説明

メタン発酵システムおよび方法

【課題】 大型の可溶化処理槽を必要とせず、しかも、メタン発酵槽への酵素添加を行わなくても、メタン発酵槽におけるメタン発酵効率を向上させることのできるメタン発酵システムおよび方法を提供すること。
【解決手段】 本発明に係るメタン発酵システムは、有機性廃棄物を嫌気性条件下でメタン発酵するメタン発酵槽と、メタン発酵槽内の発酵液の一部と栄養源が送られて好気性条件下で好気性菌を培養する好気性培養槽と、を備え、前記好気性培養槽で培養された培養液が、前記メタン発酵槽に戻されるように構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機性廃棄物をメタン発酵槽でメタン発酵させるメタン発酵システムおよび方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
畜産廃棄物や生ゴミ等の有機性廃棄物の処理する技術として、嫌気性条件下のメタン発酵槽において、嫌気性菌であるメタン生成菌を用いてメタン発酵させるメタン発酵処理(嫌気性消化)が知られており、バイオガス(嫌気性微生物の代謝により産生されるメタンを主成分とするガス)を回収し、リサイクルエネルギーとして活用できることから、風力発電、太陽光発電などと並び、再生可能なエネルギー資源の一つに位置付けられ今後の普及が期待されている。
【0003】
前記メタン発酵処理を行う場合、メタン発酵効率を高めるために、メタン発酵槽の前段に大型の可溶化処理槽を設け、メタン発酵槽内でのメタン発酵処理の前に、前記可溶化処理槽にて好気性菌を用いた分解処理(好気性処理)を行うことによって有機性廃棄物を可溶化し、続くメタン発酵処理を容易にする方法が取られていた(特許文献1:特開2003−164840号公報)。
【0004】
また、欧州等においては、上述のような可溶化処理槽での可溶化処理を行わず、メタン発酵槽に加水分解酵素(セルロース分解酵素)を添加することによりメタン発酵を促進させ、メタン発酵効率を更に向上させる方法が、検討されている。
【特許文献1】特開2003−164840号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された可溶化処理槽による可溶化処理は、メタン発酵槽に供給する前の有機性廃棄物の全量に対して行う前処理であり、メタン発酵槽と同規模の大きな可溶化処理槽を設置しなければならない。
【0006】
また、メタン発酵槽に酵素を添加する方法では、可溶化処理槽を設けなくてもよいので、省スペースでメタン発酵システムに必要な設備の設置が可能であり、設備等の導入コストが抑えられる。
しかし、メタン発酵を促進する前記酵素は非常に高価であり、しかも、該酵素は継続的に添加しなければならないため、維持コストがかかるという問題があった。
【0007】
本発明の目的は、大型の可溶化処理槽を必要とせず、しかも、メタン発酵槽への酵素添加を行わなくても、メタン発酵槽におけるメタン発酵効率を向上させることのできるメタン発酵システムおよび方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の第1の態様に係るメタン発酵システムは、有機性廃棄物を嫌気性条件下でメタン発酵するメタン発酵槽と、該メタン発酵槽内のメタン発酵液の一部と栄養源が送られて好気性条件下で好気性菌を培養する好気性培養槽と、を備え、前記好気性培養槽で培養された培養液が、前記メタン発酵槽に戻されるように構成されたことを特徴とする。
【0009】
メタン発酵槽内では、嫌気性菌であるメタン生成菌が増殖し、メタン発酵が行われているが、該メタン発酵槽内の発酵液中には、嫌気性条件下では増殖できない好気性菌が存在する。
本発明によれば、メタン発酵槽内の発酵液の一部が抜き出されて、栄養源と共に好気性条件下に移されるので、その抜き出されたメタン発酵液中に含まれる好気性菌は、好気性条件の下で培養される。これにより、培養液中に好気性菌によって加水分解酵素が生成される。その培養液を再びメタン発酵槽内に戻し、生成された加水分解酵素をメタン発酵槽に供給することによって、該加水分解酵素は嫌気性下でも有機性廃棄物を加水分解するため、メタン発酵槽内では当該加水分解酵素によって有機性廃棄物の加水分解が進行しつつ、メタン生成菌によるメタン発酵が進行し、メタン発酵効率を向上させることができる。
【0010】
したがって、メタン発酵槽へ酵素試薬を添加する必要がないので、メタン発酵システムを稼動させるための維持コストを低減することができる。
また、メタン発酵槽に供給する前の有機性廃棄物の全量を処理するための、大きな可溶化処理槽を設置する必要がないので、その導入コストや維持コストがかからず経済的である。
【0011】
本発明の第2の態様に係るメタン発酵システムは、第1の態様において、単位時間当たりにメタン発酵槽に供給される有機性廃棄物量であり、且つ、単位時間当たりにメタン発酵槽から排出されるメタン発酵液量であるメタン発酵槽供給排出量の1〜10%の量のメタン発酵液を、メタン発酵槽から好気性培養槽に送るように構成したことを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、メタン発酵槽から好気性培養槽に送る発酵液量は、前記メタン発酵槽において処理する有機性廃棄物量に対して少量でよいので、メタン発酵槽に供給される有機性廃棄物量の全量を処理するための可溶化処理槽に比して、好気性培養槽は小規模で足り、好気性培養槽の導入コストや維持コストが低く抑えられる。
【0013】
本発明の第3の態様に係るメタン発酵システムは、第1または第2の態様において、前記好気性培養槽における培養滞留時間が1〜5日であることを特徴とする。
好気性菌は生育して加水分解酵素を生産し、メタン発酵効率を高める加水分解酵素を培養液中に生成する。その際、好気性培養槽において、1日間の培養滞留時間によって、メタン発酵槽におけるメタン発酵効率を向上させるために十分な量の加水分解酵素を生成する。前記培養滞留時間を5日間にすると、加水分解酵素の生成量は更に多くなるが、好気性培養槽に滞留する培養液の量も5倍になり、該好気性培養槽が大型化するため、5日を上限とすることが望ましい。
【0014】
本発明の第4の態様に係るメタン発酵システムは、第1乃至第3のいずれかの態様において、前記好気性培養槽における好気性条件は、曝気、大気開放下での機械式撹拌、および/またはポンプによる培養液循環によって確保されることを特徴とする。
本発明によれば、好気性培養槽内を好気性菌の生育に必要な好気性条件とすることができる。
【0015】
本発明の第5の態様に係るメタン発酵システムは、第1乃至第4のいずれかの態様において、前記栄養源として、多糖類、高級脂肪酸、単糖類、二糖類、アミノ酸、油脂類、の少なくとも一成分を、メタン発酵槽内から送られたメタン発酵液の量に対して10mg/リットル以上の濃度になるように添加することを特徴とする。
本発明によれば、好気性菌を良好に生育させるとともに、該好気性菌による加水分解酵素の生産が良好に行われる。
【0016】
本発明の第6の態様に係るメタン発酵システムは、第1乃至第5のいずれかの態様において、前記好気性培養槽内の培養液の温度を、前記メタン発酵槽内のメタン発酵液の温度の±5℃以内に設定することを特徴とする。
本発明によれば、好気性培養槽内の培養液を、メタン発酵槽内に戻す際の、メタン発酵槽内の発酵液の温度変化を少なくすることができる。
【0017】
本発明の第7の態様に係るメタン発酵方法は、有機性廃棄物をメタン発酵させるメタン発酵槽内のメタン発酵液の一部と栄養源とを好気性培養槽に送り、該好気性培養槽において好気性条件下で好気性菌を培養した後、その培養液を前記メタン発酵槽に戻すことを特徴とする。本発明によれば、第1の態様と同様の作用効果が得られる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、大型の可溶化処理槽を必要とせず、しかも、メタン発酵槽への酵素添加を行わなくても、メタン発酵槽におけるメタン発酵効率を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
[実施例1]
本発明に係るメタン発酵システムの一実施例を図1に基いて詳細に説明する。
図1のメタン発酵システムは、有機性廃棄物1を磨砕する磨砕機41と、磨砕された有機性廃棄物1が送られて該有機性廃棄物1をメタン発酵させるメタン発酵槽11と、前記メタン発酵槽11内から抜き出された発酵液2の一部と栄養源4が送られて、好気性条件下で好気性菌を培養する好気性培養槽21と、を備えており、好気性培養槽21内の培養液3がメタン発酵槽11に戻されるように構成されている。
【0020】
本発明で使用する有機性廃棄物1としては、例えば、生ごみ、排水処理汚泥、畜産廃棄物や緑農廃棄物などを挙げることができる。ここで、畜産廃棄物としては、家畜の糞尿や、屠体、その加工品が挙げられ、より具体的にはブタ、牛、羊、山羊、ニワトリなどの家畜の糞尿やこれらの屠体、そこから分離された骨、肉、脂肪、内臓、血液、脳、眼球、皮、蹄、角などのほか、例えば肉骨粉、肉粉、骨粉、血粉などに代表される家畜屠体の骨、肉等を破砕した破砕物や、血液などを乾燥した乾燥物も含まれる。その他の廃棄物としては、家庭の生ごみのほか、産業廃棄物生ごみとして農水産業廃棄物、食品加工廃棄物等が含まれる。なお、有機性廃棄物1の状態により、必要に応じて前処理として二軸破砕機による破砕工程や分別工程を実施することができる。
【0021】
有機性廃棄物1は磨砕機41によって、メタン生成菌による発酵が行われやすいように微細に磨砕される。磨砕された有機性廃棄物1は有機性廃棄物供給ライン10を介して有機性廃棄物供給口12からメタン発酵槽11内に供給され、メタン発酵槽11内においてメタン生成菌によるメタン発酵が行われる。
【0022】
磨砕された有機性廃棄物1が有機性廃棄物供給口12からメタン発酵槽11へ供給されるとともに、メタン発酵槽11内のメタン発酵液2は、メタン発酵液排出口13から排出され、スラリータンク42に送られて数ヶ月間貯留されるようになっている。メタン発酵槽11に供給される有機性廃棄物1の量はメタン発酵槽11から排出されるメタン発酵液2の量と同量であり、これを以下の説明では「メタン発酵槽供給排出量」と称する。
【0023】
メタン発酵槽11内の温度は55℃に設定され、いわゆる高温メタン発酵を行うようになっている。メタン発酵によって生成されたバイオガスは、脱硫処理などの精製処理工程に送られる。有機性廃棄物1のメタン発酵槽11での滞留時間は例えば15日間(メタン発酵槽容積/メタン発酵槽供給排出量=15日)に設定されている。
【0024】
メタン発酵槽11内の温度を37℃に設定して中温メタン発酵を行うこともできる。その場合、有機性廃棄物1のメタン発酵槽11での滞留時間は例えば35日間(メタン発酵槽容積/供給排出量=35日)に設定することができる。
【0025】
メタン発酵槽11内のメタン発酵液2の一部は、メタン発酵液抜出口14から抜き出され、メタン発酵液移送ライン20を介して送られ、メタン発酵液供給口22から好気性培養槽21内に供給される。メタン発酵槽11から好気性培養槽21内に送られるメタン発酵液2の量は、単位時間当たりにメタン発酵槽11に供給される有機性廃棄物1量であり、且つ、単位時間当たりにメタン発酵槽11から排出されるメタン発酵液2量であるメタン発酵槽供給排出量に対して1〜10%であることが望ましい。
【0026】
好気性発酵槽21は、曝気装置24および撹拌機25を備え、曝気を行いながら大気開放下で撹拌されることによって好気性条件を確保するように構成されている。更に、ポンプ(図示せず)によって、培養液3を好気性培養槽21内で循環させるように構成されていることが好ましい。曝気条件、撹拌速度、培養液の循環速度等は、該培養槽21の容積や培養温度によって決定される。
【0027】
前記メタン発酵槽11から前記メタン発酵液2が供給された好気性培養槽21には、好気性菌の生育に適した栄養源4が添加され、前記好気性条件下において、好気性菌が培養される。前記栄養源4としては、デンプン等の多糖類、ステアリン酸等の高級脂肪酸、グルコース等の単糖類、シュークロース等の二糖類、グリシン等のアミノ酸、ステアリン酸トリグリセリド等の油脂類が挙げられる。これらのうち少なくとも一成分を、メタン発酵槽11内から送られたメタン発酵液2の量に対して10mg/リットル以上の濃度になるように加えると、栄養源の必要量を満たせるので、そのようにすることが望ましい。
【0028】
好気性培養槽21内の温度は、メタン発酵槽11内の温度とほぼ同じであることが好ましく、好気性培養槽21の培養液3の温度が、メタン発酵槽内11のメタン発酵液2の温度の±5℃以内となるように設定されることが好ましい。
また、好気性培養槽21における培養滞留時間が1〜5日になるように、好気性培養液21の容積が設定されている。
【0029】
好気性培養槽21内で所定時間培養された培養液3は、該好気性発酵槽21の培養液抜出口23から抜き出され、培養液移送ライン30を介して送られ、培養液供給口15からメタン発酵槽11内に戻される。
【0030】
尚、実際にメタン発酵システムを運転する際には、メタン発酵液2がメタン発酵槽11から好気性培養槽21へ連続的に供給されるとともに、好気性培養槽21内の培養液3が好気性培養槽21から連続的に抜き出され、培養液移送ライン30を介してメタン発酵槽11に戻され、メタン発酵液3と培養液2が循環するように構成されている。
【0031】
好気性培養槽21に供給されるメタン発酵液2の量は好気性培養槽21からメタン発酵槽へ送られる培養液3の量と同量であり、これを以下の説明では「好気性培養槽供給排出量」と称する。
好気性培養槽21の容積は、好気性培養槽21での培養滞留時間に応じて、好気性培養槽容積/好気性培養槽供給排出量=培養滞留時間となるような大きさに設定される。
【0032】
次に、上記実施例の作用を説明する。
メタン発酵槽11内では、嫌気性菌であるメタン生成菌が増殖し、メタン発酵が行われているが、該メタン発酵槽11内のメタン発酵液2中には、嫌気性条件下では増殖できない好気性菌が存在する。
【0033】
本実施例によれば、前記メタン発酵槽11内のメタン発酵液2中に含まれる好気性菌を好気性培養槽21に移して、好気性条件下で培養することにより、培養液3中に好気性菌が増殖し、その増殖に伴って加水分解酵素が生成される。加水分解酵素が生成された培養液3を、再びメタン発酵槽11内に戻し、生成された加水分解酵素をメタン発酵槽11内に供給することによって、該加水分解酵素は嫌気性下でも有機性廃棄物1を加水分解するため、メタン発酵槽11内では当該加水分解酵素によって有機性廃棄物1の加水分解が進行しつつ、メタン生成菌によるメタン発酵が進行し、メタン発酵効率を向上させることができる。
【0034】
したがって、メタン発酵槽11へ酵素試薬を添加する必要がないので、メタン発酵システムを稼動させるための維持コストを低減することができる。
また、メタン発酵槽11に供給する前の有機性廃棄物1の全量を処理するための、大きな可溶化処理槽を設置する必要がないので、その導入コストや維持コストがかからず経済的である。
【0035】
メタン発酵槽11から好気性培養槽21に送るメタン発酵液2の量は、単位時間当たりにメタン発酵槽11に供給される有機性廃棄物1量であり、且つ、単位時間当たりにメタン発酵槽11から排出されるメタン発酵液2量であるメタン発酵槽供給排出量に対して1〜10%でよい。また、好気性培養槽21において、1日間の培養滞留時間によって、メタン発酵槽11におけるメタン発酵効率を向上させるために十分な量の加水分解酵素を生成する。前記培養滞留時間を5日間にすると、加水分解酵素の生成量は更に多くなるが、好気性培養槽21に滞留する培養液3の量も5倍になり、該好気性培養槽21が大型化するため、5日を上限とすることが望ましい。
このことによって、好気性培養槽21は、メタン発酵槽11に供給される有機性廃棄物量1の全量を処理する可溶化処理槽に比して小規模で足り、好気性培養槽21の導入コストや維持コストが低く抑えられる。
【0036】
例えば、55℃の高温メタン発酵を行うメタン発酵槽11において、90m/日の有機性廃棄物1を処理する場合に必要なメタン発酵槽11の容積は1350mである。このメタン発酵の前処理として可溶化処理槽を設ける場合、該可溶化処理槽としてはほぼ同程度の容積が必要となる。
一方、本実施例に必要な好気性培養槽21の容積は、メタン発酵槽11から好気性培養槽21に送るメタン発酵液2の量や培養滞留時間にもよるが、0.9〜45mでよく、好気性培養槽21の導入費用および維持費用が少なく経済的である。
【0037】
また、前記好気性培養槽21における好気性条件は、曝気および大気開放下での機械式撹拌によって確保されるように構成されているため、曝気条件、撹拌速度を変更することによって、好気性菌が加水分解酵素を生産するのに最適な好気性条件となるように調整することができる。ポンプを用いて培養液を循環させて空気を取り入れている場合は、培養液の循環速度を変更することによっても、好気性条件の調整が可能である。
【0038】
また、前記好気性培養槽21内の培養液3の温度を、前記メタン発酵槽11内のメタン発酵液2の温度の±5℃以内に設定されているので、好気性培養槽21内の培養液3を、メタン発酵槽11内に戻したことによるメタン発酵槽11内のメタン発酵液2の温度変化を少なくすることができる。
【0039】
[実施例2]
本発明に係るメタン発酵システムの他の実施例を図2に基いて詳細に説明する。
【0040】
本実施例においては、好気性培養槽21内で所定時間培養された培養液3が、該好気性発酵槽21から培養液供給ライン30を介して有機性廃棄物供給ライン10に導入され、有機性廃棄物1をメタン発酵槽11に供給する有機性廃棄物供給口12からメタン発酵槽11に戻されるように構成されている。
【0041】
本実施例によれば、培養液3をメタン発酵槽11に供給する際に、培養液3を有機性廃棄物供給ライン10に導入して有機性廃棄物供給口12から供給することによって、メタン発酵槽11に培養液供給口を別途設ける必要がなく、メタン発酵槽11の設計変更を要しない。尚、他の構成については実施例1と同様である。
【0042】
[他の実施例]
メタン発酵液を好気性条件下で培養した培養液を、メタン発酵槽に添加した時のメタン発酵効率を調べるため、バッチ法によるメタン発酵試験を行った。図5は、メタン発酵試験に用いたメタン発酵槽の概略構成図である。
【0043】
試験用メタン発酵槽51の中央には投入口55が備えられ、投入口55から有機性廃棄物54が投入される。有機性廃棄物54の投入後は該投入口55に投入口キャップ56がされて空気の出入りが遮断され、試験用メタン発酵槽51内は嫌気性条件となる。また、撹拌用ハンドル58を回転させて撹拌パドル57が回転し、メタン発酵液53を撹拌できるように構成されている。試験用メタン発酵槽51は、恒温水槽52によって一定の温度に保たれる。メタン発酵槽51の容量は10リットルである。
試験用メタン発酵槽51内でのメタン発酵によって発生したバイオガス60の量は、湿式ガスメーター59によって測定される。
【0044】
メタン発酵槽の温度を、高温メタン発酵である55℃に設定したメタン発酵試験1と、中温メタン発酵である37℃に設定したメタン発酵試験2と、を行った。
【0045】
[メタン発酵試験1]
メタン発酵試験1におけるメタン発酵槽の条件を以下に示す。
メタン発酵温度: 55℃(高温メタン発酵)
有機性廃棄物量: 700ミリリットル(搾乳牛糞尿)
メタン発酵液量: 10リットル
上記試験用メタン発酵槽51からメタン発酵液53を抜き出し、その抜出メタン発酵液61を好気性条件下で1日間培養した。好気性培養槽として、前記抜出メタン発酵液61の量の10〜20倍程度の容量のビーカーを用い、大気開放下で撹拌子によって撹拌した。本試験は小スケールであるため、撹拌子による撹拌のみでも、好気性菌の生育に十分な好気性条件が得られるため、曝気装置による曝気は行わなかった。好気性菌の栄養源として、多糖類であるデンプンを抜出メタン発酵液(培養液)に対して100mg/リットルとなるように加えた。
【0046】
本試験において、メタン発酵槽から抜き出した抜出メタン発酵液量を表1に示す。表1に記載した、抜出メタン発酵液量/メタン発酵槽供給排出量(%)は、メタン発酵槽に投入した有機性廃棄物量に対する、メタン発酵槽から抜き出した発酵液量の割合である。本試験はバッチ法によって行うため、「メタン発酵槽に投入した有機性廃棄物量」を「メタン発酵槽供給排出量」として計算した。
【0047】
また比較例として、メタン発酵槽になにも添加しないもの(比較例1)と、加水分解酵素(COWATEC社製:MethaPlus1,000)添加した場合もの(比較例2〜比較例4)の試験を行った。表2に、比較例における加水分解酵素の添加量を示す。
【0048】
【表1】

【0049】
【表2】

メタン発酵槽から抜き出した抜出メタン発酵液61を好気性条件下で1日間培養した培養液の全量を、再びメタン発酵槽に戻し、発生するバイオガスを測定した。図3は、メタン発酵試験1における発生バイオガス積算量とバイオガス発生速度の関係を示す図である。
【0050】
加水分解酵素を1g添加した場合(比較例2)は、そのメタン発酵効率は加水分解酵素を添加しない場合(比較例1)とほとんど変わらず、効果がないと言える。加水分解酵素を10g添加した場合(比較例3)は、バイオガス発生速度が上がり、メタン発酵効率が向上している。比較例3の2倍量の加水分解酵素(20g)を添加したした場合(比較例4)も、比較例1に比してバイオガス発生速度が上がっているが、添加量の増加に比例した効果は得られなかった。
【0051】
次に、メタン発酵槽からメタン発酵液を抜き出し、該発酵液に栄養源を加え、好気性条件下で1日間培養した培養液をメタン発酵槽に戻してメタン発酵を行った実施例1〜実施例4について説明する。
有機性廃棄物量の0.7%のメタン発酵液を抜き出した実施例1のバイオガス発生速度は、比較例1とほとんど変わらず、メタン発酵効率向上の効果は得られなかったが、投入した有機性廃棄物量の1.0%のメタン発酵液を抜き出した実施例2は、加水分解酵素10gを加えた比較例3および加水分解酵素20gを加えた比較例4と同等のメタン発酵効率の向上効果が得られている。メタン発酵液の抜き出し量を増やした実施例3および実施例4は、実施例2よりも更にバイオガス発生速度が上がり、より効果的である。
【0052】
メタン発酵槽の発酵温度が55℃である高温メタン発酵の場合、投入した有機性廃棄物量に対して1.0%以上の量のメタン発酵液を抜き出し、栄養源を与えて好気性条件下において培養することによって、加水分解酵素の添加による効果以上のメタン発酵効率の向上を実現することができた。
【0053】
[メタン発酵試験2]
メタン発酵槽の発酵温度が37℃の場合について、メタン発酵試験1と同様に、試験用メタン発酵槽を用いたメタン発酵試験を行った。メタン発酵試験2におけるメタン発酵槽の条件を以下に示す。
メタン発酵温度: 37℃(中温メタン発酵)
有機性廃棄物量: 300ミリリットル(搾乳牛糞尿)
メタン発酵液量: 10リットル
メタン発酵槽からメタン発酵液を抜き出し、好気性培養槽において培養後、該培養液をメタン発酵槽に戻し、発生するバイオガスを測定する試験方法は、メタン発酵試験1と同様であるため、その説明は省略する。
【0054】
本試験において、メタン発酵槽から抜き出した抜出メタン発酵液量を表3に示す。表3に記載した、抜出メタン発酵液量/メタン発酵槽供給排出量(%)の説明は、メタン発酵試験1と同様であるのでここでは省略する。
また比較例として、メタン発酵槽になにも添加しないもの(比較例5)と、加水分解酵素(COWATEC社製:MethaPlus1,000)添加した場合もの(比較例6)の試験を行った。表4に、比較例における加水分解酵素の添加量を示す。
【0055】
【表3】

【0056】
【表4】

図4は、メタン発酵試験2における発生バイオガス積算量とバイオガス発生速度の関係を示す図である。
投入した有機性廃棄物量の0.3%のメタン発酵液を抜き出した実施例5のバイオガス発生速度は、比較例5とほとんど変わらず、メタン発酵効率向上の効果は得られなかったが、投入した有機性廃棄物量の1.0%のメタン発酵液を抜き出した実施例6は、加水分解酵素10gを加えた比較例6よりもメタン発酵効率は向上している。メタン発酵液の抜き出し量を増やした実施例7および実施例8は、実施例5よりも更にバイオガス発生速度が上がり、より効果的である。
【0057】
メタン発酵槽の発酵温度が37℃である中温メタン発酵の場合には、投入した有機性廃棄物量に対して1.0%以上の量のメタン発酵液を抜き出し、栄養源を与えて好気性条件下において培養することによって、加水分解酵素の添加による効果以上のメタン発酵効率の向上を実現することができた。
【0058】
尚、メタン発酵試験1およびメタン発酵試験2において、好気性菌の栄養源は多糖類であるデンプンを用いたが、ステアリン酸等の高級脂肪酸、グルコース等の単糖類、シュークロース等の二糖類、グリシン等のアミノ酸、ステアリン酸トリグリセリド等の油脂類を栄養源として加えても、同様の結果が得られることが試験により分かっている。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、有機性廃棄物をメタン発酵槽でメタン発酵させるメタン発酵システムおよび方法に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明に係るメタン発酵システムの一実施例を示す概略構成図である。
【図2】本発明に係るメタン発酵システムの他の実施例を示す概略構成図である。
【図3】メタン発酵試験1(高温メタン発酵)における発生バイオガス積算量とバイオガス発生速度の関係を示す図である
【図4】メタン発酵試験2(中温メタン発酵)における発生バイオガス積算量とバイオガス発生速度の関係を示す図である
【図5】メタン発酵試験に用いたメタン発酵槽の概略構成図である。
【符号の説明】
【0061】
1 有機性廃棄物、 2 メタン発酵液、 3 培養液、
4 栄養源、 5 空気、
10 有機性廃棄物供給ライン、
11 メタン発酵槽、 12 有機性廃棄物供給口、
13 メタン発酵液排出口、 14 メタン発酵液抜出口、
20 メタン発酵液移送ライン、
21 好気性培養槽、 22 メタン発酵液供給口、 23 培養液抜出口、
24 曝気装置、 25 撹拌機、
30 培養液移送ライン、
41 磨砕機、 42 スラリータンク、43 バイオガス
51 試験用メタン発酵槽、 52 恒温水槽、 53 メタン発酵液、
54 有機性廃棄物、 55 投入口、 56 投入口キャップ、
57 撹拌パドル、 58 拡販用ハンドル、 59 湿式ガスメーター、
60 バイオガス 61 抜出メタン発酵液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機性廃棄物を嫌気性条件下でメタン発酵するメタン発酵槽と、該メタン発酵槽内のメタン発酵液の一部と栄養源が送られて好気性条件下で好気性菌を培養する好気性培養槽と、を備え、
前記好気性培養槽で培養された培養液が、前記メタン発酵槽に戻されるように構成されたことを特徴とするメタン発酵システム。
【請求項2】
請求項1において、単位時間当たりにメタン発酵槽に供給される有機性廃棄物量であり、且つ、単位時間当たりにメタン発酵槽から排出されるメタン発酵液量であるメタン発酵槽供給排出量の1〜10%の量のメタン発酵液を、メタン発酵槽から好気性培養槽に送るように構成したことを特徴とするメタン発酵システム。
【請求項3】
請求項1または2において、前記好気性培養槽における培養滞留時間が1〜5日であることを特徴とするメタン発酵システム。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項において、前記好気性培養槽における好気性条件は、曝気、大気開放下での機械式撹拌、および/またはポンプによる培養液循環によって確保されることを特徴とするメタン発酵システム。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項において、前記栄養源として、多糖類、高級脂肪酸、単糖類、二糖類、アミノ酸、油脂類、の少なくとも一成分を、メタン発酵槽内から送られたメタン発酵液の量に対して10mg/リットル以上の濃度になるように添加することを特徴とするメタン発酵システム。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項において、前記好気性培養槽内の培養液の温度を、前記メタン発酵槽内のメタン発酵液の温度の±5℃以内に設定することを特徴とするメタン発酵システム。
【請求項7】
有機性廃棄物をメタン発酵させるメタン発酵槽内のメタン発酵液の一部と栄養源とを好気性培養槽に送り、該好気性培養槽において好気性条件下で好気性菌を培養した後、その培養液を前記メタン発酵槽に戻すことを特徴とするメタン発酵方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−173554(P2008−173554A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−8183(P2007−8183)
【出願日】平成19年1月17日(2007.1.17)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【Fターム(参考)】