説明

メタルハライドランプ

【課題】特に赤色のスペクトル範囲において特に良好な演色を示す冒頭で述べたメタルハライドランプ用の金属ハロゲン化物の封入物を提供する。
【解決手段】少なくとも1種の不活性ガスと、水銀と、少なくとも1種のハロゲンを持つ金属ハロゲン化物とを有するイオン化可能な封入物を含み、封入物がハロゲン化物用の金属としてCaと少なくとも1種の希土類元素とを含んでいるメタルハライドランプにおいて、封入物がさらにハロゲン化鉛を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1種の不活性ガスと、水銀と、少なくとも1種のハロゲンを持つ金属ハロゲン化物とを有するイオン化可能な封入物を含み、封入物がハロゲン化物用の金属としてCaと少なくとも1種の希土類元素とを含んでいるメタルハライドランプに関する。
【0002】
封入物は特に温白色の光色を有するランプ用の封入物である。
【背景技術】
【0003】
温白色の光色を得るために、金属のNa,Sc,Li,Dy,Tlを有する金属ハロゲン化物の封入物を含み温白色の光色を持つメタルハライドランプが知られている(例えば、特許文献1参照)。色温度は3000Kである。
【0004】
スカンジウムを有するこの種の封入物は維持が悪く、それゆえ光束が点灯期間中に明らかに低下する。さらに、スカンジウムをベースとするランプにおける演色は特に赤色のスペクトル範囲において比較的悪い。
【0005】
エミッタとして、Tl,Sc,Ca,Cs、Dy、Na,Sn,La,Li.Baから成るヨウ化物の1種を使用する金属ハロゲン化物の封入物が知られている(例えば、特許文献2参照)。緩衝ガスとしてSb、As,Bi,In,Zn,Cd,Pbから成るヨウ化金属の1種が使用される。緩衝ガスはとりわけ放電の電気特性の設定に使われる。それに対して、演色への緩衝ガスの影響は言及されていない。具体的には緩衝ガスZnI2,CdI2を有する封入物しか紹介されていない。緩衝ガスとしてZnI2を用いる実施例の場合、第2の緩衝ガスとして追加的に少量の水銀が利用されている。
【0006】
4000K以下の色温度を有するランプにおいて赤色の演色を改善するために、Caのハロゲン化物とAlもしくはGaの錯形成ハロゲン化物とを有する封入物を利用することが知られている(例えば、特許文献3参照)。他の成分は、水銀および希ガスを無視すると、Dy,Ho,Tm,Na,Li,Csのハロゲン化物である。
【0007】
非常に良好な演色を得るために、石英ガラスから成り楕円形に成形された放電管内でヨウ化カルシウム、ヨウ化タリウムおよびヨウ化スズを有する封入物を使用することが知られている(例えば、特許文献4参照)。
【特許文献1】米国特許第5694002号明細書
【特許文献2】英国特許第1316803号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2003−0141818号明細書
【特許文献4】米国特許第4742268号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、特に赤色のスペクトル範囲において特に良好な演色を示す冒頭で述べたメタルハライドランプ用の金属ハロゲン化物の封入物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題は、本発明によれば、少なくとも1種の不活性ガスと、水銀と、少なくとも1種のハロゲンを持つ金属ハロゲン化物とを有するイオン化可能な封入物を含み、封入物がハロゲン化物用の金属としてCaと少なくとも1種の希土類元素とを含んでいるメタルハライドランプにおいて、封入物がさらにハロゲン化鉛を含むことによって解決される。
【0010】
本発明の実施態様は次の通りである。
【0011】
封入物がさらに金属Tl,Naのうちの少なくとも1種のハロゲン化物を含む(請求項2)。
【0012】
希土類元素Dy,Ho,Tmのグループから選択された少なくとも1種のハロゲン化物、特に3つの全ての希土類元素Dy,Ho,Tmのハロゲン化物が使用される(請求項3)。
【0013】
封入物は次の成分すなわちヨウ化カルシウム(CaI2):15〜72モル%、希土類元素のヨウ化物(SEI3):3〜26モル%(但し、SEは希土類元素)、ヨウ化鉛(PbI2):2〜5モル%を使用する(請求項4)。
【0014】
封入物は次の成分すなわちヨウ化カルシウム(CaI2):15〜50モル%、ヨウ化ナトリウム(NaI):20〜70モル%、ヨウ化タリウム(TlI):3〜15モル%、希土類元素のヨウ化物(SEI3):3〜15モル%(但し、SEは希土類元素)、ヨウ化鉛(PbI2):2〜5モル%、特に2.4〜3.6モル%を使用する(請求項5)。
【0015】
メタルハライドランプがさらに硬質ガラスまたは石英ガラスから成る外管とセラミックスから成り2つの電極を備える放電管とを含む(請求項6)。
【0016】
本発明によれば、Caおよび希土類元素の他に追加的にハロゲン化鉛を用いる金属ハロゲン化物の封入物が使用される。なお、別のハロゲン化物、特にNaおよび/またはTlのハロゲン化物としての他の成分が含まれていてもよい。ハロゲンとしてはヨウ素および/または臭素が使用される。希土類元素としては好ましくは元素Dy,Ho,Tmの少なくとも1種が使用され、特に3つの全ての元素Dy,Ho,Tmが同時に使用される。
【0017】
封入物は多量の、特に15〜50モル%のCaI2を含んでいると好ましい。その場合、さらにハロゲン化物、好ましくは希土類元素(SE)、ナトリウムおよびタリウムのヨウ化物を含む封入物は優れている。低い色温度、好ましくは4000K以下の、特に2500〜3500Kの色温度の際の赤色の演色の重要な改善は少量のPbI2の添加によって初めて得られる。追加的にリチウムLiおよび/またはセシウムCsが添加されてもよい。
【0018】
希土類金属としてはジスプロシウムDy,ホルミウムHo,ツリウムTmの少なくとも1つが推奨されるが、特に3つのDy,Ho,Tmの全ての混合物が使用されてもよい。ハロゲンとしてはヨウ素または臭素が使用される。封入物が臭素よりヨウ素を多く含むと好ましい。特にヨウ素は単独で使用されるが、臭素がモルで見て最大10%の割合で含まれていてもよい。
【0019】
封入物の組成が以下のようであると好ましい。すなわち、緩衝ガスとして作用する多量の水銀Hg(典型的に5〜15mg/cm3)の他に、光を放出する封入物は次の組成を有する。
【0020】
ヨウ化カルシウム(CaI2) 15〜72モル%、特に50モル%以下
希土類元素のヨウ化物(SEI3) 3〜26モル%、特に5.5〜15モル%
ヨウ化鉛(PbI2) 2〜5モル%、特に2.4〜3.6モル%
これらの成分の全てが必要である。なお、SEは希土類元素を表す。
【0021】
さらに、追加的に次の成分が添加されてもよい。
【0022】
ヨウ化ナトリウム(NaI) 0〜70モル%、特に20〜48モル%
ヨウ化タリウム(TlI) 0〜15モル%、特に少なくとも3モル%、
好ましくは6〜11モル%
少量の、特に0.5〜2モル%の他の追加的な成分は特にヨウ化リチウムおよびヨウ化セシウムである。
【0023】
ヨウ化鉛の添加はヨウ化鉛を有しない同様の封入物に比べて色温度の低下に役立つ。この低下はヨウ化鉛の量に応じて200〜1000Kのオーダである。同時に特殊演色評価数(赤)R9は約10〜40ポイント上がる。
【0024】
封入物は特にセラミック放電管を使用する際に役に立つ。封入物は円筒形状および膨らんだ形状に対して等しく適用される。70lm/W以上の典型的な効率が達成される。平均演色評価数Raは90以上であり、色温度は3000Kのオーダ(典型的には2800〜3100Kの値)にあり、特殊演色評価数(赤)R9は60以上である。
【0025】
観察された効果は封入パラメータのスペクトル成分の単純加算によって説明できない。従って、ヨウ化鉛は従来ではエミッタとして使用されておらず、寧ろ緩衝ガスとして使用されていた。
【0026】
一般的に色温度を低下させかつ同時に赤色の演色を改善するために、610nm以上において、特にほぼ630nmの範囲において放出を強め、および/または490〜610nmの放出、特にほぼ580nmの放出を弱めると好ましい。
【0027】
ヨウ化鉛を添加し、封入物を綿密に選択すると、2つのことが同時に成功する。ヨウ化鉛はハロゲン化カルシウムの存在下で610nm以上において、特に620〜660nmのCaI2分子帯の範囲において高い放出を生じる。しかし、それによって610nm以下において、特にNa(590nm)およびTl(535nm)の共鳴線の範囲において放出が低くなる。スペクトルの観察された変化を惹き起こす原因として、複数のメカニズム、特にNa−Sn封入物において典型的に既に知られている錯形成が問題となる。Ca−Pb系における錯形成によって、とりわけ光学的に細いCa線およびCaI2分子帯の放出が増大する。強く蒸発するPbI2の添加はさらに分子の解離プロセス/再結合プロセスに亘って狭い温度分布を生じる。このことは分子の放射条件を改善し、原子共鳴線の放射を妨げる。最後に、第3のメカニズムとして、PbI2分子の短波方向に増大する吸収が関与することがある
本発明による封入物は全般照明用として50〜1000Wの定格電力を有するメタルハライドランプに好適である。この封入物は低い輝度から中間の輝度用として使用される。管壁負荷は典型的に40(W/cm2)以下であり、比出力は30(W/mmアーク長)以下である。
【0028】
寿命は少量のヨウ化鉛の添加によってマイナスに影響されない。電極および電極容器の腐食は回避される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下において本発明を複数の実施例に基づいて詳細に説明する。
【0030】
図1は本発明によるメタルハライドランプを示し、
図2はこのメタルハライドランプのスペクトルを示し、
図3はPbI2添加物を有しない封入物と比較してこのスペクトルの変化を示す。
【0031】
図1には、硬質ガラスまたは石英ガラスから成る外管1を備えるメタルハライドランプが示されている。外管1は長手軸線Aを有し、片側がステム封止部2によって閉塞されている。ステム封止部2では2本のリード(図示されていない)が外側に向けて導かれている。これらのリードは口金5内で終了している。外管1内には、両側を密閉され膨らんだセラミック製放電管10が軸線方向に設置されている。放電管10は金属ハロゲン化物から成る封入物を備え、Al23から構成されている。この放電管10内には電極3が突入しており、この電極3は引込み線6を介してインナーリード4に接続されている。
【0032】
メタルハライドランプの電力は70Wであり、色温度は2900Kである。
【0033】
放電管10は特に内部が球形または楕円形であってもよく、あるいは放電管10は2つの半球部材の間に短い円筒状中間部材を有することによって球形形状とは異なっていてもよい。放電管10は特に欧州特許出願公開第841687号明細書に記載されている寸法を有している。
【0034】
内壁の形状は特に次のようになっている。
(1)この形状は、長さLおよび内径Rを持つほぼ真っ直ぐな円筒状中間部分と、同一の半径Rを持つ2つのほぼ半球状の端部部材とを有している。
(2)円筒状中間部分の長さLはその内径Rより小さいか又は等しい。
【0035】
L≦R
(3)放電管の内部長さ2R+Lは電極間隔EAより少なくとも10%大きい。
【0036】
2R+L≧1.1EA
(4)放電管の直径2Rは電極間隔EAの少なくとも80%に相当する。同時に放電管の直径2Rは最高でも電極間隔EAの150%の長さを有していてもよい。
【0037】
1.5EA≧2R≧0.8EA
具体的にここでは例えばL=1.95mm、R=3.95mmおよびEA=7.4mmである。
【0038】
放電管内には約300mbarの冷封入圧下で希ガスのグループから選ばれた点弧可能なガスが存在している。さらに、0.35mlの放電容積を有する放電管内には、5.4mgの水銀と、表1によるモル組成(モル%)から成る金属ハロゲン化物の混合物(7.5mg)とが存在する。
【0039】
【表1】

【0040】
入力電力は典型的に50〜400Wの範囲にある。このメタルハライドランプの実施例AB1,AB2の平均演色評価数Raは典型的に93であり、特殊演色評価数(赤)R9は67である。
【0041】
ハロゲン化鉛はこの検査されたメタルハライドランプにおいては緩衝剤として作用しない。というのは、ハロゲン化鉛は電気抵抗への大きな影響を示さず、ランプ電圧に影響しないからである。寧ろ、ハロゲン化鉛は放出特性に影響する成分として現れる。これは、線または帯としての直接的な固有の放出によって生じるのではなく、寧ろ他の金属ハロゲン化物、特にCa、同様にNa,Tlの金属ハロゲン化物の放出の影響によって生じる。
【0042】
図2は実施例AB1による100時間の点灯後のランプのスペクトルを示す。このランプの放電管は表1に基づいて5.4mgの水銀Hgと7.5mgの金属ハロゲン化物の封入物とを含んでいる。スペクトルは表1の基準のスペクトルと比較される。図2において、短波放出の強度は赤色のスペクトル範囲では明らかに高く、400〜600nmの範囲では低い。鉛を含む封入物は太い実線で示され、基準は細い実線で示されている。
【0043】
スペクトルへのヨウ化鉛の影響を明確に示すために、図3には実施例AB1対基準Refの強度の商が記入されている。図3において、短波放出の強度は赤色のスペクトル範囲では高く、400〜600nmの範囲、特にほぼ590ないし540nmのNa,Tlの共鳴線の範囲では低い。
【0044】
金属ハロゲン化物の相対的な比を選択することによって、高い色温度または低い色温度を設定することができる。封入物は希土類元素としてそれぞれTm,Dy,Hoをほぼ同じ割合で使用する。この割合は、特に比において一番少ない成分の最大3倍まで、すなわち3:3:1まで変えることができる。しかし、所望された結果に応じて、1種または2種の希土類元素のみ、例えばDyのみを使用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明によるメタルハライドランプを示す概略図
【図2】このメタルハライドランプのスペクトルを示す図
【図3】PbI2添加物を有しない封入物と比較してスペクトルの変化を示す図
【符号の説明】
【0046】
1 外管
2 ステム封止部
3 電極
4 インナーリード
5 口金
6 引込み線
10 放電管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種の不活性ガスと、水銀と、少なくとも1種のハロゲンを持つ金属ハロゲン化物とを有するイオン化可能な封入物を含み、封入物がハロゲン化物用の金属としてCaと少なくとも1種の希土類元素とを含んでいるメタルハライドランプにおいて、封入物がさらにハロゲン化鉛を含むことを特徴とするメタルハライドランプ。
【請求項2】
封入物がさらに金属Tl,Naのうちの少なくとも1種のハロゲン化物を含むことを特徴とする請求項1記載のメタルハライドランプ。
【請求項3】
希土類元素Dy,Ho,Tmのグループから選択された少なくとも1種のハロゲン化物が使用されることを特徴とする請求項1記載もメタルハライドランプ。
【請求項4】
封入物は次の成分
ヨウ化カルシウム(CaI2) 15〜72モル%
希土類元素のヨウ化物(SEI3) 3〜26モル%(但し、SEは希土類元素)
ヨウ化鉛(PbI2) 2〜5モル%
を使用することを特徴とする請求項1記載のメタルハライドランプ。
【請求項5】
封入物は次の成分
ヨウ化カルシウム(CaI2) 15〜50モル%
ヨウ化ナトリウム(NaI) 20〜70モル%
ヨウ化タリウム(TlI) 3〜15モル%
希土類元素のヨウ化物(SEI3) 3〜15モル%(但し、SEは希土類元素)
ヨウ化鉛(PbI2) 2〜5モル%
を使用することを特徴とする請求項2記載のメタルハライドランプ。
【請求項6】
メタルハライドランプがさらに硬質ガラスまたは石英ガラスから成る外管とセラミックスから成り2つの電極(11)を備える放電管(2)とを含むことを特徴とする請求項1記載のメタルハライドランプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−339156(P2006−339156A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−151405(P2006−151405)
【出願日】平成18年5月31日(2006.5.31)
【出願人】(391045794)パテント−トロイハント−ゲゼルシヤフト フユア エレクトリツシエ グリユーランペン ミツト ベシユレンクテル ハフツング (15)
【氏名又は名称原語表記】PATENT−TREUHAND−GESELLSCHAFT FUR ELEKTRISCHE GLUHLAMPEN MIT BESCHRANKTER HAFTUNG
【Fターム(参考)】