説明

メソポーラスシリカ微粒子、メソポーラスシリカ微粒子の製造方法、及びメソポーラスシリカ微粒子含有成型物

【課題】低反射率(Low−n)や低誘電率(Low−k)、低熱伝導率などの機能と、成型物の高強度化とを両立するメソポーラスシリカ微粒子を提供する。
【解決手段】メソポーラスシリカ微粒子は、粒子内部に第一のメソ孔を備え、粒子外周部がシリカにより被覆されている。前記シリカの被覆により形成されたシリカ被覆部に、前記第一のメソ孔よりも小さい第二のメソ孔を備えていることが好ましい。界面活性剤と、水と、アルカリと、前記界面活性剤によって形成されるミセルの体積を増大させる疎水部を備えた疎水部含有添加物と、シリカ源とを混合して界面活性剤複合シリカ微粒子を作製する界面活性剤複合シリカ微粒子作製工程と、前記界面活性剤複合シリカ微粒子に前記シリカ源を加えて、シリカで粒子外周部を被覆するシリカ被覆工程と、を含む工程により、メソポーラスシリカ微粒子を製造する。マトリクス材料のメソ孔への侵入を抑制できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メソポーラスシリカ微粒子、及び、メソポーラスシリカ微粒子の製造方法、並びに、メソポーラスシリカ微粒子を用いて得られる成型物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から低反射率(Low−n)、低誘電率(Low−k)を実現する微粒子として特許文献1のような中空構造のシリカ微粒子が知られている。また近年では、更なる高空隙化による高性能化が要求されている。ところが、中空シリカ微粒子は外側の殻を薄くすることが難しく、粒径100nm以下に微粒子化するとその構造から空隙率が低下しやすくなってしまう。
【0003】
そのような状況の中、メソポーラスシリカ微粒子は、その構造から微粒子化しても空隙率が低下しにくいという特徴があり、次代の高空隙微粒子として低反射率(Low−n)、低誘電率(Low−k)の材料、さらには低熱伝導率材料への応用が期待されている。そして、メソポーラスシリカ微粒子を樹脂などのマトリクス形成材中に分散させることで上記の機能を有する成型物を得ることができる(特許文献2〜6参照)。
【0004】
メソポーラスシリカ微粒子の優れた機能を有する成型物を作製するには、空隙率の高いメソポーラスシリカ微粒子を成型物に保持させることが必要である。しかしながら、従来のメソポーラスシリカ微粒子では空隙量が少ないため、メソポーラスシリカの含有量が少ないと成型物等に上記のような機能が十分に得られず、逆に、メソポーラスシリカの含有量が多くなると成型物の強度が低下するという問題があった。また、メソポーラスシリカ微粒子をさらに高空隙化する取り組みもなされている。例えば、非特許文献1ではスチレンなどを加えることでメソ孔を拡大し粒子を高空隙化している。しかし、この方法では、メソ孔の形状や配置の規則性がなく、粒子の強度に起因して成型物の強度が低くなるおそれがあった。また、同時に、メソ孔の拡大によりマトリクス材料がメソ孔内に侵入しやすくなり、低反射率(Low−n)、低誘電率(Low−k)、低熱伝導率といった機能が発現しにくくなるおそれがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−233611号公報
【特許文献2】特開2009−040965号公報
【特許文献3】特開2009−040966号公報
【特許文献4】特開2009−040967号公報
【特許文献5】特開2004−083307号公報
【特許文献6】特開2007−161518号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Microporous and MesoporousMaterials 120 (2009) 447-453
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、低反射率(Low−n)や低誘電率(Low−k)、低熱伝導率などといった優れた機能と、成型物の高強度化とを両立するメソポーラスシリカ微粒子を提供することを目的とする。また、メソポーラスシリカ微粒子の製造方法、及び、当該メソポーラスシリカ微粒子を含有した成型物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るメソポーラスシリカ微粒子は、粒子内部に第一のメソ孔を備え、粒子外周部がシリカにより被覆されていることを特徴とするものである。
【0009】
メソポーラスシリカ微粒子においては、前記シリカの被覆により形成されたシリカ被覆部に、前記第一のメソ孔よりも小さい第二のメソ孔を備えていることが好ましい。
【0010】
本発明に係るメソポーラスシリカ微粒子の製造方法は、界面活性剤と、水と、アルカリと、前記界面活性剤によって形成されるミセルの体積を増大させる疎水部を備えた疎水部含有添加物と、シリカ源とを混合して界面活性剤複合シリカ微粒子を作製する界面活性剤複合シリカ微粒子作製工程と、前記界面活性剤複合シリカ微粒子に前記シリカ源を加えて、シリカで粒子外周部を被覆するシリカ被覆工程と、を含む工程により製造することを特徴とするものである。
【0011】
メソポーラスシリカ微粒子の製造方法においては、前記シリカ被覆工程が、前記シリカ源と前記界面活性剤とを加えて、界面活性剤が複合されたシリカで表面を被覆するものであることが好ましい。
【0012】
本発明に係るメソポーラスシリカ微粒子含有成型物は、上記のメソポーラスシリカ微粒子がマトリクス形成材料中に含有されたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、メソ孔へのマトリクス材料の侵入を抑えることができ、低反射率(Low−n)や低誘電率(Low−k)、低熱伝導率などといった優れた機能と、成型物の高強度化とを両立するメソポーラスシリカ微粒子を得ることができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】有機EL素子の一例を示す断面図である。
【図2】実施例1のメソポーラスシリカ微粒子の窒素吸着測定の結果を示すグラフであり、(a)は等温吸着線、(b)は細孔径分布のグラフである。
【図3】実施例2のメソポーラスシリカ微粒子の窒素吸着測定の結果を示すグラフであり、(a)は等温吸着線、(b)は細孔径分布のグラフである。
【図4】比較例1のメソポーラスシリカ微粒子の窒素吸着測定の結果を示すグラフであり、(a)は等温吸着線、(b)は細孔径分布のグラフである。
【図5】メソポーラスシリカ微粒子のX線回折測定の結果を示すグラフであり、(a)は実施例1、(b)は実施例2、(c)は比較例1のグラフである。
【図6】(a)及び(b)は、実施例1のTEM像を示す写真である。
【図7】(a)及び(b)は、実施例2のTEM像を示す写真である。
【図8】(a)及び(b)は、比較例1のTEM像を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
【0016】
[メソポーラスシリカ微粒子]
メソポーラスシリカ微粒子は、粒子内部にメソ孔(第一のメソ孔)を備え、粒子外周部がシリカにより被覆されているものである。以下、本明細書では、第一のメソ孔を備える粒子内部の部分をシリカコアともいう。また、シリカの被覆により形成された部分をシリカ被覆部(又はシリカシェル)ともいう。
【0017】
メソポーラスシリカ微粒子の粒子径は、100nm以下であることが好ましい。それにより、低屈折率(Low−n)、低誘電率(Low−k)、低熱伝導率が求められるデバイス構造に組み込むことが容易になり、デバイス内に微粒子を高密度に充填することが可能となる。メソポーラスシリカ微粒子の粒子径がこの範囲より大きいと高充填できなくなるおそれがある。メソポーラスシリカ微粒子の粒子径の下限は実質的に10nmである。粒子径は好ましくは、20〜100nmである。ここで、メソポーラスシリカ微粒子の粒子径はシリカ被覆部を含む径であり、シリカコアの粒子径にシリカ被覆部の厚みを合計したものとなる。シリカコアの粒子径は例えば20〜80nmとすることができる。
【0018】
第一のメソ孔は孔径が3.0nm以上であることが好ましく、またメソポーラス微粒子中に複数の第一のメソ孔が等間隔で粒子内部に配置して形成されていることが好ましい。それにより、メソポーラス微粒子を含む組成物を成型した際に、第一のメソ孔が等間隔に配置していることで、メソ孔が偏在している場合のように強度が弱くなったりすることがなく、強度を均一に維持しつつ、十分な高空隙率化が実現できるものである。第一のメソ孔の孔径が3.0nm未満になると十分な空隙が得られないおそれがある。また、第一のメソ孔の孔径は10nm以下であることが好ましい。メソ孔の孔径がそれよりも大きくなると、空隙が大きくなりすぎて粒子が壊れやすくなってしまい成型物の強度が弱くなるおそれがある。なお、等間隔とは完全に等間隔であることを要するものではなく、TEM観察等を行った場合に実質的に等間隔と認められるものであればよい。
【0019】
粒子の外周部においてシリカコアを被覆するシリカ被覆部(シリカシェル)は、シリカコア全体を被覆していてもよいし、シリカコアを部分的に被覆していてもよい。それにより、シリカコアの表面に露出した第一のメソ孔を塞ぐ、あるいは、第一のメソ孔の開口面積を縮小することができる。
【0020】
シリカ被覆部の厚みは、30nm以下であることが好ましい。厚みがそれ以上になると、粒子全体の空隙量が小さくなってしまうおそれがある。低屈折率材料として用いる場合は、10nm以下であれば十分に低屈折率化することができ、より好ましい。また、シリカ被覆部の厚みは、1nm以上であることが好ましい。厚みがそれ以下になると、被覆量が少なくなって、第一のメソ孔を十分に塞ぐ、あるいは縮小することができなくなるおそれがある。
【0021】
シリカ被覆部は、第一のメソ孔よりも小さい第二のメソ孔を備えていることが好ましい。第一のメソ孔より小さい孔径の第二のメソ孔を有していることにより、マトリクスを形成する樹脂の侵入しにくさを保持しつつ、粒子の空隙量を増大させることが可能となる。
【0022】
第二のメソ孔は孔径が2nm以上であることが好ましく、またシリカ被覆部に複数の第二のメソ孔が等間隔で配置して形成されていることが好ましい。それにより、メソポーラス微粒子を含む組成物を成型した際に、第二のメソ孔が等間隔に配置していることで、メソ孔が偏在している場合のように強度が弱くなったりすることがなく、強度を均一に維持しつつ、十分な高空隙率化が実現できるものである。第二のメソ孔の孔径が2nm未満になると十分な空隙が得られないおそれがある。また、第二のメソ孔の孔径は第一のメソ孔の孔径の90%以下であることが好ましい。第二のメソ孔の孔径がそれよりも大きくなると、第一のメソ孔の孔径との差がほぼ無くなり、被覆の効果が発現しないおそれがある。なお、等間隔とは完全に等間隔であることを要するものではなく、TEM観察等を行った場合に実質的に等間隔と認められるものであればよい。
【0023】
メソポーラスシリカ微粒子はその表面に有機官能基を備えることが好ましい。有機官能基の導入により分散性や反応性などの機能性を高めることができる。
【0024】
メソポーラスシリカ微粒子表面を修飾する有機官能基としては、疎水性の官能基であることが好ましい。それにより、分散液においては溶媒中への分散性が向上し、また組成物においては樹脂中への分散性が向上する。したがって、粒子が均一に分散した成型物を得ることができるものである。また、高密度で成型する場合、成型中や成型後に、水分がメソ孔や空孔に侵入して品質劣化するおそれがある。しかし、疎水性の官能基が水分吸着を防ぐので、高品質な成型物を得ることができるものである。
【0025】
疎水性の官能基としては、特に限定されるものではないが、メチル基、エチル基、ブチル基などのアルキル基、フェニル基などの芳香族基といった疎水性の有機基や、それらのフッ素置換体などを挙げることができる。好ましくは、これら疎水性の官能基はシリカ被覆部に設けられる。それにより、疎水性を効果的に高めて分散性を向上することができる。
【0026】
また、メソポーラスシリカ微粒子はその粒子表面に反応性の官能基を備えることが好ましい。反応性の官能基とは主にマトリクス形成樹脂と反応する官能基である。それにより、マトリクスを形成する樹脂と微粒子の官能基が反応して化学結合を形成することができるので、成型物の強度を向上することができる。好ましくは、これら反応性の官能基はシリカ被覆部に設けられる。それにより、反応性を効果的に高めて成型物の強度を向上することができる。
【0027】
反応性の官能基としては、特に限定されるものではないが、アミノ基、エポキシ基、ビニル基、イソシアネート基、メルカプト基、スルフィド基、ウレイド基、メタクリロキシ基、アクリロキシ基、スチリル基などが好ましい。これらの官能基によれば、樹脂と化学結合を形成して密着性を高めることができるものである。
【0028】
[メソポーラスシリカ微粒子の製造]
本発明のメソポーラスシリカ微粒子の製造方法は特に限定されないが、以下の方法で行うことが好ましい。まず、疎水部含有添加物を内包する界面活性剤ミセルがテンプレートとしてメソ孔内部に存在する界面活性剤複合シリカ微粒子を作製する「界面活性剤複合シリカ微粒子作製工程」を行う。そして、次に、この界面活性剤複合シリカ微粒子にシリカ源を加えて、シリカで前記シリカ微粒子(シリカコア)の表面(外周部)を被覆する「シリカ被覆工程」を行う。そして、最後に、界面活性剤複合シリカ微粒子に含まれる界面活性剤及び疎水部含有添加物を除去する「除去工程」を行う。
【0029】
界面活性剤複合シリカ微粒子作製工程では、まず、界面活性剤と、水と、アルカリと、前記界面活性剤によって形成されるミセルの体積を増大させる疎水部を備えた疎水部含有添加物と、シリカ源とを含む混合液を作製する。
【0030】
シリカ源としては、メソポーラスシリカ微粒子を形成するシリカ源であればよく適宜のシリカ源(ケイ素化合物)を用いることができる。このようなものとして、例えば、シリコンアルコキシドを挙げることができ、特にテトラアルコキシシランである、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシランなどを挙げることができる。その中でも良好なメソポーラスシリカ微粒子を簡単に作製できることから、テトラエトキシシラン(Si(OC)を用いることが好ましい。
【0031】
さらに、シリカ源として、有機官能基を有するアルコキシシランを含有することが好ましい。このようなアルコキシシランを用いれば、アルコキシシリル基によってシリカ骨格を形成すると共に有機官能基を微粒子表面に配置することができる。そして微粒子と樹脂とを複合化した際にこの有機官能基が樹脂と反応して化学結合を形成するので、成型物を高強度化するメソポーラスシリカ微粒子を容易に製造することができるものである。また、有機官能基を他の有機分子などで化学修飾すれば、メソポーラスシリカ微粒子に適宜の特性を付与することが可能になる。
【0032】
有機官能基を有するアルコキシシランとしては、シリカ源の成分として用いることにより界面活性剤複合シリカ微粒子を得ることができるものであればよく、特に限定されるものではないが、例えば、アルキル基、アリール基、アミノ基、エポキシ基、ビニル基、メルカプト基、スルフィド基、ウレイド基、メタクリロキシ基、アクリロキシ基、スチリル基などを有機基として含むアルコキシシランを挙げることができる。なかでも、アミノ基がより好ましく、例えば、アミノプロピルトリエトキシシラン等のシランカップリング剤を好ましく用いることができる。アミノ基を介した表面修飾は、例えば、イソシアネート基、エポキシ基、ビニル基、カルボキシル基、Si−H基などを有した修飾剤と反応することにより可能となる。
【0033】
界面活性剤としては、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、非イオン系界面活性剤、トリブロックコポリマーのいずれの界面活性剤を用いてもよいが、好ましくはカチオン性界面活性剤を用いる。カチオン性界面活性剤としては、特に限定されるものではないが、特にオクタデシルトリメチルアンモニウムブロマイド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロマイド、テトラデシルトリメチルアンモニウムブロマイド、ドデシルトリメチルアンモニウムブロマイド、デシルトリメチルアンモニウムブロマイド、オクチルトリメチルアンモニウムブロマイド、ヘキシルトリメチルアンモニウムブロマイドなどの4級アンモニウム塩カチオン性界面活性剤が、良好なメソポーラスシリカ微粒子を簡単に作製できることから好ましい。
【0034】
シリカ源と界面活性剤との混合比率は特に制限されるものでないが重量比で、1:10〜10:1であるのが好ましい。界面活性剤の量がシリカ源に対してこの重量比の範囲外であると生成物の構造の規則性が低下しやすくなって規則正しくメソ孔が配列したメソポーラスシリカ微粒子を得ることが難しくなるおそれがある。特に、100:75〜100:100であれば容易に規則正しく配列したメソ孔が配列したメソポーラスシリカ微粒子を得ることが可能である。
【0035】
疎水部含有添加物は、上記のような界面活性剤が形成するミセルの体積を増大させる効果を有する疎水部を備えた添加物である。疎水部含有添加物を含有すると、アルコキシシランの加水分解反応を進行させる際に、この添加物が界面活性剤ミセルの疎水部に取り込まれることによってミセルの体積を大きくさせるため、第一のメソ孔が大きいメソポーラスシリカ微粒子を得ることができる。疎水部含有添加物としては、特に限定されるものではないが、分子全体が疎水性のものとしてはアルキルベンゼンや長鎖アルカン、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、シクロヘキサンなどを例示することができ、分子の一部に疎水部を備えたものとしてはブロックコポリマーなどを例示することができ、特にメチルベンゼン、エチルベンゼン、イソプロピルベンゼンなどのアルキルベンゼンはミセルに取り込まれやすいため第一のメソ孔が大きくなりやすく好ましい。
【0036】
なお、メソポーラス材料を作製する場合に、疎水性の添加物を加えてメソ孔を拡大することは、先行文献J. Am. Chem. Soc. 1992, 114, 10834-10843や、Chem. Mater.2008, 20,4777-4782において開示されている。しかしながら、本発明の製造方法においては、上記のような方法を用いることにより、微小なデバイスに適用可能な分散の良い微粒子という状態を保持したままメソ孔の拡大をすることで高空隙化したメソポーラスシリカ微粒子を得たものである。
【0037】
混合液における疎水部含有添加物の量は、界面活性剤に対して物質量比(モル比)で3倍以上であることが好ましい。それにより、メソ孔の大きさを十分なものにすることができ、より高空隙の微粒子を容易に作製することができるものである。界面活性剤に対する疎水部含有添加物の量が3倍未満であると、十分なメソ孔の大きさを得られないおそれがある。疎水部含有添加物が過剰な量で含まれていたとしても、過剰な疎水部含有添加物はミセルの中に取り込まれず、微粒子の反応に大きな影響は与えにくいので、疎水部含有添加物の量の上限は特に限定されるものではないが、加水分解反応の効率化を考えると100倍以内であることが好ましい。さらに好ましくは3倍以上〜50倍以内である。
【0038】
混合液には好ましくはアルコールが含まれる。混合液にアルコールが含まれていると、シリカ源が重合する際に、重合体の大きさや形状を制御することができ、大きさの揃った球状の微粒子に近づけることができる。特にシリカ源として有機官能基を有するアルコキシシランを用いた場合、粒子の大きさや形状が不規則になりやすくなるが、アルコールが含まれていれば、有機官能基による形状等の乱れを防止し、粒子の大きさや形状を整えることが可能になる。
【0039】
ところで、先行文献Microporous andMesoporous Materials 2006, 93, 190-198では各種アルコールを用いて形状の異なるメソポーラスシリカ微粒子を作製することが開示されている。しかしながら、この文献の方法では、メソ孔の大きさが不十分であり高空隙を形成する微粒子を作製することができない。一方、上記方法では、前述のような混合物にアルコールを添加した場合には粒子の成長が抑制されながらも第一のメソ孔の大きな微粒子をさらに得ることができるものである。
【0040】
アルコールとしては、特に限定されるものではないが、2つ以上の水酸基を有する多価アルコールが、粒子成長を良好に制御できることから好ましい。多価アルコールとしては、適宜のものを使用することができるが、例えば、エチレングリコール、グリセリン、1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなどを使用することが好ましい。アルコールの混合量は、特に制限されるものではないが、シリカ源に対して1000〜10000質量%程度であることが好ましく、2200〜6700質量%程度であることがより好ましい。
【0041】
そして、界面活性剤複合シリカ微粒子作製工程では、次に、上記の混合液を混合し撹拌して界面活性剤複合シリカ微粒子を作製する。この混合及び撹拌によってシリカ源がアルカリにより加水分解反応を起こして重合する。なお、上記の混合液の調製にあたっては、界面活性剤と、水と、アルカリと、疎水部含有添加物とを含む混合液に、シリカ源を加えることによって上記の混合液を調製してもよい。
【0042】
反応に用いるアルカリとしては、界面活性剤複合シリカ微粒子の合成反応に用いることのできる無機及び有機のアルカリを適宜用いることができる。その中でも、窒素系のアルカリであるアンモニウム又はアミン系のアルカリを用いることが好ましく、反応性の高いアンモニアを用いることがより好ましい。なお、アンモニアを用いる場合、安全性の観点からアンモニア水を用いることが好ましい。
【0043】
なお、混合液における、シリカ源と、水を含み、場合によりアルコールを含む分散溶剤との混合比率は、シリカ源が加水分解反応して得られる縮合化合物1質量部に対して、分散溶剤5〜1000質量部であることが好ましい。分散溶剤の量がこれよりも少ないと、シリカ源の濃度が高すぎて反応速度が速くなり規則正しいメソ構造が安定して形成されにくくなるおそれがある。一方、分散溶剤の量がこの範囲よりも多いと、メソポーラスシリカ微粒子の収量が極めて低くなってしまうため実用的な製造方法になりにくくなるおそれがある。
【0044】
このようにして、界面活性剤複合シリカ微粒子作製工程で作製された界面活性剤複合シリカ微粒子は、メソポーラスシリカ微粒子においてシリカコアを構成するものとなる。
【0045】
シリカ被覆工程では、この界面活性剤複合シリカ微粒子(シリカコア)にさらにシリカ源を加えて、シリカ微粒子の外周部、すなわち、シリカコアの表面を、シリカで被覆する。表面への被覆は前記界面活性剤複合シリカ微粒子作製工程と同様の材料・条件で行ってもよい。その際、界面活性剤を用いるとともに疎水部含有添加物を用いないようにすると、第一のメソ孔よりも小さい第二のメソ孔をシリカ被覆部に簡単に形成することができる。
【0046】
例えば、まず、界面活性剤複合シリカ微粒子と、水と、アルカリと、シリカ源とを含む混合液を作製する。界面活性剤複合シリカ微粒子は、前記の工程で得たものをそのまま精製等することなく用いてもよい。また、界面活性剤を用いると、反応溶液中でミセルを形成するため、第二のメソ孔を簡単に形成することができる。
【0047】
シリカ源としては、界面活性剤複合シリカ微粒子作製工程で用いたものと同じものを用いてもよく、異なるものを用いてもよい。同じものを用いれば製造が簡単になる。また、シリカ源として有機官能基を有するアルコキシシランを用いれば、シリカ被覆部の表面を修飾することができる。
【0048】
界面活性剤としては、界面活性剤複合シリカ微粒子作製工程で用いたものと同じものを用いてもよく、異なるものを用いてもよい。同じものを用いれば製造が簡単になる。
【0049】
シリカ源と界面活性剤との混合比率は特に制限されるものでないが重量比で、1:10〜10:1であるのが好ましい。界面活性剤の量がシリカ源に対してこの重量比の範囲外であると生成物の構造の規則性が低下しやすくなって規則正しくメソ孔が配列したメソポーラスシリカ微粒子を得ることが難しくなるおそれがある。特に、100:75〜100:100であれば容易に規則正しく配列したメソ孔が配列したメソポーラスシリカ微粒子を得ることが可能である。
【0050】
混合液には好ましくはアルコールが含まれる。混合液にアルコールが含まれていると、シリカ源が重合する際に、重合体の大きさや形状を制御することができ、大きさの揃った球状の微粒子に近づけることができる。特にシリカ源として有機官能基を有するアルコキシシランを用いた場合、粒子の大きさや形状が不規則になりやすくなるが、アルコールが含まれていれば、有機官能基による形状等の乱れを防止し、粒子の大きさや形状を整えることが可能になる。
【0051】
アルコールとしては、特に限定されるものではないが、2つ以上の水酸基を有する多価アルコールが、粒子成長を良好に制御できることから好ましい。多価アルコールとしては、適宜のものを使用することができるが、例えば、エチレングリコール、グリセリン、1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなどを使用することが好ましい。アルコールの混合量は、特に制限されるものではないが、シリカ源に対して1000〜10000質量%程度であることが好ましく、2200〜6700質量%程度であることが好ましい。
【0052】
そして、シリカ被覆工程では、次に、上記の混合液を混合し撹拌して界面活性剤複合シリカ微粒子の外周部にシリカ被覆部を作製する。この混合及び撹拌によってシリカ源がアルカリにより加水分解反応を起こして重合し、シリカ被覆部が粒子外周部に形成される。なお、上記の混合液の調製にあたっては、界面活性剤と、水と、アルカリと、シリカ源を含む混合液に、界面活性剤複合シリカ微粒子を加えることによって上記の混合液を調製してもよい。
【0053】
反応に用いるアルカリとしては、界面活性剤複合シリカ微粒子作製工程で用いたものと同じものを用いてもよく、異なるものを用いてもよい。同じものを用いれば製造が簡単になる。
【0054】
なお、混合液における、界面活性剤複合シリカ微粒子と添加するシリカ源との混合比率は、界面活性剤複合シリカ微粒子を形成するシリカ源1質量部に対して、シリカ源0.1〜10質量部であることが好ましい。シリカ源の量がこれよりも少ないと、十分な被覆が得られなくなるおそれがある。一方、シリカ源の量がこの範囲よりも多いと、シリカ被覆部が厚くなりすぎて、空隙による十分な効果を得にくくなるおそれがある。
【0055】
シリカ被覆工程では、特に、テトラエトキシシラン(TEOS)をシリカ源として用いることが好ましく、さらに、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロマイド(CTAB)を混合したものを用いることが好ましい。TEOSの配合量は、界面活性剤複合シリカ微粒子を形成するシリカ源1質量部に対して、0.1〜10質量部にすることができる。APTESの配合量は、界面活性剤複合シリカ微粒子を形成するシリカ源1質量部に対して、0.02〜2質量部にすることができる。CTABの配合量は、界面活性剤複合シリカ微粒子を形成するシリカ源1質量部に対して、0.1〜10質量部にすることができる。
【0056】
また、シリカ被覆工程を2回以上又は3回以上といった複数回行うことも好ましい。それにより、多重層のシリカ被覆部を得ることが可能となり、第一のメソ孔の開口をより塞ぐことができる。
【0057】
シリカ被覆工程での撹拌温度は室温(例えば25℃)〜100℃にすることが好ましい。シリカ被覆工程での撹拌時間は30分〜24時間であることが好ましい。撹拌温度、撹拌時間がこのような範囲であると、製造効率を高めつつ、粒子外周部に十分なシリカ被覆部を形成することができる。
【0058】
シリカ被覆工程で界面活性剤複合シリカ微粒子(シリカコア)をシリカ被覆部(シリカシェル)で被覆した後、除去工程により、界面活性剤複合シリカ微粒子に含まれる界面活性剤及び疎水部含有添加物の除去を行う。界面活性剤と疎水部含有添加物を除去することにより、第一のメソ孔及び第二のメソ孔が空隙となって形成されたメソポーラスシリカ微粒子を得ることができる。
【0059】
界面活性剤が複合されたシリカ微粒子からテンプレートである界面活性剤と疎水部含有添加物を取り除くためには、界面活性剤複合シリカ微粒子をテンプレートが分解する温度で焼成することもできる。しかしながら、この除去工程では、凝集を防止し微粒子の媒質への分散性を向上させるために、抽出によりテンプレートを除去することが好ましい。例えば、酸によりテンプレートを抽出し除去することができる。
【0060】
またさらに、酸と、アルキルジシロキサンを混合することによって、界面活性剤を界面活性剤複合シリカ微粒子の第一のメソ孔及び第二のメソ孔から除去するとともに、界面活性剤複合シリカ微粒子の表面をシリル化する工程を含むことが好ましい。その場合、酸がメソ孔内の界面活性剤を抽出するとともに、有機ケイ素化合物のシロキサン結合を開裂反応で活性化させ、シリカ微粒子表面のシラノール基をアルキルシリル化することができる。このシリル化により粒子の表面を疎水基で保護し、第一のメソ孔及び第二のメソ孔がシロキサン結合の加水分解により破壊されるのを抑制することができる。また、さらに粒子間のシラノール基の縮合で生じるおそれがある粒子の凝集を抑制することが可能となる。
【0061】
アルキルジシロキサンとしては、ヘキサメチルジシロキサンを用いることが好ましい。ヘキサメチルジシロキサンを用いた場合、トリメチルシリル基を導入することができ、小さい官能基で保護することが可能となる。
【0062】
アルキルジシロキサンと混合する酸としては、シロキサン結合を開裂させる効果を有するものであればよく、例えば塩酸、硝酸、硫酸、臭化水素などを使用することができる。酸としては、界面活性剤の抽出とシロキサン結合の開裂を速やかに行うために、反応液のpHが2未満となるように配合を調製することが好ましい。
【0063】
酸及び分子中にシロキサン結合を含んだ有機ケイ素化合物を混合する際には適宜の溶剤を用いることが好ましい。溶剤を用いることにより、混合を行い易くすることができる。溶剤としては、親水的なシリカナノ微粒子と疎水的なアルキルジシロキサンを馴染ませるような両親媒性を有するアルコールを用いることが好ましい。例えば、イソプロパノールが挙げられる。
【0064】
酸とアルキルジシロキサンによる反応は、界面活性剤複合シリカ微粒子を合成した後、シリカ被覆部を形成する反応を行った液体をそのまま用いて、その反応液中で実施してもよい。その場合、界面活性剤複合シリカ微粒子合成後、又はシリカ被覆部の形成後に粒子を液から分離回収する必要がなく、分離回収工程を省くことができ、製造工程を簡略化させることができる。また、分離回収工程を含まないので、界面活性剤複合シリカ微粒子を凝集させることなく均一に反応させて、メソポーラスシリカ微粒子を微粒子の状態のままで得ることができるものである。
【0065】
除去工程は、例えば、酸とアルキルジシロキサンをシリカ被覆部形成後の反応液に混合し、40〜150℃程度、好ましくは40〜100℃程度の加温条件で、1分〜50時間程度、好ましくは1分〜8時間程度攪拌することによって、酸が界面活性剤をメソ孔から抽出するのと同時に、酸によってアルキルジシロキサンが開裂反応を引き起して活性化して第一のメソ孔及び第二のメソ孔や、粒子表面をアルキルシリル化することができる。
【0066】
ここで、界面活性剤複合シリカ微粒子が、その表面に酸とアルキルジシロキサンとの混合によってシリル化されない官能基を有していても好ましい。それにより、メソポーラスシリカ微粒子の表面にシリル化されない官能基が残るので、この官能基と反応する物質により容易にメソポーラスシリカ微粒子の表面を処理したり表面での化学結合を形成したりすることができる。したがって、メソポーラスシリカ微粒子とマトリクスを形成する樹脂の官能基が反応し化学結合を形成するといった表面処理反応を簡単に行うことが可能となる。このような官能基は前記の工程においてシリカ源に含まれることによって形成することができる。
【0067】
酸と分子中にシロキサン結合を含んだ有機ケイ素化合物との混合によってシリル化されない官能基としては、特に限定されるものではないが、アミノ基、エポキシ基、ビニル基、メルカプト基、スルフィド基、ウレイド基、メタクリロキシ基、アクリロキシ基、スチリル基などが好ましい。
【0068】
除去工程により作製されたメソポーラス微粒子は、遠心分離やろ過などによって回収した後に媒質に分散したり、あるいは透析などによって媒質交換したりすることによって、分散液や組成物、成型物に用いることができる。
【0069】
上記のようなメソポーラスシリカ微粒子の製造方法によれば、アルカリ条件下でアルコキシシランの加水分解反応を進行させた際に、界面活性剤によって第一のメソ孔を形成すると共に、疎水部含有添加物が界面活性剤が形成するミセル中に取り込まれてミセル径を増大させることにより、空隙の増大した微粒子状のメソポーラスシリカ微粒子を形成することができる。そして、シリカの被覆によってメソ孔にマトリクス形成材料が侵入するのを抑制できるメソポーラスシリカ微粒子を得ることができる。
【0070】
[成型物]
メソポーラスシリカ微粒子含有組成物は、上記のメソポーラスシリカ微粒子をマトリクス形成材料中に含有させることにより得ることができる。このメソポーラスシリカ微粒子含有組成物は、低屈折率(Low−n)、低誘電率(Low−k)、低熱伝導率の機能を有する成型物を容易に製造できるものである。そして、組成物においてはメソポーラスシリカ微粒子がマトリクス形成材料中で均一に分散されるために均一な成型物を製造することが可能となる。
【0071】
マトリクス形成材料としては、メソポーラスシリカ微粒子の分散性を損なわないものであれば特に限定されるものではないが、例えば、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、ブチラール樹脂、フェノール樹脂、酢酸ビニル樹脂、フルオレン樹脂を挙げることができ、これらは紫外線硬化樹脂、熱硬化樹脂、電子線硬化樹脂、エマルジョン樹脂、水溶性樹脂、親水性樹脂、これら樹脂の混合物、さらにはこれら樹脂の共重合体や変性体、さらにアルコキシシラン等の加水分解性有機珪素化合物等であってもよい。組成物には必要に応じて、添加物を加えてもよい。添加物は発光材料、導電材料、発色材料、蛍光材料、粘度調整材料、樹脂硬化剤、樹脂硬化促進剤などが挙げられる。
【0072】
メソポーラスシリカ微粒子含有成型物は、上記のメソポーラスシリカ微粒子含有組成物を用いて成型して得ることができる。それにより、低屈折率(Low−n)、低誘電率(Low−k)、低熱伝導率の機能を有する成型物を得ることが可能となる。また、メソポーラスシリカ微粒子は分散性がよいので、成型物中のメソポーラスシリカ微粒子はマトリクスの中で均一に配置され、性能のばらつきが少ない成型物を得ることができる。また、メソポーラスシリカ微粒子がシリカで被覆されているため、メソポーラスシリカ微粒子のメソ孔にマトリクス形成材料の侵入が抑制された成型物を得ることができる。
【0073】
メソポーラスシリカ微粒子を含有した成型物を作製する方法としては、メソポーラスシリカ微粒子を含有した組成物を任意の形状に加工できればよく、その方法は限定されるものではないが、印刷やコーティング、押し出し成型、真空成型、射出成型、積層成型、トランスファー成型、発泡成型などを用いることができる。
【0074】
さらに基板の表面にコーティングする場合は、その方法は特に限定されるものではないが、例えば、刷毛塗り、スプレーコート、浸漬(ディッピング、ディップコート)、ロールコート、フローコート、カーテンコート、ナイフコート、スピンコート、テーブルコート、シートコート、枚葉コート、ダイコート、バーコート、ドクターブレード等の通常の各種塗装方法を選択することができる。また固体を任意の形状に加工するために、切削やエッチングなどの方法を用いることもできる。
【0075】
成型物にあっては、メソポーラスシリカ微粒子がマトリクス形成材料と化学的な結合を有して複合化していることが好ましい。それにより、メソポーラスシリカ微粒子と樹脂とをより強固に密着することができる。なお、複合化とは、化学結合によってコンプレックスを形成している状態のことである。
【0076】
化学結合の構造としては、メソポーラスシリカ微粒子とマトリクス形成材料とが両者の表面で化学結合するような官能基であれば、特に限定されないが、一方がアミノ基を有していれば、他方がイソシアネート基、エポキシ基、ビニル基、カルボニル基、Si−H基などを有することが好ましく、その場合、容易に化学反応して化学結合を形成することができる。
【0077】
成型物にあっては、高透明性、低誘電性、低屈折性、低熱伝導性のいずれか一つあるいは二つ以上の機能を発現することが好ましい。成型物が高透明性、低誘電性、低屈折性、低熱伝導性を発現することにより、高品質なデバイスを製造することができる。また、これらの性能が二つ以上発現すれば、多機能性を有する成型物を得ることができるので、多機能性が要求されるデバイスを製造することができる。すなわち、メソポーラスシリカ微粒子含有成型物は、均一性に優れ、高透明性、低屈折率(Low−n)、低誘電率(Low−k)、低熱伝導率の性能を有するものである。
【0078】
特に、低屈折率(Low−n)の性質を利用したものとして、例えば、有機エレクトロルミネセンス素子、及び、反射防止膜を挙げることができる。
【0079】
図1は、有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子)の形態の一例である。
【0080】
図1に示す有機EL素子1は、基板2の表面に、第一の電極3、有機層4及び第二の電極5が、第一の電極3側からこの順に積層させることによって構成されている。基板2は、第一の電極3とは反対側の面において外部(例えば大気)と接している。第一の電極3は、光透過性を有し、有機EL素子1の陽極として機能する。有機層4は、ホール注入層41、ホール輸送層42及び発光層43を、第一の電極3側からこの順に積層されることによって構成されている。発光層43には、発光材料44中にメソポーラスシリカ微粒子Aが分散されている。第二の電極5は、光反射性を有し、有機EL素子1の陰極として機能する。なお、発光層43と第二の電極5との間に、ホールブロック層、電子輸送層、電子注入層を更に積層してもよい(不図示)。このように構成された有機EL素子1においては、第一の電極3及び第二の電極5間に電圧が印加されると、第一の電極3は発光層43にホールを注入し、第二の電極5は発光層43に電子を注入する。これらホールと電子とが発光層43内で結合することにより、励起子が生成され、励起子が基底状態に遷移することにより発光する。発光層43において発光した光は、第一の電極3及び基板2を透過して外部へ取り出される。
【0081】
そして、発光層43は上記のメソポーラスシリカ微粒子Aを含有しているので、低屈折率となって発光性を高めることができるものであり、また、強度の高い発光層43を得ることができるものである。なお、発光層43を多層構造にしてもよい。例えば、メソポーラスシリカ微粒子Aを含まない発光材料で発光層43の外層(又は第1層)を形成し、メソポーラスシリカ微粒子Aを含む発光材料で発光層43の内層(又は第2層)を形成することにより、多層構造にすることができる。この場合、他の層との接触面において発光材料の接触が増加し、より高い発光を得ることができる。
【実施例】
【0082】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0083】
[メソポーラスシリカ微粒子の製造]
(実施例1)
界面活性剤複合シリカ微粒子の合成:
冷却管、攪拌機、温度計を取り付けたセパラブルフラスコに、HO:120g、25%NH水溶液:6.4g、エチレングリコール:20g、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロマイド(CTAB):1.20g、1,3,5−トリメチルベンゼン(TMB):1.54g(物質量比TMB/CTAB=4)、テトラエトキシシラン(TEOS):1.29g、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES):0.23gを混合し、60℃で4時間攪拌することで、界面活性剤複合シリカ微粒子を作製した。
【0084】
シリカ被覆部の形成:
界面活性剤複合シリカ微粒子の反応溶液中に、TEOS:1.29g、APTES:0.23gを添加し2時間攪拌した。
【0085】
テンプレートの抽出及びイソプロパノール分散液の作製:
イソプロパノール:30g、5N−HCl:60g、ヘキサメチルジシロキサン:26gを混合し、72℃で攪拌しておき、作製した界面活性剤複合シリカ微粒子を含んだ合成反応液を添加し、30分間攪拌・還流した。以上の操作により、界面活性剤複合シリカ微粒子からテンプレートである界面活性剤及び疎水部含有添加物が抽出され、メソポーラスシリカ微粒子の分散液を得た。
【0086】
メソポーラスシリカ微粒子の分散液を12,280G,20分間で遠心分離後、液を除去した。沈殿した固相にエタノールを加え、振とう機で粒子をエタノール中で振とうすることでメソポーラスシリカ微粒子を洗浄した。12,280G,20分間で遠心分離し、液を除去しメソポーラスシリカ微粒子を得た。
【0087】
作製したメソポーラスシリカ微粒子0.2gにイソプロパノール3.8gを加えて、振とう機で再分散させたところ、イソプロパノールに分散したメソポーラスシリカ微粒子を得た。
【0088】
(実施例2)
実施例1と同様の方法により、界面活性剤複合シリカ微粒子を合成した。この反応溶液中にCTAB:8.4gを添加し60℃で10分攪拌した後、TEOS:1.29g、APTES:0.23gを添加し2時間攪拌し、シリカ被覆部を形成した。実施例1と同じ条件でテンプレートの抽出及びイソプロパノール分散液の作製を行った。
【0089】
(比較例1)
シリカ被覆部を形成しなかったこと以外は、実施例1と同じ条件で、界面活性剤複合シリカ微粒子を合成し、テンプレートを抽出した後、粒子を洗浄し、メソポーラスシリカ微粒子を得た。このメソポーラスシリカ微粒子をイソプロパノールに分散した。
【0090】
[メソポーラスシリカ微粒子構造の比較]
実施例1〜2及び比較例1のメソポーラスシリカ微粒子を150℃で2時間加熱処理し、乾燥粉末を得て、窒素吸着測定と、X線回折測定とを実施した。
【0091】
(窒素吸着測定)
Autosorb-3(Quantachrome社製)を使用し、等温吸着線を計測した。BJH解析法により細孔径分布を得た。
【0092】
等温吸着線について、実施例1の結果を図2(a)に、実施例2の結果を図3(a)に、比較例1の結果を図4(a)に示す。細孔径分布について、実施例1の結果を図2(b)に、実施例2の結果を図3(b)に、比較例1の結果を図4(b)に示す。BET比表面積、細孔容積、細孔径を表1に示す。
【0093】
実施例1及び2の粒子のBET比表面積および細孔容積は、比較例1の粒子と同等であり、高い空隙率が保持されていることがわかる。実施例1の粒子には二つの細孔径のメソ孔が存在し、4.4nmの第一のメソ孔、3.3nmの第二のメソ孔であった。実施例2の粒子にも二つの細孔径のメソ孔が存在し、3.7nmの第一のメソ孔、2.8nmの第二のメソ孔であった。以上より、実施例1及び2の粒子には第一のメソ孔よりも小さい第二のメソ孔が形成されていることが確認された。一方、比較例1の粒子には4.7nmの第一のメソ孔のみ形成していることが確認された。
【0094】
【表1】


(X線回折測定)
AXS M03X-HF(Bruker社製)を使用し、実施例及び比較例の各メソポーラスシリカ微粒子について、X線回折測定を実施した。
【0095】
図5は、実施例1〜2及び比較例1のメソポーラスシリカ微粒子の測定結果である。図5(a)は実施例1の結果、図5(b)は実施例2の結果、図5(c)は比較例1の結果を示している。実施例1〜2及び比較例1のメソポーラスシリカ微粒子には全てメソ孔の規則構造に起因するピークを確認した。
【0096】
(TEM観察)
JEM 2000EXII(JEOL社製)にて、実施例1〜2及び比較例1のメソポーラスシリカ微粒子について微細構造をTEM観察した。
【0097】
メソポーラスシリカ微粒子Aについて、実施例1のTEM像を図6(a)及び(b)に、実施例2のTEM像を図7(a)及び(b)に、比較例1のTEM像を図8(a)及び(b)に示す。
【0098】
実施例1及び2においては粒径は約70nmであり、一方、比較例1においては約50nmであったことから、再成長により約10nmのシリカ被覆部が形成し、粒径が増加したことが確認された。実施例1では粒子内部に4nmを超えるメソ孔、実施例2では約4nmのメソ孔の規則配列が確認され、これらは窒素吸着測定より確認した第一のメソ孔と考えられる。したがって、窒素吸着測定より確認した実施例1の3.3nm、実施例2の2.8nmの第二のメソ孔は、シリカ被覆部に形成していると考えられる。一方、比較例1では粒子全体に4nmを超えるメソ孔の規則配列が確認された。
【0099】
[有機EL素子]
(実施例A1)
図1に示す層構成の有機EL素子を作製した。
【0100】
基板2として、厚み0.7mmの無アルカリガラス板(No.1737、コーニング製)を用いた。この基板2の表面に、ITOターゲット(東ソー製)を用いてスパッタを行い、ITO層を150nmで形成した。得られたITO層付ガラス基板を、Ar雰囲気下200℃で1時間アニール処理を行い、シート抵抗18Ω/□の光透過性の陽極として第一の電極3を形成した。また、波長550nmの屈折率をSCI社製FilmTekで測定したところ2.1であった。
【0101】
次に、第一の電極3の表面に、ポリエチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルホン酸(PEDOT−PSS)(スタルクヴィテック社製「BaytronPAI4083」、PEDOT:PSS=1:6)を、膜厚が30nmになるようにスピンコーターにより塗布し、150℃で10分間焼成することにより、ホール注入層41を形成した。ホール注入層41の波長550nmでの屈折率は、第一の電極3と同様の手法で測定すると、1.55であった。
【0102】
次に、ホール注入層41の表面に、TFB(Poly[(9,9-dioctylfluorenyl-2,7-diyl)-co-(4,4’-(N-(4-sec-butylphenyl))diphenylamine)])(アメリカンダイソース社製「Hole TransportPolymer ADS259BE」)をTHF溶媒に溶解した溶液を、膜厚が12nmになるようにスピンコーターにより塗布し、TFB被膜を作製した。これを200℃で10分間焼成することによって、ホール輸送層42を形成した。ホール輸送層42の波長550nmでの屈折率は1.64であった。
【0103】
次に、ホール輸送層42の表面に、赤色高分子(アメリカンダイソース社製「Light Emitting Polymer ADS111RE」)をTHF溶媒に溶解した溶液を、膜厚が20nmになるようにスピンコーターにより塗布し、100℃で10分間焼成し、発光層43の外層となる赤色高分子層を形成した。
【0104】
この赤色高分子層の表面に、実施例1で作製したメソポーラスシリカ微粒子を1−ブタノールに分散させた溶液を塗布し、更にメソポーラスシリカ微粒子の塗布と赤色高分子の塗布とにより形成される層が全体で100nmになるように赤色高分子ADS111REをスピンコーターにより塗布し、これを100℃で10分間焼成し、発光層43を得た。発光層43の全体の厚みは120nmであった。発光層43の波長550nmでの屈折率は、1.53であった。
【0105】
最後に、発光層43の表面に、真空蒸着法により、Baを5nm、アルミニウムを80nmの厚みで成膜して第二の電極5を作製した。
【0106】
以上により、実施例A1の有機EL素子1を得た。
【0107】
(比較例A1)
発光層43に混合する粒子として、シリカによる表面被覆処理を行っていない比較例1のメソポーラスシリカ微粒子を用いたこと以外は、実施例A1と同様にして、比較例A1の有機EL素子を得た。このとき、発光層43の波長550nmでの屈折率は1.55であった。
【0108】
(比較例A2)
発光層にメソポーラスシリカ微粒子を混合しなかった以外は実施例A1と同様にして有機EL素子を得た。このとき、発光層43の波長550nmでの屈折率は1.67であった。
【0109】
(評価試験)
上記のように作製した実施例A1及び比較例A1〜A2の有機EL素子1について、評価試験を行った。本評価試験においては、各電極3、5間(図1参照)に電流密度10mA/cmの電流を流し、積分球を用いて、大気へ放射される光を計測した。また、材質がガラスの半球レンズをガラスと同じ屈折率のマッチングオイルを介して有機EL素子1の発光面上に配置し、上記と同様に計測して、発光層43から基板2まで到達する光を計測した。そして、これらの計測結果に基づいて大気放射光の外部量子効率と基板到達光の外部量子効率とを算出した。大気放射光の外部量子効率は有機EL素子1への供給電流と大気放射光量とから算出され、基板到達光の外部量子効率は有機EL素子1への供給電流と基板到達光量とから算出される。
【0110】
評価試験の結果を下記の表Bに示す。各有機EL素子1の大気放射光と基板到達光の夫々の外部量子効率は、比較例A2を基準として算出した。
【0111】
結果を表2に示す。
【0112】
【表2】


表2に示されるように、メソポーラスシリカ微粒子を用いた実施例A1及び比較例A1の有機EL素子1は、メソポーラスシリカ微粒子を混合しなかった比較例A2と比べて、外部量子効率が高かった。実施例A1の有機EL素子1は、粒子外周部がシリカで覆われていないメソポーラスシリカ微粒子を用いた比較例A1と比べると、発光層43の屈折率が低く、外部量子効率が高くなった。
【0113】
[反射防止膜]
(実施例B1)
実施例1で作製したメソポーラスシリカ微粒子のイソプロパノール分散液をシリカマトリックス前駆体と混合して複合化し、ガラス基板に成膜することで反射防止膜を作製した。
【0114】
シリカマトリックス前駆体としてメチルシリケートオリゴマー(MS51(三菱化学社製))を用いた。この溶液に、上記のメソポーラスシリカ微粒子のイソプロパノール分散液を、メソポーラスシリカ微粒子/シリカ(縮合化合物換算)が固形分基準で15/85の質量比となるように添加し、さらに全固形分が2.5質量%になるようにイソプロパノールで希釈して被膜形成用塗布液とした。
【0115】
この被膜形成用塗布液を、バーコーターを用いて最小反射率4.34のガラス基板に塗布し、120℃で5分間乾燥することで厚み約100nmの被膜(反射防止膜)を形成した。
【0116】
(比較例B1)
比較例1で作製したメソポーラスシリカ微粒子のイソプロパノール分散液を用い、実施例B1の反射防止膜の作製と同じ条件でシリカマトリックス前駆体と複合化し、ガラス基板に成膜することで被膜(反射防止膜)を作製した。
【0117】
[反射防止膜の比較]
実施例B1及び比較例B1で得た被膜について、ヘーズ率、反射率、及び機械的強度を測定し、被膜の性能評価を行なった。次の表に評価結果を示す。なお、比較として、メソポーラスシリカ微粒子未配合の被膜、ガラス基板の反射率の結果も併せて示す。
【0118】
(反射率)
分光光度計(日立製作所製「U−4100」)を使用して、波長380〜800nmにおける反射率を測定し、その中で極小値を最低反射率とした。
【0119】
(ヘーズ)
ヘーズメータ(日本電色工業社製「NDH2000」)を使用して測定した。
【0120】
(機械的強度)
1辺2cm角のスチールウール#0000を、250g/cm荷重、5cm幅10往復で反射防止膜の表面を擦り、反射防止膜に発生する長さ2cm以上の傷の本数が6本以上の場合は「×」、0〜5本の場合は「○」とした。
【0121】
結果を表3に示す。
【0122】
実施例B1は、可視光領域全体にわたって反射率が低く、低反射性能が優れていることが確認された。また、次表にみられるように、実施例B1は、メソポーラスシリカ微粒子を同じ重量比率で配合した比較例B1に比べて、ヘーズや反射率が小さく、さらに表面強度が高いことが確認された。この結果は、メソポーラスシリカ微粒子の膜内での分散性が向上し、さらにメソ孔が反射防止膜中で十分に保持されて低屈折率化が実現していることを示している。さらに、空隙量が多いにも拘らず機械的強度に劣化が見られないのは、メソポーラスシリカ微粒子の外周部がシリカで覆われているためである。
【0123】
【表3】

【符号の説明】
【0124】
A メソポーラスシリカ微粒子
1 有機EL素子
2 基板
3 第一の電極
4 有機層
43 発光層
5 第二の電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子内部に第一のメソ孔を備え、粒子外周部がシリカにより被覆されていることを特徴とするメソポーラスシリカ微粒子。
【請求項2】
前記シリカの被覆により形成されたシリカ被覆部に、前記第一のメソ孔よりも小さい第二のメソ孔を備えていることを特徴とする請求項1に記載のメソポーラスシリカ微粒子。
【請求項3】
界面活性剤と、水と、アルカリと、前記界面活性剤によって形成されるミセルの体積を増大させる疎水部を備えた疎水部含有添加物と、シリカ源とを混合して界面活性剤複合シリカ微粒子を作製する界面活性剤複合シリカ微粒子作製工程と、前記界面活性剤複合シリカ微粒子に前記シリカ源を加えて、シリカで粒子外周部を被覆するシリカ被覆工程と、を含む工程により製造することを特徴とするメソポーラスシリカ微粒子の製造方法。
【請求項4】
前記シリカ被覆工程が、前記シリカ源と前記界面活性剤とを加えて、界面活性剤が複合されたシリカで表面を被覆するものであることを特徴とする請求項3に記載のメソポーラスシリカ微粒子の製造方法。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のメソポーラスシリカ微粒子がマトリクス形成材料中に含有されたことを特徴とするメソポーラスシリカ微粒子含有成型物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−171833(P2012−171833A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−35160(P2011−35160)
【出願日】平成23年2月21日(2011.2.21)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】