説明

マンホールの浮上防止構造および浮上防止方法

【課題】埋設されたマンホールの周囲の状況への適応性を向上させたマンホールの浮上防止技術を提供する。
【解決手段】地中に埋設されたマンホール1の外周壁近傍に設けた抑制体係合部材20と、該抑制体係合部材20の上方を所定の間隙G1を形成した状態で覆うように前記マンホール1の周囲に設置される浮上抑制体30とを備えたマンホール1の浮き上がりを防止する浮上防止技術であって、抑制体係合部材20を延長部材15を利用して地中に位置決めする。この延長部材15の上端は、マンホール1の蓋12を開閉自在に嵌合する枠体13に固定され、下端は、抑制体係合部材20に固定されるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液状化現象などによるマンホールの浮き上がりを防止するためのマンホールの浮上防止構造および浮上防止方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地震などにより発生した液状化現象によって、マンホールやこれに接続された管渠などの地下構造物が浮き上がって破壊されることが相次ぎ、大きな問題となっている。特に、マンホールが浮き上がると、道路などの路面から突き出て道路通行の妨げとなり、その結果、避難経路の確保や緊急車両の通行ができなくなるなど、復興支援活動に重大な支障が生じる。
【0003】
そのため、地震により液状化現象が発生してもマンホールが浮き上がらないようにすることが地震対策として必要となる。特に、マンホールは人口の多い都市部ほど普及率が高く、既に設置されているマンホールに対して早急に対応することが重要である。
【0004】
例えば、特許文献1および特許文献2には、既設のマンホールの浮き上がりを防止する技術が開示されている。この特許文献1に記載された技術は、マンホールの外周部に抑制体係合部材を設置し、抑制体係合部材を環状の浮上抑制体で覆うようにする。この浮上抑制体は、所定の単位体積重量を有すると共に受圧面を有し、この受圧面を所定の深さに配置することで、浮上抑制体の重量および受圧面にかかる埋め戻し材の重量により、マンホールの浮き上がりを防止することが可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4182130号公報
【特許文献2】特許第4326586号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1および特許文献2に記載された技術によれば、マンホールの設置されている場所が壁等の埋設障害物に近接する状況では、環状の浮上抑制体が埋設障害物に干渉して浮上抑制体を設置できない場合が考えられる。また、現場作業員が現場の状況に柔軟に適応させて施工できることも望まれている。
【0007】
本発明は、かかる実情に鑑み、マンホールを設置する周囲の状況への適応性を向上させ、施工可能場所を増大させた、マンホールの浮上防止構造および浮上防止方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のマンホール浮上防止構造は、地中に埋設されてマンホールの外周壁近傍に配置される抑制体係合部材と、前記マンホールの出入口に配置されて前記マンホールの蓋を保持する枠体に対して上端が固定され、地中に埋設される前記抑制体係合部材に下端が固定されることで、前記抑制体係合部材を地中に位置決めする延長部材と、該抑制体係合部材の上方を所定の間隙を形成した状態で覆うように前記マンホールの周囲に設置される浮上抑制体と、を備え、非常時、前記浮上抑制体が前記抑制体係合部材に接触することで、前記浮上抑制体の重量および前記浮上抑制体上に載置される埋め戻し土の重量によって、前記マンホールの浮き上がりを抑止することを特徴とする、マンホールの浮上防止構造である。
【0009】
本発明はまた、上記マンホールの浮上防止構造において、前記枠体における前記延長部材を固定する部位が、当該枠体の外周より外方へ延設されることを特徴とする。
【0010】
本発明はさらに、上記マンホールの浮上防止構造において、前記浮上抑制体に貫通孔が貫設され、前記延長部材は、前記浮上抑制体の貫通孔に挿通された状態で、前記上端が前記枠体に固定されると共に、前記下端が前記抑制体係合部材に固定されることを特徴とする。
【0011】
本発明はさらに、上記マンホールの浮上防止構造において、前記マンホールの外周壁と前記抑制体係合部材とが対峙する場合、当該抑制体係合部材と前記マンホールの外周壁との間に固定部材を介在させることを特徴とする。
【0012】
本発明はさらに、上記マンホールの浮上防止構造において、前記抑制体係合部材は、全体として環状に形成されることを特徴とする。
【0013】
本発明はさらに、上記マンホールの浮上防止構造において、前記抑制体係合部材は、前記マンホールの外周において、複数に分離した状態で配置されることを特徴とする。
【0014】
本発明のマンホール浮上防止方法は、埋設されたマンホールの周囲を堀り起こして坑を形成する掘削工程と、前記掘削工程で露出した前記マンホールの外周壁に対して抑制体係合部材を設置する保持部材設置工程と、前記保持部材設置工程で設置された前記抑制体係合部材に対して、所定の隙間を空けて前記抑制体係合部材の上方を覆うように浮上抑制体を設置する浮上抑制体設置工程と、前記坑を埋め戻す埋戻工程と、を備え、前記保持部材設置工程では、前記マンホールの蓋を開閉自在に嵌合する枠体に上端が固定され、前記抑制体係合部材に下端が固定される延長部材を利用して、前記抑制体係合部材を前記マンホールの外周壁近傍に位置決めすることを特徴とする、マンホールの浮上防止方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、枠体に上端側を固定し、抑制体係合部材に下端側に固定する延長部材を介して、抑制体係合部材をマンホールの外周壁近傍に配設する結果、抑制体係合部材の設置位置を自由に設定することが可能となる。従って、マンホールの周囲の状況に合わせて、マンホールの種類や形状に関係なく、抑制体係合部材を柔軟に設置することができる。この結果、マンホールの周囲の状況への適応性を向上させ、施工可能場所を増大させながら、地震等の異常時のマンホールの浮き上がりを防止することができる。しかも、抑制体係合部材の設置位置を地表に近づけることができるため、施工時における設置作業を格段と簡易化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態に係るマンホールの浮上防止構造を概略的に示す縦断面図である。
【図2】同浮上防止構造を模式的に示す上面図である。
【図3】同浮上防止構造における抑制体係合部材を概略的に示す斜視図である。
【図4】同浮上防止構造における浮上抑制体を概略的に示す分解斜視図である。
【図5】同浮上防止構造における浮上抑制体の他の例を概略的に示す分解斜視図である。
【図6】同浮上防止構造における浮上防止構造の要部を拡大して示す断面図である。
【図7】本発明の他の実施形態に係るマンホールの浮上防止構造の要部を拡大して示す概略的な縦断面図である。
【図8】本発明の他の実施形態に係るマンホールの浮上防止構造の要部を拡大して示す概略的な縦断面図である。
【図9】同浮上防止構造を模式的に示す上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態について、添付図面を参照しながら実施例を挙げて説明する。なお、以下の説明において、周知の手法、周知の手順、周知の構造等(以下、これらを総じて周知事項と称す)については、その細部にわたる説明を割愛するが、これは説明を簡潔にするためであって、これら周知事項のすべてまたは一部を意図的に排除するものではない。かかる周知事項は、本発明の出願時点で当業者の知り得るところであるので、以下の説明に当然含まれている。
【0018】
まず、本発明の一実施形態に係るマンホールの浮上防止構造および浮上防止方法について、図1〜図5を参照して説明する。図1は、本実施形態の浮上防止構造を有するマンホールの縦側面図であり、マンホールの周囲の地面Grを所定深さだけ掘り起こして、マンホールの直壁部を露出させた状態を示している。なお、図1および他の図2〜図5は模式図であり、各構成の部材の寸法を厳密に示したものではない。
【0019】
図1および図2に示すように、マンホール1は有底の筒状体であり、下水管などの管渠2が底側に接続される。マンホール1は、管渠2の会合や方向転換をするために設置される他、作業員が管渠2などの保守管理作業をするためにも利用される。マンホール1は、上端の頂部に形成される出入口9と、作業空間を確保するための所定の広さを有する円筒形状の直壁部10と、出入口9および直壁部10の間に配置されて、マンホール1の内径を上方から下方に向かって拡張する斜壁部11とからなる。
【0020】
出入口9は、斜壁部11の上端が開口することで形成されており、この出入口9には蓋12を開閉自在に嵌合する枠体13が設置されている。この枠体13は、ボルト14等の固定手段によって、マンホール1の出入口9が形成される上端の頂部に締結されている。また、特に図示しないが、マンホール1の内壁には作業員が昇降するためのはしご体が設けられている。
【0021】
このようなマンホール1の外周部には、マンホール1の浮き上がりを防止すべく、抑制体係合部材20及び浮上抑制体30が設けられる。このとき、抑制体係合部材20は、周方向に複数配置される延長部材15によってマンホール1の外周壁近傍に位置決めされている。
【0022】
具体的に、延長部材15は金属等の剛性材料を用いた板状部材からなり、上下方向に延びる形状となっている。マンホール1の設置された周囲の状況に応じて、この延長部材15の上端は、ボルト14によって枠体13に一体的に固定されると共に、下端は、抑制体係合部材20にボルト16によって固定されている。なお、上端側のボルト14は、この枠体13をマンホール1に固定する目的も兼ね備えている。この延長部材15によって、マンホール1の斜壁部11の周囲近傍において、マンホール1に対して抑制体係合部材20が上下方向に相対移動できない状態で位置決めされる。なお、図1は図面表示の便宜上、斜壁部11の周囲に一対の延長部材15が180度の位相差で配置されているように表示しているが、実際は、図2に示されるように、120度の間隔で3つの延長部材15が配置されている。なお、本発明では、延長部材15の数は特に限定されない。
【0023】
なお、本実施形態において延長部材15は、マンホール1の斜壁部11に沿うように一部が傾斜した形状となっているが、本発明はこの限りではない。また、ここでは延長部材15と抑制体係合部材20を16で固定する場合を例示したが、本発明はこれに限定されず、後述する、抑制体係合部材20の連結部21bのボルト23を利用して固定することも可能である。
【0024】
また、本実施形態の場合、抑制体係合部材20は環状バンド形状となっており、バンド本体21と、その周面から径方向外側に突出する複数の張出突出部22とを備えている。
【0025】
具体的に抑制体係合部材20は、図3に示すように、円弧状に湾曲した帯板21aを複数連結して環状に形成される。各帯板21aには、両端が折り曲げられることで隣接する帯板21aとの連結部21b,21bが形成されていると共に、周方向中央の位置に径方向外側に突出する突出部21cが形成されている。各連結部21bにはボルト23を通す通孔(図示略)が設けられている。また、突出部21cには、延長部材15の下端をボルト16で締結するための取付穴21dが螺設されている。なお、抑制体係合部材20と延長部材15との接合は、その他の各種手法を用いることが出来る。
【0026】
隣り合う帯板21a,21aの対向する連結部21b,21b同士をそれぞれボルト23およびナット24により締結すると、帯板21aが直列に連結されてバンド本体21が環状となる。なお、連結部21bも突出部21cと同様に径方向外側に突出しており、これら連結部21bおよび突出部21cが張出突出部22として機能するようになっている。
【0027】
一対の連結部21b,21bと突出部21cとは、周方向に所定の間隔をおいて交互に配置されている。ここでは60度おきに、三つの一対の連結部21b,21bと三つの突出部21cとが交互に配置されている。すなわち、バンド本体21には60度おきに張出突出部22が設けられており、そのうち120度間隔で延長部材15と固定される突出部21cが設けられている。なお、バンド本体21における各張出突出部22の周方向の位置は等間隔でなくてもよい。また、帯板21aや延長部材15は、ステンレスや、亜鉛メッキを施した鉄板などにより形成されることが好ましい。
【0028】
また、本実施形態では、三枚の帯板21aを連結して環状バンド21を形成しているが、一枚あるいは二枚の帯板21aにより環状バンド21を形成するように構成してもよく、四枚以上の帯板21aを連結してバンド本体21を形成するようにしてもよい。また、本実施形態では、張出突出部22は全部で六個が形成されるようになっているが、張出突出部22の数はこれに限定されない。
【0029】
例えば、三枚の帯板21aでバンド本体21を構成する場合、各帯板21aに二つ以上の突出部21cを形成して、張出突出部22の総数を六個以上としてもよいし、また例えば、二枚の帯板21aでバンド本体21を構成する場合、各帯板21aに一つの突出部21cを形成して、張出突出部22の総数を六個未満としてもよい。また例えば、一枚の帯板21aでバンド本体21を構成する場合、張出突出部22の総数を任意に設定するとよい。さらに、張出突出部22を任意の部位だけ突出させるのではなく、バンド本体21全体を外周方向へ肉厚に形成し、当該バンド本体21全体を張出突出部としてもよい。なお、本実施形態では、延長部材15と抑制体係合部材20との固定位置を前記張出突出部22の位置とする場合について述べたが、本発明はこれに限らず、抑制体係合部材20を固定保持し得る位置であれば、延長部材15と抑制体係合部材20との固定位置は、この他どの部位(位置)であってもよい。
【0030】
一方、マンホール1の周囲には図1および図2に示すように、浮上抑制体30が設置される。この浮上抑制体30は、抑制体係合部材20の上方を覆うようになっており、さらに、抑制体係合部材20の張出突出部22に対して上下方向に間隙G1が形成されている。
【0031】
具体的に浮上抑制体30は、マンホール1や抑制体係合部材20とは別体であり、図4および図5に示すように、分周した重錘部材31を並べて連結することで環状構造となる。この結果、マンホール1の外周壁の近辺を囲むようになっている。重錘部材31は、地下水や液状化した地盤により生じる浮力に対抗しうる単位体積重量を有する材質を用いて、この浮力によって浮き上がらない形状に形成する。材質としては、例えば、コンクリートを使用することが好ましい。
【0032】
また、重錘部材31は、充分な重量を有する厚さに形成すると共に、その上面を受圧面32とする。この受圧面32が地面に露出しない深さに浮上抑制体30を配置する。受圧面32は、上載される土砂(埋め戻し土)によって充分な荷重を受けると共に、マンホール1の浮き上がりを抑制可能な流体抵抗を受ける。そのために、受圧面32は、相応の上面投影面積を持つように形成する。重錘部材31の内径は、マンホール1の外径よりも大きく形成して、マンホール1と接触しないようにする。一方で、重錘部材31の下面側は、抑制体係合部材20の張出突出部22と係合(当接)する必要があるため、この張出突出部22よりも、重錘部材31の内径が内側となるようにする。
【0033】
なお、本実施形態では、半円環状に分周した二個の重錘部材31を並べて環状の浮上抑制体30を形成しているが、一個の円環状の重錘部材により浮上抑制体を構成してもよく、三個以上に分周した扇形の重錘部材を並べて環状の浮上抑制体を形成する構成としてもよい。また、浮上抑制体30の形状は、円環状に限ることはない。さらに、重錘部材31の受圧面32は平らに形成しているが、凹凸を形成したり、円環の中心側に向かって低く傾斜して形成したりしてもよい。
【0034】
本実施形態では、図4に示すように、各重錘部材31の下面側において、抑制体係合部材20の張出突出部22に対応する位置に凹状の収容部34を形成している。このとき、収容部34の高さは、張出突出部22の高さよりも十分に大きく形成されている。また、図5に示すように、重錘部材31の内周側下部に環状の収容用段部33を形成してもよい。このように、各重錘部材31の下面側に段差を形成することで、浮上抑制体30と抑制体係合部材20の張出突出部22が、上下方向に加えて半径方向や周方向に係合可能となる。なお、本発明はこれに限定されず、各重錘部材31の下面側を平面としても良い。
【0035】
本実施形態の抑制体係合部材20および浮上抑制体30がマンホール1の外周に設置された場合、平常時は収容部34内に挿入された張出突出部22は重錘部材31に接触せず、一方、地震等の非常時には収容部34の天井面と張出突出部22の上面とが当接して、重錘部材31の重量が抑制体係合部材20に作用し、マンホール1の浮き上がりが抑制されるようになっている。
【0036】
なお、重錘部材31は、地下水や液状化した地盤により生じる浮力に対抗しうる単位体積重量を有する材質であればよく、材質は前述のコンクリートに限定されない。本実施形態の場合、コンクリートの単位体積重量は23.0kN/mとする。
【0037】
次に、図1および図6を用いて本実施形態の浮上防止構造の詳細について説明する。図6は、本実施形態の浮上防止構造の要部拡大断面図である。
【0038】
浮上抑制体30は、延長部材15によってマンホール1の外周壁近傍に配設された抑制体係合部材20の張出突出部22の上方を少なくとも覆うようにして、地盤を固めて形成した支持部S1上に配置される。張出突出部22の上面と浮上抑制体30の下面(ここでは、重錘部材31の収容部34に挿入された張出突出部22の上面と、収容部34の天井面)との間には、間隙G1が形成されるようにする。この間隙G1により、平常時は、浮上抑制体30や上方の埋め戻し土の荷重が抑制体係合部材20に作用しないようになっている。
【0039】
また、浮上抑制体30を抑制体係合部材20の上方を覆うように支持部S1上に配置したときに、マンホール1と浮上抑制体30との間に径方向の隙間(すなわち間隙G2)が空くと共に、マンホール1の外周壁近傍に配置した抑制体係合部材20の張出突出部22と浮上抑制体30の重錘部材31の収容部34の奥側面との間に径方向の隙間(すなわち間隙G3)が空くように設定されている。
【0040】
間隙G2、G3は、地震時の振動(横揺れ)によるマンホール1の慣性力が増加することを抑制する。間隙G2には、ゴムやスポンジやウレタンなどの弾性材料により形成されたパッキン材50が取り付けられる。このパッキン材50によって、間隙G2から埋め戻し土が侵入することを防止できると共に、地震時の揺れにより浮上抑制体30とマンホール1が直接衝突して破損が生ずることを防止できる。
【0041】
次に、本実施形態の浮上防止構造の施工手順(浮上防止方法)を、直壁部10の外径が約105cmのマンホール(例えば1号マンホール)に適用した場合について、図1を参照して説明する。施工は、掘削工程→保持部材設置工程→浮上抑制体設置工程→埋戻工程の順に進められる。
【0042】
まず、設置されているマンホール1の周囲の地面Grを掘り起こして、マンホール1の斜壁部11を露出させる(掘削工程)。マンホール1の周囲などを掘り起こす場合、一般的には方形の坑を掘削する。ここでは、マンホール1の周囲に、浮上抑制体30の大きさよりも大きい長方形の坑を掘削する。この坑の掘り起こす深さは120cm程度までとする。これにより、坑ではマンホール1の斜壁部11が露出する。このとき、図1に示すように電線やケーブル等を収容する配管等の埋設障害物60がマンホール1に近接している状況を配慮しながら、坑の深さを適宜調整する。
【0043】
斜壁部11が露出したら、掘り起こした坑の底面である地盤を平らにならし、充分に締め固めて支持部S1を形成する。その後、延長部材15の下端が予め固定された抑制体係合部材20を支持部S1上に載置し、更に、この延長部材15の上端を枠体13にボルト14で固定する(抑制体係合部材設置工程)。
【0044】
この抑制体係合部材設置工程を更に詳細に説明すると、まず、支持部S1上において、複数の帯板21aをボルト23およびナット24で連結することによって環状にすることで、抑制体係合部材20を斜壁部11の外周に配置する。更に、複数の長さの延長部材15を予め用意しておき、その中から適当な延長部材15を抑制体係合部材20に仮固定して枠体13との距離を適合性を判断し、最適な長さとなる延長部材15を適宜選択する。この作業によって、枠体13を基準とした任意の深さ位置に抑制体係合部材20を設置することが可能となる。
【0045】
従って、本実施形態の技術によれば、本来、抑制体係合部材20を直接固定することが困難な斜壁部11近傍であっても、このマンホール1の周囲の状況に応じて任意の深さに抑制体係合部材20を設置することができる。
【0046】
また、この抑制体係合部材設置工程では、張出突出体22がマンホール1から半径方向外側に5cm乃至15cmほど拡張しており、このような張出突出体22が後から設置する浮上抑制体30に干渉しないように、現場の状況に応じて正確に位置決めしておく必要があるが、延長部材15を用いることにより、この位置決め作業を従来より格段と容易にすることができる。
【0047】
なお、特に図示しないが、抑制体係合部材20をマンホール1の外周壁近傍に配置する際、この抑制体係合部材20と斜壁部11の間を、固定部材となるモルタル材(図示略)などで埋めるようする。この固定部材により、簡便な方法にて抑制体係合部材20と斜壁部11を確実に固定でき、マンホール1に対して抑制体係合部材20が水平方向にぶれるのを防止できる。
【0048】
更に、延長部材15と斜壁部11との間には、ゴム板などの弾性部材(図示略)を挟むようにしてもよい。弾性部材を介することで、簡便な方法により、延長部材15を確実に固定でき、マンホール1とのずれを防止することができる。また、本実施形態では、延長部材15の下端を屈曲させることで、抑制体係合部材20の下面側に挿入させる場合を例示したが、勿論、抑制体係合部材20の上面側に固定するようにしても良い。
【0049】
このように抑制体係合部材20を設置した後、さらに支持部S1上に浮上抑制体30を設置する。具体的には、まず重錘部材31を、マンホール1および抑制体係合部材20に直接接触しないように間隙G2を設けて支持部S1上に設置し、浮上抑制体30を形成する(浮上抑制体設置工程)。
【0050】
例えば、マンホール1の直壁部10の外径が約105cmの1号マンホールの場合、浮上抑制体30の受圧面32が少なくとも地面より20cm〜100cm程度の深さになるように配置する。また、浮上抑制体30とマンホール1および抑制体係合部材20との間に数cmの間隙G1〜G3を設けるようにする。この際、充分に締め固めた支持部S1により、浮上抑制体30が沈下するのを防止すると共に、浮上抑制体30の高さ位置(深さ位置)を規定することができる。因みに、重錘部材31の下面側に凹凸を形成しておくと、締め固めた土砂又は砕石からなる支持部S1とかみ合って、浮上抑制体30の設置時の安定性を向上させることができる。
【0051】
最後に、埋め戻し土や下層路盤、上層路盤などを、それぞれ充分に締め固めながら順に埋め戻す(埋戻工程)。埋め戻し作業の際には、浮上抑制体30とマンホール1の外周壁との間の環状の間隙G2にパッキン材50を挿入する。これにより、埋め戻し土などが間隙G2内に侵入するのを防止できる。
【0052】
また、特に図示しないが、間隙G2等への土砂流入防止構造として、浮上抑制体30の上にシート状の土砂保持具を設けてもよい。土砂保持具は、不織布等の布体や繊維網等の網体などのシート状体により形成する。この土砂保持具により、埋め戻し土の間隙G1〜G3への流入を防止することが可能になる。
【0053】
上述のように構成された本実施形態のマンホールの浮上防止構造および浮上防止方法によれば、次のような効果を奏することができる。
【0054】
図1に示すように、抑制体係合部材20は、延長部材15によってマンホール1の枠体13と連結した構成(換言すれば、枠体13から延長部材15によってぶら下がった状態)でマンホール1の外周壁近傍における任意の位置に配置される。このため、マンホール1の外周壁に直接固定される従来とは異なって、マンホール1の直壁部10に限らず、斜壁部11の近傍であっても容易に配置することができ、抑制体係合部材20の配置位置を任意に設定可能となる。これにより、マンホール1に近接して電線やケーブル等を収容する配管等の埋設障害物60が設置されていたとしても、延長部材15の長さを調整したり、曲げる角度を調整したりして形状を変更することで、当該埋設障害物60を回避した任意の位置に抑制体係合部材20を設置することができる。
【0055】
従って、現場作業員がマンホール1の周囲の状況に合わせて抑制体係合部材20の設置状態を決めることが可能となるので、適応性を向上させ、抑制体係合部材20の設置可能場所を増大させながら、地震等の非常時のマンホール1の浮き上がりを防止することができる。
【0056】
このとき、浮上抑制体30の重量と、浮上抑制体30の受圧面32に上載される土砂の荷重などの力により、マンホール1の浮き上がりを防止することができる。特に本実施形態によれば、剛性の高い枠体13に対して、延長部材15を介して抑制体係合部材20が固定される。結果、従来のように抑制体係合部材20をマンホール1の外周面に縛り付ける場合と比較して、抑制体係合部材20は一層大きな浮力を受け止めることが可能となる。
【0057】
また、受圧面32に上載した土砂が液状化して上載土砂による荷重が減少し、浮上抑制体30が浮き上がろうとしても、所定の上面投影面積を有する重錘部材31の受圧面32が流体抵抗を受けて浮き上がりを防止することができる。
【0058】
しかも、抑制体係合部材20の設置位置を地表に近づけることができるため、施工時における設置作業を格段と簡易化することができる。かくして、マンホール1の種類・形状や、周囲の環境に柔軟に対応可能で、一段と簡易に施工することができ、且つ、実用上十分に浮上を防止し得るマンホール1の浮上防止構造およびマンホール1の浮上防止方法を実現することができる。
【0059】
以上、本発明のマンホールの浮上防止構造および浮上防止方法について一実施形態を用いて説明したが、本発明のマンホールの浮上防止構造および浮上防止方法は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることができる。
【0060】
例えば、上述した実施形態では、延長部材15が板状部材を用いてマンホール1の外周壁に沿うような矩形状に形成されている場合について述べたが、延長部材15としてワイヤ部材を用いるようにしてもよい。
【0061】
具体的な例を、図6との対応部分に同一符号を付した図7に示す。この例では、枠体13に対して、更にその外縁から半径方向外側に拡張するよな拡張部13aが形成されている。また、この延長された拡張部13aを支えるために、拡張部13aの下方に補強リブ13bが設けられている。
【0062】
そして、この補強リブ13bには、ワイヤ状となる延長部材15の上端15aを取り付けるための取付穴13cが貫設されている。また、延長部材15の下端15bは、抑制体係合部材20に固定されたリング状の取付部17に取り付けられている。これにより、抑制体係合部材20は、補強リブ13bからワイヤ状の延長部材15によって、マンホール1の外周壁近傍に吊り下げられた状態にすることができる。
【0063】
このようにすると、延長部材15がワイヤ部材であることから、その長さや取付位置によって、抑制体係合部材20の高さや角度を任意に変更可能となっている。特に、施工現場においてワイヤの長さを自在に変更できるので、その場の状況を把握しながら、抑制体係合部材20の高さを自在に変更できる。従って、マンホール1の周囲に、想定外の埋設障害物60が存在した場合であっても、その場で抑制体係合部材20の配置位置を任意に変更することができる。
【0064】
なお、特に図示は省略するが、枠体13に形成される拡張部13aを更に突出させることで、ワイヤ状の延長部材15が鉛直方向に垂れ下がるようにすることも可能となる。また、ここでは抑制体係合部材20に設けた取付部17にワイヤ状の延長部材15を固定する場合を例示したが、抑制体係合部材20の連結部21bのボルト23を利用して、ワイヤ状の延長部材15を固定することも可能である。
【0065】
勿論、既に述べたように、抑制体係合部材20とマンホール1の外周壁との間をモルタル材等で埋めることによって、抑制体係合部材20のぶれを防止することが可能となる。
【0066】
また、他の実施形態としては、延長部材15として棒状部材を用いるようにしてもよい。具体的には、図6、7との対応部分に同一符号を付した図8及び図9に示すように、枠体13の拡張部13aを半径方向外側にさらに延長し、この延長された拡張部13aに貫通孔13dを穿設する。そして、この貫通孔13dに対して、棒状部材からなる延長部材15を挿通させて、その上端15aに設けられたヘッド部18によって貫通孔13dと係合させる。一方、延長部材15の下端15bには、抑制体係合部材20が固定される。
【0067】
特に本実施形態では、浮上抑制体30に貫通孔30aを形成しておき、延長部材15をこの貫通孔30aに挿入する。なお、枠体13は、アンカー穴13eを介して不図示のボルトでマンホール1の上端部に締結される。
【0068】
更に本事例では、抑制体係合部材20が、斜壁部11の外周に沿って、複数の部材に分割された部材となっており、各抑制体係合部材20は、各延長部材15の下端15bに個々に固定されている。なお、各抑制体係合部材20と、延長部材15が挿入される浮上抑制体30の間には、間隙G1が形成されるようにする。この間隙G1により、平常時は、浮上抑制体30や上方の埋め戻し土の荷重が抑制体係合部材20に作用しないようになっている。また、マンホール1が浮上しようとすると、周方向に配置される複数の抑制体係合部材20と、浮上抑制体30が係合して、その浮上が抑制される。
【0069】
このように、抑制体係合部材20を複数に分散させることにより、抑制体係合部材20を設置する際の位置決めを、格段と容易にすることができる。勿論、抑制体係合部材20は上述した実施形態と同様に全体として1つの円環状を形成するバンド構造を適用することも可能である。
【0070】
更にこの事例では、貫通孔30aによって、延長部材15が浮上抑制体30を貫通する結果、浮上抑制体30の下面側に抑制体係合部材20を配置することが可能となっている。また、浮上抑制体の形状を平板状で形成することで、製造コストを低減させている。勿論、重錘部材31における下面側に収容部34(図4参照)や、重錘部材31の内周側下部に環状の収容用段部33(図5参照)を設けるようにしてもよい。
【0071】
このように、この場合、上述した実施形態の効果にさらに加えて、抑制体係合部材20の設置をより一段と容易にすることができると共に、浮上抑制体30を設置する際の位置決めも一段と容易にすることができる利点を有している。
【0072】
なお、同図では抑制体係合部材20が、円盤形状をなす場合について図示しているが、これに限らず、非常時において浮上抑制体30を保持可能なものであれば、抑制体係合部材20の形状としては、種々の形状を広く適用することが可能である。
【0073】
また、この場合においても、浮上抑制体30とマンホール1の外周壁との間にモルタル材などを埋めることによって、浮上抑制体30のぶれを防止することができる。
【0074】
また、上記実施形態や各変形例で説明した構成を適宜に組み合わせてもよい。例えば、延長部材15を板状部材またはワイヤ部材で形成し、抑制体係合部材20を延長部材15毎に個々に設けるようにしてもよく、延長部材15を棒状部材で形成し、抑制体係合部材20に全体として1つの円環状を形成するバンド本体21を用いてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明は、マンホールの浮上抑制技術に利用可能である。
【符号の説明】
【0076】
1 マンホール
9 出入口
10 直壁部
11 斜壁部
12 蓋
13 枠体
13a リブ
13b 支持部
13c 取付穴
13d 貫通孔
13e アンカー穴
14 ボルト
15 延長部材
15a 一端側
15b 他端側
16 ボルト
17 取付部
18 ヘッド部
20 抑制体係合部材
21 バンド本体
22 張出突出部
30 浮上抑制体
30a 貫通孔
31 重錘部材(重量物)
50 パッキン材
60 障害埋設物
G1〜G3 間隙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中に埋設されてマンホールの外周壁近傍に配置される抑制体係合部材と、
前記マンホールの出入口に配置されて前記マンホールの蓋を保持する枠体に対して上端が固定され、地中に埋設される前記抑制体係合部材に下端が固定されることで、前記抑制体係合部材を地中に位置決めする延長部材と、
該抑制体係合部材の上方を所定の間隙を形成した状態で覆うように前記マンホールの周囲に設置される浮上抑制体と、を備え、
非常時、前記浮上抑制体が前記抑制体係合部材に接触することで、前記浮上抑制体の重量および前記浮上抑制体上に載置される埋め戻し土の重量によって、前記マンホールの浮き上がりを抑止する
ことを特徴とする、マンホールの浮上防止構造。
【請求項2】
前記枠体における前記延長部材を固定する部位が、当該枠体の外周より外方へ延設される
ことを特徴とする、請求項1に記載のマンホールの浮上防止構造。
【請求項3】
前記浮上抑制体に貫通孔が貫設され、
前記延長部材は、前記浮上抑制体の前記貫通孔に挿通された状態で、前記上端が前記枠体に固定されると共に、前記下端が前記抑制体係合部材に固定される
ことを特徴とする、請求項1または2に記載のマンホールの浮上防止構造。
【請求項4】
前記マンホールの外周壁と前記抑制体係合部材が対峙する場合、当該抑制体係合部材と前記マンホールの外周壁との間に固定部材を介在させる
ことを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか1項に記載のマンホールの浮上防止構造。
【請求項5】
前記抑制体係合部材は、全体として環状に形成される
ことを特徴とする、請求項1乃至4のいずれか1項に記載のマンホールの浮上防止構造。
【請求項6】
前記抑制体係合部材は、前記マンホールの外周において、複数に分離した状態で配置される
ことを特徴とする、請求項1乃至4のいずれか1項に記載のマンホールの浮上防止構造。
【請求項7】
埋設されたマンホールの周囲を堀り起こして坑を形成する掘削工程と、
前記掘削工程で露出した前記マンホールの外周壁に対して抑制体係合部材を設置する保持部材設置工程と、
前記保持部材設置工程で設置された前記抑制体係合部材に対して、所定の隙間を空けて前記抑制体係合部材の上方を覆うように浮上抑制体を設置する浮上抑制体設置工程と、
前記坑を埋め戻す埋戻工程と、を備え、
前記保持部材設置工程では、
前記マンホールの蓋を開閉自在に嵌合する枠体に上端が固定され、前記抑制体係合部材に下端が固定される延長部材を利用して、前記抑制体係合部材を前記マンホールの外周壁近傍に位置決めする
ことを特徴とする、マンホールの浮上防止方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−188889(P2012−188889A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−54922(P2011−54922)
【出願日】平成23年3月14日(2011.3.14)
【特許番号】特許第4811838号(P4811838)
【特許公報発行日】平成23年11月9日(2011.11.9)
【出願人】(592221218)株式会社シーエスエンジニアズ (7)