説明

ミリ波伝送用真空排気ポート

【課題】
従来技術の、整合器やマイターベンドから真空排気する方法では、長い伝送ラインの限られた箇所以外に真空排気ポートを設置できず、長い伝送ラインの全体を良好な真空状態に保つことができない。一方、直線的な導波管の伝送方向に細い溝を切る方式は、高コストであり、高電力長時間のパワー伝送時の過熱が問題になる。
【解決手段】
ギャップで隔てた2本の直線導波管を設け、そのギャップを囲んで周囲の大気から隔てることを目的とし真空排気におけるバッファー機能を有するマニホールドを設け、2本の導波管の位置を固定しそのギャップを調整する保持機構を設け、真空ポンプヘの接続ポートを設けることにより、ギャップからの高周波損失を小さく抑えながら、ギャップから導波管内部を真空排気できることを特徴とするミリ波伝送用真空排気ポート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核融合実験装置、核融合炉用の大電力高周波加熱装置をはじめとする大電力高周波伝送ラインに用いる、ミリ波伝送用真空排気ポートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
核融合実験装置用の高周波加熱装置は、プラズマに電磁波を入射して加熱したり、プラズマ内部に電流を駆動したりすることにより、効率良く核融合反応が発生する高温高圧プラズマの状態を長時間維持することを目的とする。ミリ波帯の電磁波を用いる電子サイクロトロン波帯加熱装置では、1MW級のミリ波を発振する真空管からプラズマにミリ波を入射するアンテナまでの数十〜百mを大電力導波管を用いた伝送ラインで接続し、パワーを伝送する。伝送においてはミリ波の損失を小さく抑えることと高い高周波電界による放電を防止することが、安定した高効率の入射を実現する上で要求される。これらの要求を満たす方法として、伝送するミリ波の波長に比べて大きい直径の円形断面を有する導波管内を、パワー密度が断面の中心に集中したHE11モードで伝送することで、導波管内表面での損失を抑える方法が用いられている。導波管内表面には特殊な溝加工を施すことで損失をさらに低減させる。また、導波管内部は真空排気して高い高周波電界に起因する放電の発生を抑える必要がある。
【0003】
ところで、本発明の装置は、伝送ライン内部を真空排気する際に導波管の任意の直線部分に設置でき、大きなコンダクタンスと小さな高周波損失を両立でき、場合によってはそのバランスを調整できるミリ波伝送用真空排気ポートである。しかし、従来の装置では、以下の方式(1)、(2)、および(3)で真空排気が行われていた。(非特許文献1)
(1)真空管の出力ミリ波を伝送に適したHE11モードに変換する整合器にて真空排気を行う方式。伝送ラインの始点に設置された整合器内ではミリ波はビーム状に伝送され、その真空境界はビームから離れているため、伝送効率に影響を与えずに真空排気ポートを設けることができる。
(2)伝送ライン途中にはその伝送方向を直角に曲げるマイターベンドと称する部品があり、内部の金属鏡と導波管との接続部には小さなギャップを有する。このギャップを利用して真空排気を行う方式。
(3)直線的な導波管の伝送方向に切った細い溝から真空排気を行う方式。ただし伝送効率を劣化させないため、導波管内部の特殊溝の凹部にのみ穴をあけ、凸部はそのまま残すように加工する。
【非特許文献1】Y. Ikeda et al., “The 110-GHz Electron Cyclotron Range of Frequency System on JT-60U: Design and operation", Fusion Sci. Technol. 42, 435(2002).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記背景技術、方法(1)の課題は
1)長く断面面積の小さい導波管のコンダクタンスは小さいため、長い伝送ラインの始点1箇所の整合器に排気ポートを設けるのみでは導波管全体を良好な真空度に保つことができない。
【0005】
上記背景技術、方法(2)の課題は
1)マイターベンドには1個当たり1%程度の損失があるため、高い伝送効率を実現するためには、その個数を極力減らすように伝送ラインを設計しなければならない。上記課題1)と同様、長く断面面積の小さい導波管の小さいコンダクタンスによって、マイターベンドから遠く離れた部分の真空度を良好に保つことができない。
2)マイターベンドの構造上コンダクタンスを大きくするのが困難である。
【0006】
上記背景技術、方法(3)の課題は
1)微細な特殊溝の一部を残して穴を開けるために高い技術を要し、製作コストが高い。
2)穴が特殊溝の凸郡に分断された形状になるため、コンダクタンスが比較的小さい。大きなコンダクタンスを得るためには、導波管に沿って長い距離加工する必要があり、部品のサイズが大きくなるとともに製作コストがさらに高くなる。
3)微細な特殊溝の残された部分は熱容量が小さく熱伝導が良くないため、長時間大電力の伝送を行った際、高周波損失によって高温になり、場合によっては変形溶融に至る。
【課題を解決するための手段】
【0007】
従来技術の、整合器やマイターベンドから真空排気する方法では、長い伝送ラインの限られた箇所以外に真空排気ポートを設置できず、長い伝送ラインの全体を良好な真空状態に保つことができない。一方、直線的な導波管の伝送方向に細い溝を切る方式は、高コストであり、高電力長時間のパワー伝送時の過熱が問題になる。
【0008】
これに対して、本発明の装置は、前述したとおり、2本の導波管の間に設けたギャップによって排気を行う方式であるために、伝送ラインの任意の直線部分に設置できるだけでなく、その構造は単純で高電力長時間のパワー伝送時の加熱も起こりにくく、必要に応じて容易に熱除去を行うことができる。
【0009】
本発明は、具体的には、ギャップで隔てた2本の直線導波管を設け、そのギャップを囲んで周囲の大気から隔てることを目的とし真空排気におけるバッファー機能を有するマニホールドを設け、2本の導波管の位置を固定しそのギャップを調整する保持機構を設け、真空ポンプヘの接続ポートを設けることにより、ギャップからの高周波損失を小さく抑えながら、ギャップから導波管内部を真空排気できることを特徴とするミリ波伝送用真空排気ポートに関するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明のミリ波伝送用真空排気ポートは、2本の導波管のギャップから真空排気を行う単純な構造であり、伝送ラインの任意の位置に設置できる。以下に特徴的な効果を示す。
(1)伝送ラインの任意の位置に設置できるので伝送ラインの全体を良好な真空に保つ目的に適している。
【0011】
(2)伝送ラインの任意の位置に設置できるので、伝送ラインの放電しやすい箇所、ガス放出の多い箇所に設置して、局所的な放電を防止する用途にも対応できる。
(3)一本の導波管のギャップ調整により、高周波損失とコンダクタンスのバランスを変えることができ、目的に応じた使用が可能である。
【0012】
(4)2本の導波管のギャップ調整を大気開放せずに真空排気を継続した状態で行うことができるため、高周波損失とコンダクタンスを計測しながらの調整が容易である。
(5)微量の高周波が損失としてギャップからマニホールドに逃げるが、構造および部品形状が単純であるために、損失高周波による発熱が局在化することなく、過熱が起こりにくい。
【0013】
(6)大電力長時間の伝送を行い、発熱が大きい場合には、マニホールドを外側から冷却することで効果的に熱を除去することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
現在核融合実験装置で使用されている代表的なミリ波帯高周波加熱装置の場合、直径約3cmの導波管を用いた伝送ライン約60mによって1MWのミリ波を1〜30秒間程度伝送する。伝送ライン内部に発生する高い高周波電界による放電を防止する目的で、伝送ライン内部の真空度(圧力)は10−3Pa以下に保つことが望まれる。伝送ラインでの高周波損失は整合器で約5%、マイターベンドで約1%/個が主なものであり、トータルで10〜20%以下になるように設計される。ミリ波伝送用真空排気ポートに求められる性能として、高周波損失は1%以下でできるだけ小さいこと、コンダクタンスは数l/s以上でできるだけ大きいことが望まれる。
【0015】
上記の条件を満たす具体設計例として、ミリ波伝送用真空排気ポートに直径約3.2cmの導波管2本を用いた場合、それらの間のギャップを1mmにした場合、高周波損失は約0.01%、コンダクタンスは約23l/sとなる。またギャップを4mmにした場合、高周波損失は約0.1%、コンダクタンスは約93l/sとなる。正確にはミリ波伝送用真空排気ポートの総合コンダクタンスは上記のギャップコンダクタンスにマニホールド、排気ポートのコンダクタンスを加味したものになるが、これらは大口径に設計することが容易であり、その場合総合コンダクタンスはギャップコンダクタンスと大きく違わない。
【実施例】
【0016】
本発明の実施例にういて[図1]〜[図3]を用いて説明する。
(実施例1)
図1に本発明の一実施例である、ミリ波伝送用真空排気ポートの基本的設計例の断面図を示す。一点鎖線を中心軸とする中空円筒形の導波管2はフランジ3と一体として製作する。フランジ3には、位置調整用ボルト5を貫通する穴、金属ガスケット7の位置決め用の溝、および導波管の軸を固定する軸ずれ防止突起8を有する。真空排気の際、バッファーとしての機能を持つマニホールド9はフランジ4およびポート10と一体物として製作する。フランジ4はボルト5およびナット6を介してフラシジ3を固定するベースとなる。ポート10は汎用の真空用ゲートバルブなどを介して真空排気用ポンプを接続して用いる。導波管の一方から伝送されてくるミリ波はギャップ1を通過して他方の導波管へ伝えられる。2本の導波管間のギャップ1は通常1〜2mm程度になるように設計する。ギャップ1は金属ガスケット7に中空金属Oリングなど柔軟性の高い部品を用いることで、その変形0.5mm程度の範囲でボルト5による微調整が可能であり、用途に応じてコンダクタンスと高周波損失のバランスを設定することができる。たとえば伝送ラインを模擬負荷に接続して真空管の調整運転を行うような場合には、伝送損失を低く抑えるよりも模擬負荷の発熱によるガス放出への対策が求められる。そのような場合、コンダクタンスを大きくして強力な真空排気を行うためにギャップを広くして使用する。ギャップ1からもれ出た微量の高周波はマニホールド9の内表面でジュール損失として熱に変わる。この設計例では1MW数10秒程度の伝送時の発熱はわずかであり、自然空冷で十分使用可能である。
(実施例2)
図2に本発明の一実施例である、周波数可変および長時間伝送対応のミリ波伝送用真空排気ポート断面図を示す。本実施例ではマニホールドの片側にベロー管11を用いて、ギャップ1の調整範囲を拡大してある。伝送する周波数を大きく変化させる場合には波長も大きく変化し、ギャップ1の最適値が変化するため、ギャップ1の調整範囲を広く取れる本実施例の構造が有利である。ベロー管11の長さはスタッドボルト17に対するナット位置にて調整する。ベロー管11はギャップ1から漏れ出た微量のミリ波による発熱、温度上昇が局在化するのを避ける目的で、内表面が滑らかで突起の無い成型ベローを用いる。一方、本実施例では大電力長時間のパワー伝送に対応するために、ギャップ1から漏れ出た微量のミリ波による発熱に対する熱除去を目的とした除熱板14、冷却チャンネル15、冷却水入出ロ16を設けてある。除熱板14には熱伝導に優れた金属を用いるとともにその真空領域側には高周波損失の大きい材料をコーティングする。さらに熱除去を目的とした水冷管13をマニホールド9およびベロー管1の外表面に取り付けて各部の温度上昇を防ぐ。導波管2自体には二重構造の水冷管を用いて除熱する例を示した。また、ギャップ1から漏れ出た微量のミリ波がポート10に接続された真空ポンプに影響を与えるのを避けるために高周波シールド12を取り付けてある。高周波シールド12は熱伝導の優れた厚肉の金属板に多数の穴を開けたもので、穴の径と個数はシールド性能とコンダクタンスのバランスを考慮して設計する。高周波シールド12はポート10の外部に貫通する構造とし、直接水冷管13を接触させて効率良く熱を除去する。
(従来例)
図3に背景技術(3)項に相当する直線的な導波管の伝送方向に切った細い溝から真空排気を行う方式の構造を示す。図3aは導波管2の外表面、図3bは構造全体の断面である。従来例では導波管2の内表面の微細な特殊溝の凸部を残して一点鎖線に沿った方向に長い穴1を開け、この穴から真空排気を行う。穴が特殊溝の凸部に分断された形状になるため、コンダクタンスが比較的小さい。大きなコンダクタンスを得るためには、導波管に沿って長い距離加工する必要がある。微細な特殊溝の残された部分は熱容量が小さく熱伝導が良くないため、長時間大電力の伝送を行った際、高周波損失によって高温になりやすい欠点を持っている。
【産業上の利用可能性】
【0017】
本発明のミリ波伝送用真空排気ポートは、核融合実験装置、核融合炉用の大電力高周波加熱装置をはじめとする大電力高周波伝送ラインに用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、本発明のミリ波伝送用真空排気ポートの基本的設計例の構造を示す断面図である。
【図2】本発明の一実施例である、周波数可変および長時間伝送対応のミリ波伝送用真空排気ポート断面図である。
【図3】従来技術の直線的な導波管の伝送方向に切った細い溝から真空排気を行う方式の構造を示す断面図である。
【符号の説明】
【0019】
(図1)
1・・・2本の導波管のギャップ(間隔)
2・・・導波管
3・・・導波管固定用のフランジ
4・・・マニホールドのフランジ
5・・・位置調整用ボルト
6・・・位置調整用ナット
7・・・金属ガスケット
8・・・軸ずれ防止突起
9・・・マニホールド
10・・・真空排気用ポート
(図2)
1・・・2本の導波管のギャップ(間隔)
2・・・水冷式導波管
3・・・導波管固定用のフランジ
4・・・マニホールドのフランジ
5・・・位置調整用ボルト
6・・・位置調整用ナット
7・・・金属ガスケット
8・・・軸ずれ防止突起
9・・・マニホールド
10・・・真空排気用ポート
11・・・整形ベロー
12・・・高周波シールド
13・・・水冷管
14・・・除熱板
15・・・冷却チャンネル
16・・・冷却水入出口
17・・・スタッドボルト
(図3)
1・・・導波管の伝送方向に切った排気用の穴
2・・・導波管
3・・・マニホールド
4・・・真空排気用ポート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大電力ミリ波伝送を目的とした2本の導波管、2本の導波管の位置を固定しその間隔(ギャップ)を調整する保持機構、ギャップを囲んで周囲の大気から隔てることを目的とし真空排気におけるバッファー機能を有するマニホールド、真空ポンプヘの接続ポートで構成され、ギャップからの高周波損失を小さく抑えながら、導波管内部を真空排気できることを特徴とするミリ波伝送用真空排気ポート。
【請求項2】
2本の導波管のギャップを保持機構によって調整し、ギャップ拡大によって増大する高周波損失と、ギャップ拡大によって増大する排気コンダクタンスを目的に応じて変化させ、それらのバランスを調整できることを特徴とするミリ波伝送用真空排気ポート。
【請求項3】
2本の導波管のギャップを調整する際、真空排気を中止する必要のない保持機構を有することを特徴とするミリ波伝送用真空排気ポート。
【請求項4】
2本の導波管のギャップを連続的に微調整できる保持機構を有することを特徴とするミリ波伝送用真空排気ポート。
【請求項5】
大電力ミリ波を長時間伝送する際に発生する勢を簡便に、且つ効率良く除去できることを特徴とするミリ波伝送用真空排気ポート。
【請求項6】
導波管のギャップの保持機構の一方が、導波管に設けられたフランジと、そのフランジに設けられた調整用ボルト用の穴、金属ガスケットの位置決め用の溝及び導波管の軸を固定する軸ずれ防止突起とから構成され、その他方が、マニホルド、そのマニホルドに設けられたフランジ及びそのフランジに設けられた調整用ボルト用の穴から構成され、導波管に設けられたフランジの溝にガスケットを挿入し、両フランジを合わせ、その調整用ボルト穴に位置調整用ボルトを挿入し、そのボルトの締め付けを調整することにより、2本の導波管間のギャップ幅を調整する請求項1乃至請求項5のいずれかに記載のミリ波伝送用真空排気ポート。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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