説明

ミトコンドリア機能向上剤

【課題】医薬品、食品等として有用なミトコンドリア機能向上剤、エネルギー消費促進剤又は脂質燃焼促進剤を提供すること。
【解決手段】脂肪球皮膜成分を有効成分とするミトコンドリア機能向上剤、エネルギー消費促進剤又は脂質燃焼促進剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はミトコンドリア機能向上剤、エネルギー消費促進剤及び脂質燃焼促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
我々の生命活動は代謝とよばれる様々な物理・化学的過程の連鎖により産生されるアデノシン三リン酸(ATP)により支えられているが、ミトコンドリアはエネルギー代謝の中心的役割を担っており、脂肪酸のβ酸化や電子伝達系による酸化的リン酸化によりATPを供給している。
【0003】
生体でのエネルギー消費を反映している酸素消費は骨格筋、肝臓、あるいは心臓で多いことが特徴であるが、このことはミトコンドリアが心筋や肝臓、骨格筋に多く分布することと一致しており、エネルギー代謝におけるミトコンドリアの役割の大きさが伺い知れる。生体での酸素消費の90%以上はミトコンドリアで行われると言われている。
【0004】
近年、ミトコンドリアの機能異常が、生活習慣病や老化関連疾患等と密接に関係していることが明らかにされつつある。老化によるエネルギー代謝の低下にはミトコンドリアDNAの変異や損傷といったミトコンドリア機能の低下が関係していることが知られている(非特許文献1)。
【0005】
ミトコンドリア機能の低下は、エネルギー代謝の低下を介して、エネルギー摂取とエネルギー消費のアンバランスを引き起こすことから、生活習慣病の原因となり得る(非特許文献2)。従って、ミトコンドリア機能を維持・向上させ、エネルギー代謝を高めることは、生活習慣病の予防・改善・発症リスクの低下につながり、クオリティオブライフ(QOL)の向上に寄与すると考えられる。
【0006】
一方、運動は筋肉のミトコンドリア量を増加させる方法の一つとして知られている(非特許文献3)。従って、運動は筋肉でのミトコンドリアの増加を介し、生体でのエネルギー消費の増加につながると考えられる。しかしながら、運動の重要性が広く認識されている現代においても、定期的に運動を行うことは現実的にはなかなか難しく、より効果的にエネルギー代謝を促進し、エネルギー消費を増加させる方法が望まれている。
【0007】
懸かる観点から、エネルギー代謝やミトコンドリア機能を高める成分の探索が行われている。
例えば、エネルギー代謝を促進させる成分として、交感神経活性化作用を有するカフェインやカプサイシンなどが報告されている(非特許文献4、5)。しかしながら、カフェインやカプサイシンは、安全性や刺激性の点等から、その実用性が限定され満足できるものではない。その他のエネルギー代謝促進作用を有する例としては、カプシノイド含有組成物(特許文献1)やフラバン類又はフラバノン類(特許文献2)が挙げられる。
また、近年では、辛味が少なく、低刺激性のカプサイシン類縁体であるカプシエイトのエネルギー代謝促進作用が報告されている(非特許文献6)。
更に、茶カテキンには老化に伴うエネルギー代謝低下、ミトコンドリア機能低下を抑制する作用が見出されている(特許文献3)。また、ミトコンドリア機能活性化作用を有する例としては、ベンゾイミダゾール誘導体又はその塩(特許文献4)、1,2-エタンジオール又はその塩(特許文献5)が挙げられる。
しかしながら、エネルギー代謝やミトコンドリア機能を高める成分は、これら以外には殆ど知られていない。
【0008】
脂肪球皮膜成分は、乳腺より分泌される乳脂肪球を被覆している膜であって、脂肪を乳汁中に分散させる機能を有するのみならず、新生動物の食物として多くの生理的機能を有している。例えば、血中アディポネクチン増加及び/又は減少抑制効果(特許文献6)、学習能向上効果(特許文献7)、シアロムチンの分泌促進効果等(特許文献8)の生理機能を有することが知られている。
しかしながら、脂肪球皮膜成分が、エネルギー代謝やミトコンドリア機能に対して与える影響については、これまで全く知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−149494号公報
【特許文献2】特開2007−314446号公報
【特許文献3】特開2008−63318号公報
【特許文献4】特開2004−67629号公報
【特許文献5】特開2002−322058号公報
【特許文献6】特開2007−320901号公報
【特許文献7】特開2007−246404公報
【特許文献8】特開2007−112793公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】岩波講座 現代医学の基礎 1999 12(2):55-58.
【非特許文献2】Ritz P. Diabetes Metab. 2005 2:5S67-5S73.
【非特許文献3】Holloszy JO.J.Physiol.Pharmacol.2008 59:5-18.
【非特許文献4】Dulloo AG.Am J Clin Nutr. 1989 49(1):44-50.
【非特許文献5】Kawada T. Proc Soc Exp Biol Med. 1986 183(2):250-6.
【非特許文献6】Ohnuki K. Biosci Biotechnol Biochem. 2001 65(12):2735-40.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、食経験が豊富なものを由来とし、安全性が高く、医薬品、医薬部外品、食品及び飼料として有用なミトコンドリア機能向上剤、エネルギー消費促進剤、脂質燃焼促進剤を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、ミトコンドリア機能向上、エネルギー消費促進、脂質燃焼促進に関して有効な成分の探索を行った結果、脂肪球皮膜成分に、ミトコンドリア機能向上効果、エネルギー消費促進効果、脂質燃焼促進効果があることを見出した。
【0013】
すなはち、本発明は、脂肪球皮膜成分を有効成分とするミトコンドリア機能向上剤、エネルギー消費促進剤、脂質燃焼促進剤に係るものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明のミトコンドリア機能向上剤、エネルギー消費促進剤、脂質燃焼促進剤は、安全性が高く、優れたミトコンドリア機能向上作用、エネルギー消費促進作用、脂質燃焼促進作用を有する。従って、ミトコンドリア機能やエネルギー代謝低下の予防・改善のための、飲食品、医薬品、医薬部外品又は飼料に有効成分として配合するための素材として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明における脂肪球皮膜成分は、乳中の脂肪球を皮膜する膜及びそれを構成する膜成分混合物と定義され、バターミルクやバターセーラム等の乳複合脂質高含有画分に多く含まれることが知られている。乳脂肪球皮膜は、一般的に、乳脂肪球皮膜の約40〜45%はタンパク質から、また約50〜55%は脂質から構成されており、当該タンパク質としては、ミルクムチンと呼ばれる糖蛋白質(Mather IH、Biochim Biophys Acta.(1978) 514:25-36.)等を含むことが知られ、また、当該脂質としては、トリグリセライドやリン脂質(例えば、スフィンゴリン脂質、グリセロリン脂質等)が多く含まれ、これ以外にスフィンゴ糖脂質(例えば、グルコシルセラミド、ガングリオシド等)が含まれることが知られている(Keenan TW、Applied Science Publishers.(1983) pp89-pp130.)。
【0016】
本発明における脂肪球皮膜成分に含まれるリン脂質としては、スフィンゴミエリン等のスフィンゴリン脂質の他、ホスファチジルコリンやホスファチジルエタノールアミン等のグリセロリン脂質が挙げられる。この中で、乳由来の特徴的なリン脂質であるスフィンゴミエリンが脂肪球皮膜成分に含まれることが好ましい。
【0017】
本発明における脂肪球皮膜成分中の脂質の含有量は、特に限定されないが、乾燥物換算で、20〜100質量%、より35〜90質量%、更に50〜90質量%であるのが好ましい。
本発明における脂肪球皮膜成分中のリン脂質の含有量は、特に限定されないが、乾燥物換算で、3〜100質量%、より10〜100質量%、更に15〜85質量%、より更に20〜70質量%であるのが好ましい。
脂肪球皮膜成分中の各リン脂質の含有量は、特に限定されないが、例えば、スフィンゴミエリンの含有量は、脂肪球皮膜成分中、乾燥物換算で、1〜50質量%、より2〜30質量%、更に3〜25質量%、より更に4〜20質量%であるのが好ましい。
【0018】
本発明の脂肪球皮膜成分としては、乳原料等から遠心分離法や有機溶剤抽出法等の各種脂肪球皮膜成分の調製法により得たものを用いてもよい。さらに、透析、硫安分画、ゲルろ過、等電点沈殿、イオン交換クロマトグラフィー、溶媒分画等の手法により精製することにより純度を高めたものを使用してもよい。
【0019】
本発明の脂肪球皮膜成分の乳原料としては、牛乳やヤギ乳等が挙げられるが、乳の中でも牛乳由来の脂肪球皮膜成分は、食経験が豊富であり、高純度かつ安価なものも上市されており、特に好ましい。
また、乳原料には、生乳、脱脂乳や加工乳等の乳の他、乳製品も含まれるが、乳製品としては、バターミルク、バターオイル、バターセーラム、ホエータンパク質濃縮物(WPC)等が挙げられる。
【0020】
当該脂肪球皮膜成分の調製は、例えば、乳やホエータンパク質濃縮物(WPC)等の乳製品をエーテルやアセトンで抽出する方法(特開平3−47192号公報)、バターミルクを酸性域に調整、等電点沈殿を行うことにより生じたタンパク質を除去し、上清を精密濾過膜処理して得られる濃縮液を乾燥する方法(特許第3103218号公報)により行うことができる。
また、バターセーラム中よりタンパク質を凝集除去後に濾過濃縮し乾燥する方法(特開2007−89535)等も使用することができる。本製法によると、例えば、乳由来の複合脂質を乾燥物中20重量%以上含有する脂肪球皮膜成分を調製することができる。なお、脂肪球皮膜成分の形態は、特に限定されず、液状、半固体状や個体状、粉状等の何れでもよく、これらを単独で又は2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0021】
また、脂肪球皮膜成分として、市販品を用いることもできる。斯かる市販品としては、メグレジャパン(株)「BSCP」、雪印乳業(株)「ミルクセラミドMC−5」、(株)ニュージーランドミルクプロダクツ「Phospholipid Concentrate」等が挙げられる。
また、脂肪球皮膜成分は牛乳等を遠心分離して得られるクリームからバター粒を製造する際に得られるバターミルク中に多く含まれているので、バターミルクをそのまま使用してもよい。同様に、脂肪球皮膜成分はバターオイルを製造する際に生じるバターセーラム中に多く含まれているので、バターセーラムをそのまま使用してもよい。
【0022】
後記実施例に示すように、脂肪球皮膜成分は、ミトコンドリア機能向上作用、エネルギー消費促進作用及び脂質燃焼促進作用を有する。従って、脂肪球皮膜成分は、ミトコンドリア機能向上剤、エネルギー消費促進剤、脂質燃焼促進剤(以下、「ミトコンドリア機能向上剤等」とする。)として使用することができ、さらに当該ミトコンドリア機能向上剤を製造するために使用することができる。当該ミトコンドリア機能向上剤等には、当該脂肪球皮膜成分を単独で、又はこれ以外に、必要に応じて適宜選択した担体等の、配合すべき後述の対象物において許容されるものを使用してもよい。なお、当該製剤は配合すべき対象物に応じて常法により製造することができる。
【0023】
本発明のミトコンドリア機能向上剤等は、ヒト及び動物に投与することができる他、各種飲食品、医薬品、ペットフード等の有効成分として配合して使用することができる。食品としては、ミトコンドリア機能の向上、あるいはエネルギー消費促進及び生活習慣病の予防・改善・発症リスクの低下等の生理機能をコンセプトとし、必要に応じてその旨を表示した飲食品、機能性飲食品、病者用飲食品、特定保健用食品等に応用できる。
【0024】
本発明のミトコンドリア機能向上剤等を医薬品、医薬部外品の有効成分として用いる場合の投与形態としては、例えば錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤等による経口投与又は注射剤、坐剤、吸入薬、経皮吸収剤、外用剤等による非経口投与が挙げられる。また、このような種々の剤型の製剤を調製するには、本発明のミトコンドリア機能向上剤等を単独で、又は他の薬学的に許容される賦形剤、結合剤、増量剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、嬌味剤、香料、被膜剤、担体、希釈剤等を適宜組み合わせて用いることができる。また、これらの投与形態のうち、好ましい形態は経口投与であり、経口用液体製剤を調製する場合は、嬌味剤、緩衝剤、安定化剤等を加えて常法により製造することができる。
【0025】
本発明のミトコンドリア機能向上剤等を食品の有効成分として用いる場合、当該食品の形態としては、牛乳、加工乳、乳飲料、ヨーグルト、清涼飲料水、茶系飲料、コーヒー飲料、果汁飲料、炭酸飲料、ジュース、ゼリー、ウエハース、ビスケット、パン、麺、ソーセージ等の飲食品や栄養食等の各種食品の他、さらには、上述した経口投与製剤と同様の形態(錠剤、カプセル剤、シロップ等)の栄養補給用組成物が挙げられる。
【0026】
種々の形態の食品を調製するには、本発明のミトコンドリア機能向上剤等を単独で、又は他の食品材料や、溶剤、軟化剤、油、乳化剤、防腐剤、香科、安定剤、着色剤、酸化防止剤、保湿剤、増粘剤等を適宜組み合わせて用いることが可能である。
【0027】
また、本発明のミトコンドリア機能向上剤等を飼料の有効成分として用いる場合には、全ての家畜の飼料に広範に用いることができ、例えば、牛、豚、鶏、羊、馬、山羊等に用いる家畜用飼料、ウサギ、ラット、マウス等に用いる小動物用飼料、マグロ、ウナギ、タイ、ハマチ、エビ等に用いる魚介類用飼料、犬、猫、小鳥、リス等に用いるペットフード等が挙げられる。
【0028】
飼料には本発明のミトコンドリア機能向上剤等の他に、肉類、蛋白質、穀物類、ぬか類、粕類、糖類、野菜、ビタミン類、ミネラル類等一般に用いられる飼料原料、又は溶剤、軟化剤、油、乳化剤、防腐剤、香科、安定剤、着色剤、酸化防止剤、保湿剤、増粘剤等を適宜配合し、常法により当該飼料を製造することができる。
【0029】
本発明のエネルギー消費促進剤等には、脂肪球皮膜成分の他に、必要に応じて適宜選択したその他の薬効成分を併用してもよい。
【0030】
本発明のエネルギー消費促進剤等を含む飲料、例えば乳飲料、清涼飲料水、茶系飲料等に対する脂肪球皮膜成分の配合量は、脂肪球皮膜成分(乾燥物換算)は、0.001〜5.0質量%、さらに0.01〜3.0質量%、特に0.1〜2.0質量%とするのが好ましい。
【0031】
本発明のエネルギー消費促進剤等を含む飲料以外の食品や飼料、また医薬品、例えば錠剤、顆粒剤、カプセル剤等の経口用固形製剤、内服液剤、シロップ剤等の経口用液体製剤の場合には、脂肪球皮膜成分(乾燥物換算)は、0.02〜80質量%、さらに0.2〜75質量%、特に2.0〜50質量%とするのが好ましい。尚、脂肪球皮膜成分は、溶解状態であっても、分散状態であっても良く、その存在状態は問わない。
【0032】
本発明のミトコンドリア機能向上剤等の摂取量は、剤形や用途によって異なるが、上記脂肪球皮膜成分(乾燥物換算)として、成人に対して1日あたり、10〜10000mg/60kg体重とするのが好ましく、特に100〜5000mg/60kg体重、更に500〜5000mg/60kg体重とするのが好ましい。
【0033】
以下、本発明の代表的な試験例と実施例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0034】
試験例1 脂肪球皮膜成分のエネルギー消費及び脂質燃焼促進作用
脂肪球皮膜成分のエネルギー消費及び脂質燃焼促進作用に対する評価を下記の通り行った。脂肪球皮膜成分としては、メグレジャパン社製 BSCPを使用した。
BSCPには、乾燥物換算で、蛋白質 49質量%(以下、「%」とする)及び脂質 39%が含まれ、スフィンゴリン脂質としてスフィンゴミエリン 3.7%が含まれ、スフィンゴ糖脂質としてグルコシルセラミド 2.4%,およびガングリオシド 0.4%が含まれていた。
【0035】
脂肪球皮膜成分中の蛋白質及び脂質の分析方法としては、ケルダール法(神立誠著、最新食品分析法、同文書院)及びレーゼゴットリーブ法(日本食品工業学会編、食品分析法、光琳)で行なった。
また、脂肪球皮膜成分中のリン脂質の分析は、LC-MS法にて行なった。すなわち、脂肪球皮膜成分よりクロロホルム/メタノール(=2:1)を用いて脂質画分を抽出し、窒素気流下で乾固した後、ヘキサン/イソプロパノール(=95:5)に溶解した。この試料を、下記LC-MS分析に供し、リン脂質の定量を行った。
具体的な分析手段としては、以下のものを用いた。
カラム:Inertsil SIL 100A-3 (GLサイエンス社、1.5mm×150mm)
カラム温度:40℃
流速:0.1 mL/min
検出器:アジレント、1100 LC/MSD
移動相:A液(ヘキサン:イソプロパノール:ギ酸=95:5:0.1)およびB液(ヘキサン:イソプロパノール:50mMギ酸アンモニウム=25:65:10)のグラジエント分離
【0036】
1週間の予備飼育後、9週齢のBALB/cマウス(雄:オリエンタルバイオサービス)を体重が等しくなるように2群に分けた(各群8匹)。その後、対照食については、コントロール食(10%脂質、20%カゼイン、55.5%ポテトスターチ、8.1%セルロース、0.2%メチオニン、2.2%ビタミン(商品名:ビタミン混合AIN−76、オリエンタルバイオサービス)、4%ミネラル(商品名:ミネラル混合AIN−76、オリエンタルバイオサービス))を、また試験食群については脂肪球皮膜成分を含む試験食(10%脂質、20%カゼイン、54.5%ポテトスターチ、8.1%セルロース、0.2%メチオニン、2.2%ビタミン、4%ミネラル、1%脂肪球皮膜成分)を、それぞれ8週間与え、9週目に呼気分析に供した。
【0037】
マウスを呼気分析用チャンバーに移し、48時間環境に馴化させた後、Arco−2000system(アルコシステム)を用いて各マウスの酸素消費量及び呼吸商を24時間測定した。ここでいう酸素消費量とは、エネルギー消費量(1min当たりのマウス体重1kgにおける酸素消費量mL(mL/kg/min))を指し、呼吸商は二酸化炭素排出量と酸素消費量の比を指す。これら酸素消費量と呼吸商より、Peronnetの式(Peronnet F, and Massicotte D (1991) Can J Sport Sci 16:23-29.)を用いて、脂質燃焼量を算出した。表1に24時間の平均エネルギー消費量(mL/kg/min)、平均脂質燃焼量(mg/kg/min)を示す。
【0038】
【表1】

【0039】
表1から、脂肪球皮膜成分を含有する試験食を摂取したマウス(試験食群)では、対照食群と比較して、酸素消費量及び脂質燃焼量が有意に多いことがわかる。従って、本発明の脂肪球皮膜成分はエネルギー消費促進剤及び脂質燃焼促進剤として又はそれらの素材として有用である。
【0040】
試験例2 脂肪球皮膜成分のミトコンドリア機能向上効果
脂肪球皮膜成分のエネルギー消費、脂質燃焼促進、ミトコンドリア機能向上作用に対する評価を下記の通り行った。脂肪球皮膜成分としては、ニュージーランドミルクプロダクツ社製Phospholipid Concentrate 700を使用した。
Phospholipid Concentrate 700には、乾燥物換算で、脂質 85%が含まれ、スフィンゴミエリン 16.5%が含まれていた。
1週間の予備飼育後、9週齢のBALB/cマウス(雄:オリエンタルバイオサービス)を体重と遊泳持久力(下記の方法により、マウス用流水プール(京大松元式運動量測定流水槽)を用いて限界遊泳時間を測定)が等しくなるように2群に分けた(各群8匹)。群分け後、対照群としては、コントロール食(10%脂質、20%カゼイン、55.5%ポテトスターチ、8.1%セルロース、0.2%メチオニン、2.2%ビタミン(商品名:ビタミン混合AIN−76、オリエンタルバイオサービス)、4%ミネラル(商品名:ミネラル混合AIN−76、オリエンタルバイオサービス))を、また試験食群としては、脂肪球皮膜成分を含む試験食(10%脂質、20%カゼイン、54.5%ポテトスターチ、8.1%セルロース、0.2%メチオニン、2.2%ビタミン、4%ミネラル、1%脂肪球皮膜成分)を、それぞれ13週間給餌した。尚、この間マウス(対照食群、試験食群)を運動に慣らすため、週2回の遊泳トレーニング(6L/min, 30min)を施した。限界遊泳時間測定:7L/minの流量でマウスが泳げなくなった時点とした。
【0041】
8週間飼育後に呼気分析に供した。マウスを呼気分析用チャンバーに移し、48時間環境に馴化させた後、Arco−2000system(アルコシステム)を用いて呼気を24時間測定した。各マウスの酸素消費量(エネルギー消費量)と呼吸商から、Peronnetの式(Peronnet F, and Massicotte D (1991) Can J Sport Sci 16:23-29.)を用いて、脂質燃焼量を算出した。表2に24時間の平均エネルギー消費量、平均脂質燃焼量を示す。
【0042】
13週間飼育後に各群のマウスの腓腹筋を採取し、RNeasy Fibrous Tissue Mini Kit(Qiagen)を用いて、RNAサンプルを得た。各RNAサンプルを定量し、1反応あたりのRNA量を125ngとして反応液中(1xPCR buffer II(アプライドバイオシステム社)、5mM MgCl2、1mM dNTP mix、2.5μM Oligo d〔T〕18(New England Biolabs社)、1U/ml RNase inhibitor(タカラバイオ社))で逆転写反応を行い、cDNAを得た。反応条件は42℃、10分間、52℃、30分間、99℃、5分間とした。
【0043】
得られたcDNAを鋳型として、ABI PRISM 7700 Sequence Detector(アプライドバイオシステムズ社)により定量的PCRを行った。36B4mRNAの発現量を基準として補正し、相対的mRNA発現量として表した。プライマーとしてPGC−1β(GenBank: NM_133249、Forward:ACGGTTTTATCACCTTCCGGT(配列番号1)、Reverse:ATAGCTCAGGTGGAAGGAGGG(配列番号2)、CPT1b(GenBank: NM_009948、Forward:ACTGTTGGACATCGCCGAAC(配列番号3)、Reverse:CCTCTTCTTCCACCAGGTGG(配列番号4))、36B4(GenBank: NM_007475、Forward:GACATCACAGAGCAGGCCCT(配列番号5)、Reverse:TCTCCACAGACAATGCCAGG(配列番号6))を用いた。結果を表3に示した。
【0044】
【表2】

【0045】
表2から、脂肪球皮膜成分を含有する試験食を摂取したマウスでは、対照食群と比較して、酸素消費量及び脂質燃焼量が有意に多いことがわかる。従って、本発明の脂肪球皮膜成分はエネルギー消費促進剤及び脂質燃焼促進剤として又はそれらの素材として有用である。
【0046】
【表3】

【0047】
表3から、脂肪球皮膜成分を含有する試験食を摂取したマウスでは、対照食群と比較して、ミトコンドリア新生や脂肪燃焼に関与するPGC−1βやCPT1b遺伝子発現が腓腹筋において有意に高いことがわかる。従って、本発明の脂肪球皮膜成分はミトコンドリア機能向上剤として又はその素材として有用である。
【0048】
製剤例
処方例1 ミトコンドリア機能向上、エネルギー消費促進用ゼリー食品
カラギーナンとローカストビーンガムの混合ゲル化剤0.65%、オレンジの50%の濃縮果汁5.0%、クエン酸0.05%、ビタミンC0.05%、および脂肪球皮膜成分(ニュージーランドミルクプロダクツ社製 Phospholipid Concentrate 700)を1.0%混合し、これに水を加えて100%に調整し、65℃で溶解した。更に少量のオレンジフレーバーを添加して85℃で5分間保持して殺菌処理後、100mLの容器に分注した。8時間静置して徐冷しながら5℃に冷却して、ゲル化させ、口に含んだ時に口溶け性が良好で、果実風味を有し食感良好な脂肪球皮膜成分を含有するゼリー食品を得た。
【0049】
処方例2 ミトコンドリア機能向上、エネルギー消費促進用錠剤
アスコルビン酸180mg、クエン酸50mg、アスパルテーム12mg、ステアリン酸マグネシウム24mg、結晶セルロース120mg、乳糖274mg、および脂肪球皮膜成分(メグレ社製 BSCP)800mgからなる処方(1日量2000mg)で、日本薬局方(製剤総則「錠剤」)に準じて錠剤を製造し、脂肪球皮膜成分を含有する錠剤を得た。
【0050】
処方例3 ミトコンドリア機能向上、エネルギー消費促進用ヨーグルト
20%脱脂乳を120℃で、3秒間殺菌した後、ストレプトコッカス・サーモフィルス及びラクトバチルス・カゼイの種菌を培養してヨーグルトベース300gを得た。さらに、砂糖50g、ペクチン3g、脂肪球皮膜成分(雪印乳業社製 ミルクセラミドMC−5)5000mgを水に溶解させ、水を加え全量を450gとした。この溶液を120℃で、3秒間殺菌してシロップを得た。上記のヨーグルトベースとシロップを混合し、香料を1g添加した後、均質化して、脂肪球皮膜成分を含有するミトコンドリア機能向上、エネルギー消費促進用ヨーグルトを得た。
【0051】
処方例4 ミトコンドリア機能向上、エネルギー消費促進用マヨネーズ
卵黄16gに食塩2.8g、蔗糖0.9g、香辛料(マスタード粉末)0.4g、調味料(グルタミン酸ナトリウム)0.5g、増粘剤0.5g、水23.0ml、食酢(酸度10%)8g、脂肪球皮膜成分(雪印乳業社製 ミルクセラミドMC−5)3000mgを加え、これにサラダ油50gを加えてよく攪拌して脂肪球皮膜成分を含有するミトコンドリア機能向上、エネルギー消費促進用マヨネーズを得た。
【0052】
処方例5 ミトコンドリア機能向上、エネルギー消費促進用内服液
タウリン1000mg、ショ糖1000mg、カラメル50mg、安息香酸ナトリウム30mg、ビタミンB1硝酸塩5mg、ビタミンB2 20mg、ビタミンB6 20mg、ビタミンC 2000mg、ビタミンE 100mg、ビタミンD3 2000IU、ニコチン酸アミド20mg、脂肪球皮膜成分(雪印乳業社製 ミルクセラミドMC−5)1000mg、ロイシン300mg、イソロイシン150mg、バリン150mgを適量の精製水に加えて溶解し、リン酸水溶液でpH3に調節した後、更に精製水を加えて全量を50mLとした。これを80℃で30分滅菌して、脂肪球皮膜成分及びアミノ酸類を含有するミトコンドリア機能向上、エネルギー消費促進用飲料を得た。
【0053】
処方例6 ミトコンドリア機能向上、エネルギー消費促進用乳系飲料
脱脂粉乳1.8g、クリーミングパウダー2.5g、デキストリン6.5g、ショ糖3g、ミネラル類1.2g、ビタミン類0.3g、脂肪球皮膜成分(ニュージーランドミルクプロダクツ社製 Phospholipid Concentrate 500)1.0gに精製水を加え、各成分を均一に混合し、脂肪球皮膜成分を含有するミトコンドリア機能向上、エネルギー消費促進用乳系飲料(100mL)を得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪球皮膜成分を有効成分とするミトコンドリア機能向上剤。
【請求項2】
脂肪球皮膜成分を有効成分とするエネルギー消費促進剤。
【請求項3】
脂肪球皮膜成分を有効成分とする脂質燃焼促進剤。

【公開番号】特開2011−157329(P2011−157329A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−22222(P2010−22222)
【出願日】平成22年2月3日(2010.2.3)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】