ミトコンドリアを標的とする抗酸化剤として使用されるミトキノン誘導体
薬学的に許容される両親媒性抗酸化化合物と、その化合物を含む組成物および剤形、その化合物に関する方法および使用に関する。例示した化合物はすべてミトキノン誘導体であり、それは、メトキシフェニルアルキルトリフェニルホスホニウム誘導体またはメトキシジオキソシクロヘキサジエンアルキルトリフェニルホスホニウム誘導体である。本発明の化合物、組成物、剤形、使用、方法は、例えば酸化ストレスに関連する疾患または症状の治療に有用である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、親油性カチオン基を有する両親媒性抗酸化化合物と、その化合物の合成法、製剤、物理化学的特性に関する。このような化合物は、例えば薬として使用するのが好ましい。
【背景技術】
【0002】
酸化ストレスは、加齢に伴うヒトの多くの変性疾患(例えばパーキンソン病、アルツハイマー病、ハンチントン舞踏病、フリートライヒ運動失調)や、加齢に伴って蓄積する非特異的なダメージに関係している。酸化ストレスは、脳卒中や心筋梗塞における炎症や虚血-再灌流組織障害と、臓器移植や外科手術の間の炎症や虚血-再灌流組織障害にも関係している。酸化ストレスによるダメージを避けるため、数多くの抗酸化療法が開発されている。しかしそのほとんどは細胞内を標的としていないため、非常に有効であるとは言えない。しかもそのような抗酸化剤の多くは好ましくない物理化学的特性を持っているため、例えば生物学的利用能が制限されたり、標的となる臓器に侵入して治療効果をもたらす能力が制限されたりする。
【0003】
ミトコンドリアは、エネルギー代謝にとって重要な細胞内器官である。したがってミトコンドリアに欠陥があると、特に、エネルギーを大量に必要とする神経組織と筋肉組織にダメージがもたらされる。ミトコンドリアの欠陥は、ほとんどの細胞の内部で酸化ストレスを引き起こすフリーラジカルと反応性酸素種の主要な供給源でもある。そのため出願人は、ミトコンドリアに選択的に抗酸化剤を送達することが、標的が明確でない抗酸化を使用するよりも効果的であろうと考えている。そこで本発明は、ミトコンドリアを標的にできる抗酸化剤を提供することを目的とする。
【0004】
親油性カチオンは、正電荷を持つためにミトコンドリアのマトリックス内に蓄積させることができよう(Rottenberg、1979年、Methods Enzymol.、第55巻、574ページ;Chen、1988年、Ann. Rev. Cell. Biol.、第4巻、155ページ)。このようなイオンが蓄積するのは、そのイオンが正電荷を遮蔽するか広い面積に非局在化させるのに十分な親油性を持っていて、しかも能動的な流出経路がなくてそのカチオンが代謝されなかったり細胞にとって直ちに毒性を持ったりしない場合である。
【0005】
そこで本発明の中心となるのは、ミトコンドリアが特別な親油性カチオンを濃縮する能力を利用することにより、そのカチオンと結合した抗酸化剤を取り込み、酸化ストレスを引き起こすフリーラジカルと反応性酸素種の主な供給源にその抗酸化剤が向かうようにする方法である。
【0006】
生体内で優れた抗酸化活性を示すが、生体内の標的コンパートメントに対する抗酸化機能は少ない抗酸化化合物として、補酵素Q(CoQ)やイデベノンなどがある。この2つの化合物はどちらも生物学的利用能が小さいため、効果をもたらすには非常に多くの量を投与する必要がある。そのため投与量の割には治療効果が小さい。
【0007】
われわれは、どのような理論に囚われることも望んでいないため、ある抗酸化化合物にとって、生体内または生体外での活性(例えば抗酸化活性またはミトコンドリアへの蓄積)だけが抗酸化機能および/または生体内効果(例えば治療効果)を決定する因子では決してないと考えている。ある抗酸化化合物がミトコンドリアを標的とした本発明の抗酸化化合物として役立つには、その抗酸化化合物が試験管内または生体外で適切な抗酸化活性を示さねばならないのは事実であるが、生体内で効果を持つためには、ミトコンドリアを標的としたその抗酸化化合物は、他の望ましい物理化学的特性(例えば、適度な生物学的利用能、および/または標的とするミトコンドリア内での適度な局在または分布、および/または適度な安定性)を示さねばならない。
【0008】
われわれは、どのような理論に囚われることも望んでいないため、ミトコンドリアを標的とした本発明の抗酸化化合物は、望ましい抗酸化機能(例えば、生物学的利用能、および/またはミトコンドリアを標的とすること)を示し、その物理化学的特性(例えば両親媒性、および/または物理的構造、および/または大きさ)が少なくとも理由の1つとなって生体内に蓄積し、疎水性および/または分配係数をあまり変化させないと考えている。したがってこのような化合物は、他の抗酸化化合物と比べて低用量で治療に有効である。
【0009】
米国特許第6,331,532号明細書では、ミトキノールとミトキノン(この明細書では、まとめてミトキノン/ミトキノールと呼ぶ)という具体的な化合物に言及し、親油性カチオンが抗酸化部分と共有結合することでその抗酸化部分がミトコンドリアに向かうであろうことが開示されている。その中に例示されている化合物は(鎖の長さを一般化してはあるが)、以下の一般式で表わされる炭素鎖の長さが10個(すなわちC10鎖)のミトキノン化合物:
【0010】
【化1】
【0011】
である。その還元形態であるミトキノールもC10鎖である。
【0012】
ミトキノン/ミトキノールは、試験管内と生体内において、抗酸化活性と、ミトコンドリアに対する指向性と、ミトコンドリア内への蓄積が優れているとはいえ、臭化塩としては幾分か不安定であることをわれわれは見いだした。われわれはさらに、米国特許第6,331,532号明細書に開示されているようなミトキノン/ミトキノールの物理化学的特性は、例えば経口または非経口で投与する場合、および/または体内臓器(例えば脳、心臓、肝臓、他の臓器)の組織内のミトコンドリアにその化合物を向かわせる場合には、医薬組成物としてはあまり適切でないことも見い出した。
【0013】
本発明による具体的な化合物は、医薬組成物として適切である。それは、結晶以外の形態および/または固体以外の形態になる可能性があるが、他の物質、例えば担体、賦形剤、錯化剤や、他の添加物、例えばシクロデキストリンと混合すると固体形態にすることができる。混合するこれらの物質は、薬学的に許容されることが望ましい。
【0014】
われわれは、ミトコンドリアを標的とする本発明の両親媒性抗酸化化合物として、その化合物の正電荷が適切なアニオンと組み合わさって一般的な中和塩の形態になったもの、例えば固体生成物または結晶生成物を具体的に提供できると望ましいことを明らかにした。しかしこのような塩の形態では、ある種の塩形成アニオンを避けるのが最も好ましいことをわれわれは見い出した。なぜならそのような塩形成アニオンは、抗酸化化合物、例えば抗酸化部分、結合部分、親油性カチオン部分に対する反応性を示すから、および/または抗酸化部分を開裂させる可能性があるからである。他の塩形成アニオンは、薬学的に望ましくないと考えられている。例えば硝酸塩部分は、薬学的または環境的に許容されないために製薬会社から一般に不適切であると見なされている。また、このような化合物の塩を形成するのにしばしば用いられる臭化水素は求核性を持っているために抗酸化部分と反応する可能性があることをわれわれは見い出した。すると、例えばこの明細書の一般式(II)で示した化合物の抗酸化部分からのメチル基の開裂、および/またはその化合物全体の安定性のほぼ全体的な低下が起こる可能性がある。われわれは、例えばミトキノンの臭化塩が幾分か不安定であることを明らかにした。
【0015】
そこでわれわれは、ミトコンドリアを標的とする塩の形態(例えば液体、固体、結晶の形になった塩の形態)の抗酸化剤は、求核性ではないアニオンなどの部分、および/または抗酸化化合物または抗酸化複合体を含むどの部分に対しても反応性を示さないアニオンなどの部分と組み合わさるのが最高であると考えている。そのアニオンが薬学的に許容されることも好ましい。
【発明の開示】
【0016】
発明の目的
そこで本発明の1つの目的は、例えば酸化ストレスに伴う疾患や症状の治療に役立つ薬理学的に許容可能な両親媒性の抗酸化化合物および抗酸化組成物と、剤形と、その化合物の製造方法を提供すること、または一般の人に有効な選択肢を提供することである。
【0017】
発明の概要
本発明の第1の特徴は、リンク部分によって抗酸化部分と結合している親油性カチオン部分と、そのカチオン部分に対するアニオン相補部とを有する化合物であって、カチオン部分がミトコンドリアの抗酸化部分を標的にできること、および/または塩の形態が化学的に安定であること、および/またはアニオン相補部が、抗酸化部分、カチオン部分、リンク部分のいずれに対しても反応性を示さないことを特徴とする化合物である。
【0018】
一実施態様では、抗酸化部分はキノンまたはキノールである。
【0019】
別の実施態様では、抗酸化部分は、ビタミンE、ビタミンE誘導体、鎖破断抗酸化剤(例えばブチル化ヒドロキシアニソール、ブチル化ヒドロキシトルエン)、一般的なラジカル捕獲剤(例えば誘導体化したフラーレン)、スピン・トラップ(例えば5,5-ジメチルピロリン-N-オキシド、tert-ブチルニトロソベンゼン、tert-ニトロソベンゼン、α-フェニル-tert-ブチルニトロンの誘導体や、関連した化合物)を含む群から選ばれる。
【0020】
一実施態様では、親油性カチオン部分は、置換された/置換されていないトリフェニルホスホニウム・カチオンである。
【0021】
一実施態様では、化合物は、一般式(I):
【0022】
【化2】
【0023】
の化合物、および/またはそのキノール形態である(ただし、R1、R2、R3は、互いに同じでも異なっていてもよく、(場合によっては置換されている)C1〜C5アルキル部分とHの中から選択され、nは約2〜約20の整数であり、Zは非反応性アニオンである)である。
【0024】
Zは、スルホン酸アルキル、スルホン酸アリール、硝酸アルキル、硝酸アリールからなる群より選ばれることが好ましい。
【0025】
(C)n鎖のそれぞれのCは、飽和していることが好ましい。
【0026】
好ましい一実施態様では、化合物は、一般式:
【0027】
【化3】
【0028】
の化合物および/またはそのキノール形態(ただしZは非求核性アニオンである)である。
【0029】
より好ましくは、化合物が以下の一般式:
【0030】
【化4】
【0031】
を有する。
【0032】
本発明の別の特徴によると、リンク部分によって抗酸化部分と結合している親油性カチオン部分と、そのカチオン部分に対するアニオン相補部とを有する化合物を含む医薬組成物であって、カチオン部分がミトコンドリアの抗酸化部分を標的にできること、および/または塩の形態が化学的に安定であること、および/またはアニオン相補部が、抗酸化部分、カチオン部分、リンク部分のいずれに対しても反応性を示さないことを特徴とする医薬組成物が提供される。
【0033】
一実施態様では、抗酸化部分はキノンまたはキノールである。
【0034】
別の実施態様では、抗酸化部は、ビタミンE、ビタミンE誘導体、鎖破断抗酸化剤、例えばブチル化ヒドロキシアニソール、ブチル化ヒドロキシトルエン、一般的なラジカル捕獲剤、例えば誘導体化したフラーレン、スピン・トラップ、例えば5,5-ジメチルピロリン-N-オキシド、tert-ブチルニトロソベンゼン、tert-ニトロソベンゼン、α-フェニル-tert-ブチルニトロンの誘導体や、関連した化合物を含む群から選ばれる。
【0035】
一実施態様では、親油性カチオン部分は、置換された/置換されていないトリフェニルホスホニウム・カチオンである。
【0036】
一実施態様では、化合物は、一般式(I):
【0037】
【化5】
【0038】
の化合物、および/またはそのキノール形態である(ただし、R1、R2、R3は、互いに同じでも異なっていてもよく、(場合によっては置換されている)C1〜C5アルキル部分とHの中から選択され、nは約2〜約20の整数であり、Zは非反応性アニオンである)である。
【0039】
Zは、スルホン酸アルキル、スルホン酸アリール、硝酸アルキル、硝酸アリールからなる群から選ばれることが好ましい。
【0040】
(C)n鎖のそれぞれのCは、飽和していることが好ましい。
【0041】
さらに別の一実施態様では、化合物は、一般式:
【0042】
【化6】
【0043】
の化合物、および/またはそのキノール形態(ただしZは非求核性アニオンである)である。
【0044】
さらに別の一実施態様では、組成物は、一般式(II)の化合物(ただしZは非求核性アニオンである)および/またはそのキノール形態と、シクロデキストリンとを含む。
【0045】
いろいろな実施態様では、化合物とシクロデキストリンのモル比は、約10:1〜約1:10、約5:1〜約1:5、約4:1〜約1:4、約2:1〜約1:2、約1:1のいずれかである。化合物とシクロデキストリンのモル比は、例えば約1:2である。
【0046】
より好ましくは、組成物が、一般式:
【0047】
【化7】
【0048】
の化合物を含むことである(ただし、シクロデキストリンはβ-シクロデキストリンであり、化合物とシクロデキストリンとのより好ましいモル比は約1:2である)。
【0049】
一実施態様では、医薬組成物を経口投与用の製剤にする。
【0050】
さらに別の一実施態様では、医薬組成物を非経口投与用の製剤にする。
【0051】
本発明のさらに別の特徴によると、リンク部分によって抗酸化部分と結合している親油性カチオン部分と、そのカチオン部分に対するアニオン相補部とを有する化合物を含む投薬単位であって、カチオン部分がミトコンドリアの抗酸化部分を標的にできること、および/または塩の形態が化学的に安定であること、および/またはアニオン相補部が、抗酸化部分、カチオン部分、リンク部分のいずれに対しても反応性を示さないことを特徴とする投薬単位が提供される。
【0052】
一実施態様では、抗酸化部分はキノンまたはキノールである。
【0053】
別の実施態様では、抗酸化部分は、ビタミンE、ビタミンE誘導体、鎖破断抗酸化剤(例えばブチル化ヒドロキシアニソール、ブチル化ヒドロキシトルエン)、一般的なラジカル捕獲剤(例えば誘導体化したフラーレン)、スピン・トラップ(例えば5,5-ジメチルピロリン-N-オキシド、tert-ブチルニトロソベンゼン、tert-ニトロソベンゼン、α-フェニル-tert-ブチルニトロンの誘導体や、関連した化合物)を含む群より選ばれる。
【0054】
一実施態様では、親油性カチオン部分は、置換された/置換されていないトリフェニルホスホニウム・カチオンである。
【0055】
一実施態様では、化合物は、一般式(I):
【0056】
【化8】
【0057】
の化合物、および/またはそのキノール形態である(ただし、R1、R2、R3は、互いに同じでも異なっていてもよく、(場合によっては置換されている)C1〜C5アルキル部分とHの中から選択され、nは約2〜約20の整数であり、Zは非反応性アニオンである)である。
【0058】
Zは、スルホン酸アルキル、スルホン酸アリール、硝酸アルキル、硝酸アリールからなる群より選ばれることが好ましい。
【0059】
(C)n鎖のそれぞれのCは、飽和していることが好ましい。
【0060】
さらに別の一実施態様では、化合物は、一般式:
【0061】
【化9】
【0062】
の化合物(ただしZは非求核性アニオンである)および/またはそのキノール形態である。
【0063】
さらに別の一実施態様では、投薬単位は、一般式(II)の化合物(ただしZは非求核性アニオンである)および/またはそのキノール形態と、シクロデキストリンとを含む。
【0064】
いろいろな実施態様では、化合物とシクロデキストリンのモル比は、約10:1〜約1:10、約5:1〜約1:5、約4:1〜約1:4、約2:1〜約1:2、約1:1のいずれかである。化合物とシクロデキストリンのモル比は、例えば約1:2である。
【0065】
より好ましくは、投薬単位が、一般式:
【0066】
【化10】
【0067】
の化合物を含む(ただし、シクロデキストリンはβ-シクロデキストリンであり、化合物とシクロデキストリンのより好ましいモル比は約1:2である)。
【0068】
一実施態様では、投薬単位は経口投与に適している。
【0069】
さらに別の一実施態様では、投薬単位は非経口投与に適している。
【0070】
本発明のさらに別の特徴によると、本発明の化合物、またはその薬学的に許容される塩、組成物、剤形を哺乳動物に投与することにより、その哺乳動物の酸化ストレスを予防または治療する方法が提供される。
【0071】
一実施態様では、化合物は、一般式(II)の化合物またはその薬学的に許容される塩である。
【0072】
別の一実施態様では、第1日目に1日当たりの維持量の約1.02〜約2.0倍が投与され、その後は1日当たりの維持量が毎日投与される。
【0073】
塩はメタンスルホン酸塩であることが好ましく、化合物はシクロデキストリンと組み合わせることが好ましい。
【0074】
より好ましくは、化合物が一般式:
【0075】
【化11】
【0076】
を有する。
【0077】
シクロデキストリンはβ-シクロデキストリンであることが好ましく、化合物とシクロデキストリンのより好ましいモル比は約1:2である。
【0078】
本発明のさらに別の特徴によると、本発明は、化合物、またはその薬学的に許容される塩、組成物または剤形を哺乳動物に投与することにより、その哺乳動物の加齢症状の予防または治療に使用するための本発明の化合物、またはその薬学的に許容される塩、組成物または剤形を提供する。
【0079】
一実施態様では、化合物は、一般式(II)の化合物またはその薬学的に許容される塩である。
【0080】
別の一実施態様では、第1日目に1日当たりの維持量の約1.02〜約2.0倍が投与され、その後は1日当たりの維持量が毎日投与される。
【0081】
【化12】
【0082】
塩はメタンスルホン酸塩であることが好ましく、化合物はシクロデキストリンと組み合わせることが好ましい。
【0083】
より好ましくは、化合物が一般式:
【0084】
【化13】
【0085】
を有する。
【0086】
シクロデキストリンはβ-シクロデキストリンであることが好ましく、化合物とシクロデキストリンのより好ましいモル比は約1:2である。
【0087】
さらに別の特徴によると、本発明は、リンク部分によって抗酸化部分と結合している親油性カチオン部分と、そのカチオン部分に対するアニオン相補部とを有する安定な化合物であって、
カチオン種が、ミトコンドリアの抗酸化部分を標的とできること、および
アニオン相補部がハロゲンイオンでないこと、および
アニオン相補部が非求核性であること、および/または
アニオン相補部が抗酸化部分、カチオン部分またはリンク部分のいずれに対しても反応性を示さない、前記化合物にある。
【0088】
一実施態様では、抗酸化部分はキノンまたはキノールである。
【0089】
別の実施態様では、抗酸化部分は、ビタミンE、ビタミンE誘導体、鎖破断抗酸化剤(例えばブチル化ヒドロキシアニソール、ブチル化ヒドロキシトルエン)、一般的なラジカル捕獲剤(例えば誘導体化したフラーレン)、スピン・トラップ(例えば5,5-ジメチルピロリン-N-オキシド、tert-ブチルニトロソベンゼン、tert-ニトロソベンゼン、α-フェニル-tert-ブチルニトロンの誘導体や、関連した化合物)を含む群より選ばれる。
【0090】
一実施態様では、親油性カチオン部分は、置換された/置換されていないトリフェニルホスホニウム・カチオンである。
【0091】
一実施態様では、化合物は、一般式(I)を持つ化合物:
【0092】
【化14】
【0093】
の化合物、および/またはそのキノール形態である(ただし、R1、R2、R3は、互いに同じでも異なっていてもよく、(場合によっては置換されている)C1〜C5アルキル部分とHの中から選択され、nは約2〜約20の整数であり、Zは非反応性アニオンである)である。
【0094】
Zは、スルホン酸アルキル、スルホン酸アリール、硝酸アルキル、硝酸アリールからなる群より選ばれることが好ましい。
【0095】
(C)n鎖のそれぞれのCは、飽和していることが好ましい。
【0096】
好ましい一実施態様では、化合物は、一般式:
【0097】
【化15】
【0098】
の化合物(ただしZは非求核性アニオンである)および/またはそのキノール形態である。
【0099】
より好ましくは、化合物が一般式(III):
【0100】
【化16】
【0101】
を有する。
【0102】
本発明のさらに別の特徴では、本発明は、リンク部分によって抗酸化部分と結合している親油性カチオン部分と、そのカチオン部分に対するアニオン相補部とを有する安定な化合物を含む医薬組成物であって、
カチオン種が、ミトコンドリアの抗酸化部分を標的とできること、および
アニオン相補部がハロゲンイオンでないこと、および
アニオン相補部が非求核性であること、および/または
アニオン相補部が抗酸化部分、カチオン部分またはリンク部分のいずれに対しても反応性を示さない、前記組成物を提供する。
【0103】
一実施態様では、抗酸化部分はキノンまたはキノールである。
【0104】
別の実施態様では、抗酸化部分の選択を、ビタミンE、ビタミンE誘導体、鎖破断抗酸化剤(例えばブチル化ヒドロキシアニソール、ブチル化ヒドロキシトルエン)、一般的なラジカル捕獲剤(例えば誘導体化したフラーレン)、スピン・トラップ(例えば5,5-ジメチルピロリン-N-オキシド、tert-ブチルニトロソベンゼン、tert-ニトロソベンゼン、α-フェニル-tert-ブチルニトロンの誘導体や、関連した化合物)を含むグループの中から行なう。
【0105】
一実施態様では、親油性カチオン部分は、置換された/置換されていないトリフェニルホスホニウム・カチオンである。
【0106】
一実施態様では、化合物は、一般式(I):
【0107】
【化17】
【0108】
の化合物、および/またはそのキノール形態である(ただし、R1、R2、R3は、互いに同じでも異なっていてもよく、(場合によっては置換されている)C1〜C5アルキル部分とHの中から選択され、nは約2〜約20の整数であり、Zは非反応性アニオンである)である。
【0109】
Zは、スルホン酸アルキル、スルホン酸アリール、硝酸アルキル、硝酸アリールからなる群より選ばれることが好ましい。
【0110】
(C)n鎖のそれぞれのCは、飽和していることが好ましい。
【0111】
さらに別の一実施態様では、化合物は、一般式:
【0112】
【化18】
【0113】
の化合物(ただしZは非求核性アニオンである)および/またはそのキノール形態である。
【0114】
さらに別の一実施態様では、組成物は、一般式(II)の化合物(ただしZは非求核性アニオンである)および/またはそのキノール形態と、シクロデキストリンとを含む。
【0115】
いろいろな実施態様では、化合物とシクロデキストリンのモル比は、約10:1〜約1:10、約5:1〜約1:5、約4:1〜約1:4、約2:1〜約1:2、約1:1のいずれかである。化合物とシクロデキストリンのモル比は、例えば約1:2である。
【0116】
より好ましくは、組成物が、一般式:
【0117】
【化19】
【0118】
の化合物を含む(ただしシクロデキストリンはβ-シクロデキストリンであり、化合物とシクロデキストリンのより好ましいモル比は約1:2である)。
【0119】
一実施態様では、医薬組成物を経口投与用の製剤にする。
【0120】
さらに別の一実施態様では、医薬組成物を非経口投与用の製剤にする。
【0121】
さらに別の特徴では、本発明は、リンク部分によって抗酸化部分と結合している親油性カチオン部分と、そのカチオン部分に対するアニオン相補部とを有する安定な化合物、および薬学的に許容される希釈剤および/または担体および/または賦形剤を含む投薬単位であって、
カチオン種が、ミトコンドリアの抗酸化部分を標的とできること、および
アニオン相補部がハロゲンイオンでないこと、および
アニオン相補部が非求核性であること、および/または
アニオン相補部が抗酸化部分、カチオン部分またはリンク部分のいずれに対しても反応性を示さない、前記投薬単位にある。
【0122】
一実施態様では、抗酸化部分はキノンまたはキノールである。
【0123】
別の実施態様では、抗酸化部分の選択を、ビタミンE、ビタミンE誘導体、鎖破断抗酸化剤(例えばブチル化ヒドロキシアニソール、ブチル化ヒドロキシトルエン)、一般的なラジカル捕獲剤(例えば誘導体化したフラーレン)、スピン・トラップ(例えば5,5-ジメチルピロリン-N-オキシド、tert-ブチルニトロソベンゼン、tert-ニトロソベンゼン、α-フェニル-tert-ブチルニトロンの誘導体や、関連した化合物)を含むグループの中から行なう。
【0124】
一実施態様では、親油性カチオン部分は、置換された/置換されていないトリフェニルホスホニウム・カチオンである。
【0125】
一実施態様では、化合物は、一般式(I):
【0126】
【化20】
【0127】
の化合物、および/またはそのキノール形態である(ただし、R1、R2、R3は、互いに同じでも異なっていてもよく、(場合によっては置換されている)C1〜C5アルキル部分とHの中から選択され、nは約2〜約20の整数であり、Zは非反応性アニオンである)である。
【0128】
Zは、スルホン酸アルキル、スルホン酸アリール、硝酸アルキル、硝酸アリールからなるグループの中から選択することが好ましい。
【0129】
(C)n鎖のそれぞれのCは、飽和していることが好ましい。
【0130】
さらに別の一実施態様では、化合物は、一般式:
【0131】
【化21】
【0132】
の化合物(ただしZは非求核性アニオンである)および/またはそのキノール形態である。
【0133】
さらに別の一実施態様では、投薬単位は、一般式(II)の化合物(ただしZは非求核性アニオンである)および/またはそのキノール形態と、シクロデキストリンとを含む。
【0134】
いろいろな実施態様では、化合物とシクロデキストリンのモル比は、約10:1〜約1:10、約5:1〜約1:5、約4:1〜約1:4、約2:1〜約1:2、約1:1のいずれかである。化合物とシクロデキストリンのモル比は、例えば約1:2である。
【0135】
より好ましくは、投薬単位が、一般式:
【0136】
【化22】
【0137】
の化合物を含む(ただし、シクロデキストリンはβ-シクロデキストリンであり、化合物とシクロデキストリンのより好ましいモル比は約1:2である)。
【0138】
一実施態様では、投薬単位は経口投与に適している。
【0139】
さらに別の一実施態様では、投薬単位は非経口投与に適している。
【0140】
さらに別の特徴によると、本発明は、経口投与に適した投薬単位であって、本発明の化合物を活性成分として含んでおり、その化合物が結晶形態および/または非液体形態の製剤にされている投薬単位からなる。
【0141】
さらに別の特徴によると、本発明は、本発明の化合物を活性成分として含む、非経口投与に適した投薬単位からなる。
【0142】
本発明のさらに別の特徴により、酸化ストレスまたは加齢症状の低減による利益を受ける可能性のある患者の治療に適した医薬組成物であって、本発明の化合物の有効量を、1種類以上の薬学的に許容される担体、賦形剤、希釈剤と組み合わせて含む医薬組成物が提供される。
【0143】
一実施態様では、化合物は一般式(I)の化合物である。
【0144】
一実施態様では、化合物をシクロデキストリンと錯体化される。
【0145】
いろいろな実施態様では、化合物とシクロデキストリンのモル比は、約10:1〜約1:10、約5:1〜約1:5、約4:1〜約1:4、約2:1〜約1:2、約1:1のいずれかである。化合物とシクロデキストリンのモル比は、例えば約1:2である。
【0146】
化合物が一般式(III)の化合物であり、シクロデキストリンがβ-シクロデキストリンであり、化合物とシクロデキストリンのモル比が約1:2であることがより好ましい。
【0147】
本発明のさらに別の特徴により、細胞内の酸化ストレスを減らすことを目的として、本発明の化合物にその細胞を接触させるステップを含む方法が提供される。
【0148】
一実施態様では、化合物は一般式(I)の化合物である。
【0149】
一実施態様では、化合物はシクロデキストリンと錯体化される。
【0150】
いろいろな実施態様では、化合物とシクロデキストリンのモル比は、約10:1〜約1:10、約5:1〜約1:5、約4:1〜約1:4、約2:1〜約1:2、約1:1のいずれかである。化合物とシクロデキストリンのモル比は、例えば約1:2である。
【0151】
化合物が一般式(III)の化合物であり、シクロデキストリンがβ-シクロデキストリンであり、化合物とシクロデキストリンのモル比が約1:2であることがより好ましい。
【0152】
一実施態様では、医薬組成物を経口投与用の製剤にする。
【0153】
さらに別の一実施態様では、医薬組成物を非経口投与用の製剤にする。
【0154】
本発明のさらに別の特徴により、パーキンソン病、アルツハイマー病、ハンチントン舞踏病、フリートライヒ運動失調を患っている患者、またはこれらの疾患になりやすい素因を有する患者の治療に適した医薬組成物であって、本発明の化合物の有効量を、1種類以上の薬学的に許容される担体、賦形剤、希釈剤と組み合わせて含む医薬組成物が提供される。
【0155】
この治療は、フリートライヒ運動失調を患っているか、フリートライヒ運動失調になりやすい素因を有する患者の治療であることが好ましい。
【0156】
本発明のさらに別の特徴により、酸化ストレスの低減による利益を受ける可能性のある患者の治療法または予防法であって、その患者に本発明の化合物を投与するステップを含む方法が提供される。
【0157】
一実施態様では、化合物は一般式(I)の化合物である。
【0158】
一実施態様では、化合物はシクロデキストリンと錯体化される。
【0159】
いろいろな実施態様では、化合物とシクロデキストリンのモル比は、約10:1〜約1:10、約5:1〜約1:5、約4:1〜約1:4、約2:1〜約1:2、約1:1のいずれかである。化合物とシクロデキストリンのモル比は、例えば約1:2である。
【0160】
化合物が一般式(III)の化合物であり、シクロデキストリンがβ-シクロデキストリンであり、化合物とシクロデキストリンのモル比が約1:2であることがより好ましい。
【0161】
一実施態様では、投与は経口投与である。
【0162】
別の一実施態様では、投与は非経口投与である。
【0163】
本発明の別の特徴により、酸化ストレスまたは加齢症状の低減による利益を受ける可能性のある患者の治療法または予防法であって、その患者に本発明の化合物を投与するステップを含む方法が提供される。
【0164】
本発明のさらに別の特徴により、パーキンソン病、アルツハイマー病、ハンチントン舞踏病、フリートライヒ運動失調を患っている患者、またはこれらの疾患になりやすい素因を有する患者の治療法または予防法であって、その患者に本発明の化合物を投与するステップを含む方法が提供される。
【0165】
この治療法または予防法は、フリートライヒ運動失調を患っているか、フリートライヒ運動失調になりやすい素因を有する患者の治療法または予防法であることが好ましい。
【0166】
本発明の別の特徴により、細胞内の酸化ストレスを減らすことを目的として、本発明の化合物にその細胞を投与するステップを含む方法が提供される。
【0167】
本発明の別の特徴により、上記の化合物を用いて調製または製造した、患者の酸化ストレスを減らすのに有効な薬物、投薬単位、医薬組成物が提供される。
【0168】
本発明の別の特徴により、上記の化合物を用いて調製または製造した、患者の加齢症状を減らすのに有効な薬物、投薬単位、医薬組成物が提供される。
【0169】
本発明のさらに別の特徴により、本発明の化合物を用いて調製または製造した薬物、投薬単位、医薬組成物であって、パーキンソン病、アルツハイマー病、ハンチントン舞踏病、フリートライヒ運動失調を患っている患者、またはこれらの疾患になりやすい素因を有する患者の治療または予防に有効な薬物、投薬単位、医薬組成物が提供される。
【0170】
好ましいことに、この薬物、投薬単位、医薬組成物は、フリートライヒ運動失調を患っているか、フリートライヒ運動失調になりやすい素因を有する患者の治療または予防に有効である。
【0171】
本発明の別の特徴により、細胞内の酸化ストレスを減らすのに有効な薬物、投薬単位、医薬組成物を、上記の化合物を用いて調製または製造する方法が提供される。
【0172】
この調製または製造は、他の1種類以上の物質または材料、より好ましくは、薬学的に許容される希釈剤、賦形剤、および/または担体を用いて実施する。
【0173】
本発明のさらに別の特徴は、一般式(I):
【0174】
【化23】
【0175】
の部分を有する化合物、および/またはそのキノール形態(ただし、R1、R2、R3は、互いに同じでも異なっていてもよく、(場合によっては置換されている)C1〜C5アルキル部分とHの中から選択され、nは約2〜約20の整数であり、Zは非反応性アニオンである)の合成方法であって、シクロデキストリンの混合を含む方法からなる。
【0176】
(C)n鎖のそれぞれのCは、飽和していることが好ましい。
【0177】
本発明のさらに別の特徴は、一般式:
【0178】
【化24】
【0179】
を有する化合物の合成方法であって、シクロデキストリンの混合を含む方法からなる。
【0180】
本発明のさらに別の特徴は、実質的に本明細書に記載した、一般式:
【0181】
【化25】
【0182】
の化合物の合成方法である。
【0183】
この明細書で言及するあらゆる文献、法令、資料、装置、論文などは、本発明のための文脈を提供することだけが目的である。これらの事項のうちのどれかまたはすべてが、本出願の各請求項の優先日よりも前に存在していたために従来技術の基礎の一部をなしているとか、本発明に関連する分野の一般的な共通知識になっていることを認るものではない。
【0184】
この明細書全体を通じ、“含む(comprise)”という用語、またはそのバリエーションである”含む(comprises)”または“含むこと”には、説明した単数または複数の要素、整数、ステップが含まれるが、他の任意の単数または複数の要素、整数、ステップが除外されるわけではない。
【0185】
この明細書全体を通じ、“キノン”という用語には、単独で用いられる場合であれ、ある化合物の酸化形態を表わすため他の用語の頭に付く場合であれ、その化合物の還元された形態、すなわちキノールの形態が含まれるものとする。同様に、例えば構造を説明することでキノンに言及する場合には、キノールの形態も含まれる。
【0186】
この明細書全体を通じ、“キノール”という用語には、単独で用いられる場合であれ、ある化合物の還元形態を表わすため他の用語の頭に付く場合であれ、その化合物の酸化された形態、すなわちキノンの形態が含まれるものとする。同様に、例えば構造を説明することでキノールに言及する場合には、キノンの形態も含まれる。
【0187】
この明細書では、“および/または”という用語には、“および”および“または”の両方が含まれる。
【0188】
この明細書では、“分配係数”および“分配係数(オクタノール:水)”という用語は、25℃〜37℃で測定したオクタン-1-オール/リン酸緩衝化生理食塩水の分配係数を意味する(Kelso, G.F.、Porterous, C.M.、Coutler, C.V.、Hughes, G.、Porterous, W.K.、Ledgerwood, E.C.、Smith, R.A.J.、Murphy, M.P.、2001年、J. Biol. Chem.、第276巻、4588ページ;Smith, R.A.J.、Porterous, C.M.、Coutler, C.V.、Murphy, M.P.、1999年、Eu. J. Biochem.、第263巻、709ページ;Smith, R.A.J.、Porterous, C.M.、Gane, A.M.、Murphy, M.P.、2003年、Proc. Nat. Acad. Sci.、第100巻、5407ページを参照のこと)か、Jauslin, M.L.、Wirth, T.、Meier, T.、Schoumacher, F.、2002年、Hum. Mol. Genet.、第11巻、3055ページに記載されているように、アドバンスト・ケミストリー・ディヴェロップメント(ACD)ソフトウエア・ソラリスv4.67を用いて計算したオクタノール/水の分配係数を意味する。
【0189】
この明細書では、“医薬調製物にとって許容される”という表現は、医薬の投与に関して許容されるだけでなく、製剤(例えば許容される安定性、商品寿命、吸湿性、調製など)に関しても許容されることを意味する。
【0190】
この明細書では、“非反応性アニオン”は、抗酸化部分、親油性カチオン、リンク部分に対して反応性を示さないアニオンである。例えば化合物中のそのような1つの部分が求核攻撃の標的を含む場合、アニオンは非求核性である。
【0191】
本発明を大まかに上記のように規定したが、本発明がそれだけに限定されることはなく、本発明はいろいろな実施態様からも構成される。その実施態様について、以下に説明する。
【0192】
本発明は、特に添付の図面を参照することによってさらによく理解できよう。
【0193】
発明の詳細な説明
上記のように、本発明の主題は、酸化ストレスを減らすための治療および/または予防を主な目的として、化合物をミトコンドリアに向かわせることである。
【0194】
ミトコンドリアは、内膜を横断する実質的な膜電位が180mVに達する(内側が負電位)。この電位のために膜が透過性になり、親油性カチオンがミトコンドリアのマトリックス内に数百倍も蓄積する。
【0195】
出願人は、親油性カチオン(例えば親油性トリフェニルホスホニウム・カチオン)を抗酸化部分と結合させることにより、得られた両親媒性化合物を完全な細胞内のミトコンドリアのマトリックスに送達できることを見い出した。すると抗酸化剤は、ランダムに分散されるのではなく、細胞内でフリーラジカルや反応性酸素種を産生する主要な部位を標的とする。
【0196】
出願人は、さらに、抗酸化化合物の性質(例えば抗酸化部分の性質、リンク部分の物理的・化学的特徴(例えばリンク部分の長さ、親油性))および/または親油性カチオンの性質が、生体内における抗酸化化合物の効果に寄与するとともに、その化合物の抗酸化機能に寄与することも明らかにした。本発明の抗酸化化合物にとって、生体内での効果は、適度な生物学的利用能、適度な安定性、適度な薬物動態、適度な抗酸化活性、および/または適度なミトコンドリア標的化および/またはミトコンドリアへの適度な蓄積などである。
【0197】
原則として、完全な細胞のミトコンドリアの膜に輸送でき、および/またはミトコンドリアの膜を通過でき、ミトコンドリアの位置またはその内部に蓄積させることのできるあらゆる親油性カチオンとあらゆる抗酸化剤を、本発明の化合物を形成するのに使用できる。
【0198】
しかし親油性カチオンは、この明細書に例示したトリフェニルホスホニウム・カチオンであることが好ましい。本発明の抗酸化化合物と共有結合する可能性のある他の親油性カチオンとしては、トリベンジルアンモニウム・カチオンやホスホニウム・カチオンなどがある。本発明の抗酸化化合物の具体例の中には、親油性カチオンが、1〜約30個の炭素原子を有する飽和した直線状の炭素鎖によって抗酸化部分と結合するものがある。炭素原子の数は、例えば、2〜約20個、約2〜約15個、約3〜約10個、約5〜約10個である。特に好ましい実施態様では、直線状の炭素鎖は炭素原子を10個含む。
【0199】
炭素鎖はアルキレン基(例えばC1〜C20またはC1〜C15)であることが好ましいが、場合によっては1つ以上の二重結合または三重結合を含む炭素鎖も、本発明の範囲に含まれる。1つ以上の置換基(例えばヒドロキシル基、カルボン酸基、アミド基)および/または1つ以上の側鎖または分岐鎖(置換された/置換されていないアルキル基、アルケニル基、アルキニル基の中から選択したもの)を含む炭素鎖も、本発明の範囲に含まれる。炭素原子を約30個以上含むが、長さが、炭素原子が1〜約30個の直線状飽和炭素鎖と等しい炭素鎖も、本発明の範囲に含まれる。
【0200】
当業者であれば、直線状アルキレン以外の部分を用いて抗酸化部分を親油性カチオン(例えば置換されたアルキル基、分岐したアルキル基、ペプチド結合など)と結合させうることがわかるであろう。
【0201】
いくつかの実施態様では、炭素原子が1〜10個の直鎖アルキレン基(例えばエチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、デシレン基)によって親油性カチオンを抗酸化部分と結合させる。
【0202】
本発明で有用な抗酸化部分としては、初めての抗酸化活性であれ、何回目かの抗酸化活性であれ、その両方であれ、抗酸化活性を持つためには還元剤と相互作用する必要のあるものが挙げられる。例えば活性な抗酸化部分としてキノール部分を含む本発明の抗酸化化合物は、キノンの形態で投与することができる。キノンは、抗酸化剤として機能するためには、つまり抗酸化活性を持つためには、還元剤(例えばミトコンドリアの還元剤である複合体II)との相互作用によってキノールの形態に還元し、初めての抗酸化活性を持つようにする必要がある。その後、酸化されたキノンの形態が還元剤と相互作用すると、抗酸化活性をリサイクルすることができる。
【0203】
本発明で有用な抗酸化部分の他の具体例としては、すでに還元された形態で存在していて、初めての抗酸化活性を持たせるのに還元剤と相互作用させる必要がないものが挙げられる。それにもかかわらず、その後そのような抗酸化部分の酸化形態がミトコンドリアの還元剤と相互作用すると、抗酸化活性をリサイクルすることができる。例えば抗酸化部分であるビタミンEは還元された形態で投与することができ、したがって初めての抗酸化活性を持たせるのに還元剤と相互作用させる必要はない。しかしその後、還元剤、例えば内在性キノン・プールと相互作用することで、抗酸化活性をリサイクルすることができる。
【0204】
本発明で有用な抗酸化部分のさらに別の具体例としては、ミトコンドリアの還元剤との相互作用によってリサイクルされないものが挙げられる。
【0205】
本発明で有用な抗酸化部分の具体例としては、ビタミンE、ビタミンE誘導体、鎖破断抗酸化剤、例えばブチル化ヒドロキシアニソール、ブチル化ヒドロキシトルエン、キノール、一般的なラジカル捕獲剤、例えば誘導体化したフラーレンなどがある。さらに、フリーラジカルと反応して安定なフリーラジカルを発生させるスピン・トラップも用いることができる。スピン・トラップとしては、5,5-ジメチルピロリン-N-オキシド、tert-ブチルニトロソベンゼン、tert-ニトロソベンゼン、α-フェニル-tert-ブチルニトロンの誘導体や、関連した化合物などがある。
【0206】
好ましい抗酸化化合物、例えば、この明細書に記載した一般式(I)と(II)の抗酸化化合物は、例えば以下の反応によって容易に得ることができる。
【0207】
【化26】
【0208】
一般的な合成法は、アルゴン雰囲気下で、適切な離脱基を含む前駆体(アルキルスルホニル前駆体、ブロモ前駆体、ヨード前駆体が好ましい)を、1当量よりも多いトリフェニルホスフィンとともに数日間にわたって加熱することである。次に、ホスホニウム化合物をその塩として分離する。そのためには、生成物をジエチルエーテルとともに、灰白色の固形物が残留するまで繰り返し研和する。次にこの固形物をクロロホルムまたはジクロロメタンに溶かし、ジエチルエーテルを用いて沈澱させて過剰なトリフェニルホスフィンを除去する。固形物がもはやクロロホルムに溶けなくなるまで、この操作を繰り返す。その時点で生成物を適切な溶媒、例えばクロロホルム、アセトン、酢酸エチル、高級アルコールから数回にわたって再結晶させる。
【0209】
ミトコンドリアを標的とする一般式(III)の好ましい抗酸化化合物(この明細書では、ミトキノン-C10メシラートまたはミトキノン-C10メタンスルホン酸塩とも呼ぶ)の安定な形態を調製するのに利用できる好ましい合成法を、この明細書の実施例1に示してある。
【0210】
このようにして調製した抗酸化化合物のアニオンは、従来技術で知られているイオン交換法や他の方法を利用し、薬学的または薬理学的に許容される別のアニオンと交換することが、それが望ましい場合や必要な場合には、容易にできる。
【0211】
出願人は、アニオンが抗酸化部分、リンク部分または親油性カチオン部分との反応性を示さない場合に、抗酸化化合物の塩の形態の安定性が増大することを明らかにした。例えば本発明の好ましい抗酸化化合物の場合には、アニオンは求核性ではない。アニオンは、薬学的に許容されるアニオンであることも望ましい。医薬製剤にとって、その製剤を含む他のあらゆる薬剤に対する反応性をアニオンが示さないことも好ましい。
【0212】
非求核性アニオンの具体例としては、ヘキサフルオロアンチモン酸塩、ヘキサフルオロヒ酸塩、ヘキサフルオロリン酸塩、テトラフェニルホウ酸塩、テトラ(ペルフルオロフェニル)ホウ酸塩、他のテトラフルオロホウ酸塩、トリフルオロメタンスルホン酸塩、アリールスルホン酸塩とアルキルスルホン酸塩、例えばメタンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、リン酸塩などがある。
【0213】
薬理学的に許容可能なアニオンの具体例としては、ハロゲンイオン、例えばフッ素イオン、塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオン;無機酸塩、例えば硝酸塩、過塩素酸、硫酸塩、リン酸塩、炭酸塩のアニオン;低級アルキルスルホン酸塩、例えばメタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩の薬学的に許容されるアニオン;アリールスルホン酸塩、例えばベンゼンスルホン酸塩、2-ナフタレンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩の薬学的に許容されるアニオン;有機酸塩、例えばトリクロロ酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、ヒドロキシ酢酸塩、安息香酸塩、マンデル酸塩、ブチル酸塩、プロピオン酸塩、ギ酸塩、フマル酸塩、コハク酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、シュウ酸塩、マレイン酸塩、酢酸塩、リンゴ酸塩、乳酸塩、アスコルビン酸塩の薬学的に許容されるアニオン;酸性アミノ酸塩、例えばグルタミン酸塩、アスパラギン酸塩の薬学的に許容されるアニオンなどがある。
【0214】
本発明による好ましい抗酸化化合物の場合、ハロゲンアニオン前駆体をアリールスルホン酸塩のアニオンまたはアルキルスルホン酸塩のアニオンで置き換える。塩の具体例としては、ベンゼンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、2-ナフタレンスルホン酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、プロパンスルホン酸塩などがあるが、これですべてではない。特に好ましいアニオンは、メタンスルホン酸塩のアニオンである。すでに説明したように、アニオンがメタンスルホン酸塩のアニオンである本発明の抗酸化化合物の一例は、特に好ましい一般式(III)の抗酸化化合物であり、それをこの明細書ではミトキノン-C10メタンスルホン酸塩またはミトキノン-C10メシラートと呼ぶ。
【0215】
同じ一般的な手続きを利用し、ミトコンドリアを標的としていて、トリフェニルホスホニウム部分(または他の親油性カチオン部分)に結合する抗酸化部分Rが異なっている広範な化合物を作ることができる。そのような化合物として、ビタミンE官能基とトリフェニルホスホニウム(または他の親油性カチオン)部分を結合している鎖の長さが異なる一連のビタミンE誘導体がある。Rとして使用できる他の抗酸化剤には、鎖破断抗酸化剤、例えばブチル化ヒドロキシアニソール、ブチル化ヒドロキシトルエン、キノール、一般的なラジカル捕獲剤、例えば誘導体化したフラーレンなどがある。さらに、フリーラジカルと反応して安定なフリーラジカルを発生させるスピン・トラップも合成することができる。スピン・トラップとしては、5,5-ジメチルピロリン-N-オキシド、tert-ブチルニトロソベンゼン、tert-ニトロソベンゼン、α-フェニル-tert-ブチルニトロンの誘導体や、関連した化合物などがある。
【0216】
本発明の抗酸化化合物にとって、どの薬物とも同じように、試験管内での活性は、生体内の機能または効果を決定する唯一の因子では決してないことがわかるであろう。本発明の抗酸化化合物の抗酸化活性は、例えば単離したミトコンドリアおよび/または単離した細胞を用い、この明細書に記載したような方法で調べることができる。ある抗酸化化合物は、ミトコンドリアを標的とした本発明の抗酸化化合物として有用であるためには、そのようなアッセイにおいて適度に大きな抗酸化活性を示す必要があるのは事実だが、生体内で効果をもたらすためには、ミトコンドリアを標的としたその抗酸化化合物が他の望ましい物理化学的性質、例えば適度な生物学的利用能、安定性、抗酸化機能も示す必要がある。
【0217】
優れた抗酸化活性を示すが生体内の標的とするコンパートメントに対する生物学的利用能は小さい抗酸化化合物の具体例として、補酵素Q(CoQ)とイデベノンがある。ヒト患者でわずかでも臨床効果を得るためには、どちらの化合物も非常に大量(例えば0.5〜1.2g)に投与せねばならない。
【0218】
ミトコンドリアを標的とした本発明の具体的な抗酸化化合物は、優れた抗酸化活性と優れた生物学的利用能を示すため、少ない投与量で生体内において効果を示す。ミトコンドリアを標的とした本発明の好ましい両親媒性抗酸化化合物であるミトキノン-C10とそのシクロデキストリン錯体に関する生物学的利用能の測定について、この明細書の実施例11に示してある。われわれは、本発明の抗酸化化合物の抗酸化活性がミトコンドリアを標的とするのに有効である一方で、本発明の抗酸化化合物を結晶形態または固体形態として利用できること、あるいは固体形態の製剤にできることで、安定性の増大、生物学的利用能の増大、抗酸化機能の向上といった別の利点も1つ以上あると考えている。ここでもわれわれはいかなる理論にも囚われることを望んでいないため、本発明による抗酸化化合物の物理化学的特徴により、本発明の抗酸化化合物の好ましい特徴が与えられると考えている。その結果、従来の抗酸化化合物だとその物理化学的性質のために本発明の抗酸化化合物ほど適してはいない可能性があるような用途に、本発明の抗酸化化合物を利用した組成物、製剤、方法を適用することができる。
【0219】
本発明のいくつかの実施態様では、抗酸化化合物は、上に定義した一般式(II)のキノール誘導体である。例えば本発明による1つのキノール誘導体は、上に定義したミトキノン-C10という化合物(一般式(III)の化合物は、それが特別な塩の形態になったものである)である。本発明による化合物のさらに別の一例は、一般式(I)の化合物において(C)nが(CH2)5であり、キノール部分がミトキノン-C10と同じになっているものである。それをこの明細書ではミトキノン-C5と呼ぶ(図3Cを参照のこと)。本発明による化合物のさらに別の一例は、一般式(I)の化合物において(C)nが(CH2)3であり、キノール部分がミトキノン-C10と同じになっているものである。それをこの明細書ではミトキノン-C3と呼ぶ(図3Bを参照のこと)。本発明による化合物のさらに別の一例は、一般式(I)の化合物において(C)nが(CH2)15であり、キノール部分がミトキノン-C10と同じになっているものである。それをこの明細書ではミトキノン-C15と呼ぶ(図3Eを参照のこと)。
【0220】
一旦製造されると、場合により薬学的に許容される担体、賦形剤、希釈剤、錯化剤または添加剤を含む任意の薬学的に好適な形態である本発明の抗酸化化合物は、治療および/または予防を必要とする患者に投与される。この化合物は、投与されると、その抗酸化活性が患者の細胞内のミトコンドリアを標的とすることになる。
【0221】
本発明の抗酸化化合物は、経口経路および/または非経口経路で患者に投与することができる。
【0222】
この抗酸化化合物は、患者に投与するため、安定で安全な医薬組成物にする必要がある。この組成物は、ある量の抗酸化化合物成分を希釈剤に溶かすか懸濁させるという従来法に従って調製することができる。量は、希釈液1mlにつき抗酸化化合物を0.1mg〜1000mgである。酢酸塩緩衝液、リン酸塩緩衝液、クエン酸塩緩衝液、グルタミン酸塩緩衝液のいずれかを添加し、最終組成物のpHを5.0〜9.5にすることができる。場合によっては炭水化物または多価アルコールといった等張剤や、保存剤も添加することができる。保存剤は、m-クレゾール、ベンジルアルコール、メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン、ブチルパラベン、フェノールからなる群より選ばれる。注射用には、十分な量の水を用いて望む濃度の溶液にする。必要であれば、他の等張剤、例えば塩化ナトリウムや他の賦形剤を存在させてもよい。しかしその賦形剤は、その抗酸化化合物全体の等張性を維持できねばならない。
【0223】
水素イオン濃度またはpHに関して使用する場合の緩衝液、緩衝溶液、緩衝化溶液という用語は、酸またはアルカリを添加したときや、溶媒で希釈したとき、系、特に水溶液がpHの変化に抵抗する能力を意味する。酸または塩基を添加したときにpHの変化が小さい緩衝化溶液の特徴は、弱酸と弱酸の塩が存在していること、または弱塩基と弱塩基の塩が存在していることである。前者の一例は、酢酸と酢酸ナトリウムである。pHの変化は、添加したヒドロキシルイオンの量が、緩衝系がそのイオンを中和する能力を超えない限りはわずかである。
【0224】
本発明の非経口製剤の安定性は、その製剤のpHを約5.0〜9.5の範囲に維持することによって大きくなる。これ以外のpHの範囲としては、例えば、5.5〜9.0、または6.0〜8.5、または6.5〜8.0、または7.0〜7.5などがある。
【0225】
本発明を実施するのに用いられる緩衝液は、例えば、酢酸塩緩衝液、リン酸塩緩衝液またはグルタミン酸塩緩衝液から選ばれるが、最も好ましい緩衝液はリン酸塩緩衝液である。
【0226】
化合物の投与を容易にするため、担体または賦形剤も使用できる。担体および賦形剤の具体例としては、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、さまざまな糖類、例えばラクトース、グルコース、スクロース、デンプン、セルロース誘導体、ゼラチン、ポリエチレングリコール、生理学的な適合性のある溶媒などが挙げられる。
【0227】
本発明の製剤には安定剤を含めることができるが、重要なことにそれは必ずしも必要ではない。しかし、含める場合に、本発明を実施する上で有用な安定剤は、炭水化物または多価アルコールである。多価アルコールとしては、ソルビトール、マンニトール、グリセリン、ポリエチレングリコール(PEG)などの化合物が挙げられる。炭水化物としては、例えば、マンノース、リボース、トレハロース、マルトース、イノシトール、ラクトース、ガラクトース、アラビノース、ラクトースなどがある。
【0228】
適切な安定剤としては、例えば、多価アルコールであるソルビトール、マンニトール、イノシトール、グリセリン、キシリトール、ポリプロピレン/エチレングリコール・コポリマーや、分子量が200、400、1450、3350、4000、6000、8000のさまざまなポリエチレングリコール(PEG)がある。
【0229】
米国薬局方(USP)には、複数回用量の容器に収容した製剤に、抗菌剤を含む静菌濃縮物または静真菌濃縮物を添加すべきことが記載されている。皮下注射用の針と注射器を用いて内容物の一部を取り出したり、他の侵襲的送達手段(例えばペン注射器)を用いたりしているときに製剤に不注意から導入された微生物の増殖を防ぐため、抗菌剤は、使用時に十分な濃度で存在していなくてはならない。抗菌剤は、製剤の他の成分と適合していなくてはならず、製剤全体における抗菌剤の活性は、1つの製剤で有効なある特定の抗菌剤が別の製剤では有効でないということがあってはならない。ある特定の抗菌剤が1つの製剤では有効だが別の製剤では有効でないということは稀でない。
【0230】
保存剤は、薬学的に一般的な意味で微生物の増殖を防止または阻止する物質であり、医薬製剤に添加してその製剤が微生物によってダメになるのを防ぐことができる。保存剤の量は多くはないが、抗酸化化合物の全体的な安定性に影響を与える可能性がある。したがって保存剤の適切な選択は難しいことがある。
【0231】
本発明を実施する際に用いる保存剤の範囲としては0.005〜1.0%(w/v)が可能であるが、単独で使用する場合または他の保存剤と組み合わせて使用する場合の各保存剤の好ましい範囲は以下の通りである;ベンジルアルコール(0.1〜1.0%)、m-クレゾール(0.1〜0.6%)、フェノール(0.〜0.8%)、メチルパラベンとの組み合わせ(0.05〜0.25%)、エチルパラベン、プロピルパラベン、ブチルパラベンいずれかとの組み合わせ(0.005〜0.03%)。パラベンは、パラ-ヒドロキシ安息香酸の低級アルキルエステルである。
【0232】
各保存剤についての詳細な説明は、『レミントンの薬理科学』と『医薬剤形:非経口医薬品』、第1巻、1992年、Avis他に記載されている。このような目的には、結晶状のトリエンチン二塩酸塩を非経口投与するか、毒性がなくて薬学的に許容される一般的な担体、アジュバント、ビヒクルを含む投薬単位の製剤を吸入スプレーで投与するとよい。
【0233】
選択した等張剤により、塩化ナトリウムまたは他の塩を添加して医薬製剤の等張性を調節することも望ましかろう。しかしこの操作は必須ではなく、しかも選択した具体的な製剤が何であるかによって異なる。非経口製剤は、等張であるか、実質的に等張でなくてはならない。さもないと、かなりの炎症や痛みが投与部位に発生することがある。
【0234】
所望の等張性は、塩化ナトリウムまたは他の薬学的に許容される薬剤、例えばデキストロース、ホウ酸、酒石酸ナトリウム、プロピレングリコール、ポリオール、例えばマンニトール、ソルビトール、他の有機または無機の溶質を用いて実現することができる。一般に、組成物は、対象の血液と等張である。
【0235】
必要であれば、非経口製剤は、増粘剤、例えばメチルセルロースを用いて粘度を大きくすることができる。製剤は、油中水型または水中油型の乳化形態にすることができる。薬学的に許容される多彩な乳化剤のうちの任意のもの、例えばアラビアゴムの粉末、非イオン性界面活性剤、イオン性界面活性剤を使用することができる。
【0236】
適切な分散剤または懸濁剤を医薬製剤に添加することも望ましい可能性がある。分散剤または懸濁剤としては、例えば、合成ゴムまたは天然ゴム、すなわちトラガカントゴム、アラビアゴム、アルギン酸塩、デキストラン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ゼラチンなどの水性懸濁液などがある。
【0237】
非経口製剤にとって最も重要なビヒクルは水である。非経口投与に適した品質の水は、蒸留または逆浸透によって調製せねばならない。このような方法によってのみ、液体状、気体状、固体状のさまざまな汚染物質を水から十分に分離することができる。注射用の水が、本発明の医薬製剤で使用するのに最も好ましい水性ビヒクルである。この水を窒素ガスでパージすることにより、酸素と酸素のフリーラジカルをすべて除去することができる。
【0238】
本発明の非経口医薬製剤の中には他の成分が存在していてもよい。そのような添加成分としては、湿潤剤、油、例えばごま油、ピーナツ油、オリーブ油などの植物油、鎮痛剤、乳化剤、抗酸化剤、充填剤、等張調整剤、金属イオン、油性ビヒクル、タンパク質、例えばヒト血清アルブミン、ゼラチン、タンパク質、両性イオン、例えばベタイン、タウリン、アルギニン、グリシン、リシン、ヒスチジンなどのアミノ酸などがある。このような添加成分は、もちろん、本発明の医薬製剤の全体的な安定性に悪い影響を与えてはならない。
【0239】
容器も注射用製剤の一部であり、要素の1つと考えることができる。なぜなら、特に液体が水性である場合には、まったく溶けない容器や、収容されている液体に何らかの影響を与えない容器は存在していないからである。したがって特定の注射液のための容器の選択は、容器の組成と溶液の組成のほか、どのような治療に用いるかを考慮してなされなくてはならない。
【0240】
皮下注射用の注射器の針を多数回用量用のバイアルに差し込んでその針が引き抜かれると直ちに再び封がされるようにするため、各バイアルにはゴム製の栓で封をし、アルミニウムのバンドでその栓を所定の位置に保持する。
【0241】
ガラス製バイアルのための栓(例えばウエスト4416/50、4416/50(表面がテフロン(登録商標))、4406/40、アボット5139)、または同等な他の任意の栓を、投与用バイアルの封止に用いることができる。このような栓は、患者が使用するパターン、例えば栓が少なくとも100回の注射に耐えられることで試験したときに栓完全性試験に合格する。
【0242】
医薬製剤の上記各成分は従来から知られているものであり、『医薬剤形:非経口医薬品』(第1巻、第2版、Avis他編、マルセル・デッカー社、ニューヨーク、ニューヨーク州、1992年)に記載されている。なおその全体が、参考としてこの明細書に組み込まれる。
【0243】
上記製剤の製造法には、化合物形成ステップ、殺菌濾過ステップ、充填ステップが含まれる。化合物形成ステップには、例えば、諸成分を特定の順番で溶かす操作が含まれる可能性がある。例えば、保存剤を最初に溶かし、次いで安定剤/等張剤、緩衝液を溶かした後、抗酸化化合物を溶かしたり、非経口製剤を形成する全成分を同時に溶かしたりする。投与するための非経口製剤を調製する方法の一例は、抗酸化化合物、例えばミトキノンC10メシラート-β-シクロデキストリン(1:2)を水に溶かし、得られた混合物をリン酸緩衝化生理食塩水で希釈するというものである。
【0244】
あるいは本発明の非経口製剤は、一般的に受け入れられている手続きに従って諸成分を混合することによって調製される。例えば選択した諸成分をブレンダーまたは他の標準的な装置の中で混合して濃縮混合物にし、水、増粘剤、緩衝液、5%ヒト血清アルブミン、等張性を制御するために追加する溶質を添加することによって最終濃度と最終粘度に調節する。
【0245】
あるいは抗酸化化合物を乾燥した固体および/または粉末として包装し、溶媒を用いて再構成することで本発明の非経口製剤が得られるようにすることもできる。この製剤は、再構成したときに使用する。
【0246】
さらに、本発明の非経口製剤を開発するとき、製造法に適切な任意の殺菌法が含まれていてもよい。典型的な殺菌法としては、濾過、蒸気処理(湿潤下での加熱)、乾燥加熱、ガス処理(エチレンオキシド、ホルムアルデヒド、二酸化塩素、プロピレンオキシド、β-プロピオラクトン、オゾン、クロロピクリン、過酢酸、臭化メチルなど)、放射線照射、殺菌処理などがある。
【0247】
非経口投与の適切な経路としては、静脈内、筋肉内、皮下、皮内、関節内、硬膜下腔内、腹腔内などがある。好ましくは静脈内投与経路である。粘膜に送達することも許容できる。投与量と投与計画は、対象の体重と健康状態によって異なることになる。
【0248】
薬学的に許容される担体、賦形剤、希釈剤、錯化剤、添加剤は、例えば抗酸化化合物の安定性を大きくするもの、および/または医薬製剤の合成または製造を容易にするもの、および/または抗酸化化合物の生物学的利用能を大きくするものを選択するとよい。
【0249】
例えば担体分子、例えばシクロデキストリンやその誘導体などは、薬物分子の物理化学的属性を変化させることのできる錯化剤としての能力を持つことがよく知られている。例えばシクロデキストリンは、錯化する活性剤を(熱と酸化の両方に対して)安定化し、その活性剤の揮発性を小さくし、その活性剤の溶解度を変化させることができる。シクロデキストリンは、複数のグルコピラノース環単位がドーナツ構造を形成している環式分子である。シクロデキストリン分子は内部が疎水性で外部が親水性になっているため、水に溶ける。溶解度は、シクロデキストリンの外側にあるヒドロキシル基を置換することで変更できる。一般に内側が疎水性になっていることで、相対的に疎水性であるいろいろなゲストを中空部に収容できるが、置換を通じて内側の疎水性を変えることも可能である。ある1つの分子の内部に別の分子が収容されることは錯化として知られており、得られた生成物は包接錯体と呼ばれる。シクロデキストリン誘導体の具体例としては、スルホブチルシクロデキストリン、マルトシルシクロデキストリン、ヒドロキシプロピルシクロデキストリン、ならびにこれらの塩がある。
【0250】
ミトコンドリアを標的とした抗酸化化合物の包接錯体(ここではミトキノン-C10とβ-シクロデキストリンの錯体)を含む薬学的に許容される組成物を形成する方法を、この明細書の実施例1と7に示してある。ミトコンドリアを標的とした好ましい抗酸化化合物の包接錯体(ミトキノン-C10メシラートとβ-シクロデキストリンの錯体)を含む薬学的に許容される組成物を形成する方法を、この明細書の実施例9と10に示してある。
【0251】
抗酸化化合物-シクロデキストリン錯体の物理化学的特性、例えば医薬特性は、例えばシクロデキストリンに対する抗酸化化合物のモル比を変化させることによって、またはシクロデキストリンそのものを変化させることによって変えることができる。例えば一般式(I)の好ましい抗酸化化合物では、シクロデキストリンに対する抗酸化化合物のモル比(抗酸化化合物:シクロデキストリン)としては、約10:1〜約1:10、約5:1〜約1:5、約4:1〜約1:4、約2:1〜約1:2、約1:1が可能である。さらに別の実施例では、抗酸化化合物であるミトキノン-C10とシクロデキストリンのモル比は1:2であり、シクロデキストリンはβ-シクロデキストリンである。
【0252】
あるいは抗酸化化合物を薬学的に適切な形態にし、抗酸化化合物の安定性と生物学的利用能を大きくすることができる。例えば錠剤に腸溶コーティングして胃の中で抗酸化化合物が放出されないようにすることで、好ましくない副作用を減らしたり、抗酸化化合物の安定性を維持したりすることができる。コーティングされていない場合には、胃という環境に曝露されることによって分解してしまう。この目的で使用するたいていのポリマーは、水性媒体への溶解度がpHによって異なることを利用し、胃で通常遭遇するよりも大きなpH条件を必要とするポリ酸である。
【0253】
好ましい1つのタイプの経口徐放構造は、固体剤形の腸溶コーティングである。腸溶コーティングにより、化合物が胃液に曝されたときに所定の期間にわたってその化合物を剤形の内部に物理的に組み込まれたままにすることが容易になる。しかしこの腸溶コーティングは、腸液の中では分解して化合物がすぐに吸収されるように設計されている。吸収の遅延の程度は胃腸管を移動する速度に依存するため、胃を空にする速度が重要な因子である。投与法によっては、複数単位型の剤形、例えば顆粒が、単一単位型よりも優れている可能性がある。したがって一実施態様では、本発明の抗酸化化合物は、腸溶コーティングした複数単位剤形の中に含めることができる。より好ましい一実施態様では、抗酸化化合物剤形は、不活性なコア材料の表面に腸溶コーティングした抗酸化化合物が固定された粒子を作ることによって得られる。このような顆粒にすると、生物学的利用能の優れた抗酸化化合物を持続的に吸収させることができる。
【0254】
典型的な腸溶コーティング剤としては、フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メタクリル酸-メタクリル酸エステル・コポリマー、ポリ酢酸-フタル酸ビニル、酢酸フタル酸セルロースなどがあるが、これだけではない。
【0255】
本発明の好ましい抗酸化化合物、および/またはその製剤、および/またはその錯体は、優れた医薬特性を示す。例えば製剤にするのが容易であり、化学的、物理的に安定であり、水に容易に溶け、吸湿性が低く、商品寿命が長い。
【0256】
以下の実験項において、本発明をこれからより詳しく説明する。
【実施例】
【0257】
実施例1. ミトキノン-C10の合成
以下に、ミトコンドリアを標的とした抗酸化化合物の具体例であるミトキノン-C10、ミトキノン-C10メシラート、そのシクロデキストリン錯体を好ましい安定な塩の形態にしたものの好ましい合成法を説明する。
【0258】
ステージ1
【0259】
【化27】
【0260】
ステップ:
1.イデベノン(A1、0.25kg、0.74モル)を反応グレードのDCM 2.5リットルに溶かし、得られた混合物を不活性雰囲気下で10±3℃に冷却する。
2.トリエチルアミン(0.152kg、1.5モル)を周囲温度にて一度に添加し、得られた混合物を再平衡させて10±3℃にする。
3.次に、塩化メタンスルホニル(0.094kg、0.82モル)を0.5リットルのDCMに溶かした溶液を、内部の温度が約10〜15℃に維持されるような速度で少しずつ添加する(このようにすると、添加が終了するまでに75分かかった)。
4.この反応混合物をさらに15〜30分間にわたって撹拌する。
5.IPCの完了をTLCで調べる(Rf=0.65、5%エタノール/ジクロロメタン)。
6.次に、この混合物を水(0.85リットル)と飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(0.85リットル)で洗浄する。
7.減圧下で40〜45℃にて有機層を蒸発させると赤い液体になる。高真空下で周囲温度にてさらに2〜4時間にわたって乾燥させて得られた粗生成物A2をそのまま次のステップで用いる。溶媒が液体に捕獲されたため、収量は不明である。
【0261】
ステージ2
【0262】
【化28】
【0263】
ステップ:
1.イデベノンメシラート(A2、最終ステップからの収率が100%であると仮定、0.31kg、0.74モル)を2リットルのメタノールに溶かした後、得られた混合物を不活性雰囲気下で0〜5℃に冷却する。
2.ホウ水素化ナトリウム(0.03kg、0.79モル)を、内部の温度が15℃を超えないような速度で数回に分けて添加する。反応が終了すると、色が赤から黄色に変化する(このようにすると、添加が終了するまでに20分かかった)。
3.この反応混合物をさらに10〜30分間にわたって撹拌する。
4.IPCの完了をTLCで調べる(A3、Rf=0.60、5%エタノール/ジクロロメタン、A2、Rf=0.65)。
5.次に2Mの塩酸溶液を2リットル用いてこの混合物の反応を停止させ、1.2リットルのジクロロメタンで3回抽出する。
6.次に、1つにまとめた有機相を1.2リットルの水で1回洗浄し、無水硫酸マグネシウム(0.24kg)上で乾燥させる。
7.次に有機相を減圧下で40〜45℃にて蒸発させると、黄色/茶色のシロップになる。高真空下で周囲温度にてさらに2〜8時間にわたって乾燥させ、得られた粗生成物A3(0.304kg、収率98%)をそのまま次のステップで使用する。
【0264】
ステージ3
【0265】
【化29】
【0266】
ステップ:
1.適切なサイズの丸底フラスコの中で、トリフェニルホスフィンの塊(0.383kg、1.46モル)をイデベノンメシラート(A3、0.304kg、0.73モル)に添加する。
2.次にこのフラスコをロータリー・エバポレータに取り付け、内容物を真空下で加熱して80〜85℃という浴の温度にする。
3.この混合物は、この温度で均一な溶融物になるはずである。溶融物が形成されると、ガスの発生がもはや明らかではなくなるため、真空の代わりに不活性雰囲気にし、この混合物を80〜85℃に設定した浴の中で約3日間にわたってゆっくりと回転させる。
4.1Hと31PのNMRによってIPCの完了を調べる。ワークアップが起こるには、最低で95%の変換が必要である。
5.次にこの混合物を室温近くまで冷却し、0.8リットルのジクロロメタンに溶かす。
6.次に、わずかに温めながら3.2リットルの酢酸エチルを数回に分けて添加すると、望む生成物が過剰なトリフェニルホスフィンから沈澱する。
7.減圧下で蒸発させることによって少量の溶媒を除去し(DCMを除去する)、残った混合物を周囲温度に近い温度まで冷却し、デカントする。
8.次に、残ったシロップ状の残留物に対してさらに2回同じ洗浄手続きを実施した後、最終的に高真空下で乾燥させて一定の重量にすると、褐色の泡が0.441kg(収率89%)得られた(注:生成物はまだ溶媒を幾分か含んでいた。NMRを参照のこと)。このようにして得られたA4は、そのまま次にステップで使用する。
【0267】
ステージ4
【0268】
【化30】
【0269】
ステップ:
1.粗ミトキノールメシラート塩(0.44kg、0.65モルであることを仮定)を6リットルの無水DCMに溶かし、フラスコを酸素でパージする。
2.フラスコの内容物を酸素雰囲気下で30分間にわたって激しく撹拌することで、溶媒を酸素ガスが飽和した状態にする。
3.乾燥DCMに0.65MのNO2を溶かした溶液(2モル%のNO2)0.1リットルを一度に素早く添加し、得られた混合物を酸素雰囲気下で周囲温度にて4〜8時間にわたって激しく撹拌する。
4.次に、(1H NMRと、場合によっては31P NMRで)IPCの完了を調べる。
5.酸化が不十分である場合には、2モル%のNO2をDCM溶液としてさらに添加する。そうすると、反応の完了が促進されるはずである。上記のようにIPCを調べる。この場合には、反応が完了するのに8モル%のNO2がDCM溶液として必要であった。
6.次に、溶媒を減圧下で蒸発させて除去すると、赤いシロップ状の残留物が得られる。この残留物を、40〜45℃にて2リットルのジクロロメタンに溶かす。
7.次に、わずかに温めながら3.2リットルの酢酸エチルを数回に分けて添加すると、望む生成物が沈澱する。減圧下で蒸発させることによって少量の溶媒を除去し(DCMを除去する)、残った混合物を周囲温度に近い温度まで冷却し、デカントする。
8.次に、油状の残留物を高真空下で最終的に乾燥させて一定の重量にすると、赤いガラス(419g、収率94%)が得られる。このようにして得られたA5は、そのまま次にステップで使用する。
【0270】
ステージ5
【0271】
【化31】
【0272】
ステップ:
1.わずかに加熱して40〜43℃にした6リットルの水にミトキノールメシラート塩(A5、0.419kg)を溶かす。
2.β-シクロデキストリン1.24kgを別に、60℃に加熱した20リットルの水に溶かす。
3.これら2つの溶液をほぼ室温まで冷却して1つにまとめると、均質な混合物が形成される。この溶液は、5℃未満で保管しなくてはならない。
4.次に、このオレンジ色の溶液を-20℃で凍結させ、(少なくとも48時間)凍結乾燥させて一定重量の複数のバッチにする。
5.次に、得られた固体を軽く砕いて自由に流動する黄色/オレンジ色の均一な粉末にする(1.433kg)。
別の合成法として、上記の合成法のステージ4の酸化ステップ3で溶液に酸素の泡を吹き込む方法を実施した。これは、NO2を用いた酸化以外の酸化手段によって酸化反応を実質的に促進させて完了させうることを意味する。
【0273】
実施例2. ミトコンドリアを標的とした抗酸化化合物の合成
ミトキノン-C3、ミトキノン-C5、ミトキノン-C15の化学的合成法の概略を図2に示してあり、それについて以下に説明する。核磁気共鳴スペクトルは、バリアン社の300MHzの装置で取得した。1HのNMRのためのテトラメチルシランは、CDCl3中の内部標準であった。31PのNMRのための85%リン酸は、外部標準であった。化学シフト(δ)は、その標準物質に対するppmで表示する。基本的分析は、オタゴ大学のキャンベル微量分析ラボラトリーで行なった。エレクトロスプレー質量分析は、島津製作所のLCMS-QP800X液体クロマトグラフィ質量分析器を用いて行なった。貯蔵溶液は無水エタノール中に調製し、暗所で-20℃にて保管した。
【0274】
ミトキノン-C3(6)。ミトキノン-C3の合成経路を図2Aに示してある。2,3-ジメトキシ-5-メチル-1,4-ベンゾキノン(CoQ0)を還元してヒドロキノールにした(Carpino, L.A.、Triolo, S.A.、Berglund, R.A.、1989年、J. Org. Chem.、第54巻、3303〜3310ページ)後、メチル化することによって出発材料である2,3,4,5-テトラメトキシトルエン(1)を調製した(Lipshutz, B.H.、Kim, S.-k.、Mollard, P、Stevens, K.L.、1998年、Tetrahedron、第54巻、1241〜1253ページ)。乾燥ヘキサン(80ml)とN,N,N',N'-テトラメチルエチレンジアミン(8.6ml)に化合物1(6.35g、29.9ミリモル)を溶かした溶液を炎で乾燥させた撹拌棒とともに、炎で乾燥させたシュレンク管の中に窒素雰囲気下で入れた。n-ブチルリチウムのヘキサン溶液(1.6M、26.2ml)を室温にてゆっくりと添加し、得られた混合物を冷却し、0℃にて1時間にわたって撹拌した。-78℃に冷却した後、乾燥テトラヒドロフラン(THF;250ml)を添加し、この反応混合物の少量のアリコートを取り出し、D2Oで反応を停止させ、金属化が完全に起こったかどうかを1H NMRで調べた。次に、その黄色い懸濁液を、炎で乾燥させてCuCN(0.54g、6.03ミリモル)を入れた第2のシュレンク管の中に、窒素雰囲気下で-78℃にて移した。この混合物を温めて10分間にわたって0℃にした後、-78℃まで冷却し、臭化アリル(3.62ml)を添加し、得られた反応物を一晩にわたって(19時間)撹拌した後、放置して室温まで温めた。10%NH4Cl水溶液(75ml)を用いてこの反応物の反応を停止させ、エーテルで抽出した(2×200ml)。1つにまとめたエーテル抽出液を、H2O(2×150ml)と、10%NH4Cl水溶液(200ml)と、飽和NaCl水溶液(200ml)で洗浄した。有機溶媒をMgSO4上で乾燥させ、濾過し、溶媒を真空中での回転式蒸発によって除去すると、粗生成物が得られた(7.25g)。溶離液として20%エーテル/ヘキサンを用いたシリカゲル上のカラムクロマトグラフィにより、純粋な1,2,3,4-テトラメトキシ-5-メチル-6-(2-プロペニル)ベンゼン(2)が得られた(Yoshida, T.、Nishi, T.、Kanai, T.、Aizawa, Y.、Wada, K.、Fujita, T.、Horikoshi, H.、1993年、ヨーロッパ特許出願第549366A1号)(6.05g、83.5%)。1H NMRδ5.8-5.98 (1H, m, -CH-C)、4.88-5.03 (2H, m, -CH2)、3.78, 3.80, 3.90, 3.92 (12H, s, OMe)、3.38 (2H, d, J=7.0Hz, Ar-CH2)、2.14 (3H, s, Ar-Me) ppm。
【0275】
9-ボラビシクロ[3,3,1]ノナンをTHFに懸濁させた懸濁液(79ml、39.67ミリモル、0.5M)を撹拌している中に、化合物2(8.0g、33.05ミリモル)を乾燥THF(45ml)に溶かした溶液を、アルゴン雰囲気下で25℃にて一滴ずつ20分間かけて添加した。得られた溶液をアルゴン雰囲気下で室温にて一晩にわたって撹拌した後、65℃にてさらに2時間にわたって撹拌した。次にこの混合物を0℃まで冷却した後、3MのNaOH(53ml)を一滴ずつ添加し、次いで30%H2O2水溶液(53ml)を添加した。室温にて30分間にわたって撹拌した後、水相をNaClで飽和させ、THFで3回抽出した。1つにまとめた有機分画を飽和NaCl水溶液で洗浄し、乾燥させ(Na2SO4)、濾過し、蒸発させると、油性の残留物が得られた(11.5g)。それをシリカゲル(200g、エーテル/ヘキサン(1:9)を充填)上のカラムクロマトグラフィで精製した。エーテル/ヘキサン(1:4)を用いた溶離により、純粋な3-(2,3,4,5-テトラメトキシ-6-メチル-フェニル)-プロパン-1-オール(3)が、粘性のある無色の油として得られた(6.85g、80%)。1H NMRδ3.91, 3.90, 3.84, 3.79 (12H, s, OMe)、3.56 (2H, t, J=7.0Hz, -CH2-OH)、2.72 (2H, t, J=7.0Hz, Ar-CH2)、2.17 (3H, s, Ar-Me)、1.74 (2H, 5重項, J=7.0Hz, -CH2-) ppm。C14H22O5の計算値:C62.2%;H8.2%。実測値:C62.2%;H8.4%。
【0276】
化合物3(3.88g、15ミリモル)とトリエチルアミン(3.0g、30ミリモル、4.2ml)をCH2Cl2(50ml)に溶かした溶液を室温にて10分間にわたって撹拌した。塩化メタンスルホニル(1.8g、1.20ml、15.75ミリモル)を含むCH2Cl2(50ml)を一滴ずつ20分間かけて添加し、得られた反応混合物を室温にて1時間にわたって撹拌した。次にこの混合物をCH2Cl2(50ml)で希釈し、有機相をH2O(5×100ml)と、10%NaHCO3水溶液(100ml)で洗浄し、乾燥させ(MgSO4)、濾過し、溶媒を真空中での回転式蒸発によって除去すると、1-(3-メタンスルホニルオキシプロピル)-2-メチル-3,4,5,6-テトラメトキシベンゼン(4)が、液体として得られた(4.8g、95%)。1H NMRδ4.27 (2H, t, J=7.0Hz, -CH2-O-SO2-Me)、3.91, 3.89, 3.82, 3.78 (12H, s, OMe)、3.03 (3H, s, -O-SO2-Me)、2.70 (2H, t, J=7.0Hz, Ar-CH2-)、2.17 (3H, s, Ar-Me)、1.9 (2H, m, -CH2-) ppm。
【0277】
この粗メタンスルホン酸塩4(3.30g、9.8ミリモル)を次の反応でそのまま使用し、カイマックス管の中でトリフェニルホスフィン(4.08g、15.6ミリモル)とNaI(7.78g、51.9ミリモル)の混合物を粉砕したできたての粉末と混合し、アルゴン雰囲気下で密封した。次にこの混合物を、3時間にわたって磁気撹拌しながら70〜74℃に維持すると、その間に混合物が、融けた粘性のある液体からガラス状の固体に変化した。カイマックス管を室温まで冷却し、残留物をCH2Cl2(30ml)とともに撹拌した。次に、得られた懸濁液を濾過し、濾液を真空中で蒸発させた。残留物を最少量のCH2Cl2に溶かし、過剰なエーテル(250ml)と研和すると、白色の固形物が沈澱した。この固形物を濾過し、エーテルで洗浄し、真空中で乾燥させると、純粋な[3-(2,3,4,5-テトラメトキシ-6-メチル-フェニル)プロピル]トリフェニルホスホニウムヨウ化物(5)が得られた(5.69g、90%)。1H NMRδ7.82-7.65 (15H, m, Ar-H)、3.88, 3.86, 3.74, 3.73 (12H, s, OMe)、3.76-3.88 (2H, m, CH2-P+)、2.98 (2H, t, J=7.0Hz, CH2-Ar)、2.13 (3H, s, Ar-Me)、1.92-1.78 (2H, m, -CH2-) ppm。31P NMR (121.4MHz)δ25.32ppm。C32H36IO5Pの計算値:C59.8%;H5.7%;P4.8%。実測値:C59.8%;H5.8%;P4.5%。
【0278】
ヨウ化物の形態の化合物5(4.963g、7.8ミリモル)をCH2Cl2(80ml)に溶かした溶液を分液漏斗の中で10%NaNO3(50ml)とともに5分間にわたって揺すった。有機層を分離し、乾燥させ(Na2SO4)、濾過し、真空中で蒸発させると、化合物5の硝酸塩が得られた(4.5g、7.8ミリモル、100%)。それをCH3CNとH2Oの混合物(7:3、38ml)の中に溶かし、氷浴の中で0℃にて撹拌した。次にピリジン-2,6-ジカルボン酸(6.4g、39ミリモル)を添加した後、硝酸第二セリウムアンモニウム(21.0g、39ミリモル)をCH3CN/H2O(1:1、77ml)に溶かした溶液を、一滴ずつ5分間かけて添加した。この反応混合物を0℃にて20分間にわたって撹拌した後、室温にてさらに10分間にわたって撹拌した。次にこの反応混合物をH2O(200ml)の中に注ぎ、CH2Cl2(200ml)で抽出し、乾燥させ(Na2SO4)、濾過し、真空中で蒸発させると、粗[3-(4,5-ジメトキシ-2-メチル-3,6-ジオキソ-1,4-シクロヘキサジエン-1-イル)プロピル]トリフェニルホスホニウム(6)の硝酸塩が得られた。全生成物をCH2Cl2(100ml)に溶かし、20%KBr水溶液(50ml)とともに10分間にわたって揺すった。有機層を分離し、乾燥させ、真空中で蒸発させると、化合物6の臭化物が得られた(4.1g、93.6%)。1H NMRδ7.9-7.65 (15H, m, Ar-H)、4.15-4.05 (2H, m, CH2-P+)、3.96, 3.95 (6H, s, OMe)、2.93 (2H, t, J=7.0Hz, CH2-Ar)、2.15 (3H, s, Ar-Me)、1.85-1.70 (2H, m, -CH2-) ppm。31P NMRδ25.29ppm。
【0279】
臭化物6(3.65g、6.5ミリモル)をCH2Cl2(75ml)に溶かした溶液を分液漏斗の中で10%メタンスルホン酸ナトリウム水溶液(100ml)とともに5分間にわたって揺すった。CH2Cl2層を分離し、乾燥させ(Na2SO4)、濾過し、真空中で蒸発させると、[3-(4,5-ジメトキシ-2-メチル-3,6-ジオキソ-1,4-シクロヘキサジエン-1-イル)プロピル]トリフェニルホスホニウムメタンスルホン酸塩(6)が得られた(3.7g、98%)。1H NMRδ7.88-7.60 (15H, m, Ar-H)、3.93, 3.92 (6H, s, OMe)、3.90-3.78 (2H, m, CH2-P+)、2.85 (2H, t, J=7.0Hz, CH2-Ar)、2.70 (3H, s, OSO2CH3)、2.09 (3H, s, Ar-Me)、1.82-1.68 (2H, m, -CH2-) ppm。31P NMR (121.4MHz)δ25.26ppm。C31H33O7PSの計算値:C64.1%;H5.7%;P5.3%;S5.5%。実測値:C63.8%;H5.9%;S5.3%;P5.2%。
【0280】
ミトキノン-C5(14)。ミトキノン-C5の合成経路を図2Bに示してある。2,3-ジメトキシ-5-メチル-1,4-ベンゾキノン(CoQ0)(50g、0.275モル)を含む酢酸(500ml)にジヒドロピラン(46.83g、0.55モル)を添加し、室温にて10分間にわたって撹拌した。この溶液にBF3・Et2O(38.57g、0.271モル)を添加した。得られた溶液を室温にて18時間にわたって撹拌した。この時間が経過した後、この粗反応混合物を氷水(500ml)の中に注ぎ、クロロホルム(1000ml)で抽出した。有機抽出液をブライン(500ml)で洗浄し、乾燥させた(MgSO4)。溶媒を真空中で除去すると、粗2,3-ジメトキシ-5-メチル-6-(テトラヒドロ-ピラン-2-イル)-4-(テトラヒドロ-ピラン-2-イルオキシ)-フェノール(7)が、赤い油として得られた(115g)。それをそれ以上は精製することなく使用した。粗生成物7(110g)を酢酸/過塩酸(97.5:2.5、500ml)の混合物に溶かした溶液を、大気圧下で室温にて5%パラジウム/炭素(5.42g)上で水素化し、もはや水素が取り込まれない状態にした(3日間)。次にこの反応混合物をセライト・パッドで濾過し、残留固形物をエタノール(500ml)で洗浄した。1つにまとめた濾液を三等分し、そのそれぞれを蒸留水(1000ml)に添加し、CH2Cl2(2×200ml)で抽出した。1つにまとめた有機抽出液をブライン(500ml)、飽和炭酸水素ナトリウム(500ml)、ブライン(300ml)で洗浄した後、乾燥させた(MgSO4)。次にこの混合物を濾過し、溶媒を真空中で除去すると、粗4-アセトキシ-3-(5-アセトキシ-ペンチル)-5,6-ジメトキシ-2-メチル-フェニル酢酸塩(8)が、赤い油として得られた(110g)。それをそれ以上は精製せずに次にステップで使用した。1H NMRδ4.0-4.15 (2H, m, -CH2-O)、3.86 (6H, s, 2×OMe)、2.58 (2H, t, J=7.0Hz, -CH2-Ar)、2.12 (3H, s, Ar-Me)、2.06 (6H, s, 2×CH3-C=O)、2.02 (3H, s, CH3-C=O)、1.35-1.70 (6H, m, -CH2CH2CH2-) ppm。
【0281】
磁性撹拌機と還流凝縮器を備えていて、室温の水浴に取り囲まれた1リットルの丸底フラスコの中で、水素化アルミニウムリチウム(8.0g、0.21モル)を乾燥THF(500ml)に添加した。粗生成物8(74g)を蒸留したばかりのTHF(100ml)に溶かした溶液を、一滴ずつ25〜30分間かけてTHF/LiALH4混合物に添加した。撹拌しやすくするために追加の乾燥THF(200ml)を添加し、得られた反応物を室温にて3時間にわたって撹拌し続けた。次に、3MのHCl(20ml)を一滴ずつ添加してこの反応混合物の反応を停止させた後、蒸留水(70ml)をゆっくりと添加した。次にこの反応混合物を濾過し、濾液をブライン(2×300ml)で洗浄し、乾燥させ(MgSO4)、濾過し、溶媒を真空中で除去した。漏斗に残った緑色の残留物を15%HCl(500ml)に溶かし、CH2Cl2(1×300ml、2×200ml)で抽出した。有機分画を1つにまとめ、ブライン(400ml)で洗浄し、乾燥させ(MgSO4)、濾過し、真空中で蒸発させた。この抽出液を濾液ワークアップからの原料と併せると、粗2-(5-ヒドロキシペンチル)-5,6-ジメトキシ-3-メチル-ベンゼン-1,4-ジオール(9)が、赤い油として得られた(68.3g)。シリカゲル(600g、10%エーテル/CH2Cl2に充填)上のカラムクロマトグラフィによってこの生成物9を精製した。10%エーテル/CH2Cl2を用いて溶離すると、反応しなかったいくらかの化合物8と、出発原料の2,3-ジメトキシ-5-メチル-1,4-ベンゾキノンが得られた。20%エーテル/CH2Cl2を用いて溶離すると、化合物9とキノン10の混合物(14.14g、2,3-ジメトキシ-5-メチル-1,4-ベンゾキノールから19%)が得られた。化合物9は空中に放置するとゆっくりとキノン10に変換されたため、満足のゆく元素分析ができなかった。1H NMRδ5.41 (1H, s, Ar-OH)、5.38 (1H, s, Ar-OH)、4.88 (6H, s, 2×Ar-OMe)、3.65 (2H, t, J=6.3Hz, CH2-OH)、2.61 (2H, t, J=6.4Hz, Ar-CH2)、2.14 (3H, s, Ar-Me)、 1.42-1.68 (6H, m, 3×-CH2-) ppm。
【0282】
キノール9(7.5g、27.7ミリモル)をCH2Cl2(150ml)に溶かした溶液に大気圧下で酸素ガスを飽和させ、NO2をCH2Cl2に溶かした溶液(1ml、1.32M)を添加した。この反応物を室温にて酸素雰囲気下で18時間にわたって撹拌した。その時間が経過するまでに2-(5-ヒドロキシペンチル)-5,6-ジメトキシ-3-メチル-[1,4]ベンゾキノン(10)というキノンの形成が完了したことが、TLC(40%エーテル/CH2Cl2)によってわかった。次に溶媒を真空中で除去すると、生成物10(Yu, C.A.、Yu, L.、1982年、Biochemistry、第21巻、4096〜4101ページ)が、赤い油として得られた(7.40g)。1H NMRδ3.99 (6H, s, 2×Ar-OMe)、3.65 (2H, t, J=6.3Hz, CH2-OH)、2.47 (2H, t, J=6.3Hz, Ar-CH2)、2.01 (3H, s, Ar-Me)、1.52-1.60 (2H, m, -CH2-)、1.37-1.43 (4H, m, -CH2CH2-) ppm。
【0283】
生成物10(7.40g、27.3ミリモル)をCH2Cl2(150ml)とトリエチルアミン(5.46g、5.46ミリモル)に溶かした溶液を調製し、塩化メタンスルホニル(2.48g、30ミリモル)をCH2Cl2(50ml)に溶かした溶液を撹拌しながら30分間かけて添加した。得られた反応混合物を室温にてさらに1.5時間にわたって撹拌した後、蒸留水(5×100ml)と飽和炭酸水素ナトリウム(150ml)で洗浄し、乾燥させた(MgSO4)。この混合物を濾過し、溶媒を真空中で除去すると、粗メタンスルホン酸塩が赤い油として得られた(9.03g)。1H NMRδ4.19 (2H, t, J=7.5Hz, -CH2-OMs)、3.95 (6H, s, 2×Ar-OMe)、2.98 (3H, s, OSO2CH3)、2.44 (2H, t, J=7.5Hz, Ar-CH2-)、1.98 (3H, s, Ar-Me)、1.75 (2H, 5重項, J=7.5Hz, -CH2-)、1.38-1.48 (4H, m, -CH2-CH2-) ppm。このメタンスルホン酸塩を、NaIを10%(w/v)含むアセトン(100ml)に溶かし、室温にて44時間にわたって撹拌した。次にこの混合物を真空中で濃縮し、残留物にH2O(100ml)を添加した。この混合物をCH2Cl2(3×70ml)で抽出し、1つにまとめた抽出液をブラインで洗浄し、乾燥させ(MgSO4)、濾過し、溶媒を真空中で除去すると、粗2-(5-ヨードペンチル)-5,6-ジメトキシ-3-メチル-[1,4]ベンゾキノン(11)が得られた。この生成物をシリカゲル(150g)上のカラムクロマトグラフィによって精製した。CH2Cl2と10%エーテル/CH2Cl2を用いて溶離すると、純粋な化合物11が赤い油として得られた(7.05g、69%)。1H NMRδ3.99 (6H, s, 2×Ar-OMe)、3.18 (2H, t, J=6.9Hz, CH2-I)、2.47 (2H, t, J=7.2Hz, Ar-CH2)、2.02 (3H, s, Ar-Me)、1.85 (2H, 5重項, J=7.5Hz, -CH2-)、1.38-1.48 (4H, m, -CH2-CH2-) ppm。C14H19IO4の計算値:C44.5%;H5.1%;I33.6%。実測値:C44.6%;H5.1%;I33.4%。
【0284】
化合物11(1.14g、2.87ミリモル)をメタノール(20ml)に溶かした溶液をNaBH4(0.16g、4.3ミリモル)で処理すると、この混合物が1分間も経たないうちに無色になった。5分後、室温にて5%HCl水溶液(100ml)を添加し、得られた溶液をCH2Cl2(2×50ml)で抽出した。有機分画を1つにまとめ、乾燥させ(MgSO4)、濾過し、溶媒を真空中で除去すると、生成物12が酸素に敏感な黄色い油として得られた(1.15g、100%)。この生成物を直ちに使用した。1H NMRδ5.36, 5.31 (2H, s, Ar-OH)、3.89 (6H, s, 2×Ar-OMe)、3.20 (2H, t, J=7.5Hz, -CH2-I)、2.62 (2H, t, J=7.5Hz, -CH2-Ar)、2.15 (3H, s, Me)、1.82-1.92 (2H, m, -CH2-)、1.45-1.55 (4H, m, -CH2-CH2-) ppm。生成物12(1.15g、2.87ミリモル)とトリフェニルホスフィン(1.2g、4.31ミリモル)の混合物を撹拌棒とともにカイマックス管の中に入れた。このカイマックス管をアルゴンでパージし、しっかりと封をし、加熱し、70℃にて14時間にわたって撹拌した。濃い色の固形物が形成されたのでそれをCH2Cl2(10ml)に溶かし、エーテル(200ml)中で研和した。形成された白色の沈殿物を急いで濾過した。この沈殿物は空気に曝すとネバネバした状態になったため、再びCH2Cl2に溶かし、真空中で蒸発させると、粗生成物として[5-(2,5-ジヒドロキシ-3,4-ジメトキシ-6-メチル-フェニル)-ペンチル]トリフェニルホスホニウムヨウ化物(13)が茶色の油として得られた(2.07g、115%)。この材料は長期にわたって保管すると安定ではなかったため、その後に続く反応を実施できるようになったときに直ちに使用した。1H NMRδ7.84-7.68 (15H, m, Ar-H)、5.45 (1H, s, Ar-OH)、5.35 (1H, s, Ar-OH)、3.89 (3H, s, Ar-OMe)、3.87 (3H, s, Ar-OMe)、3.65(2H, m, -CH2-+PPh3)、2.54 (2H, t, J=7.0Hz, Ar-CH2)、2.08 (3H, s, Ar-Me)、1.65-1.75 (2H, m, -CH2-)、1.45-1.55 (4H, m, -CH2CH2-) ppm。31P NMRδ25.43ppm。
【0285】
化合物13(2.07g)をCH2Cl2(50ml)に溶かした溶液に酸素ガスを飽和させ、NO2をCH2Cl2(0.5ml、1.32M)に溶かした溶液を添加した。次にこの反応物を酸素雰囲気下で室温にて18時間にわたって撹拌した。溶媒を真空中で除去すると、粗生成物として[5-(4,5-ジメトキシ-2-メチル-3,6-ジオキソ-1,4-シクロヘキサジエン-1-イル)ペンチル]トリフェニルホスホニウムヨウ化物(14)が赤い油として得られた。この残留物を再びCH2Cl2(10ml)に溶かし、エーテル(200ml)中で研和すると、最初の黄色い沈殿物が得られた。それを凍らせると数分間で赤い油になった。溶媒をデカントし、沈殿物をCH2Cl2に溶かし、溶媒を真空中で除去すると、生成物(14)が赤い油として得られた(1.866g)。生成物14のアリコート(0.880g)をシリカゲル(20g)上のカラムクロマトグラフィによって精製した。CH2Cl2を用いた溶離により、同定されていない紫色の物質がいくらか得られた。5%エタノール/CH2Cl2を用いた溶離により、純粋なヨウ化物14が赤い油として得られた(0.606g)。1H NMRδ7.84-7.68 (15H, m, Ar-H)、3.98 (6H, s, 2×Ar-OMe)、3.65 (2H, m, CH2-P+)、2.40 (2H, t, J=7.2Hz, Ar-CH2)、2.00 (3H, s, Ar-Me)、1.71 (4H, m, -CH2-)、1.43 (2H, m, -CH2-) ppm。31P NMR (121.4MHz)δ25.47ppm。C32H36IO4Pの計算値:C59.8%;H5.7%;I19.8%;P4.8%。実測値:C60.0%;H5.3%;I19.7%;P4.7%。
【0286】
ミトキノン-C15(16)。ミトキノン-C15の合成経路を図2Cに示してある。AgNO3(0.262g、1.54ミリモル)と、16-ヒドロキシヘキサデカン酸(0.408g、1.50ミリモル)と、2,3-ジメトキシ-5-メチル-1,4-ベンゾキノン(0.271g、1.49ミリモル)をH2O:CH3CN(1:1、36ml)に懸濁させた懸濁液を75℃に保って撹拌している中に、K2S2O8(0.450g、1.66ミリモル)をH2O(25ml)に溶かした溶液を一滴ずつ2.5時間かけて添加した。この混合物を30分間にわたって撹拌した後、冷却し、エーテル(4×30ml)で抽出した。1つにまとめた有機相を、H2O(2×100ml)と、NaHCO3(1M、2×50ml)と、飽和NaCl(2×50ml)で洗浄した。この有機相を乾燥させ(Na2SO4)、濾過し、真空中で濃縮すると、赤い油が得られた(0.444g)。この粗油に対してカラムクロマトグラフィ(シリカゲル、15g)を実施し、CH2Cl2とエーテル(0%、5%、20%)の混合物を用いて溶離すると、2-(15-ヒドロキシペンタデシル)-5,6-ジメトキシ-3-メチル-[1,4]ベンゾキノン(15)が赤い油として得られた(0.192g、33%)。1H NMRδ3.99, 3.98 (6H, s, OMe)、3.64 (2H, t, J=6.5Hz, -CH2OH)、2.45 (2H, t, J=7.5Hz, -CH2-環)、1.4-1.2 (26H, m, -(CH2)13-)。C24H40O5:C70.6%;H9.9%。実測値:C70.5%;H9.8%。
【0287】
密封したカイマックス管の中で、トリフェニルホスフィン(0.066g、0.25ミリモル)と、Ph3PHBr(0.086g、0.25ミリモル)と、化合物15(0.101g、0.25ミリモル)の混合物をアルゴン雰囲気下で70℃にて24時間にわたって撹拌した。その時間が経過するまでにこの混合物はネバネバした赤い油になった。この残留物を最少量のCH2Cl2(0.5ml)に溶かし、エーテル(10ml)の中に注ぐと、赤い油状の沈殿物が生成した。次に、デカントした溶媒をCH3OH(0.5ml)に溶かし、48%HBr(一滴)を含むH2O(10ml)で希釈した。赤い沈殿物が形成され、その沈殿物が沈んだ後、上清を捨て、残留物をH2O(5ml)で洗浄した。次にこの残留物をエタノール(5ml)に溶かし、溶媒を真空中で除去した。残留物を再びCH2Cl2(0.5ml)に溶かし、エーテル(5ml)で希釈し、溶媒をデカントし、残留物を真空系(0.1ミリバール)に24時間入れると、[15-(4,5-ジメトキシ-2-メチル-3,6-ジオキソ-1,4-シクロヘキサジエン-1-イル)ペンタデシル]トリフェニルホスホニウムブロミド(16)が黄色い泡として得られた(0.111g、61%)。この泡は、空気と接触すると赤い油に変わった。1H NMR (299MHz)δ7.6-8.0 (15H, m, Ar-H)、3.89 (6H, s, OMe)、3.9 (2H, m, -CH2-P)、2.6 (2H, m, -CH2-環)、1.7-1.1 (26H, m, -(CH2)13-) ppm。31P NMR (121.4MHz)δ25.71ppm。エレクトロスプレー質量分析により、(M+)が653であることがわかった。C42H54O4P+の計算値は653である。燃焼分析の結果は、溶媒の包接レベルが一定ではなかったために不満足なものであった。
【0288】
実施例3. ミトコンドリアを標的とした具体的な抗酸化化合物の特性
本発明には、さまざまな用途、例えば錠剤など、剤形になった製剤に適しているようにするため、ミトコンドリアを標的とした抗酸化化合物の結晶形態、または固体形態を形成できるという利点がある。同様に、どのような理論に囚われることも望んでいないため、本発明の化合物の抗酸化機能の少なくとも一部は、その物理化学的特性によって決まると考えられる。
【0289】
さまざまな抗酸化化合物の分配係数を表1に示してある。オクタン-1-オール/PBSの分配係数は、PBSを飽和させたオクタン-1-オール2mlに400ナノモルの化合物を添加し、オクタン-1-オールを飽和させたPBSとともに37℃にて30分間にわたって混合することによって決定した。2つの相の中の化合物の濃度は、268nmでのUV吸収を測定した後、オクタン-1-オールを飽和させたPBSまたはPBSを飽和させたオクタン-1-オールに含まれているその化合物の標準曲線から定量化した(Kelso, G.F.、Porteous, C.M.、Coulter, C.V.、Hughes, G.、Porteous, W.K.、Ledgerwood, E.C.、Smith, R.A.J.、Murphy, M.P.、2001年、J. Biol. Chem.、第276巻、4588ページ;Smith, R.A.J.、Porteous, C.M.、Coulter, C.V.、Murphy, M.P.、1999年、Eur. J. Biochem.、第263巻、709ページ)。化合物の貯蔵溶液を無水エタノールを用いて調製し、暗所で-20℃にて保管した。[3H]TPMPは、アメリカン・ラジオラベルド・ケミカルズ社(ミズーリ州、アメリカ合衆国)からのものであった。
【0290】
特に注目すべきなのは、抗酸化部分とホスホニウムをつなぐ炭素原子の数が少ない化合物で分配係数が小さいことである。例えばこの明細書でミトキノン-C3と呼ぶ本発明の化合物(リンク部分の炭素原子が3個)は、分配係数が、関連化合物であるミトキノン-C10で見られた値の約1/50である(表1)。
【0291】
【表1】
【0292】
データa〜cは、すでに説明したように25℃または37℃で決定したオクタン-1-オール/リン酸緩衝化生理食塩水の分配係数であり、データdは、オクタノール/水の分配係数であり、その値は、Jauslin, M.L.、Wirth, T.、Meier, T.、Schoumacher, F.、2002年、Hum. Mol. Genet.、第11巻、3055ページに記載されているように、アドバンスト・ケミストリー・デヴェロップメント(ACD)ソフトウエア・ソラリスv4.67を用いて計算する。
a:Kelso, G.F.、Porteous, C.M.、Coulter, C.V.、Hughes, G.、Porteous, W.K.、Ledgerwood, E.C.、Smith, R.A.J.、Murphy, M.P.、2001年、J. Biol. Chem.、第276巻、4588ページ。
b:Smith, R.A.J.、Porteous, C.M.、Coulter, C.V.、Murphy, M.P.、1999年、Eur. J. Biochem.、第263巻、709ページ。
c:Smith, R.A.J.、Porterous, C.M.、Gane, A.M.、Murphy, M.P.、2003年、Proc. Nat. Acad. Sci.、第100巻、5407ページ
【0293】
ミトキノン-C3、ミトキノン-C5、ミトキノン-C10、ミトキノン-C15は、そのオクタン-1-オール/PBSの分配係数から、疎水性の程度がさまざまであることが明らかである。ミトキノン-C3の分配係数は、単純で水に比較的溶けやすいTPMPカチオンと同程度であるのに対し、ミトキノン-C15の分配係数は、水への溶解度が非常に小さいことを示している。ミトキノンなどのアルキルトリフェニルホスホニウム・カチオンは、カルボン酸基のレベルでリン脂質二重層に吸着するのに対し、疎水性アルキル基は、膜の疎水性コアの中に侵入することが報告されている。メチレン鎖が長くなるほど、抗酸化ユビキノールが膜の疎水性コアの中により深く侵入する。図3にはいろいろなミトキノンを典型的なリン脂質と並べて描いてあるが、われわれは、膜の1つの単分子層に最も深く侵入するのは、この図に示した化合物の場合であると考えている。このモデルから、ミトキノン-C3のユビキノール部分だけが膜の表面に近い位置まで侵入するのに対し、ミトキノン-C10とミトキノン-C15は、リン脂質二重層のコアの近くまで侵入することがわかる。
【0294】
われわれは、疎水性の程度とリン脂質二重層への侵入の深さがさまざまな一連の抗酸化化合物を合成した。
【0295】
実施例4. ミトコンドリアを標的とした化合物のミトコンドリアによる取り込み
ミトコンドリアが標的となっていることを証明するため、ミトコンドリアが膜電位に応答して具体的な抗酸化化合物であるミトキノン-C3、ミトキノン-C5、ミトキノン-C10、ミトキノン-C15を取り込む様子を調べた。
【0296】
活性化したミトコンドリアによる抗酸化化合物の取り込みを測定するため、イオン選択的電極を構成した(Smith, R.A.、Kelso, G.F.、James, A.M.、Murphy, M.P.、2004年、Meth. Enzymol.、第382巻、45〜67ページ;Davey, G.P.、Tipton, K.F.、Murphy, M.P.、1992年、Biochem. J.、第288巻、439〜443ページ;Kamo, N.、Muratsugu, M.、Hongoh, R.、Kobatake, Y.、1979年、J. Membr. Biol.、第49巻、105〜121ページ)。30℃に維持して撹拌している3mlの培養チェンバー(基質を添加するための注入ポートが付いている)の気密なパースペックスの蓋に、電極とAg/AgCl参照電極を挿入した。抗酸化化合物の取り込みを測定するため、ラットの肝臓のミトコンドリア(1mlにつきタンパク質1mg)をKCl培地(120mMのKCl、10mMのヘペス(pH7.2)、1mMのEGTA)とニゲリシン(1μg/ml)とロテノン(8μg/ml)の中で30℃にてインキュベートした。コハク酸塩(10mM)とFCCP(500nM)を指示された場所に添加した。イオン選択的電極からの出力は、フロント-エンドpH増幅器を通じてパワーラボ・データ(PowerLab Data)取得システムに送り、チャート・ソフトウエアを用いて分析した(システムとソフトウエアは、どちらもADインスツルメンツ社のもの)。
【0297】
均質化の後、250mMのスクロースと、5mMのトリス-HClと、1mMのEGTA(pH7.4)を含む氷で冷やした緩衝液の中で分画遠心分離を行なうことにより、ラットの肝臓のミトコンドリアを調製した(『細胞よりも小さな構成要素群:調製と分画化』(Birnie, G.D.編、バターワースス社、ロンドン、1972年)の中の77〜91ページ、Chappell, J.B.とHansford, R.G.)。タンパク質の濃度は、BSAを基準として用いたアッセイによって決定した(Gornall, A.G.、Bardawill, C.J.、David, M.M.、1949年、J. Biol. Chem.、第177巻、751〜766ページ)。ミトコンドリアの膜電位は、50nCiの[3H]TPMPを補足した500nMのTPMPを、KCl培地(120mMのKCl、10mMのヘペス(pH7.2)、1mMのEGTA)に懸濁させたミトコンドリアに25℃で添加して測定した(『生物エネルギー論 - 実際的なアプローチ』(Brown, G.C.とCooper, C.E.編、1995年、IRL社、オックスフォード)のBrand, M.D.による39〜62ページ)。ミトコンドリアをインキュベートした後、遠心分離によってペレット化し、シンチレーションをカウントすることによって上清中の[3H]TPMPの量とペレットを定量した後、ミトコンドリアのタンパク質1mgにつきミトコンドリアの体積が0.5μlで、TPMPの結合補正が0.4であると仮定して、膜電位を計算した(Brown, G.C.とBrand, M.D.、1985年、Biochem. J.、第225巻、399〜405ページ)。
【0298】
定常状態の濃度を測定するため、イオン選択的電極を構成した(Smith, R.A.、Kelso, G.F.、James, A.M.、Murphy, M.P.、2004年、Meth. Enzymol.、第382巻、45〜67ページ;Davey, G.P.、Tipton, K.F.、Murphy, M.P.、1992年、Biochem. J.、第288巻、439〜443ページ;Kamo, N.、Muratsugu, M.、Hongoh, R.、Kobatake, Y.、1979年、J. Membr. Biol.、第49巻、105〜121ページ)。単純なトリフェニルホスホニウム・カチオン(例えばTPMP)に対するこれら電極の応答はネルンスト的であり、電極電圧はlog10[カチオンの濃度]に対して線形な応答をし、傾斜は30℃において約60mVである(Davey, G.P.、Tipton, K.F.、Murphy, M.P.、1992年、Biochem. J.、第288巻、439〜443ページ;Kamo, N.、Muratsugu, M.、Hongoh, R.、Kobatake, Y.、1979年、J. Membr. Biol.、第49巻、105〜121ページ)。最も疎水性の大きな化合物であるミトキノン-C3もネルンスト的な電極応答をし、10μMを超える濃度で傾斜が60mVに近かった。その様子が、図4Aの右側に、ミトコンドリアがない状態でミトキノン-C3を1pMずつ添加していったときの電極の応答が対数的であることによって示されている。ミトキノン-C5、ミトキノン-C10、ミトキノン-C15に関しては、ミトコンドリアがない状態で各ミトキノンを1pMずつ添加していくと、電極は、やはり素早くかつ安定に応答した(それぞれ図4B、図4C、図4Dの右側のグラフ)。しかしこれらのケースでは、電極の応答はネルンスト的ではなかった。それは、これらの化合物の疎水性がより大きかったことが原因であると考えている。たとえそうであっても、これら4つの抗酸化化合物すべてに関し、イオン選択的電極により、遊離した化合物の濃度を測定することが可能になり、したがってミトコンドリアによるこれら化合物の取り込みをリアルタイムで測定することが可能になった。
【0299】
抗酸化化合物の取り込みを測定するため、ロテノンの存在下でミトコンドリアを電極チェンバーに添加し、膜電位の形成を阻止した(図4の左側)。次に、抗酸化化合物を1μMずつ5回添加して電極の応答を較正した後、呼吸基質であるコハク酸塩を添加して膜電位を発生させた。ミトコンドリアが活性化し、それぞれの抗酸化化合物がすべてミトコンドリアに素早く取り込まれ、続いて脱共役剤であるFCCPを添加すると膜電位が消失し、抗酸化化合物がミトコンドリアから素早く放出された(図4A〜図4Dの左側)。この実験は、ミトキノン-C3、ミトキノン-C5、ミトキノン-C10が、ミトコンドリアの膜電位に依存して取り込まれることをはっきりと示している。膜電位を誘導するとミトキノン-C15もミトコンドリアに取り込まれたが、ミトコンドリアの存在下でのミトキノン-C15に対する電極応答は、より弱く、雑音がより多く、ドリフトする傾向がより大きかった。これは、ミトコンドリアがない状態でのミトキノン-C15に対する電極応答とは対照的である(右側のグラフを参照)。これは、ミトコンドリアの存在下では遊離したミトキノン-C15の濃度が小さいことが原因である。
【0300】
次に、不活性化したミトコンドリアに抗酸化化合物が結合する程度を調べた(図4Aの右側)。この実験では、まず最初にそれぞれの抗酸化化合物を電極チェンバーに添加した後、ロテノンの存在下でミトコンドリアを添加することにより、膜電位の形成を阻止した。ミトコンドリアの添加による抗酸化化合物の濃度低下は、不活性化したミトコンドリアに抗酸化化合物が結合することに起因する。その後コハク酸塩を添加すると膜電位が発生するというのは、抗酸化化合物が膜電位に依存した形で取り込まれることを示している。しかしFCCPを添加すると逆のことが起こり、膜電位が消失する。
【0301】
遊離したミトキノン-C3の濃度は、ミトコンドリアの添加による影響を受けなかった。これは、無視できる量のミトキノン-C3しか不活性化したミトコンドリアに結合していないことを示している(図4Aの右側)。FCCPの影響下で取り込まれるミトキノン-C3は、コハク酸塩で活性化したとき、タンパク質1mgにつき約3.7ナノモルであった。これは、蓄積比が約2×103であることに対応する。これは、ネルンストの式から予想される値、およびミトコンドリアの膜電位が約180mVであることと一致している。そのためミトコンドリア内の結合を補正することが可能になる。
【0302】
ミトキノン-C5は、不活性化したミトコンドリアといくらか結合した(タンパク質1mgにつき約0.6ナノモル)が、その後コハク酸塩で活性化したときの取り込み(タンパク質1mgにつきミトキノン-C5が約2.8ナノモル)と比べて無視できる程度であった。約2.8ミリモルというのは、蓄積比が約1.4×103であることに対応する(図4Bの右側)。
【0303】
ミトキノン-C10に関しては、約2.6ナノモルというかなりの量が、不活性化したミトコンドリアと結合した。その後コハク酸塩を添加すると、タンパク質1mgにつき約1ナノモルがさらに取り込まれた(図4Cの右側)。
【0304】
遊離したほぼすべてのミトキノン-C15が不活性化したミトコンドリアと結合したが、コハク酸塩で活性化するとさらにいくらか取り込まれた。ミトキノン-C15の取り込みが膜電位に依存することは、図4Dの左側のグラフに明らかである。このグラフの場合には、電極応答が非常に敏感であるため、電極をミトコンドリアの存在下で較正してあると、少量の遊離したミトキノン-C15を測定することができた。逆に、図4Dの右側のグラフにミトキノン-C15の取り込みを見ることは難しい。このグラフの場合には、電極応答は、ミトコンドリアの不在下でミトキノン-C15を測定できる感度からはほど遠い。
【0305】
これらの実験は、抗酸化化合物のメチレン鎖の長さが、ミトコンドリアの膜に抗酸化化合物が吸着する程度の少なくとも一部を決定していることを示している(図4の右側)。吸着の程度は、ミトキノン-C3の場合の無視できる程度から、ミトキノン-C15の場合のほぼ完全な結合までの幅がある。不活性化したミトコンドリアにミトキノン-C15を添加するとほぼ全量が結合し、内膜と外膜の両方の表面に分布する。膜電位を誘導すると、この化合物が、内膜の外側の面および外膜から内膜のマトリックスと向かい合う面へとかなり再分布することになる、とわれわれは考えている。まとめると、各抗酸化化合物のどれもが膜電位によってミトコンドリアに取り込まれ、メチレン鎖が長いほどリン脂質二重層への吸着が多くなる。
【0306】
実施例5. ミトコンドリアを標的とする具体的な化合物の抗酸化効果
本発明の化合物は、酸化ストレスに対しても非常に効果的である。抗酸化効率を評価するため、本発明の抗酸化化合物がミトコンドリアにおいて脂質の過酸化を阻止する能力を、第一鉄イオンと過酸化水素に曝露したミトコンドリア内に蓄積したTBARSから判断した(図5)。
【0307】
脂質の過酸化を定量化するため、TBARSアッセイを利用した。ラットの肝臓のミトコンドリア(1mlにつきタンパク質2mg)を、100mMのKClと、10mMのトリス-HCl(pH7.6)を含む0.8mlの培地の中で37℃にてインキュベートした。この培地には、10mMのコハク酸塩と8mg/mlのロテノンを補足するか、2.5mMのATPと、1mMのホスフェノピルビン酸塩と、4U/mlのピルビン酸キナーゼとからなるATP再生系を補足した。次に、50mMのFeCl2/300mMのH2O2を添加して37℃にて15分間にわたってインキュベートすることにより、ミトコンドリアを酸化ストレスに曝した。このインキュベーションの後、2%(w/v)ブチル化ヒドロキシトルエンを含むエタノールを64ml添加し、次いで35%(v/v)HClO4を200mlと、1%(w/v)チオバルビツール酸を200ml添加した。次にサンプルを100℃にて15分間にわたってインキュベートし、遠心分離(12,000×gで5分間)し、上清をガラス管に移した。3mlの水と3mlのブタン-1-オールを添加した後、サンプルを撹拌し、2つの相を分離させた。次に、チオバルビツール酸反応種を探すために有機層のアリコート200mlを蛍光測定プレート読み取り装置(λEx=515nm;λEm=553nm)で分析し、0.01〜5mMの1,1,3,3-テトラエトキシプロパンから得たマロンジアルデヒド(MDA)標準曲線と比較した(Kelso, G.F.、Porterous, C.M.、Coutler, C.V.、Hughes, G.、Porterous, W.K.、Ledgerwood, E.C.、Smith, R.A.J.、Murphy, M.P.、2001年、J. Biol. Chem.、第276巻、4588〜4596ページ)。
【0308】
コハク酸塩で活性化したミトコンドリアに関しては、TBARSのバックグラウンドのレベルは無視できる程度だったが、酸化ストレスに曝すと、タンパク質1mgにつきTBARSが約3.75ナノモルに増加した(図5A;黒棒)。どの抗酸化化合物も、高濃度(5μM)だとTBARSの蓄積を大きく阻止したのに対し、単純なカチオンであるTPMPではそうでなかった。この事実から、抗酸化作用にとって重要なのは、ミトキノン抗酸化化合物のユビキノール側鎖であり、カチオンとミトコンドリアの間のどのような非特異的相互作用でもないことが確認される。
【0309】
これらの実験では、コハク酸塩は、膜電位を維持してミトコンドリアへのカチオンの取り込みを促進するとともに、ユビキノンの形態になったミトキノン抗酸化化合物をリサイクルして活性なユビキノールの形態の抗酸化化合物にする(Kelso, G.F.、Porterous, C.M.、Coutler, C.V.、Hughes, G.、Porterous, W.K.、Ledgerwood, E.C.、Smith, R.A.J.、Murphy, M.P.、2001年、J. Biol. Chem.、第276巻、4588〜4596ページ)。呼吸鎖による還元がミトキノン抗酸化化合物の抗酸化効果にとって必要であるかどうかを調べるため、ATPとATP再生系の存在下でミトコンドリアをインキュベートした。ATP加水分解やミトコンドリアでのATP合成の逆転でプロトン・ポンピングが活発に起こり、コハク酸塩によって発生するのと同様の膜電位が発生した(図5B)。その結果、コハク酸塩によって活性化されたミトコンドリアの場合と同様、ミトキノン抗酸化化合物が同様に取り込まれるが、今回は、呼吸鎖によって抗酸化化合物であるそのミトキノンがリサイクルされてその活性なユビキノール形態になることはもはやない。ミトキノン抗酸化化合物は、ATP加水分解によって活性化されたミトコンドリアの内部で脂質の過酸化を阻止する効果が小さかった(図5A、白棒)のに対し、コハク酸塩によって活性化されたミトコンドリアでは劇的な保護が見られた(図5A、黒棒)。したがって、ミトキノン抗酸化化合物が抗酸化効果を持つためには、呼吸鎖によるミトキノン抗酸化化合物の還元と、ミトコンドリアの膜電位による蓄積が必要とされる。
【0310】
コハク酸塩で活性化したミトコンドリアの対照サンプルでは、ATPで活性化したサンプルと比べて脂質の過酸化のレベルが低いことが観察された(図5A)。これは、コハク酸塩の存在下では還元された状態に維持されているがATPの存在下では酸化される内在性ミトコンドリア捕酵素Qプールが保護的な抗酸化効果を持つことに起因する(James, A.M.、Smith, R.A.、Murphy, M.P.、2004年、Arch. Biochem. Biophys.、第423巻、47〜56ページ;Ernster, L.、Forsmark, P.、Nordenbrand, K.、1992年、Biofactors、第3巻、241〜248ページ)。まとめると、抗酸化化合物であるすべてのミトキノンは、抗酸化剤として有効であるためには呼吸鎖によって活性化される必要がある。
【0311】
図5Aでは、すべてのミトキノン抗酸化化合物で5pMという単一の濃度を利用した。これら化合物の相対的な抗酸化効果を比較するため、コハク酸塩の存在下でその化合物を滴定した。典型的な滴定結果を図5Cに示してある。この実験は、これら化合物の抗酸化効果が、メチレン鎖の長さと相関していることを示している。そのことを定量化するため、具体的な4つのミトキノン抗酸化化合物が脂質の過酸化を阻止するIC50の値を計算した(図5D)。測定により、抗酸化効果の順位が、ミトキノン-C15>ミトキノン-C10>ミトキノン-C5>ミトキノン-C3となることが確認された。
【0312】
すべてのミトキノン抗酸化化合物が、ミトコンドリアの膜電位によってミトコンドリアの内部に蓄積した。最も疎水性の大きな化合物であるミトキノン-C15では、リン脂質二重層への広範な結合によってこの効果が大きく遮蔽された。これら化合物はすべて有効な抗酸化剤であったが、抗酸化活性が15分以上続くためには、どの化合物でも、呼吸鎖が脂質過酸化中間体を解毒した後、ミトキノン抗酸化化合物をリサイクルして活性な抗酸化形態にする必要があった。
【0313】
実施例6. ミトコンドリアを標的とした抗酸化化合物が心臓の血行力学とミトコンドリアの機能に及ぼす効果
ミトコンドリアを標的とした抗酸化化合物の投与、特にミトキノン-C10とミトキノン-C3の投与が心臓機能に及ぼす効果を、ランゲンドルフ分離心臓灌流モデルを用いて評価した。ラットを以下の4つの投与群に分けた。すなわち、対照群(プラセボ)、TPMP群(メチルトリフェニルホスホニウム)、ミトキノン-C10群、ミトキノン-C3群である。処理期間の後、ラットを安楽死させ、分離した心臓をランゲンドルフ分離灌流系に接続した。この系では、大動脈を通る逆灌流を利用して心臓を維持しながら心臓機能を測定する。左心室血圧は、左心室バルーンを用いて測定した。冠状動脈流も測定した。
【0314】
図6は、各処理群について、左心室血圧が10mmHgのときの冠状動脈流を示している。冠状動脈流は、虚血前に測定し、虚血を誘導してから0分、20分後、40分後、60分後にも測定した。一元配置ANOVAとボンフェローニ事後検定を実施した。虚血前の対照に対する有意さは、*がP<0.05;**がP<0.01;***がP<0.001を表わしている。それぞれの時間の対照に対する有意さは、†がP<0.05;††がP<0.01;†††がP<0.001を表わしている。
【0315】
結果は、ミトキノン-C10で処理すると虚血によって誘導される冠状動脈流の低下が有意に減ることを示している。ミトキノン-C3は、時間が経過したとき、より小さな効果であるが、それでも有意な効果を持つ。TPMPを投与してもまったく効果がないというのは、TPMPがミトキノン-C10とミトキノン-C3の抗酸化部分であり、ミトコンドリアを標的とした抗酸化化合物で観察される効果にとって重要なトリフェニルホスホニウム・カチオンではないことを示している。
【0316】
図7は、処理が、10mmHgになった左心室血圧に及ぼす効果を示している。左心室拡張期血圧を、虚血を誘導する前に測定し、虚血を誘導してから0分、20分後、40分後、60分後にも測定した。統計学的分析は、順位に関するANOVAとダン事後検定であった。虚血前の対照に対する有意さは、*がP<0.05を表わしている。†は、虚血60分後の対照に対するP<0.05を表わしている。結果は、ミトキノン-C10で処理すると、処理していないラットと比べて左心室拡張期血圧が統計的に有意に増大し、虚血によって誘導される左心室拡張期血圧の低下が少なくなることを示している。TPMPを投与してもまったく効果がないというのは、TPMPがミトキノン-C10とミトキノン-C3の抗酸化部分であり、ミトコンドリアを標的とした抗酸化化合物で観察される効果にとって重要なトリフェニルホスホニウム・カチオンではないことを示している。
【0317】
次に、ミトキノン-C10とミトキノン-C3の投与が心拍数に及ぼす効果を調べた。図8には、各処理群について、虚血前と、虚血を誘導してから0分、20分後、40分後、60分後の心拍数を示してある。示してあるのは、一元配置ANOVAの後にボンフェローニ事後検定を行なった結果である。***は、虚血前の対照に対する有意さがP<0.001であることを表わしている。††は、虚血後の各対照に対する有意さがP<0.05であることを表わしている。結果は、ミトキノン-C10で処理すると、虚血によって誘導される心拍数の低下が対照のラットと比べて有意に少なくなることを示している。TPMPを投与してもまったく効果がないというのは、TPMPがミトキノン-C10とミトキノン-C3の抗酸化部分であり、ミトコンドリアを標的とした抗酸化化合物で観察される効果にとって重要なトリフェニルホスホニウム・カチオンではないことを示している。
【0318】
ミトコンドリアを標的とした抗酸化化合物の投与が心臓の収縮・弛緩速度に及ぼす効果を明らかにすることにより、心臓機能をさらに詳しく調べた。図9Aには、4つの処理群それぞれについて、虚血前と、虚血を誘導してから0分、20分後、40分後、60分後の収縮速度を示してある。図9Bには、4つの処理群それぞれについて、虚血前と、虚血を誘導してから0分、20分後、40分後、60分後の弛緩速度を示してある。それぞれの場合について、順位に関するANOVAとダン事後検定を実施した。*は、虚血前の対照に対する有意さがP<0.05であることを表わしている。†は、虚血後の各時間の対照に対する有意さがP<0.05であることを表わしている。††は、虚血後の各時間の対照に対する有意さがP<0.01であることを表わしている。
【0319】
結果は、ミトキノン-C10の投与が統計的に有意な効果をもたらし、虚血によって誘導される左心室の収縮・弛緩速度の低下が、対照のラットと比べて少なくなることを示している。
【0320】
上に示したデータは、ミトコンドリアを標的とした抗酸化化合物の投与が心臓機能に好ましい効果を及ぼすことをはっきりと示している。心臓機能に対して観察された効果が、ミトコンドリアを標的とした抗酸化化合物がミトコンドリアの機能に及ぼした効果に起因するかどうかを調べるため、各処理群について虚血前と虚血後のミトコンドリアの活性を評価した。図10Aには、各処理群について、虚血前と虚血後の、NAD+と関係するミトコンドリアの呼吸機能が示してある。図10Bには、各処理群について、虚血前と虚血後の、FADと関係するミトコンドリアの呼吸機能が示してある。***は、虚血前の対照に対する有意さがP<0.001であることを表わしている。†††は、虚血後の対照に対する有意さがP<0.001であることを表わしている。
【0321】
これらのデータは、ミトキノン-C10が、虚血後のミトコンドリアの呼吸機能に対し、対照のラットと比べて統計的に有意な好ましい効果をもたらすことを示している。この結果は、ミトコンドリアを標的とした抗酸化化合物の投与が心臓機能に及ぼす効果が、ミトコンドリアの機能に対する保護効果に起因するという結論を支持している。
【0322】
実施例7. ミトキノン-C10とβ-シクロデキストリンからなる錯体の安定性
製剤に関する予備的な研究において、臭化物の形態にしたミトキノン-C10は、25℃/相対湿度50%で保管する場合と、40℃/相対湿度75%で保管する場合に、固体状態では時間が経過すると分解することがわかった。この研究の目的は、ミトキノン-C10の固体状態での安定性を、β-シクロデキストリンとの錯体にすることによって改善できるかどうかを明らかにすることであった。
【0323】
ミトキノン-C10のバッチ番号6とイデベノンは、インダストリアル・リサーチ社(ニュージーランド国)から供給された。β-シクロデキストリン(ロット番号70P225)は、ISPテクノロジーズ社から購入した。NaCl、NaH、PU、メタノール(HPLC)は、BDH社から購入した。
【0324】
純粋なミトキノン-C10の固体状態での安定性の研究
ミトキノン-C10のサンプル(約5mg)を正確に計量して透明な瓶に入れ、25℃/相対湿度50%;40℃/相対湿度75%;4℃/シリカゲル上という3つの条件に曝した。瓶を1日後、2日後、4日後、8日後、16日後、32日後、64日後に取り出し、公認されているHPLC法でミトキノン-C10を分析した。そのときシリカ上で-20℃にて保管したミトキノン-C10を対照として用いた。
【0325】
ミトキノン-C10:β-シクロデキストリン錯体の調製
ミトキノン-C10のバッチ番号6を用い、モル比が異なる3種類の錯体(ミトキノン-C10:β-シクロデキストリン=1:1、1:2、1:4)を調製した。
【0326】
β-シクロデキストリン水溶液の調製
β-シクロデキストリン(1.1397g、含水量を補正した後の1.0361gに相当)を正確に計量し、10分間にわたって超音波処理しながら二重蒸留水に溶かした。水を加えて体積を100mlにした。
【0327】
ミトキノン-C10:β-シクロデキストリン(モル比1:1)錯体の調製
40〜50℃に維持したホット・プレート上で、ミトキノン-C10臭化物(90mg、ミトキノン-C10が59.95mgに相当)のエタノール溶液を窒素雰囲気下にて8分間にわたって蒸発させた。β-シクロデキストリン溶液(10ml)と二重蒸留水(30ml)をビーカーに添加し、40分間にわたって超音波処理した。
【0328】
ミトキノン-C10:β-シクロデキストリン(モル比1:2)錯体の調製
ミトキノン-C10臭化物(89.8mg、ミトキノン-C10が59.82mgに相当)のエタノール溶液を、窒素雰囲気下にて、37〜45℃に維持したホット・プレート上で10分間、次いで温度を50℃にして3分間にわたって蒸発させた。β-シクロデキストリン溶液(20ml)と二重蒸留水(20ml)をビーカーに添加し、30分間にわたって超音波処理した。
【0329】
ミトキノン-C10:β-シクロデキストリン(モル比1:4)錯体の調製
37〜50℃に維持したホット・プレート上で、ミトキノン-C10臭化物(90mg、ミトキノン-C10が59.95mgに相当)のエタノール溶液を窒素雰囲気下にて12分間にわたって蒸発させた。β-シクロデキストリン溶液(40ml)をビーカーに添加し、20分間にわたって超音波処理した。
【0330】
上記の溶液はすべて凍結させ、-18℃にて一晩保管した。この凍結した溶液を、LABCONO凍結乾燥装置を用いて2日間にわたって凍結乾燥させた。得られた凍結乾燥化合物を-20℃で保管した。
【0331】
凍結乾燥させたミトキノン-C10:β-シクロデキストリン錯体の示差走査熱量測定
【0332】
凍結乾燥させた3種類の錯体の示差走査熱量分析(DSC)を、パーキン-エルマー社の示差走査熱量計PYRIS-1を用いて実施した。ミトキノン-C10のサンプルは、エタノール溶液を窒素ガス雰囲気下で35〜50℃にて10分間にわたって蒸発させることによって調製した。
【0333】
アルミニウム製皿状容器(パーキン-エルマー社から供給されている第0219-0041番)を用いた。分析は、窒素パージ下で実施した。空の皿状容器を用いてベースラインを設定した。
【0334】
走査温度の範囲は50〜160℃であり、最初に1分間にわたって50℃に保持した後、160℃まで10℃/分の速度で温度を上昇させた。
【0335】
HPLCアッセイ
メタノールと0.01Mのリン酸二水素ナトリウム(85:15)を移動相として用い、流速を1ml/分にして、ミトキノン-C10に対するHPLC法を開発した。265nmでのUV-VIS検出を利用する。内部標準はイデベノンであった。カラムは、粒子サイズが5μのプロディジーODS3100A(フェノメネックス社)であった。新しいカラムが到着した後にこの方法を変更した。変更した方法で用いる移動相は、メタノールと0.01Mのリン酸二水素ナトリウム(80:20)であった。この方法は有効であった。ミトキノン-C10:β-シクロデキストリン錯体を分析する前に、HPLC法におけるβ-シクロデキストリンによる干渉を調べた。β-シクロデキストリンは、ミトキノン-C10 HPLCアッセイの邪魔をしない。
【0336】
ミトキノン-C10:β-シクロデキストリン錯体の安定性の研究
ミトキノン-C10とβ-シクロデキストリンの錯体は3種類あったため、異なる錯体からのサンプル5mg中のミトキノン-C10の量は異なっていた。3つの錯体すべてで同じ量のミトキノン-C10に曝露されるようにするため、重量の異なる錯体を用意した。すなわち、ミトキノン-C10を1.473mg含む1:1錯体を4mg;ミトキノン-C10を1.469mg含む1:2錯体を6.5mg;ミトキノン-C10を1.467mg含む1:4錯体を11.5mg用意し、標準的な操作手続きに従って安定性実験で使用した。
【0337】
各サンプルを入れた瓶にHPLC水のアリコート(1.5ml)を添加し、ミトキノン-C10:β-シクロデキストリン錯体を完全に溶かした。この溶液のアリコート(50μl)を水で希釈して1mlにした。このミトキノン-C10:β-シクロデキストリン錯体希釈溶液のアリコート(100μl)を、メタノールに内部標準を10μg/mlの割合で含む溶液200μlとともに撹拌した。サンプルを10000rpmで10分間にわたって遠心分離し、上清50μlをHPLC系に注入した。β-シクロデキストリンが5mg/mlの割合で含まれていて、ミトキノン-C10の濃度が2.5〜120μg/mlの範囲であるいろいろな溶液を用い、標準曲線を得た。
【0338】
化合物はすべて、色がわずかにオレンジ-黄色であり、外見が非常にふわふわしていた。色は均一ではなく、凍結乾燥用フラスコの底に向かってより濃くなっていた。
【0339】
DSCの結果を以下に示す。
【0340】
ミトキノン-C10:ミトキノン-C10の純粋なサンプルを分析したとき、120℃を超える温度でピークが観察された。ミトキノン-C10の1つのサンプルでは130℃〜140℃で顕著な2つのピークが観察された。別のサンプルを分析したとき、そのように顕著なピークは観察されなかったが、複数の小さなピークが120℃を超える温度で観察された。分析後、皿状容器を切断し、サンプルを調べた。サンプルの色は、どちらの場合も濃い緑色から黒色であった。
【0341】
β-デキストリン:幅の広いピークが70℃〜85℃に存在していた。
【0342】
ミトキノン-C10:β-シクロデキストリン(1:1)錯体:顕著なピークは観察されなかった。分析後、皿状容器を切断して調べた。サンプルの色がわずかに変化して明るい茶色になっていた(大きな変化ではない)。
【0343】
ミトキノン-C10:β-シクロデキストリン(1:2)錯体:顕著なピークは観察されなかった。分析後、サンプルの色彩変化は観察されなかった。
【0344】
ミトキノン-C10:β-シクロデキストリン(1:4)錯体:顕著なピークは観察されなかったが、非常に小さな発熱ピークが、120℃の位置に観察された。分析後、サンプルの色彩変化は観察されなかった。
【0345】
ミトキノン-C10の純粋なサンプルにおけるピークの出現は、温度とともに化合物が変化していることを示している。しかし多くのピークが存在していてサンプルの色彩も変化したため、分解によってこのようなことが起こったのであろう。ミトキノン-C10の第2のサンプルを分析すると、第1のサンプルとは異なるサーモグラムが得られた。錯体の場合、顕著なピークも色彩変化も存在していなかった。
【0346】
純粋なミトキノン-C10(バッチ番号3)の固体状態での安定性を調べた結果を表2と図11に示してある。
【0347】
【表2】
【0348】
光が当たらない状態の、40℃/相対湿度75%;25℃/相対湿度50%;4℃/青いシリカゲル上の3つの場合におけるミトキノン-C10(バッチ番号3)の固体状態での安定性。データは、2つの数値の平均を元の含有量に対する割合(%)として示してある。
【0349】
25℃/相対湿度50%では、40℃/相対湿度75%の場合と比べて不安定性が大きいため、ミトキノン-C10(バッチ番号4)を用いてこの安定性実験を25℃/相対湿度50%で繰り返した。この2回目の安定性実験は、透明な瓶と黄褐色の瓶の中で実施した。結果を表3と図12に示してある。
【0350】
【表3】
【0351】
ミトキノン-C10(バッチ番号4)の固体状態での安定性を、光が当たらない状態で25℃/相対湿度50%において測定した。データは、3つの数値の平均を元の含有量に対する割合(%)として示してある。
【0352】
化学部門から提供されたミトキノン-C10のどちらのバッチ(バッチ番号3と4)も、16日目以降に含有量が突然減少した。しかしバッチ番号4では、32〜64日後の期間に分解がバッチ番号3ほど多くはなかった。また、瓶が透明であるか黄褐色であるかはミトキノン-C10の安定性に影響を与えないことも観察された。
【0353】
IRL社から提供されたミトキノン-C10を用い、いろいろなミトキノン-C10:β-シクロデキストリン錯体を調製した。IRL社から提供されたミトキノン-C10は、エチルアルコールに入った赤みがかった黄色のシロップであった。これらミトキノン-C10:β-シクロデキストリン錯体の安定性を表4と図13、図14、図15に示してある。実験に利用できるミトキノン-C10:β-シクロデキストリン錯体は少量であるため、1日目と4日目の結果はない。
【0354】
【表4】
【0355】
光が当たらない状態の、40℃/相対湿度75%;25℃/相対湿度50%;4℃/青いシリカゲル上の3つの場合におけるミトキノン-C10:β-シクロデキストリン錯体の固体状態での安定性。データは、2つの数値の平均を割合(%)として示してある。
【0356】
この結果から、ミトキノン-C10がβ-シクロデキストリンとうまく錯体を形成することができ、β-シクロデキストリンとの錯体にすることによって安定化させうることがわかる。この結果から、ミトキノン-C10とβ-シクロデキストリンが1:1と1:2の錯体がさまざまな条件下で安定であったことがわかる。この結果からは、ミトキノン-C10とβ-シクロデキストリンが1:4の錯体は、ミトキノン-C10とβ-シクロデキストリンが1:1と1:2の錯体よりも安定性が悪かったこともわかる。
【0357】
実施例8. ミトキノン-C10メシラートの安定性の研究
ミトキノン-C10メシラート溶液の安定性
ミトキノン-C10メシラート溶液の安定性を、出願人の操作手続きに従い、5つの溶媒(水、0.01MのHCl、0.01MのNaOH、IPB(pH7.4)、50%MeOH)の中で、2つの温度25℃と40℃にて、空気中と窒素中で125日間にわたって調べた。
【0358】
水にミトキノン-C10メシラートが1mg/ml含まれた貯蔵溶液を希釈することにより、5種類の溶媒にミトキノン-C10メシラートを溶かした溶液(100μg/ml)を調製した。溶液(5ml)をガラス製バイアルに入れ、空気または窒素でパージし、封をして保管した。アリコート(0.25ml)を0日目、1日目、2日目、4日目、8日目、16日目、32日目、64日目、125日目に採取し、ミトキノン-C10の濃度をHPLCで測定した。
【0359】
結果を表5に示してある。0.01MのNaOHに溶かしたミトキノン-C10メシラートの安定性は除外してある。というのも、ミトキノン-C10メシラートは、この溶媒中で15分経たないうちに分解したからである。結果から、(a)溶液の安定性は、溶液の上方にある雰囲気とは独立であることと、(b)温度が、HClを除く他のすべての溶媒におけるミトキノン-C10の安定性に有意な効果を及ぼすことがわかる。
【0360】
【表5】
【0361】
データは、2つの数値の平均を時間0における値に対する割合(%)として示してある。
4つの溶媒中でのミトキノン-C10メシラート溶液の安定性は、図16、図17、図18、図19にも示してある。
【0362】
ミトキノン-C10メシラートの固体状態での安定性
光が当たらない状態で、40℃/相対湿度75%;25℃/相対湿度50%;4℃/青いシリカゲル上という3つの異なる条件におけるミトキノン-C10メシラートの固体状態での安定性を、出願人の標準操作手続きに従って調べた。
【0363】
重量がわかっているミトキノン-C10メシラートを透明なガラス瓶に入れ、さまざまな条件下で保管した。2通りのサンプルを1日目、2日目、4日目、8日目、16日目、32日目、64日目、125日目に採取し、そのサンプルを水に溶かした後にミトキノン-C10メシラートの濃度をHPLCで測定した。その結果を表6と図20に示してある。
【0364】
ミトキノン-C10メシラートは、4℃のシリカゲル上で125日間にわたって安定であり、25℃/相対湿度50%では60日間にわたって安定であった。
【0365】
【表6】
【0366】
データは、2つの数値の平均を時間0における値に対する割合(%)として示してある。
【0367】
実施例9. ミトキノン-C10メシラート-β-シクロデキストリン(1:2)錯体の安定性の研究
ミトキノン-C10メシラート-β-シクロデキストリン(1:2)錯体溶液の安定性
ミトキノン-C10メシラート-β-シクロデキストリン(1:2)錯体溶液の安定性を、出願人の操作手続きに従い、5つの溶媒(水、0.01MのHCl、0.01MのNaOH、IPB(pH7.4)、50%MeOH)の中で、2つの温度25℃と40℃にて、空気中と窒素中で64日間にわたって調べた。
【0368】
水にミトキノン-C10メシラート-β-シクロデキストリン(1:2)錯体(ミトキノン-C10メシラートとして1mg/ml)が含まれた貯蔵溶液を希釈することにより、5種類の溶媒にミトキノン-C10メシラート-β-シクロデキストリン(1:2)錯体を溶かした溶液(ミトキノン-C10メシラートとして100μg/ml)を調製した。溶液(5ml)をガラス製バイアルに入れ、空気または窒素でパージし、封をして保管した。アリコート(0.25ml)を0日目、1日目、2日目、4日目、8日目、16日目、32日目、64日目、125日目に採取し、濃度をHPLCで測定した。
【0369】
結果を、表7と、図21、図22、図23、図24に示してある。0.01MのNaOHに溶かしたミトキノン-C10メシラート-β-シクロデキストリン(1:2)錯体の安定性は除外してある。というのも、ミトキノン-C10メシラート-β-シクロデキストリン(1:2)錯体は、この溶媒中で15分経たないうちに分解したからである。結果から、(a)溶液の安定性は、溶液の上方にある雰囲気とは独立であることと、(b)温度が、HClを除く他のすべての溶媒におけるミトキノン-C10-β-シクロデキストリン(1:2)錯体の安定性に有意な効果を及ぼすことがわかる。
【0370】
【表7】
【0371】
データは、2つの数値の平均を時間0における値に対する割合(%)として示してある。
【0372】
ミトキノン-C10メシラート-β-シクロデキストリン(1:2)錯体の固体状態での安定性
光が当たらない状態で、40℃/相対湿度75%;25℃/相対湿度50%;4℃/青いシリカゲル上という3つの異なる条件におけるミトキノン-C10メシラート-β-シクロデキストリン(1:2)錯体の固体状態での安定性を、出願人の標準操作手続きに従って調べた。
【0373】
重量がわかっているミトキノン-C10メシラート-β-シクロデキストリン(1:2)錯体を透明なガラス瓶に入れ、さまざまな条件で保管した。2通りのサンプルを1日目、2日目、4日目、8日目、16日目、32日目、64日目、125日目に採取し、そのサンプルを水に溶かした後、ミトキノン-C10メシラートの濃度をHPLCで測定した。その結果を表8と図25に示してある。結果から、ミトキノン-C10メシラートは、ミトキノン-C10メシラート-β-シクロデキストリン(1:2)錯体の中で4℃のシリカゲル上と25℃/相対湿度50%において安定であったことがわかる。40℃/相対湿度75%で64日間にわたって保管すると、ミトキノン-C10メシラート-β-シクロデキストリン(1:2)錯体中の37%のミトキノン-C10メシラートが分解した。
【0374】
【表8】
【0375】
データは、2つの数値の平均を時間0における値に対する割合(%)として示してある。*非常に異なる2つの値の平均(71.9%と31.1%)。
【0376】
実施例10. ミトキノン-C10メシラート-β-シクロデキストリン(1:1)錯体の安定性の研究
溶液の安定性
ミトキノン-C10メシラート-β-シクロデキストリン(1:1)錯体溶液の安定性を、出願人の操作手続きに従い、5つの溶媒(水、0.01MのHCl、0.01MのNaOH、IPB(pH7.4)、50%MeOH)の中で、2つの温度25℃と40℃にて、空気中と窒素中で64日間にわたって調べた。
【0377】
水にミトキノン-C10メシラート-β-シクロデキストリン(1:1)錯体(ミトキノン-C10メシラートとして1mg/ml)が含まれた貯蔵溶液を希釈することにより、5種類の溶媒にミトキノン-C10メシラート-β-シクロデキストリン(1:1)錯体を溶かした溶液(ミトキノン-C10メシラートとして100μg/ml)を調製した。溶液(5ml)をガラス製バイアルに入れ、空気または窒素でパージし、封をして保管した。アリコート(0.25ml)を0日目、1日目、2日目、4日目、8日目、16日目、32日目、64日目、125日目に採取し、HPLCによって濃度を測定した。
【0378】
結果を、表9と、図26、図27、図28、図29に示してある。0.01MのNaOHに溶かしたミトキノン-C10メシラート-β-シクロデキストリン(1:1)錯体の安定性は除外してある。というのも、ミトキノン-C10メシラート-β-シクロデキストリン(1:1)錯体は、この溶媒中で15分経たないうちに分解したからである。結果から、(a)溶液の安定性は、溶液の上方にある雰囲気とは独立であることと、(b)温度が、水とIPBの中ではミトキノン-C10-β-シクロデキストリン(1:2)錯体の安定性に有意な効果を及ぼすが、HClまたは50%MeOHの中ではそうでないことがわかる。
【0379】
【表9】
【0380】
データは、2つの数値の平均を時間0における値に対する割合(%)として示してある。
【0381】
固体状態での安定性
光が当たらない状態で、40℃/相対湿度75%;25℃/相対湿度50%;4℃/青いシリカゲル上という3つの異なる条件におけるミトキノン-C10メシラート-β-シクロデキストリン(1:1)錯体の固体状態での安定性を、出願人の標準操作手続きに従って調べた。
【0382】
重量がわかっているミトキノン-C10メシラート-β-シクロデキストリン(1:1)錯体を透明なガラス瓶に入れ、さまざまな条件下で保管した。2通りのサンプルを1日目、2日目、4日目、8日目、16日目、32日目、64日目、125日目に採取し、そのサンプルを水に溶かした後、ミトキノン-C10メシラートの濃度をHPLCで測定した。その結果を表10と図30に示してある。結果から、ミトキノン-C10メシラートは、4℃のシリカゲル上と25℃/相対湿度50%において安定であったが、40℃/相対湿度75%で125日間にわたって保管すると、ミトキノン-C10メシラート-β-シクロデキストリン(1:1)錯体中の37%のミトキノン-C10メシラートが分解したことがわかる。
【0383】
【表10】
【0384】
データは、2つの数値の平均を時間0における値に対する割合(%)として示してある。
【0385】
実施例11. ミトキノン-C10メシラート-β-シクロデキストリン(1:2)錯体をラット(P2とP3)に1回だけ静脈内投与と経口投与したときの薬物動態の研究
ミトキノン-C10臭化物の薬物動態に関する以前の研究結果と、ミトキノン-C10-β-シクロデキストリン(1:2)錯体の急性経口毒性に関する研究結果とに基づき、薬物動態の研究のためのミトキノン-C10-β-シクロデキストリン(1:2)錯体の投与量を、経口投与ではミトキノン-C10メシラートが50mg/kg、静脈内投与ではミトキノン-C10メシラートが10mg/kgになるようにした。
【0386】
実験の48時間前にハロタン麻酔したメスのウィスター・ラット(平均体重が約236g)の右頸静脈に、シラスティック・チューブ技術を利用してカニューレを挿入した。ミトキノン-C10メシラート-β-シクロデキストリン(1:2)錯体水溶液(ミトキノン-C10メシラートとして10mg/ml)を新たに調製し、経口投与(n=5)または静脈内投与(n=5)した。血液サンプル(0.2ml)の採取を、静脈内投与後の0分後、5分後、10分後、20分後、30分後、45分後、60分後、90分後、120分後、180分後、240分後、360分後、720分後、1440分後(24時間後)に行ない、経口投与後の0分後、15分後、30分後、60分後、90分後、120分後、150分後、180分後、240分後、300分後、420分後、540分後、720分後、1440分後(24時間後)に行なった。血液サンプルを遠心分離し、血漿サンプル(0.1ml)を-20℃の冷凍庫の中で保管した。24時間後の尿と便のサンプルも回収した。
【0387】
LC/MSを利用したESRにより、血漿中のミトキノン-C10メシラートの濃度を測定した(表12)。
【0388】
薬物動態の分析
MINIMを用いた重みなしの反復非線形最小二乗回帰分析により、ミトキノン-C10の薬物動態を分析した。静脈内投与のデータは、1コンパートメント・モデル、2コンパートメント・モデル、3コンパートメント・モデルを用いてフィットした。最もよくフィットしたモデルは、赤池情報量規準(A.I.C.)に従う最小値を持つモデルである。薬剤を投与した後の血漿中の薬剤濃度-時間曲線は、以下の式:
【0389】
【数1】
【0390】
[式中、Cは血漿中の薬剤濃度であり、A、B、Eは数学的係数であり、αは分布相の速度定数であり、βは中間相(分布または排泄)の速度定数であり、γはより遅い最終排泄相の速度定数である。]
で表わされる3コンパートメント・オープン・モデルに最もよく、しかも十分にフィットすることがわかった。最終相における薬剤排泄の半減期(t1/2)は、t1/2=0.6963/γとして計算した。経口投与のデータ(4時間後)を、1コンパートメント・モデルを用いてフィットさせた。ピーク濃度(Cmax)とCmaxに到達する時間(t1/2)は、濃度-時間曲線から直接得た。血漿濃度-時間曲線(AUC)よりも下の部分の面積を、線形台形公式を利用して評価した。そのとき、最後に測定した濃度から、最終排泄速度定数(γ)を用いて決定した無限遠への外挿を行なった。静脈内投与後の全血漿クリアランス(CL)と経口投与後の全血漿クリアランス(CL/F)を、CL=投与量/AUCとして評価した。分布の体積は、Vβ=投与量/(AUC・β)およびVγ=投与量/(AUC・γ)として計算した。生物学的利用能の絶対値(F)は、F=(経口投与のAUC×静脈内投与の投与量)/(静脈内投与のAUC×経口投与の投与量)として計算した。平均滞在時間(MRT)は、AUMC/AUCとして計算した。定常状態での分布の見かけの体積(Vss)は、(静脈内投与の投与量×AUMC)/(AUC)2として計算した。
【0391】
結果と考察
ミトキノン-C10メシラート-β-シクロデキストリン(1:2)錯体を静脈内投与または経口投与した後のミトキノン-C10メシラートの平均血漿濃度-時間曲線を図31に示してあり、平均薬物動態パラメータを表11にリストにしてある。ミトキノン-C10メシラートのオリジナルデータを添付した(表12)。
【0392】
【表11】
【0393】
【表12】
【0394】
静脈内投与すると、非常に速い分布相の後に、より遅い分布相または初期排泄相が続き、約4時間後に、継続した排泄相が続く。ミトキノン-C10の濃度-時間曲線は、最終半減期が1.8時間の3コンパートメント・モデルにフィットした。しかし投与4時間後データと呼ばれるデータに基づく半減期は14.3時間である(表13)。
【0395】
経口投与後、ミトキノン-C10はラットの胃腸管から迅速に吸収された。ミトキノン-C10の血漿濃度のピークは、経口投与後1時間以内に起こり、その後時間経過とともにゆっくりと低下した。4時間後データに基づく排泄半減期は約14時間である。Fの推定値は12.4%である。
【0396】
【表13】
【0397】
この明細書で参照したり言及したりした特許、出版物、学術論文、これら以外の文献や資料は、本発明に関する当業者のレベルを示しており、そのようなそれぞれの文書や材料は、その全体が参考として個別に組み込まれているか、全体がこの明細書に開示されているかのように、参考としてこの明細書に組み込まれているものとする。出願人は、この明細書の中に、そのような特許、出版物、学術論文、ウェブ・サイト、電子的に利用できる情報、参照した他の資料や文献のすべてを物理的に組み込む権利を有する。
【0398】
この明細書に記載した具体的な方法と組成物は、さまざまな実施態様または好ましい実施態様を代表している例示にすぎず、本発明の範囲がそれに制限されることは意図していない。当業者であれば、この明細書について考察すると他の目的、側面、実施例、実施態様を思いつくであろうゆえ、それも本発明の範囲によって規定される本発明の精神に含まれる。当業者であれば、この明細書に開示されている本発明に対し、本発明の範囲と精神を逸脱することなく、いろいろな置換や変更が可能であることが容易にわかるであろう。この明細書に具体的に記述した本発明は何らかの要素または制限がなくても実施できるため、そのような要素または制限は、重要であるとしてこの明細書に具体的に開示されてはない。例えばこの明細書のそれぞれの場合や、本発明の実施態様または実施例において、“…を含む”、“主に…からなる”、“…からなる”という表現は、この明細書では他の2つの表現のうちの一方で置き換えることができる。また、“含む”、“などがある”、“含有する”などの表現は、広く、しかも制限なしに読まれるべきである。この明細書に具体的に記述した方法や製法は、ステップの順番を変えて実行することができ、この明細書または請求項に示したステップの順番に必ずしも限定されない。この明細書と添付の請求項では、単数形の“1つの”、“その”には、文脈から明らかにわかる場合を除き、複数形も含まれる。例えば“1つの宿主細胞”には、複数のそのような宿主細胞(例えば培養物または集団)が含まれるといった具合である。いかなる場合でも、この特許が、この明細書に具体的に開示した特別な実施例または実施態様または方法に限定されると解釈してはならない。いかなる場合でも、この特許が、あらゆる審査官や、特許商標庁の他のあらゆる役人または職員のどのような意見によっても制限されると解釈してはならない。ただしその意見が、出願人の書面による回答において、特別に、しかも制限も留保もなく明白に採用された場合は別である。
【0399】
使用した用語や表現は説明のためであって本発明を制限するためではなく、そのような用語や表現を用いるとき、この明細書に示して説明した特徴と同等なあらゆるもの、またはその一部が除外されることは意図しておらず、権利を主張する本発明の範囲内でさまざまな変更が可能であると考えている。したがって、本発明を好ましい実施態様とそれに付随する特徴を通じて具体的に開示してきたが、当業者であれば、この明細書に開示した考え方を変更したり変形したりすることができ、そのような変更や変形は、添付の請求項に規定されている本発明の範囲に含まれると見なされる。
【0400】
この明細書では、本発明を広くかつ一般的に記述してきた。一般的な開示内容に含まれるそれよりも狭い範囲のそれぞれの内容も、本発明の一部をなす。それぞれの内容には本発明の一般的な説明が含まれるとはいえ、その一般的な説明から何らかのテーマが、そのテーマが具体的にこの明細書に記載されているかどうかには関係なく、除外されているという条件または負の制約がある。
【0401】
他の実施態様は、添付の請求項に含まれる。さらに、本発明の特徴または側面がマーカッシュ群で記載されている場合には、当業者であれば、マーカッシュ群の個々のあらゆるメンバーまたはメンバーの下位群を用いて本発明を記述できることもわかるであろう。
【0402】
本発明の化合物をヒト患者に対する選択的抗酸化療法に応用し、ミトコンドリアの損傷を防止することができる。そうすると、特定の疾患、例えばパーキンソン病や、ミトコンドリアDNAの突然変異に伴う疾患が原因でミトコンドリアの酸化ストレスが増大するのを防止できる可能性がある。本発明の化合物を神経変性疾患のための細胞移植療法と組み合わせて使用し、移植した細胞の生存率を大きくすることもできよう。
【0403】
さらに、これらの化合物は、移植の間に臓器を保護するための予防法、または手術の間に起こる虚血-再灌流障害を改善するため予防法として用いることができよう。本発明の化合物は、脳卒中や心筋梗塞の後の細胞損傷を減らすのに使用することや、脳虚血になりやすい未熟児に予防的に与えることもできよう。本発明の方法は、現在の抗酸化療法と比べて大きな利点がある。すなわち、酸化ストレスを最も受ける細胞部位であるミトコンドリアの内部に、抗酸化剤を選択的に蓄積させることができる。すると抗酸化療法の効果が非常に大きくなる。
【0404】
当業者であれば、上記の説明が単なる例示であり、本発明の範囲を逸脱することなく、異なる親油性カチオン/抗酸化剤の組み合わせを採用できることがわかるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0405】
【図1】図1は、ミトコンドリアによる両親媒性抗酸化化合物の取り込みを示す図である。ここには、活性化したミトキノン-C10がミトコンドリアに取り込まれる様子が示してある。
【図2A】図2Aは、ミトキノン-C3の合成経路の合成経路である。
【図2B】図2Bは、ミトキノン-C5の合成経路の合成経路である。
【図2C】図2Cは、ミトキノン-C15の合成経路である。
【図3】図3は、ミトキノン抗酸化化合物の構造と、関連する化合物TPMPを示してある。同じスケールで描いたリン脂質をこれらのミトキノン抗酸化化合物と並べることにより、ユビキノール側鎖がリン脂質二重層の1つの単分子層に最大でどこまで侵入できる可能性があるかがわかる。A:TPMP。B:ミトキノン-C3。C:ミトキノン-C5。D:ミトキノン-C10。E:ミトキノン-C15。F:リン脂質。
【図4】図4は、ミトコンドリアによる抗酸化化合物の取り込みと結合を、イオン選択的電極を用いて測定した結果を示すグラフである。A:ミトキノン-C3。B:ミトキノン-C5。C:ミトキノン-C10。D:ミトキノン-C15。左側の図では、ロテノンとミトコンドリア(1mlにつきタンパク質1mg)が存在しているとき、抗酸化化合物を1μMずつ5回(黒い矢印)続けて添加し、電極の応答を較正した。右側の図では、まず最初に抗酸化化合物を1μMずつ5回(黒い矢印)続けて添加した後、ミトコンドリア(1mlにつきタンパク質1mg)を添加して電極を較正した。どちらの場合にも、コハク酸塩を添加して膜電位を発生させ、FCCPを添加してその電位を消失させた。データは、少なくとも2〜3回繰り返した実験の典型的な軌跡である。
【図5】図5は、抗酸化化合物の抗酸化効率を示すグラフである。A:ミトコンドリアの活性化を、コハク酸塩を用いて(黒い棒)、あるいはATP再生系(ATPと、ピルビン酸ホスフェノールと、ピルビン酸キナーゼからなる)とともにインキュベートすることによって(白い棒)実現した。さまざまなミトキノン・アナログ、またはTPMP、または担体とともに30秒間にわたって予備インキュベーションを行なった後、50μMのFeCl2と300μMのH2O2を添加することによって酸化ストレスを誘導した。37℃にて15分間インキュベートした後、TBARを測定することによって脂質の過酸化を評価した。データは、2回の独立した実験の平均値±分布範囲である。ATPの存在下でミトキノン-C5が脂質の過酸化に対して示す保護効果が小さいのは、ミトキノン-C5の一部をユビキノールの形態になった貯蔵溶液から添加したことによる。B:コハク酸塩またはATP再生系によって誘導されるミトコンドリアの膜電位を、[3H]TPMPの蓄積から測定した。データは、25分間のインキュベーションを2回行なった測定結果の平均値±分布範囲である。5分間インキュベートした後の膜電位は同じであった(データは示さず)。C:抗酸化化合物によるTBARの蓄積阻止の濃度依存性を測定した。すべてのインキュベーションは、Aで説明したようにコハク酸塩の存在下で行なった。結果は、TBARの形成が阻害される割合(%)として表現する。ただし、ミトキノン・アナログの不在下でFeCl2/H2O2に曝露したサンプルの値を阻害が0%であるとし、対照サンプル(FeCl2/H2O2を添加しない)を100%とする。提示したデータは、各濃度で測定した典型的な3回の滴定値の平均値±標準偏差である。D:脂質の過酸化を阻止するIC50の濃度。データは、Cに示してある独立した3回の滴定から評価した平均値±標準誤差である。ミトキノン-C3のIC50に関する統計的有意さを、スチューデントの両側t検定を利用して調べた:*はp<00.05;**はp<0.005。
【図6】図6は、冠状動脈洞流に対するミトキノン-C10とミトキノン-C3の効果を示すグラフである。
【図7】図7は、左心室拡張期血圧に対するミトキノン-C10とミトキノン-C3の効果を示すグラフである。
【図8】図8は、心拍数に対するミトキノン-C10とミトキノン-C3の効果を示すグラフである。
【図9】図9は、左心室の血圧変化速度を示すグラフである。
【図10】図10は、虚血後のミトコンドリア呼吸機能に対するミトキノン-C10とミトキノン-C3の効果を示すグラフである。
【図11】図11は、透明なガラス瓶内のミトキノン-C10(バッチ番号3)の安定性を、40℃/相対湿度75%;25℃/相対湿度50%;5℃/シリカゲル上の3つの場合について示したグラフである。
【図12】図12は、ミトキノン-C10(バッチ番号4)の安定性を、25℃/相対湿度50%について示したグラフである。
【図13】図13は、ミトキノン-C10-β-シクロデキストリン(1:1)錯体の固体状態での安定性を、4℃/シリカゲル上;25℃/相対湿度50%;40℃/相対湿度75%の3つの場合について示したグラフである。
【図14】図14は、ミトキノン-C10-β-シクロデキストリン(1:2)錯体の固体状態での安定性を、4℃/シリカゲル上;25℃/相対湿度50%;40℃/相対湿度75%の3つの場合について示したグラフである。
【図15】図15は、ミトキノン-C10-β-シクロデキストリン(1:4)錯体の固体状態での安定性を、4℃/シリカゲル上;25℃/相対湿度50%;40℃/相対湿度75%の3つの場合について示したグラフである。
【図16】図16は、水中でのミトキノン-C10メシラートの安定性を示すグラフである。
【図17】図17は、0.01MのHCl中でのミトキノン-C10メシラートの安定性を示すグラフである。
【図18】図18は、IPB(pH7.4)中でのミトキノン-C10メシラートの安定性を示すグラフである。
【図19】図19は、50%メタノール中でのミトキノン-C10メシラートの安定性を示すグラフである。
【図20】図20は、ミトキノン-C10メシラートの固体状態での安定性を、40℃/相対湿度75%;25℃/相対湿度50%;4℃/青いシリカゲル上の3つの場合について示したグラフである。
【図21】図21は、水中でのミトキノン-C10メシラート-β-シクロデキストリン(1:2)錯体の安定性を示すグラフである。
【図22】図22は、0.01MのHCl中でのミトキノン-C10メシラート-β-シクロデキストリン(1:2)錯体の安定性を示すグラフである。
【図23】図23は、IPB(pH7.4)中でのミトキノン-C10メシラート-β-シクロデキストリン(1:2)錯体の安定性を示すグラフである。
【図24】図24は、50%メタノール中でのミトキノン-C10メシラート-β-シクロデキストリン(1:2)錯体の安定性を示すグラフである。
【図25】図25は、ミトキノン-C10メシラート-β-シクロデキストリン(1:2)錯体の固体状態での安定性を、40℃/相対湿度75%;25℃/相対湿度50%;4℃/青いシリカゲル上の3つの場合について示したグラフである。
【図26】図26は、水中でのミトキノン-C10メシラート-β-シクロデキストリン(1:1)錯体の安定性を示すグラフである。
【図27】図27は、0.01MのHCl中でのミトキノン-C10メシラート-β-シクロデキストリン(1:1)錯体の安定性を示すグラフである。
【図28】図28は、IPB(pH7.4)中でのミトキノン-C10メシラート-β-シクロデキストリン(1:1)錯体の安定性を示すグラフである。
【図29】図29は、50%メタノール中でのミトキノン-C10メシラート-β-シクロデキストリン(1:1)錯体の安定性を示すグラフである。
【図30】図30は、ミトキノン-C10メシラート-β-シクロデキストリン(1:1)錯体の固体状態での安定性を、40℃/相対湿度75%;25℃/相対湿度50%;4℃/青いシリカゲル上の3つの場合について示したグラフである。
【図31】図31は、ミトキノン-C10メシラートをミトキノン-C10メシラート-β-シクロデキストリン(1:2)錯体としてラットに1回(A)静脈内投与(10mg/kg);(B)経口投与(50mg/kg)した後の、ラットの血漿中でのミトキノン-C10濃度-時間曲線を示すグラフである(n=5)。このデータから得られた薬物動態パラメータを表11に示してある。
【技術分野】
【0001】
本発明は、親油性カチオン基を有する両親媒性抗酸化化合物と、その化合物の合成法、製剤、物理化学的特性に関する。このような化合物は、例えば薬として使用するのが好ましい。
【背景技術】
【0002】
酸化ストレスは、加齢に伴うヒトの多くの変性疾患(例えばパーキンソン病、アルツハイマー病、ハンチントン舞踏病、フリートライヒ運動失調)や、加齢に伴って蓄積する非特異的なダメージに関係している。酸化ストレスは、脳卒中や心筋梗塞における炎症や虚血-再灌流組織障害と、臓器移植や外科手術の間の炎症や虚血-再灌流組織障害にも関係している。酸化ストレスによるダメージを避けるため、数多くの抗酸化療法が開発されている。しかしそのほとんどは細胞内を標的としていないため、非常に有効であるとは言えない。しかもそのような抗酸化剤の多くは好ましくない物理化学的特性を持っているため、例えば生物学的利用能が制限されたり、標的となる臓器に侵入して治療効果をもたらす能力が制限されたりする。
【0003】
ミトコンドリアは、エネルギー代謝にとって重要な細胞内器官である。したがってミトコンドリアに欠陥があると、特に、エネルギーを大量に必要とする神経組織と筋肉組織にダメージがもたらされる。ミトコンドリアの欠陥は、ほとんどの細胞の内部で酸化ストレスを引き起こすフリーラジカルと反応性酸素種の主要な供給源でもある。そのため出願人は、ミトコンドリアに選択的に抗酸化剤を送達することが、標的が明確でない抗酸化を使用するよりも効果的であろうと考えている。そこで本発明は、ミトコンドリアを標的にできる抗酸化剤を提供することを目的とする。
【0004】
親油性カチオンは、正電荷を持つためにミトコンドリアのマトリックス内に蓄積させることができよう(Rottenberg、1979年、Methods Enzymol.、第55巻、574ページ;Chen、1988年、Ann. Rev. Cell. Biol.、第4巻、155ページ)。このようなイオンが蓄積するのは、そのイオンが正電荷を遮蔽するか広い面積に非局在化させるのに十分な親油性を持っていて、しかも能動的な流出経路がなくてそのカチオンが代謝されなかったり細胞にとって直ちに毒性を持ったりしない場合である。
【0005】
そこで本発明の中心となるのは、ミトコンドリアが特別な親油性カチオンを濃縮する能力を利用することにより、そのカチオンと結合した抗酸化剤を取り込み、酸化ストレスを引き起こすフリーラジカルと反応性酸素種の主な供給源にその抗酸化剤が向かうようにする方法である。
【0006】
生体内で優れた抗酸化活性を示すが、生体内の標的コンパートメントに対する抗酸化機能は少ない抗酸化化合物として、補酵素Q(CoQ)やイデベノンなどがある。この2つの化合物はどちらも生物学的利用能が小さいため、効果をもたらすには非常に多くの量を投与する必要がある。そのため投与量の割には治療効果が小さい。
【0007】
われわれは、どのような理論に囚われることも望んでいないため、ある抗酸化化合物にとって、生体内または生体外での活性(例えば抗酸化活性またはミトコンドリアへの蓄積)だけが抗酸化機能および/または生体内効果(例えば治療効果)を決定する因子では決してないと考えている。ある抗酸化化合物がミトコンドリアを標的とした本発明の抗酸化化合物として役立つには、その抗酸化化合物が試験管内または生体外で適切な抗酸化活性を示さねばならないのは事実であるが、生体内で効果を持つためには、ミトコンドリアを標的としたその抗酸化化合物は、他の望ましい物理化学的特性(例えば、適度な生物学的利用能、および/または標的とするミトコンドリア内での適度な局在または分布、および/または適度な安定性)を示さねばならない。
【0008】
われわれは、どのような理論に囚われることも望んでいないため、ミトコンドリアを標的とした本発明の抗酸化化合物は、望ましい抗酸化機能(例えば、生物学的利用能、および/またはミトコンドリアを標的とすること)を示し、その物理化学的特性(例えば両親媒性、および/または物理的構造、および/または大きさ)が少なくとも理由の1つとなって生体内に蓄積し、疎水性および/または分配係数をあまり変化させないと考えている。したがってこのような化合物は、他の抗酸化化合物と比べて低用量で治療に有効である。
【0009】
米国特許第6,331,532号明細書では、ミトキノールとミトキノン(この明細書では、まとめてミトキノン/ミトキノールと呼ぶ)という具体的な化合物に言及し、親油性カチオンが抗酸化部分と共有結合することでその抗酸化部分がミトコンドリアに向かうであろうことが開示されている。その中に例示されている化合物は(鎖の長さを一般化してはあるが)、以下の一般式で表わされる炭素鎖の長さが10個(すなわちC10鎖)のミトキノン化合物:
【0010】
【化1】
【0011】
である。その還元形態であるミトキノールもC10鎖である。
【0012】
ミトキノン/ミトキノールは、試験管内と生体内において、抗酸化活性と、ミトコンドリアに対する指向性と、ミトコンドリア内への蓄積が優れているとはいえ、臭化塩としては幾分か不安定であることをわれわれは見いだした。われわれはさらに、米国特許第6,331,532号明細書に開示されているようなミトキノン/ミトキノールの物理化学的特性は、例えば経口または非経口で投与する場合、および/または体内臓器(例えば脳、心臓、肝臓、他の臓器)の組織内のミトコンドリアにその化合物を向かわせる場合には、医薬組成物としてはあまり適切でないことも見い出した。
【0013】
本発明による具体的な化合物は、医薬組成物として適切である。それは、結晶以外の形態および/または固体以外の形態になる可能性があるが、他の物質、例えば担体、賦形剤、錯化剤や、他の添加物、例えばシクロデキストリンと混合すると固体形態にすることができる。混合するこれらの物質は、薬学的に許容されることが望ましい。
【0014】
われわれは、ミトコンドリアを標的とする本発明の両親媒性抗酸化化合物として、その化合物の正電荷が適切なアニオンと組み合わさって一般的な中和塩の形態になったもの、例えば固体生成物または結晶生成物を具体的に提供できると望ましいことを明らかにした。しかしこのような塩の形態では、ある種の塩形成アニオンを避けるのが最も好ましいことをわれわれは見い出した。なぜならそのような塩形成アニオンは、抗酸化化合物、例えば抗酸化部分、結合部分、親油性カチオン部分に対する反応性を示すから、および/または抗酸化部分を開裂させる可能性があるからである。他の塩形成アニオンは、薬学的に望ましくないと考えられている。例えば硝酸塩部分は、薬学的または環境的に許容されないために製薬会社から一般に不適切であると見なされている。また、このような化合物の塩を形成するのにしばしば用いられる臭化水素は求核性を持っているために抗酸化部分と反応する可能性があることをわれわれは見い出した。すると、例えばこの明細書の一般式(II)で示した化合物の抗酸化部分からのメチル基の開裂、および/またはその化合物全体の安定性のほぼ全体的な低下が起こる可能性がある。われわれは、例えばミトキノンの臭化塩が幾分か不安定であることを明らかにした。
【0015】
そこでわれわれは、ミトコンドリアを標的とする塩の形態(例えば液体、固体、結晶の形になった塩の形態)の抗酸化剤は、求核性ではないアニオンなどの部分、および/または抗酸化化合物または抗酸化複合体を含むどの部分に対しても反応性を示さないアニオンなどの部分と組み合わさるのが最高であると考えている。そのアニオンが薬学的に許容されることも好ましい。
【発明の開示】
【0016】
発明の目的
そこで本発明の1つの目的は、例えば酸化ストレスに伴う疾患や症状の治療に役立つ薬理学的に許容可能な両親媒性の抗酸化化合物および抗酸化組成物と、剤形と、その化合物の製造方法を提供すること、または一般の人に有効な選択肢を提供することである。
【0017】
発明の概要
本発明の第1の特徴は、リンク部分によって抗酸化部分と結合している親油性カチオン部分と、そのカチオン部分に対するアニオン相補部とを有する化合物であって、カチオン部分がミトコンドリアの抗酸化部分を標的にできること、および/または塩の形態が化学的に安定であること、および/またはアニオン相補部が、抗酸化部分、カチオン部分、リンク部分のいずれに対しても反応性を示さないことを特徴とする化合物である。
【0018】
一実施態様では、抗酸化部分はキノンまたはキノールである。
【0019】
別の実施態様では、抗酸化部分は、ビタミンE、ビタミンE誘導体、鎖破断抗酸化剤(例えばブチル化ヒドロキシアニソール、ブチル化ヒドロキシトルエン)、一般的なラジカル捕獲剤(例えば誘導体化したフラーレン)、スピン・トラップ(例えば5,5-ジメチルピロリン-N-オキシド、tert-ブチルニトロソベンゼン、tert-ニトロソベンゼン、α-フェニル-tert-ブチルニトロンの誘導体や、関連した化合物)を含む群から選ばれる。
【0020】
一実施態様では、親油性カチオン部分は、置換された/置換されていないトリフェニルホスホニウム・カチオンである。
【0021】
一実施態様では、化合物は、一般式(I):
【0022】
【化2】
【0023】
の化合物、および/またはそのキノール形態である(ただし、R1、R2、R3は、互いに同じでも異なっていてもよく、(場合によっては置換されている)C1〜C5アルキル部分とHの中から選択され、nは約2〜約20の整数であり、Zは非反応性アニオンである)である。
【0024】
Zは、スルホン酸アルキル、スルホン酸アリール、硝酸アルキル、硝酸アリールからなる群より選ばれることが好ましい。
【0025】
(C)n鎖のそれぞれのCは、飽和していることが好ましい。
【0026】
好ましい一実施態様では、化合物は、一般式:
【0027】
【化3】
【0028】
の化合物および/またはそのキノール形態(ただしZは非求核性アニオンである)である。
【0029】
より好ましくは、化合物が以下の一般式:
【0030】
【化4】
【0031】
を有する。
【0032】
本発明の別の特徴によると、リンク部分によって抗酸化部分と結合している親油性カチオン部分と、そのカチオン部分に対するアニオン相補部とを有する化合物を含む医薬組成物であって、カチオン部分がミトコンドリアの抗酸化部分を標的にできること、および/または塩の形態が化学的に安定であること、および/またはアニオン相補部が、抗酸化部分、カチオン部分、リンク部分のいずれに対しても反応性を示さないことを特徴とする医薬組成物が提供される。
【0033】
一実施態様では、抗酸化部分はキノンまたはキノールである。
【0034】
別の実施態様では、抗酸化部は、ビタミンE、ビタミンE誘導体、鎖破断抗酸化剤、例えばブチル化ヒドロキシアニソール、ブチル化ヒドロキシトルエン、一般的なラジカル捕獲剤、例えば誘導体化したフラーレン、スピン・トラップ、例えば5,5-ジメチルピロリン-N-オキシド、tert-ブチルニトロソベンゼン、tert-ニトロソベンゼン、α-フェニル-tert-ブチルニトロンの誘導体や、関連した化合物を含む群から選ばれる。
【0035】
一実施態様では、親油性カチオン部分は、置換された/置換されていないトリフェニルホスホニウム・カチオンである。
【0036】
一実施態様では、化合物は、一般式(I):
【0037】
【化5】
【0038】
の化合物、および/またはそのキノール形態である(ただし、R1、R2、R3は、互いに同じでも異なっていてもよく、(場合によっては置換されている)C1〜C5アルキル部分とHの中から選択され、nは約2〜約20の整数であり、Zは非反応性アニオンである)である。
【0039】
Zは、スルホン酸アルキル、スルホン酸アリール、硝酸アルキル、硝酸アリールからなる群から選ばれることが好ましい。
【0040】
(C)n鎖のそれぞれのCは、飽和していることが好ましい。
【0041】
さらに別の一実施態様では、化合物は、一般式:
【0042】
【化6】
【0043】
の化合物、および/またはそのキノール形態(ただしZは非求核性アニオンである)である。
【0044】
さらに別の一実施態様では、組成物は、一般式(II)の化合物(ただしZは非求核性アニオンである)および/またはそのキノール形態と、シクロデキストリンとを含む。
【0045】
いろいろな実施態様では、化合物とシクロデキストリンのモル比は、約10:1〜約1:10、約5:1〜約1:5、約4:1〜約1:4、約2:1〜約1:2、約1:1のいずれかである。化合物とシクロデキストリンのモル比は、例えば約1:2である。
【0046】
より好ましくは、組成物が、一般式:
【0047】
【化7】
【0048】
の化合物を含むことである(ただし、シクロデキストリンはβ-シクロデキストリンであり、化合物とシクロデキストリンとのより好ましいモル比は約1:2である)。
【0049】
一実施態様では、医薬組成物を経口投与用の製剤にする。
【0050】
さらに別の一実施態様では、医薬組成物を非経口投与用の製剤にする。
【0051】
本発明のさらに別の特徴によると、リンク部分によって抗酸化部分と結合している親油性カチオン部分と、そのカチオン部分に対するアニオン相補部とを有する化合物を含む投薬単位であって、カチオン部分がミトコンドリアの抗酸化部分を標的にできること、および/または塩の形態が化学的に安定であること、および/またはアニオン相補部が、抗酸化部分、カチオン部分、リンク部分のいずれに対しても反応性を示さないことを特徴とする投薬単位が提供される。
【0052】
一実施態様では、抗酸化部分はキノンまたはキノールである。
【0053】
別の実施態様では、抗酸化部分は、ビタミンE、ビタミンE誘導体、鎖破断抗酸化剤(例えばブチル化ヒドロキシアニソール、ブチル化ヒドロキシトルエン)、一般的なラジカル捕獲剤(例えば誘導体化したフラーレン)、スピン・トラップ(例えば5,5-ジメチルピロリン-N-オキシド、tert-ブチルニトロソベンゼン、tert-ニトロソベンゼン、α-フェニル-tert-ブチルニトロンの誘導体や、関連した化合物)を含む群より選ばれる。
【0054】
一実施態様では、親油性カチオン部分は、置換された/置換されていないトリフェニルホスホニウム・カチオンである。
【0055】
一実施態様では、化合物は、一般式(I):
【0056】
【化8】
【0057】
の化合物、および/またはそのキノール形態である(ただし、R1、R2、R3は、互いに同じでも異なっていてもよく、(場合によっては置換されている)C1〜C5アルキル部分とHの中から選択され、nは約2〜約20の整数であり、Zは非反応性アニオンである)である。
【0058】
Zは、スルホン酸アルキル、スルホン酸アリール、硝酸アルキル、硝酸アリールからなる群より選ばれることが好ましい。
【0059】
(C)n鎖のそれぞれのCは、飽和していることが好ましい。
【0060】
さらに別の一実施態様では、化合物は、一般式:
【0061】
【化9】
【0062】
の化合物(ただしZは非求核性アニオンである)および/またはそのキノール形態である。
【0063】
さらに別の一実施態様では、投薬単位は、一般式(II)の化合物(ただしZは非求核性アニオンである)および/またはそのキノール形態と、シクロデキストリンとを含む。
【0064】
いろいろな実施態様では、化合物とシクロデキストリンのモル比は、約10:1〜約1:10、約5:1〜約1:5、約4:1〜約1:4、約2:1〜約1:2、約1:1のいずれかである。化合物とシクロデキストリンのモル比は、例えば約1:2である。
【0065】
より好ましくは、投薬単位が、一般式:
【0066】
【化10】
【0067】
の化合物を含む(ただし、シクロデキストリンはβ-シクロデキストリンであり、化合物とシクロデキストリンのより好ましいモル比は約1:2である)。
【0068】
一実施態様では、投薬単位は経口投与に適している。
【0069】
さらに別の一実施態様では、投薬単位は非経口投与に適している。
【0070】
本発明のさらに別の特徴によると、本発明の化合物、またはその薬学的に許容される塩、組成物、剤形を哺乳動物に投与することにより、その哺乳動物の酸化ストレスを予防または治療する方法が提供される。
【0071】
一実施態様では、化合物は、一般式(II)の化合物またはその薬学的に許容される塩である。
【0072】
別の一実施態様では、第1日目に1日当たりの維持量の約1.02〜約2.0倍が投与され、その後は1日当たりの維持量が毎日投与される。
【0073】
塩はメタンスルホン酸塩であることが好ましく、化合物はシクロデキストリンと組み合わせることが好ましい。
【0074】
より好ましくは、化合物が一般式:
【0075】
【化11】
【0076】
を有する。
【0077】
シクロデキストリンはβ-シクロデキストリンであることが好ましく、化合物とシクロデキストリンのより好ましいモル比は約1:2である。
【0078】
本発明のさらに別の特徴によると、本発明は、化合物、またはその薬学的に許容される塩、組成物または剤形を哺乳動物に投与することにより、その哺乳動物の加齢症状の予防または治療に使用するための本発明の化合物、またはその薬学的に許容される塩、組成物または剤形を提供する。
【0079】
一実施態様では、化合物は、一般式(II)の化合物またはその薬学的に許容される塩である。
【0080】
別の一実施態様では、第1日目に1日当たりの維持量の約1.02〜約2.0倍が投与され、その後は1日当たりの維持量が毎日投与される。
【0081】
【化12】
【0082】
塩はメタンスルホン酸塩であることが好ましく、化合物はシクロデキストリンと組み合わせることが好ましい。
【0083】
より好ましくは、化合物が一般式:
【0084】
【化13】
【0085】
を有する。
【0086】
シクロデキストリンはβ-シクロデキストリンであることが好ましく、化合物とシクロデキストリンのより好ましいモル比は約1:2である。
【0087】
さらに別の特徴によると、本発明は、リンク部分によって抗酸化部分と結合している親油性カチオン部分と、そのカチオン部分に対するアニオン相補部とを有する安定な化合物であって、
カチオン種が、ミトコンドリアの抗酸化部分を標的とできること、および
アニオン相補部がハロゲンイオンでないこと、および
アニオン相補部が非求核性であること、および/または
アニオン相補部が抗酸化部分、カチオン部分またはリンク部分のいずれに対しても反応性を示さない、前記化合物にある。
【0088】
一実施態様では、抗酸化部分はキノンまたはキノールである。
【0089】
別の実施態様では、抗酸化部分は、ビタミンE、ビタミンE誘導体、鎖破断抗酸化剤(例えばブチル化ヒドロキシアニソール、ブチル化ヒドロキシトルエン)、一般的なラジカル捕獲剤(例えば誘導体化したフラーレン)、スピン・トラップ(例えば5,5-ジメチルピロリン-N-オキシド、tert-ブチルニトロソベンゼン、tert-ニトロソベンゼン、α-フェニル-tert-ブチルニトロンの誘導体や、関連した化合物)を含む群より選ばれる。
【0090】
一実施態様では、親油性カチオン部分は、置換された/置換されていないトリフェニルホスホニウム・カチオンである。
【0091】
一実施態様では、化合物は、一般式(I)を持つ化合物:
【0092】
【化14】
【0093】
の化合物、および/またはそのキノール形態である(ただし、R1、R2、R3は、互いに同じでも異なっていてもよく、(場合によっては置換されている)C1〜C5アルキル部分とHの中から選択され、nは約2〜約20の整数であり、Zは非反応性アニオンである)である。
【0094】
Zは、スルホン酸アルキル、スルホン酸アリール、硝酸アルキル、硝酸アリールからなる群より選ばれることが好ましい。
【0095】
(C)n鎖のそれぞれのCは、飽和していることが好ましい。
【0096】
好ましい一実施態様では、化合物は、一般式:
【0097】
【化15】
【0098】
の化合物(ただしZは非求核性アニオンである)および/またはそのキノール形態である。
【0099】
より好ましくは、化合物が一般式(III):
【0100】
【化16】
【0101】
を有する。
【0102】
本発明のさらに別の特徴では、本発明は、リンク部分によって抗酸化部分と結合している親油性カチオン部分と、そのカチオン部分に対するアニオン相補部とを有する安定な化合物を含む医薬組成物であって、
カチオン種が、ミトコンドリアの抗酸化部分を標的とできること、および
アニオン相補部がハロゲンイオンでないこと、および
アニオン相補部が非求核性であること、および/または
アニオン相補部が抗酸化部分、カチオン部分またはリンク部分のいずれに対しても反応性を示さない、前記組成物を提供する。
【0103】
一実施態様では、抗酸化部分はキノンまたはキノールである。
【0104】
別の実施態様では、抗酸化部分の選択を、ビタミンE、ビタミンE誘導体、鎖破断抗酸化剤(例えばブチル化ヒドロキシアニソール、ブチル化ヒドロキシトルエン)、一般的なラジカル捕獲剤(例えば誘導体化したフラーレン)、スピン・トラップ(例えば5,5-ジメチルピロリン-N-オキシド、tert-ブチルニトロソベンゼン、tert-ニトロソベンゼン、α-フェニル-tert-ブチルニトロンの誘導体や、関連した化合物)を含むグループの中から行なう。
【0105】
一実施態様では、親油性カチオン部分は、置換された/置換されていないトリフェニルホスホニウム・カチオンである。
【0106】
一実施態様では、化合物は、一般式(I):
【0107】
【化17】
【0108】
の化合物、および/またはそのキノール形態である(ただし、R1、R2、R3は、互いに同じでも異なっていてもよく、(場合によっては置換されている)C1〜C5アルキル部分とHの中から選択され、nは約2〜約20の整数であり、Zは非反応性アニオンである)である。
【0109】
Zは、スルホン酸アルキル、スルホン酸アリール、硝酸アルキル、硝酸アリールからなる群より選ばれることが好ましい。
【0110】
(C)n鎖のそれぞれのCは、飽和していることが好ましい。
【0111】
さらに別の一実施態様では、化合物は、一般式:
【0112】
【化18】
【0113】
の化合物(ただしZは非求核性アニオンである)および/またはそのキノール形態である。
【0114】
さらに別の一実施態様では、組成物は、一般式(II)の化合物(ただしZは非求核性アニオンである)および/またはそのキノール形態と、シクロデキストリンとを含む。
【0115】
いろいろな実施態様では、化合物とシクロデキストリンのモル比は、約10:1〜約1:10、約5:1〜約1:5、約4:1〜約1:4、約2:1〜約1:2、約1:1のいずれかである。化合物とシクロデキストリンのモル比は、例えば約1:2である。
【0116】
より好ましくは、組成物が、一般式:
【0117】
【化19】
【0118】
の化合物を含む(ただしシクロデキストリンはβ-シクロデキストリンであり、化合物とシクロデキストリンのより好ましいモル比は約1:2である)。
【0119】
一実施態様では、医薬組成物を経口投与用の製剤にする。
【0120】
さらに別の一実施態様では、医薬組成物を非経口投与用の製剤にする。
【0121】
さらに別の特徴では、本発明は、リンク部分によって抗酸化部分と結合している親油性カチオン部分と、そのカチオン部分に対するアニオン相補部とを有する安定な化合物、および薬学的に許容される希釈剤および/または担体および/または賦形剤を含む投薬単位であって、
カチオン種が、ミトコンドリアの抗酸化部分を標的とできること、および
アニオン相補部がハロゲンイオンでないこと、および
アニオン相補部が非求核性であること、および/または
アニオン相補部が抗酸化部分、カチオン部分またはリンク部分のいずれに対しても反応性を示さない、前記投薬単位にある。
【0122】
一実施態様では、抗酸化部分はキノンまたはキノールである。
【0123】
別の実施態様では、抗酸化部分の選択を、ビタミンE、ビタミンE誘導体、鎖破断抗酸化剤(例えばブチル化ヒドロキシアニソール、ブチル化ヒドロキシトルエン)、一般的なラジカル捕獲剤(例えば誘導体化したフラーレン)、スピン・トラップ(例えば5,5-ジメチルピロリン-N-オキシド、tert-ブチルニトロソベンゼン、tert-ニトロソベンゼン、α-フェニル-tert-ブチルニトロンの誘導体や、関連した化合物)を含むグループの中から行なう。
【0124】
一実施態様では、親油性カチオン部分は、置換された/置換されていないトリフェニルホスホニウム・カチオンである。
【0125】
一実施態様では、化合物は、一般式(I):
【0126】
【化20】
【0127】
の化合物、および/またはそのキノール形態である(ただし、R1、R2、R3は、互いに同じでも異なっていてもよく、(場合によっては置換されている)C1〜C5アルキル部分とHの中から選択され、nは約2〜約20の整数であり、Zは非反応性アニオンである)である。
【0128】
Zは、スルホン酸アルキル、スルホン酸アリール、硝酸アルキル、硝酸アリールからなるグループの中から選択することが好ましい。
【0129】
(C)n鎖のそれぞれのCは、飽和していることが好ましい。
【0130】
さらに別の一実施態様では、化合物は、一般式:
【0131】
【化21】
【0132】
の化合物(ただしZは非求核性アニオンである)および/またはそのキノール形態である。
【0133】
さらに別の一実施態様では、投薬単位は、一般式(II)の化合物(ただしZは非求核性アニオンである)および/またはそのキノール形態と、シクロデキストリンとを含む。
【0134】
いろいろな実施態様では、化合物とシクロデキストリンのモル比は、約10:1〜約1:10、約5:1〜約1:5、約4:1〜約1:4、約2:1〜約1:2、約1:1のいずれかである。化合物とシクロデキストリンのモル比は、例えば約1:2である。
【0135】
より好ましくは、投薬単位が、一般式:
【0136】
【化22】
【0137】
の化合物を含む(ただし、シクロデキストリンはβ-シクロデキストリンであり、化合物とシクロデキストリンのより好ましいモル比は約1:2である)。
【0138】
一実施態様では、投薬単位は経口投与に適している。
【0139】
さらに別の一実施態様では、投薬単位は非経口投与に適している。
【0140】
さらに別の特徴によると、本発明は、経口投与に適した投薬単位であって、本発明の化合物を活性成分として含んでおり、その化合物が結晶形態および/または非液体形態の製剤にされている投薬単位からなる。
【0141】
さらに別の特徴によると、本発明は、本発明の化合物を活性成分として含む、非経口投与に適した投薬単位からなる。
【0142】
本発明のさらに別の特徴により、酸化ストレスまたは加齢症状の低減による利益を受ける可能性のある患者の治療に適した医薬組成物であって、本発明の化合物の有効量を、1種類以上の薬学的に許容される担体、賦形剤、希釈剤と組み合わせて含む医薬組成物が提供される。
【0143】
一実施態様では、化合物は一般式(I)の化合物である。
【0144】
一実施態様では、化合物をシクロデキストリンと錯体化される。
【0145】
いろいろな実施態様では、化合物とシクロデキストリンのモル比は、約10:1〜約1:10、約5:1〜約1:5、約4:1〜約1:4、約2:1〜約1:2、約1:1のいずれかである。化合物とシクロデキストリンのモル比は、例えば約1:2である。
【0146】
化合物が一般式(III)の化合物であり、シクロデキストリンがβ-シクロデキストリンであり、化合物とシクロデキストリンのモル比が約1:2であることがより好ましい。
【0147】
本発明のさらに別の特徴により、細胞内の酸化ストレスを減らすことを目的として、本発明の化合物にその細胞を接触させるステップを含む方法が提供される。
【0148】
一実施態様では、化合物は一般式(I)の化合物である。
【0149】
一実施態様では、化合物はシクロデキストリンと錯体化される。
【0150】
いろいろな実施態様では、化合物とシクロデキストリンのモル比は、約10:1〜約1:10、約5:1〜約1:5、約4:1〜約1:4、約2:1〜約1:2、約1:1のいずれかである。化合物とシクロデキストリンのモル比は、例えば約1:2である。
【0151】
化合物が一般式(III)の化合物であり、シクロデキストリンがβ-シクロデキストリンであり、化合物とシクロデキストリンのモル比が約1:2であることがより好ましい。
【0152】
一実施態様では、医薬組成物を経口投与用の製剤にする。
【0153】
さらに別の一実施態様では、医薬組成物を非経口投与用の製剤にする。
【0154】
本発明のさらに別の特徴により、パーキンソン病、アルツハイマー病、ハンチントン舞踏病、フリートライヒ運動失調を患っている患者、またはこれらの疾患になりやすい素因を有する患者の治療に適した医薬組成物であって、本発明の化合物の有効量を、1種類以上の薬学的に許容される担体、賦形剤、希釈剤と組み合わせて含む医薬組成物が提供される。
【0155】
この治療は、フリートライヒ運動失調を患っているか、フリートライヒ運動失調になりやすい素因を有する患者の治療であることが好ましい。
【0156】
本発明のさらに別の特徴により、酸化ストレスの低減による利益を受ける可能性のある患者の治療法または予防法であって、その患者に本発明の化合物を投与するステップを含む方法が提供される。
【0157】
一実施態様では、化合物は一般式(I)の化合物である。
【0158】
一実施態様では、化合物はシクロデキストリンと錯体化される。
【0159】
いろいろな実施態様では、化合物とシクロデキストリンのモル比は、約10:1〜約1:10、約5:1〜約1:5、約4:1〜約1:4、約2:1〜約1:2、約1:1のいずれかである。化合物とシクロデキストリンのモル比は、例えば約1:2である。
【0160】
化合物が一般式(III)の化合物であり、シクロデキストリンがβ-シクロデキストリンであり、化合物とシクロデキストリンのモル比が約1:2であることがより好ましい。
【0161】
一実施態様では、投与は経口投与である。
【0162】
別の一実施態様では、投与は非経口投与である。
【0163】
本発明の別の特徴により、酸化ストレスまたは加齢症状の低減による利益を受ける可能性のある患者の治療法または予防法であって、その患者に本発明の化合物を投与するステップを含む方法が提供される。
【0164】
本発明のさらに別の特徴により、パーキンソン病、アルツハイマー病、ハンチントン舞踏病、フリートライヒ運動失調を患っている患者、またはこれらの疾患になりやすい素因を有する患者の治療法または予防法であって、その患者に本発明の化合物を投与するステップを含む方法が提供される。
【0165】
この治療法または予防法は、フリートライヒ運動失調を患っているか、フリートライヒ運動失調になりやすい素因を有する患者の治療法または予防法であることが好ましい。
【0166】
本発明の別の特徴により、細胞内の酸化ストレスを減らすことを目的として、本発明の化合物にその細胞を投与するステップを含む方法が提供される。
【0167】
本発明の別の特徴により、上記の化合物を用いて調製または製造した、患者の酸化ストレスを減らすのに有効な薬物、投薬単位、医薬組成物が提供される。
【0168】
本発明の別の特徴により、上記の化合物を用いて調製または製造した、患者の加齢症状を減らすのに有効な薬物、投薬単位、医薬組成物が提供される。
【0169】
本発明のさらに別の特徴により、本発明の化合物を用いて調製または製造した薬物、投薬単位、医薬組成物であって、パーキンソン病、アルツハイマー病、ハンチントン舞踏病、フリートライヒ運動失調を患っている患者、またはこれらの疾患になりやすい素因を有する患者の治療または予防に有効な薬物、投薬単位、医薬組成物が提供される。
【0170】
好ましいことに、この薬物、投薬単位、医薬組成物は、フリートライヒ運動失調を患っているか、フリートライヒ運動失調になりやすい素因を有する患者の治療または予防に有効である。
【0171】
本発明の別の特徴により、細胞内の酸化ストレスを減らすのに有効な薬物、投薬単位、医薬組成物を、上記の化合物を用いて調製または製造する方法が提供される。
【0172】
この調製または製造は、他の1種類以上の物質または材料、より好ましくは、薬学的に許容される希釈剤、賦形剤、および/または担体を用いて実施する。
【0173】
本発明のさらに別の特徴は、一般式(I):
【0174】
【化23】
【0175】
の部分を有する化合物、および/またはそのキノール形態(ただし、R1、R2、R3は、互いに同じでも異なっていてもよく、(場合によっては置換されている)C1〜C5アルキル部分とHの中から選択され、nは約2〜約20の整数であり、Zは非反応性アニオンである)の合成方法であって、シクロデキストリンの混合を含む方法からなる。
【0176】
(C)n鎖のそれぞれのCは、飽和していることが好ましい。
【0177】
本発明のさらに別の特徴は、一般式:
【0178】
【化24】
【0179】
を有する化合物の合成方法であって、シクロデキストリンの混合を含む方法からなる。
【0180】
本発明のさらに別の特徴は、実質的に本明細書に記載した、一般式:
【0181】
【化25】
【0182】
の化合物の合成方法である。
【0183】
この明細書で言及するあらゆる文献、法令、資料、装置、論文などは、本発明のための文脈を提供することだけが目的である。これらの事項のうちのどれかまたはすべてが、本出願の各請求項の優先日よりも前に存在していたために従来技術の基礎の一部をなしているとか、本発明に関連する分野の一般的な共通知識になっていることを認るものではない。
【0184】
この明細書全体を通じ、“含む(comprise)”という用語、またはそのバリエーションである”含む(comprises)”または“含むこと”には、説明した単数または複数の要素、整数、ステップが含まれるが、他の任意の単数または複数の要素、整数、ステップが除外されるわけではない。
【0185】
この明細書全体を通じ、“キノン”という用語には、単独で用いられる場合であれ、ある化合物の酸化形態を表わすため他の用語の頭に付く場合であれ、その化合物の還元された形態、すなわちキノールの形態が含まれるものとする。同様に、例えば構造を説明することでキノンに言及する場合には、キノールの形態も含まれる。
【0186】
この明細書全体を通じ、“キノール”という用語には、単独で用いられる場合であれ、ある化合物の還元形態を表わすため他の用語の頭に付く場合であれ、その化合物の酸化された形態、すなわちキノンの形態が含まれるものとする。同様に、例えば構造を説明することでキノールに言及する場合には、キノンの形態も含まれる。
【0187】
この明細書では、“および/または”という用語には、“および”および“または”の両方が含まれる。
【0188】
この明細書では、“分配係数”および“分配係数(オクタノール:水)”という用語は、25℃〜37℃で測定したオクタン-1-オール/リン酸緩衝化生理食塩水の分配係数を意味する(Kelso, G.F.、Porterous, C.M.、Coutler, C.V.、Hughes, G.、Porterous, W.K.、Ledgerwood, E.C.、Smith, R.A.J.、Murphy, M.P.、2001年、J. Biol. Chem.、第276巻、4588ページ;Smith, R.A.J.、Porterous, C.M.、Coutler, C.V.、Murphy, M.P.、1999年、Eu. J. Biochem.、第263巻、709ページ;Smith, R.A.J.、Porterous, C.M.、Gane, A.M.、Murphy, M.P.、2003年、Proc. Nat. Acad. Sci.、第100巻、5407ページを参照のこと)か、Jauslin, M.L.、Wirth, T.、Meier, T.、Schoumacher, F.、2002年、Hum. Mol. Genet.、第11巻、3055ページに記載されているように、アドバンスト・ケミストリー・ディヴェロップメント(ACD)ソフトウエア・ソラリスv4.67を用いて計算したオクタノール/水の分配係数を意味する。
【0189】
この明細書では、“医薬調製物にとって許容される”という表現は、医薬の投与に関して許容されるだけでなく、製剤(例えば許容される安定性、商品寿命、吸湿性、調製など)に関しても許容されることを意味する。
【0190】
この明細書では、“非反応性アニオン”は、抗酸化部分、親油性カチオン、リンク部分に対して反応性を示さないアニオンである。例えば化合物中のそのような1つの部分が求核攻撃の標的を含む場合、アニオンは非求核性である。
【0191】
本発明を大まかに上記のように規定したが、本発明がそれだけに限定されることはなく、本発明はいろいろな実施態様からも構成される。その実施態様について、以下に説明する。
【0192】
本発明は、特に添付の図面を参照することによってさらによく理解できよう。
【0193】
発明の詳細な説明
上記のように、本発明の主題は、酸化ストレスを減らすための治療および/または予防を主な目的として、化合物をミトコンドリアに向かわせることである。
【0194】
ミトコンドリアは、内膜を横断する実質的な膜電位が180mVに達する(内側が負電位)。この電位のために膜が透過性になり、親油性カチオンがミトコンドリアのマトリックス内に数百倍も蓄積する。
【0195】
出願人は、親油性カチオン(例えば親油性トリフェニルホスホニウム・カチオン)を抗酸化部分と結合させることにより、得られた両親媒性化合物を完全な細胞内のミトコンドリアのマトリックスに送達できることを見い出した。すると抗酸化剤は、ランダムに分散されるのではなく、細胞内でフリーラジカルや反応性酸素種を産生する主要な部位を標的とする。
【0196】
出願人は、さらに、抗酸化化合物の性質(例えば抗酸化部分の性質、リンク部分の物理的・化学的特徴(例えばリンク部分の長さ、親油性))および/または親油性カチオンの性質が、生体内における抗酸化化合物の効果に寄与するとともに、その化合物の抗酸化機能に寄与することも明らかにした。本発明の抗酸化化合物にとって、生体内での効果は、適度な生物学的利用能、適度な安定性、適度な薬物動態、適度な抗酸化活性、および/または適度なミトコンドリア標的化および/またはミトコンドリアへの適度な蓄積などである。
【0197】
原則として、完全な細胞のミトコンドリアの膜に輸送でき、および/またはミトコンドリアの膜を通過でき、ミトコンドリアの位置またはその内部に蓄積させることのできるあらゆる親油性カチオンとあらゆる抗酸化剤を、本発明の化合物を形成するのに使用できる。
【0198】
しかし親油性カチオンは、この明細書に例示したトリフェニルホスホニウム・カチオンであることが好ましい。本発明の抗酸化化合物と共有結合する可能性のある他の親油性カチオンとしては、トリベンジルアンモニウム・カチオンやホスホニウム・カチオンなどがある。本発明の抗酸化化合物の具体例の中には、親油性カチオンが、1〜約30個の炭素原子を有する飽和した直線状の炭素鎖によって抗酸化部分と結合するものがある。炭素原子の数は、例えば、2〜約20個、約2〜約15個、約3〜約10個、約5〜約10個である。特に好ましい実施態様では、直線状の炭素鎖は炭素原子を10個含む。
【0199】
炭素鎖はアルキレン基(例えばC1〜C20またはC1〜C15)であることが好ましいが、場合によっては1つ以上の二重結合または三重結合を含む炭素鎖も、本発明の範囲に含まれる。1つ以上の置換基(例えばヒドロキシル基、カルボン酸基、アミド基)および/または1つ以上の側鎖または分岐鎖(置換された/置換されていないアルキル基、アルケニル基、アルキニル基の中から選択したもの)を含む炭素鎖も、本発明の範囲に含まれる。炭素原子を約30個以上含むが、長さが、炭素原子が1〜約30個の直線状飽和炭素鎖と等しい炭素鎖も、本発明の範囲に含まれる。
【0200】
当業者であれば、直線状アルキレン以外の部分を用いて抗酸化部分を親油性カチオン(例えば置換されたアルキル基、分岐したアルキル基、ペプチド結合など)と結合させうることがわかるであろう。
【0201】
いくつかの実施態様では、炭素原子が1〜10個の直鎖アルキレン基(例えばエチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、デシレン基)によって親油性カチオンを抗酸化部分と結合させる。
【0202】
本発明で有用な抗酸化部分としては、初めての抗酸化活性であれ、何回目かの抗酸化活性であれ、その両方であれ、抗酸化活性を持つためには還元剤と相互作用する必要のあるものが挙げられる。例えば活性な抗酸化部分としてキノール部分を含む本発明の抗酸化化合物は、キノンの形態で投与することができる。キノンは、抗酸化剤として機能するためには、つまり抗酸化活性を持つためには、還元剤(例えばミトコンドリアの還元剤である複合体II)との相互作用によってキノールの形態に還元し、初めての抗酸化活性を持つようにする必要がある。その後、酸化されたキノンの形態が還元剤と相互作用すると、抗酸化活性をリサイクルすることができる。
【0203】
本発明で有用な抗酸化部分の他の具体例としては、すでに還元された形態で存在していて、初めての抗酸化活性を持たせるのに還元剤と相互作用させる必要がないものが挙げられる。それにもかかわらず、その後そのような抗酸化部分の酸化形態がミトコンドリアの還元剤と相互作用すると、抗酸化活性をリサイクルすることができる。例えば抗酸化部分であるビタミンEは還元された形態で投与することができ、したがって初めての抗酸化活性を持たせるのに還元剤と相互作用させる必要はない。しかしその後、還元剤、例えば内在性キノン・プールと相互作用することで、抗酸化活性をリサイクルすることができる。
【0204】
本発明で有用な抗酸化部分のさらに別の具体例としては、ミトコンドリアの還元剤との相互作用によってリサイクルされないものが挙げられる。
【0205】
本発明で有用な抗酸化部分の具体例としては、ビタミンE、ビタミンE誘導体、鎖破断抗酸化剤、例えばブチル化ヒドロキシアニソール、ブチル化ヒドロキシトルエン、キノール、一般的なラジカル捕獲剤、例えば誘導体化したフラーレンなどがある。さらに、フリーラジカルと反応して安定なフリーラジカルを発生させるスピン・トラップも用いることができる。スピン・トラップとしては、5,5-ジメチルピロリン-N-オキシド、tert-ブチルニトロソベンゼン、tert-ニトロソベンゼン、α-フェニル-tert-ブチルニトロンの誘導体や、関連した化合物などがある。
【0206】
好ましい抗酸化化合物、例えば、この明細書に記載した一般式(I)と(II)の抗酸化化合物は、例えば以下の反応によって容易に得ることができる。
【0207】
【化26】
【0208】
一般的な合成法は、アルゴン雰囲気下で、適切な離脱基を含む前駆体(アルキルスルホニル前駆体、ブロモ前駆体、ヨード前駆体が好ましい)を、1当量よりも多いトリフェニルホスフィンとともに数日間にわたって加熱することである。次に、ホスホニウム化合物をその塩として分離する。そのためには、生成物をジエチルエーテルとともに、灰白色の固形物が残留するまで繰り返し研和する。次にこの固形物をクロロホルムまたはジクロロメタンに溶かし、ジエチルエーテルを用いて沈澱させて過剰なトリフェニルホスフィンを除去する。固形物がもはやクロロホルムに溶けなくなるまで、この操作を繰り返す。その時点で生成物を適切な溶媒、例えばクロロホルム、アセトン、酢酸エチル、高級アルコールから数回にわたって再結晶させる。
【0209】
ミトコンドリアを標的とする一般式(III)の好ましい抗酸化化合物(この明細書では、ミトキノン-C10メシラートまたはミトキノン-C10メタンスルホン酸塩とも呼ぶ)の安定な形態を調製するのに利用できる好ましい合成法を、この明細書の実施例1に示してある。
【0210】
このようにして調製した抗酸化化合物のアニオンは、従来技術で知られているイオン交換法や他の方法を利用し、薬学的または薬理学的に許容される別のアニオンと交換することが、それが望ましい場合や必要な場合には、容易にできる。
【0211】
出願人は、アニオンが抗酸化部分、リンク部分または親油性カチオン部分との反応性を示さない場合に、抗酸化化合物の塩の形態の安定性が増大することを明らかにした。例えば本発明の好ましい抗酸化化合物の場合には、アニオンは求核性ではない。アニオンは、薬学的に許容されるアニオンであることも望ましい。医薬製剤にとって、その製剤を含む他のあらゆる薬剤に対する反応性をアニオンが示さないことも好ましい。
【0212】
非求核性アニオンの具体例としては、ヘキサフルオロアンチモン酸塩、ヘキサフルオロヒ酸塩、ヘキサフルオロリン酸塩、テトラフェニルホウ酸塩、テトラ(ペルフルオロフェニル)ホウ酸塩、他のテトラフルオロホウ酸塩、トリフルオロメタンスルホン酸塩、アリールスルホン酸塩とアルキルスルホン酸塩、例えばメタンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、リン酸塩などがある。
【0213】
薬理学的に許容可能なアニオンの具体例としては、ハロゲンイオン、例えばフッ素イオン、塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオン;無機酸塩、例えば硝酸塩、過塩素酸、硫酸塩、リン酸塩、炭酸塩のアニオン;低級アルキルスルホン酸塩、例えばメタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩の薬学的に許容されるアニオン;アリールスルホン酸塩、例えばベンゼンスルホン酸塩、2-ナフタレンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩の薬学的に許容されるアニオン;有機酸塩、例えばトリクロロ酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、ヒドロキシ酢酸塩、安息香酸塩、マンデル酸塩、ブチル酸塩、プロピオン酸塩、ギ酸塩、フマル酸塩、コハク酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、シュウ酸塩、マレイン酸塩、酢酸塩、リンゴ酸塩、乳酸塩、アスコルビン酸塩の薬学的に許容されるアニオン;酸性アミノ酸塩、例えばグルタミン酸塩、アスパラギン酸塩の薬学的に許容されるアニオンなどがある。
【0214】
本発明による好ましい抗酸化化合物の場合、ハロゲンアニオン前駆体をアリールスルホン酸塩のアニオンまたはアルキルスルホン酸塩のアニオンで置き換える。塩の具体例としては、ベンゼンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、2-ナフタレンスルホン酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、プロパンスルホン酸塩などがあるが、これですべてではない。特に好ましいアニオンは、メタンスルホン酸塩のアニオンである。すでに説明したように、アニオンがメタンスルホン酸塩のアニオンである本発明の抗酸化化合物の一例は、特に好ましい一般式(III)の抗酸化化合物であり、それをこの明細書ではミトキノン-C10メタンスルホン酸塩またはミトキノン-C10メシラートと呼ぶ。
【0215】
同じ一般的な手続きを利用し、ミトコンドリアを標的としていて、トリフェニルホスホニウム部分(または他の親油性カチオン部分)に結合する抗酸化部分Rが異なっている広範な化合物を作ることができる。そのような化合物として、ビタミンE官能基とトリフェニルホスホニウム(または他の親油性カチオン)部分を結合している鎖の長さが異なる一連のビタミンE誘導体がある。Rとして使用できる他の抗酸化剤には、鎖破断抗酸化剤、例えばブチル化ヒドロキシアニソール、ブチル化ヒドロキシトルエン、キノール、一般的なラジカル捕獲剤、例えば誘導体化したフラーレンなどがある。さらに、フリーラジカルと反応して安定なフリーラジカルを発生させるスピン・トラップも合成することができる。スピン・トラップとしては、5,5-ジメチルピロリン-N-オキシド、tert-ブチルニトロソベンゼン、tert-ニトロソベンゼン、α-フェニル-tert-ブチルニトロンの誘導体や、関連した化合物などがある。
【0216】
本発明の抗酸化化合物にとって、どの薬物とも同じように、試験管内での活性は、生体内の機能または効果を決定する唯一の因子では決してないことがわかるであろう。本発明の抗酸化化合物の抗酸化活性は、例えば単離したミトコンドリアおよび/または単離した細胞を用い、この明細書に記載したような方法で調べることができる。ある抗酸化化合物は、ミトコンドリアを標的とした本発明の抗酸化化合物として有用であるためには、そのようなアッセイにおいて適度に大きな抗酸化活性を示す必要があるのは事実だが、生体内で効果をもたらすためには、ミトコンドリアを標的としたその抗酸化化合物が他の望ましい物理化学的性質、例えば適度な生物学的利用能、安定性、抗酸化機能も示す必要がある。
【0217】
優れた抗酸化活性を示すが生体内の標的とするコンパートメントに対する生物学的利用能は小さい抗酸化化合物の具体例として、補酵素Q(CoQ)とイデベノンがある。ヒト患者でわずかでも臨床効果を得るためには、どちらの化合物も非常に大量(例えば0.5〜1.2g)に投与せねばならない。
【0218】
ミトコンドリアを標的とした本発明の具体的な抗酸化化合物は、優れた抗酸化活性と優れた生物学的利用能を示すため、少ない投与量で生体内において効果を示す。ミトコンドリアを標的とした本発明の好ましい両親媒性抗酸化化合物であるミトキノン-C10とそのシクロデキストリン錯体に関する生物学的利用能の測定について、この明細書の実施例11に示してある。われわれは、本発明の抗酸化化合物の抗酸化活性がミトコンドリアを標的とするのに有効である一方で、本発明の抗酸化化合物を結晶形態または固体形態として利用できること、あるいは固体形態の製剤にできることで、安定性の増大、生物学的利用能の増大、抗酸化機能の向上といった別の利点も1つ以上あると考えている。ここでもわれわれはいかなる理論にも囚われることを望んでいないため、本発明による抗酸化化合物の物理化学的特徴により、本発明の抗酸化化合物の好ましい特徴が与えられると考えている。その結果、従来の抗酸化化合物だとその物理化学的性質のために本発明の抗酸化化合物ほど適してはいない可能性があるような用途に、本発明の抗酸化化合物を利用した組成物、製剤、方法を適用することができる。
【0219】
本発明のいくつかの実施態様では、抗酸化化合物は、上に定義した一般式(II)のキノール誘導体である。例えば本発明による1つのキノール誘導体は、上に定義したミトキノン-C10という化合物(一般式(III)の化合物は、それが特別な塩の形態になったものである)である。本発明による化合物のさらに別の一例は、一般式(I)の化合物において(C)nが(CH2)5であり、キノール部分がミトキノン-C10と同じになっているものである。それをこの明細書ではミトキノン-C5と呼ぶ(図3Cを参照のこと)。本発明による化合物のさらに別の一例は、一般式(I)の化合物において(C)nが(CH2)3であり、キノール部分がミトキノン-C10と同じになっているものである。それをこの明細書ではミトキノン-C3と呼ぶ(図3Bを参照のこと)。本発明による化合物のさらに別の一例は、一般式(I)の化合物において(C)nが(CH2)15であり、キノール部分がミトキノン-C10と同じになっているものである。それをこの明細書ではミトキノン-C15と呼ぶ(図3Eを参照のこと)。
【0220】
一旦製造されると、場合により薬学的に許容される担体、賦形剤、希釈剤、錯化剤または添加剤を含む任意の薬学的に好適な形態である本発明の抗酸化化合物は、治療および/または予防を必要とする患者に投与される。この化合物は、投与されると、その抗酸化活性が患者の細胞内のミトコンドリアを標的とすることになる。
【0221】
本発明の抗酸化化合物は、経口経路および/または非経口経路で患者に投与することができる。
【0222】
この抗酸化化合物は、患者に投与するため、安定で安全な医薬組成物にする必要がある。この組成物は、ある量の抗酸化化合物成分を希釈剤に溶かすか懸濁させるという従来法に従って調製することができる。量は、希釈液1mlにつき抗酸化化合物を0.1mg〜1000mgである。酢酸塩緩衝液、リン酸塩緩衝液、クエン酸塩緩衝液、グルタミン酸塩緩衝液のいずれかを添加し、最終組成物のpHを5.0〜9.5にすることができる。場合によっては炭水化物または多価アルコールといった等張剤や、保存剤も添加することができる。保存剤は、m-クレゾール、ベンジルアルコール、メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン、ブチルパラベン、フェノールからなる群より選ばれる。注射用には、十分な量の水を用いて望む濃度の溶液にする。必要であれば、他の等張剤、例えば塩化ナトリウムや他の賦形剤を存在させてもよい。しかしその賦形剤は、その抗酸化化合物全体の等張性を維持できねばならない。
【0223】
水素イオン濃度またはpHに関して使用する場合の緩衝液、緩衝溶液、緩衝化溶液という用語は、酸またはアルカリを添加したときや、溶媒で希釈したとき、系、特に水溶液がpHの変化に抵抗する能力を意味する。酸または塩基を添加したときにpHの変化が小さい緩衝化溶液の特徴は、弱酸と弱酸の塩が存在していること、または弱塩基と弱塩基の塩が存在していることである。前者の一例は、酢酸と酢酸ナトリウムである。pHの変化は、添加したヒドロキシルイオンの量が、緩衝系がそのイオンを中和する能力を超えない限りはわずかである。
【0224】
本発明の非経口製剤の安定性は、その製剤のpHを約5.0〜9.5の範囲に維持することによって大きくなる。これ以外のpHの範囲としては、例えば、5.5〜9.0、または6.0〜8.5、または6.5〜8.0、または7.0〜7.5などがある。
【0225】
本発明を実施するのに用いられる緩衝液は、例えば、酢酸塩緩衝液、リン酸塩緩衝液またはグルタミン酸塩緩衝液から選ばれるが、最も好ましい緩衝液はリン酸塩緩衝液である。
【0226】
化合物の投与を容易にするため、担体または賦形剤も使用できる。担体および賦形剤の具体例としては、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、さまざまな糖類、例えばラクトース、グルコース、スクロース、デンプン、セルロース誘導体、ゼラチン、ポリエチレングリコール、生理学的な適合性のある溶媒などが挙げられる。
【0227】
本発明の製剤には安定剤を含めることができるが、重要なことにそれは必ずしも必要ではない。しかし、含める場合に、本発明を実施する上で有用な安定剤は、炭水化物または多価アルコールである。多価アルコールとしては、ソルビトール、マンニトール、グリセリン、ポリエチレングリコール(PEG)などの化合物が挙げられる。炭水化物としては、例えば、マンノース、リボース、トレハロース、マルトース、イノシトール、ラクトース、ガラクトース、アラビノース、ラクトースなどがある。
【0228】
適切な安定剤としては、例えば、多価アルコールであるソルビトール、マンニトール、イノシトール、グリセリン、キシリトール、ポリプロピレン/エチレングリコール・コポリマーや、分子量が200、400、1450、3350、4000、6000、8000のさまざまなポリエチレングリコール(PEG)がある。
【0229】
米国薬局方(USP)には、複数回用量の容器に収容した製剤に、抗菌剤を含む静菌濃縮物または静真菌濃縮物を添加すべきことが記載されている。皮下注射用の針と注射器を用いて内容物の一部を取り出したり、他の侵襲的送達手段(例えばペン注射器)を用いたりしているときに製剤に不注意から導入された微生物の増殖を防ぐため、抗菌剤は、使用時に十分な濃度で存在していなくてはならない。抗菌剤は、製剤の他の成分と適合していなくてはならず、製剤全体における抗菌剤の活性は、1つの製剤で有効なある特定の抗菌剤が別の製剤では有効でないということがあってはならない。ある特定の抗菌剤が1つの製剤では有効だが別の製剤では有効でないということは稀でない。
【0230】
保存剤は、薬学的に一般的な意味で微生物の増殖を防止または阻止する物質であり、医薬製剤に添加してその製剤が微生物によってダメになるのを防ぐことができる。保存剤の量は多くはないが、抗酸化化合物の全体的な安定性に影響を与える可能性がある。したがって保存剤の適切な選択は難しいことがある。
【0231】
本発明を実施する際に用いる保存剤の範囲としては0.005〜1.0%(w/v)が可能であるが、単独で使用する場合または他の保存剤と組み合わせて使用する場合の各保存剤の好ましい範囲は以下の通りである;ベンジルアルコール(0.1〜1.0%)、m-クレゾール(0.1〜0.6%)、フェノール(0.〜0.8%)、メチルパラベンとの組み合わせ(0.05〜0.25%)、エチルパラベン、プロピルパラベン、ブチルパラベンいずれかとの組み合わせ(0.005〜0.03%)。パラベンは、パラ-ヒドロキシ安息香酸の低級アルキルエステルである。
【0232】
各保存剤についての詳細な説明は、『レミントンの薬理科学』と『医薬剤形:非経口医薬品』、第1巻、1992年、Avis他に記載されている。このような目的には、結晶状のトリエンチン二塩酸塩を非経口投与するか、毒性がなくて薬学的に許容される一般的な担体、アジュバント、ビヒクルを含む投薬単位の製剤を吸入スプレーで投与するとよい。
【0233】
選択した等張剤により、塩化ナトリウムまたは他の塩を添加して医薬製剤の等張性を調節することも望ましかろう。しかしこの操作は必須ではなく、しかも選択した具体的な製剤が何であるかによって異なる。非経口製剤は、等張であるか、実質的に等張でなくてはならない。さもないと、かなりの炎症や痛みが投与部位に発生することがある。
【0234】
所望の等張性は、塩化ナトリウムまたは他の薬学的に許容される薬剤、例えばデキストロース、ホウ酸、酒石酸ナトリウム、プロピレングリコール、ポリオール、例えばマンニトール、ソルビトール、他の有機または無機の溶質を用いて実現することができる。一般に、組成物は、対象の血液と等張である。
【0235】
必要であれば、非経口製剤は、増粘剤、例えばメチルセルロースを用いて粘度を大きくすることができる。製剤は、油中水型または水中油型の乳化形態にすることができる。薬学的に許容される多彩な乳化剤のうちの任意のもの、例えばアラビアゴムの粉末、非イオン性界面活性剤、イオン性界面活性剤を使用することができる。
【0236】
適切な分散剤または懸濁剤を医薬製剤に添加することも望ましい可能性がある。分散剤または懸濁剤としては、例えば、合成ゴムまたは天然ゴム、すなわちトラガカントゴム、アラビアゴム、アルギン酸塩、デキストラン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ゼラチンなどの水性懸濁液などがある。
【0237】
非経口製剤にとって最も重要なビヒクルは水である。非経口投与に適した品質の水は、蒸留または逆浸透によって調製せねばならない。このような方法によってのみ、液体状、気体状、固体状のさまざまな汚染物質を水から十分に分離することができる。注射用の水が、本発明の医薬製剤で使用するのに最も好ましい水性ビヒクルである。この水を窒素ガスでパージすることにより、酸素と酸素のフリーラジカルをすべて除去することができる。
【0238】
本発明の非経口医薬製剤の中には他の成分が存在していてもよい。そのような添加成分としては、湿潤剤、油、例えばごま油、ピーナツ油、オリーブ油などの植物油、鎮痛剤、乳化剤、抗酸化剤、充填剤、等張調整剤、金属イオン、油性ビヒクル、タンパク質、例えばヒト血清アルブミン、ゼラチン、タンパク質、両性イオン、例えばベタイン、タウリン、アルギニン、グリシン、リシン、ヒスチジンなどのアミノ酸などがある。このような添加成分は、もちろん、本発明の医薬製剤の全体的な安定性に悪い影響を与えてはならない。
【0239】
容器も注射用製剤の一部であり、要素の1つと考えることができる。なぜなら、特に液体が水性である場合には、まったく溶けない容器や、収容されている液体に何らかの影響を与えない容器は存在していないからである。したがって特定の注射液のための容器の選択は、容器の組成と溶液の組成のほか、どのような治療に用いるかを考慮してなされなくてはならない。
【0240】
皮下注射用の注射器の針を多数回用量用のバイアルに差し込んでその針が引き抜かれると直ちに再び封がされるようにするため、各バイアルにはゴム製の栓で封をし、アルミニウムのバンドでその栓を所定の位置に保持する。
【0241】
ガラス製バイアルのための栓(例えばウエスト4416/50、4416/50(表面がテフロン(登録商標))、4406/40、アボット5139)、または同等な他の任意の栓を、投与用バイアルの封止に用いることができる。このような栓は、患者が使用するパターン、例えば栓が少なくとも100回の注射に耐えられることで試験したときに栓完全性試験に合格する。
【0242】
医薬製剤の上記各成分は従来から知られているものであり、『医薬剤形:非経口医薬品』(第1巻、第2版、Avis他編、マルセル・デッカー社、ニューヨーク、ニューヨーク州、1992年)に記載されている。なおその全体が、参考としてこの明細書に組み込まれる。
【0243】
上記製剤の製造法には、化合物形成ステップ、殺菌濾過ステップ、充填ステップが含まれる。化合物形成ステップには、例えば、諸成分を特定の順番で溶かす操作が含まれる可能性がある。例えば、保存剤を最初に溶かし、次いで安定剤/等張剤、緩衝液を溶かした後、抗酸化化合物を溶かしたり、非経口製剤を形成する全成分を同時に溶かしたりする。投与するための非経口製剤を調製する方法の一例は、抗酸化化合物、例えばミトキノンC10メシラート-β-シクロデキストリン(1:2)を水に溶かし、得られた混合物をリン酸緩衝化生理食塩水で希釈するというものである。
【0244】
あるいは本発明の非経口製剤は、一般的に受け入れられている手続きに従って諸成分を混合することによって調製される。例えば選択した諸成分をブレンダーまたは他の標準的な装置の中で混合して濃縮混合物にし、水、増粘剤、緩衝液、5%ヒト血清アルブミン、等張性を制御するために追加する溶質を添加することによって最終濃度と最終粘度に調節する。
【0245】
あるいは抗酸化化合物を乾燥した固体および/または粉末として包装し、溶媒を用いて再構成することで本発明の非経口製剤が得られるようにすることもできる。この製剤は、再構成したときに使用する。
【0246】
さらに、本発明の非経口製剤を開発するとき、製造法に適切な任意の殺菌法が含まれていてもよい。典型的な殺菌法としては、濾過、蒸気処理(湿潤下での加熱)、乾燥加熱、ガス処理(エチレンオキシド、ホルムアルデヒド、二酸化塩素、プロピレンオキシド、β-プロピオラクトン、オゾン、クロロピクリン、過酢酸、臭化メチルなど)、放射線照射、殺菌処理などがある。
【0247】
非経口投与の適切な経路としては、静脈内、筋肉内、皮下、皮内、関節内、硬膜下腔内、腹腔内などがある。好ましくは静脈内投与経路である。粘膜に送達することも許容できる。投与量と投与計画は、対象の体重と健康状態によって異なることになる。
【0248】
薬学的に許容される担体、賦形剤、希釈剤、錯化剤、添加剤は、例えば抗酸化化合物の安定性を大きくするもの、および/または医薬製剤の合成または製造を容易にするもの、および/または抗酸化化合物の生物学的利用能を大きくするものを選択するとよい。
【0249】
例えば担体分子、例えばシクロデキストリンやその誘導体などは、薬物分子の物理化学的属性を変化させることのできる錯化剤としての能力を持つことがよく知られている。例えばシクロデキストリンは、錯化する活性剤を(熱と酸化の両方に対して)安定化し、その活性剤の揮発性を小さくし、その活性剤の溶解度を変化させることができる。シクロデキストリンは、複数のグルコピラノース環単位がドーナツ構造を形成している環式分子である。シクロデキストリン分子は内部が疎水性で外部が親水性になっているため、水に溶ける。溶解度は、シクロデキストリンの外側にあるヒドロキシル基を置換することで変更できる。一般に内側が疎水性になっていることで、相対的に疎水性であるいろいろなゲストを中空部に収容できるが、置換を通じて内側の疎水性を変えることも可能である。ある1つの分子の内部に別の分子が収容されることは錯化として知られており、得られた生成物は包接錯体と呼ばれる。シクロデキストリン誘導体の具体例としては、スルホブチルシクロデキストリン、マルトシルシクロデキストリン、ヒドロキシプロピルシクロデキストリン、ならびにこれらの塩がある。
【0250】
ミトコンドリアを標的とした抗酸化化合物の包接錯体(ここではミトキノン-C10とβ-シクロデキストリンの錯体)を含む薬学的に許容される組成物を形成する方法を、この明細書の実施例1と7に示してある。ミトコンドリアを標的とした好ましい抗酸化化合物の包接錯体(ミトキノン-C10メシラートとβ-シクロデキストリンの錯体)を含む薬学的に許容される組成物を形成する方法を、この明細書の実施例9と10に示してある。
【0251】
抗酸化化合物-シクロデキストリン錯体の物理化学的特性、例えば医薬特性は、例えばシクロデキストリンに対する抗酸化化合物のモル比を変化させることによって、またはシクロデキストリンそのものを変化させることによって変えることができる。例えば一般式(I)の好ましい抗酸化化合物では、シクロデキストリンに対する抗酸化化合物のモル比(抗酸化化合物:シクロデキストリン)としては、約10:1〜約1:10、約5:1〜約1:5、約4:1〜約1:4、約2:1〜約1:2、約1:1が可能である。さらに別の実施例では、抗酸化化合物であるミトキノン-C10とシクロデキストリンのモル比は1:2であり、シクロデキストリンはβ-シクロデキストリンである。
【0252】
あるいは抗酸化化合物を薬学的に適切な形態にし、抗酸化化合物の安定性と生物学的利用能を大きくすることができる。例えば錠剤に腸溶コーティングして胃の中で抗酸化化合物が放出されないようにすることで、好ましくない副作用を減らしたり、抗酸化化合物の安定性を維持したりすることができる。コーティングされていない場合には、胃という環境に曝露されることによって分解してしまう。この目的で使用するたいていのポリマーは、水性媒体への溶解度がpHによって異なることを利用し、胃で通常遭遇するよりも大きなpH条件を必要とするポリ酸である。
【0253】
好ましい1つのタイプの経口徐放構造は、固体剤形の腸溶コーティングである。腸溶コーティングにより、化合物が胃液に曝されたときに所定の期間にわたってその化合物を剤形の内部に物理的に組み込まれたままにすることが容易になる。しかしこの腸溶コーティングは、腸液の中では分解して化合物がすぐに吸収されるように設計されている。吸収の遅延の程度は胃腸管を移動する速度に依存するため、胃を空にする速度が重要な因子である。投与法によっては、複数単位型の剤形、例えば顆粒が、単一単位型よりも優れている可能性がある。したがって一実施態様では、本発明の抗酸化化合物は、腸溶コーティングした複数単位剤形の中に含めることができる。より好ましい一実施態様では、抗酸化化合物剤形は、不活性なコア材料の表面に腸溶コーティングした抗酸化化合物が固定された粒子を作ることによって得られる。このような顆粒にすると、生物学的利用能の優れた抗酸化化合物を持続的に吸収させることができる。
【0254】
典型的な腸溶コーティング剤としては、フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メタクリル酸-メタクリル酸エステル・コポリマー、ポリ酢酸-フタル酸ビニル、酢酸フタル酸セルロースなどがあるが、これだけではない。
【0255】
本発明の好ましい抗酸化化合物、および/またはその製剤、および/またはその錯体は、優れた医薬特性を示す。例えば製剤にするのが容易であり、化学的、物理的に安定であり、水に容易に溶け、吸湿性が低く、商品寿命が長い。
【0256】
以下の実験項において、本発明をこれからより詳しく説明する。
【実施例】
【0257】
実施例1. ミトキノン-C10の合成
以下に、ミトコンドリアを標的とした抗酸化化合物の具体例であるミトキノン-C10、ミトキノン-C10メシラート、そのシクロデキストリン錯体を好ましい安定な塩の形態にしたものの好ましい合成法を説明する。
【0258】
ステージ1
【0259】
【化27】
【0260】
ステップ:
1.イデベノン(A1、0.25kg、0.74モル)を反応グレードのDCM 2.5リットルに溶かし、得られた混合物を不活性雰囲気下で10±3℃に冷却する。
2.トリエチルアミン(0.152kg、1.5モル)を周囲温度にて一度に添加し、得られた混合物を再平衡させて10±3℃にする。
3.次に、塩化メタンスルホニル(0.094kg、0.82モル)を0.5リットルのDCMに溶かした溶液を、内部の温度が約10〜15℃に維持されるような速度で少しずつ添加する(このようにすると、添加が終了するまでに75分かかった)。
4.この反応混合物をさらに15〜30分間にわたって撹拌する。
5.IPCの完了をTLCで調べる(Rf=0.65、5%エタノール/ジクロロメタン)。
6.次に、この混合物を水(0.85リットル)と飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(0.85リットル)で洗浄する。
7.減圧下で40〜45℃にて有機層を蒸発させると赤い液体になる。高真空下で周囲温度にてさらに2〜4時間にわたって乾燥させて得られた粗生成物A2をそのまま次のステップで用いる。溶媒が液体に捕獲されたため、収量は不明である。
【0261】
ステージ2
【0262】
【化28】
【0263】
ステップ:
1.イデベノンメシラート(A2、最終ステップからの収率が100%であると仮定、0.31kg、0.74モル)を2リットルのメタノールに溶かした後、得られた混合物を不活性雰囲気下で0〜5℃に冷却する。
2.ホウ水素化ナトリウム(0.03kg、0.79モル)を、内部の温度が15℃を超えないような速度で数回に分けて添加する。反応が終了すると、色が赤から黄色に変化する(このようにすると、添加が終了するまでに20分かかった)。
3.この反応混合物をさらに10〜30分間にわたって撹拌する。
4.IPCの完了をTLCで調べる(A3、Rf=0.60、5%エタノール/ジクロロメタン、A2、Rf=0.65)。
5.次に2Mの塩酸溶液を2リットル用いてこの混合物の反応を停止させ、1.2リットルのジクロロメタンで3回抽出する。
6.次に、1つにまとめた有機相を1.2リットルの水で1回洗浄し、無水硫酸マグネシウム(0.24kg)上で乾燥させる。
7.次に有機相を減圧下で40〜45℃にて蒸発させると、黄色/茶色のシロップになる。高真空下で周囲温度にてさらに2〜8時間にわたって乾燥させ、得られた粗生成物A3(0.304kg、収率98%)をそのまま次のステップで使用する。
【0264】
ステージ3
【0265】
【化29】
【0266】
ステップ:
1.適切なサイズの丸底フラスコの中で、トリフェニルホスフィンの塊(0.383kg、1.46モル)をイデベノンメシラート(A3、0.304kg、0.73モル)に添加する。
2.次にこのフラスコをロータリー・エバポレータに取り付け、内容物を真空下で加熱して80〜85℃という浴の温度にする。
3.この混合物は、この温度で均一な溶融物になるはずである。溶融物が形成されると、ガスの発生がもはや明らかではなくなるため、真空の代わりに不活性雰囲気にし、この混合物を80〜85℃に設定した浴の中で約3日間にわたってゆっくりと回転させる。
4.1Hと31PのNMRによってIPCの完了を調べる。ワークアップが起こるには、最低で95%の変換が必要である。
5.次にこの混合物を室温近くまで冷却し、0.8リットルのジクロロメタンに溶かす。
6.次に、わずかに温めながら3.2リットルの酢酸エチルを数回に分けて添加すると、望む生成物が過剰なトリフェニルホスフィンから沈澱する。
7.減圧下で蒸発させることによって少量の溶媒を除去し(DCMを除去する)、残った混合物を周囲温度に近い温度まで冷却し、デカントする。
8.次に、残ったシロップ状の残留物に対してさらに2回同じ洗浄手続きを実施した後、最終的に高真空下で乾燥させて一定の重量にすると、褐色の泡が0.441kg(収率89%)得られた(注:生成物はまだ溶媒を幾分か含んでいた。NMRを参照のこと)。このようにして得られたA4は、そのまま次にステップで使用する。
【0267】
ステージ4
【0268】
【化30】
【0269】
ステップ:
1.粗ミトキノールメシラート塩(0.44kg、0.65モルであることを仮定)を6リットルの無水DCMに溶かし、フラスコを酸素でパージする。
2.フラスコの内容物を酸素雰囲気下で30分間にわたって激しく撹拌することで、溶媒を酸素ガスが飽和した状態にする。
3.乾燥DCMに0.65MのNO2を溶かした溶液(2モル%のNO2)0.1リットルを一度に素早く添加し、得られた混合物を酸素雰囲気下で周囲温度にて4〜8時間にわたって激しく撹拌する。
4.次に、(1H NMRと、場合によっては31P NMRで)IPCの完了を調べる。
5.酸化が不十分である場合には、2モル%のNO2をDCM溶液としてさらに添加する。そうすると、反応の完了が促進されるはずである。上記のようにIPCを調べる。この場合には、反応が完了するのに8モル%のNO2がDCM溶液として必要であった。
6.次に、溶媒を減圧下で蒸発させて除去すると、赤いシロップ状の残留物が得られる。この残留物を、40〜45℃にて2リットルのジクロロメタンに溶かす。
7.次に、わずかに温めながら3.2リットルの酢酸エチルを数回に分けて添加すると、望む生成物が沈澱する。減圧下で蒸発させることによって少量の溶媒を除去し(DCMを除去する)、残った混合物を周囲温度に近い温度まで冷却し、デカントする。
8.次に、油状の残留物を高真空下で最終的に乾燥させて一定の重量にすると、赤いガラス(419g、収率94%)が得られる。このようにして得られたA5は、そのまま次にステップで使用する。
【0270】
ステージ5
【0271】
【化31】
【0272】
ステップ:
1.わずかに加熱して40〜43℃にした6リットルの水にミトキノールメシラート塩(A5、0.419kg)を溶かす。
2.β-シクロデキストリン1.24kgを別に、60℃に加熱した20リットルの水に溶かす。
3.これら2つの溶液をほぼ室温まで冷却して1つにまとめると、均質な混合物が形成される。この溶液は、5℃未満で保管しなくてはならない。
4.次に、このオレンジ色の溶液を-20℃で凍結させ、(少なくとも48時間)凍結乾燥させて一定重量の複数のバッチにする。
5.次に、得られた固体を軽く砕いて自由に流動する黄色/オレンジ色の均一な粉末にする(1.433kg)。
別の合成法として、上記の合成法のステージ4の酸化ステップ3で溶液に酸素の泡を吹き込む方法を実施した。これは、NO2を用いた酸化以外の酸化手段によって酸化反応を実質的に促進させて完了させうることを意味する。
【0273】
実施例2. ミトコンドリアを標的とした抗酸化化合物の合成
ミトキノン-C3、ミトキノン-C5、ミトキノン-C15の化学的合成法の概略を図2に示してあり、それについて以下に説明する。核磁気共鳴スペクトルは、バリアン社の300MHzの装置で取得した。1HのNMRのためのテトラメチルシランは、CDCl3中の内部標準であった。31PのNMRのための85%リン酸は、外部標準であった。化学シフト(δ)は、その標準物質に対するppmで表示する。基本的分析は、オタゴ大学のキャンベル微量分析ラボラトリーで行なった。エレクトロスプレー質量分析は、島津製作所のLCMS-QP800X液体クロマトグラフィ質量分析器を用いて行なった。貯蔵溶液は無水エタノール中に調製し、暗所で-20℃にて保管した。
【0274】
ミトキノン-C3(6)。ミトキノン-C3の合成経路を図2Aに示してある。2,3-ジメトキシ-5-メチル-1,4-ベンゾキノン(CoQ0)を還元してヒドロキノールにした(Carpino, L.A.、Triolo, S.A.、Berglund, R.A.、1989年、J. Org. Chem.、第54巻、3303〜3310ページ)後、メチル化することによって出発材料である2,3,4,5-テトラメトキシトルエン(1)を調製した(Lipshutz, B.H.、Kim, S.-k.、Mollard, P、Stevens, K.L.、1998年、Tetrahedron、第54巻、1241〜1253ページ)。乾燥ヘキサン(80ml)とN,N,N',N'-テトラメチルエチレンジアミン(8.6ml)に化合物1(6.35g、29.9ミリモル)を溶かした溶液を炎で乾燥させた撹拌棒とともに、炎で乾燥させたシュレンク管の中に窒素雰囲気下で入れた。n-ブチルリチウムのヘキサン溶液(1.6M、26.2ml)を室温にてゆっくりと添加し、得られた混合物を冷却し、0℃にて1時間にわたって撹拌した。-78℃に冷却した後、乾燥テトラヒドロフラン(THF;250ml)を添加し、この反応混合物の少量のアリコートを取り出し、D2Oで反応を停止させ、金属化が完全に起こったかどうかを1H NMRで調べた。次に、その黄色い懸濁液を、炎で乾燥させてCuCN(0.54g、6.03ミリモル)を入れた第2のシュレンク管の中に、窒素雰囲気下で-78℃にて移した。この混合物を温めて10分間にわたって0℃にした後、-78℃まで冷却し、臭化アリル(3.62ml)を添加し、得られた反応物を一晩にわたって(19時間)撹拌した後、放置して室温まで温めた。10%NH4Cl水溶液(75ml)を用いてこの反応物の反応を停止させ、エーテルで抽出した(2×200ml)。1つにまとめたエーテル抽出液を、H2O(2×150ml)と、10%NH4Cl水溶液(200ml)と、飽和NaCl水溶液(200ml)で洗浄した。有機溶媒をMgSO4上で乾燥させ、濾過し、溶媒を真空中での回転式蒸発によって除去すると、粗生成物が得られた(7.25g)。溶離液として20%エーテル/ヘキサンを用いたシリカゲル上のカラムクロマトグラフィにより、純粋な1,2,3,4-テトラメトキシ-5-メチル-6-(2-プロペニル)ベンゼン(2)が得られた(Yoshida, T.、Nishi, T.、Kanai, T.、Aizawa, Y.、Wada, K.、Fujita, T.、Horikoshi, H.、1993年、ヨーロッパ特許出願第549366A1号)(6.05g、83.5%)。1H NMRδ5.8-5.98 (1H, m, -CH-C)、4.88-5.03 (2H, m, -CH2)、3.78, 3.80, 3.90, 3.92 (12H, s, OMe)、3.38 (2H, d, J=7.0Hz, Ar-CH2)、2.14 (3H, s, Ar-Me) ppm。
【0275】
9-ボラビシクロ[3,3,1]ノナンをTHFに懸濁させた懸濁液(79ml、39.67ミリモル、0.5M)を撹拌している中に、化合物2(8.0g、33.05ミリモル)を乾燥THF(45ml)に溶かした溶液を、アルゴン雰囲気下で25℃にて一滴ずつ20分間かけて添加した。得られた溶液をアルゴン雰囲気下で室温にて一晩にわたって撹拌した後、65℃にてさらに2時間にわたって撹拌した。次にこの混合物を0℃まで冷却した後、3MのNaOH(53ml)を一滴ずつ添加し、次いで30%H2O2水溶液(53ml)を添加した。室温にて30分間にわたって撹拌した後、水相をNaClで飽和させ、THFで3回抽出した。1つにまとめた有機分画を飽和NaCl水溶液で洗浄し、乾燥させ(Na2SO4)、濾過し、蒸発させると、油性の残留物が得られた(11.5g)。それをシリカゲル(200g、エーテル/ヘキサン(1:9)を充填)上のカラムクロマトグラフィで精製した。エーテル/ヘキサン(1:4)を用いた溶離により、純粋な3-(2,3,4,5-テトラメトキシ-6-メチル-フェニル)-プロパン-1-オール(3)が、粘性のある無色の油として得られた(6.85g、80%)。1H NMRδ3.91, 3.90, 3.84, 3.79 (12H, s, OMe)、3.56 (2H, t, J=7.0Hz, -CH2-OH)、2.72 (2H, t, J=7.0Hz, Ar-CH2)、2.17 (3H, s, Ar-Me)、1.74 (2H, 5重項, J=7.0Hz, -CH2-) ppm。C14H22O5の計算値:C62.2%;H8.2%。実測値:C62.2%;H8.4%。
【0276】
化合物3(3.88g、15ミリモル)とトリエチルアミン(3.0g、30ミリモル、4.2ml)をCH2Cl2(50ml)に溶かした溶液を室温にて10分間にわたって撹拌した。塩化メタンスルホニル(1.8g、1.20ml、15.75ミリモル)を含むCH2Cl2(50ml)を一滴ずつ20分間かけて添加し、得られた反応混合物を室温にて1時間にわたって撹拌した。次にこの混合物をCH2Cl2(50ml)で希釈し、有機相をH2O(5×100ml)と、10%NaHCO3水溶液(100ml)で洗浄し、乾燥させ(MgSO4)、濾過し、溶媒を真空中での回転式蒸発によって除去すると、1-(3-メタンスルホニルオキシプロピル)-2-メチル-3,4,5,6-テトラメトキシベンゼン(4)が、液体として得られた(4.8g、95%)。1H NMRδ4.27 (2H, t, J=7.0Hz, -CH2-O-SO2-Me)、3.91, 3.89, 3.82, 3.78 (12H, s, OMe)、3.03 (3H, s, -O-SO2-Me)、2.70 (2H, t, J=7.0Hz, Ar-CH2-)、2.17 (3H, s, Ar-Me)、1.9 (2H, m, -CH2-) ppm。
【0277】
この粗メタンスルホン酸塩4(3.30g、9.8ミリモル)を次の反応でそのまま使用し、カイマックス管の中でトリフェニルホスフィン(4.08g、15.6ミリモル)とNaI(7.78g、51.9ミリモル)の混合物を粉砕したできたての粉末と混合し、アルゴン雰囲気下で密封した。次にこの混合物を、3時間にわたって磁気撹拌しながら70〜74℃に維持すると、その間に混合物が、融けた粘性のある液体からガラス状の固体に変化した。カイマックス管を室温まで冷却し、残留物をCH2Cl2(30ml)とともに撹拌した。次に、得られた懸濁液を濾過し、濾液を真空中で蒸発させた。残留物を最少量のCH2Cl2に溶かし、過剰なエーテル(250ml)と研和すると、白色の固形物が沈澱した。この固形物を濾過し、エーテルで洗浄し、真空中で乾燥させると、純粋な[3-(2,3,4,5-テトラメトキシ-6-メチル-フェニル)プロピル]トリフェニルホスホニウムヨウ化物(5)が得られた(5.69g、90%)。1H NMRδ7.82-7.65 (15H, m, Ar-H)、3.88, 3.86, 3.74, 3.73 (12H, s, OMe)、3.76-3.88 (2H, m, CH2-P+)、2.98 (2H, t, J=7.0Hz, CH2-Ar)、2.13 (3H, s, Ar-Me)、1.92-1.78 (2H, m, -CH2-) ppm。31P NMR (121.4MHz)δ25.32ppm。C32H36IO5Pの計算値:C59.8%;H5.7%;P4.8%。実測値:C59.8%;H5.8%;P4.5%。
【0278】
ヨウ化物の形態の化合物5(4.963g、7.8ミリモル)をCH2Cl2(80ml)に溶かした溶液を分液漏斗の中で10%NaNO3(50ml)とともに5分間にわたって揺すった。有機層を分離し、乾燥させ(Na2SO4)、濾過し、真空中で蒸発させると、化合物5の硝酸塩が得られた(4.5g、7.8ミリモル、100%)。それをCH3CNとH2Oの混合物(7:3、38ml)の中に溶かし、氷浴の中で0℃にて撹拌した。次にピリジン-2,6-ジカルボン酸(6.4g、39ミリモル)を添加した後、硝酸第二セリウムアンモニウム(21.0g、39ミリモル)をCH3CN/H2O(1:1、77ml)に溶かした溶液を、一滴ずつ5分間かけて添加した。この反応混合物を0℃にて20分間にわたって撹拌した後、室温にてさらに10分間にわたって撹拌した。次にこの反応混合物をH2O(200ml)の中に注ぎ、CH2Cl2(200ml)で抽出し、乾燥させ(Na2SO4)、濾過し、真空中で蒸発させると、粗[3-(4,5-ジメトキシ-2-メチル-3,6-ジオキソ-1,4-シクロヘキサジエン-1-イル)プロピル]トリフェニルホスホニウム(6)の硝酸塩が得られた。全生成物をCH2Cl2(100ml)に溶かし、20%KBr水溶液(50ml)とともに10分間にわたって揺すった。有機層を分離し、乾燥させ、真空中で蒸発させると、化合物6の臭化物が得られた(4.1g、93.6%)。1H NMRδ7.9-7.65 (15H, m, Ar-H)、4.15-4.05 (2H, m, CH2-P+)、3.96, 3.95 (6H, s, OMe)、2.93 (2H, t, J=7.0Hz, CH2-Ar)、2.15 (3H, s, Ar-Me)、1.85-1.70 (2H, m, -CH2-) ppm。31P NMRδ25.29ppm。
【0279】
臭化物6(3.65g、6.5ミリモル)をCH2Cl2(75ml)に溶かした溶液を分液漏斗の中で10%メタンスルホン酸ナトリウム水溶液(100ml)とともに5分間にわたって揺すった。CH2Cl2層を分離し、乾燥させ(Na2SO4)、濾過し、真空中で蒸発させると、[3-(4,5-ジメトキシ-2-メチル-3,6-ジオキソ-1,4-シクロヘキサジエン-1-イル)プロピル]トリフェニルホスホニウムメタンスルホン酸塩(6)が得られた(3.7g、98%)。1H NMRδ7.88-7.60 (15H, m, Ar-H)、3.93, 3.92 (6H, s, OMe)、3.90-3.78 (2H, m, CH2-P+)、2.85 (2H, t, J=7.0Hz, CH2-Ar)、2.70 (3H, s, OSO2CH3)、2.09 (3H, s, Ar-Me)、1.82-1.68 (2H, m, -CH2-) ppm。31P NMR (121.4MHz)δ25.26ppm。C31H33O7PSの計算値:C64.1%;H5.7%;P5.3%;S5.5%。実測値:C63.8%;H5.9%;S5.3%;P5.2%。
【0280】
ミトキノン-C5(14)。ミトキノン-C5の合成経路を図2Bに示してある。2,3-ジメトキシ-5-メチル-1,4-ベンゾキノン(CoQ0)(50g、0.275モル)を含む酢酸(500ml)にジヒドロピラン(46.83g、0.55モル)を添加し、室温にて10分間にわたって撹拌した。この溶液にBF3・Et2O(38.57g、0.271モル)を添加した。得られた溶液を室温にて18時間にわたって撹拌した。この時間が経過した後、この粗反応混合物を氷水(500ml)の中に注ぎ、クロロホルム(1000ml)で抽出した。有機抽出液をブライン(500ml)で洗浄し、乾燥させた(MgSO4)。溶媒を真空中で除去すると、粗2,3-ジメトキシ-5-メチル-6-(テトラヒドロ-ピラン-2-イル)-4-(テトラヒドロ-ピラン-2-イルオキシ)-フェノール(7)が、赤い油として得られた(115g)。それをそれ以上は精製することなく使用した。粗生成物7(110g)を酢酸/過塩酸(97.5:2.5、500ml)の混合物に溶かした溶液を、大気圧下で室温にて5%パラジウム/炭素(5.42g)上で水素化し、もはや水素が取り込まれない状態にした(3日間)。次にこの反応混合物をセライト・パッドで濾過し、残留固形物をエタノール(500ml)で洗浄した。1つにまとめた濾液を三等分し、そのそれぞれを蒸留水(1000ml)に添加し、CH2Cl2(2×200ml)で抽出した。1つにまとめた有機抽出液をブライン(500ml)、飽和炭酸水素ナトリウム(500ml)、ブライン(300ml)で洗浄した後、乾燥させた(MgSO4)。次にこの混合物を濾過し、溶媒を真空中で除去すると、粗4-アセトキシ-3-(5-アセトキシ-ペンチル)-5,6-ジメトキシ-2-メチル-フェニル酢酸塩(8)が、赤い油として得られた(110g)。それをそれ以上は精製せずに次にステップで使用した。1H NMRδ4.0-4.15 (2H, m, -CH2-O)、3.86 (6H, s, 2×OMe)、2.58 (2H, t, J=7.0Hz, -CH2-Ar)、2.12 (3H, s, Ar-Me)、2.06 (6H, s, 2×CH3-C=O)、2.02 (3H, s, CH3-C=O)、1.35-1.70 (6H, m, -CH2CH2CH2-) ppm。
【0281】
磁性撹拌機と還流凝縮器を備えていて、室温の水浴に取り囲まれた1リットルの丸底フラスコの中で、水素化アルミニウムリチウム(8.0g、0.21モル)を乾燥THF(500ml)に添加した。粗生成物8(74g)を蒸留したばかりのTHF(100ml)に溶かした溶液を、一滴ずつ25〜30分間かけてTHF/LiALH4混合物に添加した。撹拌しやすくするために追加の乾燥THF(200ml)を添加し、得られた反応物を室温にて3時間にわたって撹拌し続けた。次に、3MのHCl(20ml)を一滴ずつ添加してこの反応混合物の反応を停止させた後、蒸留水(70ml)をゆっくりと添加した。次にこの反応混合物を濾過し、濾液をブライン(2×300ml)で洗浄し、乾燥させ(MgSO4)、濾過し、溶媒を真空中で除去した。漏斗に残った緑色の残留物を15%HCl(500ml)に溶かし、CH2Cl2(1×300ml、2×200ml)で抽出した。有機分画を1つにまとめ、ブライン(400ml)で洗浄し、乾燥させ(MgSO4)、濾過し、真空中で蒸発させた。この抽出液を濾液ワークアップからの原料と併せると、粗2-(5-ヒドロキシペンチル)-5,6-ジメトキシ-3-メチル-ベンゼン-1,4-ジオール(9)が、赤い油として得られた(68.3g)。シリカゲル(600g、10%エーテル/CH2Cl2に充填)上のカラムクロマトグラフィによってこの生成物9を精製した。10%エーテル/CH2Cl2を用いて溶離すると、反応しなかったいくらかの化合物8と、出発原料の2,3-ジメトキシ-5-メチル-1,4-ベンゾキノンが得られた。20%エーテル/CH2Cl2を用いて溶離すると、化合物9とキノン10の混合物(14.14g、2,3-ジメトキシ-5-メチル-1,4-ベンゾキノールから19%)が得られた。化合物9は空中に放置するとゆっくりとキノン10に変換されたため、満足のゆく元素分析ができなかった。1H NMRδ5.41 (1H, s, Ar-OH)、5.38 (1H, s, Ar-OH)、4.88 (6H, s, 2×Ar-OMe)、3.65 (2H, t, J=6.3Hz, CH2-OH)、2.61 (2H, t, J=6.4Hz, Ar-CH2)、2.14 (3H, s, Ar-Me)、 1.42-1.68 (6H, m, 3×-CH2-) ppm。
【0282】
キノール9(7.5g、27.7ミリモル)をCH2Cl2(150ml)に溶かした溶液に大気圧下で酸素ガスを飽和させ、NO2をCH2Cl2に溶かした溶液(1ml、1.32M)を添加した。この反応物を室温にて酸素雰囲気下で18時間にわたって撹拌した。その時間が経過するまでに2-(5-ヒドロキシペンチル)-5,6-ジメトキシ-3-メチル-[1,4]ベンゾキノン(10)というキノンの形成が完了したことが、TLC(40%エーテル/CH2Cl2)によってわかった。次に溶媒を真空中で除去すると、生成物10(Yu, C.A.、Yu, L.、1982年、Biochemistry、第21巻、4096〜4101ページ)が、赤い油として得られた(7.40g)。1H NMRδ3.99 (6H, s, 2×Ar-OMe)、3.65 (2H, t, J=6.3Hz, CH2-OH)、2.47 (2H, t, J=6.3Hz, Ar-CH2)、2.01 (3H, s, Ar-Me)、1.52-1.60 (2H, m, -CH2-)、1.37-1.43 (4H, m, -CH2CH2-) ppm。
【0283】
生成物10(7.40g、27.3ミリモル)をCH2Cl2(150ml)とトリエチルアミン(5.46g、5.46ミリモル)に溶かした溶液を調製し、塩化メタンスルホニル(2.48g、30ミリモル)をCH2Cl2(50ml)に溶かした溶液を撹拌しながら30分間かけて添加した。得られた反応混合物を室温にてさらに1.5時間にわたって撹拌した後、蒸留水(5×100ml)と飽和炭酸水素ナトリウム(150ml)で洗浄し、乾燥させた(MgSO4)。この混合物を濾過し、溶媒を真空中で除去すると、粗メタンスルホン酸塩が赤い油として得られた(9.03g)。1H NMRδ4.19 (2H, t, J=7.5Hz, -CH2-OMs)、3.95 (6H, s, 2×Ar-OMe)、2.98 (3H, s, OSO2CH3)、2.44 (2H, t, J=7.5Hz, Ar-CH2-)、1.98 (3H, s, Ar-Me)、1.75 (2H, 5重項, J=7.5Hz, -CH2-)、1.38-1.48 (4H, m, -CH2-CH2-) ppm。このメタンスルホン酸塩を、NaIを10%(w/v)含むアセトン(100ml)に溶かし、室温にて44時間にわたって撹拌した。次にこの混合物を真空中で濃縮し、残留物にH2O(100ml)を添加した。この混合物をCH2Cl2(3×70ml)で抽出し、1つにまとめた抽出液をブラインで洗浄し、乾燥させ(MgSO4)、濾過し、溶媒を真空中で除去すると、粗2-(5-ヨードペンチル)-5,6-ジメトキシ-3-メチル-[1,4]ベンゾキノン(11)が得られた。この生成物をシリカゲル(150g)上のカラムクロマトグラフィによって精製した。CH2Cl2と10%エーテル/CH2Cl2を用いて溶離すると、純粋な化合物11が赤い油として得られた(7.05g、69%)。1H NMRδ3.99 (6H, s, 2×Ar-OMe)、3.18 (2H, t, J=6.9Hz, CH2-I)、2.47 (2H, t, J=7.2Hz, Ar-CH2)、2.02 (3H, s, Ar-Me)、1.85 (2H, 5重項, J=7.5Hz, -CH2-)、1.38-1.48 (4H, m, -CH2-CH2-) ppm。C14H19IO4の計算値:C44.5%;H5.1%;I33.6%。実測値:C44.6%;H5.1%;I33.4%。
【0284】
化合物11(1.14g、2.87ミリモル)をメタノール(20ml)に溶かした溶液をNaBH4(0.16g、4.3ミリモル)で処理すると、この混合物が1分間も経たないうちに無色になった。5分後、室温にて5%HCl水溶液(100ml)を添加し、得られた溶液をCH2Cl2(2×50ml)で抽出した。有機分画を1つにまとめ、乾燥させ(MgSO4)、濾過し、溶媒を真空中で除去すると、生成物12が酸素に敏感な黄色い油として得られた(1.15g、100%)。この生成物を直ちに使用した。1H NMRδ5.36, 5.31 (2H, s, Ar-OH)、3.89 (6H, s, 2×Ar-OMe)、3.20 (2H, t, J=7.5Hz, -CH2-I)、2.62 (2H, t, J=7.5Hz, -CH2-Ar)、2.15 (3H, s, Me)、1.82-1.92 (2H, m, -CH2-)、1.45-1.55 (4H, m, -CH2-CH2-) ppm。生成物12(1.15g、2.87ミリモル)とトリフェニルホスフィン(1.2g、4.31ミリモル)の混合物を撹拌棒とともにカイマックス管の中に入れた。このカイマックス管をアルゴンでパージし、しっかりと封をし、加熱し、70℃にて14時間にわたって撹拌した。濃い色の固形物が形成されたのでそれをCH2Cl2(10ml)に溶かし、エーテル(200ml)中で研和した。形成された白色の沈殿物を急いで濾過した。この沈殿物は空気に曝すとネバネバした状態になったため、再びCH2Cl2に溶かし、真空中で蒸発させると、粗生成物として[5-(2,5-ジヒドロキシ-3,4-ジメトキシ-6-メチル-フェニル)-ペンチル]トリフェニルホスホニウムヨウ化物(13)が茶色の油として得られた(2.07g、115%)。この材料は長期にわたって保管すると安定ではなかったため、その後に続く反応を実施できるようになったときに直ちに使用した。1H NMRδ7.84-7.68 (15H, m, Ar-H)、5.45 (1H, s, Ar-OH)、5.35 (1H, s, Ar-OH)、3.89 (3H, s, Ar-OMe)、3.87 (3H, s, Ar-OMe)、3.65(2H, m, -CH2-+PPh3)、2.54 (2H, t, J=7.0Hz, Ar-CH2)、2.08 (3H, s, Ar-Me)、1.65-1.75 (2H, m, -CH2-)、1.45-1.55 (4H, m, -CH2CH2-) ppm。31P NMRδ25.43ppm。
【0285】
化合物13(2.07g)をCH2Cl2(50ml)に溶かした溶液に酸素ガスを飽和させ、NO2をCH2Cl2(0.5ml、1.32M)に溶かした溶液を添加した。次にこの反応物を酸素雰囲気下で室温にて18時間にわたって撹拌した。溶媒を真空中で除去すると、粗生成物として[5-(4,5-ジメトキシ-2-メチル-3,6-ジオキソ-1,4-シクロヘキサジエン-1-イル)ペンチル]トリフェニルホスホニウムヨウ化物(14)が赤い油として得られた。この残留物を再びCH2Cl2(10ml)に溶かし、エーテル(200ml)中で研和すると、最初の黄色い沈殿物が得られた。それを凍らせると数分間で赤い油になった。溶媒をデカントし、沈殿物をCH2Cl2に溶かし、溶媒を真空中で除去すると、生成物(14)が赤い油として得られた(1.866g)。生成物14のアリコート(0.880g)をシリカゲル(20g)上のカラムクロマトグラフィによって精製した。CH2Cl2を用いた溶離により、同定されていない紫色の物質がいくらか得られた。5%エタノール/CH2Cl2を用いた溶離により、純粋なヨウ化物14が赤い油として得られた(0.606g)。1H NMRδ7.84-7.68 (15H, m, Ar-H)、3.98 (6H, s, 2×Ar-OMe)、3.65 (2H, m, CH2-P+)、2.40 (2H, t, J=7.2Hz, Ar-CH2)、2.00 (3H, s, Ar-Me)、1.71 (4H, m, -CH2-)、1.43 (2H, m, -CH2-) ppm。31P NMR (121.4MHz)δ25.47ppm。C32H36IO4Pの計算値:C59.8%;H5.7%;I19.8%;P4.8%。実測値:C60.0%;H5.3%;I19.7%;P4.7%。
【0286】
ミトキノン-C15(16)。ミトキノン-C15の合成経路を図2Cに示してある。AgNO3(0.262g、1.54ミリモル)と、16-ヒドロキシヘキサデカン酸(0.408g、1.50ミリモル)と、2,3-ジメトキシ-5-メチル-1,4-ベンゾキノン(0.271g、1.49ミリモル)をH2O:CH3CN(1:1、36ml)に懸濁させた懸濁液を75℃に保って撹拌している中に、K2S2O8(0.450g、1.66ミリモル)をH2O(25ml)に溶かした溶液を一滴ずつ2.5時間かけて添加した。この混合物を30分間にわたって撹拌した後、冷却し、エーテル(4×30ml)で抽出した。1つにまとめた有機相を、H2O(2×100ml)と、NaHCO3(1M、2×50ml)と、飽和NaCl(2×50ml)で洗浄した。この有機相を乾燥させ(Na2SO4)、濾過し、真空中で濃縮すると、赤い油が得られた(0.444g)。この粗油に対してカラムクロマトグラフィ(シリカゲル、15g)を実施し、CH2Cl2とエーテル(0%、5%、20%)の混合物を用いて溶離すると、2-(15-ヒドロキシペンタデシル)-5,6-ジメトキシ-3-メチル-[1,4]ベンゾキノン(15)が赤い油として得られた(0.192g、33%)。1H NMRδ3.99, 3.98 (6H, s, OMe)、3.64 (2H, t, J=6.5Hz, -CH2OH)、2.45 (2H, t, J=7.5Hz, -CH2-環)、1.4-1.2 (26H, m, -(CH2)13-)。C24H40O5:C70.6%;H9.9%。実測値:C70.5%;H9.8%。
【0287】
密封したカイマックス管の中で、トリフェニルホスフィン(0.066g、0.25ミリモル)と、Ph3PHBr(0.086g、0.25ミリモル)と、化合物15(0.101g、0.25ミリモル)の混合物をアルゴン雰囲気下で70℃にて24時間にわたって撹拌した。その時間が経過するまでにこの混合物はネバネバした赤い油になった。この残留物を最少量のCH2Cl2(0.5ml)に溶かし、エーテル(10ml)の中に注ぐと、赤い油状の沈殿物が生成した。次に、デカントした溶媒をCH3OH(0.5ml)に溶かし、48%HBr(一滴)を含むH2O(10ml)で希釈した。赤い沈殿物が形成され、その沈殿物が沈んだ後、上清を捨て、残留物をH2O(5ml)で洗浄した。次にこの残留物をエタノール(5ml)に溶かし、溶媒を真空中で除去した。残留物を再びCH2Cl2(0.5ml)に溶かし、エーテル(5ml)で希釈し、溶媒をデカントし、残留物を真空系(0.1ミリバール)に24時間入れると、[15-(4,5-ジメトキシ-2-メチル-3,6-ジオキソ-1,4-シクロヘキサジエン-1-イル)ペンタデシル]トリフェニルホスホニウムブロミド(16)が黄色い泡として得られた(0.111g、61%)。この泡は、空気と接触すると赤い油に変わった。1H NMR (299MHz)δ7.6-8.0 (15H, m, Ar-H)、3.89 (6H, s, OMe)、3.9 (2H, m, -CH2-P)、2.6 (2H, m, -CH2-環)、1.7-1.1 (26H, m, -(CH2)13-) ppm。31P NMR (121.4MHz)δ25.71ppm。エレクトロスプレー質量分析により、(M+)が653であることがわかった。C42H54O4P+の計算値は653である。燃焼分析の結果は、溶媒の包接レベルが一定ではなかったために不満足なものであった。
【0288】
実施例3. ミトコンドリアを標的とした具体的な抗酸化化合物の特性
本発明には、さまざまな用途、例えば錠剤など、剤形になった製剤に適しているようにするため、ミトコンドリアを標的とした抗酸化化合物の結晶形態、または固体形態を形成できるという利点がある。同様に、どのような理論に囚われることも望んでいないため、本発明の化合物の抗酸化機能の少なくとも一部は、その物理化学的特性によって決まると考えられる。
【0289】
さまざまな抗酸化化合物の分配係数を表1に示してある。オクタン-1-オール/PBSの分配係数は、PBSを飽和させたオクタン-1-オール2mlに400ナノモルの化合物を添加し、オクタン-1-オールを飽和させたPBSとともに37℃にて30分間にわたって混合することによって決定した。2つの相の中の化合物の濃度は、268nmでのUV吸収を測定した後、オクタン-1-オールを飽和させたPBSまたはPBSを飽和させたオクタン-1-オールに含まれているその化合物の標準曲線から定量化した(Kelso, G.F.、Porteous, C.M.、Coulter, C.V.、Hughes, G.、Porteous, W.K.、Ledgerwood, E.C.、Smith, R.A.J.、Murphy, M.P.、2001年、J. Biol. Chem.、第276巻、4588ページ;Smith, R.A.J.、Porteous, C.M.、Coulter, C.V.、Murphy, M.P.、1999年、Eur. J. Biochem.、第263巻、709ページ)。化合物の貯蔵溶液を無水エタノールを用いて調製し、暗所で-20℃にて保管した。[3H]TPMPは、アメリカン・ラジオラベルド・ケミカルズ社(ミズーリ州、アメリカ合衆国)からのものであった。
【0290】
特に注目すべきなのは、抗酸化部分とホスホニウムをつなぐ炭素原子の数が少ない化合物で分配係数が小さいことである。例えばこの明細書でミトキノン-C3と呼ぶ本発明の化合物(リンク部分の炭素原子が3個)は、分配係数が、関連化合物であるミトキノン-C10で見られた値の約1/50である(表1)。
【0291】
【表1】
【0292】
データa〜cは、すでに説明したように25℃または37℃で決定したオクタン-1-オール/リン酸緩衝化生理食塩水の分配係数であり、データdは、オクタノール/水の分配係数であり、その値は、Jauslin, M.L.、Wirth, T.、Meier, T.、Schoumacher, F.、2002年、Hum. Mol. Genet.、第11巻、3055ページに記載されているように、アドバンスト・ケミストリー・デヴェロップメント(ACD)ソフトウエア・ソラリスv4.67を用いて計算する。
a:Kelso, G.F.、Porteous, C.M.、Coulter, C.V.、Hughes, G.、Porteous, W.K.、Ledgerwood, E.C.、Smith, R.A.J.、Murphy, M.P.、2001年、J. Biol. Chem.、第276巻、4588ページ。
b:Smith, R.A.J.、Porteous, C.M.、Coulter, C.V.、Murphy, M.P.、1999年、Eur. J. Biochem.、第263巻、709ページ。
c:Smith, R.A.J.、Porterous, C.M.、Gane, A.M.、Murphy, M.P.、2003年、Proc. Nat. Acad. Sci.、第100巻、5407ページ
【0293】
ミトキノン-C3、ミトキノン-C5、ミトキノン-C10、ミトキノン-C15は、そのオクタン-1-オール/PBSの分配係数から、疎水性の程度がさまざまであることが明らかである。ミトキノン-C3の分配係数は、単純で水に比較的溶けやすいTPMPカチオンと同程度であるのに対し、ミトキノン-C15の分配係数は、水への溶解度が非常に小さいことを示している。ミトキノンなどのアルキルトリフェニルホスホニウム・カチオンは、カルボン酸基のレベルでリン脂質二重層に吸着するのに対し、疎水性アルキル基は、膜の疎水性コアの中に侵入することが報告されている。メチレン鎖が長くなるほど、抗酸化ユビキノールが膜の疎水性コアの中により深く侵入する。図3にはいろいろなミトキノンを典型的なリン脂質と並べて描いてあるが、われわれは、膜の1つの単分子層に最も深く侵入するのは、この図に示した化合物の場合であると考えている。このモデルから、ミトキノン-C3のユビキノール部分だけが膜の表面に近い位置まで侵入するのに対し、ミトキノン-C10とミトキノン-C15は、リン脂質二重層のコアの近くまで侵入することがわかる。
【0294】
われわれは、疎水性の程度とリン脂質二重層への侵入の深さがさまざまな一連の抗酸化化合物を合成した。
【0295】
実施例4. ミトコンドリアを標的とした化合物のミトコンドリアによる取り込み
ミトコンドリアが標的となっていることを証明するため、ミトコンドリアが膜電位に応答して具体的な抗酸化化合物であるミトキノン-C3、ミトキノン-C5、ミトキノン-C10、ミトキノン-C15を取り込む様子を調べた。
【0296】
活性化したミトコンドリアによる抗酸化化合物の取り込みを測定するため、イオン選択的電極を構成した(Smith, R.A.、Kelso, G.F.、James, A.M.、Murphy, M.P.、2004年、Meth. Enzymol.、第382巻、45〜67ページ;Davey, G.P.、Tipton, K.F.、Murphy, M.P.、1992年、Biochem. J.、第288巻、439〜443ページ;Kamo, N.、Muratsugu, M.、Hongoh, R.、Kobatake, Y.、1979年、J. Membr. Biol.、第49巻、105〜121ページ)。30℃に維持して撹拌している3mlの培養チェンバー(基質を添加するための注入ポートが付いている)の気密なパースペックスの蓋に、電極とAg/AgCl参照電極を挿入した。抗酸化化合物の取り込みを測定するため、ラットの肝臓のミトコンドリア(1mlにつきタンパク質1mg)をKCl培地(120mMのKCl、10mMのヘペス(pH7.2)、1mMのEGTA)とニゲリシン(1μg/ml)とロテノン(8μg/ml)の中で30℃にてインキュベートした。コハク酸塩(10mM)とFCCP(500nM)を指示された場所に添加した。イオン選択的電極からの出力は、フロント-エンドpH増幅器を通じてパワーラボ・データ(PowerLab Data)取得システムに送り、チャート・ソフトウエアを用いて分析した(システムとソフトウエアは、どちらもADインスツルメンツ社のもの)。
【0297】
均質化の後、250mMのスクロースと、5mMのトリス-HClと、1mMのEGTA(pH7.4)を含む氷で冷やした緩衝液の中で分画遠心分離を行なうことにより、ラットの肝臓のミトコンドリアを調製した(『細胞よりも小さな構成要素群:調製と分画化』(Birnie, G.D.編、バターワースス社、ロンドン、1972年)の中の77〜91ページ、Chappell, J.B.とHansford, R.G.)。タンパク質の濃度は、BSAを基準として用いたアッセイによって決定した(Gornall, A.G.、Bardawill, C.J.、David, M.M.、1949年、J. Biol. Chem.、第177巻、751〜766ページ)。ミトコンドリアの膜電位は、50nCiの[3H]TPMPを補足した500nMのTPMPを、KCl培地(120mMのKCl、10mMのヘペス(pH7.2)、1mMのEGTA)に懸濁させたミトコンドリアに25℃で添加して測定した(『生物エネルギー論 - 実際的なアプローチ』(Brown, G.C.とCooper, C.E.編、1995年、IRL社、オックスフォード)のBrand, M.D.による39〜62ページ)。ミトコンドリアをインキュベートした後、遠心分離によってペレット化し、シンチレーションをカウントすることによって上清中の[3H]TPMPの量とペレットを定量した後、ミトコンドリアのタンパク質1mgにつきミトコンドリアの体積が0.5μlで、TPMPの結合補正が0.4であると仮定して、膜電位を計算した(Brown, G.C.とBrand, M.D.、1985年、Biochem. J.、第225巻、399〜405ページ)。
【0298】
定常状態の濃度を測定するため、イオン選択的電極を構成した(Smith, R.A.、Kelso, G.F.、James, A.M.、Murphy, M.P.、2004年、Meth. Enzymol.、第382巻、45〜67ページ;Davey, G.P.、Tipton, K.F.、Murphy, M.P.、1992年、Biochem. J.、第288巻、439〜443ページ;Kamo, N.、Muratsugu, M.、Hongoh, R.、Kobatake, Y.、1979年、J. Membr. Biol.、第49巻、105〜121ページ)。単純なトリフェニルホスホニウム・カチオン(例えばTPMP)に対するこれら電極の応答はネルンスト的であり、電極電圧はlog10[カチオンの濃度]に対して線形な応答をし、傾斜は30℃において約60mVである(Davey, G.P.、Tipton, K.F.、Murphy, M.P.、1992年、Biochem. J.、第288巻、439〜443ページ;Kamo, N.、Muratsugu, M.、Hongoh, R.、Kobatake, Y.、1979年、J. Membr. Biol.、第49巻、105〜121ページ)。最も疎水性の大きな化合物であるミトキノン-C3もネルンスト的な電極応答をし、10μMを超える濃度で傾斜が60mVに近かった。その様子が、図4Aの右側に、ミトコンドリアがない状態でミトキノン-C3を1pMずつ添加していったときの電極の応答が対数的であることによって示されている。ミトキノン-C5、ミトキノン-C10、ミトキノン-C15に関しては、ミトコンドリアがない状態で各ミトキノンを1pMずつ添加していくと、電極は、やはり素早くかつ安定に応答した(それぞれ図4B、図4C、図4Dの右側のグラフ)。しかしこれらのケースでは、電極の応答はネルンスト的ではなかった。それは、これらの化合物の疎水性がより大きかったことが原因であると考えている。たとえそうであっても、これら4つの抗酸化化合物すべてに関し、イオン選択的電極により、遊離した化合物の濃度を測定することが可能になり、したがってミトコンドリアによるこれら化合物の取り込みをリアルタイムで測定することが可能になった。
【0299】
抗酸化化合物の取り込みを測定するため、ロテノンの存在下でミトコンドリアを電極チェンバーに添加し、膜電位の形成を阻止した(図4の左側)。次に、抗酸化化合物を1μMずつ5回添加して電極の応答を較正した後、呼吸基質であるコハク酸塩を添加して膜電位を発生させた。ミトコンドリアが活性化し、それぞれの抗酸化化合物がすべてミトコンドリアに素早く取り込まれ、続いて脱共役剤であるFCCPを添加すると膜電位が消失し、抗酸化化合物がミトコンドリアから素早く放出された(図4A〜図4Dの左側)。この実験は、ミトキノン-C3、ミトキノン-C5、ミトキノン-C10が、ミトコンドリアの膜電位に依存して取り込まれることをはっきりと示している。膜電位を誘導するとミトキノン-C15もミトコンドリアに取り込まれたが、ミトコンドリアの存在下でのミトキノン-C15に対する電極応答は、より弱く、雑音がより多く、ドリフトする傾向がより大きかった。これは、ミトコンドリアがない状態でのミトキノン-C15に対する電極応答とは対照的である(右側のグラフを参照)。これは、ミトコンドリアの存在下では遊離したミトキノン-C15の濃度が小さいことが原因である。
【0300】
次に、不活性化したミトコンドリアに抗酸化化合物が結合する程度を調べた(図4Aの右側)。この実験では、まず最初にそれぞれの抗酸化化合物を電極チェンバーに添加した後、ロテノンの存在下でミトコンドリアを添加することにより、膜電位の形成を阻止した。ミトコンドリアの添加による抗酸化化合物の濃度低下は、不活性化したミトコンドリアに抗酸化化合物が結合することに起因する。その後コハク酸塩を添加すると膜電位が発生するというのは、抗酸化化合物が膜電位に依存した形で取り込まれることを示している。しかしFCCPを添加すると逆のことが起こり、膜電位が消失する。
【0301】
遊離したミトキノン-C3の濃度は、ミトコンドリアの添加による影響を受けなかった。これは、無視できる量のミトキノン-C3しか不活性化したミトコンドリアに結合していないことを示している(図4Aの右側)。FCCPの影響下で取り込まれるミトキノン-C3は、コハク酸塩で活性化したとき、タンパク質1mgにつき約3.7ナノモルであった。これは、蓄積比が約2×103であることに対応する。これは、ネルンストの式から予想される値、およびミトコンドリアの膜電位が約180mVであることと一致している。そのためミトコンドリア内の結合を補正することが可能になる。
【0302】
ミトキノン-C5は、不活性化したミトコンドリアといくらか結合した(タンパク質1mgにつき約0.6ナノモル)が、その後コハク酸塩で活性化したときの取り込み(タンパク質1mgにつきミトキノン-C5が約2.8ナノモル)と比べて無視できる程度であった。約2.8ミリモルというのは、蓄積比が約1.4×103であることに対応する(図4Bの右側)。
【0303】
ミトキノン-C10に関しては、約2.6ナノモルというかなりの量が、不活性化したミトコンドリアと結合した。その後コハク酸塩を添加すると、タンパク質1mgにつき約1ナノモルがさらに取り込まれた(図4Cの右側)。
【0304】
遊離したほぼすべてのミトキノン-C15が不活性化したミトコンドリアと結合したが、コハク酸塩で活性化するとさらにいくらか取り込まれた。ミトキノン-C15の取り込みが膜電位に依存することは、図4Dの左側のグラフに明らかである。このグラフの場合には、電極応答が非常に敏感であるため、電極をミトコンドリアの存在下で較正してあると、少量の遊離したミトキノン-C15を測定することができた。逆に、図4Dの右側のグラフにミトキノン-C15の取り込みを見ることは難しい。このグラフの場合には、電極応答は、ミトコンドリアの不在下でミトキノン-C15を測定できる感度からはほど遠い。
【0305】
これらの実験は、抗酸化化合物のメチレン鎖の長さが、ミトコンドリアの膜に抗酸化化合物が吸着する程度の少なくとも一部を決定していることを示している(図4の右側)。吸着の程度は、ミトキノン-C3の場合の無視できる程度から、ミトキノン-C15の場合のほぼ完全な結合までの幅がある。不活性化したミトコンドリアにミトキノン-C15を添加するとほぼ全量が結合し、内膜と外膜の両方の表面に分布する。膜電位を誘導すると、この化合物が、内膜の外側の面および外膜から内膜のマトリックスと向かい合う面へとかなり再分布することになる、とわれわれは考えている。まとめると、各抗酸化化合物のどれもが膜電位によってミトコンドリアに取り込まれ、メチレン鎖が長いほどリン脂質二重層への吸着が多くなる。
【0306】
実施例5. ミトコンドリアを標的とする具体的な化合物の抗酸化効果
本発明の化合物は、酸化ストレスに対しても非常に効果的である。抗酸化効率を評価するため、本発明の抗酸化化合物がミトコンドリアにおいて脂質の過酸化を阻止する能力を、第一鉄イオンと過酸化水素に曝露したミトコンドリア内に蓄積したTBARSから判断した(図5)。
【0307】
脂質の過酸化を定量化するため、TBARSアッセイを利用した。ラットの肝臓のミトコンドリア(1mlにつきタンパク質2mg)を、100mMのKClと、10mMのトリス-HCl(pH7.6)を含む0.8mlの培地の中で37℃にてインキュベートした。この培地には、10mMのコハク酸塩と8mg/mlのロテノンを補足するか、2.5mMのATPと、1mMのホスフェノピルビン酸塩と、4U/mlのピルビン酸キナーゼとからなるATP再生系を補足した。次に、50mMのFeCl2/300mMのH2O2を添加して37℃にて15分間にわたってインキュベートすることにより、ミトコンドリアを酸化ストレスに曝した。このインキュベーションの後、2%(w/v)ブチル化ヒドロキシトルエンを含むエタノールを64ml添加し、次いで35%(v/v)HClO4を200mlと、1%(w/v)チオバルビツール酸を200ml添加した。次にサンプルを100℃にて15分間にわたってインキュベートし、遠心分離(12,000×gで5分間)し、上清をガラス管に移した。3mlの水と3mlのブタン-1-オールを添加した後、サンプルを撹拌し、2つの相を分離させた。次に、チオバルビツール酸反応種を探すために有機層のアリコート200mlを蛍光測定プレート読み取り装置(λEx=515nm;λEm=553nm)で分析し、0.01〜5mMの1,1,3,3-テトラエトキシプロパンから得たマロンジアルデヒド(MDA)標準曲線と比較した(Kelso, G.F.、Porterous, C.M.、Coutler, C.V.、Hughes, G.、Porterous, W.K.、Ledgerwood, E.C.、Smith, R.A.J.、Murphy, M.P.、2001年、J. Biol. Chem.、第276巻、4588〜4596ページ)。
【0308】
コハク酸塩で活性化したミトコンドリアに関しては、TBARSのバックグラウンドのレベルは無視できる程度だったが、酸化ストレスに曝すと、タンパク質1mgにつきTBARSが約3.75ナノモルに増加した(図5A;黒棒)。どの抗酸化化合物も、高濃度(5μM)だとTBARSの蓄積を大きく阻止したのに対し、単純なカチオンであるTPMPではそうでなかった。この事実から、抗酸化作用にとって重要なのは、ミトキノン抗酸化化合物のユビキノール側鎖であり、カチオンとミトコンドリアの間のどのような非特異的相互作用でもないことが確認される。
【0309】
これらの実験では、コハク酸塩は、膜電位を維持してミトコンドリアへのカチオンの取り込みを促進するとともに、ユビキノンの形態になったミトキノン抗酸化化合物をリサイクルして活性なユビキノールの形態の抗酸化化合物にする(Kelso, G.F.、Porterous, C.M.、Coutler, C.V.、Hughes, G.、Porterous, W.K.、Ledgerwood, E.C.、Smith, R.A.J.、Murphy, M.P.、2001年、J. Biol. Chem.、第276巻、4588〜4596ページ)。呼吸鎖による還元がミトキノン抗酸化化合物の抗酸化効果にとって必要であるかどうかを調べるため、ATPとATP再生系の存在下でミトコンドリアをインキュベートした。ATP加水分解やミトコンドリアでのATP合成の逆転でプロトン・ポンピングが活発に起こり、コハク酸塩によって発生するのと同様の膜電位が発生した(図5B)。その結果、コハク酸塩によって活性化されたミトコンドリアの場合と同様、ミトキノン抗酸化化合物が同様に取り込まれるが、今回は、呼吸鎖によって抗酸化化合物であるそのミトキノンがリサイクルされてその活性なユビキノール形態になることはもはやない。ミトキノン抗酸化化合物は、ATP加水分解によって活性化されたミトコンドリアの内部で脂質の過酸化を阻止する効果が小さかった(図5A、白棒)のに対し、コハク酸塩によって活性化されたミトコンドリアでは劇的な保護が見られた(図5A、黒棒)。したがって、ミトキノン抗酸化化合物が抗酸化効果を持つためには、呼吸鎖によるミトキノン抗酸化化合物の還元と、ミトコンドリアの膜電位による蓄積が必要とされる。
【0310】
コハク酸塩で活性化したミトコンドリアの対照サンプルでは、ATPで活性化したサンプルと比べて脂質の過酸化のレベルが低いことが観察された(図5A)。これは、コハク酸塩の存在下では還元された状態に維持されているがATPの存在下では酸化される内在性ミトコンドリア捕酵素Qプールが保護的な抗酸化効果を持つことに起因する(James, A.M.、Smith, R.A.、Murphy, M.P.、2004年、Arch. Biochem. Biophys.、第423巻、47〜56ページ;Ernster, L.、Forsmark, P.、Nordenbrand, K.、1992年、Biofactors、第3巻、241〜248ページ)。まとめると、抗酸化化合物であるすべてのミトキノンは、抗酸化剤として有効であるためには呼吸鎖によって活性化される必要がある。
【0311】
図5Aでは、すべてのミトキノン抗酸化化合物で5pMという単一の濃度を利用した。これら化合物の相対的な抗酸化効果を比較するため、コハク酸塩の存在下でその化合物を滴定した。典型的な滴定結果を図5Cに示してある。この実験は、これら化合物の抗酸化効果が、メチレン鎖の長さと相関していることを示している。そのことを定量化するため、具体的な4つのミトキノン抗酸化化合物が脂質の過酸化を阻止するIC50の値を計算した(図5D)。測定により、抗酸化効果の順位が、ミトキノン-C15>ミトキノン-C10>ミトキノン-C5>ミトキノン-C3となることが確認された。
【0312】
すべてのミトキノン抗酸化化合物が、ミトコンドリアの膜電位によってミトコンドリアの内部に蓄積した。最も疎水性の大きな化合物であるミトキノン-C15では、リン脂質二重層への広範な結合によってこの効果が大きく遮蔽された。これら化合物はすべて有効な抗酸化剤であったが、抗酸化活性が15分以上続くためには、どの化合物でも、呼吸鎖が脂質過酸化中間体を解毒した後、ミトキノン抗酸化化合物をリサイクルして活性な抗酸化形態にする必要があった。
【0313】
実施例6. ミトコンドリアを標的とした抗酸化化合物が心臓の血行力学とミトコンドリアの機能に及ぼす効果
ミトコンドリアを標的とした抗酸化化合物の投与、特にミトキノン-C10とミトキノン-C3の投与が心臓機能に及ぼす効果を、ランゲンドルフ分離心臓灌流モデルを用いて評価した。ラットを以下の4つの投与群に分けた。すなわち、対照群(プラセボ)、TPMP群(メチルトリフェニルホスホニウム)、ミトキノン-C10群、ミトキノン-C3群である。処理期間の後、ラットを安楽死させ、分離した心臓をランゲンドルフ分離灌流系に接続した。この系では、大動脈を通る逆灌流を利用して心臓を維持しながら心臓機能を測定する。左心室血圧は、左心室バルーンを用いて測定した。冠状動脈流も測定した。
【0314】
図6は、各処理群について、左心室血圧が10mmHgのときの冠状動脈流を示している。冠状動脈流は、虚血前に測定し、虚血を誘導してから0分、20分後、40分後、60分後にも測定した。一元配置ANOVAとボンフェローニ事後検定を実施した。虚血前の対照に対する有意さは、*がP<0.05;**がP<0.01;***がP<0.001を表わしている。それぞれの時間の対照に対する有意さは、†がP<0.05;††がP<0.01;†††がP<0.001を表わしている。
【0315】
結果は、ミトキノン-C10で処理すると虚血によって誘導される冠状動脈流の低下が有意に減ることを示している。ミトキノン-C3は、時間が経過したとき、より小さな効果であるが、それでも有意な効果を持つ。TPMPを投与してもまったく効果がないというのは、TPMPがミトキノン-C10とミトキノン-C3の抗酸化部分であり、ミトコンドリアを標的とした抗酸化化合物で観察される効果にとって重要なトリフェニルホスホニウム・カチオンではないことを示している。
【0316】
図7は、処理が、10mmHgになった左心室血圧に及ぼす効果を示している。左心室拡張期血圧を、虚血を誘導する前に測定し、虚血を誘導してから0分、20分後、40分後、60分後にも測定した。統計学的分析は、順位に関するANOVAとダン事後検定であった。虚血前の対照に対する有意さは、*がP<0.05を表わしている。†は、虚血60分後の対照に対するP<0.05を表わしている。結果は、ミトキノン-C10で処理すると、処理していないラットと比べて左心室拡張期血圧が統計的に有意に増大し、虚血によって誘導される左心室拡張期血圧の低下が少なくなることを示している。TPMPを投与してもまったく効果がないというのは、TPMPがミトキノン-C10とミトキノン-C3の抗酸化部分であり、ミトコンドリアを標的とした抗酸化化合物で観察される効果にとって重要なトリフェニルホスホニウム・カチオンではないことを示している。
【0317】
次に、ミトキノン-C10とミトキノン-C3の投与が心拍数に及ぼす効果を調べた。図8には、各処理群について、虚血前と、虚血を誘導してから0分、20分後、40分後、60分後の心拍数を示してある。示してあるのは、一元配置ANOVAの後にボンフェローニ事後検定を行なった結果である。***は、虚血前の対照に対する有意さがP<0.001であることを表わしている。††は、虚血後の各対照に対する有意さがP<0.05であることを表わしている。結果は、ミトキノン-C10で処理すると、虚血によって誘導される心拍数の低下が対照のラットと比べて有意に少なくなることを示している。TPMPを投与してもまったく効果がないというのは、TPMPがミトキノン-C10とミトキノン-C3の抗酸化部分であり、ミトコンドリアを標的とした抗酸化化合物で観察される効果にとって重要なトリフェニルホスホニウム・カチオンではないことを示している。
【0318】
ミトコンドリアを標的とした抗酸化化合物の投与が心臓の収縮・弛緩速度に及ぼす効果を明らかにすることにより、心臓機能をさらに詳しく調べた。図9Aには、4つの処理群それぞれについて、虚血前と、虚血を誘導してから0分、20分後、40分後、60分後の収縮速度を示してある。図9Bには、4つの処理群それぞれについて、虚血前と、虚血を誘導してから0分、20分後、40分後、60分後の弛緩速度を示してある。それぞれの場合について、順位に関するANOVAとダン事後検定を実施した。*は、虚血前の対照に対する有意さがP<0.05であることを表わしている。†は、虚血後の各時間の対照に対する有意さがP<0.05であることを表わしている。††は、虚血後の各時間の対照に対する有意さがP<0.01であることを表わしている。
【0319】
結果は、ミトキノン-C10の投与が統計的に有意な効果をもたらし、虚血によって誘導される左心室の収縮・弛緩速度の低下が、対照のラットと比べて少なくなることを示している。
【0320】
上に示したデータは、ミトコンドリアを標的とした抗酸化化合物の投与が心臓機能に好ましい効果を及ぼすことをはっきりと示している。心臓機能に対して観察された効果が、ミトコンドリアを標的とした抗酸化化合物がミトコンドリアの機能に及ぼした効果に起因するかどうかを調べるため、各処理群について虚血前と虚血後のミトコンドリアの活性を評価した。図10Aには、各処理群について、虚血前と虚血後の、NAD+と関係するミトコンドリアの呼吸機能が示してある。図10Bには、各処理群について、虚血前と虚血後の、FADと関係するミトコンドリアの呼吸機能が示してある。***は、虚血前の対照に対する有意さがP<0.001であることを表わしている。†††は、虚血後の対照に対する有意さがP<0.001であることを表わしている。
【0321】
これらのデータは、ミトキノン-C10が、虚血後のミトコンドリアの呼吸機能に対し、対照のラットと比べて統計的に有意な好ましい効果をもたらすことを示している。この結果は、ミトコンドリアを標的とした抗酸化化合物の投与が心臓機能に及ぼす効果が、ミトコンドリアの機能に対する保護効果に起因するという結論を支持している。
【0322】
実施例7. ミトキノン-C10とβ-シクロデキストリンからなる錯体の安定性
製剤に関する予備的な研究において、臭化物の形態にしたミトキノン-C10は、25℃/相対湿度50%で保管する場合と、40℃/相対湿度75%で保管する場合に、固体状態では時間が経過すると分解することがわかった。この研究の目的は、ミトキノン-C10の固体状態での安定性を、β-シクロデキストリンとの錯体にすることによって改善できるかどうかを明らかにすることであった。
【0323】
ミトキノン-C10のバッチ番号6とイデベノンは、インダストリアル・リサーチ社(ニュージーランド国)から供給された。β-シクロデキストリン(ロット番号70P225)は、ISPテクノロジーズ社から購入した。NaCl、NaH、PU、メタノール(HPLC)は、BDH社から購入した。
【0324】
純粋なミトキノン-C10の固体状態での安定性の研究
ミトキノン-C10のサンプル(約5mg)を正確に計量して透明な瓶に入れ、25℃/相対湿度50%;40℃/相対湿度75%;4℃/シリカゲル上という3つの条件に曝した。瓶を1日後、2日後、4日後、8日後、16日後、32日後、64日後に取り出し、公認されているHPLC法でミトキノン-C10を分析した。そのときシリカ上で-20℃にて保管したミトキノン-C10を対照として用いた。
【0325】
ミトキノン-C10:β-シクロデキストリン錯体の調製
ミトキノン-C10のバッチ番号6を用い、モル比が異なる3種類の錯体(ミトキノン-C10:β-シクロデキストリン=1:1、1:2、1:4)を調製した。
【0326】
β-シクロデキストリン水溶液の調製
β-シクロデキストリン(1.1397g、含水量を補正した後の1.0361gに相当)を正確に計量し、10分間にわたって超音波処理しながら二重蒸留水に溶かした。水を加えて体積を100mlにした。
【0327】
ミトキノン-C10:β-シクロデキストリン(モル比1:1)錯体の調製
40〜50℃に維持したホット・プレート上で、ミトキノン-C10臭化物(90mg、ミトキノン-C10が59.95mgに相当)のエタノール溶液を窒素雰囲気下にて8分間にわたって蒸発させた。β-シクロデキストリン溶液(10ml)と二重蒸留水(30ml)をビーカーに添加し、40分間にわたって超音波処理した。
【0328】
ミトキノン-C10:β-シクロデキストリン(モル比1:2)錯体の調製
ミトキノン-C10臭化物(89.8mg、ミトキノン-C10が59.82mgに相当)のエタノール溶液を、窒素雰囲気下にて、37〜45℃に維持したホット・プレート上で10分間、次いで温度を50℃にして3分間にわたって蒸発させた。β-シクロデキストリン溶液(20ml)と二重蒸留水(20ml)をビーカーに添加し、30分間にわたって超音波処理した。
【0329】
ミトキノン-C10:β-シクロデキストリン(モル比1:4)錯体の調製
37〜50℃に維持したホット・プレート上で、ミトキノン-C10臭化物(90mg、ミトキノン-C10が59.95mgに相当)のエタノール溶液を窒素雰囲気下にて12分間にわたって蒸発させた。β-シクロデキストリン溶液(40ml)をビーカーに添加し、20分間にわたって超音波処理した。
【0330】
上記の溶液はすべて凍結させ、-18℃にて一晩保管した。この凍結した溶液を、LABCONO凍結乾燥装置を用いて2日間にわたって凍結乾燥させた。得られた凍結乾燥化合物を-20℃で保管した。
【0331】
凍結乾燥させたミトキノン-C10:β-シクロデキストリン錯体の示差走査熱量測定
【0332】
凍結乾燥させた3種類の錯体の示差走査熱量分析(DSC)を、パーキン-エルマー社の示差走査熱量計PYRIS-1を用いて実施した。ミトキノン-C10のサンプルは、エタノール溶液を窒素ガス雰囲気下で35〜50℃にて10分間にわたって蒸発させることによって調製した。
【0333】
アルミニウム製皿状容器(パーキン-エルマー社から供給されている第0219-0041番)を用いた。分析は、窒素パージ下で実施した。空の皿状容器を用いてベースラインを設定した。
【0334】
走査温度の範囲は50〜160℃であり、最初に1分間にわたって50℃に保持した後、160℃まで10℃/分の速度で温度を上昇させた。
【0335】
HPLCアッセイ
メタノールと0.01Mのリン酸二水素ナトリウム(85:15)を移動相として用い、流速を1ml/分にして、ミトキノン-C10に対するHPLC法を開発した。265nmでのUV-VIS検出を利用する。内部標準はイデベノンであった。カラムは、粒子サイズが5μのプロディジーODS3100A(フェノメネックス社)であった。新しいカラムが到着した後にこの方法を変更した。変更した方法で用いる移動相は、メタノールと0.01Mのリン酸二水素ナトリウム(80:20)であった。この方法は有効であった。ミトキノン-C10:β-シクロデキストリン錯体を分析する前に、HPLC法におけるβ-シクロデキストリンによる干渉を調べた。β-シクロデキストリンは、ミトキノン-C10 HPLCアッセイの邪魔をしない。
【0336】
ミトキノン-C10:β-シクロデキストリン錯体の安定性の研究
ミトキノン-C10とβ-シクロデキストリンの錯体は3種類あったため、異なる錯体からのサンプル5mg中のミトキノン-C10の量は異なっていた。3つの錯体すべてで同じ量のミトキノン-C10に曝露されるようにするため、重量の異なる錯体を用意した。すなわち、ミトキノン-C10を1.473mg含む1:1錯体を4mg;ミトキノン-C10を1.469mg含む1:2錯体を6.5mg;ミトキノン-C10を1.467mg含む1:4錯体を11.5mg用意し、標準的な操作手続きに従って安定性実験で使用した。
【0337】
各サンプルを入れた瓶にHPLC水のアリコート(1.5ml)を添加し、ミトキノン-C10:β-シクロデキストリン錯体を完全に溶かした。この溶液のアリコート(50μl)を水で希釈して1mlにした。このミトキノン-C10:β-シクロデキストリン錯体希釈溶液のアリコート(100μl)を、メタノールに内部標準を10μg/mlの割合で含む溶液200μlとともに撹拌した。サンプルを10000rpmで10分間にわたって遠心分離し、上清50μlをHPLC系に注入した。β-シクロデキストリンが5mg/mlの割合で含まれていて、ミトキノン-C10の濃度が2.5〜120μg/mlの範囲であるいろいろな溶液を用い、標準曲線を得た。
【0338】
化合物はすべて、色がわずかにオレンジ-黄色であり、外見が非常にふわふわしていた。色は均一ではなく、凍結乾燥用フラスコの底に向かってより濃くなっていた。
【0339】
DSCの結果を以下に示す。
【0340】
ミトキノン-C10:ミトキノン-C10の純粋なサンプルを分析したとき、120℃を超える温度でピークが観察された。ミトキノン-C10の1つのサンプルでは130℃〜140℃で顕著な2つのピークが観察された。別のサンプルを分析したとき、そのように顕著なピークは観察されなかったが、複数の小さなピークが120℃を超える温度で観察された。分析後、皿状容器を切断し、サンプルを調べた。サンプルの色は、どちらの場合も濃い緑色から黒色であった。
【0341】
β-デキストリン:幅の広いピークが70℃〜85℃に存在していた。
【0342】
ミトキノン-C10:β-シクロデキストリン(1:1)錯体:顕著なピークは観察されなかった。分析後、皿状容器を切断して調べた。サンプルの色がわずかに変化して明るい茶色になっていた(大きな変化ではない)。
【0343】
ミトキノン-C10:β-シクロデキストリン(1:2)錯体:顕著なピークは観察されなかった。分析後、サンプルの色彩変化は観察されなかった。
【0344】
ミトキノン-C10:β-シクロデキストリン(1:4)錯体:顕著なピークは観察されなかったが、非常に小さな発熱ピークが、120℃の位置に観察された。分析後、サンプルの色彩変化は観察されなかった。
【0345】
ミトキノン-C10の純粋なサンプルにおけるピークの出現は、温度とともに化合物が変化していることを示している。しかし多くのピークが存在していてサンプルの色彩も変化したため、分解によってこのようなことが起こったのであろう。ミトキノン-C10の第2のサンプルを分析すると、第1のサンプルとは異なるサーモグラムが得られた。錯体の場合、顕著なピークも色彩変化も存在していなかった。
【0346】
純粋なミトキノン-C10(バッチ番号3)の固体状態での安定性を調べた結果を表2と図11に示してある。
【0347】
【表2】
【0348】
光が当たらない状態の、40℃/相対湿度75%;25℃/相対湿度50%;4℃/青いシリカゲル上の3つの場合におけるミトキノン-C10(バッチ番号3)の固体状態での安定性。データは、2つの数値の平均を元の含有量に対する割合(%)として示してある。
【0349】
25℃/相対湿度50%では、40℃/相対湿度75%の場合と比べて不安定性が大きいため、ミトキノン-C10(バッチ番号4)を用いてこの安定性実験を25℃/相対湿度50%で繰り返した。この2回目の安定性実験は、透明な瓶と黄褐色の瓶の中で実施した。結果を表3と図12に示してある。
【0350】
【表3】
【0351】
ミトキノン-C10(バッチ番号4)の固体状態での安定性を、光が当たらない状態で25℃/相対湿度50%において測定した。データは、3つの数値の平均を元の含有量に対する割合(%)として示してある。
【0352】
化学部門から提供されたミトキノン-C10のどちらのバッチ(バッチ番号3と4)も、16日目以降に含有量が突然減少した。しかしバッチ番号4では、32〜64日後の期間に分解がバッチ番号3ほど多くはなかった。また、瓶が透明であるか黄褐色であるかはミトキノン-C10の安定性に影響を与えないことも観察された。
【0353】
IRL社から提供されたミトキノン-C10を用い、いろいろなミトキノン-C10:β-シクロデキストリン錯体を調製した。IRL社から提供されたミトキノン-C10は、エチルアルコールに入った赤みがかった黄色のシロップであった。これらミトキノン-C10:β-シクロデキストリン錯体の安定性を表4と図13、図14、図15に示してある。実験に利用できるミトキノン-C10:β-シクロデキストリン錯体は少量であるため、1日目と4日目の結果はない。
【0354】
【表4】
【0355】
光が当たらない状態の、40℃/相対湿度75%;25℃/相対湿度50%;4℃/青いシリカゲル上の3つの場合におけるミトキノン-C10:β-シクロデキストリン錯体の固体状態での安定性。データは、2つの数値の平均を割合(%)として示してある。
【0356】
この結果から、ミトキノン-C10がβ-シクロデキストリンとうまく錯体を形成することができ、β-シクロデキストリンとの錯体にすることによって安定化させうることがわかる。この結果から、ミトキノン-C10とβ-シクロデキストリンが1:1と1:2の錯体がさまざまな条件下で安定であったことがわかる。この結果からは、ミトキノン-C10とβ-シクロデキストリンが1:4の錯体は、ミトキノン-C10とβ-シクロデキストリンが1:1と1:2の錯体よりも安定性が悪かったこともわかる。
【0357】
実施例8. ミトキノン-C10メシラートの安定性の研究
ミトキノン-C10メシラート溶液の安定性
ミトキノン-C10メシラート溶液の安定性を、出願人の操作手続きに従い、5つの溶媒(水、0.01MのHCl、0.01MのNaOH、IPB(pH7.4)、50%MeOH)の中で、2つの温度25℃と40℃にて、空気中と窒素中で125日間にわたって調べた。
【0358】
水にミトキノン-C10メシラートが1mg/ml含まれた貯蔵溶液を希釈することにより、5種類の溶媒にミトキノン-C10メシラートを溶かした溶液(100μg/ml)を調製した。溶液(5ml)をガラス製バイアルに入れ、空気または窒素でパージし、封をして保管した。アリコート(0.25ml)を0日目、1日目、2日目、4日目、8日目、16日目、32日目、64日目、125日目に採取し、ミトキノン-C10の濃度をHPLCで測定した。
【0359】
結果を表5に示してある。0.01MのNaOHに溶かしたミトキノン-C10メシラートの安定性は除外してある。というのも、ミトキノン-C10メシラートは、この溶媒中で15分経たないうちに分解したからである。結果から、(a)溶液の安定性は、溶液の上方にある雰囲気とは独立であることと、(b)温度が、HClを除く他のすべての溶媒におけるミトキノン-C10の安定性に有意な効果を及ぼすことがわかる。
【0360】
【表5】
【0361】
データは、2つの数値の平均を時間0における値に対する割合(%)として示してある。
4つの溶媒中でのミトキノン-C10メシラート溶液の安定性は、図16、図17、図18、図19にも示してある。
【0362】
ミトキノン-C10メシラートの固体状態での安定性
光が当たらない状態で、40℃/相対湿度75%;25℃/相対湿度50%;4℃/青いシリカゲル上という3つの異なる条件におけるミトキノン-C10メシラートの固体状態での安定性を、出願人の標準操作手続きに従って調べた。
【0363】
重量がわかっているミトキノン-C10メシラートを透明なガラス瓶に入れ、さまざまな条件下で保管した。2通りのサンプルを1日目、2日目、4日目、8日目、16日目、32日目、64日目、125日目に採取し、そのサンプルを水に溶かした後にミトキノン-C10メシラートの濃度をHPLCで測定した。その結果を表6と図20に示してある。
【0364】
ミトキノン-C10メシラートは、4℃のシリカゲル上で125日間にわたって安定であり、25℃/相対湿度50%では60日間にわたって安定であった。
【0365】
【表6】
【0366】
データは、2つの数値の平均を時間0における値に対する割合(%)として示してある。
【0367】
実施例9. ミトキノン-C10メシラート-β-シクロデキストリン(1:2)錯体の安定性の研究
ミトキノン-C10メシラート-β-シクロデキストリン(1:2)錯体溶液の安定性
ミトキノン-C10メシラート-β-シクロデキストリン(1:2)錯体溶液の安定性を、出願人の操作手続きに従い、5つの溶媒(水、0.01MのHCl、0.01MのNaOH、IPB(pH7.4)、50%MeOH)の中で、2つの温度25℃と40℃にて、空気中と窒素中で64日間にわたって調べた。
【0368】
水にミトキノン-C10メシラート-β-シクロデキストリン(1:2)錯体(ミトキノン-C10メシラートとして1mg/ml)が含まれた貯蔵溶液を希釈することにより、5種類の溶媒にミトキノン-C10メシラート-β-シクロデキストリン(1:2)錯体を溶かした溶液(ミトキノン-C10メシラートとして100μg/ml)を調製した。溶液(5ml)をガラス製バイアルに入れ、空気または窒素でパージし、封をして保管した。アリコート(0.25ml)を0日目、1日目、2日目、4日目、8日目、16日目、32日目、64日目、125日目に採取し、濃度をHPLCで測定した。
【0369】
結果を、表7と、図21、図22、図23、図24に示してある。0.01MのNaOHに溶かしたミトキノン-C10メシラート-β-シクロデキストリン(1:2)錯体の安定性は除外してある。というのも、ミトキノン-C10メシラート-β-シクロデキストリン(1:2)錯体は、この溶媒中で15分経たないうちに分解したからである。結果から、(a)溶液の安定性は、溶液の上方にある雰囲気とは独立であることと、(b)温度が、HClを除く他のすべての溶媒におけるミトキノン-C10-β-シクロデキストリン(1:2)錯体の安定性に有意な効果を及ぼすことがわかる。
【0370】
【表7】
【0371】
データは、2つの数値の平均を時間0における値に対する割合(%)として示してある。
【0372】
ミトキノン-C10メシラート-β-シクロデキストリン(1:2)錯体の固体状態での安定性
光が当たらない状態で、40℃/相対湿度75%;25℃/相対湿度50%;4℃/青いシリカゲル上という3つの異なる条件におけるミトキノン-C10メシラート-β-シクロデキストリン(1:2)錯体の固体状態での安定性を、出願人の標準操作手続きに従って調べた。
【0373】
重量がわかっているミトキノン-C10メシラート-β-シクロデキストリン(1:2)錯体を透明なガラス瓶に入れ、さまざまな条件で保管した。2通りのサンプルを1日目、2日目、4日目、8日目、16日目、32日目、64日目、125日目に採取し、そのサンプルを水に溶かした後、ミトキノン-C10メシラートの濃度をHPLCで測定した。その結果を表8と図25に示してある。結果から、ミトキノン-C10メシラートは、ミトキノン-C10メシラート-β-シクロデキストリン(1:2)錯体の中で4℃のシリカゲル上と25℃/相対湿度50%において安定であったことがわかる。40℃/相対湿度75%で64日間にわたって保管すると、ミトキノン-C10メシラート-β-シクロデキストリン(1:2)錯体中の37%のミトキノン-C10メシラートが分解した。
【0374】
【表8】
【0375】
データは、2つの数値の平均を時間0における値に対する割合(%)として示してある。*非常に異なる2つの値の平均(71.9%と31.1%)。
【0376】
実施例10. ミトキノン-C10メシラート-β-シクロデキストリン(1:1)錯体の安定性の研究
溶液の安定性
ミトキノン-C10メシラート-β-シクロデキストリン(1:1)錯体溶液の安定性を、出願人の操作手続きに従い、5つの溶媒(水、0.01MのHCl、0.01MのNaOH、IPB(pH7.4)、50%MeOH)の中で、2つの温度25℃と40℃にて、空気中と窒素中で64日間にわたって調べた。
【0377】
水にミトキノン-C10メシラート-β-シクロデキストリン(1:1)錯体(ミトキノン-C10メシラートとして1mg/ml)が含まれた貯蔵溶液を希釈することにより、5種類の溶媒にミトキノン-C10メシラート-β-シクロデキストリン(1:1)錯体を溶かした溶液(ミトキノン-C10メシラートとして100μg/ml)を調製した。溶液(5ml)をガラス製バイアルに入れ、空気または窒素でパージし、封をして保管した。アリコート(0.25ml)を0日目、1日目、2日目、4日目、8日目、16日目、32日目、64日目、125日目に採取し、HPLCによって濃度を測定した。
【0378】
結果を、表9と、図26、図27、図28、図29に示してある。0.01MのNaOHに溶かしたミトキノン-C10メシラート-β-シクロデキストリン(1:1)錯体の安定性は除外してある。というのも、ミトキノン-C10メシラート-β-シクロデキストリン(1:1)錯体は、この溶媒中で15分経たないうちに分解したからである。結果から、(a)溶液の安定性は、溶液の上方にある雰囲気とは独立であることと、(b)温度が、水とIPBの中ではミトキノン-C10-β-シクロデキストリン(1:2)錯体の安定性に有意な効果を及ぼすが、HClまたは50%MeOHの中ではそうでないことがわかる。
【0379】
【表9】
【0380】
データは、2つの数値の平均を時間0における値に対する割合(%)として示してある。
【0381】
固体状態での安定性
光が当たらない状態で、40℃/相対湿度75%;25℃/相対湿度50%;4℃/青いシリカゲル上という3つの異なる条件におけるミトキノン-C10メシラート-β-シクロデキストリン(1:1)錯体の固体状態での安定性を、出願人の標準操作手続きに従って調べた。
【0382】
重量がわかっているミトキノン-C10メシラート-β-シクロデキストリン(1:1)錯体を透明なガラス瓶に入れ、さまざまな条件下で保管した。2通りのサンプルを1日目、2日目、4日目、8日目、16日目、32日目、64日目、125日目に採取し、そのサンプルを水に溶かした後、ミトキノン-C10メシラートの濃度をHPLCで測定した。その結果を表10と図30に示してある。結果から、ミトキノン-C10メシラートは、4℃のシリカゲル上と25℃/相対湿度50%において安定であったが、40℃/相対湿度75%で125日間にわたって保管すると、ミトキノン-C10メシラート-β-シクロデキストリン(1:1)錯体中の37%のミトキノン-C10メシラートが分解したことがわかる。
【0383】
【表10】
【0384】
データは、2つの数値の平均を時間0における値に対する割合(%)として示してある。
【0385】
実施例11. ミトキノン-C10メシラート-β-シクロデキストリン(1:2)錯体をラット(P2とP3)に1回だけ静脈内投与と経口投与したときの薬物動態の研究
ミトキノン-C10臭化物の薬物動態に関する以前の研究結果と、ミトキノン-C10-β-シクロデキストリン(1:2)錯体の急性経口毒性に関する研究結果とに基づき、薬物動態の研究のためのミトキノン-C10-β-シクロデキストリン(1:2)錯体の投与量を、経口投与ではミトキノン-C10メシラートが50mg/kg、静脈内投与ではミトキノン-C10メシラートが10mg/kgになるようにした。
【0386】
実験の48時間前にハロタン麻酔したメスのウィスター・ラット(平均体重が約236g)の右頸静脈に、シラスティック・チューブ技術を利用してカニューレを挿入した。ミトキノン-C10メシラート-β-シクロデキストリン(1:2)錯体水溶液(ミトキノン-C10メシラートとして10mg/ml)を新たに調製し、経口投与(n=5)または静脈内投与(n=5)した。血液サンプル(0.2ml)の採取を、静脈内投与後の0分後、5分後、10分後、20分後、30分後、45分後、60分後、90分後、120分後、180分後、240分後、360分後、720分後、1440分後(24時間後)に行ない、経口投与後の0分後、15分後、30分後、60分後、90分後、120分後、150分後、180分後、240分後、300分後、420分後、540分後、720分後、1440分後(24時間後)に行なった。血液サンプルを遠心分離し、血漿サンプル(0.1ml)を-20℃の冷凍庫の中で保管した。24時間後の尿と便のサンプルも回収した。
【0387】
LC/MSを利用したESRにより、血漿中のミトキノン-C10メシラートの濃度を測定した(表12)。
【0388】
薬物動態の分析
MINIMを用いた重みなしの反復非線形最小二乗回帰分析により、ミトキノン-C10の薬物動態を分析した。静脈内投与のデータは、1コンパートメント・モデル、2コンパートメント・モデル、3コンパートメント・モデルを用いてフィットした。最もよくフィットしたモデルは、赤池情報量規準(A.I.C.)に従う最小値を持つモデルである。薬剤を投与した後の血漿中の薬剤濃度-時間曲線は、以下の式:
【0389】
【数1】
【0390】
[式中、Cは血漿中の薬剤濃度であり、A、B、Eは数学的係数であり、αは分布相の速度定数であり、βは中間相(分布または排泄)の速度定数であり、γはより遅い最終排泄相の速度定数である。]
で表わされる3コンパートメント・オープン・モデルに最もよく、しかも十分にフィットすることがわかった。最終相における薬剤排泄の半減期(t1/2)は、t1/2=0.6963/γとして計算した。経口投与のデータ(4時間後)を、1コンパートメント・モデルを用いてフィットさせた。ピーク濃度(Cmax)とCmaxに到達する時間(t1/2)は、濃度-時間曲線から直接得た。血漿濃度-時間曲線(AUC)よりも下の部分の面積を、線形台形公式を利用して評価した。そのとき、最後に測定した濃度から、最終排泄速度定数(γ)を用いて決定した無限遠への外挿を行なった。静脈内投与後の全血漿クリアランス(CL)と経口投与後の全血漿クリアランス(CL/F)を、CL=投与量/AUCとして評価した。分布の体積は、Vβ=投与量/(AUC・β)およびVγ=投与量/(AUC・γ)として計算した。生物学的利用能の絶対値(F)は、F=(経口投与のAUC×静脈内投与の投与量)/(静脈内投与のAUC×経口投与の投与量)として計算した。平均滞在時間(MRT)は、AUMC/AUCとして計算した。定常状態での分布の見かけの体積(Vss)は、(静脈内投与の投与量×AUMC)/(AUC)2として計算した。
【0391】
結果と考察
ミトキノン-C10メシラート-β-シクロデキストリン(1:2)錯体を静脈内投与または経口投与した後のミトキノン-C10メシラートの平均血漿濃度-時間曲線を図31に示してあり、平均薬物動態パラメータを表11にリストにしてある。ミトキノン-C10メシラートのオリジナルデータを添付した(表12)。
【0392】
【表11】
【0393】
【表12】
【0394】
静脈内投与すると、非常に速い分布相の後に、より遅い分布相または初期排泄相が続き、約4時間後に、継続した排泄相が続く。ミトキノン-C10の濃度-時間曲線は、最終半減期が1.8時間の3コンパートメント・モデルにフィットした。しかし投与4時間後データと呼ばれるデータに基づく半減期は14.3時間である(表13)。
【0395】
経口投与後、ミトキノン-C10はラットの胃腸管から迅速に吸収された。ミトキノン-C10の血漿濃度のピークは、経口投与後1時間以内に起こり、その後時間経過とともにゆっくりと低下した。4時間後データに基づく排泄半減期は約14時間である。Fの推定値は12.4%である。
【0396】
【表13】
【0397】
この明細書で参照したり言及したりした特許、出版物、学術論文、これら以外の文献や資料は、本発明に関する当業者のレベルを示しており、そのようなそれぞれの文書や材料は、その全体が参考として個別に組み込まれているか、全体がこの明細書に開示されているかのように、参考としてこの明細書に組み込まれているものとする。出願人は、この明細書の中に、そのような特許、出版物、学術論文、ウェブ・サイト、電子的に利用できる情報、参照した他の資料や文献のすべてを物理的に組み込む権利を有する。
【0398】
この明細書に記載した具体的な方法と組成物は、さまざまな実施態様または好ましい実施態様を代表している例示にすぎず、本発明の範囲がそれに制限されることは意図していない。当業者であれば、この明細書について考察すると他の目的、側面、実施例、実施態様を思いつくであろうゆえ、それも本発明の範囲によって規定される本発明の精神に含まれる。当業者であれば、この明細書に開示されている本発明に対し、本発明の範囲と精神を逸脱することなく、いろいろな置換や変更が可能であることが容易にわかるであろう。この明細書に具体的に記述した本発明は何らかの要素または制限がなくても実施できるため、そのような要素または制限は、重要であるとしてこの明細書に具体的に開示されてはない。例えばこの明細書のそれぞれの場合や、本発明の実施態様または実施例において、“…を含む”、“主に…からなる”、“…からなる”という表現は、この明細書では他の2つの表現のうちの一方で置き換えることができる。また、“含む”、“などがある”、“含有する”などの表現は、広く、しかも制限なしに読まれるべきである。この明細書に具体的に記述した方法や製法は、ステップの順番を変えて実行することができ、この明細書または請求項に示したステップの順番に必ずしも限定されない。この明細書と添付の請求項では、単数形の“1つの”、“その”には、文脈から明らかにわかる場合を除き、複数形も含まれる。例えば“1つの宿主細胞”には、複数のそのような宿主細胞(例えば培養物または集団)が含まれるといった具合である。いかなる場合でも、この特許が、この明細書に具体的に開示した特別な実施例または実施態様または方法に限定されると解釈してはならない。いかなる場合でも、この特許が、あらゆる審査官や、特許商標庁の他のあらゆる役人または職員のどのような意見によっても制限されると解釈してはならない。ただしその意見が、出願人の書面による回答において、特別に、しかも制限も留保もなく明白に採用された場合は別である。
【0399】
使用した用語や表現は説明のためであって本発明を制限するためではなく、そのような用語や表現を用いるとき、この明細書に示して説明した特徴と同等なあらゆるもの、またはその一部が除外されることは意図しておらず、権利を主張する本発明の範囲内でさまざまな変更が可能であると考えている。したがって、本発明を好ましい実施態様とそれに付随する特徴を通じて具体的に開示してきたが、当業者であれば、この明細書に開示した考え方を変更したり変形したりすることができ、そのような変更や変形は、添付の請求項に規定されている本発明の範囲に含まれると見なされる。
【0400】
この明細書では、本発明を広くかつ一般的に記述してきた。一般的な開示内容に含まれるそれよりも狭い範囲のそれぞれの内容も、本発明の一部をなす。それぞれの内容には本発明の一般的な説明が含まれるとはいえ、その一般的な説明から何らかのテーマが、そのテーマが具体的にこの明細書に記載されているかどうかには関係なく、除外されているという条件または負の制約がある。
【0401】
他の実施態様は、添付の請求項に含まれる。さらに、本発明の特徴または側面がマーカッシュ群で記載されている場合には、当業者であれば、マーカッシュ群の個々のあらゆるメンバーまたはメンバーの下位群を用いて本発明を記述できることもわかるであろう。
【0402】
本発明の化合物をヒト患者に対する選択的抗酸化療法に応用し、ミトコンドリアの損傷を防止することができる。そうすると、特定の疾患、例えばパーキンソン病や、ミトコンドリアDNAの突然変異に伴う疾患が原因でミトコンドリアの酸化ストレスが増大するのを防止できる可能性がある。本発明の化合物を神経変性疾患のための細胞移植療法と組み合わせて使用し、移植した細胞の生存率を大きくすることもできよう。
【0403】
さらに、これらの化合物は、移植の間に臓器を保護するための予防法、または手術の間に起こる虚血-再灌流障害を改善するため予防法として用いることができよう。本発明の化合物は、脳卒中や心筋梗塞の後の細胞損傷を減らすのに使用することや、脳虚血になりやすい未熟児に予防的に与えることもできよう。本発明の方法は、現在の抗酸化療法と比べて大きな利点がある。すなわち、酸化ストレスを最も受ける細胞部位であるミトコンドリアの内部に、抗酸化剤を選択的に蓄積させることができる。すると抗酸化療法の効果が非常に大きくなる。
【0404】
当業者であれば、上記の説明が単なる例示であり、本発明の範囲を逸脱することなく、異なる親油性カチオン/抗酸化剤の組み合わせを採用できることがわかるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0405】
【図1】図1は、ミトコンドリアによる両親媒性抗酸化化合物の取り込みを示す図である。ここには、活性化したミトキノン-C10がミトコンドリアに取り込まれる様子が示してある。
【図2A】図2Aは、ミトキノン-C3の合成経路の合成経路である。
【図2B】図2Bは、ミトキノン-C5の合成経路の合成経路である。
【図2C】図2Cは、ミトキノン-C15の合成経路である。
【図3】図3は、ミトキノン抗酸化化合物の構造と、関連する化合物TPMPを示してある。同じスケールで描いたリン脂質をこれらのミトキノン抗酸化化合物と並べることにより、ユビキノール側鎖がリン脂質二重層の1つの単分子層に最大でどこまで侵入できる可能性があるかがわかる。A:TPMP。B:ミトキノン-C3。C:ミトキノン-C5。D:ミトキノン-C10。E:ミトキノン-C15。F:リン脂質。
【図4】図4は、ミトコンドリアによる抗酸化化合物の取り込みと結合を、イオン選択的電極を用いて測定した結果を示すグラフである。A:ミトキノン-C3。B:ミトキノン-C5。C:ミトキノン-C10。D:ミトキノン-C15。左側の図では、ロテノンとミトコンドリア(1mlにつきタンパク質1mg)が存在しているとき、抗酸化化合物を1μMずつ5回(黒い矢印)続けて添加し、電極の応答を較正した。右側の図では、まず最初に抗酸化化合物を1μMずつ5回(黒い矢印)続けて添加した後、ミトコンドリア(1mlにつきタンパク質1mg)を添加して電極を較正した。どちらの場合にも、コハク酸塩を添加して膜電位を発生させ、FCCPを添加してその電位を消失させた。データは、少なくとも2〜3回繰り返した実験の典型的な軌跡である。
【図5】図5は、抗酸化化合物の抗酸化効率を示すグラフである。A:ミトコンドリアの活性化を、コハク酸塩を用いて(黒い棒)、あるいはATP再生系(ATPと、ピルビン酸ホスフェノールと、ピルビン酸キナーゼからなる)とともにインキュベートすることによって(白い棒)実現した。さまざまなミトキノン・アナログ、またはTPMP、または担体とともに30秒間にわたって予備インキュベーションを行なった後、50μMのFeCl2と300μMのH2O2を添加することによって酸化ストレスを誘導した。37℃にて15分間インキュベートした後、TBARを測定することによって脂質の過酸化を評価した。データは、2回の独立した実験の平均値±分布範囲である。ATPの存在下でミトキノン-C5が脂質の過酸化に対して示す保護効果が小さいのは、ミトキノン-C5の一部をユビキノールの形態になった貯蔵溶液から添加したことによる。B:コハク酸塩またはATP再生系によって誘導されるミトコンドリアの膜電位を、[3H]TPMPの蓄積から測定した。データは、25分間のインキュベーションを2回行なった測定結果の平均値±分布範囲である。5分間インキュベートした後の膜電位は同じであった(データは示さず)。C:抗酸化化合物によるTBARの蓄積阻止の濃度依存性を測定した。すべてのインキュベーションは、Aで説明したようにコハク酸塩の存在下で行なった。結果は、TBARの形成が阻害される割合(%)として表現する。ただし、ミトキノン・アナログの不在下でFeCl2/H2O2に曝露したサンプルの値を阻害が0%であるとし、対照サンプル(FeCl2/H2O2を添加しない)を100%とする。提示したデータは、各濃度で測定した典型的な3回の滴定値の平均値±標準偏差である。D:脂質の過酸化を阻止するIC50の濃度。データは、Cに示してある独立した3回の滴定から評価した平均値±標準誤差である。ミトキノン-C3のIC50に関する統計的有意さを、スチューデントの両側t検定を利用して調べた:*はp<00.05;**はp<0.005。
【図6】図6は、冠状動脈洞流に対するミトキノン-C10とミトキノン-C3の効果を示すグラフである。
【図7】図7は、左心室拡張期血圧に対するミトキノン-C10とミトキノン-C3の効果を示すグラフである。
【図8】図8は、心拍数に対するミトキノン-C10とミトキノン-C3の効果を示すグラフである。
【図9】図9は、左心室の血圧変化速度を示すグラフである。
【図10】図10は、虚血後のミトコンドリア呼吸機能に対するミトキノン-C10とミトキノン-C3の効果を示すグラフである。
【図11】図11は、透明なガラス瓶内のミトキノン-C10(バッチ番号3)の安定性を、40℃/相対湿度75%;25℃/相対湿度50%;5℃/シリカゲル上の3つの場合について示したグラフである。
【図12】図12は、ミトキノン-C10(バッチ番号4)の安定性を、25℃/相対湿度50%について示したグラフである。
【図13】図13は、ミトキノン-C10-β-シクロデキストリン(1:1)錯体の固体状態での安定性を、4℃/シリカゲル上;25℃/相対湿度50%;40℃/相対湿度75%の3つの場合について示したグラフである。
【図14】図14は、ミトキノン-C10-β-シクロデキストリン(1:2)錯体の固体状態での安定性を、4℃/シリカゲル上;25℃/相対湿度50%;40℃/相対湿度75%の3つの場合について示したグラフである。
【図15】図15は、ミトキノン-C10-β-シクロデキストリン(1:4)錯体の固体状態での安定性を、4℃/シリカゲル上;25℃/相対湿度50%;40℃/相対湿度75%の3つの場合について示したグラフである。
【図16】図16は、水中でのミトキノン-C10メシラートの安定性を示すグラフである。
【図17】図17は、0.01MのHCl中でのミトキノン-C10メシラートの安定性を示すグラフである。
【図18】図18は、IPB(pH7.4)中でのミトキノン-C10メシラートの安定性を示すグラフである。
【図19】図19は、50%メタノール中でのミトキノン-C10メシラートの安定性を示すグラフである。
【図20】図20は、ミトキノン-C10メシラートの固体状態での安定性を、40℃/相対湿度75%;25℃/相対湿度50%;4℃/青いシリカゲル上の3つの場合について示したグラフである。
【図21】図21は、水中でのミトキノン-C10メシラート-β-シクロデキストリン(1:2)錯体の安定性を示すグラフである。
【図22】図22は、0.01MのHCl中でのミトキノン-C10メシラート-β-シクロデキストリン(1:2)錯体の安定性を示すグラフである。
【図23】図23は、IPB(pH7.4)中でのミトキノン-C10メシラート-β-シクロデキストリン(1:2)錯体の安定性を示すグラフである。
【図24】図24は、50%メタノール中でのミトキノン-C10メシラート-β-シクロデキストリン(1:2)錯体の安定性を示すグラフである。
【図25】図25は、ミトキノン-C10メシラート-β-シクロデキストリン(1:2)錯体の固体状態での安定性を、40℃/相対湿度75%;25℃/相対湿度50%;4℃/青いシリカゲル上の3つの場合について示したグラフである。
【図26】図26は、水中でのミトキノン-C10メシラート-β-シクロデキストリン(1:1)錯体の安定性を示すグラフである。
【図27】図27は、0.01MのHCl中でのミトキノン-C10メシラート-β-シクロデキストリン(1:1)錯体の安定性を示すグラフである。
【図28】図28は、IPB(pH7.4)中でのミトキノン-C10メシラート-β-シクロデキストリン(1:1)錯体の安定性を示すグラフである。
【図29】図29は、50%メタノール中でのミトキノン-C10メシラート-β-シクロデキストリン(1:1)錯体の安定性を示すグラフである。
【図30】図30は、ミトキノン-C10メシラート-β-シクロデキストリン(1:1)錯体の固体状態での安定性を、40℃/相対湿度75%;25℃/相対湿度50%;4℃/青いシリカゲル上の3つの場合について示したグラフである。
【図31】図31は、ミトキノン-C10メシラートをミトキノン-C10メシラート-β-シクロデキストリン(1:2)錯体としてラットに1回(A)静脈内投与(10mg/kg);(B)経口投与(50mg/kg)した後の、ラットの血漿中でのミトキノン-C10濃度-時間曲線を示すグラフである(n=5)。このデータから得られた薬物動態パラメータを表11に示してある。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リンク部分によって抗酸化部分と結合している親油性カチオン部分と、そのカチオン部分に対するアニオン相補部とを含む化合物であって、当該カチオン種がミトコンドリアの抗酸化部分を標的にでき、および塩の形態が化学的に安定であり、および/または当該アニオン相補部が、抗酸化部分、カチオン部分またはリンク部分に対して反応性を示さない、前記化合物。
【請求項2】
リンク部分によって抗酸化部分と結合している親油性カチオン部分と、そのカチオン部分に対するアニオン相補部とを含む安定な化合物であって、当該カチオン種がミトコンドリアの抗酸化部分を標的にでき、および当該アニオン相補部がハロゲンイオンでなくおよび当該アニオン相補部が非求核性であり、および/または当該アニオン相補部が抗酸化部分、カチオン部分またはリンク部分に対して反応性を示さない、前記化合物。
【請求項3】
前記抗酸化部分がキノンまたはキノールである、請求項1または2に記載の化合物。
【請求項4】
前記抗酸化部分が、ビタミンE、ビタミンE誘導体、鎖破断抗酸化剤、例えばブチル化ヒドロキシアニソール、ブチル化ヒドロキシトルエン、一般的なラジカル捕獲剤、例えば誘導体化したフラーレン、スピン・トラップ、例えば5,5-ジメチルピロリン-N-オキシド、tert-ブチルニトロソベンゼン、tert-ニトロソベンゼン、α-フェニル-tert-ブチルニトロンの誘導体および関連した化合物を含む群から選ばれる、請求項1または2に記載の化合物。
【請求項5】
前記親油性カチオン部分が、置換された/置換されていないトリフェニルホスホニウム・カチオンである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項6】
前記化合物が一般式(I):
【化1】
[式中、R1、R2およびR3は、互いに同じでも異なっていてもよく、(場合によっては置換されている)C1〜C5アルキル部分とHの中から選択され、およびnは約2〜約20の整数であり、およびZは非反応性アニオンである。]
で表される化合物、および/またはそのキノール形態を有する、請求項5に記載の化合物。
【請求項7】
Zが、スルホン酸アルキル、硝酸アルキル、スルホン酸アリールまたは硝酸アリールからなる群より選ばれる、請求項6に記載の化合物。
【請求項8】
(C)n鎖のCが飽和している、請求項6または7に記載の化合物。
【請求項9】
前記化合物が一般式:
【化2】
[式中、Zは非求核性アニオンである。]
で表される化合物、および/またはそのキノール形態を有する、請求項8に記載の化合物。
【請求項10】
前記化合物が一般式:
【化3】
を有する、請求項9に記載の化合物。
【請求項11】
リンク部分によって抗酸化部分と結合している親油性カチオン部分と、そのカチオン部分に対するアニオン相補部とを含む化合物を含む医薬組成物であって、当該カチオン種がミトコンドリアの抗酸化部分を標的にでき、および塩の形態が化学的に安定であり、および/または当該アニオン相補部が、抗酸化部分、カチオン部分またはリンク部分に対して反応性を示さない、前記医薬組成物。
【請求項12】
リンク部分によって抗酸化部分と結合している親油性カチオン部分と、そのカチオン部分に対するアニオン相補部とを含む安定な化合物を含む医薬組成物であって、当該カチオン種がミトコンドリアの抗酸化部分を標的にでき、および当該アニオン相補部がハロゲンイオンでなく、および/または当該アニオン相補部が非求核であり、および/または抗酸化部分、カチオン部分またはリンク部分に対して反応性を示さない、前記医薬組成物。
【請求項13】
前記抗酸化部分がキノンまたはキノールである、請求項11または12に記載の医薬組成物。
【請求項14】
前記抗酸化部分が、ビタミンE、ビタミンE誘導体、鎖破断抗酸化剤、例えばブチル化ヒドロキシアニソール、ブチル化ヒドロキシトルエン、一般的なラジカル捕獲剤、例えば誘導体化したフラーレン、スピン・トラップ、例えば5,5-ジメチルピロリン-N-オキシド、tert-ブチルニトロソベンゼン、tert-ニトロソベンゼン、α-フェニル-tert-ブチルニトロンの誘導体および関連した化合物を含む群から選ばれる、請求項11または12に記載の医薬組成物。
【請求項15】
前記親油性カチオン部分が、置換された/置換されていないトリフェニルホスホニウム・カチオンである、請求項11〜14のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項16】
前記化合物が一般式(I):
【化4】
[式中、R1、R2およびR3は、互いに同じでも異なっていてもよく、(場合によっては置換されている)C1〜C5アルキル部分とHの中から選択され、およびnは約2〜約20の整数であり、およびZは非反応性アニオンである。]
で表される化合物、および/またはそのキノール形態を有する、請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項17】
Zが、スルホン酸アルキル、硝酸アルキル、スルホン酸アリールまたは硝酸アリールからなる群より選ばれる、請求項16に記載の医薬組成物。
【請求項18】
(C)n鎖のCが飽和している、請求項16または17に記載の医薬組成物。
【請求項19】
前記化合物が一般式:
【化5】
[式中、Zは非求核性アニオンである。]
で表される化合物、および/またはそのキノール形態を有する、請求項18に記載の医薬組成物。
【請求項20】
シクロデキストリンを含む、請求項11〜19のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項21】
前記化合物とシクロデキストリンとのモル比が約10:1〜約1:10である、請求項20に記載の医薬組成物。
【請求項22】
前記化合物とシクロデキストリンとのモル比が約5:1〜約1:5である、請求項21に記載の医薬組成物。
【請求項23】
前記化合物とシクロデキストリンとのモル比が約4:1〜約1:4である、請求項22に記載の医薬組成物。
【請求項24】
前記化合物とシクロデキストリンとのモル比が約2:1〜約1:2である、請求項23に記載の医薬組成物。
【請求項25】
前記化合物とシクロデキストリンとのモル比が約1:1である、請求項24に記載の医薬組成物。
【請求項26】
上記化合物とシクロデキストリンのモル比が約1:2である、請求項24に記載の医薬組成物。
【請求項27】
前記化合物が一般式:
【化6】
を有する、請求項20〜26のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項28】
前記シクロデキストリンがβ-シクロデキストリンである、請求項11〜27のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項29】
前記化合物が一般式:
【化7】
を有しかつその化合物とシクロデキストリンとのモル比が約1:2である、請求項28に記載の医薬組成物。
【請求項30】
経口投与用に調合される、請求項11〜29のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項31】
非経口投与用に調合される、請求項11〜29のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項32】
リンク部分によって抗酸化部分と結合している親油性カチオン部分と、そのカチオン部分に対するアニオン相補部とを含む化合物であって、当該カチオン種がミトコンドリアの抗酸化部分を標的にでき、および塩の形態が化学的に安定であり、および/または当該アニオン相補部が、抗酸化部分、カチオン部分またはリンク部分に対して反応性を示さない、前記化合物と、任意の薬学的に許容される希釈剤および/または担体および/または賦形剤とを組み合わせて含む、投薬単位。
【請求項33】
リンク部分によって抗酸化部分と結合している親油性カチオン部分と、そのカチオン部分に対するアニオン相補部とを含む安定な化合物を含む投薬単位であって、当該カチオン種がミトコンドリアの抗酸化部分を標的にでき、および当該アニオン相補部がハロゲンイオンでなく、および/または当該アニオン相補部が非求核性であり、および/または当該アニオン相補部が抗酸化部分、カチオン部分またはリンク部分に対して反応性を示さない、前記投薬単位。
【請求項34】
前記抗酸化部分がキノンまたはキノールである、請求項32または33に記載の投薬単位。
【請求項35】
前記抗酸化部分が、ビタミンE、ビタミンE誘導体、鎖破断抗酸化剤、例えばブチル化ヒドロキシアニソール、ブチル化ヒドロキシトルエン、一般的なラジカル捕獲剤、例えば誘導体化したフラーレン、スピン・トラップ、例えば5,5-ジメチルピロリン-N-オキシド、tert-ブチルニトロソベンゼン、tert-ニトロソベンゼン、α-フェニル-tert-ブチルニトロンの誘導体および関連した化合物を含む群より選ばれる、請求項32または33に記載の投薬単位。
【請求項36】
前記親油性カチオン部分が、置換された/置換されていないトリフェニルホスホニウム・カチオンである、請求項32〜35のいずれか1項に記載の投薬単位。
【請求項37】
前記化合物が一般式(I):
【化8】
[式中、R1、R2およびR3は、互いに同じでも異なっていてもよく、(場合によっては置換されている)C1〜C5アルキル部分とHの中から選択され、およびnは約2約20の整数であり、およびZは非反応性アニオンである。]
で表される化合物、および/またはそのキノール形態を有する、請求項36に記載の投薬単位。
【請求項38】
Zの選択が、スルホン酸アルキル、硝酸アルキル、スルホン酸アリール、硝酸アリールからなるグループの中からなされる、請求項37に記載の投薬単位。
【請求項39】
(C)n鎖のCが飽和している、請求項37または38に記載の投薬単位。
【請求項40】
前記化合物が一般式:
【化9】
[式中、Zは非求核性アニオンである。]
で表される化合物、および/またはそのキノール形態を有する、請求項39に記載の投薬単位。
【請求項41】
シクロデキストリンを含む、請求項32〜40のいずれか1項に記載の投薬単位。
【請求項42】
前記化合物とシクロデキストリンとのモル比が約10:1〜約1:10である、請求項41に記載の投薬単位。
【請求項43】
前記化合物とシクロデキストリンとのモル比が約5:1〜約1:5である、請求項42に記載の投薬単位。
【請求項44】
前記上記化合物とシクロデキストリとのモル比が約4:1〜約1:4である、請求項43に記載の投薬単位。
【請求項45】
前記上記化合物とシクロデキストリンとのモル比が約2:1〜約1:2である、請求項44に記載の投薬単位。
【請求項46】
前記化合物とシクロデキストリンとのモル比が約1:1である、請求項45に記載の投薬単位。
【請求項47】
前記化合物とシクロデキストリンとのモル比が約1:2である、請求項45に記載の投薬単位。
【請求項48】
前記化合物が一般式:
【化10】
を有する、請求項40〜47のいずれか1項に記載の投薬単位。
【請求項49】
前記シクロデキストリンがβ-シクロデキストリンである、請求項41〜48のいずれか1項に記載の投薬単位。
【請求項50】
前記化合物が一般式:
【化11】
を有しかつその化合物とシクロデキストリンとのモル比が約1:2である、請求項49に記載の投薬単位。
【請求項51】
経口投与用に調合される、請求項32〜50のいずれか1項に記載の投薬単位。
【請求項52】
非経口投与用に調合される、請求項32〜50のいずれか1項に記載の投薬単位。
【請求項53】
哺乳動物への投与による、哺乳動物の酸化ストレスの予防または治療において使用するための、請求項1〜10のいずれか1項に記載の化合物、またはその薬学的に許容される塩。
【請求項54】
哺乳動物への投与による、哺乳動物の加齢症状の予防または治療において使用するための、請求項1〜10のいずれか1項に記載の化合物、またはその薬学的に許容される塩。
【請求項55】
第1日目に1日当たりの維持量の約1.02〜約2.0倍が投与され、その後は1日当たりの維持量が毎日投与される、請求項53または54に記載の化合物、またはその薬学的に許容される塩。
【請求項56】
前記化合物が一般式:
【化12】
[式中、Zは非求核性アニオンである。]
で表される化合物、および/またはそのキノール形態を有する、請求項53〜55のいずれか1項に記載の化合物またはその薬学的に許容される塩。
【請求項57】
前記塩がメタンスルホン酸塩である、請求項53〜56のいずれか1項に記載の化合物またはその薬学的に許容される塩。
【請求項58】
前記化合物がシクロデキストリンと組み合わされる、請求項53〜56のいずれか1項に記載の化合物またはその薬学的に許容される塩。
【請求項59】
前記化合物が一般式:
【化13】
を有しかつシクロデキストリンがβ-シクロデキストリンであり、当該化合物とシクロデキストリンとのモル比が約1:2である、請求項58に記載の化合物。
【請求項60】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の化合物を活性成分として含み、その化合物が結晶形態および/または非液体形態である、あるいはその化合物が結晶形態および/または非液体形態に調合される、経口投与に適した投薬単位。
【請求項61】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の化合物を活性成分として含む、非経口投与に適した投薬単位。
【請求項62】
酸化ストレスまたは加齢症状の低減による利益を受ける可能性のある患者の治療に適した医薬組成物であって、請求項1〜10のいずれか1項に記載の化合物の有効量を、1種類以上の薬学的に許容される担体、賦形剤または希釈剤と組み合わせて含む医薬組成物。
【請求項63】
前記化合物が一般式(I):
【化14】
[式中、R1、R2およびR3は、互いに同じでも異なっていてもよく、(場合によっては置換されている)C1〜C5アルキル部分とHの中から選択され、およびnは約2約20の整数であり、およびZは非反応性アニオンである。]
で表される化合物、および/またはそのキノール形態を有する、請求項62に記載の医薬組成物。
【請求項64】
前記化合物が一般式:
【化15】
[式中、Zは非求核性アニオンである。]
で表される化合物、および/またはそのキノール形態を有する、請求項63に記載の医薬組成物。
【請求項65】
シクロデキストリンを含む、請求項62〜64のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項66】
前記化合物とシクロデキストリンとのモル比が約10:1〜約1:10である、請求項65に記載の医薬組成物。
【請求項67】
前記化合物とシクロデキストリンとのモル比が約5:1〜約1:5である、請求項66に記載の医薬組成物。
【請求項68】
前記化合物とシクロデキストリンとのモル比が約4:1〜約1:4である、請求項67に記載の医薬組成物。
【請求項69】
前記化合物とシクロデキストリンとのモル比が約2:1〜約1:2である、請求項68に記載の医薬組成物。
【請求項70】
前記化合物とシクロデキストリンとのモル比が約1:1である、請求項69に記載の医薬組成物。
【請求項71】
前記化合物とシクロデキストリンとのモル比が約1:2である、請求項69に記載の医薬組成物。
【請求項72】
前記化合物が一般式:
【化16】
を有する、請求項65〜71のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項73】
前記シクロデキストリンがβ-シクロデキストリンである、請求項65〜72のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項74】
前記化合物が一般式:
【化17】
を有しかつその化合物とシクロデキストリンとのモル比が約1:2である、請求項73に記載の医薬組成物。
【請求項75】
経口投与用に調合される、請求項61〜74のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項76】
非経口投与用に調合される、請求項61〜74のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項77】
細胞内の酸化ストレスを減らす方法であって、当該細胞を、リンク部分によって抗酸化部分と結合している親油性カチオン部分と、そのカチオン部分に対するアニオン相補部とを含む化合物に接触させるステップを含み、
当該カチオン種がミトコンドリアの抗酸化部分を標的にでき、および塩の形態が化学的に安定であり、および/または当該アニオン相補部が、抗酸化部分、カチオン部分またはリンク部分に対して反応性を示さない、前記方法。
【請求項78】
細胞内の酸化ストレスを減らす方法であって、当該細胞を、リンク部分によって抗酸化部分と結合している親油性カチオン部分と、そのカチオン部分に対するアニオン相補部とを含む安定化合物に接触させるステップを含み、
当該カチオン種がミトコンドリアの抗酸化部分を標的にでき、および当該アニオン相補部がハロゲンイオンでなく、および当該アニオン相補部が非求核性であり、および/または当該アニオン相補部が、抗酸化部分、カチオン部分またはリンク部分に対して反応性を示さない、前記方法。
【請求項79】
前記化合物が一般式:
【化18】
[式中、R1、R2およびR3は、互いに同じでも異なっていてもよく、(場合によっては置換されている)C1〜C5アルキル部分とHの中から選択され、およびnは約2約20の整数であり、およびZは非反応性アニオンである。]
で表される化合物、および/またはそのキノール形態を有する、請求項77または78に記載の方法。
【請求項80】
前記化合物が一般式:
【化19】
[式中、Zは非求核性アニオンである。]
で表される化合物、および/またはそのキノール形態を有する、請求項79に記載の方法。
【請求項81】
シクロデキストリンを含む、請求項77〜80のいずれか1項に記載の方法。
【請求項82】
前記化合物とシクロデキストリンとのモル比が約10:1〜約1:10である、請求項81に記載の方法。
【請求項83】
前記化合物とシクロデキストリンとのモル比が約5:1〜約1:5である、請求項82に記載の方法。
【請求項84】
前記化合物とシクロデキストリンとのモル比が約4:1〜約1:4である、請求項83に記載の方法。
【請求項85】
前記化合物とシクロデキストリンとのモル比が約2:1〜約1:2である、請求項84に記載の方法。
【請求項86】
前記化合物とシクロデキストリンとのモル比が約1:1である、請求項85に記載の方法。
【請求項87】
前記化合物とシクロデキストリンとのモル比が約1:2である、請求項85に記載の方法。
【請求項88】
前記化合物が一般式:
【化20】
を有する、請求項81〜87のいずれか1項に記載の方法。
【請求項89】
前記シクロデキストリンがβ-シクロデキストリンである、請求項81〜88のいずれか1項に記載の方法。
【請求項90】
前記化合物が一般式:
【化21】
を有しかつその化合物とシクロデキストリンとのモル比が約1:2である、請求項89に記載の方法。
【請求項91】
酸化ストレスおよび/または加齢症状の低減による利益を受ける可能性のある患者の治療法および/または予防法であって、化合物、組成物および/または剤形をその患者に投与するステップを含み、
当該化合物、組成物および/または剤形が、リンク部分によって抗酸化部分と結合している親油性カチオン部分と、そのカチオン部分に対するアニオン相補部とを含み、当該カチオン種がミトコンドリアの抗酸化部分を標的にでき、および塩の形態が化学的に安定であり、および/または当該アニオン相補部が、抗酸化部分、カチオン部分またはリンク部分に対して反応性を示さない、前記方法。
【請求項92】
酸化ストレスおよび/または加齢症状の低減による利益を受ける可能性のある患者の治療法および/または予防法であって、化合物、組成物および/または剤形をその患者に投与するステップを含み、
当該化合物、組成物および/または剤形が、リンク部分によって抗酸化部分と結合している親油性カチオン部分と、そのカチオン部分に対するアニオン相補部とを含み、当該カチオン部分がミトコンドリアの抗酸化部分を標的にでき、および当該アニオン相補部がハロゲンイオンでなく、および当該アニオン相補部が非求核であり、および/または抗酸化部分、カチオン部分またはリンク部分に対して反応性を示さない、前記方法。
【請求項93】
前記組成物が、請求項11〜31のいずれか1項に記載の組成物である、請求項91に記載の方法。
【請求項94】
前記剤形が、請求項32〜52のいずれか1項に記載の剤形である、請求項91に記載の方法。
【請求項95】
ミトコンドリアを標的とする前記抗酸化化合物が、一般式(I):
【化22】
[式中、R1、R2およびR3は、互いに同じでも異なっていてもよく、(場合によっては置換されている)C1〜C5アルキル部分とHの中から選択され、およびnは約2約20の整数であり、およびZは非反応性アニオンである。]
で表される化合物、および/またはそのキノール形態を有する、請求項91または92に記載の方法。
【請求項96】
前記化合物がシクロデキストリンと錯体化される、請求項95に記載の方法。
【請求項97】
前記化合物とシクロデキストリンとのモル比が約10:1〜約1:10である、請求項96に記載の方法。
【請求項98】
前記化合物とシクロデキストリンとのモル比が約5:1〜約1:5である、請求項97に記載の方法。
【請求項99】
前記化合物とシクロデキストリンとのモル比が約4:1〜約1:4である、請求項98に記載の方法。
【請求項100】
前記化合物とシクロデキストリンとのモル比が約2:1〜約1:2である、請求項99に記載の方法。
【請求項101】
前記化合物とシクロデキストリンとのモル比が約1:1である、請求項100に記載の方法。
【請求項102】
前期化合物とシクロデキストリンとのモル比が約1:2である、請求項100に記載の方法。
【請求項103】
前記化合物が一般式:
【化23】
を有する、請求項95〜102のいずれか1項に記載の方法。
【請求項104】
前記シクロデキストリンがβ-シクロデキストリンである、請求項95〜103のいずれか1項に記載の方法。
【請求項105】
前記化合物が一般式:
【化24】
を有しかつその化合物とシクロデキストリンとのモル比が約1:2である、請求項104に記載の方法。
【請求項106】
経口投与用に調合される、請求項91〜105のいずれか1項に記載の方法。
【請求項107】
非経口投与用に調合される、請求項91〜105のいずれか1項に記載の方法。
【請求項108】
患者の酸化ストレスの低減の使用において有効な薬物、剤形、医薬組成物の調製または製造における、リンク部分によって抗酸化部分と結合している親油性カチオン部分と、そのカチオン部分に対するアニオン相補部とを含む化合物の使用であって、
当該カチオン種がミトコンドリアの抗酸化部分を標的にでき、および塩の形態が化学的に安定であり、および/または当該アニオン相補部が、抗酸化部分、カチオン部分またはリンク部分に対して反応性を示さない、前記使用。
【請求項109】
患者の加齢症状の低減の使用において有効な薬物、剤形、医薬組成物の他の1種以上の材料を用いる調製または製造における、低減リンク部分によって抗酸化部分と結合している親油性カチオン部分と、そのカチオン部分に対するアニオン相補部とを含む化合物の使用であって、
当該カチオン種がミトコンドリアの抗酸化部分を標的にでき、および塩の形態が化学的に安定であり、および/または当該アニオン相補部が、抗酸化部分、カチオン部分またはリンク部分に対して反応性を示さない、前記使用。
【請求項110】
細胞内の酸化ストレスの低減の使用において有効な組成物の調製または製造における、リンク部分によって抗酸化部分と結合している親油性カチオン部分と、そのカチオン部分に対するアニオン相補部とを含む化合物の使用であって、
当該カチオン種がミトコンドリアの抗酸化部分を標的にでき、および塩の形態が化学的に安定であり、および/または当該アニオン相補部が、抗酸化部分、カチオン部分またはリンク部分に対して反応性を示さない、前記使用。
【請求項111】
一般式(I):
【化25】
[式中、R1、R2およびR3は、互いに同じでも異なっていてもよく、(場合によっては置換されている)C1〜C5アルキル部分とHの中から選択され、およびnは約2約20の整数であり、およびZは非反応性アニオンである。]
で表される化合物(および/またはそのキノール形態)の合成方法であって、シクロデキストリンの混合を含む、前記方法。
【請求項112】
一般式:
【化26】
を有する化合物の合成方法であって、シクロデキストリンの混合を含む、前記方法。
【請求項113】
実質的に本明細書に記載されている、一般式:
【化27】
を有する化合物の合成方法。
【請求項114】
パーキンソン病、アルツハイマー病、ハンチントン舞踏病、フリートライヒ運動失調を患っている患者、またはこれらの疾患になりやすい素因を有する患者の治療に適した医薬組成物であって、1種類以上の薬学的に許容される担体、賦形剤または希釈剤と組み合わせて、リンク部分によって抗酸化部分と結合している親油性カチオン部分と、そのカチオン部分に対するアニオン相補部とを含む化合物の有効量を含み、
当該カチオン種がミトコンドリアの抗酸化部分を標的にでき、および塩形態が化学的に安定であり、および/または当該アニオン相補部が、抗酸化部分、カチオン部分またはリンク部分に対して反応性を示さない、前記医薬組成物。
【請求項115】
フリートライヒ運動失調を患っているか、またはフリートライヒ運動失調になりやすい素因を有する患者の治療に適している、請求項114に記載の医薬組成物。
【請求項116】
パーキンソン病、アルツハイマー病、ハンチントン舞踏病、フリートライヒ運動失調を患っている患者、またはこれらの疾患になりやすい素因を有する患者の治療法および/または予防法であって、リンク部分によって抗酸化部分と結合している親油性カチオン部分と、そのカチオン部分に対するアニオン相補部とを含む化合物を当該患者に投与するステップを含み、
当該カチオン種がミトコンドリアの抗酸化部分を標的にでき、および塩の形態が化学的に安定であり、および/または当該アニオン相補部が、抗酸化部分、カチオン部分またはリンク部分に対して反応性を示さない、前記方法。
【請求項117】
前記記治療法または予防法が、フリートライヒ運動失調を患っているか、フリートライヒ運動失調になりやすい素因を有する患者を対象とする、請求項116に記載の方法。
【請求項118】
パーキンソン病、アルツハイマー病、ハンチントン舞踏病、フリートライヒ運動失調を患っている患者、またはこれらの疾患になりやすい素因を有する患者の治療または予防に使用するために有効な薬物、剤形または医薬組成物の調製または製造における、リンク部分によって抗酸化部分と結合している親油性カチオン部分と、そのカチオン部分に対するアニオン相補部とを含む化合物の使用であって、
当該カチオン種がミトコンドリアの抗酸化部分を標的にでき、および塩の形態が化学的に安定であり、および/または当該アニオン相補部が、抗酸化部分、カチオン部分またはリンク部分に対して反応性を示さない、前記使用。
【請求項119】
前記薬物、剤形または医薬組成物が、フリートライヒ運動失調を患っているか、またはフリートライヒ運動失調になりやすい素因を有する患者の治療または予防に使用するために有効である、請求項118に記載の使用。
【請求項1】
リンク部分によって抗酸化部分と結合している親油性カチオン部分と、そのカチオン部分に対するアニオン相補部とを含む化合物であって、当該カチオン種がミトコンドリアの抗酸化部分を標的にでき、および塩の形態が化学的に安定であり、および/または当該アニオン相補部が、抗酸化部分、カチオン部分またはリンク部分に対して反応性を示さない、前記化合物。
【請求項2】
リンク部分によって抗酸化部分と結合している親油性カチオン部分と、そのカチオン部分に対するアニオン相補部とを含む安定な化合物であって、当該カチオン種がミトコンドリアの抗酸化部分を標的にでき、および当該アニオン相補部がハロゲンイオンでなくおよび当該アニオン相補部が非求核性であり、および/または当該アニオン相補部が抗酸化部分、カチオン部分またはリンク部分に対して反応性を示さない、前記化合物。
【請求項3】
前記抗酸化部分がキノンまたはキノールである、請求項1または2に記載の化合物。
【請求項4】
前記抗酸化部分が、ビタミンE、ビタミンE誘導体、鎖破断抗酸化剤、例えばブチル化ヒドロキシアニソール、ブチル化ヒドロキシトルエン、一般的なラジカル捕獲剤、例えば誘導体化したフラーレン、スピン・トラップ、例えば5,5-ジメチルピロリン-N-オキシド、tert-ブチルニトロソベンゼン、tert-ニトロソベンゼン、α-フェニル-tert-ブチルニトロンの誘導体および関連した化合物を含む群から選ばれる、請求項1または2に記載の化合物。
【請求項5】
前記親油性カチオン部分が、置換された/置換されていないトリフェニルホスホニウム・カチオンである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項6】
前記化合物が一般式(I):
【化1】
[式中、R1、R2およびR3は、互いに同じでも異なっていてもよく、(場合によっては置換されている)C1〜C5アルキル部分とHの中から選択され、およびnは約2〜約20の整数であり、およびZは非反応性アニオンである。]
で表される化合物、および/またはそのキノール形態を有する、請求項5に記載の化合物。
【請求項7】
Zが、スルホン酸アルキル、硝酸アルキル、スルホン酸アリールまたは硝酸アリールからなる群より選ばれる、請求項6に記載の化合物。
【請求項8】
(C)n鎖のCが飽和している、請求項6または7に記載の化合物。
【請求項9】
前記化合物が一般式:
【化2】
[式中、Zは非求核性アニオンである。]
で表される化合物、および/またはそのキノール形態を有する、請求項8に記載の化合物。
【請求項10】
前記化合物が一般式:
【化3】
を有する、請求項9に記載の化合物。
【請求項11】
リンク部分によって抗酸化部分と結合している親油性カチオン部分と、そのカチオン部分に対するアニオン相補部とを含む化合物を含む医薬組成物であって、当該カチオン種がミトコンドリアの抗酸化部分を標的にでき、および塩の形態が化学的に安定であり、および/または当該アニオン相補部が、抗酸化部分、カチオン部分またはリンク部分に対して反応性を示さない、前記医薬組成物。
【請求項12】
リンク部分によって抗酸化部分と結合している親油性カチオン部分と、そのカチオン部分に対するアニオン相補部とを含む安定な化合物を含む医薬組成物であって、当該カチオン種がミトコンドリアの抗酸化部分を標的にでき、および当該アニオン相補部がハロゲンイオンでなく、および/または当該アニオン相補部が非求核であり、および/または抗酸化部分、カチオン部分またはリンク部分に対して反応性を示さない、前記医薬組成物。
【請求項13】
前記抗酸化部分がキノンまたはキノールである、請求項11または12に記載の医薬組成物。
【請求項14】
前記抗酸化部分が、ビタミンE、ビタミンE誘導体、鎖破断抗酸化剤、例えばブチル化ヒドロキシアニソール、ブチル化ヒドロキシトルエン、一般的なラジカル捕獲剤、例えば誘導体化したフラーレン、スピン・トラップ、例えば5,5-ジメチルピロリン-N-オキシド、tert-ブチルニトロソベンゼン、tert-ニトロソベンゼン、α-フェニル-tert-ブチルニトロンの誘導体および関連した化合物を含む群から選ばれる、請求項11または12に記載の医薬組成物。
【請求項15】
前記親油性カチオン部分が、置換された/置換されていないトリフェニルホスホニウム・カチオンである、請求項11〜14のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項16】
前記化合物が一般式(I):
【化4】
[式中、R1、R2およびR3は、互いに同じでも異なっていてもよく、(場合によっては置換されている)C1〜C5アルキル部分とHの中から選択され、およびnは約2〜約20の整数であり、およびZは非反応性アニオンである。]
で表される化合物、および/またはそのキノール形態を有する、請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項17】
Zが、スルホン酸アルキル、硝酸アルキル、スルホン酸アリールまたは硝酸アリールからなる群より選ばれる、請求項16に記載の医薬組成物。
【請求項18】
(C)n鎖のCが飽和している、請求項16または17に記載の医薬組成物。
【請求項19】
前記化合物が一般式:
【化5】
[式中、Zは非求核性アニオンである。]
で表される化合物、および/またはそのキノール形態を有する、請求項18に記載の医薬組成物。
【請求項20】
シクロデキストリンを含む、請求項11〜19のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項21】
前記化合物とシクロデキストリンとのモル比が約10:1〜約1:10である、請求項20に記載の医薬組成物。
【請求項22】
前記化合物とシクロデキストリンとのモル比が約5:1〜約1:5である、請求項21に記載の医薬組成物。
【請求項23】
前記化合物とシクロデキストリンとのモル比が約4:1〜約1:4である、請求項22に記載の医薬組成物。
【請求項24】
前記化合物とシクロデキストリンとのモル比が約2:1〜約1:2である、請求項23に記載の医薬組成物。
【請求項25】
前記化合物とシクロデキストリンとのモル比が約1:1である、請求項24に記載の医薬組成物。
【請求項26】
上記化合物とシクロデキストリンのモル比が約1:2である、請求項24に記載の医薬組成物。
【請求項27】
前記化合物が一般式:
【化6】
を有する、請求項20〜26のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項28】
前記シクロデキストリンがβ-シクロデキストリンである、請求項11〜27のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項29】
前記化合物が一般式:
【化7】
を有しかつその化合物とシクロデキストリンとのモル比が約1:2である、請求項28に記載の医薬組成物。
【請求項30】
経口投与用に調合される、請求項11〜29のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項31】
非経口投与用に調合される、請求項11〜29のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項32】
リンク部分によって抗酸化部分と結合している親油性カチオン部分と、そのカチオン部分に対するアニオン相補部とを含む化合物であって、当該カチオン種がミトコンドリアの抗酸化部分を標的にでき、および塩の形態が化学的に安定であり、および/または当該アニオン相補部が、抗酸化部分、カチオン部分またはリンク部分に対して反応性を示さない、前記化合物と、任意の薬学的に許容される希釈剤および/または担体および/または賦形剤とを組み合わせて含む、投薬単位。
【請求項33】
リンク部分によって抗酸化部分と結合している親油性カチオン部分と、そのカチオン部分に対するアニオン相補部とを含む安定な化合物を含む投薬単位であって、当該カチオン種がミトコンドリアの抗酸化部分を標的にでき、および当該アニオン相補部がハロゲンイオンでなく、および/または当該アニオン相補部が非求核性であり、および/または当該アニオン相補部が抗酸化部分、カチオン部分またはリンク部分に対して反応性を示さない、前記投薬単位。
【請求項34】
前記抗酸化部分がキノンまたはキノールである、請求項32または33に記載の投薬単位。
【請求項35】
前記抗酸化部分が、ビタミンE、ビタミンE誘導体、鎖破断抗酸化剤、例えばブチル化ヒドロキシアニソール、ブチル化ヒドロキシトルエン、一般的なラジカル捕獲剤、例えば誘導体化したフラーレン、スピン・トラップ、例えば5,5-ジメチルピロリン-N-オキシド、tert-ブチルニトロソベンゼン、tert-ニトロソベンゼン、α-フェニル-tert-ブチルニトロンの誘導体および関連した化合物を含む群より選ばれる、請求項32または33に記載の投薬単位。
【請求項36】
前記親油性カチオン部分が、置換された/置換されていないトリフェニルホスホニウム・カチオンである、請求項32〜35のいずれか1項に記載の投薬単位。
【請求項37】
前記化合物が一般式(I):
【化8】
[式中、R1、R2およびR3は、互いに同じでも異なっていてもよく、(場合によっては置換されている)C1〜C5アルキル部分とHの中から選択され、およびnは約2約20の整数であり、およびZは非反応性アニオンである。]
で表される化合物、および/またはそのキノール形態を有する、請求項36に記載の投薬単位。
【請求項38】
Zの選択が、スルホン酸アルキル、硝酸アルキル、スルホン酸アリール、硝酸アリールからなるグループの中からなされる、請求項37に記載の投薬単位。
【請求項39】
(C)n鎖のCが飽和している、請求項37または38に記載の投薬単位。
【請求項40】
前記化合物が一般式:
【化9】
[式中、Zは非求核性アニオンである。]
で表される化合物、および/またはそのキノール形態を有する、請求項39に記載の投薬単位。
【請求項41】
シクロデキストリンを含む、請求項32〜40のいずれか1項に記載の投薬単位。
【請求項42】
前記化合物とシクロデキストリンとのモル比が約10:1〜約1:10である、請求項41に記載の投薬単位。
【請求項43】
前記化合物とシクロデキストリンとのモル比が約5:1〜約1:5である、請求項42に記載の投薬単位。
【請求項44】
前記上記化合物とシクロデキストリとのモル比が約4:1〜約1:4である、請求項43に記載の投薬単位。
【請求項45】
前記上記化合物とシクロデキストリンとのモル比が約2:1〜約1:2である、請求項44に記載の投薬単位。
【請求項46】
前記化合物とシクロデキストリンとのモル比が約1:1である、請求項45に記載の投薬単位。
【請求項47】
前記化合物とシクロデキストリンとのモル比が約1:2である、請求項45に記載の投薬単位。
【請求項48】
前記化合物が一般式:
【化10】
を有する、請求項40〜47のいずれか1項に記載の投薬単位。
【請求項49】
前記シクロデキストリンがβ-シクロデキストリンである、請求項41〜48のいずれか1項に記載の投薬単位。
【請求項50】
前記化合物が一般式:
【化11】
を有しかつその化合物とシクロデキストリンとのモル比が約1:2である、請求項49に記載の投薬単位。
【請求項51】
経口投与用に調合される、請求項32〜50のいずれか1項に記載の投薬単位。
【請求項52】
非経口投与用に調合される、請求項32〜50のいずれか1項に記載の投薬単位。
【請求項53】
哺乳動物への投与による、哺乳動物の酸化ストレスの予防または治療において使用するための、請求項1〜10のいずれか1項に記載の化合物、またはその薬学的に許容される塩。
【請求項54】
哺乳動物への投与による、哺乳動物の加齢症状の予防または治療において使用するための、請求項1〜10のいずれか1項に記載の化合物、またはその薬学的に許容される塩。
【請求項55】
第1日目に1日当たりの維持量の約1.02〜約2.0倍が投与され、その後は1日当たりの維持量が毎日投与される、請求項53または54に記載の化合物、またはその薬学的に許容される塩。
【請求項56】
前記化合物が一般式:
【化12】
[式中、Zは非求核性アニオンである。]
で表される化合物、および/またはそのキノール形態を有する、請求項53〜55のいずれか1項に記載の化合物またはその薬学的に許容される塩。
【請求項57】
前記塩がメタンスルホン酸塩である、請求項53〜56のいずれか1項に記載の化合物またはその薬学的に許容される塩。
【請求項58】
前記化合物がシクロデキストリンと組み合わされる、請求項53〜56のいずれか1項に記載の化合物またはその薬学的に許容される塩。
【請求項59】
前記化合物が一般式:
【化13】
を有しかつシクロデキストリンがβ-シクロデキストリンであり、当該化合物とシクロデキストリンとのモル比が約1:2である、請求項58に記載の化合物。
【請求項60】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の化合物を活性成分として含み、その化合物が結晶形態および/または非液体形態である、あるいはその化合物が結晶形態および/または非液体形態に調合される、経口投与に適した投薬単位。
【請求項61】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の化合物を活性成分として含む、非経口投与に適した投薬単位。
【請求項62】
酸化ストレスまたは加齢症状の低減による利益を受ける可能性のある患者の治療に適した医薬組成物であって、請求項1〜10のいずれか1項に記載の化合物の有効量を、1種類以上の薬学的に許容される担体、賦形剤または希釈剤と組み合わせて含む医薬組成物。
【請求項63】
前記化合物が一般式(I):
【化14】
[式中、R1、R2およびR3は、互いに同じでも異なっていてもよく、(場合によっては置換されている)C1〜C5アルキル部分とHの中から選択され、およびnは約2約20の整数であり、およびZは非反応性アニオンである。]
で表される化合物、および/またはそのキノール形態を有する、請求項62に記載の医薬組成物。
【請求項64】
前記化合物が一般式:
【化15】
[式中、Zは非求核性アニオンである。]
で表される化合物、および/またはそのキノール形態を有する、請求項63に記載の医薬組成物。
【請求項65】
シクロデキストリンを含む、請求項62〜64のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項66】
前記化合物とシクロデキストリンとのモル比が約10:1〜約1:10である、請求項65に記載の医薬組成物。
【請求項67】
前記化合物とシクロデキストリンとのモル比が約5:1〜約1:5である、請求項66に記載の医薬組成物。
【請求項68】
前記化合物とシクロデキストリンとのモル比が約4:1〜約1:4である、請求項67に記載の医薬組成物。
【請求項69】
前記化合物とシクロデキストリンとのモル比が約2:1〜約1:2である、請求項68に記載の医薬組成物。
【請求項70】
前記化合物とシクロデキストリンとのモル比が約1:1である、請求項69に記載の医薬組成物。
【請求項71】
前記化合物とシクロデキストリンとのモル比が約1:2である、請求項69に記載の医薬組成物。
【請求項72】
前記化合物が一般式:
【化16】
を有する、請求項65〜71のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項73】
前記シクロデキストリンがβ-シクロデキストリンである、請求項65〜72のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項74】
前記化合物が一般式:
【化17】
を有しかつその化合物とシクロデキストリンとのモル比が約1:2である、請求項73に記載の医薬組成物。
【請求項75】
経口投与用に調合される、請求項61〜74のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項76】
非経口投与用に調合される、請求項61〜74のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項77】
細胞内の酸化ストレスを減らす方法であって、当該細胞を、リンク部分によって抗酸化部分と結合している親油性カチオン部分と、そのカチオン部分に対するアニオン相補部とを含む化合物に接触させるステップを含み、
当該カチオン種がミトコンドリアの抗酸化部分を標的にでき、および塩の形態が化学的に安定であり、および/または当該アニオン相補部が、抗酸化部分、カチオン部分またはリンク部分に対して反応性を示さない、前記方法。
【請求項78】
細胞内の酸化ストレスを減らす方法であって、当該細胞を、リンク部分によって抗酸化部分と結合している親油性カチオン部分と、そのカチオン部分に対するアニオン相補部とを含む安定化合物に接触させるステップを含み、
当該カチオン種がミトコンドリアの抗酸化部分を標的にでき、および当該アニオン相補部がハロゲンイオンでなく、および当該アニオン相補部が非求核性であり、および/または当該アニオン相補部が、抗酸化部分、カチオン部分またはリンク部分に対して反応性を示さない、前記方法。
【請求項79】
前記化合物が一般式:
【化18】
[式中、R1、R2およびR3は、互いに同じでも異なっていてもよく、(場合によっては置換されている)C1〜C5アルキル部分とHの中から選択され、およびnは約2約20の整数であり、およびZは非反応性アニオンである。]
で表される化合物、および/またはそのキノール形態を有する、請求項77または78に記載の方法。
【請求項80】
前記化合物が一般式:
【化19】
[式中、Zは非求核性アニオンである。]
で表される化合物、および/またはそのキノール形態を有する、請求項79に記載の方法。
【請求項81】
シクロデキストリンを含む、請求項77〜80のいずれか1項に記載の方法。
【請求項82】
前記化合物とシクロデキストリンとのモル比が約10:1〜約1:10である、請求項81に記載の方法。
【請求項83】
前記化合物とシクロデキストリンとのモル比が約5:1〜約1:5である、請求項82に記載の方法。
【請求項84】
前記化合物とシクロデキストリンとのモル比が約4:1〜約1:4である、請求項83に記載の方法。
【請求項85】
前記化合物とシクロデキストリンとのモル比が約2:1〜約1:2である、請求項84に記載の方法。
【請求項86】
前記化合物とシクロデキストリンとのモル比が約1:1である、請求項85に記載の方法。
【請求項87】
前記化合物とシクロデキストリンとのモル比が約1:2である、請求項85に記載の方法。
【請求項88】
前記化合物が一般式:
【化20】
を有する、請求項81〜87のいずれか1項に記載の方法。
【請求項89】
前記シクロデキストリンがβ-シクロデキストリンである、請求項81〜88のいずれか1項に記載の方法。
【請求項90】
前記化合物が一般式:
【化21】
を有しかつその化合物とシクロデキストリンとのモル比が約1:2である、請求項89に記載の方法。
【請求項91】
酸化ストレスおよび/または加齢症状の低減による利益を受ける可能性のある患者の治療法および/または予防法であって、化合物、組成物および/または剤形をその患者に投与するステップを含み、
当該化合物、組成物および/または剤形が、リンク部分によって抗酸化部分と結合している親油性カチオン部分と、そのカチオン部分に対するアニオン相補部とを含み、当該カチオン種がミトコンドリアの抗酸化部分を標的にでき、および塩の形態が化学的に安定であり、および/または当該アニオン相補部が、抗酸化部分、カチオン部分またはリンク部分に対して反応性を示さない、前記方法。
【請求項92】
酸化ストレスおよび/または加齢症状の低減による利益を受ける可能性のある患者の治療法および/または予防法であって、化合物、組成物および/または剤形をその患者に投与するステップを含み、
当該化合物、組成物および/または剤形が、リンク部分によって抗酸化部分と結合している親油性カチオン部分と、そのカチオン部分に対するアニオン相補部とを含み、当該カチオン部分がミトコンドリアの抗酸化部分を標的にでき、および当該アニオン相補部がハロゲンイオンでなく、および当該アニオン相補部が非求核であり、および/または抗酸化部分、カチオン部分またはリンク部分に対して反応性を示さない、前記方法。
【請求項93】
前記組成物が、請求項11〜31のいずれか1項に記載の組成物である、請求項91に記載の方法。
【請求項94】
前記剤形が、請求項32〜52のいずれか1項に記載の剤形である、請求項91に記載の方法。
【請求項95】
ミトコンドリアを標的とする前記抗酸化化合物が、一般式(I):
【化22】
[式中、R1、R2およびR3は、互いに同じでも異なっていてもよく、(場合によっては置換されている)C1〜C5アルキル部分とHの中から選択され、およびnは約2約20の整数であり、およびZは非反応性アニオンである。]
で表される化合物、および/またはそのキノール形態を有する、請求項91または92に記載の方法。
【請求項96】
前記化合物がシクロデキストリンと錯体化される、請求項95に記載の方法。
【請求項97】
前記化合物とシクロデキストリンとのモル比が約10:1〜約1:10である、請求項96に記載の方法。
【請求項98】
前記化合物とシクロデキストリンとのモル比が約5:1〜約1:5である、請求項97に記載の方法。
【請求項99】
前記化合物とシクロデキストリンとのモル比が約4:1〜約1:4である、請求項98に記載の方法。
【請求項100】
前記化合物とシクロデキストリンとのモル比が約2:1〜約1:2である、請求項99に記載の方法。
【請求項101】
前記化合物とシクロデキストリンとのモル比が約1:1である、請求項100に記載の方法。
【請求項102】
前期化合物とシクロデキストリンとのモル比が約1:2である、請求項100に記載の方法。
【請求項103】
前記化合物が一般式:
【化23】
を有する、請求項95〜102のいずれか1項に記載の方法。
【請求項104】
前記シクロデキストリンがβ-シクロデキストリンである、請求項95〜103のいずれか1項に記載の方法。
【請求項105】
前記化合物が一般式:
【化24】
を有しかつその化合物とシクロデキストリンとのモル比が約1:2である、請求項104に記載の方法。
【請求項106】
経口投与用に調合される、請求項91〜105のいずれか1項に記載の方法。
【請求項107】
非経口投与用に調合される、請求項91〜105のいずれか1項に記載の方法。
【請求項108】
患者の酸化ストレスの低減の使用において有効な薬物、剤形、医薬組成物の調製または製造における、リンク部分によって抗酸化部分と結合している親油性カチオン部分と、そのカチオン部分に対するアニオン相補部とを含む化合物の使用であって、
当該カチオン種がミトコンドリアの抗酸化部分を標的にでき、および塩の形態が化学的に安定であり、および/または当該アニオン相補部が、抗酸化部分、カチオン部分またはリンク部分に対して反応性を示さない、前記使用。
【請求項109】
患者の加齢症状の低減の使用において有効な薬物、剤形、医薬組成物の他の1種以上の材料を用いる調製または製造における、低減リンク部分によって抗酸化部分と結合している親油性カチオン部分と、そのカチオン部分に対するアニオン相補部とを含む化合物の使用であって、
当該カチオン種がミトコンドリアの抗酸化部分を標的にでき、および塩の形態が化学的に安定であり、および/または当該アニオン相補部が、抗酸化部分、カチオン部分またはリンク部分に対して反応性を示さない、前記使用。
【請求項110】
細胞内の酸化ストレスの低減の使用において有効な組成物の調製または製造における、リンク部分によって抗酸化部分と結合している親油性カチオン部分と、そのカチオン部分に対するアニオン相補部とを含む化合物の使用であって、
当該カチオン種がミトコンドリアの抗酸化部分を標的にでき、および塩の形態が化学的に安定であり、および/または当該アニオン相補部が、抗酸化部分、カチオン部分またはリンク部分に対して反応性を示さない、前記使用。
【請求項111】
一般式(I):
【化25】
[式中、R1、R2およびR3は、互いに同じでも異なっていてもよく、(場合によっては置換されている)C1〜C5アルキル部分とHの中から選択され、およびnは約2約20の整数であり、およびZは非反応性アニオンである。]
で表される化合物(および/またはそのキノール形態)の合成方法であって、シクロデキストリンの混合を含む、前記方法。
【請求項112】
一般式:
【化26】
を有する化合物の合成方法であって、シクロデキストリンの混合を含む、前記方法。
【請求項113】
実質的に本明細書に記載されている、一般式:
【化27】
を有する化合物の合成方法。
【請求項114】
パーキンソン病、アルツハイマー病、ハンチントン舞踏病、フリートライヒ運動失調を患っている患者、またはこれらの疾患になりやすい素因を有する患者の治療に適した医薬組成物であって、1種類以上の薬学的に許容される担体、賦形剤または希釈剤と組み合わせて、リンク部分によって抗酸化部分と結合している親油性カチオン部分と、そのカチオン部分に対するアニオン相補部とを含む化合物の有効量を含み、
当該カチオン種がミトコンドリアの抗酸化部分を標的にでき、および塩形態が化学的に安定であり、および/または当該アニオン相補部が、抗酸化部分、カチオン部分またはリンク部分に対して反応性を示さない、前記医薬組成物。
【請求項115】
フリートライヒ運動失調を患っているか、またはフリートライヒ運動失調になりやすい素因を有する患者の治療に適している、請求項114に記載の医薬組成物。
【請求項116】
パーキンソン病、アルツハイマー病、ハンチントン舞踏病、フリートライヒ運動失調を患っている患者、またはこれらの疾患になりやすい素因を有する患者の治療法および/または予防法であって、リンク部分によって抗酸化部分と結合している親油性カチオン部分と、そのカチオン部分に対するアニオン相補部とを含む化合物を当該患者に投与するステップを含み、
当該カチオン種がミトコンドリアの抗酸化部分を標的にでき、および塩の形態が化学的に安定であり、および/または当該アニオン相補部が、抗酸化部分、カチオン部分またはリンク部分に対して反応性を示さない、前記方法。
【請求項117】
前記記治療法または予防法が、フリートライヒ運動失調を患っているか、フリートライヒ運動失調になりやすい素因を有する患者を対象とする、請求項116に記載の方法。
【請求項118】
パーキンソン病、アルツハイマー病、ハンチントン舞踏病、フリートライヒ運動失調を患っている患者、またはこれらの疾患になりやすい素因を有する患者の治療または予防に使用するために有効な薬物、剤形または医薬組成物の調製または製造における、リンク部分によって抗酸化部分と結合している親油性カチオン部分と、そのカチオン部分に対するアニオン相補部とを含む化合物の使用であって、
当該カチオン種がミトコンドリアの抗酸化部分を標的にでき、および塩の形態が化学的に安定であり、および/または当該アニオン相補部が、抗酸化部分、カチオン部分またはリンク部分に対して反応性を示さない、前記使用。
【請求項119】
前記薬物、剤形または医薬組成物が、フリートライヒ運動失調を患っているか、またはフリートライヒ運動失調になりやすい素因を有する患者の治療または予防に使用するために有効である、請求項118に記載の使用。
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【公表番号】特表2007−503387(P2007−503387A)
【公表日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−523805(P2006−523805)
【出願日】平成16年8月23日(2004.8.23)
【国際出願番号】PCT/NZ2004/000196
【国際公開番号】WO2005/019232
【国際公開日】平成17年3月3日(2005.3.3)
【出願人】(506060535)アンティポディーン ファーマシューティカルズ インコーポレイティド (1)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年8月23日(2004.8.23)
【国際出願番号】PCT/NZ2004/000196
【国際公開番号】WO2005/019232
【国際公開日】平成17年3月3日(2005.3.3)
【出願人】(506060535)アンティポディーン ファーマシューティカルズ インコーポレイティド (1)
【Fターム(参考)】
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