%の誘電率の変化を発生させることができる。例えば、約0.1%〜約20%の誘電率の変化が発生し得る。
【0026】
鉄イオンが非磁気性イオンで置換されないために置換率が約0%である場合には、前述した低い磁場においては、誘電分極発生および数%の誘電率変化が起こらない。その反面、鉄イオンに対する非磁気性イオンの置換率が約80%を超過する場合には、誘電分極の大きさが小さくなるか、磁場に対する誘電率の変化が不均一になる。したがって、鉄イオンに対する非磁気性イオンの置換率は、約0より大きく、約80%以下である。好ましくは、約0より大きく、約12%以下である。また、鉄イオンに対する非磁気性イオンの置換率を変化させ、i)誘電分極の大きさを増加させることができ、ii)誘電率の変化が最大である磁場範囲を制御することができる。
【0027】
より具体的には、誘電分極と関連して置換率を増加させる場合には、置換率が約80%になるまでには誘電分極の大きさが増加して不均一になるか減少する傾向がある。また、誘電率変化と関連して置換率を約0より大きく約80%の範囲で増加させる場合には、誘電率の変化が最大になる磁場の範囲が約1Tから0近くに順次移動する。
【0028】
ヘキサフェライトは下記の化学式1を有する。ここで、A元素はバリウム(Ba)およびストロンチウム(Sr)のうちの1つ以上であり、B元素は亜鉛(Zn)、コバルト(Co)およびマグネシウム(Mg)のうちの1つであったもよい。
[化学式1]
A2B2(Fe1−xAlx)12O22(0<x≦0.8)
【0029】
前述したように、鉄イオンに対する非磁気性イオンであるアルミニウムイオンの置換率は約0より大きく約80%であり、これは、前述した化学式1において、0<x≦0.8で示す。前記A元素とB元素は鉄、アルミニウムおよび酸素と共に菱面体晶構造を形成する。例えば、より具体的には、ヘキサフェライトは下記の化学式2で示すことができる。
[化学式2]
(Ba1−ySry)2Zn2(Fe1−xAlx)12O22(0≦y≦1.0、0<x≦0.8)
ここで、バリウムおよびストロンチウムの含量関係を示すyの範囲は0≦y≦1.0であり、鉄およびアルミニウムの含量関係を示すxの範囲は0<x≦0.8である。前述した範囲内で、他の元素と菱面体晶構造を構成し、印加される磁場によって誘電分極および誘電率の変化を発生させるバリウムおよびストロンチウムを互いに置換させることができる。
【0030】
アルミニウムイオンによる磁気的性質の変化
図1は、本発明の一実施形態によるY型ヘキサフェライトの結晶構造および磁性スピン整列を示す概略的な図である。ここで、Y型ヘキサフェライトは下記の化学式3を有する。
[化学式3]
(Ba0.25Sr0.75)2Zn2(Fe1−xAlx)12O22(0<x≦0.8)
【0031】
図1の「a」部分を参照すれば、Y型ヘキサフェライトは層状構造をなし、磁性的にS−blockとL−blockに区分することができる。図1のb部分は、ヘキサフェライト単結晶の結晶学的c軸に垂直方向に磁場を印加する時に可能な磁性スピン整列の形態を示す。また、図1のc部分は結晶学的方向110から1/2単位格子を示す。FeおよびAlに対応する球とZn、FeおよびAlに対応する球は各々八面体の中心および四面体の中心にあるイオンを示す。Y型ヘキサフェライトの磁気的性質と電気的性質は、八面体と四面体の中心にある鉄イオン(Fe3+)間の相互作用によって決定される。
【0032】
アルミニウムイオン(Al3+)は、大部分、八面体の中心にある鉄イオン(Fe3+)を置換する。この場合、磁気性のないアルミニウムイオン(Al3+)が磁気性を有する鉄イオン(Fe3+)を代替することにより、磁気的および電気的性質を決定する鉄イオン(Fe3+)間の相互作用に変化が発生する。図1のc部分にある矢印は、BA2Zn2Fe12O22の化学式を有した単結晶の場合、鉄イオン(Fe3+)間の相互作用によって決定された磁気スピン方向を示す。
【0033】
各々の磁気スピン整列は、隣接したFe−O−Feの相互作用(super exchange interaction)によって決定される。一般的にS−blockとL−blockの内部にある磁気スピンは、隣接した他のスピンとは反対方向に整列する。しかし、S−blockとL−blockの境界にあるFe(4)とFe(5)は同じ方向に整列する。これは、Fe(4)−O(2)−Fe(5)の相互作用がFe(4)−O(6)−Fe(8)とFe(5)−O(7)−Fe(8)に比べて相対的に弱いためである。ここで、括弧内の番号は原子がなす層状構造の順序を示す。S−blockとL−blockの境界周辺のFe−O−Fe相互作用の大きさは下記の表1の通りである。
【表1】
【0034】
一方、バリウムイオン(BA2+)をストロンチウムイオン(Sr2+)で置換した下記の化学式4を有する化合物の場合、磁気スピンの整列がy=0である場合とは異なる。この物質の場合、S−blockおよびL−block内部のスピンは依然として方向に沿って並んで整列する。しかし、S−block内の全体スピンを合した有効磁気モーメント(effective magnetic moment)とL−blockの有効磁気モーメント、そしてこのような2個のblockの境界にあるFe(5)の磁気スピンはc軸を基準に回転する形態を有する。
【0035】
[化学式4]
(Ba1−ySry)2Zn2Fe12O22(0≦y≦1.0)
アルミニウムイオン(Al3+)で鉄イオン(Fe3+)を置換した下記の化学式5を有する化合物は前述した化学式4と類似する形態の磁気整列を有する。しかし、アルミニウムイオン(Al3+)が四面体の中心にある鉄イオン(Fe3+)よりは八面体の中心にある鉄イオン(Fe3+)を選択的に置換することによって磁気異方性を減少させる。
【0036】
[化学式5]
(Ba1−ySry)2Zn2(Fe1−xAlx)12O22(0≦y≦1.0、0<x≦0.8)
アルミニウムイオン(Al3+)の置換によって磁気異方性が減少するため、低い磁場によっても磁気スピンの整列形態を制御することができる。その結果、図1のb部分に示すように磁気スピン整列が容易になされる。
【0037】
アルミニウムドーピングに応じた磁場誘導電気性(magnetoelectric property)の制御
誘電分極(electric polarization)が印加された磁場によって誘導される物質の磁場誘導電気性はスピン電流モデル(spin current model)で説明される。ここで、磁気スピン整列によって誘導される誘電分極は
の関係式を満足する。ここで、
は磁気整列スピンが繰り返される方向および周期を意味するベクトル、
はS−blockの有効磁気モーメント、
はL−blockの有効磁気モーメントを意味する。
【0038】
前述した化学式6を有する化合物に磁場をc軸に対して垂直にかける場合、図1のb部分のように磁気整列が起こるので誘電分極が誘導される。特に、アルミニウムの量が増えることにより、次第に低い磁場においても前述した磁気整列が可能となる。これは、誘電分極が、アルミニウム置換を通じ、次第に低い磁場に誘導されることを意味する。また、アルミニウムドーピングにより、磁気スピンがc軸を中心により大きい角を有して回転することができるため、誘電分極値も大きくなる。すなわち、スピン電流モデルにおいて、
が大きくなる。また、誘電分極が誘導される時に伴う誘電率の変化も次第に低い磁場に移動する。
【0039】
アルミニウム置換量に応じた磁気モーメント、誘電率の相対的変化および誘電分極関連実験
Ba0.5Sr1.5Zn2(Fe1−xAlx)12O22の化学式を有したヘキサフェライトを用い、磁気モーメント(M)、誘電率の相対的変化
および約30Kの温度で印加された磁場に応じた誘電分極(P)の変化を測定した。ここで、アルミニウムの置換量(x)は、各々、0.02、0.04、0.06および0.08にした。
【0040】
図2は、アルミニウム置換量に応じた磁気モーメント、誘電率の相対的変化および誘電分極関連実験の結果を示すグラフである。
【0041】
具体的には、図2のa、b、cおよびd部分は、アルミニウム置換量(x)を各々0.02、0.04、0.06および0.08にした時の印加された磁場に応じた磁気モーメント(M)を示し、e、f、gおよびh部分は、アルミニウム置換量(x)を各々0.02、0.04、0.06および0.08にした時の印加された磁場に応じた誘電率の相対的変化
を示し、i、j、kおよびl部分は、アルミニウム置換量(x)を各々0.02、0.04、0.06および0.08にした時の印加された磁場によって誘導された誘電分極(P)を示す。
【0042】
図2に示すように、アルミニウムの置換量(x)が増加することに伴い、誘電率の相対的変化および誘電分極が0付近の磁場によって誘導されることが分かる。また、アルミニウム置換量(x)が0.06および0.08である場合に誘電分極の大きさも増加することが分かる。
【0043】
より具体的には、約10mT以下の相対的に低い磁場において誘電分極が発生し、アルミニウムの置換量が増加する場合、誘電分極を誘導する磁場の大きさが順次0に近づくことが分かる。また、10mT以下の磁場において、最小には数%から最大には約20%範囲の誘電率の変化が発生し、アルミニウムの置換量を増加させることによって誘電率の変化を発生させる磁場の大きさが順次0に近づいた。
【0044】
アルミニウム置換量に応じたマルチフェロイック物質の強誘電相転移の境界変化関連実験
Ba0.5Sr1.5Zn2(Fe1−xAlx)12O22の化学式を有するヘキサフェライトにおいて、アルミニウム置換量(x)を各々0.00、0.01、0.02、0.03、0.04、0.06および0.08に変化させながら、強誘電相転移(ferroelectric phase transition)を観察した。
【0045】
図3は、アルミニウム置換量に応じた強誘電と常誘電状態の間の相転移の相境界実験の結果を示す相転移図である。
【0046】
図3に示すように、アルミニウム置換量が増加することに伴い、強誘電から 常誘電状態への相転移の相境界線が次第に低い磁場側に下降することが分かる。また、強誘電体相が存在できる螺旋磁気秩序温度はアルミニウム置換量が増えるほど減少することが分かる。
【0047】
アルミニウム置換量に応じた磁場誘導誘電率変化関連実験
Ba0.5Sr1.5Zn2(Fe1−xAlx)12O22の化学式を有するヘキサフェライトにおいて、アルミニウム置換量(x)を各々0.00、0.01、0.02、0.03、0.04、0.06および0.08に変化させる時、所定の温度条件において磁場による誘電率の最大変化値を測定した。
【0048】
図4は、アルミニウム置換量に応じた磁場誘導誘電率変化関連実験の結果を示すグラフである。図4のa部分には、50K、70K、90Kの温度条件において、アルミニウム置換量(x)が各々0.00、0.01、0.02、0.03、0.04、0.06および0.08に増加する時の磁場誘導誘電率の変化を示し、図4のb部分には、アルミニウム置換量(x)が0.08である時の温度および0付近の磁場に応じた磁場誘導誘電率を3次元で示す。
【0049】
図4に示すように、適正量のアルミニウムを置換することにより、0付近の低い磁場においても誘電率を最小には数%から最大には20%まで変化させることができる。より具体的には、約10mT以下の磁場において、最小には数%から最大には約20%範囲の誘電率の変化が発生する。
【0050】
本発明の第1実施例によるマルチフェロイック物質の製造方法
図5は、本発明の第1実施例によるマルチフェロイック物質の製造方法を概略的に示すフローチャートである。
【0051】
図5に示すように、本発明の第1実施例によるマルチフェロイック物質の製造方法は、i)炭酸バリウム粉末、炭酸ストロンチウム粉末、酸化亜鉛粉末、酸化鉄粉末、酸化アルミニウム粉末および酸化ナトリウム粉末を選択的に含む粉末を提供するステップ(S100)、ii)粉末を1回以上熱処理するステップ(S110)、およびiii)粉末を徐冷して結晶化したヘキサフェライトを提供するステップ(S120)を含む。この他に、マルチフェロイック物質の製造方法は他のステップをさらに含むことができる。
【0052】
図5に示すように、ステップ(S100)においては、炭酸バリウム(BaCO3)粉末、炭酸ストロンチウム(SrCO3)粉末、酸化亜鉛(ZnO)粉末、酸化鉄(Fe2O3)粉末、酸化アルミニウム(Al2O3)粉末および酸化ナトリウム(Na2O)粉末を選択的に含む粉末を提供する。ここで、前述した粉末は選択的に提供することができるため、前述した粉末のうちの一部粉末は除外することができる。例えば、炭酸バリウム(BaCO3)粉末および炭酸ストロンチウム(SrCO3)粉末のうちのいずれか1つの粉末を提供しなかったり、酸化アルミニウム(Al2O3)粉末を提供しなかったりすることができる。一方、酸化ナトリウム(Na2O)粉末はヘキサフェライト物質の製造温度を下げるために提供される。下記の表2は、ステップ(S100)に要求される粉末のモル比を示す。
【表2】
【0053】
表2に記載した通り、炭酸バリウム、炭酸ストロンチウム、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化アルミニウムおよび酸化ナトリウムのモル比は、各々、A1(1−y’)、A1y’、A2、A3(1−x)、A3xおよびA4である。ここで、A1、A2、A3およびA4は、各々、17≦A1≦22、17≦A2≦22、48≦A3≦59および6≦A4≦8の範囲に含まれ、その和が100を満足させるように選択される。また、y’およびxは、各々、0≦y’≦1.0および0<x≦0.8の範囲から選択される。
【0054】
前述したモル比は、ZnFe2O4のように不純物として除去される成分を考慮し、最終的に前述した化学式2を有する単結晶のY型ヘキサフェライトを収得するために必要である。ここで、粉末の温度は約260K〜約400Kである常温状態であってもよいが、これに限定されず、固相の粉末状態を維持できる温度状態であればよい。例えば、粉末の温度は約298K、すなわち25℃であってもよい。
【0055】
ステップ(S110)においては粉末を1回以上熱処理する。より具体的には、粉末を白金るつぼ(platinum crucible)に入れ、白金るつぼを電気炉(furnace)に投入して熱処理を行う。この場合、熱処理ステップは細分化され、i)第1温度までに加熱するステップ、ii)第1温度に維持するステップ、およびiii)第1温度より小さい第2温度に冷却するステップを含むことができる。
【0056】
ここで、第1温度が約1100℃未満である場合には粉末の溶融状態を形成し難い。その反面、第1温度が約1500℃を超過する場合には、第1温度が高すぎるために制御し難く、周辺の不純物が溶けて粉末に含まれる恐れがある。したがって、第1温度は約1100℃〜約1500℃が好ましい。
【0057】
また、第2温度が約1000℃未満である場合には、再び第1温度に粉末を加熱するのに過度なエネルギが必要であるために収率が低下する。その反面、第2温度が約1200℃を超過する場合には、ZnFe2O4のような不純物を除去し難い。したがって、第2温度は約1000℃〜約1200℃の範囲で第1温度より小さく設定される。
【0058】
第1温度までに加熱するステップにおいて、その温度増加率が約900℃/h未満である場合には、最終第1温度までに達する時間が長くなるため、ヘキサフェライトの生産収率が低下する。その反面、温度増加率が約1500℃/hを超過する場合には、加熱時間が相対的に短いために温度制御が容易ではない。したがって、第1温度までに加熱するステップにおいて、その温度増加率は約900℃/h〜1500℃/hである。
【0059】
第1温度より小さい第2温度に冷却するステップにおいて、その温度減少率が約900℃/h未満である場合には、第2温度までに達する時間が長くなるために生産収率が低下する。その反面、温度減少率が約1500℃/hを超過する場合には、冷却時間が相対的に短いために温度制御が容易ではない。したがって、第1温度より小さい第2温度に冷却するステップにおいて、温度減少率は約900℃/h〜約1500℃/hである。
【0060】
前述したように、i)第1温度までに加熱するステップ、ii)第1温度に維持するステップ、およびiii)第1温度より小さい第2温度に冷却するステップを含む熱処理するステップは、ZnFe2O4などの不純物を効果的に除去するために繰り返し行うことができる。
【0061】
図6は、図5の熱処理ステップを繰り返し行う場合を概略的に示すグラフである。
【0062】
図6に示すように、第1温度を熱処理ステップが行われる時ごとに順次減少させるか、以前遂行時と同一に維持することにより、不純物の除去効率を上げ、ヘキサフェライトの収率を向上させる。また、第2温度は、熱処理ステップが行われる時ごとに順次増加させるか、以前遂行時と同一に維持することができる。
【0063】
最初熱処理時の第1温度における維持時間が約10時間未満である場合には、固相の粉末が十分に液相に変わらないので液相として残留し得る。その反面、最初熱処理時の第1温度に維持する時間が約30時間を超過する場合には、粉末の液相への変化が既に完了したにもかかわらず加熱によって不要なエネルギを消費する。したがって、最初熱処理時の第1温度に維持する時間は約10時間〜約30時間である。以後熱処理時の第1温度に維持する時間は最初の時より小さい約5時間以下、好ましくは約0.05時間〜約5時間である。これは、最初に固相を液相に変化させる時より小さいエネルギだけが必要であるためである。
【0064】
再び図5に戻れば、ステップ(S120)においては、粉末を徐冷して結晶化したヘキサフェライトを提供する。徐冷時の温度減少率が約0.1℃/h未満である場合には、減少率が相対的に低いために生産収率が低下し得る。その反面、温度減少率が約100℃/hを超過する場合には、ヘキサフェライトが単結晶にならない。したがって、徐冷時の温度減少率は約0.1℃〜約100℃/hである。
【0065】
また、徐冷過程は、約0.1℃/h〜約10℃/hに進行される1次徐冷過程、および約10℃/h〜約100℃/hに進行される2次徐冷過程を含むことができる。これは、安定的に単結晶を形成できる約0.1℃/h〜約10℃/hの温度減少率で1次徐冷を進行した後、1次徐冷より相対的に大きい温度減少率である約10℃/h〜約100℃/hに2次徐冷を遂行して製造時間を短縮することができるためである。
【0066】
ここで、最終的に冷却されるマルチフェロイック物質の温度は約260K〜約400Kの常温状態であってもよいが、これに制限されず、マルチフェロイック物質が固相を維持できる温度であればよい。例えば、マルチフェロイック物質の温度は約298K、すなわち25℃までに徐冷することができる。
【0067】
本発明の第1実施例によるマルチフェロイック物質の製造実験
モル比がA1(1−y’)、A1y’、A2、A3(1−x)、A3xおよびA4である炭酸バリウム、炭酸ストロンチウム、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化アルミニウムおよび酸化ナトリウムの粉末を準備するステップにおいて、A1、A2、A3およびA4を17≦A1≦22、17≦A2≦22、48≦A3≦59および6≦A4≦8の範囲において各々19.69、19.69、53.61および7.01で選択し、その和が100になるようにした。より具体的には、下記の表3に記載したモル比を有する粉末を準備した。
【表3】
【0068】
また、xは0<x≦0.8の範囲において0.12で選択し、y’は0≦y’≦1.0の範囲において11個を選択して、下記の表4に記載したように11個に区分した。
【表4】
【0069】
次に、粉末を白金るつぼに入れ、白金るつぼを電気炉に投入した後、10回の熱処理を行った。そして、粉末を約1℃/hで1次徐冷した後、約50℃/hで2次徐冷した。熱処理条件および徐冷条件を下記の表5に記載する。
【表5】
【0070】
下記の表6には前述した工程によって最終的に得られた11個の最終ヘキサフェライトサンプルの化学式を記載する。
【表6】
【0071】
表6に記載した通り、前述した実験によって最終的に得られた11個のヘキサフェライトの全てが前述した化学式5を有することが分かる。
【0072】
図7は、前述したマルチフェロイック物質の製造実験から得られたヘキサフェライトの撮影写真である。すなわち、本発明の第1実施例によるヘキサフェライトを撮影した写真である。
【0073】
図7に示すように、ヘキサフェライトは菱面体晶構造を有した。また、単結晶構造を有したヘキサフェライトが得られた。
【0074】
本発明の第2実施例によるマルチフェロイック物質
本発明の第2実施例によるマルチフェロイック物質は熱処理され、その電気的抵抗が増加する。したがって、マルチフェロイックから発生するi)磁場印加時の誘電分極の発生に起因した強誘電性、およびii)誘電率の変化が新しく現れる。
【0075】
より具体的には、常温で約0.1T以下の低い磁場を印加する場合、マルチフェロイック物質の誘電率の変化は約0%より大きく約20%以下である。例えば、マルチフェロイック物質において、約0.1%〜約20%の誘電率の変化が発生し得る。また、常温で約0.1T以下の低い磁場の印加によってもマルチフェロイック物質の誘電分極が誘導される。前述した特性は電磁気素材分野に様々に応用される。
【0076】
ここで、ヘキサフェライトは単結晶のY型であって、A2B2Fe12O22の化学式を有する。A元素はバリウムおよびストロンチウムのうちのいずれか1つ以上であり、B元素は亜鉛、コバルトおよびマグネシウムのうちのいずれか1つであってもよい。例えば、ヘキサフェライトは下記の化学式6を有する。
[化学式6]
(Ba1−xSrx)2Zn2Fe12O22(0≦x≦1.0)
【0077】
熱処理維持時間関連実験
Ba0.5Sr1.5Zn2Fe12O22の化学式を有する単結晶Y型ヘキサフェライトを製造した。次に、ヘキサフェライトを約25℃で約220℃/hの速度で約900℃までに加熱した。そして、約900℃に維持される時間を約2日、約8日および約14日に区分してサンプルを製造した。次に、相対的に低い約50℃/hの速度で約25℃までにサンプルを冷却した後、温度変化に応じた比抵抗を測定した。これと対照するために、熱処理を行わずに常温で約2日、約8日および約14日間保管したサンプルを製造した後、温度変化に応じた比抵抗を測定した。
【0078】
図8は、本発明の第2実施例によるマルチフェロイック物質の熱処理維持実験の結果を示すグラフである。
【0079】
図8に示すように、熱処理有無に関係なく、熱処理過程で温度が減少した後、常温に近づくほどサンプルの比抵抗が大きくなることが分かる。また、約2日〜約14日間熱処理したサンプルの比抵抗が、熱処理を行わなかったサンプルの比抵抗より大きいことが分かる。特に8日間熱処理を維持したサンプルの比抵抗が非常に高かった。
【0080】
冷却速度実験
Ba0.5Sr1.5Zn2Fe12O22の化学式を有する単結晶Y型ヘキサフェライトを製造した。次に、ヘキサフェライトを約25℃で約220℃/hの速度で約900℃までに加熱した。そしてヘキサフェライトを約8日間900℃に維持した。次に、約50℃/h(slow)、約95℃/h(intermediate)および約300℃/h(quenching)に区分し、約25℃までに冷却したサンプルを製造した後、温度変化に応じたサンプルの比抵抗を測定した。
【0081】
図9は、サンプルの冷却速度実験の結果を示すグラフである。
図9に示すように、サンプルの冷却速度が速い場合にはサンプルの比抵抗が相対的に小さく、冷却速度が約95℃/hおよび約50℃/hの順にサンプルの比抵抗が大きくなる。
【0082】
誘電率変化実験
Ba0.5Sr1.5Zn2Fe12O22の化学式を有する単結晶Y型ヘキサフェライトを製造した。次に、ヘキサフェライトを約25℃で約220℃/hの速度で約900℃までに加熱した。そしてヘキサフェライトを約900℃で8日間維持した。次に、約50℃/hで約25℃までに冷却したサンプルを製造した。そして、サンプルの温度を約10K、約90K、約160K、約220K、約260K、約270K、約280K、約290K、約300K、約310Kおよび約315Kに変化させながら、サンプルの誘電率変化を測定した。
【0083】
図10は、印加された磁場によるサンプルの誘電率変化実験の結果を示すグラフである。具体的には、約10K、約90K、約160Kおよび約220Kまでは図10のa部分に示し、約260K、約270K、約280K、約290K、約300K、約310Kおよび約315Kまでは図10のb部分に示す。
【0084】
図10に示すように、約260K以上の温度においては、温度が増加するほど誘電率変化ピークが現れる磁場は0付近に近づく。常温近くにおいては、0付近の低い磁場によってもサンプルの誘電率が変化する。より具体的には、常温を含む約260K〜約400K範囲の温度において、約0.1T以下の低い磁場によってもサンプルの誘電率が約0.1%〜約20%変化した。また、誘電率の変化は誘電分極の変化を伴うため、常温近くにおいて0付近の低い磁場によってサンプルの誘電分極も現れて強誘電体特性を示す。
【0085】
強誘電領域実験
Ba0.5Sr1.5Zn2Fe12O22の化学式を有する単結晶Y型ヘキサフェライトを製造した。次に、ヘキサフェライトを約25℃で約220℃/hの速度で約900℃までに加熱した。そしてヘキサフェライトを約900℃で約8日間維持した。次にサンプルを約50℃/hの速度で約25℃までに冷却した。これとは対照的に、Ba0.5Sr1.5Zn2Fe12O22の化学式を有する単結晶Y型ヘキサフェライトとして、熱処理をしていないサンプルを準備した。その次に、選択された温度で2つのサンプルの強誘電相境界を印加された磁場での誘電率変化ピークから決定した。
【0086】
図11は、本発明の第2実施例によるマルチフェロイック物質の強誘電領域実験の結果を示すグラフである。
【0087】
図11に示すように、熱処理していないサンプルは、常温で強誘電領域が観察されなかった。しかし、熱処理したサンプルは、常温においても強誘電性を有した領域が観察された。より具体的には、常温である約260K〜約400K範囲の温度、および約0.1T以下の低い磁場において熱処理したサンプルに強誘電領域を形成する誘電分極が発生する。
【0088】
本発明の第2実施例によるマルチフェロイック物質の製造方法
図12は、本発明の第2実施例によるマルチフェロイック物質の製造方法を概略的に示すフローチャートである。
【0089】
図12に示すように、本発明の第2実施例によるマルチフェロイック物質の製造方法は、i)ヘキサフェライトを第1速度で熱処理温度までに加熱するステップ(S200)と、ii)ヘキサフェライトを熱処理温度に維持するステップ(S210)、およびiii)熱処理温度に維持されたヘキサフェライトを第2速度に冷却するステップ(S220)を含む。この他に、マルチフェロイック物質の製造方法は他のステップをさらに含むことができる。
【0090】
図12のステップ(S200)において加熱されるヘキサフェライトは単結晶のY型であって、A2B2Fe12O22の化学式を有する。A元素はバリウム(Ba)およびストロンチウム(Sr)のうちのいずれか1つ以上であり、B元素は亜鉛(Zn)、コバルト(Co)およびマグネシウム(Mg)のうちのいずれか1つであってもよい。ここで、前記A元素とB元素は鉄、アルミニウムおよび酸素と共に菱面体晶構造を形成する。例えば、ヘキサフェライトは下記の化学式7を有する。
【0091】
[化学式7]
(Ba1−xSrx)2Zn2Fe12O22(0≦x≦1.0)
ここで、バリウムおよびストロンチウムの含量関係を示すxの範囲は0≦x≦1.0である。これは、他の元素と菱面体晶構造を構成し、印加される磁場によって誘電分極および誘電率変化を発生させるバリウムおよびストロンチウムが互いに置換可能であるためである。ヘキサフェライトは、前述した本発明の第1実施例によるマルチフェロイック物質の製造方法により製造することができる。
【0092】
図12に示すように、ステップ(S200)においては、ヘキサフェライトを第1速度で熱処理温度までに加熱する。ヘキサフェライトの抵抗を減少させる要因である、i)ナトリウム不純物による攻撃(attack)、ii)酸素欠乏(deficiency)、およびiii)低いγ値と関連した要素を熱処理によって除去することにより、相対的に高い抵抗を有したマルチフェロイック物質を製造する。以下では、図13によってγ値についてより詳細に説明する。
【0093】
図13は、γ値を説明するための概略的な図である。図13は、Ba0.5Sr1.5Zn2Fe12O22の化学式を有したマルチフェロイック物質の[110]方向の結晶構造を示す。
【0094】
図13に示すように、γ値はBa0.5Sr1.5Zn2Fe12O22の化学式を有したY型ヘキサフェライト構造の12個層に区分される。γ値は11番目層の鉄の位置に亜鉛が混ぜられる確率に該当する。11番目層においてγの確率が定められれば、4番目層は(1−γ)の確率でZnイオンがFeの位置を置換する。理想的なγ値は約0.5であるが、実際には、物質の製造方法によってその値が変化する。したがって、これを調節するのが物理的な性質を決定するのに非常に重要である。鉄と亜鉛は四面体位置(tetrahedral site)に不規則に分散し、LおよびSは2種類の四面体位置を有したスピンブロックである。
【0095】
より具体的には、ナトリウムがヘキサフェライトを攻撃する場合、i)ナトリウムによって提供された正孔、ii)結晶構造の変化、およびiii)酸化ナトリウムに起因した鉄と反応する酸素の減少などの要因により、ヘキサフェライトの抵抗が減少する。また、酸素欠乏が発生する場合、結晶構造の不安定化などの要因により、ヘキサフェライトの抵抗も減少する。また、γ値が低い場合、約300Kにおいて、
で示す活性化エネルギ(△)が低くなるのでヘキサフェライトの抵抗が減少する。
【0096】
したがって、抵抗を減少させる要因を除去するために、酸素雰囲気でマルチフェロイック物質を熱処理する。酸素雰囲気でマルチフェロイック物質を熱処理することにより、酸素欠乏(deficiency)を除去する。熱エネルギによって亜鉛は円滑に分散し、γ値が高くなってマルチフェロイック物質の抵抗が増加する。しかし、マルチフェロイック物質を熱処理する場合、抵抗を減少させるナトリウムによる攻撃の増加が避けられないため、熱処理条件を繊細に制御する必要がある。
【0097】
熱処理条件を繊細に制御してヘキサフェライトの抵抗を増加させる場合、マルチフェロイック物質の不導体(insulator)的な性質がより優れるようになる。その結果、磁場がマルチフェロイック物質に印加される時、強誘電性分極と誘電分極発生に起因した誘電率変化が現れる。このような特性は電磁気素材分野に様々に応用される。以下では、図14により、図12の各ステップ(S200、S210、S220)についてより詳細に説明する。
図14は、本発明の第2実施例によるヘキサフェライトの製造方法を概略的に示すグラフである。
【0098】
図14に示すように、酸素欠乏を除去するために、酸素雰囲気でヘキサフェライトを熱処理することができる。ここで、酸素圧が約0.5atm未満である場合には、酸素欠乏の除去率が顕著に低下する。その反面、酸素圧が約500atmを超過する場合には、酸素欠乏の除去を制御し難い。したがって、酸素圧は約0.5atm〜約500atmである。例えば、酸素圧は約1atmであってもよい。前述した酸素雰囲気でヘキサフェライトを第1速度で熱処理温度までに加熱する。
【0099】
加熱前にヘキサフェライトは約260K〜約400Kである常温状態であってもよい。しかし、これに制限されず、ヘキサフェライトを固相として維持できる温度であればよい。例えば、加熱前のヘキサフェライトの温度は約298K、すなわち25℃であったもよい。
【0100】
第1速度が約10℃/h未満である場合には、加熱に必要とされる時間が相対的に長くなって生産収率が低下する。また、ヘキサフェライトへの酸素浸透率が小さくなって酸素欠乏の除去率が低くなる。その反面、第1速度が約1500℃/hを超過する場合には、熱処理に用いられる電気炉の熱線に無理がかかる。したがって、第1速度は約10℃/h〜約1500℃/hである。例えば、第1速度は実質的に220℃/hであってもよい。
【0101】
熱処理温度が約800℃未満である場合には、温度が相対的に低いので亜鉛が円滑に分散しない。したがって、γ値が増加せず、酸素欠乏も除去されない。その反面、熱処理温度が約950℃を超過する場合には、ヘキサフェライトの結晶構造が部分的に溶融する。したがって、熱処理温度は約800℃〜約950℃である。例えば、熱処理温度は実質的に900℃であってもよい。
【0102】
再び図12に戻れば、ステップ(S210)においては、ヘキサフェライトを熱処理温度に維持する。ヘキサフェライトを維持する期間が約2日未満である場合には、酸素欠乏が十分に除去されない。また、亜鉛が充分に分散しないため、マルチフェロイック物質の抵抗増加の効果が減少する。その反面、維持期間が約14日を超過する場合には、酸素欠乏が除去され、亜鉛は分散するが、ナトリウム攻撃が増加して抵抗増加の効果が減少する。したがって、維持期間は約2日〜約14日である。例えば、維持期間は実質的に約8日であってもよい。
【0103】
図12および図14を参照すれば、ステップ(S220)においては、熱処理温度に維持されたヘキサフェライトを第2速度で冷却してマルチフェロイック物質を製造する。第2速度が約10℃/h未満である場合には、冷却に必要とされる時間が相対的に長くなって生産収率が低下する。また、最終的に得られたヘキサフェライトの常温での抵抗が100倍程度減少する。その反面、第2速度が約100℃/hを超過する場合には、冷却時間が相対的に短いために結晶構造の再整列が円滑に行われない。したがって、最終的に得られたマルチフェロイック物質は常温で相対的に小さい抵抗を有する。したがって、第2速度は約10℃/h〜約100℃/hである。例えば、第2速度は実質的に50℃/hであってもよい。
【0104】
前述したように、第1速度および第2速度は各々約10℃/h〜約1500℃/hおよび約10℃/h〜約100℃/hの範囲から選択することができる。ここで、第1速度が第2速度より大きいことが好ましい。これは、第1速度をできるだけ速めにして生産収率を増加させ、第2速度をできるだけ遅めにして結晶構造を安定的に再整列することができるためである。例えば、第1速度および第2速度は実質的に各々約220℃/hおよび約50℃/hであってもよい。
【0105】
冷却によって最終的に得られたマルチフェロイック物質の温度は約260K〜約400Kの常温であってもよい。しかし、これに限定されず、マルチフェロイック物質が固相を維持できる温度であればよい。例えば、冷却によって最終的に得られるマルチフェロイック物質の温度は約298K、すなわち25℃であってもよい。
【0106】
ステップ(S220)後に得られたヘキサフェライトの比抵抗は104Ω・cm〜107Ω・cmであってもよい。一方、ステップ(S200)前に得られたヘキサフェライト、すなわち図5のステップ(S120)後に得られた結晶化したヘキサフェライトの比抵抗は10Ω・cm〜103Ω・cmである。したがって、ステップ(S120)後に得られたヘキサフェライトの比抵抗に対するステップ(S220)後に得られたヘキサフェライトの比抵抗の比は10〜106であってもよい。前述したように、熱処理によってヘキサフェライトの抵抗が大きく増加する。熱処理によってヘキサフェライトの抵抗を増加させることができるため、低い磁場においてもヘキサフェライトの誘電率を変化させることができる。一方、ステップ(S220)後に得られたヘキサフェライトの比抵抗が非常に小さい場合には、誘電分極が電子によってスクリーンされるので強誘電性を利用し難い。すなわち、比抵抗が大きいほど強誘電性を利用し易い。その逆に、ステップ(S220)後に得られたヘキサフェライトの比抵抗は技術的な限界があるので大きすぎることはできない。
【0107】
本発明を前述のように説明したが、次に記載する特許請求の範囲の概念と範囲を逸脱しない限り、様々な修正および変形が可能であるということは、本発明が属する技術分野の者であれば容易に理解するはずである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭酸バリウム粉末、炭酸ストロンチウム粉末、酸化亜鉛粉末、酸化鉄粉末、酸化アルミニウム粉末および酸化ナトリウム粉末を選択的に含む粉末を提供するステップ、
前記粉末を1回以上熱処理するステップ、および
前記粉末を徐冷して結晶化したヘキサフェライト(hexaferrite)を提供するステップ
を含むマルチフェロイック物質の製造方法。
【請求項2】
前記炭酸バリウム粉末、前記炭酸ストロンチウム粉末、前記酸化亜鉛粉末、前記酸化鉄粉末、前記酸化アルミニウム粉末、および前記酸化ナトリウム粉末のモル比率は、各々、A1(1−y’)、A1y’、A2、A3(1−x)、A3xおよびA4であり、
前記A1、A2、A3およびA4は、各々、17≦A1≦22、17≦A2≦22、48≦A3≦59および6≦A4≦8の範囲において、前記A1、A2、A3およびA4の和が100になるように選択され、
前記y’および前記xは、各々、0≦y’≦1.0および0<x≦0.8の範囲から選択される、請求項1に記載のマルチフェロイック物質の製造方法。
【請求項3】
前記熱処理するステップは、
前記粉末を第1温度までに加熱するステップ、
前記粉末を前記第1温度に維持するステップ、および
前記第1温度から前記第1温度より小さい第2温度までに前記粉末を冷却するステップ
を含む、請求項1に記載のマルチフェロイック物質の製造方法。
【請求項4】
前記第1温度は1100℃〜1500℃の範囲から選択し、前記第2温度は1000℃〜1200℃の範囲から選択する、請求項3に記載のマルチフェロイック物質の製造方法。
【請求項5】
前記加熱するステップにおいて、温度増加率は900℃/h〜1500℃/hである、請求項3に記載のマルチフェロイック物質の製造方法。
【請求項6】
前記粉末を冷却するステップにおいて、温度減少率は900℃/h〜1500℃/hである、請求項3に記載のマルチフェロイック物質の製造方法。
【請求項7】
前記熱処理するステップは2回以上行われ、
前記第1温度は、前記熱処理するステップが行われる時ごとに順次減少させるか、以前遂行時と同一に維持し、
前記第2温度は、前記熱処理するステップが行われる時ごとに順次増加させるか、以前遂行時と同一に維持する、請求項3に記載のマルチフェロイック物質の製造方法。
【請求項8】
前記熱処理するステップは2回以上行われ、
最初熱処理時の前記維持するステップは10時間〜30時間の間に行われ、
以後熱処理時の前記維持するステップは0時間より大きく5時間以下の間に行われる、請求項3に記載のマルチフェロイック物質の製造方法。
【請求項9】
前記結晶化したヘキサフェライトを提供するステップにおいて、温度減少率は0.1℃/h〜100℃/hである、請求項1に記載のマルチフェロイック物質の製造方法。
【請求項10】
前記結晶化したヘキサフェライトを提供するステップは、
0.1℃/h〜10℃/hに進行される1次徐冷ステップ、および
50℃/h〜100℃/hに進行される2次徐冷ステップを含む、請求項9に記載のマルチフェロイック物質の製造方法。
【請求項11】
前記ヘキサフェライトを第1速度で熱処理温度までに加熱するステップ、
前記ヘキサフェライトを前記熱処理温度に維持させるステップ、および
前記熱処理温度に維持された前記ヘキサフェライトを第2速度で冷却させるステップ
をさらに含む、請求項1に記載のマルチフェロイック物質の製造方法。
【請求項12】
前記ヘキサフェライトを加熱するステップにおいて、前記第1速度は10℃/h〜1500℃/hである、請求項11に記載のマルチフェロイック物質の製造方法。
【請求項13】
前記第1速度は実質的に220℃/hである、請求項12に記載のマルチフェロイック物質の製造方法。
【請求項14】
前記ヘキサフェライトを加熱するステップにおいて、前記熱処理温度は800℃〜950℃である、請求項11に記載のマルチフェロイック物質の製造方法。
【請求項15】
前記熱処理温度は実質的に900℃である、請求項14に記載のマルチフェロイック物質の製造方法。
【請求項16】
前記ヘキサフェライトを冷却させるステップにおいて、前記第2速度は10℃/h〜100℃/hである、請求項11に記載のマルチフェロイック物質の製造方法。
【請求項17】
前記第2速度は実質的に50℃/hである、請求項16に記載のマルチフェロイック物質の製造方法。
【請求項18】
前記加熱するステップ、前記維持させるステップ、および前記冷却させるステップは各々酸素雰囲気で行われる、請求項11に記載のマルチフェロイック物質の製造方法。
【請求項19】
前記酸素雰囲気における酸素圧は0.5atm〜500atmである、請求項18に記載のマルチフェロイック物質の製造方法。
【請求項20】
前記酸素圧は実質的に1atmである、請求項19に記載のマルチフェロイック物質の製造方法。
【請求項21】
前記ヘキサフェライトを加熱するステップにおいて、前記ヘキサフェライトはY型であり、A2B2(Fe1−xAlx)12O22(0≦x≦0.8)の化学式を有し、前記A元素はバリウム(Ba)およびストロンチウム(Sr)のうちの1つ以上であり、前記B元素は亜鉛(Zn)、コバルト(Co)およびマグネシウム(Mg)のうちの1つである、請求項11に記載のマルチフェロイック物質の製造方法。
【請求項22】
前記ヘキサフェライトは、(Ba1−ySry)2Zn2(Fe1−xAlx)12O22(0≦y≦1.0、0≦x≦0.8)の化学式を有する、請求項21に記載のマルチフェロイック物質の製造方法。
【請求項23】
前記結晶化したヘキサフェライトを提供するステップ後に得られたヘキサフェライトの比抵抗に対する前記ヘキサフェライトを冷却させるステップ後に得られたヘキサフェライトの比抵抗の比は10〜106である、請求項11に記載のマルチフェロイック物質の製造方法。
【請求項24】
前記ヘキサフェライトを冷却させるステップ後に得られたヘキサフェライトの比抵抗は104Ω・cm〜107Ω・cmである、請求項23に記載のマルチフェロイック物質の製造方法。
【請求項25】
前記ヘキサフェライトを冷却させるステップ後に得られたヘキサフェライトの誘電率変化は、260K〜400K範囲の温度、および0より大きく0.1T以下の範囲の磁場において、0%より大きく20%以下で発生する、請求項11に記載のマルチフェロイック物質の製造方法。
【請求項26】
前記ヘキサフェライトを冷却させるステップ後に得られたヘキサフェライトの誘電分極は、260K〜400K範囲の温度、および0より大きく0.1T以下の範囲の磁場において発生する、請求項11に記載のマルチフェロイック物質の製造方法。
【請求項27】
磁気性鉄イオンが非磁気性イオンで部分的に置換されたヘキサフェライトを含み、前記非磁気性イオンは前記ヘキサフェライトの磁気異方性を変化させるように適用されたマルチフェロイック物質。
【請求項28】
前記非磁気性イオンはアルミニウムイオンである、請求項27に記載のマルチフェロイック物質。
【請求項29】
前記鉄イオンに対する前記非磁気性イオンの置換率は0より大きく80%以下である、請求項28に記載のマルチフェロイック物質。
【請求項30】
前記ヘキサフェライトの誘電分極は、0より大きく10mT以下の範囲の磁場において発生する、請求項27に記載のマルチフェロイック物質。
【請求項31】
前記非磁気性イオンの置換量を増加させることにより、前記ヘキサフェライトの誘電分極を発生させる磁場の大きさが順次0に近づく、請求項27に記載のマルチフェロイック物質。
【請求項32】
前記ヘキサフェライトの誘電率変化は、0より大きく10mT以下の範囲の磁場において、0%より大きく20%範囲内で発生する、請求項27に記載のマルチフェロイック物質。
【請求項33】
前記非磁気性イオンの置換量を増加させることにより、前記ヘキサフェライトの誘電率変化を発生させる磁場の大きさが順次0に近づく、請求項27に記載のマルチフェロイック物質。
【請求項34】
前記ヘキサフェライトはY型であり、前記ヘキサフェライトはA2B2(Fe1−xAlx)12O22(0<x≦0.8)の化学式を有し、前記A元素はバリウム(Ba)およびストロンチウム(Sr)のうちの1つ以上であり、前記B元素は亜鉛(Zn)、コバルト(Co)およびマグネシウム(Mg)のうちの1つである、請求項27に記載のマルチフェロイック物質。
【請求項35】
前記ヘキサフェライトは、(Ba1−ySry)2Zn2(Fe1−xAlx)12O22(0≦y≦1.0、0<x≦0.8)の化学式を有する、請求項34に記載のマルチフェロイック物質。
【請求項36】
前記ヘキサフェライトの比抵抗は104Ω・cm〜107Ω・cmである、請求項27に記載のマルチフェロイック物質。
【請求項1】
炭酸バリウム粉末、炭酸ストロンチウム粉末、酸化亜鉛粉末、酸化鉄粉末、酸化アルミニウム粉末および酸化ナトリウム粉末を選択的に含む粉末を提供するステップ、
前記粉末を1回以上熱処理するステップ、および
前記粉末を徐冷して結晶化したヘキサフェライト(hexaferrite)を提供するステップ
を含むマルチフェロイック物質の製造方法。
【請求項2】
前記炭酸バリウム粉末、前記炭酸ストロンチウム粉末、前記酸化亜鉛粉末、前記酸化鉄粉末、前記酸化アルミニウム粉末、および前記酸化ナトリウム粉末のモル比率は、各々、A1(1−y’)、A1y’、A2、A3(1−x)、A3xおよびA4であり、
前記A1、A2、A3およびA4は、各々、17≦A1≦22、17≦A2≦22、48≦A3≦59および6≦A4≦8の範囲において、前記A1、A2、A3およびA4の和が100になるように選択され、
前記y’および前記xは、各々、0≦y’≦1.0および0<x≦0.8の範囲から選択される、請求項1に記載のマルチフェロイック物質の製造方法。
【請求項3】
前記熱処理するステップは、
前記粉末を第1温度までに加熱するステップ、
前記粉末を前記第1温度に維持するステップ、および
前記第1温度から前記第1温度より小さい第2温度までに前記粉末を冷却するステップ
を含む、請求項1に記載のマルチフェロイック物質の製造方法。
【請求項4】
前記第1温度は1100℃〜1500℃の範囲から選択し、前記第2温度は1000℃〜1200℃の範囲から選択する、請求項3に記載のマルチフェロイック物質の製造方法。
【請求項5】
前記加熱するステップにおいて、温度増加率は900℃/h〜1500℃/hである、請求項3に記載のマルチフェロイック物質の製造方法。
【請求項6】
前記粉末を冷却するステップにおいて、温度減少率は900℃/h〜1500℃/hである、請求項3に記載のマルチフェロイック物質の製造方法。
【請求項7】
前記熱処理するステップは2回以上行われ、
前記第1温度は、前記熱処理するステップが行われる時ごとに順次減少させるか、以前遂行時と同一に維持し、
前記第2温度は、前記熱処理するステップが行われる時ごとに順次増加させるか、以前遂行時と同一に維持する、請求項3に記載のマルチフェロイック物質の製造方法。
【請求項8】
前記熱処理するステップは2回以上行われ、
最初熱処理時の前記維持するステップは10時間〜30時間の間に行われ、
以後熱処理時の前記維持するステップは0時間より大きく5時間以下の間に行われる、請求項3に記載のマルチフェロイック物質の製造方法。
【請求項9】
前記結晶化したヘキサフェライトを提供するステップにおいて、温度減少率は0.1℃/h〜100℃/hである、請求項1に記載のマルチフェロイック物質の製造方法。
【請求項10】
前記結晶化したヘキサフェライトを提供するステップは、
0.1℃/h〜10℃/hに進行される1次徐冷ステップ、および
50℃/h〜100℃/hに進行される2次徐冷ステップを含む、請求項9に記載のマルチフェロイック物質の製造方法。
【請求項11】
前記ヘキサフェライトを第1速度で熱処理温度までに加熱するステップ、
前記ヘキサフェライトを前記熱処理温度に維持させるステップ、および
前記熱処理温度に維持された前記ヘキサフェライトを第2速度で冷却させるステップ
をさらに含む、請求項1に記載のマルチフェロイック物質の製造方法。
【請求項12】
前記ヘキサフェライトを加熱するステップにおいて、前記第1速度は10℃/h〜1500℃/hである、請求項11に記載のマルチフェロイック物質の製造方法。
【請求項13】
前記第1速度は実質的に220℃/hである、請求項12に記載のマルチフェロイック物質の製造方法。
【請求項14】
前記ヘキサフェライトを加熱するステップにおいて、前記熱処理温度は800℃〜950℃である、請求項11に記載のマルチフェロイック物質の製造方法。
【請求項15】
前記熱処理温度は実質的に900℃である、請求項14に記載のマルチフェロイック物質の製造方法。
【請求項16】
前記ヘキサフェライトを冷却させるステップにおいて、前記第2速度は10℃/h〜100℃/hである、請求項11に記載のマルチフェロイック物質の製造方法。
【請求項17】
前記第2速度は実質的に50℃/hである、請求項16に記載のマルチフェロイック物質の製造方法。
【請求項18】
前記加熱するステップ、前記維持させるステップ、および前記冷却させるステップは各々酸素雰囲気で行われる、請求項11に記載のマルチフェロイック物質の製造方法。
【請求項19】
前記酸素雰囲気における酸素圧は0.5atm〜500atmである、請求項18に記載のマルチフェロイック物質の製造方法。
【請求項20】
前記酸素圧は実質的に1atmである、請求項19に記載のマルチフェロイック物質の製造方法。
【請求項21】
前記ヘキサフェライトを加熱するステップにおいて、前記ヘキサフェライトはY型であり、A2B2(Fe1−xAlx)12O22(0≦x≦0.8)の化学式を有し、前記A元素はバリウム(Ba)およびストロンチウム(Sr)のうちの1つ以上であり、前記B元素は亜鉛(Zn)、コバルト(Co)およびマグネシウム(Mg)のうちの1つである、請求項11に記載のマルチフェロイック物質の製造方法。
【請求項22】
前記ヘキサフェライトは、(Ba1−ySry)2Zn2(Fe1−xAlx)12O22(0≦y≦1.0、0≦x≦0.8)の化学式を有する、請求項21に記載のマルチフェロイック物質の製造方法。
【請求項23】
前記結晶化したヘキサフェライトを提供するステップ後に得られたヘキサフェライトの比抵抗に対する前記ヘキサフェライトを冷却させるステップ後に得られたヘキサフェライトの比抵抗の比は10〜106である、請求項11に記載のマルチフェロイック物質の製造方法。
【請求項24】
前記ヘキサフェライトを冷却させるステップ後に得られたヘキサフェライトの比抵抗は104Ω・cm〜107Ω・cmである、請求項23に記載のマルチフェロイック物質の製造方法。
【請求項25】
前記ヘキサフェライトを冷却させるステップ後に得られたヘキサフェライトの誘電率変化は、260K〜400K範囲の温度、および0より大きく0.1T以下の範囲の磁場において、0%より大きく20%以下で発生する、請求項11に記載のマルチフェロイック物質の製造方法。
【請求項26】
前記ヘキサフェライトを冷却させるステップ後に得られたヘキサフェライトの誘電分極は、260K〜400K範囲の温度、および0より大きく0.1T以下の範囲の磁場において発生する、請求項11に記載のマルチフェロイック物質の製造方法。
【請求項27】
磁気性鉄イオンが非磁気性イオンで部分的に置換されたヘキサフェライトを含み、前記非磁気性イオンは前記ヘキサフェライトの磁気異方性を変化させるように適用されたマルチフェロイック物質。
【請求項28】
前記非磁気性イオンはアルミニウムイオンである、請求項27に記載のマルチフェロイック物質。
【請求項29】
前記鉄イオンに対する前記非磁気性イオンの置換率は0より大きく80%以下である、請求項28に記載のマルチフェロイック物質。
【請求項30】
前記ヘキサフェライトの誘電分極は、0より大きく10mT以下の範囲の磁場において発生する、請求項27に記載のマルチフェロイック物質。
【請求項31】
前記非磁気性イオンの置換量を増加させることにより、前記ヘキサフェライトの誘電分極を発生させる磁場の大きさが順次0に近づく、請求項27に記載のマルチフェロイック物質。
【請求項32】
前記ヘキサフェライトの誘電率変化は、0より大きく10mT以下の範囲の磁場において、0%より大きく20%範囲内で発生する、請求項27に記載のマルチフェロイック物質。
【請求項33】
前記非磁気性イオンの置換量を増加させることにより、前記ヘキサフェライトの誘電率変化を発生させる磁場の大きさが順次0に近づく、請求項27に記載のマルチフェロイック物質。
【請求項34】
前記ヘキサフェライトはY型であり、前記ヘキサフェライトはA2B2(Fe1−xAlx)12O22(0<x≦0.8)の化学式を有し、前記A元素はバリウム(Ba)およびストロンチウム(Sr)のうちの1つ以上であり、前記B元素は亜鉛(Zn)、コバルト(Co)およびマグネシウム(Mg)のうちの1つである、請求項27に記載のマルチフェロイック物質。
【請求項35】
前記ヘキサフェライトは、(Ba1−ySry)2Zn2(Fe1−xAlx)12O22(0≦y≦1.0、0<x≦0.8)の化学式を有する、請求項34に記載のマルチフェロイック物質。
【請求項36】
前記ヘキサフェライトの比抵抗は104Ω・cm〜107Ω・cmである、請求項27に記載のマルチフェロイック物質。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公表番号】特表2011−521865(P2011−521865A)
【公表日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−503919(P2011−503919)
【出願日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際出願番号】PCT/KR2009/005669
【国際公開番号】WO2010/039012
【国際公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【出願人】(508369906)エスエヌユー アール アンド ディービー ファウンデーション (11)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際出願番号】PCT/KR2009/005669
【国際公開番号】WO2010/039012
【国際公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【出願人】(508369906)エスエヌユー アール アンド ディービー ファウンデーション (11)
【Fターム(参考)】
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