説明

マンコンベアの踏板

【課題】踏板のクリート頂部の踏面の塗料を研磨する際に、少なくともアルミダイカストの金属素地(鋳肌)以上に表面を粗い凹凸を有する粗面としたマンコンベアの踏板を得る。
【解決手段】付着性・耐候性などに優れた電着塗装等の塗装が施されたアルミダイカストなどの金属から構成され、上面にクリート6が設けられたものにおいて、塗装剥がれによる意匠性低下を防ぐため、クリート頂部の踏面7の塗料を研磨する際に、少なくともアルミダイカストの鋳肌以上に素地表面を荒らすようにしたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、エスカレータ、動く歩道等のマンコンベアの踏板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のマンコンベアの踏板クリートは、通常の場合、アルミダイカストで鋳造成形されたものであり、その表面には付着性、耐摩耗性、防錆性能等に配慮した塗料が塗装されている。この場合、踏面の塗料は通常処理による塗装では性能に限界があり、剥がれ易く、常に乗客により踏まれることにより、意匠性の低下が著しい。したがって、通常の場合、踏面の塗料については予め削り取って磨いて出荷される。この時、踏面は目の細かいバフ等の研磨材で磨かれ、通常滑らかな面となっており、踏面の表面粗度が低くなっている。 平らな板に対してクリート(凹凸形状)を設置すること自体が踏板上のスリップ防止の対策と考えられてきたことから、踏面の表面粗度により滑り易さをコントロールするまでの考え方はこれまで存在しなかった。踏面の摩擦係数が低いと、例えば雨天時に踏板あるいは乗客の靴が水で濡れた際は、特に摩擦係数が低下し、乗客の靴がスリップする恐れがあるという問題があった。
そして、このような問題に対しては、これまでに以下のような提案がなされている。
例えば、動く歩道の踏板では、スリップ防止のための溝を設けているものが多く見受けられる。また、例えば、ゴムやセラミック等の摩擦係数の高い材料を金属クリート表面に貼り付けるものがある(例えば、特許文献1、2参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平10−101284号公報
【特許文献2】特開昭63−202585号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の動く歩道の踏板のようにスリップ防止のための溝を設けているものでは、クリートの強度が低下するという欠点に加えて、鋳造後の加工で対応する場合は加工時間・コストをかなり要するといった問題があり、また、鋳造の金型で対応する場合は型の強度上、溝をあまり小さくできず、溝を大きくすると乗客が溝で負傷する懸念や櫛部で踏板が入り込む際に挟まれ易くなるなどの問題があった。更に、鋳造の湯流れに影響して踏板全体として鋳造が難しい方向となる他、金型の寿命が短縮するなどの課題もあった。
また、ゴムやセラミック等の摩擦係数の高い材料を金属クリート表面に貼り付けるものでは、いずれも施工性に難があり、踏面から突出している場合には、乗客の躓きの恐れも発生するので、実用化されていない。また、ケイ砂などを混ぜて摩擦係数を高めた塗料を踏面に塗る案も出ているが、やはり付着性には限界があり使用するにつれて剥がれて意匠性が低下するという難点がある。
【0005】
この発明は上記のような課題を解決するためになされたもので、踏板のクリート頂部の踏面の塗料を研磨する際に、少なくともアルミダイカストの金属素地(鋳肌)以上に表面を粗い凹凸を有する粗面としたマンコンベアの踏板を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係るマンコンベアの踏板は、付着性・耐候性などに優れた電着塗装等の塗装が施されたアルミダイカストなどの金属から構成され、上面にクリートが設けられたものにおいて、塗装剥がれによる意匠性低下を防ぐため、クリート頂部の踏面の塗料を研磨する際に、少なくともアルミダイカストの鋳肌以上に素地表面を荒らすようにしたものである。
【発明の効果】
【0007】
この発明によれば、スリップ防止性能が上がるので、乗客の転倒を防ぐことができる。また、踏板表面に出現するモアレ縞(規則正しい模様を重ね合わせとき、画素が相互に干渉することによりできる周期的な縞状のパターン)を、表面粗度を上げることにより防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
実施の形態1.
図1はエスカレータ等のマンコンベアのステップ外観を示す斜視図、図2はエスカレータ等のマンコンベアのステップを示す断面図、図3はこの発明の実施の形態1におけるエスカレータ等のマンコンベアの踏板を拡大して示す斜視図、図4はこの発明の実施の形態1におけるエスカレータ等のマンコンベアの踏板を拡大して示す断面図である。
【0009】
図において、エスカレータ等のマンコンベアのステップ1は、踏板2、ライザー3、及びステップローラ4を取り付ける左右一対のブラケット5より構成される。通常の場合、ステップローラ4は樹脂製であるが、踏板2、ライザー3、ブラケット5は、アルミダイカストなどの金属から構成されている。また、ステップ1は、通常、滑り止め効果やステップがマンコンベアの裏側へ引退する部位での挟まれ防止を狙って、クリート6が設けられている。このクリート6には、意匠性の付与あるいは防錆を目的として、また耐久性を確保するため、通常は全面に付着性・耐候性などにも優れた電着塗装等の塗装が施されているが、塗装剥がれによる意匠性低下を防ぐため、クリート6頂部の塗装は通常マンコンベア稼動開始前に予め剥がし取り、クリート6頂部はアルミダイカスト素地が露出しているのが前提となっている。
この発明によるマンコンベアの踏板2は、塗装剥がれによる意匠性低下を防ぐため、クリート6頂部の踏面7の塗料を研磨する際に、少なくともアルミダイカストの鋳肌以上に表面を荒らすようにしたものである。この荒らす程度の一般的な目安としては、靴の滑りが起こりずらいと考えられるアルミダイキャスト製踏板2と靴間の摩擦係数が0.4程度を確保するレベルである。そして、少なくともアルミダイカストの鋳肌以上に表面を荒らすと、金属素地よりも粗い凹凸を有する粗面となる。図4に示すように、踏面7が研磨面であり、少なくともアルミダイカストの鋳肌以上に表面を荒らされ、金属素地よりも粗い凹凸を有する粗面とする。ところで、アルミダイキャスト製踏板2と靴間の摩擦係数が0.4程度を実現するためのアルミダイカスト製踏板面の表面粗さは、例えば、表面粗さ200ミクロン〜400ミクロンの範囲である。その他の面、すなわちクリート6の側面及び溝底面は、例えば電着塗装が実施されているものである。
なお、エスカレータのライザー3については、常に踏み付けられる踏板2のクリート6の踏面7と異なり、耐摩耗性は要求されず、またスリップ性についても乗客が乗る部位ではなく、逆にエスカレータのステップ1間に挟み込まれることを防ぐために低い摩擦係数が要求されることから、塗料を剥がす必要はなく、表面の粗度を上げる必要もない。
【0010】
通常のバフ仕上げによる研磨では、特に水で濡れた際に底の材質の固い靴で踏板2上に乗った場合、踏面7の摩擦係数は最低で0.2以下程度まで下がり、乗客が転倒する恐れがあるが、この発明のような構成とすることにより、スリップ防止性能が上がるので、乗客の転倒を防ぐことができる。また、長年稼動するにつれて踏面7が乗客の靴によって磨かれ、再度摩擦係数が低下することも考えられるので、この場合は定期的に表面を粗くする作業を据付け現地で、または踏板2を工場に回収して実施することにより、効果を継続して得ることができる。また、踏板2表面に出現するモアレ縞(規則正しい模様を重ね合わせとき、画素が相互に干渉することによりできる周期的な縞状のパターン)を、表面粗度を上げることにより防止することができる。なお、モアレ縞は人体に視覚的な不快感を与え、乗客が目眩を起こすといったケースが稀に発生している。したがって、このようなモアレ縞が踏板2表面に出現しないことはマンコンベアの踏板にとって大変好ましいことである。
【0011】
アルミダイカスト製踏板の表面に塗装する場合は、クリート踏面に耐摩耗塗装(又はコーティング等)をしても充分な付着性を獲得するためには前処理に非常に手間がかかるものである。しかるに、この発明によるマンコンベアの踏板によれば、踏面の塗装は通常磨いて踏板を使用するので、踏面を荒らす研磨を実施すればスリップ防止効果もあって極めて合理的に実施することが可能となる。
【0012】
実施の形態2.
図5はこの発明の実施の形態2におけるエスカレータ等のマンコンベアの踏板を拡大して示す斜視図である。なお、実施の形態1と同一又は相当部分には同一符号を付して説明を省略する。
【0013】
この実施の形態2においては、踏板2のクリート6頂部の踏面7の塗料を研磨する際に、踏板2の幅方向と平行、すなわち、図1のマンコンベアの進行方向αと直角をなす方向にヘアライン仕上げ7aを実施して素地を荒らしたものである。踏板2の使用につれて素材の摩耗が進んだ場合は、例えば工場に回収してヘアライン仕上げによる再研磨を簡単に実施することができる。なお、ヘアライン仕上げとは、表面に髪の毛のような細いラインが入る金属の仕上げ方法で、金属表面に一定方向に連続的な髪の毛のような細い研磨の条痕を残した仕上げであり、光沢をなくす、つや消し仕上げである。
【0014】
このような構成とすることにより、実施の形態1による効果に加えて、マンコンベアの乗客の踏板上でのスリップ防止に対して極めて容易に所望の大きな効果が期待できるという利点がある。また、溝の追加加工と比較して安価にスリップ防止効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】エスカレータ等のマンコンベアのステップ外観を示す斜視図である。
【図2】エスカレータ等のマンコンベアのステップを示す断面図である。
【図3】この発明の実施の形態1におけるエスカレータ等のマンコンベアの踏板を拡大して示す斜視図である。
【図4】この発明の実施の形態1におけるエスカレータ等のマンコンベアの踏板を拡大して示す断面図である。
【図5】この発明の実施の形態2におけるエスカレータ等のマンコンベアの踏板を拡大して示す斜視図である。
【符号の説明】
【0016】
1 マンコンベアのステップ
2 踏板
3 ライザー
4 ステップローラ
5 ブラケット
6 クリート
7 踏面
7a ヘアライン仕上げ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
付着性・耐候性などに優れた電着塗装等の塗装が施されたアルミダイカストなどの金属から構成され、上面にクリートが設けられたマンコンベアの踏板において、
塗装剥がれによる意匠性低下を防ぐため、前記クリート頂部の踏面の塗料を研磨する際に、少なくともアルミダイカストの鋳肌以上に素地表面を荒らすようにしたことを特徴とするマンコンベアの踏板。
【請求項2】
クリート頂部の踏面の素地表面を荒らす程度は、靴の滑りが起こりずらいと考えられるアルミダイキャスト製踏板と靴間の摩擦係数が0.4程度を確保できるレベルであることを特徴とする請求項1記載のマンコンベアの踏板。
【請求項3】
アルミダイキャスト製踏板と靴間の摩擦係数が0.4程度を実現するためのアルミダイカスト製踏板面の表面粗さは、表面粗さ200ミクロン〜400ミクロンの範囲であることを特徴とする請求項2記載のマンコンベアの踏板。
【請求項4】
クリート頂部の踏面の素地表面を荒らす程度は、モアレ縞を防止できるレベルであることを特徴とする請求項1記載のマンコンベアの踏板。
【請求項5】
踏板のクリート頂部の踏面の塗料を研磨する際に、踏板の幅方向と平行に素地表面を荒らすようにしたことを特徴とする請求項1記載のマンコンベアの踏板。
【請求項6】
マンコンベアの進行方向と直角をなす方向にヘアライン仕上げを実施して素地表面を荒らしたことを特徴とする請求項5記載のマンコンベアの踏板。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2007−210714(P2007−210714A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−30021(P2006−30021)
【出願日】平成18年2月7日(2006.2.7)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】