説明

ミスト分離装置、反応システム及びε−カプロラクタムの製造方法

【課題】蒸発ガスに含まれるミストを十分に捕捉することが可能なミスト分離装置を提供する。
【解決手段】本発明のミスト分離装置は、複数のチューブと、複数のチューブを収容するシェルと、シェルの内壁に設けられ、複数のチューブの外周面に向けて原料ガスを流入させる流入部と、シェルの内壁に設けられ、複数のチューブの延在方向において流入部と離れた位置に、流入部から流入された原料ガスを流出させる流出部と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミスト分離装置、反応システム及びε−カプロラクタムの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
原料を蒸発させる蒸発装置と、蒸発された原料の蒸発ガスを加熱する加熱装置と、加熱された蒸発ガスを触媒の存在下で化学反応させる反応装置と、を有する反応システムが知られている。この反応システムでは、蒸発装置により原料を蒸発させる際に、高沸点の不純物等を含むミストが生成されることがある。このミストは、ある温度以上で加熱されるとタール化する。そのため、蒸発装置により生成された蒸発ガスが加熱装置に導入された場合、タールが加熱装置の細管や配管等を閉塞させるといった問題がある。
【0003】
例えば特許文献1では、蒸発装置と加熱装置との間に、ミスト分離装置が設けられている。このミスト分離装置は、複数の鎖が容器上部から所定の間隔で吊り下げられて構成されている。このような複数の鎖が蒸発ガスの流れ方向と交差して配置されることにより、蒸発ガスに含まれるミストが捕捉されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−29785号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のミスト分離装置では、複数の鎖の隙間からミストを含む蒸発ガスがすり抜けることがある。複数の鎖の隙間をすり抜けた蒸発ガスは、ミストを含んだ状態で加熱装置に導入されてしまう。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、蒸発ガスに含まれるミストを十分に捕捉することが可能なミスト分離装置及び反応システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明のミスト分離装置は、複数のチューブと、前記複数のチューブを収容するシェルと、前記シェルの内壁に設けられ、前記複数のチューブの外周面に向けて原料ガスを流入させる流入部と、を含むことを特徴とする。
【0008】
本発明において、前記複数のチューブ内には、加熱媒体が流れており、前記外周面で捕捉された前記原料ガスに含まれるミストの一部が前記加熱媒体による加熱により気化されるように構成されていることを特徴とする。
【0009】
本発明において、前記シェルの内壁には、前記複数のチューブの延在方向において前記流入部と離れた位置に、前記流入部から流入された原料ガスを流出させる流出部が設けられていることを特徴とする。
【0010】
本発明において、前記複数のチューブのうち最も前記流入部に近い位置に配置されたチューブの外周面と前記流入部との間の距離は、前記複数のチューブのうち最も前記流出部に近い位置に配置されたチューブの外周面と前記流出部との間の距離よりも大きいことを特徴とする。
【0011】
本発明において、前記複数のチューブは、互いに間隔を空けて平行に配置されていることを特徴とする。
【0012】
本発明において、前記複数のチューブを当該複数のチューブの延在方向と直交する平面で切断したときの断面形状は、概ね円形であることを特徴とする。
【0013】
本発明において、前記複数のチューブは、少なくとも一部が屈曲していることを特徴とする。
【0014】
本発明において、前記複数のチューブは、当該複数のチューブの延在方向に摺動可能になっていることを特徴とする。
【0015】
本発明において、前記原料ガスはシクロヘキサノンオキシムの蒸発ガスを含むことを特徴とする。
【0016】
本発明の反応システムは、原料を蒸発させる蒸発装置と、前記蒸発装置により蒸発された原料の蒸発ガスに含まれるミストを分離する前記ミスト分離装置と、前記ミスト分離装置によりミストが分離された原料の蒸発ガスを触媒の存在下で化学反応させる反応装置と、を含むことを特徴とする。
【0017】
すなわち、本発明は以下に関する。
【0018】
(1)複数のチューブと、前記複数のチューブを収容するシェルと、前記シェルの内壁に設けられ、前記複数のチューブの外周面に向けて原料ガスを流入させる流入部と、前記シェルの内壁に設けられ、前記複数のチューブの延在方向において前記流入部と離れた位置に、前記流入部から流入された原料ガスを流出させる流出部と、を含む、ミスト分離装置。
【0019】
(2)前記複数のチューブは、その内部に前記加熱媒体を流すことができ、前記複数のチューブの外周面で捕捉された前記原料ガスに含まれるミストの一部を気化させることができるように構成されている、(1)に記載のミスト分離装置。
【0020】
(3)前記複数のチューブのうち最も前記流入部に近い位置に配置されたチューブの外周面と前記流入部は、前記複数のチューブのうち最も前記流入部に近い位置に配置されたチューブの外周面と前記流入部との間の距離が、前記複数のチューブのうち最も前記流出部に近い位置に配置されたチューブの外周面と前記流出部との間の距離よりも大きくなるように設定されている、(1)又は(2)に記載のミスト分離装置。
【0021】
(4)前記複数のチューブは、互いに間隔を空けて平行に配置されている、(1)〜(3)のいずれか1つに記載のミスト分離装置。
【0022】
(5)前記複数のチューブを当該複数のチューブの延在方向と直交する平面で切断したときの各チューブの断面形状は、概ね円形である、(1)〜(4)のいずれか1つの態様に記載のミスト分離装置。
【0023】
(6)前記複数のチューブは、少なくとも一部が屈曲している、(1)〜(5)のいずれか1つに記載のミスト分離装置。
【0024】
(7)前記複数のチューブの一端部が、管板によって保持されている、(1)〜(6)のいずれか1つに記載のミスト分離装置。
【0025】
(8)前記複数のチューブは、当該複数のチューブの延在方向に摺動可能になっている、(1)〜(7)のいずれか1つに記載のミスト分離装置。
【0026】
(9)前記原料ガスはシクロヘキサノンオキシムの蒸発ガスを含む、(1)〜(8)のいずれか1つの態様に記載のミスト分離装置。
【0027】
(10)原料を蒸発させる蒸発装置と、前記蒸発装置により蒸発された原料の蒸発ガスに含まれるミストを分離する(1)〜(9)のいずれか1つに記載のミスト分離装置と、所定の温度まで蒸発ガスを加熱する加熱装置と、前記ミスト分離装置によりミストが分離された原料の蒸発ガスを触媒の存在下で化学反応させる反応装置とを含む反応システム。
【0028】
(11)シクロヘキサノンオキシムを蒸発させる蒸発工程と、得られた蒸発ガス中のミストをミスト分離装置により分離する分離工程と、前記ミストを分離したシクロヘキサノンオキシムの蒸発ガスを所定の温度まで加熱する加熱工程と、前記加熱したシクロヘキサノンオキシムの蒸発ガスを触媒の存在下で、気相ベックマン転位反応によりε−カプロラクタムを得る工程とを含み、前記ミスト分離装置が(1)〜(9)のいずれか1つに記載のミスト分離装置である、ε−カプロラクタムの製造方法。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、蒸発ガスに含まれるミストを十分に捕捉することが可能なミスト分離装置、反応システム及びε−カプロラクタムの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の一実施形態に係る反応システムを示す模式図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るミスト分離装置の平断面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るミスト捕捉部の側断面図である。
【図4】本発明の一実施形態に係るミスト分離装置における蒸発ガスの流れを示す説明図である。
【図5】本発明の一実施形態に係るミスト分離装置における蒸発ガスの流れを示す説明図である。
【図6】本発明の一実施形態に係るミスト分離装置における蒸発ガスの流れを示す説明図である。
【図7】チューブの変形例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施形態を説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
なお、以下の全ての図面においては、図面を見やすくするため、各構成要素の寸法や比率などは適宜異ならせてある。また、以下の説明及び図面中、同一又は相当する要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0032】
図1は、本発明の一実施形態の反応システムを示す模式図である。
図1に示すように、反応システム1は、蒸発装置2と、ポンプ3と、第1ミスト分離装置4と、第2ミスト分離装置5と、加熱装置6と、反応装置7と、各種配管10,11,12,13,14,15,16,17,18と、を含んで構成されている。
【0033】
反応システム1は、原料であるシクロヘキサノンオキシムを蒸発装置2において蒸発させ、得られた蒸発ガスの中の不純物を含むミストを第1ミスト分離装置4及び第2ミスト分離装置5により分離し、ミストが除去されたシクロヘキサノンオキシムの蒸発ガスを加熱装置6により所定の温度まで加熱した後、加熱されたシクロヘキサノンオキシムの蒸発ガスを反応装置7に送り、固体触媒の存在下でシクロヘキサノンオキシムをベックマン転位反応させてε―カプロラクタムを生成するものである。
【0034】
蒸発装置2には、第1原料供給配管10と第2原料供給配管11とが接続されている。ε−カプロラクタムを製造する際の出発原料はシクロヘキサノンオキシムである。本実施形態では、原料として当該シクロヘキサノンオキシムと当該シクロヘキサノンオキシムを希釈する溶剤との混合液を用いる。当該混合液は、第1原料供給配管10及び第2原料供給配管11の双方の配管を経て蒸発装置2に供給される。なお、第1原料供給配管10及び第2原料供給配管11を介して前記混合液を蒸発装置2に移送する際には、メタノール等の低級アルコールを窒素ガス等の不活性ガスとともに導入することが好ましい。
【0035】
前記混合液を蒸発させる際の圧力は133kPa以下の範囲であることが好ましい。また、前記混合液を蒸発させる際の温度は130℃以上かつ170℃以下の範囲であることが好ましい。蒸発装置2により得られた蒸発ガスは、蒸発ガス供給配管14を経て第1ミスト分離装置4に供給される。
【0036】
一方、蒸発装置2内で蒸発せずに蒸発装置2の底に溜まる未蒸発液もある。当該未蒸発液は、蒸発装置2から排出配管12を経てポンプ3に供給される。当該未蒸発液は、ポンプ3により循環配管13を通って第1原料供給配管10を経て再び蒸発装置2内に供給される。
【0037】
蒸発ガス供給配管14を経て第1ミスト分離装置4に供給された蒸発ガスは、第1ミスト分離装置4によりミストが分離される。第1ミスト分離装置4においては、ある程度の量のミストが捕捉されるような粗い分離(プレ分離)が行われる。
【0038】
第1ミスト分離装置4としては、例えば特許文献1に示すミスト分離装置(複数の鎖が容器上部から所定の間隔で吊り下げられて形成されたミスト捕集用スクリーンを備えたもの)を用いることができる。
【0039】
第1ミスト分離装置4によりプレ分離された蒸発ガスは、プレ分離ガス供給配管15を経て本発明に係る第2ミスト分離装置5に供給される。
【0040】
プレ分離ガス供給配管15を経て供給された蒸発ガスは、第2ミスト分離装置5によりミストが分離される。第2ミスト分離装置5は、第1ミスト分離装置4においてある程度の量のミストが捕捉された蒸発ガスに含まれる残りのミストを捕捉するものである。第2ミスト分離装置5においては、加熱装置6においてミストがタール化して細管や配管等が閉塞されない程度に十分にミストが捕捉されるような分離(本分離)が行われる。
【0041】
図2は、第2ミスト分離装置5を示す模式図である。図2(a)は第2ミスト分離装置5の平断面図であり、図2(b)は第2ミスト分離装置5の側断面図である。
【0042】
図2(a)に示すように、第2ミスト分離装置5は、ミスト捕捉部53と、ミスト捕捉部53を収容するシェル50と、ミスト捕捉部53に向けて蒸発ガスを流入させる流入部51と、流入部51から流入された蒸発ガスを流出させる流出部52と、を含んで構成されている。流入部51及び流出部52は、それぞれシェル50の内壁に設けられている。なお、シェル50は、ジャケット型式として加熱媒体を流してもよい。
【0043】
ミスト捕捉部53は、複数のチューブ530と管板532とを有している。ミスト捕捉部53は、複数のチューブ530が略円柱形状に束ねられて形成されている。本実施形態において、ミスト捕捉部53は、いわゆるチューブバンドルである。
【0044】
複数のチューブ530は、図2(a)に示すように、管板532と反対側の部分が屈曲している。本実施形態において、複数のチューブ530はU字管型である。
【0045】
複数のチューブ530内には加熱媒体を流すことができる。加熱媒体としては、複数のチューブ530の外周面の温度を蒸発ガスに含まれるミストの沸点よりも高い温度にすることが可能な媒体(例えばミストの沸点よりも高温の蒸気)を用いることができる。複数のチューブ530内に加熱媒体を流すことにより、複数のチューブ530の外周面で捕捉されたミストの一部は、当該加熱媒体による加熱により気化される。
【0046】
流入部51と流出部52とは、複数のチューブ530の延在方向において互いに離れた位置に配置されている。流入部51は管板532の側に配置されており、流出部52は複数のチューブ530の管板532と反対側に配置されている。なお、流入部51と流出部52の配置位置はこれに限らない。例えば、前記配置位置とは反対に、流入部51が複数のチューブ530の管板532と反対側に配置されており、流出部52が管板532の側に配置されていてもよい。
【0047】
図2(a)において、符号L1は複数のチューブ530のうち最も流入部51に近い位置に配置されたチューブ530の外周面と流入部51との間の距離である。符号L2は複数のチューブ530のうち最も流出部52に近い位置に配置されたチューブ530の外周面と流出部52との間の距離である。図2(a)に示すように、第2ミスト分離装置5において、複数のチューブ530のうち最も流入部51に近い位置に配置されたチューブ530の外周面と流入部51との間の距離L1は、最も流出部52に近い位置に配置されたチューブ530の外周面と流出部52との間の距離L2よりも大きくなっている。
【0048】
複数のチューブ530のうち最も流入部51に近い位置に配置されたチューブ530の外周面と流入部51とは、複数のチューブ530のうち最も流入部51に近い位置に配置されたチューブ530の外周面と流入部51との間の距離L1が、少なくとも200mm確保されるように配置されている。また、チューブ530の外周面と流入部51とは、チューブ530の外周面と流入部51との間の隙間部分を流れる蒸発ガスの流速が、流入部51の内部を流れる蒸発ガスの流速よりも小さくなるように構成されている。
【0049】
図2(b)に示すように、ミスト捕捉部53はシェル50内において流出部52寄りに偏心している。図2(b)において、符号L3は、円柱形状のミスト捕捉部53の中心軸と円筒形状のシェル50の中心軸との間の距離である。ミスト捕捉部53の偏心率は10%〜30%である。
【0050】
図3は、ミスト捕捉部53を示す模式図である。図3(a)はミスト捕捉部53の側面図であり、図3(b)はミスト捕捉部53の平面図である。
【0051】
図3(a)に示すように、ミスト捕捉部53は、複数のチューブ530と、複数のチューブ530の長手方向に間隔を空けて配置された複数のバッフル531と、複数のチューブ530の端部を保持する管板532と、を備えて構成されている。
【0052】
複数のチューブ530は、互いに間隔を空けて平行に配置されている。複数のバッフル531は、概ね半円形である。ここで、概ね半円形とは、50%切り欠きのことであり、当該断面形状が半円形であることに限らず、半楕円形であることも含む。また、バッフルの断面形状はドーナツ型(中は空洞で外周のみに形状を有する構造)でもよい。(図3(a)に示すように、複数のバッフル531は、シェル50内を流れる蒸発ガスの流速を阻害しないように上下交互に所定の間隔を空けて配置されている。
【0053】
図3(b)に示すように、管板532には複数のチューブ530を挿通可能な複数のチューブ用孔532aが形成されている。複数のチューブ530の端部は、管板532に形成された複数のチューブ用孔532aによって支持されている。
【0054】
複数のチューブ用孔532aの間隔は、チューブ530の直径の1.5倍〜2.0倍の大きさとなっている。複数のチューブ用孔532aは、当該複数のチューブ用孔532aのうちの1つのチューブ用孔532aと隣り合う2つのチューブ用孔532aとのなす角θが通常60°〜120°、好ましくは70°〜110°、より好ましくは80°〜100°になるように配置されている。
【0055】
複数のチューブ530を当該複数のチューブ530の延在方向と直交する平面で切断したときの断面形状は、概ね円形である。ここで、概ね円形とは、当該断面形状が円形であることに限らず、楕円形であることも含む。
【0056】
図4、図5及び図6は、第2ミスト分離装置5における蒸発ガスの流れを示す説明図である。図4は図2(a)に対応した平断面図であり、図5は図2(b)に対応した側断面図であり、図6は第2ミスト分離装置5における複数のチューブ530の側断面図である。
【0057】
本実施形態の第2ミスト分離装置5は、流入部51から流入された蒸発ガスが複数のチューブ530の外周面に衝突することにより、蒸発ガスに含まれるミストが当該外周面で捕捉されるように構成されている。
以下、第2ミスト分離装置5においてシェル50の内部を蒸発ガスが流れる様子について、図4、図5及び図6を用いて一例を挙げて説明する。
【0058】
第1ミスト分離装置4によりプレ分離された蒸発ガスは、プレ分離ガス供給配管15(図1参照)を経て第2ミスト分離装置5に供給され得る。当該蒸発ガスは、流入部51を介してシェル50の内部に導入され得る。流入部51から流入された蒸発ガスは、複数のチューブ530の外周面に向けて流れ得る(図4(a)、図5(a)参照)。
【0059】
流入部51から流入した蒸発ガスが、複数のチューブ530の外周面に衝突するように設定されている。これにより、蒸発ガスに含まれるミストの一部が複数のチューブ530の外周面で捕捉される。また、複数のチューブ530内には加熱媒体(高温の蒸気)を流し得る。そのため、当該外周面で捕捉されたミストの一部は、加熱媒体による加熱により気化させることができる。
【0060】
先ず、流入部51から流入して複数のチューブ530の外周面に衝突した蒸発ガスの一部は、互いに間隔を空けて配置された複数のチューブ530の隙間を流れて複数のチューブ530の外周面を伝わる(図6参照)。これにより、蒸発ガスに含まれるミストの一部が複数のチューブ530の外周面で捕捉される。また、当該外周面で捕捉されたミストの一部は、加熱媒体による加熱により気化される。
【0061】
複数のチューブ530の外周面で捕捉されたミストが炭化し、複数のチューブ530の隙間が閉塞すると、流入部51から流入して複数のチューブ530の外周面に衝突した蒸発ガスの一部は、複数のチューブ530の延在方向に沿って流れて複数のチューブ530の外周面を伝わるように、複数のチューブ530が設定されている。(図4(b)参照)。これにより、蒸発ガスに含まれるミストの一部が複数のチューブ530の外周面で捕捉される。
【0062】
また、流入部51から流入して複数のチューブ530の外周面に衝突した蒸発ガスの一部は、略円柱形状のミスト捕捉部53の円周方向に沿って流れて複数のチューブ530の外周面を伝わるように、複数のチューブ530が設定されている(図5(b)参照)。これにより、蒸発ガスに含まれるミストの一部が複数のチューブ530の外周面で捕捉される。
【0063】
複数のチューブ530の外周面によりミストが十分に捕捉された蒸発ガスが、流出部52により流出されるように、複数のチューブ530が設定されている(図4(c)、図5(c)参照)。
【0064】
図1に戻り、前記第2ミスト分離装置5でミストが十分に分離された蒸発ガスは、分離ガス供給配管16を経て加熱装置6に供給され得る。加熱装置6は、多数の細管(直径が約2〜3cm)を備えた熱交換器である。加熱装置6は、多数の細管内に蒸発ガスを通し、細管の外面にスチーム、熱風などの熱媒体を通して熱交換を行なわせ、蒸発ガスを所定の温度まで加熱するように設定されている。この温度は250℃以上かつ500℃以下の範囲内の温度である。なお、この加熱装置6は複数配設されていてもよい。
【0065】
加熱装置6により所定の温度まで加熱されたシクロヘキサノンオキシムの蒸発ガスは加熱ガス供給配管17を通って反応装置7に供給される。
【0066】
反応装置7では、固体触媒と低級アルコールとの共存下でシクロヘキサノンオキシムをε−カプロラクタムに転位させるベックマン転位反応が行われる。このベックマン転位反応は、例えば流動層式の気相接触反応によって行われる。
【0067】
固体触媒としては、例えば、ホウ酸触媒、シリカ・アルミナ触媒、リン酸触媒、複合金属酸化物触媒、ゼオライト触媒等が挙げられる。中でもゼオライト触媒が好ましく、さらに好ましくはペンタシル型ゼオライト、特に好ましくはMFIゼオライトである。
【0068】
ゼオライト触媒は、その骨格が実質的にケイ素及び酸素のみから構成される結晶性シリカであってもよいし、骨格を構成する元素としてさらに他の元素を含む結晶性メタロシリケート等であってもよい。結晶性メタロシリケート等である場合、ケイ素及び酸素以外に存在しうる元素としては、例えば、Be、B、Al、Ti、V、Cr、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、Zr、Nb、Sb、La、Hf、Bi等が挙げられ、これらの2種以上が含まれていてもよい。これら元素に対するケイ素の原子比は、通常5以上であり、好ましくは50以上、さらに好ましくは500以上である。なお、この原子比は、原子吸光法や蛍光X線法等により測定することができる。
【0069】
ゼオライト触媒は、例えば、ケイ素化合物、4級アンモニウム化合物、水、及び必要に応じて金属化合物等を原料として水熱合成に付し、得られた結晶を乾燥、焼成した後、アンモニアやアンモニウム塩で接触処理し、次いで乾燥することにより、好適に調製することができる。
【0070】
固体触媒の粒径は0.001〜5mmであるのが好ましく、さらに好ましくは0.01〜3mmである。また、固体触媒は、例えば、実質的に触媒成分のみからなる成形体であってもよいし、触媒成分を担体に担持したものであってもよい。
【0071】
固体触媒を用いたシクロヘキサノンオキシムのベックマン転位反応は、気相条件下で行うことができる。反応温度は通常250〜500℃、好ましくは300〜450℃である。反応圧力は通常0.005〜0.5MPa、好ましくは0.005〜0.2MPaである。また、触媒1kgあたりの原料シクロヘキサノンオキシムの供給速度(kg/h)、すなわち空間速度WHSV(h−1)は、通常0.1〜20h−1、好ましくは0.2〜10h−1である。
【0072】
シクロヘキサノンオキシムと共に水の共存も有利であり、水の量はシクロヘキサノンオキシムに対して2.5モル倍以下の量が好ましい。
【0073】
固体触媒と低級アルコールの共存下で、気相条件下でシクロヘキサノンオキシムをベックマン転位反応させてε−カプロラクタムを生成する際に用いられる低級アルコールとしては、炭素数6以下の低級アルコールが好ましい。具体的には、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、イソブタノール、n−アミルアルコール、n−ヘキサノール、2,2,2−トリフルオロエタノール等の1種または2種以上用いることができる。特にメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノールを1種または2種以上用いることが、ε−カプロラクタムの選択率および触媒寿命の改良に著しい効果を示すため、より好ましい。中でもメタノールまたはエタノールを用いることで、著しい効果を示し、工業的観点から最も好ましい。
また、低級アルコールの量は、シクロヘキサノンオキシムに対して重量比で、通常0.1〜20倍が用いられる。低級アルコールの量は、シクロヘキサノンオキシムに対して、重量比で好ましくは10倍以下であり、さらに好ましくは0.3〜8倍である。
【0074】
このようにして、反応装置7においてε―カプロラクタムを主成分とする反応生成物がガス状態で生成される。当該生成ガスは、生成ガス排出配管18を経て系外に取り出される。
【0075】
本実施形態の第2ミスト分離装置5は、流入部により、複数のチューブの外周面に向けて原料ガスが流入されるように設定されている。そのため、流入部から流入した原料ガスが外周面に衝突することにより、原料ガスに含まれるミストが外周面で捕捉される。
特許文献1に示すように、複数の鎖が容器上部から所定の間隔で吊り下げられた構成の場合、複数の鎖の隙間からミストを含む蒸発ガスがすり抜けることがある。
これに対し、本実施形態においては、複数のチューブは、複数のチューブの外周面に向けて原料ガスを衝突させる構成を採用しているので、当該外周面を蒸発ガスがすり抜けることはない。これにより、当該外周面には原料ガスに含まれるミストが付着する。よって、蒸発ガスに含まれるミストを十分に捕捉することができる。
【0076】
また、複数のチューブ内には加熱媒体が流すことができ、複数のチューブ内に加熱媒体を流すことにより、外周面で捕捉された原料ガスに含まれるミストの一部が加熱媒体による加熱により気化される。また、外周面で捕捉されていないミストも原料ガスが加熱されることにより気化し消滅する。よって、蒸発ガスに含まれるミストを低減させることができる。
【0077】
また、流出部が複数のチューブの延在方向において流入部と離れた位置に配置されている。そのため、流入部から流入した原料ガスが複数のチューブの延在方向に沿って流れて外周面を伝わるように、流出部が設定されている。これにより、原料ガスに含まれるミストが外周面で捕捉される。
【0078】
また、複数のチューブ530のうち最も流入部51に近い位置に配置されたチューブ530の外周面と流入部51は、複数のチューブ530のうち最も流入部51に近い位置に配置されたチューブ530の外周面と流入部51との間の距離L1が、最も流出部52に近い位置に配置されたチューブ530の外周面と流出部52との間の距離L2よりも大きくなるように設定されている。そのため、複数のチューブ530のうち最も流入部51に近い位置に配置されたチューブ530の外周面で十分な量のミストを捕捉することができる。また、最も流入部51に近い位置に配置されたチューブ530の外周面で多くのミストがされた場合であっても、当該ミストにより隙間部分が閉塞されることは生じにくい。
【0079】
また、複数のチューブ530は、複数のチューブ530の外周面に衝突した蒸発ガスの一部が、互いに間隔を空けて平行に配置された複数のチューブ530の隙間を流れて複数のチューブ530の外周面を伝わるように設定されている。よって、蒸発ガスに含まれるミストの一部が複数のチューブ530の外周面で捕捉される。
【0080】
また、複数のチューブ530の各チューブの側断面形状が概ね円形である。そのため、ミスト捕捉部53の円周方向に沿って流れて複数のチューブ530の外周面を伝わる。これにより、蒸発ガスに含まれるミストの一部が複数のチューブ530の外周面で捕捉される。
【0081】
また、複数のチューブ530はU字管型である。そのため、複数のチューブ530の一端部が管板532で保持される。よって、簡素な構成のミスト分離装置5を実現することができる。
【0082】
本実施形態の反応システム1によれば、前記ミスト分離装置5を備えているので、蒸発ガスに含まれるミストを十分に捕捉することができ、加熱装置6において前記ミストがタール化して細管や配管等が閉塞されない。よって、反応システムを長時間連続して稼動させることが可能となる。
【0083】
なお、本実施形態の反応装置においては、原料としてシクロヘキサノンオキシムを用いることができるが、これに限らない。この他にも、蒸発させる際に高沸点の不純物等を含むミストが生成されることがある種々の原料を用いることができる。
【0084】
また、本実施形態の反応装置においては、ミスト分離装置として第1ミスト分離装置4と第2ミスト分離装置5とを有して構成されているが、これに限らない。例えば、ミスト分離装置として第2ミスト分離装置5のみを有して構成されていてもよい。
【0085】
また、本実施形態の反応装置においては、固体触媒と低級アルコールの共存下でシクロヘキサノンオキシムをベックマン転位反応させてε−カプロラクタムが生成されているが、これに限らない。例えば、低級アルコールを含まない環境下でε−カプロラクタムが生成されていてもよい。すなわち、少なくとも固体触媒の存在下でε−カプロラクタムが生成されていればよい。
【0086】
また、本実施形態のミスト分離装置においては、複数のチューブがU字型管である例を挙げて説明したが、これに限らない。複数のチューブは、一部が屈曲していること(U字管型)に限らず、複数個所が屈曲していてもよい。
【0087】
図7(a)に示すように、例えば、複数のチューブ530Aとしては、2箇所が屈曲しているいわゆる3流路形式を採用していてもよい。すなわち、複数のチューブは、少なくとも一部が屈曲していればよい。
【0088】
なお、図7(b)に示すように、例えば、複数のチューブ530Bとしては、1流路形式を採用してもよい。
【0089】
また、本実施形態のミスト分離装置においては、管板532がシェル50に固定されているが、これに限らない。例えば、管板532が円筒形状のシェル50の延在方向に沿って摺動可能ないわゆる遊動管板型を採用していてもよい。すなわち、複数のチューブが当該複数のチューブの延在方向に摺動可能になっていてもよい。これにより、複数のチューブに生じる熱応力を逃がしやすくなる。
【0090】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施の形態例について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。上述した例において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明のミスト分離装置は、蒸発ガスに含まれるミストを十分に捕捉することができるため、例えば、シクロヘキサノンオキシムを原料として用いるε−カプロラクタムの製造等に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0092】
1…反応システム、2…蒸発装置、5…第2ミスト分離装置(ミスト分離装置)、7…反応装置、50…シェル、51…流入部、52…流出部、530…チューブ、L1…複数のチューブのうち最も前記流入部に近い位置に配置されたチューブの外周面と流入部との間の距離、L2…複数のチューブのうち最も流出部に近い位置に配置されたチューブの外周面と流出部との間の距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のチューブと、
前記複数のチューブを収容するシェルと、
前記シェルの内壁に設けられ、前記複数のチューブの外周面に向けて原料ガスを流入させる流入部と、
前記シェルの内壁に設けられ、前記複数のチューブの延在方向において前記流入部と離れた位置に、前記流入部から流入された原料ガスを流出させる流出部と、
を含む、ミスト分離装置。
【請求項2】
前記複数のチューブは、その内部に加熱媒体を流すことができ、前記複数のチューブの外周面で捕捉された前記原料ガスに含まれるミストの一部を気化させることができるように構成されている、請求項1に記載のミスト分離装置。
【請求項3】
前記複数のチューブのうち最も前記流入部に近い位置に配置されたチューブの外周面と前記流入部は、前記複数のチューブのうち最も前記流入部に近い位置に配置されたチューブの外周面と前記流入部との間の距離が、前記複数のチューブのうち最も前記流出部に近い位置に配置されたチューブの外周面と前記流出部との間の距離よりも大きくなるように設定されている、請求項1又は2に記載のミスト分離装置。
【請求項4】
前記複数のチューブは、互いに間隔を空けて平行に配置されている、請求項1〜3のいずれか一項に記載のミスト分離装置。
【請求項5】
前記複数のチューブを当該複数のチューブの延在方向と直交する平面で切断したときの各チューブの断面形状は、概ね円形である、請求項1〜4のいずれか一項に記載のミスト分離装置。
【請求項6】
前記複数のチューブは、少なくとも一部が屈曲している、請求項1〜5のいずれか一項に記載のミスト分離装置。
【請求項7】
前記複数のチューブの一端部が、管板によって保持されている、請求項1〜6のいずれか一項に記載のミスト分離装置。
【請求項8】
前記複数のチューブは、当該複数のチューブの延在方向に摺動可能になっている、請求項1〜7のいずれか一項に記載のミスト分離装置。
【請求項9】
前記原料ガスはシクロヘキサノンオキシムの蒸発ガスを含む、請求項1〜8のいずれか一項に記載のミスト分離装置。
【請求項10】
原料を蒸発させる蒸発装置と、
前記蒸発装置により蒸発された原料の蒸発ガスに含まれるミストを分離する請求項1〜9のいずれか一項に記載のミスト分離装置と、
所定の温度まで蒸発ガスを加熱する加熱装置と、
前記ミスト分離装置によりミストが分離された原料の蒸発ガスを触媒の存在下で化学反応させる反応装置と、
を含む、反応システム。
【請求項11】
シクロヘキサノンオキシムを蒸発させる蒸発工程と、
得られた蒸発ガス中のミストをミスト分離装置により分離する分離工程と、
前記ミストを分離したシクロヘキサノンオキシムの蒸発ガスを所定の温度まで加熱する加熱工程と、
前記加熱したシクロヘキサノンオキシムの蒸発ガスを触媒の存在下で、気相ベックマン転位反応によりε−カプロラクタムを得る工程と、
を含み、
前記ミスト分離装置が請求項1〜9のいずれか一項に記載のミスト分離装置である、ε−カプロラクタムの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−75290(P2013−75290A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−186646(P2012−186646)
【出願日】平成24年8月27日(2012.8.27)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】