説明

メソポーラス体の製造方法

【課題】テンプレートを用いてシリカよりなるメソポーラス体を製造するメソポーラス体の製造方法において、1000℃以下の範囲で従来よりも耐熱性に優れたメソポーラス体を作製できるようにする。
【解決手段】メソポーラス体10の細孔11の鋳型であるテンプレートが焼失した焼成後の焼成体に対して、当該テンプレートを焼失させるときの焼成温度よりも高く且つ1000℃以下の温度にて熱処理を、前回の熱処理温度よりも50℃以下の領域で高温とした熱処理温度で繰り返し行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリカよりなるメソポーラス体の製造方法に関し、たとえば、自動車用排気浄化用、燃料電池用、環境浄化用に用いる触媒構造体や吸着剤、磁性材料、電極材料、オプトエレクトロニクスデバイス、生物的・化学的センサーなどに用いる構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
メソポーラス体は、学術的に、径が5nm以上50nm未満の細孔を持つものと定義されており、規則的に配列した細孔と、大きな単位重量あたりの細孔容積を持つものである。このようなメソポーラス体として、シリカ(SiO2)よりなるメソポーラス体を製造する場合は、一般には、有機物よりなるテンプレートを細孔の鋳型として用いるテンプレート法により形成される(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
このテンプレート法は、具体的には、次のようなものである。界面活性剤よりなるテンプレートの水溶液に、オルトテトラケイ酸エチル(TEOS)などのメソポーラス体の原料を溶解させ、これを加熱する。すると、加水分解により、テンプレートの周囲を取り囲むようにメソポーラス体の原料が付着する。
【0004】
そして、この原料が付着したテンプレートは、界面活性剤としての性質によって凝集し、凝集体すなわち自己組織体構造となり、沈殿する。そして、この沈殿物を分離して乾燥し、焼成することにより、当該沈殿物中のテンプレートを焼失させる。それにより、テンプレートが焼失した部分の空間が細孔となって、シリカよりなるメソポーラス体が形成される。
【特許文献1】特表2003−531083号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載されるような製造方法においては、テンプレートを焼失した状態のシリカよりなるメソポーラス体は、耐熱性が低く、具体的には600℃以上の熱水状態に曝されると容易に細孔形状が破壊されてしまう。
【0006】
そのため、従来のこの種のメソポーラス体は、たとえば自動車用排気浄化用、燃料電池用、環境浄化用等のような耐熱性の必要となる触媒構造体や吸着剤などとしては使用できないという問題がある。
【0007】
シリカよりなるメソポーラス体は、1000℃を超える高温にさらされるとシリカが結晶化して壊れやすくなる。しかし、本発明者は、このような材質上の制約はあるものの、製造方法を工夫してやれば、少なくとも1000℃以下ならば、メソポーラス体の耐熱性の向上が可能であると考えた。
【0008】
本発明は、上記したような問題に鑑みてなされたものであり、テンプレートを用いてシリカよりなるメソポーラス体を製造するメソポーラス体の製造方法において、1000℃以下の範囲で従来よりも耐熱性に優れたメソポーラス体を作製できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明者は鋭意検討を行った。その結果、シリカよりなるメソポーラス体の細孔破壊は、細孔壁表面に残存するシラノール基(Si−OH)が高温に曝された際、急激に縮合反応が進行してシロキサン結合(Si−O−Si)の欠落部が発現し、その欠落部が細孔の破壊源となることに起因していることを突き止めた。
【0010】
そこで、シロキサン結合の欠落点を誘起することなく、細孔壁表面に存在するシラノール基を低減することで細孔壁表面構造を強化してやれば、メソポーラス体の耐熱性を向上できると考え、これを知見として実験検討を行い、本発明を創出するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、メソポーラス体(10)の細孔(11)の鋳型であるテンプレートが焼失した焼成後の焼成体に対して、当該テンプレートを焼失させるときの焼成温度よりも高く且つ1000℃以下の温度にて熱処理を行うことを特徴とする。
【0012】
本発明は、後述する実施例などに述べられているように、本発明者の上記知見に基づく検討の結果、実験的に見出されたものであり、それによれば、1000℃以下の範囲で従来よりも耐熱性に優れたメソポーラス体(10)を作製することができる。
【0013】
ここで、焼成体の熱処理は、焼成体に対して焼成温度よりも高く且つ1000℃以下の温度にて複数回の熱処理工程を行うものであって、且つ、個々の熱処理工程における処理温度を、当該熱処理工程よりも1つ前に行った熱処理工程における処理温度よりも50℃未満の領域で高い温度とするものであり、さらに、個々の熱処理工程の間に焼成体をいったん室温まで冷却するものであることが、好ましい。なお、室温とは、20℃から30℃程度の常温を意味する。
【0014】
このことは、言い換えれば、焼成後の焼成体に対して、まず、テンプレートを焼失させる際の焼成温度よりも高温化した熱処理を行った後に室温まで冷却し、次の熱処理では、前回の熱処理温度よりも50℃以下の領域で高温化した熱処理を行うというサイクルを、熱処理温度が1000℃以下の任意の温度となるまで繰り返すとともに、それぞれの熱処理後に、その都度室温まで冷却することである。
【0015】
この場合、各々の熱処理工程後にその都度室温まで冷却するという複数回の熱処理工程を行うことで、その時点の処理温度における耐熱性を確保しながら、徐々に耐熱性を上げていくことができると考えられる。後述する比較例のように、室温まで冷却することなく複数回の熱処理工程を行った場合には、室温冷却を行った場合に比べて高耐熱化の度合は小さかった。
【0016】
また、メソポーラス体(10)の細孔壁(11a)を厚くして耐熱性を向上させるためには、テンプレートとしては、両親媒性のポリ(アルキレンオキサイド)ブロックコポリマーを用いることが好ましい。
【0017】
なお、特許請求の範囲およびこの欄で記載した各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。図1は、本発明の実施形態に係るメソポーラス体10の概略構成を示す斜視図である。
【0019】
本実施形態のメソポーラス体10はシリカよりなり、細孔壁11aによって区切られた径が5nm以上50nm未満の細孔11を持つものである。そして、同じ程度の径を持つ細孔11が、メソポーラス体10の全領域においてに均一に規則的に配列されている。また、このメソポーラス体10は全体として3.0μm以下の径を持つ粒子状のものであり、細孔11の壁厚すなわち細孔壁の厚さは3nm以上である。
【0020】
また、図示例では、ヘキサゴナル構造であり、細孔11は六角形の形状であって細孔径は対向する角部の距離としている。なお、細孔11の形状は、これに限定されるものではなく、それ以外にも、たとえば、円形、キュービック形状で規則的に配列されたものなどであってもよい。
【0021】
次に、このメソポーラス体10の製造方法について述べる。本実施形態の製造方法は、テンプレートを鋳型としてメソポーラス体を形成する従来のテンプレート法を、応用したものである。
【0022】
まず、メソポーラス体10の細孔11の鋳型となるテンプレートを含む水溶液を作製するが、このとき、本実施形態の製造方法では、この水溶液として、テンプレートに加えて、テンプレートと親和性を有する有機溶媒を添加したものを作製する。
【0023】
具体的には、テンプレートと有機溶媒とを混合した酸性(たとえばpHが1程度)の水溶液を作製する。ここで、テンプレートとしては、一般的な両親媒性のポリ(アルキレンオキサイド)ブロックコポリマーを用いることができ、その分子量は1000以上のものにできる。
【0024】
具体的には、ブロックコポリマーは、親水性のポリアルキレンオキサイドが疎水性ポリアルキレンオキサイドの向かい合っている端に共有結合したトリブロックコポリマー、親水性のポリアルキレンオキサイドの末端に疎水性のポリアルキレンオキサイドが共有結合したジブロックコポリマーのなかから選択されたものを採用できる。
【0025】
親水性のポリアルキレンオキサイドには、ポリエチレンオキサイドを使用し、疎水性のポリアルキレンオキサイドには、ポリプロピレンオキサイド、ポリブチレンオキサイド、ポリフェニレンオキサイド、ポリヒドロキシ酸から選択されたものを採用できる。また、ヒドロキシ酸としては、グリコール酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸であると効果的である。
【0026】
より具体的には、たとえば、ポリ(エチレンオキサイド)(EOx)のような親水性のポリ(アルキレンオキサイド)がポリプロピレンオキサイド(POx)のような疎水性ポリ(アルキレンオキサイド)の向かい合っている端に共有結合したトリブロックコポリマー(EOx−POx−EOx)などが挙げられる。ここで、xおよびyは各ポリマーの重合度を示す。たとえば、EO20−PO70−EO20の場合、EOの重合度は20、POの重合度は70であることを示す。
【0027】
ここで、親水性のポリアルキレンオキサイドは、ブロックコポリマーを水溶液に溶解させる働きと、メソポーラス体10を形成する原料を反応し、メソポーラス体10の骨格を形成する働きがある。また、疎水性のポリアルキレンオキサイドは、メソポーラス体10の鋳型としての働きがある。
【0028】
そのため、両者が一体化することは、メソポーラス体10を形成するために、必要不可欠であることは言うまでもないが、水溶液に溶解するためには、親水性のポリアルキレンオキサイドの含量は30%以上60%以下が望ましい。
【0029】
ここで、有機溶媒としては、鋳型の中心部に可溶化することで細孔を拡大する役割を担う第1の有機溶媒と、メソポーラス体10の骨格周辺に存在し当該骨格を強化するための第2の有機溶媒との2種類がある。
【0030】
この第1の有機溶媒としては、テンプレートの疎水性部と親和性を有するものであれば、特に限定されるものではないが、環状エーテル類、グリコールジエーテル類、ベンゼン類、エステル類、ケトン類、アルカン類の中から選ばれた少なくとも1種以上を採用できる。より具体的には、THF、ジグライム、モノグライム、トリオキサン、トリプロピルベンゼン、アセトン、ヘキサン、シクロヘキサン、オクタン、ジオキサンなどが挙げられる。
【0031】
また、第2の有機溶媒としては、テンプレートの親水性部と親和性を有するものであれば、特に限定されるものではないが、アルキレンオキサイド類、アルコール類、カルボン酸類、エステル類の中から選ばれた少なくとも1種以上を採用できる。より具体的には、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルアルコール、プロパノール、ブタノール、ポリアクリル酸、オレイン酸などが挙げられる。
【0032】
また、ジオキサン、アセトンなどは、親水性部にも親和性を有し、かつ、疎水性部にも親和性を有するため、細孔拡大剤としての役割とメソポーラス体10の骨格を形成する働きの両者を担うことも可能である。つまり、1種類の有機溶媒にて第1の有機溶媒と第2の有機溶媒の両方の機能を有することも可能である。
【0033】
なお、第1の有機溶媒は、たとえば、テンプレートである上記トリブロックコポリマーにおいて、ポリ(プロピレンオキサイド)(POx)のような疎水性のポリ(アルキレンオキサイド)に対して親和性を有し、一方、第2の有機溶媒は、ポリ(エチレンオキサイド)(EOx)のような親水性のポリ(アルキレンオキサイド)に対して親和性を有するものである。
【0034】
ここで、本実施形態において用いる有機溶媒の親和性は、上記特許文献1などに記載されているトリメチルベンゼンよりも大きいものであり、トリメチルベンゼンより嵩高い構造で立体障害的に細孔径を拡大できる有機溶媒(たとえばシクロヘキサン、ヘキサン、トリプロピルベンゼン、オクタン等)である。
【0035】
また、この水溶液中におけるテンプレートと有機溶媒との重量比としては、細孔11の形が大きくなりすぎてくずれやすくなるのを防止するために、テンプレートを1としたとき有機溶媒が2.5以下となるようにする。
【0036】
より好ましくは、テンプレートを1としたとき有機溶媒が1以下となるようにする。なお、第1の有機溶媒お第2の有機溶媒とは効果が別々であるため、望ましくは、これら第1および第2の有機溶媒を混合して用いた方がより安定なメソポーラス体10を形成することができる。
【0037】
こうして、テンプレートに有機溶媒を混合し、これを室温にてたとえば10時間以上攪拌することで、水溶液として、テンプレートに加えて、テンプレートの疎水性部位と親和性を有する有機溶媒を添加したものを作製する。
【0038】
次に、この水溶液にメソポーラス体10の原料を溶解させることにより沈殿物を得る。具体的には、オルトテトラケイ酸エチル(TEOS)などのメソポーラス体10の原料成分を溶解し、続いて、これを加熱することで沈殿物を得る。
【0039】
このとき、沈殿物の形成時に、メソポーラス体10の原料の加水分解によってテンプレートの周囲を取り囲むように原料成分が浸透する。ここで、テンプレートによって形成される組織体の中心には疎水性の第1の有機溶媒が存在し、周囲には親水性の第2の有機溶媒が存在する。
【0040】
よって、第2の有機溶媒を添加した系では、メソポーラス体10の原料の加水分解の際によって、テンプレートおよび第2の有機溶媒の周囲を取り囲むように原料成分が浸透する。それと同時に、水溶液中のテンプレートが自己組織化して細孔11の鋳型を形成し、細孔11を形成する細孔壁11aがそのテンプレートおよび第2の有機溶媒の回りに形成される。こうして沈殿物が析出する。
【0041】
このとき、テンプレートの疎水部位と親和性を有する有機溶媒が、水溶液中に含有されているため、このテンプレートによる自己組織化構造中に有機溶媒が侵入しやすく、細孔径を拡大できる。
【0042】
ちなみに、有機溶媒を加えない従来の一般的なテンプレート法においても、テンプレートによる鋳型が形成されるが、本実施形態のように、有機溶媒の侵入による更なる細孔径の拡大は、なされない。また、第2の有機溶媒によって、細孔壁が若干厚くなる効果や細孔壁の規則性も向上する効果もあるため、より安定なメソポーラス体10を形成することができる。
【0043】
ここで、沈殿物を得る処理としては、従来と同様の加熱処理を行うことができるが、好ましくは、水溶液を加圧および加熱するようにする。水溶液から沈殿物を得るとき、高温にすれば水溶液の粘度が小さくなるなどにより、第1および第2の有機溶媒のテンプレートへの浸透性が向上するが、同時に水溶液中の水が気化しやすくなる。
【0044】
そのため、加熱だけでなく、さらに加圧処理を加えるようにすれば、蒸気圧を高くして水の気化を抑制することができる。ここで、水溶液を加圧および加熱することは、水溶液に対して水熱合成処理、超音波照射、もしくはマイクロ波照射を行う方法を採用することができる。
【0045】
たとえば、水熱合成では、耐圧容器に水溶液を入れ、たとえば120℃程度に加熱する。また、超音波照射では、一般的な超音波発生器を用いて水溶液に超音波を照射し、それにより発生する気泡の破裂によって起こる衝撃エネルギーにより水溶液中に局所的に高温高圧状態を形成する。
【0046】
また、マイクロ波照射では、市販されているマイクロウェーブ装置などを用いて、たとえば通常の電子レンジなどで発生されるものと同様のマイクロ波を、水溶液に照射し、その衝撃を利用して局所的に高温高圧状態を形成する。このように、加圧加熱処理を行うことにより、水溶液中のテンプレートと第1および第2の有機溶媒とが一体化した前駆体としての鋳型が形成されると推定される。
【0047】
次に、水溶液から得られた沈殿物を分離して乾燥し、600℃程度の焼成温度で焼成する。それにより、当該沈殿物中のテンプレートと第1および第2の有機溶媒を焼失させる。こうして、テンプレートが焼失した部分の空間が細孔11となり、上記図1に示したようなメソポーラス体10と同様の形状を有する焼成体(以下、メソポーラス焼成体という)ができあがる。
【0048】
そして、本実施形態の製造方法においては、さらに、耐熱性向上処理として、テンプレートが焼失した焼成後の当該メソポーラス焼成体に対して、テンプレートを焼失させるときの焼成温度よりも高く且つ1000℃以下の温度にて熱処理を行う。それにより、上記図1に示されるメソポーラス体10が完成する。
【0049】
このように耐熱性向上処理を行うことで、焼成後のメソポーラス焼成体の細孔壁表面に存在するシラノール基を、当該焼成温度よりも高い温度での熱処理によって低減し、細孔壁表面構造を強化できると考えられる。実際に、後述する実施例のように、耐熱性向上処理を行えば、1000℃以下の範囲で従来よりも耐熱性に優れたメソポーラス体10を作製することができる。
【0050】
つまり、従来では600℃以上では耐熱性が確保できなかったが、本実施形態によれば、シリカの材質上の制約の範囲、すなわち、シリカの結晶化が顕著となる1000℃以下の温度範囲において、600℃以上という従来よりも耐熱性に優れたメソポーラス体10を実現できる。
【0051】
ここで、本実施形態の製造方法における具体的なメソポーラス焼成体に対する耐熱性向上処理は、当該焼成体に対して焼成温度よりも高く且つ1000℃以下の温度にて1回もしくは複数回の熱処理工程を行うものである。
【0052】
さらに、本製造方法の耐熱性向上処理が複数回の熱処理工程を行うものである場合には、個々の熱処理工程における処理温度を、当該熱処理工程よりも1つ前に行った熱処理工程における処理温度よりも、50℃未満の領域で高い温度とするとともに、個々の熱処理工程の間に焼成体をいったん室温まで冷却する工程を行う。
【0053】
つまり、複数回の熱処理工程を行う場合には、個々の熱処理工程の間にメソポーラス焼成体を室温にまで冷却するという冷却工程を挟んで、複数回の熱処理工程を行う。なお、室温とは、常温(広辞苑によれば加熱・冷却などしない平常の温度)のことであり、一般的には、20℃から30℃程度の温度を意味する。
【0054】
より具体的に言うと、個々の熱処理工程は、1回目の熱処理工程の処理温度をT1、2回目の熱処理工程の処理温度をT2、3回目の熱処理工程の処理温度をT3、・・・n回目の熱処理工程の処理温度をTnとすると、T1<T2<T3<・・・<Tn≦1000℃というように、1000℃以下の任意の温度となるまで、後の熱処理工程になるほど熱処理温度を高くしていくものである。
【0055】
たとえば、1回目の熱処理温度T1が850℃のとき、1℃刻みで温度を変えるとすれば、2回目の熱処理温度T2は851℃〜900℃の範囲で高くした温度とする。なお、この複数回の熱処理工程は、2回以上であればよいことはもちろんである。
【0056】
ここで、本実施形態における狙いの耐熱性が、従来の耐熱性の限界すなわち600℃をさほど超えない範囲であれば、具体的には800℃以下程度の耐熱性を狙うならば、耐熱性向上処理は、焼成温度よりも高く且つ1000℃以下の温度にて熱処理を1回のみ行うものであってもよい。たとえば、700℃程度の耐熱性を狙うならば、600℃の焼成温度に対して700℃程度の温度で1回のみ熱処理を行うものでもよい。
【0057】
ただし、狙いの耐熱性が、850℃〜900℃程度以上であるならば、たとえば、1回目の熱処理を850℃で行い、2回目の熱処理を900℃で行い、3回目の熱処理を950℃で行う・・・、というように複数回の熱処理工程を行うことが望ましい。各工程で熱処理温度を上げていくたびに、その時点の処理温度と同等の温度の耐熱性を確保することができる。
【0058】
ここで、複数回の熱処理工程を行う場合に、各々の熱処理工程後に、その都度室温まで冷却することは、メソポーラス体の細孔壁表面へ水を吸着させ、シラノール縮合の急激な進行を抑制するために有効である。実際に、後述する比較例のように、室温まで冷却することなく複数回の熱処理工程を行った場合には、高耐熱化はなされなかった。
【0059】
また、本実施形態の製造方法によれば、メソポーラス体10の細孔11の鋳型となるテンプレートを含む水溶液を作製する工程において、この水溶液として、テンプレートに加えて、テンプレートの疎水性部位と親和性を有する第1の有機溶媒、テンプレートの親水性部位と親和性を有する第2の有機溶媒を添加したものを作製している。
【0060】
それによれば、沈殿物の形成時に、テンプレートによる自己組織化構造中に有機溶媒が侵入しやすく、細孔径を拡大できるため、細孔11の規則配列構造を破壊することなく、効率的に細孔11を拡大したメソポーラス体10を作製することができる。
【0061】
また、第2の有機溶媒を混合することで、細孔壁が若干厚くなったり、細孔壁の規則性も向上したりする効果があるため、より安定なメソポーラス体10を作製することができる。
【0062】
そして、このような製造方法において、添加する第1および第2の有機溶媒の種類や添加量を調節することにより、メソポーラス体10の細孔径を、メソポーラス体10の全領域に渡って5nm以上20nm未満の範囲で任意のサイズに制御可能である。
【0063】
次に、限定するものではないが、本発明の耐水熱性メソポーラス体の製造方法について、以下の各実施例および比較例を参照して、より具体的に説明する。
【0064】
(実施例1)
本例では、テンプレートとして、EO20−PO70−EO20を用い、有機溶媒として、細孔サイズを拡大できるトリプロピルベンゼンを用いた。
【0065】
純水に塩酸を加えてpHを1以下とした。その後、このpH1以下となった純水に対して、EO20−PO70−EO20を混合し、さらに撹拌しながらトリプロピルベンゼンを添加し、テンプレートとトリプロピルベンゼンとを混合した水溶液を作製した。ここで、水とEO20−PO70−EO20とトリプロピルベンゼンの重量比は、30:1:1の割合である。
【0066】
これを十分に混合した後に、メソポーラス体の原料であるオルトテトラケイ酸エチル(TEOS)を、テンプレートに対して2:1の重量比で添加し、この水溶液を室温下において10時間以上攪拌した。その後、この水溶液を耐圧容器に移し、120℃で24時間、水熱合成処理を行い、沈殿物を得た。
【0067】
その後、耐圧容器から沈殿物を取り出し、これを乾燥し、600℃で焼成することによってテンプレートを焼失させ、シリカよりなるメソポーラス焼成体を得た。その後、メソポーラス焼成体をオーブンに入れ、図2に示される熱処理パターンにより、耐熱性向上処理を行った。
【0068】
この図2に示される熱処理パターンでは、順に、室温(RT:Room Temperature)→昇温→850℃で5時間熱処理する1回目の熱処理工程→室温冷却→昇温→900℃で5時間熱処理する2回目の熱処理工程→室温冷却→昇温→950℃で5時間熱処理する3回目の熱処理工程→室温冷却→昇温→1000℃で5時間熱処理する4回目の熱処理工程→室温冷却、というように4回の熱処理工程を行うとともに、各熱処理工程間で室温まで冷却する室温冷却工程を行う。なお、室温から各熱処理工程の温度までの昇温に要する時間は、5時間としているが、これに限定するものではない。
【0069】
このように、本例では、メソポーラス焼成体に対して、焼成温度よりも高い850℃で1回目の熱処理を行った後、各熱処理の間で室温まで冷却しつつ、前の処理温度よりも50℃ずつ高温化した温度で熱処理を3回繰り返し、熱処理温度が1000℃となるまで合計4回の熱処理工程を行うという耐熱性向上処理を実行することにより、シリカよりなるメソポーラス体10を得た。
【0070】
(実施例2
図3に示される熱処理パターンにより、耐熱性向上処理を行ったこと以外は、上記実施例1と同様の手法を用いて、シリカよりなるメソポーラス体を得た。
【0071】
この図3に示される熱処理パターンでは、順に、室温→昇温→850℃で5時間熱処理する1回目の熱処理工程→室温冷却→昇温→900℃で5時間熱処理する2回目の熱処理工程→室温冷却→昇温→950℃で5時間熱処理する3回目の熱処理工程→室温冷却、という3回の熱処理工程を行うとともに、各熱処理工程間で室温まで冷却する室温冷却工程を行う。なお、室温から各熱処理工程の温度までは、上記図2のパターンと同様に5時間で昇温させている。
【0072】
つまり、本例では、メソポーラス焼成体に対して、焼成温度よりも高い850℃で1回目の熱処理を行った後、各熱処理の間で室温まで冷却しつつ、前の処理温度よりも50℃ずつ高温化した温度で熱処理を2回繰り返し、熱処理温度が950℃となるまで合計3回の熱処理工程を行うという耐熱性向上処理を実行することにより、シリカよりなるメソポーラス体10を得た。
【0073】
(実施例3)
図4に示される熱処理パターンにより、耐熱性向上処理を行ったこと以外は、上記実施例1と同様の手法を用いて、シリカよりなるメソポーラス体を得た。
【0074】
この図4に示される熱処理パターンでは、順に、室温→昇温→850℃で5時間熱処理する1回目の熱処理工程→室温冷却→昇温→900℃で5時間熱処理する2回目の熱処理工程→室温冷却、という2回の熱処理工程を行うとともに、各熱処理工程間で室温まで冷却する室温冷却工程を行う。室温から各熱処理工程の温度までは、上記図2のパターンと同様に5時間で昇温させている。
【0075】
つまり、本例では、耐熱性向上処理として、メソポーラス焼成体に対し、焼成温度よりも高い850℃で1回目の熱処理を行った後、室温まで冷却し、次に1回目の処理温度よりも50℃高温化した温度で熱処理を1回行って、熱処理温度が900℃となるまで合計2回の熱処理工程を行うことにより、シリカよりなるメソポーラス体10を得た。
【0076】
(比較例1)
焼成後のメソポーラス焼成体に対して、図5に示される熱処理パターンにて熱処理を行ったこと以外は、上記実施例1と同様の手法を用いて、シリカよりなるメソポーラス体を得た。
【0077】
本例では、順に、室温→昇温→850℃で5時間熱処理する1回目の熱処理工程→昇温→900℃で5時間熱処理する2回目の熱処理工程→昇温→950℃で5時間熱処理する3回目の熱処理工程→昇温→1000℃で5時間熱処理する4回目の熱処理工程、という4回の熱処理工程を行うとともに、各熱処理工程間では、前の工程の処理温度からそのまま次の工程の処理温度まで5時間で昇温させている。
【0078】
つまり、本例では、メソポーラス焼成体に対して、焼成温度よりも高い850℃で1回目の熱処理を行った後、各熱処理の間で室温まで冷却せずに、前の処理温度よりも50℃ずつ高温化した温度で熱処理を3回繰り返し、熱処理温度が1000℃となるまで合計4回の熱処理工程を行うことにより、シリカよりなるメソポーラス体10を得た。
【0079】
上記各実施例および比較例にて作製したメソポーラス体の細孔形状を確認するために透過型電子顕微鏡観察を実施した。その結果、上記各実施例において、耐熱性向上処理後では、当該処理前と同様の細孔形状が確認された。
【0080】
つまり、上記各実施例においてメソポーラス構造体は、800〜1000℃の温度雰囲気に耐えて、規則配列した細孔形状を維持できることがわかった。しかし、上記比較例では、熱処理後では熱処理前の細孔形状が保持されず、細孔の破壊が発生した。
【0081】
また、上記各実施例において、細孔壁の厚さが3nm以上であることが確認された。つまり、上記した各実施例におけるメソポーラス体の製造方法において、細孔壁厚を3nm以上とすることにより、1000℃までメソポーラス体の3次元構造を保持することが可能であることがわかった。
【0082】
また、このように細孔壁の厚さを3nm以上とするには、上記製造方法において、テンプレートとして、両親媒性のポリ(アルキレンオキサイド)ブロックコポリマーを用いることが好ましいが、特に、テンプレートを選定する際にポリ(エチレンオキサイド)(EOx)のような親水性部の重合度を20以上とすることが望ましい。
【0083】
以上の実施形態および実施例を参照して述べたように、上記耐熱性向上処理を有する製造方法によれば、細孔壁表面のシロキサン結合が全領域において強固に形成され、1000℃までの温度領域において細孔形状が保持された耐熱性の高いメソポーラス体10を、作製することが可能となる。
【0084】
なお、上記実施例では、有機溶媒としてトリプロピルベンゼンを添加した例を述べたが、有機溶媒としては、上述した第1の有機溶媒および第2の有機溶媒の中から選択されたものを採用できることは言うまでもない。さらには、第1および第2の有機溶媒の両方を採用してもよいことは上述の通りである。
【0085】
また、上記した製造方法では、メソポーラス体の細孔の鋳型となるテンプレートを含む水溶液として、テンプレートに加えて、テンプレートと親和性を有する有機溶媒を添加したが、従来と同じく有機溶媒は添加しなくてもよい。つまり、従来のテンプレートを鋳型とするメソポーラス体の製造方法において、従来同様に焼成まで行い、その後、上記した熱処理を行うようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本発明の実施形態に係るメソポーラス体の概略斜視図である。
【図2】実施例1における耐熱性向上処理の熱処理パターンを示す図である。
【図3】実施例2における耐熱性向上処理の熱処理パターンを示す図である。
【図4】実施例3における耐熱性向上処理の熱処理パターンを示す図である。
【図5】比較例1における耐熱性向上処理の熱処理パターンを示す図である。
【符号の説明】
【0087】
10…メソポーラス体、11…細孔、11a…細孔壁。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカよりなるメソポーラス体(10)の製造方法であって、当該メソポーラス体(10)の細孔(11)の鋳型となるテンプレートを含む水溶液を作製した後、この水溶液に前記メソポーラス体の原料を溶解させることにより沈殿物を得て、この沈殿物を焼成して当該沈殿物中の前記テンプレートを焼失することにより前記メソポーラス体を製造するメソポーラス体の製造方法において、
前記焼成後の焼成体に対して、前記テンプレートを焼失させるときの焼成温度よりも高く且つ1000℃以下の温度にて熱処理を行うことを特徴とするメソポーラス体の製造方法。
【請求項2】
前記焼成体の熱処理は、前記焼成体に対して前記焼成温度よりも高く且つ1000℃以下の温度にて複数回の熱処理工程を行うものであって、且つ、個々の熱処理工程における処理温度を、当該熱処理工程よりも1つ前に行った熱処理工程における処理温度よりも50℃以下の領域で高い温度とするものであり、
さらに、個々の熱処理工程の間に焼成体をいったん室温まで冷却するものであることを特徴とする請求項1に記載のメソポーラス体の製造方法。
【請求項3】
前記テンプレートとして、両親媒性のポリ(アルキレンオキサイド)ブロックコポリマーを用いることを特徴とする請求項1または2に記載のメソポーラス体の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2008−137821(P2008−137821A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−323198(P2006−323198)
【出願日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】