説明

ミミズ乾燥粉末の製造方法

【課題】ミミズ生体から、その消化管内に残留する消化物や体皮に付着する汚物を、ミミズの体力低下することなく、しかも効率よく排泄させることにより、有用な薬理効果の劣化なしに、ミミズの乾燥粉末を製造する方法を提供する。
【解決手段】生ミミズを10〜50時間明所に放置後、体皮に付着する汚物を剥ぎ取り、次いで有機酸と接触させ、可及的速やかに水で希釈してpH2〜5に調整し、この条件下に3〜180分間保持したのち、水洗し、次いでこれを摩砕し、この摩砕物を−18℃〜−35℃で20〜240時間凍結させたのち、真空下で凍結乾燥し、同時に脱ガスする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミミズが本来有する薬理作用を低下することなく、消化管内、体皮に付着する汚物を除去して、各種疾病の治療に有効なミミズ乾燥粉末を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ミミズは、古来より主として東洋諸国において、各種疾病の予防剤、治療剤として用いられており、これまでに膀胱内結石縮小剤及び排出促進剤、黄疸治療剤、分娩促進剤、強壮剤、育毛剤、強精剤、解熱剤、ひきつけ治療剤、血行促進剤、半身不随治療剤、間接鎮痛剤、排尿剤、気管支喘息剤、高血圧症治療剤としての用途が知られている。
【0003】
ところで、ミミズ生体を原料として経口投与のための薬剤を調製するには、ミミズの消化管内に残留する消化物、体皮に付着する汚物等を除去する必要があり、これまでに、そのための多くの方法が提案されている。
【0004】
例えば、ミミズ生体をナトリウム塩又はカリウム塩のようなアルカリ塩の水溶液中に浸せきして、消化管内の黄土を排泄させたのち、湿式粉砕し、得られた懸濁液を真空凍結乾燥して糖尿病治療剤、抗高脂血症剤又は血圧調節剤として有用なミミズ乾燥粉末を製造する方法(特許文献1〜4参照)、ミミズ生体を6〜26℃に維持した酸水溶液中に0.1〜5時間放置して消化管内の糞土を除去したのち摩砕し、この摩砕物を脱ガス後、段階的に昇温させながら真空乾燥して血栓症患者治療薬を製造する方法(特許文献5参照)などがこれまでに提案されている。
【0005】
しかしながら、ミミズ生体をアルカリ塩水溶液や酸水溶液に長時間浸せきすると、ミミズの体力が弱り、その結果、生体内に含まれるタンパク質が変性し、酵素作用が低下するため、得られるミミズ粉末の薬理効果が劣化するのを免れない。
【0006】
【特許文献1】特開平1−47718号公報(特許請求の範囲その他)
【特許文献2】特開平1−47719号公報(特許請求の範囲その他)
【特許文献3】特開平1−47720号公報(特許請求の範囲その他)
【特許文献4】特開平1−268639号公報(特許請求の範囲その他)
【特許文献5】特開平3−72427号公報(特許請求の範囲その他)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ミミズ生体から、その消化管内に残留する消化物や体皮に付着する汚物を、ミミズの体力低下することなく、しかも効率よく排泄させることにより、有用な薬理効果の劣化なしに、ミミズの乾燥粉末を製造する方法を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、ミミズ生体の消化管内に残留する消化物を、ミミズの体力をそこなうことなく効果的に排泄させるために鋭意研究を重ねた結果、生ミミズを加工するに先立ち、所定期間、ある種の有機酸により形成させた不快棲息条件の環境下で生育すると、その環境に順応するために消化管内の消化物を排泄し、かつ体皮に付着する汚物が剥ぎ取られて不純物の除去された生体になることを見出し、この知見に基づいて本発明をなすに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、生ミミズを10〜50時間明所に放置後、体皮に付着する汚物を剥ぎ取り、次いで有機酸と接触させ、可及的速やかに水で希釈してpH2〜5に調整するか、あるいはpH2〜5に調整した有機酸水溶液中に浸漬し、この条件下に3〜180分間保持したのち、水洗し、次いでこれを摩砕し、この摩砕物を−18℃〜−35℃で20〜240時間凍結させたのち、真空下で凍結乾燥し、同時に脱ガスすることを特徴とするミミズ乾燥粉末の製造方法を提供するものである。
【0010】
次に、本発明方法について詳細に説明する。
本発明方法においては、原料として生ミミズが用いられるが、この生ミミズとしては、例えばアカミミズ(Lumbricus rubellus)、LTミミズ(Lumbricus terrestris)、シマミミズ(Eisenia foetida)、カッショクツリミミズ(Allolobophora caliginosa)、ムラサキツリミミズ(Dendrobaena octaedra)、サクラミミズ(Allolobophora japonica Michaelsen)、ハッタミミズ(Drawida hattamimizu Hatai)、セグロミミズ(Pheretima divergens Michaelsen)、フツウミミズ(Pheretima communissima)、ハタケミミズ(Pheretima agrestis)、シーボルトミミズ(Pheretima sieboldi Horst)、ヒトツモンミミズ(Pheretima hilgendorfi)、イソミミズ(Pontodrilus matsushimensis Iizuka)、イトミミズ(Tubifex hattai Nomura)、ゴトウイトミミズ(ユリミミズ)[Limnodrilus gotoi Hatai=L.SocialisStephenson]などを用いることができる。
【0011】
本発明方法においては、養殖床より取り出した生ミミズを、パン箱のような平箱に移し、10〜50時間、好ましくは一昼夜放置する。この際の収容量としては、30〜60mm、好ましくは40〜50mmの厚さになる程度の量とする。この平箱内には、砂、泥のような異物が存在しないようにし、またミミズは夜行性で暗所では生活活動が活発となり、体力を消耗するおそれがあるため、夜間は電照培養方式などにより明るく保つことが必要である。この処置により生ミミズは、自己防御本能を発揮し、消化管内に残留する消化物を排泄し、この排泄物で全身を覆い、水分が蒸発するのを防いで、生活環境を維持しようとするので、この覆っている汚物すなわち排泄物を適当な手段で剥ぎ取ることを繰り返せば、最終的に消化管内の消化物及び体皮に付着した汚物をほぼ完全に除去することができる。
【0012】
この体皮に付着した汚物の剥ぎ取りは、例えば不織布で生ミミズを被覆し、汚物をそれに吸着させて行うことができる。
次に、このようにして汚物を除去した生ミミズを、これに有機酸を接触させることにより、一気に生ミミズの不快生活環境を形成させる。この有機酸の接触は、生ミミズの上に有機酸粉末をそのまま振りかけてもよいし、濃厚有機酸水溶液として振りかけてもよい。
この際用いる有機酸としては、例えば酢酸、リンゴ酸、クエン酸、乳酸、マロン酸、コハク酸などがある。これらは単独で用いてもよいし、また2種以上混合して用いてもよい。特に好ましい有機酸はクエン酸である
【0013】
しかしながら、生ミミズを長時間有機酸粉末や濃厚有機酸水溶液と接触させておくと死滅し、生活機能を消失し、消化管内の消化物を排泄しなくなるので、可及的速やかに、通常は30秒以内、好ましくは20秒以内に有機酸を水で希釈し、pHを2〜5の範囲に調整する必要がある。また、このような有機酸粉末や濃厚有機酸水溶液に接触したのち、可及的速やかに希釈する代りに、あらかじめpH2〜5に調整した有機酸水溶液を調整し、この中に浸漬して行ってもよい。
このように有機酸を用いることにより、有機酸の殺菌作用により、前処理工程中で殺菌したのち、凍結真空乾燥でさらに殺菌し、殺菌効果をより確実にすることができる。
このようにして、一気に生ミミズの不快生活環境を形成させることにより、生ミミズは、自己保存本能により体液を放出して生活環境を改善しようとする。
本発明方法においては、このように有機酸を用いることが、この有機酸は殺菌性を有するため、上記のように消化器内に残留する消化物を排泄する役割を果すとともに、水洗により除去できなかった雑菌を殺滅するという効果を奏する。
【0014】
生ミミズの組織の65%は水分であるので、この保身機能が働く時間としては、ある程度余裕はあるが、生ミミズが死滅してしまっては、元も子もなくなるので、不快生活環境下に置く時間の制御は慎重に行う必要がある。この時間は、条件により左右されるが、通常は3〜180分の範囲である。
このように、生ミミズをその不快生活環境下に置くことにより、消化管内に残留する消化物のみならず、悪臭の原因となるアンモニアや人体に対して有毒なヒ素を含有する体液が排泄される。従来の方法においては、悪臭の原因となる液体は除去することができなかったので、本発明方法により、消化管内の消化物と同時に除去されたのは全く予想外のことであった。
【0015】
次に、このようにして汚物を実質上完全に除去したミミズ生体を純水で洗浄したのち、摩砕して液状ないしペースト状の摩砕物にする。この摩砕は、例えばホモジナイザー、ブレンダー、ホモミキサー、擂潰機、加圧型細胞破壊装置を用い、通常1〜25℃、好ましくは2〜15℃の温度で行われる。次いで、この摩砕物は、ステンレス鋼製トレーに収容され、凍結真空乾燥に付せられる。この際、ミミズ生体に含まれる酵素は、生細胞には作用しないが死細胞に対しては瞬時に作用して発熱し、腐敗して強力な腐敗性ガスを発生するので、これを防止するために瞬間的に−18℃ないし−35℃に急冷して酵素の作用を抑制したのち、凍結させる凍結真空乾燥を用いることが必要である。
【0016】
このように、ミミズ本来の薬理作用をそこなわずに粉末化するには、迅速に凍結する必要があるが、一方においてあまり短時間で凍結させるとミミズペーストの主成分であるタンパク質とともに存在する不純物がスポット状の不凍結部分を形成し、分離されないことになるので、過度に急速な凍結は好ましくない。したがって、凍結は−18℃から−35℃の低温で20〜240時間、好ましくは50〜170時間を要して行う。
【0017】
次に凍結真空乾燥に際しては、水分とともに不純分が残留することなく除去し得る条件を選ぶことが重要である。そのためには、真空度50Pa以下、−60℃ないし+90℃の温度において、温度を段階的に上げながら10〜60時間の範囲で制御して行うのが好ましい。
【0018】
例えば、前記したように摩砕物を−18℃ないし−35℃の温度で20〜240時間を要して凍結したのち、−60℃〜+90℃の温度において、数段階に分け昇温し、4〜80Paの真空度において、数段階に分け減圧しながら、10〜60時間凍結真空乾燥させることで無菌状態の淡黄色ミミズ乾燥粉末を得ることができる。
【0019】
このように、本発明方法によると、従来、凍結乾燥に100時間又はそれ以上を要していたのを著しく短縮することができる。
【0020】
このようにして得られたミミズ乾燥粉末は、ミミズの種類、採取場所、採取時期により若干変動するが、粉末100g中に、アルギニン70〜120mg、リジン110〜150mg、ヒスチジン35〜60mg、フェニルアラニン55〜80mg、チロシン50〜75mg、ロイシン100〜150mg、イソロイシン60〜90mg、メチオニン25〜40mg、バリン70〜105mg、アラニン85〜135mg、グリシン75〜105mg、プロリン60〜85mg、グルタミン酸210〜300mg、セリン80〜110mg、スレオニン75〜110mg、アスパラギン酸150〜220mg、トリプトファン15〜30mg及びシスチン20〜35mgを含有する。
【発明の効果】
【0021】
本発明方法によると、細菌を含まず、アンモニア臭のような悪臭のない、低ヒ素含有の良質なミミズ乾燥粉末を得ることができる。しかも、本発明方法により得られるミミズの乾燥粉末は、従来方法により得られるものに比べ、1.2〜1.5倍程度高い力価の酵素を含み、かつ細胞に対する浸透性が大きいという効果を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
次に、実施例により本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【実施例1】
【0023】
水洗により皮ふ表面に付着した汚物を除去した生のアカミミズ30kgを平皿に約5cmの厚さに拡げ、この上にクエン酸250gを均一に振りかけたのち、15秒で純水30リットルを加えて希釈した。この際の水を加えた直後のpHは2.25であり、完全に希釈したときのpHは2.74であった。この水による希釈は迅速に行う必要があり、時間が長くかかるとミミズは死滅する。
次に、この希釈したクエン酸中に浸したミミズを20℃において60分間放置すると、ミミズは不快生活環境を緩和しようとして、体液を消化管内の消化物とともに体外に排泄するが、この際に悪臭の原因となるアンモニアや人体に対する有害なヒ素も随伴して排泄される。
次いで、汚れたクエン酸水溶液から生ミミズを取り出し、水洗したのち、ホモジナイザーを用いて10℃において摩砕し、ミミズペーストを調製する。次に、この摩砕物を吸引脱気して、その中に含まれているガスを除いたのち、ステンレス鋼製トレーに移し、瞬間的に−30℃まで急冷し、この温度に50時間維持して徐々に凍結する。
このようにして凍結したミミズペーストを−30℃で真空度5Paに減圧して10時間保ったのち、温度を20℃まで昇温し、真空度10Paで10時間、次いで40℃、真空度で10時間乾燥し、最後に温度を80℃とし、真空度5Paにおいて5時間保つことにより真空凍結乾燥を完了した。この処理により含水量8質量%の淡黄色ミミズ乾燥粉末を得た。このもののアミノ酸含有量を表1に示す。
【実施例2】
【0024】
実施例1におけるアカミミズ30kgの代りにLTミミズ(Lumbricus terrestris)30kgを用い、実施例1と全く同様に処理することにより、淡黄色のミミズ乾燥粉末を得た。このもののアミノ酸含有量を表1に示す。
【実施例3】
【0025】
実施例2におけるクエン酸250gを均一に振りかけたのち、15秒で水30リットルを加えて希釈する操作の代りに、純水30リットルにあらかじめクエン酸250gを溶解した水溶液中にミミズ30kgを投入し、20分間放置した。その後、実施例2と同様に処理して黄かっ色ミミズ乾燥粉末を得た。このもののアミノ酸含有量を表1に示す。
【0026】
【表1】

【実施例4】
【0027】
実施例1におけるクエン酸250gの代りに、リンゴ酸160gを用い、実施例1と全く同様に処理することにより、濃黄色のミミズ乾燥粉末を得た。
【0028】
参考例
実施例1で得たミミズ乾燥粉末を特許第2716472号公報実施例に記載された方法に従い処理し、精製プロテアーゼを調製した。
この精製プロテアーゼ0.5μgを用いて、これに精製ヒトプラスミノーゲン(KABIAB社製0.05CU)を加えて反応させ、反応後のプラスミン活性を測定した。添加した場合と添加しない場合との活性の差よりプラスミン加水分解活性を求めたところ、0.145nmol/分であった。比較のために上記特許公報で用いている従来方法により得たミミズ乾燥粉末から調製した精製プロテアーゼを用いて同様にしてプラスミン加水分解活性を求めたところ0.112nmol/分であり、本発明方法により製造したミミズ乾燥粉末由来の酵素活性が約1.3倍高いことが分った。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明方法により製造したミミズ乾燥粉末は、従来方法により製造したミミズ乾燥粉末と同様、血圧調節剤、抗高脂血症剤、糖尿病治療剤、血栓溶解剤などとして有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生ミミズを10〜50時間明所に放置後、体皮に付着する汚物を剥ぎ取り、次いで有機酸と接触させ、可及的速やかに水で希釈してpH2〜5に調整し、この条件下に3〜180分間保持したのち、水洗し、次いでこれを摩砕し、この摩砕物を−18℃〜−35℃で20〜240時間凍結させたのち、真空下で凍結乾燥し、同時に脱ガスすることを特徴とするミミズ乾燥粉末の製造方法。
【請求項2】
生ミミズを10〜50時間明所に放置後、体皮に付着する汚物を剥ぎ取り、次いでpH2〜5に調整した有機酸水溶液中に浸漬し、この条件下に3〜180分間保持したのち、水洗し、次いでこれを摩砕し、この摩砕物を−18℃〜−35℃で20〜240時間凍結させたのち、真空下で凍結乾燥し、同時に脱ガスすることを特徴とするミミズ乾燥粉末の製造方法。
【請求項3】
有機酸が、酢酸、リンゴ酸、クエン酸、乳酸、マロン酸及びコハク酸の中から選ばれた少なくとも1種である請求項1又は2記載のミミズ乾燥粉末の製造方法。

【公開番号】特開2008−81476(P2008−81476A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−266579(P2006−266579)
【出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【出願人】(506329948)Well Stone 有限会社 (4)
【Fターム(参考)】