説明

メタクリル酸の精製方法

【課題】良好な結晶表面洗浄性を有する、アスペクト比の低いメタクリル酸結晶を得ることができるメタクリル酸の精製方法を提供する。
【解決手段】懸濁型冷却式晶析槽を用いる晶析操作によるメタクリル酸の精製方法であって、晶析原料の温度を晶析原料の固液平衡温度未満に下げた後、析出した結晶を含むスラリーの温度を該固液平衡温度以上に上げ、保持し、再度該固液平衡温度未満に下げるメタクリル酸の精製方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はメタクリル酸の精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イソブチレン、第3級ブチルアルコール、メタクロレインまたはイソブチルアルデヒドを分子状酸素で1段又は2段の反応で接触気相酸化して得られる生成物中には、目的物のメタクリル酸(沸点161℃/760mmHg、融点15℃)の他に、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、マレイン酸、シトラコン酸、安息香酸、トルイル酸、テレフタル酸、アクリル酸等のカルボン酸類や、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、メタクロレイン、ベンズアルデヒド、トルアルデヒド、フルフラール等のアルデヒド類が副生成物として含まれている。これらの不純物の大部分は、抽出や蒸留等の通常の精製手段で分離精製が可能である。しかし、微量に含まれる不純物、例えば、アルデヒド類等を除去することは困難である。アルデヒド類は紫外部領域に吸収があるため、アルデヒド類が多く残存するメタクリル酸製品には着色が生じる場合がある。このような着色を回避するためには、アルデヒド類の残存量をできる限り低減することが求められる。
【0003】
このような状況下において、蒸留法と比較してより高純度のメタクリル酸が得られる晶析法が検討されている。
【0004】
特許文献1には、粗製メタクリル酸に、第二成分としてメタノール、エタノール、プロパノールまたはブタノールを添加した溶液からメタクリル酸を晶析させ、析出した結晶と母液とを分離することによって、精製されたメタクリル酸を製造する方法が記載されている。
【0005】
一方、特許文献2には、2,6−ジメチルナフタレンの懸濁型冷却晶析において、ろ過性の向上や結晶表面に付着している母液の除去を容易にするため、特定の溶媒、及び結晶化条件を用いる方法が記載されている。
【0006】
また、特許文献3には、塩化ナトリウムやリン酸二水素カリウムの懸濁型冷却晶析において、晶癖修飾剤を添加、吸着させることで、結晶形状や粒径を制御する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3559523号公報
【特許文献2】特表2010−536940号公報
【特許文献3】特開2007−44639号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、得られた結晶の形状が針状または柱状であり、アスペクト比が高い結晶が得られることが多い。ここでアスペクト比とは、結晶の表面に付着した母液の洗浄性の指標となる値であり、長軸側結晶長を短軸側結晶長で除算した値であり、数値が高いほど結晶体積に対する表面積が大きく、洗浄性が低いと判断される。
【0009】
一方、特許文献2に記載の方法では、特定の溶媒、及び結晶化条件を用いて結晶の形態を制御するが、対象物が2,6−ジメチルナフタレンに限定されており、メタクリル酸に対する改善方法については一切記載がない。
【0010】
また、特許文献3に記載の方法では、精製対象物質、溶媒の他に、別途晶癖修飾剤を準備し、吸着処理を行わなければならず、効率的ではない場合がある。更に、対象物質としてメタクリル酸は明記されておらず、メタクリル酸に有効な晶癖修飾剤についても記載がない。
【0011】
本発明は前記事情に鑑みてなされたものであり、良好な結晶表面洗浄性を有する、アスペクト比の低いメタクリル酸結晶を得ることができるメタクリル酸の精製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係るメタクリル酸の精製方法は、懸濁型冷却式晶析槽を用いる晶析操作によるメタクリル酸の精製方法であって、晶析原料の温度を晶析原料の固液平衡温度未満に下げた後、析出した結晶を含むスラリーの温度を該固液平衡温度以上に上げ、保持し、再度該固液平衡温度未満に下げる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る方法によれば、良好な結晶表面洗浄性を有する、アスペクト比の低いメタクリル酸結晶を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例1、比較例1における晶析槽内温度、及び冷却ジャケット内流通冷却媒体温度の経時変化を示した図である。
【図2】実施例2における晶析槽内温度、及び冷却ジャケット内流通冷却媒体温度の経時変化を示した図である。
【図3】実施例3、比較例2における晶析槽内温度、及び冷却ジャケット内流通冷却媒体温度の経時変化を示した図である。
【図4】実施例4における晶析槽内温度、及び冷却ジャケット内流通冷却媒体温度の経時変化を示した図である。
【図5】実施例5における晶析槽内温度、及び冷却ジャケット内流通冷却媒体温度の経時変化を示した図である。
【図6】実施例6における晶析槽内温度、及び冷却ジャケット内流通冷却媒体温度の経時変化を示した図である。
【図7】実施例7、比較例3における晶析槽内温度、及び冷却ジャケット内流通冷却媒体温度の経時変化を示した図である。
【図8】実施例8における晶析槽内温度、及び冷却ジャケット内流通冷却媒体温度の経時変化を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係るメタクリル酸の精製方法は、懸濁型冷却式晶析槽を用いる晶析操作によるメタクリル酸の精製方法であって、晶析原料の温度を晶析原料の固液平衡温度未満に下げた後、析出した結晶を含むスラリーの温度を該固液平衡温度以上に上げ、保持し、再度該固液平衡温度未満に下げる。
【0016】
本発明者らは鋭意検討を行った結果、結晶面の相対成長速度が過飽和度によって変化することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0017】
以下に、本発明に係る方法の実施形態について詳細を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0018】
本発明では、精製対象である晶析原料として、粗製メタクリル酸を用いる。
【0019】
粗製メタクリル酸は、例えば直接酸化法やACH法等の種々の方法により製造することができる。このような粗製メタクリル酸の製造方法としては、例えば以下に示す方法が挙げられる。イソブチレン、第3級ブチルアルコール、メタクロレイン及びイソブチルアルデヒドからなる群から選ばれる1種の化合物を分子状酸素で1段又は2段の反応で接触気相酸化する直接酸化法により、反応ガスを得る。該反応ガスを凝縮して得た凝縮液、又は該反応ガスの凝縮液に水を加えるか、該反応ガスを水に吸収させて得たメタクリル酸水溶液から有機溶剤を用いてメタクリル酸を抽出する。該メタクリル酸から蒸留により有機溶剤及び不揮発分を除去して粗製メタクリル酸を得る方法が挙げられる。また、ACH法で副生するメタクリル酸を抽出や蒸留により分離して粗製メタクリル酸を得る方法等が挙げられる。
【0020】
なお、粗製メタクリル酸とは、本発明に係る精製方法により除去される不純物を含むメタクリル酸のことである。精密蒸留や晶析により精製されたメタクリル酸でも、本発明に係る方法により除去される不純物を含む場合には、本発明の精製対象である粗製メタクリル酸とする。
【0021】
本発明に係る方法では、粗製メタクリル酸に1種又は2種以上の第二成分を添加した混合物を晶析原料として用いることが好ましい。第二成分とは、メタクリル酸以外の成分を示す。
【0022】
第二成分としては、晶析の際にメタクリル酸と固溶体を形成しない物質であれば特に制限なく用いることができる。このような第二成分としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ギ酸メチル、ギ酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、ヘキサン、流動パラフィン等が挙げられる。好ましくは、第二成分は、メタノール、エタノール、アセトン、ヘキサン、メタクリル酸メチル及びアクリル酸メチルからなる群から選ばれる少なくとも一種である。第二成分としては、これらの物質を単独で用いることができ、2種以上を混合して用いることもできる。
【0023】
晶析原料に含まれる第二成分の濃度は1〜70mol%であることが好ましく、1〜35mol%であることがより好ましく、3〜30mol%であることがさらに好ましい。第二成分の濃度が1mol%未満の場合、メタクリル酸の結晶が析出し始める温度、すなわち後述する固液平衡温度と、メタクリル酸の凝固点との温度差がきわめて小さいため、晶析操作が困難になる場合がある。一方、第二成分の濃度が70mol%を超える場合、固液平衡温度が大幅に低下するため冷却に多くのエネルギーやコストが必要になる場合がある。
【0024】
第二成分の種類及び濃度は、晶析操作時の操作性の観点から、第二成分添加後の粗製メタクリル酸の固液平衡温度が−10〜10℃の範囲になるように選択することが好ましく、−2〜10℃の範囲になるように選択することがより好ましく、3〜10℃の範囲になるように選択することがさらに好ましい。固液平衡温度を特定温度にするための第二成分の添加量は、メタクリル酸と第二成分との固液平衡データから決定できる。
【0025】
次に、懸濁型冷却式晶析槽を用いて晶析原料の晶析操作を行う。懸濁型冷却式晶析槽としては、攪拌槽と、該攪拌槽の周面に外側から冷却媒体を接触させるための冷却ジャケットを有する冷却器とを備え、該攪拌槽の周面を伝熱面として熱交換により攪拌槽内を冷却し、槽内に懸濁結晶スラリーを保持することができる攪拌槽型晶析装置(以下、懸濁型ジャケット冷却式晶析槽という。)が好ましい。また、内部に冷却媒体を流通させることのできる冷却コイルを該攪拌槽内に設置してもよい。なお、この場合、外部の冷却ジャケットを備えない構成とすることもできる。
【0026】
晶析原料を晶析槽内へ投入し、晶析操作を開始する。晶析操作は回分式で行うことが好ましい。まず、晶析槽内の晶析原料を固液平衡温度(Te)未満まで冷却する。晶析原料の温度を固液平衡温度(Te)未満にするために、目標温度1(Tt1)を設定する。目標温度1(Tt1)は、晶析原料からメタクリル酸が析出する温度、すなわち固液平衡温度(Te)未満に設定される。晶析原料の固液平衡温度(Te)は事前に測定することができる。固液平衡温度(Te)の測定は、久保田 徳昭、松岡 正邦 分離技術シリーズ5 分かり易い晶析操作 分離技術会 2003 P.64−68に記載の氷点法により行う。目標温度1(Tt1)への到達プロファイルは特に限定されない。冷却プログラム付き温度コントローラーを用い、冷却ジャケット内の冷却媒体の温度を調整しながら冷却を進めても良いし、事前に一定温度まで冷却した冷却媒体をジャケットに流通させても良い。なお、前記冷却により、晶析原料の温度は目標温度1(Tt1)に到達しなくとも、晶析原料の温度が固液平衡温度(Te)未満に下がっていればよい。晶析原料の温度が固液平衡温度(Te)より0.1〜10℃低くなることが好ましく、0.1〜5℃低くなることがより好ましい。
【0027】
次に、晶析原料の温度が固液平衡温度(Te)未満に下がり、晶析原料が、析出した結晶を含むスラリーになった後、固液平衡温度(Te)以上までスラリーの温度を上げ、保持する。晶析原料が、析出した結晶を含むスラリーになっていることは、結晶の析出を目視により観察することで確認できる。スラリーの温度を固液平衡温度(Te)以上にするために、保持温度(Th)を設定する。保持温度(Th)は、固液平衡温度(Te)以上であり、固液平衡温度(Te)より0〜5℃高いことが好ましく、0.05〜3℃高いことがより好ましく、0.1〜1℃高いことがさらに好ましく、0.1〜0.5℃高いことが特に好ましい。また、スラリーの温度を固液平衡温度より0〜5℃高い温度で保持することが好ましく、0.05〜3℃高い温度で保持することがより好ましく、0.1〜1℃高い温度で保持することがさらに好ましく、0.1〜0.5℃高い温度で保持することが特に好ましい。この操作により、晶析槽内スラリーの結晶の一部を溶解させ、メタクリル酸濃度を上昇させる。保持温度(Th)を固液平衡温度(Te)より5℃を超えて高い温度とすると、晶析槽内の結晶溶解速度が高くなり、コントロール性が低下する場合がある。なお、スラリーの温度は保持温度(Th)に到達しなくとも、スラリーの温度が固液平衡温度(Te)以上になっていればよい。また、「保持」とは、スラリーの温度が固液平衡温度(Te)以上で保持されていることを示し、「保持」の間スラリーの温度は一定の温度である必要はない。また、スラリーの温度を固液平衡温度より0〜5℃高い温度で保持する、とは、スラリーの温度を固液平衡温度より0〜5℃高い温度の範囲で維持することを示す。冷却媒体の温度が保持温度(Th)に到達した後の保持温度(Th)での保持時間は、適宜選択できるが、晶析槽内の結晶が無くならない範囲とすることができる。この時点で晶析槽内に存在する結晶が、次の再冷却操作時に内部種晶として有効に機能するためである。保持時間としては、例えば1分以上、120分以下とすることができ、5分以上、60分以下が好ましい。
【0028】
続いて、再度固液平衡温度(Te)未満まで晶析槽内スラリーの再冷却を行う。スラリーの温度を固液平衡温度(Te)未満にするために、目標温度2(Tt2)を設定する。目標温度2(Tt2)は目標温度1(Tt1)同様、固液平衡温度(Te)未満に設定される。また、到達プロファイルも特に限定されない。なお、目標温度2(Tt2)は目標温度1(Tt1)と同じ温度としても良いし、異なる温度としても良い。また、スラリーの温度が目標温度2(Tt2)に到達しなくとも、スラリーの温度が固液平衡温度(Te)未満に下がっていればよい。スラリーの温度は固液平衡温度(Te)より0.1〜10℃低くなることが好ましく、0.1〜5℃低くなることがより好ましい。冷却媒体の温度が目標温度2(Tt2)に到達した後、保持時間を取ってもよい。保持時間としては、例えば5分以上、120分以下とすることができ、20分以上、80分以下が好ましい。また、再冷却操作の後、前記昇温、保持、冷却を繰り返し行っても良い。
【0029】
冷却による結晶析出時のスラリーの温度から到達最低温度までの温度は、−10〜10℃に含まれることが好ましく、−2〜10℃に含まれることがより好ましく、3〜10℃に含まれることがさらに好ましい。該温度が−10℃より低い場合、スラリー中の結晶濃度が高くなり、結晶同士の衝突による破砕が進行する結果、微結晶が発生し、得られるスラリーの操作性の低下、固液分離後の結晶表面付着母液量の増加を招く場合がある。また、該温度が10℃より高い場合、スラリー中の結晶濃度が低下するため、生産性が低くなる場合がある。
【0030】
冷却による結晶析出時のスラリーの温度から到達最低温度までの温度と、各時点における冷却媒体の温度との差は、15℃以下であることが好ましく、10℃以下であることがより好ましく、7℃以下であることがさらに好ましい。温度差が小さい方が、伝熱面での過飽和が小さくなるため、伝熱面でのスケーリングの進行を抑制することができる。また、晶析原料の過飽和度が小さくなる結果、高アスペクト比の微結晶の発生を抑制し、得られるスラリーの操作性の低下、固液分離後の結晶表面付着母液量の増加を防止することができる。
【0031】
本発明では、上述のように、晶析槽内に内部種晶が存在する状況で再冷却を行うことができる。ここで、内部種晶とは、槽内晶析原料を冷却して得られたスラリーを昇温、保持した後に、晶析槽内部に存在する未溶解のメタクリル酸結晶を示す。内部種晶が存在するか否かは、晶析槽内の直接目視や画像による確認、晶析槽から取得したサンプルの確認、もしくはレーザー式や超音波式のインライン濃度計等により判断することができる。内部種晶が存在しない状況下で冷却を進めた場合、結晶の析出(核発生)は、準安定領域が存在するため、固液平衡温度(Te)よりも低い温度で始まることが多い。したがって、結晶の析出、成長は高い過飽和度で進行することとなる。一方、種晶が存在する場合、準安定領域でも結晶は成長する。また、種晶の存在によって晶析槽内の結晶総表面積が大きくなるため、晶析槽での過飽和の消費速度も上昇する。したがって、同等の冷却速度としても、結晶の析出、成長が、種晶が存在しない場合と比較してより低い過飽和度で進行する。結晶のアスペクト比は、長軸側の結晶面成長速度と、短軸側の結晶面成長速度との速度比で決定される。メタクリル酸の場合、この速度比が高過飽和条件下と低過飽和条件下とで異なるため、本発明に係る方法を用い、より低過飽和度な条件で結晶を析出、成長させることにより低アスペクト比の結晶が得られるものと考えられる。
【0032】
続いて、このようにして得られたメタクリル酸の結晶と母液とを分離する。かかる精製方法により、精製メタクリル酸の結晶を得ることができる。一方、分離される母液には、通常、添加した第二成分、濃縮された不純物及びメタクリル酸が含まれる。
【0033】
結晶と母液とを分離する方法としては、固体と液体とを分離することができる方法であれば特に制限はなく、例えば、ろ過装置、遠心分離装置等の公知の固液分離装置、およびこれらの組み合わせを用いることができる。また、分離を行う装置の具体例としては、例えば、清水忠造:“クレハ連続結晶精製装置による有機化合物の精製”,ケミカルエンジニアリング,第27巻,第3号(1982)、第49頁.に掲載されているKCP装置等が挙げられる。なお、分離の操作の形式は回分式及び連続式のいずれでもよい。
【0034】
分離された母液から、メタクリル酸や第二成分を回収し、再利用又は再精製することができる。母液から回収されたメタクリル酸は、エステル化反応によりメタクリル酸エステルを製造するための原料として使用することもできる。ここで、分離された母液は、そのままメタクリル酸エステルの製造原料として使用することができるため、経済性の観点から特に再精製を行うことなく用いることが好ましい。分離した母液を用いるエステル製造の際、原料であるアルコール及び/又はメタクリル酸を母液にさらに追加してもよい。
【実施例】
【0035】
以下、本発明について実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0036】
下記実施例及び比較例において、晶析装置としては攪拌機構を備えたガラス製懸濁型ジャケット冷却式晶析槽(125ml)を用い、回分式にて晶析操作を行った。冷却媒体としては、エタブラインEC−Z(商品名、東京ファインケミカル(株)製)を用いた。冷却媒体の温度制御には、NTB−221(商品名、東京理化(株)製)を用いた。
【0037】
(実施例1)
表1に示される不純物を含有する粗製メタクリル酸Aとエタノール(第二成分)とを混合し、エタノールを12.5mol%含む晶析原料を調製した。この晶析原料の固液平衡温度(Te)を事前に測定したところ、7.11℃であった。なお、固液平衡温度(Te)は氷点法により測定した。
【0038】
【表1】

【0039】
ガラス製懸濁型ジャケット冷却式晶析槽に前記晶析原料を80ml入れ、小型攪拌子による攪拌条件下、設定温度8.11℃(Te+1℃)の冷却媒体をジャケットへ流通させ、10分間保持した。次に、目標温度1(Tt1)を5.11℃(Te−2℃)とし、冷却媒体の冷却速度の設定値を−6.0℃/hrとして、晶析原料の冷却を30分間行った。晶析槽内で測定した晶析原料の温度が6.7℃に到達した時点で、結晶の析出(核化)が観察され、一時的に温度が上昇した。冷却媒体の設定値が目標温度1(Tt1)に到達した後、保持温度(Th)を7.21℃(Te+0.1℃)とし、冷却媒体の昇温速度の設定値を12.0℃/hrとして、スラリーの昇温を10分間行った。冷却媒体の設定値が保持温度(Th)に到達した後、この設定温度にて20分間保持を行った。保持終了後、晶析槽内に内部種晶が存在していることを装置外部からの目視にて確認した。その後、目標温度2(Tt2)を6.11℃(Te−1.0℃)とし、冷却媒体の再冷却速度の設定値を−1.0℃/hrとして、晶析原料の再冷却を60分間行った。操作条件の一覧を表2に示す。また、冷却ジャケットの冷却媒体温度(ジャケット温度)、晶析槽内の晶析原料又はスラリーの温度(槽内温度)の推移を図1に示す。
【0040】
その後、得られた結晶のアスペクト比の測定を行った。結果を表2に示す。なお、結晶のアスペクト比の算出は、ガラス製懸濁型ジャケット冷却式晶析槽の外部から撮影したデジタル画像を解析することによって行った。解析に用いた結晶サンプル数は50個とし、それらのアスペクト比の平均値を結晶のアスペクト比とした。
【0041】
(実施例2)
保持温度(Th)での保持後の再冷却における目標温度2(Tt2)を6.11℃(Te−1.0℃)とし、冷却媒体の再冷却速度の設定値を−6.0℃/hrとして晶析原料の再冷却を行い、設定値が目標温度2(Tt2)に到達した後に50分の保持時間を設定した以外は、実施例1と同様に晶析操作を行った。最初の冷却時、晶析原料の温度が6.5℃に到達した時点で結晶の析出(核化)が観察され、一時的に温度が上昇した。また、再冷却開始前に晶析槽内に内部種晶が存在していることを装置外部からの目視にて確認した。操作条件の一覧を表2に示す。また、冷却ジャケットの冷却媒体温度(ジャケット温度)、晶析槽内の晶析原料又はスラリーの温度(槽内温度)の推移を図2に示す。
【0042】
その後、得られた結晶のアスペクト比の測定を実施例1と同様に行った。結果を表2に示す。
【0043】
(実施例3)
表1に示される不純物を含有する粗製メタクリル酸Aとアセトン(第二成分)とを混合し、アセトンを12.5mol%含む晶析原料を調製した。この晶析原料の固液平衡温度(Te)を事前に測定したところ、5.54℃であった。
【0044】
ガラス製懸濁型ジャケット冷却式晶析槽に前記晶析原料を80ml入れ、小型攪拌子による攪拌条件下、設定温度6.54℃(Te+1℃)の冷却媒体をジャケットへ流通させ、10分間保持した。次に、目標温度1(Tt1)を3.54℃(Te−2℃)とし、冷却媒体の冷却速度の設定値を−6.0℃/hrとして、晶析原料の冷却を30分間行った。晶析原料の温度が4.9℃に到達した時点で、結晶の析出(核化)が観察され、一時的に温度が上昇した。冷却媒体の設定値が目標温度1(Tt1)に到達した後、保持温度(Th)を5.64℃(Te+0.1℃)とし、冷却媒体の昇温速度の設定値を12.0℃/hrとして、スラリーの昇温を10分間行った。冷却媒体の設定値が保持温度(Th)に到達した後、この設定温度にて20分間保持を行った。保持終了後、晶析槽内に内部種晶が存在していることを装置外部からの目視にて確認した。その後、目標温度2(Tt2)を4.54℃(Te−1.0℃)とし、冷却媒体の再冷却速度の設定値を−1.0℃/hrとして、晶析原料の再冷却を60分間行った。操作条件の一覧を表2に示す。また、冷却ジャケットの冷却媒体温度(ジャケット温度)、晶析槽内の晶析原料又はスラリーの温度(槽内温度)の推移を図3に示す。
【0045】
その後、得られた結晶のアスペクト比の測定を実施例1と同様に行った。結果を表2に示す。
【0046】
(実施例4)
保持温度(Th)での保持後の再冷却における目標温度2(Tt2)を4.54℃(Te−1.0℃)とし、冷却媒体の再冷却速度の設定値を−6.0℃/hrとして晶析原料の再冷却を行い、設定値が目標温度2(Tt2)到達後に50分の保持時間を設定した以外は、実施例3と同様に晶析操作を行った。最初の冷却時、晶析原料の温度が4.7℃に到達した時点で結晶の析出(核化)が観察され、一時的に温度が上昇した。また、再冷却開始前に晶析槽内に内部種晶が存在していることを装置外部からの目視にて確認した。操作条件の一覧を表2に示す。また、冷却ジャケットの冷却媒体温度(ジャケット温度)、晶析槽内の晶析原料又はスラリーの温度(槽内温度)の推移を図4に示す。
【0047】
その後、得られた結晶のアスペクト比の測定を実施例1と同様に行った。結果を表2に示す。
【0048】
(実施例5)
表1に示される不純物を含有する粗製メタクリル酸Aとヘキサン(第二成分)とを混合し、ヘキサンを12.5mol%含む晶析原料を調製した。この晶析原料の固液平衡温度(Te)を事前に測定したところ、6.51℃であった。
【0049】
ガラス製懸濁型ジャケット冷却式晶析槽に前記晶析原料を80ml入れ、小型攪拌子による攪拌条件下、設定温度7.51℃(Te+1℃)の冷却媒体をジャケットへ流通させ、10分間保持した。次に、目標温度1(Tt1)を4.51℃(Te−2℃)とし、冷却媒体の冷却速度の設定値を−6.0℃/hrとして、晶析原料の冷却を30分間行った。晶析原料の温度が6.1℃に到達した時点で、結晶の析出(核化)が観察され、一時的に温度が上昇した。冷却媒体の設定値が目標温度1(Tt1)に到達した後、保持温度(Th)を6.61℃(Te+0.1℃)とし、冷却媒体の昇温速度の設定値を12.0℃/hrとして、スラリーの昇温を10分間行った。冷却媒体の設定値が保持温度(Th)に到達した後、この設定温度にて20分間保持を行った。保持終了後、晶析槽内に内部種晶が存在していることを装置外部からの目視にて確認した。その後、目標温度2(Tt2)を5.51℃(Te−1.0℃)とし、冷却媒体の再冷却速度の設定値を−1.0℃/hrとして、晶析原料の再冷却を60分間行った。操作条件の一覧を表2に示す。また、冷却ジャケットの冷却媒体温度(ジャケット温度)、晶析槽内の晶析原料又はスラリーの温度(槽内温度)の推移を図5に示す。
【0050】
その後、得られた結晶のアスペクト比の測定を実施例1と同様に行った。結果を表2に示す。
【0051】
(実施例6)
保持温度(Th)での保持後の再冷却における目標温度2(Tt2)を5.51℃(Te−1.0℃)とし、冷却媒体の再冷却速度の設定値を−6.0℃/hrとして晶析原料の再冷却を行い、設定値が目標温度2(Tt2)到達後に50分の保持時間を設定した以外は、実施例5と同様に晶析操作を行った。最初の冷却時、晶析原料の温度が6.0℃に到達した時点で結晶の析出(核化)が観察され、一時的に温度が上昇した。また、再冷却開始前に晶析槽内に内部種晶が存在していることを装置外部からの目視にて確認した。操作条件の一覧を表2に示す。また、冷却ジャケットの冷却媒体温度(ジャケット温度)、晶析槽内の晶析原料又はスラリーの温度(槽内温度)の推移を図6に示す。
【0052】
その後、得られた結晶のアスペクト比の測定を実施例1と同様に行った。結果を表2に示す。
【0053】
(実施例7)
表1に示される不純物を含有する粗製メタクリル酸Aとメタノール(第二成分)とを混合し、メタノールを12.5mol%含む晶析原料を調製した。この晶析原料の固液平衡温度(Te)を事前に測定したところ、7.57℃であった。
【0054】
ガラス製懸濁型ジャケット冷却式晶析槽に前記晶析原料を80ml入れ、小型攪拌子による攪拌条件下、設定温度8.57℃(Te+1℃)の冷却媒体をジャケットへ流通させ、10分間保持した。次に、目標温度1(Tt1)を5.57℃(Te−2℃)とし、冷却媒体の冷却速度の設定値を−6.0℃/hrとして、晶析原料の冷却を30分間行った。晶析原料の温度が6.9℃に到達した時点で、結晶の析出(核化)が観察され、一時的に温度が上昇した。冷却媒体の設定値が目標温度1(Tt1)に到達した後、保持温度(Th)を7.67℃(Te+0.1℃)とし、冷却媒体の昇温速度の設定値を12.0℃/hrとして、スラリーの昇温を10分間行った。冷却媒体の設定値が保持温度(Th)に到達した後、この設定温度にて20分間保持を行った。保持終了後、晶析槽内に内部種晶が存在していることを装置外部からの目視にて確認した。その後、目標温度2(Tt2)を6.57℃(Te−1.0℃)とし、冷却媒体の再冷却速度の設定値を−1.0℃/hrとして、晶析原料の再冷却を60分間行った。操作条件の一覧を表2に示す。また、冷却ジャケットの冷却媒体温度(ジャケット温度)、晶析槽内の晶析原料又はスラリーの温度(槽内温度)の推移を図7に示す。
【0055】
その後、得られた結晶のアスペクト比の測定を実施例1と同様に行った。結果を表2に示す。
【0056】
(実施例8)
保持温度(Th)での保持後の再冷却における目標温度2(Tt2)を6.57℃(Te−1.0℃)とし、冷却媒体の再冷却速度の設定値を−6.0℃/hrとして晶析原料の再冷却を行い、設定値が目標温度2(Tt2)到達後に50分の保持時間を設定した以外は、実施例7と同様に晶析操作を行った。最初の冷却時、晶析原料の温度が6.9℃に到達した時点で結晶の析出(核化)が観察され、一時的に温度が上昇した。また、再冷却開始前に晶析槽内に内部種晶が存在していることを装置外部からの目視にて確認した。操作条件の一覧を表2に示す。また、冷却ジャケットの冷却媒体温度(ジャケット温度)、晶析槽内の晶析原料又はスラリーの温度(槽内温度)の推移を図8に示す。
【0057】
その後、得られた結晶のアスペクト比の測定を実施例1と同様に行った。結果を表2に示す。
【0058】
(比較例1)
実施例1において、冷却媒体の設定温度が目標温度1(Tt1)に到達した時点で得られた結晶のアスペクト比を実施例1と同様に測定した。結果を表3に示す。
【0059】
(比較例2)
実施例3において、冷却媒体の設定温度が目標温度1(Tt1)に到達した時点で得られた結晶のアスペクト比を実施例1と同様に測定した。結果を表3に示す。
【0060】
(比較例3)
実施例7において、冷却媒体の設定温度が目標温度1(Tt1)に到達した時点で得られた結晶のアスペクト比を実施例1と同様に測定した。結果を表3に示す。
【0061】
【表2】

【0062】
【表3】

【0063】
実施例1〜8と比較例1〜3の結果より、本発明に係る方法によって得られたメタクリル酸結晶のアスペクト比は低いことがわかった。その結果、よりろ過性が高く、表面付着母液の除去性の高い結晶が得られた。
【0064】
また、同じ第二成分を用いている実施例1と2、3と4、5と6をそれぞれ比較してみると、実施例2、4、6は、保持温度(Th)での保持後の再冷却速度を上げているにもかかわらず、得られた結晶のアスペクト比はほぼ同等又は若干低下していた。更に、実施例7と8を比較してみると、実施例8は保持温度(Th)での保持後の再冷却速度を上げた結果、得られた結晶のアスペクト比は若干上昇したものの、数値自体は良好な値であった。この事実から、再冷却開始前に十分な種晶が晶析槽内に存在し、高い冷却速度下でも十分な過飽和の消費が起こっていたため、結晶が成長する環境としては低過飽和度であったことが推定された。これより、本発明に係る方法によれば、高い冷却速度下、良好な生産性を維持しながら、良好なアスペクト比を有するメタクリル酸結晶が得られることがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
懸濁型冷却式晶析槽を用いる晶析操作によるメタクリル酸の精製方法であって、晶析原料の温度を晶析原料の固液平衡温度未満に下げた後、析出した結晶を含むスラリーの温度を該固液平衡温度以上に上げ、保持し、再度該固液平衡温度未満に下げるメタクリル酸の精製方法。
【請求項2】
前記スラリーの温度を保持する際、スラリーの温度を固液平衡温度より0〜5℃高い温度で保持する請求項1に記載のメタクリル酸の精製方法。
【請求項3】
第二成分を添加した粗製メタクリル酸を晶析原料として用い、晶析操作を回分式で行う請求項1又は2に記載のメタクリル酸の精製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−140471(P2012−140471A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【公開請求】
【出願番号】特願2012−105216(P2012−105216)
【出願日】平成24年5月2日(2012.5.2)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】