説明

ミネラル剤及びその製造方法

【課題】 溶解性が良好で食品成分との相互作用がなく、呈味性に優れたミネラル剤を提供する。
【解決手段】 柑橘類果汁、又は有機酸としてクエン酸及びリンゴ酸を含有し、かつ全有機酸中クエン酸が70%以上である有機酸混合溶液を用いてミネラル源を溶解する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶解性が良好であると同時に食品成分との相互作用がなく、かつ呈味性の良好なミネラル剤及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、健康志向の高まりから、カルシウム、マグネシウム、鉄等のミネラルを強化した多種多様なミネラル強化食品が開発されている。ミネラル強化に用いられるミネラル剤には様々な性状のものがあるが、飲料用途としてはもちろんのこと、その他の用途についても加工適性等を考慮すると、沈殿物を生じず溶解性が良好であることが求められる。また同時に、配合に伴うこれらミネラル剤と食品成分との相互作用や食品の風味低下をも抑制する必要がある。
【0003】
一般に溶解性の良好な塩類は、食品成分と相互作用を起こし、沈殿物や凝固物を発生させたり、呈味性を劣化させたりすることから、食品への多量の添加には適しない。例えば、溶解性の塩である塩化カルシウムをそのまま乳に添加すると、著しく乳の風味が劣化すると同時に、乳成分と相互作用を起こし、加熱時に短時間で凝集、沈殿を生じる。
【0004】
一方、難溶性の塩類は解離しないことから食品成分との相互作用もなく、かつ無味であり食品の呈味性に影響を与えない点で優れているが、製品適性や加工適性等を考慮すると、食品への添加には特別な技術が必要となる場合が多い。例えば、難溶性の塩である炭酸カルシウムは無味であり呈味性に影響を与えない点で優れており、乳飲料のカルシウム強化に広く用いられているが、沈殿物を生じやすいため、配合に当たっては機械的に微粒子化することで沈殿物の生成を防止している現状にある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、溶解性が良好であると同時に食品成分との相互作用がなく、かつ呈味性の良好なミネラル剤及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、カルシウム、マグネシウム、鉄、亜鉛、マンガン等の二価ミネラルを含む難溶性塩類又は乳清ミネラル素材等のミネラル含有食品素材を有機酸含有溶液を用いて溶解することにより溶解性の良好なミネラル剤が得られることを見出し、本発明を完成した。溶解したミネラル分は有機酸含有溶液中のクエン酸等と錯塩を形成することから、食品への添加時に、ミネラル分と食品成分との相互作用がなく、加熱により新たに沈殿物を生じたりすること等がない。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、有機酸含有溶液を用いて二価ミネラルを含む各種ミネラル源から、溶解性が良好であると同時に食品成分との相互作用がなく、かつ呈味性に優れたミネラル剤を製造することができるので、従来食品への配合が困難であった各種ミネラル源をより広範に利用できるようになる。
【0008】
本発明のミネラル剤は、濃縮液又は乾燥粉末の形態に加工して利用することもできる。柑橘類果汁を用いてミネラル源を溶解した場合はミネラル剤に柑橘風味を付与することができる。なお、この柑橘風味は濃縮・乾燥工程を経ることにより低減するので、柑橘風味が好ましくない食品に利用する場合は濃縮液又は乾燥粉末としたものを用いればよい。以上のように、柑橘類果汁又は有機酸混合溶液を用いることにより、従来は利用が困難であった塩類及びミネラル分を含有する食品素材を簡便に利用できる。本発明により、溶解性が良好であると同時に食品成分との相互作用がなく、かつ呈味性の良好なミネラル剤及びその製造方法が提供される。
【0009】
本発明に用いる有機酸含有溶液としては、レモン、オレンジ、グレープフルーツ等、柑橘類果汁であれば、果汁原液、濃縮果汁、濃縮果汁の還元液、果汁粉末還元液等、果肉を含まない液体調製物はすべて利用することができる。また、有機酸としてクエン酸及びリンゴ酸を含有する有機酸混合溶液も同様に利用することができる。有機酸混合溶液を用いる場合は、クエン酸の含有量が少ないと良好な風味が得られないため、クエン酸を全有機酸中70%以上含有するものを用いる。溶解性の良好な塩類やミネラル含有食品素材はもちろんのこと、難溶性の塩類及びミネラル含有食品素材であっても、有機酸含有溶液中の有機酸により溶解することができる。
【0010】
一方、ミネラル源としては、カルシウム、マグネシウム、鉄、亜鉛、マンガン等の二価ミネラルを含む塩類を用いる。これらの塩類はその溶解性に関わらず用いることができる。また、乳清ミネラル素材等のミネラル分を含有する食品素材も同様に利用することができる。
【0011】
次に、本発明のミネラル剤の製造方法について述べる。有機酸含有溶液に対し、溶液を攪拌しながら、ミネラル源をミネラル分を飽和するまで徐々に添加していく。なお、有機酸含有溶液として濃縮された柑橘類果汁を用いる場合には、沈殿物の発生等の問題が起こることがあるため、酸含有量300g/l以下のものを用いることが好ましい。得られた飽和溶液を適性なフィルターで濾過するか、遠心分離機で不溶解物及び溶液の飽和による沈殿物を除去することにより、清澄な液体を得る。次いで、80〜130℃で2〜60秒間加熱殺菌を行った後、減圧濃縮等により液体を濃縮する。さらにこの濃縮液を凍結乾燥や噴霧乾燥等により粉末化する。上記製造工程中の清澄な液体、濃縮液、乾燥粉末のいずれも本発明のミネラル剤として用いることができる。以下、本発明を試験例及び実施例により詳細に説明する。
【0012】
(試験例1)
(有機酸含有溶液による難溶性ミネラル源の可溶化)
食品添加物用の炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、第二リン酸カルシウム、第三リン酸カルシウム、クエン酸カルシウム、ピロリン酸第一鉄、酸化マグネシウム、及び乳清ミネラル素材(LACTOVAL、DMV社製)について、水、柑橘類果汁、有機酸混合溶液のそれぞれにより溶解した場合の溶解性を比較した。なお、LACTOVALは乳清から作られ、約60%の灰分を含むミネラル高含有素材である。組成としてはリンとカルシウムの含有量が特に高く、それぞれ15%前後を占める。
【0013】
ミネラルとして3g相当量の上記ミネラル源をそれぞれ100mlの水、酸含有量250g/lのレモン濃縮果汁還元液、酸含有量250g/lで有機酸の80%がクエン酸、20%がリンゴ酸である有機酸混合溶液のそれぞれに溶解し、ミネラル溶液を調製した。各ミネラル溶液の50mlを用量目盛り付き遠心管に入れ、300Gで5分間遠心分離後、沈殿物量を測定した。
【0014】
結果を表1に示す。天然食品素材であるレモン果汁又は有機酸混合溶液を用いることにより、難溶性ミネラル源を可溶化でき、従来利用が困難であった難溶性ミネラル源の食品への添加がより簡便に行えるようになった。得られたミネラル剤溶液は、さらに濃縮、乾燥処理を行うことにより、濃縮液又は乾燥粉末の形態に加工して利用することもできる。
【0015】
【表1】

【0016】
(試験例2)
(各ミネラル剤の風味比較)
次に、食品添加物用の塩化カルシウム、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、第3リン酸カルシウムと本発明によるカルシウム剤の風味を比較した。本発明によるカルシウム剤として、酸含有量250g/lのレモン濃縮果汁の還元液、又は酸含有量250g/lで有機酸の80%がクエン酸、20%がリンゴ酸である有機酸混合溶液100mlに対して、食品添加物用の塩化カルシウム8.3g、第3リン酸カルシウム7.8g、炭酸カルシウム7.5gのそれぞれを徐々に溶解したものを用いた。このようにしてカルシウム濃度が0.1重量%のカルシウム剤溶液を調整し、風味を官能評価した。結果を表2に示す。なお、各ミネラル剤の溶解特性を、易溶性(○)、難溶性(×)として併記した。
【0017】
【表2】

【0018】
塩化カルシウム及び硫酸カルシウムは、溶解性が良好であるが、その風味は苦み及びえぐみを強く感じるものであり、食品へ大量に配合することは許容されるものではない。一方、炭酸カルシウム及び第3リン酸カルシウムは、難溶性であることから殆ど無味であるが、沈殿することによるざらつきを感じる。炭酸カルシウム及び第3リン酸カルシウムをレモン濃縮果汁又は有機酸混合溶液で溶解することにより、難溶性の炭酸カルシウムが溶液化できると同時に、風味も酸味を感じる程度となった。
【0019】
食品の種類によっては、柑橘類果汁を用いてミネラル源を溶解した場合、柑橘類果汁に由来する柑橘風味が気になることがある。このような場合は、ミネラル源を溶解した後にさらに濃縮や乾燥工程を施すことで、柑橘風味を低減化することができる。次の試験例では、濃縮及び乾燥処理による柑橘風味低減化効果について説明する。
【0020】
(試験例3)
(濃縮、乾燥工程による柑橘風味の低減化効果)
酸含有量250g/lのレモン濃縮果汁還元液100kgに対して、食品添加物用の炭酸カルシウム7.5kgを徐々に溶解した後、沈殿物をクラリファイアで除去して清澄な液体を得た。次にこの液体を120℃で2秒間殺菌した後、減圧濃縮、噴霧乾燥を行い乾燥粉末を製造した。以上の乾燥粉末の製造工程の各段階において、レモン濃縮果汁に由来する柑橘風味の強度の変化を調べた。レモン濃縮果汁還元液、さらに炭酸カルシウム添加、殺菌、減圧濃縮、噴霧乾燥の各段階で試料を採取した。各試料について、糖質含有量が10重量%になるように溶液を調製し、柑橘風味の強度を調べた。柑橘風味の強度は柑橘風味を強く感じる(+++)、感じる(++)、やや感じる(+)、感じない(−)の4段階で官能評価した。
【0021】
結果を表3に示す。粉末化への工程を進むに従い、溶液の持つ柑橘風味が低減してゆくことが明らかになった。減圧濃縮工程では加温しながらの減圧吸引により、また噴霧乾燥工程では熱風中への溶液の噴霧により、水分とともに柑橘風味を形成している揮発性物質が除かれ、柑橘風味が低減するものと考えられる。このように、柑橘果汁由来の柑橘風味は、濃縮、乾燥工程を経ることにより低減し、より広範に利用できるミネラル剤が得られた。
【0022】
【表3】

【0023】
(試験例4)
(ミネラル剤を配合した食品の熱安定性)
食品添加物用の塩化カルシウム、試験例3で調製したカルシウム剤粉末のそれぞれについて、カルシウム量として0.5g相当量を10重量%の還元脱脂乳1000mlに添加し、溶解した。4℃で一晩、静置した後、1.0NカセイソーダでpH6.45に調整した。それぞれを約2mlずつガラスアンプル管に封入し、120℃に維持したオイルバス中に浸漬して、凝固物発生に到る時間(熱凝固時間;Heat Coagulation Time (HCT) )を測定した。
【0024】
結果を表4に示す。なお、カルシウム剤無添加の10重量%の還元脱脂乳をコントロールとして、同様の処理を行い比較した。また各試料のカルシウム含有量も合わせて示した。試験例3のカルシウム剤を配合したカルシウム強化乳は、熱安定性が極めて良好であり、カルシウム剤無添加の還元脱脂乳とほぼ同等のHCTを示した。それに対して、塩化カルシウム配合乳では、加熱により直ちに凝乳してしまう。
【0025】
【表4】

【0026】
通常、乳に溶解性すなわちイオン状のカルシウムを大量に添加した場合、乳タンパク質との相互作用により、凝乳したり、熱安定性が極端に低下する。それに対して、本発明のミネラル剤では、溶解したミネラル分は柑橘類果汁又は有機酸混合溶液中に含まれるクエン酸等と錯塩を形成することから、乳等の食品への添加時に、ミネラル分と食品成分との相互作用を生じないことから、加熱安定性の良好なカルシウム強化乳が得られる。
【0027】
(実施例1)
(柑橘類果汁を用いたミネラル剤の製造)
酸含有量が15g/lのレモン濃縮果汁還元液360kgに対して、食品添加物用の炭酸カルシウム1.5kgを徐々に溶解した後、クラリファイアに通液し、清澄な液体を得た。次にこの液体を120℃で2秒間殺菌した後、減圧濃縮し、さらに噴霧乾燥して乾燥粉末を製造した。このようにして得られたカルシウム剤について、食品添加物として認可されている炭酸カルシウム及び塩化カルシウムとその溶解性及び風味を比較した。カルシウム濃度が200mMとなるよう各カルシウム剤を溶解した溶液50mlを容量目盛り付き遠心管に入れ、300Gで5分間遠心分離後、沈殿物量を測定した。また風味については官能評価を行った。
【0028】
結果を表5に示す。塩化カルシウムは良好な溶解性を示すが、その風味は苦み、えぐ味が強く、食品に多量に添加した場合、その風味は許容され得ない。一方、炭酸カルシウムは無味であることから、風味の点では良好なミネラル剤であるが、不溶解性であることから沈殿物が大量に発生する。これに対し、レモン濃縮果汁還元液と炭酸カルシウムから調製されたカルシウム剤は沈殿物を生じず、また風味も穏やかな酸味となり、食品のカルシウム強化に有用であることが明らかになった。
【0029】
【表5】

【0030】
(実施例2)
(乳清ミネラル素材からのミネラル剤製造)
酸含有量が250g/lのレモン濃縮果汁の還元液又は乳糖を40%含み有機酸の80%がクエン酸、20%がリンゴ酸である酸溶液100kgに対して、乳清ミネラル素材(LACTOVAL、DMV社製)18.75kgを徐々に溶解した。次に、高圧ホモゲナイザーにより均質圧150kg/cm2 で均質化した後、クラリファイアに通液して不溶解物を除去した。さらにこの液体を120℃で2秒間殺菌した後、減圧濃縮し、さらに噴霧乾燥して乾燥粉末を得た。上記のように調製した乾燥粉末とLACTOVALを、それぞれ10重量%となるよう40℃の蒸留水と混合したものについて、溶解性、風味を実施例1と同様の方法で比較した。
【0031】
結果を表6に示す。また、粉末当たりのカルシウム含有量も合わせて表中に示した。LACTOVALはフラットな風味ではあるが、非常に溶解性の低い乳清ミネラル素材であることから、大量の沈殿物を生じ、食品素材としては極めて利用困難なものであった。しかしながら、レモン濃縮果汁又は有機酸混合溶液で溶解した後に粉末化することにより、溶解性が非常に良好で、かつ穏やかな風味のカルシウム剤とすることができた。このように本発明では、例えばレモン濃縮果汁と乳清ミネラル素材という、天然食品素材のみを原料として用いてミネラル剤を調製することもできる。
【0032】
【表6】

【0033】
(実施例3)
(マルチミネラル剤の製造)
酸含有量が250g/lのレモン濃縮果汁還元液150kgに対して、食品添加物用の第一リン酸カルシウム6.3kg、炭酸マグネシウム1.75kg、炭酸ナトリウム15kg及び炭酸カリウム6kgを徐々に溶解した後、クラリファイアに通液し、清澄な液体を得た。次にこの液体を120℃で2秒間殺菌した後、減圧濃縮し、さらに噴霧乾燥して乾燥粉末を製造した。このようにして得られたマルチミネラル剤は、溶解性や呈味性が良好であり、カルシウム、マグネシウム、ナトリウム、カリウム、リンを理想的なバランスである2:1:13:6.7:4.3に近い比で含んでいる。なお、カルシウムは厚生省により栄養所要量が定められており、マグネシウム、ナトリウム、カリウム、リンについては目標摂取量が定められている。本発明のミネラル剤を用いることで、これらの栄養素をバランス良く摂取できる。
【0034】
(実施例4)
(有機酸混合溶液を用いたミネラル剤の製造)
酸含有量250g/lであり、有機酸組成がクエン酸95%、リンゴ酸5%である酸溶液100kgに対して、トレハロース30kg及び食品添加物用の炭酸カルシウム7.5kgを徐々に溶解した。次にこれをクラリファイアに通液し、沈殿物を除去した後、120℃で2秒間殺菌した。次に、減圧濃縮し、さらに噴霧乾燥して乾燥粉末を製造した。製造された粉末の還元液には沈殿物等は見られず、風味も良好なものとなった。
【0035】
(実施例5)
(ミネラル強化乳の製造)
生乳150kgに対し、実施例3と同様の割合でレモン濃縮果汁と食品添加物用の炭酸カルシウムを混合した液体1.2kgを加えた後、食品添加物用カセイソーダによりpHを6.65に調製した。次に、高圧ホモゲナイザーにより均質圧150kg/cm2 で均質化した後、130℃で2秒間加熱殺菌してカルシウム強化乳を製造した。加熱殺菌処理を行っても、タンパク質の凝固や沈殿が生成することなく製造でき、その品質は通常の飲用乳の保存期間を通して変化はなかった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
二価ミネラルと有機酸とを含有し、有機酸組成がクエン酸及びリンゴ酸を含むものであり、かつクエン酸の有機酸組成比が70%以上であることを特徴とするミネラル剤。
【請求項2】
二価ミネラルを含有する塩類及び/又は食品素材を、有機酸としてクエン酸及びリンゴ酸を含み、かつ全有機酸中クエン酸が70%以上である有機酸含有溶液で溶解し、かつ、清澄な溶液とすることを特徴とする、ミネラル剤の製造方法。

【公開番号】特開2007−209358(P2007−209358A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−139424(P2007−139424)
【出願日】平成19年5月25日(2007.5.25)
【分割の表示】特願平10−46627の分割
【原出願日】平成10年2月27日(1998.2.27)
【出願人】(000006699)雪印乳業株式会社 (155)
【Fターム(参考)】