説明

メチルケトン類の製造方法

【課題】
微生物によるメチルケトン類の製造方法において、培地に高濃度の油脂が含まれていても、微生物の成育が妨げられず、油脂を効率よくメチルケトン類に変換する方法を提供すること。
【解決手段】
液体培地に、メチルケトンを生産できる真菌類の固体培養物を接種して培養を行い、ペレット状の菌糸体を平均粒径が0.5〜3mmとなるように形成させた後、液体培地に対し油脂を重量比で2倍量以上加え培養することを特徴とするメチルケトンの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は微生物変換による天然油脂からのメチルケトン類の製造方法に関する。さらに詳しくは、液体培地に対し重量比で2倍量以上の油脂を使用しても、油脂を効率よくメチルケトン類に変換する、好収率のメチルケトン類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メチルケトン類はブルーチーズのキーフレーバーであり、また、乳製品、石鹸等のフレーバー用の香料素材として有用な物質であるため、従来より油脂から微生物を用いて天然のメチルケトン類を生産する方法が検討されてきた。例えば、ラウリン酸0.4%を含む基質をペニシリウム・ロックフォルチ(Penicillium roqueforti)に属する微生物を用いて変換する方法(非特許文献1)、ブルーチーズを最大32%含むスラリーを基質としてペニシリウム・ロックフォルチ(P.roqueforti)に属する微生物を用いて生産する方法(非特許文献2)、ラウリン酸を最大で46%含む基質に対しペニシリウム・シトリナム(P.citrinum)またはユーロチウム(Eurotium)属に属する微生物を使用して生産する方法(非特許文献3)、ココナッツオイルを約3.2%含む基質にアスペルギルス・ルーバー(Aspergillus ruber)もしくはアスペルギルス・レペンス(A.repens)に属する微生物を作用させる方法(非特許文献4)等が知られている。また、微生物変換においてメチルケトン類の生産効率を高める方法として、特定の属または種に属する微生物を使用する方法(特許文献1)、微生物としてオウレオバシディウム・プルランス(Aureobasidium pullulans)を使用し、微生物の成育に有害でない基質濃度を維持しながら培養して、培地中の油脂濃度が最大33%にて変換を可能とした、大量のメチルケトンを生産する方法(特許文献2)、多孔性床を使用し、微生物の生育を阻害せず基質濃度を上げる方法(実施例における最大の油脂含量43%)(特許文献3)、2価のアルカリ土類金属イオンの存在下で培養を行い、培地中油脂が最大10%の高濃度でも基質をメチルケトン類に変換する方法等が提案されている。
【0003】
【非特許文献1】J.gen.Microbiol.,51,p.289−302(1968)
【非特許文献2】J.Sci.Food Agric.,30,p.197−202(1979)
【非特許文献3】Phytochemistry,23(12)p.2847−2849,(1984)
【非特許文献4】Phytochemistry,26(5),p.1417−1420(1987)
【特許文献1】特開平2−265495号公報
【特許文献2】特開平3−76588号公報
【特許文献3】特開平3−151886号公報
【特許文献4】特開平4−148688号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
メチルケトン類の微生物変換による生産においては、油脂含量を上げることにより、油脂の抗菌性、栄養物質の移動の妨害によって微生物の成育が妨げられ、メチルケトン類の生産が抑制される。そのため、前述した従来の方法では、いずれも生産の効率が十分とはいえず、さらに効率の良いメチルケトン類の製造方法が求められていた。したがって、本発明の目的は、培地に高濃度の油脂が含まれていても、微生物の成育が妨げられず、油脂を効率よくメチルケトン類に変換する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は、前記課題に鑑み種々検討を行った。その結果、前培養における液体培地での培養において、真菌類をペレット状の菌糸体を平均粒径が0.5〜3mmとなるように形成させた後、液体培地に対し油脂を添加してさらに培養すると、油脂が効率よく分解してメチルケトンに変換されることを見出した。さらに、驚くべきことに、この方法においは油脂を液体培地に対し重量比で2倍量以上加えても変換が進行することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
かくして、本発明は、液体培地に、メチルケトンを生産できる真菌類の固体培養物を接種して培養を行い、ペレット状の菌糸体を平均粒径が0.5〜3mmとなるように形成させた後、液体培地に対し重量比で2〜4倍量の油脂を添加して、さらに培養することを特徴とするメチルケトンの製造方法を提供するものである。
【0007】
また、本発明は、メチルケトンを生産できる真菌類がAspergillus属および/またはPenicillium属であることを特徴とする、前記のメチルケトンの製造方法を提供するものである。
【0008】
本発明はまた、アスペルギルス(Aspergillus)属に属する微生物がアスペルギルス・オリゼ(Asp.oryzae)、アスペルギルス・タマリ(Asp.tamari)、アスペルギルス・パラシチクス(Asp.parasiticus)、アスペルギルス・アワモリ(Asp.awamori)、アスペルギルス・カワチ(Asp.kawachii)、アスペルギルス・ニガー(Asp.niger)またはアスペルギルス・フェオニシス(Asp.pheonicis)であり、ペニシリウム(Penicillium)属に属する微生物がペニシリウム・ロックフォルチ(Pen.roqueforti)、ペニシリウム・カマンベルティ(Pen.camemberti)、ペニシリウム・カゼイ(Pen.casei)またはペニシリウム・ジャンシネラム(Pen. janthinellum)である前記のメチルケトンの製造方法を提供するものである。
【0009】
本発明はまた、液体培地に油脂を加える時点で、さらに、リパーゼを添加することを特徴とする、前記のメチルケトンの製造方法を提供するものである。
【0010】
本発明はまた、油脂がラウリン酸、カプリン酸、カプリル酸を主要な構成脂肪酸とするグリセライドであることを特徴とする前記のメチルケトンの製造方法を提供するものである。
【0011】
さらに、本発明では、固体培養物の接種が液体培地に対し分生子数で10〜10個/mlである前記のメチルケトンの製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明の製造方法によれば、油脂含量が66%を越える培地でも油脂をメチルケトン類に変換する反応が効率よく進行するため、メチルケトン類の効率の良い製造方法を提供することができる。また、その結果、1バッチ製造当たりの収量があがり、製造に係わるコストを低減することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
本発明において使用することのできる真菌類としてはメチルケトン類を生産することのできる真菌類であればいずれの微生物でも良いが、例えばアスペルギルス(Aspergillus)属、ペニシリウム(Penicillium)属に属する真菌類を例示することができる。また、これらのうちアルペルギルス(Aspergillus)属に属する微生物としてアスペルギルス・オリゼ(Asp.oryzae)、アスペルギルス・タマリ(Asp.tamari)、アスペルギルス・パラシチクス(Asp.parasiticus)、アスペルギルス・アワモリ(Asp.awamori)、アスペルギルス・カワチ(Asp.kawachii)、アスペルギルス・ニガー(Asp.niger)またはアスペルギルス・フェオニシス(Asp.pheonicis)を挙げることができる。また、ペニシリウム(Penicillium)属に属する微生物としてペニシリウム・ロックフォルチ(Pen.roqueforti)、ペニシリウム・カマンベルティ(Pen.camemberti)、ペニシリウム・カゼイ(Pen.casei)またはペニシリウム・ジャンシネラム(Pen.janthinellum)を挙げることができる。さらに、これらのタイプカルチャーとしてはAspergillus oryzae IAM2152、Penicillium roqueforti IFO4622を例示することができる。
【0014】
本発明でメチルケトンの出発物質として使用することのできる油脂としては脂肪酸単独、あるいは脂肪あるいはその他のエステルを含んだものが使用できるが、実際には入手上の容易さから、グリセリンの脂肪酸エステルが好ましい。具体的に使用することのできる油脂としては、大豆油、ごま油、コーン油、菜種油、米糠油、綿実油、ひまし油、落花生油、オリーブ油、パーム油、パーム核油、ヤシ油、サフラワー油、小麦胚芽油、椰子油、ヒマワリ油、つばき油、ココア脂、イワシ油、サケ油、サバ油、サメ油、マグロ油、鯨油、イルカ油、イカ油、サンマ油、にしん油、たら油、牛脂、鶏油、豚脂、バター等の動植物油脂類を挙げることができる。また、生成するメチルケトン類を香料として使用する場合には、油脂はラウリン酸、デカン酸、オクタン酸を主要な構成脂肪酸とするグリセライドであることが好ましく、その中でも特に好ましくはヤシ油およびパーム核油を挙げることができる。
【0015】
真菌類を液体培地にて培養する前段階として、固体培養物を作成することが好ましい。固体培養物を液体培地に接種することにより、液体培地に接種する分生子数の量をコントロールし、かつ、分散を均一にすることが容易となる。固体培養物は穀物類、芋類、豆類、パン粉等の比表面積が広く、ほぐれやすい素材をそのまま、あるいは必要に応じて水に浸漬して吸水させた後、澱粉のα化を兼ねて加熱滅菌して得られたものを培地として、真菌類を接種し、約20℃〜約40℃で約3日〜約5日間培養して作成する。このようにして得られた固体培養物には菌糸が組織の内部全体に行き渡り、多数の分生子を生じ、また、全体がほぐれやすいため、液体培地に接種する分生子数のコントロールおよび分散の均一化をきわめて容易に行うことができる。
【0016】
引き続き、真菌類を液体培地にて培養する。液体培地の組成は炭素源、窒素源、無機物、微量栄養素等を程よく含有する培地中において、好気的条件下に温度、pH等を調節しつつ培養する。
【0017】
液体培地に使用する炭素源としてはグルコース、スクロース、グリセリン、デキストリン等糸状菌の培養に通常用いられる炭素源を使用する。窒素源としては硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、酒石酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、アスパラギン、グルタミン酸ナトリウム、酵母エキス、ペプトン、コーンスティープリカー等が、無機物・微量栄養素としては硫酸マグネシウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、硫酸マンガン、硫酸亜鉛、硫酸銅、塩化第二鉄、モリブデン酸アンモニウム、ヨウ化カリウム、ホウ酸、種々のビタミン(パントテン酸カルシウム、イノシトール、ピリドキシン等)等が用いられる。また、炭素源、窒素源、無機栄養源を兼ねたものとして、コーンスティープリカー、ホエー、脱脂粉乳、乾燥酵母、酒粕等を加えることもできる。また、培養中バクテリアによるコンタミネーションをさけるため、クロラムフェニコール等の殺バクテリア性物質を培地に含有させてもよい。
【0018】
また、液体培地には、メチルケトン類の出発物質として使用するのと同じ油脂をあらかじめ液体培地全体の約0.1%〜約10%程度添加しておくことが好ましい。このことにより、真菌類が油脂をメチルケトンに変換するための酵素活性を効率よく誘導することができる。
【0019】
液体培養は次のようにして行う。まず、前記の液体培地原料を混合、滅菌した後、先に得られた固体培養物の水懸濁物を接種し培養を行う。本発明では、このとき、ペレット状の菌糸体を形成させるように培養することが重要である。このことにより後に大量の油脂を加えた時にも、大量の油脂全てを効率よくメチルケトン類に変換することが可能となる。菌糸体がパルプ状に生育した場合、培地の粘度により、酸素や栄養素の移送が阻害されて培地の部位での酸素や栄養素の偏りが生じ、また粘度により基質である油脂と菌糸との接触が悪くなり、油脂のメチルケトン類への変換効率が低下する。培養方法及び条件は菌糸体がペレット状に生育するような方法であればいかなる方法でも良い。菌糸体をペレット状に生育させるためのひとつの方法として、固体培養物の接種が液体培地に対し分生子数で10〜10個/mlであるようにコントロールする方法を例示できる。液体培地での培養では初菌数により菌糸体の生育形態が変化することが知られているが、初期の分生子数を10〜10個/mlとした場合、菌糸体がペレット状に生育することが認められる。一方、初期の分生子数が10個/mlより多い場合、菌糸体がパルプ状に生育してしまい、また、初期の分生子数が10個/mlより少ない場合、菌糸体はパルプ状に生育するか、もしくは、菌糸体は培養槽の壁部に付着して生育し、いずれもペレットを形成しないことが認められる。
【0020】
培養条件としては温度として約15℃〜約50℃、好ましくは約20℃〜約40℃で、必要に応じて通気、攪拌、振盪等の条件を採用し、約4時間〜約48時間培養する。また、必要に応じてpHを微生物の成育に最も適した範囲内に調整しながら反応させることも可能である。
【0021】
次いで液体培養物に対して重量比で2倍量以上の油脂を添加し、油脂のメチルケトンへの変換を行う。油脂を加える時点は、平均粒径が0.5〜3mmのペレット状の菌糸体が形成された時点が好ましい。菌糸のペレットがこの平均粒径の範囲内となった時点であれば、培地に対して重量比で2倍量以上の油脂を添加しても安定して油脂をメチルケトン類に変換できることが認められる。またペレットが3mmを越えてしまうと、ペレット内部の菌糸と油脂の接触が悪くなるため、効率が低下する。
【0022】
また、油脂を加える時点で、さらに、リパーゼを添加することにより、油脂のメチルケトンへの変換をさらに効率よく行うことができる。油脂からのメチルケトン類への変換はまず油脂がリパーゼ活性により脂肪酸とグリセリンに分解され、さらに脂肪酸がβ酸化され、続いて脱炭酸されてメチルケトン類に変換される。したがって、このときリパーゼを添加することにより、油脂の脂肪酸への分解を促進し、油脂からのメチルケトン類への変換の効率を高めることができる。使用することのできるリパーゼとしては、特に制限されるものではなく、例えば、アスペルギルス属、リゾムコール属、リゾープス属、ペニシリウム属、キャンディダ属、ピキア属、クロモバクテリウム属、アルカリゲネス属、ストレストマイセス属、アクチノマデュラ属、バチラス属等の各種微生物から採取されるリパーゼ、豚の膵臓から得られるリパーゼ、子ヤギ、子ヒツジ、子ウシの口頭分泌腺から採取したオーラルリパーゼ等を適宜利用することができる。また、市販品としてはリパーゼA、リパーゼL、リパーゼM、リパーゼAP、リパーゼAY、リパーゼP、リパーゼAK、リパーゼCES、リパーゼM−AP、リパーゼD、リパーゼN、リパーゼCT、リパーゼR(以上、アマノエンザイム(株)製)、リパーゼMY(名糖産業(株)製)、リパーゼP(ナガセケムテックス(株)製)、豚膵臓リパーゼ(シグマアルドリッチジャパン(株)製)、レシターゼ、パラターゼ、パラダーゼM(以上、ノボザイムズ(株)製)、リパーゼ「サイケン」((株)ヤクルト本社製)、タリパーゼ(田辺製薬(株)製)等を例示することができる。これらのリパーゼは単独又は数種組み合わせて利用することもできる。リパーゼの使用量は、力価等により異なり一概には言えないが、通常、油脂原料の重量を基準として0.1〜10000u/g、好ましくは0.5〜2000u/g、より好ましくは2〜500u/gの範囲内を例示することができる。
【0023】
油脂のメチルケトン類への変換における培養条件としては、温度として約15℃〜約50℃、好ましくは約25℃〜約40℃で、必要に応じて通気、攪拌、振盪等の条件を採用し、また、必要に応じてpHを微生物の成育に最も適した範囲内に調整しながら反応させることも可能である。また、反応時間としては約20時間〜約100時間、好ましくは約40時間〜約80時間培養する方法を例示することができるが、メチルケトン類の生成量を測定しながら、適宜選択することが好ましい。
【0024】
変換反応終了液からのメチルケトン類の回収は常法により行うことができる。例えば、本発明の方法では、得られるメチルケトン類の量が多いため、培養液の上層に油相としてメチルケトン類の豊富な油の層が得られる。したがって、変換反応終了液から菌体を除去し、さらに遠心分離等の分離手段により油相を採取し、油相を常圧または減圧蒸留法にてメチルケトン類を含む留分を採取することにより、メチルケトン類を精製することができる。また、遠心分離により採取した油相から、液体クロマトグラフィー、シリカゲルカラムクロマトグラフィー等のカラム分離操作によりメチルケトン類を得ることも可能である。前記の分離した菌体や遠心分離時の水層にもメチルケトン類は含まれているが、これらはヘキサン、酢酸エチル、石油エーテル、クロロホルム等の有機溶剤にて抽出し、溶剤を回収した後、減圧または減圧蒸留法にてメチルケトン類を含む留分を採取することにより回収することができる。また前記の分離した菌体や遠心分離時の水層からは、水蒸気蒸留によってもメチルケトン類を回収することが可能である。また、菌体の分離や培養液の遠心分離等の分離操作を行わず、精製の当初から溶剤抽出または水蒸気蒸留を行うことも可能である。いかなる方法を選択するかは、メチルケトン類の回収率と、作業性、生産コスト等を考慮しながら決定すればよい。
【0025】
かくして得られたメチルケトン類はブルーチーズ、マヨネーズ、ワイン、ウィスキー、酒、味噌、醤油、パン等の食品類のフレーバーの他、シャンプー、化粧品等の香粧品類、あるいは医薬品類用の香料類等の各種調合香料の原料として使用するとことが可能である。
以下、実施例および比較例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明する。
【実施例】
【0026】
実施例1
精白米130gを水に一夜浸漬し、水切りの後、120℃、15分間滅菌後、同一培地にて培養したAspergillus oryzae IAM2152の培養物1gを接種し30℃にて4日間培養し、固体培養物を得た。
別に、リン酸1カリウム 129g、リン酸水素2ナトリウム・12H0 18g、結晶ぶどう糖 166g、酵母エキス112g、ヤシ油500g、水9075gを50Lジャーファーメンターに投入し、121℃、20分間加熱殺菌を行った後、30℃まで冷却し、液体培地とした。この液体培地に、先に培養した固体培養物25gを滅菌水125gに懸濁したもの(分生子数6×10個/ml)を添加した(このときの液体培地中の分生子数は計算上9×10個/mlとなる)。培養温度30℃、攪拌速度400rpm、0.5vvmにて通気を行いながら、28時間培養を行ったところ、菌糸体はペレット状に生育し、その平均粒径は約0.9mmであった。さらにここに溶解したヤシ油(一旦60℃加熱溶解後、35℃まで冷却)20kg(油脂を含めた培地全体の66%)およびリーパーゼA(アマノエンザイム(株)社製)15gを投入し、培養温度30℃、攪拌速度400rpm、0.5vvmにて通気を行いながら培養を行った。培養時間とメチルケトン類の生成量の関係を図1に示す。なお、図1におけるメチルケトンの生成量(%)は添加したヤシ油の重量に対する重量(%)を表す。メチルケトン類の分析は、ガスクロマトグラフィー法により行った。分析条件は下記の通りである。
機器:ヒュ−レットパッカ−ド 5890
カラム:DB−WAX(30m×0.25nm)
I.D=0.25μm
キャリア−ガス:1ml/min.(He)抽入口圧=14psi
カラム温度:100°C(1min.)〜250°C(10°C/min.)
インジェクタ−:250°C、スプリットレス、1μl
ディテクタ−:FID
また、ヤシ油の一般的な脂肪酸組成(%)は下記の通りである。
カプロン酸 0〜0.8%
カプリル酸 5〜9%
カプリン酸 6〜10%
ラウリン酸 44〜52%
ミリスチン酸 13〜19%
パルミチン酸 8〜11%
ステアリン酸 1〜3%
オレイン酸 5〜8%
リノール酸 trace〜2.5%
微生物変換によりカプロン酸より2−ヘプタノン、カプリル酸より2−ノナノン、カプリン酸より2−ウンデカノンが生成する。
77時間まで培養を行ったところ、香料として重要である2−ヘプタノンおよび2−ノナノンについては原料ヤシ油中のカプロン酸およびカプリル酸がほぼ全量変換されたと考えられる量で生成した。
ヤシ油を添加してから77時間経過した時点で培養を終了し、75℃、15分間加熱殺菌、40℃まで冷却後、40℃にて保温静置し、デカントにより上層のオイル部を分離した後、遠心分離にて油相9.8kgを回収した。この油相を常圧蒸留して150℃〜200℃の留分(本発明品1)2.36kgを得た。
本発明品1におけるメチルケトン類の組成比は以下の通りであった。
2−ヘプタノン 28.1%
2−ノナノン 24.5%
2−ウンデカノン 36.0%
【0027】
実施例2
実施例1において、香料として重要である2−ヘプタノンおよび2−ノナノンが原料ヤシ油中のカプロン酸およびカプリル酸がほぼ全量変換されたと考えられる量まで生成したため、培養を77時間までとした。しかしながら、培養をさらに続けた場合、2−ウンデカノンの生成は時間と共にさらに増加すると考えられる。そこで、実施例1と全く同一条件で、さらに245時間まで培養を継続した。培養時間とメチルケトン類の生成量の関係を図2に示す。
245時間まで培養を継続したところ、2−ウンデカノンが原料ヤシ油中のカプリン酸が全て変換されたと考えられる量まで生成した。しかしながら、香料として重要な2−ヘプタノンおよび2−ノナノンは約80時間をピークとしてその後は減少へと転じた。この原因としては微生物が資化したか、または、通気培養であるため揮散してしまった等が考えられるが原因は明らかではない。
【0028】
比較例1(接種菌数が多くパルプ状の菌糸体を形成した例)
実施例1において、固体培養物25gを滅菌水125gに懸濁したものを液体培地に添加するのに代えて固体培養物1000gを滅菌水5000gに懸濁したものを液体培地に添加した。このときの分生子数は2.4×10/mlであった。引き続き実施例1と同様に培養温度30℃、攪拌速度400rpm、0.5vvmにて通気を行いながら、28時間培養を行ったが菌糸体はパルプ状に生育した。
ここに溶解したヤシ油(一旦60℃加熱溶解後、35℃まで冷却)20kgおよびリーパーゼA(アマノエンザイム(株)社製)15gを投入し、培養温度30℃、攪拌速度400rpm、0.5vvmにて通気を行いながら培養を行った。反応時間とメチルケトン類の生成量の関係を図3に示す。なお、図3におけるメチルケトンの生成量(%)は添加したヤシ油の重量に対する重量(%)を表す。
図3に示した通り、菌糸体がパルプ状に生育した比較例3は菌糸体がペレット状に生育した実施例1と比較して、油脂のメチルケトンへの変換効率は1/2以下であり、変換効率が悪かった。
【0029】
実施例3(メチルケトン類を生産する微生物としてペニシリウムを使用)
パン粉50gに水10gを添加し、120℃、15分間滅菌後、滅菌水40mlを添加し、同一培地にて培養したPenicillium roqueforti IFO4622の培養物1gを接種し30℃にて4日間培養し、固体培養物を得た。
別に、リン酸1カリウム 129g、リン酸水素2ナトリウム・12H0 18g、結晶ぶどう糖 166g、酵母エキス112g、ヤシ油500g、水9075gを50Lジャーファーメンターに投入し、121℃、20分間加熱殺菌を行った後、30℃まで冷却し、液体培地とした。この液体培地に、先に培養した固体培養物50gを滅菌水250gに懸濁したもの(分生子数2.4×10個/ml)を添加した。このときの分生子数は7.0×10個/mlであった。培養温度30℃、攪拌速度400rpm、0.5vvmにて通気を行いながら、26時間培養を行ったところ、菌糸体はペレット状に生育し、その平均粒径は約0.7mmであった。
ここに溶解したヤシ油(一旦60℃加熱溶解後、35℃まで冷却)20kgおよびリーパーゼA(アマノエンザイム(株)社製)15gを投入し、培養温度30℃、攪拌速度400rpm、0.5vvmにて通気を行いながら培養を行った。反応時間とメチルケトン類の生成量の関係を図4に示す。なお、図4におけるメチルケトンの生成量(%)は添加したヤシ油の重量に対する重量(%)を表す。
図4に示した通り、微生物としてPenicillium roqueforti IFO4622を使用した場合においても、実施例1とほぼ同様の結果が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】菌糸体がペレット形成後にヤシ油を添加した場合の培養時間とメチルケトン類の生成量の関係を示した図である。(実施例1)
【図2】図1において反応時間をさらに延長した場合の培養時間とメチルケトン類の生成量の関係を示した図である。(実施例2)
【図3】菌糸体がパルプ状に生育したところにヤシ油を添加した場合の培養時間とメチルケトン類の生成量の関係を示した図である。(比較例1)
【図4】微生物としてPen.roquefortiを使用し、菌糸体がペレット形成後にヤシ油を添加した場合の培養時間とメチルケトン類の生成量の関係を示した図である。(実施例3)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体培地に、メチルケトンを生産できる真菌類の固体培養物を接種して培養を行い、ペレット状の菌糸体を平均粒径が0.5〜3mmとなるように形成させた後、液体培地に対し重量比で2〜4倍量の油脂を添加して、さらに培養することを特徴とするメチルケトンの製造方法。
【請求項2】
メチルケトンを生産できる真菌類がアスペルギルス(Aspergillus)属またはペニシリウム(Penicillium)属に属する微生物であることを特徴とする、請求項1に記載のメチルケトンの製造方法。
【請求項3】
アスペルギルス(Aspergillus)属に属する微生物がアスペルギルス・オリゼ(Asp.oryzae)、アスペルギルス・タマリ(Asp.tamari)、アスペルギルス・パラシチクス(Asp.parasiticus)、アスペルギルス・アワモリ(Asp.awamori)、アスペルギルス・カワチ(Asp.kawachii)、アスペルギルス・ニガー(Asp.niger)またはアスペルギルス・フェオニシス(Asp.pheonicis)であり、ペニシリウム(Penicillium)属に属する微生物がペニシリウム・ロックフォルチ(Pen.roqueforti)、ペニシリウム・カマンベルティ(Pen.camemberti)、ペニシリウム・カゼイ(Pen.casei)またはペニシリウム・ジャンシネラム(Pen.janthinellum)である請求項2に記載のメチルケトンの製造方法。
【請求項4】
液体培地に油脂を添加する時点で、さらに、リパーゼを添加することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のメチルケトンの製造方法。
【請求項5】
油脂がラウリン酸、カプリン酸、カプリル酸を主要な構成脂肪酸とするトリグリセライドであることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のメチルケトンの製造方法。
【請求項6】
固体培養物の接種が液体培地に対し分生子数で10〜10個/mlであることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載のメチルケトンの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−104373(P2008−104373A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−288451(P2006−288451)
【出願日】平成18年10月24日(2006.10.24)
【出願人】(000214537)長谷川香料株式会社 (176)
【Fターム(参考)】