説明

メタロセン化合物の分解方法

【課題】メタロセン化合物を効率的に分解することができる方法を提供する。
【解決手段】メタロセン化合物と、有機溶媒と、水と、二酸化硫黄とを含有する混合液を調製する工程1、及び、前記混合液に酸素を吹き込む工程2を有するメタロセン化合物の分解方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタロセン化合物を効率的に分解することができる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フェロセン等のメタロセン化合物は、紫外線吸収剤、耐熱ポリマーの中間体、人工衛星のコーティング剤等に用いられる有用な化合物である。また、ベンゼンと同様の芳香族性を持っており、フリーデル・クラフツ反応等にも用いられる。それゆえ、メタロセン化合物の誘導体も合成しやすく、メタロセン化合物誘導体は配位子として医薬品や農薬の合成に広く用いられている(特許文献1〜3)。また、最近ではスルフォランの製造において重合物の生成を抑制するため、重合禁止剤として用いる方法や水添反応の安定化剤として用いる方法等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2008−505162号公報
【特許文献2】特表2008−538773号公報
【特許文献3】特表2009−541451号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
フェロセン等のメタロセン化合物はきわめて安定な化合物であり、400℃に加熱しても分解しない。また、水や10%水酸化ナトリウム水溶液又は濃硫酸と煮沸しても分解しないため、メタロセン化合物を使用した反応後の生成物に残留するメタロセン化合物の後処理が問題となっている。例えば、スルフォラン化合物の製造において、メタロセン化合物由来の金属が残存し、スルフォラン化合物中の金属分が過剰になるという問題が発生する。そこで、メタロセン化合物を容易に、かつ、効率的に分解する方法が望まれていた。
【0005】
本発明は、メタロセン化合物を効率的に分解することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、メタロセン化合物と、有機溶媒と、水と、二酸化硫黄とを含有する混合液を調製する工程1、及び、前記混合液に酸素を吹き込む工程2を有するメタロセン化合物の分解方法である。
以下に本発明を詳述する。
【0007】
本発明者らは、有機溶媒と、水と、二酸化硫黄とをメタロセン化合物と混合して得られる混合液に、酸素を吹き込んで反応を進行させることにより、メタロセン化合物を効率的に分解することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
本発明のメタロセン化合物の分解方法によって、メタロセン化合物の分解が円滑に進行する理由は詳らかではないが、分解物としてシクロペンタジエン及び金属酸化物が検出されることから、例えば、フェロセンの分解の場合、フェロセンが酸素により酸化されてフェロセニウムイオンになり、更に、酸素、水、二酸化硫黄との反応により鉄イオン(III)や酸化鉄、シクロペンタジエンに分解すると考えられる。
【0008】
本発明のメタロセン化合物の分解方法は、まず、メタロセン化合物と、有機溶媒と、水と、二酸化硫黄とを含有する混合液を調製する工程1を行う。
【0009】
前記メタロセン化合物は特に限定されず、例えば、フェロセン、メチルフェロセン、エチルフェロセン、ブチルフェロセン、tert−ブチルフェロセン、1,1’−ジメチルフェロセン、1,1’−ジブチルフェロセン、アセチルフェロセンおよびフェニルフェロセン等のフェロセン化合物、ニッケロセン等のニッケロセン化合物、ルテノセン等のルテノセン化合物、ジルコノセン等のジルコノセン化合物並びにチタノセン等のチタノセン化合物等が挙げられる。本発明のメタロセン化合物の分解方法は、これらの中でも、フェロセン化合物の分解に好適に用いられ、特にフェロセンの分解に好適に用いられる。
【0010】
前記有機溶媒としては前記メタロセン化合物を溶解することができるものであれば特に限定されず、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール等のアルコール類や、アセトニトリル、テトラヒドロフラン等の極性溶媒類や、スルフォラン、2−メチルスルフォラン、3−メチルスルフォラン等のスルフォラン化合物等の親水性の有機溶媒が挙げられる。これらの中でも、安定性や扱いやすさの観点から、スルフォラン化合物が好適に用いられる。これらの有機溶媒は、単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0011】
前記混合液における前記有機溶媒の含有量は特に限定されないが、前記メタロセン化合物100重量部に対して、好ましい下限は10万重量部、好ましい上限は3200万重量部である。前記有機溶媒の含有量が10万重量部未満であると、メタロセン化合物の分解が充分に進行せずに残存することがある。前記有機溶媒の含有量が3200万重量部を超えても使用量に見合う効果がなく経済的でない。前記有機溶媒の含有量のより好ましい下限は20万重量部、より好ましい上限は1600万重量部である。
【0012】
前記混合液における前記水の含有量は特に限定されないが、前記メタロセン化合物100重量部に対して、好ましい下限は35万重量部、好ましい上限は3000万重量部である。前記水の含有量が35万重量部未満であると、メタロセン化合物の分解が充分に進行せずに残存することがある。前記水の含有量が3000万重量部を超えても使用量に見合う効果がなく経済的でない。前記水の含有量のより好ましい下限は70万重量部、より好ましい上限は1500万重量部である。
【0013】
前記混合液における前記二酸化硫黄の含有量は特に限定されないが、前記メタロセン化合物100重量部に対して、好ましい下限は50重量部、好ましい上限は13000重量部である。前記二酸化硫黄の含有量が50重量部未満であると、メタロセン化合物の分解が充分に進行せずに残存することがある。前記二酸化硫黄の含有量が13000重量部を超えても使用量に見合う効果がなく経済的でない。前記二酸化硫黄の含有量のより好ましい下限は100重量部、より好ましい上限は6500重量部である。
【0014】
前記二酸化硫黄を混合する方法は特に限定されず、例えば、反応容器内の有機溶媒、水、又は、有機溶媒と水の混合液にパスツールピペット又はガラスボールフィルターを導入し、気体の二酸化硫黄を吹き込んで混合する方法等が挙げられる。
【0015】
本発明のメタロセン化合物の分解方法は、次に、前記混合液に酸素を吹き込む工程2を行う。
【0016】
前記工程2で混合液に酸素を吹き込む方法は特に限定されず、酸素自体を吹き込んでもよく、空気を吹き込んでもよい。具体的には例えば、反応容器内にパスツールピペット又はガラスボールフィルターを導入し、窒素雰囲気下で空気吹き込みをする方法等が挙げられる。なかでも、酸素と混合液との接触効率を高くし、より効率的にメタロセン化合物を分解することができることから、ガラスボールフィルターを導入する方法が好適である。
【0017】
前記工程2で混合液に吹き込む酸素の吹き込み量は特に限定されないが、混合液100gに対して0.5〜15mL/minの比率であることが好ましい。混合液100gに対して0.5mL/min未満の比率で酸素を吹き込んだ場合、メタロセン化合物の分解が充分に進行せずに残存することがある。混合液100gに対して15mL/minの比率を超えて酸素を吹き込んでも使用量に見合う効果がなく経済的でない。前記酸素の吹き込み量は、混合液100gに対して0.8〜5mL/minであることがより好ましい。
【0018】
前記工程2で酸素を吹き込む際の混合液の温度は特に限定されないが、好ましい下限は40℃、好ましい上限は150℃である。前記混合液の温度が40℃未満であると、メタロセン化合物の分解が充分に進行せずに残存することがある。前記混合液の温度が150℃を超えると、使用した前記有機溶媒が蒸発、分解して、メタロセン化合物の分解が充分に進行せずに残存することがある。前記混合液の温度のより好ましい下限は80℃、より好ましい上限は100℃である。
【0019】
前記工程2で酸素を吹き込む時間、即ち、メタロセン化合物の分解時間は、混合液の温度、酸素の吹き込み量、酸素と混合液との接触効率等により異なり、特に限定されないが、通常0.1〜10時間である。上記メタロセン化合物の分解時間の好ましい上限は4時間である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、メタロセン化合物を効率的に分解することができる方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されない。
【0022】
(実施例1)
窒素ボックス内で200mL容のメスシリンダーに、フェロセンの含有率が13.0ppmのスルフォラン溶液を70g(フェロセン含有量0.00091g)仕込んだ後、水を130g添加し、得られたフェロセン含有スルフォラン水溶液オイルバス内に置いた。次いで、得られたフェロセン含有スルフォラン水溶液内にパスツールピペット(内口径0.8〜1.4mm)にて二酸化硫黄を0.0028g添加して混合液を調製した。パスツールピペット(内口径0.8〜1.4mm)を混合液内に入れ、温度を80℃まで昇温させた後、パスツールピペットによる空気吹き込みを10mL/min(酸素吹き込み量約2mL/min)で開始した。空気吹き込みの開始後、10分ごとにサンプリングを行い、液体クロマトグラフィーによりフェロセンの残存率を測定し、フェロセンが検出されなくなった(有機溶媒中の残存率が10.0ppb以下となった)ところで、反応終了とした。その結果、空気吹き込み開始から終了までの時間は180分であった。表1に結果を示す。
【0023】
(実施例2)
フェロセンの含有率が13.0ppmのスルフォラン溶液の添加量を200g(フェロセン含有量0.0026g)、水の添加量を20g、二酸化硫黄の添加量を0.0031gにしたこと以外は、実施例1と同様にしてフェロセンの分解を行った。その結果、空気吹き込み開始から終了までの時間は180分であった。表1に結果を示す。
【0024】
(実施例3)
二酸化硫黄の添加量を0.1672gにしたこと以外は、実施例2と同様にしてフェロセンの分解を行った。その結果、空気吹き込み開始から終了までの時間は180分であった。表1に結果を示す。
【0025】
(実施例4)
パスツールピペットをガラスボールフィルター(細孔サイズ5〜10μm)に代えたこと以外は、実施例1と同様にしてフェロセンの分解を行った。その結果、空気吹き込み開始から終了までの時間は10分であった。表1に結果を示す。
【0026】
(実施例5)
空気吹き込みの際の温度を60℃にしたこと以外は、実施例1と同様にしてフェロセンの分解を行った。その結果、分解時間240分でもフェロセンは残存しており、その時点の有機溶媒中の残存率は1.0ppm(全体量中0.35ppm、残存量0.00007g)であった。表1に結果を示す。
【0027】
(実施例6)
空気吹き込みの際の温度を40℃にしたこと以外は、実施例1と同様にしてフェロセンの分解を行った。その結果、分解時間240分でもフェロセンは残存しており、その時点の有機溶媒中の残存率は1.7ppm(全体量中0.60ppm、残存量0.000119g)であった。表1に結果を示す。
【0028】
(実施例7)
スルフォラン溶液をメタノール溶液に代え、空気吹き込みの際の温度を40℃にしたこと以外は、実施例1と同様にしてフェロセンの分解を行った。その結果、空気吹き込み開始から終了までの時間は220分であった。表1に結果を示す。
【0029】
(実施例8)
スルフォラン溶液をアセトニトリル溶液に代え、空気吹き込みの際の温度を40℃にしたこと以外は、実施例1と同様にしてフェロセンの分解を行った。その結果、空気吹き込み開始から終了までの時間は230分であった。表1に結果を示す。
【0030】
(実施例9)
フェロセンをルテノセンに代えたこと以外は、実施例1と同様にしてルテノセンの分解を行った。その結果、空気吹き込み開始から終了までの時間は160分であった。表1に結果を示す。
【0031】
(比較例1)
空気吹き込みを窒素吹き込みに代えたこと以外は、実施例1と同様にしてフェロセンの分解を行った。その結果、分解時間240分でもフェロセンは残存しており、その時点の有機溶媒中の残存率は13.0ppm(全体量中4.55ppm、残存量0.00091g)であった。表1に結果を示す。
【0032】
(比較例2)
水を添加せずに混合液を調製したこと以外は、実施例1と同様にしてフェロセンの分解を行った。その結果、分解時間240分でもフェロセンは残存しており、その時点の有機溶媒中の残存率は13.0ppm(全体量中13.0ppm、残存量0.00091g)であった。表1に結果を示す。
【0033】
(比較例3)
二酸化硫黄を添加せずに混合液を調製したこと以外は、実施例1と同様にしてフェロセンの分解を行った。その結果、分解時間240分でもフェロセンは残存しており、その時点の有機溶媒中の残存率は13.0ppm(全体量中4.55ppm、残存量0.00091g)であった。表1に結果を示す。
【0034】
(比較例4)
有機溶媒を用いずにフェロセン0.00091gを含有する混合液を調製したこと以外は、実施例1と同様にしてフェロセンの分解を行った。その結果、分解時間240分でもフェロセンは残存しており、その時点の混合液中のフェロセンの残存量は0.00091gであった。表1に結果を示す。
【0035】
(比較例5)
パスツールピペットをガラスボールフィルター(細孔サイズ5〜10μm)に代え、空気吹き込みを窒素吹き込みに代えたこと以外は、実施例1と同様にしてフェロセンの分解を行った。その結果、分解時間240分でもフェロセンは残存しており、その時点の有機溶媒中の残存率は13.0ppm(全体量中4.55ppm、残存量0.00091g)であった。表1に結果を示す。
【0036】
(比較例6)
パスツールピペットをガラスボールフィルター(細孔サイズ5〜10μm)に代え、水を添加せずに混合液を調製したこと以外は、実施例1と同様にしてフェロセンの分解を行った。その結果、分解時間240分でもフェロセンは残存しており、その時点の有機溶媒中の残存率は13.0ppm(全体量中13.0ppm、残存量0.00091g)であった。表1に結果を示す。
【0037】
(比較例7)
パスツールピペットをガラスボールフィルター(細孔サイズ5〜10μm)に代え、二酸化硫黄を添加せずに混合液を調製したこと以外は、実施例1と同様にしてフェロセンの分解を行った。その結果、分解時間240分でもフェロセンは残存しており、その時点の有機溶媒中の残存率は13.0ppm(全体量中4.55ppm、残存量0.00091g)であった。表1に結果を示す。
【0038】
【表1】

【0039】
実施例1と比較例1から、メタロセン化合物の分解には酸素が必要であることが分かり、実施例1と実施例4、実施例5及び実施例6との比較から酸素と混合液との接触効率を高くしたり、酸素を吹き込む際の混合液の温度を高くしたりすると、フェロセンの分解時間が短縮され、フェロセンの分解が円滑に進むことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明によれば、メタロセン化合物を効率的に分解することができる方法を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタロセン化合物と、有機溶媒と、水と、二酸化硫黄とを含有する混合液を調製する工程1、及び、前記混合液に酸素を吹き込む工程2を有する
ことを特徴とするメタロセン化合物の分解方法。
【請求項2】
メタロセン化合物は、フェロセン化合物であることを特徴とする請求項1記載のメタロセン化合物の分解方法。
【請求項3】
フェロセン化合物は、フェロセンであることを特徴とする請求項2記載のメタロセン化合物の分解方法。
【請求項4】
工程1で調製する混合液は、メタロセン化合物100重量部に対して水を35万〜3000万重量部含有することを特徴とする請求項1、2又は3記載のメタロセン化合物の分解方法。
【請求項5】
工程1で調製する混合液は、メタロセン化合物100重量部に対して二酸化硫黄を50〜13000重量部含有することを特徴とする請求項1、2、3又は4記載のメタロセン化合物の分解方法。
【請求項6】
工程2の酸素の吹き込み量が、混合液100gに対して0.5〜15mL/minの比率であることを特徴とする請求項1、2、3、4又は5記載のメタロセン化合物の分解方法。
【請求項7】
工程2で酸素を吹き込む際の混合液の温度が40〜150℃であることを特徴とする請求項1、2、3、4又は5記載のメタロセン化合物の分解方法。

【公開番号】特開2012−17283(P2012−17283A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−154947(P2010−154947)
【出願日】平成22年7月7日(2010.7.7)
【出願人】(000195661)住友精化株式会社 (352)
【Fターム(参考)】