説明

メソポーラス構造を有するMFI型ゼオライトおよびその製造方法

【課題】メソポーラスな構造を形成したMFI型ゼオライトおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】メソポーラスシリケート前駆体のシリケート骨格に起因するメソポアを有するMFI型ゼオライトであって、シリカもしくはアルミノシリケートと界面活性剤との複合体をテンプレート剤の存在下において水熱合成反応させて製造する方法である。界面活性剤が長鎖アルキルトリメチルアンモニウム塩であり、テンプレート剤がテトラプロピルアンモニウム塩であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メソポーラスシリケート前駆体のシリケート骨格に起因するメソポーラス構造を有するMFI型ゼオライトに関し、また、メソポーラスシリケート前駆体をテンプレート剤の存在下において水熱合成反応させてメソポーラス構造を有するMFI型ゼオライトを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミノシリケート、特に結晶性アルミノシリケート(ゼオライト)は、触媒、吸着剤、イオン交換体等として工業上広く利用されている。アルミノシリケートの構造としては種々のものが知られている。例えば、MFI型アルミノシリケート(MFI型ゼオライト)はメタキシレンの異性化、トルエンの改質、エチルベンゼンの合成などの触媒として有効であることが知られている。
【0003】
MFI型アルミノシリケートの合成は、特許文献1にその基本技術が記載されており、出願人によって「ZSM−5」と称されている。テンプレート剤としてテトラプロピルアンモニウムハイドロオキサイドを用いている。以後、極めて多くの関連する報告、特許出願等がなされている。これらにおいては一般的に、オートクレーブを用いて温度150℃前後、圧力0.5MPa程度の高温高圧下で合成が行われている。
【0004】
一方、メソポーラスシリケートの合成では、基本となるメソポーラスシリカの合成技術は、本質的にシリカ源とカチオン界面活性剤であるアルキルトリメチルアンモニウム(以下「ATMA」という)の反応複合体を焼成処理する工程からなるが、シリカ源の種類に応じた次のふたつの方法がある。第1の方法は層状珪酸塩をシリカ源とするもので、具体的には例えばT.Yanagisawaらの報文(非特許文献1)に記載されているように、層状の珪酸塩の一つであるカネマイト(NaHSi・3HO)とATMAの複合体を形成させた後、焼成して有機物を除去する方法である。また、第2の方法はアモルファスシリカ粉末やアルカリシリケート水溶液をシリカ源とするもので、J.S.Beckらの報文(非特許文献2)に各種シリカ源からの合成例が記載されている。また、特許文献2にもその基本技術が記載されており、出願人によって「MCM−41」と称されている。合成には、シリカ源もしくはシリカ源とアルミニウム源、およびカチオン界面活性剤が使用されている。第2の方法からの展開として、工業的に実施可能な新規な製造方法が次々と提案されている。例えば、第3の方法として特許文献3には、珪酸ソーダ水溶液をカチオン交換樹脂と接触させて活性シリカを調製する第1工程と、第1工程で得られた活性シリカとカチオン界面活性剤をアルカリ性領域で混合反応させる過程で水溶性アルミニウム塩を添加してシリカ・アルミナ・カチオン界面活性剤の複合体を生成させる第2工程と、前記複合体を焼成処理する第3工程を順次に施すことを特徴とするメソポーラスアルミノシリケートの製造方法が記載されている。あるいは、第4の方法として特許文献4には、珪酸ソーダとカチオン界面活性剤とをアルカリ性領域で溶解した後、酸でpH7〜12に調整して、シリカを析出させ、次いで加温下で反応させて、該シリカとカチオン界面活性剤の複合体を生成させる第一工程、該複合体を洗浄して脱Na処理する第二工程、次いで脱Na処理された複合体を焼成処理する第三工程を順次施すことを特徴とするメソポーラスシリカの製造方法が記載されている。この製造方法において、酸にアルミニウム塩を添加溶解しておくことで、メソポーラスアルミノシリケートを製造することもできる。
別途、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンコポリマーのような非イオン系界面活性剤を用いるメソポーラスシリカの製造方法も提案されている。
【0005】
メソポーラス構造のゼオライトの合成は、いくつか提案されている。例えば、特許文献5には特殊な界面活性剤を使用してワンステップでの製造方法が記載されており、特許文献6には界面活性剤を使用しない製造方法が記載されている。また、特許文献7には、ゼオライトを溶解することが可能な溶媒にゼオライトを溶解せしめ、該溶液に界面活性剤を添加して混合溶液を調製する第1ステップおよび該混合溶液から水熱合成によりアルミノシリケート中に前記界面活性剤が導入された複合体を形成させる第2ステップを有する複合体形成工程と、前記複合体に含まれる前記界面活性剤を除去する界面活性剤除去工程と、を備えることを特徴とする多孔体の製造方法が記載されている。
【0006】
特許文献5の製造方法は、特殊な界面活性剤を必要とし、その界面活性剤の製造にかかる負担が大きすぎ経済性に問題があった。特許文献6の製造方法は、生成物がコロイド状であって、粉体への変換にはエネルギー負担が大きいという問題があった。特許文献7の方法は、MFI型ゼオライトの合成についての記載はないが、原料となるMFI型ゼオライトの合成に水熱処理が必要であり、MFI型ゼオライトを溶解した後に再度水熱処理を行うので経済性に問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公昭46−10064号公報
【特許文献2】特表平5−503499号公報
【特許文献3】特開平8−259220号公報
【特許文献4】特開平11−49511号公報
【特許文献5】特開2009−184888号公報
【特許文献6】米国特許出願公開第2007/0104643号公報
【特許文献7】特開2002−128517号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Bull. Chem. Soc. Jpn., Vol.63, 988〜992(1990)
【非特許文献2】J. Am. Chem. Soc., Vol.114, 10834〜10843(1992)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、メソポーラスな構造を形成したMFI型ゼオライトおよびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、シリカもしくはアルミノシリケートと界面活性剤との複合体(以下、メソポーラスシリケート前駆体と記載することがある)のシリケート骨格に起因するメソポアを有するMFI型ゼオライトを得ることができた。すなわち、メソポーラスシリケート前駆体を、テンプレート剤の存在下において水熱合成反応さることにより、メソポーラスな構造を形成したMFI型ゼオライトを製造することができることを見出し、本発明をなすに至った。
【0011】
また、本発明は、シリカ源もしくはシリカ源およびアルミニウム源と、カチオン界面活性剤とから成る原料組成を用いて、メソポーラスシリケート前駆体を作製し、該前駆体とテンプレート剤とを混合して水熱処理することによりMFI型ゼオライトを製造する方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明のメソポアを有するMFI型ゼオライトは、メソポアという大きな空間を有し、この部分が被吸着物の拡散通路となるため、従来のMFI型ゼオライトよりも触媒性能の高い多孔体が得られる。また、メソポア壁がMFI型ゼオライトによって構成されているので被吸着物との接触面積が格段と大きく、触媒反応の進行が格段に加速されるという効果も有する。触媒用途だけではなく、2種類の細孔を有する特性を利用して、医薬、化粧品、電子・情報分野においても利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】(a)は実施例1のMFI型ゼオライト(ZSM−5)の粉末X線回折の高角域のパターンであり、(b)は実施例1のMFI型ゼオライト(ZSM−5)の粉末X線回折の低角域のパターンである。
【図2】(a)は比較例1のMFI型ゼオライト(ZSM−5)の粉末X線回折の高角域のパターンであり、(b)は比較例1のMFI型ゼオライト(ZSM−5)の粉末X線回折の低角域のパターンである。
【図3】(a)は実施例1のMFI型ゼオライト(ZSM−5)の窒素吸着等温線であり、(b)は比較例1のMFI型ゼオライト(ZSM−5)の窒素吸着等温線である。
【図4】実施例1のMFI型ゼオライト(ZSM−5)のTEM写真である。
【図5】比較例1のMFI型ゼオライト(ZSM−5)のTEM写真である。
【図6】(a)は実施例2のMFI型ゼオライト(シリカライト)の粉末X線回折の高角域のパターンであり、(b)は実施例2のMFI型ゼオライト(シリカライト)の粉末X線回折の低角域のパターンである。
【図7】(a)は比較例3のMFI型ゼオライト(シリカライト)の粉末X線回折の高角域のパターンであり、(b)は比較例3のMFI型ゼオライト(シリカライト)の粉末X線回折の低角域のパターンである。
【図8】(a)は実施例2のMFI型ゼオライト(シリカライト)の窒素吸着等温線であり、(b)は比較例3のMFI型ゼオライト(シリカライト)の窒素吸着等温線である。
【図9】実施例2のMFI型ゼオライト(シリカライト)のTEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について更に詳細に説明する。
「メソポア」および「メソポーラス」という用語は、IUPACの定義では、細孔直径が2〜50nmであるとされているが、本明細書では下限を1nmとし、細孔直径が1〜50nmであることを意味する。また、以下では、「メソポーラスな構造を形成したMFI型ゼオライト」を「メソポアを有するMFI型ゼオライト」と記載することもある。
【0015】
本発明のMFI型ゼオライトの第一の特徴は、TEM観察により測定される細孔径が1.5〜4.5nmの範囲にあり、窒素吸着等温線からSF法により求めた細孔径が0.4〜1.0nmの範囲にあり且つ窒素吸着等温線からBJH法により求めた細孔径が1.5〜4.5nmの範囲にあることである。なお、TEM観察により測定される細孔径とは、倍率5万倍の複数の視野のTEM像において、白黒の縞模様を形成する白色部の太さをノギスにより50箇所計測し、それを算術平均した値である。細孔径の計算にはSF法(Saito-Foley法)とBJH法(Barrett-Joyner-Halenda法)があり、SF法はミクロポア、BJH法はメソポアを対象としているため、本発明では両方を使い分けした。
【0016】
本発明のMFI型ゼオライトの第二の特徴は、X線回折パターンの少なくとも一つのピークが2.0nmより大きな格子面間隔dを示すことである。「X線回折パターンの少なくとも一つのピークが2.0nmより大きな格子面間隔dを示す」とは、均質なサイズのメソポアの存在に対応する。一方、従来のMFI型ゼオライトのX線回折パターンのピークはd値の最大が1.2nm程度であって、2.0nmより大きなd値を示さない。したがって、X線回折パターンの双方の領域(d値が1.2nm程度となる領域とd値が2.0nmを超える領域)にピークを有していれば、メソポーラスな構造を形成したMFI型ゼオライトであることが確認できる。
【0017】
本発明のMFI型ゼオライトの第三の特徴は、窒素吸着BET法により求めた比表面積が400〜1000m/gの範囲にあるか、もしくは、窒素吸着Langmuir法により求めた比表面積が500〜1000m/gの範囲にあることである。比表面積の計算にはBET法とLangmuir法があり、BET法は一般的な物質を対象としており、Langmuir法はゼオライトなどのミクロポアを有する物質を対象としている。本発明では、メソポアとミクロポアの両方を対象としているため、記載の明確化を図ってBET法とLangmuir法の両方を採用した。
【0018】
本発明のMFI型ゼオライトの第四の特徴は、窒素吸着法により求めた細孔容積が0.45〜0.85cc/gの範囲にあることである。
【0019】
本発明のMFI型ゼオライトの製造方法の特徴は、シリケート材料と界面活性剤とによりメソポーラスシリケート前駆体を合成する第1工程と、第1工程で得られたメソポーラスシリケート前駆体を焼成することなく、テンプレート剤を加えて水熱合成反応を行いMFI型ゼオライトを合成する第2工程と、第2工程で得られたMFI型ゼオライトを焼成処理してテンプレート剤と界面活性剤とを除去する第3工程を順次に施すことである。
前記シリケート材料はシリカまたはアルミノシリケートである。
前記界面活性剤としては、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンコポリマーのような非イオン系界面活性剤やアルキルアミン塩、長鎖アルキルトリメチルアンモニウム塩のようなカチオン界面活性剤が使用できるが、長鎖アルキルトリメチルアンモニウム塩が好ましい。
前記メソポーラスシリケート前駆体はメソポーラスシリカまたはメソポーラスアルミノシリケートである。
前記テンプレート剤はテトラプロピルアンモニウム塩であることが好ましい。
【0020】
<メソポーラスシリケート前駆体の製造方法>
前記のように、メソポーラスシリケート前駆体の合成方法には、2つの方法がある。本発明ではいずれの方法も用いることができるが、界面活性剤除去のための焼成工程を行わないことが肝要で、界面活性剤を含有するメソポーラスシリケート前駆体を得る。しかしながら、第1の方法はシリカ源としてカネマイトを調製する必要があるうえ、反応系に多量のNaが存在するため、複合体の焼成時にNa成分がシリカ構造を破壊して多孔体の表面積を低下させる欠点がある。本発明で用いる製造方法としては第2の方法から展開した第3の方法または第4の方法が好ましい。また、上記の非イオン系界面活性剤を用いる方法も採用できる。非イオン系界面活性剤を用いると5.0nmより大きな格子面間隔dを示すメソポーラスシリケート前駆体を得ることができる。
カチオン界面活性剤としては、特に制限されないが、第4級アンモニウム塩又はアルキルアミン塩等が挙げられる。第4級アンモニウム塩としては、下記一般式(1)
〔R1n(CH34-nN〕+〔X〕- (1)
(式中、R1は長鎖アルキル基を示し、nは1〜3の整数、Xはハロゲン原子または水酸基を示す。)で表わされる第4級アンモニウム塩が挙げられ、特に、置換数nが1である一般式〔R1(CH33N〕+〔X〕-で表される第4級アルキルトリメチルアンモニウムのハライドまたは水酸化物がシリカの均一なメソポア構造を形成するため好ましい。一般式(1)中、長鎖アルキル基R1の炭素数としては8〜24が好ましく、特に8〜17が好ましい。炭素数が25以上では不溶性で扱い難い。また、Xのハロゲン原子としては、塩素原子および臭素原子が工業用製品として容易に入手できるので好ましい。一般式(1)中、Xが水酸基のものは、後の脱Naの洗浄処理が有利に行われることから、より好ましく用いられる。
【0021】
また、第4級アルキルトリメチルアンモニウム塩の具体的な化合物としては、例えば、オクチルトリメチルアンモニウムクロライド、オクチルトリメチルアンモニウムブロマイド、水酸化オクチルトリメチルアンモニウム、デシルトリメチルアンモニウムクロライド、デシルトリメチルアンモニウムブロマイド、水酸化デシルトリメチルアンモニウム、ドデシルトリメチルアンモニウムクロライド、ドデシルトリメチルアンモニウムブロマイド、水酸化ドデシルトリメチルアンモニウム、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロライド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロマイド、水酸化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、オクタデシルトリメチルアンモニウムクロライド、オクタデシルトリメチルアンモニウムブロマイド、水酸化オクタデシルトリメチルアンモニウム等が挙げられ、これらの第4級アンモニウム塩の1種または2種以上を組み合わせて使用することができる。
工業用には天然油脂を原料にした製品が一般的であって、長鎖アルキル基は椰子油、牛脂、硬化牛脂あるいは植物性ステアリルなどであって、複数の長鎖アルキルトリメチルアンモニウム塩の混合物であることが多く、比較的安価に入手できるので、好ましく使用できる。さらに、これらの天然油脂を原料にした置換数nが2であるジアルキルジメチルアンモニウム塩も知られており、比較的安価に入手できるので、好ましく使用できる。
【0022】
また、アルキルアミン塩としては、下記一般式(2)
〔R2NH3+〔X〕- (2)
(式中、R2は長鎖アルキル基を示し、Xはハロゲン原子または水酸基を示す。)で表されるアルキルアミン塩が挙げられる。一般式(2)中、長鎖アルキル基R2の炭素数としては8〜24が好ましく、特に8〜17が好ましい。炭素数が25以上では不溶性で扱い難い。また、Xのハロゲン原子としては、塩素原子および臭素原子が挙げられる。
上記と同様に、工業用には天然油脂を原料にした製品が一般的であって、長鎖アルキル基は椰子油、牛脂、硬化牛脂あるいは植物性ステアリルなどであって、複数の長鎖アルキルアミン塩の混合物であることが多い。比較的安価に入手できるので、好ましく使用できる。
【0023】
また、本発明においては、上記第4級アンモニウム塩の方がアルキルアミン塩より塩基度が高いため反応性に優れていることから好ましく用いられる。
【0024】
本発明の第一工程において、まず珪酸ソーダとカチオン界面活性剤とをアルカリ性領域で水に溶解し透明な均一溶液とする。この系内の水の量としては、SiO21モルに対して50〜300モル、好ましくは70〜150モルの範囲とすることが好ましい。また、カチオン界面活性剤の添加量としては、SiO2/界面活性剤のモル比で、通常2〜10、好ましくは4〜5である。
【0025】
<MFI型ゼオライト>
本発明のMFI型ゼオライトとしては、ZSM−5もしくはシリカライト(Silicalite)が挙げられる。シリケート材料がアルミノシリケートのときZSM−5が生成し、シリカのときシリカライトが生成するということなのであるが、アルミニウムの量すなわちSiO/Alのモル比が1000程度が境界のようだが、明確ではない。
【0026】
水熱合成反応の条件は、MFI型ゼオライトの合成ができる条件であれば、いかなる条件であってもよく、限定されるものではない。テンプレート剤としてテトラプロピルアンモニウム塩を使用すれば、通常、オートクレーブを用いて、150〜170℃の温度で24〜72時間ほどの水熱合成を行う。テンプレート剤としてブタノールを使用する方法、テンプレート剤を使用しない方法などもあり、それぞれの方法に応じた合成条件を選定できる。
【0027】
テンプレート剤としては、ジアミノアミノメチルオクタン、エチレンジアミン、ジアミノヘキサンあるいはテトラメチルアンモニウムなどの窒素含有化合物が知られており、いずれも使用することができるが、これらを用いる場合には種晶を必要としたり、170℃よりも高い温度の水熱処理が必要となるなど、不具合もある。テンプレート剤としては、テトラプロピルアンモニウム塩が最も好ましい。
【0028】
焼成処理の条件は、界面活性剤とテンプレート剤が除去できる条件であれば、いかなる条件であってもよく、限定されるものではない。通常、電気炉を用いて、550〜800℃の温度で2〜20時間ほどの焼成を行う。
【実施例】
【0029】
以下に、実施例および比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例および比較例で使用した評価装置および使用材料は以下の通りである。
<評価装置>
X線回折:Bruker社 D8 Advance
TEM:日立製作所H−7500型
窒素吸着:Quantachrome社のAutosorb−1
<使用材料>
3号珪酸ソーダ:日本化学工業株式会社製(SiO2:28.96重量%、Na2O:9.3 7重量%、H2O:61.67重量%)。
カチオン界面活性剤:オクタデシルトリメチルアンモニウムクロライド(三洋化成工業株式会社製、固形分:68重量%、溶剤:32重量%)。
苛性ソーダ:工業用25%水酸化ナトリウム(NaOH:25重量%、H2O:75重量%)。
塩化アルミニウム:試薬(AlCl3・6H2O、97重量%)。
希釈塩酸:試薬、35重量%塩酸を純水で希釈して7重量%塩酸を作成した。
テンプレート剤:水酸化テトラプロピルアンモニウム(ライオン株式会社販売、固形分40重量%、H2O:60重量%)。
【0030】
[実施例1]
<メソポーラスアルミノシリケート前駆体の製造>
3号珪酸ソーダ86.1g、カチオン界面活性剤36.8g、苛性ソーダ28.4gおよび純水463.2gを混合し、攪拌下に70℃まで加熱して、混合液が透明になるまで攪拌を続けた。別途、希釈塩酸172.2gに塩化アルミニウム2.49gを添加し、攪拌して溶解した。これを中和用塩酸と呼ぶ。
次いで、攪拌下70℃の液温を保ちつつ混合液に中和用塩酸を10分かけて添加し、pHを8.0とした。中和用塩酸の添加によってアルミノシリケート・界面活性剤複合体が析出した。析出したアルミノシリケート・界面活性剤複合体におけるSiO2/Al23のモル比は80である。析出したアルミノシリケート・界面活性剤複合体は濾過、水洗し、110℃で乾燥してメソポーラスアルミノシリケート前駆体を得た。
【0031】
<メソポアを有するMFI型ゼオライトの製造>
次いで、上記のメソポーラスアルミノシリケート前駆体19.0g、テンプレート剤5.5gおよび純水150.0gを混合し、メソポーラスアルミノシリケート前駆体とテンプレート剤が均一になるように2時間攪拌混合を行った。混合液を200mlのオートクレーブに仕込み、170℃で23時間の水熱合成反応を行った。次いで、オートクレーブから取り出し、濾過、洗浄を行い、110℃で乾燥した。次いで、電気炉を用いて700℃で5時間の焼成を行い、カチオン界面活性剤とテンプレートを除去して、メソポアを有するMFI型ゼオライトを得た。
【0032】
<メソポアを有するMFI型ゼオライトの特性>
上記で得られたメソポアを有するMFI型ゼオライトの分析組成を表1に記載した。図1(a)および(b)には粉末X線回折のパターンを図示した。図1(a)は高角域のパターンであって、MFI型ゼオライトであるZSM−5型ゼオライトのピークが確認された。図1(b)は低角域のパターンであって、均一なポアサイズを有するメソポアの001面ピークが39.1Å(3.91nm)に確認された。
比較のため、特許文献1に記載の製法に準じて作製したMFI型ゼオライトであるZSM−5型ゼオライト(比較例1)の粉末X線回折のパターンを図2(a)および(b)に図示した。比較例1のZSM−5型ゼオライトには図1(b)に示されるような低角域のピークはない。
また、理由は定かではないが、図1(a)の回折パターンが図2(a)のそれよりも強度が高いという現象も確認された。
【0033】
図3(a)は上記で得られたメソポアを有するMFI型ゼオライトであるZSM−5型ゼオライトの窒素吸着等温線であり、図3(b)は比較例1のMFI型ゼオライトであるZSM−5型ゼオライトの窒素吸着等温線である。窒素吸着等温線の解析により、表2の結果が得られた。なお、比較例2は特許文献4に記載の製法に準じて作製したメソポーラスシリカの特性値である(参考データ)。
【0034】
図4(a)および(b)は上記で得られたメソポアを有するMFI型ゼオライトであるZSM−5型ゼオライトの2視野のTEM写真例である。図5は比較例1のMFI型ゼオライトであるZSM−5型ゼオライトのTEM写真例である。図4(a)が大半の観察視野で観察され、TEM写真から細孔径は約3nmと測定された。図4(b)は図5に似た視野を探して得たものであるが、図5のような結晶形状はしていない。実施例1のMFI型ゼオライトのTEM観察は極めて丁寧に多くの視野を観察した。その結果、図5に示されているようなZSM−5型ゼオライトの存在は認められず、「メソポーラスアルミノシリケートとZSM−5型ゼオライトとの混合物ではない」という結論を得た。
【0035】
【表1】

【0036】
【表2】

【0037】
[実施例2]
<メソポーラスシリカ前駆体の製造>
3号珪酸ソーダ86.1g、カチオン界面活性剤36.8g、苛性ソーダ28.4gおよび純水463.2gを混合し、攪拌下に70℃まで加熱して、混合液が透明になるまで攪拌を続けた。
次いで、攪拌下70℃の液温を保ちつつ混合液に希釈塩酸を10分かけて添加し、pHを8.0とした。希釈塩酸の添加によってシリカ・界面活性剤複合体が析出した。析出したシリカ・界面活性剤複合体は濾過、水洗し、110℃で乾燥してメソポーラスシリカ前駆体を得た。
【0038】
<メソポアを有するMFI型ゼオライトの製造>
次いで、上記のメソポーラスシリカ前駆体19.0g、テンプレート剤5.5gおよび純水150.0gを混合し、メソポーラスシリカ前駆体とテンプレート剤が均一になるように2時間攪拌混合を行った。混合液を200mlのオートクレーブに仕込み、170℃で24時間の水熱合成反応を行った。次いで、オートクレーブから取り出し、濾過、洗浄を行い、110℃で乾燥した。次いで、電気炉を用いて700℃で5時間の焼成を行い、カチオン界面活性剤とテンプレート剤を除去して、メソポアを有するMFI型ゼオライトを得た。
【0039】
<メソポアを有するMFI型ゼオライトの特性>
上記で得られたメソポアを有するMFI型ゼオライトの分析組成を表3に記載した。図6(a)および(b)には粉末X線回折のパターンを図示した。図6(a)は高角域のパターンであって、MFI型ゼオライトであるシリカライト型ゼオライトのピークが確認された。図6(b)は低角域のパターンであって、均一なポアサイズを有するメソポアの001面ピークが40.5Å(4.05nm)に確認された。
比較のため、特許文献1に記載の製法に準じてアルミニウム材料を添加せずに作製したMFI型ゼオライトであるシリカライト型ゼオライト(比較例3)の粉末X線回折のパターンを図7(a)および(b)に図示した。比較例3のシリカライト型ゼオライトには図6(b)に示されるような低角域のピークはない。
また、理由は定かではないが、図6(a)の回折パターンが図7(a)のそれよりも強度が高いという現象も確認された。
【0040】
図8(a)は上記で得られたメソポアを有するMFI型ゼオライトであるシリカライト型ゼオライトの窒素吸着等温線であり、図8(b)は比較例3のMFI型ゼオライトであるシリカライト型ゼオライトの窒素吸着等温線である。窒素吸着等温線の解析により、表4の結果が得られた。なお、比較例4は特許文献4に記載の製法に準じて作製したメソポーラスシリカの特性値である(参考データ)。
【0041】
図9(a)および(b)は上記で得られたメソポアを有するMFI型ゼオライトであるシリカライト型ゼオライトの2視野のTEM写真例である。TEM写真から細孔径は約2nmと測定された。
【0042】
【表3】

【0043】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
TEM観察により測定される細孔径が1.5〜4.5nmの範囲にあり、窒素吸着等温線からSF法により求めた細孔径が0.4〜1.0nmの範囲にあり且つ窒素吸着等温線からBJH法により求めた細孔径が1.5〜4.5nmの範囲にあることを特徴とするメソポーラス構造を有するMFI型ゼオライト。
【請求項2】
X線回折パターンの少なくとも一つのピークが2.0nmより大きな格子面間隔dを示すことを特徴とする請求項1に記載のメソポーラス構造を有するMFI型ゼオライト。
【請求項3】
窒素吸着BET法により求めた比表面積が400〜1000m/gの範囲にあることを特徴とする請求項1または2に記載のメソポーラス構造を有するMFI型ゼオライト。
【請求項4】
窒素吸着Langmuir法により求めた比表面積が500〜1000m/gの範囲にあることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載のメソポーラス構造を有するMFI型ゼオライト。
【請求項5】
窒素吸着法により求めた細孔容積が0.45〜0.85cc/gの範囲にあることを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載のメソポーラス構造を有するMFI型ゼオライト。
【請求項6】
シリケート材料と界面活性剤とによりメソポーラスシリケート前駆体を合成する第1工程と、第1工程で得られたメソポーラスシリケート前駆体を焼成することなく、テンプレート剤を加えて水熱合成反応を行いMFI型ゼオライトを合成する第2工程と、第2工程で得られたMFI型ゼオライトを焼成処理してテンプレート剤と界面活性剤とを除去する第3工程とを順次に施すことを特徴とするメソポーラス構造を有するMFI型ゼオライトの製造方法。
【請求項7】
シリケート材料がシリカもしくはアルミノシリケートであることを特徴とする請求項6に記載のメソポーラス構造を有するMFI型ゼオライトの製造方法。
【請求項8】
界面活性剤が長鎖アルキルトリメチルアンモニウム塩であることを特徴とする請求項6または7に記載のメソポーラス構造を有するMFI型ゼオライトの製造方法。
【請求項9】
メソポーラスシリケート前駆体がメソポーラスシリカ前駆体もしくはメソポーラスアルミノシリケート前駆体であることを特徴とする請求項6〜8の何れか一項に記載のメソポーラス構造を有するMFI型ゼオライトの製造方法。
【請求項10】
テンプレート剤がテトラプロピルアンモニウム塩であることを特徴とする請求項6〜9の何れか一項に記載のメソポーラス構造を有するMFI型ゼオライトの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−62234(P2012−62234A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−209637(P2010−209637)
【出願日】平成22年9月17日(2010.9.17)
【出願人】(000230593)日本化学工業株式会社 (296)
【Fターム(参考)】