説明

ミクロ相分離構造膜、ナノ多孔質膜、およびそれらの製造方法

【課題】耐熱性に優れたナノ多孔質膜、およびこのナノ多孔質膜を容易に製造するためのミクロ相分離構造膜を提供すること。
【解決手段】親水性ポリマーセグメントと、2個以上の重合可能な基を有する疎水性ポリマーセグメントとが、酸、塩基および還元剤からなる群から選択される少なくとも1種により切断可能な共有結合により結合したブロック共重合体またはその架橋構造体を含有することを特徴とするミクロ相分離構造膜、およびこのミクロ相分離構造膜を酸、塩基および還元剤からなる群から選択される少なくとも1種で処理して前記共有結合を切断した後、前記親水性ポリマーセグメントおよび前記疎水性ポリマーセグメントのうちのいずれか一方を除去することにより得られることを特徴とするナノ多孔質膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミクロ相分離構造膜、ナノ多孔質膜、およびそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノ細孔を有する多孔質膜は、機能性分離膜として有用である他、触媒や薬効成分などの各種機能性材料の担体として有用である。このようなナノ多孔質膜の製造方法の1つとして、ミクロ相分離構造膜を構成するブロック共重合体の一方のポリマーセグメントからなる相を除去してナノ細孔を形成する方法が知られている。
【0003】
例えば、2種類のポリマー相が規則的に配列したブロックコポリマー層に、プラズマ、光(紫外線など)、電子線などのエネルギー線や熱などを照射して一方のポリマー相を分解除去して細孔を形成する方法が開示されている(例えば、特開2003−155365号公報(特許文献1)、特表2004−502554号公報(特許文献2)など)。しかしながら、この方法ではプラズマなどを照射する装置が必要であり、より簡便に細孔を形成することができる方法が求められてきた。
【0004】
一方、特開2004−124088号公報(特許文献3)には、親水性ポリマー成分(A)および疎水性ポリマー成分(B)が共有結合によって結合したブロック共重合体を用いたミクロ相分離構造膜の製造方法が開示されており、ポリエチレングリコールとポリメタクリレートをエステル結合させたブロック共重合体を用いて製造したミクロ相分離構造膜が具体的に開示されている。しかしながら、このミクロ相分離構造膜は耐熱性に劣るものであった。
【特許文献1】特開2003−155365号公報
【特許文献2】特表2004−502554号公報
【特許文献3】特開2004−124088号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、耐熱性に優れたナノ多孔質膜、このナノ多孔質膜を容易に製造するためのミクロ相分離構造膜、およびそれらの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、親水性ポリマーセグメントと、2個以上の重合可能な基を有する疎水性ポリマーセグメントとが酸、塩基および還元剤からなる群から選択される少なくとも1種により切断可能な共有結合により結合したブロック共重合体を含有する塗膜形成用組成物を用いて塗膜を形成し、この塗膜に硬化処理を施すことによって、前記ブロック共重合体の架橋構造体を含有するミクロ相分離構造膜を形成することができ、また、容易に前記ブロック共重合体の共有結合を切断して一方のポリマーセグメントを除去して膜中にナノ細孔を形成することができ、さらに、このナノ多孔質膜が耐熱性に優れるものであることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明のミクロ相分離構造膜は、親水性ポリマーセグメントと、2個以上の重合可能な基を有する疎水性ポリマーセグメントとが、酸、塩基および還元剤からなる群から選択される少なくとも1種により切断可能な共有結合により結合したブロック共重合体またはその架橋構造体を含有することを特徴とするものである。
【0008】
このようなミクロ相分離構造膜において、前記共有結合は、イミノ結合、ジスルフィド結合、アセタール結合、ジアジド結合およびエステル結合からなる群から選択される少なくとも1種の結合であることが好ましい。
【0009】
また、前記疎水性ポリマーセグメントとしては、下記式(1):
【0010】
【化1】

【0011】
[式(1)中、Lは、単結合、−COO−および−O−からなる群から選択される1種の結合を表し、Rは、単結合、−(CH−〔nは1〜20の整数である〕、および−(CHO−〔nは1〜20の整数である〕からなる群から選択される1種の結合を表し、Rは、単結合、−O−、−COO−、−OOC−、−OCOO−、−(CH−〔nは1〜20の整数である〕、−(CHO−〔nは1〜20の整数である〕、−O(CH−〔nは1〜20の整数である〕、および−O(CHO−〔nは1〜20の整数である〕からなる群から選択される1種の結合を表し、Rは水素原子またはメチル基を表し、Mはメソゲン基を表し、Pは重合可能な基を表し、mは2以上である。]
で表される繰り返し単位を含有するものが好ましく、前記式(1)中のPがオキセタン基であるものがより好ましい。
【0012】
一方、前記親水性ポリマーセグメントとしては、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸およびポリメタクリル酸からなる群から選択される少なくとも1種のポリマーから形成されたものが好ましい。
【0013】
本発明のミクロ相分離構造膜において、前記ブロック共重合体の分子量分布(Mw/Mn)は1.6以下であることが好ましく、且つ前記疎水性ポリマーセグメントは、分子量分布(Mw/Mn)が1.5以下の疎水性ポリマーにより形成されたものであることが好ましい。また、前記疎水性ポリマーセグメントとしては、前記ブロック共重合体の数平均分子量の5〜95%の数平均分子量を有する疎水性ポリマーにより形成されたものが好ましい。さらに、前記ブロック共重合体の数平均分子量は3000〜300000であることが好ましい。
【0014】
このような本発明のミクロ相分離構造膜は、親水性ポリマーセグメントと、2個以上の重合可能な基を有する疎水性ポリマーセグメントとが酸、塩基および還元剤からなる群から選択される少なくとも1種により切断可能な共有結合により結合したブロック共重合体、溶媒、および必要に応じてカチオン性開始剤を含有する塗膜形成用組成物を基板(好ましくは樹脂基板または配向処理された樹脂基板)上に塗布する工程、前記基板上の塗膜を乾燥させて塗膜中の溶媒を除去する工程、および前記溶媒を除去した塗膜を加熱してミクロ相分離構造を形成する工程を含む方法によって製造することができる。前記ミクロ相分離構造を形成する工程においては、前記塗膜を前記ブロック共重合体のガラス転移温度より高い温度で加熱することが好ましい。
【0015】
また、本発明においては、前記ミクロ相分離構造膜を酸、塩基および還元剤からなる群から選択される少なくとも1種で処理して前記共有結合を切断することができる。
【0016】
さらに、本発明のミクロ相分離構造膜の製造方法においては、前記ミクロ相分離構造を形成した塗膜に紫外線照射または加熱処理を施して前記ミクロ相分離構造を固定化することが好ましい。
【0017】
本発明のナノ多孔質膜は、上記のように、酸、塩基および還元剤からなる群から選択される少なくとも1種で処理して前記共有結合が切断されたミクロ相分離構造膜を、水または有機溶媒で洗浄して、前記親水性ポリマーセグメントおよび前記疎水性ポリマーセグメントのうちのいずれか一方を除去し、空孔を形成することによって製造することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、耐熱性に優れたナノ多孔質膜、およびこのナノ多孔質膜を容易に製造するためのミクロ相分離構造膜を得ることできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0020】
先ず、本発明のミクロ相分離構造膜について説明する。本発明のミクロ相分離構造膜は、親水性ポリマーセグメントと、2個以上の重合可能な基を有する疎水性ポリマーセグメントとが、酸、塩基および還元剤からなる群から選択される少なくとも1種により切断可能な共有結合により結合したブロック共重合体またはその架橋構造体を含有し、前記親水性ポリマーセグメントからなる相と前記疎水性ポリマーセグメントからなる相によってミクロ相分離構造が形成されていることを特徴とするものである。
【0021】
本発明のミクロ相分離構造膜においては、前記親水性ポリマーセグメントと前記疎水性ポリマーセグメントとを有するブロック共重合体が、1本の同一ポリマー中で構成ポリマーセグメント間の斥力的相互作用が働くことにより相分離構造を形成する。このミクロ相分離構造としてはラメラ構造、シリンダー構造、ジャイロイド構造、スフィアー構造などが挙げられ、このような形態はブロック共重合体の体積分率で決まる。また、このようなミクロ相分離構造の大きさとしては、例えば、シリンダー構造の場合には、平均径が0.1〜100nmであることが好ましく、1〜30nmであることがより好ましい。前記平均径が上記下限未満になると十分なミクロ相分離構造を形成しにくい傾向にあり、他方、分子量分布が狭い高分子量のセグメントが合成しにくいため、平均径が上記上限を超える相を形成することは困難な傾向にある。
【0022】
<ブロック共重合体およびその架橋構造体>
本発明に用いられるブロック共重合体は、親水性ポリマーセグメントと、2個以上の重合可能な基を有する疎水性ポリマーセグメントとが、酸、塩基および還元剤からなる群から選択される少なくとも1種により切断可能な共有結合により結合したものである。また、本発明に用いられるブロック共重合体の架橋構造体は、前記ブロック共重合体中の重合可能な基が反応して架橋構造を形成したものである。
【0023】
前記共有結合としては、酸、塩基および還元剤からなる群から選択される少なくとも1種により切断可能なものであれば特に制限はないが、例えば、イミノ結合、ジスルフィド結合、アセタール結合、ジアジド結合およびエステル結合が好ましい。また、前記ブロック共重合体中には、このような結合が1種類含まれていても2種類以上含まれていてもよい。中でも、結合をより温和な条件で切断できる観点からイミノ結合がより好ましい。
【0024】
このようなブロック共重合体の数平均分子量(Mn)としては3000〜300000が好ましく、5000〜100000がより好ましい。ブロック共重合体の数平均分子量が上記下限未満になると十分なミクロ相分離構造を形成しにくい傾向にあり、他方、上記上限を超えると分子量分布が狭いブロック共重合体を合成しにくくなり、平均径が均一なミクロ相分離構造を形成することが困難であり、また、細孔径が均一なナノ多孔質膜を得にくい傾向にある。
【0025】
また、ブロック共重合体の分子量分布(Mw/Mn)は1.0に近いほど好ましいが、合成上1.0より若干大きくなる傾向にあり、その上限としては1.6以下が好ましく、1.4以下がより好ましい。ブロック共重合体の分子量分布が上記上限を超えるとミクロ相分離構造やナノ細孔の周期性がなくなる傾向にある。
【0026】
なお、ブロック共重合体の数平均分子量(Mn)および重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により測定し、標準ポリスチレンの分子量に換算した値である。
【0027】
(親水性ポリマーセグメント)
前記ブロック共重合体中の親水性ポリマーセグメントとしては特に制限はないが、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸およびポリメタクリル酸からなる群から選択される少なくとも1種のポリマーから形成されたものが挙げられ、中でも、ポリエチレンオキシドおよびポリプロピレンオキシドからなる群から選択される少なくとも1種のポリマーから形成されたものが好ましい。本発明に用いられるブロック共重合体は、このような親水性ポリマーセグメントを備えているため、疎水性ポリマーセグメントとの間の斥力的相互作用によりミクロ相分離構造を形成することが可能となり、規則性に優れたミクロ相分離構造を有する膜を形成することができる。
【0028】
このような親水性ポリマーセグメントは、前記ブロック共重合体の数平均分子量の5〜95%(より好ましくは10〜90%)の数平均分子量を有するポリマーにより形成されたものであることが好ましい。親水性ポリマーセグメントを前記範囲の数平均分子量を有するポリマーにより形成させると共有結合切断によって容易にミクロ相分離構造膜に空孔を形成することができる傾向にある。
【0029】
また、親水性ポリマーセグメントは、分子量分布(Mw/Mn)が1.5以下(より好ましくは1.3以下)のポリマーにより形成されたものであることが好ましい。親水性ポリマーセグメントを前記上限を超える分子量分布のポリマーにより形成させると規則的なミクロ相分離構造やナノ細孔を形成しにくい傾向にある。
【0030】
なお、前記ポリマーの数平均分子量(Mn)および重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により測定し、標準ポリスチレンの分子量に換算した値である。
【0031】
(疎水性ポリマーセグメント)
前記ブロック共重合体中の疎水性ポリマーセグメントとしては、2個以上の重合可能な基を有する疎水性のものであれば特に制限はないが、例えば、下記式(1):
【0032】
【化2】

【0033】
で表される繰り返し単位を含有するものが好ましい。
【0034】
前記式(1)において、Lは、単結合、−COO−および−O−からなる群から選択される1種の結合を表す。Rは、単結合、−(CH−〔nは1〜20の整数(好ましくは2〜12の整数)である〕、および−(CHO−〔nは1〜20の整数(好ましくは2〜12の整数)である〕からなる群から選択される1種の結合を表す。Rは、単結合、−O−、−COO−、−OOC−、−OCOO−、−(CH−〔nは1〜20の整数(好ましくは2〜12の整数)である〕、−(CHO−〔nは1〜20の整数(好ましくは2〜12の整数)である〕、−O(CH−〔nは1〜20の整数(好ましくは2〜12の整数)である〕、および−O(CHO−〔nは1〜20の整数(好ましくは2〜12の整数)である〕からなる群から選択される1種の結合を表す。Rは水素原子またはメチル基を表す。Mはメソゲン基を表し、Pは重合可能な基を表す。mは2以上、好ましくは5〜1000である。
【0035】
前記重合可能な基としては、オキセタン基、ビニル基、アクリル基、メタクリル基、ビニルエーテル基、シンナモイル基、アリル基、アセチレニル基、クロトニル基、アジリジニル基、エポキシ基、イソシアネート基、チオイソシアネート基、アミノ基、水酸基、メルカプト基、カルボン酸基、アシル基、ハロカルボニル基、アルデヒド基、スルホン酸基、およびシラノール基などが挙げられ、中でも、オキセタン基が好ましい。本発明に用いられるブロック共重合体は、このような重合性末端基を有する疎水性ポリマーセグメントを備えているため、架橋構造を形成することができ、架橋することにより自己支持性、耐熱性、機械強度に優れたミクロ相分離構造膜やナノ多孔質膜を形成することが可能となる。
【0036】
前記メソゲン基としては、下記式:
【0037】
【化3】

【0038】
【化4】

【0039】
で表されるものなどが挙げられ、中でも、下記式:
【0040】
【化5】

【0041】
で表されるものが好ましい。本発明に用いられるブロック共重合体は、このようなメソゲン基を側鎖に有する疎水性ポリマーセグメントを備えているため、親水性ポリマーセグメント間の斥力的相互作用によりミクロ相分離構造を形成する際に、メソゲン基の配向方向が揃いやすいという特徴を利用することができ、長距離秩序を有し、膜厚の厚い、規則性に優れたミクロ相分離構造膜やナノ多孔質膜を形成することが可能となる。
【0042】
このような疎水性ポリマーセグメントは、前記ブロック共重合体の数平均分子量の5〜95%(より好ましくは10〜90%)の数平均分子量を有するポリマーにより形成されたものであることが好ましい。疎水性ポリマーセグメント前記範囲の数平均分子量を有するポリマーにより形成させると共有結合切断によって容易にミクロ相分離構造膜に空孔を形成することができる傾向にある。
【0043】
また、疎水性ポリマーセグメントは、分子量分布(Mw/Mn)が1.5以下(より好ましくは1.3以下)のポリマーにより形成されたものであることが好ましい。疎水性ポリマーセグメントを前記上限を超える分子量分布のポリマーにより形成させると規則的なミクロ相分離構造やナノ細孔を形成しにくい傾向にある。
【0044】
なお、前記ポリマーの数平均分子量(Mn)および重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により測定し、標準ポリスチレンの分子量に換算した値である。
【0045】
本発明に用いられるブロック共重合体は、このような親水性ポリマーセグメントと疎水性ポリマーセグメントとが、酸、塩基および還元剤からなる群から選択される少なくとも1種により切断可能な共有結合したものであり、親水性ポリマーセグメントと疎水性ポリマーセグメントが一方のポリマーセグメントの片末端に他方のポリマーセグメントが結合したA−B型のものであっても、一方のポリマーセグメントの両末端に他方のポリマーセグメントが結合したA−B−A型のものであってもよい。
【0046】
また、前記ブロック共重合体の製造方法としては、親水性ポリマーセグメントを形成するポリマーと疎水性ポリマーセグメントを形成するポリマーをそれぞれ合成した後、これらのポリマーを反応させる方法;親水性ポリマーセグメントを形成する親水性ポリマーを合成した後、この親水性ポリマーに前記共有結合により重合性モノマーを結合し、さらに、この重合性モノマーを出発点として疎水性ポリマーセグメントを形成するモノマーを重合させる方法;疎水性ポリマーセグメントを形成する疎水性ポリマーを合成した後、この疎水性ポリマーに親水性ポリマーセグメントを形成するモノマーを重合させる方法、などが挙げられる。
【0047】
本発明のミクロ相分離構造膜中の前記ブロック共重合体またはその架橋構造体の含有率としては、50〜100質量%が好ましく、80〜100質量%がより好ましい。ブロック共重合体またはその架橋体の特性が十分に発現せず、自己支持性、耐熱性、機械強度に優れたミクロ相分離構造膜やナノ多孔質膜を形成しにくい傾向にある。
【0048】
次に、本発明のナノ多孔質膜について説明する。本発明のナノ多孔質膜は、このような本発明のミクロ相分離構造膜を酸、塩基および還元剤からなる群から選択される少なくとも1種で処理して前記共有結合を切断した後、前記親水性ポリマーセグメントおよび前記疎水性ポリマーセグメントのうちのいずれか一方を除去することにより得られるものであり、ナノオーダーの空孔を有することを特徴とするものである。
【0049】
本発明のナノ多孔質膜の平均細孔径としては0.1〜100nmが好ましく、1〜30nmがより好ましい。前記平均細孔径が上記下限未満になると上記下限未満の平均細孔径に対応するミクロ相分離構造を十分に形成しにくいため、平均細孔径が上記下限未満のナノ多孔質膜は得ることは困難な傾向にあり、分子量分布が狭い高分子量のセグメントが合成しにくく、上記上限を超える平均細孔径に対応するミクロ相分離構造を十分に形成しにくいため、平均細孔径が上記上限を超えるナノ多孔質膜は得ることは困難な傾向にある。
【0050】
次に、本発明のミクロ相分離構造膜の製造方法について説明する。本発明のミクロ相分離構造膜の製造方法は、前記ブロック共重合体、溶媒、および必要に応じてカチオン性重合開始剤を含有する塗膜形成用組成物を基板上に塗布する工程、前記基板上の塗膜を乾燥させて塗膜中の溶媒を除去する工程、および前記溶媒を除去した塗膜を加熱してミクロ相分離構造を形成する工程を含むことを特徴とする方法である。
【0051】
前記基板としては特に制限はないが、例えば、ポリフェニレンサルファイド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリケトンサルファイド、ポリエーテルスルフォン、ポリスルフォン、ポリフェニレンオキサイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリアリレート、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリビニルアルコール、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ−4−メチルペンテン−1樹脂、セルロース系プラスチックス(トリアセチルセルロースなど)、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、または高分子液晶などからなる樹脂基板およびそれを配向処理したもの、ガラス(青板ガラス、アルカリガラス、無アルカリガラス、ホウ珪酸ガラス、フリントガラスまたは石英ガラス)、シリコン基板、石英基板などの無機基板、アルミ、鉄、銅などの金属基板が挙げられる。また、これらの基板上には他の被膜、例えば、ポリイミド膜、ポリアミド膜、ポリビニルアルコール膜などの有機膜、酸化珪素などの斜め蒸着膜、ITO(インジウム−錫酸化物)などの透明電極膜、蒸着またはスパッタにより形成される金、アルミニウムまたは銅などの金属薄膜が設けられていてもよい。これらの基板は、取り扱い性、コスト、耐熱性などを考慮して適宜選択することができる。
【0052】
前記溶媒としては、前記ブロック共重合体が十分に溶解するものであれば特に制限はないが、例えば、テトラヒドロフラン(THF)、ペンタン、ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素類、クロロホルム、ジクロロメタン、四塩化炭素、ジクロロエタン、テトラクロロエタン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、クロロベンゼン、オルソジクロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素類、フェノール、パラクロロフェノールなどのフェノール類、ベンゼン、トルエン、キシレン、メトキシベンゼン、1、2−ジメトキベンゼンなどの芳香族炭化水素類、イソプロピルアルコール、tert−ブチルアルコールなどのアルコール類、グリセリン、エチレングリコール、トリエチレングリコールなどのグリコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、エチルセルソルブ、ブチルセルソルブなどのグリコールエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、γ−ブチロラクトン、ジオキサン、ジエチルエーテル、酢酸エチル、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、ピリジン、トリエチルアミン、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、ブチロニトリル、二硫化炭素、およびこれらの混合溶媒などが挙げられる。また、前記カチオン性重合開始剤としては特に制限はなく、従来公知のものを使用することができる。
【0053】
前記塗膜形成用組成物中の前記ブロック共重合体の含有率としては、0.1〜10質量%が好ましく、0.2〜5質量%がより好ましい。塗膜形成用組成物の塗布方法は特に限定されず、スピンコート法などの従来公知の方法を適用することができる。また、塗膜を乾燥させる際の温度は塗膜から溶媒を除去できる温度であれば特に制限はないが、例えば、30〜200℃が好ましく、40〜100℃がより好ましい。
【0054】
本発明のミクロ相分離構造膜の製造方法において、ミクロ相分離構造を形成する際の塗膜の加熱温度としては前記ブロック共重合体のガラス転移温度(Tg)より高い温度であることが好ましく、具体的には、Tg+10℃以上が好ましく、Tg+20℃以上がより好ましい。この加熱温度が上記下限未満になると分子運動性が低いためにミクロ相分離構造を形成するまでの時間が長時間に及ぶ傾向にある。また、この加熱温度の上限は前記ブロック共重合体や前記極性基含有化合物が熱分解しない温度であれば特に制限はない。
【0055】
本発明のミクロ相分離構造膜の製造方法においては、ミクロ相分離構造を形成した塗膜に紫外線照射または加熱処理を施して前記ブロック共重合体の架橋構造体を形成し、ミクロ相分離構造を固定化することが好ましい。このようなミクロ相分離構造が固定化された硬化膜は、機械的強度が高く、自己支持性があり、耐熱性に優れた膜であるため、後述するナノ多孔質膜の原料フィルムとして使用することが可能となる。前記紫外線照射条件および加熱処理条件は、使用したカチオン性重合開始剤によって適宜設定される。
【0056】
また、本発明のミクロ相分離構造膜の製造方法においては、ブロック共重合体またはその架橋構造体を含有する前記ミクロ相分離構造膜を酸、塩基および還元剤からなる群から選択される少なくとも1種で処理して前記共有結合を切断してもよい。このように共有結合部分を切断し、一方のセグメントだけを溶解する溶媒などでミクロ相分離構造膜を洗浄することにより、ミクロ相分離構造を保ったまま、一方のセグメントのみを除去することが可能となる。
【0057】
ここで用いられる酸としては前記共有結合を切断できるものであれば特に制限はないが、例えば、希塩酸、希硫酸、酢酸、硝酸、トリフルオロ酢酸、リン酸、炭酸、ギ酸などが挙げられ、中でも、取り扱いの容易性、安全性などの観点から希塩酸が好ましい。
【0058】
また、塩基としては前記共有結合を切断できるものであれば特に制限はないが、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、アンモニア、水酸化カルシウム、水酸化バリウムなどが挙げられ、中でも、取り扱いの容易性、コスト、水、アルコールなどの溶媒への溶解性などの観点から水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが好ましい。
【0059】
還元剤も前記共有結合を切断できるものであれば特に制限はないが、例えば、水素化ホウ素ナトリウム、シアノ水素化ホウ素ナトリウム、水素化トリエチルホウ素リチウム、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素亜鉛、水素化アルミニウムリチウムなどが挙げられ、中でも、還元反応の進行しやすさの観点から水素化アルミニウムリチウムが好ましい。
【0060】
前記共有結合を切断する際の具体的な処理方法としては、ミクロ相分離構造膜を酸、塩基および還元剤のうちの少なくとも1種を含む溶液に浸漬する方法が挙げられる。この処理条件は、前記共有結合を切断するものであれば特に限定されない。
【0061】
次に、本発明のナノ多孔質膜の製造方法について説明する。本発明のナノ多孔質膜は、上記のように前記共有結合が切断された本発明のミクロ相分離構造膜に、溶媒による洗浄処理を施し、前記ミクロ相分離構造膜から前記親水性ポリマーセグメントおよび前記疎水性ポリマーセグメントのいずれか一方を除去することによって製造することができる。具体的には、前記ミクロ相分離構造膜を溶媒に浸漬し、超音波処理などを施すことによって、ミクロ相分離構造膜中のいずれかのポリマーセグメントが存在していた場所に空孔が形成され、ナノ細孔を有する多孔質膜を得ることができる。
【0062】
前記溶媒としては特に制限はないが、親水性ポリマーセグメントを除去するという観点からは水、メタノール、エタノールなどが好ましく、疎水性ポリマーセグメントを除去するという観点からはトルエン、クロロホルム、ジクロロメタンなどが好ましい。また、前洗浄処理条件としては、ミクロ相分離構造膜からポリマーセグメントが十分に除去できる条件であれば特に制限されない。
【0063】
また、本発明のナノ多孔質膜を製造する場合、前記共有結合を切断する工程と前記ポリマーセグメントを除去する工程とを、それぞれ別に実施してもよいし、1工程で実施してもよい。後者の場合、前記酸、塩基および還元剤のうちの少なくとも1種を、ポリマーセグメントを除去するための溶媒に溶解した溶液を用いて、前記共有結合を切断する前のミクロ相分離構造膜を処理することが好ましい。
【0064】
このように、本発明のナノ多孔質膜は、前記本発明のミクロ相分離構造膜を酸、塩基および還元剤のうちの少なくとも1種で処理し且つ溶媒により洗浄処理するという簡便な方法によって容易に製造することができる。
【実施例】
【0065】
以下、実施例および比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0066】
(合成例1)
実施例で使用するブロック共重合体の疎水性ポリマーセグメントの原料であるモノマーを合成した。先ず、下記反応式:
【0067】
【化6】

【0068】
に従って前記式(iv)で表される化合物を合成した。すなわち、前記式(i)で表される3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン51.8g、パラトルエンスルホニルクロリド(p−TsCl)119.2g、水酸化ナトリウム100g、テトラヒドロフラン(THF)400mlおよびイオン交換水400mlを混合し、0℃で4時間攪拌した後、飽和食塩水で3回洗浄を行った。この溶液に1,4−ブタノール120.8g、水酸化カリウム43.8gおよびジメチルスルホキシド(DMSO)116mlを添加して30℃で15時間攪拌した後、トルエンと食塩水を加えて洗浄して前記式(ii)で表される化合物を得た。
【0069】
次に、得られた前記式(ii)で表される化合物全量に、メタンスルホニルクロリド(MsCl)65.3g、トルエン65.3gおよびトリエチルアミン(TEA)78.0gを添加し、0℃で2時間攪拌した後、飽和食塩水で洗浄した。この溶液にパラヒドロキシ安息香酸エチル55.7g、炭酸カリウム60.7gおよびN,N’−ジメチルホルムアミド(DMF)420gを添加し、100℃で5時間攪拌した後、水で洗浄し、溶媒を減圧除去して116gの固体を得た。この固体に水酸化ナトリウム36gおよびイオン交換水324gを加えて100℃で2時間反応させた。
【0070】
得られた溶液を水450mlで希釈した後、塩酸(濃度10質量%)をpH3になるまでゆっくりと添加した。得られたスラリー溶液を0℃で1時間攪拌した後、水で洗浄して前記式(iii)で表される化合物121gを得た。この化合物にメタンスルホニルクロリド(MsCl)47.2g、N,N−ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)52.0gおよびトラヒドロフラン(THF)400mlを添加して0℃で1時間攪拌し、さらに、ヒドロキノン136g、4−ジメチルアミノピリジン(DMAP)11.2gおよびトリエチルアミン(TEA)53.2gを添加して0℃で1時間攪拌した後、さらに3時間還流攪拌して前記式(iv)で表される化合物を得た。
【0071】
この式(iv)で表される化合物を、NMR装置(VARIAN社製「INOVA600」)を用いてH−NMR測定および13C−NMR測定により同定した。その結果を以下に示す。
H−NMR(600MHz、溶媒CDCl):δ0.9(t,3H)、1.7(m,4H)、1.9(m,2H)、3.6(t,4H)、4.1(t,2H)、4.4(t,2H)、4.6(t,2H)、6.6(br,1H)、6.8(d,2H)、6.9(d,2H)、7.0(d,2H)、8.1(d,2H)。
13C−NMR(150MHz、溶媒CDCl):δ8.23、26.09、26.19、26.85、43.41、68.01、71.10、73.36、78.64、114.28、116.07、121.66、122.53、132.27、144.08、153.94、163.41、165.73。
【0072】
次に、下記反応式:
【0073】
【化7】

【0074】
に従って前記式(viii)で表される化合物を合成した。すなわち、前記式(v)で表される11−ブロモ−1−ウンデカノール50g、パラヒドロキシ安息香酸エチル33.4g、炭酸カリウム60gおよびN,N’−ジメチルホルムアミド(DMF)60mlを混合して90℃で7時間攪拌した。ろ過後、エバポレーターで溶媒を除去し、水と酢酸エチルで洗浄して前記式(vi)で表される化合物を得た。
【0075】
得られた前記式(vi)で表される化合物全量に、水酸化カリウム19gおよびイオン交換水160mlを添加して100℃で1時間攪拌した。得られた溶液に塩酸(濃度10質量%)をpH3になるまで加え、析出した固体をアセトニトリルで再結晶して、前記式(vii)で表される化合物を得た。この式(vii)で表される化合物40gにメタクリル酸26g、トルエン150ml、パラトルエンスルホン酸(p−TsOH)3.8gおよび重合禁止剤としてヒドロキノンを2g添加し、生成した水をディーンスタークを用いて除去しながら110℃で3時間攪拌し、前記式(viii)で表される化合物を得た。
【0076】
この式(viii)で表される化合物を、NMR装置(VARIAN社製「INOVA600」)を用いてH−NMR測定および13C−NMR測定により同定した。その結果を以下に示す。
H−NMR(600MHz、溶媒CDCl):δ1.3(m,12H)、1.4(m,2H)、1.6(m,2H)、1.8(m,2H)、1.9(s,3H)、4.0(t,2H)、4.1(t,2H)、5.5(s,1H)、6.1(s,1H)、6.9(d,2H)、8.1(d,2H)。
13C−NMR(150MHz、溶媒CDCl):δ18.34、25.98、28.62、29.10、29.24、29.34、29.48、29.49、29.52、64.85、68.29、114.21、121.36、125.15、132.34、136.58、163.68、167.60、171.46。
なお、13C−NMRの一部のピークには重なりが見られた。
【0077】
次に、下記反応式:
【0078】
【化8】

【0079】
に従って前記式(ix)で表されるモノマーを合成した。すなわち、前記式(iv)で表される化合物21.5g、前記式(viii)で表される化合物21.2g、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)11.6g、4−ジメチルアミノピリジン(DMAP)1.5gおよびテトラヒドロフラン(THF)500mlを添加し、30℃で24時間攪拌した。飽和炭酸水素ナトリウム水、3%塩酸および飽和食塩水で洗浄後、カラム精製により前記式(ix)で表されるモノマーを得た。
【0080】
この式(ix)で表されるモノマーを、NMR装置(VARIAN社製「INOVA600」)を用いてH−NMR測定および13C−NMR測定により同定した。その結果を以下に示す。
H−NMR(600MHz、溶媒CDCl):δ0.9(t,3H)、1.4−1.8(m,24H),1.9(s,3H)、3.5(s,4H)、4.0(t,2H)、4.1(t,2H)、4.2(t,2H)、4.4(t(2H)、4.5(t,2H)、5.5(s,1H)、6.1(s,1H)、7.0(d,4H)、7.3a(s,4H)、8.2(d,4H)。
13C−NMR(150MHz、溶媒CDCl):δ8.24、18.34、25.98、26.11,26.20、26.82、28.62、29.10、29.24、29.35、29.49、43.44、64.82、68.03、68.33、71.07、73.55、78.54、114.33、121.42、121.54、122.65、125.14、132.32、136.58、148.43、163.48、163.60、164.85、167.57。
なお、13C−NMRの一部のピークには重なりが見られた。
【0081】
(合成例2)
下記反応式:
【0082】
【化9】

【0083】
に従って実施例で使用するブロック共重合体の疎水性ポリマーセグメントを構成する疎水性ポリマーを合成した。すなわち、2−ブロモ−2−メチルプロピオン酸エチル0.018g、前記式(ix)で表される化合物2.0g、塩化銅(I)0.08g、1,1,4,7,10,10−ヘキサメチルトリエチレンテトラミン(HMTETA)0.3gおよびアニソール30mlを混合し、凍結脱気と窒素バブリングを組み合わせて酸素を除去した後、80℃で6時間攪拌した。その後、THFを加えて中性アルミナカラムを通して触媒を除去した後、溶媒を除去し、メタノール溶媒による再沈およびメタノール精製を行うことにより前記式(x)で表されるポリマーを得た。
【0084】
この式(x)で表されるポリマー1gにアジ化ナトリウム0.2gおよびN,N’−ジメチルホルムアミド(DMF)15mlを添加して30℃で5時間攪拌した後、酢酸エチル−水で抽出して前記式(xi)で表されるポリマーを得た。得られた前記式(xi)で表されるポリマー全量に、窒素雰囲気下、ジエチルエーテル5mlおよび水素化リチウムアルミニウム0.03gを添加し、リフラックス温度で5時間攪拌して前記式(xii)で表される疎水性ポリマーを得た。
【0085】
この式(xii)で表される疎水性ポリマーを、テトラヒドロフラン(THF)に溶解してゲルパーミエーションクロマトグラフィ(東ソー(株)製「8020GPC」、カラム:TSK−GEL SuperH1000、SuperH2000、SuperH3000、SuperH4000を直列に接続)により標準ポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)および重量平均分子量(Mw)を測定した。その結果、前記疎水性ポリマーのMnは13000、Mw/Mnは1.11であった。
【0086】
(合成例3)
下記反応式:
【0087】
【化10】

【0088】
に従って、合成例2で得た疎水性ポリマー0.8gおよびアルデヒド末端ポリエチレンオキシド(日油(株)製「SUNBRIGHT ME−050AL」、重量平均分子量5000)0.1gを混合し、THF溶媒中、リフラックス温度で12時間攪拌して前記式(xiv)で表されるブロック共重合体を得た。
【0089】
この式(xiv)で表されるブロック共重合体を、テトラヒドロフラン(THF)に溶解してゲルパーミエーションクロマトグラフィ(東ソー(株)製「8020GPC」、カラム:TSK−GEL SuperH1000、SuperH2000、SuperH3000、SuperH4000を直列に接続)により標準ポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)および重量平均分子量(Mw)を測定した。その結果、その結果、前記ブロック共重合体のMnは17000、Mw/Mnは1.2であった。
【0090】
また、前記ブロック共重合体のガラス転移温度を示差走査熱量計(Perkin−Elmer社製「DSC7」)を用いて0〜200℃の温度範囲において20℃/minの昇温速度で測定したところ、Tg=63℃であった。
【0091】
(実施例1)
合成例3で得たブロック共重合体100mgおよびカチオン性重合開始剤(ダウ社製「UVI−6992」)5mgを10gのテトラヒドロフラン(THF)に溶解した。このブロック共重合体溶液を孔径0.45μmのメンブレンフィルターでろ過し、ろ液をポリエチレンナフタレートフィルム(帝人デュポン(株)製)上に回転速度1000rpmでスピンコートし、塗膜を55℃のホットプレート上で10分間乾燥させ、次いで、150℃の真空オーブン中で24時間アニール処理を施した。アニール処理後の塗膜に高圧水銀灯を用いて300mJ/cmの強度で紫外線を照射して硬化膜を得た。
【0092】
得られた硬化膜の一部をかき取り、示差走査熱量計を用いて0〜200℃の温度範囲において20℃/minの昇温速度でガラス転移温度を測定したが、ガラス転移温度に相当するピークは検出されず、硬化膜は耐熱性に優れたものであることが確認された。また、得られた硬化膜の表面を走査型プローブ顕微鏡(エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)製「E−Sweep」)により観察したところ、図1に示すようにシリンダー構造が見られ、硬化膜にはミクロ相分離構造が形成されていることが確認された。
【0093】
次に、この硬化膜(ミクロ相分離構造膜)をホスフィンの塩酸−エタノール溶液に浸漬して30分間超音波処理を施した後、硬化膜の表面を走査型プローブ顕微鏡により観察したところ、シリンダー形状の空孔が観察され、ナノ多孔質膜が得られたことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0094】
以上説明したように、本発明のミクロ相分離構造膜を用いることによって、容易に耐熱性に優れたナノ多孔質膜を得ることができる。したがって、本発明のナノ多孔質膜は、反射防止膜、分離膜、異方伝導膜などとして有用である。
【0095】
また、本発明のナノ多孔質膜の細孔には様々な機能性材料を充填することができる。したがって、本発明のナノ多孔質膜はこのような機能性材料が充填された機能性膜の膜基材としても有用である。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】実施例1で得た硬化膜のミクロ相分離構造の位相像を示す原子間力顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性ポリマーセグメントと、2個以上の重合可能な基を有する疎水性ポリマーセグメントとが酸、塩基および還元剤からなる群から選択される少なくとも1種により切断可能な共有結合により結合したブロック共重合体またはその架橋構造体を含有することを特徴とするミクロ相分離構造膜。
【請求項2】
前記共有結合がイミノ結合、ジスルフィド結合、アセタール結合、ジアジド結合およびエステル結合からなる群から選択される少なくとも1種の結合であることを特徴とする請求項1に記載のミクロ相分離構造膜。
【請求項3】
前記疎水性ポリマーセグメントが下記式(1):
【化1】

[式(1)中、Lは、単結合、−COO−および−O−からなる群から選択される1種の結合を表し、Rは、単結合、−(CH−〔nは1〜20の整数である〕、および−(CHO−〔nは1〜20の整数である〕からなる群から選択される1種の結合を表し、Rは、単結合、−O−、−COO−、−OOC−、−OCOO−、−(CH−〔nは1〜20の整数である〕、−(CHO−〔nは1〜20の整数である〕、−O(CH−〔nは1〜20の整数である〕、および−O(CHO−〔nは1〜20の整数である〕からなる群から選択される1種の結合を表し、Rは水素原子またはメチル基を表し、Mはメソゲン基を表し、Pは重合可能な基を表し、mは2以上である。]
で表される繰り返し単位を含有するものであることを特徴とする請求項1または2に記載のミクロ相分離構造膜。
【請求項4】
前記式(1)中のPがオキセタン基であることを特徴とする請求項3に記載のミクロ相分離構造膜。
【請求項5】
前記親水性ポリマーセグメントが、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸およびポリメタクリル酸からなる群から選択される少なくとも1種のポリマーから形成されたものであることを特徴とする請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載のミクロ相分離構造膜。
【請求項6】
前記ブロック共重合体の分子量分布(Mw/Mn)が1.6以下であり、且つ前記疎水性ポリマーセグメントが、分子量分布(Mw/Mn)が1.5以下の疎水性ポリマーにより形成されたものであることを特徴とする請求項1〜5のうちのいずれか一項に記載のミクロ相分離構造膜。
【請求項7】
前記疎水性ポリマーセグメントが、前記ブロック共重合体の数平均分子量の5〜95%の数平均分子量を有する疎水性ポリマーにより形成されたものであることを特徴とする請求項1〜6のうちのいずれか一項に記載のミクロ相分離構造膜。
【請求項8】
前記ブロック共重合体の数平均分子量が3000〜300000であることを特徴とする請求項1〜7のうちのいずれか一項に記載のミクロ相分離構造膜。
【請求項9】
請求項1〜8のうちのいずれか一項に記載のミクロ相分離構造膜を酸、塩基および還元剤からなる群から選択される少なくとも1種で処理して前記共有結合を切断した後、前記親水性ポリマーセグメントおよび前記疎水性ポリマーセグメントのうちのいずれか一方を除去することにより得られることを特徴とするナノ多孔質膜。
【請求項10】
親水性ポリマーセグメントと、2個以上の重合可能な基を有する疎水性ポリマーセグメントとが酸、塩基および還元剤からなる群から選択される少なくとも1種により切断可能な共有結合により結合したブロック共重合体および溶媒を含有する塗膜形成用組成物を基板上に塗布する工程、
前記基板上の塗膜を乾燥させて塗膜中の溶媒を除去する工程、および
前記溶媒を除去した塗膜を加熱してミクロ相分離構造を形成する工程
を含むことを特徴とするミクロ相分離構造膜の製造方法。
【請求項11】
前記ミクロ相分離構造を形成する工程において、前記塗膜を前記ブロック共重合体のガラス転移温度より高い温度で加熱することを特徴とする請求項10に記載のミクロ相分離構造膜の製造方法。
【請求項12】
前記ミクロ相分離構造を形成した塗膜に紫外線照射または加熱処理を施して前記ミクロ相分離構造を固定化することを特徴とする請求項10または11に記載のミクロ相分離構造膜の製造方法。
【請求項13】
前記塗膜形成用組成物がカチオン性開始剤を含有するものであることを特徴とする請求項10〜12のうちのいずれか一項に記載のミクロ相分離構造膜の製造方法。
【請求項14】
前記基板が樹脂基板または配向処理された樹脂基板であることを特徴とする請求項10〜13のうちのいずれか一項に記載のミクロ相分離構造膜の製造方法。
【請求項15】
請求項1〜8のうちのいずれか一項に記載のミクロ相分離構造膜を酸、塩基および還元剤からなる群から選択される少なくとも1種で処理して前記共有結合を切断することを特徴とするミクロ相分離構造膜の製造方法。
【請求項16】
請求項15に記載の方法により製造された前記共有結合が切断されたミクロ相分離構造膜を水または有機溶媒で洗浄して、前記親水性ポリマーセグメントおよび前記疎水性ポリマーセグメントのうちのいずれか一方を除去し、空孔を形成することを特徴とするナノ多孔質膜の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−116463(P2010−116463A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−289839(P2008−289839)
【出願日】平成20年11月12日(2008.11.12)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】