説明

マンホールの補強構造

【課題】短時間に、効率良く、地中に埋設されたマンホールを道路を通行する車両からの輪荷重などに対する耐力の向上が得られるようにすることのできるマンホールの補強構造を提供する。
【解決手段】下床版2d、側壁2b、2c、上床版2aからなる函体2の上床版2aに開口用の首部3を接続したマンホールの側壁4隅に台形状のハンチブロック19を柱状に積上げて配設した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地中に埋設されたコンクリート構造物であるマンホールの補強構造に関するものであり、特に、簡単な方法で短時間で補強が可能となり、道路上を通行する車両からの輪荷重などに対する耐力を向上させることができるマンホールの補強構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、地中に埋設されている通信ケーブルの分岐、接続部の収容のための空間、及び作業者が入坑してケーブルの建設、保守作業を行う空間を確保するために、マンホール(人孔)が地中に埋設されている。
【0003】
マンホールの容量、形状は、ルート上の管路の条数、収容するケーブルの条数、或いは分岐方向などによって決定され、適用管路条数に応じて容量の異なる複数種類が規格されている。いずれのマンホールも、次のような基本的な構成を有する。
【0004】
図14に示すように、マンホール1は、上床版2aと、長手方向に沿う側壁(長手方向側壁)2bと、函体2の短手方向(長手方向に直交する方向)に沿う側壁(短手方向側壁)2cと、下床版2dとで矩形の内部空間を形成した鉄筋コンクリート製の函体2の上床版2aに開口用首部3を接続した。この開口用首部3は函体2に連通する開口部4を有する円筒状のもので、蓋5を頂部に頂く。
【0005】
又、函体2の側壁(短手方向側壁)2cには、ダクトスリーブ6が形成され、管路7が接続されている。そして、管路7内を通して通信ケーブルなどが敷設される。
【0006】
図14に示した寸法は、直線形3号の規格によるもので、一例を示したものに過ぎない。
【0007】
前記マンホール1は、現場で無筋コンクリートまたは鉄筋コンクリートを打設する現場打ち方式、或いはプレキャスト製品を現場に運搬、据え付けるブロック方式で地中に配設され、当初、側方土圧、路面荷重などに耐え得る強度設計になっているが、土かぶりとの関係で、車両等の通行による輪荷重(道路設計荷重の増大)による劣化が起こる。又、コンクリートの経年による劣化が、多くのマンホール1で見られる。実際にマンホール1の内部から観察すると、コンクリートのひびわれ(亀裂)、鉄筋の露出(爆裂)が観察される。このため、補修・補強が必要である。
【0008】
従来、マンホール1の補修としては、鉄筋が腐食して膨張し、かぶりコンクリート部分が剥落した箇所などの劣化部分をはつり落とし、防錆処理した後に断面修復することしか行われていなかった、しかしながら、斯かる補修方法は、施工に時間がかかり、又、補強効果は限定的なものであった。
【0009】
一方、図15に、出入り口として開口用首部3を有するマンホール1の地中内の函体2の横方向の単位断面1Sと縦方向の単位断面2Sについて、応力分布(曲げモーメント)を略示する。単位断面1Sにおいては矩形であり、側壁のかかる土圧により水平方向の応力またその応力の分圧として隅角部にはマイナス(−)の曲げモーメントが、左右側面の壁面にはプラス(+)の曲げモーメントが生ずる。単位断面2Sについては、この単位断面は幅狭い門型であり、地面における載荷重による上下方向の応力またその応力の分圧として左右横方向の応力により隅角部にはマイナス(−)の曲げモーメントが、上下及び左右側面の壁面にはプラス(+)の曲げモーメントが生ずる。このため、とくに隅角部8の補強が必要である。
【0010】
又、マンホール1はその内部の幅が小さく、そこに通信ケーブルが束になって輻輳しており、補修作業が極めて小さい狭隘なスペースしかない悪条件のもとでこれを克服して行われる必要がある。
【0011】
このようなマンホールの補強に関しては下記特許文献があり、とくにその隅角部とその壁面の補強を目的とした老朽マンホールの狭隘箇所対応補修・補強工法である。
【特許文献1】特開2005−155273(老朽マンホールの狭隘箇所対応補修・補強工法)
【0012】
この特許文献1の工法は、図16に示すように、隅角部8から直近の隣接する2つの面に、かつその奥行き方向の適当間隔毎に、アンカーボルト9を打ち込み、該ボルトの頭部を介して同様の奥行き方向の適当間隔毎に異型鉄筋10を緊結し、これらの部材を含浸させるよう樹脂モルタル11を手詰めにより打設して左官仕上げを行って、隅角部8を補強するものである。
【0013】
又、上下壁面及び又は左右壁面について下地処理を施した上で、含浸接着剤を使って炭素繊維シート12を貼り付け、表面仕上げを行って、コンクリート壁を補強する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかし、この特許文献1では異型鉄筋の配設や樹脂モルタルを手詰めにより打設して左官仕上げを行うことなどで、やはり時間と労力がかかる。施工に時間がかかると、マンホール1は、道路の下の地中に埋設されているため、交通規制が長時間におよび、補修・補強工事が難しいという問題がある。
【0015】
さらに、含浸接着剤を使っての炭素繊維シートを貼り付けに関しては、図17に示すように下地ケレン13による処理、プライマー14による処理、不陸修正材15による不陸修正処理、含浸接着剤(下塗)16a、炭素繊維17、含浸接着剤(上塗)16bによる繊維シート接着処理(樹脂含浸、硬化)などのいくつもの工程を要するため、施工に時間がかかる。
【0016】
本発明の目的は、前記従来例の不都合を解消し、短時間に、効率良く、地中に埋設されたマンホールを道路を通行する車両からの輪荷重などに対する耐力の向上が得られるようにすることのできるマンホールの補強構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
前記目的を達成するため、請求項1記載の本発明は、下床版、側壁、上床版からなる函体の上床版に開口用の首部を接続したマンホールの側壁4隅に台形状のハンチブロックを柱状に積上げて配設したことを要旨とするものである。また、請求項9記載の本発明は、下床版、側壁、上床版からなる函体の縦圧縮に対する荷重と函体の周辺の水平荷重を側壁4隅に柱状に積上げて配設した台形状のハンチブロックで受け止め、また、このハンチブロックの積上げで上床版と側壁との補強を行うことを要旨とするものである。
【0018】
請求項1および請求項9記載の本発明によれば、まず、マンホールの側壁4隅の隅角部の補強を、取り扱いが簡単で取り付け易いハンチブロックを柱状に積上げて配設することで、短時間にかつ効果的に行うことができる。ハンチブロックは施工性を考慮してセグメント化し、セグメント1個あたりの質量を軽量なものとし、揚重を人力で行えるものとした。構造計算でハンチブロックを同サイズの中実のセメントコンクリートハンチとみなして計算することができる。しかもハンチブロックによる柱を側壁4隅に補充するので、函体の縦圧縮に対する荷重と函体の周辺の水平荷重を側壁4隅に柱状に積上げて配設した台形状のハンチブロックで受け止め、また、このハンチブロックの積上げで上床版と側壁との補強を行うことができる。
【0019】
請求項2記載の本発明は、下床版、側壁、上床版からなる函体の上床版に開口用の首部を接続したマンホールの側壁4隅を含む隅角部に台形状のハンチブロックを横並びで配設し、かつ、下床版、側壁、上床版の函体内側面に適宜繊維強化プラスチック製の帯状補強材を接着したことを要旨とするものである。
【0020】
請求項2記載の本発明によれば、前記請求項1の作用に加えて、マンホールの側壁4隅以外も含めて隅角部の補強をハンチブロックを横並びで配設することで、短時間にかつ効果的に行うことができ、 このように隅角部の補強を行った上で、さらに、下床版、側壁、上床版の補強を行うものであり、函体内側面に繊維強化プラスチック製の帯状補強材を接着することで、下床版、側壁、上床版に作用する引張応力に対して、帯状補強材が応力を分担することができ、隅角部の補強との双方の相乗効果で強力な補強が得られる。
【0021】
また、既に硬化された繊維強化プラスチック製の帯状補強材をマンホール内に運び入れ、これを所定箇所に貼り付けるといった極めて簡単な作業にて、作業性良くマンホールを補強することができる。従って、短時間に効率良くマンホールの補強工事を施工することができる。特に、プライマー、接着樹脂として速硬化型の接着樹脂を使用することで、極めて短時間に作業を完了することができる。さらに、炭素繊維シートと比べて単位幅あたりの強度と剛性が高いので、補修箇所の全面に貼り付ける必要も無く間隔を空けての施工も可能である。
【0022】
請求項3記載の本発明は、ハンチブロックは、接着により固定することを要旨とするものである。
【0023】
請求項3記載の本発明によれば、接着により固定することにより簡単に設置できるものである。
【0024】
請求項4記載の本発明は、ハンチブロックは、箱抜きとし、相互にボルトで結合することを要旨とするものである。
【0025】
請求項4記載の本発明によれば、ハンチブロックは箱抜きとし、力学的連結性を容易に実現するために半中空としている。また、相互にボルトで結合することで、接着により固定する際の安定性を高めることができ、連結固定した梁状または柱状の強度をより上げることができる。
【0026】
請求項5記載の本発明は、ハンチブロックはレジンコンクリート製とすることを要旨とするものである。
【0027】
請求項5記載の本発明によれば、レジンコンクリートは、セメントコンクリートに対して5〜7倍の圧縮強さを有している。したがって、ハンチブロックは、中実のセメントコンクリート製ハンチより大きな圧縮性能を有する。特に、接着により固定することにより簡単に設置できる。特に、ハンチブロックをレジンコンクリートで作製しているので接着によりコンクリート製の函体の固定が可能であり、既存マンホールとの接着剤結合により一体化が可能なため、高い補強効果が得られる。ハンチブロックは、工場加工となるため品質が一定となる。
【0028】
請求項6記載の本発明は、ハンチブロックは、角部が函体隅角部と非接触とした火打ちタイプとすることを要旨とするものである。
【0029】
請求項6記載の本発明によれば、ハンチブロックは、中央に位置する数個は角部が隅角部と非接触とすることで火打ち的なものとなり、函体の上床版と側壁とへの、または下床版と側壁とへの荷重の分散を図り、無理のない支持補強とすることができる。
【0030】
請求項7記載の本発明は、ハンチブロックは、繊維強化プラスチック製の帯状補強材の端部を上に重ね、これを上から押さえ込むことを要旨とするものである。
【0031】
請求項7記載の本発明によれば、繊維強化プラスチック製の帯状補強材を接着するのに、ハンチブロックを押さえとすることができ、他の押さえを必要としないで、帯状補強材の貼り付けが可能となる。
【0032】
請求項8記載の本発明は、繊維強化プラスチック製の帯状補強材は、直線形状であり、格子状に直交させて配設することを要旨とするものである。
【0033】
請求項8記載の本発明によれば、繊維強化プラスチック製の帯状補強材は、直線形状であり、格子状に直交させて配設することで縦・横での補強が可能であり、実用上十分の補強効果を得ることができる。
【0034】
請求項10記載の本発明は、ハンチブロックの横並び配設と、繊維強化プラスチック製の帯状補強材の接着の組み合わせを適宜選択することで補強程度を制御することを要旨とするものである。
【0035】
請求項10記載の本発明によれば、ハンチブロックの横並び配設と、繊維強化プラスチック製の帯状補強材の接着の組み合わせを適宜選択することで必要とされる補強程度を制御することが可能となる。
【発明の効果】
【0036】
以上述べたように本発明のマンホールの補強構造は、短時間に効率良くマンホールを補強することができるものである。更に、本発明によれば、道路を通行する車両からの輪荷重などに対する耐力が向上した、補強されたマンホールを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下、図面について本発明の実施の形態を詳細に説明する。図1は本発明のマンホールの補強構造の1実施形態を示す縦断正面図、図2は図1のA−A線矢視図、図3は図1のB−B線矢視図、図4は同上縦断側面図、図5は同上要部の斜視図である。
【0038】
本実施例にて本発明を適用するマンホール1は、構造としては前記図14で説明した通り、矩形の躯体部分(コンクリートボックス)である函体2、円筒状の首部3、及び蓋5を有する。函体2は、上床版2aと、函体2の長手方向に沿う側壁(長手方向側壁)2bと、函体2の短手方向(長手方向に直交する方向)に沿う側壁(短手方向側壁)2cと、下床版2dとで矩形の内部空間を形成する。首部3は、上床版2aに接続され、函体2の内部空間に連通する開口部4を有する。又、函体2の短手方向側壁2cには、ダクトスリーブ6が形成され、管路7が接続される。
【0039】
マンホール1は、RC製プレキャストマンホールとして大分割タイプとして上床版2aと側壁の上半分は一体として製作されるものや現場打ちコンクリートで作製される。
【0040】
このようなマンホール1においては、上床版2aを単純支持(蓋)として側壁を水平ラーメンとして構造計算が行われているので、上床版2aに首部3からの輪荷重がかかると、首部3付近の長手方向側壁2cと上床版2aとの接合部において、上床版2aの上面に引張応力が作用している。コンクリートは、圧縮力には強く、引張力には弱い。又、マンホール1の補強工事を短時間で高率的に行うためには、この上床版2aの上面に対する補強を函体2の内部空間から補強することが求められる。
【0041】
また、側壁(長手方向側壁)2bや側壁(短手方向側壁)2cに水平力が掛かると隅角部外側と側壁中央部内側に引っ張りを発生する。また、輪荷重の増加や側壁の劣化により補強が必要となる。
【0042】
図2に示す長手方向中心線X−Xを中心として、開口部4の径の約1.5倍の範囲において、長手方向側壁2bと上床版2aとの接合部の上床版2aの上面に強い引張応力が発生する。
【0043】
そこで、本発明は、長手方向側壁2bと側壁(短手方向側壁)2cとで成す内部空間側の隅角部8、すなわち、4隅に台形状のハンチブロック19を横並びで柱状に積上げて配設する。
【0044】
また、上床版2aの下面と長手方向側壁2bとで成す函体2の内部空間側の隅角部8にハンチブロック19、20を横並びで配設し、下床版2dの上面と長手方向側壁2bとで成す函体2の内部空間側の隅角部8にハンチブロック20を横並びで配設する。
【0045】
上床版2aの下面と長手方向側壁2bとで成す函体2の内部空間側の隅角部8の開口部周辺にハンチブロック19を配設する。このハンチブロック19、20は函体2の隅角部8がハンチ形状であるので、これに見合う台形状の立体であるが、ハンチブロック19は、上床版2aの下面と長手方向側壁2bとで成す函体2の内部空間側、下床版2dの上面と長手方向側壁2bとで成す函体2の内部空間側の隅角部8では、横並びのうち中央に位置するブロック、ハンチブロック20は左右に位置するブロックである。また、長手方向側壁2bと側壁(短手方向側壁)2cとで成す内部空間側の隅角部8ではハンチブロック19を上下方向に積み重ねる。
【0046】
ハンチブロック20は、図9〜図11に示すように、隅角部8のハンチ形状と合致するもので、ハンチの傾斜面8aに接合する天端面20aがあり、この天端面20aから連続する側面20b、20cは上床版2aと側壁2bに接合する面である。
【0047】
ハンチブロック19は、図6〜図8に示すように、隅角部8のハンチの傾斜面8aに接合しない天端面19aを有するものとし、設置の際に、角部が内部空間側の隅角部8と非接触で隙間α(図5参照)を確保する火打ち的なものとする。天端面19aから連続する側面19b、19cは上床版2aと側壁2bに接合する面である点はハンチブロック20と同じである。
【0048】
ハンチブロック19、20ともに箱抜きとし、ボルト貫通孔22を設けて相互にボルト23(及びナット)で結合するものとする。又、天端面19a、20aを貫通するアンカーボルト用貫通孔24を形成し、把手取付用の埋め込みナット25を側面19b、20b、19c、20cと反対側の箱抜き内面に埋設した。なお、前記アンカーボルト用貫通孔24はすべてのハンチブロック19、20に設ける必要はなく、これを設けるものと、設けないものとを併存させてもよい。前記把手取付用の埋め込みナット25に対しては、図示は省略するが、コ字形の把手の根元部に設けた板体を蝶ボルトでこの埋め込みナット25に固定する。このようにすれば、コ字形の把手をハンチブロック19、20の裏側左右に設けることができ、嵌め込みの際の支持を行うことができる。
【0049】
ハンチブロック19、20を構成する材質としては、セメントの代わりに酸に強い不飽和ポリエステル樹脂,ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂などを使用し、骨材、充填材と混合、成形したレジンコンクリートが好適であり、素材となるレジンコンクリートは、セメントコンクリートに比べて5〜7倍の圧縮強さを有しており、しかも軽量化できる。
【0050】
レジンコンクリートは、各種薬品に対して優れた耐食性を示し、特に、硫化水素による腐食には抜群の強さを示す。樹脂だけでなく、骨材や充填材にも耐摩耗性の大きな材料を使用しているため摩耗作用に対しても大きな抵抗を有し、耐久性に優れる。吸水率が非常に小さく、凍結融解による強度劣化がない。又、表面がなめらかで水理特性に優れる。
【0051】
ハンチブロック19、20はレジンコンクリートの一例として下記表1の物性を有する。
【表1】

【0052】
なお、ハンチブロック19、20は前記レジンコンクリートの他に構成する材質としては、コンクリート、アルミダイガスト等の鋳物等特に限定はない。
【0053】
レジンコンクリート製のハンチブロック19、20は接着により固定するものであり、接着剤の規格としては下記表2のものを使用できる。
【表2】

【0054】
本発明は、上床版2aと、函体2の長手方向に沿う側壁(長手方向側壁)2bと、下床版2dの函体内側面に繊維強化プラスチック製の帯状補強材18を接着樹脂を用いて接着した。
【0055】
帯状補強材18は直線形状であり、上床版2aと下床版2dについては、格子状に直交させて配設する。また、側壁(長手方向側壁)2bについては、複数段あるいはハ字にして交差させない場合と格子状に交差させる場合がある。
【0056】
さらに、開口部4の周りの上床版2aの下面aには、円弧形の繊維強化プラスチック(FRP)製の補強材(以下「円弧形補強材」という。)18′を、接着樹脂を用いて接着した。
【0057】
繊維強化プラスチック製の帯状補強材18や円弧形補強材18′はこれに、一方向配列の炭素繊維を熱硬化性樹脂に含浸させ、板状に成型硬化させた炭素繊維補強(CFRP)プレートを用いる場合は、特殊エポキシ樹脂等でコンクリート表面に貼付けるものである。
【0058】
CFRPプレートの特長は以下の通りである。
(1) CFRPプレートは炭素繊維シートと比べて単位幅あたりの強度と剛性が高いので、補修箇所の全面に貼り付ける必要も無く間隔を空けての施工も可能である。
(2) CFRPプレート1枚は炭素繊維シート6層分に相当し大きな補強効果が得られるため、複層枚数貼り付ける必要が無く、作業量が大幅に減少する。
(3) 高強度の炭素繊維を用いているため、補強効果が高い。
(4) 施工現場で含浸用の含浸・接着剤を使用しないため、上向き施工での作業者の負担や養生も軽減できる。さらに、短時間での施工が可能である。
(5)
軽量であるため、人手で容易に施工ができ、狭い場所での補強工事が可能である。
(6)
接着だけで補強する工法であり、コンクリート躯体を傷つけずに補強できる。
(7)
炭素繊維のFRPとエポキシ樹脂の接着剤にて補強を行う工法となり、錆・腐食の心配が無く耐久性に優れる。
(8)
円弧形補強材18′は、炭素繊維が周方向に配向されているため、円孔部分に放射状に入るひび割れに対しての拘束効果が高い。
【0059】
円弧形補強材18′は、開口部4を通るマンホール1の長手方向の中心線X−Xを基準(0°)として±90°の半円形として、2つが組み合わされて円形となるものとする。
【0060】
これら帯状補強材18および円弧形補強材18′は、一例として下記表3,4の規格を有する。
【表3】

【表4】

【0061】
マンホール1の首部3の高さは、通常、50cm〜1mであり、又、開口部4の内径は60〜90cmである。そして、既に硬化された、所定幅を有する帯状補強材18および円弧形補強材18′は、この首部3の開口部4を通して函体2内に運び入れることができる大きさである。
【0062】
図12に示すように、帯状補強材18および円弧形補強材18′は、一方向に引き揃えられた連続繊維である強化繊維f1の層(以下「一方向繊維層」という。)F1を有することが好ましい。そして、強化繊維f1にマトリクス樹脂が含浸され、硬化されることで形成される。
【0063】
一方向に配列される強化繊維f1は、多数本のフィラメントを平行に或いは緩く撚りを掛けて集束して作製されるストランド、或いはこのストランドを更に複数本平行に或いは緩く撚りを掛けて集束したもの(ロービング、ヤーン)とされる。これにより、帯状補強材18および円弧形補強材18′の一方向繊維層F1は、フィラメントが複数層に積層され一方向に配向された状態でマトリクス樹脂により接着された一方向配列繊維組織を有することになる。
【0064】
強化繊維f1としては、前記炭素繊維(CFRP)の他には、ガラス繊維、セラミック繊維、ボロン繊維を含む無機繊維;チタン、スチールを含む金属繊維;アラミド、ポリエステル、ポリエチレン、ナイロン、ビニロン、ポリアセタール、PBO(ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール)、高強度ポリプロピレンを含む有機繊維から選択されるいずれかの繊維、或いは、これらの繊維を複数種類混入したハイブリッドタイプの繊維を使用することができる。
【0065】
帯状補強材18および円弧形補強材18′を構成する一方向繊維層F1としては、強化繊維f1を略均一に互いに密に一方向に配置した一方向配列強化繊維シートを用いてもよい。なお、帯状補強材18および円弧形補強材18′は、同種若しくは異種の強化繊維f1から成る実質的に複数層の一方向繊維層F1を有していてよい。
【0066】
又、一方向繊維層F1の他に、一方向繊維層F1の第1面(表面)及び/又は第2面(裏面)に、補助層を設けることもできる。
【0067】
さらに、帯状補強材18および円弧形補強材18′は、図13に示すように、断面中心部に一方向繊維層F1として導電性を有する強化繊維f1の層を有する。更に、この帯状補強材18および円弧形補強材18′は、この一方向繊維層F1の外側、ここでは、一方向繊維層F1の第1面(表面)及び第2面(裏面)に、電気絶縁性を有する強化繊維f2の層(補助層)F2を積層した断面構造(サンドイッチ構造)を有することもできる。
【0068】
好ましくは、一方向繊維層F1の強化繊維f1として導電性を有する繊維である炭素繊維を用いる場合に、補助層F2の電気絶縁性を有する強化繊維f2としてガラス繊維を好適に用いることができる。又、ガラス繊維f2から成る補助層F2の組織としては、マットを好適に採用し得る。
【0069】
このように、一方向繊維層F1を構成する強化繊維f1が導電性繊維である場合に、その少なくとも一面(マンホールに適用した際に函体2の内部空間に面する側)に電気絶縁性を有する強化繊維f2を配置することによって、マンホール1内での万一の漏電などに対する安全性を高める効果がある。
【0070】
又、帯状補強材18および円弧形補強材18′の強化繊維の体積含有率は、所望の引張強度が得られ、又、樹脂含浸性も良好であるように、通常、20〜70体積%とされる。
【0071】
又、図13に示すように、帯状補強材18および円弧形補強材18′の外側にガラス繊維マットから成る補助層F2を設ける場合、ガラス繊維マットの繊維目付は300〜2,000g/m2とすることができる。これにより、マトリクス樹脂を含浸して硬化させた後の帯状補強材18および円弧形補強材18′(一方向繊維層F1及び補助層F2を含む)の厚さtは、0.5〜20mmとされる。
【0072】
次に、帯状補強材18および円弧形補強材18′を函体2の長手方向に沿う側壁(長手方向側壁)2bと、下床版2dの函体内側面に貼り付ける工程、ハンチブロック19、20の設置について更に説明する。本発明に従う帯状補強材18および円弧形補強材18′の貼り付け工程は、次の各工程の全て或いはいずれかの組み合わせを有する。
【0073】
(準備工)
補強する範囲を清掃、乾燥及び墨出し、墨出しした部分はサンダー等で下地ケレン・サンディングする。
【0074】
(上床版補強工)
下地ケレンした面にプライマーを塗布し、帯状補強材18にて補強する箇所は接着剤をコンクリート面と帯状補強材18のそれぞれに塗布し、帯状補強材18を接着し、円弧形補強材18′にて補強する箇所も同様にして行う。
長手面隅角部の中心にハンチブロック19を仮合わせし、コンクリートドリルで穿孔し、ホールインアンカーを打ち込み、ボルトを取り付ける。
補強範囲面に接着剤を塗布する。
ハンチブロック19の背面にも接着剤を塗布し、ボルト穴にボルトを通し、ワッシャー、六角ナットでハンチブロック19を締め付ける。その際、円弧形補強材18′の端部固定も兼用するため位置確認を充分に行う。
長手面中心に接着したハンチブロック19を基準にして上記の作業を繰り返し、横並びに3ブロック接着する。その左右にハンチブロック20を順番に接着する。また、反対側の長手面隅角部についても同様な手順でブロックを接着する。
【0075】
(側壁補強)
側壁2b面に帯状補強材18にて補強する箇所は同様にして行う。
側壁隅角部下面に上記の要領でハンチブロック19を接着する。このとき、下部ハンチに当たらないように、下床板とハンチブロックの間に板等を挟んでハンチブロックの高さを調整する。
このハンチブロック19を基準とし、上方へブロックを順番に接着していく。このときハンチブロック19同士も接着剤を塗布し、ボルトで連結する。
同様にして、残りの3つの隅角部についても順番にハンチブロックを接着していく。
【0076】
(下床版補強)
下地ケレンした面にプライマーを塗布する。
帯状補強材18にて補強する箇所は同様にして行う。
下床板2dの長手面隅角部の中心から、上記の要領で横並びにブロックを接着する。このときハンチブロック20同士も接着剤を塗布し、ボルトで連結する。
反対方向にもブロックを接着する。
同様にして、下床版2dの長手面隅角部の反対面もブロックを接着する。
最後に、下床版2dに接着した帯状補強材18の段差が著しい場合は、樹脂系モルタルにて段差を解消する。
【0077】
以上説明したように、既設コンクリートマンホールの補修・補強の最重要点は上床版の開口部裏側と隅角部表側に生ずる曲げ引張りの補修・補強を適確に行うことであり、地中に埋設されたマンホール1は、その補修の必要程度に応じて、帯状補強材18および円弧形補強材18′とハンチブロック19または20を適宜選択して所定箇所に取り付けることによって、開口部4の周りの上床版2aの下面に作用する引張応力、上床版2aの上面の端部に作用する引張応力の両方、即ち、首部3を介して函体2に作用する輪荷重によってマンホール1に発生する主要な引張応力に対して、マンホール1の内側から短時間に効率良く補強を施すことができる。
【0078】
なお、前記実施例では、コンクリート構造物は、通信ケーブルの分岐スペース等として使用されるマンホールであるとして説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明は、前記マンホールにて極めて有効に作用するものであるが、躯体部分と、この躯体部分の上床版に接続され前記躯体部分の内部空間に連通する開口部を具備する円筒状の首部とを有し、地中に埋設されて使用される任意のコンクリート構造物に対して等しく適用し得るものである。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明のマンホールの補強構造の1実施形態を示す縦断正面図である。
【図2】図1のA−A線矢視図である。
【図3】図1のB−B線矢視図である。
【図4】本発明のマンホールの補強構造の1実施形態を示す縦断側面図である。
【図5】本発明のマンホールの補強構造の1実施形態を示す要部の斜視図である。
【図6】ハンチブロックの第1例を示す底面図である。
【図7】図6のA−A線断面図である。
【図8】図6のB−B線断面図である。
【図9】ハンチブロックの第2例を示す底面図である。
【図10】図9のA−A線断面図である。
【図11】図9のB−B線断面図である。
【図12】帯状補強材、円弧形補強材の一実施例の斜視図である。
【図13】帯状補強材、円弧形補強材の他の実施例の断面図である。
【図14】マンホールの一例の模式図である。
【図15】マンホールの応力分布(曲げモーメント)の関係を示す説明図である。
【図16】従来例を示す要部の断面図である。
【図17】他の従来例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0080】
1…マンホール 2…函体
2a…上床版 2b、2c…側壁
2d…下床版 3…首部
4…開口部 5…蓋
6…ダクトスリーブ 7…管路
8…隅角部 8a…傾斜面
9…アンカーボルト 10…異型鉄筋
11…樹脂モルタル 12…炭素繊維シート
13…下地ケレン 14…プライマー
15…不陸修正材 16a、16b…含浸接着剤
17…炭素繊維 18…帯状補強材
18′…円弧形補強材
19、20…ハンチブロック 19a、20a…天端面
19b、19c、20b、20c…側面
22…ボルト貫通孔 23…ボルト
24…アンカーボルト用貫通孔 25…埋め込みナット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下床版、側壁、上床版からなる函体の上床版に開口用の首部を接続したマンホールの側壁4隅に台形状のハンチブロックを柱状に積上げて配設したことを特徴とするマンホールの補強構造。
【請求項2】
下床版、側壁、上床版からなる函体の上床版に開口用の首部を接続したマンホールの側壁4隅を含む隅角部に台形状のハンチブロックを横並びで配設し、かつ、下床版、側壁、上床版の函体内側面に適宜繊維強化プラスチック製の帯状補強材を接着したことを特徴とするマンホールの補強構造。
【請求項3】
ハンチブロックは、接着により固定する請求項1または請求項2記載のマンホールの補強構造。
【請求項4】
ハンチブロックは、箱抜きとし、相互にボルトで結合する請求項3記載のマンホールの補強構造。
【請求項5】
ハンチブロックはレジンコンクリート製とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のマンホールの補強構造。
【請求項6】
ハンチブロックは、角部が函体隅角部と非接触とした火打ちタイプとする請求項1ないし請求項5のいずれかに記載のマンホールの補強構造。
【請求項7】
ハンチブロックは、繊維強化プラスチック製の帯状補強材の端部を上に重ね、これを上から押さえ込む請求項1ないし請求項6のいずれかに記載のマンホールの補強構造。
【請求項8】
繊維強化プラスチック製の帯状補強材は、直線形状であり、格子状に直交させて配設する請求項1ないし請求項7のいずれかに記載のマンホールの補強構造。
【請求項9】
下床版、側壁、上床版からなる函体の縦圧縮に対する荷重と函体の周辺の水平荷重を側壁4隅に柱状に積上げて配設した台形状のハンチブロックで受け止め、また、このハンチブロックの積上げで上床版と側壁との補強を行う請求項1ないし請求項8のいずれかに記載のマンホールの補強構造。
【請求項10】
ハンチブロックの横並び配設と、繊維強化プラスチック製の帯状補強材の接着の組み合わせを適宜選択することで補強程度を制御する請求項2記載のマンホールの補強構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2008−2175(P2008−2175A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−173403(P2006−173403)
【出願日】平成18年6月23日(2006.6.23)
【出願人】(000162593)株式会社協和エクシオ (57)
【出願人】(000153340)日本メックス株式会社 (7)
【出願人】(599104369)日鉄コンポジット株式会社 (51)
【出願人】(591287222)株式会社サンレック (10)
【Fターム(参考)】