説明

ミシン用釜

【課題】縫製する場合に、上糸が、糸の太さに関わらず容易に釜止部から離脱できるミシン用釜を提供する。
【解決手段】内釜の釜止部40は、軸に対する径方向に延びる溝44を有する。溝44は側壁を構成する下壁部41、上壁部42と、底壁を構成する底壁部43を備える。溝44は、内部に釜止片7の先端を挿入する。釜止片7は内釜が外釜に従動して回転するのを制止する。底壁部43は、底壁部43の一部を切り欠いた切欠部45を有する。縫製時に、上糸8は釜止片7の先端と底壁部43の壁面の間隙を通り抜ける。上糸8は、切欠部45内に退避することで、間隙に引っかかって屈曲、引っ張り等のストレスを生ずる事がなく、容易に釜止部40から離脱できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はミシンに用いる釜に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ミシンは針板の下側に釜を備える。釜は縫針の上下動に合わせて軸と一体に回転する外釜と、外釜が支持し、外釜とは独立に回転可能な内釜を備える。内釜は外周部分に、ミシンが備える釜止片が係合する釜止部を備える。釜止片は内釜が外釜に従動して回転しないように内釜を制止する。ミシンは縫針で布を貫通した上糸を外釜で捕捉し、制止状態の内釜が保持する下糸に上糸を絡めて縫製を行う。
【0003】
釜止部は外釜の回転方向の両側で釜止片に突き当て可能な二つの側壁部と、縫針が形成する上糸のループを外釜が捕捉し易くする為の底壁部を備える(例えば特許文献1参照)。釜止片は側壁部と底壁部が構成する溝内に先端を突き出して内釜の従動回転を制止する。縫製する場合に、外釜は内釜の釜止部の溝内に位置する下糸の周囲を取り巻くように上糸を案内し、上糸と下糸を絡める。ミシンの天秤が上糸を引き上げると、上糸は溝内で釜止片の先端と底壁部の間隙を抜けて釜から離脱し、絡んだ下糸を布に導いて布を縫製する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実用新案登録第2590041号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来に比べ太い糸を用いて縫製する場合、上糸が釜止片の先端と底壁部の間隙を抜ける場合に上糸に加わる抵抗が大きくなり、上糸が屈曲したり伸びたりして糸調子が安定しない場合がある。
【0006】
本発明の目的は縫製する場合に、上糸が、糸の太さに関わらず容易に釜止部から離脱できるミシン用釜を提供する事である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のミシン用釜は、ミシンの針板の下側に設けられる軸に支えられ、縫針の上下動に合わせて前記軸と一体に回転する外釜と、前記外釜に支持されて前記外釜とは独立に回転可能であり、且つ、前記ミシンに取付けられる釜止片が係合する釜止部を有し、前記外釜に従動する回転が前記釜止片に制止される内釜とを備える。ミシン用釜において、前記釜止部は、前記外釜が正方向に回転する場合の回転方向における下流側で、前記釜止片と向き合う位置に設けられる下壁部と、前記外釜の前記回転方向の上流側で、前記釜止片と向き合う位置に設けられる上壁部と、前記下壁部と前記上壁部の間を前記回転方向に沿う壁面で接続して前記下壁部と前記上壁部と共に前記釜止片が係合する溝を構成し、且つ、前記軸に対する外周側の縁端の少なくとも一部を内周側へ向けて切り欠いた切欠部が形成された底壁部とを備える。
【0008】
本発明のミシン用釜は、下糸を絡めた上糸を釜から針板に引き出す為、釜止片と溝の間隙を上糸が通り抜ける場合に、底壁部に形成した切欠部に上糸を退避する事ができる。故に上糸は、間隙に引っかかって屈曲、引っ張り等のストレスを生ずる事がなく、容易に釜止部から離脱することができる。
【0009】
前記ミシン用釜において、前記切欠部が形成された部分における前記底壁部の前記回転方向の幅は、前記軸に対する内周側ほど外周側よりも大きくてもよい。上糸は、縫製時にミシンの天秤が上糸を針板上に引き上げる場合、切欠部が外周側ほど幅広なので切欠部に進入し易い。切欠部は、進入した上糸を縁に沿って内周側の端部に案内する。故に上糸は、最も内周側に位置する端部において切欠部に進入できるので、溝内で釜止片の先端と底壁部の壁面の間隙を通り抜ける場合に、切欠部に確実に退避できる。故に上糸は、間隙に引っかかって屈曲、引っ張り等のストレスを生ずる事がなく、容易に釜止部から離脱することができる。又、底壁部は内周側ほど幅広なので、切欠部を形成しても十分に剛性を確保できる。
【0010】
前記ミシン用釜において、前記切欠部は、前記底壁部において、前記縫針が上下動する際に前記縫針の先端部が前記底壁部と向き合う位置からズレた位置に形成されてもよい。底壁部の壁面は、縫針の上下動の軌跡に対して重なる位置に存在する。縫針の先端部は、縫針が下方に移動した場合に確実に底壁部の壁面と向き合う。故に底壁部は確実に、縫製時に外釜の剣先が上糸を捕捉する為の上糸の位置決めを行う壁面として機能できる。
【0011】
前記ミシン用釜において、前記切欠部は、前記底壁部において、前記下壁部よりも前記上壁部に近い側に形成されてもよい。上糸は、縫製時に外釜の誘導で釜止部において回転方向の上流側にある上壁部寄りの位置に寄っている。故に上糸は、溝内で釜止片の先端と底壁部の壁面の間隙を通り抜ける場合に、切欠部に確実に退避できる。故に上糸は、間隙に引っかかって屈曲、引っ張り等のストレスを生ずる事がなく、容易に釜止部から離脱することができる。
【0012】
前記ミシン用釜において、前記切欠部の前記軸に対する内周側の端部には内側面取りが施され、前記端部の面取り半径は前記ミシンに用いられる太糸の半径よりも大きくてもよい。上糸は、縫製時に切欠部内に進入しても、上糸の半径よりも切欠部の端部の面取り半径が大きいので、切欠部に挟まる事がない。故に切欠部との接触で上糸が切欠部から受ける抵抗は、滑らかな輪郭線形状を有さない場合と比べて小さい。故に、上糸が切欠部の縁部分で屈曲、擦れ等のストレスを生ずる事がなく、容易に釜止部から離脱することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】ミシンの釜10付近を示す図。
【図2】内釜30の正面図。
【図3】図2の仮想円B内を正面左斜め上方から見た釜止部40の拡大図。
【図4】図2の仮想円B内を正面から見た釜止部40の拡大図。
【図5】図4の一点鎖線D−Dで切断して矢印方向に見た釜止部40の拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係るミシン用釜の一実施形態について図面を参照して説明する。図1を参照して釜10の概略構成について説明する。図1に示すミシン(図示略)の釜10は、周知のようにミシンの土台となるベッド部(図示略)が備える針板2の下方に位置する。釜10は一例として工業用ミシンに用いる垂直全回転釜である。ベッド部は、ミシンの上軸(図示略)に同期して回転する下軸(図示略)と、下軸にギアを介して連動する釜軸3を有する。釜軸3は釜10を回転可能に軸支えする。尚、以下の説明では紙面表裏方向を釜10を支える釜軸3の軸方向とし、紙面手前側を釜10の正面側とする。また紙面右手側をミシンの前方側とし、左手側をミシンの後方側とする。
【0015】
釜10は外釜20と内釜30を備える。外釜20は釜軸3に接続し、釜軸3と一体に回転する回転体である。外釜20は、針板2上で一点鎖線Aに沿う上下動を上軸に同期して行う縫針1に同期して回転する。本実施形態の外釜20は正面視した場合に矢印Cで示す反時計回りの回転方向に回転する。外釜20は釜10の正面側を開口側とする有底の円筒形状を有する。外釜20は内周側の側壁に、周方向に一周する溝状の溝部21を有する。外釜20は外周部分に、周方向に沿って延び、回転方向Cの前方即ち下流側へ先端を向ける剣先22を備える。縫針1の先端は、縫針1が下方に移動した場合に針板2に開口する針通穴5を通過して釜10内に進入する。縫針1の上下動と外釜20の回転は共に上軸に同期する。故に外釜20は、縫針1が下方に移動した場合に剣先22を縫針1の先端と干渉せぬ位置に配置するように回転する。
【0016】
内釜30は外釜20とは独立に回転可能な状態で外釜20の内周に嵌る回転体である。図2に示すように内釜30は、外釜20と同様、釜10の正面側を開口側とする有底の円筒形状を有する。内釜30は外周側の側壁に、周方向に沿って略一周する鍔状の鍔部31を有する。鍔部31は、内釜30が外釜20の内周に嵌る場合に外釜20の溝部21に係合し、内釜30の抜けを防止する。溝部21は、内釜30が外釜20に対して回転する場合に鍔部31を案内する。故に内釜30は外釜20とは独立に同軸で回転する。
【0017】
内釜30は筒底32の中央で突起するボビン軸33を備える。内釜30は下糸9(図4参照)を巻装したボビン(図示略)を収納するボビンケース4(図1参照)を内周に着脱可能に装着する。ボビン軸33は、縫製に応じてボビンから下糸9を引き出せるように、ボビンケース4内のボビンを回転可能に軸支えする。
【0018】
内釜30は更に、外周部分に釜止部40を備える。図3、図4に示すように、釜止部40は釜軸3に対する径方向に延びる溝44を有する。釜止片7は溝44内に先端を挿入する。釜止片7は後端側を針板2(図1参照)又はベッド部に固定し、先端を溝44に係合する事で、内釜30が外釜20に従動して回転するのを制止する。
【0019】
溝44は下壁部41、上壁部42、底壁部43を備える。下壁部41は外釜20の回転方向Cの下流側に位置し、溝44の一方の側壁を構成する。下壁部41は釜止片7の先端に対して周方向に向き合う。上壁部42は回転方向Cの上流側に位置し、溝44の他方の側壁を構成する。上壁部42も同様に釜止片7の先端に対して周方向に向き合う。底壁部43は周方向に沿う壁面を有し、溝44の底壁を構成する。底壁部43は釜止片7の先端に対して釜軸3の軸方向に向き合う。
【0020】
下壁部41は底壁部43の壁面を一方の側壁として下壁部41の壁面を溝状に掘り込んだ下糸通路46を有する。下糸通路46はボビンから引き出した下糸9を配置して釜10の上方へ案内する通路として機能する。上糸8は、縫製時に下糸通路46で位置決めした下糸9を絡めとる。上糸8は、針通穴5を介して針板2上に載置する布6の位置まで下糸9を引き上げて縫い目を形成する。
【0021】
釜止部40は底壁部43に、底壁部43の一部を切り欠いた切欠部45を有する。切欠部45は釜軸3の軸に対して底壁部43の外周側の縁端48の少なくとも一部を内周側へ向けて切り欠いたものである。本実施形態の底壁部43は、縁端48の幅の略三分の二の部分を切欠部45として切り欠いている。底壁部43は、底壁部43に切欠部45を形成する上で底壁部43の周方向の幅を内周側ほど大きく確保する事で、切欠部45を形成しても十分に剛性を確保できる。又、底壁部43は、切欠部45を壁面の一部に形成した事で、壁面の残部を切り欠かずに残す事ができた。故に底壁部43は、後述する縫針1の先端部と向き合う壁面を確保する事ができる。
【0022】
図4に示すように、切欠部45を形成した部分における底壁部43の周方向の幅は、釜軸3の軸に対する内周側の幅Fが外周側の幅Eに比べて大きい。切欠部45は、底壁部43を縁端48から内周側へ向けて切り欠く上で、外周側ほど幅広に底壁部43を切り欠いて形成した部位である。換言すると、切欠部45の幅は釜軸3の軸に対する外周側から内周側にかけて次第に小さくなっていく。上糸8は、縫製時にミシンの天秤(図示略)が上糸8を針板2上に引き上げる場合、切欠部45が外周側ほど幅広なので切欠部45に進入し易い。切欠部45は、進入した上糸8を縁に沿って内周側の端部49に案内する。故に上糸8は、最も内周側に位置する端部49において切欠部45に進入できるので、溝44内で釜止片7の先端と底壁部43の壁面の間隙を通り抜ける場合に、切欠部45に確実に退避できる。故に上糸8は、間隙に引っかかって屈曲、引っ張り等のストレスを生ずる事がなく、容易に釜止部40から離脱することができる。
【0023】
切欠部45は、釜軸3の軸に対する内周側の端部49に内側面取りを施す事で滑らかな輪郭線形状を有する。内側面取りの面取り半径Rは、上糸8の断面Gの半径Pに比べて大きい。故に上糸8は、縫製時に上糸8が切欠部45内に進入しても切欠部45に挟まる事がない。面取り半径Rは、好ましくは、ミシンに用いる太糸の半径よりも大きいとよい。上糸8は、半径Pが切欠部45の面取り半径Rよりも小さい事で、切欠部45との接触で切欠部45の縁部分から受ける抵抗が、面取り半径R以上の場合と比べて小さい。故に、上糸8が切欠部45の縁部分で屈曲、擦れ等のストレスを生ずる事がなく、容易に釜止部40から離脱することができる。
【0024】
一点鎖線Aに沿って上下動する縫針1(図1参照)は、下方に動く場合に、内釜30が釜止部40の裏側に備える針穴47(図3参照)に上糸8を運び、上方に動く場合には針穴47付近に上糸8を残す。図3に示すように、底壁部43は針穴47に対して釜10の正面側に位置する。底壁部43は、針穴47付近に残留する上糸8が底壁部43に対して正面側に突出せぬよう位置決めする壁面として機能する。
【0025】
図4に示すように、切欠部45は縫針1の軌跡に相当する一点鎖線Aに対して重なる位置になく、周方向に位置ずれして底壁部43に存在している。換言すると、底壁部43の壁面は、釜軸3の軸方向において一点鎖線Aの位置と重なる位置に存在する。故に縫針1の先端部は、縫針1が下方に移動した場合に確実に底壁部43の壁面と向き合う。更に切欠部45は底壁部43において、外釜20の回転方向Cの上流側に寄った位置に存在する。換言すると底壁部43は、下壁部41よりも上壁部42に近い側に切欠部45を有する。故に底壁部43は確実に、上記のように上糸8を位置決めする壁面として機能できる。尚、縫針1の軌跡は、底壁部43の縁端48側で切欠部45と重なる場合がある。しかし底壁部43は、切欠部45の端部49側が縫針1の軌跡と重なる位置になく位置ずれしていれば、縫針1の先端部と向き合う壁面を有する事ができる。
【0026】
上糸8は、縫製時にミシンの天秤(図示略)が上糸8を針板2上に引き上げる場合、下糸9を絡めて釜止部40の溝44内に位置する釜止片7の先端と底壁部43の壁面の間隙を通り抜ける。上糸8は外釜20の回転に伴い下糸9を絡める為、上糸8は、外釜20の誘導で釜止部40において回転方向Cの上流側にある上壁部42寄りの位置に寄っている。図4、図5に示すように、上糸8は釜止片7の先端と底壁部43の壁面の間隙を通り抜ける場合に、切欠部45内に退避する事ができる。
【0027】
上糸8は、底壁部43が切欠部45を有する事で、縫製時に釜止片7の先端と底壁部43の壁面の間隙を通り抜ける場合に受ける応力を減らす事ができる。本実施形態のミシンは、特にミシン糸として従来と比較して太い太糸を用いた場合でも、ミシン糸が間隙に引っかかって屈曲、引っ張り等のストレスを生ずる事がなく、容易に釜止部40から離脱することができる。故に利用者は、糸の太さに応じた釜への交換の手間を省く事ができる。従来のミシンは、底壁部43に切欠部45がなく、ミシン糸の太さとして例えば50〜60号のものを用いる。本実施形態のミシンは、底壁部43に切欠部45を設けた事で、ミシン糸の太さとして例えば8号のものを用いる事ができる。上記した切欠部45の面取り半径Rは、ミシン糸として従来よりも太い、例えば8号の太糸の半径Pに比べて大きい事が好ましい。
【0028】
上記構成の釜10を備えるミシンの縫製時における釜10の動作について簡単に説明する。図1に示すように、縫針1は上軸(図示略)に従動して上下動し、釜10は外釜20が釜軸3に従動して反時計回りに回転する。上軸はミシンモータ(図示略)に直結して駆動し、釜軸3は上記したように下軸(図示略)を介して上軸に同期して駆動する。内釜30は、針板2又はベッド部に後端側を固定した釜止片7の先端が釜止部40の溝44に係合する為、外釜20が回転しても従動する事なく制止する。
【0029】
縫針1は、下方に移動すると布6を貫通し、針板2の針通穴5を介して釜10内に進入する。縫針1は内釜30の釜止部40の裏側の針穴47に先端部が到達し、先端部に備える糸穴に通した上糸8を釜止部40の裏側に運ぶ。上糸8は、縫針1が上方に移動する場合、布6との摩擦抵抗で縫針1と共に上方へは移動せず針穴47付近に残り、弛んでループを生ずる。上糸8のループは、上記したように縫針1の軌跡が切欠部45と重ならない為、釜止部40の背面側で底壁部43の壁面に突き当たり、釜止部40に対して背面側へ広がる。
【0030】
外釜20の剣先22は、外釜20の回転に伴い釜止部40の背面側で上糸8のループを捕捉する。剣先22が捕捉した上糸8は、外釜20の更なる回転に伴い外釜20が外周に有する案内溝(図示略)に沿って、釜10の正面側に新たなループを形成する。上糸8の新たなループは、内釜30に装着したボビンケース4内のボビン(図示略)から引き出した下糸9の外周を一周して取り囲む。上糸8は外釜20の誘導で、内釜30の釜止部40の溝44内で上壁部42に近い側に寄る。
【0031】
天秤(図示略)は上糸8を針板2上に引き上げる。上糸8は、釜止片7の先端と底壁部43の壁面の間隙を抜けて、釜10の正面側に形成したループを小さくする。図5に示すように、上糸8は、釜止片7と底壁部43の間隙が狭くとも無理に間隙を通る事なく底壁部43の切欠部45に退避する事ができる。故に上糸8は屈曲、引っ張り等のストレスを生ずる事がない。切欠部45は内側面取りで滑らかな輪郭線形状を有する。故に上糸8は、切欠部45内に退避する場合に切欠部45と接触しても接触抵抗は比較的小さく、ストレスを生ずる事がない。天秤は更に上糸8を引き上げる。上糸8は、小さくなったループに下糸9を絡めとる。下糸9も同様に切欠部45に退避しながら釜止片7と底壁部43の間隙をストレスなく抜ける。下糸9は、針通穴5を通過して布6に到達し、上糸8と共に布6に縫い目を形成する。
【0032】
本発明は上記実施の形態に限定しない。本発明は種々の変更が可能である。切欠部45は、底壁部43を切り欠いて形成したが、底壁部43に壁面を貫通しない凹み、溝等を設け、上糸8が退避できるようにしてもよい。切欠部45は、縁部分の角に面取りを行ってもよい。切欠部45の形状は、本実施形態では外周側から内周側へ先細り形状としたが、例えば底壁部43を四角形に切り欠いてもよい。切欠部45は、底壁部43の外周側の縁端48の少なくとも一部から切り欠いたが、全部を切り欠いて形成してもよい。底壁部43は、縁端48の全部を切り欠いて切欠部45を形成した場合であっても、縫針1が下方に移動した場合に縫針1の先端部が向き合う壁面を確保できればよい。
【符号の説明】
【0033】
1 縫針
2 針板
3 釜軸
7 釜止片
8 上糸
9 下糸
10 釜
20 外釜
21 溝部
30 内釜
40 釜止部
41 下壁部
42 上壁部
43 底壁部
44 溝
45 切欠部
48 縁端
49 端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミシンの針板の下側に設けられる軸に支えられ、縫針の上下動に合わせて前記軸と一体に回転する外釜と、前記外釜に支持されて前記外釜とは独立に回転可能であり、且つ、前記ミシンに取付けられる釜止片が係合する釜止部を有し、前記外釜に従動する回転が前記釜止片に制止される内釜とを備えるミシン用釜において、
前記釜止部は、
前記外釜が正方向に回転する場合の回転方向における下流側で、前記釜止片と向き合う位置に設けられる下壁部と、
前記外釜の前記回転方向の上流側で、前記釜止片と向き合う位置に設けられる上壁部と、
前記下壁部と前記上壁部の間を前記回転方向に沿う壁面で接続して前記下壁部と前記上壁部と共に前記釜止片が係合する溝を構成し、且つ、前記軸に対する外周側の縁端の少なくとも一部を内周側へ向けて切り欠いた切欠部が形成された底壁部と
を備える事を特徴とするミシン用釜。
【請求項2】
前記切欠部が形成された部分における前記底壁部の前記回転方向の幅は、前記軸に対する内周側ほど外周側よりも大きい事を特徴とする請求項1に記載のミシン用釜。
【請求項3】
前記切欠部は、前記底壁部において、前記縫針が上下動する際に前記縫針の先端部が前記底壁部と向き合う位置からズレた位置に形成される事を特徴とする請求項1又は2に記載のミシン用釜。
【請求項4】
前記切欠部は、前記底壁部において、前記下壁部よりも前記上壁部に近い側に形成される事を特徴とする請求項1から3の何れか一つに記載のミシン用釜。
【請求項5】
前記切欠部の前記軸に対する内周側の端部には内側面取りが施され、前記端部の面取り半径は前記ミシンに用いられる太糸の半径よりも大きい事を特徴とする請求項1から4の何れか一つに記載のミシン用釜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−34493(P2013−34493A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−170195(P2011−170195)
【出願日】平成23年8月3日(2011.8.3)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【出願人】(000156167)株式会社廣瀬製作所 (10)
【Fターム(参考)】