説明

マンガン酸化装置

【課題】より低濃度までマンガンを除去する。
【解決手段】マンガン酸化装置14は、触媒充填層16に酸化剤が添加された被処理水を上向流で流通し、被処理水中のマンガンを酸化除去する。触媒充填層16は、比重及び平均粒径から決定する沈降速度が小さく、マンガン酸化速度が速い触媒を含む触媒充填層の上部層16−1と、比重及び平均粒径から決定する沈降速度が大きく、マンガン酸化速度が遅い触媒を含む下部層16−2と、を含み、複層構造である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マンガン触媒層に酸化剤が添加された被処理水を上向流で流通し、被処理水中のマンガンを酸化する上向流式のマンガン酸化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水道水や用水の水質基準として、マンガン濃度が規定されており、河川水などを浄化する際に、マンガンを酸化して除去するマンガン酸化装置が用いられている。
【0003】
このようなマンガン酸化を目的とした処理方法としては、微生物の代謝を用いる微生物酸化法や、触媒または酸化剤による化学反応を用いる化学酸化法が知られている。微生物を用いる方法では、マンガン酸化細菌の代謝反応によりマンガンを酸化し、生物処理槽の担体にて捕捉することで処理を行う。一方、化学酸化法には大きく分けて二通りの方法がある。1つは過マンガン酸ナトリウム等の試薬を用いて水中に溶けているマンガン(以下、溶存マンガン)を酸化・不溶化して処理する方法であり、もう1つはマンガン砂や酸化マンガン触媒に被処理水を接触させることで溶存マンガンを不溶化し、除去する方法である。
【0004】
後者の触媒を用いる方法は、広く普及しており、これについては様々なシステムが提案されている。例えば、被処理水中に二酸化マンガン粒子を添加して接触酸化し、マンガンを除去する方法(特許文献1)や、比重が大きい酸化マンガン触媒を用いることで1000m/日以上の高線速の上向流通水で処理を行う方法(特許文献2)がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−152163
【特許文献2】特開2003−266085
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、現在、水道水や用水供給を行う各事業体では、水質基準に対し独自の管理目標値を設けて供給水質の管理を行っている。この管理目標値は、取水原水の水質によっても異なるが、水質基準の十分の一程度に設定されることが多く、マンガンにおいては、水道水質基準が50μg/L以下なのに対し、管理目標値は5μg/L以下となっている場合が多い。従って、処理水中のマンガン濃度が安定して5μg/L以下とできるマンガン処理装置が必要となる。
【0007】
また、取水原水が自然水であると、季節や気候によって生じる、水温、マンガン濃度の変動がマンガンの処理に影響して、処理水マンガン濃度が管理目標値を超過してしまうおそれがある。変動する原水水質に対して安定した処理を行うには、変動する原水中のマンガン濃度に対応し、μg/Lレベルまで除去が可能な機能を有したマンガン酸化装置が必要となる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、マンガン触媒層に酸化剤が添加された被処理水を上向流で流通し、被処理水中のマンガンを酸化除去する上向流式のマンガン酸化装置において、前記マンガン触媒層は、比重及び平均粒径から決定する沈降速度が小さく、マンガン酸化速度が速い触媒を含む触媒充填層の上部層と、比重及び平均粒径から決定する沈降速度が大きく、マンガン酸化速度が遅い触媒を含む下部層と、を含み、複層構造であることを特徴とする。
【0009】
また、前記上部層と、下部層の体積比率が1:5〜1:1である、ことが好適である。
【0010】
また、前記マンガン触媒層を、過マンガン酸塩水溶液によって上向流再生する、ことが好適である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、2層のマンガン触媒によって、変動する原水中のマンガン濃度に対応し、マンガンをμg/Lレベルまで除去が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施形態に係るマンガン酸化装置の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、図面に基づいて説明する。
【0014】
実施形態に係るマンガン酸化装置の構成例を図1に示す。このマンガン酸化装置は、被処理水中の溶存マンガンを酸化して、マンガン触媒からなる充填材に付着させて除去する。
【0015】
河川水などの被処理水は、取水手段によって取水されて原水槽10に貯留される。原水槽10内の被処理水は、原水ポンプ12によりバルブB1を介しマンガン酸化装置14に供給される。
【0016】
ここで、原水ポンプ12からマンガン酸化装置14への配管(原水ライン)には、酸化剤貯槽24からの酸化剤が酸化剤ポンプ26によって酸化剤ラインを介し添加されるようになっている。ここで、酸化剤としては次亜塩素酸ナトリウムの使用が望ましいが、他の酸化剤でもよく、例えば塩素ガスを被処理水等に溶解させてもよい。
【0017】
このようにして、マンガン酸化装置14には、被処理水の酸化剤が添加されたものが供給される。この例において、マンガン酸化装置14は、中空の塔で形成され、内部に触媒充填層16が配置されている。そして、被処理水は、マンガン酸化装置14の下部に供給され、触媒充填層16内を上向流で通過し、処理水が上部から排出される。
【0018】
ここで、触媒充填層16には、マンガン触媒が充填されており、このマンガン触媒によるマンガン除去のメカニズムは、一般に下記のように考えられている。
Mn2++NaClO+MnO・HO+2H
→2MnO・HO+NaCl+2H
【0019】
このように、被処理水中に溶存しているマンガンMn2+が、次亜塩素酸ナトリウムが存在する状態で、マンガン触媒MnO・HOに接触することで、溶存マンガンMnが酸化されてマンガン触媒に付着して除去される。
【0020】
マンガン酸化装置14の内部に配置される触媒充填層16は、特性の異なる複数のマンガン触媒からなる、下部層16−2と、上部層16−1の2層の積層構造になっている。
【0021】
この触媒充填層16の上部層16−1には、比重及び平均粒径から決定される沈降速度が小さくマンガン酸化速度が速い触媒が充填される。ここで、「沈降速度が小さくマンガン酸化速度が速い」とは、下部層16−2に充填される触媒と比較した場合、「相対的に」という意味である。このような上部層16−1の触媒の一例としては、真比重が2〜3g/cm、平均粒径0.3〜0.4mmのマンガン触媒を挙げることができる。
【0022】
触媒充填層16の下部層16−2には、比重及び平均粒径から決定する沈降速度が大きくマンガン酸化速度が遅い触媒が充填される。ここで、「沈降速度が大きくマンガン酸化速度が遅い」とは、上部層16−1に充填される触媒と比較した場合、「相対的に」という意味である。一例としては、真比重が3〜5g/cm3、平均粒径0.4〜0.5mmのマンガン触媒を挙げることができる。
【0023】
上部層16−1、下部層16−2のマンガン触媒の基材としては、特に制限はないが、被処理水へ成分が溶出しにくい基材が適当であり、具体的には二酸化マンガン単体またはマンガン酸化物でコーティングした砂やセラミックが望ましい。
【0024】
マンガン酸化装置14内の下部層16−2、上部層16−1からなる触媒充填層16を上向流で通過し、マンガン触媒によってマンガンが除去された処理水は、マンガン酸化装置14の上部から処理水ラインのバルブB2を介し処理水槽18に導入され、この処理水槽18から処理水が配給または後段の処理設備へ供給されていく。
【0025】
ここで、触媒充填層16に充填されるマンガン触媒は、使用により劣化する。そこで、所定の頻度で酸化剤による再生処理が必要になる。マンガン触媒の再生は、再生剤貯槽20に貯留してある再生剤を再生ポンプ22により再生剤ラインのバルブB3を介しマンガン酸化装置14に供給することで行う。すなわち、原水ポンプ12、酸化剤ポンプ26を停止し、原水ラインのバルブB1を閉め、再生ポンプ22を運転するとともに、再生剤ラインのバルブB3を開けることで、再生剤をマンガン酸化装置14内に上向流で流通する。また、マンガン酸化装置14の上部の処理水ラインのバルブB2を閉じ、マンガン酸化装置14から排出される再生剤は、バルブB4を開いて再生剤循環ラインを介し、再生剤貯槽20に戻す。これによって再生剤がマンガン酸化装置14内に循環され、マンガン酸化装置14内のマンガン触媒が酸化再生される。
【0026】
すなわち、マンガン触媒MnO・HOは、使用の継続によって、MnO・MnO・HOに還元される。この場合に、過マンガン酸カリウムによって、次のように再生する。
3MnO・MnO・HO+2KMnO+6H
→8MnO・HO+2KOH
【0027】
このようにして触媒充填層16に充填されているマンガン触媒は、マンガン酸化装置14に再生剤を所定の時間循環通水することによって再生される。また、再生に使用された再生剤は、所定の時間が経過後、マンガン酸化装置14の下部に接続された配管に設けられたバルブB5を開くことによって排水される。
【0028】
なお、再生剤としては過マンガン酸カリウムの使用が望ましいが、マンガン触媒を酸化させるためなら他の再生剤でもよく、例えば過マンガン酸ナトリウムを用いることも可能である。
【0029】
また、処理水ラインからは、サンプリングラインが分岐されており、ここに設けられたバルブB6を開くことによって、処理水をサンプリングできるようになっている。なお、処理水槽18内の処理水によって、マンガン酸化装置14内の触媒充填層16を洗浄できるようにしてもよい。この場合も、洗浄は上向流で行い、洗浄排水は外部に排出してもよいし、原水槽10に返送してもよい。再生剤による再生後に洗浄を行うことで、処理水質を維持することができる。
【0030】
このように本実施形態に係るマンガン酸化装置14では、マンガン触媒として特性の異なる2種類が採用されており、それぞれ上部層16−1、下部層16−2として、マンガン酸化装置14内に充填される。そして、上部層16−1のマンガン触媒の比重が、下部層16−2のマンガン触媒に比べて小さいので、上向流の通水、再生などにおいて、層構成を維持することができる。そして、上部層16−1のマンガン触媒としてマンガン酸化速度が下部層16−2のマンガン触媒に比べ大きいものを採用することで、マンガン濃度が変動する原水に対して、マンガン濃度が5μg/L未満の処理水を安定して供給することが可能となる。
【実施例】
【0031】
<実施例1:最適充填比率>
実河川水を用いて、実験を行った。
【0032】
まず、前実験として、上部層16−1に充填する、比重及び平均粒径から決定する沈降速度が小さくマンガン酸化速度が速い触媒(以下、マンガン触媒1)と、下部層16−2に充填する、比重及び平均粒径から決定する沈降速度が大きくマンガン酸化速度が遅い触媒(以下、マンガン触媒2)の最適充填比率を確認するため、充填比率を変化させて上向流にて処理実験を行った。なお、充填比率は、体積比率である。
【0033】
本実施例に用いたマンガン触媒の物性を表1、実験結果を表2に示す。なお、表1中のマンガン酸化速度とは、マンガン触媒1L当たりのマンガン酸化速度を表し、実河川水の通水した結果から、以下の式を用いて計算した。
【0034】
マンガン酸化速度[μg・Mn/L・触媒・sec]
={(供給水マンガン濃度−処理水マンガン濃度)[μg・Mn/L]×通水流量[L/min]}/{マンガン触媒量[L]・触媒×60[sec/min]}
【0035】
また、実験条件は、次の通りである。
<実験条件>
・平均供給水マンガン濃度:30μg/L
・通水流量:18L/min
・充填触媒層高:600mm
・通水速度:1500m/日
・空間速度:100/h
・次亜塩素酸ナトリウム添加量(有効塩素濃度):0.5mg−Cl/L
【0036】
【表1】

【0037】
【表2】

【0038】
表2の結果のように、充填比率が0:1〜1:0の範囲で触媒充填比率を変化させたところ、各充填比率に対する処理水マンガン濃度が5μg/L未満を維持する通水日数は、充填比率1:1で92日、1:3で90日、1:5で75日、1:8で25日となった。なお、充填比率が0:1の場合、通水初期でも5μg/Lのマンガンが検出された。
【0039】
表2に示したように、充填比率1:1からマンガン触媒1の充填量を減らしていくと、処理水マンガン濃度5μg/L未満を維持する通水日数は減少していく傾向となった。この原因としては、マンガン触媒2を抜けた溶存マンガンに対し、マンガン触媒1の量が相対的に少なくなっていくためマンガン触媒1への負荷が大きくなり、処理水マンガン濃度が5μg/L未満を維持する通水日数が短くなったと考えられる。
【0040】
一方、比較系としてマンガン触媒1のみによる処理も行ったが、マンガン触媒1は比重が小さく上向流通水時には展開率が大きくなってしまうため、実装置では高さを十分にとる必要がある。マンガン濃度が5μg/L未満の水を同じ期間供給しようとした場合、複層充填と比較して、触媒量増加やそれに伴う装置の大型化によりイニシャルコストが増加すると考えられる。
【0041】
本実施例では、マンガン触媒1とマンガン触媒2の充填比率が1:5〜1:1の範囲で良好な処理が行えることを確認した。
【0042】
<実施例2:触媒再生実験>
実施例1より、マンガン触媒1:マンガン触媒2の充填比率が1:1の複層充填層とすることで、処理水マンガン濃度が5μg/L未満を約3ヶ月間維持できることを確認した。更に、通年して処理水マンガン濃度が5μg/L未満を維持できる運転条件を確立するため、過マンガン酸カリウム水溶液を用いた触媒再生を検討した。また、比較例としてマンガン触媒1のみ(充填比率1:0)の再生も検討した。実験結果を表3に示す。
【0043】
【表3】

【0044】
過マンガン酸カリウム水溶液による触媒再生を行ったところ、充填比率1:1の場合、再生処理後の処理水マンガン濃度は1μg/L未満となった。一方、マンガン触媒1のみを充填・再生処理した場合、再生処理後の処理水マンガン濃度は3μg/Lとなった。
【0045】
マンガン触媒1とマンガン触媒2を1:1で充填した場合、上向流通水による剪断力によって剥離したマンガン触媒2の微粉末がマンガン触媒1に付着・吸着してマンガン触媒1の付着マンガン量と比表面積を増加させる。そのため系内の付着マンガン量が多くなり、再生後の処理性能は高くなったと考えられる。
【0046】
これに対して、マンガン触媒1のみ充填した場合は被処理水中のマンガンとの反応により表層に付着する二酸化マンガン量は増加するが、一部の二酸化マンガンは上向流通水による剪断力によって剥離して微粉末となり、系外に流出してしまう。被処理水中のマンガンと触媒との反応により表面に形成される二酸化マンガン量と磨耗による消失量が、一定時間通水後に平衡状態に達する。マンガン触媒1とマンガン触媒2を1:1で充填した場合と比較すると、この平衡状態における系内の付着マンガン量は少なくなるため、再生処理を行っても処理性能は低くなり、処理水マンガン濃度に差が出たものと考えられる。
【0047】
以上の触媒再生工程を設けることで、通年して処理水マンガン濃度は5μg/L未満を維持できると考えられる。例えば、処理水マンガン濃度に5μg/L未満の設定値を設け、その値を超えた時に触媒再生を行う等の方法が考えられる。
【符号の説明】
【0048】
10 原水槽、12 原水ポンプ、14 マンガン酸化装置、16 触媒充填層、16−2 下部層、16−1 上部層、18 処理水槽、26 酸化剤ポンプ、20 再生剤貯槽、22 再生ポンプ、24 酸化剤貯槽、26 酸化剤ポンプ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マンガン触媒層に酸化剤が添加された被処理水を上向流で流通し、被処理水中のマンガンを酸化する上向流式のマンガン酸化装置において、
前記マンガン触媒層は、
比重及び平均粒径から決定する沈降速度が小さく、マンガン酸化速度が速い触媒を含む触媒充填層の上部層と、
比重及び平均粒径から決定する沈降速度が大きく、マンガン酸化速度が遅い触媒を含む下部層と、
を含み、複層構造であることを特徴とするマンガン酸化装置。
【請求項2】
請求項1に記載のマンガン酸化装置であって、
前記上部層と、下部層の体積比率が1:5〜1:1である、ことを特徴とするマンガン酸化装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のマンガン酸化装置であって、
前記マンガン触媒層を、過マンガン酸塩水溶液によって上向流再生する、ことを特徴とするマンガン酸化装置。

【図1】
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【公開番号】特開2013−56303(P2013−56303A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−196397(P2011−196397)
【出願日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【出願人】(000004400)オルガノ株式会社 (606)
【Fターム(参考)】