説明

メソ細孔性ポリマーの製造方法及びその製造装置

【課題】より製造が簡便なメソ細孔性ポリマーの製造方法を提供すること。
【解決手段】0.05mm以上10mm未満の距離をおいて配置された一対の基板間において、二つ以上の官能基を有する芳香族低分子と、芳香族低分子の官能器と反応可能であるとともに架橋可能な官能基を有する架橋性低分子と、を反応させるメソ細孔性ポリマーの製造方法とする。また、その一対の基板間の距離は、0.1mm以上5mm以下であるメソ細孔性ポリマーの製造方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メソ細孔が形成されたポリマー(以下「メソ細孔性ポリマー」という。)の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メソ細孔性ポリマーは吸着剤、ガス拡散電極、イオン交換樹脂、電気二重層キャパシター及びスーパーキャパシターの材料として、物質分離、触媒担体、ガスセンサー、上水処理、下水処理、廃水処理、鋳型合成によるナノ材料の創製等環境工学、化学工学、生物技術分野での使用に好適である。
【0003】
従来のメソ細孔性ポリマーの製造方法としては、例えば下記特許文献1乃至4並びに下記非特許文献1及び2に、水溶媒中でレソルシノールとホルムアルデヒドのポリマークラスターを合成し、水溶媒をアセトン溶媒に置換し、二酸化炭素超臨界流体で超臨界乾燥しメソ細孔性ポリマーを製造する方法が記載されている。
【0004】
また、メソ細孔性ポリマーを製造する他の方法として、例えば下記非特許文献3及び4に、凍結乾燥法でメソ細孔性クライオゲルを製造する方法が記載されている。
【0005】
【特許文献1】米国特許第4873218号
【特許文献2】米国特許第4997804号
【特許文献3】米国特許第5081163号
【特許文献4】米国特許第5086085号
【非特許文献1】Pekala R.W.,Alviso C.T.,Kong F.M.,Hulsey S.S.、J.Non−Cryst.Solids、1992年、145巻、90〜98p
【非特許文献2】Pekala R.W.,Alviso C.T.、Mater.Res.Soc.Symp.Prc.、1990年、180巻、791〜795頁
【非特許文献3】Tamon H.,Ishizka H.,Yamamoto T.,Suzuki T.、Carbon、1999年、37巻、2049〜2055頁
【非特許文献4】Yamamoto T.,Nishimura T.,Suzuki T.,Tamon H.、Carbon,2001年、39巻、2369〜2386頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1乃至4並びに非特許文献1及び2に記載の製造方法では、超臨界乾燥状態を用いるなど複雑な作業が必要で容易には行えず、結果的に製造コストが高くなるといった課題がある。
【0007】
また、上記非特許文献3、4に記載のメソ細孔性クライオゲル製造方法では低温乾燥という煩雑な工程を必要とし、溶媒が昇華する際にその界面張力によりメソ細孔が収縮し、メソ細孔の容量が減少するといった課題がある。
【0008】
そこで、本発明は、上記課題を鑑み、より製造が簡便なメソ細孔性ポリマーの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題につき鋭意検討を行ったところ、二つ以上の官能基を有する芳香族低分子と、この芳香族低分子の官能器と反応でき、架橋可能な官能基を有する低分子と、を薄い空間で反応させることにより、容易にメソ細孔性ポリマーを製造することができる点に着目し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明の一手段に係るメソ細孔性ポリマーの製造方法は、0.05mm以上10mm未満の距離をおいて配置された一対の基板間において、二つ以上の官能基を有する芳香族低分子と、この芳香族低分子の官能器と反応可能であるとともに架橋可能な官能基を有する架橋性低分子と、を反応させる。本手段によると、10mm未満という狭い空間において芳香族低分子と架橋性低分子とを反応させることで、一対の基板間に強い界面張力を得ることができ、その界面張力によりメソ細孔が収縮するのを防止することができると考えられる。ここで「メソ細孔」とは、2nm以上50nm以下の径からなる細孔を意味し、「メソ細孔性ポリマー」とはメソ細孔を有するポリマーを意味する。また、ここで空間の大きさとしては、厚さが0.5mm以上10mm未満である限り幅、奥行き、その平面形状に関しては特に限定されないが、例えば、幅、奥行きとしては、それぞれ1m以下であることが好ましく、より好ましくは50cm以下、さらに好ましくは10cm以下である。
【0011】
またこの手段において、限定されるわけではないが、0.1mm以上5mm以下の厚さを有する空間において反応させることがより好ましい。
【0012】
またこの手段において、限定されるわけではないが、上記芳香族低分子としてはレソルシノール、メラミン又はエポキシの少なくともいずれかであることが好ましく、上記架橋性低分子としては、ホルムアルデヒド又はアミンのうち少なくともいずれかであることが好ましく、芳香族低分子がレソルシノール又はメラミンの場合は架橋性低分子がホルムアルデヒド、芳香族低分子がエポキシの場合は架橋性低分子がアミンであることがより好ましい。
【0013】
またこの手段において、限定されるわけではないが、一対の基板の間に配置され、かつ、切り抜かれた空間を有するスペーサーを有し、このスペーサーにおける切り抜かれた空間において芳香族低分子と架橋性低分子と、を反応させることも好ましい。
【0014】
またこの手段において、限定されるわけではないが、反応は、12時間以上140時間以下行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
以上、本発明によって、より製造が簡便なメソ細孔性ポリマーの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。ただし、本発明は多くの異なる態様による実施が可能であり、以下に示す実施形態、実施例に限定して解釈されるものではない。
【0017】
本実施形態に係るメソ細孔性ポリマーの製造方法は、0.05mm以上10mm未満間隔をおいて配置される一対の基板間において、二つ以上の官能基を有する芳香族低分子と、この芳香族低分子と反応可能であるとともに架橋可能な官能基を有する架橋性低分子と、を反応させることを特徴の一つとする。
【0018】
本実施形態における二つ以上の官能基を有する芳香族低分子としては、反応によってメソ細孔性ポリマーが形成できる限りにおいて限定されるわけではないが、レソルシノール、メラミン又はエポキシの少なくともいずれかであることが好ましく、また芳香族低分子の官能器と反応可能であるとともに架橋可能な官能基を有する架橋性低分子としては、限定されるわけではないが、ホルムアルデヒド又はアミンの少なくともいずれかであることが好ましい。特に、レソルシノールとホルムアルデヒド、メラミンとホルムアルデヒド、エポキシとアミンであることはメソ細孔性ポリマー実現がより容易である点において好ましい。
【0019】
本実施形態において、上記芳香族低分子と架橋性低分子との反応は溶媒中で行う必要がある。この溶媒としては上記芳香族低分子及び架橋性低分子を溶解する一方、反応を阻害しない限りにおいて限定されるわけではないが、例えば水、エタノール、アセトン、その他の有機溶媒を好ましく用いることができる。
【0020】
また、本実施形態における溶媒中の芳香族低分子の濃度としては、4wt%以上66wt%以下であることが好ましく、10wt%以上50wt%以下であることがより好ましい。また溶媒中の架橋性低分子の濃度としては、3wt%以上60wt%以下であることが好ましく、5wt%以上25wt%以下であることがより好ましい。芳香族低分子の濃度を4wt%以上、架橋性低分子の濃度を3wt%以上とすることで製造されるポリマーを網目状にして十分なメソ細孔を形成させることができるとともに、芳香族低分子の濃度を66wt%以下、架橋性低分子の濃度を60wt%以下とすることでメソ細孔が消失しない程度の十分な隙間を形成させることができるという利点がある。
【0021】
また、本実施形態における上記芳香族低分子と架橋性低分子との反応は、適宜調整可能で有り限定されるわけではないが、反応時間を実用的な範囲で行わせる観点から0度以上100度以下で行うことが好ましく、25度以上90度以下であることがより好ましい。また反応時間も制御することで細孔径や細孔の形状を制御することができる。なお、この場合において、反応時間としては、限定されるわけではないが12時間以上140時間以下とすることが好ましく、20時間以上70時間以下とすることがより好ましい。また、反応の温度においては、時間の経過に応じて適宜温度を変化させることも有機官能器の架橋反応及びポリマーの骨格生成の観点から好ましい。
【0022】
なお、本実施形態における上記芳香族低分子と架橋性低分子の反応は、触媒の存在下で行わせることも好ましい。触媒としては限定されるわけではないが、例えば炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ性物質や弱酸等を好ましく用いることができる。
【0023】
また、本実施形態では、0.05mm以上10mm未満の間隔をおいて配置される一対の基盤を有する限りにおいて限定されるわけではないが、一対の基板1a、1bと、この一対の基板の間に挟持され、切り抜かれた空間21が形成されるスペーサー2により容易に実現することができる。この構成について図1に示しておく。このように切り抜かれた空間とすることで、一対の基板1a、1bとスペーサー2とで密封性の高い空間とすることができ、溶媒の蒸発速度をメソ細孔を形成するのに適した状態とすることができる。しかし逆に、空間を完全に密封した状態としてしまうと溶媒を蒸発させることができずメソ細孔内に溶媒が残ったままとなるため好ましくない。従って、空間の密封性は、溶媒が芳香族低分子と架橋性低分子の反応が終了する程度の時間をかけて緩やかに蒸発する程度であることが好ましい。
【0024】
一対の基板1a、1b、スペーサーの材質としては特に限定されるわけではないが、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン、ポリイミド、ポリフェニレンサルファイド等のポリマー及び複合材、木材料、ガラス並びに金属の少なくともいずれかを適宜採用することができる。
【0025】
またスペーサー2の切り抜かれた空間21は、厚さが0.05mm以上10mm未満であれば平面形状については特に限定はなく、適宜調整が可能である。厚さを0.05mm以上とするのは、スペーサー製造の観点、芳香族低分子及び架橋性低分子を基板間に充填させるのを容易にする観点からであり、10mm未満とするのは、10mm以上とすると基板とポリマーとの間の界面張力が弱まり、溶媒が蒸発する際にメソ孔が縮んで、メソ細孔の容量が減少してしまうと考えられるためである。
【0026】
以上、本実施形態により、より製造が簡便なメソ細孔性ポリマーの製造方法となる。
【実施例】
【0027】
(実施例1)
まず、5cm×5cm×1mmのポリイミド基板を2枚用意し、一方のポリイミド基板上に3cm×3cm×0.5mmの厚さのポリイミドスペーサーを接着剤により固定した。これにより、3cm×3cm×0.5mmの凹部を形成した。
【0028】
次に、0.050molのレソルシノール、0.27molのホルムアルデヒド、0.72molの水、0.0001molの炭酸ナトリウムの混合溶液を調製し、この混合溶液を上記凹部に充填した。
【0029】
そして、この上からもう一つのポリイミド基板で覆い、すぐに乾燥しない状態とし、室温(300K)で1日、333Kで1日、353Kで1日反応させた。そしてこの後、丁寧に蓋として使用したポリイミド基板をはがし、茶褐色の固体物を得た。なお、水は十分蒸発しており、固体物は乾燥したものとなっていた。
【0030】
そして、本実施例により得られた上記固体物の窒素吸着等温線を窒素吸着等温線測定装置(Quantachrome社製、Autsorb−1)によって得、Dollimore−Heal法(以下「DH法」という。)を用いてメソ細孔の分布を求めた。図2にここで測定した窒素吸着等温線を、図3に求めたメソ細孔の分布の結果を示す。また、上記固体物のSEM写真も図4に示す。
【0031】
この結果、上記固体物がメソ細孔性ポリマーとなっていることが確認できた。本実施例により得られたメソ細孔性ポリマーの細孔構造を下記表1に示す。なおここで比表面積は窒素吸着等温線をBET法により解析することで得た値であり、メソ細孔径、メソ細孔容量、ミクロ細孔径、ミクロ細孔容量は、DH法及びDubinin−Radushkevich(DR)法による解析で得られた値である。
【表1】

【0032】
(実施例2)
本実施例では、触媒として炭酸ナトリウムの量を0.00025molを変えた以外は実施例1と同様に行った。この結果、上記実施例1と同様の結果を得ることができた。なお、得られた固体物のSEM写真を図5に示す。
【0033】
(実施例3)
本実施例では、スペーサーの厚さが1mm、2mm、5mmをそれぞれ変えた以外は実施例1と同様に行った。得られた固体物の窒素吸着等温線測定により異なる細孔径、細孔容量があることがわかった。
【0034】
(比較例)
ここでは、スペーサーの厚さ10mmに変えた以外は実施例1と同様に行った。この結果、褐色の固体物を得ることができたが、窒素吸着等温線測定によりメソ細孔が縮んでしまい、メソ細孔容量が極めて小さいポリマーとなってしまっていた。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明に係るメソ細孔性ポリマーは、例えば吸着剤、ガス拡散電極、イオン交換樹脂、電気二重層キャパシター及びスーパーキャパシターの材料として広く産業上の利用可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】実施形態に係るメソ細孔性ポリマーの製造方法に用いられる装置の図である。
【図2】実施例1により製造されたメソ細孔性ポリマーの窒素吸着等温線を示す図である。
【図3】実施例1により製造されたメソ細孔性ポリマーのメソポアサイズ分布を示す図である。
【図4】実施例1により製造されたメソ細孔性ポリマーの電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図5】実施例2により製造されたメソ細孔性ポリマーの電子顕微鏡(SEM)写真である。
【符号の説明】
【0037】
1a、1b…基板、2…スペーサー、21…切り抜かれた空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.05mm以上10mm未満の距離をおいて配置された一対の基板間において、二つ以上の官能基を有する芳香族低分子と、前記芳香族低分子の官能器と反応可能であるとともに架橋可能な官能基を有する架橋性低分子と、を反応させるメソ細孔性ポリマーの製造方法。
【請求項2】
前記一対の基板間の距離は、0.1mm以上5mm以下である請求項1記載のメソ細孔性ポリマーの製造方法。
【請求項3】
前記芳香族低分子は、レソルシノール、メラミン又はエポキシの少なくともいずれかであり、前記架橋性低分子はホルムアルデヒド又はアミンの少なくともいずれかである請求項1記載のメソ細孔性ポリマーの製造方法。
【請求項4】
前記芳香族低分子は、レソルシノール又はメラミンの少なくともいずれかであり、前記架橋性低分子はホルムアルデヒドである請求項1記載のメソ細孔性ポリマーの製造方法。
【請求項5】
前記芳香族低分子はレソルシノール、前記架橋性低分子はホルムアルデヒドである請求項1記載のメソ細孔性ポリマーの製造方法。
【請求項6】
前記芳香族低分子はエポキシであり、前記架橋性低分子はアミンである請求項1記載のメソ細孔性ポリマーの製造方法。
【請求項7】
前記一対の基板の間に配置され、かつ、切り抜かれた空間を有するスペーサーを有し、前記スペーサーにおける切り抜かれた空間において前記芳香族低分子と前記架橋性低分子と、を反応させる請求項1記載のメソ細孔性ポリマーの製造方法。
【請求項8】
前記反応は、12時間以上140時間以下行う請求項1記載のメソ細孔性ポリマーの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−38004(P2008−38004A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−213362(P2006−213362)
【出願日】平成18年8月4日(2006.8.4)
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【Fターム(参考)】