説明

メソポーラスシリカ及びその製造方法

【課題】全細孔容量が1cm/gを超えるメソポーラスシリカを提供する。
【解決手段】メソポーラスシリカは、オパールCTまたはオパールCを主成分とする岩石を原料として得られ、全細孔容量が1.0cm/gを超えるものであり、細孔直径(横軸)−細孔容量(縦軸)の分布曲線において10〜30nmの細孔直径の範囲内に細孔容量の最大値を有し、BET比表面積が500〜800m/gのものである。該メソポーラスシリカは、25℃の温度下で、相対湿度を50%から90%に変化させたときに、平衡水分吸着量が15%以上増大し、その後、相対湿度を90%から50%に変化させたときに、平衡水分吸着量が15%以上減少する性能を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オパールCTまたはオパールCを主成分とする岩石(以下、「オパールCT等含有岩石」ともいう。)を原料とするメソポーラスシリカ、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、吸着剤等として用いられるメソポーラスシリカが知られている。
メソポーラスシリカとは、2〜50nmの直径の均一かつ規則的なメソ孔(細孔)を有するシリカであり、メソ孔の直径の大きさや形状に応じて、選択的な吸着作用等を有するものである。
従来のメソポーラスシリカは、平均細孔直径が7nm以下または20〜30nmで、かつ全細孔容量が1.0cm/g以下である。また、従来のメソポーラスシリカの製造方法は、天然の石英を原料に珪酸アルカリを製造した後、この珪酸アルカリをシリカ源として、界面活性剤を用いてシリカゲル骨格を形成し、次いで、焼成によって界面活性剤を分解し除去することにより、メソポーラスシリカを得るものである。
市販のシリカゲルは、A形で平均細孔直径が4.4〜5.2nm、全細孔容量が0.40〜0.45cm/gであり、B形で平均細孔直径が20〜30nm、全細孔容量が0.80〜1.00cm/gである(非特許文献1)。
【0003】
一方、メソポーラスシリカについて、近年、種々の新たな技術が開発されている。
一例として、シリカ源をカチオン系界面活性剤の存在下に処理することからなるメソポーラスシリカの製造方法において、ケイ酸アルカリ溶液とカチオン系界面活性剤とを、pHが12よりも大きいアルカリ性水性媒体中で加熱混合し、得られる溶液に酸を添加してそのpHを8以上で10.5未満に調節し、次いでシリカとカチオン系界面活性剤との複合物を常圧で沈殿として析出させることを特徴とする高耐熱性メソポーラスシリカの製造方法が提案されている(特許文献1)。
この製造方法で得られるメソポーラスシリカは、細孔径20〜40オングストロームに細孔容積の極大値を有するものである。また、この製造方法で得られるメソポーラスシリカの細孔容積は、焼成温度によっても相違するが、一般に、細孔径10〜50オングストロームの範囲において、一般に0.1〜0.5cm/g、特に0.2〜0.4cm/gの範囲内にある。
なお、この文献の実施例及び比較例には、細孔容積が0.02〜0.28cm/gのメソポーラスシリカが記載されている。
【0004】
他の例として、第1のメソ細孔群とそれよりも孔径の大きい第2のメソ細孔群とから成る孔径の異なる2種類のメソ細孔を同時に有することを特徴とするメソ多孔性シリカが提案されている(特許文献2)。
このメソ多孔性シリカは、具体的には、第1のメソ細孔群が蜂の巣状に配列し孔径2〜4nmの範囲にあるシリンダー状の細孔から成り、第2のメソ細孔群が4nm以上の孔径を有するものである。
なお、この文献の実施例には、径が2〜3nm程度の細孔と、それ以外に4〜10nm付近にややブロードに分布している細孔が存在し、バイモーダル型の細孔分布を示すメソ多孔性シリカが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−53413号公報
【特許文献2】特開2005−22881号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】日本化学会編「化学便覧(応用化学編)」、丸善
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のとおり、従来のメソポーラスシリカは、全細孔容量が1cm/g以下であった。
また、従来のメソポーラスシリカの製造方法では、多くのエネルギーを必要とし、かつ、二酸化炭素の発生量が多いという問題があった。
そこで、本発明は、全細孔容量が1cm/gを超えるメソポーラスシリカ、及び、該メソポーラスシリカを、少量のエネルギーでかつ二酸化炭素の発生量を低減させて、簡易な工程で効率良く、しかも低コストで得ることのできる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、オパールCT等含有岩石を原料とし、特定の処理を行なうことによって、全細孔容量が1.0cm/gを超えるメソポーラスシリカが得られることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[7]を提供するものである。
[1] オパールCTまたはオパールCを主成分とする岩石を原料として得られ、かつ、全細孔容量が1.0cm/gを超えることを特徴とするメソポーラスシリカ。
[2] 上記オパールCTまたはオパールCを主成分とする岩石は、珪質頁岩、硬質頁岩、頁岩、放散虫岩、海綿骨針岩、陶器岩、チャート、オパールチャート、珪石、オパール、フリント、熱水性珪石、及び、熱水性珪岩からなる群より選ばれる一種以上であり、かつ、SiOの含有率が65質量%以上のものである上記[1]に記載のメソポーラスシリカ。
[3]細孔直径(横軸)−細孔容量(縦軸)の分布曲線において10〜30nmの細孔直径の範囲内に細孔容量の最大値を有し、かつ、BET比表面積が500〜800m/gである上記[1]又は[2]に記載のメソポーラスシリカ。
[4] 25℃の温度下で、相対湿度を50%から90%に変化させたときに、平衡水分吸着量が15%以上増大し、その後、相対湿度を90%から50%に変化させたときに、平衡水分吸着量が15%以上減少する性能を有する上記[1]〜[3]のいずれかに記載のメソポーラスシリカ。
[5] 上記メソポーラスシリカの乾燥状態におけるSiOの含有率が、99.0質量%以上である上記[1]〜[4]のいずれかに記載のメソポーラスシリカ。
[6] 上記[1]〜[5]のいずれかに記載のメソポーラスシリカの製造方法であって、(A)オパールCTまたはオパールCを主成分とする岩石の粉状物を準備する粉状物準備工程と、(B)工程(A)で準備した粉状物と、アルカリ水溶液を混合して、pHが11.5以上のアルカリ性スラリーとし、上記粉状物中のSi、Al、Feを液分中に溶解させた後、該アルカリ性スラリーを固液分離して、Si、Al、Feを含む液分と、固形分を得るアルカリ溶解工程と、(C)工程(B)で得られた液分と酸を混合してpHを10.3以上11.5未満とし、液分中のAl、Feを析出させた後、固液分離を行い、Siを含む液分と、Al、Feを含む固形分を得る不純物回収工程と、(D)工程(C)で得られた液分と酸を混合してpHを9.0以上10.3未満とし、液分中のSiを析出させた後、固液分離を行い、上記メソポーラスシリカとして用いうる固形分と、液分を得るシリカ回収工程と、を含むことを特徴とするメソポーラスシリカの製造方法。
[7] (E)工程(D)で得られた固形分と酸溶液を混合して、pHが1.5以下の酸性スラリーとし、前記固形分中に残存するアルミニウム分、鉄分を溶解させた後、前記酸性スラリーを固液分離して、上記メソポーラスシリカとして用いうる固形分と、液分を得る酸洗浄工程を含む上記[6]に記載のメソポーラスシリカの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明のメソポーラスシリカは、全細孔容量が1.0cm/gを超えているので、例えば、優れた調湿性能を有する調湿材等として用いることができる。
本発明のメソポーラスシリカの製造方法によれば、製造方法の工程を簡素化し、コストの低減と生産性の向上を大幅に図ることができる。また、従来の製造方法に比べて、製造に必要なエネルギーの量、及び、製造過程で発生する二酸化炭素の量を削減することができる。
なお、オパールCT等含有岩石の一種である珪質頁岩は、日本海沿岸域における埋蔵量が豊富であり、材料費も安価である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明のメソポーラスシリカの製造方法の一例を示すフロー図である。
【図2】本発明のメソポーラスシリカの一例について、Cu−Kα線による粉末X線の回折強度を示すグラフである。
【図3】本発明のメソポーラスシリカの一例について、オパールCTの半値幅を示すグラフである。
【図4】本発明のメソポーラスシリカの一例の細孔直径分布を示すグラフである。
【図5】本発明のメソポーラスシリカの一例の原料(原石)の細孔直径分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のメソポーラスシリカは、オパールCTまたはオパールCを主成分とする岩石(オパールCT等含有岩石)を原料として得られるものである。
オパールCTを主成分とする岩石(オパールCT含有岩石)とは、結晶内部に秩序性の少ないクリストバライト構造とトリディマイト構造を有する低結晶度のシリカ鉱物を主成分とする岩石をいう。
オパールCを主成分とする岩石(オパールC含有岩石)とは、結晶内部に秩序性の少ないクリストバライト構造を有する低結晶度のシリカ鉱物を主成分とする岩石をいう。
オパールCTまたはオパールCを主成分とする岩石は、珪質頁岩、硬質頁岩、頁岩、放散虫岩、海綿骨針岩、陶器岩、チャート、オパールチャート、珪石、オパール、フリント、熱水性珪石、熱水性珪岩等と、それぞれの成因によって異なった岩石名で呼ばれる。これらの岩石は、シリカ(SiO)の含有率が65質量%以上で、かつ、多孔質で多数のメソ孔(2〜50nmの直径の孔)を有し、比表面積が大きいという特徴をもつ。
オパールCT等含有岩石の一種である珪質頁岩は、珪質の生物遺骸等に由来する頁岩である。すなわち、海域には、珪質の殻を有する珪藻などのプランクトンが生息するが、このプランクトンの死骸が海底中に堆積すると、死骸中の有機物の部分は徐々に分解され、珪質(SiO;シリカ)の殻のみが残る。この珪質の殻(珪質堆積物)が、時間の経過や温度・圧力の変化などに伴い、続成作用により変質して、硬岩化することにより珪質頁岩となる。
なお、珪質堆積物中のシリカは、続成作用によって、非晶質のシリカから、結晶化してクリストバライト、トリディマイトへ、さらに石英へと変化する。
【0012】
非晶質シリカは、オパールAと呼ばれている。また、オパールAよりも結晶化が進んだ、クリストバライトまたはトリディマイトを主成分とする珪質頁岩としては、オパールCT含有岩石、及びオパールC含有岩石が挙げられる。このうち、本発明では、オパールCT含有岩石が好ましく用いられる。特に、北海道の北部に存在する珪質頁岩は、オパールCT含有岩石の一種であって、シリカ含有率が例えば71〜89質量%と高く、また他のシリカ鉱物に比して高い比表面積を有し、アルカリ反応性が高いので、本発明において好ましく用いられる。
さらに、Cu−Kα線による粉末X線回折において、石英の2θ=26.6degのピーク頂部の回折強度に対するオパールCTの2θ=21.5〜21.9degの回折強度は、石英を1とした場合の比率で0.2以上が好ましく、0.4以上がより好ましく、0.5以上が更に好ましい(図2参照)。該値が0.2に満たない場合には、反応性に富むオパールCTの量が少ないため、シリカの収量が低下する。
なお、石英に対するオパールCTの回折強度の比率は、以下の式で求める。
石英に対するオパールCTの回折強度の比率=21.5〜21.9degのピーク頂部の回折強度/26.6degのピーク頂部の回折強度
【0013】
オパールCT含有岩石(例えば、珪質頁岩)のCu−Kα線による粉末X線回折において、オパールCTの2θ=21.5〜21.9degのピークの半値幅は、0.5°以上が好ましく、0.75°以上がより好ましく、1.0°以上がさらに好ましい(図3参照)。該値が0.5°未満では、オパールCTの結晶の結合力が増大し、アルカリとの反応性が低下して、シリカの収量が減少する。ここで、半値幅とは、ピーク頂部の回折強度の1/2に位置する回折線の幅をいう。
本発明で用いるオパールCT等含有岩石は、シリカ(SiO2)の含有率が70質量%以上であることが好ましく、75質量%以上であることがより好ましい。このようなオパールCT等含有岩石を用いることによって、より高純度のシリカを低コストで製造することができる。
オパールCT含有岩石の一種である珪質頁岩としては、例えば、北海道北部に産出する稚内層珪質頁岩が好適に用いられる。稚内層珪質頁岩は、粉砕性及びアルカリ可溶性に優れており、本発明において、粉状物を得る観点及び良好な反応性を得る観点から好ましい。
【0014】
本発明のメソポーラスシリカは、オパールCT等含有岩石を原料として後述の製造方法によって得られるものであり、以下の物性を有する。
本発明のメソポーラスシリカの全細孔容量は、1.0cm/gを超えるものであり、より好ましくは2.0cm/g以上、特に好ましくは3.0cm/g以上である。
本発明のメソポーラスシリカの全細孔容量の上限値は、特に限定されないが、製造可能な範囲を考慮すると、4cm/g以下である。
なお、本明細書において、全細孔容量とは、本発明のメソポーラスシリカの単位質量当りの細孔の容量(容積)をいい、具体的には、窒素吸着法による窒素相対圧0〜0.99での測定結果を、BJH法で解析することによって求めることができる。
本発明のメソポーラスシリカの細孔直径(横軸)−細孔容量(縦軸)の分布曲線において、細孔容量の最大値が存在する細孔直径(細孔径ともいう。)の範囲は、好ましくは10〜30nm、より好ましくは15〜25nmである。細孔容量の最大値が、10nm未満の細孔径に存在すると、全細孔容量が目的値より小さくなることがある。細孔容量の最大値が、30nmを超える細孔径に存在すると、BET比表面積が小さくなることがある。
本発明のメソポーラスシリカのBET比表面積は、好ましくは500〜800m/g、より好ましくは550〜800m/g、特に好ましくは550〜750m/gである。該値が500m/g未満では、細孔直径が目的値より大きくなることがある。該値が800m/gを超えると、全細孔容量が目的値より小さくなることがある。
【0015】
本発明のメソポーラスシリカは、25℃の温度下で、相対湿度を50%から90%に変化させたときに、平衡水分吸着量が増大する。平衡水分吸着量の増大の程度は、好ましくは15%以上、より好ましくは20%以上である。該値が大きいほど、高湿時の本発明のメソポーラスシリカによる湿度低減効果が大きく、好ましい。
本発明のメソポーラスシリカは、25℃の温度下で、相対湿度を90%から50%に変化させたときに、平衡水分吸着量が減少する。平衡水分吸着量の減少の程度は、好ましくは15%以上、より好ましくは20%以上である。該値が小さいほど、低湿時の本発明のメソポーラスシリカによる湿度増大効果が大きく、好ましい。
なお、本明細書において、平衡水分吸着量とは、一定の相対湿度下において、メソポーラスシリカに含まれる水分の量が増減せずに平衡状態に達したときの、乾物質量(100質量%)に対する水分の量(%)をいう。ここで、乾物質量とは、120℃で24時間乾燥後のメソポーラスシリカの質量をいう。
本発明のメソポーラスシリカは、シリカ(SiO)の含有率が高く、またアルミニウム、鉄、チタン等の不純物の含有率が低いものである。
本発明のメソポーラスシリカ中のSiOの含有率は、好ましくは99.0質量%以上、より好ましくは99.3質量%以上、特に好ましくは99.6質量%以上である。また、本発明のメソポーラスシリカ中のAl、Fe、TiOの含有率は、各々、好ましくは5,000ppm以下、500ppm以下、100ppm以下である。
【0016】
次に、本発明のメソポーラスシリカの製造方法の一例を説明する。図1は、本発明のメソポーラスシリカの製造方法の一例を示すフロー図である。
[工程(A);粉状物準備工程]
本工程は、オパールCT等含有岩石の粉状物を準備する工程である。
オパールCT等含有岩石の粉状物は、例えば、オパールCT等含有岩石(例えば、珪質頁岩)を粉砕装置(例えば、ジョークラッシャー、トップグラインダーミル、クロスビーターミル、ボールミル等)で粉砕することによって得ることができる。
粉砕は、最大粒径が1mm以下となるように行なうことが好ましい。
本工程において、オパールCT等含有岩石の粉状物は、オパールCT等含有岩石を粉砕してなる粉状物を前処理したものであってもよい。前処理は、例えば、熱処理の後に酸処理を行なうものである。このうち、熱処理は、例えば、オパールCT等含有岩石の粉状物を300〜900℃で加熱することによって行なわれる。酸処理は、例えば、熱処理後の粉状物と硫酸等の酸溶液を60〜105℃の温度下で混合し撹拌することによって行なわれる。このような前処理を行なうことによって、有機成分、及び着色成分である鉄成分等の含有量を減少させることができる。なお、本工程の粉状物は、乾燥した形態とスラリーの形態のいずれでもよい。
【0017】
[工程(B);アルカリ溶解工程]
本工程は、工程(A)で準備したオパールCT等含有岩石の粉状物と、アルカリ水溶液を混合して、pHが11.5以上のアルカリ性スラリーとし、上記珪質頁岩の粉状物中のSi、Al、Fe等を液分中に溶解させた後、該アルカリ性スラリーを固液分離して、Si、Al、Fe等を含む液分と、固形分を得る工程である。
本工程において、スラリーのpHは、11.5以上、好ましくは12.5以上、より好ましくは13.0以上となるように調整される。該pHが11.5未満であると、シリカを十分に溶解させることができず、シリカが固形分中に残存してしまうため、得られるシリカの収量が減少する。
pHを上記数値範囲内に調整するためのアルカリ水溶液としては、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液等が用いられる。
スラリーの固液比(溶液1リットル中のオパールCT等含有岩石の粉状物の質量)は、好ましくは150〜350g/リットル、より好ましくは200〜300g/リットルである。該固液比が150g/リットル未満では、スラリーの固液分離に要する時間が増大するなど、処理効率が低下する。該固液比が350g/リットルを超えると、シリカ等を十分に溶出させることができないことがある。
スラリーは、通常、所定時間(例えば、30〜90分間)攪拌される。
攪拌後のスラリーは、フィルタープレス等の固液分離手段を用いて、固形分と液分に分離される。液分は、Si、Al、Fe等を含むものであり、次の工程(C)で処理される。
なお、本工程においてアルカリ性スラリーを得る際の液温は、35〜100℃に保持されることが好ましく、35〜80℃に保持されることが、エネルギーコストの観点から、より好ましい。液温を上記範囲内とすることにより、処理効率を高めることができる。
【0018】
[工程(C);不純物回収工程]
本工程は、工程(B)で得られた液分と酸を混合して、pHを10.3以上11.5未満とし、液分中のAl、Fe等を析出させた後、固液分離を行い、Siを含む液分と、Al、Fe等を含む固形分を得る工程である。
本工程において、酸との混合後の液分のpHは、10.3以上11.5未満、好ましくは10.4以上11.0以下、特に好ましくは10.5以上10.8未満である。該pHが10.3未満であると、Al、Fe等と共にSiも析出してしまうため、得られるシリカの純度が低下する。一方、該pHが11.5以上では、Al、Fe等が十分に析出せずに液分中に残存するため、得られるシリカ中の不純物が多くなり、シリカの純度が低下する。
pHを上記数値範囲内に調整するための酸としては、硫酸、塩酸等が用いられる。
pH調整後、フィルタープレス等の固液分離手段を用いて、固形分と液分に分離する。
このうち、固形分(ケーキ)は、Al、Fe等を含むものである。
液分は、Siを含むものであり、次の工程(D)で処理される。
なお、本工程においてpH調整を行う際の液温は、35〜100℃に保持されることが好ましく、35〜85℃に保持されることが、エネルギーコストの観点から、より好ましい。液温を上記範囲内とすることにより、処理効率を高めることができる。
【0019】
[工程(D);シリカ回収工程]
本工程は、工程(C)で得られた液分と酸を混合して、pHを9.0以上10.3未満とし、液分中のSiを析出させた後、固液分離を行い、Si(具体的にはSiO)を含む固形分と、液分を得る工程である。
本工程において、液分のpHは、9.0以上10.3未満、好ましくは9.2以上10.0未満である。該pHが9.0未満では、シリカの収量は増大せずに、酸の使用量が多くなるため、薬剤コストの観点から好ましくない。一方、該pHが10.3以上では、十分にシリカが析出せずに液分中に残存するため、得られるシリカの収量が減少する。
pHを上記数値範囲内に調整するための酸としては、硫酸、塩酸等が用いられる。
pH調整後、フィルタープレス等の固液分離手段を用いて、固形分と液分とに分離する。
固形分は、Si(具体的には、SiO)を含むものである。
なお、本工程においてpH調整を行う際の液温は、35〜100℃に保持されることが好ましく、35〜80℃に保持されることが、エネルギーコストの観点から、より好ましい。液温を上記範囲内とすることにより、良好な固液分離性を有する固形分が得られ、処理効率を高めることができる。
【0020】
得られたシリカ(SiO)を含む固形分は、Al、Fe等の不純物が低減された高純度のシリカである。
本工程で得られたシリカを含む固形分に対して、適宜、次の工程である酸洗浄工程を行うことができる。酸洗浄工程を行うことにより、より高純度のシリカを得ることができる。
また、本工程で得られたシリカを含む固形分には、上記特定のpH域における3段階のpH調整(具体的には、上記工程(B)〜(D);アルカリ溶解工程、不純物回収工程、シリカ回収工程)と同じ操作を1回以上(通常は1回)、繰り返し行うことができる。工程(B)〜(D)を繰り返すことによって、さらに高純度のシリカを得ることができる。
なお、工程(B)〜(D)と同じ操作を繰り返し行う場合、酸洗浄工程は、1回目の処理工程の終了時と、2回目の処理工程の終了時の両方あるいはいずれか一方のみに行うことができる。
すなわち、次の(1)〜(3)のいずれのパターンでも行うことができる。
(1)工程(A)→工程(B)→工程(C)→工程(D)→酸洗浄工程→工程(B)→工程(C)→工程(D)→酸洗浄工程
(2)工程(A)→工程(B)→工程(C)→工程(D)→工程(B)→工程(C)→工程(D)→酸洗浄工程
(3)工程(A)→工程(B)→工程(C)→工程(D)→酸洗浄工程→工程(B)→工程(C)→工程(D)
中でも、シリカの純度を高める観点から、上記(1)が好ましい。
【0021】
[工程(E);酸洗浄工程]
本工程は、工程(D)で得られたSiOを含む固形分と酸溶液を混合して、pHが1.5以下の酸性スラリーとし、前記固形分中に残存するアルミニウム分、鉄分を溶解させた後、前記酸性スラリーを固液分離して、SiOを含む固形分と、液分を得る工程である。
本工程における酸性スラリーのpHは、1.5以下、好ましくは1.2以下である。酸性スラリーのpHを上記範囲内に調整して酸洗浄を行うことにより、工程(D)で得られた固形分中にわずかに残存するアルミニウム分、鉄分等の不純物を溶解して液分中へ移行させることができ、固形分中のシリカ含有率を上昇させることができるため、さらに高純度のシリカを得ることができる。
pHを上記数値範囲内に調整するための酸としては、硫酸、塩酸等が用いられる。
pH調整後、フィルタープレス等の固液分離手段を用いて、固形分と液分に分離する。
なお、本工程においてpH調整を行う際の液温は、35〜100℃に保持されることが好ましく、35〜80℃に保持されることが、エネルギーコストの観点から、より好ましい。液温を上記範囲内とすることにより、処理効率を高めることができる。
工程(D)または工程(E)で最終的に得られたシリカを含む固形分は、本発明のメソポーラスシリカとして用いられる。
最終的に得られたシリカを含む固形分は、適宜、乾燥処理及び/又は焼成処理を行うことができる。乾燥処理及び/又は焼成処理の条件は、例えば、100〜800℃で1〜5時間である。
【実施例】
【0022】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
オパールCT含有岩石の一種である北海道北部地域産の稚内層珪質頁岩(成分組成;SiO:80質量%、Al:10質量%、Fe:5質量%、TiO2:0.5質量%)を、ボールミルを用いて粉砕し、珪質頁岩の粉状物(最大粒径:0.5mm)を得た。
原料として使用した北海道北部地域産の稚内層珪質頁岩について、Cu−Kα線による粉末X線の回折強度、オパールCTの半値幅を、粉末X線回折装置(株式会社リガク製、RINT2000)を用いて測定した。回折強度を図2に、半値幅を図3にそれぞれ示す。使用した北海道北部地域産の稚内層珪質頁岩は、石英の2θ=26.6degのピーク頂部の回折強度に対するオパールCTの2θ=21.5〜21.9degのピーク頂部の回折強度の比率が、0.68であった。また、オパールCTの半値幅は、1.4°であった。
次いで、得られた粉状物250gに、2.5N水酸化ナトリウム水溶液1,000gを混合して、60分間混合撹拌し、pHが13.5であるスラリーを得た。
このスラリーを減圧下でブフナー漏斗で固液分離し、液分800gを得た。
次いで、得られた液分に対して98%硫酸を添加して、pHを10.5に調整した後、減圧下でブフナー漏斗で固液分離し、鉄、アルミニウム等を含む含水固形分50gと、Siを含む液分800gを得た。
次に、得られた液分に対して98%硫酸を添加して、pHを9.5に調整した後、減圧下でブフナー漏斗で固液分離し、シリカ(SiO)を含む含水固形分330gと、液分430gを得た。
得られたシリカを含む含水固形分に対して、98%硫酸溶液を添加し、pH1.0のスラリーとした。このスラリーを固液分離し、シリカを含む含水固形分Aを310g得た。
なお、各反応中の液温は、70℃に保持した。
得られた含水固形分Aは、下記の表1に示すとおり、乾燥状態で、SiO:99.7質量%、Al:2,800ppm、Fe:48ppm、TiO:32ppmの成分組成を有していた。
乾燥後に得られたものを、以下、乾燥固形分A(本発明品)という。
乾燥固形分AのBET比表面積及び全細孔容量は、下記の表2に示すとおり、各々、670m/g、3.14cm/gであった。また、細孔径と細孔容量の関係を示すグラフを図4に示す。図4から、細孔容量の最大値は、細孔径19nmにて0.9cm/gであることがわかる。
次に、乾燥器を用いて120℃、24時間乾燥させた乾燥固形分Aを、相対湿度50%の雰囲気を有する恒温恒湿器(エスペック社製、LHU−113)内に収容した。その後、恒温恒湿器内の相対湿度を下記の表3に示すように増大させ、90%に達した時点で、相対湿度を50%に減少させた。各湿度の保持時間は試料が飽和するために十分な24時間以上とした。また、この間の温度は25℃に保った。
下記の表3に、この間の平衡水分吸着量(%)の値を示す。表3から、相対湿度を50%から90%に変化させたときに、平衡水分吸着量が25.6%増大し、その後、相対湿度を90%から50%に変化させたときに、平衡水分吸着量が21.9%減少したことがわかる。
【0023】
[比較例1]
実施例1で調製した珪質頁岩の粉状物(以下、原石という。)について、成分組成等を表1及び表2に示す。また、原石について、実施例1と同様に平衡水分吸着量の測定実験を行なった。結果を表3に示す。
[比較例2]
市販のシリカゲル(純正化学社製;商品名:シリカゲル500)について、成分組成等を表1及び表2に示す。また、このシリカゲルについて、実施例1と同様に平衡水分吸着量の測定実験を行なった。結果を表3に示す。
【0024】
【表1】

【0025】
【表2】

【0026】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
オパールCTまたはオパールCを主成分とする岩石を原料として得られ、かつ、全細孔容量が1.0cm/gを超えることを特徴とするメソポーラスシリカ。
【請求項2】
上記オパールCTまたはオパールCを主成分とする岩石は、珪質頁岩、硬質頁岩、頁岩、放散虫岩、海綿骨針岩、陶器岩、チャート、オパールチャート、珪石、オパール、フリント、熱水性珪石、及び、熱水性珪岩からなる群より選ばれる一種以上であり、かつ、SiOの含有率が65質量%以上のものである請求項1に記載のメソポーラスシリカ。
【請求項3】
細孔径(横軸)−細孔容量(縦軸)の分布曲線において10〜30nmの細孔直径の範囲内に細孔容量の最大値を有し、かつ、BET比表面積が500〜800m/gである請求項1又は2に記載のメソポーラスシリカ。
【請求項4】
25℃の温度下で、相対湿度を50%から90%に変化させたときに、平衡水分吸着量が15%以上増大し、その後、相対湿度を90%から50%に変化させたときに、平衡水分吸着量が15%以上減少する性能を有する請求項1〜3のいずれか1項に記載のメソポーラスシリカ。
【請求項5】
上記メソポーラスシリカの乾燥状態におけるSiOの含有率が、99.0質量%以上である請求項1〜4のいずれか1項に記載のメソポーラスシリカ。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のメソポーラスシリカの製造方法であって、
(A)オパールCTまたはオパールCを主成分とする岩石の粉状物を準備する粉状物準備工程と、
(B)工程(A)で準備した粉状物と、アルカリ水溶液を混合して、pHが11.5以上のアルカリ性スラリーとし、上記粉状物中のSi、Al、Feを液分中に溶解させた後、該アルカリ性スラリーを固液分離して、Si、Al、Feを含む液分と、固形分を得るアルカリ溶解工程と、
(C)工程(B)で得られた液分と酸を混合してpHを10.3以上11.5未満とし、液分中のAl、Feを析出させた後、固液分離を行い、Siを含む液分と、Al、Feを含む固形分を得る不純物回収工程と、
(D)工程(C)で得られた液分と酸を混合してpHを9.0以上10.3未満とし、液分中のSiを析出させた後、固液分離を行い、上記メソポーラスシリカとして用いうる固形分と、液分を得るシリカ回収工程と、
を含むことを特徴とするメソポーラスシリカの製造方法。
【請求項7】
(E)工程(D)で得られた固形分と酸溶液を混合して、pHが1.5以下の酸性スラリーとし、前記固形分中に残存するアルミニウム分、鉄分を溶解させた後、前記酸性スラリーを固液分離して、上記メソポーラスシリカとして用いうる固形分と、液分を得る酸洗浄工程を含む請求項6に記載のメソポーラスシリカの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−215466(P2010−215466A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−65739(P2009−65739)
【出願日】平成21年3月18日(2009.3.18)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【出願人】(310010575)地方独立行政法人北海道立総合研究機構 (51)
【Fターム(参考)】