説明

メタ型全芳香族ポリアミド繊維を含む牽切紡績糸

【課題】キャリヤー染色によって多様な色相に染色することができ、かつ、染色時における耐光剤の脱落を抑制できる、耐光性を有するメタ型全芳香族ポリアミド繊維を含む牽切紡績糸を提供する。
【解決手段】疎水性の高い紫外線吸収剤を用い、かつ、特定の物性を有するメタ型全芳香族ポリアミド繊維を形成し、当該メタ型全芳香族ポリアミド繊維を用いて牽切紡績糸を作成する。すなわち、水への溶解度が0.04mg/L未満である紫外線吸収剤を含み、染色繊維の染着率が90%以上であり、キャリヤー染色前後における耐光性保持率が80%以上であるメタ型全芳香族ポリアミド繊維を用いた、牽切紡績糸。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタ型全芳香族ポリアミド繊維を含む牽切紡績糸に関する。さらに詳しくは、耐光性を有するメタ型全芳香族ポリアミド繊維を含む牽切紡績糸に関する。
【背景技術】
【0002】
全芳香族ポリアミドは、耐熱性に優れ、かつ、難燃性に優れることがよく知られており、全芳香族ポリアミドのなかでも、ポリメタフェニレンイソフタルアミドに代表されるメタ型全芳香族ポリアミド繊維は、耐熱・難燃性繊維として特に有用である。
このようなメタ型全芳香族ポリアミド繊維から得られる牽切紡績糸(特許文献1参照)は、耐熱性・難燃性が要求される様々な産業用途として用いられているが、最近では、寝具、衣料、インテリア等の審美性や視覚性の求められる分野における用途としても、急速に広がりつつある。
しかしながら、牽切紡績糸に用いられる全芳香族ポリアミド繊維は、塩基性染料によって染色すると、得られた着色繊維の耐光性が極めて悪く、光による褪色が著しいという問題があった。
【0003】
そこで、耐光性の高い着色した全芳香族ポリアミド繊維を得る方法として、芳香族ポリアミド溶液を乾式または湿式紡糸し、得られた繊維を洗浄した後、乾燥する前に、繊維に紫外線遮蔽物質の水性分散液を含浸させる方法が提案されている(特許文献2参照)。しかしながら、該方法によって得られた繊維は、キャリヤー染色時にキャリヤーの影響によって紫外線遮蔽物質の脱落が起こりやすく、その結果、得られる着色繊維の耐光性は未だ満足できるものではなかった。
【0004】
また、耐光性の高い全芳香族ポリアミド繊維を得る別の方法として、ノンキャリヤー染色が可能な全芳香族ポリアミド繊維も検討されており、例えば、染色助剤のアルキルベンゼンスルフォン酸オニウム塩とヒンダードアミン系耐光剤とを含有させてなるメタ型全芳香族ポリアミド繊維が開示されている(特許文献3参照)。しかしながら、該繊維は、ノンキャリヤー染色するため染色時に耐光剤の脱落は起こりにくいものの、当該オニウム塩の添加により、繊維の製造コストが高くなり、また、得られる繊維の難燃性が低下するため、難燃剤等をさらに添加する必要があった。
【0005】
さらに、光により褪色しない特定の顔料が配合された耐光性を有する着色メタ型全芳香族ポリアミド繊維も提案されている(特許文献4参照)。しかしながら、当該方法においては繊維の製造工程で顔料を含有させるため、製造時のロスが多くなったり、小ロットによる対応が困難であったり、要求される各種色相の繊維を得ることが難しい等の問題があった。
【0006】
したがって、従来、牽切紡績糸に用いられるメタ型全芳香族ポリアミド繊維として、染色性、および、優れた機械的強度と耐光性とをバランスよく満足させたものは未だ存在しておらず、その結果、耐光性のよいメタ型全芳香族ポリアミド繊維を含む牽切紡績糸は、未だ得られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平02−234932号公報
【特許文献2】特開昭49−075824号公報
【特許文献3】特開2003−239136号公報
【特許文献4】特開昭50−59522号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の背景技術に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、キャリヤー染色によって多様な色相に染色することができ、かつ、染色時における耐光剤の脱落を抑制できる、耐光性を有するメタ型全芳香族ポリアミド繊維を主成分とする牽切紡績糸を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、疎水性の高い紫外線吸収剤を用い、かつ、特定の物性を有するメタ型全芳香族ポリアミド繊維を形成せしめ、当該メタ型全芳香族ポリアミド繊維を用いて牽切紡績糸を形成すれば、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、メタ型全芳香族ポリアミド繊維を含む牽切紡績糸であって、該メタ型全芳香族ポリアミド繊維は、水への溶解度が0.04mg/L未満である紫外線吸収剤を含み、染色繊維の染着率が90%以上であり、キャリヤー染色前後における耐光性保持率が80%以上であるメタ型全芳香族ポリアミド繊維を含む牽切紡績糸である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の複合紡績糸を構成するメタ型全芳香族ポリアミド繊維は、キャリヤー染色によって多様な色相に染色することができ、かつ、染色時における耐光剤の脱落を抑制することができるため、染色後においても十分な耐光性を有するメタ型全芳香族ポリアミド繊維である。このため、本発明の牽切紡績糸は、メタ型全芳香族ポリアミド繊維が本来有する、優れた耐熱性、耐炎性、防炎性を発現するとともに、染料に対する易染色性、かつ、優れた繊維強度、および、耐光性を兼ね備える。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
<メタ型全芳香族ポリアミド繊維を含む牽切紡績糸>
本発明の牽切紡績糸は、メタ型全芳香族ポリアミド繊維を含むものである。
【0013】
[単繊維の平均繊維長(単糸長)]
本発明の牽切紡績糸においては、牽切された糸条を構成する単繊維の平均繊維長(単糸長)は、130mmから600mmの範囲であることが好ましい。平均繊維長(単糸長)が130mm未満では、毛羽立ちが多くなり、紡績糸の強度が著しく低下するため好ましくない。一方で、600mmを超えると、通常のフィラメント糸条と近似し、紡績糸としての特徴を損なうため好ましくない。
【0014】
[メタ型全芳香族ポリアミド繊維の含有量]
本発明の牽切紡績糸におけるメタ型全芳香族ポリアミド繊維の含有量は、染色性や風合いの観点から、牽切紡績糸を構成する繊維の全質量に対して50質量%以上であり、好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、特に好ましくは100%である。
なお、本発明の牽切紡績糸において、メタ型全芳香族ポリアミド繊維と混合する繊維としては、例えば、ポリベンゾイミダゾール繊維、ポリイミド繊維、ポリアミドイミド繊維、ポリエーテルイミド繊維、ポリアリレート繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、ノボロイド繊維、難燃アクリル繊維、ポリクラール繊維、難燃ポリエステル繊維、難燃綿繊維、難燃ウール繊維、パラ型全芳香族ポリアミド繊維等を例示できる。これらのなかでは、繊維の強度や耐熱性の観点から、パラ型全芳香族ポリアミドが好ましい。
【0015】
[牽切紡績糸の用途]
本発明の牽切紡績糸は、より過酷な高温酸性雰囲気においても、優れた耐熱性、耐久性を示す。さらに、キャリヤー染色によって多様な色相に染色することができ、かつ、染色時における耐光剤の脱落を抑制できる。このため、産業用途のみならず、布帛や高速廻転ミシン糸等として、寝具、衣料、インテリア等の審美性や視覚性の求められる分野において、幅広く利用することができる。
【0016】
<牽切紡績糸の製造方法>
本発明の牽切紡績糸の製造方法においては、押込み捲縮等による捲縮付与を行わず、捲縮を有しない連続糸条(トウ)を牽切する。トウに捲縮を有する場合には、牽切されても捲縮の一部が残りやすく、得られる牽切紡績糸の伸度を低くするうえでの障害となる。
トウの牽切に際しては、一対の供給ローラーと牽切ローラーと間で、一段で牽切することも、複数回に分けて多段で牽切することもできる。
【0017】
さらに、本発明の牽切紡績糸を得るためには、牽切糸条に抱合性を付与することが好ましい。抱合を付与するにあたっては、牽切した後に、引き続いて連続的に抱合する必要があり、抱合性を付与する手段としては、例えば、インターレース処理、旋回流による毛羽捲付け処理、撚糸、等の方法が、単独または複合的に利用できる。抱合性を付与する際のオーバーフィード率としては、4%以下として緊張状態を維持することが好ましく、より好ましくは3%以下である。4%を超えて抱合性を付与すると、得られる紡績糸の伸度が高くなりすぎて、クリープ変形が大きくなるため好ましくない。
また、本発明の牽切紡績糸の製造においては、巻き取った後に熱処理してもよいし、抱合性を付与したあとに、加熱ローラーに対して複数のターンをさせる方法、熱プレート上を走行させる方法等によって、連続的に熱処理を施してもよい。
【0018】
<メタ型全芳香族ポリアミド繊維>
本発明の牽切複合紡績糸において、ポリエステル繊維と混合するメタ型全芳香族ポリアミド繊維について以下に説明する。
【0019】
[メタ型全芳香族ポリアミド繊維の物性]
〔残存溶媒量〕
メタ型全芳香族ポリアミド繊維は、通常、ポリマーをアミド系溶媒に溶解した紡糸原液から製造されるため、必然的に該繊維に溶媒が残存する。しかしながら、本発明に用いられるメタ型全芳香族ポリアミド繊維は、繊維中に残存する溶媒の量が、繊維質量に対して0.1質量%以下であることが好ましい。0.1質量%以下であることが好ましく、0.08質量%以下であることがより好ましい。
繊維質量に対して0.1質量%を超えて溶媒が繊維中に残存している場合には、200℃を超えるような高温雰囲気下での加工や使用の際に、残存溶媒が揮発するために環境安全性に劣る。また、分子構造が破壊されることにより、著しく強度が低下するため好ましくない。
原繊維の残存溶媒量を0.1質量%以下とするためには、繊維の製造工程において、スキンコアを有しない凝固形態となるよう凝固浴の成分あるいは条件を調節し、かつ、特定倍率で可塑延伸を実施する。
なお、本発明における「原繊維の残存溶媒量」とは、以下の方法で得られる値をいう。
【0020】
(残存溶媒量の測定方法)
原繊維を約8.0g採取し、105℃で120分間乾燥させた後にデシケーター内で放冷し、繊維質量(M1)を秤量する。続いて、この繊維について、メタノール中で1.5時間、ソックスレー抽出器を用いて還流抽出を行い、繊維中に含まれるアミド系溶媒の抽出を行う。抽出を終えた繊維を取り出して、150℃で60分間真空乾燥させた後にデシケーター内で放冷し、繊維質量(M2)を秤量する。繊維中に残存する溶媒量(アミド系溶媒質量)N(%)は、得られるM1およびM2を用いて、下記式により算出する。
N(%)=[(M1−M2)/M1]×100
【0021】
〔染色繊維の染着率〕
本発明に用いられるメタ型全芳香族ポリアミド繊維は、染色繊維の染着率が90%以上であり、92%以上であることがさらに好ましい。染色繊維の染着率が90%未満の場合には、衣料分野において求められる審美性の点で好ましなく、所望の色相に染色することができない。
なお、「染着率」を求めるための「染色」は、以下の染色方法による染色とする。
【0022】
(染色方法)
カチオン染料(日本化薬社製、商品名:Kayacryl Blue GSL−ED(B−54))6%owf、酢酸0.3mL/L、硝酸ナトリウム20g/L、キャリヤー剤としてベンジルアルコール70g/L、分散剤として染色助剤(明成化学工業社製、商品名:ディスパーTL)0.5g/Lを含む染色液を用意する。
引き続き、繊維と当該染色液の浴比を1:40として、120℃下60分間の染色処理を実施する。染色処理後、ハイドロサルファイト2.0g/L、アミラジンD(第一工業製薬社製、商品名:アミラジンD)2.0g/L、水酸化ナトリウム1.0g/Lの割合で含有する処理液を用いて、浴比1:20で80℃下20分間の還元洗浄を実施し、水洗後に乾燥することにより染色繊維を得る。
なお、本発明における「染着率」とは、以下の方法によって得られる値をいう。
【0023】
(染着率)
原繊維を染色した染色残液に、この染色残液と同容積のジクロロメタンを加え、残染料を抽出する。引き続き、抽出液について、波長670nm、540nm、530nmの吸光度をそれぞれ測定し、あらかじめ染料濃度が既知のジクロロメタン溶液から作成した上記3波長の検量線から抽出液の染料濃度をそれぞれ求め、上記3波長における濃度の平均値を抽出液の染料濃度(C)とする。染色前の染料濃度(Co)を用いて、以下の式にて得られる値を染着率(U)とする。
染着率(U)=[(Co−C)/Co]×100
メタ型全芳香族ポリアミド繊維の染色繊維の染着率は、後記する製造方法における凝固工程において、スキンコアを有しない凝固形態となるよう凝固浴の条件を調節し、かつ、乾熱処理工程において特定温度で乾熱処理することにより、繊維の結晶化度を適正化することにより制御することができる。染色繊維の染着率を90%以上とするためには、凝固液をNMP濃度45〜60質量%の水溶液とし、浴液の温度10〜35℃とし、乾熱処理温度を繊維のガラス転移温度(Tg)以上となる260〜330℃の範囲とすればよい。
【0024】
〔原繊維の破断強度、破断伸度〕
本発明に用いられるメタ型全芳香族ポリアミド牽切紡績糸の原繊維(染色前の繊維)の破断強度は、2.5cN/dtex以上であることが好ましい。2.7cN/dtex以上であることがさらに好ましく、3.0cN/dtex以上であることが特に好ましい。破断強度が2.5cN/dtex未満である場合には、紡績等の後加工工程において繊維が破断し、通過性が悪化するため好ましくない。
【0025】
また、本発明に用いられるメタ型全芳香族ポリアミド繊維の原繊維(染色前の繊維)の破断伸度は、30%以上であることが好ましい。35%以上であることがさらに好ましく、40%以上であることが特に好ましい。破断伸度が30%未満である場合には、紡績等の後加工工程における通過性が悪化するため好ましくない。
なお、ここでいう「破断強度」および「破断伸度」とは、JIS L 1015に基づき、上記した「破断強度」の測定条件で測定して得られる値をいう。
【0026】
メタ型全芳香族ポリアミド繊維の「破断強度」は、後記する製造方法における可塑延伸浴延伸工程における延伸倍率、および、乾熱処理工程における熱処理温度を適正化することにより制御することができる。破断強度を2.5cN/dtex以上とするためには、延伸倍率を3.5〜5.0倍とし、さらに、乾熱処理温度を260〜330℃の範囲とすればよい。
【0027】
メタ型全芳香族ポリアミド繊維の「破断伸度」は、後記する製造方法における凝固工程において、凝固浴条件を適正化することにより制御することができる。30%以上とするためには、凝固液をNMP濃度45〜60質量%の水溶液とし、浴液の温度10〜35℃とすればよい。
【0028】
〔キャリヤー染色前後の耐光性保持率〕
本発明に用いられるメタ型全芳香族ポリアミド繊維は、キャリヤー染色前後の耐光性保持率が80%以上である。85%以上であることが好ましく、90%以上であることが特に好ましい。キャリヤー染色前後の耐光性保持率が低いことは、キャリヤー染色の際に耐光剤の脱落が多いことを意味し、キャリヤー染色前後の耐候性保持率が80%未満の場合には、染色後の製品の耐光性効果が十分に発現しないため好ましくない。
なお、本発明における「耐光性保持率」とは、以下の方法で得られる値をいう。
【0029】
(耐光性保持率の求め方)
耐光性の評価として、カーボンアークフェードメーターにて63℃24時間照射した光照射綿および未照射綿を用いて、耐光変褪色度(ΔE*)を得る。耐光変褪色度(ΔE*)としては、先ず、光源D65を用いて−10度視野での拡散反射率を測定し、通常の演算処理により、明度指数L*値、クロマティクネス指数a*、b*値を算出し、得られた値を用いてJIS Z−8730に準拠して次式により求める。
[式1]
ΔE*=((ΔL*)+(Δa*)+(Δb*)1/2
「耐光性保持率」は、染色前後の綿についてそれぞれ、上記耐光変褪色度(ΔE*)を求め、次式により算出される値とする。
[式2]
耐光性保持率(%)=(染色後ΔE*−染色前ΔE*)/染色前ΔE*x100
なお、「耐光性保持率」の評価における「染色」とは、以下の方法による、染料を用いない染色とする。
【0030】
(染色方法)
染料を用いず、酢酸0.3mL/L、硝酸ナトリウム20g/L、キャリヤー剤としてベンジルアルコール70g/L、分散剤として染色助剤(明成化学工業社製、商品名:ディスパーTL)0.5g/Lを含む染色液を用意する。
引き続き、繊維と当該染色液の浴比を1:40として、120℃下60分間の染色処理を実施する。染色処理後、ハイドロサルファイト2.0g/L、アミラジンD(第一工業製薬社製、商品名:アミラジンD)2.0g/L、水酸化ナトリウム1.0g/Lの割合で含有する処理液を用いて、浴比1:20で80℃下20分間の還元洗浄を実施し、水洗後に乾燥することにより染色繊維を得る。
【0031】
<メタ型全芳香族ポリアミド>
[メタ型全芳香族ポリアミドの構成]
本発明に使用されるメタ型全芳香族ポリアミド繊維を構成するメタ型全芳香族ポリアミドは、メタ型芳香族ジアミン成分とメタ型芳香族ジカルボン酸成分とから構成されるものであり、本発明の目的を損なわない範囲内で、パラ型等の他の共重合成分が共重合されていてもよい。
本発明において特に好ましく使用されるのは、力学特性、耐熱性、難燃性の観点から、メタフェニレンイソフタルアミド単位を主成分とするメタ型全芳香族ポリアミドである。
メタフェニレンイソフタルアミド単位から構成されるメタ型全芳香族ポリアミドとしては、メタフェニレンイソフタルアミド単位が、全繰り返し単位の90モル%以上であることが好ましく、さらに好ましくは95モル%以上、特に好ましくは100モルである。
【0032】
〔メタ型全芳香族ポリアミドの原料〕
(メタ型芳香族ジアミン成分)
メタ型全芳香族ポリアミドの原料となるメタ型芳香族ジアミン成分としては、メタフェニレンジアミン、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルスルホン等、および、これらの芳香環にハロゲン、炭素数1〜3のアルキル基等の置換基を有する誘導体、例えば、2,4−トルイレンジアミン、2,6−トルイレンジアミン、2,4−ジアミノクロロベンゼン、2,6−ジアミノクロロベンゼン等を例示することができる。なかでも、メタフェニレンジアミンのみ、または、メタフェニレンジアミンを85モル%以上、好ましくは90モル%以上、特に好ましくは95モル%以上含有する混合ジアミンであることが好ましい。
【0033】
(メタ型芳香族ジカルボン酸成分)
メタ型全芳香族ポリアミドを構成するメタ型芳香族ジカルボン酸成分の原料としては、例えば、メタ型芳香族ジカルボン酸ハライドを挙げることができる。メタ型芳香族ジカルボン酸ハライドとしては、イソフタル酸クロライド、イソフタル酸ブロマイド等のイソフタル酸ハライド、および、これらの芳香環にハロゲン、炭素数1〜3のアルコキシ基等の置換基を有する誘導体、例えば3−クロロイソフタル酸クロライド等を例示することができる。なかでも、イソフタル酸クロライドそのもの、または、イソフタル酸クロライドを85モル%以上、好ましくは90モル%以上、特に好ましくは95モル%以上含有する混合カルボン酸ハライドであることが好ましい。
【0034】
〔メタ型全芳香族ポリアミドの製造方法〕
メタ型全芳香族ポリアミドの製造方法は、特に限定されるものではなく、例えば、メタ型芳香族ジアミン成分とメタ型芳香族ジカルボン酸クロライド成分とを原料とした溶液重合や界面重合等により製造することができる。
なお、本発明に用いられるメタ型全芳香族ポリアミドの分子量は、繊維を形成し得る程度であれば特に限定されるものではない。一般に、十分な物性の繊維を得るには、濃硫酸中、ポリマー濃度100mg/100mL硫酸で30℃において測定した固有粘度(I.V.)が、1.0〜3.0の範囲のポリマーが適当であり、1.2〜2.0の範囲のポリマーが特に好ましい。
【0035】
<メタ型全芳香族ポリアミド繊維の製造方法>
本発明に用いられるメタ型全芳香族ポリアミド繊維は、上記の製造方法によって得られたメタ型全芳香族ポリアミドを用いて、例えば、以下に説明する紡糸液調製工程、紡糸・凝固工程、可塑延伸浴延伸工程、洗浄工程、弛緩処理工程、熱処理工程を経て製造される。
【0036】
[紡糸液調製工程]
紡糸液調製工程においては、メタ型全芳香族ポリアミドをアミド系溶媒に溶解し、紫外線吸収剤を添加して、紡糸液(メタ型全芳香族ポリアミド重合体溶液)を調整する。本発明に用いられるメタ型全芳香族ポリアミド繊維の製造においては、紡糸液調製工程において、紡糸液中に特定の紫外線吸収剤を含ませることが重要である。紫外線吸収剤を含む紡糸液から繊維を形成することにより、キャリヤー染色時における紫外線吸収剤の溶出を抑制することができる。
【0037】
紡糸液の調整にあたっては、通常、アミド系溶媒を用い、使用されるアミド系溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)等を例示することができる。これらのなかでは溶解性と取り扱い安全性の観点から、NMPまたはDMAcを用いることが好ましい。
溶液濃度としては、次工程である紡糸・凝固工程での凝固速度および重合体の溶解性の観点から、適当な濃度を適宜選択すればよく、例えば、ポリマーがポリメタフェニレンイソフタルアミドで溶媒がNMPの場合には、通常は10〜30質量%の範囲とすることが好ましい。
【0038】
(紫外線吸収剤)
本発明に用いられる紫外線吸収剤は、疎水性の高いものであって、水への溶解度が0.04mg/L未満であることが必要である。0.04mg/L以上であると、キャリヤー染色時に紫外吸収剤が溶出してしまい、染色後の耐光性が低下するため好ましくない。
また、本発明に用いられる紫外線吸収剤は、メタ全芳香族ポリアミドの光劣化特性波長である360nm近辺の光を効率よく遮蔽し、可視部での吸収が殆ど有していない化合物であることが好ましい。
【0039】
したがって、本発明に用いられる紫外線吸収剤としては、特定の置換ベンゾトリアゾールが好ましく、具体的には、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ジ−tert−ペンチルフェノール、2−[5−クロロ(2H)−ベンゾトリアゾール−2−イル]−4−メチル−6−(tert−ブチル)フェノール、2−[2H−ベンゾトリアゾール−2−イル]−4−6−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェノール、2−[2H−ベンゾトリアゾール−2−イル]−4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェノール等が挙げられる。これらの中では、疎水性が高く、可視部での吸収量が小さいことから、2−[2H−ベンゾトリアゾール−2−イル]−4−6−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェノールが特に好ましい。
【0040】
かかる紫外線吸収剤のメタ型全芳香族ポリアミド繊維に対する含有量は、メタ型全芳香族ポリアミド繊維質量全体に対して3.0質量%〜6.5質量%の範囲とすることが好ましく、さらに好ましくは4.5質量%〜6.5質量%の範囲である。3.0質量%未満の場合には耐光性効果が十分に発現しないため好ましくなく、6.5質量%より多く配合した場合には、得られる原綿の物性が低下し好ましくない。
【0041】
メタ型全芳香族ポリアミドと紫外線吸収剤との混合方法は、溶媒中に紫外線吸収剤を混合、溶解し、それにメタ型全芳香族ポリアミド溶液を加える方法、あるいは紫外線吸収剤をメタ型全芳香族ポリアミド溶液に溶解させる方法等、特に限定されるものではない。このようにして得られた紡糸液は、下記工程を経て、繊維に成形される。
【0042】
[紡糸・凝固工程]
紡糸・凝固工程においては、上記で得られた紡糸液(メタ型全芳香族ポリアミド重合体溶液)を凝固液中に紡出して凝固させる。
紡糸装置としては特に限定されるものではなく、従来公知の湿式紡糸装置を使用することができる。また、安定して湿式紡糸できるものであれば、紡糸口金の紡糸孔数、配列状態、孔形状等は特に制限する必要はなく、例えば、孔数が500〜30000個、紡糸孔径が0.05〜0.2mmのスフ用の多ホール紡糸口金等を用いてもよい。
また、紡糸口金から紡出する際の紡糸液(メタ型全芳香族ポリアミド重合体溶液)の温度は、10〜90℃の範囲が適当である。
【0043】
本発明に用いられる繊維を得るために用いる凝固浴としては、無機塩を含まないNMP濃度45〜60質量%の水溶液を、浴液の温度10〜35℃の範囲で用いる。NMP濃度45質量%未満ではスキンが厚い構造となってしまい、洗浄工程における洗浄効率が低下し、原繊維の残存溶媒量を0.1質量%以下とすることが困難となる。またNMP濃度60質量%を超える場合には、繊維内部に至るまで均一な凝固を行うことができず、このため、原繊維の残存溶媒量を0.1質量%以下とすることが困難となり、また、耐酸性も不十分となる。なお、凝固浴中への繊維の浸漬時間は、0.1〜30秒の範囲が適当である。
凝固浴の成分あるいは条件を上記の通りに設定することにより、繊維表面に形成されるスキンを薄くし、繊維内部まで均一な構造にすることができ、その結果、染色性をより向上させ、さらに、得られる繊維の破断伸度を向上させることができる。
【0044】
[可塑延伸浴延伸工程]
可塑延伸浴延伸工程においては、凝固浴にて凝固して得られた繊維が可塑状態にあるうちに、可塑延伸浴中にて繊維を延伸処理する。
可塑延伸浴液としては特に限定されるものではなく、従来公知の浴液を採用することができる。
【0045】
本発明に用いられる繊維を得るためには、可塑延伸浴中の延伸倍率を、3.5〜5.0倍の範囲とする必要があり、さらに好ましくは3.7〜4.5倍の範囲とする。可塑延伸浴中にて特定倍率の範囲で可塑延伸することにより、凝固糸中からの脱溶剤を促進することができ、原繊維の残存溶媒量0.1質量%以下とすることができる。
可塑延伸浴中での延伸倍率が3.5倍未満である場合には、凝固糸中からの脱溶剤が不十分となり、原繊維の残存溶媒量を0.1質量%以下とすることが困難となる。また、破断強度が不十分となり、紡績工程等の加工工程における取り扱いが困難となる。一方で、延伸倍率が5.0倍を超える場合には、単糸切れが発生するため、生産安定性が悪くなる。
可塑延伸浴の温度は、10〜90℃の範囲が好ましい。好ましくは温度20〜90℃の範囲にあると、工程調子がよい。
【0046】
[洗浄工程]
洗浄工程においては、可塑延伸浴にて延伸された繊維を、十分に洗浄する。洗浄は、得られる繊維の品質面に影響を及ぼすことから、多段で行うことが好ましい。特に、洗浄工程における洗浄浴の温度および洗浄浴液中のアミド系溶媒の濃度は、繊維からのアミド系溶媒の抽出状態および洗浄浴からの水の繊維中への浸入状態に影響を与える。このため、これらを最適な状態とする目的においても、洗浄工程を多段とし、温度条件およびアミド系溶媒の濃度条件を制御することが好ましい。
温度条件およびアミド系溶媒の濃度条件については、最終的に得られる繊維の品質を満足できるものであれば特に限定されるものではないが、最初の洗浄浴を60℃以上の高温とすると、水の繊維中への浸入が一気に起こるため、繊維中に巨大なボイドが生成し、品質の劣化を招く。このため、最初の洗浄浴は、30℃以下の低温とすることが好ましい。
繊維中に溶媒が残っている場合には、当該繊維を用いた製品の加工、および当該繊維を用いて形成された製品の使用における環境安全性が好ましくない。このため、本発明に用いられる繊維に含まれる溶媒量は、0.1質量%以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.08質量%以下である。
【0047】
[乾熱処理工程]
乾熱処理工程においては、洗浄工程を経た繊維を、乾燥・熱処理する。乾熱処理の方法としては特に限定されるものではないが、例えば、熱ローラー、熱板等を用いる方法を挙げることができる。乾熱処理を経ることにより、最終的に、本発明に用いられるメタ型全芳香族ポリアミド繊維を得ることができる。
本発明に用いられる繊維を得るためには、乾熱処理工程における熱処理温度を、260〜330℃の範囲とする必要があり、270〜310℃の範囲とすることがさらに好ましい。熱処理温度が260℃未満の場合には、繊維の結晶化が不十分となり、繊維の収縮性が高くなり、染色工程での取り扱いが困難となる。一方で、330℃を越える場合には、繊維の結晶化が大きくなりすぎるため、染色性が大きく低下してしまう。また、乾熱処理温度を260〜330℃の範囲とすることは、得られる繊維の破断強度の向上に寄与する。
【0048】
<染色処理>
本発明の牽切紡績糸を染色処理する際には、既存の合成繊維の染色設備を用いることが出来る。染色処理に用いる染料としては、緻密な構造に浸透しやすく、染着率の高いカチオン染料が好ましい。
また、本発明の牽切紡績糸を染色するためには、メタ型全芳香族ポリアミド繊維の染色助剤であるキャリヤーを用いる必要がある。キャリヤーを使用しない場合には、繊維の緻密な構造に染料が十分に浸透できず、染着率が低下するため好ましくない。
【実施例】
【0049】
以下、実施例等をあげて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例等によって何等限定されるものではない。
【0050】
<測定方法>
実施例および比較例における各物性値は、下記の方法で測定した。
【0051】
[繊度]
JIS L 1015に基づき、正量繊度のA法に準拠した測定を実施し、見掛繊度にて表記した。
【0052】
[破断強度、破断伸度]
JIS L 1015に基づき、インストロン社製、型番5565を用いて、以下の条件で測定した。
(測定条件)
つかみ間隔 :20mm
初荷重 :0.044cN(1/20g)/dtex
引張速度 :20mm/分
【0053】
[原繊維の残存溶媒量]
原繊維を約8.0g採取し、105℃で120分間乾燥させた後にデシケーター内で放冷し、繊維質量(M1)を秤量した。続いて、この原繊維について、メタノール中で1.5時間、ソックスレー抽出器を用いて還流抽出を行い、繊維中に含まれるアミド系溶媒の抽出を行った。抽出を終えた繊維を取り出して、150℃で60分間真空乾燥させた後にデシケーター内で放冷し、繊維質量(M2)を秤量した。繊維中に残存する溶媒量(アミド系溶媒質量)N(%)は、得られたM1およびM2を用いて、下記式により算出した。
N(%)=[(M1−M2)/M1]×100
【0054】
[原繊維および牽切紡績糸の染着率]
原綿または牽切紡績糸を染色した染色残液に、この染色残液と同容積のジクロロメタンを加え、残染料を抽出した。引き続き、抽出液について、波長670nm、540nm、530nmの吸光度をそれぞれ測定し、あらかじめ染料濃度が既知のジクロロメタン溶液から作成した上記3波長の検量線から抽出液の染料濃度をそれぞれ求め、上記3波長における濃度の平均値を抽出液の染料濃度(C)とした。染色前の染料濃度(Co)を用いて、以下の式にて得られる値を染着率(U)とした。
染着率(U)=[(Co−C)/Co]×100
なお、「染着率」を求めるための「染色」としては、以下の染色方法を実施した。
【0055】
(原繊維(綿)および牽切紡績糸の染色方法)
カチオン染料(日本化薬社製、商品名:Kayacryl Blue GSL−ED(B−54))6%owf、酢酸0.3mL/L、硝酸ナトリウム20g/L、キャリヤー剤としてベンジルアルコール70g/L、分散剤として染色助剤(明成化学工業社製、商品名:ディスパーTL)0.5g/Lを含む染色液を用意した。
引き続き、原綿と当該染色液の浴比を1:40として、120℃下60分間の染色処理を実施した。染色処理後、ハイドロサルファイト2.0g/L、アミラジンD(第一工業製薬社製、商品名:アミラジンD)2.0g/L、水酸化ナトリウム1.0g/Lの割合で含有する処理液を用いて、浴比1:20で80℃下20分間の還元洗浄を実施し、水洗後に乾燥することにより染色原綿または染色牽切紡績糸を得た。
【0056】
[強度保持率(耐酸性テスト)]
セパラブルフラスコへ20質量%の硫酸水溶液を入れ、上記した「染着率」を求めるための染色方法と同一の方法で染色した原綿を浸漬した。続いて、セパラブルフラスコを恒温水槽中に浸漬し、温度50℃に維持し、150時間浸漬した。浸漬前後の原綿につき、それぞれ、上記の測定方法によって破断強度の測定を実施し、浸漬後の原綿の強度保持率を求めた。
【0057】
[固有粘度(IV)]
重合体溶液から芳香族ポリアミドポリマーを単離して乾燥した後、濃硫酸中、ポリマー濃度100mg/100mL硫酸で30℃において測定した。
【0058】
[メタ型全芳香族ポリアミド繊維および牽切紡績糸の耐光性保持率]
耐光性の評価として、カーボンアークフェードメーターにて63℃24時間照射した光照射綿および未照射綿を用いて、耐光変褪色度(ΔE*)を得た。耐光変褪色度(ΔE*)としては、先ず、光源D65を用いて−10度視野での拡散反射率を測定し、通常の演算処理により、明度指数L*値、クロマティクネス指数a*、b*値を算出し、得られた値を用いてJIS Z−8730に準拠して次式により求めた。
[式1]
ΔE*=((ΔL*)+(Δa*)+(Δb*)1/2
「耐光性保持率」は、染色前後の原綿又は牽切紡績糸についてそれぞれ、上記耐光変褪色度(ΔE*)を求め、次式により算出した。
[式2]
耐光性保持率(%)=100−(染色後ΔE*−染色前ΔE*)/染色前ΔE*x100
なお、耐光性保持率評価における「染色」としては、以下の方法による、染料を用いない染色を実施した。
【0059】
(原綿の染色方法)
染料を用いず、酢酸0.3mL/L、硝酸ナトリウム20g/L、キャリヤー剤としてベンジルアルコール70g/L、分散剤として染色助剤(明成化学工業社製、商品名:ディスパーTL)0.5g/Lを含む染色液を用意した。
引き続き、原綿と当該染色液の浴比を1:40として、120℃下60分間の染色処理を実施した。染色処理後、ハイドロサルファイト2.0g/L、アミラジンD(第一工業製薬社製、商品名:アミラジンD)2.0g/L、水酸化ナトリウム1.0g/Lの割合で含有する処理液を用いて、浴比1:20で80℃下20分間の還元洗浄を実施し、水洗後に乾燥することにより染色された原綿を得た。
【0060】
(牽切紡績糸の染色方法)
染料を用いず、酢酸0.3mL/L、硝酸ナトリウム20g/L、キャリヤー剤としてベンジルアルコール70g/L、分散剤として染色助剤(明成化学工業社製、商品名:ディスパーTL)0.5g/Lを含む染色液を用意した。
引き続き、チーズ状にソフトワインドした牽切紡績糸と当該染色液の浴比を1:40として、120℃下60分間のパッケージ染色処理を実施した。染色処理後、ハイドロサルファイト2.0g/L、アミラジンD(第一工業製薬社製、商品名:アミラジンD)2.0g/L、水酸化ナトリウム1.0g/Lの割合で含有する処理液を用いて、浴比1:20で80℃下20分間の還元洗浄を実施し、水洗後に乾燥することにより染色された牽切紡績糸を得た。
【0061】
<実施例1>
[紡糸液調整工程]
特公昭47−10863号公報記載の方法に準じた界面重合法により製造した、固有粘度(I.V.)が1.9のポリメタフェニレンイソフタルアミド粉末20.0質量部を、−10℃に冷却したN−メチル−2−ピロリドン(NMP)80.0質量部中に懸濁させ、スラリー状にした。引き続き、懸濁液を60℃まで昇温して溶解させ、透明なポリマー溶液を得た。
該ポリマー溶液に、ポリマー対比3.0質量%の2−[2H−ベンゾトリアゾール−2−イル]−4−6−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェノール粉末(水への溶解度:0.01mg/L)を混合溶解させ、減圧脱法して紡糸液(紡糸ドープ)とした。
【0062】
[紡糸・凝固工程]
上記紡糸ドープを、孔径0.07mm、孔数500の紡糸口金から、浴温度30℃の凝固浴中に吐出して紡糸した。凝固液の組成は、水/NMP=45/55(質量部)であり、凝固浴中に糸速7m/分で吐出して紡糸した。
【0063】
[可塑延伸浴延伸工程]
引き続き、温度40℃の水/NMP=45/55の組成の可塑延伸浴中にて、3.7倍の延伸倍率で延伸を行った。
【0064】
[洗浄工程]
延伸後、20℃の水/NMP=70/30の浴(浸漬長1.8m)、続いて20℃の水浴(浸漬長3.6m)で洗浄し、さらに60℃の温水浴(浸漬長5.4m)に通して十分に洗浄を行った。
【0065】
[乾熱処理工程]
洗浄後の繊維について、表面温度280℃の熱ローラーにて乾熱処理を施し、メタ型全芳香族アラミド繊維を得た。
【0066】
[原繊維の物性]
得られた原繊維の物性は、繊度1.7dtex、破断強度2.7cN/dtex、破断伸度50.0%、残存溶媒量0.08質量%であり、良好な力学特性を示した。得られた原繊維の物性を表1に示す。
【0067】
[染色工程1]
カチオン染料(日本化薬社製、商品名:Kayacryl Blue GSL−ED(B−54))6%owf、酢酸0.3mL/L、硝酸ナトリウム20g/L、キャリヤー剤としてベンジルアルコール70g/L、分散剤として染色助剤(明成化学工業社製、商品名:ディスパーTL)0.5g/Lを含む染色液を用意した。
得られた原繊維につき、クリンパーを通して捲縮を付与した後、カッターでカットして51mmの短繊維とすることにより、原綿を得た。
得られた原綿につき、原綿と当該染色液の浴比を1:40として、120℃下60分間の染色処理を実施した。染色処理後、ハイドロサルファイト2.0g/L、アミラジンD(第一工業製薬社製、商品名:アミラジンD)2.0g/L、水酸化ナトリウム1.0g/Lの割合で含有する処理液を用いて、浴比1:20で80℃下20分間の還元洗浄を実施し、水洗後に乾燥することにより染色綿を得た。
【0068】
[染色綿等の物性]
染色綿の染着率は92.4%であり、良好な染色性を示した。結果を表1に示す。
【0069】
[染色工程2]
染料を用いず、酢酸0.3mL/L、硝酸ナトリウム20g/L、キャリヤー剤としてベンジルアルコール70g/L、分散剤として染色助剤(明成化学工業社製、商品名:ディスパーTL)0.5g/Lを含む染色液を用意した。
得られた原綿につき、原綿と当該染色液の浴比を1:40として、120℃下60分間の染色処理を実施した。染色処理後、ハイドロサルファイト2.0g/L、アミラジンD(第一工業製薬社製、商品名:アミラジンD)2.0g/L、水酸化ナトリウム1.0g/Lの割合で含有する処理液を用いて、浴比1:20で80℃下20分間の還元洗浄を実施し、水洗後に乾燥することにより染色綿を得た。
【0070】
[耐光性保持率]
得られた原綿の耐光性保持率は、89%であった。結果を表1に示す。
【0071】
[牽切紡績糸の作製]
得られたメタ型全芳香族アラミド繊維のトウを収束して全繊度3360dtexとした後、600mm間隔の一対のローラー間で、牽切比21倍で牽切し、平均繊維長230mmの単繊維収束とし、引き続き、下記条件にて連続的に抱合性を付与することにより、160dtexの牽切紡績糸を得た。得られた牽切紡績糸は1kgのチーズ状にソフトワインドした。
(抱合性付与条件)
引取りノズル圧 :4kg/cm
抱合ノズル圧 :5kg/cm
糸のオーバーフィード率:3.0%
【0072】
[牽切紡績糸の染色工程1]
得られた紡績糸に対し、前述の染色工程1を実施した。
【0073】
[牽切紡績糸の染着率]
牽切紡績糸の染着率は92.8%であり、良好な染色性を示した。
【0074】
[牽切紡績糸の染色工程2]
得られた紡績糸に対し、前述の染色工程2を実施した。
【0075】
[牽切紡績糸の耐光性保持率]
得られた牽切紡績糸の耐光性保持率は85%と良好であった。結果を表1に示す。
【0076】
<実施例2>
[原繊維の製造]
2−[2H−ベンゾトリアゾール−2−イル]−4−6−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェノール(水への溶解度:0.01mg/L)の添加量をポリマー対比5.0質量%とした以外は、実施例1と同様にしてポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維を得た。
【0077】
[原繊維の物性]
得られた繊維の物性は、繊度1.7dtex、破断強度2.6cN/dtex、破断伸度47.8%、残存溶媒量0.07質量%であった。得られた繊維の物性を表1に示す。
【0078】
[染色工程1]
得られた原繊維に対し、実施例1と同様に捲縮、カットを実施することで得られた原綿に対し、実施例1と同様に染色工程1を実施した。
【0079】
[染色綿等の物性]
染着率は91.0%であり、良好な染色性を示した。結果を表1に示す。
【0080】
[染色工程2]
得られた原綿に対し、実施例1と同様に染色工程2を実施した。
【0081】
[耐光性保持率]
得られた原綿の耐光性保持率は、91%であった。結果を表1に示す。
【0082】
[牽切紡績糸の作製]
前述の原繊維を用いて、実施例1と同様な条件にて牽切紡績糸を作成した。
【0083】
[牽切紡績糸の染色]
得られた牽切紡績糸に対し、実施例1と同様に牽切紡績糸の染色工程1および牽切紡績糸の染色工程2を実施した。
【0084】
[牽切紡績糸の物性]
染色前後の牽切紡績糸および染色液を用いて、上記測定方法により、染着率および耐光性保持率を評価した。牽切紡績糸の染着率は92.5%と良好であり、耐光性保持率は90%であった。結果を表1に示す。
【0085】
<比較例1>
紫外線吸収剤として、親水性の高いメチル3−(3−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−5−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート(水への溶解度:0.05mg/L)を用いた以外は、実施例2と同様にしてポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維を得た。
【0086】
[原繊維の物性]
得られた繊維の物性は、繊度1.7dtex、破断強度2.9cN/dtex、破断伸度49.8%、残存溶媒量0.10質量%であった。得られた繊維の物性を表1に示す。
【0087】
[染色工程1]
得られた原繊維に対し、実施例1と同様に捲縮、カットを実施することで得られた原綿に対し、実施例1と同様に染色工程を実施した。
【0088】
[染色繊維等の物性]
染着率は91.2%であり、良好な染色性を示した。結果を表1に示す。
【0089】
[染色工程2]
得られた原綿に対し、実施例1と同様に染色工程2を実施した。
【0090】
[耐光性保持率]
得られた原綿の耐光性保持率は52%であり、紫外線吸収剤の親水性が高いために、染色中に紫外線吸収剤の溶出が起こっていた。結果を表1に示す。
【0091】
[牽切紡績糸の作製]
前述の原繊維を用いて、実施例1と同様な条件にて牽切紡績糸を作成した。
【0092】
[牽切紡績糸の染色]
得られた牽切紡績糸に対し、実施例1と同様に牽切紡績糸の染色工程1および牽切紡績糸の染色工程2を実施した。
【0093】
[牽切紡績糸の物性]
染色前後の牽切紡績糸および染色液を用いて、上記測定方法により、染着率および耐光性保持率を評価した。牽切紡績糸の染着率は92.1%と良好であったものの、耐光性保持率は50%と低く紫外線吸収剤が多量に溶出していた。結果を表1に示す。
【0094】
<比較例2>
[紡糸液調整工程]
2−[2H−ベンゾトリアゾール−2−イル]−4−6−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェノール粉末を添加しなかった以外は、実施例1と同様に紡糸液を調整した。
【0095】
[原繊維の製造]
実施例1と同様の方法で紡糸・凝固、可塑延伸浴延伸、洗浄を行い、洗浄工程直後の未乾燥の湿ったメタ型全芳香族ポリアミド繊維を得た。
【0096】
[紫外線遮蔽剤の含浸工程]
10mLの塩化メチレン中に、2−[2H−ベンゾトリアゾール−2−イル]−4−6−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェノール粉末(水への溶解度:0.01mg/L)を7質量%溶解し、該溶液を0.3gの乳化剤「EMCOL P10−59」を溶解した100mLの水溶液中に攪拌しながら注ぎいれた。塩化メチレンが全量蒸発するまで攪拌し、メチル3−(3−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−5−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート(水への溶解度:0.05mg/L)の水性分散液を作成した。
次に、採取した未乾燥のメタ型全芳香族ポリアミド繊維を20g水性分散液中に入れ、攪拌しながら室温で1時間保持した。続いて、100mLの水で希釈し、沸点まで加熱し、その温度でさらに1時間保持した。取り出した繊維を水で洗浄し、310℃の熱ローラーで乾熱処理を施した。
【0097】
[原繊維の物性]
得られた原繊維の物性は、繊度1.7dtex、破断強度2.6cN/dtex、破断伸度47.8%、残存溶媒量0.03質量%であった。得られた原繊維の物性を表1に示す。
【0098】
[染色工程1]
得られた原繊維に対し、実施例1と同様に捲縮、カットを実施することで得られた原綿に対し、実施例1と同様に染色工程を実施した。
【0099】
[染色繊維等の物性]
染着率は91.5%であった。結果を表1に示す。
【0100】
[染色工程2]
得られた原綿に対し、実施例1と同様に染色工程2を実施した。
【0101】
[耐光性保持率]
得られた原綿の耐光性保持率は64%であり、紫外線吸収剤が多量に溶出していた。結果を表1に示す。
【0102】
[牽切紡績糸の作製]
前述の原繊維を用いて、実施例1と同様な条件にて牽切紡績糸を作成した。
【0103】
[牽切紡績糸の染色]
得られた牽切紡績糸に対し、実施例1と同様に牽切紡績糸の染色工程1および牽切紡績糸の染色工程2を実施した。
【0104】
[牽切紡績糸の物性]
染色前後の牽切紡績糸および染色液を用いて、上記測定方法により、染着率および耐光性保持率を評価した。牽切紡績糸の染着率は91.0%と良好であったものの、耐光性保持率は55%と低く、紫外線吸収剤が多量に溶出していた。結果を表1に示す。
【0105】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明の牽切紡績糸は、メタ型全芳香族ポリアミド繊維が本来有する、優れた耐熱性、耐炎性、防炎性を発現するとともに、染料に対する染色性が良好であり、かつ、優れた繊維強度、および、熱収縮安定性を兼ね備える。このため、これらの特性が必要とされる分野における工業的価値は極めて大きい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
易染色性メタ型全芳香族ポリアミド繊維を含む牽切紡績糸であって、
該メタ型全芳香族ポリアミド繊維は、水への溶解度が0.04mg/L未満である紫外線吸収剤を含み、染色繊維の染着率が90%以上であり、キャリヤー染色前後における耐光性保持率が80%以上であるメタ型全芳香族ポリアミド繊維を含む牽切紡績糸。
【請求項2】
前記メタ型全芳香族ポリアミド繊維は、原繊維の残存溶媒量が0.1質量%以下である請求項1記載のメタ型全芳香族ポリアミド繊維を含む牽切紡績糸。
【請求項3】
前記紫外線吸収剤の配合量が、繊維質量全体に対して3.0質量部以上6.5質量部以下である請求項1または2記載のメタ型全芳香族ポリアミド繊維を含む牽切紡績糸。
【請求項4】
前記紫外線吸収剤が、サリチル酸系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1から3いずれか記載のメタ型全芳香族ポリアミド繊維を含む牽切紡績糸。
【請求項5】
平均繊維長が130〜600mmである請求項1から4いずれか記載のメタ型全芳香族ポリアミド繊維を含む牽切紡績糸。

【公開番号】特開2012−52250(P2012−52250A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−194078(P2010−194078)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【出願人】(303013268)帝人テクノプロダクツ株式会社 (504)
【Fターム(参考)】