説明

マンデル酸類の精製方法

【課題】有機溶媒を使用せず、マンデル酸類の二量体の含有量が少ない、高純度なマンデル酸類の結晶を得るための精製方法を提供する。
【解決手段】マンデル酸類の二量体及びマンデル酸類を含む結晶と有機溶媒を含まない水系溶媒を接触混合(混合した後の混合液は、マンデル酸類が水に完全に溶解していても良いし、完全に溶解していない懸濁混合液であっても良い。)させ、温度0〜60℃かつpH7.0以下の酸性下で固液分離するマンデル酸類の精製方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬中間体、液晶材料や光学分割剤として有用なマンデル酸類を高純度で得るための精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、マンデル酸類は、マンデロニトリル類の加水分解等により粗マンデル酸類とし、この粗マンデル酸類を有機溶媒により抽出した後に濃縮乾固、有機溶媒/水混合溶媒系又は混合有機溶媒系から晶析することにより精製される(特許文献1〜3)。また、マンデル酸類の化学純度を低下させる不純物であるマンデル酸類の二量体を低減させる方法として、水非混和性かつマンデル酸類が難溶な有機溶媒存在下での晶析による精製方法も知られている(特許文献2)。
しかしながら、有機溶媒を使用するマンデル酸類の精製方法は、医農薬原料、液晶材料、光学分割剤等の分野へ応用可能な高純度なマンデル酸類が製造できる一方、引火爆発等の危険性や環境への負荷が大きく、必ずしも工業的に好適な方法であるとはいえない。よって、水系溶媒を用いた工業的規模での精製方法が望まれていた。水系溶媒を使用した精製方法は、マンデル酸類を水系溶媒から再結晶させる方法が知られている(特許文献4)。しかし、精製条件の具体的な記載がなく、マンデル酸類の二量体を低減させるには充分な方法ではなかった。
【特許文献1】特開2001−342165号公報
【特許文献2】特開2003−226666号公報
【特許文献3】特開2002−142792号公報
【特許文献4】特開平9−322797号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、有機溶媒を使用せず、マンデル酸類の二量体の含有量が少ない、高純度なマンデル酸類の結晶を得るための工業的に好適な精製方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、マンデル酸類の二量体及びマンデル酸類を含む結晶と有機溶媒を含まない水系溶媒を接触させ、温度0〜60℃かつpH7.0以下の酸性下で固液分離するマンデル酸類の精製方法、である。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、有機溶媒を使用せずにマンデル酸類の二量体の含有量が減少され、高純度なマンデル酸類の結晶が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明の精製に供されるマンデル酸類を製造するにあたり、その前駆体であるマンデロニトリル類は、例えば、アルデヒド類にシアン化合物を付加して製造することができる。アルデヒド類としては、次式(I)で示される化合物が挙げられる。
【0007】
【化1】

【0008】
式(I)のAr基としては、例えば、フェニル、ベンジル、ナフチル、ピリジル、フリル等が挙げられる。置換されたAr基の場合、置換基としては、例えば、(保護されていても良い)ヒドロキシ、C〜Cアルキル、C〜Cアルコキシ、アルキルチオ、ハロゲン、置換されたフェニル、フェノキシ、アミノまたはニトロが挙げられる。好ましくは、Ar基はアリール基、特に好ましくはフェニル基である。それらAr基は無置換、あるいはC〜Cアルキル、C〜Cアルコキシ、(保護されていても良い)ヒドロキシ、アセトキシ、Cl、Br、フェニル、フェノキシまたはフルオロフェノキシによって置換されていてもよい。
【0009】
具体的には、ベンズアルデヒド、m−フェノキシベンズアルデヒド、p−アセトキシベンズアルデヒド、p−メチルベンズアルデヒド、o−クロロベンズアルデヒド、m−クロロベンズアルデヒド、p−クロロベンズアルデヒド、m−ニトロベンズアルデヒド、3,4−メチレンジオキシベンズアルデヒド、2,3−メチレンジオキシベンズアルデヒド、フルフラール、ピリジン−2−カルバルデヒド等の芳香族アルデヒドが挙げられる。好ましくは、ベンズアルデヒド、m−フェノキシベンズアルデヒド、p−メチルベンズアルデヒド、o−クロロベンズアルデヒド、m−クロロベンズアルデヒド、p−クロロベンズアルデヒド、m−ニトロベンズアルデヒド、3,4−メチレンジオキシベンズアルデヒド、2,3−メチレンジオキシベンズアルデヒドであり、特に好ましくは、ベンズアルデヒド、o−クロロベンズアルデヒド、m−クロロベンズアルデヒド、p−クロロベンズアルデヒドが挙げられる。
これらアルデヒド基に付加させるシアン化合物としては、好ましくは、青酸又は青酸を発生し得るシアン化合物が適当である。シアン化合物としては、例えば、青酸、KCN、NaCN、アセトンシアノヒドリン((CH3)2C(OH)CN)が挙げられる。
【0010】
マンデロニトリル類の合成は、化学的触媒又は生物学的触媒の存在下で立体選択的な付加反応で合成される。化学的触媒としては、環状ジペプチド等が挙げられる。生物学的触媒としては、生物体由来の(S)−ヒドロキシニトリルリアーゼ、(R)−ヒドロキシニトリルリアーゼ等を含む粗酵素、精製酵素、固定化酵素が挙げられる。これらの酵素は、該酵素をコードする遺伝子を組み込んだ遺伝子組換え微生物によって生産されたものであっても良い。
(S)−ヒドロキシニトリルリアーゼには、例えばトウダイグサ科に属する植物であるキャッサバ(Manihot esculenta)由来のもの(EC 4.1.2.37)、パラゴムノキ(Hevea brasiliensis)由来のもの(EC 4.1.2.39)、あるいはイネ科に属する植物であるモロコシ(Sorghum bicolor)由来のもの(EC 4.1.2.11)等が挙げられる。
【0011】
上記式(I)で示されるアルデヒドを原料として用い、青酸を付加させた場合、次式(II)で示されるマンデロニトリル類が得られる。
【0012】
【化2】

【0013】
上記式(II)で示されるマンデロニトリルとしては、例えば、マンデロニトリル(2−ヒドロキシ−2−フェニルアセトニトリル)、3−フェノキシマンデロニトリル(2−ヒドロキシ−2−(3−フェノキシフェニル)アセトニトリル)、4−アセトキシマンデロニトリル(2−ヒドロキシ−2−(3−アセトキシフェニル)アセトニトリル)、4−メチルマンデロニトリル(2−ヒドロキシ−2−(p−トリル)アセトニトリル)、2−クロロマンデロニトリル(2−(2−クロロフェニル)−2−ヒドロキシアセトニトリル)、3−クロロマンデロニトリル(2−(3−クロロフェニル)−2−ヒドロキシアセトニトリル)、4−クロロマンデロニトリル(2−(4−クロロフェニル)−2−ヒドロキシアセトニトリル)、3−ニトロマンデロニトリル(2−ヒドロキシ−2−(3−ニトロフェニル)アセトニトリル)、3,4−メチレンジオキシマンデロニトリル(2−ヒドロキシ−2−(3,4−メチレンジオキシフェニル)アセトニトリル)、2,3−メチレンジオキシマンデロニトリル(2−ヒドロキシ−2−(2,3−メチレンジオキシフェニル)アセトニトリル)、2−(2−フリル)−2−ヒドロキシアセトニトリル、2−(2−ピリジル)−2−ヒドロキシアセトニトリル等の2−アリール−2−ヒドロキシアセトニトリル等が挙げられる。好ましくは、マンデロニトリル(2−ヒドロキシ−2−フェニルアセトニトリル)、3−フェノキシマンデロニトリル(2−ヒドロキシ−2−(3−フェノキシフェニル)アセトニトリル)、4−メチルマンデロニトリル(2−ヒドロキシ−2−(p−トリル)アセトニトリル)、2−クロロマンデロニトリル(2−(2−クロロフェニル)−2−ヒドロキシアセトニトリル)、3−クロロマンデロニトリル(2−(3−クロロフェニル)−2−ヒドロキシアセトニトリル)、4−クロロマンデロニトリル(2−(4−クロロフェニル)−2−ヒドロキシアセトニトリル)、3−ニトロマンデロニトリル(2−ヒドロキシ−2−(3−ニトロフェニル)アセトニトリル)、3,4−メチレンジオキシマンデロニトリル(2−ヒドロキシ−2−(3,4−メチレンジオキシフェニル)アセトニトリル)、2,3−メチレンジオキシマンデロニトリル(2−ヒドロキシ−2−(2,3−メチレンジオキシフェニル)アセトニトリル)であり、特に好ましくは、マンデロニトリル(2−ヒドロキシ−2−フェニルアセトニトリル)、2−クロロマンデロニトリル(2−(2−クロロフェニル)−2−ヒドロキシアセトニトリル)、3−クロロマンデロニトリル(2−(3−クロロフェニル)−2−ヒドロキシアセトニトリル)、4−クロロマンデロニトリル(2−(4−クロロフェニル)−2−ヒドロキシアセトニトリル)が挙げられる。
【0014】
上記方法で得られたマンデロニトリル類を加水分解することによりマンデル酸類を製造する。加水分解により生成するマンデル酸類は、次式(III)で示される化合物である。
【0015】
【化3】

【0016】
加水分解により生成したマンデル酸類には、マンデル酸類二分子からなる各ヒドロキシル基とカルボキシル基の少なくとも一組が分子間でエステル結合を形成した二量体が含まれる。
本発明は、このような加水分解により生成したマンデル酸類に含まれるマンデル酸類の二量体を減少させるために、加水分解により生成した二量体を含むマンデル酸類の結晶を有機溶媒を含まない水系溶媒と接触させる。ここで、水系溶媒とは、水又は、鉱酸及び/又は鉱酸塩を含む水を意味する。
接触させるとは、水系溶媒と混合することをいう。混合した後の混合液は、マンデル酸類が水に完全に溶解していても良いし、完全に溶解していない懸濁混合液であっても良い。
完全に溶解した溶液(以下、均一溶液)の場合、その溶液として存在する時間(以下、均一保持時間)が短いことが二量体の低減効果が高い点で好ましい。よって、均一保持時間は、24時間以内とすることが好ましく、15時間以内とすることがより好ましい。また、均一水溶液の温度は、その溶液の沸点以下でかつ、マンデル酸類の結晶が析出しない温度以上であれば良く、50〜80℃とすることが二量体の低減効果が高い点で好ましく、50〜65℃とすることがより好ましい。上記均一水溶液のpHは、pH1.5〜14とすることが二量体の低減効果が高い点で好ましく、pH1.8〜14とすることが特に好ましい。pHを調整する必要がある場合は、通常、酸または塩基で調整する。酸としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、ホウ酸、リン酸、過塩素酸、クエン酸、酢酸、トルエンスルホン酸などが挙げられる。また、塩基としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、トリエチルアミン、アンモニア、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム等が挙げられる。
懸濁混合液として存在する場合は、結晶が析出している状態を維持できれば良いが、下記の固液分離の条件に準じることが好ましい。
【0017】
次に上記均一溶液又は懸濁混合液からマンデル酸類の結晶を採取する。懸濁溶液の場合は、その溶液をそのまま、又は必要により冷却して固液分離を行う。
固液分離の方法としては、例えば、加圧ろ過、自然ろ過、加熱ろ過や遠心分離等による方法が挙げられる。
固液分離は、不活性ガス雰囲気下、又は大気中で行って良いが、着色を防止する点から不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましく、窒素雰囲気下が特に好ましい。また常圧下、加圧下又は減圧下、いずれの条件でも良い。
固液分離の温度は、0〜60℃とする。この範囲内とすることにより、マンデル酸類結晶の収率が高くなる。固液分離の温度は、15〜40℃とすることが好ましく、20〜30℃とすることが特に好ましい。
次に、均一溶液を用いる場合は、マンデル酸類の飽和溶液となる温度以下まで冷却した後、析出した結晶を上記の固液分離に供する。均一溶液を冷却晶析する場合は、冷却速度を30℃/時間以下とすることが、マンデル酸類の二量体が過度に析出することが防げる点から好ましい。冷却速度は、20℃/時間以下とすることがより好ましく、10℃/時間以下とすることが特に好ましい。冷却速度の下限は、特に制限されないが、通常0.1℃/時間以上とすることが、冷却晶析が効率よく行われる点から好ましい。冷却速度は、0.5℃/時間以上とすることが特に好ましい。
【0018】
また、固液分離を行う前に、懸濁混合液又は上記均一溶液から結晶を一部析出させて懸濁状態とした懸濁混合液の熟成を行うこともできる。ここでいう熟成とは、一定温度で懸濁混合液を5分〜200時間程度、好ましくは5分〜50時間、攪拌あるいは放置することを意味する。
熟成の温度は、マンデル酸類の飽和温度以下でかつ、水溶液相の凝固点以上とすることが好ましい。特に、マンデル酸類の飽和温度付近(飽和温度を上限として、飽和温度から10℃以内の範囲、好ましくは5℃以内)及び/または固液分離を行う温度付近(固液分離を行う温度±10℃以内の範囲、好ましくは±5℃以内)で行うことが好ましい。
均一溶液又は懸濁混合液は、鉱酸及び/又は鉱酸塩を含んでいても良い。また、鉱酸及び/又は鉱酸塩の濃度は特に制限されないが、水系溶媒とマンデル酸類を含む混合物中20重量%以下とすることが好ましい。この範囲内とすることにより、マンデル酸類の二量体を効率よく低減できる。鉱酸及び/又は鉱酸塩の濃度は、5重量%以下とすることが好ましく、2重量%以下とすることが特に好ましい。
均一溶液又は懸濁混合液に含まれる鉱酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、ホウ酸、リン酸、過塩素酸、クエン酸、酢酸、トルエンスルホン酸が例示され、好ましくは塩酸である。上記鉱酸塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、トリチルエチルアミン塩、アンモニア塩等が挙げられ、好ましくは塩化ナトリウム、塩化アンモニウム、硫酸ナトリウム、硫酸アンモニウムである。
【0019】
懸濁混合液からマンデル酸類の固液分離は、pH7.0以下の酸性条件で行う。この範囲内とすることによりマンデル酸類の収量が増える。pH1.0〜2.0とすることが好ましい。
必要に応じてpHを調整する場合は、通常、酸または塩基が使用される。酸としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、ホウ酸、リン酸、過塩素酸、クエン酸、酢酸、トルエンスルホン酸等が挙げられる。また、通常ここで用いる塩基としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、トリエチルアミン、アンモニア、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム等が挙げられる。
【0020】
懸濁混合液のマンデル酸類の濃度は、懸濁混合液から固液分離によりマンデル酸類を得ることができる濃度、例えば1〜80重量%とすることが好ましい。この範囲内とすることにより効率良く固液分離が可能となる。濃度は、5〜60重量%とすることがより好ましい。
【0021】
固液分離後のマンデル酸類の結晶は必要に応じて溶媒等により洗浄する。この場合、マンデル酸類の結晶を溶媒で1〜5回洗浄すればよい。
【0022】
前記の洗浄に用いる溶媒は、水、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等の極性溶媒、メタノール、エタノール、i−プロパノール、n−ブタノール、t−ブタノール等のアルコール溶媒、または、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶剤等を用いることができる。これらの溶媒は単一で用いても混合して用いても良い。水を単一で用いることが有機溶媒を使用しない点で好ましい。
【実施例】
【0023】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
なお、マンデル酸類の化学純度、マンデル酸類の二量体の含有割合、及び光学純度は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用い、下記の分析条件で決定した。
<マンデル酸の化学純度及びマンデル酸の二量体の含有割合の分析>
試料調製方法: 試料約20mgをキャリヤー25mLに溶解
装置: カラムオーブン 日本分光社製 865−CO
UV 日本分光社製 870−UV
ポンプ 日本分光社製 880−PU
インテグレーター 島津製作所社製 C−R3A
カラム: ODS−2 GLサイエンス社製
キャリヤー: アセトニトリル/水(リン酸にてpH3.0に調整)=30/70(容積比)
カラム温度: 40℃
流速: 1mL/min
波長: 220nm
検出限界値: マンデル酸類結晶中の二量体含有割合0.015%(面積百分率)(マンデル酸類とその二量体のHPLC分析結果の吸収ピーク面積合計を100面積%とした場合)
リテンションタイム: 4.9min((S)−マンデル酸)
22.0min (マンデル酸類の二量体)
マンデル酸の二量体の含有割合は、HPLC分析より得られた吸収ピークの面積百分率よりマンデル酸とその二量体の面積合計を100面積%として算出した。
【0024】
<マンデル酸類の光学純度分析>
試料調製方法: 試料約20mgをキャリヤー25mLに溶解
装置: カラムオーブン 日本分光社製 865−CO
UV 日本分光社製 870−UV
ポンプ 日本分光社製 880−PU
インテグレータ 島津製作所社製 C−R3A
カラム: CHIRALCEL OJ−H(ダイセル化学工業社製)
キャリヤー: Hexane/2−プロパノール/トリフルオロ酢酸=90/10/0.1(容積比)
カラム温度: 35℃
流速: 1.0ml/min
波長: 220nm
リテンションタイム:16.0min(R体)、18.2min(S体)
光学純度はエナンチオマー過剰率(%ee)で示した。
マンデル酸の光学純度は、HPLC分析より得られた吸収ピークのS体及びR体の面積値より、次の(1)式により算出した。
S体光学純度(%ee)
=(S体面積値−R体面積値)/(S体面積値+R体面積値)×100 (1)
【0025】
[調製例1]
(S)-マンデロニトリルの合成
1L容フラスコに(S)−ヒドロキシニトリルリアーゼ酵素(EC 4.1.2.37)水溶液(1072U/mL)9.0g、50mMリン酸水素ナトリウム/50mMクエン酸緩衝液(pH6.0)64.5g及びターシャルブチルメチルエーテル(和光純薬工業社製)260.0gを仕込んだ。これを16〜18℃で攪拌しながら、シアン化水素70.6g(2.62モル)及びベンズアルデヒド(和光純薬工業社製)180.2g(1.70モル)を2時間かけて連続的に滴下した。滴下終了後、18℃で4時間撹拌した。その後、HPLCの分析によりベンズアルデヒドの実質的消失を確認した。このときの(S)−マンデロニトリルの収率及び光学純度は、それぞれ98%、97%eeであった。次いで、ターシャルブチルメチルエーテル及び50mMリン酸水素ナトリウム/50mMクエン酸緩衝液をエバポレーターで留去し、90重量%(S)−マンデロニトリル水溶液(光学純度97.0%ee)を得た。
[調製例2]
(S)-マンデル酸の合成
2Lフラスコ中に35%塩酸275g(HCl 2.64mol)を仕込んだ。撹拌しながら、30℃でこの塩酸中に調製例1の方法で得られた光学純度97%eeの(S)−マンデロニトリル水溶液247g(1.67mol)を5時間かけて滴下した。次いで、80℃で撹拌しながら水600gを2時間かけて滴下し加水分解した。この加水分解反応液を減圧下で(S)−マンデル酸の濃度が30%になるまで濃縮した後、30%水酸化ナトリウム水溶液でpH2.0に調整した。その後、30℃まで冷却し、析出した(S)−マンデル酸を遠心分離しながら水45gで洗浄した。その後、遠心分離機に付着した結晶を回収した。(S)−マンデル酸238g(化学純度91.0%、収率85%、光学純度98.9%ee)が得られた。この(S)−マンデル酸のマンデル酸二量体含有割合は1.4%(面積百分率)であった。
【0026】
[実施例1]
100mLフラスコ中に調製例2で得られた(S)−マンデル酸8.6g、水18.3gを仕込み、60℃まで加温して(S)−マンデル酸を溶解した。均一な水溶液(pH2.0)となったこの(S)−マンデル酸水溶液を60℃から3時間かけて冷却速度10℃/時間で30℃まで冷却し結晶を析出させた。析出した結晶を遠心分離しながら水2gで洗浄した。遠心分離機に付着した結晶を回収してから、結晶を減圧下で乾燥することにより(S)−マンデル酸7.0g(化学純度99.4%、再結晶収率89%、光学純度99.8%ee)を得た。(S)−マンデル酸中のマンデル酸二量体含有割合は0.3%(面積百分率)であった。
【0027】
[実施例2]
100mLフラスコ中にマンデル酸二量体0.8%を含む(R)−マンデル酸7.5g、水22.5gを仕込み、60℃まで加温して(R)−マンデル酸を溶解した。均一な水溶液(pH1.8)となったこの(R)−マンデル酸水溶液を60℃から3時間30分かけて冷却速度5℃/時間で25℃まで冷却し結晶を析出させた。析出した結晶を遠心分離後、遠心分離機に付着した結晶を回収してから、結晶を減圧下で乾燥することにより(R)−マンデル酸5.7g(化学純度99.3%、再結晶収率76%、光学純度99.8%ee)を得た。(R)−マンデル酸中のマンデル酸二量体含有割合は0.03%(面積百分率)であった。
【0028】
[実施例3]
100mLフラスコ中にマンデル酸二量体1.1%を含む(S)−マンデル酸10.5g、塩化ナトリウム0.39g、塩化アンモニウム0.12g、硫酸アンモニウム0.21g、水18.7gを仕込み、60℃まで加温して(S)−マンデル酸を溶解した。均一な水溶液(pH1.8)となったこの(S)−マンデル酸水溶液を60℃から4時間30分かけて冷却速度5℃/時間で15℃まで冷却し結晶を析出させた。析出した結晶を遠心分離しながら水2gで洗浄した。遠心分離機に付着した結晶を回収してから、結晶を減圧下で乾燥することにより(S)−マンデル酸10.3g(化学純度99.5%、再結晶収率97.8%、光学純度99.8%ee)を得た。(S)−マンデル酸中のマンデル酸二量体含有割合は0.76%(面積百分率)であった。
【0029】
[実施例4]
100mLフラスコ中にマンデル酸二量体1.1%を含む(S)−マンデル酸12g、水18gを仕込み、(S)−マンデル酸を水に懸濁させ、30℃で3時間攪拌した。懸濁混合液(pH1.9)となったこの(S)−マンデル酸懸濁混合液を遠心分離しながら水2gで洗浄した。遠心分離機に付着した結晶を回収してから結晶を減圧下で乾燥することにより(S)−マンデル酸10.3g(化学純度99.5%、回収率72.6%、光学純度99.8%ee)を得た。(S)−マンデル酸中のマンデル酸二量体含量は0.05%(面積百分率)であった。
【0030】
[実施例5]
100mLフラスコ中に実施例1で得た(S)−マンデル酸11.54g、水18.46gを仕込み、(S)−マンデル酸を水に懸濁させ、30℃で3時間攪拌した。懸濁混合液(pH2.0)となったこの(S)−マンデル酸懸濁混合液を遠心分離しながら水2gで洗浄した。遠心分離機に付着した結晶を回収してから結晶を減圧下で乾燥することにより(S)−マンデル酸9.87g(化学純度99.5%、回収率93.5%、光学純度99.8%ee)を得た。(S)−マンデル酸中のマンデル酸二量体含有割合は0.35%(面積百分率)であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マンデル酸類の二量体及びマンデル酸類を含む結晶と有機溶媒を含まない水系溶媒を接触させ、温度0〜60℃かつpH7.0以下の酸性下で固液分離するマンデル酸類の精製方法。

【公開番号】特開2006−273725(P2006−273725A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−91681(P2005−91681)
【出願日】平成17年3月28日(2005.3.28)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】