説明

メタクリル系樹脂用改質剤

【課題】メタクリル系樹脂が有する優れた耐候性、透明性、耐擦傷性および剛性を犠牲にすることなく、メタクリル系樹脂の耐衝撃性や柔軟性を改良することができるメタクリル系樹脂用改質剤を提供する。
【解決手段】(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する繰り返し単位からなるガラス転移温度が23℃以下である重合体ブロック(a)30〜65質量%と共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位からなるガラス転移温度が0℃以下である重合体ブロック(b)35〜70質量%とを有するブロック共重合体(B)を含むものであり、該ブロック共重合体(B)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により算出したポリスチレン換算の数平均分子量が30,000〜600,000であり、且つ好ましくは屈折率が1.48〜1.50である、メタクリル系樹脂用改質剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタクリル系樹脂が有する優れた耐候性、透明性、耐擦傷性および剛性を犠牲にすることなく、メタクリル系樹脂の耐衝撃性や柔軟性を改良することができるメタクリル系樹脂用改質剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリメタクリル酸メチルに代表されるメタクリル系樹脂の成形品は、透明性に優れ、美麗な外観を有する。このような点から、メタクリル系樹脂成形品は、例えば、看板部品、ディスプレイ部品、照明部品、インテリア部品、建築用部品、輸送機器関係部品、電子機器部品、医療関係部品、光学関係部品、交通関係部品などに用いられている。ところが、メタクリル系樹脂は、耐衝撃性や柔軟性が低いという欠点を有し、さらに広く用途展開することが制限されている。
【0003】
メタクリル系樹脂の耐衝撃性や柔軟性を改良するために改質剤を添加する方法が提案されている。例えば、特許文献1に、乳化重合法によって製造した多層構造アクリルゴム粒子からなる耐衝撃性改質剤をメタクリル系樹脂にブレンドする方法が開示されている。この方法は現在工業的に実施されている。この多層構造アクリルゴム粒子からなる耐衝撃性改質剤は、3層あるいはそれ以上の層からなり、メタクリル酸メチルを主成分とする硬質層とアクリル酸n−ブチルなどのアクリル酸エステルを主成分とする軟質層とが、実質的に交互に重なった球状構造を有している。しかしながら、この方法によるメタクリル系樹脂の耐衝撃性の改善効果は十分なものとは言えない。また、多層構造アクリルゴム粒子をメタクリル系樹脂にブレンドする際に、多層構造アクリルゴム粒子同士が凝集して、塊(ゲルコロニー)を生じることがあり、この塊に起因して成形品にブツ(フィッシュアイ)が発生し、成形品の外観が損なわれることがあった。
【0004】
特許文献2には、ブタジエン−アクリル酸ブチル共重合体ゴムからなる耐衝撃性改質剤の存在下でメタクリル酸メチルを主成分とする単量体を重合する方法が開示されている。しかしながら、この方法では、該耐衝撃性改質剤の分散不良に起因して生ずる、成形品の外観不良などが依然として残されている。
【0005】
特許文献3には、部分水添共役ジエン重合体からなる耐衝撃性改質剤の存在下でメタクリル酸メチルを主成分とする単量体を重合する方法が開示されている。しかしながら、該部分水添共役ジエン重合体からなる耐衝撃性改質剤はメタクリル酸メチルに溶解しないため、他の溶剤に溶解させることが必要になり、製造プロセスが複雑になる。さらに、該方法は、相反転による粒子化、特に粒子サイズの制御が困難な場合がある。
【0006】
特許文献4には、特許文献3の部分水添共役ジエン重合体からなる耐衝撃性改質剤の代わりに、変性ブロック共重合体からなる耐衝撃性改質剤を用いた方法が開示されている。該方法で用いる変性ブロック共重合体は(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する繰り返し単位と芳香族ビニル単量体に由来する繰り返し単位とからなる共重合体である。しかしながら、特許文献4に記載の方法は、相反転による分散相の径制御は容易であるが、得られる成形品の耐衝撃性や柔軟性が十分でないという問題を有していた。
【0007】
特許文献5には、ビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックAと共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックBとからなるブロック共重合体の共役ジエン化合物の不飽和炭素の二重結合をエポキシ化したエポキシ変性ブロック重合体からなる耐衝撃性改質剤をメタクリル系樹脂に配合させる方法が開示されている。特許文献5の方法では、メタクリル系樹脂とエポキシ変性ブロック重合体との相溶性が改善されているものの、耐衝撃性や柔軟性においては未だ十分でない。
【0008】
特許文献6には、ポリメタクリル酸メチルまたはメタクリル酸メチルを主成分とする共重合体とポリ酢酸ビニルおよび/またはエチレン−酢酸ビニル共重合体とからなるグラフト共重合体および/またはポリメタクリル酸メチルまたはメタクリル酸メチルを主成分とする共重合体とポリ酢酸ビニルまたはエチレン−酢酸ビニル共重合体とからなるブロック共重合体からなる耐衝撃性改質剤が開示されている。ところが、特許文献6の耐衝撃性改質剤を配合した樹脂組成物は、透明性が低く、耐衝撃性や柔軟性においても未だ十分でない。
【0009】
特許文献7には、ビニル結合に富む共役ジエン重合体成分とアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステル重合体成分とからなるブロック共重合体からなる耐衝撃性改質剤の存在下でメタクリル酸メチルを重合する方法が開示されている。この方法で得られた成形材料は、これを成形するためにラボプラストミルなどで混練すると、モルフォロジーが崩れ、耐衝撃性や柔軟性が低下するものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特公昭59−36645号公報
【特許文献2】特公昭45−26111号公報
【特許文献3】WO96/032440
【特許文献4】特開2000−313786号公報
【特許文献5】特開平07−207110号公報
【特許文献6】特開平06−345933号公報
【特許文献7】特開昭49−45148号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、メタクリル系樹脂が有する優れた耐候性、透明性、耐擦傷性および剛性を犠牲にすることなく、メタクリル系樹脂の耐衝撃性や柔軟性を改良することができるメタクリル系樹脂用改質剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を行った結果、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する繰り返し単位からなる重合体ブロック(a)と共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位からなる重合体ブロック(b)とを有するブロック共重合体(B)を含むものであり、該ブロック共重合体(B)の数平均分子量がゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により算出したポリスチレン換算の数平均分子量において30,000〜600,000である、メタクリル系樹脂用改質剤を、メタクリル系樹脂に分散させることにより、メタクリル系樹脂が有する優れた耐候性、透明性、耐擦傷性および剛性を犠牲にすることなく、メタクリル系樹脂の耐衝撃性や柔軟性を大幅に改良できることを見出した。本発明は、この知見に基づきさらに検討し、完成するに至ったものである。
【0013】
すなわち、本発明は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する繰り返し単位からなる重合体ブロック(a)と共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位からなる重合体ブロック(b)とを有するブロック共重合体(B)を含むものであり、該ブロック共重合体(B)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により算出したポリスチレン換算の数平均分子量が30,000〜600,000である、メタクリル系樹脂用改質剤である。
【0014】
また、本発明は、メタクリル酸メチルに由来する繰り返し単位を50質量%以上有するメタクリル系樹脂(A)からなる連続相に、前記メタクリル系樹脂用改質剤を分散相として含有する、メタクリル系樹脂組成物、 および
前記メタクリル系樹脂用改質剤を、メタクリル酸メチルを50質量%以上含む単量体混合物(Am)に溶解し、せん断下で単量体混合物(Am)の重合を行い、重合途中において単量体混合物(Am)の重合体の溶液相とメタクリル系樹脂用改質剤の溶液相とを相反転させることを含む、メタクリル系樹脂(A)からなる連続相にメタクリル系樹脂用改質剤が分散相として含有するメタクリル系樹脂組成物の製造方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明のメタクリル系樹脂用改質剤を、メタクリル系樹脂に分散させると、メタクリル系樹脂が有する優れた耐候性、透明性、耐擦傷性および剛性を犠牲にすることなく、メタクリル系樹脂の耐衝撃性や柔軟性を改良することができる。また、本発明のメタクリル系樹脂用改質剤を用いると、メタクリル系樹脂の成形加工性が良好となり、得られる成形品の外観が良好である。本発明のメタクリル系樹脂用改質剤は強い混練工程を経てもモルフォロジーが崩れないので、耐衝撃性や柔軟性が低下しない。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明をさらに詳しく説明する。
本発明のメタクリル系樹脂用改質剤は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する繰り返し単位からなるガラス転移温度が好ましくは23℃以下、より好ましくは0℃以下、更に好ましくは−10℃以下である重合体ブロック(a)と共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位からなるガラス転移温度が好ましくは0℃以下、より好ましくは−10℃以下である重合体ブロック(b)とを有するブロック共重合体(B)を含むものである。
【0017】
重合体ブロック(a)を構成する(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する繰り返し単位は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルの付加重合によって得られるものである。なお、「(メタ)アクリル」は、メタクリルまたはアクリルの意である。
メタクリル酸アルキルエステルとしては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸シクロヘキシルなどが挙げられ、アクリル酸アルキルエステルとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸i−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシルなどが挙げられる。これらは1種単独で重合されていてもよいし、2種以上を組合せて共重合されていてもよい。これらの中でも、ガラス転移温度(Tg)が23℃以下の重合体ブロック(a)を与える単量体または単量体の組合せが好ましく、Tgが0℃以下の重合体ブロック(a)を与える単量体または単量体の組合せがより好ましく、Tgが−10℃以下の重合体ブロック(a)を与える単量体または単量体の組合せが更に好ましい。このような単量体としては、アクリル酸n−ブチル及び/又はアクリル酸2−エチルヘキシルが好ましく、アクリル酸n−ブチルがより好ましい。
【0018】
重合体ブロック(b)を構成する共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位は、共役ジエン化合物の付加重合によって得られるものである。
共役ジエン化合物としては、1,3−ブタジエン、イソプレン、ペンタジエン、2,3−ジメチルブタジエンなどが挙げられる。これらは1種単独で重合されていてもよいし、2種以上を組合せて共重合されていてもよい。これらの中でも、ガラス転移温度(Tg)が0℃以下の重合体ブロック(b)を与える単量体または単量体の組合せが好ましく、Tgが−10℃以下の重合体ブロック(b)を与える単量体または単量体の組合せがより好ましい。また、汎用性、経済性、取り扱い性の点から1,3−ブタジエン及び/又はイソプレンが好ましく、1,3−ブタジエンがより好ましい。
【0019】
共役ジエン化合物は、1,4−付加重合するものと、1,2−又は3,4−付加重合するものとがある。共役ジエン化合物が1,4−付加重合すると分子主鎖中に炭素−炭素二重結合を有するようになる。共役ジエン化合物が1,2−又は3,4−付加重合すると分子主鎖に結合するビニル基(側鎖ビニル結合)を有するようになる。この分子主鎖中の炭素−炭素二重結合及び/又は分子主鎖に結合するビニル基は、グラフト反応や架橋反応の起点となる。共役ジエン化合物の1,2−又は3,4−付加重合の割合は反応系にエーテル類などの極性化合物を加えることにより増加させることができる。
【0020】
重合体ブロック(b)中の側鎖ビニル結合量は、連続相となるメタクリル系樹脂とのグラフト反応性および分散相の架橋反応性や、メタクリル系樹脂組成物の耐衝撃性を考慮して選択される。重合体ブロック(b)中の側鎖ビニル結合量は、3mol%〜85mol%であることが好ましく、10mol%〜60mol%であることがさらに好ましい。側鎖ビニル結合量がこの範囲にあると耐衝撃性や柔軟性の改善効果が大きくなる。なお、側鎖ビニル結合量は、共役ジエン化合物1モルの内、1,2−付加重合または3,4−付加重合した共役ジエン化合物の割合[mol%]で表される。例えば、1,3−ブタジエンに由来する繰り返し単位からなる重合体ブロック(b)である場合、1H−NMRを用いて分析し、化学シフト4.7〜5.2ppm(以後、シグナルC0という。)の1,2−ビニルによるプロトン(=CH2)と、化学シフト5.2〜5.8ppm(以後、シグナルD0という。)のビニルプロトン(=CH−)の積分強度を求め、次式によって、側鎖ビニル結合量V0[%]を計算して求めることができる。
0=〔(C0/2)/{C0/2+(D0−C0/2)/2}〕×100
【0021】
重合体ブロック(b)は、前述の分子主鎖中の炭素−炭素二重結合及び/又は分子主鎖に結合するビニル基を部分的に水素添加したものであってもよい。本発明の効果を維持する観点から、重合体ブロック(b)の水素添加率は70mol%未満であることが好ましく、50mol%未満であることがさらに好ましい。水素添加の方法は、特に限定されず、例えば、特公平5−20442号公報に開示された方法によって達成される。
【0022】
本発明に用いるブロック共重合体(B)の全体の数平均分子量(Mn)は、30,000〜600,000、好ましくは50,000〜400,000である。
なお、数平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により算出したポリスチレン換算の値である。
【0023】
ブロック共重合体(B)の数平均分子量が30,000より低い場合には、メタクリル系樹脂への耐衝撃性付与効果が低下傾向になる。また、分子量の低いブロック共重合体(B)を合成するためには、開始剤などの副原料を多く使用するため、経済的にも好ましくない。
【0024】
ブロック共重合体(B)の数平均分子量が600,000より高い場合には、メタクリル系樹脂用改質剤を含有してなる分散相の径が大きくなり、得られるメタクリル系樹脂組成物の弾性率が低下傾向になる。この傾向はブロック共重合体(B)を、メタクリル酸メチル50質量%以上を含む単量体混合物に溶解後、せん断下で重合を行い、相反転により該ブロック共重合体を分散させる方法でメタクリル系樹脂組成物を合成する場合に特に顕著となる。
【0025】
重合体ブロック(a)と重合体ブロック(b)との質量比は、重合体ブロック(a)と重合体ブロック(b)との合計を100質量%としたときに、重合体ブロック(a)は、好ましくは30〜65質量%、より好ましくは40〜60質量%である。重合体ブロック(b)は、好ましくは35〜70質量%、より好ましくは40〜60質量%である。
【0026】
ブロック共重合体(B)は、重合体ブロック(a)および重合体ブロック(b)をそれぞれ1つずつ有するものであってもよいし、重合体ブロック(a)および/または重合体ブロック(b)を2つ以上有するものであってもよい。
該ブロック共重合体の結合様式としては、a―b型ジブロック共重合体、a―b―a型トリブロック共重合体、b―a―b型トリブロック共重合体、a―b―a―b型テトラブロック共重合体、b―a―b―a型テトラブロック共重合体などで代表される線状マルチブロック共重合体、(b―a―)n、(a―b―)nなどで代表される星型(ラジアルスター型)ブロック共重合体、a―g―bで代表されるグラフト共重合体などが挙げられる。なお、nは2より大きい値である。gはグラフト結合を示す結合記号である。ブロック共重合体(B)は、重合体ブロック(a)と重合体ブロック(b)との間に傾斜連結部を有するものであってもよい。傾斜連結部は、重合体ブロック(a)の繰り返し単位の組成から、重合体ブロック(b)の繰り返し単位の組成に、漸次変化していく繰り返し単位組成を有する部分である。これらブロック共重合体は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0027】
ブロック共重合体(B)は、その屈折率が、好ましくは1.48〜1.50、より好ましくは1.485〜1.495である。屈折率がこの範囲にあることでメタクリル系樹脂の透明性が維持される。
ブロック共重合体(B)の屈折率は、重合体を構成する繰り返し単位の種類、組成比や重合体ブロック(b)中の側鎖ビニル結合量などを選択することによって調整できる。例えば、アクリル酸n−ブチルに由来する繰り返し単位からなる重合体ブロック(a)と1,3−ブタジエンに由来する繰り返し単位からなる未水添の重合体ブロック(b)からなるジブロック共重合体では、ジブロック共重合体全体の質量に対してアクリル酸n−ブチルの含量を40〜60質量%、1,3−ブタジエンの含量を60〜40質量%にすると、ポリメタクリル酸メチルの屈折率とほぼ一致し、透明なメタクリル系樹脂組成物を得ることができる。
【0028】
ブロック共重合体(B)としては、アクリル酸n−ブチル単量体に由来する繰り返し単位からなる重合体ブロックと1,3−ブタジエン単量体に由来する繰り返し単位からなる重合体ブロックよりなるジブロック共重合体やラジアルスター型共重合体、アクリル酸2−エチルヘキシル単量体に由来する繰り返し単位からなる重合体ブロックと1,3−ブタジエン単量体に由来する繰り返し単位からなる重合体ブロックよりなるジブロック共重合体やラジアルスター型共重合体、メタクリル酸メチル単量体に由来する繰り返し単位からなる重合体ブロックとアクリル酸n−ブチル単量体に由来する繰り返し単位からなる重合体ブロックと1,3−ブタジエン単量体に由来する繰り返し単位からなる重合体ブロックよりなるトリブロック共重合体やラジアルスター型共重合体が例示される。
【0029】
ブロック共重合体(B)として、星型ブロック共重合体が、樹脂組成物中の分散相の機械的強度の観点から、特に好ましい。
星型ブロック共重合体は、複数の腕重合体ブロックが多官能性単量体や多官能性カップリング剤などに由来する基(カップリング剤残基)によって連結した共重合体を含むものである。
【0030】
星型ブロック共重合体を構成する腕重合体ブロックは、重合体ブロック(a)及び/又は重合体ブロック(b)を有するものであれば、その結合態様によって制限されない。腕重合体ブロックとしては、a―b型のジブロック共重合体、a―b―a型のトリブロック共重合体、b―a―b型のトリブロック共重合体、a―b―a―b型のテトラブロック共重合体、重合体ブロック(a)と重合体ブロック(b)とが四つ以上結合したマルチブロック共重合体などが挙げられる。星型ブロック共重合体を構成する複数の腕重合体ブロックは、同じ種類のブロック共重合体であってもよいし、異なる種類のブロック共重合体であってもよい。
【0031】
本発明では、化学構造式:
(重合体ブロック(b)―重合体ブロック(a)―)n
(式中、Xはカップリング剤残基、nは2を超える数を表す。)で表されるものが星型ブロック共重合体として特に好ましい。
【0032】
星型ブロック共重合体は、GPCにより算出したポリスチレン換算の数平均分子量において、 式:
〔星型ブロック共重合体の数平均分子量〕>2×〔腕重合体ブロックの数平均分子量〕
を満たすことが好ましい。
なお、〔星型ブロック共重合体の数平均分子量〕/〔腕重合体ブロックの数平均分子量〕の比は腕数と呼ばれることがある。
【0033】
星型ブロック共重合体の数平均分子量が、腕重合体ブロックの数平均分子量の2倍を超える範囲にすることで、樹脂組成物の連続相中に分散した星型ブロック共重合体を含有してなる分散相のせん断に対する機械的強度が高くなり、所望の耐衝撃性能をえることができるようになる。なお、星型ブロック共重合体の数平均分子量が、腕重合体ブロックの数平均分子量の100倍より大きいものは合成が難しいので、工業的に好ましい星型ブロック共重合体の数平均分子量は、腕重合体ブロックの数平均分子量の2倍より大きく且つ100倍以下であり、より好ましくは2.5〜50倍であり、さらに好ましくは3〜10倍である。
【0034】
なお、本発明に好適に用いられるブロック共重合体(B)は、星型ブロック共重合体を主成分とするものであるが、それ以外にカップリング剤残基によって連結していない腕重合体ブロックが含まれていてもよい。星型ブロック共重合体/カップリング剤残基によって連結していない腕重合体ブロックの質量比は、20/80以上が好ましく、30/70以上がより好ましい。
【0035】
ブロック共重合体は、その製造方法によって特に限定されず、公知の手法に準じた方法で得られたものから採用することができる。一般に、分子量分布の狭いブロック共重合体を得る方法としては、構成単位である単量体をリビング重合する方法が採用される。リビング重合の手法としては、例えば、有機希土類金属錯体を重合開始剤として用いて重合する方法、有機アルカリ金属化合物を重合開始剤として用い、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の鉱酸塩などの存在下でアニオン重合する方法、有機アルカリ金属化合物を重合開始剤として用い、有機アルミニウム化合物の存在下でアニオン重合する方法、原子移動ラジカル重合(ATRP)法などが挙げられる。
【0036】
上記の製造方法のうち、有機アルカリ金属化合物を重合開始剤として用い、有機アルミニウム化合物の存在下でアニオン重合する方法は、比較的緩和な温度条件下で、より分子量分布の狭く且つ残存単量体が少ないブロック共重合体を製造でき、工業的生産における環境負荷(主に重合温度を制御するために必要な冷凍機の消費電力)が少ないという点で好ましい。
【0037】
上記のアニオン重合に用いられる有機アルカリ金属化合物としては、有機リチウム化合物が好適である。
有機リチウム化合物の具体例としては、メチルリチウム、エチルリチウム、n−プロピルリチウム、イソプロピルリチウム、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、イソブチルリチウム、tert−ブチルリチウム、n−ペンチルリチウム、n−ヘキシルリチウム、テトラメチレンジリチウム、ペンタメチレンジリチウム、ヘキサメチレンジリチウムなどのアルキルリチウムおよびアルキルジリチウム;フェニルリチウム、m−トリルリチウム、p−トリルリチウム、キシリルリチウム、リチウムナフタレンなどのアリールリチウムおよびアリールジリチウム;ベンジルリチウム、ジフェニルメチルリチウム、トリチルリチウム、1,1−ジフェニル−3−メチルペンチルリチウム、α−メチルスチリルリチウム、ジイソプロペニルベンゼンとブチルリチウムの反応により生成するジリチウムなどのアラルキルリチウムおよびアラルキルジリチウム;リチウムジメチルアミド、リチウムジエチルアミド、リチウムジイソプロピルアミドなどのリチウムアミド;メトキシリチウム、エトキシリチウム、n−プロポキシリチウム、イソプロポキシリチウム、n−ブトキシリチウム、sec−ブトキシリチウム、tert−ブトキシリチウム、ペンチルオキシリチウム、ヘキシルオキシリチウム、ヘプチルオキシリチウム、オクチルオキシリチウム、フェノキシリチウム、4−メチルフェノキシリチウム、ベンジルオキシリチウム、4−メチルベンジルオキシリチウムなどのリチウムアルコキシドが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0038】
上記のアニオン重合において用いられる有機アルミニウム化合物としては、例えば、下記の一般式:
AlR123
(式中、R1、R2およびR3はそれぞれ独立して置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいアラルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシル基、置換基を有していてもよいアリールオキシ基またはN,N−二置換アミノ基を表すか、またはR1が前記したいずれかの基を表し、R2およびR3は一緒になって置換基を有していてもよいアリーレンジオキシ基を表す。)で表される有機アルミニウム化合物が挙げられる。
この有機アルミニウム化合物の中でも、イソブチルビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノキシ)アルミニウム、イソブチルビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノキシ)アルミニウム、イソブチル〔2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノキシ)〕アルミニウムは、取り扱いが容易であり、また、比較的緩和な温度条件下で失活することなくアニオン重合反応を進行させることができる点で好ましい。
【0039】
上記のアニオン重合においては、必要に応じて、反応系内に、ジメチルエーテル、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、12−クラウン−4−エーテルなどのエーテル類;トリエチルアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N”,N”−ペンタメチルジエチレントリアミン、1,1,4,7,10,10−ヘキサメチルトリエチレンテトラミン、ピリジン、2,2’−ジピリジルなどの含窒素化合物を、重合反応の安定のためにさらに共存させることができる。
【0040】
星型ブロック共重合体は、上記のアニオン重合などによって得られたブロック共重合体の反応液に多官能性単量体を添加して共重合することによって、またはブロック共重合体の反応液に多官能性カップリング剤を添加してカップリング反応させることによって得られる。
多官能性単量体は、エチレン性不飽和基を2以上有する化合物であり、具体的には、メタクリル酸アリル、ジメタクリル酸エチレングリコール、ジメタクリル酸1,3−ブチレングリコール、ジビニルベンゼン、1,6−ヘキサンジオールジアクリレートなどが挙げられる。
多官能性カップリング剤は、反応性基を3以上有する化合物であり、具体的には、トリクロロメチルシラン、テトラクロロシラン、ブチルトリクロロシラン、ビス(トリクロロシリル)エタン、テトラクロロスズ、ブチルトリクロロスズ、テトラクロロゲルマニウムなどが挙げられる。
【0041】
本発明のメタクリル系樹脂用改質剤が適用できるメタクリル系樹脂(A)は、メタクリル酸メチルに由来する繰り返し単位を50質量%以上、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上有する樹脂である。
メタクリル酸メチルに由来する繰り返し単位以外のビニル系単量体に由来する繰り返し単位としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチルなどのアクリル酸アルキルエステル;メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチルなどのメタクリル酸メチルを除くメタクリル酸アルキルエステル;アクリルアミド、メタクリルアミド、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、スチレン、α−メチルスチレンなど;の一分子中にアルケニル基を一個だけ有する非架橋性単量体に由来する繰り返し単位が挙げられる。
メタクリル酸メチル/他のビニル系単量体の質量比は、50/50〜100/0、好ましくは80/20〜99/1、より好ましくは90/10〜98/2である。
【0042】
メタクリル系樹脂(A)のGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)で測定された重量平均分子量は、好ましくは7万〜20万、より好ましくは8万〜15万、特に好ましくは9万〜12万である。重量平均分子量が7万未満ではメタクリル系樹脂組成物の耐衝撃性が低下傾向になる。重量平均分子量が20万を超えるとメタクリル系樹脂組成物の流動性が低下して成形加工性が低下傾向になる。
さらに、メタクリル系樹脂のGPCで測定された分子量分布(=重量平均分子量/数平均分子量)は、好ましくは3.0以下、より好ましくは2.5以下、特に好ましくは2.3以下である。分子量分布が3.0を超えるとメタクリル系樹脂組成物の耐衝撃性が低下傾向になる。メタクリル系樹脂の分子量や分子量分布は、重合開始剤および連鎖移動剤の種類や量などを調整することによって制御できる。
【0043】
本発明のメタクリル系樹脂用改質剤には、必要に応じて公知の酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定化剤、滑剤、離型剤、帯電防止剤、高分子加工助剤、難燃剤、染顔料、光拡散剤、蛍光体などが含まれていてもよい。
【0044】
メタクリル系樹脂に適用できる本発明のメタクリル系樹脂用改質剤の量は、メタクリル系樹脂(A)100質量部に対して、通常、1〜80質量部、好ましくは2〜30質量部、より好ましくは4〜20質量部である。該メタクリル系樹脂用改質剤の量が1質量部未満になるとメタクリル系樹脂組成物の耐衝撃性向上の効果が小さい。メタクリル系樹脂用改質剤の量が80質量部よりも多くなると、メタクリル系樹脂用改質剤が分散相を形成し難くなる。また、メタクリル系樹脂組成物の弾性率が低下傾向になる。
【0045】
本発明のメタクリル系樹脂組成物は、メタクリル系樹脂用改質剤が分散相としてメタクリル系樹脂(A)からなる連続相に含有しているものである。
分散相の平均径は、通常、0.1〜2μm、好ましくは0.15〜1μm、より好ましくは0.2〜0.5μmである。分散相の平均径が小さいと耐衝撃性が低下傾向になり、分散相の平均径が大きいと剛性、透明性及び表面平滑性が低下傾向になる。
【0046】
本発明のメタクリル系樹脂組成物は、その製造方法によって特に制限されない。例えば、連続相を構成するメタクリル系樹脂(A)に、分散相を構成するメタクリル系樹脂用改質剤を添加し、単軸あるいは二軸の溶融押出機などにおいて溶融混練することによって得ることができる。
しかしながら、本発明のメタクリル系樹脂組成物の製造方法としては、本発明のメタクリル系樹脂用改質剤を、メタクリル酸メチルを50質量%以上含む単量体混合物(Am)に溶解し、せん断下で単量体混合物(Am)の重合を行い、重合途中において単量体混合物(Am)の重合体の溶液相とメタクリル系樹脂用改質剤の溶液相とを相反転させる方法が好ましい。
【0047】
本発明のメタクリル系樹脂組成物の製造方法では、まず、本発明のメタクリル系樹脂用改質剤を、メタクリル酸メチル50〜100質量%およびメタクリル酸メチルと共重合可能な他のビニル系単量体0〜50質量%からなる単量体混合物(Am)および必要に応じて溶剤(C)に溶解して、原料液を調製する。
【0048】
単量体混合物(Am)に用いられるメタクリル酸メチルおよびメタクリル酸メチルと共重合可能な他のビニル系単量体は前記したものと同じものである。
本発明に使用する溶剤(C)は、単量体混合物(Am)、単量体混合物(Am)の重合体(すなわち、メタクリル系樹脂(A))、およびメタクリル系樹脂用改質剤に対して溶解能を有するものであれば特に制限されない。例えば、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素などが望ましいものとして挙げられる。また、必要に応じて、2種類以上の溶剤を混合して用いて良い。混合溶剤を用いる場合には、単量体混合物(Am)、メタクリル系樹脂(A)およびメタクリル系樹脂用改質剤を溶解できる混合溶剤であれば、単量体混合物(Am)、メタクリル系樹脂(A)およびメタクリル系樹脂用改質剤を溶解できない溶剤が混合溶剤に含まれていても良い。例えば、メタノール、エタノール、ブタノールなどのアルコール類;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類;ヘキサンなどの炭化水素;シクロヘキサンなどの脂環式炭化水素などが混合溶剤に含まれていてもよい。
【0049】
原料液中のメタクリル系樹脂用改質剤の量は、単量体混合物(Am)100質量部に対して、通常、1〜80質量部、好ましくは2〜30質量部、より好ましくは4〜20質量部である。メタクリル系樹脂用改質剤の量が1質量部未満になるとメタクリル系樹脂組成物の耐衝撃性向上の効果が小さい。メタクリル系樹脂用改質剤の量が80質量部よりも多くなると、メタクリル系樹脂用改質剤が分散相を形成し難くなる。また、メタクリル系樹脂組成物の弾性率が低下し、メタクリル系樹脂が本来有していた優れた剛性を失うことになる。
【0050】
メタクリル系樹脂用改質剤の溶解は攪拌によって促進され、30〜60℃程度に加熱することによりさらに促進される。また、原料液を調製する際、必要に応じて上記溶剤(C)を使用することができる。
【0051】
原料液中の溶剤(C)の量は、単量体混合物(Am)100質量部に対して、通常、0〜100質量部、好ましくは0〜90質量部である。溶剤の量が多いほど、原料液の粘度が下がり取り扱い性が良好となるが、連鎖移動反応などの副反応を引き起こし、グラフト反応および架橋反応を阻害することがあり、生産性が低下傾向になる。
【0052】
次に、原料液を重合する。原料液の重合によって、単量体混合物(Am)の重合反応が進行するのと同時に、メタクリル系樹脂用改質剤と単量体混合物(Am)との間でグラフト反応および/または架橋反応が進行する。
原料液の重合には、ラジカル重合開始剤が通常用いられる。また必要に応じて連鎖移動剤が用いられる。
【0053】
重合開始剤は反応ラジカルを発生するものであれば特に限定されない。重合開始剤としては、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスシクロヘキシルカルボニトリルなどのアゾ化合物;ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネートなどの有機過酸化物などが挙げられる。これら重合開始剤は単独で用いてもよいし、2種類以上を組合せて用いてもよい。また、重合開始剤の添加時期や添加方法などは、所定の重合反応が進行すればよく、特に限定されるものでないが、重合開始時に仕込んだ重合開始剤で前段重合を行い、反応の途中で重合開始剤を追加添加して後段重合を行うことが好ましい。
【0054】
連鎖移動剤としては、n−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、1,4−ブタンジチオール、1,6−ヘキサンジチオール、エチレングリコールビスチオプロピオネート、ブタンジオールビスチオグリコレート、ブタンジオールビスチオプロピオネート、ヘキサンジオールビスチオグリコレート、ヘキサンジオールビスチオプロピオネート、トリメチロールプロパントリス−(β−チオプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキスチオプロピオネートなどのアルキルメルカプタン類;α−メチルスチレンダイマー;テルピノレンなどを挙げることができる。これらは、単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0055】
原料液の重合では、重合初期から相反転が生じるまでは、原料液に撹拌によるせん断力を与えることが重要である。重合初期では、単量体混合物(Am)の重合が主に進行してメタクリル系樹脂が生成する。重合転化率の増加とともに、単量体混合物(Am)の重合で生成したメタクリル系樹脂の溶液相の割合が多くなり、メタクリル系樹脂の溶液相とメタクリル系樹脂用改質剤の溶液相とが相分離してくる。
【0056】
せん断を加えながら重合反応させることによって、相全体を安定化させる為の作用が働き、撹拌によるせん断力によって、メタクリル系樹脂の溶液相とメタクリル系樹脂用改質剤の溶液相とが相反転し、メタクリル系樹脂の溶液相が連続相になりメタクリル系樹脂用改質剤の溶液相が分散相になる。この相反転が起きる際の単量体混合物(Am)の重合転化率は、メタクリル系樹脂の溶液相とメタクリル系樹脂用改質剤の溶液相の体積比、ブロック共重合体(B)の分子量、相反転前までのメタクリル系樹脂用改質剤へのグラフト率、溶剤を用いた場合には溶剤量や溶剤種によって変化する。
【0057】
原料液にせん断力を与えながら重合を行うための装置としては、攪拌機付きの槽型反応器、攪拌機付きの筒型反応器、静的攪拌能力を有する筒型反応器などが挙げられる。これら装置は、1基以上であっても良く、また、異なる反応器2基以上の組合せでもよい。また、重合は回分式または連続式のどちらであっても良い。なお、原料液の重合は、重合初期から相反転が生じるまでは、塊状重合法または溶液重合法で行うことが好ましい。
【0058】
分散相の径は、攪拌機付反応器であれば攪拌回転数などの因子によって;塔型反応器に代表される静的攪拌反応器であれば反応液の線速度、重合系の粘度、相反転前までのメタクリル系樹脂用改質剤へのグラフト率など種々の因子によって制御可能である。
ここで、重合反応器が一定である場合には、重合系の粘度、特にメタクリル系樹脂用改質剤相の粘度が分散相の径制御の重要な因子となる。ブロック共重合体(B)の分子量が600,000よりも高くなると、メタクリル系樹脂用改質剤の溶液相の粘度が高くなり分散相の径が大きくなる。この場合、メタクリル系樹脂組成物の剛性が低下し、所望の性能が得られない。逆に、ブロック共重合体(B)の分子量が30,000よりも低くなると、メタクリル系樹脂用改質剤の溶液相の粘度が低下し、分散相の径は小さくなるが、耐衝撃性能が低下してしまい、所望の性能が得られない。
【0059】
相反転が生じた後の重合には、塊状重合法または溶液重合法が適用できるが、これら以外に懸濁重合法、注型重合法も適用できる。
【0060】
本発明においては、単量体混合物(Am)の重合転化率を70質量%以上にすることが好ましく、80質量%以上にすることがより好ましい。重合転化率がこれよりも低いと、相反転により形成したメタクリル系樹脂用改質剤を含んでなる分散相内の架橋反応およびグラフト反応が十分に進行しにくい。架橋反応およびグラフト反応が十分に進行していない場合、メタクリル系樹脂組成物中の分散相は、押出機や、混練機などの機械的なせん断により容易に破壊され、衝撃強度が十分とは言えなくなると同時に、成形加工法によって機械的強度が変化する恐れがある。架橋反応及びグラフト反応をより進め、衝撃強度を高めるためには、重合開始剤を反応途中において追加添加することが好ましい。一方、重合転化率は95質量%以下であることが好ましい。95質量%を超えるとメタクリル系樹脂(A)からなる連続相の分子量分布が広くなり、耐衝撃性が低下傾向になる。
【0061】
尚、重合途中におけるメタクリル系樹脂用改質剤を含んでなる分散相生成の有無及び分散相の径は、重合途中の原料液の一部を抜き取り、それを懸濁重合し得られたメタクリル系樹脂組成物のモルフォロジーを走査型電子顕微鏡で観察する方法あるいは、重合途中の原料液の一部を抜き取り、それを乾燥、脱揮することで未反応単量体、溶剤を除去し、その組成物のモルフォロジーを走査型電子顕微鏡で観察する方法により確認できる。
【0062】
単量体混合物(Am)の重合転化率が70質量%〜95質量%になった後、脱揮処理して、未反応単量体及び溶剤を除去する。脱揮法としては、平衡フラッシュ方式や断熱フラッシュ方式が挙げられる。特に断熱フラッシュ方式では、好ましくは180〜300℃、より好ましくは200〜270℃の温度で脱揮を行う。180℃未満では脱揮に時間を要し、脱揮不十分なときには成形品にシルバーなどの外観不良を起こすことがある。逆に300℃を超えると酸化、焼けなどによってメタクリル系樹脂組成物に色が着くことがある。脱揮に用いられる装置としては、フラッシュドラム、二軸脱揮器、薄膜蒸発器、押出機などが挙げられる。残存揮発分は0.5質量%以下が好ましく、0.4質量%以下がより好ましく、0.3質量%以下が更に好ましい。残存揮発分が0.5質量%を超えると熱変形温度などが低下傾向になる。
【0063】
分散相には本発明のメタクリル系樹脂用改質剤とメタクリル系樹脂(A)との海島構造を成したものが含まれている。該分散相の海島構造は、メタクリル系樹脂組成物の成形品をダイヤモンドナイフを用いて切り出し超薄切片を得、この切片を四酸化オスミウムで染色し、透過型電子顕微鏡を用いて観察することによって確認できる。
【0064】
四酸化オスミウムによる染色では、ブロック共重合体(B)中の重合体ブロック(b)が染色される。分散相は染色された部分(メタクリル系樹脂用改質剤〔ブロック共重合体(B)〕)からなる海相と染色されていない部分(メタクリル系樹脂(A))からなる島相とで構成されている。
該島相の平均径は、通常、0.05〜0.2μm、好ましくは0.05〜0.1μmである。
成形品切片において観察される島相/海相の面積比は、好ましくは20/80以上、より好ましくは30/70〜70/30である。
また、海島構造を成した分散相の割合が、全分散相の20質量%以上であることが好ましく、30〜100質量%であることがより好ましい。
【0065】
本発明のメタクリル系樹脂組成物には、必要に応じて公知の酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定化剤、滑剤、離型剤、帯電防止剤、高分子加工助剤、難燃剤、染顔料、光拡散剤、耐衝撃性改質剤、蛍光体などを添加することができる。また、本発明のメタクリル系樹脂組成物は、上記の相反転による製造方法で得られた後で、通常のメタクリル系樹脂(D)で希釈して使用することもできる。また、その他AS樹脂、ABS樹脂、AES樹脂、AAS樹脂、MS樹脂、MBS樹脂、スチレン樹脂、ハイインパクトポリスチレン樹脂、塩化ビニル樹脂など他の樹脂と混合して使用することもできる。
【0066】
本発明のメタクリル系樹脂組成物には、本発明のメタクリル系樹脂用改質剤以外の耐衝撃性改質剤を用いることができる。他の耐衝撃性改質剤としては、アクリル系ゴムもしくはジエン系ゴムをコア層成分として含むコアシェル型改質剤、ゴム粒子を複数包含した改質剤などが挙げられる。他の耐衝撃性改質剤はいくらかの特性を改善させるために通常の使用量より少量添加することが好ましい。
【0067】
本発明のメタクリル系樹脂組成物を用いれば、強靱化された成形品を得ることができる。例えば、射出成形、圧縮成形、押出成形、真空成形など、従来より知られる溶融加熱成形により成形品が得られる。その成形品において、本発明のメタクリル系樹脂用改質剤を含んでなる分散相の径の大きさや形はある程度変化するかもしれないが、外見上の変化は見られない。加熱溶融成形された成形品は、相当するメタクリル系樹脂組成物と少なくとも同等の特性を有している。
【0068】
本発明のメタクリル系樹脂組成物は、耐衝撃性や柔軟性のみならず、耐候性、透明性に優れているので、各種の成形用品、または成形部品に適している。その用途としては、例えば広告塔、スタンド看板、袖看板、欄間看板、屋上看板などの看板用品;ショーケース、仕切板、店舗ディスプレイなどのディスプレイ用品;蛍光灯カバー、ムード照明カバー、ランプシェード、光天井、光壁、シャンデリアなどの照明用品;ペンダント、ミラーなどのインテリア用品;ドア、ドーム、安全窓ガラス、間仕切り、階段腰板、バルコニー腰板、レジャー用建築物の屋根などの建築用部品;航空機風防、パイロット用バイザー、オートバイ、モーターボート風防、バス用遮光板、自動車用サイドバイザー、リアバイザー、ヘッドウィング、ヘッドライトカバーなどの輸送機関係部品;音響映像用銘板、ステレオカバー、テレビ保護マスク、自動販売機などの電子機器部品;保育器、レントゲン部品などの医療機器部品;機械カバー、計器カバー、実験装置、定規、文字盤、観察窓などの機器関係部品;液晶保護板、導光板、導光フィルム、フレネルレンズ、レンチキュラーレンズ、各種ディスプレイの前面板、拡散板などの光学関係部品;道路標識、案内板、カーブミラー、防音壁などの交通関係部品;自動車内装用表面材、携帯電話の表面材、マーキングフィルムなどのフィルム部材;洗濯機の天蓋材やコントロールパネル、炊飯ジャーの天面パネルなどの家電製品用部材;その他、温室、大型水槽、箱水槽、時計パネル、バスタブ、サニタリー、デスクマット、遊技部品、玩具、溶接時の顔面保護用マスク、ストラップなどの用途が挙げられる。
【実施例】
【0069】
以下に実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の例によって何ら制限されるものではない。ブロック共重合体の合成では、常法により乾燥精製した薬品を用いた。その際、重合転化率の測定や合成したブロック共重合体の分析は、以下の方法によって実施した。また、メタクリル系樹脂組成物の分析、力学及び光学測定は、以下の方法によって行った。
【0070】
(1)ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、分子量分布(Mw/Mn)およびブロック共重合体の生成率の測定
装置:東ソー社製ゲルパーミエーションクロマトグラフ(HLC−8020)
カラム:東ソー社製TSKgel G2000HHR(1本)およびGMHHR−M(2本)を直列に連結
溶離液:テトラヒドロフラン
溶離液流量:1.0ml/分
カラム温度:40℃
検出方法:示差屈折率(RI)計
検量線:標準ポリスチレンを用いて作成
【0071】
(2)ガスクロマトグラフィー(GC)による仕込み単量体の重合転化率の測定
装置:島津製作所製ガスクロマトグラフ GC−14A
カラム:GL Sciences Inc.製 INERT CAP 1(df=0.4μm、0.25mmI.D.×60m)
分析条件:injection温度180℃、detector温度180℃、60℃(5分間保持)→昇温速度10℃/分→200℃(10分間保持)
【0072】
(3)分散相の構造
成形品をダイヤモンドナイフを用いて切り出し超薄切片を得、この切片を四酸化オスミウムで染色し、透過型電子顕微鏡を用いて観察像を写真撮影した。なお、上記の染色によってブロック共重合体(B)中の重合体ブロック(b)が染色され、メタクリル系重合体組成物のモルフォロジーを観察できるようになる。本発明のメタクリル系樹脂組成物は、染色されていないメタクリル系樹脂(A)からなる連続相と染色されたブロック共重合体(B)を含んでなる分散相とを含有し、分散相には染色された部分(ブロック共重合体(B)からなる海相)と染色されていない部分(メタクリル系樹脂(A)からなる島相)との海島構造をなしたものが含まれている。
【0073】
(4)成形品の耐衝撃性の評価
ISO179−1eAに準拠して、ノッチ付きのシャルピー衝撃強度を測定した。
【0074】
(5)成形品の曲げ弾性率の測定
ISO178に準拠して、曲げ弾性率を測定した。
【0075】
(6)成形品の透明性の評価
ISO14782に準拠して、厚さ1mmの成形品のヘイズを測定した。
【0076】
(7)核磁気共鳴スペクトル(1H−NMRスペクトル)によるブロック共重合体の分子構造(側鎖ビニル結合量)の解析
ブロック共重合体を重クロロホルムに溶解し試験液を得、1H−NMR(日本電子社製核磁気共鳴装置(JNM−LA400)を用いて該試験液を分析し、化学シフト4.7〜5.2ppm(以後、シグナルC0という。)の1,2−ビニルによるプロトン(=CH2)と、化学シフト5.2〜5.8ppm(以後、シグナルD0という。)のビニルプロトン(=CH−)の積分強度を求め、次式によって、側鎖ビニル結合量V0[mol%]を計算して求めた。
0=〔(C0/2)/{C0/2+(D0−C0/2)/2}〕×100
【0077】
(8)ガラス転移温度(Tg)
重合体ブロック(a)として用いたポリアクリル酸n−ブチル(以下、「PBA」とする。)のガラス転移温度(Tg)は、「POLYMER HANDBOOK FOURTH Edition, VI/199頁, Wiley Interscience, New York, 1998」に記載の値(−49℃)を用いた。
また、重合体ブロック(b)として用いたポリ1,3−ブタジエン(以下、「PBD」とする。)のガラス転移温度(Tg)は、「ANIONIC POLYMERIZATION, 434頁, MARCEL DEKKER,Inc. 1996」に記載の1,2−ビニル結合量とTgの関係より導かれる値を用いた。
なお、比較例において用いたスチレン−ブタジエンブロック共重合体のスチレン重合体
ブロックのガラス転移温度(Tg)は100℃とした。
【0078】
(9)屈折率(nd)
ブロック共重合体(B)が30質量%となるようトルエンに均一に溶解した。室温にて当該溶液およびトルエンの密度、屈折率を測定し、下記(式1)〜(式3)の式を用いブロック共重合体(B)の屈折率を求めた。さらに、屈折率既知のポリメタクリル酸メチル(nd=1.492)を同じ方法で測定し、この方法による屈折率測定の較正係数を求めて、ブロック共重合体(B)の屈折率を較正した。
(nd2−1)/(nd2+2)×V=r=一定・・・(式1)
3=w11+w22・・・(式2)
2=1/ρ1−1/w2(1/ρ1−1/ρ3)・・・(式3)
nd:屈折率、V:比容、r:分子屈折、w:質量分率 ρ:密度
下付き1:トルエン 下付き2:ブロック共重合体(B) 下付き3:溶液
実測:V3、nd3、V1、nd1
式(1)および式(2)出典:高分子実験学 第12巻 熱力学的・電気的および光学的性質 昭和59年 共立出版
式(3)出典:高分子実験学 第11巻 高分子溶液 昭和57年 共立出版
【0079】
(10)溶融混練法:
東洋精機株式会社製 ラボプラストミル/R60型ミキサーを用いて 230℃、80rpm、3分間の条件で混練した。
【0080】
《実施例1》ブロック共重合体(B−1)からなるメタクリル系樹脂用改質剤の製造
(1)攪拌機付1.5リットルのオートクレーブ容器に、トルエン801ml及び1,2−ジメトキシエタンを0.07mlを投入し、20分間窒素パージを行った。そこに濃度1.3mol/lのsec−ブチルリチウムのシクロヘキサン溶液1.8mlを加え、次いで1,3−ブタジエン97mlを加えて、30℃で3時間反応させて、1,3−ブタジエン重合体を含む反応混合物を得た。
得られた反応混合物の一部をサンプリング分析した結果、該反応混合物中の1,3−ブタジエン重合体は、数平均分子量(Mn)が51,000、分子量分布(Mw/Mn)が1.06、側鎖ビニル結合量が30mol%であり、1,3−ブタジエン重合体(重合体ブロック(b))のガラス転移温度は−77℃であった。
【0081】
(2)上記(1)で得られた反応混合物を−30℃に冷却し、0.45mol/lのイソブチルビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノキシ)アルミニウムを含有するトルエン溶液17.2mlおよび1,2−ジメトキシエタン8.1mlを添加し、10分間撹拌して均一な溶液とした。
【0082】
(3)次いで、上記(2)で得られた溶液を激しく撹拌しながら、アクリル酸n−ブチル71mlを添加し、−30℃で3時間重合させた。得られた反応混合物の一部をサンプリングし、GPC(ポリスチレン換算)により分子量を分析した結果、反応混合物中のブタジエン―アクリル酸n−ブチルジブロック共重合体(腕重合体ブロック)は数平均分子量が84,000であり、その重量平均分子量/数平均分子量の比(Mw/Mn)が1.02であることが判明した。また、アクリル酸n−ブチルの重合で得られた重合体ブロック(a)のガラス転移温度は−49℃であった。
【0083】
(4)上記(3)で得られた反応混合物を−30℃で保持し、激しく攪拌したまま、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート2.0mlを加え2時間重合した。次いでメタノール約1mlを添加して重合を停止させた。
【0084】
(5)上記(4)で得られた反応混合物をメタノール8000mlに入れて析出させることにより、ブロック共重合体(B−1)が得られた。得られたブロック共重合体(B−1)の収率はほぼ100%であった。
【0085】
得られたブロック共重合体(B−1)は、星型ブロック共重合体と腕重合体ブロックとの混合物であった。ブロック共重合体(B−1)は、GPCの面積比より算出した星型ブロック共重合体の割合が92質量%であった。
星型ブロック共重合体は、その数平均分子量(Mn)が330,000(腕数=3.92)、そのMw/Mnが1.16であった。
腕重合体ブロックは、前述したブタジエン−アクリル酸n−ブチルジブロック共重合体(1,3−ブタジエンに由来する繰り返し単位からなる重合体ブロック(b)49質量%とアクリル酸n−ブチルに由来する繰り返し単位からなる重合体ブロック(a)51質量%とからなるジブロック共重合体)であった。
ブロック共重合体(B−1)の屈折率は1.492であった。該ブロック共重合体(B−1)をメタクリル系樹脂用改質剤(B−1)として用いた。表1にブロック共重合体(B−1)の特性を示した。なお、表1中のBAはアクリル酸n−ブチル、BDは1,3−ブタジエンを意味する。
【0086】
《実施例2》ブロック共重合体(B−2)からなるメタクリル系樹脂用改質剤の製造
(1)攪拌機付1.5リットルのオートクレーブ容器に、トルエン801ml及び1,2−ジメトキシエタンを0.07mlを投入し、20分間窒素パージを行った。そこに濃度1.3mol/lのsec−ブチルリチウムのシクロヘキサン溶液1.8mlを加え、次いで1,3−ブタジエン95mlを加えて、30℃で3時間反応させて、1,3−ブタジエン重合体を含む反応混合物を得た。
得られた反応混合物の一部をサンプリング分析した結果、該反応混合物中の1,3−ブタジエン重合体は、数平均分子量(Mn)が51,000、分子量分布(Mw/Mn)が1.06、側鎖ビニル結合量が30mol%であり、1,3−ブタジエン重合体(重合体ブロック(b))のガラス転移温度は−77℃であった。
【0087】
(2)上記(1)で得られた反応混合物を−30℃に冷却し、0.45mol/lのイソブチルビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノキシ)アルミニウムを含有するトルエン溶液17.2mlおよび1,2−ジメトキシエタン8.1mlを添加し、10分間撹拌して均一な溶液とした。
【0088】
(3)次いで、上記(2)で得られた溶液を激しく撹拌しながら、アクリル酸n−ブチル72mlを添加し、−30℃で3時間重合させた。得られた反応混合物の一部をサンプリングし、GPC(ポリスチレン換算)により分子量を分析した結果、反応混合物中のブタジエン―アクリル酸n−ブチルジブロック共重合体(腕重合体ブロック)は数平均分子量が84,000であり、その重量平均分子量/数平均分子量の比(Mw/Mn)が1.02であることが判明した。また、アクリル酸n−ブチルの重合で得られた重合体ブロック(a)のガラス転移温度は−49℃であった。
得られたブロック共重合体(B−2)は、1,3−ブタジエンに由来する繰り返し単位からなる重合体ブロック(b)48質量%とアクリル酸n−ブチルに由来する繰り返し単位からなる重合体ブロック(a)52質量%とからなるジブロック共重合体であった。ブロック共重合体(B−2)の屈折率は1.492であった。該ブロック共重合体(B−2)をメタクリル系樹脂用改質剤(B−2)として用いた。表1にジブロック共重合体(B−2)の特性を示した。
【0089】
《比較例1》ブロック共重合体(B−3)からなる耐衝撃性改質剤の製造
sec−ブチルリチウムのシクロヘキサン溶液量を0.9mlに、1,2−ジメトキシエタン量を0.0034mlに、イソブチルビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノキシ)アルミニウムを含有するトルエン溶液量を8.8mlに、さらに1,6−ヘキサンジオールジアクリレート量を1.0mlに変更した以外は実施例1と同じ手法によって、ブロック共重合体(B−3)を得た。
【0090】
得られたブロック共重合体(B−3)は、星型ブロック共重合体と腕重合体ブロックとの混合物であった。腕重合体ブロックは、1,3−ブタジエンに由来する繰り返し単位からなる重合体ブロック(b)49質量%とアクリル酸n−ブチルに由来する繰り返し単位からなる重合体ブロック(a)51質量%とからなるジブロック共重合体であった。腕重合体ブロックは、数平均分子量が165,000であり、その重量平均分子量/数平均分子量の比(Mw/Mn)が1.04であった。1,3−ブタジエンに由来する繰り返し単位からなる重合体ブロック(b)は、数平均分子量(Mn)が100,000、分子量分布(Mw/Mn)が1.06、側鎖ビニル結合量が30mol%であり、ガラス転移温度が−77℃であった。アクリル酸n−ブチルに由来する繰り返し単位からなる重合体ブロック(a)のガラス転移温度は−49℃であった。
【0091】
また、星型ブロック共重合体は、その数平均分子量(Mn)が650,000(腕数=3.94)、そのMw/Mnが1.18であった。
ブロック共重合体(B−3)はGPCの面積比より算出した星型ブロック共重合体の割合が89質量%であった。
ブロック共重合体(B−3)の屈折率は1.492であった。該ブロック共重合体(B−3)を耐衝撃性改質剤(B−3)として用いた。表1にブロック共重合体(B−3)の特性を示した。
【0092】
《比較例2》ブロック共重合体(B−4)からなる耐衝撃性改質剤の製造
sec−ブチルリチウムのシクロヘキサン溶液量を7.1mlに、1,2−ジメトキシエタン量を0.026mlに、さらにイソブチルビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノキシ)アルミニウムを含有するトルエン溶液量を68.8mlに変更した以外は実施例2と同じ手法によってブロック共重合体(B−4)を得た。
得られたブロック共重合体(B−4)は、1,3−ブタジエンに由来する繰り返し単位からなる重合体ブロック(b)48質量%とアクリル酸n−ブチルに由来する繰り返し単位からなる重合体ブロック(a)52質量%とからなるジブロック共重合体であった。1,3−ブタジエンに由来する繰り返し単位からなる重合体ブロック(b)は、ビニル結合量が30mol%、ガラス転移温度が−60℃であった。アクリル酸n−ブチルに由来する繰り返し単位からなる重合体ブロック(a)は、ガラス転移温度が−49℃であった。ジブロック共重合体は、数平均分子量(Mn)が21,000、Mw/Mnが1.02であった。
ブロック共重合体(B−4)の屈折率は1.492であった。該ブロック共重合体(B−4)を耐衝撃性改質剤(B−4)として用いた。表1にジブロック共重合体(B−4)の特性を示した。
【0093】
【表1】

【0094】
《実施例3》メタクリル系樹脂組成物の製造(溶液重合→溶液重合)
攪拌機及び採取管付オートクレーブに、精製されたメタクリル酸メチル57質量部、アクリル酸メチル3質量部およびトルエン30.5質量部を仕込み、そしてブロック共重合体(B−2)9.5質量部を添加し、30℃で8時間攪拌し、ブロック共重合体(B−2)を均一に溶解させた。次いで、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート(「パーブチルO」 日本油脂社製、水素引抜能:26%、1時間半減期温度:92.1℃)0.025質量部およびn−オクチルメルカプタン0.11質量部を加え均一に溶解させて原料液を得た。窒素により製造装置内の酸素を追出した。
前記原料液を、オートクレーブから一定量で排出し、温度110℃に制御された3Lの槽型反応器Aに一定流量で供給した。槽型反応器Aでの平均滞留時間85分間で重合を実施した。反応器Aの採取管より反応液を分取した。ガスクロマトグラフィーによって測定された重合転化率は35質量%であった。
【0095】
ノリタケエンジニアリング社製スタティックミキサーを内装した配管部において、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート(「パーブチルO」 日本油脂社製、水素引抜能:26%、1時間半減期温度:92.1℃)が原料液全体に対して0.012質量部となるように添加され、槽型反応器Aから排出された液と混合され、110℃に制御された5Lの槽型反応器Bに一定流量で供給された。槽型反応器Bでの平均滞留時間120分間で重合を実施した。反応器Bの採取管より反応液を分取した。ガスクロマトグラフィーによって測定された重合転化率は65質量%であった。
【0096】
ノリタケエンジニアリング社製スタティックミキサーを内装した配管部において、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン (「パーヘキサC」 日本油脂社製、水素引抜能:35%、1時間半減期温度:111.1℃)が原料液全体に対して0.080質量部となるように添加され、槽型反応器Bから排出された液と混合され、内壁温度110℃に制御された管型反応器Cに一定流量で供給された。管型反応器Cでの平均滞留時間10分間で重合を実施した。管型反応器Cの内圧は0.7MPaとした。管型反応器Cの排出口から反応液を分取した。ガスクロマトグラフィーによって測定された重合転化率は70質量%であった。
【0097】
管型反応器Cから排出された液は、内壁温度120℃に制御された管型反応器Dに一定流量で供給された。管型反応器Dでの平均滞留時間50分間で重合を実施した。管型反応器Dの内圧は0.7MPaとした。管型反応器Dの排出口から反応液(1)を分取した。ガスクロマトグラフィーによって測定された重合転化率は90質量%であった。
【0098】
反応液(1)を真空乾燥して未反応単量体及びトルエンを除去し、メタクリル系樹脂組成物(e−1)を得た。
【0099】
乾燥後のメタクリル系樹脂組成物(e−1)をラボプラストミルにより混練し、混練後に熱プレスにて厚さ3mmの成形品と厚さ1mmの成形品を作製した。評価結果を表2に示す。
【0100】
【表2】

【0101】
《実施例4、比較例3および4》メタクリル系樹脂組成物の製造(溶液重合→溶液重合)
メタクリル系樹脂用改質剤(B−1)を、表2に記載の処方に従ってメタクリル系樹脂用改質剤(B−2)または耐衝撃性改質剤(B−3〜B−4)に変更した以外は実施例3と同じ手法によってメタクリル系樹脂組成物(e−2)〜(e−4)を得た。
乾燥後のメタクリル系樹脂組成物(e−2)〜(e−4)それぞれをラボプラストミルにより混練し、混練後に熱プレスにて厚さ3mmの成形品と厚さ1mmの成形品を作製した。評価結果を表2に示す。
【0102】
《比較例5》
メタクリル系樹脂用改質剤(B−1)の代わりにスチレン(ST)−ブタジエン(BD)ブロック共重合体〔日本ゼオン社製:Nipol NS−310S/スチレン含量22質量%、側鎖ビニル結合量17mol%、数平均分子量(Mn)270,000、分子量分布(Mw/Mn)=1.03、以下ST−BD〕を用いた以外は、実施例3と同じ手法によってメタクリル系樹脂組成物(e−5)を得た。
【0103】
乾燥後のメタクリル系樹脂組成物(e−5)をラボプラストミルにより混練し、混練後に熱プレスにて厚さ3mmの成形品と厚さ1mmの成形品を作製した。評価結果を表2に示す。
【0104】
表2に示したように、分子量が本発明の範囲にあるブロック共重合体を含有してなるメタクリル系樹脂用改質剤が分散してなる樹脂組成物(実施例3および4)は、本発明の範囲よりも高い分子量のブロック共重合体からなる耐衝撃性改質剤(B−3)が分散してなる樹脂組成物と比較して弾性率が高く(比較例3)、本発明の範囲よりも低い分子量のブロック共重合体からなる耐衝撃性改質剤(B−4)が分散してなる樹脂組成物と比較して耐衝撃性が優れている(比較例4)ことが分かる。
また、スチレン−ブタジエンブロック共重合体をメタクリル系樹脂に分散させた組成物(比較例5)を用いた成形品に比べて、ヘイズが低くなっている(すなわち、透明性に優れている)ことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明のメタクリル系樹脂用改質剤によって、メタクリル系樹脂が有する優れた耐候性、透明性、耐擦傷性、剛性を犠牲にすることなく、耐衝撃性を改良したメタクリル系樹脂組成物およびその成形品が提供される。該成形品は、看板部品、ディスプレイ部品、照明部品、インテリア部品、建築部品、輸送機器部品、電子機器部品、医療機器部品、機器関係部品、光学関係部品、交通関係部品、フィルム部材、家電製品用部材などに適用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する繰り返し単位からなる重合体ブロック(a)と共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位からなる重合体ブロック(b)とを有するブロック共重合体(B)を含むものであり、
該ブロック共重合体(B)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により算出したポリスチレン換算の数平均分子量が30,000〜600,000である、メタクリル系樹脂用改質剤。
【請求項2】
ブロック共重合体(B)は屈折率が1.48〜1.50であり、且つガラス転移温度が23℃以下である重合体ブロック(a)30〜65質量%とガラス転移温度が0℃以下である重合体ブロック(b)35〜70質量%とからなるものである、請求項1に記載のメタクリル系樹脂用改質剤。
【請求項3】
メタクリル酸メチルに由来する繰り返し単位を50質量%以上有するメタクリル系樹脂(A)からなる連続相に、請求項1または2に記載のメタクリル系樹脂用改質剤を分散相として含有する、メタクリル系樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1または2に記載のメタクリル系樹脂用改質剤を、メタクリル酸メチルを50質量%以上含む単量体混合物(Am)に溶解し、せん断下で単量体混合物(Am)の重合を行い、重合途中において単量体混合物(Am)の重合体の溶液相とメタクリル系樹脂用改質剤の溶液相とを相反転させることを含む、メタクリル系樹脂(A)からなる連続相にメタクリル系樹脂用改質剤が分散相として含有するメタクリル系樹脂組成物の製造方法。

【公開番号】特開2009−235398(P2009−235398A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−50181(P2009−50181)
【出願日】平成21年3月4日(2009.3.4)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】