説明

メタルハライドランプ

【課題】水冷式のメタルハライドランプを点灯させた場合における電極周辺での黒化を抑える。
【解決手段】紫外線透過性の石英ガラスで気密性を有する放電空間10を備えた気密容器11内の軸方向に、一対の放電用の電極121,122を対向して配置する。放電空間10内でアーク放電させた状態を維持するために十分な量の希ガス、水銀とともに、適量の紫外光を発光させる鉄およびハロゲンからなる封入物を封入する。封入物である鉄の封入量M(mg/cc)を、単位長さ当たりのランプ入力が50〜160W/cmがあるとき、放電空間10の容積に対して、0.001<M<0.15の関係になる値に設定した。このように構成したことにより、放電空間10の容積当たりに対する鉄の量を制限することで、水冷式におけるメタルハライドランプの電極付近での黒化を抑制することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、紫外線を照射させて塗料の硬化や機能性高分子フィルムの光反応等に用い、特に水冷式に好適なメタルハライドランプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の放電空間の両端に電極を封着した紫外線照射ランプは、内管と外管とからなる2重管型水冷ジャケット内に保持している。放電空間内には、水銀と希ガスとともに、鉄、錫、タリウム等の金属ハロゲン化物のうち少なくも1種を添加させている。そして1から10気圧ほどの水銀蒸気中でアーク放電させ、金属化合物を封入して幅広い長波長領域の発光を実現している。(例えば、特許文献1)
【特許文献1】特開平8−148121号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記した特許文献1の技術は、電極間距離が1000mm以上のいわゆるロングアークのFe(鉄)系メタルハライドランプである。このメタルハライドランプは、ランプ寿命を長くするために、冷却の必要があり確実な冷却のため水冷式が用いられる。水冷式の場合には、ランプの電極周辺の放電空間の外表面に、電極の温度を下げないようにの保護膜の塗布が必要であるが、点灯中に保護膜が飛散し、水冷ジャケットが汚れてしまうことから塗布することができない。
【0004】
このため、封入されている鉄は、電極の主成分であるタングステンと合金化して低融点となり、タングステンとの鉄の合金量が増加すればするほど点灯中における鉄が石英ガラスに侵食し黒化が生じやすくなる。発光長を長尺化すればするほど鉄の封入量を増加する必要があることから、黒化がより顕著となる、という問題がある。
【0005】
この発明の目的は、タングステン電極と放電空間に封入される鉄の量を制限することで水冷式により点灯させた場合でも電極周辺での黒化を抑えることのできるメタルハライドランプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した課題を解決するために、この発明のメタルハライドランプは、紫外線透過性の材料で気密性を有する放電空間が形成された気密容器と、前記気密容器に封装され、前記放電空間に対向配置された一対の耐火性金属製の放電電極と、前記放電空間にアーク放電を維持するために十分な量の希ガス、水銀とともに、鉄およびハロゲンからなる封入物と、を具備し、前記封入物の鉄の封入量M(mg/cc)は、前記放電空間の容積に対し、0.001<M<0.15の関係にしてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
この発明によれば、放電空間の容積当たりの鉄量を制限することで、鉄とタングステン電極との合金化を抑制し、結果として水冷式によるメタルハライドランプの場合でも黒化を抑制することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、この発明を実施するための最良の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0009】
図1〜図3は、この発明のメタルハライドランプに関する一実施形態について説明するための、図1は基本構造図、図2は図1要部の拡大図、図3は図1のIa−Ib断面図である。
【0010】
図1において、紫外線透過性を有する石英ガラス製で放電空間10が形成された気密容器11の長手方向両端の内部には、例えばタングステン材で形成された電極121,122が間隔をおいて配置される。気密容器11は、例えば外径φが27.5mm、肉厚mが2.25mm、発光長Lが2000mmの一重管で構成される。
【0011】
電極121,122は、それぞれインナーリード131,132を介してモリブデン箔141,142の一端に溶接される。モリブデン箔141,142の他端には、図示しないアウターリードの一端を溶接する。モリブデン箔141,142の部分は気密容器11のインナーリード131,132からアウターリードの一端までの気密容器11を加熱して封止する。
【0012】
なお、モリブデン箔141,142は、気密容器11を形成する石英ガラスの熱膨張率に近い材料であれば何でもよいが、この条件に適したものとして一般的なモリブデンを使用する。
【0013】
モリブデン箔141,142に一端がそれぞれ接続されたアウターリードには、耐熱性で絶縁性を有する例えばセラミック製のソケット151,152の内部で電気的に接続された給電用のリード線161,162を絶縁封止するとともに、図示しない電源回路に接続される。
【0014】
気密容器11内には、封入物としてアーク放電を維持させるための希ガスである十分な量のアルゴンガスが1.3kPaで、水銀それに紫外光を発光させるための金属である鉄、ヨウ化水銀、錫が封入されている。
【0015】
なお、紫外線を発光させるための金属としては、ヨウ化水銀に変えて臭化水銀、錫に変えてタリウムでも構わない。鉄それに錫、インジウム、ビスマス、タリウム、マンガンの少なくとも2種が封入されていれば構わない。
【0016】
図2にも示すように、電極121と122間の放電容器11の外表面には、先端が尖塔あるいは丸みを帯びた形状の突起17を一体形成する。突起17は、放電容器11の周面方向に、少なくとも1個で構わないが、図3に示すように複数形成してもよい。突起17は、取り付けられた状態で少なくとも下側の位置にくるようにする。突起17が複数形成されたは場合、必ずしも同一周回上ではなく、同一周回からずらした位置であっても構わない。さらに、突起17は、放電容器11の長手方向に、少なくも1か所に形成する。複数箇所の場合は、軸方向に同一線上になくても良い。
【0017】
突起17は、希ガス等の封入物を放電容器11内に封入させるためのチップとも言われる排気管痕とは区別されるものである。設けられた突起17の放電容器11の外周面からの高さは、排気管痕よりも高い高さとなっている。なお、排気管痕は、放電容器11の封止する部分を利用することにより、必ずしも必要なものではなく、なくすことも可能である。
【0018】
突起17の高さの規定は、ランプの水冷の冷却機構との位置関係で決まることから特に規定はしないが、冷却機構と接触しないこと、その他特性に影響を与えないことを考えると1〜3mm程度が好ましい。
【0019】
このように構成されたメタルハライドランプは、電極121,122に対して、ランプ電圧2300V、ランプ電流10.3A、電位傾度D11.5V/cmが供給されると、365nm近辺に高い発光強度を持つ紫外線の発光が可能となる。
【0020】
図4は、タングステン(W)に対する鉄(Fe)分量の違う合金の状態における融点温度との関係を示すためのものである。
【0021】
すなわち、鉄と合金となる前のWの融点温度は、3410℃であるのに対し、FeW(W,Fe合金、Fe分小)の融点温度は1216℃、FeW(W,Fe合金、Fe分多)では1016℃とタングステン単体の融点温度に対し1/3程度となる。従って、融点温度が低くなると、鉄分量が増加した合金化が進むことになり、鉄成分による電極付近における黒化現象を早めてしまう。
【0022】
図5は、単位長さ当たりのランプ入力が50〜160W/cmのとき、放電空間容積に対する鉄の封入量M(mg/cc)を、0.001〜0.2まで5段階に変化させた場合における黒化と365nm付近における紫外線強度について実験した結果について説明するための説明図である。
【0023】
図5から明らかなように、鉄の封入量M(mg/cc)が0.001では、黒化は生じないものの紫外光の強度が基準に満たない。鉄の封入量M(mg/cc)がそれぞれ0.002,0.003,0.15の場合は、黒化の発生もなく、紫外光の強度も基準を満足するものが得られる。鉄の封入量M(mg/cc)が0.20の場合は、黒化が生じ、紫外光の強度も基準に達しないものであった。
【0024】
このため、放電空間容積に対する鉄の封入量M(mg/cc)を0.20にすると、ランプ冷却時におけるランプ最冷部である電極周辺に鉄が蓄積して黒化を生じてしまう。放電空間容積に対する封入鉄量M(mg/cc)を0.15にすることで黒化を防止することができる。
【0025】
図4でも説明したように、放電空間容積に対する鉄の封入量M(mg/cc)が多いほどタングステン電極での鉄の合金量が増加する。これに伴い電極の融点温度が低下し、点灯中に電極付近の気密容器11に蒸気化した鉄が気密容器11への浸食による黒化現象が生じることになる。
【0026】
このようなことから、鉄の封入量M(mg/cc)を制限することにより気密容器11の電極121,122付近での黒化現象を防止することで、放射される紫外線の強度を確保することができる。
【0027】
このように、単位長さ当たりのランプ入力が50〜160W/cmのとき、放電空間容積に対し、0.001<M<0.15の関係とすることにより、黒化を抑制することが可能となる。黒化の抑制は、換言すれば紫外線の強度の低下の抑制になり、ランプの長寿命化に寄与することになる。
【0028】
図6、図7は、この発明のメタルハライドランプを、水冷式の冷却機構を備えた紫外線照射装置に用いた場合における実施例について説明するための、図6はシステム構成図、図7は図6のIIa−IIb線断面図である。
【0029】
紫外線照射装置は、メタルハライドランプ100と水冷ユニット200から構成される。メタルハライドランプ100と水冷ユニット200は、メタルハライドランプ100のソケット151,152に取り付けられたスペーサ25a,25bにより所定の間隔に位置決めされる。
【0030】
水冷ユニット200は、円筒状の石英ガラス等の透明な材料で形成され、内管21とその外側に設けられた外管22を備え、二重管構造となっている。メタルハライドランプ100は、内管21に内包されている。
【0031】
水冷ユニット200は外周端部に設けられた接続管23a,23bを通して外部から水などの冷却液24が循環される。冷却液24は、図7に示すように、接続管23aから温度の低いものを入水し、接続管23bからメタルハライドランプ100の冷却を行い、暖められた冷却液24を出水する。内管21、外管22の間を通過する過程でメタルハライドランプ100により暖められた出水は、例えば冷却され再び接続管23aから入力するようにし、冷却液24を再利用している。
【0032】
外管22の外表面には、金属酸化物を含む金属酸化物膜が被着されている。この金属酸化物としては、酸化チタン(TiO),酸化セシウム(CeO),酸化亜鉛(ZnO),酸化錫(SnO),酸化ジルコニウム(ZrO)が考えられ、これら金属酸化膜の少なくとも1種以上より構成される。金属酸化物膜は、メタルハライドランプ100から放射される光のうちの、300nm以下の波長成分を吸収するように成分調整がなされている。
【0033】
そして、メタルハライドランプ100から紫外光が放射されると、外管22の外面に被着した金属酸化物膜が300nm以下の波長成分を吸収する。従って、樹脂の硬化に有効な300〜430nmの波長域の紫外線については水冷ユニット200を透過させ、樹脂などの被照射物に照射される。
【0034】
ところで、水冷ユニット200の内管21の径が32mm、外管22の径36mmとした場合のメタルハライドランプ100を水冷ユニット200内で定電力させたときを考える。
【0035】
ここで使用されるメタルハライドランプは、水冷式であっても黒化を抑えることができることからランプ寿命を長くすることができ、紫外線照射装置のメンテナンス性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】この発明のメタルハライドランプに関する一実施形態について説明するための基本構造図。
【図2】図1要部の拡大図。
【図3】図1のIa−Ib線断面図。
【図4】タングステンに対する鉄の合金量の状態における融点温度との関係について説明するための説明図。
【図5】鉄の含有量による黒化頻度、特定波長強度の影響の関係について説明するための説明図。
【図6】この発明のメタルハライドランプを、水冷式の冷却機構を備えた紫外線照射装置に用いた場合における実施例について説明するためのシステム構成図。
【図7】図6のIIb−IIb線断面図。
【符号の説明】
【0037】
10 放電空間
11 気密容器
121,122 電極
131,132 インナーリード
141,142 モリブデン箔
151,152 ソケット
161,162 リード線
17 突起
100 メタルハロイドランプ
200 水冷ユニット
21 内管
22 外管
23a,23b 接続管
24 冷却液
25a,25b スペーサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紫外線透過性の材料で気密性を有する放電空間が形成された気密容器と、
前記気密容器に封装され、前記放電空間に対向配置された一対の耐火性金属製の放電電極と、
前記放電空間にアーク放電を維持するために十分な量の希ガス、水銀とともに、鉄およびハロゲンからなる封入物と、を具備し、
前記封入物の鉄の封入量M(mg/cc)は、前記放電空間の容積に対し、0.001<M<0.15の関係にしてなることを特徴とするメタルハライドランプ。
【請求項2】
前記気密容器は、内管と外管からなる冷却管の内管と外管間に冷却液を流して冷却行う水冷管ユニット内に配置したことを特徴とする請求項1記載のメタルハライドランプ。
【請求項3】
前記気密容器の外周には、前記封入物を導入させる管痕があるなしに係わらず突起を一体形成したことを特徴とするメタルハライドランプ。
【請求項4】
前記突起は、前記管痕が形成されている場合、該管痕より高く形成したことを特徴とする請求項1のメタルハライドランプ。
【請求項5】
前記突起は、ランプ長手方向に複数箇所設けることを特徴とする請求項1のメタルハライドランプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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