説明

メタクリル系樹脂成形体及びその製造方法

【課題】輝点が少なく、耐熱性及び耐衝撃性も改善されたメタクリル系樹脂成形体および樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】メタクリル酸エステル単量体単独又はアクリル酸エステル単量体との共重合体(A)、芳香族ビニル化合物単量体(B)、及び、六員環構造化合物単量体、不飽和ジカルボン酸無水物単量体、五員環構造化合物単量体の少なくとも一つから選ばれる単量体(C)の合計100質量部に対して、ゴム質含有共重合体粒子1質量部以上50質量部以下を分散させた組成物を成形型内で重合して得られるメタクリル系樹脂成形体およびこれを粉砕して得られる樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタクリル系樹脂成形体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、硬質なアクリル系樹脂の耐衝撃性を改良する手段として、いわゆるエラストマー成分を添加する方法が知られている。そのような方法の一つとして、アクリル系樹脂にジエン系エラストマーやアクリル系エラストマーを添加するのが一般的であるが、特に屋外用途等においては耐候性の低下影響が少ないアクリル系エラストマーが好ましいとされている。アクリル系エラストマーとしては、多層構造を有するアクリル系重合体の例が多数提案されている。
一方、硬質なアクリル系樹脂は近年、より多様化している使用環境や高度な加工処理に対応するために、透明性、耐衝撃性等の特性に加えて、高い耐熱性が要求されるようになってきている。
【0003】
アクリル系樹脂の耐衝撃性や耐脆性とともに耐熱性を改善する方法としては、マレイミド系単位を有するアクリル樹脂に軟質―硬質の多層構造のアクリル系重合体粒子をブレンドする方法(例えば、特許文献1)、ラクトン環構造を有するラクトン化アクリル系重合体に軟質―硬質の多層構造のアクリル系重合粒子をブレンドする方法(例えば、特許文献2)、無水マレイン酸単位を有する熱可塑性重合体に硬質―軟質―硬質の三層構造のアクリル系重合体粒子をブレンドする方法(例えば、特許文献3)が提案されている。
一方、メチルメタクリレートを主成分とする単量体の重合時に多層構造弾性体粒子を分散させたシロップをセルに注入して重合させたキャスト板(例えば、特許文献4)が提案されており、効果として、熱加工性が改良され、耐衝撃性と加工性のバランスに優れることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭61−195149号公報
【特許文献2】特開2006−8901号公報
【特許文献3】特開昭59−98156号公報
【特許文献4】特開平08−151498号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら上記の特許文献1〜3の文献の方法により得られる成形体では、別々に製造されたアクリル系樹脂と多層構造のアクリル系重合体粒子をドライブレンドするものであるが、成形体中に存在する異物の数が多く、成形体に光を照射するとこれが輝点となって現れる。従って、このような成形体を光学用途などに採用することが難しかった。
一方、アクリル系重合体粒子をアクリル系樹脂中にドライブレンドせずにアクリル系樹脂の重合当初に添加する方法として、例えば上記特許文献4のように成形型枠内に単量体と多層構造のアクリル系樹脂粒子を添加して、重合させる方法が考えられる。しかし、単量体と多層構造のアクリル系樹脂粒子の重合中に、ミキサーなどの攪拌手段を使うことができないため、多層構造のアクリル系樹脂粒子を均一に分散させることが難しい。特許文献4ではメタクリル系樹脂100重量部に対して1〜50重量部の樹脂粒子を添加することがあると記載がされているが、実際はこの文献の実施例に記載があるように20重量部が限度であるばかりでなく、その分散性にも問題があり、輝点が発生したり、十分な耐衝撃性を得ることは難しかった。
従って本発明の課題は、輝点の発生が少なく、さらに耐熱性及び耐衝撃性に優れる樹脂成形体、および、この成形体から得られる樹脂組成物を得る方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は鋭意検討を行った結果、特定の構成を有するアクリル系樹脂の重合時に、ゴム質含有共重合体粒子を分散させた状態で塊状重合することにより、上記従来技術の課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
1.メタクリル酸エステル単量体単独又はアクリル酸エステル単量体との共重合体(A)、芳香族ビニル化合物単量体(B)、及び、六員環構造化合物単量体、不飽和ジカルボン酸無水物単量体、五員環構造化合物単量体の少なくとも一つから選ばれる単量体(C)の合計100質量部に対して、ゴム質含有共重合体粒子1質量部以上50質量部以下が分散された組成物を成形型内で重合して得られるメタクリル系樹脂成形体。
2.単量体(C)が不飽和ジカルボン酸無水物単量体であることを特徴とする上記1のメタクリル系樹脂成形体。
3.単量体(C)が下記式(1)で表される構造を有する化合物であることを特徴とする上記1又は2に記載のメタクリル系樹脂成形体。
【0007】
【化1】

【0008】
(式中、XはO又はN−Rを示し、Oは酸素原子、Nは窒素原子、Rは水素原子、アルキル基、アリール基、シクロアルキル基からなる群から選ばれるいずれかを示す。)
【0009】
4.成形体中の単量体(A)、(B)、(C)の質量比が、(A)30質量%以上90質量%以下、(B)5質量%以上40質量%以下、および(C)5質量%以上30質量%以下であることを特徴とする上記1乃至3に記載のいずれか1項に樹脂成形体。
5.ゴム質含有共重合体粒子が、以下の(i)〜(iii)の少なくとも3層を有し、平均粒子径が0.04〜0.3μmである多層構造粒子である上記1乃至4のいずれか1項に記載の樹脂成形体。
(i)メタクリル酸メチル55〜84質量%、アクリル酸エステル1〜20質量%、芳香族ビニル化合物15〜25質量%を含有する内層10〜30質量%、
(ii)アクリル酸エステル60〜75質量%、芳香族ビニル化合物25〜40質量%を含有する中間層40〜60質量%、
(iii)メタクリル酸メチル80〜99質量%と前記メタクリル酸メチルと共重合可能な他の共重合性単量体1〜20質量%を含有する外層30〜50質量%
6.上記1〜5を粉砕して得られる樹脂組成物。
7.メタクリル酸エステル単量体単独又はアクリル酸エステル単量体との共重合体(A)、芳香族ビニル化合物単量体(B)、及び、六員環構造化合物単量体、不飽和ジカルボン酸無水物単量体、五員環構造化合物単量体の少なくとも一つから選ばれる単量体(C)の合計100質量部に対して、ゴム質含有共重合体粒子1質量部以上50質量部以下を分散させた組成物を成形型内で重合することを特徴とする上記1に記載のメタクリル系樹脂組成物の成形体の製造方法。
【0010】
【化2】

【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、透明性、耐熱性及び耐衝撃性を有すると共に、ゴム質含有の共重合体粒子の分散が改良され、強度向上及び異物低減した樹脂組成物を提供することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。(以下、単に「本発明は」と記載するが、本発明は以下に示す実施形態に限定されるものではない。)
なお、下記においては、重合前のモノマー成分のことを「〜単量体」(「単量体」を省略して化合物名のみ記載する場合もある。)といい、共重合体を構成する構成単位のことを「〜単位」という。
本発明は、メタクリル酸エステル単独又はアクリル酸エステル単量体との共重合体(A)、芳香族ビニル化合物単量体(B)、及び、ラクトン環、グルタル酸構造及びエーテル環に代表される六員環構造化合物単量体及び/又は、無水マレイン酸、イタコン酸、エチルマレイン酸、メチルイタコン酸、クロルマレイン酸等の無水物である不飽和ジカルボン酸無水物単量体、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド単量体に代表される五員環構造化合物単量体の少なくとも一つから選ばれる化合物を含む単量体(C)の合計100質量部に対して、ゴム質含有共重合体粒子1質量部以上50質量部以下を分散させた組成物を成形型枠内で重合して得られるメタクリル系樹脂成形体である。
【0013】
まず、成形体を構成する単量体成分に関して説明する。
単量体組成物の第一の単量体成分であるメタクリル酸エステル及びアクリル酸エステルの具体例としては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸n−ヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸t−ブチルシクロヘキシル等のメタクリル酸エステル;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸2−エチルヘキシル等のアクリル酸エステルが挙げられる。上記の中でも、透明性や重合し易さの観点からメタクリル酸メチルが好ましい。
単量体組成物の第二の単量体成分である芳香族ビニル化合物(B)の具体例としては、例えば、スチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、エチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン等の核アルキル置換スチレン;α−メチルスチレン、α−メチル−p−メチルスチレン等のα−アルキル置換スチレン等が挙げられる。上記の中でも、耐熱分解性に優れることや重合し易さの観点からスチレンが好ましい。
【0014】
単量体組成物の第三の単量体成分(C)は、ラクトン環、グルタル酸構造及びエーテル環に代表される六員環構造化合物単量体、無水マレイン酸、イタコン酸、エチルマレイン酸、メチルイタコン酸、クロルマレイン酸等の無水物である不飽和ジカルボン酸無水物単量体、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド単量体に代表される五員環構造化合物単量体から選ばれる少なくとも一つの単量体からなる。 (A)成分、(B)成分との共重合のし易さの観点からは五員環構造化合物単量体が好ましい。
上記の中でも不飽和ジカルボン酸無水物がより好ましく、さらに好ましくは下記一般式(1)で表される構造を有する化合物単量体がより好ましい。
【0015】
一般に成形型内で単量体を重合させるキャスト重合において、メタクリル系樹脂に後述のゴム質含有共重合体粒子を添加しようとした場合、その添加量を樹脂100重量部に対し15重量部程度に抑える必要があり、さらに十分な攪拌工程を経なければ、樹脂中に均一に粒子を分散させることはできないことが知られている。しかしながら上記に挙げられる第三の単量体成分(C)として上述いずれか1種以上を選択することにより、添加量を50質量部に増やし、また成形型内で攪拌することなしに重合しても、ゴム質含有共重合体粒子の分散性を確保することが可能となる。その理由として、各単量体の構造中に存在する極性基の存在により、ポリマー同士の相互作用によるネットワークが形成され、ゴム質含有共重合体粒子がこのネットワークに保持されることにより分散性が確保されると考えられる。
特に分散性が高くて好ましい単量体成分(C)は、下記一般式(1)で表される構造を有する化合物単量体である。
【0016】
【化3】

【0017】
(式中、XはO又はN−Rを示し、Oは酸素原子、Nは窒素原子、Rは水素原子、アルキル基、アリール基又はシクロアルキル基を示す。)
【0018】
この一般式(1)で表される化合物のうち、XがN−Rであるものとしては、例えば、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド単量体が挙げられる。また、XがOであるものとしては、例えば、無水マレイン酸、イタコン酸、エチルマレイン酸、メチルイタコン酸、クロルマレイン酸等の無水物である不飽和ジカルボン酸無水物単量体が挙げられる。この中でも、耐熱分解性に優れることや耐熱性が向上することから、無水マレイン酸単量体が好ましい。
【0019】
本発明のメタクリル系樹脂成形体中の各単量体単位の共重合割合は、成形体の耐熱性や光学特性に優れることから、メタクリル酸エステル単独又はアクリル酸エステル単量体との共重合体(A)が30質量%以上90質量%以下、芳香族ビニル化合物単量体(B)が5質量%以上40質量%以下、化合物単量体(C)が5質量%以上30質量%以下が好ましい。
メタクリル酸エステル単独又はアクリル酸エステル単量体との共重合体(A)の共重合割合が30質量%以上であると、光学特性や重合安定性が良好となる傾向にあり、90質量%以下であると、耐熱性が維持される傾向にある。また、芳香族ビニル化合物単量体(B)の共重合割合が5質量%以上であると、光学特性が良好となる傾向にあり、40質量%以下であると、耐候性が維持される傾向にある。さらに、単量体(C)が5質量%以上であると、耐熱性が良好となる傾向にあり、30質量%以下であると、着色性や重合安定性が維持される傾向にある。
【0020】
より好ましくは、メタクリル酸エステル単量体単独又はアクリル酸エステル単量体との共重合体(A)が42質量%以上83質量%以下、芳香族ビニル化合物単量体(B)が12質量%以上40質量%以下、化合物単量体(C)が5質量%以上18質量%以下である。
さらに好ましくは、メタクリル酸エステル単量体単独又はアクリル酸エステル単量体との共重合体(A)が45質量%以上78質量%以下、芳香族ビニル化合物単量体(B)が16質量%以上40質量%以下、化合物単量体(C)が6質量%以上15質量%以下である。
また、化合物単量体(C)の共重合割合に対する芳香族ビニル化合物単量体(B)の配合割合が1倍以上3倍以下であることが好ましい。この割合が、上記範囲よりも小さいと芳香族ビニル化合物の添加の効果が得られ難く、重合体の収率が低下する傾向にあり、上記範囲よりも大きいとモノマー配合相への溶解が困難になり、樹脂の強度が低くなる傾向がある。
【0021】
本発明の成形体には、上述した必須の構成単量体単位(A)〜(C)に加え、必要に応じて共重合可能な他の単量体を共重合して得られた重合体を含んでいてもよい。ここで用いられる共重合可能な他の単量体としては、例えば、メタクリル酸、アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、桂皮酸等の不飽和カルボン酸単量体;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の不飽和ニトリル単量体;1,3‐ブタジエン、2‐メチル‐1,3‐ブタジエン(イソプレン)、2,3‐ジメチル‐1,3‐ブタジエン、1,3‐ペンタジエン、1,3‐ヘキサジエン等の共役ジエン単量体等が挙げられ、これらの2種以上を共重合することも可能である。
【0022】
続いて、ゴム質含有共重合体粒子の詳細について説明する。ゴム質含有共重合体粒子は成形体に弾性および耐熱性を付与する目的で添加されるものであり、この特性を満たすものであれば、公知のゴム質含有共重合体を用いることができる。例えば、一般的なブタジエン系ABSゴム、アクリル系、ポリオレフィン系、シリコーン系、フッ素ゴム等のゴム粒子を使用することができるが、三層構造以上の多層構造を有していることが好ましい。中でも、三層構造以上の多層構造を有するアクリル系ゴム粒子がより好ましい。ゴム質含有共重合体粒子として、三層構造以上の多層構造を有するゴム粒子を用いることにより、加熱によるゴム質含有共重合体粒子の変形が抑制され、本発明の樹脂組成物のガラス転移温度(Tg)や透明性が実用上良好なものとなる。
多層構造を有するゴム粒子の場合、各層の構成の例は下記のようになる。
【0023】
〔内層の説明〕
ゴム質含有共重合体粒子の内層(a−i)を形成する共重合体は、ゴム強度と光学特性のバランスが良好であることから、メタクリル系共重合体が好ましく、より好ましくは、メタクリル酸メチル、アクリル酸エステル、および芳香族ビニル化合物を共重合させてなる樹脂である。
内層(a−i)を形成する共重合体中のメタクリル酸メチルとしては、上記で単量体として例示したメタクリル酸メチルと同様のものを用いればよい。メタクリル酸メチルの好ましい含有量は55〜84質量%であり、より好ましくは70〜84質量%である。
内層(a−i)を形成する共重合体中のアクリル酸エステル単量体としては特に限定されないが、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、n−アクリル酸n−ブチル、アクリル酸i−ブチル、アクリル酸2−へキシル等が好ましく、より好ましくは、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−へキシルである。アクリル酸エステルの好ましい含有量は1〜20質量%である。該割合が1質量%以上であると、重合体の熱分解性が起こりにくくなり、一方、該割合が20質量%以下であると、内層重合体のガラス転移温度が下がらず、ゴム質含有共重合体粒子の耐衝撃性付与効果も高まることから好ましい。より好ましくは10質量%以下である。
【0024】
内層(a−i)を形成する共重合体中の芳香族ビニル化合物単量体は、アクリル酸エステル単量体に対して、芳香族環の粒子内分子間がπ―πスタッキング作用を与えることにより粒子自体を安定化させる役目を果たす。結果として、粒径制御や粒子間の凝集低減に繋がり、このことによりゴム質含有共重合体粒子の分散性がより高まり、凝集由来による異物発生原因の低減に繋がる。芳香族ビニル化合物単量体としては、上述の第二の単量体成分として挙げたものと同様のものを用いることができるが、好ましくは、スチレン又はその誘導体が用いられる。ゴム質含有共重合体粒子の分散性がよくなることから15質量%含有していることが好ましく、耐候性が向上することから25質量%以下が好ましい。
【0025】
さらに、内層(a−i)と後述の中間層(a−ii)重合体は化学的に結合されていても良い。共重合性多官能単量体としては例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸アリル、トリアリルイソシアヌレート、マレイン酸ジアリル、ジビニルベンゼン等から1種又は2種以上を併用して用いることができる。上記化合物単量体の中でも光学特性と耐衝撃性のバランスがよいことから、(メタ)アクリル酸アリルが特に好ましい。
共重合性多官能単量体の内層(a−i)重合時に用いる割合はメタクリル酸メチル、アクリル酸エステル、芳香族ビニル化合物の3成分の和100質量部に対して、0.01〜5質量部が好ましい。この範囲であると、ゴム質含有共重合体粒子の耐衝撃性付与効果がより向上するので好ましい。
【0026】
〔中間層の説明〕
ゴム質含有共重合体粒子の中間層(a−ii)を形成する共重合体は、優れた靭性を付与する観点から、軟質なゴム弾性を示す共重合体であることが好ましい。アクリル酸エステル系の共重合体が挙げられ、より好ましくは、アクリル酸エステル、芳香族ビニル化合物、多官能性グラフト剤、多官能性架橋剤を共重合させてなる樹脂である。
中間層(a−ii)を構成するアクリル酸エステルとしては、特に限定されないが、好ましくは、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルへキシル等から1種又は2種以上を併用して用いる。中でも、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−へキシルがより好ましい。アクリル酸エステルの中間層中の含有量は好ましくは60〜75質量%である。アクリル酸エステルの含有量が60質量%以上であると、ゴム強度が良好であり、75質量%以下であるとゴム強度と光学特性バランスが良好である点から好ましい。より好ましくは60〜70質量%である。
中間層(a−ii)を構成する芳香族ビニル化合物単量体は、内層(a−i)と同様の理由から内層(a−i)と同様のものを用いることができ、好ましくはスチレン又はその誘導体である。ゴム質含有共重合体粒子の分散性が向上することから25質量%以上が好ましく、耐候性及び機械強度が良好なことから40質量%以下が好ましい。より好ましくは30〜40質量%である。
【0027】
多官能性グラフト剤としては、内層(a−i)で用いられる共重合性多官能単量体と同様のものを用いることができる。多官能性グラフト剤は、内層と中間層との接着効果発現のために用いられる。多官能性グラフト剤の含有量としては、上記の中間層(a−ii)を構成するアクリル酸エステル、芳香族ビニル化合物単量体の和に対し、0.05質量部以上5質量部以下である。この範囲であると、良好な架橋効果を有し、かつ、架橋が適度でゴム弾性効果が大きくなる。より好ましくは0.5〜3質量%である。
また、多官能性架橋剤としては、ジビニル化合物、ジアリル化合物、ジアクリル化合物、ジメタクリル化合物などの一般に知られている架橋剤が使用できるが、ポリエチレングリコ−ルジアクリレ−ト(分子量200〜600)が好ましく用いられる。ここで用いる多官能性架橋剤は、中間層(a−ii)の重合時に架橋構造を生成し、弾性体としての効果を発現させるために用いられる。ただし、上記多官能性グラフト剤を軟質層の重合時に用いれば、多官能性架橋剤を用いなくともある程度は軟質層の架橋構造を生成させることができる。
および多官能性架橋剤は、上記の中間層(a−ii)を構成するアクリル酸エステル、芳香族ビニル化合物単量体の和に対し、0〜5質量部である。5質量部以下であると、ゴム質含有共重合体粒子の耐衝撃性付与効果がより良好な範囲となる。より好ましくは0〜2質量部である。
【0028】
〔外層の説明〕
ゴム質含有共重合体粒子の外層(a−iii)を形成する共重合体は、ゴム凝集抑制とベース樹脂との相溶性の観点より、メタクリル系共重合体であることが好ましい。より好ましくは、メタクリル酸メチル、これと共重合可能な他の共重合性単量体を含有する共重合体である。
外層(a−iii)の共重合体中を構成するメタクリル酸メチルの含有量は、80〜99質量%であることが好ましい。80質量%以上であると光学特性が良好であり、99質量%以下であることにより、強度が維持されるという効果を有する。より好ましくは90〜99質量%である。
上記のメタクリル酸メチルと共重合可能な他の共重合性単量体としては、特に限定されないが、好ましくは、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルへキシル等から1種又は2種以上を併用して用いる。中でも、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−へキシルがより好ましい。好ましくは、アクリル酸エステルであり、特にアクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−へキシルである。
【0029】
外層(a−iii)におけるアクリル酸エステル単量体の割合は、1〜20質量%が好ましい。該割合が1質重量%以上であると、重合体の熱分解がより起こりにくくなり、一方、該割合が20質量%以下であると、ゴム質含有共重合体粒子の粘着性も上昇しにくく取り扱いやすい。また、他のアクリル系樹脂との相溶性も好ましい範囲であり、耐衝撃性や耐候性に優れるものを得ることができる。
外層(a−iii)中には、耐候性の観点から芳香族ビニル化合物単量体を用いない方が好ましい。
さらに、外層(a−iii)の重合時に、ベース樹脂の単量体に対する分散性の向上を目的として、分子量を調節するためアルキルメルカプタン等を連鎖移動剤として用いることもできる。
【0030】
ゴム質含有共重合体粒子の製造方法としては特に制限されず、塊状重合、溶液重合、懸濁重合及び乳化重合等の公知重合法により得ることが可能であり、特に、乳化重合により得ることが好ましい。この場合、乳化剤、開始剤の存在下、初めに内層(a−i)の単量体混合物を添加し重合を完結させ、次に中間層(a−ii)の単量体混合物を添加して重合を完結させ、次いで外層(a−iii)の単量体混合物を添加して重合を完結させることにより、容易に多層構造粒子をラテックスとして得ることができる。このゴム質含有共重合体粒子はラテックスから塩析、噴霧乾燥、凍結乾燥等の公知の方法により粉体として回収できる。
各層の重合体を形成させるための適切な重合温度は、各層とも30〜120℃、好ましくは50〜100℃の範囲で選ばれる。
【0031】
乳化重合に用いる乳化剤については、特に限定されるものではなく、従来公知のものを使用できる。例えば、長鎖アルキルカルボン酸塩、スルホコハク酸アルキルエステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩等が好ましい。
また、重合開始剤については、特に限定されるものではなく、水溶性の過硫酸塩、過ホウ酸塩等の無機系開始剤を単独で、あるいは亜硫酸塩、チオ硫酸塩等と併用してレドックス開始剤系として用いることもできる。さらに油溶性の有機過酸化物/第1鉄塩、有機過酸化物/ソジウムスルホキシレ−トのようなレドックス開始剤系も用いることができる。その他、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート、過硫酸アンモニウムなどの還元剤を用いて、水中の過酸化物、酸化物を除去することもできる。
【0032】
粒子安定性、耐衝撃性、耐候性のバランスの良いゴム質含有共重合体粒子を得るには、ゴム質含有共重合体粒子における各層重合体の比率を制御することが強く推奨される。即ち、ゴム質含有共重合体粒子における各層重合体の比率は、内層が10〜30質量%、中間層が40〜60質量%、および外層が30〜50質量%。ここで、内層重合体の比率が10重量%以上では、シ−ド重合を完全に行いやすい。一方、30重量%以下であると、と耐衝撃性の付与効果が好ましい範囲で得られる。また、中間層重合体の比率が40重量%以上の場合は、耐衝撃性に優れ、一方、60重量%以下の場合は、耐候性が落ちることがないので好ましい。さらに、外層重合体の比率が30重量%以上の場合は、粒子の安定性に優れ、一方、50重量%以下であると、耐衝撃性付与効果に優れるため、好ましい。
耐衝撃性、透明性のバランスの良い樹脂成形体を得るには、ゴム質含有共重合体粒子における各層重合体の比率を制御することと並んで、平均粒子径を制御することも重要である。ゴム質含有共重合体粒子の平均粒子径は0.04〜0.3μmが必要であり、0.06〜0.2μmが好ましく、0.08〜0.13μmが更に好ましい。平均粒子径が 0.04μm以上の場合には、耐衝撃性の付与効果に優れ、一方、0.3μm以下であると、透明性に優れるので好ましい。
【0033】
本発明の樹脂成形体は、上述した第一〜第三の単量体混合物に、上述したゴム質含有共重合体粒子を分散した混合溶液を成形型枠内に直接注入したのちキャスト重合させることによって得られる。
単量体組成物中にゴム質含有樹脂粒子を分散させて、キャスト重合により得られた成形体であると、ドライブレンドにより両者を混合して得られたメタクリル系樹脂を成形した場合に比べ、ゴム質含有樹脂粒子の分散性が高くなる理由は定かではないが、単量体(C)の極性基によるポリマー同士の相互作用によるネットワークがより保持されやすいことなどが考えられる。
重合は、ラジカル開始剤を使用した塊状重合により製造できるが、溶液重合、乳化重合によっても製造できる。水系懸濁重合は、無水マレイン酸を単量体成分として用いる場合には、その水溶性が高いため、終始安定な懸濁系を保つことが困難となる傾向にあり推奨されない。
【0034】
ラジカル開始剤としては、一般に使用されているものを用いることができるが、特に、過酸化系開始剤であるラウロイルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエートを使用すると、樹脂組成物の着色が抑制される傾向にある。従って、樹脂組成物を重合する際のラジカル開始剤としては、ラウロイルパーオキサイドのようなジアシルパーオキサイドを適用することが好ましい。
樹脂成形体は、ブロックポリマーであってもランダムポリマーであってもよいが、耐熱性や剛性、リサイクル性の観点からは、統計的ランダムポリマーであることが好ましい。
また、分子量を調整するために、公知の連鎖移動剤を使用してもよい。連鎖移動剤としては、例えば、n−ブチルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、2−エチルヘキシルチオグリコレート、エチレングリコールジチオグリコレート、トリメチロールプロパントリス(チオグリコート)、ペンタエリスリトールテトラキス(チオグリコレート)等のメルカプタン類が好ましく用いられる。これらの連鎖移動剤は、単独でも2種類以上を併用してもよい。
【0035】
樹脂組成物の分子量分布範囲は、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)が1.6〜4.0の範囲にあることが好ましい。より好ましくは1.7〜3.7であり、さらに好ましくは1.8〜3.5の範囲である。
Mw/Mnが1.6以上であると、樹脂組成物の加工性と機械物性のバランスが良好となる傾向にある。
また、Mw/Mnが4.0以下であると、溶融流動性が改善し、加工性が良好となる傾向にある。
なお、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて、ポリスチレン換算によって求めた値を言う。
【0036】
樹脂成形体の、GPCにより測定した重量平均分子量(Mw)は、好ましくは8万〜50万、より好ましくは9〜30万、さらに好ましくは10〜20万である。
樹脂組成物の重量平均分子量(Mw)が50万以下であると、押出し延伸加工時に十分な流動性が得られるため、溶融押出、成膜が大きな支障無く行うことができる傾向にある。
また、樹脂成形体の重量平均分子量(Mw)が8万以上であると、良好な成型安定性と、十分な強度が付与される傾向にある。
【0037】
本発明の樹脂成形体は、ビカット値(軟化点温度)が110℃以上であることが好ましく、113℃以上であることがより好ましく、115℃以上であることがさらに好ましい。ビカット値が110℃以上であることにより、成形体の環境による熱収縮変形等が抑制される傾向にあり、たとえば、車両用用途においてハンドル部付近、メーターパネル部付近の耐熱性が要求される用途や屋外用途に好適に用いることが可能となる。
上述の第一〜第三の樹脂成形体中のゴム質含有共重合体の含有量は、上述の第一〜第三成分の単量体合計100質量部に対して、1〜50質量部であり、好ましくは5〜30質量部、より好ましくは7〜25質量部であり、ゴム質含有共重合体の配合量により耐衝撃性が向上する。ゴム質含有共重合体粒子の配合量が1質量部未満であると、得られる重合体の耐衝撃性が低下する傾向にあり、50質量部を超えると、単量体混合物中にゴム質含有共重合体が分散された混合液の粘度が大きくなり過ぎて重合を行うことが困難となる傾向にある。
さらに、樹脂成形体を得るためのキャスト重合は、例えば、2枚の平行に相対したガラス板、あるいは金属板の周辺に軟質塩化ビニルのような液漏れを防ぐシール材とこれを押さえるクランプ等によって間隙が構成されたいわゆるセルに、上述した第一〜第三成分を含む単量体混合物に、上述したゴム質含有共重合体粒子を分散した混合溶液を封入した状態で重合することにより実施することができる。
【0038】
キャスト重合に用いられる開始剤としては、ラウロイルパーオキサイド、ジラウロイルパーオキサイド、ジベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート等のパーオキサイド系のラジカル開始剤や、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチル−バレロニトリル)、1,1−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボニトリル)等のアゾ系のラジカル開始剤を用いることができ、これらは単独でも2種類以上を併用してもよい。
また、上記ラジカル開始剤と適当な還元剤とを組み合わせてレドックス系開始剤として使用してもよい。
これらの開始剤は、単量体混合物に対して、通常、0.01〜1質量%の範囲で用いる。
【0039】
更に、樹脂組成物の分子量を調整するために、公知の連鎖移動剤を使用してもよい。連鎖移動剤としては、例えば、n−ブチルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、2−エチルヘキシルチオグリコレート、エチレングリコールジチオグリコレート、トリメチロールプロパントリス(チオグリコート)、ペンタエリスリトールテトラキス(チオグリコレート)等のメルカプタン類が好ましく用いられる。これらの連鎖移動剤は、単独でも2種類以上を併用してもよい。
連鎖移動剤は、単量体混合物に対して、通常、0.01〜0.5質量%の範囲で用いる。
セルの間隙は、所望のキャスト板の厚みにより決められるが、一般的には1〜20mmの範囲に設定される。
【0040】
重合はセルを加熱することによって開始されるが、メチルメタクリレートは発熱重合反応であるため、反応熱の除去が不十分であったり、不均一な熱の蓄積があった場合には、キャスト板表面に欠陥を生じたり、内部発泡による不具合を生じることがある。これらの不具合を避けるために、一般的には、温度の調節が容易で、重合反応時の除熱をスムースに行い得る循環温水、又は十分な風速を持つ循環温風が熱媒体として適用される。重合の条件は、使用する開始剤、連鎖移動剤の種類や量、単量体混合物の組成、所望のキャスト板厚みによって適宜決定することができるが、通常、その温度範囲は30〜80℃であり、重合時間は1〜数10時間である。
重合を完結するための熱処理段階においては、比較的高温域の温度コントロールが容易なボイラー蒸気、電熱等により加熱された温風を適用するのが好ましい。通常、その温度範囲は110〜140℃であり、処理時間は1〜5時間である。
重合、及び熱処理が終了した後、セルを構成したガラス板、あるいは金属板を外して、樹脂成形体を得ることができる。
【0041】
本発明の樹脂成形体は、透明性を表す指標の一つである23℃環境下のヘイズ値(濁度)が、好ましくは2.0%以下、より好ましくは1.5%以下である。23℃環境下のヘイズ値が2.0%以下であると、成形体に高度な透明性が付与される傾向にある。
さらに、本発明の樹脂成形体は、70℃環境下のヘイズ値が、好ましくは3.0%以下、より好ましくは2.0%以下である。70℃環境下でのヘイズ値が3.0%以下であると、例えば、屋外で使用した場合や光源近傍で使用した場合等に温度上昇による透明性低下が抑制される傾向にあり、透明性の温度依存性が小さくなる傾向にある。
本発明の樹脂成形体は、シャルピー衝撃強度(ノッチなし)が20KJ/m以上であることが好ましく、22KJ/m以上であることがより好ましく、24KJ/m以上であることがさらに好ましい。シャルピー衝撃強度が20KJ/m以上であることにより、成形体にヒビや割れが発生し難くなり、耐衝撃性を要求される用途に好適に用いることが可能となる。
【0042】
本発明の樹脂成形体には、本発明の効果を損なわない範囲で、他の重合体を混合することができる。
このような他の重合体としては、例えば、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエステル、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアセタール等の熱可塑性樹脂、及びフェノール樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂等が挙げられる。
【0043】
(添加剤)
また、本発明の樹脂成形体には、本発明の効果を損なわない範囲内で、各種目的に応じて任意の添加剤を配合できる。
添加剤の種類は、樹脂の配合に一般的に用いられるものであれば特に制限はなく、例えば、二酸化珪素等の無機充填剤、酸化鉄等の顔料、ステアリン酸、ベヘニン酸、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、エチレンビスステアロアミド等の滑剤、離型剤、パラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル、芳香族系プロセスオイル、パラフィン、有機ポリシロキサン、ミネラルオイル等の軟化剤・可塑剤、難燃剤、帯電防止剤、有機繊維、ガラス繊維、炭素繊維、金属ウィスカ等の補強剤、着色剤等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく二種以上を併用してもよい。
本発明の樹脂成形体には、加工安定化のために、本発明の効果を損なわない範囲で、熱安定剤として、ヒンダードフェノール系酸化防止剤及び/又はリン系酸化防止剤等の酸化防止剤等を配合できる。特にヒンダードフェノール系酸化防止剤が好ましい。
【0044】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、例えば、ペンタエリスリトール−テトラキス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、チオジエチレン−ビス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N’−ヘキサン−1,6−ジイルビス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオナミド)、ジエチル((3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル)メチル)ホスフェート、3,3’,3’’,5,5’,5’’−ヘキサ−t−ブチル−a,a’,a’’−(メシチレン−2,4,6−トリイル)トリ−p−クレゾール、エチレンビス(オキシエチレン)ビス(3−(5−t−ブチル−4−ヒドロキシ−m−トリル)プロピオネート)、ヘキサメチレン−ビス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、1,3,5−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン、1,3,5−トリス((4−t−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−キシリル)メチル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン、2,6−ジ−t−ブチル−4−(4,6−ビス(オクチルチオ)−1,3,5−トリアジン−2−イルアミノ)フェノール、3,9−ビス(2−(3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ)−1,1−ジメチルエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン等が挙げられる。
【0045】
また、ヒンダードフェノール系酸化防止剤として、市販のフェノール系酸化防止剤を使用してもよく、このような市販のフェノール系酸化防止剤としては、例えば、イルガノックス1010(Irganox 1010:ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、チバ・スペシャルティー・ケミカルズ製)、イルガノックス1076(Irganox 1076:オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、チバ・スペシャルティー・ケミカルズ製)、イルガノックス1330(Irganox 1330:3,3’,3’’,5,5’,5’’−ヘキサ−t−ブチル−a,a’,a’’−(メシチレン−2,4,6−トリイル)トリ−p−クレゾール、チバ・スペシャルティー・ケミカルズ製)、イルガノックス3114(Irganox 3114:1,3,5−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン、チバ・スペシャルティー・ケミカルズ製)、イルガノックス3125(Irganox 3125、チバ・スペシャルティー・ケミカルズ製)、スミライザーBHT(Sumilizer BHT、住友化学製)、シアノックス1790(Cyanox 1790、サイテック製)、スミライザーGA−80(Sumilizer GA−80、住友化学製)、スミライザーGS(Sumilizer GS、住友化学製)、(ビタミンE(エーザイ製)等が挙げられる。この中でも、特にイルガノックス1010、イルガノックス1076、スミライザーGS等が好ましい。これらは単独で用いても、2種以上併用して用いてもよい。
【0046】
また、リン系酸化防止剤としては、例えば、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト、ビス(2,4−ビス(1,1−ジメチルエチル)−6−メチルフェニル)エチルエステル亜りん酸、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)(1,1−ビフェニル)−4,4’−ジイルビスホスフォナイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジクミルフェニル)ペンタエリスリトール−ジホスファイト、テトラキス(2,4−t−ブチルフェニル)(1,1−ビフェニル)−4,4’−ジイルビスホスフォナイト、ジ−t−ブチル−m−クレジル−ホスフォナイト等が挙げられる。
【0047】
リン系酸化防止剤として、市販のリン系酸化防止剤を使用してもよく、このような市販のリン系酸化防止剤としては、例えば、イルガフォス168(Irgafos 168:トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト、チバ・スペシャルティー・ケミカルズ製)、イルガフォス12(Irgafos 12:トリス[2−[[2,4,8,10−テトラ−t−ブチルジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサフォスフェフィン−6−イル]オキシ]エチル]アミン、チバ・スペシャルティー・ケミカルズ製)、イルガフォス38(Irgafos 38:ビス(2,4−ビス(1,1−ジメチルエチル)−6−メチルフェニル)エチルエステル亜りん酸、チバ・スペシャルティー・ケミカルズ製)、アデカスタブ329K(ADK STAB 329K、旭電化製)、アデカスタブPEP36(ADK STAB PEP36、旭電化製)、アデカスタブPEP−8(ADK STAB PEP−8、旭電化製)、Sandstab P−EPQ(クラリアント製)、ウェストン618(Weston 618、GE製)、ウェストン619G(Weston 619G、GE製)、ウルトラノックス626(Ultranox 626、GE製)、スミライザーGP(Sumilizer GP、住友化学製)等が挙げられる。これらは単独で使用してもよく、2種以上併用してもよい。
【0048】
さらに、樹脂成形体には、本発明の効果を損なわない範囲で、紫外線吸収剤を添加することができる。
紫外線吸収剤としては、例えば、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾールなどのベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾトリアジン系化合物、ベンゾエート系化合物、ベンゾフェノン系化合物、オキシベンゾフェノン系化合物、フェノール系化合物、オキサゾール系化合物、マロン酸エステル系化合物、シアノアクリレート系化合物、ラクトン系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンズオキサジノン系化合物、ヒンダードアミン系化合物、トリアジン系化合物等が挙げられる。これらの紫外線吸収剤は単独で使用してもよく、2種以上を併用しても構わない。
【0049】
本発明の樹脂成形体において、優れた成形加工性を確保するために、紫外線吸収剤は、20℃における蒸気圧(P)が1.0×10−4Pa以下であることが好ましく、より好ましくは1.0×10−6Pa以下であり、さらに好ましくは1.0×10−8Pa以下である。
ここで、成形加工性に優れるとは、例えば、フィルムの成形時に、低分子化合物のロールへの付着が少ないこと等を意味する。例えば、低分子化合物がロールへ付着すると、フィルム表面へロールを介して低分子化合物が付着し、フィルムの外観、光学特性を悪化させるため、光学材料として好ましくないものとなる。ここで、低分子化合物とは、例えば、紫外線吸収剤由来の熱分解物や揮発分のことを言う。
また、本発明の樹脂成形体において、優れた成形加工性を確保するために、紫外線吸収剤は、融点(Tm)が80℃以上であることが好ましく、130℃以上であることがより好ましく、160℃以上であることがさらに好ましい。
また、本発明の樹脂成形体において優れた成形加工性を確保するために、紫外線吸収剤は、23℃から260℃まで20℃/minの速度で昇温した場合の重量減少率が、50%以下であることが好ましく、15%以下であることがより好ましく、2%以下であることがさらに好ましい。
本発明の樹脂成形体は、粉砕することにより樹脂組成物とした後、射出成形などさらなる成形工程に用いてもよい。その際、該粉砕品をペレタイズしてから用いてもよい。
【実施例】
【0050】
以下、本発明の実施例と、比較例を挙げて具体的に説明するが、本発明は以下に記載の実施例に限定されるものではない。
〔測定方法〕
実施例及び比較例において適用した、物性の測定方法、評価方法について下記に示す。 (1)ビカット軟化温度(VST)の測定
得られた樹脂成形体を粗粉砕して得られた樹脂組成物の射出成形品をISO306B50に準じて測定した。
(2)ゴム質含有共重合体粒子の平均粒子径の測定
ゴム質含有共重合体粒子の乳化液をサンプリングして、固形分500ppmになるように水で希釈し、UV1200V分光光度計(株式会社島津製作所製)を用いて波長550nmでの吸光度を測定した。この測定値から、透過型電子顕微鏡写真より粒子径を計測したサンプルについて、同様に吸光度を測定して作成した検量線を用いて平均粒子径を求めた。
【0051】
(3)全光線透過率
各3mm厚の射出成形体の全光線透過率をJIS−K7105に準じて測定した。
(4)23℃環境下へイズ測定
各3mm厚の射出成形体のヘイズ値をJIS−K7136に準じて測定した。
(5)70℃環境下へイズ測定
各3mm厚の射出成形体を温水で70℃下に保った状態でヘイズ値を測定した。
(6)シャルピー衝撃強度測定(ノッチなし)
得られたキャスト板及び樹脂組成物の射出成形品をISO179/1eUに準じて測定した。
(7)輝点(異物)評価
得られたキャスト板を60×40×3mmに切り出しエッジよりランプを照射して目視にて輝点として現れる数を測定した。
また、3mm厚の射出成形体のエッジよりランプを照射して目視にて輝点として現れる数を測定した。成形体5枚の合計輝点数を測定した。
まず、後述する実施例及び比較例において使用するゴム質含有共重合体粒子の製造方法を示す。
【0052】
〔ゴム質含有共重合体粒子〕
後述するゴム質含有共重合体粒子の製造方法に示す略号は、下記の化合物を示すものとする。
MMA:メチルメタクリレート
BA:n−ブチルアクリレート
St:スチレン
MA:メチルアクリレート
ALMA:アリルメタクリレ−ト
PEGDA:ポリエチレングリコールジアクリレート(分子量200)
TEGDA:テトラエチレングリコールジアクリレート
DPBHP:ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド
n−OM:n−オクチルメルカプタン
HMBT:2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール
【0053】
(1−1)ゴム質含有共重合体粒子の製造(a−1)
内容積10Lの還流冷却器付反応器に、イオン交換水4600mL、乳化剤としてジオクチルスルホコハク酸ナトリウム33gを投入し、250rpmの回転数で攪拌しながら、窒素雰囲気下80℃に昇温し、酸素の影響が事実上無い状態(略無酸素状態)にした。ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート1.0gを添加してから5分後に、MMA220g、BA3.5g、St50g、ALMA0.27g及びDPBHP0.27gからなる単量体混合物のうち30質量%を一括添加し、その直後から残りの70質量%を20分間かけて連続的に添加し、添加終了後さらに60分間保持して内層の重合を完結させた。
【0054】
次に、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.8gを添加してから5分後に、BA620g、St330g、ALMA15.5g、TEGDA4.8g及びDPBHP2.0gからなる単量体混合物を60分間かけて連続的に添加し、添加終了後さらに80分間保持して中間層の重合を完結させた。
次に、MMA760g、BA50g、DPBHP1.6g及びn−OM1.0gからなる単量体混合物を70分間かけて連続的に添加し、添加終了後さらに60分間保持した。次いで、95℃に昇温し60分間保持して外層の重合を完結させた。
このようにして得られた重合体粒子の含まれた乳化液を少量採取し、上記物性の測定方法における(2)の方法で平均粒子径を求めたところ0.09μmであった。
残りの乳化液を3質量%硫酸ナトリウム温水溶液中へ投入して、塩析・凝固させ、次いで、脱水・洗浄を繰り返したのち乾燥し、ゴム質含有共重合体粒子(a−1)をパウダ−として得た。
【0055】
(1−2)ゴム質含有共重合体粒子の製造(a−2)
乳化剤としてジオクチルスルホコハク酸ナトリウム20gを投入した。その他の条件は上記(a−1)と同様の処方で重合を行った。
このようにして得られた重合体乳化液を少量採取し、上記物性の測定方法における(2)の方法で平均粒子径を求めたところ0.13μmであった。
(1−3)ゴム質含有共重合体粒子の製造(a−3)
内容積10Lの還流冷却器付反応器に、イオン交換水6868mL、乳化剤としてジヘキシルスルホコハク酸ナトリウム16gを投入し、250rpmの回転数で攪拌しながら、窒素雰囲気下75℃に昇温し、酸素の影響が事実上無い状態(略無酸素状態)にした。MMA907g、BA33g、HMBT0.28g及びALMA0.93gからなる混合物(I−1)のうち222gを一括添加し、5分後に過硫酸アンモニウム0.22gを添加した。その40分後から(I−1)の残りの719gを20分間かけて連続的に添加し、添加終了後さらに60分間保持した。
【0056】
次に、過硫酸アンモニウム1.01gを添加した後、BA1067g、St219g、HMBT0.39g、ALMA27.3gからなる混合物(I−2)を140分間かけて連続的に添加し、添加終了後さらに180分間保持した。
次に、過硫酸アンモニウム0.30gを添加した後、MMA730g、BA26.5g、HMBT0.22g、n−OM0.76gからなる混合物(I−3)を40分間かけて連続的に添加し、添加終了後95℃に昇温し30分間保持した。
このようにして得られた重合体乳化液を少量採取し、上記物性の測定方法における(2)の方法で平均粒子径を求めたところ0.2μmであった。
残りのラテックスを3質量%硫酸ナトリウム温水溶液中へ投入して、塩拆・凝固させ、次いで、脱水・洗浄を繰り返したのち乾燥し、ゴム質含有共重合体粒子(a−3)をパウダ−として得た。
各々の重合体粒子の各層の質量の割合、および各層中の組成比を表1に示した。
【0057】
【表1】

【0058】
[実施例1および2]
樹脂成形体(b−1)、(b−2)およびそれから得られる樹脂組成物(b−5)、(b−6)の製造
メタクリル酸メチル単量体72質量%、スチレン単量体16質量%、無水マレイン酸単量体12質量%からなる単量体混合物に、当該単量体混合物100質量部に対して、ラウロイルパーオキサイド0.05質量部、及びn−オクチルメルカプタン0.3質量部をそれぞれ添加し、上記ゴム質含有共重合体粒子(a−1)15質量部を、室温にてスクリュウ形攪拌翼で攪拌下に少量ずつ加え、均一な分散液とした。
300mm×400mmの2枚の強化ガラス板の周囲に軟質塩化ビニルチューブをセットし、クランプで押えた間隔5mmのセルに、減圧にして溶存空気を除去した前記分散液を注入した。
該セルを65℃に温調された循環温水中に20時間置き、その後70℃の温水中に2時間置いた。更に120℃の循環温風中に2時間置いた後、室温まで冷却してアクリル系樹脂キャスト板(b−1)、(b−2)を得た。
さらに、得られた上記キャスト板の一部を粗粉砕して樹脂組成物(b−5)、(b−6)を得た。
該樹脂組成物(b−5)(b−6)のゴム質含有共重合体粒子を除いた質量平均分子量は12万であった。
【0059】
[実施例3および4]
樹脂成形体(b−3)、(b−4)およびそれから得られる樹脂組成物(b−7)、(b−8)の製造
メタクリル酸メチル単量体70質量%、スチレン単量体16質量%、無水マレイン酸単量体14質量%からなる単量体混合物に、当該単量体混合物100質量部に対して、ラウロイルパーオキサイド0.05質量部、及びn−オクチルメルカプタン0.25質量部をそれぞれ添加し、上記ゴム質含有共重合体粒子(a−2)15質量部を、室温にてスクリュウ形攪拌翼で攪拌下に少量ずつ加え、均一な分散液とした。
300mm×400mmの2枚の強化ガラス板の周囲に軟質塩化ビニルチューブをセットし、クランプで押えた間隔5mmのセルに、減圧にして溶存空気を除去した前記分散液を注入した。
該セルを65℃に温調された循環温水中に20時間置き、その後70℃の温水中に2時間置いた。更に120℃の循環温風中に2時間置いた後、室温まで冷却してアクリル系樹脂キャスト板(b−3)(b−4)を得た。
さらに、得られた上記キャスト板の一部を粗粉砕して樹脂組成物(b−7)、(b−8)を得た。
(b−7)および(b−8)のゴム質含有共重合体粒子を除いた質量平均分子量は14万であった。
【0060】
[比較例1]
アクリル系樹脂とゴム質粒子とのドライブレンド組成物(c−1)の製造
樹脂組成物(b−1)の重合時にゴム質含有共重合体粒子(a−1)を添加せずにキャスト重合し、得られた重合体を粉砕後、ゴム質含有共重合体粒子(a−1)をドライブレンドして、ドライブレンド組成物(c−1)を得た。
【0061】
[比較例2]
従来の単量体(C)を含まないキャスト板(d−1)およびそれから得られる樹脂組成物(d−2)
メタクリル酸メチル96質量%、アクリル酸メチル4質量%からなる単量体混合物に、当該単量体混合物100質量部に対して、1,1−ジ−t−ブチルパーオキシ−3,3,3−トリメチルシクロヘキサン0.05質量部、及びn−オクチルメルカプタン0.15質量部をそれぞれ添加し、上記ゴム質含有共重合体粒子(a−3)15質量部を、室温にてスクリュウ形攪拌翼で攪拌下に少量ずつ加え、均一な分散液とした。
300mm×400mmの2枚の強化ガラス板の周囲に軟質塩化ビニルチューブをセットし、クランプで押えた間隔5mmのセルに、減圧にして溶存空気を除去した前記分散液を注入した。
該セルを40℃に温調された循環温水中に10時間置き、その後70℃の温水中に2時間置いた。更に120℃の循環温風中に2時間置いた後、室温まで冷却してメタクリル系樹脂キャスト板(d−1)を得た。
さらに、得られた上記キャスト板の一部を粗粉砕して樹脂組成物(d−2)を得た。
【0062】
[射出成形による評価]
上記実施例及び比較例で得られた樹脂組成物を、30mmベント付き2軸押出し機(ナカタニ機械株式会社製、A型)を用いて245〜255℃でペレタイズ化した。その際、異物対策として押出し機出口に300メッシュを使用した。
<射出成形>
得られた各種ペレットをインラインスクリゥー射出成形機(東芝機械株式会社製、IS−75S型)を用いて成形温度240〜260℃、射出圧力900kgf/cm、金型温度50℃の条件で所定の試験片を作製し、物性測定を行った。
組成物配合比、60×40×3mm射出成形品の成形温度、特性評価結果を表1に示した。
【0063】
【表2】

【0064】
実施例1においては、単量体重合時にゴム質含有共重合体を分散させたことにより、比較例1のドライブレンド組成物に比べて、透明性及び耐熱性を維持したままで、輝点数が少なく(異物が少ない)、衝撃強度が向上した樹脂成形体および樹脂組成物を得ることができた。また、実施例2では、実施例1に対しゴム質含有共重合体の量を20重量部に増やしたが、分散不良などの問題もなかったため、さらなる強度向上が見られた。
さらに、実施例3、4においては、第三単量体成分の共重合割合を増やすことにより、高耐熱性を有する樹脂組成物を得ることができた。
比較例2においては、単量体重合時にゴム質含有共重合体粒子を分散させているが、単量体の共重合組成比が本発明の単量体(C)を含んでいないためゴム質含有共重合体粒子の分散が不十分となり、70℃環境下へイズの上昇と輝点数の増大が見られた。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の樹脂組成物は、輝点が少ないことから透明性等の光学特性にも優れているため、光学材料用成形体として好適に用いることが可能である。例えば液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ、フィールドエミッションディスプレイ、リアプロジェクションテレビ等のディスプレイに用いられる導光板、拡散板、偏光板保護フィルム、1/4波長板、1/2波長板、視野角制御フィルム、液晶光学補償フィルム等の位相差フィルム、ディスプレイ前面板、ディスプレイ基盤、レンズ、タッチパネル等、また、太陽電池に用いられる透明基盤等への利用である。その他にも、光通信システム、光交換システム、光計測システムの分野において、導波路、レンズ、光ファイバー、光ファイバーの被覆材料、LEDのレンズ、レンズカバー等にも利用することができる。本発明の成形体は、例えば反射防止処理、透明導電処理、電磁波遮蔽処理、ガスバリア処理等の表面機能化処理をすることもできる。
【0066】
また、ゴム質含有樹脂粒子の分散性に優れることにより、耐衝撃性、耐熱性も向上している。例えば、家庭用器具、伝達器具、趣味またはスポーツ用器具の部品として、または自動車、船舶または航空機の構造の車体部品または車体部品の部品として使用できる。特に、耐衝撃性が要求される外装部品として好適であり、バンパー、フロントグリル、ヘッドランプ、ボディ周辺部品(バイザー等)、タイヤ周辺部品などに用いることが可能である。
さらに、コンソールボックス、シフトレバーボックス等の自動車内装部品、二輪車のカウリング等の車輌外装部品、家電製品、照明器具、携帯電話、家具、看板、建材等、また、従来から塗装が施されていた部材に塗装代替用フィルムとしての利用も可能であり、これら用途において非常に利用価値が高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタクリル酸エステル単量体単独又はアクリル酸エステル単量体との共重合体(A)、芳香族ビニル化合物単量体(B)、及び、六員環構造化合物単量体、不飽和ジカルボン酸無水物単量体、五員環構造化合物単量体の少なくとも一つから選ばれる単量体(C)の合計100質量部に対して、ゴム質含有共重合体粒子1質量部以上50質量部以下が分散された組成物を成形型内で重合して得られるメタクリル系樹脂成形体。
【請求項2】
単量体(C)が不飽和ジカルボン酸無水物単量体であることを特徴とする請求項1のメタクリル系樹脂成形体。
【請求項3】
単量体(C)が下記式(1)で表される構造を有する化合物であることを特徴とする請求項1又は2に記載のメタクリル系樹脂成形体。
【化1】

(式中、XはO又はN−Rを示し、Oは酸素原子、Nは窒素原子、Rは水素原子、アルキル基、アリール基、シクロアルキル基からなる群から選ばれるいずれかを示す。)
【請求項4】
成形体中の単量体(A)、(B)、(C)の質量比が、(A)30質量%以上90質量%以下、(B)5質量%以上40質量%以下、および(C)5質量%以上30質量%以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の樹脂成形体。
【請求項5】
ゴム質含有共重合体粒子が、以下の(i)〜(iii)の少なくとも3層を有し、平均粒子径が0.04〜0.3μmである多層構造粒子である請求項1乃至4のいずれか1項に記載の樹脂成形体。
(i)メタクリル酸メチル55〜84質量%、アクリル酸エステル1〜20質量%、芳香族ビニル化合物15〜25質量%を含有する内層10〜30質量%、
(ii)アクリル酸エステル60〜75質量%、芳香族ビニル化合物25〜40質量%を含有する中間層40〜60質量%、
(iii)メタクリル酸メチル80〜99質量%と前記メタクリル酸メチルと共重合可能な他の共重合性単量体1〜20質量%を含有する外層30〜50質量%
【請求項6】
上記請求項1〜5のいずれか1項に記載の樹脂成形体を粉砕して得られる樹脂組成物。
【請求項7】
メタクリル酸エステル単量体単独又はアクリル酸エステル単量体との共重合体(A)、芳香族ビニル化合物単量体(B)、及び、六員環構造化合物単量体、不飽和ジカルボン酸無水物単量体、五員環構造化合物単量体の少なくとも一つから選ばれる単量体(C)の合計100質量部に対して、ゴム質含有共重合体粒子1質量部以上50質量部以下を分散させた組成物を成形型内で重合することを特徴とする請求項1に記載のメタクリル系樹脂組成物の成形体の製造方法。
【化2】


【公開番号】特開2011−57795(P2011−57795A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−207349(P2009−207349)
【出願日】平成21年9月8日(2009.9.8)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】