説明

ミニエマルションにおける酵素反応

本発明は、光学活性有機化合物を酵素で不斉に製造する方法に関する。本発明による方法は、ミニエマルションと称されるものにおいて実施される。本発明はまたミニエマルションを呈する酵素反応混合物にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学活性有機化合物を製造する方法に関する。ここで製造する光学活性有機化合物の特徴的な性質は、これらが1つまたはそれ以上の立体選択的な酵素変換によって不斉に得られることである。この立体選択的な酵素変換は、ミニエマルションと称される状態において行われる。本発明はまたこのような反応が優先的に行われる反応系にも関する。
【0002】
酵素処理ステップはまた、有機化合物を製造する工業プロセスにおいてますます使用されるようになっている。これは殊につぎような事実に基づくものである。すなわち、生体触媒として使用される酵素は少量ですでに適切な工業上の効果を示し、この触媒作用は基本的に穏やかな反応条件(温度、圧力およびpH)で発生し、また同時に酵素変換には高いエナンチオ選択性、位置選択性または化学選択性が結びついているという事実に基づくものである。このような理由から、これらの利点を可能な限りにおいて広く活用することを目指して、これらの変換反応を改善して工業プロセスに利用できるようにする努力がなお続いているのである。
【0003】
これに関連して、不斉酵素変換を用いて有機化合物を工業的に製造する可能性が詳しく研究されている。このような状況において、しばしば見受けられるようになったのは、工業的に大規模に酵素を使用することに関連してさまざまな欠点が発生することであり、これらの欠点、例えば、過剰な溶媒の使用および可溶性または材料搬送の問題は、上記のような目的に酵素を使用することに疑問を投げかけている。この意味から高い基質濃度を使用した生体触媒反応の実現は殊に困難である。Landfester等による刊行物には、不連続の疎水相が、ミニエマルション液滴と称されるものの中で分布している、連続的な水相を示す系におけるラクトンの酵素重合化が記載されている。このミニエマルションは、例えば、これらの2つの相を有する混合物に超音波または高圧ホモジナイザを作用させることによって得られる。これに加えて、これらの液滴を安定化させるために疎水性の補助剤および界面活性剤が上記の混合物中に存在する(Macromol. Rapid Commun. 2003, 24, 512-516; DE10248455)。
【0004】
本発明の課題は、不斉酵素反応ステップを使用して光学活性有機化合物を製造する方法を示すことである。殊にこの方法は、効率の点で従来技術の方法よりも優れており、しかも酵素変換がなお行われるという冒頭に述べた利点を有する。
【0005】
この課題は、本発明によって解決される。請求項1には本発明による方法が記載されている。請求項2〜10は、本発明によるプロセスの有利な実施形態の権利を保護しようとするものである。請求項11は、本発明による反応混合物に関する。
【0006】
上で設定した課題は、ミニエマルションにおいて殊に低分子量、非ポリマー、キラル分子の光学活性有機化合物の不斉酵素的製造方法を行うことによって驚異的かつ極めて有利に達成される。またミニエマルションを使用することによって、不斉に進行する酵素変換が、従来技術よりも良好に、殊に従来技術よりも一層効率的に行われるようにすることができる。したがって、従来公知の方法と比較すると、同じ量の酵素を使用して作用させる場合に反応時間を短くするか、または変換される有機化合物の使用可能量を増すことができ、これによっていずれの場合も一層高い空時収率を得るのに役に立つ。
【0007】
本発明では、ミニエマルションとはつぎのような混合物のことである。すなわち、この混合物では、剪断力、例えば超音波、鋼製の分散機またはミクロフルイダイザを集中的に使用することによって得られる安定した小液滴が、有利には当該の反応の持続時間にわたり、第2の連続相において分散された形で存在する混合物のことである。
【0008】
疎水性を有する液滴は、有利には水性媒体内で生成される。本発明では、水性媒体とは、水が主成分をなす均一な相のことであると理解する。しかしながら水溶性の他の有機溶媒、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、s−イソブタノール、t−イソブタノール、グリセロールおよびグリコールなどのアルコール、またはケトン、例えばアセトンおよびMIBK,またはDMSO,DMF,NMPまたはスルホランをこの相に混合することも可能である。この目的に対して当業者が考慮に入れる任意の液体は、疎水相として使用可能である。液体を選択する場合、当業者が判断のためにまず基礎に置くのは、この液体が、与えられた反応条件の下で水と2相の混合物を形成するか否かと、これが酵素変換に向かって緩慢に反応するか否かである。使用する基質が液体でありかつそれ自体が疎水相の機能を有すると考えられる場合、有利であれば、上記のような疎水性の液体の添加を省略することができる。これは基質毎に異なり、当業者は個々のケース毎に検証しなければならない。例えば基質が固体であるために基質に加えてさらに疎水性の液体(相)を加えなければならない場合、当業者は、有利にはエーテル、エステルおよび炭化水素を含む群からなる液体をこのために選択することになる。極めて好適な形態は、MTBE,酢酸エチル、n−ヘキサン、n−ヘプタン、シクロヘキサンおよびトルエンを使用することによって得られる。
【0009】
これに関連して上記の液滴は、例えば上記の混合物を超音波、鋼製の分散機またはミクロフルイダイザによって処理することによって分散させることができる(K. Landfester, M. Antonietti, "Miniemulsions the convenient synthesis of organic and inorganic nanoparticles and "single molecule" applications in materials chemistry" in: Colloids and Colloid Assemblies (Ed. : F. Caruso), Wiley VCH Verlag, Weinheim, Germany, 2004, pp. 175-215およびそこで引用されている文献)。上記のミニエマルション液滴の平均液滴直径は、20〜1000ナノメートル、殊に有利には30〜600ナノメートル、極めて有利には50〜500ナノメートルである。
【0010】
ミニエマルションを作製するために有利であるのは、液滴を生成する前に上記の混合物に界面活性剤を加えることである。この界面活性剤は、エマルションの量に対して、有利には1〜20質量%の範囲で、さらに有利には2〜15質量%で、また極めて有利には3〜10質量%で使用される。基本的にはこの目的に対して当業者が考慮に入れ、また作用させる酵素を失活させない任意の界面活性剤は、上記の使用に適切である。しかしながら、例えばA. Taden, M. Antonietti, K. Landfester, Macromol. Rapid Commun. 2003, 24, 512-516に記載されている、非イオン性の界面活性剤と称されるものを使用することは有利である。極めて好適な形態は、アルキルポリエチレングリコールエーテルを含む群から選択される界面活性剤、殊にLutensol AT(R)、さらに具体的にいうとLutensol AT 50(R)のエトキシレート(C16/18-EO8〜50)を使用することによって得られる。
【0011】
さらに、形成される上記のエマルション液滴は、原則として疎水性である他の不活性物質を添加することによって安定化される。前提条件は、これらの物質が、上記の疎水相よりも低い水溶性を示すことである。このような性質を示す有利な物質は、例えば、脂肪族または芳香族の炭化水素である。有利な脂肪族炭化水素は、例えば、C6-C20-アルカンである。これらは、極めて有利には、例えばヘキサデカンを含む炭水化物の群から選択される。これらの疎水物質は有利には、0.001〜70質量%のミニエマルションに対して、有利には0.1〜3質量%、また殊に有利には0.5〜2質量%の量で使用される。
【0012】
光学活性有機化合物を不斉に製造するために援用される酵素は、当業者が適当に選択することができる。基本的に本発明の方法は、この目的に対して当業者が考慮に入れる任意の酵素に適用可能である。酸化還元酵素、加水分解酵素、イソメラーゼ、トランスフェラーゼおよびリアーゼからなる群から選択される酵素は、有利に使用可能であることが判明している。殊に有利であるのは、リパーゼおよび酸化還元酵素を使用することである。極めて有利であるのはAmano companyから出荷されているリパーゼ PS(R)を使用することである。
【0013】
上記の酵素は以下の生物、すなわち、アルトロバクター菌株、殊にアルトロバクターパラフィネウス、アスペルギルス菌株、殊にアスピルギウスニガー、バシラス菌株、殊にバシラスサチリス、バシラスセレウス、バシラスステアロサーモフィラス、バークホルデリア菌株、殊にバークホルデリアセパシア、カンジダ菌株、殊にカンジダアンタルクティカ、カンジダボイジニおよびカンジダルゴサ、ラクトバシラス菌株、殊にラクトバシラスケフィアおよびラクトバシラスブレビス、ムコール菌株、殊にムコールジャワニクス、ペニシリウム菌株、殊にペニシリウムカマンベルティ、シュードモナス菌株、殊にシュードモナスセパシアおよびシュードモナスフルオレッセンス、リゾプス菌株、殊にリゾプスオリーゼ、ロドコッカス菌株、殊にロドコッカスエリスポリス、ロドコッカスルーバー(Rhodococcus ruber)およびロドコッカスロドクロウスから有利に取り出すことができ、また好熱好酸性腐食古細菌からも取り出すことができる。
【0014】
基本的には、当業者に思いつく、酵素と反応する任意の化合物を基質として使用することができる。この基質は有利には固体または液体の性質を有し、またキラル中心を有してないか、または少なくとも1つのキラル中心を有する。本発明の反応において生成される生成物は、光学的に富化された形態で発生する。すなわち、1つのエナンチオマーが、考えられる2つのエナンチオマーからなる混合物から、またはプロキラル化合物から進行して優先的に形成されるのである。生成物中に形成される鏡像異性体過剰率は有利には80%を上回り、さらに有利には90%を上回り、さらに一層有利には95%を上回り、極めて有利には98%を上回る。本発明による反応に有利に使用される物質クラスは、例えば、ラセミ体のα−またはβ−アミノ酸エステル、α−またはβ−ヒドロキシカルボン酸エステルおよびプロキラルケトンからなる群から選択することができる。ラセミ体のβ−アミノ酸エステル、殊にrac−3−アミノ−3−フェニルプロピオン酸n−プロピルを基質として使用することは極めて有利である。
【0015】
本発明の酵素反応は、有利にも比較的高い基質濃度において行うことができる。ミニエマルションにおける酵素変化に対して、300g/lを上回る、殊に450g/lを上回る、極めて有利には600g/lを上回る基質の出発量を使用することは有利である。
【0016】
光学活性有機化合物を製造するのに必要な1つまたは複数の酵素は、当該の反応においてそれ自体で、またはこれらの酵素のうちの1つまたは複数を示す微生物の形態で使用することができる。本発明では、「それ自体で」という表現は、酵素がミニエマルションに自然状態で添加されるか、または所望のように高度に精製した形態の、組み換えによって製造したタンパク質として添加されることを意味すると理解する。しかしながら基本的には微生物の構成要素としての1つまたは複数の酵素を使用することも可能である。したがって上記の微生物は1つの細胞であり、この細胞には少なくとも1つの遺伝子が発現されている。すなわち、本発明による変換を触媒することの可能な少なくとも1つのタンパク質が存在するのである。上記の遺伝子が組換え体の形で微生物内に存在する場合、この微生物は宿主生物と称される。この宿主生物は、組み込まれた形態で遺伝子を染色体内またはプラスミドに含むことができる。いくつかの酵素が上記の酵素変換に含まれ、これらの酵素がすべて1宿主生物により、組換え体の形で表される場合、後者のことをここでは全細胞触媒(whole cell catalyst)と称する。いくつかの酵素がそのままで、または全細胞触媒の形態で、例えば反応カスケードで使用される場合、本発明によれば、少なくとも1つの酵素によって、相応する基質の不斉変換をもたらせば十分である(EP1216304 この場合、ヒダントイン ラセマーゼ/ヒダントイナーゼ/立体選択的カルバモイラーゼ)。この関連において挙げることのできる宿主生物は、酵母、例えばハンゼヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha)、ピチア種およびサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、原核生物、例えば大腸菌及びバシラス・サチラス、または真核生物、例えば哺乳類細胞、昆虫細胞又は植物細胞などの生物である。クローニング法も当業者には公知である(Sambrook, J.; Fritsch, E. F. and Maniatis, T. (1989), Molecular cloning: a laboratory manual, 2nd ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York)。このために大腸菌株を使用することは有利である。殊に有利であるのは、E.コリXL1 Blue,NM 522,JM101,JM109,JM105,RR1,DH5α,TOP 10−,HB101,BL21 codon plus,BL21(DE3) codon plus,BL21,BL21(DE3)およびMM294である。
【0017】
基本的にはこの目的に対して当業者に利用可能な任意の実施形態は、当該の遺伝子をクローニングするためのプラスミドまたはベクターとして使用するのに有利である。これらのプラスミドおよびベクターは、例えばStudierおよびその同僚による刊行物(Studier, W. F.; Rosenberg A. H.; Dunn J. J.; Dubendroff J. W.; (1990), Use of the T7 RNA polymerase to direct expression of cloned genes, Methods Enzymol. 185, 61-89)、またはNovagen社、Promega社、New England Biolabs社、Clontech社またはGibco BRL社によって提供されているパンフレットに見いだすことができる。他の有利なプラスミドおよびベクターは、Glover, D. M. (1985), DNA cloning: a practical approach, Vol. I-III, IRL Press Ltd., Oxford; Rodriguez, R. LおよびDenhardt, D. T. (eds) (1988), Vectors: a survey of molecular cloning vectors and their uses, 179-204, Butterworth, Stoneham; Goeddel, D. V. (1990), Systems for heterologous gene expression, Methods Enzymol. 185, 3-7; Sambrook, J.; Fritsch, E. FおよびManiatis, T. (1989), Molecular cloning: a laboratory manual, 2nd ed, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New Yorkに見いだすことができる。
【0018】
考察している核酸配列を含有する遺伝子構成物を宿主生物中にクローニングするために使用可能なプラスミドは、殊に有利には、pUC18/19(Roche Biochemicals)、pKK−177−3H(Roche Biochemicals)、pBTac2(Roche Biochemicals)、pKK223−3(Amersham Pharmacia Biotech)、pKK−233−3、(Stratagene)またはpET(Novagen)であるか、またはこれらをベースにしたものである。
【0019】
有利であることが判明したのは、本発明による方法を実施する場合に、有利には使用する前に微生物または宿主生物に対して前処理を行って、基質および生成物に対する細胞膜の透過性が、インタクトな系と比べて大きくなるようにすることである。この関連において、上記の微生物または宿主生物を、例えば凍結で前処理するかおよび/または有機溶媒、殊にトルエンで処理する方法が特に有利である。別の実施形態において、本発明によって扱われるのは、ミニエマルションを呈する反応混合物であり、このミニエマルションに含まれるのは、連続的な水性相および不連続な疎水相、有機化合物を不斉に製造するのに必要な立体選択的酵素またはこの酵素を含む微生物、界面活性剤、エマルション液滴を安定化する疎水物質、上記の酵素によって変換される、プロキラルまたはラセミまたはエナンチオマー富化した有機化合物、および/またはこの化合物の反応生成物である。本発明による方法の有利な実施形態は、この反応生成物においても類似に有効である。
【0020】
本発明にしたがってミニエマルションの形で反応混合物を生成することについては、冒頭に挙げた先行技術を参照されたい。従来技術において示された製造方法の変形実施形態は、相応する仕方で本発明に適用可能である。したがってミニエマルションは、例えば、有機溶媒および水相からなる混合物に超音波処理を施すことによって形成可能である。これによって均一な乳濁液が得られ、これは、所定の条件の下でまた上記の添加剤を添加することによって、酵素変換の期間中にはもはや偏析しないため、結果的に本発明が意味を持つ範囲内では安定である。pHまたは温度などの別の反応パラメータに対する設定は、基礎にある酵素変換に依存し、または当業者はこれをルーチン実験によって確かめることができる。
【0021】
したがって例えば、3−アミノ−3−フェニルプロピオン酸n−プロピルを含み、ヘキサデカンおよび界面活性剤を含有する水相混合物を超音波によってミニエマルションに変換することができる。リパーゼを使用する場合に得られる液滴の図が図1に示されている。この関連においてこのリパーゼは、超音波処理の前に添加することができるか、または超音波処理の後、ミニエマルションに攪拌して入れることができる。酵素変換の生成物、この場合には(S)−3−アミノ−3−フェニル−n−プロピオン酸は、反応中にミニエマルションから析出して、簡単な濾過によって残りの反応混合物から分離除去することができる。上記のミニエマルションを使用した場合、反応速度が以前の処理と比較して増大することが判明した(例1(比較のための例)および例2を参照されたい)。意外なことにも、固体によってミニエマルションが不安定になり得るのにもかかわらず、反応中に固体が形成されてもこのミニエマルションは不安定にはならない。したがってこのミニエマルションは、第3の相、すなわち固体相の形成が進行中であっても安定のままであり、これは予想していなかったことである。さらに意外であるのは、形成される上記の固体が、(工業的な)濾過に適した粒径を有することである。このことは想定外であった。それは、定義により、上記のミニエマルションは、空間的に分離した極めて小さい液滴からなるからである。この場合にこれらの液滴は、殊に標準の析出過程と比較して、結晶核の数が増えることになるため、極めて粒子直径が小さく、細かく分離された固体になるはずであり、これによって今度は相応に濾過が困難になるからである。
【0022】
またさらに意外であったのは、ミニエマルションを使用した結果、攪拌特性を保ちかつ高いターンオーバを達成する同時に基質濃度を高められたことであった。上記の実験は、リットル当たり数百グラム、例えば482g/lの基質濃度を使用して行われた(例3を参照されたい)。これは、今までに報告されている、酵素エナンチオ選択的な反応に対する最も高い基質濃度のうちの1つである。今からかなり前にカルボン酸エステルの加水分解に超音波を使用することが知られている(Yim et al., Chemistry Letters 2001, p. 938; Moon et al. Tetrahedron Letters 1979, 41, 3917)。超音波を使用することによってこのエステルの加水分解を増大できることが報告されている。この場合に意外であるのは、まさに上で説明した反応において、超音波を使用することの結果として、所望の光学活性生成物ではない不所望のラセミ化合物が形成されるのに伴って、エステルの対称な開裂が発生しないことであり、また実際に、酵素不斉加水分解だけが顕著であるということである。またこのことは、生成物のee値が極めて良好であることによって明らかである。超音波を使用する場合、ミニエマルションにおいて予想し得る実際の不所望で対称な加水分解(symmetrical hydrolysis)は、せいぜいのところ背景的な反応(background reaction)として従属的な役割しか果たさないのである。
【0023】
さらに意外であると考えられ得るのは、使用する酵素が、超音波パルスまたは使用される別の剪断力によってその機能的な能力を過度に失うような影響を受けないことである。音波破砕性の媒体において超音波によってマイクロバブルが形成され、このバブルにより、破壊に伴って5000Kまでの温度および1000barまでの圧力が形成されるという事実を考え合わせて正確に言うと、酵素と同様に壊れやすい化合物の有利な使用は、極めて意外に思えるはずである。
【0024】
ミニエマルションを使用して低分子量の光学活性分子を酵素反応で製造するという考え方は、今まで一般に公知ではない。公知であるのは、ミニエマルションにおいて酵素によるラクトンの重合処理を実現することだけである(すでに上で説明したものを参照されたい)。光学活性有機化合物を製造するための酵素変換において、本発明による方法により、従来の方法よりも短い反応時間を達成することができ、および/または使用する基質量を多くすることができる。このような状況になることは、従来技術を背景にした場合、本発明の時点において明らかではなかった。
【0025】
実施例:
実施例1(=比較のための実施例):242 g/lの基質濃度を有する2相系におけるラセミ体のβ−アミノ酸エステルのリパーゼ触媒によるエナンチオ選択的加水分解
最初に80mlの水を導入して、1.45gのアマノリパーゼPS(Amano Enzymes, Inc.から入手したPsedomas cepacia)をこれに加える。つぎに溶解されない固体を濾別する。有機溶媒成分として80mlのメチルt−ブチルエーテル(MTBE)を、上記の濾液として得られる酵素水溶液に加える。自動pHスタットを使用して、上記の2相系を調節してpHを8.2にし、この2相系をこのpHに一定に保つ。ここでこれは(Merck社から入手した)1Mの水酸化ナトリウム溶液を添加することによって行われる。20℃に到達したら、つぎに39gのラセミ化合物rac-3−アミノ−3−フェニルプロピオン酸n−プロピルを添加して反応を開始させる。この反応時間は18時間であり、この間に所望の生成物(S)−3−アミノ−3−フェニルプロピオン酸を含む白色の析出物が生じる。160mlのアセトンを添加して上記の析出を終了させ、つぎにこの混合物を45分間攪拌する。この固体を濾別して少量のアセトンで洗浄する。
【0026】
1時間後、最初のうち、13.9%の変換が観察される。15時間の反応時間の後、約50%の変換が達成される。後処理の後、分離される生成物は、ee値が99%より大きく、収率は41%である。
【0027】
実施例2:242g/lの基質濃度を有するミニエマルションにおける、ラセミ体のβ−アミノ酸エステルのリパーゼ触媒によるエナンチオ選択的加水分解
最初に40mlの界面活性剤溶液を導入して、1.45gのアマノリパーゼPS(Amano Enzymes, Inc.から入手したPsedomas cepacia)をこれに加える。つぎに溶解されない固体を濾別する。
【0028】
いずれの場合も、使用されるプロピルエステルの3分の1(全体で39g)およびヘキサデカンの3分の1(全体で1.638g)またいずれの場合も界面活性剤の1%溶液の40mlが混合され、マグネチックスターラを使用して攪拌される。つぎにこれらの3つのエマルションをいずれも超音波プローブを使用して200Wで4分間処理する。
【0029】
濾液を3つのミニエマルションと合わせ、また自動pHスタットを使用して、この混合物を調節してpHを8.2にし、またこの混合物をこのpHに一定に保つ。ここでこれは(Merck社から入手した)1M水酸化ナトリウム溶液を加えることによって行われる。反応温度は20℃、反応時間は17時間であり、この間に所望の生成物(S)−3−アミノ−3−フェニルプロピオン酸を含む白色の析出物が生じる。160mlのアセトンを加えて上記の析出を終了させ、続いてこの混合物を45分間攪拌する。この固体を濾別して、少量のアセトンで洗浄する。
【0030】
1時間後、最初のうち17.5%の変換が観察される。6時間の反応時間の後、約49%の変換が達成される。後処理の後、分離される生成物は、ee値が99%より大きく、収量は41%である。
【0031】
実施例3:484g/lの基質濃度を有するミニエマルションにおける、ラセミ体のβ−アミノ酸エステルのリパーゼ触媒によるエナンチオ選択的加水分解
最初に40mlの界面活性剤溶液を導入して、1.21gのアマノリパーゼPS(Amano Enzymes, Inc.から入手したPsedomas cepacia)をこれに加える。つぎに溶解されない固体を濾別する。いずれの場合も、使用されるプロピルエステルの3分の1(全体で65.21g)およびヘキサデカンの3分の1(全体で1.369g)またいずれの場合も界面活性剤の1%溶液の32mlを混合して、マグネチックスターラを使用して攪拌する。つぎにこれらの3つのエマルションをいずれも超音波プローブを使用して200Wで4分間処理する。
【0032】
濾液を3つのミニエマルションと合わせ、また自動pHスタットを使用して、この混合物を調節してpHを8.2にし、またこの混合物をこのpHに一定に保つ。ここでこれは(Merck社から入手した)1M水酸化ナトリウム溶液を加えることによって行われる。反応温度は20℃、反応時間は18時間であり、この間に所望の生成物(S)−3−アミノ−3−フェニルプロピオン酸を含む白色の析出物が生じる。160mlのアセトンを加えて上記の析出を終了させ、続いてこの混合物を45分間攪拌する。この固体を濾別して、少量のアセトンおよび100mlのMTBEで洗浄する。
【0033】
1時間後、最初のうち10.5%の変換が観察される。18時間の反応時間の後、約45%の変換が達成される。後処理の後、分離される生成物は、ee値が99%より大きく、収量は37%である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】リパーゼを使用する場合に得られる液滴の図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミニエマルション中で光学活性有機化合物を不斉に酵素で製造する方法。
【請求項2】
水性媒体中に疎水性の液滴のミニエマルションを生成する、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
エマルション液滴の平均液滴直径が20〜1000nmであるミニエマルションを生成する、
請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記のミニエマルションには界面活性剤が含まれている、
請求項1から3までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記のミニエマルションには非イオン界面活性剤、有利にはLutensol AT 50(R)が含まれている、
請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
不活性疎水物質、有利にはn−ヘキサデカンを添加することによって前記のエマルション液滴がさらに安定化されている、
請求項1から5までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
使用する酵素を、酸化還元酵素、加水分解酵素、イソメラーゼ、トランスフェラーゼおよびリアーゼからなる群から選択する、
請求項1から6までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
使用する基質は、ラセミ体のアミノ酸エステル、有利にはβ−アミノ酸エステル、殊にrac-3−アミノ−S−フェニルプロピオン酸n−プロピルである、
請求項1から7までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
300g/lを上回る、殊に450g/lを上回る基質濃度で前記酵素反応を行う、
請求項1から8までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記の有機化合物を製造するのに必要な1つまたは複数の酵素をそれ自体で使用するか、または当該の酵素の1つ以上を含む微生物の形態で使用する、
請求項1から9までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
ミニエマルションを呈する反応混合物において、
該反応混合物は、
連続的な水性相および不連続な疎水相、
有機化合物を不斉に製造するのに必要な立体選択的酵素または当該酵素を含む微生物、
界面活性剤、
前記のエマルション液滴を安定化する疎水物質、
前記の酵素によって変換される、プロキラルまたはラセミまたはエナンチオマー富化した有機化合物、および/または
当該化合物の反応生成物を含むことを特徴する、
ミニエマルションを呈する反応混合物。

【図1】
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【公表番号】特表2008−521386(P2008−521386A)
【公表日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−541737(P2007−541737)
【出願日】平成17年11月4日(2005.11.4)
【国際出願番号】PCT/EP2005/011824
【国際公開番号】WO2006/058595
【国際公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【出願人】(501073862)エボニック デグサ ゲーエムベーハー (837)
【氏名又は名称原語表記】Evonik Degussa GmbH
【住所又は居所原語表記】Rellinghauser Strasse 1−11, D−45128 Essen, Germany
【Fターム(参考)】